説明

ステアリング装置

【課題】チルト位置調整時に、送りナットとナットホルダがコラムの中心軸線方向に相対摺動しても、ステアリング装置にガタを感じることがなく、ステアリング装置の剛性感が向上して、操舵フィーリングの悪化を抑制可能なステアリング装置を提供する。
【解決手段】本発明の電動ステアリング装置101は、送りナット65の円柱形状の外周651を、弾性体74、74がその弾性力によって締め付けている。従って、送りナット65に対してナットホルダ71が、ロアーコラム3の中心軸線方向に相対摺動する時のガタを排除している。その結果、ステアリング装置にガタを感じることがなく、ステアリング装置の剛性感が向上して、操舵フィーリングの悪化を抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステアリング装置、特に、ステアリングホイールのチルト位置、または、チルト位置とテレスコピック位置の両方を、送りねじ機構の送り運動により調整することができるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の体格や運転姿勢に応じて、ステアリングホイールのチルト位置、または、チルト位置とテレスコピック位置の両方を調整する必要がある。このチルト位置、または、チルト位置とテレスコピック位置の両方の調整を、電動モータの回転で送りねじ軸を回転させ、この送りねじ軸に螺合する送りナットを直進移動させて行うステアリング装置がある。
【0003】
ステアリング装置のチルト位置を電動モータの回転で調整する送りねじ機構を有するステアリング装置として、特許文献1及び特許文献2に示すステアリング装置がある。特許文献1のステアリング装置の送りねじ機構では、送りナットは直線運動するのに対し、コラムはチルト中心軸を支点として円弧運動するため、これら両運動には、コラムの中心軸線方向のずれが生じる。
【0004】
チルト位置調整を滑らかに行うために、送りナットに対してコラムの中心軸線方向に相対摺動可能にナットホルダを連結し、このナットホルダを介して送りナットをコラムに連結するという解決方法がある。この解決方法では、送りナットをコラムに連結した位置と送りナットの中心位置が、コラムの軸方向にずれることができるため、これら両運動のコラムの中心軸線方向のずれを吸収することができる。
【0005】
しかし、送りナットとナットホルダが、コラムの中心軸線方向に円滑に相対摺動するためには、送りナットとナットホルダとの間の摺動面には適正な隙間が必要となる。また、送りナットとナットホルダの材質が異なる場合には、温度変化に伴う寸法変化量の差を考慮して、常温状態で、送りナットとナットホルダとの間の摺動面に、ある程度の隙間を与える場合がある。
【0006】
しかしながら、送りナットとナットホルダとの間の摺動面に隙間があると、運転者がステアリング装置のステアリングホイールを握って運転操作をした時に、ステアリング装置にガタを感じるため、ステアリング装置の剛性感が低下して、操舵フィーリングが悪化するという問題点があった。
【0007】
【特許文献1】特公平6−37172号公報
【特許文献2】特開2000−238647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、チルト位置調整時に、送りナットとナットホルダがコラムの中心軸線方向に相対摺動しても、ステアリング装置にガタを感じることがなく、ステアリング装置の剛性感が向上して、操舵フィーリングの悪化を抑制可能なステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は以下の手段によって解決される。すなわち、第1番目の発明は、車体後方側にステアリングホイールが装着されるステアリングシャフト、車体取付けブラケットを介して車体に取り付けられ、上記ステアリングシャフトを回転可能に軸支するとともに、チルト中心軸を支点とするチルト位置調整、または、チルト中心軸を支点とするチルト位置調整と、上記ステアリングシャフトの中心軸線に沿ったテレスコピック位置調整の両方が可能なコラム、上記コラムまたは車体取付けブラケットに設けられた電動アクチュエータ、上記電動アクチュエータによって駆動され、互いに螺合する送りねじ軸と送りナットの相対移動で、上記コラムのチルト運動を行うチルト駆動機構、上記送りナットの外周に上記コラムの中心軸線に略平行に摺動可能に外嵌されると共に、上記コラムに連結されたナットホルダ、上記送りナットとナットホルダとの嵌合隙間に装着されて、送りナットの外周をその弾性力によって締め付ける弾性体を備えたことを特徴とするステアリング装置である。
