説明

シンチレータ物質及びシンチレータ物質を含む放射線検出器

【課題】高エネルギ線での曝射時の損傷を低減する。
【解決手段】焼結及び焼鈍を施したシンチレータ組成物が、焼鈍の前に、式A12を有し、式中、AはTb、Ce及びLuから成る群の少なくとも一つの要素又はこれらの組み合わせであり、Bは八面体位(Al)であり、Cは四面体位(やはりAl)である。BにおいてAlをScで置き換えたもの、2原子までの酸素をフッ素で置き換え、且つA位において同数のCa原子を置き換えたもの、B位においてMgで置き換え、且つ同数の酸素原子をフッ素で置き換えたもの、B位においてMg/Si、Mg/Zr、Mg/Ti及び/又はMg/Hfの各組み合わせで置き換えたもの、B位においてLi/Nb及び/又はLi/Taの組み合わせで置き換えたもの、並びにA位においてCaで置き換え、且つ等しい数のB又はCをケイ素で置き換えたもの含み得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には、放射線検出器に有用なシンチレータ物質及びシンチレータ物質で製造された放射線検出器に関し、さらに具体的には、薄い切片として用いることができ、且つ/又は比較的低い温度で処理することのできるシンチレータ物質、及びこのシンチレータ物質で製造された放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
固体シンチレータ物質は、X線計数管及びイメージ・インテンシファイアのような応用において入射する放射線を検出する放射線検出器として長年にわたって用いられている。シンチレータ物質は、X線又は他の高エネルギ電磁フォトンによって励起されると可視又は近可視の放射線を放出する。典型的な医学的応用又は産業応用では、シンチレータからの光出力は光電式応答装置に向けられて電気的出力信号を発生し、これらの信号の振幅が、加えられたエネルギに比例する。次いで、電気信号をコンピュータによってディジタル化して、スクリーン又は他の恒久的媒体に表示することができる。かかる検出器は、計算機式断層写真法(CT)スキャナ、ディジタル放射線撮像(DR)、並びに他のX線、ガンマ線、紫外線及び核医学用放射線を検出する応用において重要な役割を果たす。医学的応用では、シンチレータが患者を透過した略全てのX線を効率的に吸収することが特に望ましいため、検出器は投与された高エネルギの最大量を利用すると共に、患者には必要以上に多い放射線を被曝させないようにする。
【0003】
現世代のCTスキャナに好ましいシンチレータ組成物の中に、ルテチウム、イットリウム及びガドリニウムの各酸化物の少なくとも一つを母材として用いたセラミック・シンチレータがある。これらの材料については、例えば米国特許第4,421,671号、同第4,473,513号、同第4,525,628号及び同第4,783,596号に詳しく説明されている。これらのシンチレータは典型的には、過半量のイットリア(Y)、約50モル%までのガドリニア(Gd)及び小活性量(典型的には約0.02モル%〜12モル%、好ましくは約1モル%〜6モル%、最も好ましくは約3モル%)の希土類活性剤酸化物を含んでいる。適当な活性剤酸化物としては、上の各特許に記載されているように、ユーロピウム、ネオジム、イッテルビウム、ジスプロシウム、テルビウム及びプラセオジムの各酸化物がある。ユーロピウム活性型のシンチレータは発光効率が高く、残光レベルが低く、また他の好ましい特性を有するため、商用のX線検出器においてしばしば好まれる。
【特許文献1】米国特許第4,421,671号
【特許文献2】米国特許第4,473,513号
【特許文献3】米国特許第4,525,628号
【特許文献4】米国特許第4,783,596号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シンチレータについてのもう一つの重要な考慮点は、高エネルギ線でのシンチレータの反復的な曝射時にシンチレータに生ずる損傷を低減することにある。高エネルギ線を光学的画像に変換するために固体シンチレータ物質を用いる放射線撮像設備は、高線量の放射線でのシンチレータの曝射の後に効率に変化を来す場合がある。例えば、ゲルマニウム酸ビスマス単結晶シンチレータについての放射線損傷は、蛍光灯による紫外線での30分間の曝射の後で、11%に上り得る。より高エネルギのガンマ線についても同様の結果が報告されている。さらに、ゲルマニウム酸ビスマス製シンチレータの結晶間の放射線損傷のばらつきは大きく、少なくとも30倍に近い。多結晶型セラミック・シンチレータを高エネルギ線量で曝射したときにも同様の効率変化が見受けられる場合がある。
