説明

シート状回路基板

【課題】樹脂基板上に形成された発熱性素子から発生した熱を赤外線として放射させ放熱させることで、定格電力を大きくでき、設計の自由度が大きく、高信頼性のシート状回路基板を提供する。
【解決手段】赤外光を透過する樹脂からなるシート基板12と、このシート基板12上に形成された発熱性素子22とシート基板12との間に設けた放熱用薄膜層とを含み、この放熱用薄膜層は発熱性素子22に接して形成された第1の熱伝導膜18と、シート基板12に接して形成され、第1の熱伝導膜18より少なくとも大きな形状を有する熱放射膜20の少なくとも二層構成からなり、第1の熱伝導膜18は発熱性素子22と同じ形状で、かつ大きな熱伝導率と厚い膜厚を有する絶縁膜であり、熱放射膜20はシート基板12の赤外光透過範囲において第1の熱伝導膜18より少なくともその放射率が大きな材料を用いた構成からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂からなるシート基板上に形成した薄膜素子、特に発熱性素子の放熱性を改良して大きな電力印加でも安定して作動するシート状回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の電子機器に用いられる回路基板は、主としてガラス布エポキシ樹脂等に銅配線パターンを形成したプリント配線基板(以下、PWBとよぶ)上にコンデンサ、抵抗器、インダクター等の受動部品や半導体素子等の能動部品を半田リフロー等により実装して電子回路を形成している。
【0003】
近年、携帯電話に代表される携帯型電子機器の小型化、高機能化は著しく、複雑な回路をできるだけ小さな領域に収納するために配線パターンや受動部品および能動部品の小型化が進展している。
【0004】
しかしながら、受動部品等をPWB上に実装する回路基板の構成では、このような携帯型電子機器の小型化に対応できなくなっている。すなわち、通常のPWBや受動部品の厚みは、概略0.3mm〜1.0mm程度であり、PWB上に実装後の全体の厚みは0.6mm〜2.0mm程度となる。このような厚みを有すると電子機器の薄型化を阻害する。また、折り曲げることが困難であるため回路基板を立体的に自由に配置することが難しく、電子機器の筐体等の設計の自由度を制約する。このため、フレキシブル性を有する回路基板が要求されている。これに対して、ポリイミドフィルム等のシート基板を用いて銅配線パターンを形成した回路基板がある。これを用いれば、電子機器内に折り曲げて配置できるので電子機器の小型化を実現できる。
【0005】
しかしながら、現状のフレキシブルなシート基板を用いた回路基板は配線パターンのみが形成されているか、あるいは受動部品や能動部品を実装した構成がほとんどである。したがって、薄いシート基板を用いても受動部品等を実装すると、全体の厚みを薄くすることができない。
【0006】
このように、回路基板に対しては、薄く、折り曲げ可能で、かつさらに高機能化することが要求されている。この要求に対して、フレキシブルなポリイミドフィルムを用いたシート基板上に、薄膜技術や厚膜印刷技術等により主として受動部品を形成することで、薄く、かつフレキシブル性を有するシート状回路基板を作製する方法が提案されている。
【0007】
例えば、非接触ICカ−ド等では、カ−ドの厚みを1mm以下と非常に薄くすることが必要であり、受動部品に対しては数百ミクロン程度からさらにできるだけ薄くすることが要求されている。このために、薄膜方式により形成する薄膜コンデンサの構造および製造方法が示されている。この薄膜コンデンサは、外部電極付き有機高分子基板と、内部対向電極と誘電体と外部電極からなり、外部電極が内部対向面と外周に接することなく、内部対向面の外側で、かつ外周面の内側に外部電極を形成した構造からなる。これにより、マイクロメーターオーダーの薄膜コンデンサを形成でき、フレキシブルで、割れない薄膜コンデンサを製造することができるとしている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、可撓性基板表面の凹凸の低減と水分等のガスの侵入を防ぐことで薄膜技術で形成する回路素子の特性変動や信頼性劣化の防止を行い、しかも折り曲げが可能なシート状回路基板の作製技術も開示されている。このシート状回路基板は、有機高分子からなる可撓性基板上に電気回路を構成する回路素子を形成してなるものであり、回路素子と可撓性基板との間に設けた第1の無機保護膜と、回路素子を覆う第2の無機保護膜とを有し、第1の無機保護膜および第2の無機保護膜は回路素子を形成する領域のみに形成した構成を有している(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
上記の例のようにシート基板上に薄膜技術や厚膜印刷技術等を用いて薄膜素子を形成することにより回路基板を非常に薄型にすることができる。しかし、このような回路基板構成では、薄膜素子、例えば薄膜抵抗等のように電流により発熱する特性を有する発熱性素子を形成した場合、シート基板が樹脂であるため熱伝導性が悪く、このため発熱性素子で発生した熱を効率よく速やかに放熱させることが困難である。このため、通電により発熱する薄膜抵抗等では、放熱性が悪い場合には発熱による影響が生じない程度に定格電力を制限しなければならず、回路設計が非常に制約されるという課題があった。
【0010】
