スクロール圧縮機
【課題】固定スクロールと旋回スクロールとの最外噛合箇所でのシール性の低下を防止すると共に、吸込領域での作動流体の加熱も抑制して、エネルギー効率の向上を図る。
【解決手段】スクロール圧縮機は、固定スクロール2と、この固定スクロールと噛み合わされて旋回運動を行うことによって前記固定スクロールとの間に圧縮室100a,100bを形成する旋回スクロールと、旋回スクロールに固定スクロールへの押付力を与える背圧室と、この背圧室に圧縮機吐出側の油を導入する給油路とを有する。また、前記背圧室と閉込み開始後の前記圧縮室とのみ連通されると共に前後の差圧で開閉する背圧弁26を備え、背圧室の油を圧縮室へ流出させて前記背圧室の圧力を制御する圧縮室連通路60と、前記背圧室と前記圧縮室へ至る吸込領域105とのみ連通され、背圧室の油を前記吸込領域へ供給する吸込域連通路65とを備えている。
【解決手段】スクロール圧縮機は、固定スクロール2と、この固定スクロールと噛み合わされて旋回運動を行うことによって前記固定スクロールとの間に圧縮室100a,100bを形成する旋回スクロールと、旋回スクロールに固定スクロールへの押付力を与える背圧室と、この背圧室に圧縮機吐出側の油を導入する給油路とを有する。また、前記背圧室と閉込み開始後の前記圧縮室とのみ連通されると共に前後の差圧で開閉する背圧弁26を備え、背圧室の油を圧縮室へ流出させて前記背圧室の圧力を制御する圧縮室連通路60と、前記背圧室と前記圧縮室へ至る吸込領域105とのみ連通され、背圧室の油を前記吸込領域へ供給する吸込域連通路65とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロールとこれに噛み合う旋回スクロールを備えるスクロール圧縮機に関し、特にCO2やHFCなどの冷媒を圧縮する冷凍サイクル用のスクロール圧縮機に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスクロール圧縮機としては、特許文献1に記載されているもののように、旋回スクロールの背面に吐出空間内の油を導入して吐出圧力と吸込圧力の中間の圧力となる背圧室を形成し、この背圧室の圧力(以下、背圧という)を用いて旋回スクロールを固定スクロールへ付勢するようにしたものがある。
【0003】
このようなスクロール圧縮機の場合、適切な背圧生成のため、吐出空間から背圧室へ導入した油を、背圧を制御する背圧弁を備えた連通路を介して圧縮室へ排出するようにしている。前記連通路の圧縮室側の開口部(圧縮室側開口)は、固定スクロール鏡板(固定鏡板)の圧縮室側に立設する固定スクロールラップ(固定ラップ)に挟まれた溝(固定スクロールラップ歯底;以下「固定歯底」ともいう)の幅方向中央に設けられていた。このように構成することにより、旋回スクロール鏡板(旋回鏡板)に立設するラップ(旋回ラップ)の内線側と外線側に形成される2系統の圧縮室に対し、背圧室の油を均等に供給するようにして、固定スクロールと旋回スクロールにより形成される圧縮室のシール性の向上を図るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−257287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1記載のものにおいて、圧縮室への連通路の前記圧縮室側開口は、固定歯底のうち、旋回ラップの巻終り箇所(内線側と外線側の2箇所があり、各々を以下、内線側旋回巻終り、外線側旋回巻終りという)と噛合う固定ラップの箇所(内線側と外線側の2箇所があり、各々を以下、内線側固定巻終り、外線側固定巻終りという)から渦巻き状の固定歯底に沿ってラップ中央側(ラップ巻始め側)へ入った位置に設けられている。
【0006】
この結果、外線側旋回巻終りと内線側固定巻終りの噛合いによる旋回外線側圧縮室の閉込み開始、または内線側旋回巻終りと外線側固定巻終りの噛合いによる旋回内線側圧縮室の閉込み開始のタイミング(各圧縮室の閉込み開始)から、所定の時間だけ、前記巻終り部分での噛合い箇所(最外噛合箇所)への油の供給が不足する。このため、前記最外噛合箇所でのシール性が低下して漏れが生じ、スクロール圧縮機のエネルギー効率が低下するという課題があった。
【0007】
また、上記従来のものでは、背圧室の高温の油が、前記連通路を介して前記圧縮室側に流出するが、この油は吸込領域(吸込室)にも大量に流れてしまうことがわかった。このため、吸込パイプから圧縮機内に流入するガス(冷媒ガスなどの作動流体)を加熱し、加熱されたガスは比容積が増大するから、圧縮室に取込まれる作動流体の質量は低下する。このため、従来のスクロール圧縮機においては、圧縮に必要な動力に対して少ない仕事しかできず、全断熱効率の低下(以下、吸込加熱性能低下という)を引き起こし、この点からもエネルギー効率が低下するという課題もあった。
【0008】
本発明の目的は、固定スクロールと旋回スクロールとの最外噛合箇所でのシール性の低下を防止すると共に、吸込領域での作動流体の加熱も抑制して、エネルギー効率を向上することができるスクロール圧縮機を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、鏡板とそれに立設されたスクロールラップを有する固定スクロールと、鏡板とそれに立設されたスクロールラップを有し、前記固定スクロールと噛み合わされて旋回運動を行うことによって前記固定スクロールとの間に圧縮室を形成する旋回スクロールと、前記旋回スクロールに前記固定スクロールへの引付力を与える背圧室と、前記背圧室に圧縮機吐出側の油を導入する給油路とを有するスクロール圧縮機において、前記背圧室と閉込み開始後の前記圧縮室とのみ連通されると共に前後の差圧で開閉する背圧弁を備え、背圧室の油を圧縮室へ流出させて前記背圧室の圧力を制御する圧縮室連通路と、前記背圧室と、閉込み開始後の前記圧縮室へ至る吸込領域とのみ連通し、閉込み開始後の前記圧縮室には連通しないように構成され、前記背圧室の油を前記吸込領域へ供給する吸込域連通路とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固定スクロールと旋回スクロールとの最外噛合箇所でのシール性の低下を防止することができると共に、吸込領域での作動流体の加熱も抑制できるから、エネルギー効率の高いスクロール圧縮機を得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のスクロール圧縮機の実施例1を示す縦断面図。
【図2】図1に示す固定スクロールを下方から見た下面図で、(A)図は旋回外線側圧縮室の閉込み開始時の旋回スクロールラップも含む図、(B)図は旋回内線側圧縮室の閉込み開始時の旋回スクロールラップも含む図。
【図3】図2に示す固定スクロールのIII−III線断面図で、背圧弁付近の構造を説明する図。
【図4】図1に示す旋回スクロールを上方から見た上面図。
【図5】図4に示す旋回スクロールのV−V線断面図。
【図6】図2のQ部を拡大して示す部分拡大図で、吸込パイプ近傍の固定鏡板面の拡大図。
【図7】本発明のスクロール圧縮機の実施例2を示す縦断面図。
【図8】本発明のスクロール圧縮機の実施例3を説明する旋回スクロールの上面図。
【図9】図8の旋回スクロールの縦断面図で、図8のIX−IX線断面図。
【図10】本発明のスクロール圧縮機の実施例3を説明する固定スクロールの固定鏡板面における吸込パイプ近傍の拡大図で、図2のQ部に相当する図。
【図11】本発明のスクロール圧縮機の実施例4を説明する固定スクロールの下面図で、旋回外線側圧縮室の閉込み開始時における旋回スクロールラップも重ねて表示した図。
【図12】図11に示した固定スクロールの背圧弁を有する圧縮室連通路の構成を説明する縦断面図で、図11のXII−XII断面図。
【図13】従来のスクロール圧縮機で最外噛合箇所への給油可能性を説明する固定スクロールの下面図で、旋回スクロールが230度の旋回位相角時の旋回スクロールラップも含む図。
【図14】図13と同様の固定スクロールの下面図で、旋回スクロールが330度の旋回位相角時の旋回スクロールラップも含む図。
【図15】図13と同様の固定スクロールの下面図で、旋回内線側圧縮室の閉込み開始時も旋回外線側圧縮室の閉込み開始時も共に、極座標が270度の位置では、旋回ラップが固定歯底中央にくることを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、上述した特許文献1のものでは、圧縮室の閉込み開始からしばらくの間、最外噛合箇所への給油が止まってしまう理由を、以下説明する。
【0013】
一般に、閉込み空間である圧縮室は、旋回スクロールの旋回運動に伴ないラップ中央側へ移動する。このため、その中にある作動流体は、静止系である固定スクロールからみると、ラップに沿って中央へ流れる。この結果、圧縮室側開口から圧縮室へ流入した油は、この作動流体の流れにのり、ラップ中央へ向かって流れる。一方、最外噛合箇所も、旋回スクロールの旋回運動につれてラップ中央へ移動する。このため、圧縮室側開口から流入する油を最外噛合箇所へ供給するためには、
『最外噛合箇所が、ラップに沿って圧縮室側開口よりもラップ中央寄りであること
…(1)』
が必要条件になる。前記最外噛合箇所は、旋回スクロールの旋回位相角で決まることから、最外噛合箇所が圧縮室側開口よりもラップ中央寄りとなる旋回位相角の時だけ、最外噛合箇所に油を供給できることになる。実際は更にその他の追加条件が必要となる。
【0014】
次に、図13に示す従来のスクロール圧縮機と同様な場合(圧縮室側開口の設置方向角が固定巻終りから210度程度ラップ中央側(ラップ巻始め側)へ入った場合)を対象として、前記追加条件と、噛合箇所に給油可能となる旋回位相角範囲を検討する。
【0015】
ここで、前記最外噛合箇所が、外線側圧縮室の最外噛合箇所であるか、内線側圧縮室の最外噛合箇所であるかによって状況が異なるため、まず考察対象を、外線側旋回巻終りと内線側固定巻終りの噛合い(以下、旋回外線側最外噛合箇所という)で旋回外線側圧縮室が形成される場合に限定して考える。更に、単純化するため、圧縮室側開口の直径が旋回ラップの厚さと同一となる条件で考える。また、固定スクロール中心を原点とし、基準方向を固定巻終り方向とする極座標で考える。
【0016】
ここでは、ラップ形状を円のインボリュート曲線で形成することを前提としているが、この場合、厳密には、固定スクロール中心を通って内線側固定巻終りと外線側固定巻終りの2点を通る直線を引くことはできない。即ち、前記2点の固定巻終り点を結ぶと、固定中心から基礎円の接線を通る直線となる。そこで、ここでは前記2点の固定巻終りの中心を通る方向角を基準方向とし、角度においては、多少のずれを許容することとする。
【0017】
上記のようにすると、
『旋回外線側最外噛合箇所の方向角は旋回スクロールの旋回位相角と等しい …(2)』
ことがわかる。(但し、旋回内線側最外噛合箇所の場合は、180度ずれる。)
よって、上記(1)、(2)から、
『旋回スクロールの旋回位相角が、ラップに沿って圧縮室側開口よりもラップ中央寄りであること …(3)』
が、前記圧縮室側開口から旋回外線側最外噛合箇所へ給油するための必要条件であることがわかる。
【0018】
図13、図14には、上記の必要条件を満たす旋回位相角の旋回ラップを各々載せているが、このうち、図13の旋回ラップは、圧縮室側開口が旋回内線側圧縮室に開口しているため、旋回外線側最外噛合箇所への給油は不可能であり、他方、図14の旋回ラップは旋回外線側最外噛合箇所への給油が可能であることがわかる。
【0019】
これより、以下のことが言える。
『旋回位相角が圧縮室側開口の設置方向角を中心として前後90度ずつ(合計180度)の間、圧縮室側開口は旋回内線側圧縮室に開口する。 …(4)』
ここで、旋回位相角が360度以上になると、外側に別の噛合い箇所が形成され、これまで考察対象としてきた噛合い箇所は最外噛合箇所ではなくなるため、
『旋回位相角は、0度から360度以下の範囲である …(5)』
という前提条件もあり、上記(4)と(5)が、追加しなければならない条件である。これらを纏めると、以下のことがわかる。
『圧縮室側開口から旋回外線側最外噛合箇所へ給油可能な旋回位相角の範囲は、圧縮室側開口の設置方向角より90度以上ラップ中央寄りの範囲であって、旋回位相角が360度以下である。 …(6)』
以上を考慮すれば、図13で示すような従来例の場合、圧縮室側開口の設置方向角が210度であるため、210度に90度を加えた300度から360度の旋回位相角の範囲(旋回位相角度間隔)で給油可能であることがわかる。
【0020】
これまでの考察で求めた、旋回外線側最外噛合箇所へ給油可能な旋回位相角度間隔は、あくまでも、旋回外線側最外噛合箇所よりも上流側に前記圧縮室側開口が開口する旋回位相角度間隔を示したものであり、依然として、給油可能となる必要条件であって、十分条件とはなっていない。
【0021】
つまり、(6)を満たしていても、以下のような例外が出てくる。
『圧縮室側開口から噴き出す油の速度が小さいと、旋回スクロールが360度旋回する間に、噴出した油が最外噛合箇所へ到達できない。 …(7)』
この油の噴出速度は、前記連通路の入口側の圧力(背圧)と出口側の圧力の差と共に、前記連通路の流路抵抗でも決まる。
【0022】
上記従来技術では、前記連通路内に絞りを伴う背圧弁を設けているため、流路抵抗が大きく、油の噴出速度は小さくなる。よって、圧縮室側開口から噴出した油は最外噛合箇所へ到達するまでに時間がかかり、実際上、最外噛合箇所への給油はほとんど行われず、行われたとしてもわずかである。前述した説明において、従来例では圧縮室の閉込み開始からしばらくの間だけ最外噛合箇所への給油が止まると述べたが、実際上は、最外圧縮室への給油はほとんどないことがわかった。
【0023】
圧縮室側開口の設定位置をラップに沿って外周側へ移動させると、前記最外噛合箇所と、それよりも上流側に開口する前記圧縮室側開口との旋回位相角の間隔を増大できるため、前記最外噛合箇所への給油量も増大できる可能性がある。しかし、圧縮室側開口から流入する油の速度は背圧弁の流路抵抗によって小さく抑えられてしまうため、実質的には給油量を増加できる可能性は低い。
【0024】
以上の説明は、旋回外線側圧縮室の場合についてであるが、旋回内線側圧縮室の場合でも、上述した説明と同様なことがいえる。具体的に述べると、
『旋回内線側最外噛合箇所に給油可能な圧縮室側開口の旋回位相角は、旋回外線側最外噛合箇所に給油可能な旋回位相角間隔とは180度ずれた角度関係となる。 …(8)』
また、単純化のために「圧縮室側開口の直径が旋回ラップの厚さと同一」となる条件で説明したが、「圧縮室側開口の直径が旋回ラップの厚さよりも小さい」場合には、圧縮室側開口がいずれの圧縮室にも臨まない旋回位相角の範囲(旋回位相角度間隔)が生じる。このため、給油可能な旋回位相角度間隔は、上述した角度の範囲よりも一層狭まり、最外噛合箇所への給油は更に少なくなることがわかる。
【0025】
以上、詳細に述べたように、大きな絞りを伴う背圧弁を備え、圧縮室側開口が、固定ラップの巻終りよりもラップ中央側(巻始め側)へ入った固定歯底に設けるようにした従来のものでは、最外噛合箇所への給油が実質的には行われず、圧縮室のシール性が低下して、性能が大幅に低下することがわかった。
【0026】
