説明

スタビリンクおよびその製造方法

【課題】成形型をサブ組立体に取り付けるための治具構造を簡単な構成にすることができるとともに、外部への樹脂の漏出を効果的に防止することができるスタビリンクおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】インサート成形では、リング部材150を用いている。サブ組立体のボールシート120の外周側側面122とリング部材150の孔部150Aの内周面を当接させている。ダストカバー401の固定部412の外面側径方向面412Bを、リング部材150の一面150Bによりボールシート120のフランジ部121に向かって押圧し、一面150Bとフランジ部121とで固定部412を狭持している。型本体61の端部61Aをリング部材150の他面150Cに当接させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングおよびサポートバーを備えたスタビリンクに係り、特に、一体成形された樹脂製のハウジングおよびサポートバーの製造技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
スタビリンクは、サスペンション装置とスタビライザ装置とを連結するボールジョイント部品である。図1は、車両の前車輪側の概略構成を表す斜視図である。サスペンション装置10は、左右のタイヤ30に設けられ、アーム11とシリンダ12を備えている。アーム11の下端部はタイヤ30の軸を支持する軸受部に固定され、シリンダ12はアーム11に対して弾性変位が可能である。アーム11には、スタビリンク200が取り付けられるブラケット13が設けられている。サスペンション装置10は、タイヤ30に加えられる車体の重量を支えている。スタビライザ装置20は、略コ字形状を有するバー21を備え、ブッシュ22を介して車体に取り付けられている。スタビライザ装置20は、車両のロール剛性を確保する。
【0003】
スタビリンク200は、サスペンション装置10のブラケット13およびスタビライザ装置20のバー21の端部に設けられ、スタビリンク200同士はサポートバー500により連結されている。スタビリンク200は、サスペンション装置10が路面からの入力を受けたときに発生する荷重をスタビライザ装置20に伝達する。
【0004】
図2は、スタビリンク200の一部の構成の具体例を表す側断面図である。スタビリンク200は、スタッドボール201、ボールシート301、ハウジング302、および、ダストカバー401を備えている。スタッドボール201は、一体成形されたスタッド部210およびボール部220を有している。
【0005】
スタッド部210は、テーパ部211、直線部212、および、ねじ部213を有している。テーパ部211は、ボール部220の上端部に成されている。直線部212の上端部および下端部には、鍔部214および凸部215が形成されている。直線部212における鍔部214および凸部215との間にはダストカバー401の上端部のリップ部411が当接して固定されている。サスペンション装置10側のスタビリンク200のねじ部213は、アーム11のブラケット13にねじ締結により固定され、スタビライザ装置20側のスタビリンク200のねじ部213は、ねじ締結によりバー21に固定されている。
【0006】
ボールシート301およびハウジング302は、スタッドボール201をユニバーサルに軸支する軸支部材を構成している。ボールシート301には、スタッドボール201のボール部220が圧入されている。ボールシート301の底面部には、熱かしめ部323が形成されている。ハウジング302は、ボールシート301を収容している。熱かしめ部323は、ハウジング302の底部の孔部302Aを通じて突出し、その先端部がハウジング302の下面部に係合することにより、ボールシート301がハウジング302に固定されている。ダストカバー400の下端部の固定部412は、ボールシート301およびハウジング302のフランジ部321,311どうしの間に狭持されている(たとえば特許文献1,2)。
【0007】
スタビリンク200の製造は、図3に示す工程により行われる。図3(A)〜3(E)は、スタビリンク200の製造方法の各工程を表す一部構成の側断面図である。なお、図3(A)〜3(E)では、ねじ部213の図示は省略している。まず、図3(A)に示すように、ダストカバー401のリップ部411をスタッドボール201の直線部212に密着させるようにして鍔部214と凸部215との間に挿入し、その間で保持する。次いで、図3(B)に示すように、スタッドボール201のボール部220をボールシート301に圧入する。この場合、ダストカバー401の固定部412をボールシート301のフランジ部321の外周面側(図3の上面側)に配置する。なお、符号322は、ボールシート301の一面(ボール部220が圧入される面とは反対側の面)に形成されたピン部である。
【0008】
続いて、図3(C)に示すように、一体成形されたハウジング302とサポートバー500をボールシート301に組み付ける。この場合、ダストカバー401の固定部412は、ボールシート301およびハウジング302のフランジ部321,311どうしの間に狭持され、ピン部322は、ハウジング302の孔部302Aから外部へ突出する形態となる。次に、図3(D)に示すように、熱かしめ機50を用い、ボールシート301のピン部322を加熱により変形させて熱かしめ部323とする。これにより、ボールシート301がハウジング302に固定されることにより、図3(E)に示すようにスタビリンク200が得られる。
【0009】
ところで、スタビリンクでは、従来、ハウジングとサポートバーの材質として鉄が用いられていたが、近年、軽量化を図るため、たとえばアルミニウム(たとえば特許文献3,4)や樹脂(たとえば特許文献5)を用いることが提案されている。
【0010】
たとえば特許文献3,4の技術では、まず、射出成形によりスタッドボールのボール部に樹脂からなるボールシートを成形する。これにより、ボール部およびボールシートからなるサブ組立体が得られる。次いで、型内にサブ組立体を中子としてインサートし、溶融したアルミ合金を型内に注入してダイキャスト成形を行う。このようなサブ組立体を中子として用いたインサート成形により、一体成形されたハウジングとサポートバーが得られる。続いて、ボール部にスタッド部を接続した後、ダストカバーを取り付けることにより、スタビリンクが得られる。
【0011】
また、たとえば特許文献5の技術では、樹脂製のハウジングとサポートバーを一体成形し、一体成形されたハウジングとサポートバーを上記スタビリンク200の製造に適用し、図3(C)に示すように一体成形されたハウジング302とサポートバー500としてボールシート301に組み付け、図3(D)に示す工程を経ることにより、スタビリンクが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−117429号公報
