スタビライザー装置
【課題】スタビライザー装置において、寸法の制約が厳しくても、十分なズレ止めの機能を得ることができるブッシュのバーへの固定構造を得る。
【解決手段】スタビライザー装置1を構成するバー100を車体に取り付ける部分10aにおいて、バー100にダイレクトインジェクション法により、樹脂リング40を一体形成し、その外側にゴム製のブッシュ30を装着し、ブラケット20によって、車体側の部材50にブッシュ30を固定する。ブッシュ30の軸方向の長さの分、樹脂リング40とバー100との接触面積を確保できるので、寸法の制約があってもブッシュ30の軸方向におけるズレ強度を高くできる。
【解決手段】スタビライザー装置1を構成するバー100を車体に取り付ける部分10aにおいて、バー100にダイレクトインジェクション法により、樹脂リング40を一体形成し、その外側にゴム製のブッシュ30を装着し、ブラケット20によって、車体側の部材50にブッシュ30を固定する。ブッシュ30の軸方向の長さの分、樹脂リング40とバー100との接触面積を確保できるので、寸法の制約があってもブッシュ30の軸方向におけるズレ強度を高くできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるスタビライザー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スタビライザー装置は、カーブ走行等において車両が傾き、左右のサスペンション機構に上下逆位相の入力があった時に、左右のアーム部が互いに逆方向に撓むとともにトーション部がねじられることで、車体の横揺れ(ロール角)を抑制する力を発生する。スタビライザー装置を構成するバーは、ゴム製のブッシュを介して、車体側に固定されている。このスタビライザー装置を車体に固定する構造に関しては、例えば特許文献1や2に記載されたものが知られている。
【特許文献1】特開2001−163026号公報
【特許文献2】特開2001−165127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
スタビライザー装置では、コーナリング時に遠心力が作用し、バーに対してブッシュを軸方向においてずらそうとする力が加わる。バーに対してブッシュがずれると、スタビライザー装置の効果が、左右で均等にならず、また初期の効果が得られなくなる。このズレを抑える方法として、ブッシュに隣接してズレ止めの部材を配置する構造が考えられる。しかしながら、この構造では、ズレ止めの部材を設置する寸法を確保しなくてはならず、寸法の制約が厳しい場合、ズレ止めの部材のバーに接触する面積を十分な摩擦力が働く程度に確保することができない。
【0004】
本発明は、スタビライザー装置において、寸法の制約が厳しくても、十分なズレ止めの機能を得ることができるブッシュのバーへの固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、トーション部と前記トーション部の両端部から伸びるアーム部とを備えたバーと、前記トーション部に固定された筒状の樹脂部材と、前記筒状の樹脂部材の外側に固定されたブッシュとを備え、前記筒状の樹脂部材の軸方向における長さが、前記ブッシュの前記軸方向における長さ以上であることを特徴とするスタビライザー装置である。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、ブッシュとバーとの間に筒状の樹脂材料が介在し、この樹脂材料がブッシュのバーに対する軸方向へのズレを防止する部材として機能する。筒状の樹脂材料は、ブッシュと同軸状に配置されるため、ブッシュが占有する寸法を利用してバーと筒状の樹脂材料との間の接触面積を確保できる。このため、両者間の摩擦抵抗によるズレ強度(ズレようとする力に耐える強度)を確保できる。
【0007】
なお、筒状というのは、中空形状で1次元方向に延在(その長さは問わない)している形状のことをいう。軸方向に垂直な空洞の断面形状は、円形、楕円形、多角形状のいずれであってもよい。また、軸方向に垂直な断面の外形は、例えば馬蹄形や多角形状とされる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、筒状の樹脂部材の一端または両端には、ブッシュの軸方向への移動を妨げるフランジ部が設けられていることを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、フランジ部がブッシュの端面に接触し、ブッシュの軸方向への移動を抑える部材として機能する。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、筒状の樹脂部材の外周表面は、凹凸構造を有していることを特徴とする。請求項3に記載の発明によれば、筒状の樹脂部材の外周表面の凹凸構造にブッシュの内周表面が噛み合い、アンカー効果が発揮されて、ブッシュのズレ止め強度が高くなる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、ブッシュの内周表面は、筒状の樹脂材料の外側表面に設けられた凹凸構造と噛み合う形状を有していることを特徴とする。請求項4に記載の発明によれば、ブッシュ側の凹凸構造と筒状の樹脂材料側の凹凸構造とが噛み合い、より高いアンカー効果を得ることができる。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明において、筒状の樹脂部材が一体成型により形成されていることを特徴とする。請求項5に記載の発明によれば、筒状の樹脂部材を分割や半割の構造としないので、それ自体の強度を高くできる。また、バーへの密着性を確保できるので、バーに対するズレ止めの強度(ズレ強度)を分割や半割の構造を採用する場合に比較して高くできる。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発明において、トーション部の筒状の樹脂部材が固定された部分の表面には、凹凸構造が付与されていることを特徴とする。請求項6に記載の発明によれば、バーと筒状の樹脂材料との密着性が向上し、バーに対する筒状の樹脂部材のズレ強度が高まり、それによりバーに対するブッシュのズレ強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スタビライザー装置において、寸法の制約が厳しくても、十分なズレ止めの機能を得ることができるブッシュのバーへの固定構造を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(スタビライザー装置)
以下、本発明を利用したスタビライザー装置の一例を説明する。図1は、スタビライザー装置およびその周辺の構造を示す模式図である。図1には、車両の前車輪側にスタビライザー装置1を取り付けた状態が示されている。スタビライザー装置1は、略コの字形状に屈曲したバー100を備えている。バー100の一端には、棒状の部材であるスタビリンク11が取り付けられ、スタビリンク11の他端は、可動継ぎ手12を介して、サスペンション装置3のアーム13に固定されている。アーム13の下端は、タイヤ2の軸を支持する軸受に固定され、アーム13の上端は、アーム13に対して相対的に、且つ、弾性的に変位可能なシリンダ14に接続されている。シリンダ14は、サスペンション装置3の一部であり、シリンダ14に図示省略した車体の重量が加わる構造とされている。
