説明

スパッタリング成膜装置

【課題】 ターゲット面上への不純物の混入、及び最終的には成膜基板への不純物の混入を防ぎ、外観特性の優れた成膜基板を提供する。
【解決手段】 プラズマ中の荷電粒子等からダメージを受けやすいシャッター機構の形状を従来の平面上の形状から、屏風型形状で、しかも板の折りたたんだ部分の角度が、ターゲット面から飛来する物質の突入角度に対して、20度以下の入射角度となるように細かな折り込み構造手段をもったシャッター機構である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DC及びRF出力によりプラズマ放電された真空チャンバー内に於いて、そのプラズマによってスパッタされたターゲットカソードより放出された粒子を成膜基板の成膜面に積層させて薄膜を成膜させるスパッタリング成膜装置に於いて、ターゲット及プラズマ状態が混在するエリアと成膜基板を適時遮断或いは露出させる為のシャッター等の名称を持った機構に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタ成膜時、成膜をスタート、ストップさせる為のシャッター等の名称を持った遮断機構は従来ターゲットと成膜基板の間に配置され、ターゲット面から成膜基板が見えなく成るような形状、構造を有し、その開閉動作を行うものである。
【0003】
また、スパッタ成膜に於いては、良質の結晶膜或いはアモルファス等の非晶質膜を形成するための手段として、また成膜レートが遅いといったスパッタ成膜の欠点を補う手段の一つとして、そのターゲットと成膜基板の距離は出来るだけ近距離にあることが望ましいとされている。しかし、そうなると必然的にシャッターはターゲット近傍の濃いプラズマ領域に接近することになり、シャッター表面はそれらプラズマに晒される割合が増すことになる。また、それらのシャッター機構は、従来平面構造を持った金属板等で構成されることが一般的であって、ターゲットと成膜基板を遮断する目的において妥当な形状であり構造であった。
【0004】
しかし、そのシャッター表面は密度の濃いプラズマ状態に晒されることになり、プラズマ中の負イオンはマイナス電荷を持ったターゲット面に反発して高エネルギーを持ったでシャッター面上に衝突し、またその量は、ターゲットとの距離が近ければ近いほど大幅に増える。
【0005】
またシャッター表面に付着した金属酸化物等の絶縁物質上では、プラズマ中のマイナス電荷蓄積しその量もターゲットとの距離が近ければ近いほど大幅に増加し、それに伴い、絶縁破壊に因る異常放電がパワー、量、共に増加する。また、主にDCスパッタリングの場合、シャッター面上の導通部分がアノードと成り、そこに電荷が集中することによりシャッター面上の一部分の付着した金属酸化物等の不純物質が溶けだし、或いは飛散させられるといった現象が起きている。
【0006】
これら状態の結果、上記理由で性能の良い成膜物質を得るために、ターゲットに接近して設置されたシャッター機構のその表面が冒される現象は、特にターゲット面に対して垂直に向き合い、エロージョン部より垂直ないしは放射状に飛散する荷電粒子や負イオン等の飛翔方向に対して高角度をもった向きに配置されている部位でのダメージが大きいということが我々の実験により確認されている。
【0007】
例えば、特許文献1参照。
【特許文献1】特開平04−254578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図2に従来のシャッターユニットの問題点を示す。
【0009】
201は成膜基板であり、202は真空チャンバー、203は従来のシャッター機構、204はターゲットカソード、205はRF電源ユニット、206はマッチングユニット、207はローパスフィルターユニット、208は導入ガスユニットである。
【0010】
以下、成膜基板へ成膜せずにシャッターで遮断された領域でスパッタリングを行うプレスパッタ状態の現象について記す。
【0011】
ターゲットカソード204にDC或いはRF或いは混在の出力が引火され、導入ガス208を導入することをトリガーとしてグロー放電が点火されマグネットを配したマグネトロンスパッタリングターゲットカソード前面近傍がプラズマ状態になりターゲット表面がスパッタされ飛散した金属分子がプラズマ化した導入ガスと反応し、金属化合物としてその周辺部分の部位に激しく衝突しながら堆積を繰り返す。その際、導入したガス種によっては、引火エネルギーにより負イオン化し、同じくマイナスイオンに帯電するターゲット表面の電荷に反発し、209の矢印方向へと加速される。そして、その衝突エネルギーの高い位置に存在するシャッターユニット等の部位に激しく衝突し、その結果、その衝突エネルギーとそのイオンの密度と量次第では、衝突したシャッターユニット上からサブミクロンオーダーの粒子が逆スパッタ現象として叩き出される。ただしその衝突エネルギーはターゲットカソード204からの距離と衝突を受けるシャッター機構203の配置角度、導入ガス圧及び導入出力等の条件によるものである。そうして付着物質が叩き出されたシャッターユニットの部位は、一部導電性を持った金属面が露出し、その露出された部分がプラズマを介してDC出力の電流が集中するアノードと化し、熱エネルギーをも堆積し、さらに付着物質が溶け叩き出される結果となる。そして、その叩き出された粒子が逆にターゲットカソード204上に堆積し、それを核としたノジュールへと成長してゆく様を図示したものである。