【0010】
第2番目の発明は、第1番目の発明のステアリング装置において、上記送りナットの外周は円柱形状に形成され、上記ナットホルダの内周には、上記送りナットの円柱形状の外周に外嵌する円筒孔が形成されていることを特徴とするステアリング装置である。
【0011】
第3番目の発明は、第1番目の発明のステアリング装置において、上記送りナットの外周は角柱形状に形成され、上記ナットホルダの内周には、上記送りナットの角柱形状の外周に外嵌する矩形孔が形成されていることを特徴とするステアリング装置である。
【0012】
第4番目の発明は、第1番目の発明のステアリング装置において、上記送りナットの外周は多角柱形状に形成され、上記ナットホルダの内周には、上記送りナットの多角柱形状の外周に外嵌する多角形孔が形成されていることを特徴とするステアリング装置である。
【0013】
第5番目の発明は、第1番目の発明のステアリング装置において、上記弾性体は断面が円形で環状に形成されていることを特徴とするステアリング装置である。
【0014】
第6番目の発明は、第5番目の発明のステアリング装置において、上記弾性体の材質は合成ゴムであることを特徴とするステアリング装置である。
【0015】
第7番目の発明は、第5番目の発明のステアリング装置において、上記弾性体の材質は合成樹脂であることを特徴とするステアリング装置である。
【0016】
第8番目の発明は、第5番目から第7番目までのいずれかの発明のステアリング装置において、上記弾性体は上記ナットホルダの内周に形成された環状溝に挿入されていることを特徴とするステアリング装置である。
【0017】
第9番目の発明は、第5番目から第7番目までのいずれかの発明のステアリング装置において、上記弾性体は複数形成されていることを特徴とするステアリング装置である。
【0018】
第10番目の発明は、第9番目の発明のステアリング装置において、上記弾性体は上記ナットホルダの内周に形成された複数の環状溝に各々挿入されていることを特徴とするステアリング装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のステアリング装置では、電動アクチュエータによって駆動され、互いに螺合する送りねじ軸と送りナットの相対移動で、コラムのチルト運動を行うチルト駆動機構であって、送りナットの外周にコラムの中心軸線に略平行に摺動可能に外嵌されると共に、コラムに連結されたナットホルダを有し、送りナットとナットホルダとの嵌合隙間に装着されて、送りナットの外周をその弾性力によって締め付ける弾性体を備えている。
【0020】
従って、チルト位置調整時に、送りナットとナットホルダがコラムの中心軸線方向に相対摺動しても、送りナットの外周を弾性体がその弾性力によって締め付けるため、ステアリング装置にガタを感じることがなく、ステアリング装置の剛性感が向上して、操舵フィーリングの悪化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下の実施例では、ステアリングホイールの上下方向位置と前後方向位置の両方の位置を調整する、チルト・テレスコピック式の電動ステアリング装置に本発明を適用した例について説明する。もちろん、本発明は、ステアリングホイールの上下方向位置のみが調整可能なチルト式の電動ステアリング装置に適用してもよい。
【0022】
図1は本発明の電動ステアリング装置101を車両に取り付けた状態を示す全体斜視図である。電動ステアリング装置101は、ステアリングシャフト102を回動自在に軸支している。ステアリングシャフト102には、その上端(車体後方側)にステアリングホイール103が装着され、ステアリングシャフト102の下端(車体前方側)には、ユニバーサルジョイント104を介して中間シャフト105が連結されている。
【0023】
中間シャフト105には、その下端にユニバーサルジョイント106が連結され、ユニバーサルジョイント106には、ラックアンドピニオン機構等からなるステアリングギヤ107が連結されている。
【0024】
