説明

スイッチ装置、信号伝送回路装置及びスイッチング方法

【課題】信号伝送回路での損失が少なく、かつ、カットオフ時のアイソレーションが十分に取れると共にインピーダンス整合がとり易く、製造コストを低減できるスイッチ装置、そのスイッチ装置を用いた信号伝送回路装置、そのスイッチング方法を提供すること。
【解決手段】光源5から出射された光を受け、その光の熱エネルギーにより変形することで、導電部材としての接触電極9を配線10、11に接触させ、または、離間させる可動部材7を具備することとした。従って、完全にスイッチ制御回路と信号伝送回路としての信号線路に電気的に接続された配線等とを空間的、電気的に分離した状態でスイッチングできる。これにより、スイッチング時のアイソレーションを十分とることが可能となると共に、高周波信号成分がスイッチ制御回路側へ漏れてしまうことがなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチ装置、そのスイッチ装置が用いられた信号伝送回路装置及びスイッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波伝送回路、とりわけ30GHzを越えるようなミリ波体の周波数で電力、信号伝送する場合、通常のFET(Field Effect Transistor)を用いるようなスイッチでは一般に損失が大きくなる。また、カットオフ時のアイソレーションが十分に取れない等の理由により実質半導体デバイスとしてディスクリートですら行なうことが困難という問題があった。
【0003】
その問題を改善するものとして、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスとしてのスイッチ装置(スイッチ素子)の開発が進められ、静電力を利用してスイッチングすることも提案されている。しかし、静電アクチュエーター式のスイッチでは、動作電圧が実質20V以上になってしまい、既存の高周波回路に組み込むことが困難である等の問題があった。
【0004】
そこで、例えば発光素子を含み光を出射する発光回路と、その発光回路から出射された光を受け電圧を発生する受光素子が複数個直列に接続された直列回路を有する受光回路と、その受光回路によって発生された電圧によって駆動されるRF(Radio Frequency)−MEMSスイッチと、を備えたMEMS装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−103559号公報(段落[0009]、[0021]、図2、図13)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の装置等では、入出力端子に電気的に接続された接点の近くに静電電極が配置されることから、スイッチ制御回路と信号伝送回路とが電気的に完全には分離できない。従って、高周波信号成分がスイッチ素子制御回路側へ漏れてしまい、回路系が複雑となりインピーダンス整合が取りにくい等の問題が考えられる。
【0006】
また、上記特許文献1に記載の装置等では、発光回路から出射された光を受け電圧を発生する受光素子が複数個直列に接続された直列回路を有する受光回路を必要とするため、部品点数が増え、製造コストを軽減できない等の問題もある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、信号伝送回路での損失が少なく、かつ、カットオフ時のアイソレーションが十分に取れると共にインピーダンス整合がとり易く、製造コストを低減できるスイッチ装置、そのスイッチ装置を用いた信号伝送回路装置、そのスイッチング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るスイッチ装置は、機能素子をスイッチングするスイッチ装置において、光源と、前記機能素子に電気的に接続可能な配線と、導電部材を有し、前記光源から出射された光を受け、その光の熱エネルギーにより変形することで、前記導電部材を前記配線に接触させ、または、離間させる可動部材とを具備することを特徴とする。ここで、「機能素子」とは、高周波回路のCPW(Coplanar Waveguide)やアンテナ、コイル等を含むものであり、「配線」とは、端部を有する導線等をいう。
【0009】
例えば従来の静電容量型では、高電圧(一般に20V以上)を印加して結線に必要なスイッチ動作を行う点や、容量結合型のスイッチでは信号線路を交流的に設置する原理から、どうしてもカットオフのアイソレーションを取る際に静電ギャップを大きく取らなければならず、そうする事によってより高い電圧をスイッチ駆動に必要になる等の避けがたい問題が残っていた。
【0010】
本発明では、光源から出射された光を受け、その光の熱エネルギーにより変形することで、導電部材を配線に接触させ、または、離間させる可動部材を具備することとした。従って、完全にスイッチ制御回路と信号伝送回路としてのCPWの信号線路やアンテナ等とを空間的、電気的に分離した状態でスイッチングできる。
【0011】
これにより、スイッチング時のアイソレーションを十分とることが可能となると共に、高周波信号成分がスイッチ制御回路側へ漏れてしまうことがなく、回路系を単純にでき、インピーダンス整合が取りやすくなる。
【0012】
更に、光の熱エネルギーにより変形し、スイッチングさせるので、光を受け電圧を発生する受光素子が複数個直列に接続された直列回路を有する受光回路を必要とせず、製造コストの低減を図れる。
【0013】
本発明の一の形態によれば、前記可動部材は、第1の熱膨張係数を有する第1の部材とその熱膨張係数と異なる第2の熱膨張係数を有する第2の部材とを有することを特徴とする。これにより、受けた光の熱エネルギーで可動部材が、熱膨張係数の小さい方に曲がるように変形し、きわめて容易に導電部材を配線に接触させ、または離間させることができる。
【0014】
本発明の一の形態によれば、前記可動部材は、第1の熱膨張係数を有する第1の部材と、その熱膨張係数と異なる第2の熱膨張係数を有する第2の部材と、前記第1の熱膨張係数と異なる第3の熱膨張係数を有する第3の部材とを有し、前記第1の部材は、前記第2の部材と前記第3の部材との間に挟まれていることを特徴とする。これにより、可動部材がその材質や薄さにより光を受ける前に変形してしまうことを、そのサンドイッチ構造によりその初期応力をキャンセルし、防ぐことができる。
【0015】
