説明

シール装置及びシール装置付車輪支持用転がり軸受ユニット

【課題】ハブ2に対しモーメントが加わった場合にも、シール装置14cを構成する各シールリップ42〜44の締め代が変化する事を防止できる構造を実現する。
【解決手段】これら各シールリップ42〜44を備えたシールリング32を、前記ハブ2に対し、転がり軸受33を用いて、このハブ2に対する相対回転を自在に支持する。又、外輪1の内周面に固定用芯金52を内嵌固定すると共に、この固定用芯金52と前記シールリング32とを、断面非直線状のベローズシール53により、軸方向及び径方向への相対変位を可能に、且つ、円周方向への相対変位を不能に連結する。この様な構成により、前記ハブ2が前記外輪1に対し傾斜した場合に、前記シールリング32をこのハブ2と共に傾斜させる事ができる。この為、前記各シールリップ42〜44の締め代が変化する事を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両(自動車)の車輪を懸架装置に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニット等、各種機械装置の回転支持部に組み込む転がり軸受の開口端部を塞ぐ為のシール装置、及び、このシール装置を備えたシール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットの改良に関する。具体的には、モーメント荷重等に基づき、回転側軌道輪の中心軸と静止側軌道輪の中心軸とが互いに傾斜した場合にも、シールリップの締め代が変化する事を防止できる構造を実現すべく発明したものである。
【背景技術】
【0002】
各種機械装置の回転支持部に、玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受等の転がり軸受が組み込まれている。この様な転がり軸受にはシール装置を組み込んで、この転がり軸受の内部空間に封入したグリースが外部に漏洩する事を防止すると共に、外部に存在する雨水、泥、塵等の各種異物が転がり軸受の内部に入り込む事を防止している。図4は、この様なシール装置を備えた、シール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットの1例として、車両の駆動輪を懸架装置に回転自在に支持する為の構造を示している。
【0003】
前記シール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットは、特許請求の範囲に記載した静止側軌道輪に相当する外輪1と、同じく回転側軌道輪に相当するハブ2と、複数個の転動体3、3とから成る。このうちのハブ2は、ハブ本体4と内輪5とを組み合わせて成る。又、前記各転動体3、3は、前記外輪1の内周面に形成した複列の外輪軌道6、6と、前記ハブ2の外周面に形成した複列の内輪軌道7、7との間に、それぞれ複数個ずつ、転動自在に設けている。そして、懸架装置に対し車輪を回転自在に支持する為に、前記外輪1を懸架装置を構成するナックル8に固定すると共に、前記ハブ本体4に設けた取付フランジ9に車輪を結合固定する。又、図4に示す構造は、駆動輪を支持する為の構造であるので、このハブ本体4の中心部に設けたスプライン孔10に、等速ジョイント11に付属のスプライン軸12を係合させている。
【0004】
上述の様なシール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットのうちで、前記外輪1の内周面と前記ハブ2の外周面との間部分に存在する、前記各転動体3、3を設置した内部空間13には、グリースを封入して、これら各転動体3、3の転動面と、前記各外輪軌道6、6及び内輪軌道7、7との転がり接触部を潤滑する様にしている。又、前記外輪1の軸方向両端部内周面と、前記内輪5の軸方向内端部外周面及び前記ハブ本体4の軸方向中間部外周との間には、それぞれシール装置14a、14bを設けて、前記内部空間13の軸方向両端開口部を塞いでいる。尚、本明細書中で、軸方向に関して内とは、車両への組み付け状態で車両の幅方向中寄りとなる側を言い、各図の右側を言う。これに対し、各図の左側で、車両の幅方向外寄りとなる側を、軸方向に関して外と言う。
【0005】
前記両シール装置14a、14bのうち、前記内部空間13の軸方向内端側の開口部を塞ぐシール装置14aは、図5に示す様に構成している。このシール装置14aは、組み合わせシールリングと呼ばれるもので、シールリング15と、スリンガ16とを備える。このうちのシールリング15は、芯金17とシール材18とから成り、この芯金17は、前記外輪1の軸方向内端部内周面に内嵌固定可能な外径側円筒部19と、この外径側円筒部19の軸方向外端縁から直径方向内方に折れ曲がった外径側円輪部20とを備えた、断面L字形で全体を円環状としている。又、前記シール材18は、ゴムの如きエラストマー等の弾性材により造られて、外側、中間、内側の、3本のシールリップ21〜23を備え、前記芯金17にその基端部を結合固定している。
【0006】
又、前記スリンガ16は、前記内輪5の軸方向内端部外周面に外嵌固定可能な内径側円筒部24と、この内径側円筒部24の軸方向内端縁から直径方向外方に折れ曲がった内径側円輪部25とを備えた、断面L字形で全体を円環状としている。そして、前記シールリング15を構成する3本シールリップ21〜23のうちで、サイドリップと呼ばれる、最も外径側に、軸方向内方に突出する状態で設けられた、外側シールリップ21の先端縁を、前記スリンガ16を構成する内径側円輪部25の軸方向外側面に全周に亙り摺接させている。これに対して、残り2本の、中間、内側シールリップ22、23の先端縁を、前記スリンガ16を構成する内径側円筒部24の外周面に全周に亙り摺接させている。