【特許文献2】特開平7−54835号公報
【特許文献3】特開2004−316771号公報
【特許文献4】特開2005−265134号公報
【特許文献5】特開2009−257507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、アルミニウムを用いる特許文献3,4の技術では、アルミニウムの融点が約660℃であるため、インサート成形においてボールシートが外周部を構成するサブ組立体を中子として用いる場合、ボールシートの材質として高耐熱性を有するPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等の材質を用いる必要がある。そのような材質は高価であるため、製造コストが増大する。
【0014】
また、ダストカバー400の固定部412がフランジ部321,311どうしの間に狭持されているスタビリンク200の製造に特許文献3,4のインサート成形を適用する場合、ダストカバーはゴム等の樹脂からなるため、熱劣化の虞が非常に大きい。このため、ダストカバーの装着は、インサート成形時に行うことができず、インサート成形後に別工程で行う必要があり、狭持によるダストカバーの固定部の固定をおこなうことができないため、サークリップ等の部品が別途必要となり、製造コストがさらに増大する。
【0015】
一方、樹脂を用いる特許文献5の技術は、アルミニウムを用いる特許文献3,4の技術の上記問題は生じない。しかしながら、特許文献5の技術は、特許文献1,2と比較して、軽量化を図ることができるものの、特許文献1,2と同様な製造方法を用いていることから、近年のスタビリンクの分野での製造コスト低減の要求に応えることができなかった。
【0016】
そこで、本出願人は、ハウジングの材料として樹脂を注入してインサート成形を行うスタビリンクの製造方法を提案している(たとえば特願2010−186080)。その製造方法では、スタッドボール、ボールシート、および、ダストカバーからなるサブ組立体を中子として成形型内に挿入してキャビティを形成し、そのキャビティに樹脂を注入して射出成形を行う。
【0017】
具体的には、インサート成形で用いる成形型は、サブ組立体が中子として挿入される型本体と、径方向内側に延在する径方向面押圧部を有する型コマを備えている。型本体内へのサブ組立体の挿入では、型本体の内面とボールシートの外周部との間に所定の間隔をあけるとともに、ダストカバーの固定部の外周側径方向面を、型コマの径方向面押圧部によりボールシートのフランジ部に向かって押圧し、型コマの径方向面押圧部とボールシートのフランジ部とでダストカバーの固定部を狭持する。この場合、型コマの径方向面押圧部による押圧を樹脂注入による射出成形圧に耐える程度に適度に行うことにより、ダストカバーと型コマとの間、および、ダストカバーとボールシートとの間をシールすることができるから、インサート成形において樹脂の外部への漏出を防止することができる。
【0018】
しかしながら、本出願人提案の製造方法では、成形型において型本体とは別に型コマを用い、型コマの径方向面押圧部がキャビティの一部を構成するため、型コマをサブ組立体に取り付けるための治具構造が複雑となる。また、外部への樹脂の漏出を効果的に防止するためにシール性の向上を図ることが要求されており、より好適なスタビリンクの製造方法が望まれている。
【0019】
したがって、本発明は、成形型をサブ組立体に取り付けるための治具構造を簡単な構成にすることができるとともに、外部への樹脂の漏出を効果的に防止することができるスタビリンクおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のスタビリンクの製造方法は、スタッドボールと、径方向外側に延在するフランジ部を有するボールシートと、固定部を有するダストカバーとを準備し、スタッドボール、ボールシート、および、ダストカバーからなるサブ組立体を形成し、サブ組立体のボールシートをリング部材の孔部に挿入し、ボールシートの外周部にリング部材を固定し、リング部材が固定されたサブ組立体を中子として成形型内に挿入してキャビティを形成し、そのキャビティ内に樹脂を注入して射出成形を行うことにより、ボールシートの外周部を覆うハウジングおよびそのハウジングを支持するサポートバーを一体成形し、サブ組立体の形成では、ダストカバーの固定部の内面側径方向面を、ボールシートのフランジ部の外周側径方向面に当接させ、リング部材の固定では、ボールシートの外周部とリング部材の内周部を当接させるとともに、リング部材の一面によってダストカバーの固定部の外面側径方向面をボールシートのフランジ部に向かって押圧してリング部材とボールシートのフランジ部とでダストカバーの固定部を狭持し、サブ組立体の成形型内への挿入では、成形型の内面とボールシートの外周部との間に所定の間隔をあけるとともに、成形型の端部をリング部材の他面に当接させることにより、成形型の内面、ボールシートの外周部、および、リング部材の他面によりキャビティを形成することを特徴とする。
【0021】
本発明のスタビリンクの製造方法では、スタッドボール、ボールシート、および、ダストカバーからなるサブ組立体を形成し、ボールシートの外周部にリング部材を固定し、リング部材が固定されたサブ組立体を中子として型内に挿入してキャビティを形成し、そのキャビティ内に樹脂を注入して射出成形を行っている。
【0022】
このようなインサート成形時、たとえばリング部材の一面の形状に対応させてダストカバーの固定部の外面側径方向面を水平面状にすることができるから、リング部材の一面および固定部の外面側径方向面の水平状態を維持することができる。このようにリング部材の傾斜を防止することができるから、リング部材の一面と固定部の外面側径方向面の対向部分同士を密着させることができるとともに、ボールシートの外周部とリング部材の内周部の対向部分同士を密着させることができる。また、リング部材の一面の水平状態を維持することができるから、成形型の端部とリング部材の他面の対向部分同士を密着させることができる。
【0023】
以上のように本実施形態では、リング部材を用いることにより、ボールシートとリング部材の間、リング部材とダストカバーとの間、および、成形型とリング部材との間を確実にシールすることができるから、インサート成形において樹脂の外部への漏出を効果的に防止することができる。また、径方向面押圧部型を有する型コマの代わりにリング部材という簡単な構成の部材を用い、サブ組立体のボールシートをリング部材の孔部に挿入し、成形型の端部をリング部材の他面に当接させるという簡単な手法で射出成形時のサブ組立体の姿勢を安定化することができる。また、リング部材はスタビリンクの構成部品として使用することができる。このように径方向面押圧部型を有する型コマを用いる必要がないので、サブ組立体に成形型を取り付けるための治具構造は簡単な構成となる。また、この場合、径方向面押圧部型を有する型コマを用いる場合と比較して、シール性の向上のためにダストカバーの固定部の形状を工夫する必要がないから、現行量産品に適用することができる。