【0015】
図示省略されているが、アーム13とシリンダ14とは、コイルバネを介して結合しており、両者間の弾性的な連結機構が実現されている。また、図示されていないが、バー100の他端側もスペンション5に接続され、またサスペンション5は、タイヤ4に加わる車体の重量を支えている。また、バー100は、ブッシュ30および31を介して、図示省略した車体側に取り付けられている。
【0016】
図2は、図1に示すスタビライザー装置1を下方から見た(Z軸正方向に向かって見た)状態を示す下面図である。図2には、車体に取り付けられた状態のスタビライザー装置1が示されている。スタビライザー装置1は、金属中空パイプまたは中実金属パイプをプレス加工することで成型されたバー100を備えている。バー100は、トーション部110と、トーション部110の両端部から伸びるアーム部120aおよび120bを備えている。
【0017】
トーション部110は、捻れが主に発生する部分であり、その両端近くの符号10aと10bの2箇所において、車体側の部材50にブッシュ30、31を利用して固定されている。アーム部120aと120bの端部は、それぞれ扁平部121および122を備えている。扁平部121および122のそれぞれには、スタビリンク(例えば図1の符号11)を取り付けるための取り付け孔122aおよび122bが設けられている。
【0018】
(ブッシュを介した取り付け部分の構造)
図3(A)は、図2における符号10aの部分をY軸正方向に向かって見た場合の拡大図であり、(B)は、(A)に示す部分をトーション部110の軸方向に沿って縦割りにした断面図である。また、図4は、図2の符号10aの部分をトーション部110の軸方向から見た断面図である。なお、符号10aと10bの部分は、同じ構造であるので、以下、符号10aの部分を中心に説明する。
【0019】
符号10aの部分には、円筒状の樹脂リング40が、バー100のトーション部110の外周面上に形成されている。樹脂リング40は、ダイレクトインジェクション法により、一体成形されている。樹脂リング40は、ポリフェニレンサルファイドにより構成されており、ズレ止め部材して機能する筒状の樹脂部材の一例である。樹脂リング40の材質としては、ポリエーテルエーテルケトン等の樹脂材料を利用することもできる。樹脂リング40の厚みは、インジェクション形成時の樹脂の流動性を確保する観点から、1.0mm以上とすることが望ましい。厚みの上限は特に限定されないが、10mm程度とするのが適当である。なお、ダイレクトインジェクション法については後述する。樹脂リング40の下地(接触するトーション部110の表面)は、ショットピーニング処理による粗面化処理が施され、樹脂材料への食い付き(密着性)が高められている。
【0020】
図3に示すように、樹脂リング40の軸方向両端には、フランジ40aおよび40bが形成されている。このフランジ40aおよび40bは、ブッシュ30の軸方向へのズレを抑える機能を有している。
【0021】
樹脂リング40のフランジ40aおよび40bの間における外周には、ゴム製のブッシュ30が装着されている。ブッシュ30は、軸方向から見て、中央に円柱形状の空洞が形成された馬蹄形(図の場合、逆U字形状)を有し、図4の破線30aの部分に割りが入れられた構造とされている。ブッシュ30は、破線30aの部分を開いた状態で樹脂リング40に被せ、上記空洞の部分に樹脂リング40が収まるようにすることで、図示する状態に取り付けられる。ブッシュ30は、強度が確保できる弾性部材を利用することができ、ゴム以外に例えばウレタンを用いることができる。
【0022】
図3(A)および図4に示すように、ブッシュ30には、下方から金属製のブラケット20が被せられ、ブラケット20は、ボルト201により、車体側の部材50(車体側のフレーム部分等)に固定されている。
【0023】
より詳細にいうと、図5に示すようにブラケット20は、取り付け面21aおよび21bを備え、そのそれぞれには、ボルト孔22aおよび22bが形成されている。これらボルト孔22aおよび22bを利用して、ボルト201により、間にブッシュ30を挟んだ状態で、ブラケット20が車体側の部材50に固定されている。換言すると、ブッシュ30が、ブラケット20により車体側の部材50に押し付けられた状態で固定されている。
【0024】
また、ブラケット20の軸方向両端には、フランジ20aおよび20bが設けられている。このフランジ20aおよび20bは、ブラケットの強度を確保する機能を有している。ブラケット20の寸法は、その軸方向の寸法が、ブッシュ30の軸方向の寸法よりも小さく設定され、またボルト201を締め付けた際に、図3に示すように、ブッシュ30にブラケット20が食い込み、ブラケット20の前後からブッシュ30が外側にはみ出す寸法とされている。
【0025】
以上述べた構造により、ゴム製のブッシュ30を介して、トーション部110が車体側の部材50(すなわち車体)に取り付けられている。ここでは、図2の符号10aの部分の構造を詳細に説明したが、符号10bの部分も同様な構造とされている。すなわち、符号10bの部分において、トーション部110には、樹脂リング41が一体成型により装着され、その外側にブッシュ31が取り付けられている。そして、ブッシュ31は、ブラケット24により、車体側の部材50に押し付けられた状態で固定されている。なお、図1および図2では、ブッシュの数が2つの場合が示されているが、ブッシュの数が3つ以上であってもよい。
【0026】
(スタビライザー装置の製造方法)
次に、スタビライザー装置1の製造方法について図面を参照して説明する。図6は、射出成形装置を示す概念図である。図6(a)は、トーション部の軸方向に直行する方向に切断した射出成形装置の断面構造であり、図6(b)は、トーション部の軸方向で切断した射出成形装置の断面構造である。図7は、射出成形装置の概要を示す斜視図である。図8は、スタビライザー装置の製造方法の一部を示すフローチャートである。
【0027】
まず、樹脂リングをダイレクトインジェクションにより一体成型する装置について説明する。図6および図7には、樹脂をダイレクトインジェクションするための射出成形装置800が示されている。射出成形装置800は、金型810、射出機840および昇降機構850を備えている。金型810は、下型811と、上型812とを有している。下型811には、ゲート811aが設けられている。下型811および上型812には、樹脂リング40(図2、図4参照)を形成するためのキャビティ820と、樹脂リング41(図2参照)を形成するためのキャビティ821、トーション部110(図2参照)を支持するためのグリップ部830を備えている。なお、図7には、キャビティ820と820の下半分が示されている。
【0028】