【0007】
一方、前記内部空間13の軸方向外端側の開口部を塞ぐシール装置14bは、図6に示す様に、スリンガを持たない、単体のシールリング26により構成されている。このシールリング26は、芯金27とシール材28とから成る。このうちのシール材28は、ゴムの如きエラストマー等の弾性材により造られて、外側、中間、内側の、3本のシールリップ29〜31を備え、前記芯金27にそれぞれの基端部を結合固定している。そして、サイドリップと呼ばれる、軸方向外方に突出する状態で設けられた外側シールリップ29の先端縁を、前記取付フランジ9の基端部内側面に全周に亙り摺接させ、残り2本の、中間、内側シールリップ30、31の先端縁を、この基端部内側面と前記ハブ本体4の軸方向中間部外周面との連続部乃至この軸方向中間部外周面に、全周に亙り摺接させている。
【0008】
以上の様に、前記シール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットの場合には、それぞれ上述の様なシール装置14a、14bで前記内部空間13の軸方向両端開口部を塞ぐ事により、この内部空間13内に泥水等の異物が入り込む事を防止すると共に、この内部空間13内に封入したグリースが外部に漏洩する事を防止している。従って、前記各シール装置14a、14bによるシール性を良好にする為には、これら各シール装置14a、14bを構成する各シールリップ21〜23、29〜31の先端縁と相手面との摺接状態が適正である事が必要である。
【0009】
但し、上述の様なシール装置14a、14bを備えた車輪支持用転がり軸受ユニットの場合、例えば特許文献1に記載されている様に、車両の旋回時、前記ハブ2に対し、車輪を構成するタイヤの接地面から取付フランジ9を介してモーメント荷重が加わる。この結果、構成各部材が弾性変形し、前記各シールリップ21〜23、29〜31(特に外側シールリップ21、29)の先端縁と相手面との摺接状態が円周方向に関して不均一になって、これら各シールリップ21〜23、29〜31の耐久性低下やシール性能の低下と言った問題を生じる。この点に就いて、前記内部空間13の軸方向内端開口側のシール装置14aを例に、各シールリップ21〜23のうちで締め代の変化が大きくなり易い外側シールリップ21に着目して、図7〜8により説明する。
【0010】
図7に矢印で示す様に、前記ハブ2に、旋回走行に伴うモーメントMが、図7の時計方向に加わった場合に就いて説明する。この場合、各部の弾性変形により、前記外輪1及び前記ハブ2共に傾きを生じるが、前記各転動体3、3と前記各外輪軌道6、6及び前記各内輪軌道7、7との接触部分での弾性変形量が最も大きくなる為、その傾き(傾斜角度)は前記外輪1に比べて前記ハブ2の方が大きくなる。ここで、前記外輪1が傾斜していない(外輪1を中立状態に固定した)と仮定すれば、前記ハブ2の中心軸は、この外輪1の中心線を表すα位置からβ位置にまで、角度θ分だけ、相対的に傾斜する(ハブ2に相対傾きが発生した)事になる。この結果、前記外輪1に支持されたシールリング15に対しても、前記ハブ2を構成する内輪5の軸方向内端部に外嵌固定したスリンガ16は、ほぼ前記角度θ分だけ相対的に傾斜する。図7に示した状態の場合には、同図の上側部分で、図8(A)に示す様に前記スリンガ16を構成する内径側円輪部25が、芯金17から離れる方向に変位する。この結果、前記上側部分では、前記外側シールリップ21の締め代が低下する。一方、前記図7の下側部分では、図8(B)に示す様に前記内径側円輪部25が、芯金17に近づく方向に変位する。この結果、前記下側部分では、前記外側シールリップ21の締め代が増大する。一方、前記内部空間13の軸方向外端開口部を塞ぐシール装置14bに関しては、前記内端側のシール装置14aとは逆の動きをする。何れにしても、これらシール装置14a、14bのうちで前記外側シールリップ21、29の締め代が低下した部分では、これら各外側シールリップ21、29による異物浸入防止作用が損なわれる。
【0011】
この為に従来は、モーメントMに基づいて、外輪とハブとが相対的に傾き、シールリップの締め代が部分的に低下した場合でも、当該部分のシール性を確保できる様に、これら各シールリップの締め代を設定していた。具体的には、中立状態でのこれら各シールリップの締め代を大きめに設定して、外輪とハブとの相対的な傾きが発生しても、これら各シールリップに関する締め代を、全周に亙ってシール性確保を図れる分だけ残る様にしていた。ところが、この様に締め代を大きめに設定した場合には、その代償として、各シールリップに関する摺動抵抗が増大する他、これら各シールリップが摩耗したり、へたり易くなる。摺動抵抗の増大は、前記ハブの回転抵抗の増大に結び付き、燃費性能や加速性能を中心とする走行性能の悪化に結び付く為、好ましくない。又、摩耗したりへたり易くなる事は、転がり軸受の耐久性低下に結び付く為、やはり好ましくない。
【0012】