本発明の一の形態によれば、前記第3の部材は、前記第2の部材と同じ材料で形成され、かつ、その大きさが異なることを特徴とする。ここで「大きさ」とは、第3の部材の形状は勿論、例えば第3の部材が板材であるときに、その厚さ等も含むものとする。これにより、第3の部材による応力のキャンセル量を制御し、光照射時の可動部材の変形が必要以上抑制されることを防ぐことができる。例えば、第3の部材の厚さを第2の部材の厚さより薄くすることで、第1及び第2の部材による初期応力をキャンセルすると共に、光照射時の可動部材全体の変形としては、確実に配線に接触させ、または、離間させることができるようになる。
【0016】
本発明の一の形態によれば、前記光源は、半導体レーザ、発光ダイオードまたは、エレクトロルミネセンスパネルであることを特徴とする。これにより、光の熱効率を高くして、よりスイッチングを確実にさせることができる。また、半導体レーザ(例えば面発光レーザ)を用いることでより正確に光を可動部材に照射できる。
【0017】
本発明の一の形態によれば、前記可動部材は、第1の光吸収率を有する第1の領域と、前記第1の光吸収率より高い第2の光吸収率を有し、前記光を受ける第2の領域とを有することを特徴とする。これにより、可動部材の熱効率を高くできるので、低めの光エネルギーでも十分スイッチングさせることができるようになる。
【0018】
本発明の一の形態によれば、前記配線が設けられた基板と、その基板上に固定され、前記可動部材を収容し、前記光源が外側に実装されると共に当該光源から出射される光が前記可動部材に到達するように、光透過性を有するカバー部材とを更に具備することを特徴とする。ここで、「基板」とは、例えば低誘電率ガラス基板(石英、パイレックス(登録商標)、液晶用基板等)等であり、「光透過性」とは、100%近く光を透過する場合に限られず、例えば50%近く光を透過する半透過程度のものでも良い。また、「光透過性を有するカバー部材」とは、カバー部材の全体が光透過性を有する場合に限られず、部分的に光透過性を有している場合も含む。少なくとも光が進む領域が、光透過性を有していれば良い。
【0019】
これにより、光源をカバー部材の外側に配置でき、よりスイッチ制御回路と信号伝送回路としてのCPWの信号線路やアンテナ等とを空間的、電気的に分離できる。
【0020】
本発明の一の形態によれば、前記カバー部材は、光透過性を有し、その外側に前記光源が実装される光透過性基板と、前記光透過性基板と前記基板との間に設けられ、前記可動部材と前記配線の少なくとも一部とが収容される中空部を有する中間基板とを有することを特徴とする。ここで、「中空部」とは、例えば中間基板を貫通するように空けられた部分をいうが、これに限られるものではなく例えば貫通しておらず、基板側の面に形成された凹部のようなものも含むものとする。
【0021】
これにより、例えばカバー部材の光源を実装する部分とそのほかの部分とを別基板としたので、光源を実装する部分をより薄く形成することが容易となり、スイッチ装置の製造コストの低減と光源から出射された光の減衰をより小さくさせることができる。
【0022】
本発明の他の形態に係る信号伝送回路装置は、基板と、前記基板に設けられた機能素子と、光源を有し、その光源から出射された光を受け、その光の熱エネルギーにより変形して、前記機能素子をスイッチングするスイッチ素子とを具備することを特徴とする。
【0023】
本発明では、光源から出射された光を受け、その光の熱エネルギーにより変形して、機能素子例えばアンテナをスイッチングするスイッチ素子を具備することとした。従って、完全にスイッチ制御回路と信号伝送回路としてのCPWの信号線路やアンテナ等とを空間的、電気的に分離した状態でスイッチ素子を駆動できる。これにより、スイッチ素子のカットオフ時のアイソレーションを十分とることが可能となると共に、高周波信号成分がスイッチ制御回路側へ漏れてしまうことがなく、回路系を単純にでき、インピーダンス整合が取りやすくなる。
【0024】
更に、光の熱エネルギーにより変形し、スイッチ操作させるので、光を受け電圧を発生する受光素子が複数個直列に接続された直列回路を有する受光回路を必要とせず、製造コストの低減を図れる。
【0025】
本発明の一の形態によれば、前記機能素子は、アンテナであることを特徴とする。これにより、例えば周波数帯の違う電波向けアンテナを低コストで、かつ、アイソレーションを十分とって適宜切り替えることができることとなる。
【0026】
本発明の一の形態によれば、前記機能素子は、高周波信号伝送回路であることを特徴とする。ここで、「高周波信号」とは、例えば30GHzを超えるような周波数を持つ信号であって、所謂マイクロ波やミリ波も含む信号である。これにより、マイクロ波、ミリ波で例えばCPW中に信号を伝送する場合もその損失を少なくさせることができる。
【0027】
本発明の他の形態に係るスイッチング方法は、機能素子をスイッチングするスイッチング方法において、出射された光を可動部材に受けるステップと、前記受けた光の熱エネルギーにより前記可動部材を変形させ、前記機能素子をスイッチングするステップとを具備することを特徴とする。
【0028】
本発明では、光の熱エネルギーにより可動部材を変形させ、機能素子をスイッチングすることとしたので、完全にスイッチ制御回路と信号伝送回路としてのCPWの信号線路やアンテナ等とを空間的、電気的に分離した状態でスイッチングできる。これにより、スイッチング時のアイソレーションを十分とることが可能となると共に、高周波信号成分がスイッチ制御回路側へ漏れてしまうことがなく、回路系を単純にでき、インピーダンス整合が取りやすくなる。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明によれば、信号伝送回路での損失が少なく、かつ、カットオフ時のアイソレーションが十分に取れると共に製造コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づきスイッチ装置及びそのスイッチ装置を備えた信号伝送回路装置(以下単に「回路装置」という。)について説明する。
【0031】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るスイッチ装置の斜視図及び図2は、図1の分解斜視図である。
【0032】
スイッチ装置1は、図1及び図2に示すように基板2、その基板上に設けられたカンチレバー型のスイッチ本体3、そのスイッチ本体をカバーするように当該基板上に設けられたカバー部材4、そのカバー部材上にスイッチ本体に光を供給する光源5及び光源用配線6等を有する。
【0033】