これに対して、セラミック基板においては、発熱素子、例えば半導体素子を実装した場合に効率よく放熱させる構成が開示されている。セラミック基板は、表裏面方向には熱が拡散しやすいが、基板の横方向へは熱が伝わりにくい性質がある。このため、セラミック基板の発熱素子が実装される領域において、発熱素子の下側に導体からなる複数の配線層が放射状に段差を設けて広がっており、複数の配線層間が貫通孔を通して導通しており、この貫通孔には高融点金属が充填されている構成としている。発熱量の大きい素子の裏面側の空きスペース、配線層およびスルーホールにタングステン等の導体を用いることで熱伝導性を高めることができ、発熱素子からの熱を効率よく放熱できるとしている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2000−106324号公報
【特許文献2】特開2004−22788号公報
【特許文献3】特開2001−77540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の第3の例では、セラミック基板に対して横方向の熱伝導を大きくするために配線層を形成し、この配線層を介して熱を伝達し、セラミック基板を介して放熱している。セラミック材料は樹脂材料に比べると熱伝導率が非常に大きいことから、セラミック基板を筐体等と接触させれば、熱伝導により良好に放熱することができる。
【0012】
これに対して、樹脂からなるシート基板においては、上記の例のように配線層を設けて横方向に熱を伝達しても、樹脂であるシート基板自体の熱伝導率が小さいため筐体等へ充分に放熱させることができない。さらに、セラミック基板では、筐体等に密着させたり、あるいは放熱シートを介して密着させることが容易にできる。しかし、シート基板は筐体内部の空間に収納できるように折り曲げて使用されることが多く、セラミック基板のように筐体に密着させることが困難である。
【0013】
また、第3の例のように、薄膜素子の下部に配線層を形成すると、この配線層と薄膜素子とを絶縁するための絶縁層をさらに形成しなければならなくなり、工程が複雑となるだけでなく製造歩留まりが低下し、回路基板のコスト増加を招くという課題もある。
【0014】
本発明は、樹脂からなるシート基板上に形成された薄膜素子のうち、通電により発熱する発熱性素子から発生した熱を赤外線として放射させ放熱させることで、定格電力を大きくでき、設計の自由度が大きく、高信頼性のシート状回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明のシート状回路基板は、赤外光を透過する樹脂からなるシート基板と、このシート基板上に形成された薄膜素子と、薄膜素子のうち通電することで発熱する発熱性素子とシート基板との間に設けた放熱用薄膜層とを含み、この放熱用薄膜層は発熱性素子に接して形成された第1の熱伝導膜と、シート基板に接して形成され、第1の熱伝導膜より少なくとも大きな形状を有する熱放射膜の少なくとも二層構成からなり、第1の熱伝導膜は少なくとも発熱性素子と同じ形状を有する絶縁膜であり、熱放射膜はシート基板の赤外光透過範囲において第1の熱伝導膜より少なくともその放射率が大きな材料を用いた構成からなる。
【0016】
この構成とすることにより、発熱性素子で発生した熱が効率よく第1の熱伝導膜に伝達され、さらに第1の熱伝導膜から熱放射膜へ伝達される。熱放射膜はこの熱により温度が上昇し、その温度に応じて発生する赤外線をシート基板を介して空中に放射する。この熱放射膜は、第1の熱伝導膜より少なくともその放射率が大きいので、第1の熱伝導膜からの熱放射に比べてより多くの赤外線を外部に放射し放熱させることができる。この結果、発熱性素子で発生した熱を効率よく赤外輻射として放熱させることができる。
【0017】
熱放射は、物質が熱エネルギーを赤外線等の電磁波に変換して放出する現象である。したがって、熱放射膜が効率よく赤外線等の電磁波を放射するためには、熱放射膜の放射率が大きいだけでなく、さらに第1の熱伝導膜から熱放射膜への熱伝導が良好で、かつ熱放射膜の全面が均一に短時間に加熱されることが望ましい。また、本発明では、熱放射膜で発生した赤外線はシート基板を透過して空中に放射することで放熱させるため、シート基板の赤外光の透過範囲においての放射率が少なくとも第1の熱伝導膜より大きい材料であることも要求される。このような熱放射膜の具体的な放射率としては、0.8以上の材料を用いることが望ましく、0.9以上の材料であればさらに望ましい。放射率が0.8以上の材料としては、例えば、ジルコニア(ZrO)、酸化ケイ素とアルミナとの混合物(SiOとAlとの混合物)、マグネシア(MgO)、マグネシア、アルミナおよび酸化ケイ素の混合物(MgO、AlおよびSiOの混合物)等をスパッタリングで成膜すればよい。さらに、カーボン薄膜、還元酸化チタンの薄膜、あるいは窒化アルミニウムと酸化アルミニウムの混合薄膜(AlNとAlとの混合薄膜)等でもよい。これらの材料は、シート基板の透過波長である約7μm以上の赤外光範囲における放射率が0.8以上を有している。さらに、放射率が0.9以上の熱放射膜の場合には、上記の材料にカーボン等を混合させた黒化処理をした膜を形成する方法やシート基板表面に微少な凹凸を形成して表面積を大きくした後に膜を形成する方法等により作製することができる。
【0018】
また、第1の熱伝導膜の膜厚を厚くすることもできるので、その熱容量を大きくできる。したがって、発熱性素子に対して投入する電力を大きくしても、全体としての温度上昇を抑制できる。さらに、発熱性素子が局部的に発熱しても、第1の熱伝導膜の熱伝導率が大きいため、第1の熱伝導膜全体に均一に速やかに拡散させることができるので、発熱性素子の局所的温度上昇を抑制することもできる。なお、シート基板は、赤外光を透過する樹脂からなり、例えばポリイミドフィルムを用いるが、このような樹脂からなる基板は赤外光に対して透過性がよく、このため熱放射膜で発生した赤外光はシート基板に吸収されることなく空中に放射させることができる。
