説明

ジンセノサイドF1及びEGCGを含有する皮膚損傷防止用組成物

本発明は、ジンセノサイドF1及びEGCGを含有する皮膚保護用組成物に関し、前記ジンセノサイドF1とEGCGを同時に処理することによって、低い濃度でも優れた皮膚保護効果を示し、特に、紫外線の照射により誘導される皮膚細胞の死滅を抑制する皮膚細胞死滅抑制剤及び皮膚細胞の死滅を防止する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記ジンセノサイドF1(20−O−β−D−グルコピラノシル−20(S)−プロトパナックサトリオール)及びEGCG((−)エピガロカテキン−3−ガレート)を含有する皮膚損傷防止用組成物に関する。より詳細には、ジンセノサイドF1とEGCGを少量含有しても、その相乗効果によって、紫外線の照射により誘導される皮膚損傷を防止できる組成物及び皮膚損傷を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、人体の一次防御膜であって、体内の諸器官を温度及び湿度変化や紫外線、公害物質など外部環境の刺激から保護し、且つ、体温調節などの生体恒常性の維持に重要な役割をしている。しかし、皮膚は、外部に露出されているため、外部からの刺激によって損傷を受けやすい。このような外部的刺激として紫外線による刺激が主であるが、このような紫外線は、皮膚の老化を誘導すると共に、皮膚において細胞の死滅を誘導する。
【0003】
皮膚老化の最も重要な要因として、280〜320nm波長の紫外線B(UVB)が挙げられる。皮膚が紫外線に露出される場合、DNA、蛋白質などの細胞成分が損傷され、日焼け(sunburn)細胞が生成され、これらは、カスパーゼ(caspase)酵素の活性化及び酵素の作用によるDNA断片化現象を伴う細胞死滅過程を経ながら死滅するようになる。このように、細胞死滅現象は、損傷された細胞の死滅を誘導し、これらが腫ように発展するのを防ぐ。
【0004】
Bcl−2は、このような細胞死滅過程において重要な役割を行う遺伝子であって、核膜とミトコンドリア外膜に存在する26kDaの蛋白質を暗号化する。発現蛋白質であるBcl−2は、Baxのような細胞死滅を促進する蛋白質に付着してこれらの機能を妨害することによって、細胞死滅を抑制する役割をする。Bcl−2蛋白質とBax蛋白質間の濃度比によって、細胞が死滅されるか否かが決定される。
【0005】
現在までBcl−2は、皮膚細胞において紫外線の照射によりその発現が急激に減少されると報告された。また、Bcl−2を過発現させた細胞は、紫外線の照射による細胞死滅が抑制されることが報告された。しかしながら、Bcl−2の過発現は、むしろ深刻なDNA損傷を有する細胞の死滅まで阻害し、癌を誘発する可能性を有する。したがって、Bcl−2の発現を特異的に調節することが非常に重要である。
【0006】
一方、緑茶のポリフェノール成分であるEGCGは、強力な抗酸化機能と有害なラジカルを効果的に除去する機能を有している。また、この化合物は、紫外線による炎症反応と皮膚癌誘発を防止すると知られている。最近、EGCGが人体の正常角質形成細胞においてBcl−2の発現を増加させ、Baxの発現を減少させて、紫外線による細胞死滅を防止するという報告がある。しかし、扁平上皮癌細胞にEGCGを処理すれば、むしろBax蛋白質のリン酸化を減少させ、癌細胞の増殖を抑制する効果を示した。しかし、未だ細胞死滅と細胞増殖と関連した信号伝達過程のうちEGCGのターゲットは知られていない。
【0007】
レチノブラストーマ(Rb:Retinoblastoma)蛋白質は、癌抑制遺伝子(tumor suppressor)により発現される蛋白質であって、発生、癌、細胞成長と分化、死滅において重要な役割をする。この蛋白質は、核蛋白質で、細胞周期やDNA損傷をもたらす要因によりリン酸化が調節され、E2F転写因子と一緒に細胞死滅に関与する。また、Bcl−2の過発現がRb蛋白質の脱リン酸化を抑制して安定化させることによって、細胞死滅を抑制するのに関与すると知られている。
【0008】
しかし、現在まで人間の皮膚細胞において損傷程度が弱い細胞を保護して細胞死滅を抑制し、一方では、損傷程度が激しい細胞に対しては、細胞死滅を誘導することによって、皮膚においての細胞死滅を調節して皮膚を保護することができる、人体に無害で且つ人間への適用が容易な物質について特に知られていない。
【発明の開示】
【0009】