近年、上述の様なシール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットを、大型車両に適用する場合が増加している。但し、この様な大型車両用のシール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットは、上述した様なシールリップの締め代の変化の問題をより生じ易くなる。即ち、モーメント荷重に基づき外輪とハブとに生じる相対的な傾き角度は、車両の操縦性、安定性等に影響する為、大型車両用と小型車用(乃至は中型車用)とでほぼ同じになる様に設計されているが、大型車両用の車輪支持用転がり軸受ユニットは、小型車或いは中型車用のものに比べて、外径寸法が大きい為、組み込むシール装置の外径寸法も大きくなる。特に、前記図4に示した様な、駆動輪用の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合、内側にスプライン軸を挿入する必要上、外径寸法が一層大きくなり、組み込むシール装置の外径寸法もより大きくなる。そして、この様にシール装置の外径寸法が大きくなると、外輪とハブとに相対的な傾きが発生した場合のシールリップの変位量が大きくなる為、シールリップの締め代の変化も大きくなる。この結果、シールリップの耐久性低下やシール性能の低下と言った問題を生じ易くなる。
【0013】
上述の様に、大型車両用の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合に、シールリップの締め代の変化が大きくなる(締め代が不足し易くなる)点に就いて、より具体的に詳しく説明する。例えば、前記図5に示した様な、3本のシールリップを備えたシール装置の場合、これら3本のシールリップのうちで最も傾斜中心(ハブの中心軸が外輪の中心軸に対し傾斜する場合の傾斜中心)からの距離が大きい、言い換えれば、締め代の変化が大きくなり易いサイドリップ(外側シールリップ)を例に考えた場合、一般的に、サイドリップの基端部から先端縁までの軸方向寸法(幅寸法)は、シール装置全体の軸方向寸法(幅寸法)の2/3程度であり、その締め代の大きさは、サイドリップの軸方向寸法の1/3程度である。この為、この締め代の大きさは、シール装置全体の軸方向寸法の2/9程度となる。これに対して、シールリップ(サイドリップ)が追従可能な変位量(振幅)は、このシールリップの材質、即ち、硬さにより変化する。一般的な車輪支持用転がり軸受ユニットでは、シールリップの材質として、硬さが70(デュロメータA)程度のアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)が使用される場合が多く、この場合には、シールリップが追従可能な変位量は、締め代の1/3程度となる(非特許文献1参照)。従って、サイドリップが追従可能な締め代変化(振幅)は、シール装置全体の軸方向寸法の2/27程度となる。一方、シール装置の外径(直径)に比例して締め代を設定すると、径の2乗に比例してシールトルクが増加してしまう為、大型車両用の車輪支持用転がり軸受ユニットに組み込むシール装置の場合(大径のシール装置の場合)でも、締め代を安易に増加させる事はできない。この為、大型車両用の車輪支持用転がり軸受ユニットに組み込む大径のシール装置ほど、締め代は不足し易くなる。
【0014】
尚、本発明に関連する先行技術文献として、特許文献2、3に記載された発明がある。これら特許文献2、3には、外側シールリップの締め代の変化が摺接部の圧力変化に結び付きにくくすべく、この外側シールリップの基端部に、肉厚が小さくなった括れ部を設ける構造が記載されている。この様な構造によれば、旋回走行時に生じる外輪とハブとの相対的な傾きに起因する外側シールリップの締め代の変化に対して、当該外側シールリップの先端縁と相手面との接触圧力の変化が鈍感になる。但し、この様な特許文献2、3に記載された構造の場合にも、中立状態での締め代の大きさを大きめに設定する為、外側シールリップの摺動抵抗並びに摩耗が、締め代の大きさを大きくしない場合に比べて、増大する事は避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2003−240003号公報
【特許文献2】実開平5−73364号公報
【特許文献3】実開平5−73365号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】近森徳重、河原由夫共著、「トライボロジー叢書7 密封装置」、株式会社幸書房、昭和50年12月1日初版発行、第150頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、モーメント荷重等に基づき、回転側軌道輪の中心軸と静止側軌道輪の中心軸とが互いに傾斜した場合にも、シールリップの締め代が変化する事を防止できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のシール装置は、互いに対向する回転側周面と静止側周面との間部分に存在する空間の端部開口を塞ぐ為に使用するものであり、シールリングと、転がり軸受と、シール機能付回り止め機構とを備える。
このうちのシールリングは、芯金と、この芯金により補強された弾性材製のシール材とから成る。又、このシール材には、前記回転側軌道輪若しくはこの回転側軌道輪と共に回転する部材(例えばスリンガ)に対し全周に亙り摺接する、1乃至複数本のシールリップが設けられている。
又、前記転がり軸受は、外輪相当部材と内輪相当部材と複数個の転動体とを有し、前記回転側軌道輪と前記シールリングとの間部分に設けられている。そして、このシールリングをこの回転側軌道輪に対し相対回転可能に支持している。
又、前記シール機能付回り止め機構は、前記静止側周面と前記シールリングとの間部分をシールすると共に、前記回転側軌道輪の中心軸と前記静止側軌道輪の中心軸とが互いに傾斜する事に伴う前記シールリングとこの静止側軌道輪との相対変位を許容しつつ、このシールリングがこの静止側軌道輪に対して相対回転(シールリングの中心軸周りに回転)する事を阻止するものである。
【0019】
