説明

シリコン単結晶製造装置およびシリコン単結晶製造方法

【課題】酸素を含有するシリコン原料素材を用いてフローティングゾーン法でシリコン単結晶を製造する際に、炉内でのSiOの析出・付着を効果的に抑制することが可能なシリコン単結晶の製造装置を提供する。
【解決手段】フローティングゾーン法を用いてシリコン単結晶3を製造する装置10であって、酸素を含有するシリコン原料素材1および種結晶2上に育成したシリコン単結晶3を収容する炉Cと、炉内のシリコン原料素材1と種結晶2との間に位置し、シリコン原料素材1を溶融して溶融帯Mを形成し、種結晶2上にシリコン単結晶3を育成するための誘導加熱コイル8と、シリコン原料素材1と誘導加熱コイル8との間に位置し、不活性ガスを吹き付けてシリコン原料素材1の溶融により発生するSiOガスを外方拡散させる不活性ガス吹付け手段9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FZ法(フローティングゾーン法)によりシリコン単結晶を製造する装置および方法に関し、特には、CZ法(チョクラルスキー法)により製造したシリコン単結晶を原料として用いてFZ法によりシリコン単結晶を製造する際に好適に使用し得るシリコン単結晶の製造装置および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン単結晶の製造方法としては、るつぼ中のシリコン融液に種結晶を接触させ、該種結晶を回転させながら引き上げてシリコン単結晶を育成するチョクラルスキー法や、シリコン原料素材の先端を高周波誘導加熱により溶融して溶融帯を形成し、該溶融帯と種結晶とを接触させてシリコン原料素材の先端に種結晶を融着させた後、溶融帯をシリコン原料素材の下端から上端に向かって移動させることによりシリコン単結晶を育成するフローティングゾーン法が知られている。
【0003】
そして、これらのシリコン単結晶製造方法のうち、フローティングゾーン法は、るつぼを使用することなくシリコン単結晶を製造することができ、るつぼの使用に伴う酸素や重金属によるシリコン単結晶の不純物汚染が起こらないことから、パワーデバイス等の製造に特に好適に用いられている。
【0004】
ここで、フローティングゾーン法でシリコン単結晶を製造する際に使用するシリコン原料素材としては、通常、棒状の多結晶シリコンが用いられている。しかし、棒状の多結晶シリコン、特に直径の大きい棒状多結晶シリコンは安定して製造することが難しく、歩留まりや生産性が低い。また、最近は太陽電池向けの多結晶シリコンの需要が急激に増加していることから、良質な多結晶シリコンを低コストで安定的に入手することが困難な状況になりつつある。
【0005】
そのため、近年、低コストで安定的に供給することが可能な、チョクラルスキー法により製造した棒状の単結晶シリコン(以下、「CZ単結晶シリコン」と称する。)をシリコン原料素材として用いることが注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−314374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者は、CZ単結晶シリコンをシリコン原料素材として用いてフローティングゾーン法によりシリコン単結晶を製造する技術に関して鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、CZ単結晶シリコンにはその製造過程で酸素が不可避的に混入しているため、該CZ単結晶シリコンをシリコン原料素材として用いた場合、シリコン原料素材の溶融に伴ってSiOガスが発生し、炉内、特にシリコン原料素材の高周波誘導加熱に用いるコイル上にSiOの微粉が析出・付着してしまうことを発見した。また、多結晶シリコンにも微量の酸素が含まれているため、CZ単結晶シリコンを用いた場合よりもSiO微粉の析出・付着量は少ないものの、シリコン原料素材として多結晶シリコンを用いた場合にも同様の現象が起こっていることも見出した。
【0008】