ここで、基板2は例えば略矩形の低誘電率ガラス基板であり、石英(比誘電率εr=3.9at1MHz)、パイレックス(登録商標)(比誘電率εr=4.6at1MHz)、液晶用基板(比誘電率εr=5.7at1MHz)等が用いられる。例えばその厚さ(図1中のZ方向長さ)は、液晶用基板で約500μmである。
【0034】
スイッチ本体3は、図1のA−A線断面図である図3に示すように光源5からの光を受ける可動部材7、その可動部材7を支えるアンカー8、当該可動部材7のアンカー8と反対側に設けられた導電部材としての接触電極9及びその接触電極9に接触または、離間する配線10、11を有する。
【0035】
可動部材7は、図3に示すように略矩形状を有し、光源側(図3中のZ軸方向)に第1の部材12、その裏側に第2の部材13となるように薄膜が積層されてバイメタルを形成している。第1の部材12としては、第1の熱膨張係数、例えば熱膨張係数25ppm/℃のAlで200nm程度の厚さに形成されている。勿論これに限られるものではなく一般的な金属、及びその合金でもよく、具体的にはAu、Pt、Cu、Ge、Ni、Cr、Ti、Zn、In、Sn、Ga、Pd、Bi、Si、C等でもよい。
【0036】
また、第2の部材13としては、第2の熱膨張係数、例えば熱膨張係数0.5ppm/℃のSiNxで200nm程度の厚さに形成されている。勿論これに限られるものではなく例えばSiO2またはSiNxやSiO2の組成比を含むSiOxNyで形成してもよい。その他、絶縁性の高いAi2O3やSiC等のセラミック材に加え、例えば絶縁性の高い材料で形成することが性能を良好にできるが、一般的は金属、及びその合金でもよく、具体的にはAu、Pt、Cu、Al、Ge、Ni、Cr、Ti、Zn、In、Sn、Ga、Pd、Bi、Si、C等でもよい。
【0037】
更に上述の第1及び第2の熱膨張係数も25ppm/℃や0.5ppm/℃に限られるものではなく、それより小さくても良い。
【0038】
アンカー8は、図3に示すように略矩形状の可動部材7の一方端を基板2に固定しており、当該一方端の基板からの高さが例えば約7μmとなるようにAl等で形成されている。これにより、後述する接触電極9と配線10、11とは所定の間隔で離間することとなる。
【0039】
また、接触電極9は、可動部材7のアンカー8と反対側開放端の基板2に対向する面に、厚さが例えば50nmで略矩形状に設けられている。尚、厚さは50nmに限られるものではなく、少なくとも1nmから配線10、11と同じ厚さ、好適には60GHzでの表皮効果が400nmであるところから10nm〜400nmと予想される。
【0040】
更に接触電極9の材料は、例えばAu−Ge合金により形成されるがこれに限られるものではなく、Auの他、Pt、Cu、Al、Ge、Ni、Cr、Ti、Zn、In、Sn、Ga、Pd、Bi、Si、C等の金属を組成比として持つ合金が良い。
【0041】
配線10、11は、例えば図1のB−B線断面図である図4に示すように丁度、可動部材7に平面的に重なるように基板2に設けられている。また、配線10、11は図3に示すように接触電極9の中央部付近で左右に分離して形成されており、接触電極9とその配線の一部が平面的に重なるように形成されている。これにより、後述するように可動部材7の変形により接触電極9が例えば下降すると、二つの配線の端部10a、11aに接触し、電気的に絶縁されていた配線10,11は互いに接触電極9を介して電気的に接続されることとなる。すなわち、スイッチ装置1は、電気的にオンされることとなる。尚、当該配線10、11は、後述するように例えば基板2を貫通する導通部材により他の基板上に形成された信号伝送回路の信号線路等に電気的接続可能である。
【0042】
次に、カバー部材4は例えば図2及び図3に示すように光源5が設けられる平板状の光透過性基板14及びその光透過性基板14とスイッチ本体3が形成された基板2との間に配置された中間基板15を有する。
【0043】
ここで、光透過性基板14は厚さが例えば200nmのガラス基板である。また、中間基板15は、例えば厚さが100μmのSi基板により形成されており、図2に示すようにその中央部には、略矩形状に貫通された中空部16が設けられている。この中空部16にスイッチ本体3が収まっている。尚、当該基板2と中間基板15、光透過性基板14とは夫々陽極接合されている。
【0044】
また、光源5は、スイッチ本体(可動部材)に光を供給する、例えば半導体レーザである。半導体レーザは、例えば面発光レーザで図3及び図4に示すように丁度、可動部材である第1及び第2の部材10、11の真上に光透過性基板14を介して配置されている。具体的には、出射された光の光軸が、第1の部材表面の略中央に来るように配置されている。これにより、半導体レーザから出射された光が光透過性基板14を透過し、第1及び第2の部材10、11に照射され、その光の熱エネルギーにより夫々を加熱することとなる。
尚、半導体レーザの波長は、325nm〜1550nm帯で第1及び第2の部材10、11の光吸収率の良好な範囲で選択できる。更に、光源は半導体レーザに限られるものではなく、例えばLED(Light Emitting Diode)、EL(Electronic Luminescence)素子等が可能である。
【0045】
光源用配線6は、例えば図1に示すように光透過性基板上に半導体レーザの電極に電気的に接続されており、一部ワイヤーボンドとなっている。
【0046】
以上のように構成されたスイッチ装置1の動作について説明する。図5は、スイッチ装置の動作を説明する図である。
【0047】
まず、図示しないスイッチ制御回路により光源5である半導体レーザの電極に電流が供給されると、半導体レーザの光出射側から可動部材方向に、例えば670nmの波長の光が出射される。そして、出射された光は光透過性基板14に入射し、略直下に進み図5中の白抜き矢印Cに示すように光透過性基板14の中間基板15の中空部側から出射し、第1の部材表面に到達する。これにより、第2の部材13に積層されている第1の部材12は勿論、当該第2の部材13も照射された光による熱エネルギーを受け、温度が上昇し、組成変形を起こす。
【0048】
すなわち、第1及び第2の部材はそれぞれの熱膨張係数に基づき例えば図5中の矢印D、E方向に膨張する。このとき、第1の部材12は第2の部材13より膨張係数が大きいので、可動部材7の基板2に遠い側である第1の部材12がその裏側(基板2に近い側)の第2の部材13より大きく伸びようとする。この結果、可動部材7は図5に示すようにアンカー8の反対側が基板2側に曲がるように変形し、その可動部材7の基板側に形成された接触電極9が、配線10、11に接触するまで下降することとなる。