また、図15に示す通り、旋回内線側圧縮室閉込み開始時も旋回外線側圧縮室閉込み開始時も共に、極座標で270度の位置においては、旋回ラップの位置は、固定スクロールの歯底中央(ラップ間の中央)にくる。このことから、前記圧縮室側開口を、固定歯底中央で極座標が270度以上(但し360度未満が好ましい)の位置に設置すると、この圧縮室側開口は閉込み開始後の圧縮室にだけ開口することがわかる。なお、前記圧縮室側開口の開口位置が固定歯底の中央からずれた場合、寄った側の固定ラップの線で形成される圧縮室と前記圧縮室側開口との連通が早まる。このため、両圧縮室共、閉込み開始後の圧縮室にのみ開口させるためには、極座標で270度以上(但し360度未満が好ましい)で且つラップ中央寄りに前記圧縮室側開口を設置する必要がある。なお、前記圧縮室側開口の設置位置は、前述したように前記極座標で360度未満の位置が好ましいが、360度以上であっても、圧縮室にのみ開口する位置であれば良い。
【0027】
これに対し、上記従来技術の背圧弁を有する前記連通路は、その圧縮室側開口が固定ラップ巻終りから固定ラップの歯底に沿って中央側(巻始め側)へ210度程度の位置(固定スクロールの中心を原点とし、基準方向を固定巻終り方向とする極座標で方向角が210度の位置)に設けられている。これは、上記した通り、常時閉込み開始後の圧縮室とのみ連通可能となる角度の最小値である270度よりも明らかに小さいことから、少なくともある時間において、前記圧縮室側開口は、吸込パイプと通じる吸込領域(吸込室)に臨んでいることがわかる。
【0028】
ところで、背圧室は中間圧力である背圧に保持されているため、前記圧縮室側開口の圧力が低いときほどその圧縮室側開口を流れる油量は増大する。このため、前記圧縮室側開口を流れる油の大半は、前記圧縮室側開口の圧力が最も低くなる吸込領域への連通時に流れてしまう。即ち、上記従来技術において、前記背圧室から前記圧縮室側開口を介して排出される油の大半は吸込領域へ入るため、前記圧縮室側開口は、実質的には背圧室と吸込領域のみを連通させる流路となっていた。
【0029】
前記背圧室に流入する前の油は、スクロール圧縮機の吐出空間に溜まっているため、高温となっている。このため、油が背圧室から吸込室へ流入する際の減圧で、油中の作動流体(冷媒)のガス化によって油温低下は生じるものの、吸込温度よりは高温となっている。
【0030】
このため、上記従来のスクロール圧縮機においては、吸込領域の作動流体は、背圧室から流入する高温の油と、その油に溶解していた高温の作動流体によって加熱されて温度が高くなり、比容積が増大するため、圧縮室に取込まれる作動流体の質量は低下する。一方、圧縮に要する動力は、吸込温度の上昇により断熱指数が増大するため、増加する。即ち、圧縮に必要な動力が増大するのに少ない仕事しかできず、全断熱効率が低下する(即ち、吸込加熱性能低下を引起す)ことも明らかになった。
【0031】
そこで、本実施例では、背圧弁を有する前記連通路の圧縮室側開口を、閉込み完了後の圧縮室にのみ連通させ、吸込領域(吸込室)には連通させない位置に開口する構成とした。また、前記吸込領域にのみ連通する別系統の給油路(吸込域連通路)を更に備え、この吸込域連通路は間欠的に給油が行われる間欠給油構造とすることで、吸込領域への給油を必要最小限にすることを可能にした。
以下、本発明の具体的実施例を図1〜図12に基づいて説明する。
【実施例1】
【0032】
本発明の実施例1を図1〜図6に基づき説明する。図1は本実施例のスクロール圧縮機を示す縦断面図、図2は図1に示す固定スクロールを下方から見た下面図で、(A)図は旋回外線側圧縮室の閉込み開始時の旋回スクロールラップも含む図、(B)図は旋回内線側圧縮室の閉込み開始時の旋回スクロールラップも含む図、図3は図2に示す固定スクロールのIII−III線断面図で、背圧弁付近の構造を説明する図、図4は図1に示す旋回スクロールを上方から見た上面図、図5は図4に示す旋回スクロールのV−V線断面図、図6は図2のQ部を拡大して示す部分拡大図で、吸込パイプ近傍の固定鏡板面の拡大図である。なお、この実施例において、圧縮機の直径は10mmから1000mm程度である。
【0033】
まず、スクロール圧縮機の全体構成を、主に図1を用いて説明する。
図1に示すスクロール圧縮機1は、固定スクロール2と旋回スクロール3を備えており、前記固定スクロール2は、円のインボリュートを断面線とする固定スクロールラップ(固定ラップ)2bを固定スクロール鏡板(固定鏡板)2aに立設し、また前記旋回スクロール3も同様に、円のインボリュートを断面線とする旋回スクロールラップ(旋回ラップ)3bを旋回スクロール鏡板(旋回鏡板)3aに立設して、これら固定スクロール2と旋回スクロール3を噛合わせることで、両者間に圧縮室100を形成している。
【0034】
これらのラップは一般に厚さは同一である。また、固定ラップと旋回ラップが同一形状の対称歯形をもつ対称形状のスクロール圧縮機では、前記旋回ラップ3bの外線側に形成される旋回外線側圧縮室と、前記旋回ラップ3bの内線側に形成される旋回内線側圧縮室とは同一形状となる。
【0035】
一方、旋回スクロール3の旋回ラップ3bの巻終り側の両側面を固定スクロール2の固定ラップ2bとの噛合いに用いるいわゆる非対称歯形のスクロール圧縮機もある。この非対称歯形のスクロール圧縮機では、固定スクロール2の内線の巻終りである内線側固定巻終りは、前述した対称形状のスクロール圧縮機の対称歯形での内線側固定巻終りα(図2参照)の位置から、β(図2参照)の位置に移動する。これは、インボリュート巻角で更に180度回転させた位置であり、外線側固定巻終りγと固定ラップ歯溝をはさんで対向する位置となる。
【0036】
前記固定スクロール2は、固定ラップ2bの鏡板外辺部2dの下面(固定鏡板面2u)をフレーム4にねじ固定されている。一方、前記旋回スクロール3は、その鏡板背面に設けられた旋回軸受23に、クランク軸6の偏心ピン部6aが挿入され、主軸受24で回転支持されたクランク軸6の回転により旋回運動されるように構成されている。この旋回スクロール3の背面には、前記フレーム4と共に背圧室110が形成されている。
【0037】
前記旋回スクロール3が自転をすることなく旋回運動させるため、旋回スクロール3と前記フレーム4との間にはオルダムリング5が設けられている。前記背圧室110の圧力である背圧は、後述する作用により、吐出圧と吸込圧との間の中間圧に保持されている。また、前記旋回軸受23が設けられている旋回軸受室115は吐出圧力の空間となっているケーシング8下部の貯油部125から吐出圧力の油が供給されるため、吐出圧となっている。従って、旋回スクロール3は、前記背圧室110の背圧と、前記旋回軸受室115の吐出圧により固定スクロール2側に付勢、即ち旋回鏡板3aが固定鏡板面2uに付勢されている。
【0038】
冷媒などの作動流体を前記圧縮室100へ導くため、固定スクロール2に設けられた吸込穴2yには吸込パイプ50が圧入して接続されている。また、この吸込穴2yには、圧縮機の停止直後に作動流体が逆流するのを防止するため、逆止弁70が前記吸込パイプ50の下方に設けられている。また、前記固定スクロール2の中央部付近には、前記圧縮室100で圧縮された作動流体を吐出させるための吐出穴2fが形成されている。この吐出穴2fの外周側の固定鏡板2aには、複数のバイパス穴2e(図1、図2参照)を設け、各々のバイパス穴2eにはそれぞれバイパス弁(過圧縮防止弁またはリリース弁ともいう)22が設けられており、前記バイパス穴が連通している圧縮室100の圧力が固定背面室120の圧力より上昇すると前記バイパス弁22が開いて、作動流体が過圧縮されるのを防止するようにしている。
【0039】
前記クランク軸6の中央には、縦(軸方向)に貫通する給油穴6bが設けられており、前記貯油部125から吐出圧力の油は、クランク軸6の下端に設けられた給油パイプ6x及び前記給油穴6bなどの給油路を介して、前記旋回軸受室115に供給される。前記クランク軸6には、回転バランスを取るために、フレーム4よりも下部にシャフトバランス80とカウンターバランス82が設けられている。前記カウンターバランス82は、クランク軸6に焼き嵌めまたは圧入により取り付けたモータ7のロータ7a下部に固定されている。前記モータ7のステータ7bは、円筒ケーシング8aに焼き嵌めまたは圧入して固定され、このステータ7bと前記ロータ7aとが径方向に均一なギャップを保つように、前記フレーム4は円筒ケーシング8aにタック溶接されている。
【0040】
前記円筒ケーシング8aの側面には、ケーシング8内のモータ室上部に連通するように、吐出パイプ55が設けられており、前記吐出穴2fから固定背面室120に吐出された作動流体は前記フレーム4下部のモータ室に流入して油が分離されて、前記吐出パイプ55から冷凍サイクルなどに吐き出される。前記円筒ケーシング8a内の下部には、前記クランク軸6の下部を支持する副軸受25を取り付けるための下フレーム35が固定配置されている。前記副軸受25は、ボール25aとボールホルダ25bで構成され、クランク軸6が撓んでも片当りが生じない構成となっている。前記ボールホルダ25bは前記下フレーム35にねじ止めまたは溶接により固定配置されている。なお、前記給油パイプ6xは、前記クランク軸6の下端に圧入して取り付けられている。
【0041】
前記円筒ケーシング8aの上部には上ケーシング8bが溶接され、下部には底ケーシング8cが溶接されて、密閉型のケーシング8が構成されている。なお、前記上ケーシング8bには、モータ7に電力を供給するためのモータ線をつなぐハーメチック端子220が溶接で取り付けられ、また固定スクロール2に圧入された前記吸込パイプ50もこの上ケーシング8bに溶接されている。前記ケーシング8内には、組立ての適当な段階で油が封入され、この油は、ケーシング8の前記底ケーシング8cと前記下フレーム35との間に形成されている前記は貯油部125に溜められている。なお、前記固定背面室120は、前記上ケーシング8bと前記固定スクロール2の間に形成されている。このようにして、スクロール圧縮機1は構成されている。
【0042】
次に、上記スクロール圧縮機の動作を説明する。モータ7によりクランク軸6を回転させると旋回スクロール3が旋回運動する。これにより、吸込パイプ50から吸入された作動流体は、吸込圧の吸込領域105(図2参照)を通って、固定スクロール2と旋回スクロール3との噛合いにより形成される圧縮室100に取り込まれる。圧縮室100に取り込まれた作動流体は、圧縮室が中央へ移動しつつ縮小することによって圧縮され、中央寄りの吐出穴2fからケーシング8内の上部空間である固定背面室120へ吐出される。固定背面室120とモータ7が設置された空間(モータ室)は、前記固定スクロール2及びフレーム4の外周面に設けられた外周溝71により連通されており、これによりケーシング8内部は吐出圧に保たれた吐出領域となり、図1に示すスクロール圧縮機はいわゆる高圧チャンバ方式のスクロール圧縮機となる。
【0043】
圧縮室100内の圧力が固定背面室120の圧力よりも高くなる過圧縮条件では、前記バイパス弁22の弁体が開き、圧縮室内の作動流体を固定背面室120へバイパス穴2eを介してバイパスさせる。即ち、前記バイパス弁22は圧縮室圧力抑制手段となっている。これにより、不要な仕事である過圧縮を抑制できるため、性能をより向上させることができる。
【0044】
固定背面室120へ流出した作動流体は、その後固定スクロール2とフレーム4の外周溝71を通過してモータ7の上部空間へ流入し、吐出パイプ55から外部へ吐出される。作動流体中に含まれている油は、前記固定背面室120へ吐出されたとき、ケーシング内壁に油が衝突して分離され、その分離された油は、ケーシング内壁を伝って、最終的に圧縮機底部の貯油部125へ戻る。
【0045】
モータ7の上部空間に流入した前記作動流体の一部は、モータ7の外周溝や巻線隙間を通ってモータ7の下部空間との間を往復して吐出される。これにより、ステータ7bの巻線やモータの積層鋼板に油が付着し易くなり、作動流体中の油の分離が促進される。貯油部125に溜まっている油は、モータ室内の圧力(吐出圧)と背圧室110の圧力(背圧)との差圧により、給油パイプ6x及びクランク軸6内の給油穴6bなどの給油路を通り、旋回軸受23と主軸受24に給油された後、背圧室110内へ流入する。ピン部6aの上部は吐出圧のかかる旋回軸受室115となるため、旋回軸受室115は吐出圧で旋回スクロール3を固定スクロール2側に引き付ける作用をもつ。また、前記背圧室110も背圧で旋回スクロール3を固定スクロール2側に引き付ける作用をもつ。これら背圧室110と旋回軸受室115は固定スクロール2と旋回スクロール3とを引き付ける引付力付加手段となる。
【0046】
なお、前記副軸受25には給油穴6bから遠心力によって給油される。
背圧室110へ流入する油は吐出圧に近い圧力があり、背圧室110の圧力を昇圧させる作用がある。また、油に溶け込んでいる作動流体は、中間圧の背圧室110へ流入する際、減圧によりガス化するため、これに伴う背圧室110の圧力上昇作用もある。背圧室110へ流入した油はオルダムリング5の潤滑も行なう。その後、油は、後述する圧縮室連通路60(図3参照)と吸込域連通路65(図6参照)を介して圧縮室100に流入し、作動流体と混ざる。このようにして前記背圧は中間圧に保たれる。
【0047】
次に、本実施例における主要部となる構成について、図2〜図6を用いて詳細に説明する。
図2に示すように、固定スクロール2には、圧縮室100と背圧室110を連通する圧縮室連通路60が設けられている。この圧縮室連通路は図3に示すように、コの字形となっている。このコの字形の通路を形成するには、貫通穴をあけた後に通路として不要な部分を封止する(封止部61を参照)ことで実現することができる。
【0048】
前記圧縮室連通路60は、図3中に二点鎖線で示すような傾斜穴形連通路として形成しても良く、この場合には、圧縮室連通路60の圧縮室側開口60aが楕円になるが、圧縮室連通路60をコの字形に形成する必要がなく、貫通穴をあけた後の封止処理(封止部61)が不要となるから、加工をより容易にすることができる。
【0049】
前記圧縮室連通路60の圧縮室側開口60aは、図2に示すように、固定スクロールの歯底中央に開口するようにしているため、旋回スクロール3の旋回ラップ外線側圧縮室である旋回外線側圧縮室100aと、内線側圧縮室である旋回内線側圧縮室100bの両圧縮室に連通可能に構成されている。
【0050】
本実施例では、前記圧縮室側開口60aを設けた固定スクロール2の固定ラップ2b内線側の巻終り(内線側固定巻終り)を、従来歯形(旋回内線側圧縮室と旋回外線側圧縮室が同時に閉込みを開始する対称歯形)の固定ラップ内線巻終り位置(内線側固定巻終り)α(図2の(A)図参照)よりもインボリュート巻角で180度延伸させた位置β(図2の(A)図参照)を内線側固定巻終りとした、いわゆる非対称歯形としている。このため、従来の対称歯形と異なって、圧縮室側開口60aと連通する旋回外線側圧縮室100aと旋回内線側圧縮室100bの圧力レベルをほぼ同一にすることができる。従って、これらの圧縮室100a,100bと連通する前記背圧室110の圧力変動幅も小さくできる。
【0051】
前記圧縮室側開口60aは、その直径を、旋回ラップ3bの歯幅よりもわずかに小さい寸法に設定し、旋回ラップ3bで圧縮室側開口60a全体を塞ぐことができる大きさとしている。このため、圧縮室連通路60には短時間ではあるが閉じられている時間が発生し、前記背圧室110は前記各圧縮室100a,100bと別々のタイミングで連通する。これにより、圧縮室連通路60を介して、圧力レベルの異なる固定内線側圧縮室100aと固定外線側圧縮室100bとが連通することがないため、高圧側圧縮室から低圧側圧縮室への漏れは起こり難く、漏れ損失が抑制されるから、エネルギー効率を向上できる効果がある。また、前記圧縮室側開口60aの口径をできるだけ大きくしたため、圧縮室連通路60の流路抵抗は小さくなり、大流量が流れる場合でも背圧室の圧力を所望の値に迅速に設定できる効果がある。また、この圧縮室連通路60は、1回の旋回中に2回も閉口を起こす間欠連通路となるため、後述するこの連通路に設ける背圧弁の開口のきっかけをつくり、背圧弁の動作を確実にして、背圧の異常上昇を回避する効果がある。