これより、本発明者らは、ジンセノサイドF1(20−O−β−D−グルコピラノシル−20(S)−プロトパナックサトリオール)及びEGCG((−)エピガロカテキン−3−ガレート)を含有する組成物が、皮膚細胞を保護し、その損傷を防止するのに優れた効果があることを知見し、本発明を完成した。
【0010】
特に、前記ジンセノサイドF1(ginsenoside F1)及びEGCG((−)epigallocatechin-3-gallate)の各々を低濃度で含有する組成物は、特別な皮膚保護効果を示さないが、前記濃度のジンセノサイドF1とEGCGを混合する場合、その相乗効果によって、優れた皮膚保護効果を示すことができる。すなわち、前記2つの化合物の相乗効果によって、単独処理時には効果がない低い濃度でも、混合によってはじめて紫外線の照射に対応してBcl−2の発現を調節できる能力が生じる。
【0011】
したがって、本発明は、下記化学式1で表されるジンセノサイドF1及び下記化学式2で表されるEGCGを有効成分として含有する皮膚損傷防止用組成物に関する。
【化1】

【0012】
本発明に係る組成物は、皮膚細胞死滅などに関与し、皮膚老化防止、皮膚細胞活性維持などの作用をする。
【0013】
好ましくは、前記ジンセノサイドF1及びEGCGは、組成物の総重量に対して0.0001〜10重量%の量で含有されるのがよい。また、前記ジンセノサイドF1とEGCGの比率は、重量比で1:0.1〜10の割合で含有されることが好ましい。
【0014】
より具体的には、本発明は、ジンセノサイドF1とEGCG混合物を有効成分として含有する、低線量の紫外線により誘導される細胞死滅抑制剤を提供する。
また、本発明は、ジンセノサイドF1とEGCG混合物を有効成分として含有する、紫外線によりその発現が減少されるBcl−2のための発現調節剤を提供する。
また、本発明は、ジンセノサイドF1とEGCG混合物を有効成分として含有する、紫外線により減少されるBrn−3a発現調節剤を提供する。
【0015】
本発明によれば、ジンセノサイドF1自体は、Bcl−2の発現を増加させないが、紫外線によりBcl−2の発現が減少するのを抑制することが分かる。すなわち、ジンセノサイドF1は、Bcl−2の転写調節因子であるBrn−3aの発現を調節することによって、Bcl−2の発現濃度を正常細胞水準に維持し、これにより、低線量の紫外線により皮膚細胞が死滅されるのを防止することができる。一方、高線量の紫外線の照射に対しては、Bcl−2発現が減少し、損傷された細胞の細胞死滅過程がそのまま進行されるので、損傷された細胞が皮膚癌に発展する危険性を除去することができる。
【0016】
また、本発明では、ジンセノサイドF1が、上記した効果において、EGCGと相乗作用をすることを、後述する実施例から確認した。より具体的に、単独処理時には効果がない低い濃度の2つの化合物を混合して、人間皮膚細胞株であるHaCaT細胞に処理した時、紫外線の照射により減少したBcl−2の発現が正常な濃度に維持され、これにより、細胞死滅が抑制されることを確認した。また、以前の研究結果に基づいて、EGCGとの相乗作用においても、細胞死滅抑制効果がBcl−2に特異的な転写調節因子であるBrn−3aの発現を調節することによって生じることを確認した。しかも、2つの化合物を同時に処理した時にのみ、癌抑制蛋白質であるRbの脱リン酸化を阻害し、細胞死滅を抑制するという効果を確認した。
【0017】
上述の結果から、ジンセノサイドF1とEGCGは、低い濃度で使用しても、互いに相乗作用を通じて細胞内に常に一定量のBcl−2の濃度が維持され得るようにし、Rb蛋白質の脱リン酸化を阻止し、細胞が死滅されるのを阻害する効能を有することが分かる。
【0018】
したがって、ジンセノサイドF1とEGCGは、互いに相乗作用を通じて細胞内に常に一定量のBcl−2の濃度が維持され得るようにして、細胞が死滅されるのを防止することができる。また、ジンセノサイドF1自体は、Bcl−2の発現を増加させないので、癌に成長する可能性がある細胞が死滅されることを阻止するわけではないので、損傷された細胞が癌に発展する副作用がない。したがって、ジンセノサイドF1とEGCGは、紫外線による細胞死滅を抑制、細胞損傷を防止して、皮膚老化を抑制できる物質としての活用可能な用途を提供する。
【0019】
