説明

シリコン単結晶ウェーハおよびシリコン単結晶の製造方法

【課題】 高耐圧が要求されるパワーデバイス等に適した、酸素をほとんど含まない大口径のシリコン単結晶を製造するのに好適なシリコン単結晶の製造方法と、シリコン単結晶ウェーハを提供する。
【解決手段】 チョクラルスキー法により育成されたシリコン単結晶ウェーハであって、該シリコン単結晶ウェーハは、酸素濃度が1×1017atoms/cm(ASTM79)以下で、かつ抵抗率面内分布が10%以内であることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハ及びシリコン単結晶の製造方法であって、チョクラルスキー法によって原料融液からシリコン単結晶を引き上げる際に、少なくとも、前記原料融液を保持するルツボに、シリコンより融点が高く組成に酸素原子を含まない材質で構成されたルツボを用い、かつ前記原料融液の対流を抑制するための磁場を印加することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶ウェーハおよびシリコン単結晶の製造方法に関し、具体的には、ウェーハ中に酸素をほとんど含まないチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法とシリコン単結晶ウェーハに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造方法には、主な製造方法としてチョクラルスキー法(以下CZ法とも記載)とFZ法の2つがある。
このうち、CZ法で得られるCZ結晶は、メモリーデバイスなどに広く使われている。
【0003】
ここで、CZ法では、通常、原料融液を直接保持するルツボには石英ルツボを使用する。このため、この石英ルツボから酸素が溶出し、これがシリコン原料融液を通じてシリコン単結晶中に取り込まれる。
従って、CZシリコン単結晶ウェーハは、ウェーハ中に必ず酸素を含有するという特徴がある。そしてこのように酸素を含有しているウェーハでは、機械的強度が増したり、酸素が析出物(BMD:Bulk Micro Defect)を形成する。そして、それらがデバイス工程中に汚染物として入ってくる重金属不純物をゲッタリングする等の優れた特性を示す。
このように、多量に酸素を含有することに基づく利点を有することから、多くのデバイスでCZ結晶が用いられてきた。
【0004】
一方で、高耐圧が要求されるパワーデバイス等に必要なウェーハには、酸素を含まないFZ結晶が広く用いられている。
これは、パワーデバイス等では高耐圧特性が要求されることから、従来のCZ結晶のように多量に酸素を含み、それらが析出物を形成するウェーハでは、高耐圧を得られないという心配があった。
また、FZ結晶では非常に温度勾配が大きいので、点欠陥が凝集して形成されるグローンイン(Grown−in)欠陥のサイズが小さい上、酸素がないので、CZ結晶のようにCOP(Crystal Originated Particle=Vacancyタイプの点欠陥凝集体)等の内壁に見られる酸化膜も形成されない。このため、窒素をドープするだけでグローンイン欠陥が見られなくなり、高耐圧用として適したウェーハを得るのに向いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−35094号公報
【特許文献2】特開平9−221379号公報
【特許文献3】特開平9−221380号公報
【特許文献4】特開平5−155682号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】福田承生・干川圭吾著、「現代エレクトロニクスを支える単結晶成長技術」、2.3章、培風館
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、FZ法では8インチ以上の大口径化が難しいという問題があり、酸素を含まない200mm以上の大口径結晶を得ることは非常に困難であるというのが現状である。
【0008】
組成に酸素を含まない材質、すなわち酸素供給源のないルツボでシリコン単結晶を育成する技術に関しては、例えば、特許文献1,2,3等には、窒化珪素や炭化珪素等の材料からなるルツボが記載されており、かつては行われていた。
しかし、酸素が含まれないシリコン単結晶から製造したウェーハでは、スリップ耐性やゲッタリング能力が得られないという問題があり、原料融液に酸化珪素を接触させる特許文献1のように、むしろ酸素を添加するための技術が研究されていた。