【0019】
また、上記構成において、発熱性素子は薄膜抵抗であり、第1の熱伝導膜は薄膜抵抗の抵抗膜に接して形成され、この抵抗膜と同じ形状で、その膜厚は抵抗膜より厚く、かつ抵抗膜に接続する接続電極より薄い構成としてもよい。
【0020】
この構成とすることにより、発熱性素子である薄膜抵抗に大きな電力が印加されても温度上昇を抑制することができる。また、第1の熱伝導膜の厚みを抵抗膜より厚く、かつ接続電極より薄くすることで、熱容量を大きくしながら接続電極と抵抗膜との接続不良の発生を防止できる。さらに、熱放射膜も抵抗膜と同じ形状としてもよい。その場合には、熱放射膜、第1の熱伝導膜および抵抗膜を、この順番に同一真空装置中で連続的に形成することもでき、製造工程を簡略化できる。
【0021】
また、上記構成において、発熱性素子は薄膜抵抗であり、放熱用薄膜層は第1の熱伝導膜と熱放射膜との間に第1の熱伝導膜より大きな形状の第2の熱伝導膜をさらに有し、熱放射膜の形状を第2の熱伝導膜の形状と同一以上とした構成としてもよい。
【0022】
この構成とすることにより、抵抗膜で発生した熱を第1の熱伝導膜と第2の熱伝導膜とで効率よく拡散させることができる。これにより、熱放射膜は全面に渡ってほぼ均一に温度上昇するので、全面から赤外線として放射して放熱することができる。また、第1の熱伝導膜と第2の熱伝導膜との2段構成とすることで、接続電極と抵抗膜間の接続不良の発生も防止できる。さらに、第1の熱伝導膜は抵抗膜と同一真空装置で連続的に形成することもできる。
【0023】
また、上記構成において、発熱性素子の上部に発熱性素子を覆う樹脂保護膜が形成されており、樹脂保護膜の赤外光範囲での放射率が第1の熱伝導膜の放射率より少なくとも大きな材料を用いた構成としてもよい。
【0024】
この構成とすることにより、発熱性素子で発熱した熱は発熱性素子の上部に形成した樹脂保護膜からも赤外線として放射させることができるので、さらに大きな電力を印加することができるシート状回路基板を実現できる。なお、樹脂保護膜としては、熱伝導率が大きく、かつ赤外光範囲での放射率が少なくとも第1の熱伝導膜の放射率より大きな材料が望ましい。このような材料を用いることにより、樹脂保護膜からも赤外放射を効率よく行い、放熱させることができる。また、発熱性素子からの熱は樹脂保護膜に対して熱伝導により伝達されることから、熱伝導率が大きい材料であることも望ましい。例えば、樹脂として、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、塩化ビニル樹脂等を用い、この樹脂中にカーボンや炭化珪素等の微粒子を分散させたものをペースト状にして印刷等の公知の方法で発熱性素子上に形成すればよい。
【0025】
また、本発明のシート状回路基板の製造方法は、赤外光を透過する樹脂からなるシート基板の表面を粗面化する工程と、粗面化されたシート基板上にシート基板の赤外光透過範囲において第1の熱伝導膜の放射率より少なくとも大きな放射率を有する熱放射膜およびこの熱放射膜上に上記第1の熱伝導膜を積層してなる放熱用薄膜層を形成する工程と、第1の熱伝導膜上に発熱性素子を形成する工程とを含む方法からなる。
【0026】
このような方法とすることにより、シート基板の表面が粗面化されているので熱放射膜の表面積が増加し、赤外放射率を向上できる。この結果、放熱効率を大きくすることができる。なお、粗面化の方法としては、例えばシート基板を真空装置内に配置してイオンを照射することで、微少な凹凸をシート基板表面に形成する方法が望ましい。この方法による粗面は非常に微少な凹凸を均一に形成できるので、シート基板上に再現性よく、かつ特性の安定な薄膜素子を形成することができる。
【0027】
また、上記方法において、放熱用薄膜層として、第1の熱伝導膜と熱放射膜との間に第1の熱伝導膜より大きな形状の第2の熱伝導膜をさらに形成し、熱放射膜の形状を第2の熱伝導膜の形状と同一以上に形成する方法としてもよい。
【0028】
このような方法により、発熱性素子で発生した熱をさらに効率よく放熱させることができる。
【0029】
また、上記方法において、発熱性素子を覆うように赤外光範囲での放射率が第1の熱伝導膜の熱放射率以上である樹脂保護膜をさらに形成する方法としてもよい。このような特性を有する樹脂保護膜を形成することで、シート基板を介して放熱させるだけでなく樹脂保護膜を通しての放熱もできるのでさらに放熱特性を改善できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のシート状回路基板は、赤外光を透過する樹脂からなるシート基板上に形成された薄膜素子のうち通電することで発熱する発熱性素子とシート基板との間に放熱用薄膜層を設け、この放熱用薄膜層に熱伝導により伝達された熱を熱放射膜から赤外線としてシート基板を介して空中に放射することで放熱させる構成である。これにより、発熱性素子に対して大きな電力を印加することができるので、フレキシブル性を有しながら高機能で薄型のシート状回路基板を実現できるという大きな効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の実施の形態について、以下図面を参照して詳細に説明する。なお、同じ構成要素については同じ符号を付しているので説明を省略する場合がある。
