説明

シリンダ用鋼管の製造方法

【課題】亀裂が発生する事態を可及的に防止すること。
【解決手段】シリンダアクチュエータの外筒を構成し、内部にピストンが摺動可能に嵌合されるシリンダ用鋼管において、素管10に対して外周面の表層全域に研削加工1を実施した後、引き抜き加工2を実施し、さらに応力除去熱処理3を行った後にプレス矯正4を行った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧シリンダ等のシリンダアクチュエータにおいて外筒を構成し、内部にピストンが摺動可能に嵌合されるシリンダ用鋼管の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリンダアクチュエータの外筒を構成するシリンダ用鋼管としては、素管に対して引き抜き加工を施した後、応力除去熱処理を実施したものを適用するのが一般的である。応力除去熱処理は、シリンダ用鋼管の残留応力、特に、シリンダ用鋼管の外表層において周方向に膨張させる方向の引張応力を除去することで、動作中の内圧に対する疲労特性を向上させようとするものである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−183820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリンダ用鋼管の疲労特性を低下させる要因としては、上述した残留応力によるもののほか、素管に存在する表層欠陥を挙げることができる。表層欠陥とは、製鋼・熱間圧延・熱間製管の際に生じた欠陥を含む表層部分の欠陥のことである。表層欠陥は、例えば表面下0.1mm程度の表層に生じる微細で鋭角の傷や表層に存在する微細な非金属介在物、あるいは表面に露出していない表層内部の表皮下欠陥を含むものである。シリンダ用鋼管の外周側に表層欠陥が存在した場合には、動作中の内圧により応力が集中して成長する恐れがあり、シリンダ用鋼管に亀裂を招来する原因となり得る。
【0005】
このため従来では、応力除去熱処理を実施した後に表面の検査を行い、傷や非金属介在物を確認した場合にハンドグラインダー等の研削工具を適用して研削作業を施し、これを除去することが行われている。
【0006】
しかしながら、上述した応力除去熱処理の実施、並びに表層欠陥を除去する作業を実施した場合にも、絶対数は減少するとはいえ、シリンダ用鋼管に亀裂が発生する事態は依然として発生しているのが現状である。従って、シリンダ用鋼管に亀裂が発生する要因をさらに突き止め、これを如何に防止できるかが、シリンダアクチュエータの品質を向上させる上できわめて重要となる。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、亀裂が発生する事態を可及的に防止することのできるシリンダ用鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは、表層欠陥を除去するために実施していた研削作業が、シリンダ用鋼管に亀裂を招来する一因になっていた事実を突き止めた。つまり、シリンダ用鋼管に亀裂が発生するのを防止すべく実施していた研削作業が、実は別の観点から見ると、シリンダ用鋼管の外表層に円周方向に引張りの残留応力を発生させており、シリンダ用鋼管の亀裂を招来する一因になっていた。本発明は、こうした知見に基づいて創作したもので、以下に記載する特徴を有する。
【0009】
すなわち、本発明に係るシリンダ用鋼管の製造方法は、シリンダアクチュエータの外筒を構成し、内部にピストンが摺動可能に嵌合されるシリンダ用鋼管において、素管に対して外周面の表層全域への研削加工及び引き抜き加工を実施した後、応力除去熱処理を行ったことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上述したシリンダ用鋼管の製造方法において、応力除去熱処理を実施した後、素管にプレス矯正を行ったことを特徴とする。
【0011】
応力除去熱処理の後に実施する矯正工程としては、ロール矯正を行うのが一般的である。しかしながら、このロール矯正についても、残留応力の観点から見ると、シリンダ用鋼管の外表層に円周方向に引張りの残留応力を発生させる。つまり、応力除去熱処理の後に、素管の曲がり取りを行うべく必須作業となっていたロール矯正が、残留応力の観点から見ると、シリンダ用鋼管に亀裂を招来する一因になり得る。これは、ロール矯正の構造上、本来矯正が必要でない部位に対してもロールによって余分な外力を加えざるを得ないため、これが円周方向に引張りの残留応力を発生させる原因と考えられる。従って、応力除去熱処理を実施した後には、不必要部分に外力を付与することのないプレス矯正を施すようにしている。
【0012】
引き抜き加工及び研削加工は、応力除去熱処理を実施する以前であれば、いずれを先に実施しても構わない。しかしながら、加工硬化による加工性への影響等を考慮した場合、引き抜き加工を実施する以前に研削加工を施すことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、応力除去熱処理を行う前に研削加工を施すようにしているため、研削加工が原因となる残留応力がその後の応力除去熱処理で除去されることになる。従って、円周方向に引張りの残留応力によってシリンダ用鋼管に亀裂が発生する事態を防止することができるようになる。しかも、研削加工としては、素管の外周面に対して表層全域に実施するため、表層欠陥が起点となってシリンダ用鋼管に亀裂が発生する事態を招来する恐れもなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施の形態であるシリンダ用鋼管の製造方法を説明するための工程図である。
【図2】図2は、図1に示した製造方法において実施する研削加工の具体的な例を示す概念図である。
【図3】図3は、図1に示した製造方法において実施する引き抜き加工の具体的な例を示す概念図である。
【図4】図4は、図1に示した製造方法において実施するプレス矯正の具体的な例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係るシリンダ用鋼管の製造方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態であるシリンダ用鋼管の製造方法を示したものである。ここで製造方法を例示するシリンダ用鋼管は、特に、建設機械に搭載される比較的大型の油圧シリンダのシリンダチューブ(外筒)を構成するもので、具体的には、完成寸法において外径162.0mm、内径140.0mm、肉厚11.0mmの円筒状を成す鋼製の筒体である。