そして、本発明者の更なる検討によれば、このような炉内でのSiOの析出・付着は、炉内の清掃や高周波誘導加熱用コイルの交換に要する時間を増加させ、シリコン単結晶の生産性を低下させると共に、高周波誘導加熱用コイル上に析出・付着したSiOが育成中のシリコン単結晶の結晶成長界面(溶融帯)に落下することでシリコンの無転位単結晶化を阻害する恐れがあることが分かった。そのため、CZ単結晶シリコン等の酸素を含有するシリコン原料素材を用いてフローティングゾーン法で良質なシリコン単結晶を効率的に製造するためには、炉内でのSiOの析出・付着を効果的に抑制する手段を開発する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のシリコン単結晶製造装置は、フローティングゾーン法を用いてシリコン単結晶を製造する装置であって、酸素を含有するシリコン原料素材および種結晶上に育成したシリコン単結晶を収容する炉と、前記炉内の前記シリコン原料素材と前記種結晶との間に位置し、前記シリコン原料素材を溶融して溶融帯を形成し、前記種結晶上にシリコン単結晶を育成するための誘導加熱コイルと、前記シリコン原料素材と前記誘導加熱コイルとの間に位置し、不活性ガスを吹き付けてシリコン原料素材の溶融により発生するSiOガスを外方拡散させる不活性ガス吹付け手段とを備えることを特徴とする。このように、不活性ガス吹付け手段を設けてシリコン原料素材の溶融により発生したSiOガスを拡散させれば、炉内、特に誘導加熱コイル上へのSiOの析出・付着を効果的に抑制して良質なシリコン単結晶を効率的に製造することができる。
【0010】
ここで、本発明のシリコン単結晶製造装置は、前記不活性ガス吹付け手段が、前記誘導加熱コイルの上面から前記シリコン原料素材の下面へと向かう方向に不活性ガスを吹き付けることが好ましい。不活性ガスを、誘導加熱コイルの上面からシリコン原料素材の下面へと向かう方向に吹き付ければ、誘導加熱コイル上へのSiOの析出・付着をより効果的に抑制することができるからである。
【0011】
また、本発明のシリコン単結晶製造装置は、前記シリコン原料素材の酸素濃度が1×1017atoms/cm以上であることが好ましい。酸素濃度が1×1017atoms/cm以上のシリコン素材、例えばCZ単結晶シリコンをシリコン原料素材として用いた場合、炉内でのSiOの析出・付着が特に発生し易いからである。なお、本発明において、シリコン原料素材の酸素濃度は、例えばフーリエ変換赤外分光法(FTIR)で測定することができる。
【0012】
更に、本発明のシリコン単結晶製造装置は、前記不活性ガス吹付け手段が、略リング状であり、且つ、内周縁部に前記シリコン原料素材の下面へと向かう方向へ突出する鍔部が設けられていることが好ましい。略リング状の不活性ガス吹付け手段の内周縁部に鍔部を設ければ、不活性ガス吹付け手段上にSiOが析出・付着しても、その析出・付着したSiOが不活性ガス吹付け手段の内周縁部から育成中のシリコン単結晶の結晶成長界面(溶融帯)に落下してシリコンの無転位単結晶化を阻害することを防止できるからである。なお、本発明において「略リング状」とは、不活性ガスを吹付ける部分の形状がリング状であることを指す。
【0013】
また、本発明のシリコン単結晶製造方法は、酸素を含有するシリコン原料素材を誘導加熱コイルで溶融して溶融帯を形成し、該溶融帯と種結晶とを接触させる工程と、前記溶融帯の位置をシリコン原料素材の上端に向かって移動させて前記種結晶上にシリコン単結晶を育成する工程とを含むシリコン単結晶の製造方法であって、前記シリコン原料素材と前記誘導加熱コイルとの間に不活性ガスを吹き付けて、シリコン原料素材の溶融により発生するSiOガスを外方拡散させる工程を更に含むことを特徴とする。このように、シリコン原料素材の溶融中、即ちシリコン単結晶の育成中に不活性ガスを吹付けてシリコン原料素材の溶融により発生したSiOガスを拡散させれば、炉内、特に誘導加熱コイル上へのSiOの析出・付着を効果的に抑制して良質なシリコン単結晶を効率的に製造することができる。
【0014】
ここで、本発明のシリコン単結晶製造方法は、前記不活性ガスを、前記誘導加熱コイルの上面から前記シリコン原料素材の下面へと向かう方向に吹き付けることが好ましい。不活性ガスを、誘導加熱コイルの上面からシリコン原料素材の下面へと向かう方向に吹き付ければ、誘導加熱コイル上へのSiOの析出・付着をより効果的に抑制することができるからである。
【0015】