【0049】
そして、接触電極9が配線10、11に接触すると図5に示すように電気的に切断された配線10、11が接触電極9を介して電気的に接続されることとなる。これにより、例えば配線10、11と電気的に接続された他の基板上の信号伝送回路等のスイッチングがなされる。
【0050】
次に、スイッチ装置の製造方法について説明する。図6は、スイッチ装置の製造方法を説明するフローチャート、図7は接触電極を形成するまでの製造工程を説明する説明図及び図8は第2の部材を形成するところからパッケージするまでの製造工程を説明する説明図である。尚、図7及び図8は図1のA−A線断面図に基づき説明したものである。
【0051】
まず、液晶用基板例えば比誘電率εr=5.7at1MHzのものを厚さ約500μmで略矩形状に形成したものの表面にTi等をスパッタ等により成膜し、エッチング等によりパターニングして図7(a)に示すように配線10、11を形成する(ST601)。具体的には、配線10と配線11とは、接触電極9の幅(図3中のX軸方向)より狭い距離で離間して形成されている。勿論、スパッタに限られるものではなく、真空蒸着やメッキ等でもよい。このとき、表皮効果を考慮して配線10、11の厚さが400nm、より好ましくは400nmの2、3倍程度となるように形成する。また、配線10、11の材料もAl,Au,Cr,Cu,Pt,Agでもよく、Al−Si−Cu等の合金でもよい。
【0052】
次に、例えば図7(b)に示すように犠牲層17としてのSiをスパッタ或いは真空蒸着により配線10、11を覆うように成膜する(ST602)。勿論、Siに限られるものでなく、有機レジスト、その他樹脂をスピンコートで形成してもよい。具体的には、犠牲層17の配線側の端面17aが配線10の端面と揃うように、また、当該犠牲層17の反対側の端面17bは、例えば図7(b)に示すように配線11の端面より外側に来るように形成される。これにより、犠牲層17の一端は基板上に直接形成され、当該犠牲層を除去したときに配線11とアンカー8とが離間することとなる。
【0053】
その後、例えば図7(c)に示すようにAlをスパッタで成膜し、エッチング等によりパターニングして犠牲層17の端面17bに隣接するアンカー8を形成する(ST603)。そのアンカー8の厚さは、理想的には配線10、11の厚さに犠牲層17の厚さを加えたものであるが、後で成膜する第1及び第2の部材に機械的ストレスが影響しなければそれ以下でもよい。また、アンカー8の材料としては、Alに限られるものではなくTi、Au、Cr、Cu、Pt、Agの他、Al−Si−Cu等の合金でもよく、更に成膜方法もスパッタに限られず、真空蒸着やメッキ等でもよい。
【0054】
そして、犠牲層17に例えばAu−Ge合金をスパッタにより成膜し、エッチング等により略矩形にパターニングして接触電極9を形成する(ST604)。この際、接触電極9が配線10の端部10aと配線11の端部11aとに丁度、平面的に重なるように形成する。接触電極9の材料としては、Auの他、Pt、Cu、Al、Ge、Ni、Cr、Ti、Zn、In、Sn、Ga、Pd、Bi、Si、C等の金属を組成比として持つ合金がよい。厚さは少なくとも1nm以上で配線10、11と同じ厚さ、60GHzでの表皮効果が400nmであるところから好ましくは10nm〜400nmであると考えられる。成膜方法は、勿論スパッタに限られるものではなく、真空蒸着等でもよい。
【0055】
なお、図7(d)のように予め犠牲層17の表面に凹部を形成して、その凹部に接触電極9を形成するようにしてもよい。
【0056】
次に、例えば図8(a)に示すように犠牲層17及び接触電極9、アンカー8の上にSiNxを厚さ約200nmとなるようにスパッタ等により成膜し、略矩形状でアンカー8にその端が重なるようにエッチングしてパターニングし、第2の部材13を形成する(ST605)。第2の部材の材料はSiNxに限られるわけではなく、例えばSiO2またはそれらの組成比を含むSiOxNyで形成できる。また、その他絶縁性の高いAi2O3やSiC等のセラミック材に加え、より好ましくは絶縁性の高い材料で形成することであるが、一般的な金属(例えばAu、Pt、Cu、Al、Ge、Ni、Cr、Ti、Zn、In、Sn、Ga、Pd、Bi、Si、C等)、及びその合金でも構わない。
【0057】
その後、形成された第2の部材13の上に例えば図8(b)に示すようにAlを厚さ200nmとなるようにスパッタ等により成膜し、第2の部材13と丁度重なるようにエッチングしてパターニングし、第1の部材12を形成する(ST606)。第1の部材12の材料としては、Alに限られるものではなく例えば、Au、Pt、Cu、Ge、Ni、Cr、Ti、Zn、In、Sn、Ga、Pd、Bi、Si、C等でもよい。
【0058】
更に犠牲層17をXeF2プラズマによるドライエッチングにより図8(c)に示すように除去する(ST607)。また、犠牲層17が有機レジストや樹脂であればO2プラズマの他、アセトン、IPA、レジスト剥離液等のウエットエッチングとの組み合わせ等を用いて行う。
【0059】
また、例えばガラス基板を厚さ200nmで略基板2と同じ大きさに形成した光透過性基板14に、その光透過性基板14と略同じ大きさで厚さが100μmに形成されたSi基板を陽極接合する(ST608)。
【0060】
そして、陽極接合されたSi基板を例えば図8(d)に示すように中央部分を略矩形状にプラズマエッチングして中空部16を形成し(ST609)、中間基板15を形成する。ここで中空部16は、少なくともスイッチ本体3が収まる大きさに形成されている。尚、光透過性基板14に陽極接合される中間基板15の厚さは、100μmに限られるものではなく、当該中間基板15の中空部16にスイッチ本体3がスイッチング可能なように収容される厚さであればよく、スイッチ本体3の大きさ等により例えば10〜500μmであってもよい。
【0061】
更に例えば図8(e)に示すように、スイッチ本体3が形成された基板2にそのスイッチ本体3を、中空部16に収納するように中間基板15を陽極接合する(ST610)。
【0062】
次に、中間基板15に陽極接合された光透過性基板14の外側表面に例えばAl等によりパターン形成して光源用配線6を形成する(ST611)。そして光源5、例えば670nmの波長の光線を出射する半導体レーザを図1のように光透過性基板14等に実装し、光源用配線6にワイヤーボンディングやダイボンドで電気的に接続する(ST612)。
