説明

シート材およびその製造方法、排気ガス処理装置およびその製造方法、ならびに消音装置

【課題】本発明では、排気ガス処理体に巻回した際に、周長差に起因した「マクロシワ」が生じ難いシート材を提供することを目的とする。
【解決手段】無機繊維を含み、厚み方向に対して垂直な第1および第2の表面を有するシート材であって、前記第1の表面は、第1の嵩密度を有する第1のシート部分で構成され、前記第2の表面は、第1の嵩密度よりも大きな第2の嵩密度を有する第2のシート部分で構成されることを特徴とするシート材が提供される。このようなシート材を、第1の表面が外側となるようにして、排気ガス処理体に巻回すことにより、「マクロシワ」の発生が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維を含み、厚み方向に対して垂直な第1および第2の表面を有するシート材、そのようなシート材の製造方法、そのようなシート材を保持シール材および/または断熱材として備える排気ガス処理装置、ならびにその製造方法に関する。また、本発明は、そのようなシート材を吸音材として備える消音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の台数は、今世紀に入って飛躍的に増加しており、それに伴って、自動車の内燃機関から排出される排気ガスの量も急激な増大の一途を辿っている。特にディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる種々の物質は、汚染を引き起こす原因となるため、現在では、世界環境にとって深刻な影響を与えつつある。
【0003】
このような事情の下、従来より各種排気ガス処理装置が提案され、実用化されている。一般的な排気ガス処理装置は、エンジンの排気ガスマニホールドに連結された排気管の途上に、例えば金属等で構成されたケーシングを設け、その中に、セル壁により区画された、多数の長手方向に延びるセルを有する排気ガス処理体を配置した構造となっている。排気ガス処理体の一例としては、触媒担持体、およびディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等の排気ガスフィルタがある。例えばDPFの場合、それぞれのセルの一端が市松模様状に封止されており、排気ガスが各セルを通って排気ガス処理体から排出されるまでに、セル壁に微粒子(パティキュレート)がトラップされ、排気ガス中から微粒子を除去することができる。排気ガス処理体の構成材料は、金属や合金の他、セラミック等である。セラミックからなる排気ガス処理体の代表例としては、コーディエライト製のハニカムフィルタが知られている。最近では、耐熱性、機械的強度、化学的安定性等の観点から、多孔質炭化珪素焼結体が排気ガス処理体の材料として用いられている。
【0004】
通常このような排気ガス処理体とケーシングの間には、保持シール材が設置される。保持シール材は、車両走行時等に生じ得る排気ガス処理体とケーシング内面の当接による破損を防ぎ、さらにケーシングと排気ガス処理体との隙間から、排気ガスが未処理のまま漏洩することを防止するために用いられる。また、保持シール材は、排気ガスの排圧により排気ガス処理体が位置ずれすることを防止する役割を果たす。さらに排気ガス処理体は、反応性を維持するため高温に保持する必要があり、保持シール材には断熱性能も要求される。これらの要件を満たす部材としては、アルミナ系繊維等の無機繊維からなるシート材があり、これまでに、「ニードリング処理法」、「抄造法」などの方法で製作された様々なシート材が、保持シール材として使用されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
なお、保持シール材は、排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻回され、例えば、両端部の把持合わせ部同士が嵌合され、さらにテーピング等によって排気ガス処理体と一体固定化され、利用される。その後、この一体品は、ケーシング内に収容されて排気ガス処理装置が構成される。
【特許文献1】特開昭第60−88162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、排気ガスの高温高圧化が進む中で、保持シール材には、以下の理由により、更なる断熱性の向上が求められている。(i)排気ガス処理体からケーシングに伝達する熱により、ケーシングが熱膨張することによって生じる、ケーシングと排気ガス処理体の間隔の増大に起因した、保持シール材の保持力低下の防止、(ii)ケーシング外面に接続された付属品(計装品等)の熱による劣化の防止、(iii)排気ガス処理体がDPFである場合に実施される、再生処理(捕獲したパティキュレートを高温燃焼させ、使用済みDPFの再利用を可能にする処理)の効率化など。
【0007】
そこで、保持シール材の断熱性をさらに向上させるため、排気ガス処理体とケーシングの間の間隔をこれまでに比べてより広くして、保持シール材を厚く形成することが考えられる。しかしながら、このような厚い保持シール材を排気ガス処理体に巻回した場合、保持シール材には、従来よりも大きな周長差(外周長と内周長の差)が生じる。このため、保持シール材の内周側の表面(排気ガス処理体と接する側の表面)では、図1に示すような「マクロシワ」310が生じやすくなる。排気ガス処理装置の組み立て時に、このような「マクロシワ」310が多数存在すると、保持シール材24A(シート材30Aとも言う)を巻回した排気ガス処理体20の最大直径Φが所望の値P(保持シール材の厚さをt1、排気ガス処理体の直径をt2としたとき、P=2×t1+t2)よりも大きくなるため、保持シール材が巻回された排気ガス処理体を、ケーシング内に装着することが難しくなるという問題が生じる。また、仮にこのような排気ガス処理体をケーシング内に装着できたとしても、その状態では、「マクロシワ」310によって生じた保持シール材の外周側の突出部分320に、局部的に圧縮応力が集中し、この箇所の無機繊維が折れて、保持シール材の保持力が低下するという問題が生じ得る。
【0008】
なお、前述のような問題は、触媒担持体またはDPFを有する排気ガス処理装置に限られるものではない。例えば、二輪自動車用または四輪自動車用のマフラのような消音装置においても同様の問題は生じ得る。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、シート材が厚くなっても、周長差による「マクロシワ」が生じにくいシート材を提供することを目的とする。また、本発明は、そのようなシート材を製造する方法を提供すること、そのようなシート材を保持シール材および/または断熱材として適用した排気ガス処理装置を提供すること、ならびにそのような排気ガス処理装置を製造する方法を提供することを目的とする。さらに本発明では、前述のようなシート材を吸音材として適用した消音装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、無機繊維を含み、厚み方向に対して垂直な第1および第2の表面を有するシート材であって、前記第1の表面は、第1の嵩密度を有する第1のシート部分で構成され、前記第2の表面は、第1の嵩密度よりも大きな第2の嵩密度を有する第2のシート部分で構成されることを特徴とするシート材が提供される。
【0011】
このような本発明のシート材を排気ガス処理装置の保持シール材として使用することにより、周長差に起因して保持シール材の内周面に生じる「マクロシワ」を抑制することができる。
【0012】
本発明によるシート材は、前記第1のシート部分と、前記第2のシート部分とを厚み方向に積層したものであっても良い。
【0013】
また、本発明によるシート材は、ニードル痕を有し、第1の表面のニードル痕密度は、第2の表面のニードル痕密度よりも小さくなっていても良い。この場合、第1および第2の表面のニードル痕密度は、いずれも2.0個/cm〜20.0個/cmの範囲にあり、第1の表面のニードル痕密度は、第2の表面のニードル痕密度の0.3倍〜0.8倍の範囲にあることが好ましい。
【0014】
あるいは、本発明によるシート材は、抄造法で製作されたシート材であっても良い。
【0015】
また、本発明によるシート材は、厚み方向に沿って、前記第1の嵩密度を有する第1のベースシートと、前記第2の嵩密度を有する第2のベースシートとを積層して構成され、前記第1および第2のベースシートの境界に、接着層を有しても良い。
【0016】
また、本発明によるシート材は、さらに結合材を含有しても良い。
【0017】
また本発明では、無機繊維を含み、厚み方向に対して垂直な第1および第2の表面を有するシート材の製造方法であって、第1の嵩密度を有する第1のベースシートを調製するステップと、第1の嵩密度よりも大きな、第2の嵩密度を有する第2のベースシートを調製するステップと、前記第1および第2のベースシートを接合するステップと、を有することを特徴とするシート材の製造方法が提供される。
【0018】
ここで、前記ベースシートを接合するステップは、前記第1および第2のベースシートを、接着剤または接着テープによって接合するステップを有しても良い。
【0019】
また、前記第1のベースシートまたは前記第2のベースシートは、ニードリング処理法によって調製されても良い。
【0020】