図6に示す射出機840は、樹脂を金型のキャビティ820に注入するための装置である。図6には、キャビティ820の部分が示されているが、キャビティ821においても構成は同じである。昇降機構850は、金型810の四隅に設けられている。昇降機構850は、上型812を矢印A方向に昇降させる。昇降機構850により上型812が矢印A方向に上昇すると、下型811から上型812が離間する。また、昇降機構850により上型812が矢印A方向に下降すると、下型811と上型812とが接触する。下型811と上型812とが接触すると、キャビティ820と821が形成される。
【0029】
スタビライザー装置1を製造するには、まず所定の長さに切断された電縫管などの棒材を冷間加工により、略コ字状に成形する成形工程を行い(S801)、スタビライザー半製品を作製する。次に、このスタビライザー半製品に焼入れ・焼戻しなどの熱処理を実施する熱処理工程を行う(S802)。その後、スタビライザー半製品に多数の剛球を投射するショットピーニングを行い、トーション部110表面のバリなどを除去するとともに、スタビライザー半製品のトーション部110に凹凸処理(粗面化処理)を施す(S803)。
【0030】
次に、以上のような処理が施されたスタビライザー半製品を射出成形装置800にセットし、ダイレクトインジェクションにより樹脂リング40および41を一体成形する射出成形工程を行う(S804)。
【0031】
射出成形工程では、まず、スタビライザー半製品を金型810のグリップ部830に位置合わせを行った状態でセットする。次いで、昇降機構850により上型812を矢印A方向に下降させて下型811に接触させ、キャビティ820および821を形成する。次いで、射出機840を矢印B方向に移動させ、射出機840の先端を下型811のゲート811aに挿入して、樹脂をゲート811aからキャビティ820に注入する。この際、キャビティ821にも同様に樹脂を注入する。これにより、スタビライザー半製品に樹脂リング40と41(図2参照)が直接一体成型される。
【0032】
その後、スタビライザー半製品および樹脂リング40、41を塗装する塗装工程を行う(ステップS805)。そして、ブッシュ30および31を装着することで、図2に示すスタビライザー装置1が得られる。なお、ブッシュ30および31は、車両に取り付ける段階で装着してもよい。
【0033】
この製造工程において、スタビライザー半製品とグリップ部830との隙間は、0.6mm以下とする。こうすることで、キャビティ820および821に注入された樹脂がグリップ部830に流入せず、バリが発生しない。バリの発生を抑えることで、バリを除去する工程を省くことができ製造コストを抑えることができる。
【0034】
塗装は、樹脂リングの形成前に行ってもよい。また、上記の例示では、樹脂リング40と41を同時に形成しているが、片方ずつ形成してもよい。凹凸付与のための粗面化は、ショットピーニングによる方法以外に、研磨による方法で行ってもよい。
【0035】
(スタビライザー装置の取り付け構造)
バー100は、図2の符号10a、10bの部分において車体に取り付けられ、扁平部121a、122bの部分が、スタビリンクを介して左右のサスペンションに取り付けられる。すなわち、符号10aおよび10bの部分では、ブッシュ30および31に下方からブラケット20および24が被せられ、ボルト201および203を利用して、ブラケット20および24が車体側の部材50に固定される。この構造では、ブラケット20および24によって、ブッシュ30および31が、樹脂リング40および41のそれぞれに押し付けられて固定される。こうして、ブッシュ30および31を介して、バー100が車体に固定される。
【0036】
(スタビライザー装置の機能)
車両が、コーナリングを行うと、車体には、遠心力によりコーナー外側に傾く力が働く。この際、コーナー外側のサスペンションに加わる負荷は増大し、コーナー内側のサスペンションに加わる負荷は減少する。そのため、コーナー外側のサスペンションがより大きく変位する。この結果、左右のサスペンションのそれぞれに左右の端部がスタビリンクを介して接続されたスタビライザー装置のバー100(図2参照)のトーション部110が捻れる。このトーション部110に発生する捻れを元に戻そうとする反発力により、上記左右のサスペンションに生じる変位の差を抑えようとする力が働く。これにより、車両のコーナリング時におけるロール角を抑制する機能が働く。またこの際、ゴム製のブッシュ30および31が、自身の弾性により弾性的に歪み、上記のロール角抑制効果の調整、およびトーション部110が効果的に捻れるようにする機能が働く。
【0037】
(優位性)
図2に示すように、スタビライザー装置1を構成するバー100は、符号10aおよび10bの2箇所の部分で車体に取り付けられている。上述したコーナリングの際、遠心力により、符号10aおよび10bの部分において、ブッシュ30および31がバー100に対して、軸方向にずれようとする力が働く。
【0038】
この例では、樹脂リング40および41が、ダイレクトインジェクション法によって、バー100に対して一体に固着した状態で形成されている。このため、割構造や分割構造を採用した場合に比較して、樹脂リング40および41のバー100に対する固着力が優れている。また、ブッシュ30および31の軸方向の長さを利用して、樹脂リング40および41のバー100への接触面積が確保されているので、樹脂リング40および41のバー100に対する摩擦力を十分に確保できる。
【0039】
また、図3に示すように、樹脂リング40の両端の縁には、ブッシュ30の端部を押さえるフランジ40aおよび40bが設けられているので、樹脂リング40に対するブッシュ30の軸方向へのズレが抑えられる。また、樹脂リング40と接触しているバー100の表面には、ショットピーニングにより、粗面化処理が施されている。このため、アンカー効果により、樹脂材料のバー100表面への食い付き性が向上し、樹脂リング40のバー100に対するズレ強度がより高くなる効果も得られる。このフランジと粗面化処理の効果は、樹脂リング41においても同じである。
【0040】
これらの理由により、樹脂リング40および41を配置するのに必要なスペースが小さくても、ブッシュ30および31を軸方向でずらそうとする力に対する強度(ズレ強度)を高く確保できる。
【0041】
(変形例1)
図2および図3に示す例では、樹脂リングの両側にフランジが設けられているが、このフランジが一方の端部だけに設けられている構造も可能である。例えば、図2に示す構造において、符号10aの部分に配置される樹脂リング40の左側の端部にフランジを設け、右側にフランジを設けない構造とし、符号10bの部分に配置される樹脂リング41の右側の端部にフランジを設け、左側にフランジを設けない構造としてもよい。また例えば、図2に示す構造において、符号10aの部分に配置される樹脂リング40の右側の端部にフランジを設け、左側にフランジを設けない構造とし、符号10bの部分に配置される樹脂リング41の左側の端部にフランジを設け、右側にフランジを設けない構造としてもよい。
【0042】
ブッシュ30および31を軸方向にずらそうとする力は、両ブッシュに対して同方向に加わるので、いずれかの方向にズレの力が働いた際に、フランジに力が加わるように、2つの樹脂リングにおいて、フランジを設ける位置を正面(車両の前方)から見て、左右を入れ違えた位置とする。こうすることで、樹脂リングに対するブッシュの軸方向のズレを抑える効果が得られる。
【0043】