【0032】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態にかかるシート状回路基板10の構成の一例を示す図である。図1において、(a)は平面図であり、(b)はA−A線に沿って切断した断面図である。
【0033】
本実施の形態においては、シート状回路基板10として、樹脂、例えばポリイミドフィルムからなるシート基板12上に、薄膜素子のうち通電により発熱する発熱性素子として薄膜抵抗22が形成されている場合を例として説明する。
【0034】
本実施の形態では、シート基板12上に、熱放射膜20、第1の熱伝導膜18および抵抗膜14が、この順番に形成されている。しかも、熱放射膜20、第1の熱伝導膜18および抵抗膜14は同じ形状としてある。また、第1の熱伝導膜18は、抵抗膜14より熱伝導率が大きく、かつその厚みも厚いが、両側に設けられている接続電極16a、16bの厚みよりは薄く形成されている。放熱用薄膜層は、本実施の形態ではこの第1の熱伝導膜18と熱放射膜20とをいう。なお、両側に形成されている接続電極16a、16bと抵抗膜14とにより薄膜抵抗22が構成されている。さらに、接続電極16a、16bは、配線パターン16の一部でもあり、この配線パターン16により外部機器の接続端子やシート基板12上の他の薄膜素子(図示せず)との接続も同時に行っている。
【0035】
上記の構成とすることにより、本実施の形態のシート状回路基板10は硬質な薄膜である第1の熱伝導膜18が抵抗膜14と同じ形状に形成されているため、フレキシブル性を充分に保持することができる。しかも、発熱性素子である薄膜抵抗22で発生する熱を赤外輻射として効率よく放熱できる。したがって、携帯用電子機器の筐体等に折り曲げて収納する場合等に効果的である。
【0036】
本実施の形態のシート状回路基板10の製造方法について、以下説明する。最初に、シート基板12上に抵抗膜14と同じ形状の開口部を設けたメタルマスクを密着させて固定する。メタルマスクが密着固定されたシート基板12を真空装置内の所定の位置に配置した後、真空蒸着あるいはスパッタリング等の成膜方式を用いて熱放射膜20、第1の熱伝導膜18および抵抗膜を順次、この順番で成膜する。
【0037】
つぎに、配線パターン16を同様に真空蒸着あるいはスパッタリング等の一般的な成膜方式により、例えばアルミニウム(Al)等の金属薄膜を形成する。この配線パターン16もメタルマスクを用いて成膜時に同時に所定のパターン形成を行うことができる。あるいは、シート基板12の全面に金属薄膜を形成後、フォトリソグラフィープロセスとエッチングプロセスにより加工してもよい。
【0038】
これにより、シート基板12上のあらかじめ設定した位置に設定した形状と抵抗値を有する薄膜抵抗22が設けられたシート状回路基板10が得られる。
【0039】
つぎに、これらの材料について説明する。
【0040】
熱放射膜20は、シート基板12の赤外光透過範囲での放射率が大きく、かつシート基板12との密着性が大きく、さらに第1の熱伝導膜18からの熱により短時間に温度上昇することが要求されるために、比較的熱伝導率の大きな材料を用いることが望ましい。例えば、ジルコニア(ZrO)、酸化ケイ素とアルミナとの混合物(SiOとAlとの混合物)、マグネシア(MgO)、マグネシア、アルミナおよび酸化ケイ素の混合物(MgO、AlおよびSiOの混合物)等をスパッタリングで成膜すればよい。さらに、カーボン薄膜、還元酸化チタンの薄膜、あるいは窒化アルミニウムと酸化アルミニウムの混合薄膜(AlNとAlとの混合薄膜)等でもよい。これらの材料は、シート基板12の透過波長である約7μm以上の赤外光範囲における放射率が0.8以上である。また、これらの材料はシート基板12である樹脂に比べると熱伝導率が大きいので、第1の熱伝導膜18から熱を受けるとすぐに温度上昇し、その温度に応じた赤外線を放射し、放熱を行うことができる。なお、熱放射膜20の厚みについては、特に制約はない。
【0041】
さらに、熱放射膜20としては、上記の材料だけでなく、放射率の大きな材料と熱伝導率の大きな材料とを混合させた薄膜としてもよい。例えば、放射率の大きな材料であるジルコニア(ZrO)と熱伝導率の大きな炭化珪素(SiC)あるいは窒化アルミニウム(AlN)とを所定の割合で混合したターゲットを用いてスパッタリングによりシート基板12上に熱放射膜20を形成してもよい。このような方法とすれば、放射率と熱伝導率の大きな熱放射膜20を得ることができ、かつ成膜法としても簡単であるので生産性を阻害することがない。
【0042】
また、熱放射膜20を形成する前にシート基板12の表面を、例えば酸素プラズマで処理するとシート基板12の表面に微細な凹凸を作ることができるので、このような微細な凹凸を設けた後に熱放射膜20を形成してもよい。このように微細な凹凸を設けても、薄膜抵抗の特性に対しては特に大きな影響を生じずに、熱放射膜20の放射率をさらに大きくすることができる。
【0043】
つぎに、第1の熱伝導膜18は、抵抗膜14に接して形成するために絶縁性であることが要求される。さらに、熱伝導率は抵抗膜14より大きく、かつその熱膨張係数も抵抗膜14に近い値であることが望ましい。このような材料としては、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)等の窒化物薄膜または炭化物薄膜を用いることができる。
【0044】