あるいは、前記第1のベースシートまたは前記第2のベースシートは、抄造法によって調製されても良い。
【0021】
また本発明では、ニードリング処理法による、無機繊維を含み、厚み方向に対して垂直な第1および第2の表面を有するシート材の製造方法であって、第1の表面および第2の表面を有する無機繊維の原料シートを提供するステップと、前記原料シートの第1の表面および第2の表面のそれぞれの側から、前記原料シートをニードル処理し、第1の表面のニードル痕密度が、第2の表面のニードル痕密度よりも小さい原料シートを得るステップと、前記原料シートを焼成して、第1の表面のニードル痕密度が、第2の表面のニードル痕密度よりも小さいシート材を得るステップと、を有することを特徴とするシート材の製造方法が提供される。
【0022】
さらに本発明では、無機繊維を含み、厚み方向に対して垂直な第1および第2の表面を有するシート材の製造方法であって、無機繊維を含む第1の原料スラリーを成型器に注入するステップと、第1の原料スラリーの脱水を行うステップと、第1の原料スラリーに比べてバインダ含有量の多い第2の原料スラリーを、脱水された第1の原料スラリーの上に注入するステップと、第2の原料スラリーの脱水を行うステップと、を有することを特徴とするシート材の製造方法が提供される。
【0023】
ここで、本発明によるシート材の製造方法は、さらに、結合材を含浸するステップを有しても良い。
【0024】
さらに本発明では、排気ガス処理体と、該排気ガス処理体の外周面の少なくとも一部に巻回された保持シール材とを備える排気ガス処理装置であって、前記保持シール材は、前述のシート材で構成され、前記保持シール材は、前記シート材の第1の表面が外側となるようにして、前記排気ガス処理体に巻回されていることを特徴とする排気ガス処理装置が提供される。
【0025】
本発明では、より嵩密度の低い、伸縮性のある第1のシート部分が、保持シール材の外周側に提供されるため、厚い保持シール材を使用しても、保持シール材の内周側に、周長差による「マクロシワ」が生じにくくなる。
【0026】
さらに本発明では、排気ガスの入口管および出口管と、
前記入口管および出口管の間に設置された排気ガス処理体と、
を備える排気ガス処理装置であって、
前記入口管の少なくとも一部には、断熱材が設置され、
該断熱材は、前述のシート材で構成されることを特徴とする排気ガス処理装置が提供される。
【0027】
ここで、前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排気ガスフィルタであっても良い。
【0028】
さらに本発明では、排気ガス処理体と、該排気ガス処理体の外周面の少なくとも一部に巻回された保持シール材と、を備える排気ガス処理装置の製造方法であって、前述のような製造方法で製造されたシート材を、前記保持シール材として提供するステップと、前記保持シール材を、前記シート材の第1の表面が外側となるようにして、前記排気ガス処理体に巻回すステップと、を有することを特徴とする排気ガス処理装置の製造方法が提供される。
【0029】
ここで、前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排気ガスフィルタであっても良い。
【0030】
さらに、本発明による排気ガス処理装置の製造方法は、前記保持シール材が巻回された排気ガス処理体を、圧入方式でケーシング内に装着するステップを有しても良い。
【0031】
さらに本発明では、インナーパイプと、該インナーパイプの外周を覆うアウターシェルと、前記インナーパイプとアウターシェルの間に設置された吸音材とを有する消音装置であって、
前記吸音材は、前述の特徴を有するシート材で構成され、
該シート材は、第1の表面が外側となるようにして、前記インナーパイプとアウターシェルの間に設置されることを特徴とする消音装置が提供される。
【0032】
そのような消音装置では、より嵩密度の低い、伸縮性のある第1のシート部分が、吸音材の外周側に提供されるため、厚い吸音材を使用しても、吸音材の内周側に、周長差による「マクロシワ」が生じにくくなる。
【発明の効果】
【0033】
本発明では、シート材が厚くなっても、周長差による「マクロシワ」が生じにくいシート材およびその製造方法を提供することができる。また、本発明では、そのようなシート材を保持シール材および/または断熱材として適用した排気ガス処理装置、およびそのような排気ガス処理装置を製造する方法が提供される。さらに本発明では、前述のようなシート材を吸音材として適用した消音装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。
【0035】
図2には、本発明によるシート材の形態の一例を示す。ただし本発明のシート材は、図2の形状に限られるものではない。また図3には、本発明に係るシート材を保持シール材として使用した排気ガス処理装置の分解構成図を示す。
【0036】
本発明によるシート材30を、触媒担持体等の排気ガス処理体20に巻回し、排気ガス処理装置の保持シール材24として使用する場合、図2に示すように、シート材30の巻回方向(X方向)と垂直な両端面70、71には、1組の嵌合凸部50と嵌合凹部60が設けられる。このシート材30が排気ガス処理体20に巻き付けられた際には、図3に示すように、嵌合凸部50と嵌合凹部60が嵌合され、シート材30が、排気ガス処理体20に固定される。その後、シート材30が巻回された排気ガス処理体20は、例えば圧入方式により、金属等で構成された筒状のケーシング12内に圧入され、排気ガス処理装置10が構成される。
【0037】
本発明によるシート材30は、無機繊維を主体に構成されているが、後述のように、さらに結合材を含んでも良い。
【0038】
ここで、本発明のシート材30は、厚み方向に対して垂直な2つの主表面を有し、第1の主表面が第1の嵩密度を有し、第2の主表面が第1の嵩密度よりも大きな第2の嵩密度を有することを特徴とする。また、そのようなシート材は、厚み方向に沿って、前記第1の嵩密度を有する第1のシート部分と、前記第2の嵩密度を有する第2のシート部分とを有するように構成されても良い。
【0039】
例えば、図2において、本発明のシート材30は、厚み方向に対して垂直な第1および第2の主表面82、84を有する。また、本発明のシート材30は、第1の嵩密度を有する第1のシート部分420と、第1の嵩密度よりも大きな第2の嵩密度を有する第2のシート部分430とを有し、第1の嵩密度を有する第1のシート部分420が、シート材の第1の主表面82の側となるようにして構成されている。なお、このようなシート材30は、例えば、第1のシート部分420と、第2のシート部分430とを別個に準備しておいてから、これらを積層することにより構成しても良い。あるいは、シート材30は、シート材の製造時に、一連の工程の中で、シート材の第1および第2の主表面の嵩密度を同時にまたは連続して調整することにより形成しても良い。
【0040】
なお、本願において、嵩密度とは、単位体積当たりのシート材の重量をいい、シート材の主表面の嵩密度は、以下のようにして測定される。
【0041】
まず、シート材を、切断機等を使用して、50mm×50mmの寸法に切り抜く。次に、カッターナイフ等で、シート材の第1および第2の主表面から、シート材の厚さの約20%の深さ位置で、シート材を厚み方向と略垂直な方向に切断し、それぞれの主表面のサンプルを採取する。次に、切り出した各サンプルの重量W(g)と、厚さT(cm)を測定する。各サンプルの厚さは、サンプルの中心に、表面積が約3.1cm(直径20mmφ)で、重量が31gの重錘を加えた状態(10g/cm)で測定する。得られた測定結果から、嵩密度(g/cm)=サンプル重量W/(サンプル厚さT×5cm×5cm)により、それぞれの主表面での嵩密度を計算する。このような測定をシート材の異なる場所で合計3回行い、それぞれの主表面において得られた値の平均値をシート材のそれぞれの主表面の嵩密度(g/cm)と定義する。
【0042】
次に、このように構成された本発明によるシート材30によって得られる特徴的効果を図1および図4を用いて説明する。図1は、従来のシート材30Aを排気ガス処理体20に巻回した場合の、シート材30Aが巻回された排気ガス処理体20(以下、「被覆排気ガス処理体」210Aという)の長手方向に対して垂直な面の断面を模式的に示したものである。また、図4は、本発明によるシート材30が巻回された排気ガス処理体20(以下、「被覆排気ガス処理体」210という)の同様の断面を模式的に示したものである。
【0043】
図1に示すように、通常、シート材30Aを排気ガス処理体20に巻回した場合、シート材30Aの外周(LO)と内周(LI)の周長差L(=LO−LI)のため、シート材30Aの内周側には、多数の「マクロシワ」310が生じる。なお、本願では、この「マクロシワ」という用語は、被覆排気ガス処理体を長手方向に対して垂直な断面で見たとき、長さ(高さ)Hが2mmを超えるシワ、または幅Dが3mmを超えるシワを意味する。従って、「マクロシワ」という用語には、高さが2mm以下で、かつ幅が3mm以下の微細なシワは含まれないことに留意する必要がある。この周長差Lの影響は、特に、シート材30Aの厚さが厚くなるほど顕著になり、厚いシート材では、シート材を排気ガス処理体20に巻回した際に、内周側に生じる「マクロシワ」310の高さHもしくは幅Dが大きくなり、および/または「マクロシワ」310の数が多くなる。
