説明

シール構造

【課題】厚いアブレーダブル皮膜を得られ、それによりシール性能を向上させ得るシール構造を提供する。
【解決手段】回転軸3の周面からリング状に突出し、軸線方向Lに沿って少なくとも1個設けられたフィン5と、フィン5に対向する環状のシール面19を有し、シール面19にアブレーダブル材を溶射したアブレーダブル層25が形成されているシール部材9と、を備えるシール構造1であって、シール面19の軸線方向L端部に半径方向Kに傾斜したテーパ部21が備えられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械の回転軸部に用いられるシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン、ガスタービン、圧縮機等の回転機械では、回転軸部のシール構造として、たとえば、特許文献1および特許文献2に示されるような、いわゆる、ラビリンスシール構造が広く用いられている。
【0003】
ラビリンスシール構造は、回転軸あるいはこれと対向する静止部に、リング状に突出し、軸線方向に沿って複数設けられたフィンと、このフィンと対向する面(対向面)とで構成されている。フィンは、対向する面との接触による影響を緩和するため、先端を0.2mm程度に尖らせて加工しているが、本質的に金属同士の接触であるため、重接触時には摺動発熱量が大きく、軸振動を引き起こしてしまうことがあり、安易にフィンと対向面とのクリアランスを狭めることができない。
シール性能、言い換えると回転機械の性能は、フィンの数およびフィンと対向面とのクリアランスで決定されるので、回転機械の性能を向上させるには、フィンと対向面とのクリアランスを低減することが求められている。たとえば、特許文献1では、アクティブクリアランスコントロール(ACC)シールを適用し、起動時の過渡期と定格運転時とで差圧を利用してクリアランスが変化する構造としている。また、特許文献2では、静止部のフィンとの対向面の接触面に安易に切削されるアブレーダブル部分を適用し、接触時の発熱の低減を図っている。
【0004】
回転機械では、一般に定格回転速度域で回転軸が静定回転するように設計されており、起動後間もなく回転速度が上昇中に回転軸の振動レベルが最大になる速度域(以下これを危険速度域と呼ぶ)が存在する。回転軸はこの危険速度域を経て定格回転速度域に達することになる。また、起動時の温度差により静止部が不均一に変形し、上下の熱伸び差によりクリアランスが過渡的に最小となることがある。このように起動時にクリアランスが最小となった際にフィンと対向面が重接触すると、過度の摺動発熱により回転軸側が局所的に加熱されて軸曲がりが発生し、さらに重接触を引き起こすといった、悪循環を繰り返してしまう可能性がある。この点で、アブレーダブル材を適用すると、摺動発熱量そのものが小さく、ある程度まで接触を許容できる設計とすることができる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−228013号公報
【特許文献2】特開2003−65076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようにアブレーダブル材を適用することによりクリアランス設計上のメリットが大きく、アブレーダブル材としては種々の材料が知られている。タービン部材のようなリング形状で均一な膜厚が要求される部材では、たとえば内径溶射によるアブレーダブル材のコーティング(皮膜)が有効と考えられる。溶射プロセスでは、溶射された半溶融の粒子が基材(フィンの対向面)に付着した後、凝固する際に収縮するので、それに伴い残留応力が発生する。この残留応力は、皮膜が厚いほど大きくなる。この残留応力が大きくなると、基材と皮膜との境界で皮膜が剥離する(境界剥離が発生する)ことになる。これは、特に、タービンのリング部材のように曲面に施工する場合に顕著となる。また、皮膜の端部で影響が大きくなる傾向がある。
したがって、十分な厚さの皮膜を形成することが現実的に困難である。このため、安全性を重視し、定格回転速度域でのクリアランスを広げ、シール性能を制限せざるを得ないのが現状である。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、厚いアブレーダブル皮膜が得られ、それによりシール性能を向上させ得るシール構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明のシール構造は、回転部材の周面からリング状に突出し、軸線方向に沿って少なくとも1個設けられたフィンと、該フィンに対向する環状のシール面を有し、該シール面にアブレーダブル材を溶射したアブレーダブル皮膜が形成されているシール部材と、を備えるシール構造であって、前記シール面の軸線方向端部に半径方向に傾斜した傾斜部が備えられていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、シール面の軸線方向端部に半径方向に傾斜した傾斜部が備えられているので、傾斜部のアブレータブル皮膜は傾斜部の形状に沿って、すなわち、半径方向に傾斜した形に形成される。