【0012】
また、210のように、シャッター面上に堆積した不純誘電体化合物等上にプラズマ中の電荷が貯まり、その貯まった電荷が一定量の耐電の後、絶縁破壊を起こし不純物質として数ミクロンから数十ミクロン単位のクラスター状で飛散される、といった現象も図示している。
【0013】
これらシャッター面上のダメージを受けた部分は、そこから叩き出された不純物質の一部が逆にターゲット面上に被着してしまう現象に繋がり、それら被着した粒子が核となってターゲット面上にノジュールを成長させ、そこで新たに発生したノジュール上で起きた異常放電により成膜中の成膜基板に不純物質を取り込ませる外観悪化現象を間接的に引き起こしてしまっている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで本発明では、前記ダメージを受けやすいシャッター機構の形状を従来の平面上の形状から、屏風型形状で、しかも板の折りたたんだ部分の角度が、ターゲット面から飛来する物質の突入角度に対して、20度以下の入射角度となるように細かな折り込み構造手段をもったシャッター機構であって、各部位への衝突エネルギーが軽減される構造となっている。
【0015】
また、シャッターの材質としてはステンレス等の熱に強い材質であって、屏風形状とした場合、折り曲げ部分の頂点箇所がターゲット面から飛来する物質の突入角度に対してほぼ90度を持つことになり唯一且つ最もダメージを受けやすい箇所となる。
【0016】
よって、シャッター板の板厚は1mm以下の薄い物を用い、頂点部分の面積を出来るだけ小さくすることが必要である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のシャッター機構を用いることにより、その成膜基板の特性及び品質、性能を向上させる目的で、ターゲットカソード部と成膜基板の距離を縮めたスパッタ成膜装置を用い、結果としてシャッターユニットをターゲット近傍に配置させることとなっても、シャッター機構への逆スパッタ現象や異常放電現象を多発させること無く、故に、成膜基板上で高成膜レートでかつ緻密性の高い、成膜物質が得られると共に、従来は、それら利点と反比例に表れる現象であった成膜基板上のゴミの付着を同時に低減でき、良質な成膜基板を得る事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の具体的な実施の形態について述べる。
【0019】
(第一の実施例)
本発明の第一の実施の形態について述べる。図1は第一の実施の形態について現したものであり、図1の101は成膜基板であり、102は真空チャンバー、103は屏風型形状シャッター機構、104はターゲットカソード、105はRF電源ユニット、106はマッチングユニット、107はローパスフィルターユニット、108は導入ガスユニットである。
【0020】
図1で示す本実施例の場合、109で示す負イオンの衝突が本発明のシャッターユニットに起きた場合に於いても、その衝突角度が20度以下と小さい為に、表面を破壊し粒子を飛散させるだけの衝突エネルギーは持ち得なく逆スパッタ率は非常に少なくなる。また、シャッター機構表面に電荷が蓄積され、絶縁破壊を引き起こす現象についても、その屏風型に織り込んだ板と板の間隔を図4の間隔bに示すように3mm以下の狭い間隔にすることにより、そのスペースに電荷を持ったプラズマが進入しづらくなり、結果として電荷が貯まりにくく絶縁破壊の起こる確率が低減される。また、絶縁破壊を起こしたとしても、その構造上、飛散不純物質は屏風状のシャッターからは飛散されにくい特徴も持つ。
【0021】
本実施例を用いて、二種類の酸化物誘電体を透明なガラス基板上に2.5μm程度の膜厚に積層させたときの成膜物質内に取り込まれたゴミの量をカウントしたデータを以下表1に示す。平面シャッターというのは、従来のシャッター機構を用いた場合で、図2の形態に当たる物である。また、屏風型シャッターというのは図1に当たる本発明のシャッター機構を用いた場合の成膜検討結果である。
【0022】
【表1】

前記、表1やそれをグラフ化した図5から明らかなように、本発明のシャッター機構を用いることにより、数μmから数十μm単位の目視にて判別できる単位のゴミの量が大きく減少しており、成膜基板上の外観劣化仕様の厳しい製品に対する手段として有効な発明であることがわかる。
【0023】
(第二の実施例)
本発明の第二の実施の形態について述べる。図3は第二の実施の形態について現したものであり、第一の実施例との差異は屏風形状のシャッター機構がターゲット面を中心とした扇形の曲率を持った形状になっているということである。その他のスパッタ装置の各部位は前実施例と同様であるため説明は省く。
【0024】