【0024】
本発明のスタビリンクの製造方法は、各種特性を向上させるために種々の構成を用いることができる。たとえばキャビティの形成時、リング部材の一面の外周側に押圧部材を当接させる態様を用いることができる。この態様では、インサート成形時、押圧部材によって、成形型内の射出圧力に対してリング部材を押圧することができるから、ボールシートへのリング部材の固定の安定化をさらに図ることができる。また、押圧部材は、スタッドボールの鍔部に対向する一面を有し、キャビティの形成時、押圧部材の一面をスタッドボールの鍔部に当接させる態様を用いることができる。この態様では、射出圧力によるサブ組立体の移動を防止することができるとともに、スタビリンクでのスタッド部の中立姿勢を確保することができる。
【0025】
たとえばリング部材は、一面を有するとともに平板状のリング形状をなす本体部と、本体部の他面の内周部側から軸線方向に延在するとともに本体部よりも外径が小さな円筒部とを有する態様を用いることができる。スタッドボールの引抜き試験時、ボールシートのオーバーハング部を拡張させようとする力が発生する虞があるが、ボールシートの外周部を覆うハウジングは、オーバーハング部の拡張を抑制する機能を有する。仮にリング部材の本体部の軸線方向長を長く設定した場合、ハウジングの上面位置が低くなると(特に、スタッドボールのボール部の中心よりも低くなると)、上記抑制機能が作用しなくなる虞があるが、上記態様では、本体部よりも外径の小さな円筒部を設けることによりリング部材の軸線方向長を長く設定することができるから、ボールシートへのリング部材の固定の安定化をさらに図ることができるのはもちろんのこと、ハウジングは円筒部の外周部を覆うことができるから、ハウジングの上面位置の低下を防止することができる。したがって、上記不具合が生じない。
【0026】
また、リング部材の円筒部の外周部には、ハウジング用凸部およびハウジング用凹部の少なくとも一方が形成されている態様を用いることができる。スタッドボールの引抜き試験時、ボールシートの伸びに連動してリング部材の位置が移動する虞があるが、上記態様では、リング部材の円筒部の外周部における凸部および凹部の少なくとも一方の部位と、その部位に対向するハウジングの部分とが互いに嵌合することができる。したがって、ハウジングとリング部材とが機械的に一体化することができるので、上記不具合が生じない。
【0027】
ボールシートの外周部には、そこにリング部材を固定するためのリング部材用溝部およびリング部材用突起部の少なくとも一方が形成される態様を用いることができる。この場合、リング部材用溝には、リング部材の内周部が嵌合し、リング部材用突起部とダストカバーの固定部とが、リング部材を狭持する態様を用いることができる。この態様では、ボールシートへのリング部材の固定の安定化をさらに図ることができる。また、リング部材の材質として、グラスファイバを含有している熱可塑性エンジニアリングプラスチックを用いることができる。この態様では、リング部材の強度を向上させることができるとともに、軽量化を図ることができる。さらに、リング部材の一面の内周側コーナ部に、C面取りあるいはR面取りを行う態様を用いることができる。この態様では、リング部材の孔部へのボールシートの圧入をスムーズに行うことができる。
【0028】
また、リング部材は本体部のみを有する場合、リング部材の軸線方向長を2mm以上に設定する態様を用いることができる。リング部材は本体部および円筒部を有する場合、リング部材の軸線方向長を2mm以上に設定する態様を用いることができる。さらに、ボールシートの外周部に対するリング部材の内周部の嵌め代を、直径で、0.02〜0.2mmの範囲内に設定する態様を用いることができる。リング部材の一面により押圧されるダストカバーの固定部の押圧代を、固定部の肉厚の5〜30%の範囲内に設定する態様を用いることができる。リング部材の外径を、直径で、ボールシートのフランジ部の外径とダストカバーの肉厚の2倍の厚さとの総和以上に設定する態様を用いることができる。リング部材に対する成形型の押さえ代を、半径で、1mm以上に設定する態様を用いることができる。リング部材の一面の内周側コーナ部に、C面取りあるいはR面取りを行う態様を用いることができる。
【0029】
本発明のスタビリンクは、本発明のスタビリンクの製造方法により得られ、スタッドボール、ボールシート、ダストカバー、リング部材、ハウジング、および、サポートバーを備えたことを特徴とする。本発明のスタビリンクは、本発明のスタビリンクの製造方法と同様な効果を得ることができることに加えて、スタッドボールの揺動時、ダストカバーの狭持されていない部分が変形しても、その部分をリング部材の一面により支持することができる。したがって、ダストカバーの上記変形部分が、ハウジングの端部のエッジ部との接触による摩耗を防止することができる。また、オーバーハング部の拡張を抑制する機能を有するから、スタッド抜き荷重を向上させることができる。また、リング部材とボールシートのフランジ部によりダストカバーの固定部を狭持することができるから、ダストカバーの抜け荷重を向上させることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のスタビリンクあるいはその製造方法によれば、成形型をサブ組立体に取り付けるための治具構造を簡単な構成にすることができるとともに、外部への樹脂の漏出を効果的に防止することができる等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】車両の前車輪側の概略構成を表す斜視図である。
【図2】従来のスタビリンクの一部構成を表す側断面図である。
【図3】(A)〜(E)は、従来のスタビリンクの製造方法の各工程を表す一部構成の側断面図である。