【0052】
更に、本実施例では、前記圧縮室側開口60aの形成位置を、固定スクロール中心を原点とし、基準方向を固定巻終り方向とする前述した極座標において、固定ラップの巻終りから固定歯底に沿って中央側(巻始め側)へ270度以上入った所に設定している。このように構成することによる効果を以下述べる。
図2の(A)図に示す時点での旋回ラップの動きを考慮すると、閉込み開始前の旋回外線側圧縮室100a(吸込領域)には開口しない前記圧縮室側開口60aの固定歯底上での設定位置は、少なくとも(A)図のハッチングで示す領域となる。なお、極座標が360度以上では圧縮室側開口60aをどこに設置しても吸込領域には開口しないため、ハッチングを省略している。同様に、図2の(B)図に示す時点における、閉込み開始前の旋回内線側圧縮室100b(吸込領域)には開口しない前記圧縮室側開口60aの固定歯底上での設置位置も、少なくとも(B)図のハッチングで示す領域となる。(B)図にクロスハッチングで示される領域((A)図と(B)図のハッチングで示した共通部分)に前記圧縮室側開口60aを設けると、圧縮室連通路60は常時閉込み終了後の圧縮室にのみ連通させることができる。ラップ厚さに近い口径を持つ圧縮室側開口60aを固定歯底中央部に設ける本実施例の場合、固定歯底中央部付近で圧縮室側開口60aが吸込領域に連通しない領域(クロスハッチングの部分)の幅がラップ厚さ以上でなければならない。この条件に合う箇所は、このクロスハッチング領域の分布から、前記極座標で270度以上の位置になることがわかる。
【0053】
従って、前記圧縮機側開口60aを固定歯底中央部付近で前記極座標で270度以上の位置に設けることにより、圧縮室連通路60を、常時、旋回ラップ3bの巻終りが固定ラップ2bと接した後の閉込み完了後の空間である圧縮室100a,100bにのみ開口させることができ、吸込領域105と通じている吸込空間(ラップ間で形成されている吸込室)には決して連通しないように構成できる。これにより、背圧室110からの高温の油(作動流体も含む)が前記吸込領域105に流入するのを防止できるから、吸込加熱性能低下を抑制でき、エネルギー効率の向上を図ることが可能となる。
【0054】
前記圧縮室連通路60の他方の開口部である背圧室側開口60bは、固定スクロール2の固定鏡板面2uに形成されている周方向の周囲溝2pに連通する凹み部2p1に開口されている。このため、背圧室側開口60bは常時背圧室110に連通している。
【0055】
また、前記圧縮室連通路60の途中には、図3に示すように、絞りを伴う背圧弁26が設置されている。この背圧弁26の構成について以下説明する。
前記圧縮室連通路60の途中に連通する位置の固定スクロール2に、その上面側から弁穴2kを形成し、この弁穴2kの底面には弁シール面(弁座)26dを設ける。この弁シール面26dに弁体26aを弁ばね26bで押付ける。前記弁ばね26bは弁キャップ25cで保持される。この弁キャップ26cは、固定背面室120との間をシールする機能も担っている。このように構成された背圧弁26の動作を説明する。背圧弁26の弁体26aには、背圧(背圧室側の圧力)と圧縮室側開口60aが臨む圧縮室側の圧力との差圧が作用し、この差圧による力が弁ばね26bの押付力を越えると、弁体26aは弁シール面26dから離れ、圧縮室連通路60を開く。背圧は、圧縮室側開口60aが臨む圧縮室の圧力よりも弁ばね26bの押付力に対応する値だけ高く設定される。
【0056】
本実施例のスクロール圧縮機は、非対称歯形を採用しているため、圧縮室側開口60aと連通する旋回外線側圧縮室100aと旋回内線側圧縮室100bの圧力レベルはほとんど同一となる。更に、各々の圧縮室100aまたは100bに連通する旋回位相角の範囲も小さくなるため、その圧力変動幅も小さくなる。この結果、背圧弁26によって設定される背圧の変動が小さくなるため、旋回スクロールを固定スクロールへ付勢する力の変動が抑制される。従って、この付勢力の変動に伴って生じる各スクロールの変形の変動が抑制されるため、両スクロール間の隙間の変動が小さくなり、その隙間における油保持性が向上してシール性が向上し、漏れ損失低減を図ることができる。更に、ラップ同士の干渉の抑制による摩擦損失の低減も合わさって、エネルギー効率を向上できる効果が得られる。
【0057】
また、前記バイパス弁22を設けているため、これらの相乗効果によって、スクロール圧縮機に要求される全運転範囲で、旋回スクロールを固定スクロールに付勢できると共に、広い運転条件範囲で付勢力を小さくすることが可能となるから、摺動損失が小さく、エネルギー効率の高いスクロール圧縮機を実現できる効果がある。
【0058】
以上のように、背圧室110から吸込領域105に高温の油を流入させないようにすることで、吸込加熱性能低下を回避できるが、吸込領域105に全く油を供給しないと、圧縮室のシール性が低下し、逆にエネルギー効率の低下を生じる。しかし、前記吸込領域105のうちで閉込み開始前の圧縮室の内部に入れた場合には、シール性を改善できる効果はほとんどない。前記吸込域連通路65を、背圧室110と吸込領域105を接続し且つ給油箇所と給油量を適正化した構成によって、吸込領域105への給油を行うことにより、圧縮室100のシール性を向上させつつ、吸込加熱性能低下もほとんど起こさないスクロール圧縮機を実現できる。
【0059】
これを実現するため、本実施例では、前記吸込域連通路65を図4〜図6に示す構成としている。即ち、前記吸込域連通路65は、旋回鏡板3aを背圧室110側から固定鏡板面2u側に貫通させる小さな径の旋回鏡板給油孔65a(図4,図5参照)と、固定鏡板面2u上に形成され、前記旋回鏡板給油孔65aに連通可能な位置と前記吸込領域105とを接続する固定鏡板給油溝65b(図6)により構成されている。前記吸込域連通路65の吸込領域105側の開口部(前記固定鏡板給油溝65bの吸込領域105側の開口部)である吸込側開口65xは、吸込パイプ50から圧縮室100へ至る作動流体の流動経路内(吸込領域105)に設けられている。
【0060】
前記旋回鏡板給油孔65aの上面側開口部(固定鏡板面側開口部)65a′(図5参照)は、旋回スクロール2の旋回運動に伴い、図6にその軌跡を示した通り、前記固定鏡板給油溝65bと2箇所で重なる。従って、前記吸込域連通路65は、旋回スクロール3が1旋回する間に2回、吸込領域105側に連通する間欠連通路となる。その開口時点は、旋回鏡板給油孔65aの前記軌跡と交差するように形成される前記固定鏡板給油溝65bの形成方向で調整することが可能となる。
【0061】
本実施例では、前記旋回鏡板給油孔65aの軌跡と交差する固定鏡板給油溝65b部分の形成方向を、前記2つの固定巻終りβ,γをつなぐ直線と略平行な向きに設定したため、2つの圧縮室がそれぞれ閉込みを開始する時点でそれぞれ一定の時間、吸込域連通路65を吸込領域105に開口させることができる。よって、最外噛合箇所が生じてシールを必要とする時に油が供給されるため、より少ない油の供給量で最外噛合箇所のシールを行うことが可能となる。
【0062】
また、前記吸込域連通路65から前記吸込領域105に供給する適正油量は、実験から、作動流体流量の1〜5%程度とすることで、エネルギー効率を1%以上向上することが見出されている。背圧室110へ流入する油量は、圧縮機が外部へ送り出す作動流体量の20%からほぼ同等レベルの範囲である。これより、背圧室へ流入する油量が作動流体の20%と最も少なく、かつ、吸込領域連通路65の油量が作動流体量の5%と最も多く必要とする場合でも、背圧室へ流入する油量のうち5/20の割合である25%を吸込域連通路へ流せばよいことになる。この25%は、背圧室へ流入した油量のうちで吸込領域へ給油する油量の割合が考えられるうちで最も高い場合であることから、少なくとも吸込域連通路65から吸込領域に流す油量を、前記圧縮室連通路60から圧縮室側に流す油量よりも少なくすることにより、エネルギー効率をより一層向上できることがわかる。実際には多くの場合、背圧室へ流入する油のうち、1〜10%程度の油を吸込域連通路65へ流すことで最高のエネルギー効率を得ることができる。即ち、本実施例によれば、吸込領域105への流入油量を必要最小限の量まで極力低減することが可能となり、これによって吸込加熱性能低下を抑制しつつ、最外噛合箇所における圧縮室から吸込領域への漏れを抑制できるから、エネルギー効率の高いスクロール圧縮機を実現できる効果がある。
【0063】
なお、旋回鏡板給油孔65aの軌跡と交差する固定鏡板給油溝65b部分の形成方向を、前記2つの固定巻終りβ,γをつなぐ直線と略平行な向きから、時計回り方向に少しずらすことにより、吸込領域105への給油開始時点を圧縮室の閉込み開始時点に対して相対的に早くすることができる。このようにすることにより、噴出する油の速度が小さく、固定鏡板給油溝65bを通過するのに要する時間が長くかかる場合に有効である。また、固定鏡板給油溝65bの深さを深くしたり、幅を大きくする、或いは旋回鏡板給油孔65aの径を大きくするなどの手段により、流量を増加させることもできる。
【0064】
前記吐出穴2fからケーシング8内の吐出領域に吐出された作動流体中の油は、大部分がケーシング8内で分離されて貯油部125へ戻るが、一部は分離せずに、作動流体と共に吐出パイプ55から外部(冷凍サイクル)へ排出される。この外部に排出された油は、冷凍サイクルを循環後、最終的には吸込パイプ50から再びスクロール圧縮機1へ戻るため、吸込域連通路65による給油を補う働きをする。しかし、スクロール圧縮機の外部に油が排出されると、該圧縮機を搭載する冷凍サイクル装置の性能を低下させるため、特に定格条件では圧縮機から外部に排出される油を極力少なくする対策がなされているのが通常である。従って、前記吸込領域105へ必要最小限の給油を可能にする本実施例は、高いエネルギー効率のスクロール圧縮機を得るために、極めて有効である。
【実施例2】
【0065】
次に、本発明のスクロール圧縮機の実施例2を、図7を用いて説明する。この実施例は、前記吸込域連通路内に、外部駆動絞り弁を設け、この外部駆動絞り弁を制御することにより、前記背圧室から前記吸込領域への給油量を調整するように構成したものである。他の構成については上述した実施例1と基本的には同一であるので、重複する説明は省略する。
【0066】
この実施例2を更に詳しく説明する。本実施例における吸込域連通路65′は、スクロール圧縮機1の背圧室110と、吸込パイプ50から圧縮室100へ至る作動流体の流動経路内である吸込領域105の吸込穴2yとを連通するように設けられており、更にこの吸込域連通路65′の途中には、スクロール圧縮機1の外部に設けた制御装置65gにより開度を制御可能な外部駆動絞り弁(流量制御弁)65cが配置されている。
【0067】
前記吸込域連通路65′は、前記絞り弁65cと前記背圧室110とを連通する背圧側吸込域連通穴65d、及び前記絞り弁65cと前記吸込領域105とを連通する吸込側吸込域連通穴65eで構成され、これら連通穴65dと65eとの間に配置された前記絞り弁65cに、本実施例においては、圧縮機1内の状態、例えば吸込圧力Psと吐出圧力Pdをセンシングするセンサを内蔵している。即ち、前記絞り弁65cの前記吸込側吸込域連通穴65e側には吸込圧力Psを検出するための吸込圧力検知センサ(図示せず)が設けられ、更に前記絞り弁65cの固定背面室120に面する部分には吐出圧力Pdを検出するための吐出圧力検知センサ(図示せず)が設けられている。
【0068】
前記絞り弁65cと前記制御装置65gとは伝送路65fにより接続されており、この伝送路65fを介して前記制御装置65gにより前記絞り弁65cを制御したり、制御装置65gから絞り弁65cに駆動電力を供給する。また、絞り弁65cに設けられた前記吸込圧力検知センサや吐出圧力検知センサからの信号も前記伝送路65fを介して制御装置65gに取り込む。
【0069】
前記制御装置65g内には前記絞り弁65cを制御するための制御プログラムが記憶されており、このプログラムにより、例えば圧縮機における圧力比(Pd/Ps)などの状況に応じて、圧力比が大きければ給油量を増加させるように前記絞り弁65cを制御し、圧力比が小さければ前記絞り弁65cの開度を小さくして給油量を減少させるように制御できるため、吸込領域105への細かな給油量調整が可能となり、最外噛合箇所へ必要最小限の給油量を、広い運転条件範囲で実現することが可能となる。このため、最外噛合箇所のシール性を損なわずに、広い運転範囲で、吸込加熱性能低下を極限まで抑制することが可能となるから、広い運転範囲でエネルギー効率の極めて高いスクロール圧縮機を得ることができる効果がある。
【0070】
上述した圧力検知センサは、直接圧力を検出する圧力センサで説明したが、圧力センサは一般に高価であるため、圧力に関連する情報に基づいて、前記吸込圧力Psや吐出圧力Pdを推定するようにしてもよい。例えば、前記吐出圧力検知センサの代わりに圧縮機の吸込温度と吐出温度を検知するセンサを組み込み、それらからのデータと吸込圧力データを組み合わせて、吐出圧力Pdを推定するようにしても良い。また、図7に二点鎖線で示す外部信号線65sによって、スクロール圧縮機1を搭載する冷凍サイクル装置等から、圧力や温度等の圧縮機運転状態を把握できるデータを取得し、これらのデータから圧縮機の吸込圧力Psと吐出圧力Pdを推定しても良い。この場合には、圧縮機内に圧力センサや温度センサを組み込む必要が無くなり、製作コストを更に低減できる効果がある。
【実施例3】
【0071】
本発明のスクロール圧縮機の実施例3を図8〜図10を用いて説明する。図8は本実施例における旋回スクロールの上面図、図9は図8の旋回スクロールの縦断面図で、図8のIX−IX断面図、図10は本実施例における固定スクロールの固定鏡板面における吸込パイプ近傍の拡大図で、図2のQ部に相当する図である。この実施例3において上記実施例1と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示している。
【0072】
この実施例3においては、上記実施例1における旋回鏡板給油孔65aに代えて旋回鏡板給油窪み(凹部)65Aを旋回スクロール3における旋回鏡板3aの前記固定鏡板面2uに対向する位置に設けている。また、固定スクロール2の前記固定鏡板面2u上には、前記旋回鏡板給油窪み65Aに連通可能な位置と前記吸込領域105とを接続する固定鏡板給油溝65Bが円弧状に形成されている。更に、前記固定鏡板面2uには、固定スクロール2に形成されている前記周囲溝2pと連通するように固定鏡板掘込み65Cが設けられている。その他の点については実施例1と同一であるので、重複する説明を省略する。
【0073】
前記旋回鏡板給油窪み65Aは、図10にその軌跡を示す通り、背圧室110に臨む固定スクロール2の周囲溝2pと繋がる固定鏡板掘込み65Cと、固定鏡板給油溝65Bとの間を往復する。このように吸込域連通路65′′を構成することにより、該吸込域連通路65は、旋回スクロール3が1旋回する毎に、旋回鏡板給油窪み65Aに溜まった油を吸込領域105に1回給油することができる間欠給油路とすることができる。
【0074】
