説明

スパッタリング装置及びスパッタリング方法

【課題】ターゲット表面での絶縁物の蓄積による異常放電の発生を防止し、膜質を向上させることが可能なスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】成膜プロセス領域20Aと反応プロセス領域60Aとが内部に形成された真空容器11と、成膜プロセス領域20A内でスパッタリングを行い基板Sの表面に膜原料物質を付着させるスパッタ手段20と、反応プロセス領域60A内でプラズマを発生させて基板Sの表面に付着した膜原料物質の反応物を生成させるプラズマ発生手段60と、を備え、スパッタ手段20は、中心軸線Xa−Xbを中心に回転可能な円筒状ターゲット81と、円筒状ターゲット81の表面に漏洩磁界を形成する磁性体ユニット88と、磁性体ユニット88に対して円筒状ターゲット81を回転させるターゲット回転モータ93と、を備えた。ターゲットの表面に非エロージョン領域が生じにくいため、絶縁物が蓄積しにくく、異常放電の発生を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリング装置及びスパッタリング方法に係り、特に、反応性スパッタリングにより薄膜形成を行うスパッタリング装置及びスパッタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング装置として、マグネトロンカソードによりターゲットをスパッタリングして基板表面に膜原料物質の薄膜を形成させる成膜プロセス領域と、反応性ガスのプラズマを発生させて成膜プロセス領域で基板表面に形成された膜原料物質を反応させる反応プロセス領域を備えた反応性スパッタリング装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
図9に示すように、特許文献1に記載のスパッタリング装置101は、仕切壁125で区画された成膜プロセス領域120Aと、仕切壁145で区画された成膜プロセス領域140Aと、仕切壁165で区画された反応プロセス領域160Aと反応プロセス領域160Aとが互いに真空容器111内の離間した位置に形成されている。成膜プロセス領域120Aには、スパッタ電極121と、これに固定された平板状のターゲット129が配設されている。また、成膜プロセス領域140Aには、スパッタ電極141と、これに固定された平板状のターゲット149が配設されている。成膜プロセス領域120A内でターゲット129を、成膜プロセス領域140A内でターゲット149をそれぞれスパッタリングすることで、基板の表面に金属超薄膜(膜原料物質の薄膜)を形成する。次に、基板を保持する基板ホルダ113を回転させて基板を反応プロセス領域160Aに移動させ、酸素ガス(反応性ガス)のプラズマにより金属超薄膜を金属酸化物超薄膜に変換している。
【0004】
しかしながら、平板状のターゲットではマグネトロン電極で発生する磁場が変化せずに固定されているため、ターゲットの位置によってスパッタリングされやすい領域とされにくい領域が発生する。
より詳細に説明すると、図10に示すように、スパッタ電極121は、ターゲット129の裏面側に配置されるヨーク122と、ヨーク122の表面に固定された中央磁石123a及び外側磁石123b,123cから構成されている。中央磁石123aはS極を、外側磁石123b,123cはN極をターゲット129に向けて配置されているため、中央磁石123aと外側磁石123bとの間、中央磁石123aと外側磁石123cとの間に磁場が形成され、その一部はターゲット129の表面で漏洩磁界を形成している。
【0005】
成膜プロセス領域120Aに不活性ガスを導入した状態で高周波電圧を印加すると、成膜プロセス領域120A内でプラズマが発生して不活性ガスをイオン化する。イオンはターゲット129に衝突して、二次電子を放出させる。この二次電子は、漏洩磁界のうちターゲット129の表面と水平方向に沿った軌道をサイクロイド運動して移動し、不活性ガスと衝突して更に多くのイオンを発生させる。すなわち、ターゲット129の表面に発生する漏洩磁界のうちターゲット129の表面と水平方向では多くのイオンが発生して高いレートでスパッタリングが行われるが、それ以外の領域ではイオンの発生が少なくスパッタリングレートが低い。
【0006】