従って実質上無酸素のCZ結晶を造ることはできなかった。
【0009】
また、上述した特許文献1等の過去に酸素供給源のないルツボが研究された当時は、引き上げ対象としている単結晶の口径が小さく、原料融液の対流の問題が問題視されることはほとんど無かった。従って酸素供給源のないルツボに磁場を印加するという技術は無かった。
【0010】
一方、非特許文献1等に記載されているように、磁場を印加したMCZ法では、磁場強度を上げることで酸素濃度を低下できることが知られている。そのため特許文献4等のように低酸素濃度化のために磁場を印加する技術が開示されているほどである。
この意味でも石英ルツボを用いた場合でも低酸素濃度化ができることが特徴のMCZ法において、酸素供給源のないルツボを用いるという発想はそもそもなかった。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、高耐圧が要求されるパワーデバイス等に適した、酸素をほとんど含まない大口径のシリコン単結晶を製造するのに好適なシリコン単結晶の製造方法と、シリコン単結晶ウェーハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明では、チョクラルスキー法により育成されたシリコン単結晶ウェーハであって、該シリコン単結晶ウェーハは、酸素濃度が1×1017atoms/cm(ASTM79)以下で、かつ抵抗率面内分布が10%以内であることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハを提供する。
【0013】
このように、本発明では、酸素濃度が1×1017atoms/cm(ASTM79)以下であり、また抵抗率面内分布が10%以内の、チョクラルスキー法によって育成されたシリコン単結晶ウェーハを提供する。
このようなシリコン単結晶ウェーハは、ウェーハ中の酸素含有量が非常に低く、実質上含有していないものであり、パワーデバイス等の高耐圧が要求されるウェーハに好適なものとなっている。
また、チョクラルスキー法によって育成された単結晶から得られたものであるため、ウェーハ面内での抵抗率、特に抵抗率面内分布(ウェーハ面内の最大値と最小値との差を最小値で割った値)が10%以内に収まった均一なものとなり、デバイス製造に好適なウェーハである。
更に、チョクラルスキー法によって育成されたものであるため、例えばFZ法では製造することが難しい直径200mm以上の大口径なウェーハとすることができる。すなわち、近年の半導体デバイスの高集積化、高精度化の要求を満たすための単結晶ウェーハの大口径化の需要に十分に沿うものである。
【0014】
また、本発明では、シリコン単結晶の製造方法であって、チョクラルスキー法によって原料融液からシリコン単結晶を引き上げる際に、少なくとも、前記原料融液を保持するルツボに、シリコンより融点が高く組成に酸素原子を含まない材質で構成されたルツボを用い、かつ前記原料融液の対流を抑制するための磁場を印加することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【0015】
このように、チョクラルスキー法によってシリコン単結晶を引き上げる際に、原料融液を保持するルツボを、シリコンより融点が高く、組成に酸素原子を含まない材質で構成されたものとし、またシリコン単結晶の引き上げ中に、原料融液の対流を抑制するための磁場を印加する。
これによって、従来のように、原料融液の保持に石英ルツボを用いるCZ法の場合は避けることができなかったシリコン単結晶中へルツボ由来の酸素が取り込まれることを防止することができる。従って、酸素の含有量が低いことが求められるパワーデバイス等に適したシリコン単結晶ウェーハの切り出しに好適なシリコン単結晶を容易に製造することができる。
また、チョクラルスキー法によって製造するため、大口径化が容易であり、例えばFZ法では困難な直径200mm以上のシリコン単結晶も容易に得ることができる。
更に、磁場を印加することによって、大口径のシリコン単結晶を引き上げる、すなわち大口径のルツボを用いれば用いる程問題となる原料融液の対流を抑制することができ、シリコン単結晶が引き上げられない事態となることを防止できる。従って、製造歩留りと品質の向上を図ることができる。
【0016】
ここで、前記ルツボの材質として、炭素、炭化珪素、窒化珪素、ボロンナイトライド(PBN)、タングステン、モリブデン、ニオブのいずれかのものを用いることが好ましい。