【図4】(A)〜(D)は、本発明の一実施形態に係るスタビリンクの製造方法の各工程を表す一部構成の側断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るスタビリンクの製造方法で用いるリング部材の構成を表し、(A)は右半分の側断面図、(B)は斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るスタビリンクの製造方法のインサート成形の状態を表し、リング部材を含む部分の拡大側断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るスタビリンクの製造方法で得られたスタビリンクの一部構成を表す拡大側断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るスタビリンクの製造方法の変形例で用いるリング部材の構成を表し、(A)は右半分の側断面図、(B)は斜視図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るスタビリンクの製造方法の変形例のインサート成形の状態を表す一部構成の側断面図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るスタビリンクの製造方法の変形例で得られたスタビリンクの一部構成を表す拡大側断面図である。
【図11】本発明の一実施形態に係るスタビリンクの製造方法の他の変形例で用いるリング部材の構成を表す斜視図である。
【図12】本発明の一実施形態に係るスタビリンクのスタッドボールの概略構成を表す側面図である。
【図13】本発明の一実施形態に係るスタビリンクのボールシートの概略構成を表す側断面図である。
【図14】本発明の一実施形態に係るスタビリンクのボールシートの変形例の概略構成を表す側断面図である。
【図15】本発明の一実施形態に係るスタビリンクのボールシートの他の変形例の概略構成を表す側断面図である。
【図16】(A),(B)は、本発明の一実施形態に係るスタビリンクのインサート成形で得られるハウジングとサポートバーの具体例の構成を表し、(A)はハウジング同士の位相角が0度の例、(B)はハウジング同士の位相角が0度超180度未満の例の図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(1)各製造工程
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図4(A)〜4(D)は、本発明の実施形態に係るスタビリンク100の製造方法の各工程を表す一部構成の側断面図である。図6は、図4(C)に示すインサート成形におけるリング部材150を含む部分の拡大側断面図である。図6では、図4(C)と上下方向を逆にしている。図12は、実施形態で用いるスタッドボール101の概略構成を表す側面図である。図13は、実施形態で用いるボールシート120の概略構成を表す側断面図である。
【0033】
本実施形態のスタビリンク100の製造方法は、図3に示すスタビリンク200の製造方法とは、ハウジングおよびサポートバーをインサート成形による樹脂の射出成形で得ることが大きく異なり、それに伴い、スタッドボールのボール部の形状や、ボールシートの構成、ダストカバーの形状等を変更している。本実施形態では、図1〜3と同様な構成要素には同符号を付し、その説明を省略している。本実施形態の図では、スタッドボール101のねじ部213の図示を省略している。
【0034】
まず、スタッドボール101、ボールシート120、および、ダストカバー401を準備する。
【0035】
スタッドボール101は、たとえばボール部110として、図12に示すように略球状をなす鋼球を用い、ボール部110をスタッド部210に溶接することにより形成することが好適である。この態様では、ハウジング130の射出成形時にボールシート120が変形収縮しても、ボール部110の運動が阻害されることを抑制できる。
【0036】
ボールシート120は、図13に示すように、一面に開口部120Aを有している。外周側側面122には、そこから径方向外側に延在するフランジ部121が形成されている。フランジ部121における外周側側面122との境界部には、固定部412の突起部413Aが係合する溝部121Aが形成されていることが好適である。フランジ部121は、固定部412の内面側径方向面412Aが当接する外周側径方向面121B(図6でのフランジ部121の下面)と、固定部412の内面側軸線方向面412Cが当接する軸線方向面121C(図6でのフランジ部121の外周側側面)とを有している。
【0037】
ボールシート120の外周側側面122には、凹状をなす溝部123を周方向に沿って形成することが好適である。この場合、スタビリンク100では、ハウジング130の内周部には、ボールシート120の溝部123の形状に対応する突起部133が形成され、互いの部位が嵌合する形態をなすことができる。これにより、従来の熱かしめ部と同様、十分なスタッド抜き強度を確保することができる。また、ボールシート120の外周側側面122の周方向に溝部123が分割された形状をなすように形成することにより、ボールシート120のハウジング130に対する相対的回転動作を防止することができる。溝部123の代わりに、外周側側面122に突起部やテーパ部を形成してもよい。突起部は、凸状をなし、周方向に沿って形成される。テーパ部は、たとえば外周側側面122の上部側から底部へ向かうに従い、拡径するようにして傾斜する形状をなす。また、外周部に凹状のアンダカット部を形成してもよい。
【0038】
スタッドボール101の溶接部には、図12に示すようにバリ111が形成される場合があり、この場合、ボールシート120の内周部(たとえばオーバーハング部の上面)に、図13に示すように溶接部のバリ111を収容する凹状のポケット部124を周方向に沿って形成することが好適である。この態様では、スタッドボール101の溶接部のバリ111により、スタッドボール101の揺動が阻害されることを防止することができ、これによりスタッドボール101の揺動角度を十分に確保することができる。
【0039】
ダストカバー401では、一端部にリップ部411が形成され、他端部に固定部412が形成されている。固定部412の端部413の内面側には、突起部413Aが形成されていることが好適である。固定部412は、内面側径方向面412A(図6での固定部412の上面)、外面側径方向面412B(図6での固定部412の下面)、および、内面側軸線方向面412Cを有している。
【0040】
次いで、たとえば図4(A)に示すように、ダストカバー401の一端部のリップ部411をスタッドボール101の直線部212に密着させるようにして鍔部214と凸部215との間に挿入し、その間で保持する。
【0041】
続いて、たとえば図4(B)に示すように、スタッドボール101のボール部110を、ボールシート120の開口部120Aから圧入し、ダストカバー401の他端部である固定部412の内面側径方向面412Aを、ボールシート120のフランジ部121の外周側径方向面121B(図4の上面側)に当接させる。固定部412の端部413を、ボールシート120の外周側側面122に当接させる。この場合、端部413の突起部413Aを、フランジ部121の溝部121Aに向かって突出して係合させる。これによりスタッドボール101、ボールシート120、および、ダストカバー401からなるサブ組立体100Aが得られる。