これより、本発明は、ジンセノサイドF1とEGCG混合物を有効成分として含有する皮膚保護用組成物を提供する。本発明の組成物は、紫外線による皮膚損傷及びこれによる皮膚老化を抑制する効果を期待することができる。本発明の組成物は、例えば化粧料のように、皮膚外用剤として剤型化することができる。しかしながら、前記組成物の用途及び剤型は、これに限定されるものではない。
【0020】
本発明に用いられるジンセノサイドF1は、人参から製造された精製サポニンを水や緩衝溶液のような水性溶媒、または水や緩衝溶液のような水性溶媒と有機溶媒の混合液に溶解させた後、ペニシリウム属から分離したナリンジナーゼ及びアスペルギルス属から分離したペクチナーゼのうち少なくとも1つと反応させることによって得られた化合物である。しかしながら、ジンセノサイドF1を得る方法については、上記の方法に限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。しかしながら、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の権利範囲がこれらの実施例に限定されるものではないことは、この技術分野において通常の知識を有する者にとって自明である。
【0022】
<参照例1>人参精製サポニンの製造:
紅参(タバコ人参公社、6年産紅参)2Kgに水を含むメタノール4Lを入れ、3回還流抽出した後、15℃で6日間沈積させた。その後、濾過布を用いた濾過と遠心分離を通じて残渣と濾液を分離し、分離された濾液を減圧濃縮した。濃縮液を水に懸濁した後、エーテル1Lで5回抽出して色素を除去した。水層を1−ブタノール500mLで3回抽出して得た1−ブタノール層全体を5%KOHで処理した後、蒸留水で洗浄した。次に、減圧濃縮して1−ブタノール抽出液を得、これを少量のメタノールに溶解した後、大量のエチルアセテートに追加した。得られた沈殿物を乾燥し、人参精製サポニン70gを得た。
【0023】
<参照例2>ジンセノサイドF1の製造:
参照例1の人参精製サポニン10gをシトレート緩衝溶液(pH4.0)1000mLに溶解させ、これにペニシリウム属から分離したナリンジナーゼ(Sigma、St.Louis、MO)15gを添加し、40℃の水浴上で48時間攪拌させながら反応させた。反応が終了した後、10分間加熱して酵素を失活させ、反応液は、同量のエチルアセテートで3回抽出して濃縮した。得られた生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=9:1)で分離し、ジンセノサイドF1を1.5g得た。
【0024】
<実施例1>ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理によるHaCaT細胞の死滅抑制効果:
[段階1]細胞株と細胞培養
人体皮膚細胞株(human keratinocyte)であるHaCaT(Dr.N.E.Fusenig(DeutschesKrebsforschungszentrum(DKFZ)、Heidelberg、Germany)から入手した)を10%牛血清を含むDMEM培地(Dulbecco’s modified
Eagle’s medium、Gibco1210−0038)で培養した。培
養は、いずれも37℃、5%CO2培養器で行った。
【0025】
[段階2]ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理による、紫外線の照射時に誘導されるHaCaT細胞の死滅抑制
段階1で培養された細胞株をトリプシンで処理し、単一細胞の懸濁液を作った後、6−wellに2×105個ずつ分株し、24時間培養した。次に、牛血清が含まれないDMEM培地に交換し、さらに24時間培養した後、2μMのジンセノサイドF1;10μMのEGCG;2μMのジンセノサイドF1と10μMのEGCGを混合したもの;5μMのジンセノサイドF1;及び50μMのEGCGを各々処理した。
参考として、ジンセノサイドF1は、100%エタノールに溶解し、常に培地の1/1000の濃度で準備し、EGCG(Sigma)は、ジメチルスルホキサイド(DMSO)に溶解し、培地の1/1000の濃度で準備し、各培養液に必要な量だけ添加することによって、添加量を調節した。
【0026】
24時間各化合物を処理した後、リン酸緩衝溶液(PBS)で洗浄し、PBSを入れた状態で60mJ/cm2濃度のUVBを照射した。次に、PBSを捨てて、さらに同じ濃度の各化合物が含まれた培地に交換した。薬物を処理しない細胞を対照区として同一に培養した。