運転者がステアリングホイール103を回転操作すると、ステアリングシャフト102、ユニバーサルジョイント104、中間シャフト105、ユニバーサルジョイント106を介して、その回転力がステアリングギヤ107に伝達され、ラックアンドピニオン機構を介して、タイロッド108を移動し、車輪の操舵角を変えることができる。
【0025】
次に、本発明の実施例1から実施例2のステアリング装置の詳細な構造について説明する。
【実施例1】
【0026】
図2は本発明の実施例1のチルト・テレスコピック式の電動ステアリング装置の要部を示す正面図である。図3は図2のA−A断面図であって、チルト駆動機構の要部を示す。図4は図3のB−B断面図であって、チルト駆動機構の送りナットとナットホルダとの嵌合部の要部を示す。図5は図3のC−C断面図である。図6は図4の送りナットとナットホルダとの嵌合部の剛性線図である。
【0027】
図2から図4に示すように、本発明のチルト・テレスコピック式の電動ステアリング装置101は、車体取付けブラケット2、ロアーコラム(アウターコラム)3、アッパーコラム(インナーコラム)4等から構成されている。
【0028】
車体後方側の車体取付けブラケット2は、その上板21が車体11に固定されている。ロアーコラム3の車体前方側(図2の右側)には、操舵補助部(電動アシスト機構)35のハウジング351の左端が圧入によって固定される。操舵補助部35は、電動モータ352、減速ギヤボックス部353、出力軸354等から構成されている。操舵補助部35は、ブラケット31によって、チルト中心軸32を介して車体11にチルト位置調整(図2の紙面に平行な平面内で揺動)可能に支持されている。
【0029】
ロアーコラム3の内周には、アッパーコラム4がテレスコピック位置調整(ロアーコラム3の中心軸線に平行に摺動)可能に嵌合している。アッパーコラム4には、上部ステアリングシャフト102Aが回動可能に軸支され、上部ステアリングシャフト102Aの車体後方側(図2の左側)端部には、ステアリングホイール103が固定されている。
【0030】
ロアーコラム3には、図示しない下部ステアリングシャフトが回動可能に軸支され、下部ステアリングシャフトは上部ステアリングシャフト102Aとスプライン嵌合している。従って、アッパーコラム4のテレスコピック位置に関わらず、上部ステアリングシャフト102Aの回転が下部ステアリングシャフトに伝達される。
【0031】
操舵補助部35は、下部ステアリングシャフトに作用するトルクを検出し、電動モータ352を駆動して、出力軸354を所要の操舵補助力で回転させ、車体前方側に接続される中間シャフト105を経由して、ステアリングギヤ107に連結され、車輪の操舵角を変えることができる。
【0032】
車体取付けブラケット2の上板21には、上板21から下方に平行に延びる左右の側板22、22が形成され、この左右の側板22、22の内側面に、ロアーコラム3がチルト摺動可能に挟持されている。
【0033】
ロアーコラム3の下面外周には、テレスコ位置調整を行うテレスコ駆動機構5が取付けられている。また、車体取付けブラケット2の下方には、チルト位置調整を行うチルト駆動機構6が取付けられている。
【0034】
ロアーコラム3の下面外周には、テレスコ用モータ51が取付けられている。ロアーコラム3の下面には、ロアーコラム3の中心軸線に平行に送りねじ軸53が取付られ、送りねじ軸53の車体後方端(図2の左端)が、アッパーコラム4の車体後方端に固定されたフランジ41の下端に連結されている。
【0035】
テレスコ用モータ51の回転が、図示しないウォームホイールに伝達され、送りねじ軸53に螺合する図示しない送りナットを回転させる。この送りナットの回転で送りねじ軸53を往復移動(図2の左右方向の移動)して、アッパーコラム4をテレスコピック位置調整する。
【0036】
チルト駆動機構6用のチルト用モータ61の出力軸66(図5参照)に取付けられたウォーム62が、送りねじ軸63(図3参照)の下方に取付けられたウォームホイール64に噛み合って、チルト用モータ61の回転を送りねじ軸63に伝達している。ウォーム62は、軸受671、672によって、車体取付けブラケット2の下端に回転可能に軸支されている。
【0037】