したがって、傾斜部に形成されるアブレーダブル皮膜は、軸線方向中間部分に形成されるアブレーダブル皮膜とは異なる方向に積層されることになるので、アブレーダブル皮膜は、積層方向が傾斜部において変化する組織構造となる。
アブレーダブル皮膜の積層方向が変化すると、残留応力の作用方向が相互に異なることになるので、その影響を分断することができる。
【0010】
このように、軸線方向中間部分の影響を分離できるので、特に剥離し易い端部である傾斜部における境界剥離を効果的に抑制することができる。したがって、大きな残留応力があっても境界剥離の発生を抑制できるので、アブレーダブル皮膜の膜厚を厚くすることができる。
アブレーダブル皮膜の膜厚を厚くできると、たとえば、定格回転速度域におけるフィンとシール面(言い換えると、アブレーダブル皮膜面)とのクリアランスを小さく設定することができるので、シール構造のシール性能を向上させることができる。
これにより、たとえば、回転機械の信頼性向上および性能向上を図ることができる。
【0011】
この場合、傾斜部はシール作用に影響しない範囲に設け、そのアブレーダブル皮膜の膜厚を薄くするようにすることが好ましい。
このようにすると、傾斜部における残留応力を一層低減させることができるので、シール作用を行う軸線方向中間部分のアブレーダブル皮膜の膜厚を一層厚くすることができる。
なお、傾斜部としては、たとえば、端部を面取りして形成してもよいし、フィン側に土手状の凸部を形成してもよい。また、平面状に形成しても、曲面状に形成してもよい。
【0012】
上記発明において、前記シール面の前記軸線方向中間部分には、前記軸線方向に沿って凹凸が形成されていることが好ましい。
このようにすると、軸線方向中間部分においてアブレーダブル皮膜の積層方向が変化するので、残留応力の影響を分断することができる。
したがって、軸線方向中間部分のアブレーダブル皮膜に作用する残留応力を低減することができるので、アブレーダブル皮膜の膜厚を一層厚くすることができる。
これは、たとえば、軸線方向中間部分の軸線方向の長さが長い場合に特に有効である。
なお、軸線方向中間部分における凹凸が軸線方向に対して直角の場合、凹凸の側面部が溶射方向に対して平行となり皮膜の密着力を弱める一因となってしまうため、凹凸の側面部は半径方向に適度に傾斜させて、溶射方向に対して適度な角度を有するようにしておくことが望ましい。
【0013】
上記発明において、前記軸線方向における前記シール部材の端面では、前記シール面より間隔を空けてマスキングを施されて前記アブレーダブル皮膜が形成されていることが好ましい。
このようにすると、マスキングがシール面とアブレーダブル皮膜との界面に係合しなくなるので、この界面におけるマスキングによる微視き裂の発生を防止することができる。
この微視き裂がなくなると、剥離の起点となることがなくなるので、剥離の発生をより抑制することができる。これにより、アブレーダブル皮膜の膜厚を一層厚くすることができる。
【0014】
上記発明において、前記シール部材は、周方向に分割された分割シール部材によって構成されていてもよい。
このようにすると、シール部材は分割シール部材を製造した後で、それらを組み立てて製造することができるので、たとえば、大型のシール部材であっても製造設備の巨大化を抑制することができる。
【0015】
上記発明において、前記分割シール部材の周方向端部は、前記アブレーダブル皮膜が余盛された後、該余盛部が前記アブレーダブル皮膜側から前記シール面側に向けた機械加工によって切除して形成されていることが好ましい。
【0016】
分割シール部材の周方向端部までアブレーダブル皮膜の所望の膜厚を維持しようとすると、ある程度周方向端部を越えてアブレーダブル皮膜を盛り上げる、すなわち、余盛を行う必要がある。
この余盛された余盛部は、組み立ての際邪魔になるので、機械加工によって切除される。この場合、余盛部は、アブレーダブル皮膜側からシール面側に向けた機械加工によって切除されるので、アブレーダブル皮膜にシール面から離れる方向に力が作用しない。
このように、機械加工中にアブレーダブル皮膜を剥離する方向に力が作用しないので、機械加工によるアブレーダブル皮膜の剥離(割れ)を抑制することができる。これにより、機械加工に制約されずにアブレーダブル皮膜の厚膜化を行うことができる。
なお、機械加工としては、たとえば、ヤスリ研削、旋盤加工等が用いられる。
【0017】
また、上記発明において、前記アブレーダブル材に、樹脂製材料が含有されていることが好ましい。
【0018】
このように、アブレーダブル材に、樹脂製材料が含有されているので、溶射によってアブレーダブル皮膜を形成した後、熱処理を行うことにより樹脂製材料の部分を取り除くことができる。
これによりアブレーダブル皮膜は多孔質組織となるので、アブレーダブル皮膜がフィンと接触した際の摺動発熱量を低減することができる。