【0027】
紫外線を照射してから24時間後、各化合物を処理した細胞と処理しない細胞に3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT、Sigma)溶液を入れ、37℃で4時間培養した。その後、DMSOを入れて溶解した後、ELISA reader(Thermo Max、Molecular Devices Co.)を用いて540nmの波長で形成されたホルマザンダイの光学的濃度(OD)を測定した。紫外線を照射しない細胞のOD値を100%に計算して、相対的な値を細胞の生存数で示し、その結果を図1に示した。
【0028】
図1から明らかなように、2μMのジンセノサイドF1または10μMのEGCGを単独で処理した場合には、処理しない対照区と比較して、紫外線により死滅される細胞数に差異がなかった。しかし、2μMのジンセノサイドF1と10μMのEGCGを混合して処理した細胞の場合、処理しない細胞に比較して、紫外線に露出された場合、約2倍程度細胞死滅が抑制された。これは、5μMのジンセノサイドF1単独または50μMのEGCG単独を各々処理した場合と同じ程度の細胞死滅抑制効果を示した。
【0029】
<実施例2>ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理によるPARP蛋白質の切断抑制効果:
[段階1]細胞株と細胞培養
実験に利用された細胞株と細胞培養は、実施例1の段階1と同様である。
【0030】
[段階2]ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理による、紫外線の照射時に誘発されるPARP蛋白質の切断抑制
段階1で培養された細胞株をトリプシンで処理して単一細胞の懸濁液を作った後、6−wellに2×105個ずつ分株し、24時間培養した。次に、牛血清が含まれないDMEM培地に交換し、さらに24時間培養した後、2μMのジンセノサイドF1;10μMのEGCG;2μMのジンセノサイドF1と10μMのEGCGを混合したもの;5μMのジンセノサイドF1;及び50μMのEGCGを各々処理した。ジンセノサイドF1は、100%エタノールに溶解し、常に培地の1/1000の濃度が含まれるようにし、EGCG(Sigma)は、DMSOに溶解し、培地の1/1000の濃度が含まれるようにした。24時間にわたって各化合物を処理した後、PBSで洗浄し、PBSを入れた状態で60mJ/cm2濃度のUVBを照射した。次に、PBSを捨てて、さらに同じ濃度の各化合物が含まれた培地に交換した。薬物を処理しない細胞を対照区として同一に培養した。
【0031】
紫外線を照射してから24時間後、薬物を処理した細胞と処理しない細胞をPBSで洗浄し、トリプシンを処理して細胞を回収した。これに、8M尿素、2%CHAPS、50mM DTT、2Mチオ尿素(thiourea)、2mM PMSF及び100μg/μロイペプチン(leupeptine)が含有された蛋白質抽出緩衝溶液500μLを処理した後、10分間常温で放置した。次に、4℃で10分間15,000×gの重力加速度で遠心分離し、上層液を回収した後、BIO−Rad Protein Dye ReagentTMを用いて蛋白質を定量した。蛋白質20μgを8%SDS−PAGEを用いて大きさ別に分離した後、50Vで12時間PDF(BioRad)膜にブロッティングした。このブロットを5%無脂肪牛乳溶液で1時間ブロッキングした後、1次抗体としてpolyclonal anti−PARP(Santa Cruz)を、2次抗体としてHRP(horse radish peroxidase)が結合されたanti−rabbit IgG(Amersham)を利用して、Amersham社のECL(enhanced chemiluminescence)キットを用いて抗体反応させた。反応させたブロットは、X線Fujiフィルムに感光させた後、現像して蛋白質発現程度を確認した。フィルム上のバンドは、PowerLook 2100 XL(UMAX)を用いてスキャニングした後、ImageMaster 2D Elite(Amersham Biosciences)イメージ分析プログラムを用いて分析した。PARP蛋白質の切断された量は、対照区の切断された量を基準として相対的な値で示した。その結果を図2に示した。
【0032】