このように、炭素、炭化珪素、窒化珪素、ボロンナイトライド(PBN)、タングステン、モリブデン、ニオブのいずれかの材料は、酸素を含まず、シリコンの融点である1400℃程度以上で安定であり、200mm以上の結晶を成長可能なサイズのルツボを容易に形成できるものである。このため、シリコンより融点が高く組成に酸素原子を含まない材質として適したものである。
【0017】
また、前記印加する磁場を、引き上げ中の前記シリコン単結晶の固液界面上の中心部における強度を500Gauss以上6000Gauss以下とすることが好ましい。
このように、引き上げ中のシリコン単結晶の固液界面上の中心部における磁場の強度を500Gauss以上とすることで、200mm以上の大口径の単結晶を育成するためのルツボの対流を抑制する効果を大きなものとすることができる。
また、6000Gauss以下とすることによって、高磁場を発生させる装置を大型化させる必要がなく、漏れ磁場の問題やコストが高くなるとの問題が発生することを防止することができる。
更に、非特許文献1及び特許文献4で示されている磁場印加で石英ルツボからの酸素供給が減らせるのと全く同じ理由で、磁場を印加することにより、ルツボの成分が溶出するのを抑えることができる。このため、例えば、炭素ルツボを用いた場合でも低炭素濃度の結晶を得ることができる。
【0018】
そして、前記シリコン単結晶の引き上げの際に、炉内構造を調整することによって成長界面近傍の温度勾配Gの面内分布と、前記シリコン単結晶の引き上げ速度Vを制御して、前記引き上げるシリコン単結晶中に無欠陥領域が発生するようにV/Gを制御することが好ましい。
このように、炉内の温度勾配Gの制御と適正な成長速度Vを用いることで、Grown−in欠陥の無いシリコン単結晶を育成することができる。よって、酸素をほとんど含まず、Grown−in欠陥のない、すなわち極低酸素・無欠陥のシリコン単結晶ウェーハを切り出すことができるシリコン単結晶を製造することができる。
【0019】
更に、前記引き上げるシリコン単結晶の直径を、200mm以上とすることが好ましい。
このように、引き上げる単結晶の直径が200mm以上であっても、チョクラルスキー法であれば容易に育成することができ、容易に大口径化することができる。
【0020】
更に、本発明では、本発明に記載のシリコン単結晶の製造方法によって製造されたシリコン単結晶をスライスして得たものであることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハを提供する。
上述のように、本発明のシリコン単結晶の製造方法は、酸素濃度が極めて低い実質上含有していないとともに、面内の抵抗率分布が均一な大口径のシリコン単結晶を容易に得ることができるものである。従って、このようなシリコン単結晶の製造方法によって製造されたシリコン単結晶をスライスして得られたシリコン単結晶ウェーハも、酸素濃度が極めて低く、ウェーハ面内の抵抗率分布が均一なものとなっている。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、高耐圧が要求されるパワーデバイス等に適した、酸素をほとんど含まない大口径のシリコン単結晶を製造するのに好適なシリコン単結晶の製造方法と、シリコン単結晶ウェーハが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のシリコン単結晶の製造方法で用いることができるシリコン単結晶育成装置の概略の一例を示した図である。
【図2】本発明の実施例1で得られたシリコン単結晶ウェーハの抵抗率の面内分布の評価結果を示したグラフである。
【図3】V/Gと結晶欠陥分布の関係を表す説明図である。
【図4】従来のシリコン単結晶の製造方法で用いるシリコン単結晶育成装置の概略の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について図を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明のシリコン単結晶ウェーハは、チョクラルスキー法により育成されたものであって、ウェーハ中の酸素濃度が1×1017atoms/cm(ASTM79)以下で、かつウェーハ面内の抵抗率面内分布が10%以内のウェーハである。
【0024】