本発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記シール機能付回り止め機構を、固定部材と、撓みシールとにより構成する。
このうちの固定部材は、前記静止側周面に嵌合固定されている。
又、前記撓みシールは、全体形状が略円輪状で、中心線を含む仮想平面に関する断面形状が非直線状(例えばく字形状、蛇腹状、鋸歯状等)であり、その径方向両周縁部を、前記固定部材と前記シールリングを構成する芯金とにそれぞれ接着固定している。
【0020】
或いは、請求項3に記載した発明の様に、前記シール機能付回り止め機構を、前記芯金の一部に形成した凸面部と、Oリングとにより構成する。
このうちの凸面部は、前記芯金のうちで、前記静止側周面に対向する部分に形成されており、中心線を含む仮想平面に関する断面形状が円弧形である。
又、前記Oリングは、断面円形であり、前記静止側周面に形成された凹溝内に配置され、この凹溝の底部と前記凸面部との間で、全周に亙り弾性的に挟持(圧縮)されている。
尚、請求項3に記載した発明を実施する場合に好ましくは、前記凸面部の外面形状(外周面形状或いは内周面形状)を、前記回転側軌道輪の中心軸と前記静止側軌道輪の中心軸とが互いに傾斜する場合での傾斜中心をその中心とした部分球状凸面とする。
【0021】
更に、本発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項4に記載した発明の様に、車輪を懸架装置に回転自在に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットに組み込むシール装置を、請求項1〜3のうちの何れかに記載された発明のシール装置とする。
【発明の効果】
【0022】
上述の様に構成する本発明のシール装置及びシール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットによれば、モーメント荷重等に基づき、回転側軌道輪の中心軸と静止側軌道輪の中心軸とが互いに傾斜した場合にも、シールリップの締め代が変化する事を有効に防止できる。
即ち、本発明のシール装置の場合には、シール機能付回り止め機構によって、静止側軌道輪に対する相対回転を阻止されたシールリングが、転がり軸受により、回転側軌道輪に対して相対回転自在に支持されている。又、前記シール機能付回り止め機構は、モーメント荷重が加わる等して、前記回転側軌道輪の中心軸と前記静止側軌道輪の中心軸とが互いに傾斜した場合の、前記シールリングとこの静止側軌道輪との相対変位を許容できるだけでなく、この様な相対変位が生じた場合にも、これらシールリングと静止側軌道輪との間部分をシールできる。従って、本発明のシール装置を構成するシールリングは、前記回転側軌道輪と共に回転する事はない(静止側軌道輪と共に静止している)が、モーメント荷重等が加わった場合には、前記静止側軌道輪との間のシール性が確保された状態のまま、この静止側軌道輪に対し前記回転側軌道輪と共に傾斜する。この結果、本発明のシール装置によれば、モーメント荷重等が加わる事により、前記回転側軌道輪の中心軸と前記静止側軌道輪の中心軸とが互いに傾斜した場合にも、シールリップの締め代が変化する事を有効に防止できる。
これにより、本発明のシール装置によれば、シール性の確保の為に、中立状態でのシールリップの締め代を大きめに設定しなくて済む為、シールリップによる摩擦(トルク)低減と、シールリップの耐久性向上とを図れる。そして、例えばシール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットに適用した場合に、このシール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットの耐久性向上を図れると同時に、燃費性能や加速性能を中心とする車両の走行性能を向上させる事ができる。
特に本発明は、車両の旋回時に於ける旋回加速度が、通常の運転では発生し得ないか稀に発生する程度のレベル(例えば1G好ましくは0.8G)に於いて、シール装置のシールリップ(サイドリップ)の締め代変化(振幅)が、シール装置全体の軸方向寸法の2/27を超える様な条件となる、大型車両用の車輪支持用転がり軸受ユニットに適用した場合に、より顕著に有利な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、図4のX部に相当する拡大図。
【図2】同じく第2例を示す、図4のY部に相当する拡大図。
【図3】同じく第3例を示す、図4のX部に相当する拡大図。
【図4】従来構造の第1例を示す、シール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットの断面図。
【図5】図4のX部に組み付けているシール装置の部分拡大断面図。
【図6】同じくY部に組み付けているシール装置の部分拡大断面図。
【図7】車両の走行時に加わるモーメント荷重によりハブが傾斜する状態を示す、シール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットの断面図。