さらに、酸化アルミニウム(Al)等の酸化物薄膜でもよい。なお、窒化珪素は化学量論組成の薄膜である必要はない。さらに、炭化珪素の場合には、例えばスパッタリングで成膜するときに放電ガス中に水素を添加すると水素化した炭化珪素膜が得られる。この水素化した炭化珪素は非常に高抵抗であるので、第1の熱伝導膜18として適している。また、熱放射膜20の場合と同様に、熱伝導率の大きな材料同士を混合してスパッタリングで第1の熱伝導膜18を形成してもよい。このような方法とすれば、単体では電気伝導性を有するために使用できない材料であっても絶縁性の材料を混合することで、絶縁性を付与しながら大きな熱伝導率を有する第1の熱伝導膜18を容易に得ることができる。
【0045】
このような材料を用いた第1の熱伝導膜18は熱伝導率が大きく、かつ絶縁性を有しているので、抵抗膜14の下部に形成すると抵抗膜14で発生した熱を速やかに伝熱する。また、一般的に抵抗膜14で発生する熱は膜全体で均一に発生することはなく局所的に発熱しやすい。このような局所的な発熱が生じても、この第1の熱伝導膜18で速やかに拡散して均一化される。この結果、抵抗膜14の劣化を抑制できる。
【0046】
抵抗膜14は、ニクロム合金(Ni−Cr)や窒化タンタル(TaN)等の単一材料だけでなく、金属と酸化物との混合膜等、一般に薄膜抵抗として用いられている材料が使用可能である。この抵抗膜14は、作製する薄膜抵抗の抵抗値に応じて材料を選択するが、高抵抗値が要求される場合には膜厚を薄くすることで対応するのが一般的である。このために、高抵抗値の薄膜抵抗ほど発熱による劣化が生じやすい。
【0047】
なお、熱放射膜20、第1の熱伝導膜18および抵抗膜14については、メタルマスクを用いて成膜と同時にパターン形成する方法について説明したが、この方法には限定されない。例えば、シート基板12の全面に熱放射膜20、第1の熱伝導膜18および抵抗膜14を連続して成膜した後、フォトリソプロセスとエッチングプロセスを行って、図示するような所定の形状に加工してもよい。
【0048】
また、接続電極16a、16bをその一部とする配線パターン16は、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)あるいはモリブデン(Mo)等の単層膜を用いることができるだけでなく、これらの積層構成膜でもよい。例えば、下層側にチタン(Ti)膜を形成し、その上層に銅(Cu)膜を形成したTi−Cu二層構成膜としてもよい。このような膜構成とすれば、シート基板との密着性の向上と他の基板との接続も容易にできる。なお、配線パターン16の所定の位置には、外部機器との接続のために電極端子(図示せず)を設けることが多い。この電極端子は、例えばめっきにより形成され、銅(Cu)膜とこの銅(Cu)膜上に金(Au)膜を形成すれば半田付け可能な電極端子を得ることができる。
【0049】
なお、本実施の形態では、シート基板12としてポリイミドフィルムを例として説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂で、赤外透過特性を有し、かつ絶縁性があれば特に制約なく使用可能である。
【0050】
以下、本実施の形態のシート状回路基板10(以下、実施例1とよぶ)と抵抗膜の下部に放熱用薄膜層を設けていない場合の投入可能電力を比較した例について説明する。以下、これを比較例1とよぶ。実施例1と比較例1とは、シート基板、抵抗膜および配線パターンの材料、形状および厚み等については同様とした。したがって、比較例1と実施例1との差異は抵抗膜の下部の放熱用薄膜層の有無のみである。このようにして作製した実施例1と比較例1について、配線パターンを介して通電して電流値と焼損発生との関係を調べた。この結果、比較例1が焼損するときの電流値に対して、実施例1では20倍程度大きな電流値であっても焼損等が生じないことが確認できた。また、抵抗値を高くするために抵抗膜の膜厚を薄くすればするほど、比較例1に比べた改善効果が大きくなることも確認できた。
【0051】
なお、本実施の形態では、発熱性素子として薄膜抵抗22のみを例として説明したが、このような薄膜抵抗を複数個含んでいてもよく、さらにこのような薄膜抵抗とコンデンサあるいは薄膜抵抗とコンデンサおよびインダクター等を含むシート状回路基板であってもよい。また、本実施の形態においては、薄膜抵抗の表面に保護膜を形成しない構成について説明したが、薄膜抵抗を覆うような保護膜を形成してもよい。その保護膜としては、例えば熱硬化型あるいは紫外線硬化型のポリイミド樹脂、エポキシ樹脂あるいはシリコーン樹脂等を用いることができる。
【0052】
(第2の実施の形態)
図2は、本発明の第2の実施の形態にかかるシート状回路基板30の構成を説明するための平面図と断面図である。図2において、(a)は平面図であり、(b)は(a)に示すB−B線に沿った断面図で、(c)は(a)に示すC−C線に沿った断面図である。
【0053】
本実施の形態では、シート基板32上に熱放射膜42、第2の熱伝導膜40、第1の熱伝導膜38および発熱性素子である薄膜抵抗を構成する抵抗膜34が、この順に形成されている。また、熱放射膜42と第2の熱伝導膜40とは同じ形状であり、同様に第1の熱伝導膜38と抵抗膜34とは同じ形状である。さらに、第1の熱伝導膜38は、抵抗膜34より熱伝導率が大きい材料を用い、その厚みは抵抗膜34より厚く、両側に設けられている接続電極36a、36bの厚みより薄く形成されている。同様に、第2の熱伝導膜40も接続電極36a、36bの厚みより薄く形成されている。本実施の形態では、放熱用薄膜層は第1の熱伝導膜38、第2の熱伝導膜40および熱放射膜42を含む構成をいう。