【0042】
次いで、リング部材150を用意する。リング部材150は、たとえば図5に示すように、平板状のリング形状をなす本体部151を有し、本体部151の中心部には、たとえば円形状をなす孔部150Aが形成されている。リング部材150の材質としては、強度向上および軽量化を図るために、グラスファイバを含有している熱可塑性エンジニアリングプラスチックを用いることが好適である。リング部材150の材質として、たとえばハウジング130およびサポートバー140と同様な樹脂を用いることができ、所定の強度を確保する場合、たとえばグラスファイバを重量比で30%含有するナイロン66や、グラスファイバを重量比で30%含有するナイロン46、グラスファイバを重量比で30%含有するPPS(ポリフェニレンサルファイド)、グラスファイバを重量比で30%含有するPOM(ポリアセタール)を用いることが好適である。グラスファイバの含有量重比は、強度を高めるために、たとえば50%に設定してもよいし、リング部材150の要求特性に応じて、適宜設定することができる。リング部材150の材質としては、鉄等の金属を用いてもよい。
【0043】
続いて、サブ組立体100Aのボールシート120をリング部材150の孔部150Aに圧入し、ボールシート120の外周側側面122にリング部材150を固定する。この場合、図6に示すように、ボールシート120の外周側側面122とリング部材150の孔部150Aの内周面を当接させるとともに、ダストカバー401の固定部412の外面側径方向面412Bをリング部材150の一面150Bによりボールシート120のフランジ部121に向かって押圧し、一面150Bとフランジ部121とで固定部412を狭持する。この場合、ボールシート120の外周側側面122とリング部材150の内周面との間には摩擦力が作用し、ダストカバー401の固定部412を押圧するときの固定部412による反発力があっても、リング部材150の位置は保持される。
【0044】
続いて、たとえば図4(C)に示すように、リング部材150が固定されたサブ組立体100Aを中子として成形型60の型本体61内に挿入してキャビティ70を形成し、そのキャビティ70内に樹脂を注入して射出成形を行う。このようなインサート成形によってハウジングおよびサポートバーを一体成形する。なお、図4(C)は、サポートバーの軸線方向の垂直方向の断面構成を表し、ハウジング成形用の型部分を含む構成の断面図である。成形型60は、紙面垂直方向に延在する形態を有している。
【0045】
本実施形態のインサート成形では、成形型60として、型本体61および押圧部材62を備えた型を用いる。型本体61内への挿入では、図6に示すように型本体61の内面とボールシート120の外周部との間に所定の間隔をあけるとともに、型本体61の端部61Aをリング部材150の他面150Cの外周側に当接させる。
【0046】
リング部材150の一面150Bの外周側に押圧部材62の端部62Aを当接させることが好適である。押圧部材62は、スタッドボール101のスタッド部210が貫通する孔部62Bを有している。孔部62Bは、スタッド部210の鍔部214に対向する面62Cに形成されている。この場合、押圧部材62による当接を行うために、リング部材150の外径を、直径で、ボールシート120のフランジ部121の外径とダストカバー401の肉厚の2倍の厚さとの総和以上に設定する。また、リング部材150の外径を、成形予定のハウジング130の端部131(図4(D))の外径よりも大きく設定する。また、たとえばリング部材150に対する型本体61の押さえ代を、半径で、少なくとも1mm以上に設定する(すなわち、直径で、成形予定のハウジング130の端部131の外径に2mm加えた値以上に設定する)ことが好適である。
【0047】
これにより、型本体61の内面、ボールシート120の外周部、および、リング部材150の他面150Cによりキャビティ70を形成する。この場合、型本体61のキャビティ面は、ハウジング130およびサポートバー140の外周形状に対応する形状を有する。
【0048】
図16は、本実施形態のインサート成形で得られるハウジング130とサポートバー140の具体例の構成を表し、(A)はハウジング同士の位相角が0度の例、(B)はハウジング同士の位相角が0度超180度未満の例の図である。たとえば図16(A),16(B)に示すようにサポートバー140の両端部にハウジング130を成形する場合、サポートバー140一端部側のハウジング130におけるサポートバー140との境界部に、分割型用フランジ部141を設けることが好適である。分割型用フランジ部141の断面形状は、たとえば略真円状をなす。
【0049】
図16(B)に示すハウジング130およびサポートバー140を成形する場合、成形型60では、サポートバー成形用の型部分の両端部にハウジング成形用の型部分が設けられている形態をなし、この場合、成形型60は、サポートバー140の一端部側のハウジング130(分割型用フランジ部141を有するハウジング130)を成形する第1割型と、サポートバー140と他端部側のハウジング130とを成形する第2割型とから構成することが好適である。この場合、成形型60としては、分割型用フランジ部141に対応する部分での第1割型の第2割型に対する回転角度が調整可能な分割型を用いることができる。第1,2割型から構成される分割型の上型の下型への駆動手段として、通常のカム部材等を用いることができる。
【0050】
このように成形型60としては、分割型用フランジ部141に対応する部分における第1割型の第2割型に対する回転角度が調整可能な分割型を用いることができるから、ハウジング130同士の位相角を0度〜180度の範囲内で任意に設定することができる。
【0051】
射出成形で用いられる樹脂は、ハウジング130およびサポートバー140の材料である樹脂であって、その材質としては、所定の強度を確保する場合、たとえば、グラスファイバを重量比で30%含有するナイロン66や、グラスファイバを重量比で30%含有するナイロン46、グラスファイバを重量比で30%含有するPPS(ポリフェニレンサルファイド)を用いることが好適である。この場合、グラスファイバの含有量重は、ハウジング130およびサポートバー140の要求特性に応じて、適宜設定することができる。
【0052】
このようなインサート成形によって樹脂をキャビティ70に充填することにより、図4(D),図7に示すように、ボールシート120の外周部を覆うハウジング130およびそれを支持するサポートバー140が一体成形され、スタビリンク100が得られる。スタビリンク100は、ハウジング130の端部131とボールシート120のフランジ部121とでダストカバー401の固定部412を狭持する構造を有している。
【0053】
(2)樹脂のインサート成形の利点