【0005】
シンチレータの放射線損傷は、放射線での長時間にわたる曝射によるシンチレータ本体の光出力の変化及び/又は色の暗色化によって特徴付けられる。放射線損傷は、以前の走査からの「ゴースト画像」を招き、これにより画像分解能を損なう場合がある。放射線損傷時に生ずる光出力の変化は、同じシンチレータでもバッチ間で大きさが区々であることがしばしば判明しており、何らかの個別のシンチレータが経時的にどの程度変化したかを予測することを困難にし、従って、定量的な補正手段を講じることを困難にしている。例えば、ユーロピウムで活性化したイットリア−ガドリニアのセラミック・シンチレータは、450レントゲンの140kVpX線についてシンチレータ・バッチに依存して4%〜33%の光出力の減少を呈する。X線損傷の結果として生じ得るこの光出力のばらつき量は、定量的測定のためのX線検出器では望ましくない。
【0006】
さらに、現行の水不溶性シンチレータ物質は、高い融点、及びX線が検出器に達して検出器を損傷するのを阻止するために施さなければならないシンチレータ皮膜の厚みのため、製造が困難である。また、皮膜が厚いため、光透過を非効率的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一観点では、焼結(sintering)及び焼鈍(annealing)を施したシンチレータ組成物を提供する。組成物は、焼鈍の前に、式A12を有するガーネットを含んでおり、式中、AはTb、Ce及びLuから成る群の少なくとも一つの要素又はこれらの組み合わせであり、Bは八面体位(Al)であり、Cは四面体位(やはりAl)である。ガーネットは、(1)上の式において、八面体位Bの0.05原子〜2原子までのAlをScで置き換えたもの、(2)上の式において、0.005原子〜2原子までの酸素をフッ素で置き換え、且つA位において同数のCa原子を置き換えたもの、(3)上の式において、B位の0.005原子〜2原子をMgで置き換え、且つ同数の酸素原子をフッ素で置き換えたもの、(4)上の式において、B位の0.005原子〜2原子までをMg/Si、Mg/Zr、Mg/Ti及びMg/Hfから成る群から選択される少なくとも一つの組み合わせの原子で置き換えたもの、(5)上の式において、B位の0.005原子〜2原子までをLi/Nb及びLi/Taから成る群から選択される少なくとも一つの組み合わせの原子で置き換えたもの、並びに(6)上の式において、A位の0.005原子〜2原子までをCaで置き換え、且つ等しい数のB位又はC位をケイ素で置き換えたもの、から成る群から選択される少なくとも一つの置換を含んでいる。
【0008】
本発明は、一観点では、焼結(sintering)及び焼鈍(annealing)を施したシンチレータ組成物を提供する。組成物は、焼鈍の前に、式A12を有するガーネットを含んでおり、式中、AはTb、Ce及びLuから成る群の少なくとも一つの要素又はこれらの組み合わせであり、Bは八面体位(Al)であり、Cは四面体位(やはりAl)であり、ガーネットは、
(1)上の式において、八面体位Bの0.05原子〜2原子までのAlをScで置き換えたもの、
(2)上の式において、0.005原子〜2原子までの酸素をフッ素で置き換え、且つA位において同数のCa原子を置き換えたもの、
(3)上の式において、B位の0.005原子〜2原子をMgで置き換え、且つ同数の酸素原子をフッ素で置き換えたもの、
(4)上の式において、B位の0.005原子〜2原子までをMg/Si、Mg/Zr、Mg/Ti及びMg/Hfから成る群から選択される少なくとも一つの組み合わせの原子で置き換えたもの、
(5)上の式において、B位の0.005原子〜2原子までをLi/Nb及びLi/Taから成る群から選択される少なくとも一つの組み合わせの原子で置き換えたもの、並びに
(6)上の式において、A位の0.005原子〜2原子までをCaで置き換え、且つ等しい数のB位又はC位をケイ素で置き換えたもの、から成る群から選択される少なくとも一つの置換を有し、
上述の置換後の組成物Aは、焼鈍の前に1725℃で焼結される。
【0009】