(変形例2)
樹脂リング40および41の軸方向の長さをブッシュ30および31の軸方向の長さと略同じ寸法とすることもできる。この場合、フランジによるズレ止め抑制効果がなくなるが、フランジを設けるためのスペースを確保する必要がなく、部品配置に制約がある場合に有用となる。なお、樹脂リング40および41の軸方向の長さをブッシュ30および31の軸方向の長さよりも短くすると、樹脂リングのバーへの接触面積が減少し、樹脂リングの持つズレ止め抑制効果が低下する。
【0044】
(変形例3)
樹脂リングとブッシュとの接触面を噛み合う構造とすることで、両者を固着する強度をさらに高めることもできる。図9は、図2の符号10aの部分を軸方向で切った断面構造の他の例を示す断面図である。図9(A)に示す例では、樹脂リング40の外周面を、軸方向の中央で凹型に窪ませた構造とし、この構造に噛み合うように、ブッシュ30の内周面を軸方向の中央で凸型にした構造としている。また、図9(B)に示す例では、樹脂リング40の外周面を、軸方向の中央を凸型にし、この構造に噛み合うように、ブッシュ30の内周面を軸方向の中央で凹型にした構造としている。この構造によれば、樹脂リング40側の凹型(または凸型)とブッシュ30側の凸型(または凹型)とが噛み合い、両者を軸方向にずらそうとする力に耐える強度(ズレ強度)を高くできる。なおこの構成は、図2の符号10bの部分で採用することも可能である。
【0045】
(変形例4)
樹脂リングとブッシュとの接触面を噛み合う構造の他の例を説明する。図10は、図2の符号10aの部分を軸方向で切った断面構造の他の例を示す断面図である。図10に示す例では、樹脂リング40の外周面に凹凸構造を形成し、この凹凸構造に噛み合う凹凸構造をブッシュ30の内周面に形成している。樹脂リング40の外周面に凹凸構造を形成するには、図6および図7に示すキャビティ820の内周面に凹凸構造を形成し、図6および図7に関連して説明した形成方法により、樹脂リング40を形成すればよい。この構成によれば、樹脂リング40とブッシュ30とが噛み合い構造により結合するので、両者間の軸方向におけるズレ強度を高くすることができる。なおこの構成は、図2の符号10bの部分で採用することも可能である。
【0046】
(変形例5)
図10に示す変形例4において、ブッシュ30の内周面に凹凸構造を形成しない態様も可能である。この場合、ゴム製のブッシュ30が持つ弾性により、ブッシュ30の内周面が、樹脂リング40外周面の凹凸構造に食い込み、両者間に働く摩擦力が確保される。この効果は、ブッシュ30がゴム製でなくても、樹脂リング40側の凹凸構造に食い込む程度の弾性を有していれば発揮される。
【0047】
(変形例6)
バーの樹脂リングが形成される表面にプレス成形により凹凸構造を形成し、バーと樹脂リングとの密着性を高めてもよい。図11は、図2の符号10aの部分を軸方向で切った断面構造の他の例を示す断面図である。図11に示す例では、トーション部110の外周面にプレス成形により凹凸構造を与え、その部分に樹脂リング40をダイレクトインジェクションにより形成している。この構成によれば、樹脂リング40のトーション部110に対する密着性が向上するので、樹脂リング40をトーション部110に対して軸方向においてずらそうとする力に対する強度(ズレ強度)を高くできる。
【0048】
図11に示す例において、バーの表面に形成される溝の断面形状は、図示する形状あるいは径が増大する方向に開いた形状であり、また、当該溝の周方向に延在する壁面の軸方向に対する角度(壁面に平行な方向と軸方向との間の角度)を45°〜90°とすることが好ましい。この角度が45°を下回ると、軸方向へのズレを誘引する力が働いた際に、樹脂リングの内径を拡げる方向への力が働き、ひき裂かれる力に対する強度が比較的小さい樹脂リングに亀裂が生じやすくなる。この角度が45°以上であれば、ズレを引き起こす力が加わった際に、樹脂リングの内径を拡げる方向への力の成分の大きさが小さくなるので、樹脂リングを引き裂こうとする力を小さくできる。
【0049】
(他の変形例)
上述した変形例は、複数を組み合わせて採用することもできる。また、凹凸構造を構成する溝は、軸方向に垂直な方向に延在する構造に限定されず、スクリュー型(螺旋型)や網目構造に形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、自動車等の車両に搭載されるスタビライザー装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】車体に取り付けた状態にあるスタビライザー装置およびその周辺部分を示す概念図である。
【図2】車体に取り付けた状態にあるスタビライザー装置の概要を示す下面図である。
【図3】スタビライザー装置の車体への取り付け部分を示す側面図(A)と断面図(B)である。
【図4】スタビライザー装置の車体への取り付け部分を示す断面図である。
【図5】ブラケットの概要を示す斜視図である。
【図6】射出成形装置を示す断面図である。
【図7】射出成形装置の概要を示す斜視図である。
【図8】スタビライザー装置の製造方法の一部を示すフローチャートである。
【図9】バーの支持構造の他の例を示す断面図である。
【図10】バーの支持構造の他の例を示す断面図である。
【図11】バーの支持構造の他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1…スタビライザー装置、2…タイヤ、3…サスペンション装置、4…タイヤ、5…サスペンション装置、10a…ブッシュを介した車体への取り付け部分、10b…ブッシュを介した車体への取り付け部分、11…スタビリンク、12…可動継ぎ手、13…アーム、20…ブラケット、24…ブラケット、20a…フランジ、20b…フランジ、30…ブッシュ、31…ブッシュ、30a…割が形成された部分を示す破線、40…樹脂リング、41…樹脂リング、40a…フランジ、40b…フランジ、50…車体側の部材、100…バー、110…トーション部、120a…アーム部、120b…アーム部、121a…扁平部、121b…扁平部、122a…取り付け孔、122b…取り付け孔、201…ボルト、203…ボルト。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるスタビライザー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スタビライザー装置は、カーブ走行等において車両が傾き、左右のサスペンション機構に上下逆位相の入力があった時に、左右のアーム部が互いに逆方向に撓むとともにトーション部がねじられることで、車体の横揺れ(ロール角)を抑制する力を発生する。スタビライザー装置を構成するバーは、ゴム製のブッシュを介して、車体側に固定されている。このスタビライザー装置を車体に固定する構造に関しては、例えば特許文献1や2に記載されたものが知られている。
【特許文献1】特開2001−163026号公報
【特許文献2】特開2001−165127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