スタビリンクでは、通常、揺動トルク、回転トルク、弾性リフトの規定値が設定され、通常、いずれの規定値も低く設定する要求が多い。トルクと弾性リフトは相反関係にあり、それら規定値は、ハウジングとボールシートの締め代、あるいは、ボールシートとスタッドボールの締め代に依存する。したがって、車両側の要求特性を満足するために、入力荷重と耐久要件に基づき、締め代を最適値に設定することが重要となる。
【0054】
これに対して本実施形態では、ボールシート120の材料である樹脂の融点が、ハウジング130およびサポートバー140の材料である樹脂のものよりも低い場合、インサート成形での射出成形時、その熱と圧力によりボールシート120が変形収縮する。この場合、射出成形の条件(射出成形で注入する樹脂の温度や、圧力、射出時間等)とボールシート120の変形収縮量との関係を予め取得しておき、スタッドボール101のボール部110のボールシート120への挿入時、たとえば内径が所定値に設定されたボールシート120、および、外径が所定値に設定されたボール部110の少なくとも一方を用いることにより、ボール部110とボールシート120との間のクリアランスを所定値に設定することができる。そして、インサート成形での射出条件を適宜制御して射出成形を行うことにより、射出成形後にボールシート120の締め代を最適値に設定することができる。
【0055】
また、インサート成形での射出成形で注入される樹脂は、アルミニウムの融点よりも低く、射出成形温度をたとえば300℃以下に設定することができるので、成形時間を適宜設定することにより、ボールシート120の熱劣化を防止することができる。したがって、射出成形の材料としてアルミニウムを用いる場合とは異なり、ボールシート120の材質として安価なポリアセタール材を用いることができる。また、サブ組立体100Aの形成時にゴム製のダストカバー401を組み付け、サブ組立体100Aにリング部材150を固定した組立体を中子として用いた場合、上記のように射出成形温度を低く設定することができるので、射出成形の材料としてアルミニウムを用いる場合とは異なり、樹脂がゴム製のダストカバー401に直接接触した場合でも、ダストカバー401の熱劣化を防止することができる。
【0056】
このようにリング部材150が固定されたサブ組立体100Aを中子として成形型60内に挿入してキャビティ70を形成し、そのキャビティ70に樹脂を注入するインサート成形を行うから、ボールシート120に熱かしめを行う従来の工程(図3(D)の工程)が不要となる。このように製造工程数を減少させることができるから、製造コストの低減を図ることができる。
【0057】
また、インサート成形での射出成形後にボールシート120の締め代を最適値に設定することができる。その結果、スタビリンクの既定値である揺動トルク、回転トルク、および、弾性リフトの所望値に設定することができ、車両側の要求特性を満足することができる。また、ハウジング130の端部131とボールシート120のフランジ部121とでダストカバー401の固定部412を狭持する構造を用いることができるから、インサート成形後にダストカバー401を別途装着する工程が不要となり、アルミニウムを用いる従来手法で用いていたサークリップ等の部品が不要となる。その結果、さらに製造コストの低減を図ることができる。
【0058】
さらに、上記のようにインサート成形を行うから、キャビティ70内に樹脂が充填され、樹脂からなるハウジング130は、ボールシート120の外周部やリング部材150の他面150Cに密着する。また、これにより、ボールシート120に対するハウジング130の締め代を所望値に設定することができるから、トルク特性や弾性リフトを所望値に設定することができる。したがって、相手部材の寸法のバラツキの影響を受けないから、寸法管理は不要となる。
【0059】
(3)インサート成形での各部位のシール性
以上のようなインサート成形では、図6に示すように、リング部材150が固定されたサブ組立体100Aを中子として用い、型本体61の内面、ボールシート120の外周部、および、リング部材の他面150Cによりキャビティ70を形成する。
【0060】
ボールシート120とリング部材150の間において、図6に示すように、ボールシート120の外周側側面122とリング部材150の孔部150Aの内周面を当接させている。これにより、ボールシート120とリング部材150の間をシールすることができる。この場合、ダストカバー401の固定部412の外面側径方向面412Bを、リング部材150の一面150Bによりボールシート120のフランジ部121に向かって押圧し、一面150Bとフランジ部121とでダストカバー401の固定部412を狭持している。これにより、リング部材150とダストカバー401との間をシールすることができる。
【0061】
この場合、端部413の突起部413Aを、フランジ部121の溝部121Aに向かって突出させて係合させることにより、リング部材150とダストカバー401との間を効果的にシールすることができる。
【0062】
また、型本体61とリング部材150の間において、型本体61の端部61Aをリング部材150の他面150Cの外周側に当接させている。これにより、型本体61とリング部材150の間をシールすることができる。
【0063】
ここで、たとえばリング部材150の一面150Bの形状に対応させてダストカバー401の固定部412の外面側径方向面412Bを水平面状にすることができるから、リング部材150の一面150Bおよび固定部412の外面側径方向面412Bの水平状態を維持することができる。このようにリング部材150の傾斜を防止することができるから、リング部材150の一面150Bと固定部412の外面側径方向面412Bの対向部分同士を密着させることができるとともに、ボールシート120の外周側側面122とリング部材150の孔部150Aの内周面の対向部分同士を密着させることができる。また、リング部材150の一面150Bの水平状態を維持することができるから、型本体61の端部61Aとリング部材150の他面150Cの外周側の対向部分同士を密着させることができる。
【0064】
以上のように本実施形態では、リング部材150を用いることにより、ボールシート120とリング部材150の間、リング部材150とダストカバー401との間、および、型本体61とリング部材150の間を確実にシールすることができるから、インサート成形において樹脂の外部への漏出を効果的に防止することができる。また、リング部材150という簡単な構成の部材を用い、サブ組立体100Aのボールシート120をリング部材150の孔部150Aに挿入し、型本体61の端部61Aをリング部材150の他面150Cに当接させるという簡単な手法で射出成形時のサブ組立体100Aの姿勢を安定化することができる。また、リング部材150はスタビリンク100の構成部品として使用することができる。このように径方向面押圧部型を有する型コマを用いる必要がないので、サブ組立体100Aに成形型60を取り付けるための治具構造は簡単な構成となる。また、この場合、径方向面押圧部型を有する型コマを用いる場合と比較して、シール性の向上のためにダストカバー401の固定部412の形状を工夫する必要がないから、現行量産品に適用することができる。