樹脂製材料の含有率を調節することによって、アブレーダブル皮膜の硬度および気孔率を調節することができる。なお、樹脂製材料の部分が取り除かれると、アブレーダブル皮膜とシール面との接触面積が減少して両者の接着力が低下し、剥離が発生することも考えられるので、樹脂製材料の含有率はそのような事態とならない範囲に収めることが必要である。また、接着力の低下を補うためにシール面にアブレーダブル皮膜およびシール面の密着性を向上するアンダーコートを施工するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、シール面の軸線方向端部に半径方向に傾斜した傾斜部が備えられているので、アブレーダブル皮膜の膜厚を厚く、たとえば、剥離することなく3mm以上にすることができる。
このため、定格回転速度域におけるフィンとシール面(言い換えると、アブレーダブル皮膜面)とのクリアランスを小さく設定することができるので、シール性能を向上させることができる。
これにより、たとえば、回転機械の信頼性向上および性能向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態にかかる蒸気タービン、ガスタービン、圧縮機等の回転機械の回転軸部に用いられるシール構造1について、図1〜図7を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態にかかるシール構造1の縦断面図である。
【0021】
シール構造1は、回転軸(回転部材)3の周面にリング状に突出した複数のフィン5と、たとえば、ハウジング等の静止部7にフィン5の外周側を覆うように保持されたドーナツ形状をしたシール部材9とを備えている。
複数のフィン5は、軸線方向Lに沿って間隔を空けて設置されている。フィン5は、回転軸3と一体で、削り出しによって形成されている。
なお、フィン5は、回転軸3とは別体で形成し、回転軸3に、たとえば、植え込む等の手段によって固定するようにしてもよい。
【0022】
シール部材9は、軸線方向Lに沿った断面が略矩形状をしている。シール部材9の軸線方向Lにおける両側の端面11には、略全周に亘り延在する嵌合溝13が設けられている。
静止部7の内面には、周溝15が略全周に亘り延在するように設けられている。周溝15の内周側端部には、周溝15の内側に突出する突出部17が略全周に亘り延在するように設けられている。
シール部材9は、嵌合溝13が突出部17に係合するようにして周溝15に嵌合され、静止部7に保持されている。
シール部材9は、半径方向Kの位置を調節できるようにしてもよい。
【0023】
シール部材9の内周側の面であるシール面19は、フィン5に対向するように位置させられている。
シール部材9の軸線方向L端部には、それぞれ大きく面取りされたテーパ部(傾斜部)21が設けられている。テーパ部21の軸線方向L端部の半径方向K位置は、中央側のそれに比べて外周側に位置するようにされている。すなわち、テーパ部21は、半径方向Kに傾斜している。
【0024】
シール部材9の軸線方向L中間部分には、略全周に亘り延在し、内周側に突出した凸部23が軸線方向Lに間隔を空けて複数、たとえば、3個、設けられている。
したがって、シール面19は、軸線方向Lに沿って凹凸が形成されていることになる。
シール面19には、アブレーダブル材を溶射して形成したアブレーダブル層(アブレーダブル皮膜)25が略全面に亘り略均一な膜厚T1で形成されている。
凸部23の側面部には、溶射方向に対して適度な角度を有するように半径方向に適度に傾斜させた凸部傾斜部24が備えられている。
【0025】
アブレーダブル層25は、シール面19に沿うように形成されるので、アブレーダブル層25は、軸線方向Lに沿って不連続に形成されている。
すなわち、テーパ部21では半径方向Kに傾斜し、軸線方向L中間部分では凸部23によって凹凸状態とされている。
また、図3に示されるように、テーパ部21におけるアブレーダブル層25の膜厚T2はその他の部分における膜厚T1よりも薄くされている。
【0026】
なお、シール部材9の軸線方向L端部には、テーパ部21に替えて図4に示されるような土手状をした突起部(傾斜部)31を設けるようにしてもよい。
この場合も、アブレーダブル層25は突起部31のところで軸線方向Lに沿って不連続に形成されている。
そして、突起部31におけるアブレーダブル層25の膜厚T2はその他の部分における膜厚T1よりも薄くされている。
【0027】
シール部材9は、周方向Cに複数、たとえば、6個に分割された分割シール部材27で構成されている。この分割する数は、シール部材9の大きさ、製造設備、回転機械の構造等、種々の条件を勘案して適宜決められる。
図2は分割シール部材27を示す斜視図である。分割シール部材27の周方向C端部には、周方向端面29が半径方向Kに延在するように設けられている。
シール部材9は、分割シール部材27を組み立てるのではなく、一体として形成されるようにしてもよい。
【0028】
以上のように構成されるシール構造1におけるシール部材9の製造について説明する。
まず、分割シール部材27の本体が、たとえば、機械加工によって図2に示されるような形状に加工される。
この加工は、たとえば、次ぎのように行われる。
長尺の板材を所定の長さおよび幅に切断する。次いで、シール面19を凸部23が残るように切削し、端面11に嵌合溝13およびテーパ部21を加工する。その後、所定の曲率半径を有する円弧を形成するように折り曲げ加工を行う。
【0029】