スタビライザー装置では、コーナリング時に遠心力が作用し、バーに対してブッシュを軸方向においてずらそうとする力が加わる。バーに対してブッシュがずれると、スタビライザー装置の効果が、左右で均等にならず、また初期の効果が得られなくなる。このズレを抑える方法として、ブッシュに隣接してズレ止めの部材を配置する構造が考えられる。しかしながら、この構造では、ズレ止めの部材を設置する寸法を確保しなくてはならず、寸法の制約が厳しい場合、ズレ止めの部材のバーに接触する面積を十分な摩擦力が働く程度に確保することができない。
【0004】
本発明は、スタビライザー装置において、寸法の制約が厳しくても、十分なズレ止めの機能を得ることができるブッシュのバーへの固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、トーション部と前記トーション部の両端部から伸びるアーム部とを備えたバーと、前記トーション部に固定された筒状の樹脂部材と、前記筒状の樹脂部材の外側に固定されたブッシュとを備え、前記筒状の樹脂部材の軸方向における長さが、前記ブッシュの前記軸方向における長さ以上であることを特徴とするスタビライザー装置である。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、ブッシュとバーとの間に筒状の樹脂材料が介在し、この樹脂材料がブッシュのバーに対する軸方向へのズレを防止する部材として機能する。筒状の樹脂材料は、ブッシュと同軸状に配置されるため、ブッシュが占有する寸法を利用してバーと筒状の樹脂材料との間の接触面積を確保できる。このため、両者間の摩擦抵抗によるズレ強度(ズレようとする力に耐える強度)を確保できる。
【0007】
なお、筒状というのは、中空形状で1次元方向に延在(その長さは問わない)している形状のことをいう。軸方向に垂直な空洞の断面形状は、円形、楕円形、多角形状のいずれであってもよい。また、軸方向に垂直な断面の外形は、例えば馬蹄形や多角形状とされる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、筒状の樹脂部材の一端または両端には、ブッシュの軸方向への移動を妨げるフランジ部が設けられていることを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、フランジ部がブッシュの端面に接触し、ブッシュの軸方向への移動を抑える部材として機能する。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、筒状の樹脂部材の外周表面は、凹凸構造を有していることを特徴とする。請求項3に記載の発明によれば、筒状の樹脂部材の外周表面の凹凸構造にブッシュの内周表面が噛み合い、アンカー効果が発揮されて、ブッシュのズレ止め強度が高くなる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、ブッシュの内周表面は、筒状の樹脂材料の外側表面に設けられた凹凸構造と噛み合う形状を有していることを特徴とする。請求項4に記載の発明によれば、ブッシュ側の凹凸構造と筒状の樹脂材料側の凹凸構造とが噛み合い、より高いアンカー効果を得ることができる。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明において、筒状の樹脂部材が一体成型により形成されていることを特徴とする。請求項5に記載の発明によれば、筒状の樹脂部材を分割や半割の構造としないので、それ自体の強度を高くできる。また、バーへの密着性を確保できるので、バーに対するズレ止めの強度(ズレ強度)を分割や半割の構造を採用する場合に比較して高くできる。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発明において、トーション部の筒状の樹脂部材が固定された部分の表面には、凹凸構造が付与されていることを特徴とする。請求項6に記載の発明によれば、バーと筒状の樹脂材料との密着性が向上し、バーに対する筒状の樹脂部材のズレ強度が高まり、それによりバーに対するブッシュのズレ強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スタビライザー装置において、寸法の制約が厳しくても、十分なズレ止めの機能を得ることができるブッシュのバーへの固定構造を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(スタビライザー装置)
以下、本発明を利用したスタビライザー装置の一例を説明する。図1は、スタビライザー装置およびその周辺の構造を示す模式図である。図1には、車両の前車輪側にスタビライザー装置1を取り付けた状態が示されている。スタビライザー装置1は、略コの字形状に屈曲したバー100を備えている。バー100の一端には、棒状の部材であるスタビリンク11が取り付けられ、スタビリンク11の他端は、可動継ぎ手12を介して、サスペンション装置3のアーム13に固定されている。アーム13の下端は、タイヤ2の軸を支持する軸受に固定され、アーム13の上端は、アーム13に対して相対的に、且つ、弾性的に変位可能なシリンダ14に接続されている。シリンダ14は、サスペンション装置3の一部であり、シリンダ14に図示省略した車体の重量が加わる構造とされている。
【0015】
図示省略されているが、アーム13とシリンダ14とは、コイルバネを介して結合しており、両者間の弾性的な連結機構が実現されている。また、図示されていないが、バー100の他端側もスペンション5に接続され、またサスペンション5は、タイヤ4に加わる車体の重量を支えている。また、バー100は、ブッシュ30および31を介して、図示省略した車体側に取り付けられている。
【0016】
図2は、図1に示すスタビライザー装置1を下方から見た(Z軸正方向に向かって見た)状態を示す下面図である。図2には、車体に取り付けられた状態のスタビライザー装置1が示されている。スタビライザー装置1は、金属中空パイプまたは中実金属パイプをプレス加工することで成型されたバー100を備えている。バー100は、トーション部110と、トーション部110の両端部から伸びるアーム部120aおよび120bを備えている。
【0017】
トーション部110は、捻れが主に発生する部分であり、その両端近くの符号10aと10bの2箇所において、車体側の部材50にブッシュ30、31を利用して固定されている。アーム部120aと120bの端部は、それぞれ扁平部121および122を備えている。扁平部121および122のそれぞれには、スタビリンク(例えば図1の符号11)を取り付けるための取り付け孔122aおよび122bが設けられている。
【0018】
(ブッシュを介した取り付け部分の構造)
図3(A)は、図2における符号10aの部分をY軸正方向に向かって見た場合の拡大図であり、(B)は、(A)に示す部分をトーション部110の軸方向に沿って縦割りにした断面図である。また、図4は、図2の符号10aの部分をトーション部110の軸方向から見た断面図である。なお、符号10aと10bの部分は、同じ構造であるので、以下、符号10aの部分を中心に説明する。
【0019】