本発明の様々な構成は、公知のシンチレータ組成物よりも短い減衰時間を提供し、高エネルギ線での曝射時の損傷を低減する。加えて、本発明のシンチレータ組成物の構成は、公知のシンチレータ組成物よりも密度が高く、このようにして、さらに大きい放射線阻止力を与えて、シンチレータ組成物を付着させた半導体検出器アレイの損傷を防ぐ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
「蛍光体(phosphor)」及び「シンチレータ」との用語は互換的に用いられ、X線、ベータ線又はガンマ線のような高エネルギ線による励起に応答して可視光を放出する固体発光材料を意味する。
【0011】
「高エネルギ線」との用語は、紫外線よりも高いエネルギを有する電磁線を指し、限定しないがX放射線(本書ではX線とも呼ぶ)、ガンマ(γ)線及びベータ(β)線を含む。固体シンチレータ物質は、計数管、イメージ・インテンシファイア及び計算機式断層写真法(「CT」)スキャナのような装置における放射線検出器の構成要素として広く用いられている。
【0012】
「放射線損傷」との用語は、発光材料の特性を指し、発光材料が一定量の高エネルギ線に曝射された後に所与の強度の励起性放射線に応答して放出する光の量が変化することを言う。「放射線損傷」との用語はまた、一定量の放射線によってシンチレータに形成された欠陥によって生ずるシンチレーション効率の変化を記述する場合もある。
【0013】
本書で用いられる「光出力」との用語は、X線等のような高エネルギ線のパルスによって励起された後にシンチレータによって放出される可視光の量である。
【0014】
「残光」との用語は、X線励起が停止してから所定時間の後にシンチレータによって放出される光であり、シンチレータがX線によって励起されていた間に放出された光の百分率として報告されるものである。本書で用いる場合には、上述の所定時間は100ミリ秒である。
【0015】
「減衰時間」、「一次減衰」又は「一次速度」との用語は、放出される光の強度が、高エネルギ励起が停止した後の時刻に光強度の約36.8%(又は1/e)まで減少するのに要する時間である。
【0016】
「阻止力」とは、X線を吸収する材料の能力を指し、一般に減弱又は吸収とも呼ばれる。阻止力の大きい材料は、X線を殆ど又は全く透過させない。阻止力は、シンチレータ及び内部に含まれている元素の密度に比例する。従って、高密度を有するシンチレータを製造すると有利である。
【0017】
本発明は、シンチレータ物質が高エネルギ線で曝射されたときに生ずる放射線損傷を低減するために、セリウムのような希土類金属イオンで活性化されて、焼結の最中又は後に高温で所定の酸素雰囲気での加熱(焼鈍)によって処理されるテルビウム又はルテチウムを含有する酸化アルミニウム型ガーネットX線シンチレータにおける幾つかの置換に関する。さらに具体的には、本発明の幾つかの構成は、活性シンチレータ(テルビウムルテチウムアルミニウムガーネットすなわち「LuTAG」)と高密度ガーネットとの組み合わせから得られる化学的混合物、溶液又は化合物を含んでいる。かかる組成物は、公知のシンチレータ組成物であれば透過するようなX線を阻止し(従って検出器アレイをこのようなX線から保護し)つつ、検出器アレイに付着されるシンチレータを薄くすることを可能にするという利点を有する。加えて、薄くされたシンチレータ組成物では、横断する材料が少なくなるため、シンチレーションの光透過をさらに効率的にすることができる。また、光が検出器ダイオードに向かって走行するときにシンチレータのエッジから反射する光が少なくなる。また、シンチレータ皮膜を薄くすると、各検出器モジュールを製造するために切削しなければならない材料が少なくなるため製造が容易になり、また各検出器モジュールを適正に位置揃えすることが容易になる。本発明の幾つかの組成物はまた、多数の共融混合物から得られる低融点を有し、従って製造が容易になるばかりでなく、製造に要するエネルギが少なくなり、炉の経費も安くなる。
【0018】
希土類ガーネットの基本的な結晶構造はA12であり、この化学式では、Aは歪み立方晶型(通常はTb、Ce及び/又はLu)であり、Bは八面体位(通常はAl)であり、Cは四面体位(通常はAl)である。しかしながら、本発明の幾つかの構成では、阻止力の低いAlを、より高い阻止力を有する化学元素で置き換える。阻止力はZ(原子番号)と共に大きくなるので、相対的に高い原子番号を有する適当な元素を選択する。許容される置換の数はイオンの半径及び型に依存し、さらに電荷均衡に依存する。本発明の幾つかの構成で用いられる適当な置換には次のものがある。