【0044】
シート材30Aにこのような「マクロシワ」310が多数生じると、被覆排気ガス処理体210Aの最大直径Φが所望の値P(保持シール材の厚さをt1、排気ガス処理体の直径をt2としたとき、P=2×t1+t2)よりも大きくなるため、被覆排気ガス処理体210Aをケーシング12内に装着することが難しくなるという問題が生じる。また、仮に被覆排気ガス処理体210Aをケーシング内に装着できたとしても、その状態では、「マクロシワ」310によって生じたシート材30Aの外周側の突出部分320に、局部的に圧縮応力が集中し、この箇所の無機繊維が折れて、シート材30Aの保持力が低下するという問題が生じ得る。
【0045】
これに対して、本発明によるシート材30は、厚さ方向に沿って、少なくとも2種類のシート部分420、430を有し、第1のシート部分420の嵩密度は、第2のシート部分430の嵩密度よりも小さくなっている。また、シート材30は、第1の主表面82が外周側となるようにして、排気ガス処理体20に巻回されている。なお図1、図3および図4においては、明確化のため、第1のシート部分420と第2のシート部分430の境界が破線で示されているが、実際のシート材では、後述の「接着層」が存在しない場合、境界がこのように明確ではない場合が多いことに留意する必要がある。
【0046】
一般に、嵩密度の小さなシート材は、嵩密度の大きなシート材に比べて、巻回方向(図2のX方向)の伸縮性が大きい。従って、嵩密度のより小さいシート部分420で構成された第1の主表面82が外周側となるようにして、排気ガス処理体20にシート材30を巻回した場合、周長差の影響による「マクロシワ」310の発生を抑制することが可能になる。これは、シート材の巻回時に、その方向(X方向)に対して伸縮性のあるシート材の外周側が、内周長との周長差の影響を緩和するように伸びることができるためである。この場合、実際には、図4に示すように、シート材30の内周側には、厚さ方向の高さHが2mm以下、あるいは幅Dが3mm以下の微細なシワ(ミクロシワ)410が多数形成されるが、従来のような、厚さ方向の高さHが2mmを超え、または幅Dが3mmを超える大きな「マクロシワ」310の数は、著しく抑制され、あるいは完全に排除される。
【0047】
以上のように、本発明によるシート材30では、排気ガス処理体20に巻回した際、周長差に起因する内周側の「マクロシワ」の発生、さらには、これによるシート材の局部的な厚さの増大を抑制することが可能となる。従って、被覆排気ガス処理体をケーシング内に装着することが容易となる。また、ケーシング内に装着後の被覆排気ガス処理体に対して、圧縮応力が局部的に負荷されることが生じにくくなり、シート材の保持力の低下を抑制することが可能となる。
【0048】
本発明において、第1および第2のシート部分420、430の嵩密度は、0.08g/cm〜0.25g/cmの範囲にあることが好ましい。第1および第2のシート部分420、430の嵩密度が0.08g/cm未満では、シート材の強度が幾分低下する。また、第1および第2のシート部分420、430の嵩密度が0.25g/cmを超えると、シート材が硬くなりすぎて、柔軟性が著しく低下し、排気ガス処理体に対する巻付性が低下する。また、仮にシート材を排気ガス処理体に巻回すことができたとしても、そのようなシート材では、復元力(巻回前の状態に戻ろうとする力)が大きいため、シート材の端部同士を嵌合したり、端部同士をテープ等を用いて位置を固定したりすることが難しくなる。
【0049】
また、第1のシート部分420と第2のシート部分430の厚さの比は、特に限られないが、例えば、1:9〜9:1の範囲であり、特に、4:6〜6:4の範囲であることが好ましい。また、巻回前のシート材全体の厚さは、5〜20mmであることが好ましい。
【0050】
また、シート材全体としての嵩密度および坪量には、特に制約はないが、嵩密度としては、前述の理由により、例えば、0.08g/cm〜0.25g/cmのものが、また坪量としては、例えば、500g/m〜3000g/mのものが使用されても良い。なお坪量とは、シート材の単位面積当たりに含まれる繊維の総重量をいうが、シート材に結合材が含まれている場合は、単位面積当たりに含まれる結合材と繊維の総重量をいう。
【0051】
さらに、シート材が、後述のような「ニードリング処理法」で製造される場合には、第2のシート部分430に対する第1のシート部分420のニードル痕密度比は、0.3〜0.8の範囲であることが好ましい。また、第1および第2のシート部分420、430のニードル痕密度は、いずれも2.0個/cm〜20.0個/cmの範囲であることが好ましい。第1および第2のシート部分420、430の一方のニードル痕密度が2.0個/cm未満では、強度が低下する場合があるからである。一方、ニードル痕密度が20.0個/cmを超えると、ニードル痕密度をさらに増やしても、嵩密度がほとんど変化しなくなる上、シート材が硬質化して、取扱性が悪くなってしまう。
【0052】
なお、本願において、「ニードル痕」とは、「ニードリング処理法」で製造されたシート材において、ニードル等の繊維交絡手段を抜き差しした際に、シート材の主表面に生じる最大寸法3mm以下の繊維交絡跡をいう。ここで、シート材の第1および第2の主表面のニードル痕密度は、以下の方法で測定した。
【0053】
まず、切断機等を使用して、シート材を50mm×50mmの寸法に切り抜いて、測定用サンプルを採取する。この測定用サンプルにラテックス樹脂を含浸させた後(樹脂量5〜10wt%)、測定用サンプルを十分に乾燥させる。次に、カッターナイフ等で、測定用サンプルの一方の主表面から2mmの深さ位置で、測定用サンプルを厚み方向と略垂直な方向に切断する。このようにして得られた測定用サンプルの新生面を表面Aと呼ぶ。次に、ニードル跡を閉塞している繊維をピンセットを用いて除去し、表面Aに出現したニードル処理痕数を数え、単位面積当たりの個数を算出する。このような測定をシート材の対象主表面の異なる場所で合計3回行い、得られた値の平均値を対象主表面のニードル痕密度(個/cm)とした。他方の主表面のニードル痕密度も、同様の測定により定められる。
【0054】
このような本発明によるシート材30は、前述のように、第1の嵩密度を有する第1の主表面82の側が外周側(すなわちケーシング12側)となるように、排気ガス処理体20の外周に巻回され、端部を嵌合、テーピング固定して使用される。このシート材30が巻回された排気ガス処理体20は、その後、圧入方式、クラムシェル方式、巻き締め方式、サイジング方式またはその他の装着方式によって、ケーシング12内に設置され、排気ガス処理装置10が構成される。
【0055】
以下、各装着方式について図面を用いて説明する。図5、図6、図7および図8は、それぞれ、圧入方式、クラムシェル方式、巻き締め方式およびサイジング方式により、シート材30が巻回された排気ガス処理体20(すなわち、被覆排気ガス処理体210)をケーシング内に装着する方法を模式的に示したものである。
【0056】
圧入方式は、被覆排気ガス処理体210を、ケーシング121の開口面の一方から押し込むことにより、被覆排気ガス処理体210を所定の位置に装着して、排気ガス処理装置10を構成する方法である。被覆排気ガス処理体210のケーシング121への挿入を容易にするため、図5に示すように、内孔径が一方から他方に向かって小さくなるように定形され、最小内孔径が、ケーシング121の内径とほぼ同等の寸法になるように調整された圧入冶具230が使用される場合もある。この場合、被覆排気ガス処理体210は、前記圧入冶具230の広内孔径側から挿入され、最小内孔径側を通ってケーシング121内に装着される。
【0057】
本発明のシート材は、圧入方式で被覆排気ガス処理体をケーシング内に装着する場合に、特に有意である。前述のようなシート材のマクロシワ310(さらには、突出部分320)の抑制効果により、被覆排気ガス処理体の最大直径が、所望の値から大きくずれることがなくなり、被覆排気ガス処理体の挿入が容易となるからである。
【0058】
次に、クラムシェル方式では、図6に示すように、相互に向かい合わせた際に、一対のケーシングが完成されるように分割された(例えば、図6の例では2分割された)ケーシング部材(122A、122B)が使用される。これらのケーシング部材の一つに被覆排気ガス処理体210を設置してから、残りのケーシング部材を組み合わせ、さらにこれらの部材同士を、例えば、フランジ部220(220A、220B)で溶接してケーシング122を構成することにより、被覆排気ガス処理体210が所定の位置に装着された排気ガス処理装置10を得ることができる。
【0059】
また、巻き締め方式は、図7に示すように、被覆排気ガス処理体210の周囲に、ケーシング部材となる金属板123を巻き付けた後、この金属板123をワイヤロープ等を用いて締め付けて、金属板123を被覆排気ガス処理体210の周囲に所定の面圧で当接させる方式である。最後に金属板123の一方の端部を、他方の端部または下側の金属板123の表面と溶接することにより、被覆排気ガス処理体210がケーシング123内部に装着された排気ガス処理装置10が得られる。
【0060】