このように、ウェーハ中の酸素濃度が1×1017atoms/cm(ASTM79)以下であれば、酸素含有量が非常に低く、析出物がほとんど形成されないシリコン単結晶ウェーハとなる。従って、高耐圧が要求されるパワーデバイス用途に適したものである。
また、チョクラルスキー法によって育成されたCZ結晶においては、一般に抵抗率の面内均一性がFZ結晶に比較して優れており、中心部と周辺部(例えばエッジから5mm)との比率が10%以内のウェーハが容易に製造可能である。従って、FZ結晶では面内の抵抗率の均一性を保つために中性子照射をすることもあるが、そのような高コスト工程を行わなくても良いというメリットがあり、安価なシリコン単結晶ウェーハとなる。
更に、チョクラルスキー法によって育成されたシリコン単結晶ウェーハから作製されたものであるため、例えば直径200mm以上、更には300mm以上の大口径のものを容易に得ることができる。
【0025】
上記のような本発明のシリコン単結晶ウェーハは、以下に示す様な本発明のシリコン単結晶の製造方法によって製造されたシリコン単結晶から切り出すことで製造することができる。その一例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
本発明のシリコン単結晶の製造方法を説明するにあたって、まず、本発明のシリコン単結晶の製造方法に用いるシリコン単結晶育成装置の一例について図1を参照して説明するが、もちろんこれに限定されない。
図1は、本発明のシリコン単結晶の製造方法で用いることができるシリコン単結晶育成装置の概略の一例を示した図である。
【0027】
図1の単結晶育成装置16は、原料融液4が充填されたルツボ6と、該ルツボ6を取り囲むように配置された加熱ヒーター7と断熱部材8がメインチャンバー1内に設置されており、該メインチャンバー1の上部には育成したシリコン単結晶3を収容し、取り出すための引き上げチャンバー2が連接されている。
更に、この単結晶育成装置16は、磁場印加装置15の電磁石を構成するコイル(磁場発生用コイル)をメインチャンバー1の外側にルツボ6を挟んで同軸的に対向配備し、ルツボ6内の原料融液4に水平磁場を印加できる構造である。
【0028】
このような単結晶育成装置を用いてシリコン単結晶3を育成する場合、チョクラルスキー法(CZ法)により、ルツボ6中の原料融液4に種結晶5を浸漬させた後、種絞りを経て回転させながら静かに引き上げて棒状のシリコン単結晶3を成長させる。一方、ルツボ6は結晶成長軸方向に昇降可能であり、結晶成長中に結晶化して減少した融液の液面下降分を補うようにルツボを上昇させ、これにより、融液表面の高さを一定に保持している。
【0029】
また、メインチャンバー1の内部には、引き上げチャンバー2の上部に設けられたガス導入口10からアルゴンガス等の不活性ガスが導入され、引き上げ中のシリコン単結晶3と強制冷却された冷却筒11や円筒13との間を通過し、ヒーターや融液からの輻射を遮断するための遮熱部材14の下部と融液面との間を通過し、ガス流出口9から排出されている。ここで、冷却筒11は、冷却媒体導入口12から導入された冷却媒体によって強制冷却されている。
さらに、放射温度計(不図示)を用いて、ルツボ6中の原料融液4の温度を、ガラス窓を通して結晶融液表面の輻射から測定し、結晶融液の温度を測定することができる。
【0030】
ここで、原料融液4を保持するルツボ6には、シリコンより融点が高く、組成に酸素原子を含まない材質で構成されたものを用いる。ここで言うルツボは、原料融液を直接保持して原料融液に接触するルツボのことであり、従来のような石英ルツボの強度を補完するために用いられる支持ルツボのことではない。
また、単結晶を引き上げる際に、原料融液4の対流を抑制するための磁場を磁場印加装置15によって印加する。
【0031】
このように、ルツボに、組成に酸素原子を含まず、シリコンの融点である1420℃程度以上で安定であり、例えば200mm以上の大口径のシリコン単結晶を成長可能なサイズのルツボを形成できる材質を用いることによって、石英ルツボを用いる場合には決して避けることのできなかった原料融液への酸素原子の混入が抑制できる。従って、シリコン単結晶に酸素が取り込まれることも防止でき、不可避的に混入される僅かな量を除いて実質上酸素をほとんど含まないシリコン単結晶を製造することができる。よって、パワーデバイス等の高耐圧が求められる用途のデバイス製造に好適なシリコン単結晶ウェーハを、大口径化が容易なCZ法によって得ることができ、製造コストの削減等に大きく貢献するものとなる。
