説明

シリコン結晶の製造方法および太陽電池膜の製造方法

【課題】容易かつ安価に、低温でシリコン結晶を製造することができるシリコン結晶の製造方法および太陽電池膜の製造方法を提供する。
【解決手段】不活性ガス雰囲気下で、粉末、バルク体または融液から成る金属ナトリウム1と、バルク体または粉末から成るシリコン2とを、620℃以上の温度で加熱して混合体3を作製する。その混合体3からナトリウムを蒸発させてシリコン結晶を成長させるよう、混合体3を700〜900℃の温度で加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池等のオプトエレクトロニクス半導体材料として応用されているシリコン結晶の製造方法および太陽電池膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン(Si)結晶は、高効率太陽電池への応用が期待される材料として注目されている。シリコンは、地球の地殻中に豊富に存在することや、毒性が低いことから、廃棄時の環境負荷が小さいことが特徴である。
【0003】
しかし、シリコンの融点は1414℃で、融液からのシリコン結晶作製には高温条件が必要となり、製造コストが高く、環境への負荷も大きいという問題があった。この問題を解決するために、シリコン結晶作製温度を低下させる方法として、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)等の低融点元素を添加する方法等が提案されている(例えば、非特許文献1〜3参照)。
【0004】
【非特許文献1】Ito,K. & Kojima,K., “Solution-growthsilicon solar cells”, Jpn. J. Appl.Phys. Suppl., 1979, 19-2, p.37-41
【非特許文献2】Scott,W.& Hager,R.J., “Solution growth of indium-doped silicon”, J. Electron. Mater., 1979, 8,p.581-602
【非特許文献3】Girault,B., Chevrier,F., Joullie,A. & Bougnont,G., “Liquid phaseepitaxy of silicon at very low temperature”, J. Crystal Growth, 1977, 37, p.169-177
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、結晶育成後に添加金属をシリコン結晶から取り除くことが困難であるという課題があった。また、Alは別としても、InやGaは高価である、という課題もあった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、容易かつ安価に、低温でシリコン結晶を製造することができるシリコン結晶の製造方法および太陽電池膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るシリコン結晶の製造方法は、不活性ガス雰囲気下で、金属ナトリウム(Na)とシリコン(Si)とを加熱して混合体を作製し、前記混合体からナトリウムを蒸発させてシリコン結晶を成長させるよう、前記混合体を加熱することを、特徴とする。
【0008】
本発明に係るシリコン結晶の製造方法では、シリコンを金属ナトリウムとともに加熱することにより、シリコンの融点よりも低温でシリコン結晶を製造することができる。また、金属ナトリウムとシリコンとの混合体を加熱して、ナトリウムやNaSi化合物などのナトリウムを蒸発させることにより、ナトリウムを容易に取り除くことができ、純度の高いシリコン結晶を容易に製造することができる。
【0009】
金属ナトリウムがInやGaに比べて安価であるため、添加金属としてInやGaを使用する場合に比べて、安価にシリコン結晶を製造することができる。また、蒸発させた金属ナトリウムは、回収して再び使用することができる。このため、本発明に係るシリコン結晶の製造方法により製造されたシリコン結晶を使用することにより、シリコン基板や太陽電池デバイス等を安価に製造することができる。
【0010】
本発明に係るシリコン結晶の製造方法で、前記金属ナトリウムは粉末、バルク体または融液から成り、前記シリコンはバルク体または粉末から成り、前記混合体がNaSiの金属間化合物またはNaSi金属間化合物とナトリウムとの混合物からなるよう、前記金属ナトリウムと前記シリコンとを加熱することが好ましい。この場合、より効率よく、純度の高いシリコン結晶を製造することができる。特に、金属ナトリウムおよびシリコンのそれぞれ単独の粉末を混合したもの、金属ナトリウムのバルク体の上にシリコンの粉末またはバルク体を接触させたもの、シリコンのバルク体または粉体を金属ナトリウム融液に浸したものを使用することにより、さらに効率よく純度の高いシリコン結晶を製造することができる。
【0011】
本発明に係るシリコン結晶の製造方法は、前記金属ナトリウムと前記シリコンとを620℃以上の温度で加熱して混合体を作製し、前記混合体を700〜900℃の温度で加熱することが好ましい。この場合、シリコンの融点より低温の900℃以下の温度で、容易にシリコン結晶を製造することができる。
【0012】