送りねじ軸63は、チルト用モータ61の中心軸線に対して垂直(図2、図3の上下方向)に延び、その上端と下端が、軸受681、682によって車体取付けブラケット2に回転可能に軸支されている。送りねじ軸63の外周に形成された雄ねじには、円柱形状の送りナット65の雌ねじ652が螺合し、この送りねじ軸63と送りナット65によって、チルト駆動用の送りねじ機構が構成されている。送りねじ軸63が回転すると、送りナット65は垂直方向に直線運動を行う。
【0038】
送りナット65の円柱形状の外周651には、外径形状が角柱形状のナットホルダ71の円筒孔711が外嵌している。その結果、ナットホルダ71は、ロアーコラム3の中心軸線方向に略平行(チルト用モータ61の中心軸線に対して平行)に相対摺動可能に、送りナット65に連結されている。
【0039】
また、ナットホルダ71は、その上面716と下面717の左右方向(図3で見て)の中央部に、ロアーコラム3の中心軸線方向に平行(図3の紙面に直交する方向、図4の左右方向)に長い長孔72、72を形成している。そして、上記送りねじ軸63をこれら各長孔72、72を通じて、ナットホルダ71内に挿通している。
【0040】
上記送りナット65は、ナットホルダ71の長さ方向(図3の紙面に直交する方向、図4の左右方向)の何れかの側からこのナットホルダ71内に挿入する。また、このナットホルダ71に上記長孔72、72を通じて挿通した送りねじ軸63の雄ねじ部に、上記送りナット65の雌ねじ652を螺合させている。
【0041】
また、図3に示すように、ロアーコラム3の右側面(図3の右側)33には、円形孔34が形成されている。そして、この円形孔34内に、ナットホルダ71の左側面714に突出して形成した円柱形状の連結ピン712が、円形孔34に対して相対回転可能に内嵌している。
【0042】
従って、このナットホルダ71を介して送りナット65をロアーコラム3に連結すると、送りナット65をロアーコラム3に連結した位置と送りナット65の中心位置(送りねじ軸63の中心位置)が、ロアーコラム3の中心軸線に平行な方向にずれることができるため、これら両運動のコラムの中心軸線方向のずれを吸収することができる。また、送りナット65とナットホルダ71が、ロアーコラム3の中心軸線方向に円滑に相対摺動するために、送りナット65の外周651とナットホルダ71の円筒孔711との間には、若干の隙間が形成されている。
【0043】
また、ナットホルダ71の右側面715には、ナットホルダ71の右側に突出した円柱形状の連結ピン713が形成されている。そして、これら両連結ピン712、713は、図3で見て、同一水平線上に配置され、かつ、互いに同軸上に位置している。
【0044】
また、ロアーコラム3の右側面33には、ナットホルダ71の車体前方側(図2の右側)に、L字形(図2及び図3の上方から見て)の腕部36の基端部361を固定している。この基端部361から車体後方側にL字形に折れ曲がり、ロアーコラム3の右側面33に平行に、車体後方側に延びる後方延長部362の内側面363(図3の左側面)に、円形孔364を形成している。
【0045】
そして、上記連結ピン713が円形孔364に、円形孔364に対して相対回転可能に内嵌している。この様な構成にすれば、ステアリングホイール103のチルト位置調整時に、ロアーコラム3に対するナットホルダ71の回動を、より円滑に、且つ、より安定して行なえる。この結果、ロアーコラム3の、チルト中心軸32を支点とする円弧運動を、より円滑に、かつ、より安定して行うことが可能となる。
【0046】
図3及び図4に示すように、ナットホルダ71の円筒孔711には、長孔72、72の閉鎖端721、721の外側に、断面矩形の環状溝73、73が形成されている。この環状溝73、73には、断面が円形で環状の弾性体74、74が挿入されている。弾性体74、74の材質は、合成ゴム等の合成樹脂で形成されている。弾性体74、74は、例えばOリングでもよい。
【0047】
送りナット65をナットホルダ71の長さ方向の一方の側からこのナットホルダ71内に挿入すると、弾性体74、74が圧縮されて、略楕円形に弾性変形する。その結果、送りナット65の円柱形状の外周651を、弾性体74、74がその弾性力によって締め付ける。
【0048】
上記したように、送りナット65の外周651とナットホルダ71の円筒孔711との間には、若干の隙間が形成されている。しかし、送りナット65の円柱形状の外周651を、弾性体74、74がその弾性力によって締め付けることによって、送りナット65に対してナットホルダ71が、ロアーコラム3の中心軸線方向に相対摺動する時のガタを排除することが可能となる。