【0054】
なお、両側に形成されている接続電極36a、36bと抵抗膜34とにより薄膜抵抗24が構成されている。また、接続電極36a、36bは配線パターン36の一部であり、この配線パターン36により外部機器の接続端子およびシート基板32上の他の薄膜素子(図示せず)との接続も行っている。
【0055】
本実施の形態のシート状回路基板30の製造方法について、以下説明する。最初に、シート基板32上に熱放射膜42および第2の熱伝導膜40と同じ形状の開口部を設けたメタルマスクを密着させて固定する。メタルマスクが密着固定されたシート基板32を真空装置内の所定の位置に配置した後、真空蒸着あるいはスパッタリング等の成膜方式を用いて熱放射膜42および第2の熱伝導膜40を順次、この順番で成膜する。これにより、シート基板32上に所定の形状の熱放射膜42と第2の熱伝導膜40とが形成される。
【0056】
この後、抵抗膜34と同じ形状の開口部を設けた別のメタルマスクをシート基板32に密着固定させる。このとき、メタルマスクの開口部が第2の熱伝導膜40上に位置するように配置する。なお、第2の熱伝導膜40は抵抗膜34より大きな形状としてあるので、第2の熱伝導膜40上に位置合せすることは比較的容易に行える。メタルマスクを密着固定したシート基板32を真空装置内の所定の位置に配置した後、真空蒸着あるいはスパッタリング等の成膜方式を用いて第1の熱伝導膜38と抵抗膜34とを、この順番で成膜する。これにより、第2の熱伝導膜40上に第1の熱伝導膜38と抵抗膜34とが形成される。
【0057】
つぎに、配線パターン36と同じ形状の開口部を有するメタルマスクをシート基板に密着固定する。このとき、接続電極36a、36bが抵抗膜34の両端部と接続するように位置合せを行う。メタルマスクが密着固定されたシート基板を真空装置内の所定の位置に配置した後、真空蒸着あるいはスパッタリング等の成膜方式を用いて配線パターン36となる金属薄膜、例えばアルミニウム(Al)薄膜を形成する。
【0058】
なお、熱放射膜42、第2の熱伝導膜40、第1の熱伝導膜38、抵抗膜34および配線パターン36は本実施の形態のようにメタルマスクで形成する方法だけでなく、シート基板32の全面に形成後フォトリソグラフィープロセスとエッチングプロセスによりそれぞれ加工する方法により作製してもよい。
【0059】
熱放射膜42、第1の熱伝導膜38および抵抗膜34は、第1の実施の形態で説明した材料および膜厚と同じにすればよいので説明を省略する。
【0060】
第2の熱伝導膜40は、第1の熱伝導膜38と同じ材料を用いてもよいし、第1の実施の形態で説明した材料から適宜選択した別の材料でもよい。本実施の形態では、第1の熱伝導膜38は抵抗膜34と同じ形状で、その厚みは抵抗膜34より厚く、接続電極36a、36bより薄くしている。また、第2の熱伝導膜40も接続電極36a、36bより薄く形成している。したがって、抵抗膜34と接続電極36a、36bとの間で接続不良が生じることがない。一方、抵抗膜34で発生した熱は、第1の熱伝導膜38により拡散され、さらに第2の熱伝導膜40の全面に伝達される。これにより、この第2の熱伝導膜40に接している熱放射膜は全面で比較的均一な温度上昇を生じ、この温度に基づく赤外線が熱放射膜42からシート基板32を介して空中へ放射されることで放熱が行われる。
【0061】
以上説明したように、本実施の形態では、抵抗膜と同じ形状の第1の熱伝導膜に加えて、この第1の熱伝導膜より大きな形状を有する第2の熱伝導膜を形成し、この第2の熱伝導膜の下部に熱放射膜を設けた構成としたので、抵抗膜と接続電極との接続不良を防止しながら、さらに熱放射量を大きくすることができる。この結果、さらに大きな電力が印加されても安定で信頼性の高いシート状回路基板を実現できる。
【0062】
以下、本実施の形態のシート状回路基板30(以下、実施例2とよぶ)と第1の実施の形態で作製した比較例1とについて、投入可能電力を比較した例について説明する。実施例2と比較例1とは、シート基板、抵抗膜および配線パターンの材料、形状および厚み等については同様とした。したがって、比較例1と実施例2とは、抵抗膜の下部に第1の熱伝導膜、第2の熱伝導膜および熱放射膜を設けた構成の差異である。このようにして作製した実施例2と比較例1について、配線パターンを介して通電し電流値と焼損発生との関係を調べた。この結果、比較例1が焼損するときの電流値に対して、実施例2では50倍程度大きな電流値であっても焼損等が生じないことが確認できた。また、抵抗値を高くするために抵抗膜の膜厚を薄くすればするほど、比較例1に比べた改善効果が大きくなることも第1の実施の形態と同様であった。
【0063】
なお、本実施の形態では、発熱性素子として薄膜抵抗のみを例として説明したが、このような薄膜抵抗を複数個含んでいてもよく、さらにこのような薄膜抵抗とコンデンサあるいは薄膜抵抗とコンデンサおよびインダクター等を含むシート状回路基板であってもよい。また、本実施の形態においては、薄膜抵抗の表面に保護膜を形成しない構成について説明したが、薄膜抵抗を覆うような保護膜を形成してもよい。その保護膜としては、例えば熱硬化型あるいは紫外線硬化型のポリイミド樹脂、エポキシ樹脂あるいはシリコーン樹脂等を用いることができる。
【0064】
(第3の実施の形態)
図3および図4は、本発明の第3の実施の形態にかかるシート状回路基板50、60の構成を説明するための断面図である。図3に示す本実施の形態のシート状回路基板50は、第1の実施の形態で説明したシート状回路基板10の抵抗膜14を含む領域に第1の熱伝導膜の放射率より少なくとも大きな放射率を有する樹脂保護膜44を形成したことが特徴である。