さらに、サイジング方式は、図8に示すように、被覆排気ガス処理体210を、その外径よりも大きな内径の金属シェル124の中に挿入した後、プレス機等により、金属シェル124を外周側から均一に圧縮(サイジング(JIS―z2500―4002))する方式である。サイジング処理により、金属シェル124の内径が所望の寸法に正確に調整されるとともに、被覆排気ガス処理体210を所定の位置に設置することができる。
【0061】
なお通常、これらの装着方式におけるケーシングの材質としては、耐熱合金等の金属が使用される。
【0062】
図9には、本発明による排気ガス処理装置10の一構成例を示す。排気ガス処理装置10は、保持シール材24が外周面に巻き回された排気ガス処理体20と、該排気ガス処理体を収容するケーシング12と、該ケーシングの入口側および出口側のそれぞれに接続された、排気ガスの入口管2および出口管4とを有する。図9の例では、入口管2および出口管4は、ケーシング12と接続される位置で径が拡張されるように、テーパ形状となっている。ただし、このようなテーパ形状は、必ずしも必要ではない。また、入口管2の一部(図9の例ではテーパ形状部)には、断熱材26が設置されており、これにより、排気ガス処理装置10内部の熱が入口管2を介して外部に伝達することが抑制される。
【0063】
この図の例では、排気ガス処理体20は、排気ガスの入口と出口用の開口面を有し、ガス流と平行な方向に多数のセル(または貫通孔)を有する触媒担持体である。触媒担持体は、例えばハニカム構造状の多孔質炭化珪素等で構成される。ただし、本発明の排気ガス処理装置10は、このような構成に限られるものではない。例えば、排気ガス処理体20を各セルの一端が市松模様状に目封じされたDPFとすることも可能である。
【0064】
ここで、保持シール材24は、本発明によるマット材30で構成されており、第1のシート部分420が外側(すなわちケーシング12側)となるようにして排気ガス処理体20に巻き回される。このような排気ガス処理装置では、上述のようなシート材の効果により、シート材30を排気ガス処理体20に巻回した際に、内周側に「マクロシワ」が生じることが抑制される。従って、シート材30(すなわち保持シール材24)をケーシング12内に装着する際の無機繊維の破損により、シート材30の保持力が低下することを抑制することが可能となる。
【0065】
またこれに加えて、またはこれとは別に、断熱材26が本発明によるシート材30で構成されても良いことは、当業者には明らかであろう。
【0066】
次に、本発明によるシート材の別の適用例を説明する。図10には、本発明によるシート材を備える消音装置の一例を概略的に示す。この消音装置は、例えば二輪自動車または四輪自動車等のエンジンの排気管の途中に設けられる。消音装置700は、インナーパイプ720(例えばステンレス鋼等の金属製)と、その外方を覆うアウターシェル760(例えばステンレス鋼等の金属製)と、両者の間に設置された吸音材740とを有する。通常の場合、インナーパイプ720の表面には、多数の小孔が穿設されている。このような消音装置700では、インナーパイプ720の内部に排気ガスを流通させた際に、吸音材740により、排気中に含まれる騒音成分を減衰させることができる。
【0067】
ここで、吸音材740には、本発明によるシート材30を使用することができる。この場合、以下のような工程により消音装置700を製作することができる。まずシート材30の第1の主表面82が外側となるようにして、シート材をインナーパイプ720の表面に巻き付け固定する。次に、このシート材30が巻き回されたインナーパイプ720をアウターシェル760の内部に圧入することにより、消音装置700が得られる。吸音材740にシート材30を使用することにより、インナーパイプ720にシート材30を巻回した際、周長差に起因する内周側の「マクロシワ」の発生、さらには、これによるシート材の局部的な厚さの増大を抑制することが可能となる。従って、インナーパイプ720をアウターシェル760内に装着することが容易となる。また、アウターシェル760内に装着後のインナーパイプ720に対して、圧縮応力が局部的に負荷されることが生じにくくなり、シート材の保持力の低下を抑制することが可能となる。
【0068】
このような本発明による、嵩密度の異なる2つの主表面を有するシート材30を製作する代表的な方法には、「貼り合わせ方式」と「一括製作方式」の2つの方式がある。
【0069】
図11には、「貼り合わせ方式」により、本発明のシート材30を製作する方法のフロー図を示す。この方式では、嵩密度が異なる2枚のベースシートをそれぞれ独立に製造してから、これらのベースシートを積層、接合して、嵩密度の異なる2種類のシート部分を有するシート材を製作する。
【0070】
まず、ステップS100では、第1の嵩密度を有する第1のベースシートが作製される。第1のベースシートは、以下に示すように、例えば、「ニードリング処理法」または「抄造法」で製作される。なお本願では、「ニードリング処理法」と言う用語は、シート材にニードルのような繊維交絡手段を抜き差しするニードル処理工程を含む、いかなるシート材の製造方法をも含むことに留意する必要がある。また本願では、「抄造法」とは、繊維の開繊、スラリー化、成型および圧縮乾燥の各工程を含む、シート材の製造方法を意味することに留意する必要がある。
【0071】
次に、ステップS110では、第2の嵩密度を有する第2のベースシートが作製される。第2のベースシートも、第1のベースシートと同様に、「ニードリング処理法」または「抄造法」で製作される。なお、第1のベースシートと第2のベースシートの製造方法とは、同じであっても異なっていても良い。換言すれば、第1のベースシートを「ニードリング処理法」で製造した場合、第2のベースシートは、「ニードリング処理法」と「抄造法」のいずれで製造しても良い。第1のベースシートを「抄造法」で製造した場合も同様である。
【0072】
次に、ステップS120では、嵩密度が異なる第1のベースシートと第2のベースシートを積層後、両者が接合される。両ベースシートを接合する方法としては、両面テープもしくは接着剤等の「接着層」を介して接着させる方法、または両ベースシートを縫い合わせて接合させる方法等がある。前者の「接着層」を介して接合させる方法では、両ベースシートを「接着層」を介して直接接合する方法の他、各ベースシートの一方の主表面に、140℃等の温度で、熱可塑性フィルム(例えば、PEフィルム、ワリフ等)を熱接着しておき、このフィルムに両面テープまたは接着剤等を設置して、両ベースシートを接合する方法がある。接着剤としては、アクリル系接着剤、アクリレート系ラテックス等が使用できる。両面テープ、接着剤および熱可塑性フィルムの厚さは、特に限られないが、例えば0.02mm〜0.20mmである。
【0073】
なお、本願において、「接着層」とは、両面テープまたは接着剤等のような、2枚のベースシートを接合するため、両ベースシートの界面に設置される層を意味し、前述のような熱可塑性フィルムを介在させた場合は、このフィルムを含む。従って、前述のような熱可塑性フィルムを介在させた構成の場合、「接着層」の厚さは、熱可塑性フィルムの厚さ×2+両面テープ(または接着剤)の厚さとなる。「接着層」の厚さは、例えば、0.02mm〜0.6mmの範囲である。
【0074】
「貼り合わせ方式」では、このような工程を経て、本発明によるシート材が製作される。
【0075】
次に、図12には、「一括製作方式」により、本発明のシート材30を製作する方法のフロー図を示す。この方式では、シート材を別々に調製する前述の方式とは異なり、通常の場合、一連の工程の中で、シート材の第1および第2の主表面の嵩密度を同時にまたは連続して調整することにより、嵩密度の異なる2つの主表面が形成される。
【0076】
まず、ステップS200では、シート材の第1の主表面が、第1の嵩密度に調整される。
【0077】
次に、ステップS210では、前記シート材の第1の主表面とは反対側の第2の主表面が、第2の嵩密度に調整され、本発明によるシート材が完成する。なおこの工程は、前述のステップS200と同時に行われても良く、あるいは、ステップS200の後に行われても良い。換言すれば、シート材の両方の主表面に、それぞれ、第1の嵩密度を有する第1の主表面と、第2の嵩密度を有する第2の主表面とを同時に設置したり、あるいは、シート材の一方の主表面を第1の嵩密度に調整してから、シート材の他方の主表面を第2の嵩密度に調整しても良い。
【0078】
なお、通常、このシート材のベースとなる原料シートは、「ニードリング処理法」または「抄造法」のいずれかで製作される。この場合、それぞれのベースシートを独立に準備する必要がなく、また単一の製造装置を使用することができるため、製造工程が簡略化できると言う利点が得られる。
【0079】
ただし、「一括製作方式」においても、「ニードリング処理法」と「抄造法」の両方の方式を利用することが可能である。例えば、最初に「ニードリング処理法」で第1の嵩密度を有するシート部分を製造しておき、このベースシートの上から、「抄造法」で、第2の嵩密度を有するシート部分を製造することにより、2つの主表面において、嵩密度が異なる本発明のシート材を製作することができる。しかしながら、このような方法では、「ニードリング処理法」と「抄造法」のいずれかの単一の方法を利用する場合とは異なり、前述のような利点が得られなくなることは明らかであろう。
【0080】