【0019】
(1)上の式において、八面体位Bの2原子までのAlをScで置き換えたもの。本発明の幾つかの構成では、化学量論的には1原子又は2原子のAl原子がSc原子で置き換えられるが、1原子と2原子との間の任意の範囲、及びゼロ原子よりも大きく(例えば0.05)2原子との間の任意の範囲(例えばxとyとの間にあり、xは0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8又は1.9から選択され、yはxよりも大きくなるように選択され、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9又は2.0から選択される)にある非化学量論的混合物も妥当な結果を与えるものと期待される。
【0020】
(2)上の式において、酸素をフッ素で置き換え、且つA位原子をCaで置き換えたもの(この置換は、Ca及びFが電荷均衡を齎すためうまく作用する)であって、A位においてゼロ原子よりも大きく(例えば0.005)約1原子までの間(例えばxとyとの間にあり、xは0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8又は1.9から選択され、yはxよりも大きくなるように選択され、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9又は2.0から選択される)のものが置換される。酸素原子がフッ素と置き換えられるのと等しい数のA位原子がCaと置き換えられて、電荷均衡を生成する。
【0021】
(3)上の式において、酸素をフッ素で置き換え、且つB位原子をMgで置き換えたもの(この置換は、Mg及びFが電荷均衡を齎すためうまく作用する)であって、B位にある0.005原子〜2原子までの間(例えばxとyとの間にあり、xは0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8又は1.9から選択され、yはxよりも大きくなるように選択され、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9又は2.0から選択される)のものが置換される。酸素原子がフッ素と置き換えられるのと等しい数のB位原子がMgと置き換えられて、電荷均衡を生成する。
【0022】
(4)上の式において、B位にあるゼロ原子よりも大きく(例えば0.005)2原子までのものを、例に過ぎないがMg/Si、Mg/Zr、Mg/Ti又はMg/Hfのような2+/4+の組み合わせで置き換えたものであって、後者は列挙された対の中で最も大きい阻止力を与える。例えば、幾つかの構成では、B位において置換される原子の総数はxとyとの間にあり、xはゼロ原子よりも大きく、例えば0.005、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8又は1.9から選択され、yはxよりも大きく、例えば0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9又は2.0から選択される。
【0023】
(5)上の式において、B位の0.005原子〜2原子までを、例に過ぎないがLi/Nb又はLi/Taのような1+/5+の組み合わせで置き換えたものであって、後者は列挙された二つの中で最も大きい阻止力を与える(例えばB位において置換される原子の総数はxとyとの間にあり、xは0.005、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8又は1.9から選択され、yはxよりも大きくなるように選択され、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9又は2.0から選択される)。且つ/又は
(6)A位においてゼロ原子よりも大きく2原子までのものをCaで置き換え、且つ等しい数のB位又はC位をSiで置き換えたもの。例えば、A位において置換されるCa原子の数はxとyとの間にあり、xは0.005、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8又は1.9から選択され、yはxよりも大きくなるように選択され、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9又は2.0から選択される。
【0024】