【図8】図7に示したシール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットに組み付けているシール装置のスリンガの変位状態を示す部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1、2、4に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のシール装置14cは、シールリング32と、転がり軸受33と、シール機能付回り止め機構34と、スリンガ35とを組み合わせて、組み合わせシールリングを構成したものである。又、前記シール装置14cは、互いに相対回転する静止側軌道輪である外輪1と回転側軌道輪であるハブ2(内輪5)との間に装着されており、この外輪1の内周面とこのハブ2の外周面との間部分に存在する内部空間13のうちの軸方向内端開口部を塞いでいる。この内部空間13の軸方向外端開口部を塞ぐシール装置14bを含め、前記シール装置14c以外のその他の部分の構成及び作用・効果に就いては、前述した従来構造の場合と同様である。
【0025】
前記シールリング32は、芯金36と、シール材37とから成る。このうちの芯金36は、径方向外側部分に設けられた略円筒状の静止側円筒部38と、この静止側円筒部38の軸方向外端部から直径方向内方に向けて折れ曲がった外径側円輪部39と、この外径側円輪部39の内径側端部から軸方向外方に向けて折れ曲がり、その中間部を軸方向内方に180度折り返して成る折り返し筒部40と、この折り返し筒部40の軸方向内端部から直径方向内方に向けて折れ曲がった内径側円輪部41とを備えている。そして、前記シール材37は、この様な構成を有する前記芯金36により補強されている。このシール材37は、ゴムの如きエラストマー等の弾性材製で、複数本(図示の例では3本)のシールリップ42〜44を備えている。尚、本例を実施する場合に、前記外径側円輪部39を省略し、前記静止側円筒部38と前記折り返し筒部40の外径側部分とを直接(同径で)連続させる事もできる。
【0026】
又、前記スリンガ35は、金属板を断面略L字形に曲げ形成して成るもので、前記ハブ2を構成する内輪5の軸方向内端部外周面に外嵌固定された回転側円筒部45と、この回転側円筒部45の軸方向内端部から直径方向外方に向けて折れ曲がった回転側円輪部46とを備えている。そして、本例の場合には、この様なスリンガ35に対して、前記各シールリップ42〜44の先端縁を摺接させている。具体的には、これら各シールリップ42〜44のうち、サイドリップと呼ばれる、外側シールリップ42の先端縁を前記回転側円輪部46の軸方向外側面に、全周に亙り摺接させている。一方、ラジアルリップと呼ばれる、中間シールリップ43及び内側シールリップ44の先端縁を、前記回転側円筒部45の外周面にそれぞれ全周に亙り摺接させている。特に本例の場合、中立状態での前記各シールリップ42〜44の締め代の大きさを、モーメント荷重が作用した場合の前記ハブ2の傾斜を考慮して大きめに設定する事はしていない{通常の大きさ(中立状態での摺動抵抗並びに摩耗が過大にならない大きさ)に設定している}。
【0027】
又、前記転がり軸受33は、転がり軸受用外輪47と、転がり軸受用内輪48と、複数個の玉(転動体)49とから成るもので、図示の例では、モーメント荷重に対する剛性の高い、4点接触型のラジアル玉軸受としている。このうちの転がり軸受用外輪47の内周面には、深溝型の外輪軌道50が形成されており、前記転がり軸受用内輪48の外周面には、深溝型の内輪軌道51が形成されている。又、これら両軌道50、51の断面形状は、前記各玉49の転動面の曲率半径よりも大きな曲率半径を有する1対の円弧を幅方向中央部で交差させた、所謂ゴシックアーチ状としている。これにより、前記各玉49の転動面と、前記各軌道50、51とが、それぞれ2点ずつ(合計4点)で接触する様にしている。そして、本例の場合には、この様な構成を有する転がり軸受33を、前記内輪5に外嵌固定したスリンガ35と前記シールリング32を構成する芯金36との間部分に設けている。具体的には、前記転がり軸受33を構成する転がり軸受用内輪48を、前記スリンガ35を構成する回転側円筒部45の軸方向外半部外周面に外嵌固定すると共に、前記転がり軸受用外輪47を、前記芯金36を構成する折り返し筒部40の内周面に内嵌固定している。本例の場合には、この様な転がり軸受33を設ける事により、前記シールリング32を、前記ハブ2(内輪5)に対して相対回転自在に且つ軸方向に関する相対変位を不能に支持している。
【0028】
又、前記シール機能付回り止め機構34は、特許請求の範囲に記載した固定部材に相当する略円筒状の固定用芯金52と、同じく撓みシールに相当する全体形状が略円輪状のベローズシール(ダイアフラム)53とを備える。このうちの固定用芯金52は、前記外輪1の軸方向内端部内周面に嵌合固定されている。又、前記ベローズシール53は、前記シールリング32を構成するシール材37と同様に、ゴムの如きエラストマー等の弾性材製(本例の場合には同じ材料製)である。尚、前記ベローズシール53に負荷される円周方向の力は、前記各シールリップ42〜44が発生する摩擦トルク、及び、前記ベローズシール53と前記各シールリップ42〜44とによる弾力と前記シールリング32の自重とをそれぞれ支承した前記転がり軸受33に生じる転がり抵抗(動トルク)だけであるので、前記ベローズシール53の円周方向に関する弾性変形量(伸縮量)は無視できる程度に小さい(実質的に円周方向に伸縮する事はない)。又、前記ベローズシール53の外周縁部は、前記固定用芯金52の軸方向内端部内周面に全周に亙り加硫接着されており、同じく内周縁部は、前記シールリング32の芯金36のうちで、前記固定用芯金52の径方向内方に配置された前記静止側円筒部38の軸方向内端部外周面に全周に亙り加硫接着されている。又、本例の場合には、前記ベローズシール53の外周縁部を、前記固定用芯金52の軸方向内端部外周面及び軸方向内端面を覆った、ノーズガスケットとして機能する外径側シール材54に連続させると共に、同じく内周縁部を、前記シールリング32を構成するシール材37の外周縁部(静止側円筒部38の軸方向内端面を覆った部分)に連続させている。これにより、前記両シール材37、54と、前記ベローズシール53とを、一体的に構成している。