【0049】
図6に、図4の送りナット65とナットホルダ71との嵌合部の剛性線図を示し、図6(1)は本発明の実施例1の電動ステアリング装置101の剛性線図、図6(2)は従来の電動ステアリング装置の剛性線図である。
【0050】
すなわち、図4で、ナットホルダ71の円筒孔711の内径寸法をD、送りナット65の円柱形状の外周651の外径寸法をdとする。図6で、横軸Yは、ステアリングホイール103のチルト調整方向の変位量、縦軸Fyは、ステアリングホイール103をチルト調整方向に変位させるのに必要な力の大きさを表している。図6でL1(図2参照)は、チルト中心軸32とステアリングホイール103との間の距離、L2(図2参照)は、チルト中心軸32と連結ピン712、713との間の距離を表している。
【0051】
従来の電動ステアリング装置は、送りナット65の外周651とナットホルダ71の円筒孔711との間に若干の隙間が形成されている。従って、図6(2)に示すように、ステアリングホイール103のチルト調整方向の変位量が、L1/L2(D−d)の範囲では、ステアリングホイール103をチルト調整方向に変位させるのに必要な力の大きさが一定で、かつ小さい。
【0052】
すなわち、ステアリングホイール103に加える力を増やさなくても、ステアリングホイール103がチルト調整方向に変位してしまう。従って、運転者がステアリング装置のステアリングホイール103を握って運転操作をした時に、ステアリング装置にガタを感じるため、ステアリング装置の剛性感が低下して、操舵フィーリングが悪化していた。
【0053】
これに対して、本発明の実施例1の電動ステアリング装置101は、送りナット65の円柱形状の外周651を、弾性体74、74がその弾性力によって締め付けている。従って、送りナット65に対してナットホルダ71が、ロアーコラム3の中心軸線方向に相対摺動する時のガタを排除している。その結果、図6(1)に示すように、ステアリングホイール103のチルト調整方向の変位量が、L1/L2(D−d)の範囲であっても、ステアリングホイール103のチルト調整方向の変位量に比例して、ステアリングホイール103をチルト調整方向に変位させるのに必要な力の大きさが増加する。
【0054】
すなわち、ステアリング装置にガタを感じることがなく、ステアリング装置の剛性感が向上して、操舵フィーリングの悪化を抑制することが可能となる。
【0055】
この電動ステアリング装置101で、ステアリングホイール103のチルト位置を調整する必要が生じると、運転者は図示しないスイッチを操作して、チルト用モータ61を回転させる。すると、チルト用モータ61の回転によって送りねじ軸63が回転し、送りナット65が直線運動を行い、アッパーコラム4が上方のチルト位置に調整される。
【0056】
送りナット65は、図2、図3、図4の上下方向に直線運動するのに対し、ロアーコラム3は、チルト中心軸32を支点として円弧運動するため、これら両運動には、図2、図4の左右方向のずれが生じる。しかし、このずれは、送りナット65とナットホルダ71が、ロアーコラム3の中心軸線方向に平行に円滑に相対摺動することによって吸収する。
【実施例2】
【0057】
図7は本発明の実施例2のチルト・テレスコピック式の電動ステアリング装置の要部を示す正面図である。図8は図7のD−D断面図であって、チルト駆動機構を示す。図9は図8のチルト駆動機構の要部の拡大断面図である。図10は図9のE−E断面図であって、チルト駆動機構の送りナットとナットホルダとの嵌合部を示す。図11は図9のF−F断面図であって、チルト駆動機構の送りナットとナットホルダとの嵌合部を示し、一部を省略した断面図である。
【0058】
以下の説明では、上記実施例1と異なる構造部分と作用についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、上記実施例1と同一部品には同一番号を付して説明する。実施例2は、角柱形状の送りナットに適用した例である。
【0059】
図7から図11に示すように、本発明の実施例2のチルト・テレスコピック式の電動ステアリング装置101は、実施例1と同様に、車体取付けブラケット2、ロアーコラム(アウターコラム)3、アッパーコラム(インナーコラム)4等から構成されている。
【0060】