【0065】
また、図4に示す本実施の形態の別の構成であるシート状回路基板60は、第2の実施の形態で説明したシート状回路基板30の抵抗膜34を含む領域に第1の熱伝導膜の放射率より少なくとも大きな放射率を有する樹脂保護膜46を形成したことが特徴である。
【0066】
このような樹脂保護膜44、46としては、熱伝導性が大きく、かつ放射率が0.8以上である材料が望ましい。放射率が0.9以上とすれば、さらに法熱効率が改善されるので望ましい。また、発熱性素子からの熱は樹脂保護膜44、46に対して熱伝導により伝達されることから、熱伝導率が大きい材料であることも望ましい。本実施の形態では、例えば、エポキシ樹脂を用いて、この樹脂中にカーボンの微粒子を分散させたものをペースト状にして、抵抗膜14、34の近傍領域のみにディスペンサーにより塗布し、加熱硬化させた。
【0067】
このような構成とすることで、シート基板12、32を介しての熱放射と同時に樹脂保護膜44、46からの熱放射も生じるので、さらに大きな電力を印加することができ回路設計の自由度の大きなシート状回路基板を実現できる。
【0068】
なお、本実施の形態では、発熱性素子として薄膜抵抗22、24のみを例として説明したが、このような薄膜抵抗を複数個含んでいてもよく、さらにこのような薄膜抵抗とコンデンサあるいは薄膜抵抗とコンデンサおよびインダクター等を含むシート状回路基板であってもよい。また、本実施の形態においては、薄膜抵抗の表面に保護膜を形成しない構成について説明したが、薄膜抵抗を覆うような保護膜を形成してもよい。その保護膜としては、例えば熱硬化型あるいは紫外線硬化型のポリイミド樹脂、エポキシ樹脂あるいはシリコーン樹脂等を用いることができる。
【0069】
このように、発熱性素子である薄膜抵抗の領域部のみに樹脂保護膜を形成することで、熱放射による放熱性をさらに改善しながらフレキシブル性を保持することができる。
【0070】
なお、第1の実施の形態と第2の実施の形態においては、薄膜抵抗の抵抗膜の表面には保護膜を形成しない構成で説明したが、一般的に使用されているソルダーレジスト等の保護膜を形成することは、本発明の効果を妨げない。また、抵抗膜上に無機保護膜を形成することについても同様に本発明の効果を妨げない。
【0071】
さらに、第3の実施の形態では、抵抗膜上に樹脂保護膜を形成したが、この樹脂保護膜上を含めてシート基板上に保護膜をさらに形成しても本発明の効果は妨げられない。
【0072】
また、第1の実施の形態から第3の実施の形態までは、発熱性素子が薄膜抵抗である場合について説明したが、本発明は薄膜抵抗のみに限定されない。例えば、図5に示すように薄膜素子である発熱性素子がインダクター素子であってもよい。図5は、発熱性素子がインダクター素子である場合についてのシート状回路基板70の構成を説明するための平面図と断面図である。図5(a)は平面図であり、図5(b)は図5(a)に示すC−C線に沿って切断した断面図である。
【0073】
このシート状回路基板70の場合には、シート基板72上に、熱放射膜74、第1の熱伝導膜76およびインダクター素子78が、この順番に形成されている。インダクター素子78は、端子部82、84と、これらの端子部に接続するコイル部80とから構成されており、端子部82はジャンパー線88を介して配線電極86に接続され、もう一方の端子部84は直接配線電極86に接続されている。なお、コイル部80、端子部82、84は同じ導体膜により形成される。第1の熱伝導膜76は、インダクター素子78と同じ外形であり、一方、熱放射膜74は第1の熱伝導膜76より広い面積に形成している。
【0074】
上記の構成とすることにより、このシート状回路基板70はインダクター素子部の下部領域のみに硬質で、かつ絶縁性の薄膜である第1の熱伝導膜76が形成されているので、全体としてはフレキシブル性を保持する。しかも、インダクター素子78で発熱した熱は、コイル部80の下部領域の第1の熱伝導膜76だけでなく、隣接するコイル部80の間の第1の熱伝導膜76にも伝熱される。さらにこの熱は、第1の熱伝導膜76から熱放射膜74の全面に熱伝導する結果、熱放射膜74は全面に渡って比較的均一な温度上昇を生じる。その結果、その温度上昇に伴う赤外線をシート基板72を介して熱放射膜74の全面から輻射するので、効率よく放熱できる。
【0075】
なお、図5に示すインダクター素子を設けたシート状回路基板70は、第1の実施の形態で説明した製造方法とほぼ同じ方法により製造することができるので説明は省略する。また、図5では、インダクター素子78を保護する樹脂保護膜を形成していない構成を示しているが、第3の実施の形態で説明したような樹脂保護膜を形成してもよい。
【0076】
さらに、図5に示すインダクター素子を設けたシート状回路基板70においては、端子部82はコイル部80により囲まれているのでジャンパー線88を用いてシート基板72の表面に形成された配線電極86と接続する構成であるが、このような接続方法には限定されない。すなわち、端子部82およびコイル部80を含む面上に絶縁層を形成し、端子部82上の絶縁層に開口部を形成した後、上層配線層を形成してシート基板72に形成した配線電極と接続してもよい。このように絶縁層を形成する構成とした場合には、図5に示すようなシート基板を介して放熱させる構成は特に有効である。
【0077】