以下、「貼り合わせ方式」および「一括製作方式」で、本発明のシート材を製作する方法の一例を具体的に説明する。なお以下の説明では、無機繊維としてアルミナとシリカの混合物を含むシート材を例に説明する。ただし、繊維材料は、これに限られるものではなく、例えばアルミナまたはシリカの一方のみで構成されても良い。あるいは、他の無機繊維を使用しても良い。
【0081】
(貼り合わせ方式1)
前述のように、この方式では、最初に、嵩密度が異なる少なくとも2枚のベースシートを調製する必要がある。そのような各ベースシートは、「ニードリング処理法」を用いて、前駆体の調製、ブローイング処理、ニードル処理、焼成、結合材の含浸の各工程を経て製作される。
【0082】
(前駆体の調製工程)
アルミニウム含有量70g/l、Al/Cl=1.8(原子比)の塩基性塩化アルミニウム水溶液に、例えばアルミナ−シリカ組成比が60〜97:40〜3となるようにシリカゾルを添加し、無機繊維の前駆体を調製する。特にアルミナ−シリカ組成比は、70〜97:30〜3であることがより好ましい。アルミナ組成比が60%以下では、アルミナとシリカから生成されるムライトの組成比率が低くなるため、完成後のベースシートの熱伝導度が高くなり、断熱性が低下する傾向にあるからである。一方、アルミナ組成比が97%を超えると、無機繊維の柔軟性が損なわれるからである。
【0083】
(ブローイング処理工程)
次に、このアルミナ系繊維の前駆体に、ポリビニルアルコール等の有機重合体を加える。その後、この液体を濃縮し、紡糸液を調製する。さらにこの紡糸液を使用して、ブローイング処理により紡糸する。
【0084】
ブローイング処理とは、エアーノズルから吹き出される空気流と紡糸液供給ノズルから押し出される紡糸液流とによって、紡糸を行う方法である。エアーノズルからのスリットあたりのガス流速は、通常40〜200m/sである。また紡糸ノズルの直径は通常0.1〜0.5mmであり、紡糸液供給ノズル1本あたりの液量は、通常1〜120ml/hであるが、3〜50ml/hであることが好ましい。このような条件では、紡糸液供給ノズルから押し出される紡糸液は、スプレー状(霧状)となることなく十分に延伸され、繊維相互で溶着されにくいので、紡糸条件を最適化することにより、繊維径分布の狭い均一な前駆体を得ることができる。
【0085】
なおアルミナ系繊維の平均直径は、特に限られないが、例えば、3μm〜10μmのものが使用できる。
【0086】
ここで、繊維の平均直径は、以下の方法により測定した。まず、上述の方法で得られたアルミナ系繊維をシリンダーに入れ、20.6MPaで加圧粉砕する。次にこの試料をふるい網に載せ、ふるいを通過した試料を電子顕微鏡観察用試験体とする。この試験体の表面に金等を蒸着させた後、倍率約1500倍程度の電子顕微鏡写真を撮影する。得られた写真から少なくとも40本の繊維の径を測定する。この操作を5試料について繰り返し、測定値の平均を繊維の平均直径とした。
【0087】
(ニードル処理工程)
紡糸が完了した前駆体を積層して、原料シートを製作する。さらに原料シートに対してニードル処理を行う。ニードル処理には、通常ニードリング装置が用いられる。
【0088】
通常、ニードリング装置は、突き刺し方向(通常は上下方向)に往復移動可能なニードルボードと、原料シートの表面および裏面の両主表面側に設置された一対の支持板とで構成される。ニードルボードには、原料シートに突き刺すための多数のニードルが、例えば約25〜5000個/100cmの密度で取り付けられている。また各支持板には、ニードル用の多数の貫通孔が設けられている。従って、一対の支持板によって原料シートを両面から押さえつけた状態で、ニードルボードを原料シートの方に近づけたり遠ざけたりすることにより、ニードルが原料シートに抜き差しされ、繊維の交絡された多数のニードル痕が形成される。ここで、ニードリング装置には、さらに原料シートを一定の送り速度(例えば、約1mm/秒〜20mm/秒)で一定の方向(例えば、原料シートの主表面と略平行な方向)に搬送する搬送手段が設けられても良い。この場合、原料シートを一定速度で移動させた状態で、ニードル処理を行うことが可能となるため、ニードルボードを1回圧接する度に、原料シートを移動させるという操作が不要となる。
【0089】
また、別の構成として、ニードリング装置は、2枚1組のニードルボードを備えても良い。各ニードルボードは、それぞれの支持板を有する。2枚のニードルボードを、それぞれ、原料シートの表面および裏面に配設して、各支持板で原料シートを両面から固定する。ここで、一方のニードルボードには、ニードル処理時に他方のニードルボードのニードル群と位置が重ならないように、ニードルが配置されている。また、それぞれの支持板には、両方のニードルボードのニードル配置を考慮して、原料シートの両面側からのニードル処理時に、ニードルが支持板に当接しないように、多数の貫通孔が設けられている。このような装置を用いて、2枚の支持板で原料シートを両面側から挟み、2枚のニードルボードで原料シートの両側からニードル処理が行われても良い(以下、このようなニードル処理を、特に「ダブルニードル処理」という)。このような方法でニードルの抜き差しを行うことにより、処理時間が短縮される。
【0090】
(焼成工程)
次に、得られた原料シートを常温から加熱し、最高温度1250℃程度で、0.5〜2時間、連続焼成することで、所望の嵩密度を有するベースシートが得られる。
【0091】
(結合材の含浸添着工程)
なお、必要に応じて、ベースシートには、有機樹脂のような結合材を含浸させるため、結合材含浸添着処理を行っても良い。これにより、ベースシートの嵩高さを抑制することができる。また、ベースシートからの繊維の離脱をより一層抑制することが可能となる。ただし、結合材含浸添着処理は、必ずしもこの段階で実施する必要はない。例えば、2枚のベースシートの接合後(図11のステップS120の後)に、結合材含浸添着処理を行っても良い。
【0092】
含浸添着処理において、結合材の添着量は、1.0〜10.0重量%の範囲であることが好ましい。1.0重量%未満では、無機繊維の離脱防止効果が低下する。また10.0重量%よりも多くなると、排気ガス処理装置の使用時に排出される有機成分の量が増加する。
【0093】
なお結合材としては、有機系の結合材、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ゴム系樹脂、スチレン系樹脂などが使用できる。例えばアクリル系(ACM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)樹脂等を用いることができる。
【0094】
このような結合材と水とで調製した水分散液を用いて、スプレー塗布により、ベースシートに結合材を含浸させる。なお、この処理により、ベースシート中に添加された余分な添着固形分および水分は、以下のように除去される。
【0095】
余分な固形分の除去は、例えば真空ポンプ等の吸引装置を用いた吸引法で行われる。また、余分な水分の除去は、ベースシートを90〜160℃の温度で加熱し、および/または40kPa〜100kPaの圧力で圧縮させることにより実施しても良い。
【0096】
このような工程を経て、嵩密度の異なる2枚のベースシートを製作する。一般に、シート材のニードル痕密度は、嵩密度と相関する関係にあり、シート材のニードル痕密度が大きくなるほど、嵩密度は大きくなる。ニードリング処理法では、あるニードル設置密度を有するニードルボードの昇降速度およびマットの送り出し速度を変えることにより、マットの嵩密度を調節することができる。
【0097】
次に、嵩密度が異なる2枚のベースシートを積層後、前述のような方法(両面テープ、接着剤または縫い合わせ)で接合することにより、本発明によるシート材が得られる。
【0098】
(貼り合わせ方式2)
貼り合わせ方式の別の例では、各ベースシートの製作に「抄造法」が利用される。「抄造法」では、繊維の開繊、スラリー化、成型および圧縮乾燥の各工程を経て、嵩密度の異なる2枚のベースシートが製作される。
【0099】
(繊維の開繊)
まず、無機繊維の開繊処理を行う。開繊処理は、乾式開繊処理のみの単独で、または乾式開繊処理および湿式開繊処理の2段階処理で実施される。乾式開繊処理では、フェザーミル等の装置が使用され、原料繊維が開繊される。一方、湿式開繊処理では、前述の乾式開繊処理によって得られた綿状の乾式開繊繊維が湿式開繊装置に投入され、さらに開繊が行われる。湿式開繊処理には、パルパー等の湿式開繊装置が使用される。このような開繊処理を経て、開繊された原料繊維を得ることができる。
【0100】
(スラリー化工程)
次に、この原料繊維の重量が、水に対して、1〜2wt%となるように攪拌機に投入し、例えば1〜5分撹拌する。次に、この液体に、有機結合材を4wt%〜8wt%添加し、1〜5分撹拌する。またこの液体に、無機結合材を0.5wt%〜1.0wt%添加し、1〜5分撹拌する。さらに、この液体に、凝集剤を0.5wt%程度添加し、最大約2分間程度撹拌を行い、原料スラリーを調製する。
【0101】
無機結合材としては、例えば、アルミナゾルおよび/またはシリカゾル等が使用される。また有機結合材としては、例えば、ゴム系材料、水溶性有機高分子化合物、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が使用され、凝集剤としては、例えばパコール292(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)社)等が使用される。