このため、ターゲット129の表面に対して水平方向の磁場領域ではターゲット129が侵食(エロージョン)されやすく、それ以外の領域ではターゲット129がエロージョンされにくい。このように、磁場の向きの違いによりターゲット129の表面に侵食されやすい領域(エロージョン領域A)と侵食されにくい領域(非エロージョン領域B)が発生するため、全体としてターゲットの利用率が低下し、この結果、成膜に要するコストが上昇するという不都合があった。
【0007】
さらに、反応性スパッタリング装置では、反応プロセス領域160Aから成膜プロセス領域120Aに流入する反応性ガスとターゲット129が反応して、ターゲット129の表面に反応性ガスとの反応物(例えば、酸化物)が蓄積しやすいという性質がある。特許文献1のような平板状のターゲット129において、ターゲット129の表面のうちエロージョン領域はスパッタリングされやすいため絶縁物が蓄積してもすぐにスパッタリングにより除去されるが、非エロージョン領域はスパッタリングされにくいため絶縁物が蓄積しやすい。ターゲット129の表面に絶縁物が蓄積すると、これに正の電荷を有するイオンが蓄積し、負電位にあるターゲット129との間で電位差を生じる。絶縁物への電荷が蓄積しつづけ、最終的に絶縁限界を超えると絶縁破壊が起きてアーク放電(異常放電)が発生する。この異常放電によりターゲット材料の塊(パーティクル)が基板に飛散して薄膜に欠陥が生じるという不都合があった。また、異常放電によりターゲット表面にアーク痕が残り、この周辺で更に絶縁物の蓄積が生じて異常放電を起こすことで薄膜に欠陥を生じさせるという悪循環が生じる。
【0008】
一般的な反応性スパッタリングでは、成膜プロセス領域120A内にも反応性ガスを導入して、成膜プロセス領域120A内で膜原料物質と反応性ガスとの反応物を生成させることで、反応性の向上を図ることも行われている。しかしながら、上述した異常放電を防止するためには、ターゲット129と反応性ガスとを極力接触させないようにする必要があるため、成膜プロセス領域120A内に反応性ガスを導入することは事実上困難であるか、あるいは導入したとしてもその濃度は非常に低いものであり、反応性の向上に対する寄与が非常に低いという不都合があった。
【0009】
さらに、反応プロセス領域160A内に導入される反応性ガスについても、その濃度が高すぎると成膜プロセス領域120A,140Aに混入する反応性ガスの濃度が高くなる。このため、反応プロセス領域160A内に導入される反応性ガスについても、その濃度を低く保つ必要があった。
このように、従来のスパッタリング装置では、成膜プロセス領域120A,140Aや反応プロセス領域160Aに高濃度の反応性ガスを導入して膜原料物質と反応性ガスとの反応を促進させ、成膜レートの向上を図ることが困難となっていた。
【0010】
ところで、従来、反応性スパッタリングとは異なる一般的なスパッタリング装置において、ターゲットを回転させることでターゲット全体に占める非エロージョン領域の割合を低下させる技術が知られている(例えば、特許文献2〜4及び非特許文献1参照)。
特許文献2には、回転自在な円筒ターゲットと内部線形マグネット組立体とを備えたマグネトロンスパッタリング装置が開示されている。
特許文献3には、円筒状のチタン管と、チタン管の内部に配設される複数の磁石からなる円筒ターゲットを備えたリアクティブスパッタリング装置が開示されている。
特許文献4には、回転可能なチューブ状ターゲットと、この内部に配設されたマグネット・アセンブリとを備えたスパッタリング装置が開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開平11−256327号公報(請求項7、段落0010〜0034、第1図)
【特許文献2】特開平3−211275号公報(請求項33、第20頁、第21頁、第29図、第30図)
【特許文献3】特開平6−158312号公報(請求項1〜4、段落0006〜0011、第1図、第2図)
【特許文献4】特表2002−529600号公報(請求項1〜4、段落0006〜0011、第3図)
【非特許文献1】Steven J.Nadalら、"Strategies for high rate reactive sputtering"、Thin Solid Films、Elsevier Science B.V.、2001、Vol.392、p.174−183