そして、本発明のシリコン単結晶製造方法は、前記シリコン原料素材の酸素濃度が1×1017atoms/cm以上であることが好ましい。酸素濃度が1×1017atoms/cm以上のシリコン素材、例えばCZ単結晶シリコンをシリコン原料素材として用いた場合、炉内でのSiOの析出・付着が特に発生し易いからである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシリコン単結晶製造装置およびシリコン単結晶製造方法によれば、酸素を含有するシリコン原料素材を用いてフローティングゾーン法でシリコン単結晶を製造する際に、炉内、特に誘導加熱コイル上へのSiOの析出・付着を効果的に抑制して良質なシリコン単結晶を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に従うシリコン単結晶製造装置の一例を断面で示す説明図である。
【図2】図1に示すシリコン単結晶製造装置の誘導加熱コイルを含む要部の拡大断面図である。
【図3】(a)は、図1に示すシリコン単結晶製造装置の不活性ガス吹付け手段の平面図であり、(b)は、図3(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図4】(a)は、本発明に従うシリコン単結晶製造装置の不活性ガス吹付け手段の変形例を示す平面図であり、(b)は、図4(a)のB−B線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳細に説明する。ここで、本発明のシリコン単結晶製造装置は、フローティングゾーン法により、棒状のシリコン原料素材からシリコン単結晶を製造する際に用いることができる。
【0019】
本発明に従うシリコン単結晶製造装置は、例えば、図1にその断面を示すように、シリコン原料素材1および種結晶2上に育成したシリコン単結晶3を収容する炉(チャンバ)Cと、シリコン原料素材1と種結晶2との間に位置する誘導加熱コイル8と、シリコン原料素材1と誘導加熱コイル8との間に位置する不活性ガス吹付け手段9とを備えるシリコン単結晶製造装置10である。
【0020】
ここで、シリコン原料素材1は、シリコン原料素材1を上下移動および回転させるための上側回転軸4に、原料素材保持器5を介して取り付けられている。このシリコン原料素材1としては、酸素を含有する棒状のシリコン素材、例えば、棒状の多結晶シリコンや、チョクラルスキー法により製造した棒状の単結晶シリコン(CZ単結晶シリコン)を用いることができる。なお、シリコン原料素材1としては、本発明の効果を顕著に奏するという観点から、酸素濃度が1×1017atoms/cm以上のシリコン素材を用いることが好ましい。
【0021】
種結晶2は、種結晶2および種結晶2上に育成したシリコン単結晶3を上下移動および回転させるための下側回転軸6に、種結晶保持器7を介して取り付けられている。
【0022】
誘導加熱コイル8は、シリコン原料素材1を溶融して溶融帯Mを形成し、種結晶2上にシリコン単結晶3を育成するための熱源となるものであり、略中空円板状で、図示しない交流電源に接続されている。なお、図2に示すように、誘導加熱コイル8の内周縁部には、凹部81が設けられている。
【0023】
不活性ガス吹付け手段9は、不活性ガスを吹き付けてシリコン原料素材1の溶融により発生するSiOガスを外方拡散させるためのものであり、絶縁性および耐熱性を持つ素材、例えば石英や、アルミナ、ジルコニアまたは窒化ケイ素等のセラミックからなる。そして、不活性ガス吹付け手段9は、図1〜3、特に図3(a)に示すように、上面に複数(図3(a)では5個)の孔93が設けられた略C字状の不活性ガス吹付け部92と、該不活性ガス吹付け部92に接続された不活性ガス供給管91とを備えている。なお、不活性ガス吹付け手段9を用いて吹き付ける不活性ガスとしては、シリコン単結晶3の育成に影響を与えないガス、例えばアルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガスなどが挙げられる。なお、不活性ガスには、既知のドーパントを含有させても良い。このようにすれば、SiOガスを外方拡散させると共に、シリコン単結晶3に所望のドーパントをドープすることができる。
【0024】