さらに、第1の実施の形態から第3の実施の形態では、薄膜抵抗とインダクター素子を例として説明したが、本発明はこれらの素子に限定されることはない。例えば、高周波回路等でコンデンサ素子が発熱する場合には、コンデンサ素子を発熱性素子として本発明の構成を適用してもよい。また、第1の実施の形態から第3の実施の形態では、薄膜抵抗やインダクター素子を例として個別の発熱性素子を設けたシート状回路基板について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、薄膜抵抗、インダクター素子およびコンデンサ素子等を1個以上含む回路構成のシート状回路基板であっても、上記と同様な構成および製造方法により作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のシート状回路基板は、樹脂からなるシート基板上に形成された薄膜素子のうち、通電により発熱する発熱性素子で発生した熱を赤外線として放射し放熱させることで、定格電力を大きくでき、設計の自由度が大きく、高信頼性のシート状回路基板を得ることができ、携帯電話等の携帯用電子機器分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】(a)本発明の第1の実施の形態にかかるシート状回路基板の構成の一例を示す平面図(b)同断面図
【図2】(a)本発明の第2の実施の形態にかかるシート状回路基板の構成を説明するための平面図と(b)同断面図(c)同C−C断面図
【図3】本発明の第3の実施の形態にかかるシート状回路基板の構成を説明するための断面図
【図4】同実施の形態にかかるシート状回路基板の別の構成を説明するための断面図
【図5】(a)本発明の第1の実施の形態から第3の実施の形態において、発熱性素子がインダクター素子である場合についてのシート状回路基板の構成を説明するための平面図(b)同断面図
【符号の説明】
【0080】
10,30,50,60,70 シート状回路基板
12,32,72 シート基板
14,34 抵抗膜
16,36 配線パターン
16a,16b,36a,36b 接続電極
18,38,76 第1の熱伝導膜
20,42,74 熱放射膜
22,24 薄膜抵抗(発熱性素子)
40 第2の熱伝導膜
44,46 樹脂保護膜
78 インダクター素子
80 コイル部
82,84 端子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光を透過する樹脂からなるシート基板と、
前記シート基板上に形成された薄膜素子と、
前記薄膜素子のうち通電することで発熱する発熱性素子と前記シート基板との間に設けた放熱用薄膜層とを含み、
前記放熱用薄膜層は、前記発熱性素子に接して形成された第1の熱伝導膜と、前記シート基板に接して形成され、前記第1の熱伝導膜より少なくとも大きな形状を有する熱放射膜の少なくとも二層構成からなり、前記第1の熱伝導膜は少なくとも前記発熱性素子と同じ形状を有する絶縁膜であり、前記熱放射膜は前記シート基板の赤外光透過範囲において前記第1の熱伝導膜より少なくともその放射率が大きな材料を用いたことを特徴とするシート状回路基板。
【請求項2】
前記発熱性素子は薄膜抵抗であり、
前記第1の熱伝導膜は前記薄膜抵抗の抵抗膜に接して形成され、前記抵抗膜と同じ形状で、その膜厚は前記抵抗膜より厚く、かつ前記抵抗膜に接続する接続電極より薄いことを特徴とする請求項1に記載のシート状回路基板。
【請求項3】
前記発熱性素子は薄膜抵抗であり、
前記放熱用薄膜層は、前記第1の熱伝導膜と前記熱放射膜との間に前記第1の熱伝導膜より大きな形状の第2の熱伝導膜をさらに有し、前記熱放射膜の形状を前記第2の熱伝導膜の形状と同一以上としたことを特徴とする請求項1に記載のシート状回路基板。
【請求項4】
前記発熱性素子の上部に前記発熱性素子を覆う樹脂保護膜が形成されており、前記樹脂保護膜の赤外光範囲での放射率が前記第1の熱伝導膜の放射率より少なくとも大きな材料を用いたことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のシート状回路基板。
【請求項5】
赤外光を透過する樹脂からなるシート基板の表面を粗面化する工程と、
粗面化された前記シート基板上に、前記シート基板の赤外光透過範囲において第1の熱伝導膜の放射率より少なくとも大きな放射率を有する熱放射膜および前記熱放射膜上に前記第1の熱伝導膜を積層してなる放熱用薄膜層を形成する工程と、
前記第1の熱伝導膜上に発熱性素子を形成する工程とを含むことを特徴とするシート状回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記放熱用薄膜層として、前記第1の熱伝導膜と前記熱放射膜との間に前記第1の熱伝導膜より大きな形状の第2の熱伝導膜をさらに形成し、前記熱放射膜の形状を前記第2の熱伝導膜の形状と同一以上に形成したことを特徴とする請求項5に記載のシート状回路基板の製造方法。
【請求項7】
前記発熱性素子を覆うように、赤外光範囲での放射率が前記第1の熱伝導膜の熱放射率以上である樹脂保護膜をさらに形成することを特徴とする請求項5または請求項6に記載のシート状回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−140377(P2006−140377A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330207(P2004−330207)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】