図2から明らかなように、2μMのジンセノサイドF1と10μMのEGCGを混合して処理した細胞の場合、処理しない細胞または同じ濃度の各化合物を単独で処理した時と比較して、紫外線の照射により生ずるPARP蛋白質の切断化現象が1.4倍程度減少した。
【0033】
<実施例3>ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理によるBcl−2の発現減少抑制効果:
[段階1]細胞株と細胞培養
実験に利用された細胞株と細胞培養は、実施例1の段階1と同様である。
【0034】
[段階2]ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理による、紫外線の照射時に誘発されるBcl−2の発現減少抑制
段階1で培養された細胞株をトリプシンで処理して単一細胞の懸濁液を作った後、6−wellに2×105個ずつ分株し、24時間培養した。次に、牛血清が含まれないDMEM培地に交換し、さらに24時間培養した後、2μMのジンセノサイドF1;10μMのEGCG;2μMのジンセノサイドF1と10μMのEGCGを混合したもの;5μMのジンセノサイドF1;及び50μMのEGCGを各々処理した。ジンセノサイドF1は、100%エタノールに溶解し、常に培地の1/1000の濃度が含まれるようにし、EGCG(Sigma)は、DMSOに溶解し、培地の1/1000の濃度が含まれるようにした。24時間にわたって各化合物を処理した後、PBSで洗浄し、PBSを入れた状態で60mJ/cm2濃度のUVBを照射した。次に、PBSを捨てて、さらに同じ濃度の各化合物が含まれた培地に交換した。薬物を処理しない細胞を対照区として同一に培養した。
【0035】
紫外線を照射してから24時間後、薬物を処理した細胞と処理しない細胞をPBSで洗浄し、トリプシンを処理して細胞を回収した。これに、8M尿素、2%CHAPS、50mM DTT、2Mチオ尿素(thiourea)、2mM PMSF及び100μg/μロイペプチン(leupeptine)が含有された蛋白質抽出緩衝溶液500μLを処理した後、10分間常温で放置した。次に、4℃で10分間15,000×gの重力加速度で遠心分離し、上層液を回収した後、BIO−Rad Protein Dye ReagentTMを用いて蛋白質を定量した。蛋白質20μgを8%SDS−PAGEを用いて大きさ別に分離した後、50Vで12時間PDF(BioRad)膜にブロッティングした。このブロットを5%無脂肪牛乳溶液で1時間ブロッキングした後、1次抗体としてpolyclonal anti−Bcl−2(Santa Cruz)を、2次抗体としてHRP(horse radish peroxidase)が結合されたanti−rabbit IgG(Amersham)を利用し、Amersham社のECL(enhanced chemiluminescence)キットを用いて抗体反応させた。反応させたブロットは、X線Fujiフィルムに感光させた後、現像して蛋白質発現程度を確認した。フィルム上のバンドは、PowerLook 2100 XL(UMAX)を用いてスキャニングした後、ImageMaster 2D Elite(Amersham Biosciences)イメージ分析プログラムを用いて分析した。その結果を図3に示した。
【0036】
図3から明らかなように、紫外線を照射した時、薬物を処理しない細胞の場合、Bcl−2蛋白質は、ほとんど発現されなかった。2μMのジンセノサイドF1または10μMのEGCGを単独で処理した時にも、薬物を処理しない対照区と比較してBcl−2発現に大きな差異がなかった。しかし、2つの化合物を同時に処理した細胞の場合、紫外線を照射した時にも、照射しない場合と比較してほとんど差異がない程度に発現が維持された。すなわち、2つの化合物を同時に処理すれば、処理しない場合、または各化合物を単独で処理した場合と比較して、Bcl−2蛋白質の発現が3倍程度増加した。
【0037】
<実施例4>ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理によるBrn−3aの発現減少抑制効果:
[段階1]細胞株と細胞培養
実験に利用された細胞株と細胞培養は実施例1の段階1と同様である。
【0038】
[段階2]ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理による、紫外線の照射時に誘発されるBrn−3aの発現減少抑制