従って、本実施例においては、給油量は、前記給油窪み65Aの容積に応じて変わるから、給油量を多くしたい場合には前記給油窪み65Aの容積を大きくし、給油量を少なくしたい場合には、前記給油窪み65Aの容積を小さくすれば良い。前記給油窪み65Aの容積は、当該窪みの深さや径を変えることで所望の容積になるように容易に製作することができ、上記実施例1のように旋回鏡板給油孔65aの細径化や固定鏡板給油溝65bの幅を狭めて絞り量を増大させるように製作することは必要がなくなり、しかも背圧室と吸込領域との差圧が変化しても給油量の変化はない。この結果、極微量の給油量を高精度に設定することが容易に可能となり、製作性が格段に向上する。更に、本実施例によれば、実施例1のように旋回鏡板給油孔65aを細径化したり固定鏡板給油溝65bの幅を狭めるなどの必要がなくなるので、吸込域連通路65′′が目詰まりを起すことも回避でき、信頼性も向上できる。
【0075】
なお、本実施例では、旋回スクロール3が1旋回する間に1回の間欠給油を行うように構成しているので、実施例1のように、圧縮室の閉込みに合わせて給油することができない。このため、固定鏡板給油溝65Bを伸ばして吸込域連通路65′′の流路抵抗を増大させ、油の間欠流を緩和することで給油の平準化を図るようにすることができる。このようにすることにより、旋回ラップ3bの内内周側及び外周側に形成される2つの圧縮室の最外噛合い箇所でのシール性を少量の油で向上できる。
【0076】
また、本実施例のように、旋回スクロールに設けた給油窪み65Aによる間欠的なバケツリレー方式による給油を用いた場合であっても、前記固定鏡板掘込み65Cと旋回鏡板給油窪み65Aとの連通が1旋回中に2回生じるように前記固定鏡板掘込み65Cの形状或いは個数を設定し、その各連通との間に前記固定鏡板給油溝65Bと前記旋回鏡板給油窪み65Bとの連通が生じるように前記固定鏡板給油溝65Bを構成すれば、圧縮室の閉込みに合わせて給油する構成にすることも可能である。なお、旋回鏡板給油窪み65Aを前記固定鏡板給油溝65Bを挟むように半径方向に2個配置し、それぞれの旋回鏡板給油窪み65Aが旋回スクロールの旋回運動に伴ない、別々のタイミングで前記固定鏡板掘込み65Cと前記固定鏡板給油溝65Bに連通させるように構成すれば最外噛合箇所でのシール性を確保しつつ一層給油量を低減することができる。
【0077】
本実施例によれば、吸込領域105に流入させる油の量を、必要最小限に高精度に設定することができるので、吸込加熱性能低下を更に低減できる効果がある。
【実施例4】
【0078】
本発明のスクロール圧縮機の実施例4を図11及び図12を用いて説明する。図11は本実施例における固定スクロールの下面図で、旋回ラップの外線側圧縮室が閉込み開始時の旋回スクロールラップも重ねて表示した図、図12は図11に示した固定スクロールの背圧弁を有する圧縮室連通路の構成を説明する縦断面図で、図11のXII−XII断面図である。この実施例4においても、上記実施例1と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示している。
【0079】
この実施例4は、実施例1における圧縮室連通路60の圧縮室側開口60aを、固定ラップ2bの歯底中央よりも半径方向外側とし、且つ前述した極座標で290度の位置に設置している点で実施例1とは相違するものであり、その他の点については実施例1と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0080】
前記圧縮室側開口60aを固定ラップ2bの歯底中央よりも半径方向外側とした場合、極座標で270度の位置では、図2の(B)図に示すクロスハッチングの部分から明らかなように、旋回外線側圧縮室100aが閉込み開始前の吸込領域と連通してしまう。これを回避するため、本実施例では前記圧縮室側開口60aを、極座標で290度の位置(図2の(B)図に示すクロスハッチングの部分)へ移動させたものである。このように構成することにより、実施例1と同様の効果が得られると共に、圧縮室連通路60による圧縮室100への給油において、旋回外線側圧縮室100aへの給油量を、旋回内線側圧縮室100bへの給油量よりも多くすることができる。
【0081】
なお、本実施例では前記圧縮室側開口60aの設置位置を極座標で290度の位置としたが、これは290度に限るものではなく、270度より大きい位置で閉込み開始後の圧縮室にのみ連通する位置であれば良い。
【0082】
本実施例では非対称歯形のスクロール圧縮機で構成しているため、旋回外線側圧縮室100aは、その周囲に配置される旋回内線側圧縮室100bよりも圧力が高い場合が多く、ラップの歯先と歯底の間の隙間における漏れ流れの上流側になることが多い。本実施例では、このようにラップの歯先と歯底の間の隙間における漏れ流れの上流側になることが多い旋回外線側圧縮室100aへの給油量を多くしているので、ラップの歯先と歯底の間の隙間における漏れ流れによって、ラップの歯先と歯底の隙間に油を多量に供給でき、その部分のシール性を向上できる。従って、漏れをより減少させることができ、エネルギー効率を更に向上できる効果がある。
【0083】
なお、ラップ厚さが非常に大きい、或いはラップの歯先と歯底間の隙間が非常に小さく、ラップの歯先と歯底間の漏れが極端に少なくなるような場合には、前記圧縮室側開口60aを固定歯底中央よりもラップ内周側へ移動させるようにすると良い。このように構成することにより、旋回内線側圧縮室100bへの給油量をより多くできるので、油に溶解する作動流体で旋回内線側圧縮室100bの圧力をより高めることができる。このため、ラップ形状からくる旋回内線側圧縮室100bの容積比の低下を補って、旋回内線側圧縮室100bの圧力比を高めることが可能となる。この結果、旋回内線側圧縮室100bの圧力比を旋回外線側圧縮室100aの圧力比に近づけることができ、作動流体を吐出口2fから吐出する際の両圧縮室の圧力差を小さくできるから、吐出する作動流体の圧力脈動を抑制できる効果がある。
【0084】
以上述べたように、本発明の上記各実施例によれば、圧縮室連通路に加え、吸込域連通路を設けたため、吸込領域と圧縮室のシール部である最外噛合箇所に給油を行うことができ、圧縮室から吸込領域への漏れを抑制して、エネルギー効率の高いスクロール圧縮機を得ることができる。
【0085】
また、前記圧縮室連通路は、閉込み開始後の圧縮室にだけ連通させ、領域吸込領域への給油については前記吸込域連通路だけで行う構成としているため、背圧室からの高温の油を吸込領域に必要最小限の量だけ流すことが可能となり、これにより吸込加熱性能低下を抑制できる。
【0086】
このように、本実施例によれば、固定スクロールと旋回スクロールとの最外噛合箇所でのシール性の低下を防止することができると共に、吸込領域での作動流体の加熱も抑制できるから、エネルギー効率の高いスクロール圧縮機を得ることができる効果がある。
【符号の説明】
【0087】
1:スクロール圧縮機、
2:固定スクロール、2a:固定鏡板、2b:固定スクロールラップ(固定ラップ)、
2d:鏡板外辺部、2e:バイパス穴、2f:吐出穴、2k:弁穴、2p:周囲溝、
2p1:凹み部、2u:固定鏡板面、2y:吸込穴、
3:旋回スクロール、3a:旋回鏡板、3b:旋回スクロールラップ(旋回ラップ)、
4:フレーム、5:オルダムリング、6:クランク軸、6a:偏心ピン部、
6b:給油穴、6x:給油パイプ
7:モータ(7a:ロータ、7b:ステータ)、
8:ケーシング(8a:円筒ケーシング、8b:上ケーシング、8c:底ケーシング))、
22:バイパス弁、23:旋回軸受、24:主軸受、25:副軸受、
26:背圧弁、26a:弁体、26b:弁ばね、26c:弁キャップ、
26d:弁シール面(弁座)
35:下フレーム、50:吸込パイプ、55:吐出パイプ、
60:圧縮室連通路、60a:圧縮室側開口、60b:背圧室側開口、61:封止部、
65,65′,65′′:吸込域連通路、65a:旋回鏡板給油孔、
65a′:上面側開口部(固定鏡板面側開口部)、65b:固定鏡板給油溝、
65c:外部駆動絞り弁(流量制御弁)、65d:背圧側吸込域連通穴、
65e:吸込側吸込域連通穴、65f:伝送路、65g:制御装置、
65s:外部信号線、65x:吸込側開口、
65A:旋回鏡板給油窪み、65B:固定鏡板給油溝、65C:固定鏡板掘込み、
70:逆止弁、71:外周溝、
100:圧縮室、100a:旋回外線側圧縮室、100b:旋回内線側圧縮室、
105:吸込領域(吸込室)、110:背圧室、115:旋回軸受室、
120:固定背面室、125:貯油部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロールとこれに噛み合う旋回スクロールを備えるスクロール圧縮機に関し、特にCO2やHFCなどの冷媒を圧縮する冷凍サイクル用のスクロール圧縮機に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスクロール圧縮機としては、特許文献1に記載されているもののように、旋回スクロールの背面に吐出空間内の油を導入して吐出圧力と吸込圧力の中間の圧力となる背圧室を形成し、この背圧室の圧力(以下、背圧という)を用いて旋回スクロールを固定スクロールへ付勢するようにしたものがある。
【0003】
このようなスクロール圧縮機の場合、適切な背圧生成のため、吐出空間から背圧室へ導入した油を、背圧を制御する背圧弁を備えた連通路を介して圧縮室へ排出するようにしている。前記連通路の圧縮室側の開口部(圧縮室側開口)は、固定スクロール鏡板(固定鏡板)の圧縮室側に立設する固定スクロールラップ(固定ラップ)に挟まれた溝(固定スクロールラップ歯底;以下「固定歯底」ともいう)の幅方向中央に設けられていた。このように構成することにより、旋回スクロール鏡板(旋回鏡板)に立設するラップ(旋回ラップ)の内線側と外線側に形成される2系統の圧縮室に対し、背圧室の油を均等に供給するようにして、固定スクロールと旋回スクロールにより形成される圧縮室のシール性の向上を図るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−257287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1記載のものにおいて、圧縮室への連通路の前記圧縮室側開口は、固定歯底のうち、旋回ラップの巻終り箇所(内線側と外線側の2箇所があり、各々を以下、内線側旋回巻終り、外線側旋回巻終りという)と噛合う固定ラップの箇所(内線側と外線側の2箇所があり、各々を以下、内線側固定巻終り、外線側固定巻終りという)から渦巻き状の固定歯底に沿ってラップ中央側(ラップ巻始め側)へ入った位置に設けられている。
【0006】
この結果、外線側旋回巻終りと内線側固定巻終りの噛合いによる旋回外線側圧縮室の閉込み開始、または内線側旋回巻終りと外線側固定巻終りの噛合いによる旋回内線側圧縮室の閉込み開始のタイミング(各圧縮室の閉込み開始)から、所定の時間だけ、前記巻終り部分での噛合い箇所(最外噛合箇所)への油の供給が不足する。このため、前記最外噛合箇所でのシール性が低下して漏れが生じ、スクロール圧縮機のエネルギー効率が低下するという課題があった。
【0007】
また、上記従来のものでは、背圧室の高温の油が、前記連通路を介して前記圧縮室側に流出するが、この油は吸込領域(吸込室)にも大量に流れてしまうことがわかった。このため、吸込パイプから圧縮機内に流入するガス(冷媒ガスなどの作動流体)を加熱し、加熱されたガスは比容積が増大するから、圧縮室に取込まれる作動流体の質量は低下する。このため、従来のスクロール圧縮機においては、圧縮に必要な動力に対して少ない仕事しかできず、全断熱効率の低下(以下、吸込加熱性能低下という)を引き起こし、この点からもエネルギー効率が低下するという課題もあった。
【0008】
本発明の目的は、固定スクロールと旋回スクロールとの最外噛合箇所でのシール性の低下を防止すると共に、吸込領域での作動流体の加熱も抑制して、エネルギー効率を向上することができるスクロール圧縮機を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、鏡板とそれに立設されたスクロールラップを有する固定スクロールと、鏡板とそれに立設されたスクロールラップを有し、前記固定スクロールと噛み合わされて旋回運動を行うことによって前記固定スクロールとの間に圧縮室を形成する旋回スクロールと、前記旋回スクロールに前記固定スクロールへの引付力を与える背圧室と、前記背圧室に圧縮機吐出側の油を導入する給油路とを有するスクロール圧縮機において、前記背圧室と閉込み開始後の前記圧縮室とのみ連通されると共に前後の差圧で開閉する背圧弁を備え、背圧室の油を圧縮室へ流出させて前記背圧室の圧力を制御する圧縮室連通路と、前記背圧室と、閉込み開始後の前記圧縮室へ至る吸込領域とのみ連通し、閉込み開始後の前記圧縮室には連通しないように構成され、前記背圧室の油を前記吸込領域へ供給する吸込域連通路とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固定スクロールと旋回スクロールとの最外噛合箇所でのシール性の低下を防止することができると共に、吸込領域での作動流体の加熱も抑制できるから、エネルギー効率の高いスクロール圧縮機を得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のスクロール圧縮機の実施例1を示す縦断面図。
【図2】図1に示す固定スクロールを下方から見た下面図で、(A)図は旋回外線側圧縮室の閉込み開始時の旋回スクロールラップも含む図、(B)図は旋回内線側圧縮室の閉込み開始時の旋回スクロールラップも含む図。
【図3】図2に示す固定スクロールのIII−III線断面図で、背圧弁付近の構造を説明する図。
【図4】図1に示す旋回スクロールを上方から見た上面図。
【図5】図4に示す旋回スクロールのV−V線断面図。
【図6】図2のQ部を拡大して示す部分拡大図で、吸込パイプ近傍の固定鏡板面の拡大図。
【図7】本発明のスクロール圧縮機の実施例2を示す縦断面図。
【図8】本発明のスクロール圧縮機の実施例3を説明する旋回スクロールの上面図。
【図9】図8の旋回スクロールの縦断面図で、図8のIX−IX線断面図。
【図10】本発明のスクロール圧縮機の実施例3を説明する固定スクロールの固定鏡板面における吸込パイプ近傍の拡大図で、図2のQ部に相当する図。
【図11】本発明のスクロール圧縮機の実施例4を説明する固定スクロールの下面図で、旋回外線側圧縮室の閉込み開始時における旋回スクロールラップも重ねて表示した図。
【図12】図11に示した固定スクロールの背圧弁を有する圧縮室連通路の構成を説明する縦断面図で、図11のXII−XII断面図。
【図13】従来のスクロール圧縮機で最外噛合箇所への給油可能性を説明する固定スクロールの下面図で、旋回スクロールが230度の旋回位相角時の旋回スクロールラップも含む図。
【図14】図13と同様の固定スクロールの下面図で、旋回スクロールが330度の旋回位相角時の旋回スクロールラップも含む図。
【図15】図13と同様の固定スクロールの下面図で、旋回内線側圧縮室の閉込み開始時も旋回外線側圧縮室の閉込み開始時も共に、極座標が270度の位置では、旋回ラップが固定歯底中央にくることを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、上述した特許文献1のものでは、圧縮室の閉込み開始からしばらくの間、最外噛合箇所への給油が止まってしまう理由を、以下説明する。
【0013】