【0102】
(成型工程)
次に、得られた原料スラリーを所望の形状の成型器に添加し、ベースシート原料を成形し、さらに脱水を行う。通常の場合、成型器の底部には、ろ過用メッシュ(例えば、メッシュ寸法:30メッシュ)が設けられており、成形器内に添加された原料スラリー中の水分は、このろ過用メッシュを通って排出される。従って、このような成型器を使用することにより、ベースシート原料の成形と脱水を同時に行うことができる。また必要であれば、サクションポンプ、真空ポンプ等を使用して、成型器の下側から、ろ過用メッシュを介して、水分の強制吸引を行っても良い。
【0103】
(圧縮乾燥工程)
次に、得られたベースシート原料を成型器から取り出し、これをプレス器等を用いて、厚さが0.3〜0.5倍となるように圧縮すると同時に、例えば90〜150℃の温度で、5分〜1時間、加熱、乾燥させることにより、ベースシートを得ることができる。
【0104】
なお、得られたベースシートを用いて、さらに、「貼り合わせ方式1」のような結合材含浸処理を行っても良い。ただし、前述のように、「貼り合わせ方式」の場合、このような結合材含浸処理は、2枚のベースシートの接合後に実施しても良い。
【0105】
このような工程を経て、嵩密度の異なる2枚のベースシートが得られる。なお「抄造法」では、圧縮乾燥工程において、ベースシートの圧縮率を変えることにより、ベースシートの嵩密度を変化させることができる。
【0106】
次に、嵩密度の異なる2枚のベースシートを積層後、前述のような方法(両面テープ、接着剤または縫い合わせ)で接合することにより、本発明によるシート材を得ることができる。
【0107】
(一括製作方式1)
「一括製作方式」においても、「ニードリング処理法」と「抄造法」が利用できる。「一括製作方式1」では、「ニードリング処理法」をベースとした「一括製作方式」について説明する。
【0108】
この方式においても、基本的には前述の「貼り合わせ方式1」の場合と同様の工程で、シート材を製作する。特に、前述の「ダブルニードル処理」工程を利用することが好ましい。ただし、本一括製作方式1では、原料シートにニードルを抜き差しするニードル処理工程で使用されるニードルボードが、前述の「貼り合わせ方式1」のものとは異なっている。具体的には、「ダブルニードル処理」の際に使用される原料シートの両主表面側の2つのニードルボードのうち、少なくとも一方のニードルボードに設置されたニードルの全長は、原料シートの厚さよりも短くなっており(例えば、原料シートの1/2の長さ)、当該ニードルボードを原料シートに当接させた際に、ニードルは、原料シートの他方の面側まで到達しない。なお、両ニードルボードに設置されたニードルの設置密度は、異なっていても同じであっても良い。ただし、両方のニードルボードに設置されたニードルの全長が、いずれも原料シートの厚さよりも短い場合は、両ニードルボードに設置されたニードルの設置密度を変える必要がある。そうでなければ、結果的に、原料シートの両主表面において、ニードル痕密度が等しくなってしまうからである。
【0109】
このような2つのニードルボードを用いて、原料シートの両面側からニードルを抜き差しすることにより、原料シートの厚さ方向に対して、ニードル痕密度、さらには嵩密度の異なる部分を、一度に形成することができる。
【0110】
焼成以降の工程は、前述の「貼り合わせ方式1」の場合と同様であるが、当然のことながら、この方式では、2枚のベースシートを接合する工程が不要である。また、上記記載では、「ダブルニードル処理」を利用して、両方の主表面に対して、同時にニードル処理を実施する方法について説明したが、「一括製作方式1」において、「ダブルニードル処理」の代わりに、各主表面側からのニードル処理を順番に実施しても良いことは明らかであろう。
【0111】
(一括製作方式2)
この方式では、「抄造法」を利用して、一連の工程の中で、一つのシート材に対して、嵩密度の異なる2つの主表面が形成される。すなわちこの方式においても、基本的には前述の「貼り合わせ方式2」の場合と同様の工程で、シート材が製作される。ただし、この方式では、原料スラリーを所望の形状の成型器に添加し、シート原料を成形する工程が前述のものとは異なっている。具体的には、本方式では、最初の原料スラリーを成型器に添加し、脱水を行った後、このシート原料を取り出す前に(すなわち、半乾燥状態で)、最初の原料スラリーに比べてバインダの含有量が多い第2の原料スラリーを、脱水されたシート原料(以下、「第1のシート原料」という)の上に添加する。次に、第2の原料スラリーに含まれる水分を、第1のシート原料およびろ過用メッシュを介して、成型器の下側から排出させ、第2の原料スラリーの脱水を行い、第2のシート原料を調製する。前述のように、この際に必要であれば、成型器の下側から、水分の強制吸引を行っても良い。
【0112】
このような工程を経て、第1のシート原料の上に、第2のシート原料が直接積層されたシート原料を得ることができる。この方式では、第1および第2の原料スラリー中に含まれるバインダ量を変化させることにより、第1および第2のシート原料の嵩密度を制御することができる。従って、その後、前述の圧縮乾燥工程を経ることにより、本発明によるシート材を得ることができる。
【0113】
なお、前述の4種類の製造方法では、シート材が厚さ方向に沿って、2種類の嵩密度を有する場合を例に、本発明を説明した。しかしながら、本発明は、記載された構成に限られるものではなく、シート材が、厚さ方向に沿って、3種類以上の嵩密度部分を有しても良いことは明らかであろう。このようなシート材の構成は、「貼り合わせ方式1」および「貼り合わせ方式2」において、嵩密度の異なる3種類以上のベースシートを積層させたり、あるいは「一括製作方式2」において、第2のシート原料上に、さらに第3の原料スラリーを添加することにより、容易に製作することができる。
【実施例】
【0114】
以下、本発明の効果を実施例により説明する。
【0115】
本発明の効果を検証するため、前述の「貼り合わせ方式1」により、本発明によるシート材を作製し、巻付試験を行った。シート材は、以下の手順により製作した。
【0116】
(実施例1)
アルミニウム含有量70g/l、Al/Cl=1.8(原子比)の塩基性塩化アルミニウム水溶液に、アルミナ系繊維の組成がAl:SiO=72:28となるように、シリカゾルを配合し、アルミナ系繊維の前駆体を形成した。次に、アルミナ系繊維の前駆体に、ポリビニルアルコール等の有機重合体を添加した。さらに、この液を濃縮して紡糸液とし、この紡糸液を用いてブローイング法にて紡糸した。その後アルミナ系繊維の前駆体を折りたたんだものを積層して、アルミナ系繊維の原料シートを製作した。次に、この原料シートに対して、ニードル処理を行った。ニードル処理は、80個/100cmの密度でニードルが設置されたニードルボードを、原料シートの一方の主表面の側にのみ配設し、原料シートの片面側から行った。なお、ニードルの全長は、原料シートの厚さよりも長くなっており、ニードルボードの片側からの圧接により、ニードルは、原料シートを十分に貫通することができる。
【0117】
その後、得られた原料シートを常温から最高温度1250℃で、1時間、連続焼成した。次に、得られたシート材に結合材を含浸させた。結合材には、アクリル系ラテックスエマルジョンを使用し、含浸量は、全体重量に対して5wt%とした。
【0118】
これにより、ニードル痕密度が約4.0個/cmで、嵩密度が0.09g/cm、坪量が750g/m、厚さが8.30mmの第1のベースシートが得られた。また、アルミナ系繊維の平均直径は7.2μmであり、最小直径は3.2μmであった。なお、以降の実施例および比較例を含め、ベースシートのニードル痕密度は、全て前述の方法で測定した。
【0119】
同様の方法により、ニードル痕密度の異なる第2のベースシートを製作した。ここで、第2のベースシートを製作する際には、ニードル痕密度をより大きくするため、80個/100cmの密度でニードルが設置されたニードルボードをベースシートの片側に配設して、ニードル処理を実施した。得られた第2のベースシートは、ニードル痕密度が約5.7個/cmであり、嵩密度が0.10g/cm、坪量が750g/m、厚さが7.48mmであった。また、アルミナ系繊維の平均直径は7.2μmであり、最小直径は3.2μmであった。
【0120】
次に、第1のベースシートと第2のベースシートを両面接着テープ(厚さ100μm、
Beiersdorf社製)を介して貼り合わせ、全坪量1500g/m、厚さ15.83mmのシート材を製作した。これを実施例1とする。
【0121】
(実施例2)
実施例1と同様の方法により、第1および第2のベースシートを製作した。ただしこの実施例では、第1のベースシートのニードル処理の際に使用するニードルボードのニードル密度を、80個/100cmとすることにより、第1のベースシートの完成後のニードル痕密度を2.7個/cmとした。第1のベースシートは、嵩密度が0.08g/cmで、坪量が750g/m、厚さが9.42mmであった。また、アルミナ系繊維の平均直径は7.2μmであり、最小直径は3.2μmであった。なお、第2のベースシートの仕様は、実施例1のものと同様である(ただし厚さは、7.47mm)。第1のベースシートと第2のベースシートを、前述の両面接着テープを介して貼り合わせ、全坪量1500g/m、厚さ16.94mmのシート材を得た。このシート材を実施例2とする。