【0029】
又、前記ベローズシール53は、その中心線を含む仮想平面に関する断面形状を非直線状としている。図示の例では、この断面形状を、径方向中間部が軸方向内方に向けて突出した断面略く字形として、このベローズシール53に撓み(可撓性)を持たせている。従って、この様なベローズシール53を介して連結された前記固定用芯金52と前記シールリング32とは、このベローズシール53の撓み量分だけ、径方向及び軸方向に相対変位可能になる。但し、このベローズシール53の両周縁部は、前記固定用芯金52と前記シールリング32とに全周に亙り接着されており、前記ベローズシール53は円周方向に伸縮できない為、前記固定用芯金52と前記シールリング32との円周方向への相対変位は阻止される。尚、前記ベローズシール53の断面形状に関しては、図示のものに限定されず、例えば蛇腹状、鋸歯状等、撓みを有するものであれば良い。
【0030】
この様な構成を有する前記シール機能付回り止め機構34は、前記外輪1の内周面と前記シールリング32(静止側円筒部38)との間部分をシール(密封)し、当該部分を通じて、前記内部空間13内に泥水等の異物が入り込む事を防止すると共に、この内部空間13内に封入したグリースが外部に漏洩する事を防止する。又、前記シール機能付回り止め機構34は、前記ベローズシール53の撓みを利用して、前記ハブ2の中心軸が前記外輪1の中心軸に対し傾斜した場合の、前記シールリング32(静止側円筒部38)のこの外輪1に対する傾斜(図1の矢印A方向の相対変位)を許容する。但し、前記シールリング32が前記外輪1に対し、このシールリング32の中心軸周りに回転する事は阻止する。
【0031】
以上の様な構成を有する本例の場合には、車両の旋回時、車輪を構成するタイヤの接地面から取付フランジ9(図4、7参照)を介して、前記ハブ2にモーメント荷重が加わり、このハブ2の中心軸が前記外輪1の中心軸に対し傾斜した(外輪1とハブ2とに相対的な傾きが発生した)場合にも、前記各シールリップ42〜44の締め代が変化する事を防止できる。
即ち、本例のシール装置14cの場合には、前記シール機能付回り止め機構34によって、前記外輪1に対する相対回転を阻止された前記シールリング32が、前記転がり軸受33により、前記ハブ2(スリンガ35)に対して相対回転自在に支持されている。又、前記シール機能付回り止め機構34は、車両の旋回時、前記ハブ2にモーメント荷重が加わり、このハブ2の中心軸が前記外輪1の中心軸に対して傾斜した場合の、前記シールリング32(静止側円筒部38)のこの外輪1に対する傾斜を許容できる。しかも、この様に傾斜した場合にも、このシールリング32(静止側円筒部38)と前記外輪1との間部分のシール性(密封性)を確保できる。
【0032】
この為、前記シールリング32は、前記ハブ2(スリンガ35)と共に回転する事はない(外輪1と共に静止している)が、このハブ2にモーメント荷重が加わった場合には、前記外輪1との間部分のシール性が確保された状態で、前記ハブ2(スリンガ35)と共に傾斜する。特に、本例の場合には、前記シールリング32が、4点接触型の転がり軸受33を用いて前記ハブ2(スリンガ35)に支持されている為、前記シールリング32の傾斜角度はこのハブ2(スリンガ35)の傾斜角度とほぼ等しくなる。この結果、本例の場合には、前記ハブ2にモーメント荷重が加わり、このハブ2の中心軸が前記外輪1の中心軸に対して傾斜した場合にも、前記各シールリップ42〜44の締め代が変化する事を有効に防止できる。これにより、本例の場合には、シール性の確保の為に、中立状態での前記各シールリップ42〜44の締め代を大きめに設定しなくて済む為、これら各シールリップ42〜44による摩擦(トルク)低減と、これら各シールリップ42〜44の耐久性向上(へたれ防止)とを図れる。そして、シール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットの耐久性向上を図れると同時に、燃費性能や加速性能を中心とする車両の走行性能を向上させる事ができる。
その他の構成及び作用・効果に就いては、前述した従来構造の場合と同様である。
【0033】
[実施の形態の第2例]
図2は、やはり請求項1、2、4に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例のシール装置14dは、外輪1の内周面とハブ2の外周面との間部分に存在する内部空間13のうちの軸方向外端開口部を塞ぐものである。この内部空間13の軸方向内端開口部を塞ぐシール装置14cとしては、上述した実施の形態の第1例で示したものを使用している。本例のシール装置14dは、この第1例のシール装置14cからスリンガ35(図1参照)を省略した如き構造を有している。
【0034】
即ち、本例の場合には、転がり軸受33を構成する転がり軸受用内輪48を、ハブ本体4の軸方向中間部外周面に直接外嵌固定している。又、シールリング32を構成する各シールリップ42〜44のうち、外側シールリップ42の先端縁を、取付フランジ9の基端部内側面に全周に亙り摺接させると共に、中間、内側シールリップ43、44の先端縁を、この基端部内側面と前記ハブ本体4の軸方向中間部外周面との連続部乃至この軸方向中間部外周面に、全周に亙り摺接させている。この様な構成を有する本例の場合には、前記内部空間13の軸方向外端開口部を塞ぐシール装置14dに関しても、前記各シールリップ42〜44の締め代の変化を有効に防止できる。