下の表では、LO(光出力)=60kVp、5mAのX線によって発生された光をフォトダイオードで測定したときの標準的なLuTAGに対する百分率(%)とし、AG(残光)=0.5秒の60kVP、50mAのX線パルスの100msの後に発生した光の百分率とし、RD(放射線損傷)=60kVP、5mA、0.5secのチクル(tickle)パルスを用いて120kVP、250mA、12秒間の照射の後に発生された光変化の百分率とする。全ての焼鈍済み標本は、約24時間にわたり1200℃で空気中で焼鈍されたものである。また、下記の標本では、用いられた「LuTAG」組成物は、基本的なA12式又はB=C=Alとした場合の(Tb,Lu,Ce)Al12を有しなかった。代わりに、用いられたLuTAGは、幾つかのシンチレータ特性をより十分に満たすように、意図的に化学量論的量から僅かにずらしたものとした。化学量論的LuTAGの代わりに、(Tb,Lu,Ce)Al12の母材にペロブスカイト(Tb,Ce)AlOの第二の相を用いた。
【0025】
【表1】


本発明のシンチレータ組成物の構成は、公知のシンチレータ組成物よりも短い減衰時間を有し、高エネルギ線での曝射時の損傷を低減する。加えて、本発明のシンチレータ組成物の構成は、CTスキャナに現在用いられているシンチレータ組成物よりも密度が高く、このようにして、さらに大きい放射線阻止力を与えて、シンチレータ組成物を付着させた半導体検出器アレイの損傷を防ぐ。例えば、図面を参照して述べると、本発明のシンチレータ組成物10の構成が、X線検出器14を形成するように1又は複数の感光素子を含んでいる半導体アレイ12に直接又は本質的に隣接して付着され又は他の方法で配置される。検出器14は、シンチレータ10の薄い皮膜を用いて実効的なX線検出を提供することができ、しかも損傷に対する耐久性が極めて高い。
【0026】
焼鈍は、制御された(すなわち所定の)雰囲気内で行なわれる。一般的には、焼鈍は、酸素の存在下で行なわれる。好ましくは、制御された酸素雰囲気は約1×10−18気圧〜約1気圧(atm)の酸素分圧を含んでいる。好ましくは、制御された酸素雰囲気は約1×10−13atm〜約1atmの酸素分圧を含んでいる。さらに好ましくは、制御された酸素雰囲気は約1×10−8atm〜約0.5atmの酸素分圧を含んでいる。さらに一層好ましくは、制御された酸素雰囲気は約1×10−6〜約0.22atmの酸素分圧を含んでいる。
【0027】
また、好ましくは、焼鈍温度は1000℃〜1500℃の範囲を含んでいる。焼鈍ステップは、シンチレータ物質を燃焼させた後に行なわれる通常の冷却ステップの間に行なうことができる。代替的には、焼鈍は、室温に既に冷却されているシンチレータに対して行なわれてもよい(すなわち再加熱による)。好ましくは、焼鈍の時間は、0.5時間〜約24時間(h)の範囲を含んでいる。
【0028】
シンチレータは好ましくは、焼鈍ステップの後に室温まで冷却される。好ましくは、冷却速度は時間当たり150℃〜500℃にわたる。さらに好ましくは、時間当たり約300℃の冷却速度が用いられる。
【0029】
酸素の存在下での焼鈍を施すことにより、希土類で活性化されたテルビウム又はルテチウムを含有するガーネット・シンチレータの放射線に誘発される損傷を起こし難くする。希土類で活性化されたテルビウム又はルテチウムを含有するガーネット・シンチレータは、減衰速度が比較的短く、本書で議論するようにCTシステムの走査時間を高速化することを可能にするため特に望ましい。
【0030】
一実施形態では、焼鈍ステップは、上述のシンチレータの酸素含有量を変化させる。正確な変化量を定量化することは困難であるが、本発明の方法によるガーネット・シンチレータの処理時に、酸素の化学量論的量の小さい変化が生ずるものと考えられる。
【0031】
放射線損傷(RD)は、高エネルギ線投与の前後での光出力の強度の変化を測定することにより定量化することができ、Iを光出力の初期強度(放射線投与前)とし、Iを光出力の最終強度(放射線投与後)とする。すると、放射線損傷百分率(%RD)=[(I−I)/I]×100となる。高エネルギ線処理の後の光出力の増加は正のRD値を含み、放射線処理の後の光出力の減少は負のRD値を含むことが認められよう。しかしながら、RD値がゼロに近付くほど(負でも正でも)、シンチレータは効率変化を生ぜずに高エネルギ線に良好に応答する。一般的には、+2%〜−2%にわたるRD値が好ましく、+1%〜−1%にわたる値がさらに好ましく、+0.5%〜−0.5%にわたる値がさらに一層好ましい。