不活性ガス供給管91は、図2および図3(b)に示すように、一端が直角に折れ曲がっており、その折れ曲がった一端が、不活性ガス吹付け部92に上側から気密に挿嵌されている。また、不活性ガス供給管91の他端は、炉Cの外側で図示しない不活性ガス供給源に接続されている。
【0025】
不活性ガス吹付け部92は、図3(a)および(b)に示すように、両端が閉じた中空構造を有しており、その中空部分は、不活性ガス供給管91および複数の孔93に接続している。従って、不活性ガス供給管91から供給された不活性ガスは、不活性ガス吹付け部92の中空部分を通って孔93からシリコン原料素材1の下面に向かって吹き出す。なお、不活性ガス吹付け手段9の孔93は、不活性ガス供給管91と不活性ガス吹付け部92との接続部から離れるに従い孔径が大きくなっているので、不活性ガス供給管91から供給された不活性ガスは、中空部分で圧力損失が生じても、各孔93から均等に吹き出す。また、不活性ガス吹付け部92は略C字状をしているので、シリコン単結晶製造装置10の操作者は、シリコン単結晶の製造中に溶融帯Mの様子を炉Cの外から容易に観察することができる。
【0026】
ここで、シリコン単結晶製造装置10では、図2に示すように、不活性ガス吹付け手段9の不活性ガス吹付け部92が、誘導加熱コイル8の凹部81上に設置されているので、シリコン原料素材1とシリコン単結晶3との間の隙間が狭い場合でも、不活性ガス吹付け手段9を容易に設置することができる。
【0027】
そして、上述したシリコン単結晶製造装置10では、例えば以下のようにして、シリコン原料素材1としてのCZ単結晶シリコンからフローティングゾーン法でシリコン単結晶3を製造することができる。なお、CZ単結晶シリコンとしては、任意に、既知のドーパントをドープしたものを用いることもできる。
【0028】
まず、シリコン単結晶製造装置10の炉C内の原料素材保持器5に、シリコン原料素材1を固定すると共に、種結晶保持器7に、種結晶(シリコン種結晶)2を固定する。次に、炉C中に、アルゴンガス(Arガス)を例えば流量10〜100L/分で供給する。その後、シリコン原料素材1の下端を図示しないカーボンヒーターで予備加熱する。
【0029】
続いて、炉C中にArガスを供給しつつ、誘導加熱コイル8に交流電流を流してシリコン原料素材1を誘導加熱コイル8で加熱溶融し、シリコン原料素材1の下部に溶融帯Mを形成した後、溶融帯Mに種結晶2を接触させる。そして、径を絞ったネック部31を形成して無転位化した後、上側回転軸4と下側回転軸6とを同一方向、或いは、反対方向に回転させながら、誘導加熱コイル8の位置は固定したままで、シリコン原料素材1並びに種結晶2およびシリコン単結晶3を下降させて、溶融帯Mをシリコン原料素材1の下端から上端まで移動させ、種結晶2上にシリコン単結晶3を育成する。
【0030】
ここで、シリコン単結晶製造装置10では、シリコン原料素材1の加熱溶融の開始から、シリコン単結晶3の育成が終了するまでの間、誘導加熱コイル8上に設置された不活性ガス吹付け手段9の不活性ガス吹付け部92の孔93から、シリコン原料素材1の下面に向けて、不活性ガスとしてのArガスを吹付ける。なお、Arガスの流量は、0.5〜10L/分とすることが好ましい。Arガスの流量が0.5L/分未満の場合、シリコン原料素材1の溶融に伴い生じるSiOガスを充分に拡散することができない恐れがあり、Arガスの流量が10L/分超の場合、不活性ガス供給管91と不活性ガス吹付け部92との接続部が外れる、或いは、破損する恐れがあると共に、溶融帯Mの融液の流れを大きく変化させて融液がこぼれ落ちてしまう恐れがあるからである。
【0031】
このように、不活性ガス吹付け手段9の上面からシリコン原料素材1の下面に向かう方向に、不活性ガス吹付け手段9の孔93から不活性ガスを吹き付ければ、シリコン原料素材1の溶融に伴い生じるSiOガスが外方に拡散されるので、SiOガスが誘導加熱コイル8に接触して誘導加熱コイル8上にSiOが析出・付着するのを抑制することができる。また、外方に拡散されたSiOガスは、炉C内を流れるArガスにより炉Cの外へと排出されるので、炉C内でのSiOの析出・付着も抑制することができる。よって、シリコン単結晶製造装置10では、炉C内、特に誘導加熱コイル8上へのSiOの析出・付着を効果的に抑制して、炉C内の清掃や誘導加熱コイル8の交換に要する時間を短縮することができ、良質なシリコン単結晶3を効率的に製造することができる。