本発明に係るシリコン結晶の製造方法は、前記シリコン結晶が粒状単結晶、粒状単結晶が凝集した多孔質の板状、および薄膜のうちいずれか一つの形態を成すよう、前記シリコン結晶を成長させることが好ましい。この場合、得られたシリコン結晶を、シリコン基板や太陽電池膜等に容易に応用することができる。
【0013】
本発明に係るシリコン結晶の製造方法は、前記シリコン結晶がn型またはp型の半導体特性を有するよう、前記シリコンとして予めボロンやリンが添加されたものを用いてもよい。この場合、得られるシリコン結晶に、容易に半導体特性を付与することができる。
【0014】
本発明に係るシリコン結晶の製造方法は、前記金属ナトリウムと前記シリコンと炭素素材とを加熱して混合体を作製してもよい。この場合、炭素電極を有する炭化珪素とシリコン結晶との多層構造太陽電池セルを製造することができる。特に、炭素素材の上に金属ナトリウムとシリコンとを配置して加熱することにより、容易に多層構造太陽電池セルを製造することができる。
【0015】
本発明に係る太陽電池膜の製造方法は、本発明に係るシリコン結晶の製造方法により製造された粒状単結晶を成す前記シリコン結晶のうち、ピラミッド型の粒状単結晶を成すものを平面状に並べて太陽電池膜を形成することを、特徴とする。
【0016】
本発明に係る太陽電池膜の製造方法によれば、ピラミッド型の粒状単結晶を成すシリコン結晶を平面状に並べることにより、光を高収率で捕えることができる高性能の太陽電池膜を製造することができる。また、本発明に係るシリコン結晶の製造方法により製造されたシリコン結晶を使用するため、容易かつ安価に太陽電池膜を製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、容易かつ安価に、低温でシリコン結晶を製造することができるシリコン結晶の製造方法および太陽電池膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図3は、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法を示す。
図1に示すように、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法を実施するために、2つの反応容器11,12とBNルツボ13とを使用する。
【0019】
図1に示すように、各反応容器11,12は、ステンレス製(SUS316)のチューブから成っている。反応容器11は、一端11aが溶接されて塞がれている。反応容器11は、他端11bに着脱可能なキャップ11cを有している。また、反応容器12は、両端に着脱可能なキャップ12aを有している。キャップ11c,12aは、ステンレス製で、各反応容器11,12を密封可能である。なお、具体的な一例では、反応容器11は
、内径が11mm、長さが80mmであり、反応容器12は、内径が11mm、長さが300mmである。
【0020】
図1に示すように、ボロンナイトライド(BN)ルツボ13は、焼結BNルツボ(昭和電工株式会社製)から成り、各反応容器11,12の内部に収納可能になっている。なお、具体的な一例では、BNルツボ13は、内径が6mm、長さが10mm、BNの純度が99.5%である。
【実施例1】
【0021】
以下に示すように、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法によりシリコン結晶を製造した。まず、図1(a)に示すように、高純度アルゴンの不活性ガス雰囲気(O, HO濃度<1ppm)のグローブボックス内で、Na:Siのモル比が3:2となるよう、123mgの金属ナトリウム1(日本曹達株式会社製、純度99.95%)と100mgの粉末状のシリコン2(株式会社高純度化学研究所製、純度99.999%、粒径<75μm)とを秤量し、ともにBNルツボ13の内部に入れた。
【0022】
次に、反応容器11の内部にBNルツボ13を配置し、アルゴン雰囲気中で反応容器11をキャップ11cでシールした。反応容器11を電気炉内に設置し、700℃まで2時間で昇温し、その後24時間加熱して融液状の混合体3を作製した。加熱終了後、反応容器11を電気炉内で室温まで冷却し、反応容器11をグローブボックス内で切断し、BNルツボ13を取り出した。
【0023】
BNルツボ13の内部の試料を観察したところ、銀色の固体状の混合体3が確認された。この混合体3をX線用ホルダーに乗せ、アルゴン雰囲気下でカプトン膜が貼ってあるキャップで封入し、X線回折測定(株式会社リガク製、製品名「Rint」、線源;CuΚα)を行った結果、この物質は、NaSi化合物(Monoclinic、格子定数はa=1.216nm、b=0.655nm、c=1.114nm、β=118.80°)とナトリウムとの混合物であると同定された。また、混合体3からは、シリコンは検出されなかった。
【0024】
次に、図1(b)に示すように、反応容器12の内部に、固体状の混合体3を入れたBNルツボ13を配置し、アルゴン雰囲気中で反応容器12をキャップ12aでシールして、反応容器12の上部のみを電気炉14内に設置した。固体状の混合体3を溶融させ、融液状の混合体3からナトリウムを蒸発させてシリコン結晶を成長させるよう、900℃まで4時間で昇温し、その後24時間加熱した。加熱終了後、反応容器12を電気炉14内で室温まで冷却した。冷却後、キャップ12aをグローブボックス内で外し、BNルツボ13を取り出した。このとき、蒸発したナトリウムが反応容器12の内部に固体状で凝集していた。取り出したBNルツボ13の内部には、ナトリウムは観察されなかった。