その他の部分の構成は、軸方向に関する内外が逆になった以外、前記第1例のシール装置14cと基本的に同じであり、得られる作用・効果に就いても同じである為、同等部分には同一符号を付し、説明は省略する。
【0035】
[実施の形態の第3例]
図3は、請求項1、3、4に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例のシール装置14eも、前述した実施の形態の第1例の場合と同様に、外輪1の内周面とハブ2の外周面との間部分に存在する内部空間13のうちの軸方向内端開口部を塞ぐものである。本例のシール装置14eと、前記第1例のシール装置14cとは、シール機能付回り止め機構34aの構成が異なる以外、その他の部分の構成はほぼ同じであるので、異なる部分を中心に説明する。
【0036】
本例の場合、シールリング32aの芯金36aを構成する外径側円輪部39aの径方向寸法を大きくする(径方向外方に延長する)と共に、この外径側円輪部39aの外径側端部から軸方向内方に向けて折れ曲がる状態で形成した、静止側円筒部38aの形状を前記第1例の場合とは異ならせている。具体的には、この静止側円筒部38aを部分球面状として、前記外輪1の内周面に対向(近接対向)するこの静止側円筒部38aの外周面形状を、前記ハブ2の中心軸が前記外輪1の中心軸に対し傾斜する場合の傾斜中心{外輪1及びハブ2の中心軸上で両列の転動体3、3の軸方向中央部に位置する点γ(図7参照)}をその中心とする、曲率半径がR55である部分球状凸面55としている。従って、前記静止側円筒部38aの外周面を、前記芯金36aの中心軸を含む仮想平面で切断した場合の断面形状は、円弧形となっている。又、この様な本例の場合には、前記ハブ2が前記点γを中心として前記外輪1に対し傾斜した場合にも、この点γから前記部分球状凸面55と後述するOリング57との当接部までの距離が一定となる。
【0037】
又、前記外輪1の内周面のうちで、前記部分球状凸面55と対向する部分に、断面矩形状の凹溝56を形成し、この凹溝56内に、弾性材製で断面円形のOリング57の外径側半部をほぼ隙間なく収納している。そして、このOリング57を、この凹溝56の底部と前記部分球状凸面55との間で全周に亙り弾性的に挟持(圧縮)している。この様な状態で、前記Oリング57は、断面中心O57回りの回転(Oリング57の中心軸を含む仮想平面で切断した場合の断面形状の中心を回転中心とした回転、図3中の矢印B方向の回転)のみが可能になる{周方向に関する回転(Oリング57の中心軸回りの回転)は不能になる}。特に、本例の場合、前記点γから前記Oリング57と前記部分球状凸面55との当接部までの距離を一定としている為、前記シールリング32aが傾斜した場合にも、前記Oリング57にそれ以上の圧縮応力を作用させずに済む。
【0038】
又、本例の場合には、前記Oリング57の断面中心O57回りの回転を容易に(部分球状凸面55との間に作用する摩擦力により)行わせる為に、このOリング57の近傍(特に凹溝56内)にグリースを保持している。この為に、前記静止側円筒部38aの軸方向内端部外周面と前記外輪1の軸方向内端部内周面との間部分に、外径側シールリップ(ノーズガスケット)58を設け、前記Oリング57の近傍のグリースが軸方向内方に漏れ出す事を防止している。又、このOリング57を設置した部分に、泥水等の異物が入り込む事も防止している。尚、本例の場合には、前記外径側シールリップ58を、前記シールリング32aを構成するシール材37の一部により形成している。
【0039】
以上の様な構成を有する本例の場合、前記Oリング57と前記外径側シールリップ58とにより、前記外輪1と前記シールリング32a(静止側円筒部38a)との間部分をシールし、当該部分を通じて、前記内部空間13内に泥水等の異物が入り込む事を防止すると共に、この内部空間13内に封入したグリースが外部に漏洩する事を防止する。又、前記シール機能付回り止め機構34aは、前記ハブ2の中心軸が前記外輪1の中心軸に対し傾斜した場合に、前記部分球状凸面55との当接部に作用する摩擦力により前記Oリング57を断面中心O57回りに回転させる事で、前記シールリング32aが前記外輪1に対して傾斜する事を許容する。但し、このシールリング32aが前記外輪1に対して相対回転する事は、前記Oリング57と前記部分球状凸面55及び前記凹溝56の内面との間にそれぞれ作用する摩擦抵抗により阻止される。
【0040】
以上の様な構成を有する本例の場合にも、車両の旋回時、車輪を構成するタイヤの接地面から取付フランジ9(図4参照)を介して、前記ハブ2にモーメント荷重が加わり、このハブ2の中心軸が前記外輪1の中心軸に対し傾斜した場合にも、前記各シールリップ42〜44の締め代が変化する事を防止できる。又、本例の場合には、ベローズシール53(図1参照)を使用せずに済む分、前記第1例の場合に比べて、前記シール装置14eの径方向寸法を小さくする上で有利になる。
その他の構成及び作用・効果に就いては、前記第1例の場合と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