【0032】
なお、本発明のシリコン単結晶製造装置は、上記一例に限定されることはなく、適宜改変を加えることができる。具体的には、本発明のシリコン単結晶製造装置は、誘導加熱コイルが上方へ移動することにより溶融帯をシリコン原料素材の上端に向かって移動させるものであっても良い。
【0033】
また、例えば、不活性ガス吹付け手段の不活性ガス吹付け部および孔の形状、並びに、孔の数は、適宜変更することができる。具体的には、不活性ガス吹付け部の形状は、リング状、三日月形状または棒状にすることもでき、また、不活性ガス吹付け手段は、例えば図4(a),(b)に示すような形状にすることができる。
【0034】
ここで、図4(a),(b)に示す不活性ガス吹付け手段9aは、略リング状であり、上面に複数(図4(a)では8個)の孔93aが設けられたリング状の不活性ガス吹付け部92aと、該不活性ガス吹付け部92aに接続された不活性ガス供給管91aと、不活性ガス吹付け部92aの下部内周に設けられた中空円板状の底部94aと、底部94aの内周縁部に設けられた鍔部95aとを備えている。
【0035】
この不活性ガス吹付け手段9aでは、シリコン原料素材の下面へと向かう方向へ突出する鍔部95aが内周縁部に設けられているので、底部94aにSiOが析出・付着しても、その析出・付着したSiOが不活性ガス吹付け手段9aの内周縁部から育成中のシリコン単結晶の結晶成長界面(溶融帯)に落下するのを確実に防止することができる。なお、SiOの誘導加熱コイルへの析出・付着を確実に防止するという観点からは、不活性ガス吹付け手段9aの内径は、誘導加熱コイルの内径以下であることが好ましい。
【0036】
また、不活性ガス吹付け手段は、不活性ガスをシリコン原料素材と誘導加熱コイルとの間に横方向から吹き付けて、SiOガスを外方に拡散する手段であっても良い。更に、不活性ガス吹付け手段の大きさは、任意の大きさとすることができ、例えば、不活性ガス吹付け手段を誘導加熱コイルよりも大きくして、不活性ガス吹付け手段で誘導加熱コイルの上面を覆うようにすれば、誘導加熱コイル上へのSiOの析出・付着をより確実に抑制することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
図1に示すシリコン単結晶製造装置10を用いて、表1に示す条件で、酸素濃度が1×1017〜20×1017atoms/cmのCZ単結晶シリコン10本を使用して、シリコン単結晶を10本製造した。そして、その際のシリコン単結晶の有転位化率(=有転位化したシリコン単結晶の本数/製造したシリコン単結晶の本数)を測定した。結果を表1に示す。
【0039】
(実施例2)
不活性ガス吹付け手段として、図4(a),(b)に示す不活性ガス吹付け手段を用いた以外は、実施例1と同様にしてシリコン単結晶を10本製造した。そして、実施例1と同様にしてシリコン単結晶の有転位化率を測定した。結果を表1に示す。
【0040】
(実施例3)
シリコン原料素材として、CZ単結晶シリコンではなく、酸素濃度が1×1016atoms/cm以下の多結晶シリコンを用いた以外は、実施例1と同様にしてシリコン単結晶を10本製造した。そして、実施例1と同様にしてシリコン単結晶の有転位化率を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
(実施例4)
不活性ガス吹付け手段として、不活性ガスをCZ単結晶シリコンとシリコン単結晶との間に横方向(CZ単結晶シリコンおよびシリコン単結晶の結晶軸線に対して垂直な方向)に吹きつける不活性ガス吹付け管(石英製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシリコン単結晶を10本製造した。そして、実施例1と同様にしてシリコン単結晶の有転位化率を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
(比較例1)