車体後方側の車体取付けブラケット2は、その上板21が車体11に固定されている。
ロアーコラム3の車体前方側(図7の右側)には、操舵補助部(電動アシスト機構)35は無く、ブラケット31が一体的に形成されている。このブラケット31が、チルト中心軸32を介して車体11にチルト位置調整(図7の紙面に平行な平面内で揺動)可能に支持されている。
【0061】
ロアーコラム3の内周には、アッパーコラム4がテレスコピック位置調整(ロアーコラム3の中心軸線に平行に摺動)可能に嵌合している。アッパーコラム4には、上部ステアリングシャフト102Aが回動可能に軸支され、上部ステアリングシャフト102Aの車体後方側(図7の左側)端部には、ステアリングホイール103が固定されている。
【0062】
ロアーコラム3には、下部ステアリングシャフト102Bが回動可能に軸支され、下部ステアリングシャフト102Bは上部ステアリングシャフト102Aとスプライン嵌合している。従って、アッパーコラム4のテレスコピック位置に関わらず、上部ステアリングシャフト102Aの回転が下部ステアリングシャフト102Bに伝達される。
【0063】
ステアリングホイール103の回転で下部ステアリングシャフト102Bを回転させ、車体前方側に接続されるの中間シャフト105(図1参照)を経由して、ステアリングギヤ107(図1参照)に連結され、車輪の操舵角を変えることができる。
【0064】
車体取付けブラケット2の上板21には、上板21から下方に平行に延びる左右の側板22、22が形成され、この左右の側板22、22の内側面に、ロアーコラム3がチルト摺動可能に挟持されている。
【0065】
実施例2のチルト・テレスコピック式の電動ステアリング装置101には、実施例1と同様に、テレスコ位置調整を行うテレスコ駆動機構5とチルト位置調整を行うチルト駆動機構6が取付けられている。
【0066】
テレスコ駆動機構5は実施例1と同様な構造を有している。また、チルト駆動機構6用のチルト用モータ61の出力軸に取付けられたウォーム62が、送りねじ軸63の下方に取付けられたウォームホイール64に噛み合って、チルト用モータ61の回転を送りねじ軸63に伝達している。
【0067】
送りねじ軸63は、チルト用モータ61の中心軸線に対して垂直(図7から図10の上下方向)に延び、その上端と下端が、軸受681、682によって車体取付けブラケット2に回転可能に軸支されている。送りねじ軸63の外周に形成された雄ねじには、角柱形状の送りナット69の雌ねじ692が螺合し、この送りねじ軸63と送りナット69によって、チルト駆動用の送りねじ機構が構成されている。送りねじ軸63が回転すると、送りナット69は垂直方向に直線運動を行う。
【0068】
送りナット69の角柱形状の外周691には、角柱形状のナットホルダ75の矩形孔751が外嵌している。その結果、ナットホルダ75は、ロアーコラム3の中心軸線方向に略平行(チルト用モータ61の中心軸線に対して平行)に相対摺動可能に送りナット69に連結されている。
【0069】
また、ナットホルダ75は、その上面756と下面757の左右方向(図8、図9で見て)の中央部に、ロアーコラム3の中心軸線方向に平行(図8、図9の紙面に直交する方向、図10の左右方向)に長い長孔72、72を形成しており、上記送りねじ軸63をこれら各長孔72、72を通じて、ナットホルダ75内に挿通している。また、このナットホルダ75に上記長孔72、72を通じて挿通した送りねじ軸63の雄ねじ部に、上記送りナット69の雌ねじ692を螺合させている。
【0070】
また、図8、図9に示すように、ロアーコラム3の右側面33には、円形孔34が形成され、この円形孔34内に、ナットホルダ75の左側面754に突出して形成した円柱形状の連結ピン752が、円形孔34に対して相対回転可能に内嵌している。
【0071】
従って、このナットホルダ75を介して送りナット69をロアーコラム3に連結すると、送りナット69をロアーコラム3に連結した位置と送りナット69の中心位置(送りねじ軸63の中心位置)が、ロアーコラム3の軸方向にずれることができるため、これら両運動のコラムの中心軸線方向のずれを吸収することができる。また、送りナット69とナットホルダ75が、ロアーコラム3の中心軸線方向に平行に円滑に相対摺動するために、送りナット69の外周691とナットホルダ75の矩形孔751との間には、若干の隙間が形成されている。