【0065】
また、スタビリンク100では、スタッドボール101の揺動時、ダストカバー401における狭持されていない部分が変形しても、その部分をリング部材150の一面150Bにより支持することができる。したがって、ダストカバー401の上記変形部分が、ハウジング130の端部131のエッジ部との接触によって摩耗することを防止することができる。また、リング部材150は、ボールシート120のオーバーハング部の拡張を抑制する機能を有するから、スタッド抜き荷重を向上させることができる。また、リング部材150とボールシート120のフランジ部121によりダストカバー401の固定部412を狭持することができるから、ダストカバー401の抜け荷重を向上させることができる。
【0066】
特に、キャビティ70の形成時、リング部材150一面150Bの外周側に押圧部材62を当接させることにより、インサート成形時、押圧部材62によって、型本体61内の射出圧力に対してリング部材150を押圧することができるから、ボールシート120へのリング部材150の固定の安定化をさらに図ることができる。このような効果は、リング部材150に対する型本体61の押さえ代を、半径で少なくとも1mm以上に設定することにより、効果的に得ることができる。
【0067】
また、この場合、押圧部材62におけるスタッド部210の鍔部214に対向する面62Cで鍔部214に当接させることにより、射出圧力のよるサブ組立体100Aの移動を防止することができるとともに、スタビリンク100におけるスタッド部210の中立姿勢を確保することができる。このような効果は、スタッド部210の鍔部214と押圧部材62におけるそれに対向する面62Cとの間のクリアランスを0.2mm以下に設定することにより、効果的に得ることができる。
【0068】
さらに、上記実施形態では、以下の変形例を用いる場合、各種特性の向上を図ることができる。
【0069】
たとえば図5に示すリング部材150を用いる場合、ボールシート120へのリング部材150の固定の安定化をさらに図るために、本体部151の軸線方向長h1を2mm以上に設定することが好適である。この場合、軸線方向長h1の上限は、たとえば5mmに設定することが好適である。
【0070】
リング部材150は、たとえば図8に示すように円筒部152を有することができる。円筒部152は、本体部151の他面151Cの内周部側から軸線方向に延在するとともに、本体部151よりも小さな外径を有する。この態様では、本体部151よりも外径の小さな円筒部152を設けることによりリング部材150の軸線方向長を長く設定することができるから、図9に示す射出成形時、ボールシート120へのリング部材150の固定の安定化をさらに図ることができる。この場合、ハウジング130は円筒部152の外周部を覆うことができるから、スタビリンク100では、たとえば図10に示すように、ハウジング130の上面位置が低くならない。これにより、スタッドボール101の引抜き試験時、ボールシート120の外周部を覆うハウジング130は、オーバーハング部の拡張を抑制する機能を確実に発揮することができる。
【0071】
また、円筒部152の外周部は、たとえば図8に示すように、円周方向に沿って延在する帯状のハウジング用凸条部153を、ハウジング用凸部として有することができる。この態様では、円筒部152の凸条153と、その部位に対向するハウジング130の部分とは互いに嵌合することができる。したがって、ハウジング130とリング部材150とが機械的に一体化することができるので、スタッドボール101の引抜き試験時、ボールシート120の伸びに連動したリング部材150の移動を防止することができる。また、たとえば図11に示すように、複数のハウジング用突起部154を、ハウジング用凸部として円周方向に沿って円筒部152の外周部に形成してもよい。ハウジング用突起部154の高さは、0.1〜0.5mmに設定することが好適である。また、ハウジング用凸条部153の代わりに、帯状のハウジング用溝部をハウジング用凹部として形成してもよいし、突起部154の代わりに、互いに離間したハウジング用穴部をハウジング用凹部として複数形成してもよい。また、必要に応じて、ハウジング用凸部とハウジング用凹部を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
円筒部152を設ける場合、上記効果を効果的に得るためには、たとえば図8に示すように、リング部材150の軸線方向長h2を2mm以上に設定することが好適である。この場合、軸線方向長h2の上限は、たとえば5.5mmに設定することが好適である。また、本体部151の他面150Cとそれに対向する凸条153の一面との間の軸線方向長h3を0.2〜1.0mmの範囲内に設定することが好適である。さらに凸条153の突出高さwを0.2〜1.0mmの範囲内に設定することが好適である。本体部151の軸線方向長h1は、たとえば1〜5mmに設定することが好適である。
【0073】
ボールシート120の外周側側面122は、たとえば図14に示すように、リング部材150を固定するためのリング部材用溝部125を有することができる。リング部材用溝125には、リング部材150の内周部が嵌合する。ボールシート120の外周側側面122は、たとえば図15に示すように、リング部材用突起部126を有することができる。リング部材用突起部126とダストカバー401の固定部412とがリング部材150を狭持する。上記態様では、ボールシート120へのリング部材150の固定の安定化をさらに図ることができる。
【0074】
リング部材150の一面150Bの内周側コーナ部154Dに、C面取りあるいはR面取りを行うことが好適である。この態様では、リング部材150の孔部150Aへのボールシート120の圧入をスムーズに行うことができる。リング部材150とボールシート120との間のシール性の向上を効果的に図るために、ボールシート120の外周側側面122に対するリング部材150の孔部150Aの内周面の嵌め代を、直径で、0.02〜0.2mmの範囲内に設定することが好適である。また、リング部材150とボールシート120との間のシール性の向上を効果的に図るためには、リング部材150の一面150Bにより押圧されるダストカバー401の固定部412の押圧代を、固定部412の肉厚の5〜30%の範囲内に設定することが好適である。
【符号の説明】
【0075】