【0063】
ここで、図示しないスイッチ制御回路、例えば光源用制御回路を光源用配線6の形成と同時に光透過性基板14に形成しても良いし、他の基板等に形成して電気的に接続しても良い。
【0064】
以上でスイッチ装置1が完成する(ST613)。
【0065】
尚、光透過性基板14と中間基板15との接合及び中空部の形成は、ST607の後の工程に限られるものではなく、予め製造しておいても良いし、スイッチ本体3の製造と同時に製造しても良い。
【0066】
このように本実施形態によれば、光源5から出射された光を受け、その光の熱エネルギーにより変形することで、導電部材としての接触電極9を配線10、11に接触させ、または、離間させる可動部材7を具備することとした。従って、完全にスイッチ制御回路と信号伝送回路としての信号線路に電気的に接続された配線等とを空間的、電気的に分離した状態でスイッチングできる。これにより、スイッチング時のアイソレーションを十分とることが可能となると共に、高周波信号成分がスイッチ制御回路側へ漏れてしまうことがなくなる。また、回路系を単純にでき、インピーダンス整合が取りやすくなる。
【0067】
更に、光の熱エネルギーにより変形し、スイッチングさせるので、光を受け電圧を発生する受光素子が複数個直列に接続された直列回路を有する受光回路を必要とせず、製造コストの低減を図れる。
【0068】
また、可動部材7は、第1の熱膨張係数を有する第1の部材12とその熱膨張係数と異なる第2の熱膨張係数を有する第2の部材13とを有するので、受けた光の熱エネルギーで可動部材7が、熱膨張係数の小さい方に曲がるように変形する。従って、きわめて容易に接触電極9を配線10、11に接触させ、または離間させることができ、配線10、11相互を、接触電極9を介して電気的にカットオフが可能となる。
【0069】
更に光源5を半導体レーザとしたので、光の熱効率を高くして、よりスイッチングを確実にさせることができる。また、半導体レーザを用いることでより正確に光を可動部材7に照射できる。
【0070】
また、光源5が外側に実装されると共に当該光源5から出射される光が可動部材7に到達するように、光透過性を有するカバー部材4を具備することとしたので、よりスイッチ制御回路の信号と配線10、11に流れ込む信号とを空間的、電気的に分離できる。尚、光透過性基板14は、100%近く光を透過する場合に限られず、例えば50%近く光を透過する半透過程度のものでも良い。
【0071】
尚、光透過性基板14は、全体が光透過性を有する場合に限られず、部分的に光透過性を有している場合も含む。少なくとも光が進む領域が、光透過性を有していれば良い。
【0072】
図9は、本発明の第2の実施形態に係るスイッチ装置の図1のA−A線断面図である。尚、これ以降の発明の説明では、上述した実施形態に係るスイッチ装置の部材や機能等について同様なものは説明を簡略または省略して、異なる点を中心に説明する。
【0073】
図9に示すようにスイッチ本体3は、可動部材107、アンカー8、接触電極9及び配線10、11を有する。可動部材107は、例えば第1及び第2の部材112、113を有し、当該第1及び第2の部材は、第1の光吸収率を有する第1の領域F(図9中のF)とその第1の光吸収率より高い光吸収率を有する第2の領域G(図9中のG)を有する。
【0074】
ここで、第2の領域Gは、光源5から出射される光(図9中の矢印H)を受ける部分でもあり、例えば黒色のシリコン薄膜121やカーボン等がその部分に配置されている。これにより、当該可動部材107は、光を受ける第2の領域Gが他の第1の領域Fより光吸収率が高くなることとなる。
【0075】
このように本実施形態によれば、可動部材107は、第1の光吸収率を有する第1の領域Fと、第1の光吸収率より高い光吸収率を有し、光源5からの光を受ける第2の領域Gとを有することとしたので、可動部材107の熱効率を高くすることができる。これにより、低めの光エネルギーでも十分スイッチングさせることができる他、同じ光エネルギーでもより確実なスイッチングが可能となる。
【0076】
図10は、本発明の第3の実施形態に係るスイッチ装置の図1のA−A線断面図である。
【0077】
図10に示すようにスイッチ本体3は、可動部材7、アンカー208a、208b、接触電極209及び配線210、211を有する。アンカー208a、208bは略矩形状の可動部材7の両端を基板2に固定しており、基板からの高さはアンカー208a、208bの両方とも例えば7μmとなるようにAl等により形成されている。
【0078】
具体的には、アンカー208a、208bは第2の部材13の左右両端と基板2との間に略矩形状に形成されており、接触電極209は第2の部材13の図10中X軸方向略中央に形成されている。また、接触電極209は、配置場所を除けば第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
【0079】
更に配線210、211は、アンカー208a、208bの間に夫々離間して形成されており、配線210、211の離間した夫々の端部が接触電極209に平面的に重なっている。配線210、211も厚さや材料は、第1の実施形態と同様である。
【0080】
このように本実施形態によれば、光の熱エネルギーによる可動部材7の変形は、接触電極209が略垂直に下降するようになるので、配線210、211の表面に接触電極209の表面がより平行に接触し、接触面積を大きくすることができる。これにより、スイッチ装置1のスイッチングをより確実にすることが可能となる。
【0081】
図11は、本発明の第4の実施形態に係るスイッチ装置の図1のA−A線断面図である。
【0082】
図11に示すようにスイッチ本体3は、可動部材7、アンカー8、接触電極309a、309b、及び配線310、311を有しており、例えば上述の実施形態と異なり配線310は光透過性基板14に、配線311は基板2に形成されている。従って、スイッチ装置1は、配線310と配線311とを電気的に接続または、切り離すものではなく、接触電極、可動部材及びアンカーを介して図示しない配線に、配線310、311のいずれかを電気的に接続させるものである。例えば図11では、接触電極は配線310に電気的に接続されており、配線311には電気的に接続されていない。
【0083】