【0032】
また、磁場を印加することによって、従来の特許文献1等では問題となっていなかった大口径のルツボを用いる場合に問題となる原料融液の対流が安定しないために単結晶が引き上げられない、との問題の発生を抑制することができ、製造歩留りの向上を図ることができる。なお、ルツボの回転数と単結晶の回転数を大幅に上げることによって、原料融液の対流を強制的に発生させるとシリコン単結晶の引き上げが可能となるが、この場合、単結晶に乱れが発生する確率が高い上に、単結晶中に多くの結晶欠陥が含まれることになる。しかし、本発明によればそのような回転数を大幅に上げることをせずに済み、引き上げるシリコン単結晶の生産効率を上げることができるとともに、結晶欠陥を少なくでき、品質の向上を達成することもできる。
更に、チョクラルスキー法のため、例えばFZ法では困難な直径200mm以上のシリコン単結晶の引き上げにも容易に対応することができる。また、ウェーハとした時の面内の抵抗率分布をFZ法のウェーハに比べて均一にすることができ、抵抗率面内分布が10%以内のシリコン単結晶ウェーハを製造できるシリコン単結晶を得ることができる。
【0033】
また、ルツボに酸素が含有されていないので、シリコン単結晶製造中に酸化物が発生しない。よって、ルツボの劣化や炉内の酸化物の付着を考慮する必要がないので、同じルツボから多数本の単結晶棒を引き上げるマルチプーリングによって長時間にわたる単結晶の製造が可能となり、ランニングコストの低減や、単結晶製造歩留りの更なる向上を達成することができる。
【0034】
ここで、引き上げるシリコン単結晶の直径を、上述のように、200mm以上とすることができる。
上述のように、本発明のシリコン単結晶の製造方法はチョクラルスキー法によってシリコン単結晶を製造するものである。従って、大口径化がFZ法に比べて容易であり、例えば200mm以上、更には300mm以上の直径のシリコン単結晶であっても容易に育成することができる。
【0035】
また、用いるルツボ材として、炭素材、炭化珪素材、窒化珪素、ボロンナイトライド(PBN)、タングステン、モリブデン、ニオブのいずれかからなるものを用いることができる。
炭素、炭化珪素、窒化珪素、ボロンナイトライド(PBN)、タングステン、モリブデン、ニオブのいずれかの材料は、直接200mm以上の結晶を成長可能なサイズのルツボを形成することが容易なものである。また、その組成中に酸素を含まず、シリコンの融点である1400℃程度以上で安定である。
従って、これらの材料は、シリコンより融点が高く組成に酸素原子を含まない材質として安価に準備することができ、好適である。すなわちルツボの材質にこれらの材質を選択することによって、より容易かつ安価に極低酸素濃度のシリコン単結晶を製造することができる。
【0036】
なお、ここに掲げた炭素材、炭化珪素材からは炭素が、窒化珪素材からは窒素が、PBN材からは窒素とボロンが、原料融液中に混入する可能性がある。
しかしボロンは、ドーパントとして有効な元素であり、溶出分を考慮した抵抗制御をすれば問題とはならない。
また窒素は、FZ法では頻繁にドープされている元素である。またCZ法においても、いくつかの品種で故意にドープされる元素であり、結晶欠陥を小さくする効果が確認されている元素である。なお、CZ結晶では、窒素と酸素が作用してBMDが増加したり、NOドナーを形成したりという効果も確認されている。しかし、本発明のように、酸素がほとんど含まれないシリコン単結晶の場合、BMD増加やNOドナーの形成効果はないと考えて良い。
更に炭素に関しても、酸素と関係してドナーを形成するとの報告があるが、これも酸素をほとんど含まない本発明のシリコン単結晶では問題ないと考えられる。
【0037】
そして、印加する磁場を、引き上げ中のシリコン単結晶の固液界面上の中心部における強度で500Gauss以上6000Gauss以下とすることができる。
引き上げ中のシリコン単結晶の固液界面上の中心部における磁場の強度が500Gauss以上であれば、ルツボの対流を抑制する効果が大きく、例えば200mm以上と大口径となればなるほど問題となるルツボの対流が抑制できる。また、6000Gauss以下であれば、高磁場を発生させる磁場発生装置が大型とならず、漏れ磁場の問題や装置に係るコストの低減を達成することができる。
更に、磁場を印加することによって、ルツボの成分の溶出を抑制することができる。これによって、例えば、炭素ルツボを用いた場合でも低炭素濃度の結晶を得ることができる。