【0032】
シンチレータの放射線損傷によって、シンチレータが高エネルギ励起線を可測信号へ変換するときの効率が変化する。従って、励起性放射線に対するシンチレータの感度が長期利用にわたって実質的に一定に留まるように放射線損傷に対する耐久性を有するシンチレータを開発することが重要である。シンチレータの光出力の安定性及び再現性は多くの応用について極めて重要である。例えば、放射線損傷は、以前の走査からの「ゴースト画像」を招き、これにより画像分解能を損なう場合がある。放射線損傷時に生ずるシンチレータ応答のばらつきは非常に区々であるため、定量的な補正手段を開発することが困難である。X線損傷時に生ずるシンチレータ効率のばらつき量は一般的には、定量的測定のためのX線検出器では望ましくなく、かかる撮像手法の応用範囲を制限する。
【0033】
放射線損傷がシンチレータに欠陥を生ずると、この欠陥が特定の放射線量についてシンチレーション効率を変化させる場合がある。かかる欠陥は一般的には、シンチレータ放出波長において光学的吸収帯を与える電子的構造を有する色中心である。色中心の結合エネルギによって損傷の寿命が決まるが、一般的には、このエネルギは、損傷が室温において数秒間〜数日間にわたって持続するのに十分なだけ大きい。
【0034】
放射線撮像にシンチレータを用いるときの放射線損傷の影響に対処することは困難であり、従って、高エネルギ線での曝射時に最小の効率変化を呈するシンチレータを開発することが望ましい。放射線損傷は、シンチレータに適量の放射線を曝射して、損傷を生ずる線量の前後で生ずる光出力の変化を測定することにより、実験的に特性決定される。損傷を生ずるパルスの終了から後の時間の関数として回復をプロットすることができる。かかる情報を用いると、活性剤の放出効率を低下させる色中心吸収又は他の欠陥中心による放射線損傷を識別することはできるが、臨床で用いたときに特定のシンチレータがどのように応答するかを予測するのに格別の情報を与えるものではない。
【0035】
また、シンチレータ作用に対する放射線損傷の影響を定量化するためには、幾つかの要因が重要である。正確な測定のためには、測定パルスを生ずる発生源でのばらつきを補償することが重要である。また、高残光のシンチレータは、一定量の放射線による残留残光について補償されなければならない。加えて、シンチレーション光の吸収は、結晶を通る経路長に依存するため、測定された損傷は、結晶厚み及び透明性のようなシンチレータの幾何学的構成に依存し得る。また、放射線損傷は典型的には、シンチレーション効率を低下させるが、効率を高めるような幾つかの例、例えばCsI:TIシンチレータ等も存在する。完全に理解されている訳ではないが、かかる効率の向上は、シンチレータの効率を低下させる欠陥の変質又は中和によるものと考えられる。
【0036】
このように、本発明の構成は、公知のシンチレータ組成物よりも短い減衰時間を提供し、高エネルギ線での曝射時の損傷を低減することが認められよう。加えて、本発明のシンチレータ組成物の構成は、公知のシンチレータ組成物よりも密度が高く、このようにして、さらに大きい放射線阻止力を与えて、シンチレータ組成物を付着させた半導体検出器アレイの損傷を防ぐ。
【0037】
様々な特定の実施形態によって本発明を説明したが、当業者は、特許請求の範囲の要旨及び範囲内で改変を施して本発明を実施し得ることを認められよう。また、図面の符号に対応する特許請求の範囲中の符号は、単に本願発明の理解をより容易にするために用いられているものであり、本願発明の範囲を狭める意図で用いられたものではない。そして、本願の特許請求の範囲に記載した事項は、明細書に組み込まれ、明細書の記載事項の一部となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の放射線検出器構成の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
10 シンチレータ
12 半導体アレイ
14 X線検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼鈍の前に、式A12を有するガーネットを備えた焼結及び焼鈍を施したシンチレータ組成物であって、式中、AはTb、Ce及びLuから成る群の少なくとも一つの要素又はこれらの組み合わせを有する位置であり、Bは八面体位(Al)であり、Cは四面体位(やはりAl)であり、前記ガーネットは、