一般に、閉込み空間である圧縮室は、旋回スクロールの旋回運動に伴ないラップ中央側へ移動する。このため、その中にある作動流体は、静止系である固定スクロールからみると、ラップに沿って中央へ流れる。この結果、圧縮室側開口から圧縮室へ流入した油は、この作動流体の流れにのり、ラップ中央へ向かって流れる。一方、最外噛合箇所も、旋回スクロールの旋回運動につれてラップ中央へ移動する。このため、圧縮室側開口から流入する油を最外噛合箇所へ供給するためには、
『最外噛合箇所が、ラップに沿って圧縮室側開口よりもラップ中央寄りであること
…(1)』
が必要条件になる。前記最外噛合箇所は、旋回スクロールの旋回位相角で決まることから、最外噛合箇所が圧縮室側開口よりもラップ中央寄りとなる旋回位相角の時だけ、最外噛合箇所に油を供給できることになる。実際は更にその他の追加条件が必要となる。
【0014】
次に、図13に示す従来のスクロール圧縮機と同様な場合(圧縮室側開口の設置方向角が固定巻終りから210度程度ラップ中央側(ラップ巻始め側)へ入った場合)を対象として、前記追加条件と、噛合箇所に給油可能となる旋回位相角範囲を検討する。
【0015】
ここで、前記最外噛合箇所が、外線側圧縮室の最外噛合箇所であるか、内線側圧縮室の最外噛合箇所であるかによって状況が異なるため、まず考察対象を、外線側旋回巻終りと内線側固定巻終りの噛合い(以下、旋回外線側最外噛合箇所という)で旋回外線側圧縮室が形成される場合に限定して考える。更に、単純化するため、圧縮室側開口の直径が旋回ラップの厚さと同一となる条件で考える。また、固定スクロール中心を原点とし、基準方向を固定巻終り方向とする極座標で考える。
【0016】
ここでは、ラップ形状を円のインボリュート曲線で形成することを前提としているが、この場合、厳密には、固定スクロール中心を通って内線側固定巻終りと外線側固定巻終りの2点を通る直線を引くことはできない。即ち、前記2点の固定巻終り点を結ぶと、固定中心から基礎円の接線を通る直線となる。そこで、ここでは前記2点の固定巻終りの中心を通る方向角を基準方向とし、角度においては、多少のずれを許容することとする。
【0017】
上記のようにすると、
『旋回外線側最外噛合箇所の方向角は旋回スクロールの旋回位相角と等しい …(2)』
ことがわかる。(但し、旋回内線側最外噛合箇所の場合は、180度ずれる。)
よって、上記(1)、(2)から、
『旋回スクロールの旋回位相角が、ラップに沿って圧縮室側開口よりもラップ中央寄りであること …(3)』
が、前記圧縮室側開口から旋回外線側最外噛合箇所へ給油するための必要条件であることがわかる。
【0018】
図13、図14には、上記の必要条件を満たす旋回位相角の旋回ラップを各々載せているが、このうち、図13の旋回ラップは、圧縮室側開口が旋回内線側圧縮室に開口しているため、旋回外線側最外噛合箇所への給油は不可能であり、他方、図14の旋回ラップは旋回外線側最外噛合箇所への給油が可能であることがわかる。
【0019】
これより、以下のことが言える。
『旋回位相角が圧縮室側開口の設置方向角を中心として前後90度ずつ(合計180度)の間、圧縮室側開口は旋回内線側圧縮室に開口する。 …(4)』
ここで、旋回位相角が360度以上になると、外側に別の噛合い箇所が形成され、これまで考察対象としてきた噛合い箇所は最外噛合箇所ではなくなるため、
『旋回位相角は、0度から360度以下の範囲である …(5)』
という前提条件もあり、上記(4)と(5)が、追加しなければならない条件である。これらを纏めると、以下のことがわかる。
『圧縮室側開口から旋回外線側最外噛合箇所へ給油可能な旋回位相角の範囲は、圧縮室側開口の設置方向角より90度以上ラップ中央寄りの範囲であって、旋回位相角が360度以下である。 …(6)』
以上を考慮すれば、図13で示すような従来例の場合、圧縮室側開口の設置方向角が210度であるため、210度に90度を加えた300度から360度の旋回位相角の範囲(旋回位相角度間隔)で給油可能であることがわかる。
【0020】
これまでの考察で求めた、旋回外線側最外噛合箇所へ給油可能な旋回位相角度間隔は、あくまでも、旋回外線側最外噛合箇所よりも上流側に前記圧縮室側開口が開口する旋回位相角度間隔を示したものであり、依然として、給油可能となる必要条件であって、十分条件とはなっていない。
【0021】
つまり、(6)を満たしていても、以下のような例外が出てくる。
『圧縮室側開口から噴き出す油の速度が小さいと、旋回スクロールが360度旋回する間に、噴出した油が最外噛合箇所へ到達できない。 …(7)』
この油の噴出速度は、前記連通路の入口側の圧力(背圧)と出口側の圧力の差と共に、前記連通路の流路抵抗でも決まる。
【0022】
上記従来技術では、前記連通路内に絞りを伴う背圧弁を設けているため、流路抵抗が大きく、油の噴出速度は小さくなる。よって、圧縮室側開口から噴出した油は最外噛合箇所へ到達するまでに時間がかかり、実際上、最外噛合箇所への給油はほとんど行われず、行われたとしてもわずかである。前述した説明において、従来例では圧縮室の閉込み開始からしばらくの間だけ最外噛合箇所への給油が止まると述べたが、実際上は、最外圧縮室への給油はほとんどないことがわかった。
【0023】
圧縮室側開口の設定位置をラップに沿って外周側へ移動させると、前記最外噛合箇所と、それよりも上流側に開口する前記圧縮室側開口との旋回位相角の間隔を増大できるため、前記最外噛合箇所への給油量も増大できる可能性がある。しかし、圧縮室側開口から流入する油の速度は背圧弁の流路抵抗によって小さく抑えられてしまうため、実質的には給油量を増加できる可能性は低い。
【0024】
以上の説明は、旋回外線側圧縮室の場合についてであるが、旋回内線側圧縮室の場合でも、上述した説明と同様なことがいえる。具体的に述べると、
『旋回内線側最外噛合箇所に給油可能な圧縮室側開口の旋回位相角は、旋回外線側最外噛合箇所に給油可能な旋回位相角間隔とは180度ずれた角度関係となる。 …(8)』
また、単純化のために「圧縮室側開口の直径が旋回ラップの厚さと同一」となる条件で説明したが、「圧縮室側開口の直径が旋回ラップの厚さよりも小さい」場合には、圧縮室側開口がいずれの圧縮室にも臨まない旋回位相角の範囲(旋回位相角度間隔)が生じる。このため、給油可能な旋回位相角度間隔は、上述した角度の範囲よりも一層狭まり、最外噛合箇所への給油は更に少なくなることがわかる。
【0025】
以上、詳細に述べたように、大きな絞りを伴う背圧弁を備え、圧縮室側開口が、固定ラップの巻終りよりもラップ中央側(巻始め側)へ入った固定歯底に設けるようにした従来のものでは、最外噛合箇所への給油が実質的には行われず、圧縮室のシール性が低下して、性能が大幅に低下することがわかった。
【0026】
また、図15に示す通り、旋回内線側圧縮室閉込み開始時も旋回外線側圧縮室閉込み開始時も共に、極座標で270度の位置においては、旋回ラップの位置は、固定スクロールの歯底中央(ラップ間の中央)にくる。このことから、前記圧縮室側開口を、固定歯底中央で極座標が270度以上(但し360度未満が好ましい)の位置に設置すると、この圧縮室側開口は閉込み開始後の圧縮室にだけ開口することがわかる。なお、前記圧縮室側開口の開口位置が固定歯底の中央からずれた場合、寄った側の固定ラップの線で形成される圧縮室と前記圧縮室側開口との連通が早まる。このため、両圧縮室共、閉込み開始後の圧縮室にのみ開口させるためには、極座標で270度以上(但し360度未満が好ましい)で且つラップ中央寄りに前記圧縮室側開口を設置する必要がある。なお、前記圧縮室側開口の設置位置は、前述したように前記極座標で360度未満の位置が好ましいが、360度以上であっても、圧縮室にのみ開口する位置であれば良い。
【0027】
これに対し、上記従来技術の背圧弁を有する前記連通路は、その圧縮室側開口が固定ラップ巻終りから固定ラップの歯底に沿って中央側(巻始め側)へ210度程度の位置(固定スクロールの中心を原点とし、基準方向を固定巻終り方向とする極座標で方向角が210度の位置)に設けられている。これは、上記した通り、常時閉込み開始後の圧縮室とのみ連通可能となる角度の最小値である270度よりも明らかに小さいことから、少なくともある時間において、前記圧縮室側開口は、吸込パイプと通じる吸込領域(吸込室)に臨んでいることがわかる。
【0028】
ところで、背圧室は中間圧力である背圧に保持されているため、前記圧縮室側開口の圧力が低いときほどその圧縮室側開口を流れる油量は増大する。このため、前記圧縮室側開口を流れる油の大半は、前記圧縮室側開口の圧力が最も低くなる吸込領域への連通時に流れてしまう。即ち、上記従来技術において、前記背圧室から前記圧縮室側開口を介して排出される油の大半は吸込領域へ入るため、前記圧縮室側開口は、実質的には背圧室と吸込領域のみを連通させる流路となっていた。
【0029】
前記背圧室に流入する前の油は、スクロール圧縮機の吐出空間に溜まっているため、高温となっている。このため、油が背圧室から吸込室へ流入する際の減圧で、油中の作動流体(冷媒)のガス化によって油温低下は生じるものの、吸込温度よりは高温となっている。
【0030】
このため、上記従来のスクロール圧縮機においては、吸込領域の作動流体は、背圧室から流入する高温の油と、その油に溶解していた高温の作動流体によって加熱されて温度が高くなり、比容積が増大するため、圧縮室に取込まれる作動流体の質量は低下する。一方、圧縮に要する動力は、吸込温度の上昇により断熱指数が増大するため、増加する。即ち、圧縮に必要な動力が増大するのに少ない仕事しかできず、全断熱効率が低下する(即ち、吸込加熱性能低下を引起す)ことも明らかになった。
【0031】
そこで、本実施例では、背圧弁を有する前記連通路の圧縮室側開口を、閉込み完了後の圧縮室にのみ連通させ、吸込領域(吸込室)には連通させない位置に開口する構成とした。また、前記吸込領域にのみ連通する別系統の給油路(吸込域連通路)を更に備え、この吸込域連通路は間欠的に給油が行われる間欠給油構造とすることで、吸込領域への給油を必要最小限にすることを可能にした。
以下、本発明の具体的実施例を図1〜図12に基づいて説明する。
【実施例1】
【0032】
本発明の実施例1を図1〜図6に基づき説明する。図1は本実施例のスクロール圧縮機を示す縦断面図、図2は図1に示す固定スクロールを下方から見た下面図で、(A)図は旋回外線側圧縮室の閉込み開始時の旋回スクロールラップも含む図、(B)図は旋回内線側圧縮室の閉込み開始時の旋回スクロールラップも含む図、図3は図2に示す固定スクロールのIII−III線断面図で、背圧弁付近の構造を説明する図、図4は図1に示す旋回スクロールを上方から見た上面図、図5は図4に示す旋回スクロールのV−V線断面図、図6は図2のQ部を拡大して示す部分拡大図で、吸込パイプ近傍の固定鏡板面の拡大図である。なお、この実施例において、圧縮機の直径は10mmから1000mm程度である。
【0033】
まず、スクロール圧縮機の全体構成を、主に図1を用いて説明する。
図1に示すスクロール圧縮機1は、固定スクロール2と旋回スクロール3を備えており、前記固定スクロール2は、円のインボリュートを断面線とする固定スクロールラップ(固定ラップ)2bを固定スクロール鏡板(固定鏡板)2aに立設し、また前記旋回スクロール3も同様に、円のインボリュートを断面線とする旋回スクロールラップ(旋回ラップ)3bを旋回スクロール鏡板(旋回鏡板)3aに立設して、これら固定スクロール2と旋回スクロール3を噛合わせることで、両者間に圧縮室100を形成している。
【0034】
これらのラップは一般に厚さは同一である。また、固定ラップと旋回ラップが同一形状の対称歯形をもつ対称形状のスクロール圧縮機では、前記旋回ラップ3bの外線側に形成される旋回外線側圧縮室と、前記旋回ラップ3bの内線側に形成される旋回内線側圧縮室とは同一形状となる。
【0035】
一方、旋回スクロール3の旋回ラップ3bの巻終り側の両側面を固定スクロール2の固定ラップ2bとの噛合いに用いるいわゆる非対称歯形のスクロール圧縮機もある。この非対称歯形のスクロール圧縮機では、固定スクロール2の内線の巻終りである内線側固定巻終りは、前述した対称形状のスクロール圧縮機の対称歯形での内線側固定巻終りα(図2参照)の位置から、β(図2参照)の位置に移動する。これは、インボリュート巻角で更に180度回転させた位置であり、外線側固定巻終りγと固定ラップ歯溝をはさんで対向する位置となる。
【0036】
前記固定スクロール2は、固定ラップ2bの鏡板外辺部2dの下面(固定鏡板面2u)をフレーム4にねじ固定されている。一方、前記旋回スクロール3は、その鏡板背面に設けられた旋回軸受23に、クランク軸6の偏心ピン部6aが挿入され、主軸受24で回転支持されたクランク軸6の回転により旋回運動されるように構成されている。この旋回スクロール3の背面には、前記フレーム4と共に背圧室110が形成されている。
【0037】
前記旋回スクロール3が自転をすることなく旋回運動させるため、旋回スクロール3と前記フレーム4との間にはオルダムリング5が設けられている。前記背圧室110の圧力である背圧は、後述する作用により、吐出圧と吸込圧との間の中間圧に保持されている。また、前記旋回軸受23が設けられている旋回軸受室115は吐出圧力の空間となっているケーシング8下部の貯油部125から吐出圧力の油が供給されるため、吐出圧となっている。従って、旋回スクロール3は、前記背圧室110の背圧と、前記旋回軸受室115の吐出圧により固定スクロール2側に付勢、即ち旋回鏡板3aが固定鏡板面2uに付勢されている。
【0038】
冷媒などの作動流体を前記圧縮室100へ導くため、固定スクロール2に設けられた吸込穴2yには吸込パイプ50が圧入して接続されている。また、この吸込穴2yには、圧縮機の停止直後に作動流体が逆流するのを防止するため、逆止弁70が前記吸込パイプ50の下方に設けられている。また、前記固定スクロール2の中央部付近には、前記圧縮室100で圧縮された作動流体を吐出させるための吐出穴2fが形成されている。この吐出穴2fの外周側の固定鏡板2aには、複数のバイパス穴2e(図1、図2参照)を設け、各々のバイパス穴2eにはそれぞれバイパス弁(過圧縮防止弁またはリリース弁ともいう)22が設けられており、前記バイパス穴が連通している圧縮室100の圧力が固定背面室120の圧力より上昇すると前記バイパス弁22が開いて、作動流体が過圧縮されるのを防止するようにしている。
【0039】
前記クランク軸6の中央には、縦(軸方向)に貫通する給油穴6bが設けられており、前記貯油部125から吐出圧力の油は、クランク軸6の下端に設けられた給油パイプ6x及び前記給油穴6bなどの給油路を介して、前記旋回軸受室115に供給される。前記クランク軸6には、回転バランスを取るために、フレーム4よりも下部にシャフトバランス80とカウンターバランス82が設けられている。前記カウンターバランス82は、クランク軸6に焼き嵌めまたは圧入により取り付けたモータ7のロータ7a下部に固定されている。前記モータ7のステータ7bは、円筒ケーシング8aに焼き嵌めまたは圧入して固定され、このステータ7bと前記ロータ7aとが径方向に均一なギャップを保つように、前記フレーム4は円筒ケーシング8aにタック溶接されている。
【0040】