【0025】
得られたBNルツボ13の内部の生成物に、少量のナトリウムやNaSi化合物が残っている可能性があるため、2-プロパノール、エタノール、蒸留水の順番で数回洗浄し、空気中で乾燥させた。これにより、水やアルコールとは反応しないシリコンの結晶のみが得られた。
【0026】
このように、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法では、シリコン2を金属ナトリウム1とともに加熱することにより、シリコン2の融点よりも低温の900℃で、シリコン結晶を製造することができる。金属ナトリウム1がInやGaに比べて安価であるため、添加金属としてInやGaを使用する場合に比べて、安価にシリコン結晶を製造することができる。また、蒸発させた金属ナトリウムは、回収して再び使用することができる。このため、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法により製造されたシリコン結晶を使用することにより、シリコン基板や太陽電池デバイス等を安価に製造することができる。
【0027】
本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法により得られたシリコン結晶について、以下の測定を行った。まず、得られたシリコン結晶を粉砕し、その粉体に対して粉末X線回折測定(株式会社リガク製、製品名「RINT2200」、線源;CuKα)を行い、相の同定を行った。また、走査線型電子顕微鏡(Philips製、製品名「ESEMXL30」)で結晶の形態を観察し、走査線型電子顕微鏡(SEM)に装着されたエネルギー分散型分析装置(Philips製、製品名「EDAX NEWXL30」)で元素の定量分析を行った。
【0028】
図2に、得られたシリコン結晶の粉末X線回折パターンを示す。図2に示すように、シリコンのX線回折(XRD)パターン(Cubic、格子定数はa=0.543nm)に一致するピークのみが観察され、結晶がシリコンの単一相であることが確認された。これは、混合体3がナトリウムおよびNaSi化合物のみだったことから、NaSiの融液からナトリウムが取り除かれ、シリコンが結晶成長したためであると考えられる。このように、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法によれば、金属ナトリウム1とシリコン2との混合体3を加熱して、ナトリウムやNaSi化合物などのナトリウムを蒸発させることにより、ナトリウムを容易に取り除くことができ、純度の高いシリコン結晶を容易に製造することができる。
【0029】
図3に、得られたシリコン結晶のSEM写真を示す。図3に示すように、粒径100〜200μmの結晶粒が凝集していることが確認された。また、各結晶粒が、単結晶であり、ピラミッド型に成長していることも確認された。このピラミッド型の粒状単結晶を成すシリコン結晶を平面状に並べることにより、光を高収率で捕えることができる高性能の太陽電池膜を容易かつ安価に製造することができる。
【0030】
得られたシリコン結晶に対して、エネルギー分散型分析装置(EDX)により組成分析を行った結果、シリコンのみが検出された。また、ナトリウムは検出されず、シリコン結晶中に残存するナトリウム化合物は、検出限界の0.5wt%以下であることも確認された。このように、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法によれば、純度の高いシリコン結晶を容易に製造することができる。
【実施例2】
【0031】
以下に示すように、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法により、板状のシリコン多孔体を製造した。まず、図1(a)に示すように、高純度アルゴンの不活性ガス雰囲気(O, HO濃度<1ppm)のグローブボックス内で、Na:Siのモル比が1:1となるよう、金属ナトリウム1(日本曹達株式会社製、純度99.95%)と粉末状のシリコン2(株式会社高純度化学研究所製、純度99.999%、粒径<75μm)とを秤量し、ともにBNルツボ13の内部に入れた。
【0032】
次に、反応容器11の内部にBNルツボ13を配置し、アルゴン雰囲気中で反応容器11をキャップ11cでシールした。反応容器11を電気炉内に設置し、700℃まで2時間で昇温し、その後24時間加熱してNaSi化合物を作製した。加熱終了後、反応容器11を電気炉内で室温まで冷却し、反応容器11をグローブボックス内で切断し、BNルツボ13を取り出した。
【0033】
NaSi化合物を瑪瑙乳鉢で粉砕して粉状にし、粉末状のNaSi化合物と粉末状のシリコンとを、NaとSiの比が1:2になるように秤量し、混合した後、ダイスを用いて圧粉し、長さ14mm、幅3mm、厚さ3mmの成型体(混合体3)を得た。
【0034】
次に、図1(b)に示すように、反応容器12の内部に、得られた成型体を入れたBNルツボ13を配置し、アルゴン雰囲気中で反応容器12をキャップ12aでシールして、反応容器12の上部のみを電気炉14内に設置した。成型体からナトリウムを蒸発させるよう、800℃まで4時間で昇温し、その後24時間加熱した。加熱終了後、反応容器12を電気炉14内で室温まで冷却した。冷却後、キャップ12aをグローブボックス内で外し、BNルツボ13を取り出した。このとき、蒸発したナトリウムが反応容器12の内部に固体状で凝集していた。取り出したBNルツボ13の内部には、ナトリウムは観察されなかった。