(1)前記式において、前記八面体位Bの0.05原子〜2原子までのAlをScで置き換えたもの、
(2)前記式において、0.005原子〜2原子までの酸素をフッ素で置き換え、且つ前記A位において同数のCa原子を置き換えたもの、
(3)前記式において、B位の0.005原子〜2原子をMgで置き換え、且つ同数の酸素原子をフッ素で置き換えたもの、
(4)前記式において、B位の0.005原子〜2原子までをMg/Si、Mg/Zr、Mg/Ti及びMg/Hfから成る群から選択される少なくとも一つの組み合わせの原子で置き換えたもの、
(5)前記式において、B位の0.005原子〜2原子までをLi/Nb及びLi/Taから成る群から選択される少なくとも一つの組み合わせの原子で置き換えたもの、並びに
(6)前記式において、前記A位の0.005原子〜2原子までをCaで置き換え、且つ等しい数のB位又はC位をケイ素で置き換えたもの、
から成る群から選択される少なくとも一つの置換を有する、
シンチレータ組成物。
【請求項2】
焼鈍の前に、請求項1の前記置換された組成物から本質的に成る焼鈍を施した組成物。
【請求項3】
前記ガーネットは、(Tb,Ce)AlOの第二の相を含んでいる、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
X線検出器アレイ(12)を共に形成するように、半導体検出器マトリクスに直接又は本質的に隣接して設けられる請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
X線検出器アレイ(12)を共に形成するように、半導体検出器マトリクスに直接又は本質的に隣接して設けられる請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
焼鈍の前に、式Tb2.9489Lu.05Ce.0051ScAl2.99612を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
約24時間にわたって1200℃で空気中で焼鈍される請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
焼鈍の前に、1725℃で焼結される請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
焼鈍の前に、式Tb2.9489Lu.05Ce.0051ScAl3.99612を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
焼鈍の前に、式A12を有するガーネットを備えた焼結及び焼鈍を施したシンチレータ組成物であって、式中、AはTb、Ce及びLuから成る群の少なくとも一つの要素又はこれらの組み合わせであり、Bは八面体位(Al)であり、Cは四面体位(やはりAl)であり、前記ガーネットは、
(1)前記式において、前記八面体位Bの0.05原子〜2原子までのAlをScで置き換えたもの、
(2)前記式において、0.005原子〜2原子までの酸素をフッ素で置き換え、且つ前記A位において同数のCa原子を置き換えたもの、
(3)前記式において、B位の0.005原子〜2原子をMgで置き換え、且つ同数の酸素原子をフッ素で置き換えたもの、
(4)前記式において、B位の0.005原子〜2原子までをMg/Si、Mg/Zr、Mg/Ti及びMg/Hfから成る群から選択される少なくとも一つの組み合わせの原子で置き換えたもの、
(5)前記式において、B位の0.005原子〜2原子までをLi/Nb及びLi/Taから成る群から選択される少なくとも一つの組み合わせの原子で置き換えたもの、並びに
(6)前記式において、前記A位の0.005原子〜2原子までをCaで置き換え、且つ等しい数のB位又はC位をケイ素で置き換えたもの、
から成る群から選択される少なくとも一つの置換を有し、
前記置換後の組成物Aは、焼鈍の前に1725℃で焼結される、
シンチレータ組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−169647(P2007−169647A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343733(P2006−343733)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】