説明

シールリングを用いた密封装置

【課題】PTFE製のシールリングを製造する際に、加熱(焼成)工程などで形状変化や寸法変化がないようにし、内外径面の仕上げ旋削加工を不要とするシールリングとし、またはその製造方法とすることである。
【解決手段】シールリングAは、四フッ化エチレン樹脂粉末を主成分とする円筒形圧縮成形体1からなり、その内周面に仕上げ寸法の円柱型の金型2を嵌め、次いでその圧縮成形品の全体を四フッ化エチレン樹脂の融点以上に加熱して焼成し、円筒形圧縮成形体1の内周面に金型2による溶融成形層を形成し、円筒形圧縮成形体1を軸方向に所要幅で切断して製造する。焼成前に予想した通りの内径寸法と外径寸法が得られ、内・外径を旋削によって修正せずとも仕上げ面として使用できるシールリングを製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、四フッ化エチレン樹脂からなるシールリングおよびその製造方法に関し、特に作動油などのオイルを密封するのに適したオイルシールリングおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トルクコンバータや油圧式クラッチなどの自動変速機や無段変速機には、作動油の漏洩を防止する密封(オイルシール)用のシールリングが要所に取り付けられている。
【0003】
図3および図4に示すように、シールリングを用いた密封装置は、ケーシング3内に組み込まれた軸4の外周にリング溝5を形成し、そのリング溝5内にシールリングAを組み込んだものであり、シールリングAの一側面6に作動油圧が作用したとき、シールリングAの他側面7をリング溝5の側面に密着させ、それと共にシールリングAの内周面に作用する作動油圧によってシールリングAを拡径させて外径面A2をケーシング3の内周面3aに密着させ、その密着によってケーシング3と軸4との摺動面を液密に密封する作用が求められる。
【0004】
合成樹脂製のシールリングには、充分なオイルシール性、耐摩耗性および製造効率を全て満足するように素材の改良もなされ、そのひとつとして射出成形可能なポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)を用いたシールリングが知られている。
【0005】
しかし、PEEK製のシールリングは、現在の材料価格が比較的高価であるため、低圧力、低速度での摺動条件では、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)からなるシールリングの方が実用上有利である。
【0006】
ところでPTFE製シールリングは、PEEKのようには射出成形ができない材料であるため、例えばラム押出し成形によって製作したチューブ素材を用い、その内外径を旋削加工し、シールリングの幅方向へ所定寸法で裁断することによりシールリング形状に製造していた(特許文献1)。
【0007】
そして、PTFE製シールリングの製造効率を上げる技術としては、自動圧縮成形(オートモールド)が知られている。オートモールド成形は、PTFE粉末を計量した後、金型内に自動的に充填し、ラムによって圧縮力を加えて予備成形して金型から取り出し、これをPTFEの融点以上で焼成する方法である(非特許文献1)。
【0008】
PTFE製シールリングの成形では、シールリングの内外径の寸法に圧縮成形した筒状素材を焼成し、その軸方向長さをリングの幅として所要幅でカットすれば、内外径面の仕上げ旋削加工が不要であるので、製造工程数がそれだけ少なくなり、材料の損失も少なくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−225999号公報(請求項1、図1参照)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日刊工業新聞社、1988年9月15日発行、「工業材料」、第36巻第13号、第109頁乃至第110頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、PTFE製シールリングの成形では、圧縮成形した筒状素材を焼成する際に、熱による形状変化や寸法変化が起こるので、旋削加工を省略できるまでには寸法精度を高められなかった。
【0012】
さらに、前記した焼成する環境(設備等の条件)が異なれば、寸法変化率も異なるので、寸法変化を予測したりその修正をしたりすることは容易でなく、実質的に内外径面の仕上げ旋削加工を不要とすることはできなかった。
【0013】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、PTFE製のシールリングを製造する際に、加熱(焼成)工程などでの形状変化や寸法変化がないように改良し、内外径面の仕上げ旋削加工を不要とするシールリングとし、もしくは寸法変化を予測したりその修正をしたりすることを容易とし、またはそのような利点のあるシールリングの製造方法とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、この発明では、四フッ化エチレン樹脂粉末を主成分とする圧縮成形体からなるシールリングにおいて、このシールリングの内周面および外周面のうち少なくとも内周面が、仕上げ寸法の金型で形成された溶融成形層からなることを特徴とするシールリングとしたのである。
【0015】