【0035】
こうして、BNルツボ13の内部の生成物として、シリコン多孔体が得られた。このようにして得られたシリコン多孔体について、X線回折測定を行った。その結果、シリコン多孔体のX線回折パターンでは、シリコンのX線回折(XRD)パターン(Cubic、格子定数はa=0.543nm)に一致するピークのみが観察され、多孔体がシリコンの単一相であることが確認された。これは、成形体からナトリウムが取り除かれ、シリコンが結晶成長したためであると考えられる。このように、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法によれば、金属ナトリウム1とシリコン2との成形体を加熱して、ナトリウムやNaSi化合物などのナトリウムを蒸発させることにより、ナトリウムを容易に取り除くことができ、純度の高いシリコン多孔体を容易に製造することができる。
【0036】
図4(a)に、得られたシリコン多孔体の光学顕微鏡写真を示す。図4(a)に示すように、得られたシリコン多孔体は棒状を成している。また、図4(b)に、得られたシリコン多孔体のSEM写真を示す。図4(b)に示すように、シリコン多孔体は、各結晶粒が凝集した多孔体であることが確認された。
【0037】
このように、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法では、シリコン2を金属ナトリウム1とともに所定のモル比で加熱することにより、シリコン2の融点よりも低温の800℃で、シリコン多孔体を製造することができる。金属ナトリウム1がInやGaに比べて安価であるため、添加金属としてInやGaを使用する場合に比べて、安価にシリコン多孔体を製造することができる。また、蒸発させた金属ナトリウムは、回収して再び使用することができる。このため、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法により製造されたシリコン多孔体を使用して、半導体材料等を安価に製造することができる。
【実施例3】
【0038】
以下に示すように、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法によりシリコン薄膜を製造した。まず、図1(a)に示すように、高純度アルゴンの不活性ガス雰囲気(O, HO濃度<1ppm)のグローブボックス内で、Na:Siのモル比が3:2となるよう、123mgの金属ナトリウム1(日本曹達株式会社製、純度99.95%)と100mgの粉末状のシリコン2(株式会社高純度化学研究所製、純度99.999%、粒径<75μm)とを秤量し、ともにBNルツボ13の内部に入れた。
【0039】
次に、反応容器11の内部にBNルツボ13を配置し、アルゴン雰囲気中で反応容器11をキャップ11cでシールした。反応容器11を電気炉内に設置し、700℃まで2時間で昇温し、その後24時間加熱して融液状の混合体3を作製した。加熱終了後、反応容器11を電気炉内で室温まで冷却し、反応容器11をグローブボックス内で切断し、BNルツボ13を取り出した。
【0040】
次に、図1(b)に示すように、反応容器12の内部に、固体状の混合体3を入れたBNルツボ13を配置し、アルゴン雰囲気中で反応容器12をキャップ12aでシールして、反応容器12の上部のみを電気炉14内に設置した。固体状の混合体3を溶融させ、融液状の混合体3からナトリウムを蒸発させてシリコン結晶を成長させるよう、800℃まで4時間で昇温し、その後24時間加熱した。加熱終了後、反応容器12を電気炉14内で室温まで冷却した。冷却後、キャップ12aをグローブボックス内で外し、BNルツボ13を取り出した。このとき、蒸発したナトリウムが反応容器12の内部に固体状で凝集していた。取り出したBNルツボ13の内部には、ナトリウムは観察されなかった。
【0041】
こうして、BNルツボ13の内壁に、厚さ10μm〜20μmのシリコン薄膜が得られた。このようにして得られたシリコン薄膜について、X線回折測定を行った。その結果、シリコン薄膜のX線回折パターンでは、シリコンのX線回折(XRD)パターン(Cubic、格子定数はa=0.543nm)に一致するピークのみが観察され、薄膜がシリコンの単一相であることが確認された。これは、混合体3の融液からナトリウムが取り除かれ、シリコンが結晶成長したためであると考えられる。このように、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法によれば、金属ナトリウム1とシリコン2との混合体3を加熱して、ナトリウムやNaSi化合物などのナトリウムを蒸発させることにより、ナトリウムを容易に取り除くことができ、純度の高いシリコン薄膜を容易に製造することができる。
【0042】
図5(a)に、得られたシリコン薄膜の光学顕微鏡写真を示す。図5(a)に示すように、得られたシリコンは膜状を成している。また、図5(b)に、得られたシリコン薄膜のSEM写真を示す。図5(b)に示すように、シリコン薄膜は、シリコン結晶が放射状に広がっていることが確認された。
【0043】