段階1で培養された細胞株をトリプシンで処理して単一細胞の懸濁液を作った後、6−wellに2×105個ずつ分株し、24時間培養した。次に、牛血清が含まれないDMEM培地に交換し、さらに24時間培養した後、2μMのジンセノサイドF1;10μMのEGCG;2μMのジンセノサイドF1と10μMのEGCGを混合したもの;5μMのジンセノサイドF1;及び50μMのEGCGを各々処理した。ジンセノサイドF1は、100%エタノールに溶解し、常に培地の1/1000の濃度が含まれるようにし、EGCG(Sigma)は、DMSOに溶解し、培地の1/1000の濃度が含まれるようにした。24時間にわたって各化合物を処理した後、PBSで洗浄し、PBSを入れた状態で60mJ/cm2濃度のUVBを照射した。次に、PBSを捨てて、さらに同じ濃度の各化合物が含まれた培地に交換した。薬物を処理しない細胞を対照区として同一に培養した。
【0039】
紫外線を照射してから24時間後、薬物を処理した細胞と処理しない細胞をPBSで洗浄し、トリプシンを処理して細胞を回収した。これに、8M尿素、2%CHAPS、50mM DTT、2Mチオ尿素(thiourea)、2mM PMSF及び100μg/μロイペプチン(leupeptine)が含有された蛋白質抽出緩衝溶液500μLを処理した後、10分間常温で放置した。次に、4℃で10分間15,000×gの重力加速度で遠心分離し、上層液を回収した後、BIO−Rad Protein Dye ReagentTMを用いて蛋白質を定量した。蛋白質20μgを8%SDS−PAGEを用いて大きさ別に分離した後、50Vで12時間PDF(BioRad)膜にブロッティングした。このブロットを5%無脂肪牛乳溶液で1時間ブロッキングした後、1次抗体としてpolyclonal anti−Brn−3a(Santa Cruz)を、2次抗体としてHRP(horse radish peroxidase)が結合されたanti−rabbit IgG(Amersham)を利用し、Amersham社のECL(enhanced chemiluminescence)キットを用いて抗体反応させた。反応させたブロットは、X線Fujiフィルムに感光させた後、現像して蛋白質発現程度を確認した。フィルム上のバンドは、PowerLook 2100 XL(UMAX)を用いてスキャニングした後、ImageMaster 2D Elite(Amersham Biosciences)イメージ分析プログラムを用いて分析した。その結果を図4に示した。
【0040】
図4から明らかなように、Brn−3a蛋白質は、紫外線の照射によりその発現が減少したが、2つの化合物を同時に処理した時にのみ、さらに発現が回復された。
【0041】
<実施例5>ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理によるRb蛋白質の脱リン酸化抑制効果:
[段階1]細胞株と細胞培養
実験に利用された細胞株と細胞培養は、実施例1の段階1と同様である。
【0042】
[段階2]ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理による、紫外線の照射時に誘発されるRb蛋白質の脱リン酸化抑制
段階1で培養された細胞株をトリプシンで処理して単一細胞の懸濁液を作った後、6−wellに2×105個ずつ分株し、24時間培養した。次に、牛血清が含まれないDMEM培地に交換し、さらに24時間培養した後、2μMのジンセノサイドF1;10μMのEGCG;2μMのジンセノサイドF1と10μMのEGCGを混合したもの;5μMのジンセノサイドF1;及び50μMのEGCGを各々処理した。ジンセノサイドF1は、100%エタノールに溶解し、常に培地の1/1000の濃度が含まれるようにし、EGCG(Sigma)は、DMSOに溶解し、培地の1/1000の濃度が含まれるようにした。24時間にわたって各化合物を処理した後、PBSで洗浄し、PBSを入れた状態で60mJ/cm2濃度のUVBを照射した。次に、PBSを捨てて、さらに同じ濃度の各化合物が含まれた培地に交換した。薬物を処理しない細胞を対照区として同一に培養した。
【0043】