具体的には、可動部材7に形成されている接触電極309a、309bは、例えば図11に示すように接触電極309aが第1の部材12のアンカー側と反対側端部付近に、接触電極309bは第2の部材13のアンカー側と反対側端部付近に夫々形成されている。その厚さや材料については接触電極9と同様である。
【0084】
また、配線310は、例えば一部が接触電極309aに平面的に重なるように光透過性基板14の内側面に形成されており、スイッチ装置1の外側のアンテナ等の機能素子に電気的に接続可能とされている。
【0085】
更に配線311は、一部が接触電極309bに平面的に重なるように基板2の光透過性基板側の面に形成されており、スイッチ装置1の外側のアンテナ等の機能素子に電気的に接続可能とされている。尚、配線310、311の厚さや材料については配線10、11と同様である。
【0086】
一方、第1及び第2の部材11、12の厚さや材料については第1の実施形態と同様であるが、両方とも導電性を有することが好ましい。夫々の接触電極309a、309bから図示しない配線まで電気的接続を図るための部品点数等が少なく済み、コスト的に有利である。
【0087】
このように本実施形態によれば、配線310、311を可動部材7の開放端付近を挟むように配置することとしたので、光の熱エネルギーにより可動部材7を変形させ、例えば配線310から配線311選択させることができる。勿論、その逆も可能であり、更には光を可動部材7が受ける前は、配線310、311のいずれにも電気的に接続していない状態から、光を受け、配線310、311のいずれかを選択させるようにもできる。これにより、スイッチ装置自体の数やそれらを電気的に接続する配線等の機能素子も少なくすることが可能となる。
【0088】
図12は、本発明の第5の実施形態に係るスイッチ装置の図1のA−A線断面図である。
【0089】
図12に示すようにスイッチ本体3は、可動部材407、アンカー8、接触電極9及び配線10、11を有している。
【0090】
ここで、可動部材407は、上述の実施形態と異なり第1の部材12の配線側面に第2の部材13が形成されている他、その第1の部材12の光源側面には、第3の部材420が形成されている。これにより、第1の部材12は、第2の部材13と第3の部材420との間に挟まれることとなる。
【0091】
第3の部材420は、例えば200nmより薄い膜厚のSiNxであり、その熱膨張係数は0.5ppm/℃である。これは、第1の部材12の配線側面に積層される第2の部材13とその材料が同様であるが、勿論これに限られるものではなく、例えば第2の部材と第3の部材とでその厚さを同じにしてその材料を変えてもよい。更には第2の部材13と第3の部材とで形状を異ならしめてもよい。
【0092】
尚、第3の部材420の200nmより薄い膜厚は、光を受ける前に変形させる応力をキャンセルする程度の応力が生じる膜厚とするもので、光を照射しないときの応力を緩和しつつ、光照射時には確実に可動部材407を配線10,11に接触させることができるような厚さである。
【0093】
また、第3の部材420に第2の部材13と異なる材料を用いる場合は、その厚さを同じにすることに限られるものではなく、その材料のヤング率やポアソン比等を含め膜設計を行い、光を照射しないときの応力を緩和しつつ、光照射時には確実に可動部材407を配線10,11に接触させることができるような形状、厚さ等とする。
【0094】
このように本実施形態によれば、可動部材407は、第1の熱膨張係数を有する第1の部材12と、その熱膨張係数と異なる第2の熱膨張係数を有する第2の部材13と、第1の熱膨張係数と異なる第3の熱膨張係数を有する第3の部材420とを有し、第1の部材12は、第2の部材13と第3の部材420との間に挟まれていることとした。従って、可動部材407がその材質や薄さにより光を受ける前に変形してしまうことを、そのサンドイッチ構造により上下で逆方向の応力を生じさせ、当該初期応力をキャンセルし、光照射前の当該可動部材の反りを防ぐことができる。
【0095】
また、第3の部材420は、第2の部材13と同じ材料で形成され、かつ、その大きさが異なることとしたので、第3の部材420による応力のキャンセル量を制御し、光照射時の可動部材の変形が必要以上抑制されることを防ぐことができる。例えば、第3の部材420の厚さを第2の部材13の厚さより薄くすることで、第1及び第2の部材12,13による初期応力をキャンセルすると共に、光照射時の可動部材407全体の変形としては、確実に配線10,11に接触させることができるようになる。
【0096】
図13は、本発明の第6の実施形態に係るスイッチ装置の断面図である。
【0097】
図13に示すようにスイッチ装置1は、基板2、スイッチ本体3、カバー部材504、光源5及び光源用配線6等を有する。
【0098】
ここで、カバー部材504は、上述の実施形態と異なり例えば図13に示すように中間基板15の代わりに光透過性基板514が中間基板分の厚さも有し、スイッチ本体3を収容する中空部516を備えている。また、当該光透過性基板514と基板2との接合は、間にAuまたは、Siの薄膜521、例えば厚さ1nm〜500nm、より好ましくは10nm〜200nmを介して、Auには金接し、Siには陽極接合されている。
【0099】
また、中空部516は中間基板15の中空部のように貫通されたものではなく、基板2側に開口した略矩形状の凹形状を有している。この凹形状にスイッチ本体3が収納されることとなる。
【0100】
このように本実施形態によれば、中間基板15の代わりに光透過性基板514が中間基板分の厚さも有し、スイッチ本体3を収容する中空部516を備えることとしたので、部品点数を少なくすることができる。
【0101】
図14は、本発明の第7の実施形態に係る回路装置のブロック図、図15は回路装置の斜視図及び図16は図15のI−I線断面図である。尚、図15の斜視図では、機能素子のうちの信号線路の一部を表しその他のアンテナや回路等を省略している。
【0102】
回路装置721は、例えば図14に示すように機能素子としてのアンテナ722、723、そのアンテナを切替えるスイッチ素子としてのアンテナ切替えスイッチ724、そのアンテナ切替えスイッチ724に電気的に接続された送受信切替えスイッチ725、その送受信切替えスイッチ725に電気的に接続されたLNA(Low Noise Amplifier)726、PA(Power Amplifier)727、LNA726に電気的に接続されたBPF(Band-Pass Filter)728、PA727に電気的に接続されたBPF(Band-Pass Filter)729、BPF(Band-Pass Filter)728、729に電気的に接続されたトランシーバーIC(Integrated Circuit)730及びそのトランシーバーIC730に電気的接続された受信回路731、送信回路732、VCO(Voltage Controlled Oscillator)733及びそれらを電気的に結ぶ信号線路734等を有している。