【0122】
(実施例3)
実施例1と同様の方法により、第1のベースシートを製作した。ただしこの実施例では、第1のベースシートのニードル処理時に使用するニードルボードのニードル密度を、80個/100cmとすることにより、第1のベースシートの完成後のニードル痕密度を2.3個/cmとした。第1のベースシートは、嵩密度が0.08g/cmで、坪量が750g/m、厚さが9.41mmであった。また、アルミナ系繊維の平均直径は7.2μmであり、最小直径は3.2μmであった。さらに、実施例1と同様の方法により、第2のベースシートを製作した。ただしこの実施例では、第2のベースシートのニードル処理時に使用するニードルボードのニードル密度を、80個/100cmとすることにより、第2のベースシートの完成後のニードル痕密度を7.7個/cmとした。第2のベースシートは、嵩密度が0.11g/cmで、坪量が750g/m、厚さが6.80mmであった。また、アルミナ系繊維の平均直径は7.2μmであり、最小直径は3.2μmであった。
【0123】
第1のベースシートと第2のベースシートを、前述の両面接着テープを介して貼り合わせて、全坪量1500g/m、厚さ16.26mmのシート材を得た。このシート材を実施例3とする。
【0124】
(実施例4)
実施例1と同様の方法により、第1のベースシートを製作した。ただしこの実施例では、第1のベースシートのニードル処理時に使用するニードルボードのニードル密度を、
80個/100cmとすることにより、第1のベースシートの完成後のニードル痕密度を6.7個/cmとした。第1のベースシートは、嵩密度が0.10g/cmで、坪量が750g/m、厚さが7.46mmであった。また、アルミナ系繊維の平均直径は7.2μmであり、最小直径は3.2μmであった。さらに、実施例1と同様の方法により、第2のベースシートを製作した。ただしこの実施例では、第2のベースシートのニードル処理時に使用するニードルボードのニードル密度を、80個/100cmとすることにより、第2のベースシートの完成後のニードル痕密度を13.0個/cmとした。第2のベースシートは、嵩密度が0.13g/cmで、坪量が750g/m、厚さが5.80mmであった。また、アルミナ系繊維の平均直径は7.2μmであり、最小直径は3.2μmであった。
【0125】
第1のベースシートと第2のベースシートを、前述の両面接着テープを介して貼り合わせて、全坪量1500g/m、厚さ13.31mmのシート材を得た。このシート材を実施例4とする。
【0126】
(実施例5)
実施例1と同様の方法により、第1のベースシートを製作した。ただしこの実施例では、第1のベースシートのニードル処理時に使用するニードルボードのニードル密度を、
25個/100cmとすることにより、第1のベースシートの完成後のニードル痕密度を1.3個/cmとした。第1のベースシートは、嵩密度が0.08g/cmで、坪量が750g/m、厚さが9.44mmであった。また、アルミナ系繊維の平均直径は7.2μmであり、最小直径は3.2μmであった。さらに、実施例1と同様の方法により、第2のベースシートを製作した。ただしこの実施例では、第2のベースシートのニードル処理時に使用するニードルボードのニードル密度を、25個/100cmとすることにより、第2のベースシートの完成後のニードル痕密度を1.7個/cmとした。第2のベースシートは、嵩密度が0.08g/cmで、坪量が750g/m、厚さが9.42mmであった。また、アルミナ系繊維の平均直径は7.2μmであり、最小直径は3.2μmであった。
【0127】
第1のベースシートと第2のベースシートを、前述の接着テープを介して貼り合わせて、全坪量1500g/m、厚さ18.91mmのシート材を得た。このシート材を実施例5とする。
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、第1のベースシートを製作した。ただしこの比較例では、第1のベースシートのニードル処理時に使用するニードルボードのニードル密度を、
80個/100cmとすることにより、第1のベースシートの完成後のニードル痕密度を5.0個/cmとした。第1のベースシートは、嵩密度が0.10g/cmで、坪量が750g/m、厚さが7.54mmであった。また、アルミナ系繊維の平均直径は7.2μmであり、最小直径は3.2μmであった。さらに、第1のベースシートと同様の方法により、第2のベースシートを製作した。第2のベースシートは、嵩密度が0.10g/cmで、坪量が750g/m、厚さが7.52mmであった。また、アルミナ系繊維の平均直径は7.2μmであり、最小直径は3.2μmであった。
【0128】
第1のベースシートと第2のベースシートを、前述の接着テープを介して貼り合わせて、全坪量1500g/m、厚さ15.11mmのシート材を得た。このシート材を比較例1とする。
【0129】
(比較例2)
実施例1と同様の方法により、第1のベースシートを製作した。ただしこの比較例では、第1のベースシートのニードル処理時に使用するニードルボードのニードル密度を、
80個/100cmとすることにより、第1のベースシートの完成後のニードル痕密度を5.7個/cmとした。第1のベースシートは、嵩密度が0.10g/cmで、坪量が750g/m、厚さが7.48mmであった。また、アルミナ系繊維の平均直径は7.2μmであり、最小直径は3.2μmであった。さらに、実施例1と同様の方法により、第2のベースシートを製作した。ただしこの実施例では、第2のベースシートのニードル処理時に使用するニードルボードのニードル密度を、80個/100cmとすることにより、第2のベースシートの完成後のニードル痕密度を2.7個/cmとした。第2のベースシートは、嵩密度が0.08g/cmで、坪量が750g/m、厚さが9.41mmであった。また、アルミナ系繊維の平均直径は7.2μmであり、最小直径は3.2μmであった。
【0130】
第1のベースシートと第2のベースシートを、前述の接着テープを介して貼り合わせて、全坪量1500g/m、厚さ16.94mmのシート材を得た。このシート材を比較例2とする。
【0131】
実施例1〜5、比較例1、2における、第1および第2のベースシートのそれぞれのニードル痕密度、嵩密度、坪量、厚さを表1にまとめて示す。なおこの表には、第1および第2のベースシートで構成されたそれぞれのシート材の厚さと、第2のベースシートに対する第1のベースシートのニードル痕密度比も示されている。
【0132】
【表1】

(巻付試験)
次に、前述の方法で製作した各シート材を用いて、巻付試験を行った。
【0133】
巻付試験では、各シート材を図2の形状(全長:X方向295mm(嵌合凸部50を含む)、Y方向90mm、嵌合凸部50の長さ:X方向30mm、Y方向30mm、Y方向両端側からの嵌合凸部50のまでの距離:各30mm)に切り抜き、これを試験サンプルとして使用した。この試験サンプルを、外径80mmの円柱(長さ120mm)に巻き付けて、前述のように、端部同士を嵌合し、テープで固定した。ノギスを用いて、このときにシート材の内周側に生じるシワの幅(D)および高さ(H)を、以下のように測定し、「マクロシワ」の発生状況を評価した。まず、測定対象とするシワとして、大きいものから順次5つのシワを選定し、それぞれのシワにおいて、幅と高さを測定する。次に、それぞれのシワの幅と高さの測定値を平均し、得られた結果を各シート材のシワの幅(D)および高さ(H)とした。そして、この算定されたシワの幅(D)が3mmを超えている場合、および/またはシワの高さ(H)が2mmを超えている場合を、「マクロシワ」ありと判定し、それ以外の場合を「マクロシワ」なしと判定した。
【0134】
なお、実施例1乃至5および比較例1、2のいずれのシート材においても、試験の際には、第1のベースシートの側が外周側となるようにして、試験サンプルを円柱に巻き付けた。
【0135】
(試験結果)
各シート材に対して得られた巻付試験の結果(シワの寸法およびマクロシワの判定結果)をまとめて表1に示す。この結果から、第1のベースシートのニードル痕密度が、第2のベースシートのニードル痕密度の0.3倍〜0.8倍の範囲にある場合、すなわち、実施例1〜5のシート材では、巻付試験の際、シート材の内周側に「マクロシワ」が生じないことがわかった。一方、第1のベースシートのニードル痕密度が、第2のベースシートのニードル痕密度の1.0倍および2.1倍の場合、すなわち、比較例1、2に係るシート材では、シート材の内周側に「マクロシワ」が生じた。
【0136】
ここで、比較例1に係るシート材は、従来より使用されているような、厚さ方向に対して、均一なニードル痕密度を有するシート材に相当する(すなわち、第2のベースシートに対する第1のベースシートのニードル痕密度比=1)。また、比較例2に係るシート材は、実施例2に係るシート材の両ベースシートの配置を逆にして構成したシート材である。
【0137】
比較例1および2の結果から、シート材の2つの主表面のうち、嵩密度の大きい主表面が外周側となるようにして、シート材を排気ガス処理体に巻回すことにより、マクロシワを抑制する効果が得られることが確認された。
【0138】