【0038】
更に、シリコン単結晶の引き上げの際に、炉内構造を調整することによって成長界面近傍の温度勾配Gの面内分布と、シリコン単結晶の引き上げ速度Vを制御して、引き上げるシリコン単結晶中に無欠陥領域が発生するようにV/Gを制御することができる。
【0039】
前述したように、FZ法によって製造したシリコン単結晶では、酸素をほとんど含まないだけでなく、窒素をドープすることで容易にグローンイン欠陥を見えない程度にすることが可能である。これらの品質が総合的に高耐圧特性を生み出している可能性がある。
一方CZ法では、特開平11−157996号公報、特開平11−180800号公報等に示すように、炉内の温度勾配制御と適正な成長速度を用いることで、グローンイン欠陥の無い結晶育成技術が確立されている。
ここで、グローンイン欠陥について図3を参照しながら説明する。
【0040】
一般に、シリコン単結晶を成長させるときに、結晶成長速度V(結晶引上げ速度)が比較的高速の場合には、空孔型の点欠陥が集合したボイド起因とされているCOP等のグローンイン欠陥が結晶径方向全域に高密度に存在する。これらのボイド起因の欠陥が存在する領域はV領域と呼ばれている。
【0041】
また、結晶成長速度を低くしていくと成長速度の低下に伴いOSF(酸化誘起積層欠陥、Oxidation Induced Stacking Fault)領域が結晶の周辺からリング状に発生し、さらに成長速度を低速にすると、OSFリングがウェーハの中心に収縮して消滅する。一方、さらに成長速度を低速にすると格子間シリコンが集合した転位ループ起因と考えられているLSEPD等の欠陥が低密度に存在し、これらの欠陥が存在する領域はI領域と呼ばれている。
【0042】
更に、V領域とI領域の中間でOSFリングの外側に、ボイド起因のCOP等の欠陥も、格子間シリコン起因のLSEPD等の欠陥も存在しない領域があり、この領域はN(ニュートラル)領域と呼ばれる。
【0043】
上述のグローンイン欠陥は、単結晶の引き上げ速度V(mm/min)と、固液界面近傍のシリコンの融点から1420℃の間の引き上げ軸方向の結晶温度勾配G(℃/mm)の比であるV/G(mm/℃・min)というパラメーターによりその導入量が決定されると考えられている(例えば、V.V.Voronkov,Journal of Crystal Growth,59(1982),625〜643参照)。
すなわち、V/Gを所定の値で一定に制御しながら単結晶の育成を行うことにより、所望の欠陥領域あるいは所望の無欠陥領域を有する単結晶を製造することが可能となる。
【0044】
従って、FZ結晶が生み出す高耐圧特性に近づけるためにも、無グローンイン欠陥品質とするために、V/Gを制御することができる。
これによって酸素濃度が極めて低く、またグローンイン欠陥の無いシリコン単結晶を育成することができ、従って、無欠陥の高品質なシリコン単結晶ウェーハを得るのに適している。
【0045】
ここで、炉内構造の調整とは、例えば、冷却筒11や円筒13、遮熱部材14の位置や構造を調整することによって行うことができる。
【0046】
また、上述の本発明のシリコン単結晶の製造方法で製造されたシリコン単結晶をスライスするスライス工程と、該スライス工程によって得られたウェーハの割れ、欠けを防止するための面取り工程と、このウェーハを平坦化するラッピング工程と、面取り及びラッピングされたウェーハに残留する加工歪みを除去するエッチング工程と、このウェーハ表面を鏡面化する研磨工程と、研磨されたウェーハを洗浄し付着した研磨剤や異物を除去する洗浄工程等を行うことによって、酸素濃度が極めて低く(1×1017atoms/cm(ASTM79)以下)、面内の抵抗率分布が均一(誤差が10%以内)なシリコン単結晶ウェーハを得ることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示したCZ法による単結晶育成装置を用いてシリコン単結晶を育成し、得られたシリコン単結晶からシリコン単結晶ウェーハを製造した。
【0048】
具体的には、口径24インチ(600mm)の割れ目や穴等のない黒鉛製ルツボ内に充填した160kgのシリコン原料を、該黒鉛ルツボを取り囲むように配置されたヒーターによって加熱して溶融させた。そして、この原料融液に種結晶を浸漬させた後、この種結晶をゆっくり上昇させることで溶融させた原料から棒状のシリコン単結晶を引き上げた。