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、特許文献2〜4のスパッタリング装置では、回転式の円筒ターゲットを回転させることで、ターゲット材料の使用率を80〜90%に向上させることが可能となる。これにより、薄膜形成に要するコストの低減を図ることが可能となる。
しかしながら、成膜プロセス領域と反応プロセス領域とが離間した反応性スパッタリング装置で、このような回転式のターゲットを用いた例については知られていなかった。
【0013】
本発明の目的は、成膜プロセス領域と反応プロセス領域とが離間した位置に設けられた反応性スパッタリング装置において、ターゲットの利用率を向上させて薄膜形成に要するコストを低減させるとともに、ターゲット表面での反応物の蓄積による異常放電の発生とこれに伴う膜質の低下を防止し、成膜時間の短縮を図ることが可能なスパッタリング装置及びスパッタリング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、従来の反応性スパッタリング装置に回転式のターゲットを適用することで、ターゲットの利用率を向上させるのみならず、ターゲット表面での反応物の蓄積を防止して異常放電(アーク放電)の発生を防止することができるという新たな知見を得て、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、上記課題は、本発明のスパッタリング装置によれば、基体に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、互いに空間的に離間した位置に形成された成膜プロセス領域及び反応プロセス領域が内部に有する真空容器と、前記成膜プロセス領域と前記反応プロセス領域との間で前記基体を搬送可能な基体搬送手段と、前記成膜プロセス領域内にスパッタガスを導入するスパッタガス導入手段と、前記成膜プロセス領域内で前記スパッタガスによるスパッタリングを行い前記基体の表面に膜原料物質を付着させるスパッタ手段と、前記反応プロセス領域内に反応性ガスを導入する反応性ガス導入手段と、前記反応プロセス領域内でプラズマを発生させて前記基体の表面に付着した前記膜原料物質と前記反応性ガスとを反応させるプラズマ発生手段と、を備え、前記スパッタ手段は、長手方向に沿った中心軸線を中心に回転可能な円筒状ターゲットと、該円筒状ターゲットの表面に磁界を形成する磁界形成手段と、該磁界形成手段に対して前記円筒状ターゲットを回転させるターゲット回転手段と、を備えたことにより解決される。
【0016】
このように、磁界形成手段に対して円筒状ターゲットが回転しているため、磁界に対する円筒状ターゲットの表面位置が変化し、非エロージョン領域が生じにくくなる。このため、円筒状ターゲットの表面全体をスパッタリングすることが可能となる。また、非エロージョン領域が生じにくいため、その表面に絶縁物が蓄積しにくく、異常放電の発生を防止することが可能となる。これにより、ターゲット材料の塊が基体に飛散することで薄膜の欠陥が発生することを防止することが可能となる。
【0017】
また、前記スパッタ手段は、前記成膜プロセス領域内に隣接して配設され、前記隣接して配設された一対のスパッタ手段に対して交互に電圧を印加する交流電源と、を備えることが好ましい。
【0018】
このように、成膜プロセス領域内に一対のスパッタ手段が隣接して配設されており、これに交流電圧を印加することで、スパッタ手段が備える円筒状ターゲットに正と負の電位が交互に印加される。このため、円筒状ターゲットの表面に電荷が蓄積してもこれが中和され、異常放電の発生が防止される。これにより、ターゲット材料の塊が基体に飛散することで薄膜の欠陥が発生することを防止することが可能となる。
また、一対のスパッタ手段のうち一方が正となっているときに、他方が負となっているため、成膜プロセス領域内での放電が持続し、成膜レートを低下させることなく安定的に薄膜形成を行うことが可能となる。
【0019】
また、前記真空容器は、複数の成膜プロセス領域を有し、該複数の成膜プロセス領域のそれぞれには、前記円筒状ターゲットを備えた前記スパッタ手段が配設され、前記複数の成膜プロセス領域のうち1つに配設された前記円筒状ターゲットは、他のいずれか1つに配設された前記円筒状ターゲットとは異なる材料で形成されていることが好ましい。