本実施例のシャッター機構の形状が上記扇形をしている理由は、カソード内にマグネットを配したターゲットの場合、その磁場の強い部分302のターゲット率が極端に高くなり、結果として同302のエロージョン部から飛散してゆく成膜物質の密度が濃く、303の矢印方向の如く成膜物質が放射線状に飛来して行く確率が高くなり、またそれが進行するに連れ、図の右側のエロージョン部302の如く削れたターゲットの部分から矢印304の向きに密度の高い比率で成膜物質が飛翔してゆく事になる。
【0025】
本実施例はそのような成膜物質の飛散方向に合わせて図3の様な形状に屏風型シャッター機構を設置することにより、より本発明の目的である成膜基板上のゴミの取り込まれ率を低減できる手段となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第一の実施例の図。
【図2】従来例の説明図。
【図3】本発明の第二の実施例の図。
【図4】本発明の補足図。
【図5】成膜結果を説明するための図。
【符号の説明】
【0027】
101 第一の実施例の成膜基板
102 第一の実施例の真空チャンバー
103 第一の実施例の屏風型形状シャッター機構
104 第一の実施例のターゲットカソード
105 第一の実施例のRF電源ユニット
106 第一の実施例のマッチングユニット
107 第一の実施例のローパスフィルターユニット
108 第一の実施例の導入ガスユニット
109 第一の実施例の負イオンの加速方向
110 第一の実施例のシャッター上の電荷の様子
201 従来例の成膜基板
202 従来例の真空チャンバー
203 従来例のシャッター機構
204 従来例のターゲットカソード
205 従来例のRF電源ユニット
206 従来例のマッチングユニット
207 従来例のローパスフィルターユニット
208 従来例の導入ガスユニット
209 従来例の負イオンの加速方向
210 従来例のシャッター上の電荷の様子
301 第二の実施例の屏風型シャッター機構
302 第二の実施例のエロージョン部
303 第二の実施例の成膜物質の飛散方向
304 第二の実施例のエロージョンが彫り込まれてきたときの成膜物質の飛散方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DC及びRF出力によりプラズマ放電された真空チャンバー内に於いて、そのプラズマによってスパッタされたターゲットカソードより放出された粒子を、成膜基板の成膜面に積層させて薄膜を成膜させるスパッタリング成膜装置に於いて、成膜させる物質の元となる金属製あるいはセラミック製のターゲットカソードと所定の金属や金属化合物や酸化化合物等の成膜物質を形成させる成膜基板の間に位置し、そのスパッタ成膜を成膜基板上に成膜開始(オープン)或いは遮断して成膜終了(クローズ)させる役割を担うシャッター等の名称を持った機構であって、その場所でのスパッタリングプロセス中、雰囲気密度的に最も多い、ターゲット面より垂直或いは放射状に飛翔する荷電粒子や負イオン等がそのシャッター機構各部位に衝突する際の衝突角度が20度以下の低い角度となるような形状を具備していることを特徴と成す、スパッタリング成膜装置である。
【請求項2】
前記請求項1の成膜装置であって、そのシャッター等の名称を持った機構の代表的な形状を屏風型形状と成す、スパッタリング成膜装置である。
【請求項3】
前記請求項1の成膜装置であって、そのシャッター等の名称を持った機構の材質としてはステンレス等の熱に強い材質であって、それを本発明の提案した形状とした場合、特にターゲット側を向いてしまう治具端部に当たる部分では、その板厚を1mm以下の物とすることを特徴とする上記請求項1に記載のスパッタリング成膜装置である。
【請求項4】
前記請求項1の成膜装置であって、本発明のシャッター機構は、ターゲット面から飛翔する荷電粒子や負イオンの、その最大公約数に当たる飛翔角度に対して、いずれの位置もシャッター機構への衝突角度を最小の入射角度として衝突させる事の出来る位置を得られるため、屏風型形状のシャッター機構の各部位を自由な形状に変形できるような機構を具備したことを特徴とする、請求項1に記載のスパッタリング成膜装置である。
【請求項5】
前記請求項1の成膜装置であって、本発明のシャッター機構は、ターゲットカソードより飛翔して付着した不純金属並びに不純金属化合物等の物質が積層されるに連れ、同機構の熱変形や大気開放等によって剥がれ落ちやすくなることの無いように、その全機構表面をセラミックス等の溶射処理やサンドブラスト処理といった手法を用い、数十ミクロンから数ミリメートルの荒さに仕上げた状態に保つことを特徴とする請求項1〜4に記載のスパッタリング成膜装置である。
【請求項6】
前記請求項1の成膜装置であって、本発明のシャッター機構は、そのターゲット側を向いた部位の屏風型に織り込んだ板状のシャッター板の頂点と頂点の間隔を常に3mm以下の間隔に成るように配置する機構となっていることを特徴とする請求項1〜5に記載のスパッタリング成膜装置である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−124749(P2006−124749A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312275(P2004−312275)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】