【0103】
ここでアンテナ722、723は、例えばアンテナ切替えスイッチ724等と共に基板702に形成されており、互いに周波数帯が異なるアンテナであり、アンテナ切替えスイッチ724によってアンテナを切替え、周波数帯を選択できる。
【0104】
基板702は、例えば略矩形の低誘電率ガラス基板であり、石英(比誘電率εr=3.9at1MHz)、パイレックス(登録商標)(比誘電率εr=4.6at1MHz)、液晶用基板(比誘電率εr=4.6at1MHz)等が用いられる。
【0105】
また、基板702には、図15に示すように基板上に設けられた機能素子の例である信号線路734(734a、734b、734c)及びスイッチ素子としてのアンテナ切替えスイッチ724を備えている。
【0106】
信号線路734は、アンテナ切替えスイッチ724の後述する配線310、311等に電気的に接続されており、例えばAl、Ti、Au、Cr、Cu、Pt、Agの他、Al−Si−Cu等の合金により形成されている。信号線路734の厚さは、信号線路734を流れる信号が60GHz設計の場合、表面効果を考慮して400nm前後、より好ましくはその2、3倍程度である。
【0107】
また、例えば図15に示すように信号線路734aは、配線310とアンテナ722とを電気的に接続し、信号線路734bは、配線311とアンテナ723とを電気的に接続している。更に信号線路734cは、アンカーからの図示しない配線と送受信切替えスイッチ725とを電気的に接続している。
【0108】
アンテナ切替えスイッチ724は、例えば図16に示すようにカンチレバー型のスイッチ本体3、そのスイッチ本体3をカバーするカバー部材4及び当該スイッチ本体3に光を照射する光源5等を有する。
【0109】
ここで、スイッチ本体3は、可動部材7、アンカー8、接触電極309a、309b、及び配線310、311を有しており、配線310は光透過性基板14に、配線311は基板702に形成されている。
【0110】
また、送受信切替えスイッチ725もアンテナ切替えスイッチ724と略同様であるのでその説明を省略する。
【0111】
このように本実施形態によれば、回路装置721は、光源5を有し、その光源5から出射された光を受け、その光の熱エネルギーにより変形して、スイッチングするアンテナ切替えスイッチ724、送受信切替えスイッチ725を備えることとした。従って、例えば周波数の異なるアンテナの選択を完全にスイッチ制御回路と信号伝送回路としてのCPWの信号線路やアンテナ等とを空間的、電気的に分離した状態でできる。
【0112】
これにより、アンテナ切替えスイッチ等のカットオフ時のアイソレーションを十分とることが可能となると共に、高周波信号成分がスイッチ制御回路側へ漏れてしまうことがなく、回路系を単純にでき、インピーダンス整合が取りやすくなる。
【0113】
また、特に30GHzを超えるようなミリ波帯の高周波伝送のスイッチングを低損失で実現することが可能となる。
【0114】
更に、光の熱エネルギーにより変形し、スイッチ操作させるので、光を受け電圧を発生する受光素子が複数個直列に接続された直列回路を有する受光回路を必要とせず、製造コストの低減を図れる。
【0115】
また、高周波回路上に挿入される切替えスイッチ素子において、電気回路的に完全に分離した形態で制御可能となるため、信号損失を最小化できる。また、高電圧の回路が不要となり、設計の自由度が上がる。不要輻射の問題を解消できる他、現実的なマルチバンドアンテナ、アンテナアレイモジュールを実現できる。
【0116】
図17は、本発明の第8の実施形態に係る回路装置の説明図、図18は回路装置の斜視図及び図19は図18のJ−J線断面図である。尚、図18の斜視図では、機能素子のうちの信号線路の一部を表しその他のアンテナ等を省略している。
【0117】
回路装置821は、例えば図17及び図18に示すように基板802上に機能素子としてのアンテナ822、823、824、825、その各アンテナを夫々オンオフするスイッチ素子としてのスイッチ装置826、827、828、829及びそれらを電気的に結ぶ信号線路834等を有している。
【0118】
ここでアンテナ822、823、824、825は、例えば図17に示すように夫々アンテナの向いている方向が異なり、スイッチ装置826、827、828、829を次々とスイッチングすることにより、一番受信した信号の強いアンテナを選択できるようにしたものである。尚、図17では、スイッチ装置826がスイッチオンされており、アンテナ822が選択されている。
【0119】
また、スイッチ装置826、827、828、829は夫々同じ構造で、例えばスイッチ装置826は、図18及び図19に示すように基板2、その基板上に設けられたカンチレバー型のスイッチ本体3、そのスイッチ本体3をカバーするように当該基板上に設けられたカバー部材4、そのカバー部材上にスイッチ本体3に光を供給する光源5及び光源用配線6等を有する。
【0120】
スイッチ本体3は、光源5からの光を受ける可動部材7、その可動部材7を支えるアンカー8、当該可動部材のアンカーと反対側に設けられた導電部材としての接触電極9及びその接触電極9に接触または、離間する配線10、11を有する。
【0121】
更に配線10、11は例えば図19に示すように基板2を貫通する導通部材835により基板802の信号線路834に電気的に接続されている。
【0122】
このように本実施形態によれば、回路装置821は、光源5を有し、その光源5から出射された光を受け、その光の熱エネルギーにより変形して、スイッチングするスイッチ装置826等と、それらのスイッチ装置に電気的に接続され、夫々の方向の異なるアンテナ822等を備えることとした。従って、複数のアンテナのうちで最も感度のよいものの選択を、完全にスイッチ制御回路と信号伝送回路としての信号線路やアンテナ等とを空間的、電気的に分離した状態でできる。
【0123】
これにより、スイッチ装置のカットオフ時のアイソレーションを十分とることが可能となると共に、高周波信号成分がスイッチ制御回路側へ漏れてしまうことがなく、回路系を単純にでき、インピーダンス整合が取りやすくなる。
【0124】