【0020】
このようにすることで、異なる材料からなる薄膜が積層した複合薄膜を基体上に形成することが可能となる。これにより、薄膜の物理的・光学的特性にバリエーションをもたせることが可能となる。
【0021】
さらに、前記成膜プロセス領域は、内部へのガスの流入を阻止するための仕切壁を有しないことが好ましい。
【0022】
このように、成膜プロセス領域が仕切壁を有していないため、スパッタリング装置の構成を簡単にすることが可能となる。また、反応プロセス領域に導入される反応性ガスが成膜プロセス領域内に流入しやすくなるため、反応プロセス領域に導入される反応性ガスを利用して反応性を更に向上させることが可能となる。これにより、薄膜形成に要するコストを低減することができる。
【0023】
また、上記課題は、本発明のスパッタリング方法によれば、基体に薄膜を形成するスパッタリング方法であって、真空容器内に区画された成膜プロセス領域内にスパッタガスを導入するスパッタガス導入工程と、前記成膜プロセス領域内で前記スパッタガスにより円筒状ターゲットをスパッタリングして前記基体の表面に膜原料物質を付着させるスパッタ工程と、前記成膜プロセス領域と空間的に離間した位置に形成された反応プロセス領域に前記基体を搬送する基体搬送工程と、前記反応プロセス領域内に反応性ガスを導入する反応性ガス導入工程と、前記反応プロセス領域内でプラズマを発生させて前記基体の表面に付着した前記膜原料物質と前記反応性ガスとを反応させるプラズマ発生工程と、を行い、前記スパッタ工程では、前記円筒状ターゲットの表面に磁界を形成した状態で、前記円筒状ターゲットをその長手方向に沿った中心軸線を中心に回転させることにより解決される。
【0024】
このように、磁界形成手段に対して円筒状ターゲットを回転させることで、磁界に対する円筒状ターゲットの表面位置を変化させて、非エロージョン領域が生じにくくさせることにより、円筒状ターゲットの表面全体をスパッタリングすることが可能となる。また、非エロージョン領域が生じにくいため、その表面に絶縁物が蓄積しにくく、異常放電の発生を防止することが可能となる。これにより、ターゲット材料の塊が基体に飛散することで薄膜の欠陥が発生することを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のスパッタリング装置及びスパッタリング方法によれば、磁界形成手段に対して円筒状ターゲットが回転しているため、非エロージョン領域が生じにくくなり、円筒状ターゲットの表面全体をスパッタリングすることが可能となる。また、非エロージョン領域が生じにくいため、その表面に絶縁物が蓄積しにくく、異常放電の発生を防止することが可能となり、薄膜に欠陥が生じることを防止することができる。このため、安価なコストで膜質の優れた薄膜を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は発明を具体化した一例であって本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
【0027】
図1〜図6は本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置について説明した図であり、図1はスパッタリング装置の横断面をとって上面から見た状態を示す説明図、図2は図1のスパッタリング装置の縦断面をとって側面から見た状態を示す説明図、図3は図1のスパッタリング装置の成膜プロセス領域周辺を拡大して示した説明図、図4は回転カソードユニットの斜視図、図5は図4の回転カソードユニットのXa−Xb断面図、図6は図1のスパッタリング装置の反応プロセス領域周辺を拡大して示した説明図である。
【0028】
本実施形態のスパッタリング装置1では、目的の膜厚よりも相当程度薄い薄膜を基板Sの表面に付着するスパッタ工程と、この薄膜に対してプラズマ処理を行って薄膜の組成を変換する反応工程とにより基板Sの表面に中間薄膜を形成し、このスパッタ工程と反応工程を複数回繰り返すことで、中間薄膜を複数層積層して目的の膜厚を有する最終薄膜を基板Sの表面に形成している。