紫外線を照射してから24時間後、薬物を処理した細胞と処理しない細胞をPBSで洗浄し、トリプシンを処理して細胞を回収した。これに、8M尿素、2%CHAPS、50mM DTT、2Mチオ尿素(thiourea)、2mM PMSF及び100μg/μロイペプチン(leupeptine)が含有された蛋白質抽出緩衝溶液500μLを処理した後、10分間常温で放置した。次に、4℃で10分間15,000×gの重力加速度で遠心分離し、上層液を回収した後、BIO−Rad Protein Dye ReagentTMを用いて蛋白質を定量した。蛋白質20μgを8%SDS−PAGEを用いて大きさ別に分離した後、50Vで12時間PDF(BioRad)膜にブロッティングした。このブロットを5%無脂肪牛乳溶液で1時間ブロッキングした後、1次抗体としてpolyclonal anti−Rb(Santa Cruz;全ての形態のRb(過リン酸化、低リン酸化形態など)感知)を、2次抗体としてHRP(horse radish peroxidase)が結合されたanti−rabbit IgG(Amersham)を利用し、Amersham社のECL(enhanced chemiluminescence)キットを用いて抗体反応させた。反応させたブロットは、X線Fujiフィルムに感光させた後、現像して蛋白質発現程度を確認した。同じブロットを6.25mM Tris、2%SDS、100mM β−メルカプトエタノール溶液で50℃で10分ずつ2回洗浄した。また、5%無脂肪牛乳溶液で1時間ブロッキングした後、1次抗体としてmonoclonal anti−underphosphorylated Rb(BD Biosciences;低リン酸化形態のRbだけを感知)を、2次抗体としてHRP(horse radish peroxidase)が結合されたanti−rabbit IgG(Amersham)を利用し、Amersham社のECL(enhanced chemiluminescence)キットを用いて抗体反応させた。反応させたブロットは、X線Fujiフィルムに感光させた後、現像して蛋白質発現程度を確認した。フィルム上のバンドは、PowerLook 2100 XL(UMAX)を用いてスキャニングした後、ImageMaster 2D Elite(Amersham Biosciences)イメージ分析プログラムを用いて分析した。その結果を図5に示した。
【0044】
図5から明らかなように、Rb蛋白質は、薬物単独処理時や処理しない時には、紫外線の照射により脱リン酸化が生じ、低リン酸化形態が現れたが、2つの化合物を混合して同時に処理した時には、このようなRb蛋白質の脱リン酸化が抑制され、全ての形態のRb蛋白質が存在するようになった。
【0045】
以下、本発明に係るジンセノサイドF1及びEGCGを含有する外用剤組成物について、剤型例を例にとって説明するが、本発明の外用剤組成物の剤型がこれらの例に限定されるものではない。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0053】
以上説明したように、本発明において、ジンセノサイドF1とEGCGとを、それぞれ単独で処理した時には効果がない低い濃度で2つの化合物を同時に処理する場合、相乗作用によって、紫外線の照射時に誘発されるBcl−2の発現減少及びその転写因子であるBrn−3aの発現減少を抑制することによって、また、Rb蛋白質の脱リン酸化を阻害することによって、紫外線による細胞死滅を防止することができる。したがって、本発明は、低い濃度のジンセノサイドF1とEGCGとを同時に処理して、紫外線による細胞損傷を防止し、皮膚老化を抑制できる物質として活用可能な用途を提供する。また、本発明によれば、コストが高い2つの化合物を低い濃度(単独使用時、各々2.5倍、5倍の濃度が必要)で使用することによって、原料費を低減し、高機能性製品をさらに安価で供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理による皮膚細胞の死滅抑制効果を示すためのMTT還元反応実験結果グラフである。
【図2】図2は、ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理によるPARP蛋白質(poly ADP−ribose−polymerase)の切断抑制効果を示すために、ウェスタンブロッティング(Western-blot analysis)を行った結果である。Aは、紫外線を照射しない場合であり、Bは、60mJ/cm2の紫外線を照射した結果である。Hsp70は、同じ蛋白質量が使われたことを示す。図2において、各々の試料は、1番は、対照区;2番は、2μMのジンセノサイドF1で処理;3番は、10μMのEGCGで処理;4番は、“2μMのジンセノサイドF1+10μMのEGCG”で処理;5番は、5μMのジンセノサイドF1で処理;及び6番は、50μMのEGCGで処理;したことを示す。