符号10aの部分には、円筒状の樹脂リング40が、バー100のトーション部110の外周面上に形成されている。樹脂リング40は、ダイレクトインジェクション法により、一体成形されている。樹脂リング40は、ポリフェニレンサルファイドにより構成されており、ズレ止め部材して機能する筒状の樹脂部材の一例である。樹脂リング40の材質としては、ポリエーテルエーテルケトン等の樹脂材料を利用することもできる。樹脂リング40の厚みは、インジェクション形成時の樹脂の流動性を確保する観点から、1.0mm以上とすることが望ましい。厚みの上限は特に限定されないが、10mm程度とするのが適当である。なお、ダイレクトインジェクション法については後述する。樹脂リング40の下地(接触するトーション部110の表面)は、ショットピーニング処理による粗面化処理が施され、樹脂材料への食い付き(密着性)が高められている。
【0020】
図3に示すように、樹脂リング40の軸方向両端には、フランジ40aおよび40bが形成されている。このフランジ40aおよび40bは、ブッシュ30の軸方向へのズレを抑える機能を有している。
【0021】
樹脂リング40のフランジ40aおよび40bの間における外周には、ゴム製のブッシュ30が装着されている。ブッシュ30は、軸方向から見て、中央に円柱形状の空洞が形成された馬蹄形(図の場合、逆U字形状)を有し、図4の破線30aの部分に割りが入れられた構造とされている。ブッシュ30は、破線30aの部分を開いた状態で樹脂リング40に被せ、上記空洞の部分に樹脂リング40が収まるようにすることで、図示する状態に取り付けられる。ブッシュ30は、強度が確保できる弾性部材を利用することができ、ゴム以外に例えばウレタンを用いることができる。
【0022】
図3(A)および図4に示すように、ブッシュ30には、下方から金属製のブラケット20が被せられ、ブラケット20は、ボルト201により、車体側の部材50(車体側のフレーム部分等)に固定されている。
【0023】
より詳細にいうと、図5に示すようにブラケット20は、取り付け面21aおよび21bを備え、そのそれぞれには、ボルト孔22aおよび22bが形成されている。これらボルト孔22aおよび22bを利用して、ボルト201により、間にブッシュ30を挟んだ状態で、ブラケット20が車体側の部材50に固定されている。換言すると、ブッシュ30が、ブラケット20により車体側の部材50に押し付けられた状態で固定されている。
【0024】
また、ブラケット20の軸方向両端には、フランジ20aおよび20bが設けられている。このフランジ20aおよび20bは、ブラケットの強度を確保する機能を有している。ブラケット20の寸法は、その軸方向の寸法が、ブッシュ30の軸方向の寸法よりも小さく設定され、またボルト201を締め付けた際に、図3に示すように、ブッシュ30にブラケット20が食い込み、ブラケット20の前後からブッシュ30が外側にはみ出す寸法とされている。
【0025】
以上述べた構造により、ゴム製のブッシュ30を介して、トーション部110が車体側の部材50(すなわち車体)に取り付けられている。ここでは、図2の符号10aの部分の構造を詳細に説明したが、符号10bの部分も同様な構造とされている。すなわち、符号10bの部分において、トーション部110には、樹脂リング41が一体成型により装着され、その外側にブッシュ31が取り付けられている。そして、ブッシュ31は、ブラケット24により、車体側の部材50に押し付けられた状態で固定されている。なお、図1および図2では、ブッシュの数が2つの場合が示されているが、ブッシュの数が3つ以上であってもよい。
【0026】
(スタビライザー装置の製造方法)
次に、スタビライザー装置1の製造方法について図面を参照して説明する。図6は、射出成形装置を示す概念図である。図6(a)は、トーション部の軸方向に直行する方向に切断した射出成形装置の断面構造であり、図6(b)は、トーション部の軸方向で切断した射出成形装置の断面構造である。図7は、射出成形装置の概要を示す斜視図である。図8は、スタビライザー装置の製造方法の一部を示すフローチャートである。
【0027】
まず、樹脂リングをダイレクトインジェクションにより一体成型する装置について説明する。図6および図7には、樹脂をダイレクトインジェクションするための射出成形装置800が示されている。射出成形装置800は、金型810、射出機840および昇降機構850を備えている。金型810は、下型811と、上型812とを有している。下型811には、ゲート811aが設けられている。下型811および上型812には、樹脂リング40(図2、図4参照)を形成するためのキャビティ820と、樹脂リング41(図2参照)を形成するためのキャビティ821、トーション部110(図2参照)を支持するためのグリップ部830を備えている。なお、図7には、キャビティ820と820の下半分が示されている。
【0028】
図6に示す射出機840は、樹脂を金型のキャビティ820に注入するための装置である。図6には、キャビティ820の部分が示されているが、キャビティ821においても構成は同じである。昇降機構850は、金型810の四隅に設けられている。昇降機構850は、上型812を矢印A方向に昇降させる。昇降機構850により上型812が矢印A方向に上昇すると、下型811から上型812が離間する。また、昇降機構850により上型812が矢印A方向に下降すると、下型811と上型812とが接触する。下型811と上型812とが接触すると、キャビティ820と821が形成される。
【0029】
スタビライザー装置1を製造するには、まず所定の長さに切断された電縫管などの棒材を冷間加工により、略コ字状に成形する成形工程を行い(S801)、スタビライザー半製品を作製する。次に、このスタビライザー半製品に焼入れ・焼戻しなどの熱処理を実施する熱処理工程を行う(S802)。その後、スタビライザー半製品に多数の剛球を投射するショットピーニングを行い、トーション部110表面のバリなどを除去するとともに、スタビライザー半製品のトーション部110に凹凸処理(粗面化処理)を施す(S803)。
【0030】
次に、以上のような処理が施されたスタビライザー半製品を射出成形装置800にセットし、ダイレクトインジェクションにより樹脂リング40および41を一体成形する射出成形工程を行う(S804)。
【0031】
射出成形工程では、まず、スタビライザー半製品を金型810のグリップ部830に位置合わせを行った状態でセットする。次いで、昇降機構850により上型812を矢印A方向に下降させて下型811に接触させ、キャビティ820および821を形成する。次いで、射出機840を矢印B方向に移動させ、射出機840の先端を下型811のゲート811aに挿入して、樹脂をゲート811aからキャビティ820に注入する。この際、キャビティ821にも同様に樹脂を注入する。これにより、スタビライザー半製品に樹脂リング40と41(図2参照)が直接一体成型される。
【0032】
その後、スタビライザー半製品および樹脂リング40、41を塗装する塗装工程を行う(ステップS805)。そして、ブッシュ30および31を装着することで、図2に示すスタビライザー装置1が得られる。なお、ブッシュ30および31は、車両に取り付ける段階で装着してもよい。
【0033】