また磁場は、引き上げ中のシリコン単結晶の固液界面上の中心部における強度で4000Gaussとなるような強度の磁場を印加した。さらに炉内構造を調整して成長界面近傍の温度勾配Gの面内分布を制御し、成長速度Vを無欠陥領域(N領域)となるようにV/Gを制御して単結晶を育成した。
以上のような条件の下、ルツボ回転速度1rpm、結晶回転速度12rpmとして、直胴長さ150cmの直径8インチ(206mm)のシリコン単結晶を育成した。
【0049】
この結晶を円筒研削して直径200mmにした後、30cm毎にウェーハ状のサンプルを複数枚切り出した。
これらの複数枚のサンプルウェーハを用いて、ウェーハ中の酸素濃度及び抵抗率面内分布を調査した。
【0050】
まずウェーハ中の酸素濃度はFT−IRを用いて測定した。具体的には、サンプルウェーハとリファレンスウェーハの吸収スペクトル差分から酸素の吸収ピーク高さを求めることで評価した。今回のサンプルウェーハでは、どの位置から切り出したものもリファレンスに用いたFZ結晶のウェーハとほとんど同等の吸収ピークであり、サンプルウェーハ中の酸素はほぼFZ結晶のウェーハと同等であった。従って1×1017atoms/cm以下であることは間違いなかった。
【0051】
次に、抵抗率面内分布を評価した。切り出されたサンプルウェーハを6枚抽出し、面内5mmステップで抵抗率を測定した。その結果を図2に示す。
図2に示す様に、面内の最大値と最小値との差を最小値で割ったパーセンテージはどれも2−5%であり、FZ法では達成困難な10%を下回るものであった。
更に欠陥分布を調査した。切り出されたサンプルウェーハを選択エッチングし、FPD/LEPを評価した。この結果、無欠陥であることが確認できた。
【0052】
(実施例2)
実施例1において、原料融液を保持するルツボに、ボロンナイトライド(PBN)を使用した以外は同一の条件でシリコン単結晶を引き上げ、同様にシリコン単結晶ウェーハを製造し、同様の評価を行った。
その結果、サンプルウェーハ中の酸素量は、リファレンスのFZ結晶ウェーハと同水準であり、実施例1と同様ほぼFZ結晶のウェーハと同等であった。また抵抗率面内分布、結晶欠陥の分布もほぼ同様であった。
【0053】
(実施例3)
実施例1において、原料融液を保持するルツボに、炭化珪素(SiC)を使用した以外は同一の条件でシリコン単結晶を引き上げ、同様にシリコン単結晶ウェーハを製造し、同様の評価を行った。
その結果、サンプルウェーハ中の酸素量は、リファレンスのFZ結晶ウェーハと同水準であり、実施例1,2と同様ほぼFZ結晶のウェーハと同等であった。また抵抗率面内分布、結晶欠陥の分布もほぼ同様であった。
【0054】
(比較例1)
図4に示したような、従来の石英ルツボ17を備えたシリコン単結晶育成装置16’を使用し、低酸素濃度化を達成するために、単結晶の回転数を3rpm、ルツボの回転数を0.02rpmと極端な低速回転条件とした以外は、実施例1と同様の条件でシリコン単結晶を引き上げ、同様にシリコン単結晶ウェーハを製造し、同様の評価を行った。
【0055】
その結果、酸素濃度は3−5×1017atoms/cm(ASTM79)であった。
しかし、抵抗率面内分布は15%程度のサンプルウェーハがあり、さほど良好ではなかった。
結晶欠陥に関しては、無欠陥のウェーハを得ることができた。
このように、石英ルツボを用いた場合には、無欠陥結晶は可能ではあるが、酸素濃度や抵抗率面内分布で問題のある結果となった。
【0056】
(比較例2)
磁場を印加しなかった以外は、実施例1と同様の条件でシリコン単結晶を育成しようとした。
しかし原料融液の対流が安定しないためか、単結晶がなかなか引き上げられなかった。
そこでルツボ回転速度を8rpm、単結晶回転速度を18rpmと速くして、強制的に対流を発生させることで、ようやく単結晶が引き上がった。
ただし、直胴長さ100cm以降では、単結晶が有転位化してしまった。従って品質評価(ウェーハ酸素濃度、抵抗率面内分布、欠陥分布)は引き上げた単結晶の前半部のみで行った。
【0057】
その結果、酸素濃度は実施例1と同様に同様ほぼFZ結晶のウェーハと同等であった。また抵抗率面内分布も5%程度と、10%を充分下回り、良好な結果となった。
しかし、結晶欠陥を調査した結果、FPDが検出されたり、面内でFPDとLEPの両者が検出されたりと、無欠陥領域が発生しなかった。
【0058】
これは磁場を印加しなかったことにより、固液界面の形状が変化し、温度勾配分布が大きく変化したためと考えられる。