【図3】図3は、ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理によるBcl−2の発現減少抑制効果を示すためにウェスタンブロッテイングを行った結果である。Aは、紫外線を照射しない場合であり、Bは、60mJ/cm2の紫外線を照射した結果である。Hsp70は、同じ蛋白質量が使われたことを示す。試料別処理量は、図2と同様である。
【図4】図4は、ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理によるBrn−3aの発現減少抑制効果を示すためにウェスタンブロッテイングを行った結果である。Aは、紫外線を照射しない場合であり、Bは、60mJ/cm2の紫外線を照射した結果である。Hsp70は、同じ蛋白質量が使われたことを示す。試料別処理量は、図2と同様である。
【図5】図5は、ジンセノサイドF1とEGCGの同時処理によるRb蛋白質の脱リン酸化抑制効果を示すためにウェスタンブロッテイングを行った結果である。上記のブロットは、全てのリン酸化形態のRb蛋白質を感知する抗体を用いてウェスタンブロッテイングを行った結果であり、下記のブロットは、同じメンブレインを低リン酸化形態のRbだけを感知する抗体を用いて行った結果である。また、Aは、紫外線を照射しない場合であり、Bは、60mJ/cm2の紫外線を照射した結果である。試料別処理量は、図2と同様である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20−O− β −D−グルコピラノシル−20(S)−プロトパナックサトリオール(ジンセノサイドF1)及び(−)エピガロカテキン−3−ガレート(EGCG)を有効成分として含有する皮膚保護用組成物。
【請求項2】
前記皮膚保護は、前記有効成分による細胞死滅抑制による皮膚保護であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記細胞死滅抑制は、低線量の紫外線の照射により誘導される細胞死滅の抑制であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記細胞死滅抑制は、Bcl−2発現調節によるものであることを特徴とする請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
前記Bcl−2発現調節は、Brn−3a発現調節によるものであることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ジンセノサイドF1及びEGCGは、組成物の総重量に対して0.0001〜10重量%の量で含有されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ジンセノサイドF1とEGCGの比率は、重量比で1:0.1〜10の範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
ジンセノサイドF1及びEGCGを有効成分として含有することを特徴とするRb蛋白質の脱リン酸化抑制剤。
【請求項9】
低濃度のジンセノサイドF1とEGCG混合物を有効成分として含有し、紫外線の露出による細胞損傷を防止することを特徴とする皮膚損傷抑制剤。
【請求項10】
ジンセノサイドF1とEGCG混合物を有効成分として含有することを特徴とする皮膚外用剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−530531(P2007−530531A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504864(P2007−504864)
【出願日】平成16年6月1日(2004.6.1)
【国際出願番号】PCT/KR2004/001303
【国際公開番号】WO2005/092280
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(503327691)株式會社アモーレパシフィック (73)
【住所又は居所原語表記】181, Hankang−ro 2−ka, Yongsan−ku, Seoul 140−777 Republic of Korea
【Fターム(参考)】