不活性ガス吹付け手段9を備えていない以外は図1に示すシリコン単結晶製造装置10と同様の構成を有するシリコン単結晶製造装置を用いて、実施例1と同様にしてシリコン単結晶を10本製造した。そして、実施例1と同様にしてシリコン単結晶の有転位化率を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1の実施例1〜4および比較例1より、本発明の単結晶製造装置によれば、誘導加熱コイル上へのSiOの析出・付着を効果的に抑制して、シリコン単結晶の有転位化率を低減し得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、酸素を含有するシリコン原料素材を用いてフローティングゾーン法でシリコン単結晶を製造する際に、炉内、特に誘導加熱コイル上へのSiOの析出・付着を効果的に抑制して良質なシリコン単結晶を効率的に製造することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 シリコン原料素材
2 種結晶
3 シリコン単結晶
4 上側回転軸
5 原料素材保持器
6 下側回転軸
7 種結晶保持器
8 誘導加熱コイル
9 不活性ガス吹付け手段
9a 不活性ガス吹付け手段
10 シリコン単結晶製造装置
81 凹部
91 不活性ガス供給管
92 不活性ガス吹付け部
93 孔
91a 不活性ガス供給管
92a 不活性ガス吹付け部
93a 孔
94a 底部
95a 鍔部
C 炉
M 溶融帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローティングゾーン法を用いてシリコン単結晶を製造する装置であって、
酸素を含有するシリコン原料素材および種結晶上に育成したシリコン単結晶を収容する炉と、
前記炉内の前記シリコン原料素材と前記種結晶との間に位置し、前記シリコン原料素材を溶融して溶融帯を形成し、前記種結晶上にシリコン単結晶を育成するための誘導加熱コイルと、
前記シリコン原料素材と前記誘導加熱コイルとの間に位置し、不活性ガスを吹き付けてシリコン原料素材の溶融により発生するSiOガスを外方拡散させる不活性ガス吹付け手段と、
を備えることを特徴とする、シリコン単結晶製造装置。
【請求項2】
前記不活性ガス吹付け手段が、前記誘導加熱コイルの上面から前記シリコン原料素材の下面へと向かう方向に不活性ガスを吹き付けることを特徴とする、請求項1に記載のシリコン単結晶製造装置。
【請求項3】
前記シリコン原料素材の酸素濃度が1×1017atoms/cm以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載のシリコン単結晶製造装置。
【請求項4】
前記不活性ガス吹付け手段が、略リング状であり、且つ、内周縁部に前記シリコン原料素材の下面へと向かう方向へ突出する鍔部が設けられていることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のシリコン単結晶製造装置。
【請求項5】
酸素を含有するシリコン原料素材を誘導加熱コイルで溶融して溶融帯を形成し、該溶融帯と種結晶とを接触させる工程と、前記溶融帯の位置をシリコン原料素材の上端に向かって移動させて前記種結晶上にシリコン単結晶を育成する工程とを含むシリコン単結晶の製造方法であって、
前記シリコン原料素材と前記誘導加熱コイルとの間に不活性ガスを吹き付けて、シリコン原料素材の溶融により発生するSiOガスを外方拡散させる工程を更に含むことを特徴とする、シリコン単結晶製造方法。
【請求項6】
前記不活性ガスを、前記誘導加熱コイルの上面から前記シリコン原料素材の下面へと向かう方向に吹き付けることを特徴とする、請求項5に記載のシリコン単結晶製造方法。
【請求項7】
前記シリコン原料素材の酸素濃度が1×1017atoms/cm以上であることを特徴とする、請求項5または6に記載のシリコン単結晶製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−116570(P2011−116570A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272804(P2009−272804)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000184713)SUMCO TECHXIV株式会社 (265)
【Fターム(参考)】