次いで、シール面19にアブレーダブル層25を形成する。
まず、図5に示されるように端面11に溶射皮膜が形成されないようにマスキング33を行い、溶射前の下地作りのためにブラスト処理が施される。
このとき、マスキング33のシール面19側端部はシール面19から間隔を空けるようにされている。この間隔は、たとえば、2〜3mmとされている。
【0030】
この状態で、たとえば、大気圧プラズマ溶射(APS:Atmosphric Plasma Spraying)を用いてアブレーダブル材をシール面19に噴射する。
アブレーダブル材としては、コバルト、ニッケル、クロム、アルミニウム、イットリウム(以後はCoNiCrAlYと呼ぶ)を含む金属成分を主体とし、固体潤滑材としての窒化ホウ素(h−BN)および気孔率制御のためのポリエステル(樹脂製材料)を含有したものが用いられる。
なお、これはアブレーダブル材の一例を示したものであり、適宜材料を用いることができる。
【0031】
溶射は、溶融量を極力低減するために時間をかけて施工し、かつ密着力を維持できるように適切な電流−電圧を設定して施工した。
これにより、アブレーダブル層25における残留応力を低減することができる。
【0032】
この溶射施工時に、溶融されたアブレーダブル材はシート面19に付着した瞬間に急速に冷却されて凝固し、収縮する。このため、形成されたアブレーダブル層25には残留応力が生じる。
本実施形態では、アブレーダブル層25は、シール面19は、テーパ部21および凸部23によって軸線方向Lに沿って不連続に形成されているので、残留応力の作用方向が相互に異なり、その影響を分断することができる。
【0033】
このように、軸線方向Lにおける残留応力の影響を分断できるので、大きな残留応力が特定の場所に集中することがない。言い換えると、境界剥離を発生させる残留応力を低減させることができる。
したがって、境界剥離の発生を抑制できるので、アブレーダブル層25の膜厚を厚くすることができる。
【0034】
図3に示すテーパ部21を有する分割シール部材27、図4に示す突起部31を有する分割シール部材27およびこれらを有しないフラットな形状の分割シール部材27について、厚さの異なるアブレーダブル層25を形成し、境界剥離の有無を目視検査した。この状況を表1に示す。
【表1】

【0035】
表1を見ると、図3に示すテーパ部21や、図4に示す突起部31を有する分割シール部材27の場合、膜厚3mmを超えても境界剥離が発生していないが、フラットな分割シール部材27の場合、膜厚3mmを超えると境界剥離が発生している。
【0036】
また、特に残留応力が集中し易い端部では、テーパ部21によって軸線方向中間部分の影響を分離できるので、境界剥離を効果的に抑制することができる。
さらに、テーパ部21では、アブレーダブル層25の膜厚をその他の部分よりも小さくしているので、発生する残留応力を一層低減させることができる。これにより、シール作用を行う部分のアブレーダブル層25の膜厚を一層厚くすることができる。
【0037】
なお、凸部23は、たとえば、軸線方向L中間部分の軸線方向Lに沿った長さが短い場合あるいは必要な膜厚が薄い場合には、形成しないようにしてもよい。
【0038】
このように、アブレーダブル層25の膜厚T1を厚くできると、たとえば、定格回転速度域におけるフィン5とアブレーダブル層25とのクリアランスを小さく設定することができるので、シール構造1のシール性能を向上させることができる。
これにより、たとえば、回転機械の信頼性向上および性能向上を図ることができる。
【0039】
また、マスキング33のシール面19側端部はシール面19から間隔を空けるようにされているので、マスキング33がシール面19とアブレーダブル層25との界面に係合しない。このため、この界面におけるマスキング33による微視き裂の発生を防止することができる。
この微視き裂がなくなると、剥離の起点となることがなくなるので、剥離の発生をより抑制することができる。これにより、アブレーダブル層25の膜厚T1を一層厚くすることができる。
【0040】
溶射による所定膜厚T1のアブレーダブル層25の形成が終わると、後処理を行う。
分割シール部材27の周方向C端部では、端までアブレーダブル層25の所望の膜厚T1を維持するため、図6に示されるように周方向端面29を越えて皮膜が盛り上げられている。
この余盛部35は、アブレーダブル層25側からシール面19側に向けた加工方向37で、機械加工、たとえば、ヤスリ研削、旋盤加工等によって切除される。このとき、加工面39は、周方向端面29の延長面41上よりも若干内側に傾斜させられている。この傾斜は、たとえば、加工面39の表面端部の位置が、延長面41から0.05mm以内離隔している程度とされている。
【0041】
このように、余盛部35は、切除される際、加工方向37にしか力が作用しないので、この機械加工中アブレーダブル層25にはシール面19から離れる方向に力が作用しない。
このように、機械加工中にアブレーダブル層25を剥離する方向に力が作用しないので、機械加工によるアブレーダブル層25の剥離(割れ)を抑制することができる。これにより、機械加工に制約されずにアブレーダブル層25の厚膜化を行うことができる。