【0072】
また、ナットホルダ75の右側面755には、実施例1のような右側に突出した円柱形状の連結ピンは無く、連結ピンが相対回転可能に内嵌するL字形の腕部も無い。
【0073】
図9から図11に示すように、ナットホルダ75の矩形孔751には、長孔72、72の閉鎖端721、721の外側に、断面矩形(図10で見て)の環状溝(図9で見て断面が矩形の矩形環状溝)76、76が形成されている。この環状溝76、76には、断面が円形で環状の弾性体77、77が挿入されている。弾性体77、77の材質は、合成ゴム等の合成樹脂で形成されている。
【0074】
送りナット69をナットホルダ75の長さ方向の一方の側からこのナットホルダ75内に挿入すると、弾性体77、77が圧縮されて、略楕円形に弾性変形し、送りナット69の角柱形状の外周691を、弾性体77、77がその弾性力によって締め付ける。
【0075】
上記したように、送りナット69の外周691とナットホルダ75の矩形孔751との間には、若干の隙間が形成されている。しかし、送りナット69の角柱形状の外周691を、弾性体77、77がその弾性力によって締め付けることによって、送りナット69に対してナットホルダ75が、ロアーコラム3の中心軸線方向に相対摺動する時のガタを排除することが可能となる。
【0076】
従って、本発明の実施例2の電動ステアリング装置101においても、ステアリング装置にガタを感じることがなく、ステアリング装置の剛性感が向上して、操舵フィーリングの悪化を抑制することが可能となる。実施例2では、送りナット69の外周691は角柱形状に形成されているが、任意の数の辺を有する多角柱形状にすることが可能である。その場合、ナットホルダ75には、角柱形状の外周に外嵌する多角形孔を形成すればよい。
【0077】
上記実施例では、チルト・テレスコピック式の電動ステアリング装置に適用した例について説明したが、チルト位置の調整だけを行うチルト式の電動ステアリング装置の送りねじ機構に適用してもよい。また、上記実施例では、ロアーコラム3がアウターコラム、アッパーコラム4がインナーコラムで構成されているが、ロアーコラム3をインナ−コラム、アッパーコラム4をアウターコラムにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の電動ステアリング装置を車両に取り付けた状態を示す全体斜視図である。
【図2】本発明の実施例1のチルト・テレスコピック式の電動ステアリング装置の要部を示す正面図である。
【図3】図2のA−A断面図であって、チルト駆動機構の要部を示す。
【図4】図3のB−B断面図であって、チルト駆動機構の送りナットとナットホルダとの嵌合部の要部を示す。
【図5】図3のC−C断面図である。
【図6】図4の送りナットとナットホルダとの嵌合部の剛性線図である。
【図7】本発明の実施例2のチルト・テレスコピック式の電動ステアリング装置の要部を示す正面図である。
【図8】図7のD−D断面図であって、チルト駆動機構を示す。
【図9】図8のチルト駆動機構の要部の拡大断面図である。
【図10】図9のE−E断面図であって、チルト駆動機構の送りナットとナットホルダとの嵌合部を示す。
【図11】図9のF−F断面図であって、チルト駆動機構の送りナットとナットホルダとの嵌合部を示し、一部を省略した断面図である。
【符号の説明】
【0079】
101 電動ステアリング装置
102 ステアリングシャフト
102A 上部ステアリングシャフト
102B 下部ステアリングシャフト
103 ステアリングホイール
104 ユニバーサルジョイント
105 中間シャフト
106 ユニバーサルジョイント
107 ステアリングギヤ
108 タイロッド
11 車体
2 車体取付けブラケット
21 上板
22 側板
3 ロアーコラム
31 ブラケット
32 チルト中心軸
33 右側面
34 円形孔
35 操舵補助部
351 ハウジング
352 電動モータ
353 減速ギヤボックス
354 出力軸
36 腕部
361 基端部
362 後方延長部
363 内側面
364 円形孔
4 アッパーコラム
41 フランジ
5 テレスコ駆動機構
51 テレスコ用モータ
53 送りねじ軸
6 チルト駆動機構
61 チルト用モータ
62 ウォーム
63 送りねじ軸
64 ウォームホイール
65 送りナット
651 外周
652 雌ねじ
66 出力軸
671、672 軸受