前記円筒ケーシング8aの側面には、ケーシング8内のモータ室上部に連通するように、吐出パイプ55が設けられており、前記吐出穴2fから固定背面室120に吐出された作動流体は前記フレーム4下部のモータ室に流入して油が分離されて、前記吐出パイプ55から冷凍サイクルなどに吐き出される。前記円筒ケーシング8a内の下部には、前記クランク軸6の下部を支持する副軸受25を取り付けるための下フレーム35が固定配置されている。前記副軸受25は、ボール25aとボールホルダ25bで構成され、クランク軸6が撓んでも片当りが生じない構成となっている。前記ボールホルダ25bは前記下フレーム35にねじ止めまたは溶接により固定配置されている。なお、前記給油パイプ6xは、前記クランク軸6の下端に圧入して取り付けられている。
【0041】
前記円筒ケーシング8aの上部には上ケーシング8bが溶接され、下部には底ケーシング8cが溶接されて、密閉型のケーシング8が構成されている。なお、前記上ケーシング8bには、モータ7に電力を供給するためのモータ線をつなぐハーメチック端子220が溶接で取り付けられ、また固定スクロール2に圧入された前記吸込パイプ50もこの上ケーシング8bに溶接されている。前記ケーシング8内には、組立ての適当な段階で油が封入され、この油は、ケーシング8の前記底ケーシング8cと前記下フレーム35との間に形成されている前記は貯油部125に溜められている。なお、前記固定背面室120は、前記上ケーシング8bと前記固定スクロール2の間に形成されている。このようにして、スクロール圧縮機1は構成されている。
【0042】
次に、上記スクロール圧縮機の動作を説明する。モータ7によりクランク軸6を回転させると旋回スクロール3が旋回運動する。これにより、吸込パイプ50から吸入された作動流体は、吸込圧の吸込領域105(図2参照)を通って、固定スクロール2と旋回スクロール3との噛合いにより形成される圧縮室100に取り込まれる。圧縮室100に取り込まれた作動流体は、圧縮室が中央へ移動しつつ縮小することによって圧縮され、中央寄りの吐出穴2fからケーシング8内の上部空間である固定背面室120へ吐出される。固定背面室120とモータ7が設置された空間(モータ室)は、前記固定スクロール2及びフレーム4の外周面に設けられた外周溝71により連通されており、これによりケーシング8内部は吐出圧に保たれた吐出領域となり、図1に示すスクロール圧縮機はいわゆる高圧チャンバ方式のスクロール圧縮機となる。
【0043】
圧縮室100内の圧力が固定背面室120の圧力よりも高くなる過圧縮条件では、前記バイパス弁22の弁体が開き、圧縮室内の作動流体を固定背面室120へバイパス穴2eを介してバイパスさせる。即ち、前記バイパス弁22は圧縮室圧力抑制手段となっている。これにより、不要な仕事である過圧縮を抑制できるため、性能をより向上させることができる。
【0044】
固定背面室120へ流出した作動流体は、その後固定スクロール2とフレーム4の外周溝71を通過してモータ7の上部空間へ流入し、吐出パイプ55から外部へ吐出される。作動流体中に含まれている油は、前記固定背面室120へ吐出されたとき、ケーシング内壁に油が衝突して分離され、その分離された油は、ケーシング内壁を伝って、最終的に圧縮機底部の貯油部125へ戻る。
【0045】
モータ7の上部空間に流入した前記作動流体の一部は、モータ7の外周溝や巻線隙間を通ってモータ7の下部空間との間を往復して吐出される。これにより、ステータ7bの巻線やモータの積層鋼板に油が付着し易くなり、作動流体中の油の分離が促進される。貯油部125に溜まっている油は、モータ室内の圧力(吐出圧)と背圧室110の圧力(背圧)との差圧により、給油パイプ6x及びクランク軸6内の給油穴6bなどの給油路を通り、旋回軸受23と主軸受24に給油された後、背圧室110内へ流入する。ピン部6aの上部は吐出圧のかかる旋回軸受室115となるため、旋回軸受室115は吐出圧で旋回スクロール3を固定スクロール2側に引き付ける作用をもつ。また、前記背圧室110も背圧で旋回スクロール3を固定スクロール2側に引き付ける作用をもつ。これら背圧室110と旋回軸受室115は固定スクロール2と旋回スクロール3とを引き付ける引付力付加手段となる。
【0046】
なお、前記副軸受25には給油穴6bから遠心力によって給油される。
背圧室110へ流入する油は吐出圧に近い圧力があり、背圧室110の圧力を昇圧させる作用がある。また、油に溶け込んでいる作動流体は、中間圧の背圧室110へ流入する際、減圧によりガス化するため、これに伴う背圧室110の圧力上昇作用もある。背圧室110へ流入した油はオルダムリング5の潤滑も行なう。その後、油は、後述する圧縮室連通路60(図3参照)と吸込域連通路65(図6参照)を介して圧縮室100に流入し、作動流体と混ざる。このようにして前記背圧は中間圧に保たれる。
【0047】
次に、本実施例における主要部となる構成について、図2〜図6を用いて詳細に説明する。
図2に示すように、固定スクロール2には、圧縮室100と背圧室110を連通する圧縮室連通路60が設けられている。この圧縮室連通路は図3に示すように、コの字形となっている。このコの字形の通路を形成するには、貫通穴をあけた後に通路として不要な部分を封止する(封止部61を参照)ことで実現することができる。
【0048】
前記圧縮室連通路60は、図3中に二点鎖線で示すような傾斜穴形連通路として形成しても良く、この場合には、圧縮室連通路60の圧縮室側開口60aが楕円になるが、圧縮室連通路60をコの字形に形成する必要がなく、貫通穴をあけた後の封止処理(封止部61)が不要となるから、加工をより容易にすることができる。
【0049】
前記圧縮室連通路60の圧縮室側開口60aは、図2に示すように、固定スクロールの歯底中央に開口するようにしているため、旋回スクロール3の旋回ラップ外線側圧縮室である旋回外線側圧縮室100aと、内線側圧縮室である旋回内線側圧縮室100bの両圧縮室に連通可能に構成されている。
【0050】
本実施例では、前記圧縮室側開口60aを設けた固定スクロール2の固定ラップ2b内線側の巻終り(内線側固定巻終り)を、従来歯形(旋回内線側圧縮室と旋回外線側圧縮室が同時に閉込みを開始する対称歯形)の固定ラップ内線巻終り位置(内線側固定巻終り)α(図2の(A)図参照)よりもインボリュート巻角で180度延伸させた位置β(図2の(A)図参照)を内線側固定巻終りとした、いわゆる非対称歯形としている。このため、従来の対称歯形と異なって、圧縮室側開口60aと連通する旋回外線側圧縮室100aと旋回内線側圧縮室100bの圧力レベルをほぼ同一にすることができる。従って、これらの圧縮室100a,100bと連通する前記背圧室110の圧力変動幅も小さくできる。
【0051】
前記圧縮室側開口60aは、その直径を、旋回ラップ3bの歯幅よりもわずかに小さい寸法に設定し、旋回ラップ3bで圧縮室側開口60a全体を塞ぐことができる大きさとしている。このため、圧縮室連通路60には短時間ではあるが閉じられている時間が発生し、前記背圧室110は前記各圧縮室100a,100bと別々のタイミングで連通する。これにより、圧縮室連通路60を介して、圧力レベルの異なる固定内線側圧縮室100aと固定外線側圧縮室100bとが連通することがないため、高圧側圧縮室から低圧側圧縮室への漏れは起こり難く、漏れ損失が抑制されるから、エネルギー効率を向上できる効果がある。また、前記圧縮室側開口60aの口径をできるだけ大きくしたため、圧縮室連通路60の流路抵抗は小さくなり、大流量が流れる場合でも背圧室の圧力を所望の値に迅速に設定できる効果がある。また、この圧縮室連通路60は、1回の旋回中に2回も閉口を起こす間欠連通路となるため、後述するこの連通路に設ける背圧弁の開口のきっかけをつくり、背圧弁の動作を確実にして、背圧の異常上昇を回避する効果がある。
【0052】
更に、本実施例では、前記圧縮室側開口60aの形成位置を、固定スクロール中心を原点とし、基準方向を固定巻終り方向とする前述した極座標において、固定ラップの巻終りから固定歯底に沿って中央側(巻始め側)へ270度以上入った所に設定している。このように構成することによる効果を以下述べる。
図2の(A)図に示す時点での旋回ラップの動きを考慮すると、閉込み開始前の旋回外線側圧縮室100a(吸込領域)には開口しない前記圧縮室側開口60aの固定歯底上での設定位置は、少なくとも(A)図のハッチングで示す領域となる。なお、極座標が360度以上では圧縮室側開口60aをどこに設置しても吸込領域には開口しないため、ハッチングを省略している。同様に、図2の(B)図に示す時点における、閉込み開始前の旋回内線側圧縮室100b(吸込領域)には開口しない前記圧縮室側開口60aの固定歯底上での設置位置も、少なくとも(B)図のハッチングで示す領域となる。(B)図にクロスハッチングで示される領域((A)図と(B)図のハッチングで示した共通部分)に前記圧縮室側開口60aを設けると、圧縮室連通路60は常時閉込み終了後の圧縮室にのみ連通させることができる。ラップ厚さに近い口径を持つ圧縮室側開口60aを固定歯底中央部に設ける本実施例の場合、固定歯底中央部付近で圧縮室側開口60aが吸込領域に連通しない領域(クロスハッチングの部分)の幅がラップ厚さ以上でなければならない。この条件に合う箇所は、このクロスハッチング領域の分布から、前記極座標で270度以上の位置になることがわかる。
【0053】
従って、前記圧縮機側開口60aを固定歯底中央部付近で前記極座標で270度以上の位置に設けることにより、圧縮室連通路60を、常時、旋回ラップ3bの巻終りが固定ラップ2bと接した後の閉込み完了後の空間である圧縮室100a,100bにのみ開口させることができ、吸込領域105と通じている吸込空間(ラップ間で形成されている吸込室)には決して連通しないように構成できる。これにより、背圧室110からの高温の油(作動流体も含む)が前記吸込領域105に流入するのを防止できるから、吸込加熱性能低下を抑制でき、エネルギー効率の向上を図ることが可能となる。
【0054】
前記圧縮室連通路60の他方の開口部である背圧室側開口60bは、固定スクロール2の固定鏡板面2uに形成されている周方向の周囲溝2pに連通する凹み部2p1に開口されている。このため、背圧室側開口60bは常時背圧室110に連通している。
【0055】
また、前記圧縮室連通路60の途中には、図3に示すように、絞りを伴う背圧弁26が設置されている。この背圧弁26の構成について以下説明する。
前記圧縮室連通路60の途中に連通する位置の固定スクロール2に、その上面側から弁穴2kを形成し、この弁穴2kの底面には弁シール面(弁座)26dを設ける。この弁シール面26dに弁体26aを弁ばね26bで押付ける。前記弁ばね26bは弁キャップ25cで保持される。この弁キャップ26cは、固定背面室120との間をシールする機能も担っている。このように構成された背圧弁26の動作を説明する。背圧弁26の弁体26aには、背圧(背圧室側の圧力)と圧縮室側開口60aが臨む圧縮室側の圧力との差圧が作用し、この差圧による力が弁ばね26bの押付力を越えると、弁体26aは弁シール面26dから離れ、圧縮室連通路60を開く。背圧は、圧縮室側開口60aが臨む圧縮室の圧力よりも弁ばね26bの押付力に対応する値だけ高く設定される。
【0056】
本実施例のスクロール圧縮機は、非対称歯形を採用しているため、圧縮室側開口60aと連通する旋回外線側圧縮室100aと旋回内線側圧縮室100bの圧力レベルはほとんど同一となる。更に、各々の圧縮室100aまたは100bに連通する旋回位相角の範囲も小さくなるため、その圧力変動幅も小さくなる。この結果、背圧弁26によって設定される背圧の変動が小さくなるため、旋回スクロールを固定スクロールへ付勢する力の変動が抑制される。従って、この付勢力の変動に伴って生じる各スクロールの変形の変動が抑制されるため、両スクロール間の隙間の変動が小さくなり、その隙間における油保持性が向上してシール性が向上し、漏れ損失低減を図ることができる。更に、ラップ同士の干渉の抑制による摩擦損失の低減も合わさって、エネルギー効率を向上できる効果が得られる。
【0057】
また、前記バイパス弁22を設けているため、これらの相乗効果によって、スクロール圧縮機に要求される全運転範囲で、旋回スクロールを固定スクロールに付勢できると共に、広い運転条件範囲で付勢力を小さくすることが可能となるから、摺動損失が小さく、エネルギー効率の高いスクロール圧縮機を実現できる効果がある。
【0058】
以上のように、背圧室110から吸込領域105に高温の油を流入させないようにすることで、吸込加熱性能低下を回避できるが、吸込領域105に全く油を供給しないと、圧縮室のシール性が低下し、逆にエネルギー効率の低下を生じる。しかし、前記吸込領域105のうちで閉込み開始前の圧縮室の内部に入れた場合には、シール性を改善できる効果はほとんどない。前記吸込域連通路65を、背圧室110と吸込領域105を接続し且つ給油箇所と給油量を適正化した構成によって、吸込領域105への給油を行うことにより、圧縮室100のシール性を向上させつつ、吸込加熱性能低下もほとんど起こさないスクロール圧縮機を実現できる。
【0059】
これを実現するため、本実施例では、前記吸込域連通路65を図4〜図6に示す構成としている。即ち、前記吸込域連通路65は、旋回鏡板3aを背圧室110側から固定鏡板面2u側に貫通させる小さな径の旋回鏡板給油孔65a(図4,図5参照)と、固定鏡板面2u上に形成され、前記旋回鏡板給油孔65aに連通可能な位置と前記吸込領域105とを接続する固定鏡板給油溝65b(図6)により構成されている。前記吸込域連通路65の吸込領域105側の開口部(前記固定鏡板給油溝65bの吸込領域105側の開口部)である吸込側開口65xは、吸込パイプ50から圧縮室100へ至る作動流体の流動経路内(吸込領域105)に設けられている。
【0060】
前記旋回鏡板給油孔65aの上面側開口部(固定鏡板面側開口部)65a′(図5参照)は、旋回スクロール2の旋回運動に伴い、図6にその軌跡を示した通り、前記固定鏡板給油溝65bと2箇所で重なる。従って、前記吸込域連通路65は、旋回スクロール3が1旋回する間に2回、吸込領域105側に連通する間欠連通路となる。その開口時点は、旋回鏡板給油孔65aの前記軌跡と交差するように形成される前記固定鏡板給油溝65bの形成方向で調整することが可能となる。
【0061】
本実施例では、前記旋回鏡板給油孔65aの軌跡と交差する固定鏡板給油溝65b部分の形成方向を、前記2つの固定巻終りβ,γをつなぐ直線と略平行な向きに設定したため、2つの圧縮室がそれぞれ閉込みを開始する時点でそれぞれ一定の時間、吸込域連通路65を吸込領域105に開口させることができる。よって、最外噛合箇所が生じてシールを必要とする時に油が供給されるため、より少ない油の供給量で最外噛合箇所のシールを行うことが可能となる。
【0062】
また、前記吸込域連通路65から前記吸込領域105に供給する適正油量は、実験から、作動流体流量の1〜5%程度とすることで、エネルギー効率を1%以上向上することが見出されている。背圧室110へ流入する油量は、圧縮機が外部へ送り出す作動流体量の20%からほぼ同等レベルの範囲である。これより、背圧室へ流入する油量が作動流体の20%と最も少なく、かつ、吸込領域連通路65の油量が作動流体量の5%と最も多く必要とする場合でも、背圧室へ流入する油量のうち5/20の割合である25%を吸込域連通路へ流せばよいことになる。この25%は、背圧室へ流入した油量のうちで吸込領域へ給油する油量の割合が考えられるうちで最も高い場合であることから、少なくとも吸込域連通路65から吸込領域に流す油量を、前記圧縮室連通路60から圧縮室側に流す油量よりも少なくすることにより、エネルギー効率をより一層向上できることがわかる。実際には多くの場合、背圧室へ流入する油のうち、1〜10%程度の油を吸込域連通路65へ流すことで最高のエネルギー効率を得ることができる。即ち、本実施例によれば、吸込領域105への流入油量を必要最小限の量まで極力低減することが可能となり、これによって吸込加熱性能低下を抑制しつつ、最外噛合箇所における圧縮室から吸込領域への漏れを抑制できるから、エネルギー効率の高いスクロール圧縮機を実現できる効果がある。