この製造工程において、スタビライザー半製品とグリップ部830との隙間は、0.6mm以下とする。こうすることで、キャビティ820および821に注入された樹脂がグリップ部830に流入せず、バリが発生しない。バリの発生を抑えることで、バリを除去する工程を省くことができ製造コストを抑えることができる。
【0034】
塗装は、樹脂リングの形成前に行ってもよい。また、上記の例示では、樹脂リング40と41を同時に形成しているが、片方ずつ形成してもよい。凹凸付与のための粗面化は、ショットピーニングによる方法以外に、研磨による方法で行ってもよい。
【0035】
(スタビライザー装置の取り付け構造)
バー100は、図2の符号10a、10bの部分において車体に取り付けられ、扁平部121a、122bの部分が、スタビリンクを介して左右のサスペンションに取り付けられる。すなわち、符号10aおよび10bの部分では、ブッシュ30および31に下方からブラケット20および24が被せられ、ボルト201および203を利用して、ブラケット20および24が車体側の部材50に固定される。この構造では、ブラケット20および24によって、ブッシュ30および31が、樹脂リング40および41のそれぞれに押し付けられて固定される。こうして、ブッシュ30および31を介して、バー100が車体に固定される。
【0036】
(スタビライザー装置の機能)
車両が、コーナリングを行うと、車体には、遠心力によりコーナー外側に傾く力が働く。この際、コーナー外側のサスペンションに加わる負荷は増大し、コーナー内側のサスペンションに加わる負荷は減少する。そのため、コーナー外側のサスペンションがより大きく変位する。この結果、左右のサスペンションのそれぞれに左右の端部がスタビリンクを介して接続されたスタビライザー装置のバー100(図2参照)のトーション部110が捻れる。このトーション部110に発生する捻れを元に戻そうとする反発力により、上記左右のサスペンションに生じる変位の差を抑えようとする力が働く。これにより、車両のコーナリング時におけるロール角を抑制する機能が働く。またこの際、ゴム製のブッシュ30および31が、自身の弾性により弾性的に歪み、上記のロール角抑制効果の調整、およびトーション部110が効果的に捻れるようにする機能が働く。
【0037】
(優位性)
図2に示すように、スタビライザー装置1を構成するバー100は、符号10aおよび10bの2箇所の部分で車体に取り付けられている。上述したコーナリングの際、遠心力により、符号10aおよび10bの部分において、ブッシュ30および31がバー100に対して、軸方向にずれようとする力が働く。
【0038】
この例では、樹脂リング40および41が、ダイレクトインジェクション法によって、バー100に対して一体に固着した状態で形成されている。このため、割構造や分割構造を採用した場合に比較して、樹脂リング40および41のバー100に対する固着力が優れている。また、ブッシュ30および31の軸方向の長さを利用して、樹脂リング40および41のバー100への接触面積が確保されているので、樹脂リング40および41のバー100に対する摩擦力を十分に確保できる。
【0039】
また、図3に示すように、樹脂リング40の両端の縁には、ブッシュ30の端部を押さえるフランジ40aおよび40bが設けられているので、樹脂リング40に対するブッシュ30の軸方向へのズレが抑えられる。また、樹脂リング40と接触しているバー100の表面には、ショットピーニングにより、粗面化処理が施されている。このため、アンカー効果により、樹脂材料のバー100表面への食い付き性が向上し、樹脂リング40のバー100に対するズレ強度がより高くなる効果も得られる。このフランジと粗面化処理の効果は、樹脂リング41においても同じである。
【0040】
これらの理由により、樹脂リング40および41を配置するのに必要なスペースが小さくても、ブッシュ30および31を軸方向でずらそうとする力に対する強度(ズレ強度)を高く確保できる。
【0041】
(変形例1)
図2および図3に示す例では、樹脂リングの両側にフランジが設けられているが、このフランジが一方の端部だけに設けられている構造も可能である。例えば、図2に示す構造において、符号10aの部分に配置される樹脂リング40の左側の端部にフランジを設け、右側にフランジを設けない構造とし、符号10bの部分に配置される樹脂リング41の右側の端部にフランジを設け、左側にフランジを設けない構造としてもよい。また例えば、図2に示す構造において、符号10aの部分に配置される樹脂リング40の右側の端部にフランジを設け、左側にフランジを設けない構造とし、符号10bの部分に配置される樹脂リング41の左側の端部にフランジを設け、右側にフランジを設けない構造としてもよい。
【0042】
ブッシュ30および31を軸方向にずらそうとする力は、両ブッシュに対して同方向に加わるので、いずれかの方向にズレの力が働いた際に、フランジに力が加わるように、2つの樹脂リングにおいて、フランジを設ける位置を正面(車両の前方)から見て、左右を入れ違えた位置とする。こうすることで、樹脂リングに対するブッシュの軸方向のズレを抑える効果が得られる。
【0043】
(変形例2)
樹脂リング40および41の軸方向の長さをブッシュ30および31の軸方向の長さと略同じ寸法とすることもできる。この場合、フランジによるズレ止め抑制効果がなくなるが、フランジを設けるためのスペースを確保する必要がなく、部品配置に制約がある場合に有用となる。なお、樹脂リング40および41の軸方向の長さをブッシュ30および31の軸方向の長さよりも短くすると、樹脂リングのバーへの接触面積が減少し、樹脂リングの持つズレ止め抑制効果が低下する。
【0044】
(変形例3)
樹脂リングとブッシュとの接触面を噛み合う構造とすることで、両者を固着する強度をさらに高めることもできる。図9は、図2の符号10aの部分を軸方向で切った断面構造の他の例を示す断面図である。図9(A)に示す例では、樹脂リング40の外周面を、軸方向の中央で凹型に窪ませた構造とし、この構造に噛み合うように、ブッシュ30の内周面を軸方向の中央で凸型にした構造としている。また、図9(B)に示す例では、樹脂リング40の外周面を、軸方向の中央を凸型にし、この構造に噛み合うように、ブッシュ30の内周面を軸方向の中央で凹型にした構造としている。この構造によれば、樹脂リング40側の凹型(または凸型)とブッシュ30側の凸型(または凹型)とが噛み合い、両者を軸方向にずらそうとする力に耐える強度(ズレ強度)を高くできる。なおこの構成は、図2の符号10bの部分で採用することも可能である。
【0045】
(変形例4)
樹脂リングとブッシュとの接触面を噛み合う構造の他の例を説明する。図10は、図2の符号10aの部分を軸方向で切った断面構造の他の例を示す断面図である。図10に示す例では、樹脂リング40の外周面に凹凸構造を形成し、この凹凸構造に噛み合う凹凸構造をブッシュ30の内周面に形成している。樹脂リング40の外周面に凹凸構造を形成するには、図6および図7に示すキャビティ820の内周面に凹凸構造を形成し、図6および図7に関連して説明した形成方法により、樹脂リング40を形成すればよい。この構成によれば、樹脂リング40とブッシュ30とが噛み合い構造により結合するので、両者間の軸方向におけるズレ強度を高くすることができる。なおこの構成は、図2の符号10bの部分で採用することも可能である。
【0046】