上記したように構成されるこの発明のシールリングは、圧縮成形体の内周面が溶融成形層で形成され、この内周面は射出成形されたものと同程度に寸法精度の高い仕上げ面であり、またこの面は仕上げ寸法の金型で形成されているので、所期した寸法の内径であると共に、仕上げ性確保のための旋削加工を行なう必要のないものとなり、または焼成後の寸法変化が一定になり、修正幅を予測して容易に仕上げ寸法に修正できるものとなる。
【0016】
すなわち、四フッ化エチレン樹脂製のシールリングが、内外径面の仕上げ旋削加工を不要とするか、または一定の製品寸法に容易に修正できるシールリングになる。
【0017】
また、シールリングの製造方法に係る発明では、四フッ化エチレン樹脂からなる成形体材料を円筒形に圧縮成形し、この円筒形圧縮成形体の内周面、または内周面と共に外周面に仕上げ寸法の金型を嵌め、次いで前記金型を四フッ化エチレン樹脂の融点以上に加熱して前記円筒形圧縮成形体の内・外周面に金型による溶融成形層を形成することからなるシールリングの製造方法としたのである。
【0018】
上記した工程からなるこの発明のシールリングの製造方法では、円筒形圧縮成形体の内周面および外周面に仕上げ寸法の金型を嵌めて、この状態で前記金型を四フッ化エチレン樹脂の融点以上に加熱することにより、円筒形圧縮成形体が加熱時に収縮することで内・外径が小さくなると共にそれらの表面が溶融し、所定寸法の金型に接して内周面、または内周面と共に外周面が射出成形されたようになり寸法精度の高い溶融成形面に形成される。
【0019】
所定幅のシールリングを製造するには、上記の内周面、または内周面と共に外周面に溶融成形層を形成した円筒形圧縮成形体を軸方向に所要幅で切断するだけでよく、内周面および外周面については旋削せずともこれを仕上げ面とするシールリングを効率よく製造できる。
【発明の効果】
【0020】
この発明は、以上説明したように、四フッ化エチレン樹脂粉末を主成分とする圧縮成形体からなるシールリングにおいて、その内周面および外周面のうち少なくとも内周面が、仕上げ寸法の金型で形成された溶融成形層からなるので、圧縮成形体の表面が射出成形されたように滑らかに形成され、かつ仕上げ寸法の金型で所定寸法に形成される。そのため、PTFE製のシールリングを製造する工程で必要な焼成工程での形状変化や寸法変化がなくなり、内外径面の仕上げ旋削加工が不要なシールリングが得られる利点がある。
【0021】
また、この発明のシールリングの製造方法では、円筒形圧縮成形体の内周面および外周面に仕上げ寸法の金型を嵌めて四フッ化エチレン樹脂の融点以上に加熱することにより、円筒形圧縮成形体の内・外周面の表面が加熱時に収縮することで内径が小さくなると共に溶融し、溶融した四フッ化エチレン樹脂は所定寸法の金型に接して所定寸法で滑らかな内周面および外周面が射出成形されたような溶融成形面として形成される。そのため、加熱(焼成)工程での形状変化や寸法変化がなく、内外径面の仕上げ旋削加工が不要なシールリングの製造方法になる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態の製造方法でシールリングをカットする円筒形圧縮成形体を示す斜視図
【図2】実施形態の製造方法で円筒形圧縮成形体の内周面に金型を嵌めた状態を示す斜視図
【図3】シールリングの使用状態を示す斜視図
【図4】シールリングの使用状態を示す要部拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1および図2に示すように、実施形態のシールリングAは、四フッ化エチレン樹脂粉末を主成分とする円筒形圧縮成形体1からなり、その内周面に仕上げ寸法の円柱型の金型2を嵌め、次いでその圧縮成形品の全体を四フッ化エチレン樹脂の融点以上に加熱して焼成し、円筒形圧縮成形体1の内周面1aに金型2による溶融成形層を形成し、円筒形圧縮成形体1を軸方向に所要幅で切断したものである。
【0024】
この発明のシールリングの組成は、四フッ化エチレン樹脂粉末を主成分とするが、この発明に用いる四フッ化エチレン樹脂粉末、すなわちポリテトラフルオロエチレン(CAS 9002-84-0)の粉末は、融点(327℃)以上に加熱されても溶融粘度が非常に高く、ゴム状弾性体にとどまり、流動性を示さないものであり、整粒により粒径をできるだけそろえた市販のモールディングパウダーまたはファインパウダーを用いることができる。
【0025】
四フッ化エチレン樹脂粉末を主成分とする圧縮成形体は、PTFE粉末を円筒体成形用の金型内に充填して定法により予備成形として圧縮成形を行なったものである。
【0026】
PTFEは、ガラス繊維および炭素繊維やウイスカなどの補強材や、黒鉛などの固体潤滑材が配合されたPTFE組成物であってもよい。因みに、成形のサイクルは、通常どおり10〜15秒程度であればよく、加圧保持時間を数秒以内とする場合には、予備成形圧力を1000〜2000kgf/cm2と高めにする。また、成形品の肉厚に対応して加圧保持時間を長くし、実際の最適な成形圧力、サイクルは目的のシールリングの大きさに合わせて実験的手段により定めることが好ましい。
【0027】
また、この発明に用いる仕上げ寸法の金型は、内周面および外周面のうち少なくとも内周面を成形するものであり、内周面成形用の金型は、圧縮成形体が焼成時の熱収縮により収縮した際に密接可能な径に設計された円柱(心棒)状の金型または円筒状の金型である。
【0028】
また、外周面成形用の金型は、特に圧縮成形体を密接させる必要はなくて、単に焼成時に外周面に均一な加熱を可能にする熱伝導性の良いハウジングであればよい。すなわち、金型は、熱伝導性が良くて熱膨張率の低い材質のものが好ましく、例えば防錆性も考慮するとステンレス鋼製のものが適当である。