【0017】
この製造方法では、まず、搬入されたシリンダ用鋼管の素管に対して研削加工1を実施する。この研削加工1は、素管の外周面に対して表層全域を均一に研削することによる表層欠陥である微細な傷や微細な非金属介在物を除去するためのものである。素管に対して研削加工1を施す場合には、図2に例示するように、センターレス研削機を適用することができる。センターレス研削機では、互いに平行となる軸心回りに回転する2つの研削砥石A,Bの間に素管10を配置し、この状態から研削砥石A,Bを回転させれば、素管10の外周面に周方向に沿って研削目が出るように研削加工1が行われることになる。研削深さは、表層欠陥を除去することのできる寸法、例えば0.1mmである。これにより、表層欠陥が起点となって素管10に亀裂が発生する事態を可及的に防止することが可能となる。尚、研削加工1によって生じる研削目は、これが残存していたとしても、シリンダ用鋼管に亀裂を発生させる原因とはならない。これは、素管製造の際に生じる表層欠陥形状がきわめて角度が鋭く、かつ素管の軸方向に沿って形成されるものであるのに対して、研削機によって生じる研削目は、素管の周方向に沿い、かつ角度が緩やかなものとしかならないためであり、動作中の内圧によっても応力が集中することはなく、亀裂には至らない。
【0018】
次いで、図1に示すように、研削加工1を施した素管10に対して引き抜き加工(抽伸)2を実施する。具体的には、図3に例示するように、素管10の内部にプラグCを装着した状態でダイスDの孔Eから室温で素管10を引き抜くことにより、素管10の外形寸法がほぼ上述したシリンダ用鋼管の完成寸法となるように加工を行う。
【0019】
上述した研削加工1及び引き抜き加工2が終了した素管10に対しては、図1に示すように、応力除去熱処理3を施す。本実施の形態では、約600〜650℃に加熱する処理を行うようにしている。これにより、先の研削加工1において素管10に円周方向に引張りの残留応力が発生していたとしても、応力除去熱処理3により、これが除去されることになる。
【0020】
次いで、応力除去熱処理3を実施した素管10に対してプレス矯正4を実施し、形状の修正を行う。プレス矯正4は、例えば図4に例示するように、2点で支持させた素管10に対して押圧力を付与することで曲げ等の矯正を行うものである。矯正加工の際にプレス矯正4を実施するのは、以下の理由による。すなわち、応力除去熱処理3の後に実施する矯正加工としては、現在、ロール矯正を行うのが一般的であるが、残留応力の観点から見ると、ロール矯正は素管10の外表層に円周方向に引張りの残留応力を発生させる。従って、本実施の形態では、応力除去熱処理3を実施した後、不必要部分に外力を付与することのないプレス矯正4を施すようにしている。
【0021】
以上の工程を実施することにより、円周方向に引張りの残留応力を可及的に除去し、かつ表層欠陥を除去したシリンダ用鋼管を製造することができるようになる。その後、シリンダ用鋼管に対しては、ピストンが摺動する内周面に対してバニシング加工を施し、さらに適宜切断・塗装を施せば、油圧シリンダのシリンダチューブとして構成されることになる。
【0022】
以上説明したように、本実施の形態の製造方法によれば、応力除去熱処理3を行う前に研削加工1を施すようにしているため、研削加工1が原因となる残留応力がその後の応力除去熱処理3で除去されることになる。従って、円周方向に引張りの残留応力によって素管10に亀裂を招来する事態を防止することができるようになる。しかも、研削加工1としては、素管10の外周面に対して表層全域に実施するため、外部に露出していない表皮下欠陥をも完全に除去することができ、表層欠陥が起点となって素管10に亀裂が発生する事態を招来する恐れもなくなる。
【0023】
尚、実施の形態で記載したシリンダ用鋼管の完成寸法等、具体的な数値はあくまでも例示を目的とするものであり、本願発明を何ら限定するものではない。例えば、研削加工1時の研削深さは、0.1mmである必要はなく、表層欠陥が除去できれば0.1mm以下であっても構わない。応力除去熱処理3に関しても、その温度は600〜650℃に限定されるものではなく、残留応力が除去できれば、600℃未満であっても650℃以上であっても良い。
【0024】
また、上述した実施の形態では、引き抜き加工2を実施する以前に研削加工1を施すようにしているため、引き抜き加工2後の加工硬化による加工性への影響を受けることがないが、引き抜き加工2及び研削加工1は、応力除去熱処理3を実施する以前であれば、いずれを先に実施しても構わない。特に、引き抜き加工2の実施により、素管10の外周面表層に円周方向に圧縮の残留応力を発生させることができる場合には、研削加工1によってこれが除去されることのないように、研削加工1を先に実施することが好ましい。
【符号の説明】
【0025】
10 素管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダアクチュエータの外筒を構成し、内部にピストンが摺動可能に嵌合されるシリンダ用鋼管を製造する方法において、
素管に対して外周面の表層全域への研削加工及び引き抜き加工を実施した後、応力除去熱処理を行ったことを特徴とするシリンダ用鋼管の製造方法。
【請求項2】
応力除去熱処理を実施した後、素管にプレス矯正を行ったことを特徴とする請求項1に記載のシリンダ用鋼管の製造方法。
【請求項3】
引き抜き加工を実施する以前に外周面の表層に研削加工を施すことを特徴とする請求項1に記載のシリンダ用鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−255401(P2011−255401A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132196(P2010−132196)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(503023380)株式会社片倉の鋼管 (2)
【Fターム(参考)】