【0063】
なお、旋回鏡板給油孔65aの軌跡と交差する固定鏡板給油溝65b部分の形成方向を、前記2つの固定巻終りβ,γをつなぐ直線と略平行な向きから、時計回り方向に少しずらすことにより、吸込領域105への給油開始時点を圧縮室の閉込み開始時点に対して相対的に早くすることができる。このようにすることにより、噴出する油の速度が小さく、固定鏡板給油溝65bを通過するのに要する時間が長くかかる場合に有効である。また、固定鏡板給油溝65bの深さを深くしたり、幅を大きくする、或いは旋回鏡板給油孔65aの径を大きくするなどの手段により、流量を増加させることもできる。
【0064】
前記吐出穴2fからケーシング8内の吐出領域に吐出された作動流体中の油は、大部分がケーシング8内で分離されて貯油部125へ戻るが、一部は分離せずに、作動流体と共に吐出パイプ55から外部(冷凍サイクル)へ排出される。この外部に排出された油は、冷凍サイクルを循環後、最終的には吸込パイプ50から再びスクロール圧縮機1へ戻るため、吸込域連通路65による給油を補う働きをする。しかし、スクロール圧縮機の外部に油が排出されると、該圧縮機を搭載する冷凍サイクル装置の性能を低下させるため、特に定格条件では圧縮機から外部に排出される油を極力少なくする対策がなされているのが通常である。従って、前記吸込領域105へ必要最小限の給油を可能にする本実施例は、高いエネルギー効率のスクロール圧縮機を得るために、極めて有効である。
【実施例2】
【0065】
次に、本発明のスクロール圧縮機の実施例2を、図7を用いて説明する。この実施例は、前記吸込域連通路内に、外部駆動絞り弁を設け、この外部駆動絞り弁を制御することにより、前記背圧室から前記吸込領域への給油量を調整するように構成したものである。他の構成については上述した実施例1と基本的には同一であるので、重複する説明は省略する。
【0066】
この実施例2を更に詳しく説明する。本実施例における吸込域連通路65′は、スクロール圧縮機1の背圧室110と、吸込パイプ50から圧縮室100へ至る作動流体の流動経路内である吸込領域105の吸込穴2yとを連通するように設けられており、更にこの吸込域連通路65′の途中には、スクロール圧縮機1の外部に設けた制御装置65gにより開度を制御可能な外部駆動絞り弁(流量制御弁)65cが配置されている。
【0067】
前記吸込域連通路65′は、前記絞り弁65cと前記背圧室110とを連通する背圧側吸込域連通穴65d、及び前記絞り弁65cと前記吸込領域105とを連通する吸込側吸込域連通穴65eで構成され、これら連通穴65dと65eとの間に配置された前記絞り弁65cに、本実施例においては、圧縮機1内の状態、例えば吸込圧力Psと吐出圧力Pdをセンシングするセンサを内蔵している。即ち、前記絞り弁65cの前記吸込側吸込域連通穴65e側には吸込圧力Psを検出するための吸込圧力検知センサ(図示せず)が設けられ、更に前記絞り弁65cの固定背面室120に面する部分には吐出圧力Pdを検出するための吐出圧力検知センサ(図示せず)が設けられている。
【0068】
前記絞り弁65cと前記制御装置65gとは伝送路65fにより接続されており、この伝送路65fを介して前記制御装置65gにより前記絞り弁65cを制御したり、制御装置65gから絞り弁65cに駆動電力を供給する。また、絞り弁65cに設けられた前記吸込圧力検知センサや吐出圧力検知センサからの信号も前記伝送路65fを介して制御装置65gに取り込む。
【0069】
前記制御装置65g内には前記絞り弁65cを制御するための制御プログラムが記憶されており、このプログラムにより、例えば圧縮機における圧力比(Pd/Ps)などの状況に応じて、圧力比が大きければ給油量を増加させるように前記絞り弁65cを制御し、圧力比が小さければ前記絞り弁65cの開度を小さくして給油量を減少させるように制御できるため、吸込領域105への細かな給油量調整が可能となり、最外噛合箇所へ必要最小限の給油量を、広い運転条件範囲で実現することが可能となる。このため、最外噛合箇所のシール性を損なわずに、広い運転範囲で、吸込加熱性能低下を極限まで抑制することが可能となるから、広い運転範囲でエネルギー効率の極めて高いスクロール圧縮機を得ることができる効果がある。
【0070】
上述した圧力検知センサは、直接圧力を検出する圧力センサで説明したが、圧力センサは一般に高価であるため、圧力に関連する情報に基づいて、前記吸込圧力Psや吐出圧力Pdを推定するようにしてもよい。例えば、前記吐出圧力検知センサの代わりに圧縮機の吸込温度と吐出温度を検知するセンサを組み込み、それらからのデータと吸込圧力データを組み合わせて、吐出圧力Pdを推定するようにしても良い。また、図7に二点鎖線で示す外部信号線65sによって、スクロール圧縮機1を搭載する冷凍サイクル装置等から、圧力や温度等の圧縮機運転状態を把握できるデータを取得し、これらのデータから圧縮機の吸込圧力Psと吐出圧力Pdを推定しても良い。この場合には、圧縮機内に圧力センサや温度センサを組み込む必要が無くなり、製作コストを更に低減できる効果がある。
【実施例3】
【0071】
本発明のスクロール圧縮機の実施例3を図8〜図10を用いて説明する。図8は本実施例における旋回スクロールの上面図、図9は図8の旋回スクロールの縦断面図で、図8のIX−IX断面図、図10は本実施例における固定スクロールの固定鏡板面における吸込パイプ近傍の拡大図で、図2のQ部に相当する図である。この実施例3において上記実施例1と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示している。
【0072】
この実施例3においては、上記実施例1における旋回鏡板給油孔65aに代えて旋回鏡板給油窪み(凹部)65Aを旋回スクロール3における旋回鏡板3aの前記固定鏡板面2uに対向する位置に設けている。また、固定スクロール2の前記固定鏡板面2u上には、前記旋回鏡板給油窪み65Aに連通可能な位置と前記吸込領域105とを接続する固定鏡板給油溝65Bが円弧状に形成されている。更に、前記固定鏡板面2uには、固定スクロール2に形成されている前記周囲溝2pと連通するように固定鏡板掘込み65Cが設けられている。その他の点については実施例1と同一であるので、重複する説明を省略する。
【0073】
前記旋回鏡板給油窪み65Aは、図10にその軌跡を示す通り、背圧室110に臨む固定スクロール2の周囲溝2pと繋がる固定鏡板掘込み65Cと、固定鏡板給油溝65Bとの間を往復する。このように吸込域連通路65′′を構成することにより、該吸込域連通路65は、旋回スクロール3が1旋回する毎に、旋回鏡板給油窪み65Aに溜まった油を吸込領域105に1回給油することができる間欠給油路とすることができる。
【0074】
従って、本実施例においては、給油量は、前記給油窪み65Aの容積に応じて変わるから、給油量を多くしたい場合には前記給油窪み65Aの容積を大きくし、給油量を少なくしたい場合には、前記給油窪み65Aの容積を小さくすれば良い。前記給油窪み65Aの容積は、当該窪みの深さや径を変えることで所望の容積になるように容易に製作することができ、上記実施例1のように旋回鏡板給油孔65aの細径化や固定鏡板給油溝65bの幅を狭めて絞り量を増大させるように製作することは必要がなくなり、しかも背圧室と吸込領域との差圧が変化しても給油量の変化はない。この結果、極微量の給油量を高精度に設定することが容易に可能となり、製作性が格段に向上する。更に、本実施例によれば、実施例1のように旋回鏡板給油孔65aを細径化したり固定鏡板給油溝65bの幅を狭めるなどの必要がなくなるので、吸込域連通路65′′が目詰まりを起すことも回避でき、信頼性も向上できる。
【0075】
なお、本実施例では、旋回スクロール3が1旋回する間に1回の間欠給油を行うように構成しているので、実施例1のように、圧縮室の閉込みに合わせて給油することができない。このため、固定鏡板給油溝65Bを伸ばして吸込域連通路65′′の流路抵抗を増大させ、油の間欠流を緩和することで給油の平準化を図るようにすることができる。このようにすることにより、旋回ラップ3bの内内周側及び外周側に形成される2つの圧縮室の最外噛合い箇所でのシール性を少量の油で向上できる。
【0076】
また、本実施例のように、旋回スクロールに設けた給油窪み65Aによる間欠的なバケツリレー方式による給油を用いた場合であっても、前記固定鏡板掘込み65Cと旋回鏡板給油窪み65Aとの連通が1旋回中に2回生じるように前記固定鏡板掘込み65Cの形状或いは個数を設定し、その各連通との間に前記固定鏡板給油溝65Bと前記旋回鏡板給油窪み65Bとの連通が生じるように前記固定鏡板給油溝65Bを構成すれば、圧縮室の閉込みに合わせて給油する構成にすることも可能である。なお、旋回鏡板給油窪み65Aを前記固定鏡板給油溝65Bを挟むように半径方向に2個配置し、それぞれの旋回鏡板給油窪み65Aが旋回スクロールの旋回運動に伴ない、別々のタイミングで前記固定鏡板掘込み65Cと前記固定鏡板給油溝65Bに連通させるように構成すれば最外噛合箇所でのシール性を確保しつつ一層給油量を低減することができる。
【0077】
本実施例によれば、吸込領域105に流入させる油の量を、必要最小限に高精度に設定することができるので、吸込加熱性能低下を更に低減できる効果がある。
【実施例4】
【0078】
本発明のスクロール圧縮機の実施例4を図11及び図12を用いて説明する。図11は本実施例における固定スクロールの下面図で、旋回ラップの外線側圧縮室が閉込み開始時の旋回スクロールラップも重ねて表示した図、図12は図11に示した固定スクロールの背圧弁を有する圧縮室連通路の構成を説明する縦断面図で、図11のXII−XII断面図である。この実施例4においても、上記実施例1と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示している。
【0079】
この実施例4は、実施例1における圧縮室連通路60の圧縮室側開口60aを、固定ラップ2bの歯底中央よりも半径方向外側とし、且つ前述した極座標で290度の位置に設置している点で実施例1とは相違するものであり、その他の点については実施例1と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0080】
前記圧縮室側開口60aを固定ラップ2bの歯底中央よりも半径方向外側とした場合、極座標で270度の位置では、図2の(B)図に示すクロスハッチングの部分から明らかなように、旋回外線側圧縮室100aが閉込み開始前の吸込領域と連通してしまう。これを回避するため、本実施例では前記圧縮室側開口60aを、極座標で290度の位置(図2の(B)図に示すクロスハッチングの部分)へ移動させたものである。このように構成することにより、実施例1と同様の効果が得られると共に、圧縮室連通路60による圧縮室100への給油において、旋回外線側圧縮室100aへの給油量を、旋回内線側圧縮室100bへの給油量よりも多くすることができる。
【0081】
なお、本実施例では前記圧縮室側開口60aの設置位置を極座標で290度の位置としたが、これは290度に限るものではなく、270度より大きい位置で閉込み開始後の圧縮室にのみ連通する位置であれば良い。
【0082】
本実施例では非対称歯形のスクロール圧縮機で構成しているため、旋回外線側圧縮室100aは、その周囲に配置される旋回内線側圧縮室100bよりも圧力が高い場合が多く、ラップの歯先と歯底の間の隙間における漏れ流れの上流側になることが多い。本実施例では、このようにラップの歯先と歯底の間の隙間における漏れ流れの上流側になることが多い旋回外線側圧縮室100aへの給油量を多くしているので、ラップの歯先と歯底の間の隙間における漏れ流れによって、ラップの歯先と歯底の隙間に油を多量に供給でき、その部分のシール性を向上できる。従って、漏れをより減少させることができ、エネルギー効率を更に向上できる効果がある。
【0083】
なお、ラップ厚さが非常に大きい、或いはラップの歯先と歯底間の隙間が非常に小さく、ラップの歯先と歯底間の漏れが極端に少なくなるような場合には、前記圧縮室側開口60aを固定歯底中央よりもラップ内周側へ移動させるようにすると良い。このように構成することにより、旋回内線側圧縮室100bへの給油量をより多くできるので、油に溶解する作動流体で旋回内線側圧縮室100bの圧力をより高めることができる。このため、ラップ形状からくる旋回内線側圧縮室100bの容積比の低下を補って、旋回内線側圧縮室100bの圧力比を高めることが可能となる。この結果、旋回内線側圧縮室100bの圧力比を旋回外線側圧縮室100aの圧力比に近づけることができ、作動流体を吐出口2fから吐出する際の両圧縮室の圧力差を小さくできるから、吐出する作動流体の圧力脈動を抑制できる効果がある。
【0084】
以上述べたように、本発明の上記各実施例によれば、圧縮室連通路に加え、吸込域連通路を設けたため、吸込領域と圧縮室のシール部である最外噛合箇所に給油を行うことができ、圧縮室から吸込領域への漏れを抑制して、エネルギー効率の高いスクロール圧縮機を得ることができる。
【0085】
また、前記圧縮室連通路は、閉込み開始後の圧縮室にだけ連通させ、領域吸込領域への給油については前記吸込域連通路だけで行う構成としているため、背圧室からの高温の油を吸込領域に必要最小限の量だけ流すことが可能となり、これにより吸込加熱性能低下を抑制できる。
【0086】
このように、本実施例によれば、固定スクロールと旋回スクロールとの最外噛合箇所でのシール性の低下を防止することができると共に、吸込領域での作動流体の加熱も抑制できるから、エネルギー効率の高いスクロール圧縮機を得ることができる効果がある。
【符号の説明】
【0087】
1:スクロール圧縮機、
2:固定スクロール、2a:固定鏡板、2b:固定スクロールラップ(固定ラップ)、
2d:鏡板外辺部、2e:バイパス穴、2f:吐出穴、2k:弁穴、2p:周囲溝、
2p1:凹み部、2u:固定鏡板面、2y:吸込穴、
3:旋回スクロール、3a:旋回鏡板、3b:旋回スクロールラップ(旋回ラップ)、
4:フレーム、5:オルダムリング、6:クランク軸、6a:偏心ピン部、
6b:給油穴、6x:給油パイプ
7:モータ(7a:ロータ、7b:ステータ)、
8:ケーシング(8a:円筒ケーシング、8b:上ケーシング、8c:底ケーシング))、
22:バイパス弁、23:旋回軸受、24:主軸受、25:副軸受、
26:背圧弁、26a:弁体、26b:弁ばね、26c:弁キャップ、
26d:弁シール面(弁座)
35:下フレーム、50:吸込パイプ、55:吐出パイプ、
60:圧縮室連通路、60a:圧縮室側開口、60b:背圧室側開口、61:封止部、
65,65′,65′′:吸込域連通路、65a:旋回鏡板給油孔、
65a′:上面側開口部(固定鏡板面側開口部)、65b:固定鏡板給油溝、
65c:外部駆動絞り弁(流量制御弁)、65d:背圧側吸込域連通穴、
65e:吸込側吸込域連通穴、65f:伝送路、65g:制御装置、
65s:外部信号線、65x:吸込側開口、
65A:旋回鏡板給油窪み、65B:固定鏡板給油溝、65C:固定鏡板掘込み、
70:逆止弁、71:外周溝、
100:圧縮室、100a:旋回外線側圧縮室、100b:旋回内線側圧縮室、
105:吸込領域(吸込室)、110:背圧室、115:旋回軸受室、