681、682 軸受
69 送りナット
691 外周
692 雌ねじ
71 ナットホルダ
711 円筒孔
712、713 連結ピン
714 左側面
715 右側面
716 上面
717 下面
72 長孔
721 閉鎖端
73 環状溝
74 弾性体
75 ナットホルダ
751 矩形孔
752 連結ピン
754 左側面
755 右側面
756 上面
757 下面
76 環状溝
77 弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体後方側にステアリングホイールが装着されるステアリングシャフト、
車体取付けブラケットを介して車体に取り付けられ、上記ステアリングシャフトを回転可能に軸支するとともに、チルト中心軸を支点とするチルト位置調整、または、チルト中心軸を支点とするチルト位置調整と、上記ステアリングシャフトの中心軸線に沿ったテレスコピック位置調整の両方が可能なコラム、
上記コラムまたは車体取付けブラケットに設けられた電動アクチュエータ、
上記電動アクチュエータによって駆動され、互いに螺合する送りねじ軸と送りナットの相対移動で、上記コラムのチルト運動を行うチルト駆動機構、
上記送りナットの外周に上記コラムの中心軸線に略平行に摺動可能に外嵌されると共に、上記コラムに連結されたナットホルダ、
上記送りナットとナットホルダとの嵌合隙間に装着されて、送りナットの外周をその弾性力によって締め付ける弾性体を備えたこと
を特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたステアリング装置において、
上記送りナットの外周は円柱形状に形成され、上記ナットホルダの内周には、上記送りナットの円柱形状の外周に外嵌する円筒孔が形成されていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項1に記載されたステアリング装置において、
上記送りナットの外周は角柱形状に形成され、上記ナットホルダの内周には、上記送りナットの角柱形状の外周に外嵌する矩形孔が形成されていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
請求項1に記載されたステアリング装置において、
上記送りナットの外周は多角柱形状に形成され、上記ナットホルダの内周には、上記送りナットの多角柱形状の外周に外嵌する多角形孔が形成されていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項5】
請求項1に記載されたステアリング装置において、
上記弾性体は断面が円形で環状に形成されていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたステアリング装置において、
上記弾性体の材質は合成ゴムであること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項7】
請求項5に記載されたステアリング装置において、
上記弾性体の材質は合成樹脂であること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項8】
請求項5から請求項7までのいずれかに記載されたステアリング装置において、
上記弾性体は上記ナットホルダの内周に形成された環状溝に挿入されていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項9】
請求項5から請求項7までのいずれかに記載されたステアリング装置において、
上記弾性体は複数形成されていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項10】
請求項9に記載されたステアリング装置において、
上記弾性体は上記ナットホルダの内周に形成された複数の環状溝に各々挿入されていること
を特徴とするステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−81073(P2008−81073A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266467(P2006−266467)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】