前述した実施の形態の各例では何れも、シール装置を構成する転がり軸受として、4点接触型の転がり軸受を用いた場合に就いて説明したが、本発明のシール装置を構成する転がり軸受は、この様な4点接触型(多点接触型)の転がり軸受に限定されない。シールリップの締め代に関して僅かな変化を許容する(シールリングの傾斜角度と回転側軌道輪の傾斜角度との間に僅かな差を許容する)場合には、各軌道面の断面形状に関する曲率半径の玉径比を小さくした、単列深溝玉軸受を使用する事も可能である。又、アンギュラ玉軸受、ラジアルニードル軸受、円筒ころ軸受等、各種の転がり軸受を用いる事もできる。又、複数の転がり軸受や滑り軸受を組み合わせて用いる事もできる。更に、転がり軸受を構成する外輪相当部材並びに内輪相当部材に就いては、前記各例の場合の様に、転がり軸受用外輪及び転がり軸受用内輪を、芯金やスリンガとは別に設ける事もできるが、各軌道を直接形成した芯金やスリンガ(或いはハブを構成する内輪、ハブ本体)等により代用しても良い。この場合には、芯金やスリンガ等の部材を浸炭処理或いは窒化処理により硬化させる事が好ましい。この様に、芯金やスリンガ等の部材により代用する場合には、部品点数の減少に伴うコストの低減と、シール装置の軽量化、径方向寸法の短縮化を図れる。
【0042】
更に、本発明を実施する場合に、シール装置を構成するシールリップの数は1本(好ましくは締め代の変化を生じ易いサイドリップのみ)でも良いし、2本或いは前記各例の場合の様に3本、又はそれ以上でも良い。又、前述した実施の形態の各例では、外輪が静止側軌道輪でハブ(内輪)が回転側軌道輪である構造(内輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニット)に就いて示したが、外輪が回転側軌道輪であり、内輪が静止側軌道輪である構造(外輪回転型の車輪支持用軸受ユニット)にも、本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 外輪
2 ハブ
3 転動体
4 ハブ本体
5 内輪
6 外輪軌道
7 内輪軌道
8 ナックル
9 取付フランジ
10 スプライン孔
11 等速ジョイント
12 スプライン軸
13 内部空間
14a〜14e シール装置
15 シールリング
16 スリンガ
17 芯金
18 シール材
19 外径側円筒部
20 外径側円輪部
21 外側シールリップ
22 中間シールリップ
23 内側シールリップ
24 内径側円筒部
25 内径側円輪部
26 シールリング
27 芯金
28 シール材
29 外側シールリップ
30 中間シールリップ
31 内側シールリップ
32、32a シールリング
33 転がり軸受
34、34a シール機能付回り止め機構
35 スリンガ
36、36a 芯金
37 シール材
38、38a 静止側円筒部
39、39a 外径側円輪部
40 折り返し筒部
41 内径側円輪部
42 外側シールリップ
43 中間シールリップ
44 内側シールリップ
45 回転側円筒部
46 回転側円輪部
47 転がり軸受用外輪
48 転がり軸受用内輪
49 玉
50 外輪軌道
51 内輪軌道
52 静止側筒状部
53 ベローズシール
54 シール材
55 部分球状凸面
56 凹溝
57 Oリング
58 外径側シールリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する回転側軌道輪に形成された回転側周面と静止側軌道輪に形成された静止側周面との間部分に存在する空間の端部開口を塞ぐ為に使用するもので、シールリングと、転がり軸受と、シール機能付回り止め機構とを備え、
このうちのシールリングは、芯金と、この芯金により補強された弾性材製のシール材とから成り、このシール材には、前記回転側軌道輪若しくはこの回転側軌道輪と共に回転する部材に対し全周に亙り摺接するシールリップが設けられており、
前記転がり軸受は、前記回転側軌道輪と前記シールリングとの間部分に設けられ、このシールリングをこの回転側軌道輪に対し相対回転可能に支持しており、
前記シール機能付回り止め機構は、前記静止側周面と前記シールリングとの間部分をシールすると共に、前記回転側軌道輪の中心軸と前記静止側軌道輪の中心軸とが互いに傾斜する事に伴う前記シールリングとこの静止側軌道輪との相対変位を許容しつつ、このシールリングがこの静止側軌道輪に対して相対回転する事を阻止するものである、
シール装置。
【請求項2】
シール機能付回り止め機構が、静止側周面に嵌合固定された固定部材と、全体形状が略円輪状で、その径方向両周縁部がこの固定部材とシールリングを構成する芯金とにそれぞれ接着された、中心線を含む仮想平面に関する断面形状が非直線状である撓みシールとを備える、請求項1に記載したシール装置。
【請求項3】
シール機能付回り止め機構が、シールリングを構成する芯金のうちで静止側周面に対向する部分に形成された、中心線を含む仮想平面に関する断面形状が円弧形である凸面部と、この静止側周面に形成された凹溝内に配置され、この凹溝の底部とこの凸面部との間で全周に亙り弾性的に挟持されたOリングとを備える、請求項1に記載したシール装置。
【請求項4】
回転側周面に回転側軌道を有する回転側軌道輪と、静止側周面に静止側軌道を有する静止側軌道輪と、これら回転側軌道と静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、前記回転側周面と前記静止側周面との間部分に存在する空間の端部開口を塞ぐシール装置とを備えた、シール装置付車輪支持用転がり軸受ユニットに於いて、このシール装置が、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したシール装置である事を特徴とするシール装置付車輪支持用転がり軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−50114(P2013−50114A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186689(P2011−186689)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】