120:固定背面室、125:貯油部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡板とそれに立設されたスクロールラップを有する固定スクロールと、
鏡板とそれに立設されたスクロールラップを有し、前記固定スクロールと噛み合わされて旋回運動を行うことによって前記固定スクロールとの間に圧縮室を形成する旋回スクロールと、
前記旋回スクロールに前記固定スクロールへの引付力を与える背圧室と、
前記背圧室に圧縮機吐出側の油を導入する給油路と
を有するスクロール圧縮機において、
前記背圧室と閉込み開始後の前記圧縮室とのみ連通されると共に前後の差圧で開閉する背圧弁を備え、背圧室の油を圧縮室へ流出させて前記背圧室の圧力を制御する圧縮室連通路と、
前記背圧室と、閉込み開始後の前記圧縮室へ至る吸込領域とのみ連通し、閉込み開始後の前記圧縮室には連通しないように構成され、前記背圧室の油を前記吸込領域へ供給する吸込域連通路と
を備えていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載のスクロール圧縮機において、前記吸込域連通路は背圧室の油を前記吸込領域に間欠的に供給する間欠給油手段で構成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項2に記載のスクロール圧縮機において、少なくとも定格運転条件下では、前記圧縮室連通路から圧縮室に供給される油量を、前記吸込域連通路から吸込領域に供給される油量よりも多くなるように構成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項3に記載のスクロール圧縮機において、前記固定スクロールと前記旋回スクロールとは、前記旋回スクロールのスクロールラップ(旋回ラップ)巻終り両側面を前記固定スクロールのスクロールラップ(固定ラップ)との噛合いに用いる非対称歯形に構成し、前記圧縮室連通路の圧縮室側開口は、前記固定ラップの溝底の幅方向の略中央で且つ固定ラップの巻終りから固定ラップの歯底に沿って中央側(巻始め側)に270度以上入った位置に設けられていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項4に記載のスクロール圧縮機において、前記圧縮室側開口の口径を前記旋回ラップの厚さより小さく形成していることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項5に記載のスクロール圧縮機において、前記間欠給油手段で構成され前記吸込域連通路は、前記旋回スクロールの鏡板(旋回鏡板)を、前記背圧室側から前記固定スクロールの鏡板(固定鏡板)の鏡板面(固定鏡板面)側に貫通させる旋回鏡板給油孔と、前記固定鏡板面上に形成され、前記旋回鏡板給油孔に連通可能な位置と前記吸込領域とを接続する固定鏡板給油溝により構成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項7】
請求項6に記載のスクロール圧縮機において、前記旋回鏡板給油孔の固定鏡板面側開口部は、旋回スクロール2の旋回運動に伴い前記固定鏡板給油溝と2箇所で重なるようにし、それによって前記吸込域連通路は、旋回スクロールが1旋回する間に2回、前記吸込領域側に連通する間欠連通路となるように構成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項8】
請求項7に記載のスクロール圧縮機において、前記旋回鏡板給油孔の軌跡と交差する前記固定鏡板給油溝部分の形成方向を、前記固定ラップの内線側固定巻終りβと外線側固定巻終りγをつなぐ直線と略平行な向き、或いは前記略平行な向きから時計回りにずらした方向にすることにより、前記吸込領域への給油開始時点を圧縮室の閉込み開始時点または前記閉込み開始時点に対して相対的に早くなるように構成したことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項9】
請求項1に記載のスクロール圧縮機において、前記吸込域連通路は、該吸込域連通路内に絞り弁を設け、この絞り弁により前記背圧室から前記吸込領域への給油量を調整するように構成したことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項10】
請求項9に記載のスクロール圧縮機において、前記吸込域連通路は、前記絞り弁と前記背圧室とを連通する背圧側吸込域連通穴、及び前記絞り弁と前記吸込領域とを連通する吸込側吸込域連通穴で構成され、これら連通穴の間に前記絞り弁が配置されると共に、この絞り弁は前記圧縮機の吸込圧力Psと吐出圧力Pdに関連する情報に基づいて制御されることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項11】
請求項10に記載のスクロール圧縮機において、前記吸込圧力Psと吐出圧力Pdに関連する情報に基づいて圧力比を算出し、この圧力比が大きければ給油量を増加させるように前記絞り弁を制御し、前記圧力比が小さければ前記絞り弁の開度を小さくして給油量を減少させるように制御することを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項12】
請求項6に記載のスクロール圧縮機において、前記旋回鏡板給油孔に代えて旋回鏡板給油窪み(凹部)を前記旋回スクロールにおける旋回鏡板の固定鏡板面に対向する位置に設け、前記固定スクロールの固定鏡板面上に設けられた前記固定鏡板給油溝は、前記旋回鏡板給油窪みに連通可能な位置と前記吸込領域とを接続するように形成し、更に、前記背圧室と連通するように前記固定鏡板面には固定鏡板掘込みが設けられ、前記旋回鏡板給油窪みは、旋回スクロールの旋回動作に伴って、前記固定鏡板掘込みと前記固定鏡板給油溝との間を往復するように構成したことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項13】
請求項12に記載のスクロール圧縮機において、前記固定鏡板掘込みと旋回鏡板給油窪みとの連通が旋回スクロールの1旋回中に2回生じるように前記固定鏡板掘込みの形状或いは個数を設定し、その各連通との間に前記固定鏡板給油溝と前記旋回鏡板給油窪みとの連通が生じるように前記固定鏡板給油溝を構成し、圧縮室の閉込み開始に合わせて前記吸込領域に給油する構成にしたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項14】
請求項12に記載のスクロール圧縮機において、前記旋回鏡板給油窪みを前記固定鏡板給油溝を挟むように半径方向に2個配置し、それぞれの旋回鏡板給油窪みが旋回スクロールの旋回運動に伴ない、別々のタイミングで前記固定鏡板掘込みと前記固定鏡板給油溝に連通させるように構成し、圧縮室の閉込み開始に合わせて前記吸込領域に給油する構成にしたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項15】
請求項3に記載のスクロール圧縮機において、前記固定スクロールと前記旋回スクロールとは、前記旋回スクロールのスクロールラップ(旋回ラップ)巻終り両側面を前記固定スクロールのスクロールラップ(固定ラップ)との噛合いに用いる非対称歯形に構成し、前記圧縮室連通路の圧縮室側開口は、前記固定ラップの歯底の幅方向中央よりも半径方向外側に設けられ、更にこの圧縮室側開口は、固定ラップの巻終りから固定ラップの歯底に沿って中央側(巻始め側)に270度より大きく入った位置で且つ閉込み開始後の圧縮室にのみ連通する位置に設置されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項1】
鏡板とそれに立設されたスクロールラップを有する固定スクロールと、
鏡板とそれに立設されたスクロールラップを有し、前記固定スクロールと噛み合わされて旋回運動を行うことによって前記固定スクロールとの間に圧縮室を形成する旋回スクロールと、
前記旋回スクロールに前記固定スクロールへの引付力を与える背圧室と、
前記背圧室に圧縮機吐出側の油を導入する給油路と
を有するスクロール圧縮機において、
前記背圧室と閉込み開始後の前記圧縮室とのみ連通されると共に前後の差圧で開閉する背圧弁を備え、背圧室の油を圧縮室へ流出させて前記背圧室の圧力を制御する圧縮室連通路と、
前記背圧室と、閉込み開始後の前記圧縮室へ至る吸込領域とのみ連通し、閉込み開始後の前記圧縮室には連通しないように構成され、前記背圧室の油を前記吸込領域へ供給する吸込域連通路と
を備えていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載のスクロール圧縮機において、前記吸込域連通路は背圧室の油を前記吸込領域に間欠的に供給する間欠給油手段で構成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項2に記載のスクロール圧縮機において、少なくとも定格運転条件下では、前記圧縮室連通路から圧縮室に供給される油量を、前記吸込域連通路から吸込領域に供給される油量よりも多くなるように構成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項3に記載のスクロール圧縮機において、前記固定スクロールと前記旋回スクロールとは、前記旋回スクロールのスクロールラップ(旋回ラップ)巻終り両側面を前記固定スクロールのスクロールラップ(固定ラップ)との噛合いに用いる非対称歯形に構成し、前記圧縮室連通路の圧縮室側開口は、前記固定ラップの溝底の幅方向の略中央で且つ固定ラップの巻終りから固定ラップの歯底に沿って中央側(巻始め側)に270度以上入った位置に設けられていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項4に記載のスクロール圧縮機において、前記圧縮室側開口の口径を前記旋回ラップの厚さより小さく形成していることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項5に記載のスクロール圧縮機において、前記間欠給油手段で構成され前記吸込域連通路は、前記旋回スクロールの鏡板(旋回鏡板)を、前記背圧室側から前記固定スクロールの鏡板(固定鏡板)の鏡板面(固定鏡板面)側に貫通させる旋回鏡板給油孔と、前記固定鏡板面上に形成され、前記旋回鏡板給油孔に連通可能な位置と前記吸込領域とを接続する固定鏡板給油溝により構成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項7】
請求項6に記載のスクロール圧縮機において、前記旋回鏡板給油孔の固定鏡板面側開口部は、旋回スクロール2の旋回運動に伴い前記固定鏡板給油溝と2箇所で重なるようにし、それによって前記吸込域連通路は、旋回スクロールが1旋回する間に2回、前記吸込領域側に連通する間欠連通路となるように構成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項8】
請求項7に記載のスクロール圧縮機において、前記旋回鏡板給油孔の軌跡と交差する前記固定鏡板給油溝部分の形成方向を、前記固定ラップの内線側固定巻終りβと外線側固定巻終りγをつなぐ直線と略平行な向き、或いは前記略平行な向きから時計回りにずらした方向にすることにより、前記吸込領域への給油開始時点を圧縮室の閉込み開始時点または前記閉込み開始時点に対して相対的に早くなるように構成したことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項9】
請求項1に記載のスクロール圧縮機において、前記吸込域連通路は、該吸込域連通路内に絞り弁を設け、この絞り弁により前記背圧室から前記吸込領域への給油量を調整するように構成したことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項10】
請求項9に記載のスクロール圧縮機において、前記吸込域連通路は、前記絞り弁と前記背圧室とを連通する背圧側吸込域連通穴、及び前記絞り弁と前記吸込領域とを連通する吸込側吸込域連通穴で構成され、これら連通穴の間に前記絞り弁が配置されると共に、この絞り弁は前記圧縮機の吸込圧力Psと吐出圧力Pdに関連する情報に基づいて制御されることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項11】
請求項10に記載のスクロール圧縮機において、前記吸込圧力Psと吐出圧力Pdに関連する情報に基づいて圧力比を算出し、この圧力比が大きければ給油量を増加させるように前記絞り弁を制御し、前記圧力比が小さければ前記絞り弁の開度を小さくして給油量を減少させるように制御することを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項12】
請求項6に記載のスクロール圧縮機において、前記旋回鏡板給油孔に代えて旋回鏡板給油窪み(凹部)を前記旋回スクロールにおける旋回鏡板の固定鏡板面に対向する位置に設け、前記固定スクロールの固定鏡板面上に設けられた前記固定鏡板給油溝は、前記旋回鏡板給油窪みに連通可能な位置と前記吸込領域とを接続するように形成し、更に、前記背圧室と連通するように前記固定鏡板面には固定鏡板掘込みが設けられ、前記旋回鏡板給油窪みは、旋回スクロールの旋回動作に伴って、前記固定鏡板掘込みと前記固定鏡板給油溝との間を往復するように構成したことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項13】
請求項12に記載のスクロール圧縮機において、前記固定鏡板掘込みと旋回鏡板給油窪みとの連通が旋回スクロールの1旋回中に2回生じるように前記固定鏡板掘込みの形状或いは個数を設定し、その各連通との間に前記固定鏡板給油溝と前記旋回鏡板給油窪みとの連通が生じるように前記固定鏡板給油溝を構成し、圧縮室の閉込み開始に合わせて前記吸込領域に給油する構成にしたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項14】
請求項12に記載のスクロール圧縮機において、前記旋回鏡板給油窪みを前記固定鏡板給油溝を挟むように半径方向に2個配置し、それぞれの旋回鏡板給油窪みが旋回スクロールの旋回運動に伴ない、別々のタイミングで前記固定鏡板掘込みと前記固定鏡板給油溝に連通させるように構成し、圧縮室の閉込み開始に合わせて前記吸込領域に給油する構成にしたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項15】
請求項3に記載のスクロール圧縮機において、前記固定スクロールと前記旋回スクロールとは、前記旋回スクロールのスクロールラップ(旋回ラップ)巻終り両側面を前記固定スクロールのスクロールラップ(固定ラップ)との噛合いに用いる非対称歯形に構成し、前記圧縮室連通路の圧縮室側開口は、前記固定ラップの歯底の幅方向中央よりも半径方向外側に設けられ、更にこの圧縮室側開口は、固定ラップの巻終りから固定ラップの歯底に沿って中央側(巻始め側)に270度より大きく入った位置で且つ閉込み開始後の圧縮室にのみ連通する位置に設置されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−92773(P2012−92773A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242175(P2010−242175)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]