このように、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法では、シリコン2を金属ナトリウム1とともに加熱することにより、シリコン2の融点よりも低温の800℃で、シリコン薄膜を製造することができる。金属ナトリウム1がInやGaに比べて安価であるため、添加金属としてInやGaを使用する場合に比べて、安価にシリコン薄膜を製造することができる。また、蒸発させた金属ナトリウムは、回収して再び使用することができる。このため、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法により製造されたシリコン薄膜を使用して、半導体材料等を安価に製造することができる。
【0044】
本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法によれば、原料の金属ナトリウム1とシリコン2とのモル比が同じであっても、混合体3を900℃で加熱すると、実施例1のようなシリコン単結晶を製造することができ、混合体3を800℃で加熱すると、本実施例3のようなシリコン薄膜を製造することができる。
【0045】
なお、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法は、シリコン結晶がn型またはp型の半導体特性を有するよう、原料のシリコンとして予めボロンやリンが添加されたものを用いてもよい。この場合、得られるシリコン結晶に、容易に半導体特性を付与することができる。
【0046】
また、本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法は、金属ナトリウム1とシリコン2と炭素素材とを加熱して混合体3を作製してもよい。この場合、炭素電極を有する炭化珪素とシリコン結晶との多層構造太陽電池セルを製造することができる。特に、炭素素材の上に金属ナトリウム1とシリコン2とを配置して加熱することにより、容易に多層構造太陽電池セルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法の(a)混合体を作製する工程を示す斜視図、(b)シリコン結晶を成長させる工程を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法により製造されたシリコン結晶のX線回折パターンを示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法により製造されたシリコン結晶の走査線型電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法により製造されたシリコン多孔体の(a)光学顕微鏡写真、(b)走査線型電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施の形態のシリコン結晶の製造方法により製造されたシリコン薄膜の(a)光学顕微鏡写真、(b)走査線型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0048】
1 金属ナトリウム
2 シリコン
3 混合体
11,12 反応容器
11c,12a キャップ
13 BNルツボ
14 電気炉


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気下で、金属ナトリウム(Na)とシリコン(Si)とを加熱して混合体を作製し、前記混合体からナトリウムを蒸発させてシリコン結晶を成長させるよう、前記混合体を加熱することを、特徴とするシリコン結晶の製造方法。
【請求項2】
前記金属ナトリウムは粉末、バルク体または融液から成り、前記シリコンはバルク体または粉末から成り、
前記混合体がNaSiの金属間化合物またはNaSi金属間化合物とナトリウムとの混合物からなるよう、前記金属ナトリウムと前記シリコンとを加熱することを、
特徴とする請求項1記載のシリコン結晶の製造方法。
【請求項3】
前記金属ナトリウムと前記シリコンとを620℃以上の温度で加熱して混合体を作製し、前記混合体を700〜900℃の温度で加熱することを、特徴とする請求項1または2記載のシリコン結晶の製造方法。
【請求項4】
前記シリコン結晶が粒状単結晶、粒状単結晶が凝集した多孔質の板状、および薄膜のうちいずれか一つの形態を成すよう、前記シリコン結晶を成長させることを、特徴とする請求項1、2または3記載のシリコン結晶の製造方法。
【請求項5】
前記シリコン結晶がn型またはp型の半導体特性を有するよう、前記シリコンとして予めボロンやリンが添加されたものを用いることを、特徴とする請求項1、2、3または4記載のシリコン結晶の製造方法。
【請求項6】
前記金属ナトリウムと前記シリコンと炭素素材とを加熱して混合体を作製することを、特徴とする請求項1、2、3、4または5記載のシリコン結晶の製造方法。
【請求項7】
請求項4記載のシリコン結晶の製造方法により製造された粒状単結晶を成す前記シリコン結晶のうち、ピラミッド型の粒状単結晶を成すものを平面状に並べて太陽電池膜を形成することを、特徴とする太陽電池膜の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−83732(P2010−83732A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256932(P2008−256932)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】