条件を最適化していけば無欠陥を得られる可能性は残されている。しかし、実施例1では無欠陥が得られている条件でも比較例2ではサンプルウェーハ面内でFPDとLEPの両者が検出されていることから考えて、容易ではないと想像される。
以上、磁場を印加しない場合には対流抑制効果がないため、大口径の単結晶が引き上げにくくなった上、無欠陥結晶も得られにくい結果であった。
【0059】
経験的に、ルツボサイズは結晶サイズの3倍程度が良く、直径8インチ(200mm)のシリコン単結晶の引き上げのためには、直径24インチ(600mm)程度が好ましい。
実際に直径8インチのシリコン単結晶の引き上げでは、小さくとも18インチ(450mm)程度、通常は20インチ(500mm)以上のルツボが用いられることがほとんどである。しかしルツボサイズが大きくなると、比較例2のように自然対流が大きくなり、単結晶やルツボの回転による強制対流を強くしないと対流制御が難しい。また、大口径ルツボにおいてルツボ回転などを大きくすると、遠心力により原料融液表面が不安定になるなど他の問題もある。従って、対流抑制効果のあるMCZ法によってシリコン単結晶を引き上げる必要があることが判った。
【0060】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0061】
1…メインチャンバー、 2…引き上げチャンバー、
3…シリコン単結晶、 4…原料融液、 5…種結晶、 6…ルツボ、
7…加熱ヒーター、 8…断熱部材、 9…ガス流出口、 10…ガス導入口、 11…冷却筒、 12…冷却媒体導入口、 13…円筒、 14…遮熱部材、 15…磁場印加装置、
16,16’…単結晶育成装置、
17…石英ルツボ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により育成されたシリコン単結晶ウェーハであって、
該シリコン単結晶ウェーハは、酸素濃度が1×1017atoms/cm(ASTM79)以下で、かつ抵抗率面内分布が10%以内であることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハ。
【請求項2】
シリコン単結晶の製造方法であって、
チョクラルスキー法によって原料融液からシリコン単結晶を引き上げる際に、
少なくとも、前記原料融液を保持するルツボに、シリコンより融点が高く組成に酸素原子を含まない材質で構成されたルツボを用い、かつ前記原料融液の対流を抑制するための磁場を印加することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記ルツボの材質として、炭素、炭化珪素、窒化珪素、ボロンナイトライド(PBN)、タングステン、モリブデン、ニオブのいずれかのものを用いることを特徴とする請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記印加する磁場を、引き上げ中の前記シリコン単結晶の固液界面上の中心部における強度を500Gauss以上6000Gauss以下とすることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記シリコン単結晶の引き上げの際に、炉内構造を調整することによって成長界面近傍の温度勾配Gの面内分布と、前記シリコン単結晶の引き上げ速度Vを制御して、前記引き上げるシリコン単結晶中に無欠陥領域が発生するようにV/Gを制御することを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記引き上げるシリコン単結晶の直径を、200mm以上とすることを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
請求項2ないし請求項6のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の製造方法によって製造されたシリコン単結晶をスライスして得たものであることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−93778(P2011−93778A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9574(P2010−9574)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】