60…成形型、61…型本体、61A…端部、62…押圧部材、62A…端部、62B…孔部、62C…対向する面(対向する一面)、70…キャビティ、100…スタビリンク、101…スタッドボール、110…ボール部、120…ボールシート、121…フランジ部、121B…外周側径方向面、122…外周側側面、125…リング部材用溝部、126…リング部材用突起部、130…ハウジング、140…サポートバー、150…リング部材、150A…孔部、150B…一面、150C…他面、151…本体部、151A…孔部、152…円筒部、153…ハウジング用凸条部(ハウジング用凸部)、154…ハウジング用突起部(ハウジング用凸部)、401…ダストカバー、412…固定部、412A…内面側径方向面、412B…外面側径方向面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタッドボールと、径方向外側に延在するフランジ部を有するボールシートと、固定部を有するダストカバーとを準備し、
前記スタッドボール、前記ボールシート、および、前記ダストカバーからなるサブ組立体を形成し、
前記サブ組立体の前記ボールシートをリング部材の孔部に挿入し、前記ボールシートの外周部に前記リング部材を固定し、
前記リング部材が固定された前記サブ組立体を中子として成形型内に挿入してキャビティを形成し、そのキャビティ内に樹脂を注入して射出成形を行うことにより、前記ボールシートの外周部を覆うハウジングおよびそのハウジングを支持するサポートバーを一体成形し、
前記サブ組立体の形成では、前記ダストカバーの前記固定部の内面側径方向面を、前記ボールシートの前記フランジ部の外周側径方向面に当接させ、
前記リング部材の固定では、前記ボールシートの外周部と前記リング部材の内周部を当接させるとともに、前記リング部材の一面によって前記ダストカバーの前記固定部の外面側径方向面を前記ボールシートの前記フランジ部に向かって押圧して前記リング部材と前記ボールシートの前記フランジ部とで前記ダストカバーの前記固定部を狭持し、
前記サブ組立体の前記成形型内への挿入では、前記成形型の内面と前記ボールシートの前記外周部との間に所定の間隔をあけるとともに、前記成形型の端部を前記リング部材の他面に当接させることにより、前記成形型の内面、前記ボールシートの前記外周部、および、前記リング部材の前記他面により前記キャビティを形成することを特徴とするスタビリンクの製造方法。
【請求項2】
前記キャビティの形成時、前記リング部材の前記一面の外周側に押圧部材を当接させることを特徴とする請求項1に記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項3】
前記押圧部材は、前記スタッドボールの鍔部に対向する一面を有し、
前記キャビティの形成時、前記押圧部材の前記一面を前記スタッドボールの鍔部に当接させることを特徴とする請求項1または2に記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項4】
前記リング部材は、前記一面を有するとともに平板状のリング形状をなす本体部を有し、前記本体部の軸線方向長を2mm以上に設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項5】
前記リング部材は、前記一面を有するとともに平板状のリング形状をなす本体部と、前記本体部の他面の内周部側から軸線方向に延在するとともに前記本体部よりも外径が小さな円筒部とを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項6】
前記リング部材の前記円筒部の外周部には、ハウジング用凸部およびハウジング用凹部の少なくとも一方が形成されていることを特徴とする請求項5に記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項7】
前記リング部材の軸線方向長を2mm以上に設定することを特徴とする請求項5または6に記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項8】
前記ボールシートの外周部には、そこに前記リング部材を固定するためのリング部材用溝部およびリング部材用突起部の少なくとも一方が形成され、
前記リング部材用溝には、前記リング部材の前記内周部が嵌合し、
前記リング部材用突起部と前記ダストカバーの前記固定部とが、前記リング部材を狭持することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項9】
前記ボールシートの前記外周部に対する前記リング部材の前記内周部の嵌め代を、直径で、0.02〜0.2mmの範囲内に設定することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項10】
前記リング部材の前記一面により押圧される前記ダストカバーの前記固定部の押圧代を、前記固定部の肉厚の5〜30%の範囲内に設定することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項11】
前記リング部材の外径を、直径で、前記ボールシートの前記フランジ部の外径と前記ダストカバーの肉厚の2倍の厚さとの総和以上に設定することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項12】
前記リング部材に対する前記成形型の押さえ代を、半径で、1mm以上に設定することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項13】
前記リング部材の前記一面の内周側コーナ部に、C面取りあるいはR面取りを行うことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項14】
前記リング部材の材質として、グラスファイバを含有している熱可塑性エンジニアリングプラスチックを用いることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のスタビリンクの製造方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載のスタビリンクの製造方法により得られ、
前記スタッドボール、前記ボールシート、前記ダストカバー、前記リング部材、前記ハウジング、および、前記サポートバーを備えたことを特徴とするスタビリンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−2597(P2013−2597A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136428(P2011−136428)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】