また、特に30GHzを超えるようなミリ波帯の高周波伝送のスイッチングを低損失で実現することが可能となる。
【0125】
更に、光の熱エネルギーにより変形し、スイッチ操作させるので、光を受け電圧を発生する受光素子が複数個直列に接続された直列回路を有する受光回路を必要とせず、製造コストの低減を図れる。
【0126】
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述したいずれの実施形態にも限定されず、本発明の技術思想の範囲内で適宜変更し或は上述した各実施形態を組み合わせて実施できるものである。
【0127】
例えば上述の実施形態では、配線10,11を可動部材7の長手方向(例えば図3中のX軸方向)に並設したがこれに限られるものではなく、例えば可動部材7の長手方向に交差する方向に配線10,11を並設してもよい。これにより、多種多様な配線設計が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】第1の実施形態に係る回路装置の一部を示す斜視図である。
【図2】図1の分解斜視図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】図1のB−B線断面図である。
【図5】スイッチ装置の動作を説明する図である。
【図6】スイッチ装置の製造方法を説明するフローチャートである。
【図7】接触電極を形成するまでの製造工程を説明する説明図
【図8】第2の部材を形成するところからパッケージまでの製造工程の説明図である。
【図9】第2の実施形態に係るスイッチ装置の図1のA−A線断面図である。
【図10】第3の実施形態に係るスイッチ装置の図1のA−A線断面図である。
【図11】第4の実施形態に係るスイッチ装置の図1のA−A線断面図である。
【図12】第5の実施形態に係るスイッチ装置の図1のA−A線断面図である。
【図13】第6の実施形態に係るスイッチ装置の断面図である。
【図14】第7の実施形態に係る回路装置のブロック図である。
【図15】第7の実施形態に係る回路装置の斜視図である。
【図16】図15のI−I線断面図である。
【図17】第8の実施形態に係る回路装置の説明図である。
【図18】第8の実施形態に係る回路装置の斜視図である。
【図19】図18のJ−J線断面図である。
【符号の説明】
【0129】
1…スイッチ装置
2…基板
4…カバー部材
5…光源
7…可動部材
10、11…配線
12…第1の部材
13…第2の部材
14…光透過性基板
15…中間基板
16…中空部
420…第3の部材
721、821…回路装置
722、723、822、823、824、825…アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能素子をスイッチングするスイッチ装置において、
光源と、
前記機能素子に電気的に接続可能な配線と、
導電部材を有し、前記光源から出射された光を受け、その光の熱エネルギーにより変形することで、前記導電部材を前記配線に接触させ、または、離間させる可動部材と
を具備することを特徴とするスイッチ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチ装置であって、
前記可動部材は、第1の熱膨張係数を有する第1の部材とその熱膨張係数と異なる第2の熱膨張係数を有する第2の部材とを有することを特徴とするスイッチ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のスイッチ装置であって、
前記可動部材は、第1の熱膨張係数を有する第1の部材と、その熱膨張係数と異なる第2の熱膨張係数を有する第2の部材と、前記第1の熱膨張係数と異なる第3の熱膨張係数を有する第3の部材とを有し、前記第1の部材は、前記第2の部材と前記第3の部材との間に挟まれていることを特徴とするスイッチ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のスイッチ装置であって、
前記第3の部材は、前記第2の部材と同じ材料で形成され、かつ、その大きさが異なることを特徴とするスイッチ装置。
【請求項5】
請求項1に記載のスイッチ装置であって、
前記光源は、半導体レーザ、発光ダイオードまたは、エレクトロルミネセンスパネルであることを特徴とするスイッチ装置。
【請求項6】
請求項1に記載のスイッチ装置であって、
前記可動部材は、第1の光吸収率を有する第1の領域と、前記第1の光吸収率より高い第2の光吸収率を有し、前記光を受ける第2の領域とを有することを特徴とするスイッチ装置。
【請求項7】
請求項1に記載のスイッチ装置であって、
前記配線が設けられた基板と、その基板上に固定され、前記可動部材を収容し、前記光源が外側に実装されると共に当該光源から出射される光が前記可動部材に到達するように、光透過性を有するカバー部材とを更に具備することを特徴とするスイッチ装置。
【請求項8】
請求項7に記載のスイッチ装置であって、
前記カバー部材は、
光透過性を有し、その外側に前記光源が実装される光透過性基板と、
前記光透過性基板と前記基板との間に設けられ、前記可動部材と前記配線の少なくとも一部とが収容される中空部を有する中間基板と
を有することを特徴とするスイッチ装置。
【請求項9】
基板と、
前記基板に設けられた機能素子と、
光源を有し、その光源から出射された光を受け、その光の熱エネルギーにより変形して、前記機能素子をスイッチングするスイッチ素子と
を具備することを特徴とする信号伝送回路装置。
【請求項10】
請求項9に記載の信号伝送回路装置であって、
前記機能素子は、アンテナであることを特徴とする信号伝送回路装置。
【請求項11】
請求項9に記載の信号伝送回路装置であって、
前記機能素子は、高周波信号伝送回路であることを特徴とする信号伝送回路装置。
【請求項12】
機能素子をスイッチングするスイッチング方法において、
出射された光を可動部材に受けるステップと、
前記受けた光の熱エネルギーにより前記可動部材を変形させ、前記機能素子をスイッチングするステップと
を具備することを特徴とするスイッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−180643(P2007−180643A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373849(P2005−373849)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】