【0042】
このようにして形成されたアブレーダブル層25を、500〜650℃で熱処理を行うと、この熱量によってアブレーダブル層25に含まれるポリエステルが消失する。
これによりアブレーダブル層25は多孔質組織となるので、フィン5と接触した際の摺動発熱量を低減することができる。
ポリエステルの含有率を調節することによって、アブレーダブル層25の気孔率を調節することができる。
【0043】
図7に示されるように、回転するロータ43の先端にフィン45を取り付け、先端にアブレーダブル皮膜49を施工した試験片47をフィン45に一定の送り速度で接触させる摺動試験を行なった。試験条件としては、試験温度:550℃、ロータ43の周速:70m/S、試験片47の送り速度:10μm/S:送り量:0.5mmで行った。
また、試験片としては、アブレーダブル皮膜49の気孔率が0%、約15%、約40%のものを使用した。なお、発熱量の規準として12Cr鋼の試験片を用いている。
そして、摺動時の供試片先端近傍温度および抗力、切削力を3分力センサにて取得し、摺動時の平均切削力より発熱量を算出した。
【0044】
この結果を表2に示す。
【表2】

表2を見ると、気孔率の増大とともに、摺動発熱量を低減できることがわかる。
【0045】
なお、ポリエステルの部分が取り除かれると、アブレーダブル層25とシール面19との接触面積が減少して両者の接着力が低下し、剥離が発生することも考えられるので、ポリエステルの含有率はそのような事態とならない範囲に収めることが必要である。
また、接着力の低下を補うためにシール面19にアブレーダブル層25およびシール面19の密着性を向上するアンダーコートを施工するようにしてもよい。
【0046】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態にかかるシール構造の縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる分割シール部材を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかるテーパ部近傍におけるアブレーダブル層の形成状態を示す部分断面図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる突起部近傍におけるアブレーダブル層の形成状態を示す部分断面図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかるマスキングの状態を示す部分正面図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる周方向端部に形成された余盛部を示す部分側面図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかるアブレーダブル層の摺動試験装置を示す概略部分正面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 シール構造
3 回転軸
5 フィン
9 シールリング
11 端面
19 シール面
21 テーパ部
23 凸部
24 凸部傾斜部
25 アブレーダブル層
27 分割シール部材
29 周方向端面
31 突起部
33 マスキング
35 余盛部
C 周方向
K 半径方向
L 軸線方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材の周面からリング状に突出し、軸線方向に沿って少なくとも1個設けられたフィンと、
該フィンに対向する環状のシール面を有し、該シール面にアブレーダブル材を溶射したアブレーダブル皮膜が形成されているシール部材と、を備えるシール構造であって、
前記シール面の軸線方向端部に半径方向に傾斜した傾斜部が備えられていることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
前記シール面の前記軸線方向中間部分には、前記軸線方向に沿って凹凸が形成され、該凹凸の側面部には半径方向に傾斜した凹凸傾斜部が備えられていることを特徴とする請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記シール部材は、周方向に分割された分割シール部材によって構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシール構造。
【請求項4】
前記アブレーダブル材として、金属基材中に樹脂製材料を含有させ、熱処理により高気孔率材料としたもので、かつ3mm以上の膜厚を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシール構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−174655(P2009−174655A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14865(P2008−14865)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】