【0029】
このような金型を用いてシールリングを焼成すると、焼成前に予想した通りの内径寸法と外径寸法が得られ、内・外径を旋削によって修正せずとも仕上げ面として使用できるシールリングを製造できる。
【実施例1】
【0030】
四フッ化エチレン樹脂〔PTFE〕約70重量%およびガラス繊維約25重量%を乾式混合した後、これを円筒型のシールリング圧縮成型用金型に入れて2000kg/cm2の圧力で予備成形し、図1および図2に示すように、外径約32mm、厚さ約1.7mmの円筒形圧縮成形体1の内周面に仕上げ寸法の円柱型でステンレス鋼製の金型2を嵌め、次いでその圧縮成形品の全体を370℃で焼成し、円筒形圧縮成形体1の内周面1aの表層部分に金型2による溶融成形層を形成した。
【0031】
実施例1のシールリング(5個、表1中のNo1〜5)の焼成前と焼成後の外径、肉厚、高さの最大寸法と最小寸法を計測し、これらの結果を表1に示した。
【0032】
また、仕上げ寸法の円柱型の金型2を内周面1aに嵌めなかったこと以外は、実施例1と全く同様に比較例1のシールリングを製造し、このシールリング(5個、表2中No6〜10)の焼成前と焼成後の外径、肉厚、高さの最大寸法と最小寸法を計測し、これらの結果を表2に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
表1および表2の結果からも明らかなように、比較例1は、焼成後の外形が楕円に変形し、シールリングとしては使用できないものになった。
これに対して、実施例1は、焼成前に比べて焼成後の方が、外径、肉厚、高さ共に最大部と最小部の差(変化量)は大きくなっているが、実施例1の変化量はNo1〜5について略一定であるから、焼成後の変化量が一定になったと言うことができ、そのために寸法調整(成型後の修正)が容易になり、すなわち製品寸法に合わせるための調整が可能となった。
【符号の説明】
【0036】
1 円筒形圧縮成形体
1a 内周面
2 金型
3 ケーシング
4 軸
5 リング溝
6 一側面
7 他側面
A シールリング
A1 内周面
A2 外周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四フッ化エチレン樹脂粉末を主成分とする圧縮成形体からなるシールリングにおいて、
このシールリングの内周面および外周面のうち少なくとも内周面が、仕上げ寸法として焼成時に収縮する際に密接可能な径に設計された円柱状または円筒状の金型で形成された溶融成形層からなることを特徴とするシールリング。
【請求項2】
四フッ化エチレン樹脂からなる成形体材料を円筒形に圧縮成形し、この円筒形圧縮成形体の内周面に仕上げ寸法として焼成時に収縮する際に密接可能な径に設計された円柱状または円筒状の金型を嵌め、次いで前記金型を四フッ化エチレン樹脂の融点以上に加熱して前記円筒形圧縮成形体の内周面に金型による溶融成形層を形成することからなるシールリングの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の内周面に溶融成形層を形成した円筒形圧縮成形体を軸方向に所要幅で切断することからなるシールリングの製造方法。
【請求項4】
四フッ化エチレン樹脂からなる成形体材料を円筒形に圧縮成形し、この円筒形圧縮成形体の内周面に仕上げ寸法として焼成時に収縮する際に密接可能な径に設計された円柱状または円筒状の金型を嵌めると共に外周面に仕上げ寸法の金型を嵌め、次いで前記金型を四フッ化エチレン樹脂の融点以上に加熱して前記円筒形圧縮成形体の内・外周面に金型による溶融成形層を形成することからなるシールリングの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の内・外周面に溶融成形層を形成した円筒形圧縮成形体を軸方向に所要幅で切断することからなるシールリングの製造方法。
【請求項6】
上記シールリングは、ケーシング内に組み込まれた軸の外周にリング溝を形成し、そのリング溝内にシールリングを組み込んだものであり、シールリングの一側面に作動油圧が作用したとき、シールリングの他側面をリング溝の側面に密着させ、それと共にシールリングの内周面に作用する作動油圧によってシールリングを拡径させて外周面をケーシングの内周面に密着させ、その密着によってケーシングと軸との摺動面を液密に密封するものである請求項1に記載のシールリング。
【請求項7】
上記シールリングは、ケーシング内に組み込まれた軸の外周にリング溝を形成し、そのリング溝内にシールリングを組み込んだものであり、シールリングの一側面に作動油圧が作用したとき、シールリングの他側面をリング溝の側面に密着させ、それと共にシールリングの内周面に作用する作動油圧によってシールリングを拡径させて外周面をケーシングの内周面に密着させ、その密着によってケーシングと軸との摺動面を液密に密封するものである請求項2〜5のいずれかに記載のシールリングの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−94801(P2011−94801A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278009(P2010−278009)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【分割の表示】特願2004−270019(P2004−270019)の分割
【原出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】