(変形例5)
図10に示す変形例4において、ブッシュ30の内周面に凹凸構造を形成しない態様も可能である。この場合、ゴム製のブッシュ30が持つ弾性により、ブッシュ30の内周面が、樹脂リング40外周面の凹凸構造に食い込み、両者間に働く摩擦力が確保される。この効果は、ブッシュ30がゴム製でなくても、樹脂リング40側の凹凸構造に食い込む程度の弾性を有していれば発揮される。
【0047】
(変形例6)
バーの樹脂リングが形成される表面にプレス成形により凹凸構造を形成し、バーと樹脂リングとの密着性を高めてもよい。図11は、図2の符号10aの部分を軸方向で切った断面構造の他の例を示す断面図である。図11に示す例では、トーション部110の外周面にプレス成形により凹凸構造を与え、その部分に樹脂リング40をダイレクトインジェクションにより形成している。この構成によれば、樹脂リング40のトーション部110に対する密着性が向上するので、樹脂リング40をトーション部110に対して軸方向においてずらそうとする力に対する強度(ズレ強度)を高くできる。
【0048】
図11に示す例において、バーの表面に形成される溝の断面形状は、図示する形状あるいは径が増大する方向に開いた形状であり、また、当該溝の周方向に延在する壁面の軸方向に対する角度(壁面に平行な方向と軸方向との間の角度)を45°〜90°とすることが好ましい。この角度が45°を下回ると、軸方向へのズレを誘引する力が働いた際に、樹脂リングの内径を拡げる方向への力が働き、ひき裂かれる力に対する強度が比較的小さい樹脂リングに亀裂が生じやすくなる。この角度が45°以上であれば、ズレを引き起こす力が加わった際に、樹脂リングの内径を拡げる方向への力の成分の大きさが小さくなるので、樹脂リングを引き裂こうとする力を小さくできる。
【0049】
(他の変形例)
上述した変形例は、複数を組み合わせて採用することもできる。また、凹凸構造を構成する溝は、軸方向に垂直な方向に延在する構造に限定されず、スクリュー型(螺旋型)や網目構造に形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、自動車等の車両に搭載されるスタビライザー装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】車体に取り付けた状態にあるスタビライザー装置およびその周辺部分を示す概念図である。
【図2】車体に取り付けた状態にあるスタビライザー装置の概要を示す下面図である。
【図3】スタビライザー装置の車体への取り付け部分を示す側面図(A)と断面図(B)である。
【図4】スタビライザー装置の車体への取り付け部分を示す断面図である。
【図5】ブラケットの概要を示す斜視図である。
【図6】射出成形装置を示す断面図である。
【図7】射出成形装置の概要を示す斜視図である。
【図8】スタビライザー装置の製造方法の一部を示すフローチャートである。
【図9】バーの支持構造の他の例を示す断面図である。
【図10】バーの支持構造の他の例を示す断面図である。
【図11】バーの支持構造の他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1…スタビライザー装置、2…タイヤ、3…サスペンション装置、4…タイヤ、5…サスペンション装置、10a…ブッシュを介した車体への取り付け部分、10b…ブッシュを介した車体への取り付け部分、11…スタビリンク、12…可動継ぎ手、13…アーム、20…ブラケット、24…ブラケット、20a…フランジ、20b…フランジ、30…ブッシュ、31…ブッシュ、30a…割が形成された部分を示す破線、40…樹脂リング、41…樹脂リング、40a…フランジ、40b…フランジ、50…車体側の部材、100…バー、110…トーション部、120a…アーム部、120b…アーム部、121a…扁平部、121b…扁平部、122a…取り付け孔、122b…取り付け孔、201…ボルト、203…ボルト。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーション部と前記トーション部の両端部から伸びるアーム部とを備えたバーと、
前記トーション部に固定された筒状の樹脂部材と、
前記筒状の樹脂部材の外側に固定されたブッシュと
を備え、
前記筒状の樹脂部材の軸方向における長さが、前記ブッシュの前記軸方向における長さ以上であることを特徴とするスタビライザー装置。
【請求項2】
前記筒状の樹脂部材の一端または両端には、前記ブッシュの軸方向への移動を妨げるフランジ部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスタビライザー装置。
【請求項3】
前記筒状の樹脂部材の外周表面は、凹凸構造を有していることを特徴とする請求項1または2に記載のスタビライザー装置。
【請求項4】
前記ブッシュの内周表面は、前記凹凸構造と噛み合う形状を有していることを特徴とする請求項3に記載のスタビライザー装置。
【請求項5】
前記筒状の樹脂部材が一体成型により形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスタビライザー装置。
【請求項6】
前記トーション部の前記筒状の樹脂部材が固定された部分の表面には、凹凸構造が付与されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のスタビライザー装置。
【請求項1】
トーション部と前記トーション部の両端部から伸びるアーム部とを備えたバーと、
前記トーション部に固定された筒状の樹脂部材と、
前記筒状の樹脂部材の外側に固定されたブッシュと
を備え、
前記筒状の樹脂部材の軸方向における長さが、前記ブッシュの前記軸方向における長さ以上であることを特徴とするスタビライザー装置。
【請求項2】
前記筒状の樹脂部材の一端または両端には、前記ブッシュの軸方向への移動を妨げるフランジ部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスタビライザー装置。
【請求項3】
前記筒状の樹脂部材の外周表面は、凹凸構造を有していることを特徴とする請求項1または2に記載のスタビライザー装置。
【請求項4】
前記ブッシュの内周表面は、前記凹凸構造と噛み合う形状を有していることを特徴とする請求項3に記載のスタビライザー装置。
【請求項5】
前記筒状の樹脂部材が一体成型により形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスタビライザー装置。
【請求項6】
前記トーション部の前記筒状の樹脂部材が固定された部分の表面には、凹凸構造が付与されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のスタビライザー装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−23642(P2010−23642A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187008(P2008−187008)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]