なお、実施例5のシート材では、試験後にマクロシワは生じなかったものの、巻付時に層間で剥離が生じた。これは、実施例5に係るシート材は、第1および第2のベースシートのニードル痕密度が小さく(それぞれ、1.3および1.7個/cm)、シート材を巻回す際に強度が不足したためであると考えられる。従って、実際の排気ガス処理装置での使用を想定した場合、シート材の両主表面のニードル痕密度は、いずれも約2.0個/cm以上であることが好ましいと言える。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明のシート材は、車両用排気ガス処理装置の保持シール材および消音装置の吸音材等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】従来のシート材を排気ガス処理体に巻回した際の、排気ガス処理体の長手方向に対して垂直な面での断面形態を模式的に示した図である。
【図2】本発明によるシート材の形状の一例である。
【図3】本発明によるシート材を排気ガス処理体とともに、ケーシング内に組み付けるときの状態を示す概念図である。
【図4】本発明によるシート材を排気ガス処理体に巻回した際の、排気ガス処理体の長手方向に対して垂直な面での断面形態を模式的に示した図である。
【図5】圧入方式により、被覆排ガス処理体をケーシング内に設置する方法を模式的に示した図である。
【図6】クラムシェル方式により、被覆排ガス処理体をケーシング内に設置する方法を模式的に示した図である。
【図7】巻き締め方式により、被覆排ガス処理体をケーシング内に設置する方法を模式的に示した図である。
【図8】サイジング方式により、被覆排ガス処理体をケーシング内に設置する方法を模式的に示した図である。
【図9】本発明の排気ガス処理装置の一構成例を示す図である。
【図10】本発明の消音装置の一構成例を示す図である。
【図11】本発明によるシート材を「貼り合わせ方式」で作製する方法のフロー図である。
【図12】本発明によるシート材を「一括製作方式」で作製する方法のフロー図である。
【符号の説明】
【0141】
2 導入管
4 排気管
10 排気ガス処理装置
12 ケーシング
20 排気ガス処理体
24 保持シール材
24A 従来の保持シール材
26 断熱材
30 シート材
30A 従来のシート材
50 嵌合凸部
60 嵌合凹部
82 第1の主表面
84 第2の主表面
121、122、123、124 ケーシング
210 被覆排気ガス処理体
210A 従来の被覆排気ガス処理体
230 圧入冶具
310 マクロシワ
320 突出部分
410 ミクロシワ
420 第1のシート部分
430 第2のシート部分
700 消音装置
720 インナーパイプ
740 吸音材
760 アウターシェル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維を含み、厚み方向に対して垂直な第1および第2の表面を有するシート材であって、
前記第1の表面は、第1の嵩密度を有する第1のシート部分で構成され、前記第2の表面は、第1の嵩密度よりも大きな第2の嵩密度を有する第2のシート部分で構成されることを特徴とするシート材。
【請求項2】
当該シート材は、前記第1のシート部分と、前記第2のシート部分とを厚み方向に積層したものであることを特徴とする請求項1に記載のシート材。
【請求項3】
当該シート材は、ニードル痕を有し、第1の表面のニードル痕密度は、第2の表面のニードル痕密度よりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載のシート材。
【請求項4】
第1および第2の表面のニードル痕密度は、いずれも2.0個/cm〜20.0個/cmの範囲にあり、
第1の表面のニードル痕密度は、第2の表面のニードル痕密度の0.3倍〜0.8倍の範囲にあることを特徴とする請求項3に記載のシート材。
【請求項5】
当該シート材は、厚み方向に沿って、前記第1の嵩密度を有する第1のベースシートと、前記第2の嵩密度を有する第2のベースシートとを積層して構成され、
前記第1および第2のベースシートの境界に、接着層を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載のシート材。
【請求項6】
さらに、結合材を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のシート材。
【請求項7】
無機繊維を含み、厚み方向に対して垂直な第1および第2の表面を有するシート材の製造方法であって、
第1の嵩密度を有する第1のベースシートを調製するステップと、
第1の嵩密度よりも大きな、第2の嵩密度を有する第2のベースシートを調製するステップと、
前記第1および第2のベースシートを接合するステップと、
を有することを特徴とするシート材の製造方法。
【請求項8】
前記ベースシートを接合するステップは、前記第1および第2のベースシートを、接着剤または接着テープによって接合するステップを有することを特徴とする請求項7に記載のシート材の製造方法。
【請求項9】
前記第1のベースシートまたは前記第2のベースシートは、ニードリング処理法によって調製されることを特徴とする請求項7または8に記載のシート材の製造方法。
【請求項10】
前記第1のベースシートまたは前記第2のベースシートは、抄造法によって調製されることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一つに記載のシート材の製造方法。
【請求項11】
ニードリング処理法による、無機繊維を含み、厚み方向に対して垂直な第1および第2の表面を有するシート材の製造方法であって、
第1の表面および第2の表面を有する無機繊維の原料シートを提供するステップと、
前記原料シートの第1の表面および第2の表面のそれぞれの側から、前記原料シートをニードル処理し、第1の表面のニードル痕密度が、第2の表面のニードル痕密度よりも小さい原料シートを得るステップと、
前記原料シートを焼成して、第1の表面のニードル痕密度が、第2の表面のニードル痕密度よりも小さいシート材を得るステップと、
を有することを特徴とするシート材の製造方法。
【請求項12】
無機繊維を含み、厚み方向に対して垂直な第1および第2の表面を有するシート材の製造方法であって、
無機繊維を含む第1の原料スラリーを成型器に注入するステップと、
第1の原料スラリーの脱水を行うステップと、
第1の原料スラリーに比べてバインダ含有量の多い第2の原料スラリーを、脱水された第1の原料スラリーの上に注入するステップと、
第2の原料スラリーの脱水を行うステップと、
を有することを特徴とするシート材の製造方法。
【請求項13】
さらに、結合材を含浸するステップを有することを特徴とする請求項7乃至12のいずれか一つに記載のシート材の製造方法。
【請求項14】
排気ガス処理体と、該排気ガス処理体の外周面の少なくとも一部に巻回された保持シール材とを備える排気ガス処理装置であって、
前記保持シール材は、請求項1乃至6のいずれか一つに記載されたシート材で構成され、
前記保持シール材は、前記シート材の第1の表面が外側となるようにして、前記排気ガス処理体に巻回されていることを特徴とする排気ガス処理装置。
【請求項15】
排気ガスの入口管および出口管と、
前記入口管および出口管の間に設置された排気ガス処理体と、
を備える排気ガス処理装置であって、
前記入口管の少なくとも一部には、断熱材が設置され、
該断熱材は、請求項1乃至6のいずれか一つに記載のシート材で構成されることを特徴とする排気ガス処理装置。
【請求項16】
前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排気ガスフィルタであることを特徴とする請求項14または15に記載の排気ガス処理装置。
【請求項17】
排気ガス処理体と、該排気ガス処理体の外周面の少なくとも一部に巻回された保持シール材と、を備える排気ガス処理装置の製造方法であって、
請求項7乃至13のいずれか一つに記載の製造方法で製造されたシート材を、前記保持シール材として提供するステップと、
前記保持シール材を、前記シート材の第1の表面が外側となるようにして、前記排気ガス処理体に巻回すステップと、
を有することを特徴とする排気ガス処理装置の製造方法。
【請求項18】
前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排気ガスフィルタであることを特徴とする請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
インナーパイプと、該インナーパイプの外周を覆うアウターシェルと、前記インナーパイプとアウターシェルの間に設置された吸音材とを有する消音装置であって、
前記吸音材は、請求項1乃至6のいずれか一つに記載のシート材で構成され、
該シート材は、第1の表面が外側となるようにして、前記インナーパイプとアウターシェルの間に設置されることを特徴とする消音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−201125(P2008−201125A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312694(P2007−312694)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】