具体的には、スパッタ工程と反応工程によって組成変換後における膜厚の平均値が0.01〜1.5nm程度の中間薄膜を基板Sの表面に形成する工程を、回転ドラム13の回転毎に繰り返すことにより、目的とする数nm〜数百nm程度の膜厚を有する最終薄膜を形成している。
【0029】
以下、スパッタリング装置について説明する。
図1に示すように、本実施形態のスパッタリング装置1は、真空容器11と、回転ドラム13と、ドラム回転モータ17(図2参照)と、スパッタ手段20と、スパッタガス供給手段30と、プラズマ発生手段60と、反応性ガス供給手段70と、を主要な構成要素としている。
なお、図中では、スパッタ手段20及びプラズマ発生手段60は破線で、スパッタガス供給手段30及び反応性ガス供給手段70は一点鎖線で表示している。
本実施形態では、酸化ケイ素(SiO)を成膜する例について説明する。
【0030】
真空容器11は、公知のスパッタリング装置で通常用いられるようなステンレススチール製で、ほぼ直方体形状をした中空体である。真空容器11の内部は、開閉扉としての扉11Cによって薄膜形成室11Aとロードロック室11Bに分けられる。真空容器11の上方には扉11Cを収容する扉収納室(不図示)が接続されており、扉11Cは、真空容器11の内部と扉収納室の内部との間でスライドすることで開閉する。
【0031】
真空容器11には、ロードロック室11Bと真空容器11の外部とを仕切るための扉11Dが設けられている。扉11Dはスライド又は回動することで開閉する。薄膜形成室11Aには排気用の配管16a−1が接続され、この配管16a−1には真空容器11の内部を排気するための真空ポンプ15aが接続されている。真空容器11の内部において配管16a−1には開口が形成されており、この開口は真空容器11の内部の成膜プロセス領域20Aと反応プロセス領域60Aとの間に位置している。これにより、成膜プロセス領域20Aで飛散した膜原料物質を真空ポンプ15aで吸引することが可能となり、成膜プロセス領域20Aから飛散した膜原料物質が反応プロセス領域60Aに侵入してプラズマ発生手段60を汚染したり、成膜プロセス領域20Aの外に位置する基板Sの表面に付着して汚染したりすることを防止している。
また、ロードロック室11Bには排気用の配管16bが接続され、この配管16bには真空容器11の内部を排気するための真空ポンプ15bが接続されている。
【0032】
本実施形態のスパッタリング装置1は、このようなロードロック室11Bを備えているため、薄膜形成室11A内の真空状態を保持した状態で基板Sの搬入出を行うことが可能となる。従って、基板Sを搬出する毎に真空容器11の内部を脱気して真空状態にする手間を省くことが可能となり、高い作業効率で成膜処理を行うことができる。
なお、本実施形態の真空容器11は、ロードロック室11Bを備えるロードロック方式を採用しているが、ロードロック室11Bを設けないシングルチャンバ方式を採用することも可能である。また、複数の真空室を備え、それぞれの真空室で独立に薄膜形成を行うことが可能なマルチチャンバ方式を採用することも可能である。
【0033】
回転ドラム13は、表面に薄膜を形成させる基板Sを真空容器11の内部で保持するための筒状の部材であり、基体保持手段としての機能を有する。図2に示すように、回転ドラム13は、複数の基板保持板13aと、フレーム13bと、基板保持板13a及びフレーム13bを締結する締結具13cと、を主要な構成要素としている。回転ドラム13は、本発明の基体搬送手段に相当する。
基板保持板13aはステンレススチール製の平板状部材で、基板Sを保持するための複数の基板保持孔を、基板保持板13aの長手方向に沿って板面中央部に一列に備えている。基板Sは、基板保持板13aの基板保持孔に収納され、脱落しないようにネジ部材等を用いて基板保持板13aに固定されている。また、基板保持板13aの長手方向の両端部には、後述する締結具13cを挿通可能なネジ穴が板面に設けられている。
【0034】
フレーム13bはステンレススチール製からなり、上下に配設された2つの環状部材で構成されている。フレーム13bのそれぞれの環状部材には、基板保持板13aのネジ穴と対応する位置にネジ穴が設けられている。基板保持板13aとフレーム13bはボルト及びナットからなる締結具13cを用いて固定される。具体的には、ボルトを基板保持板13a及びフレーム13bのネジ穴に挿通してナットで固定することにより固定される。
なお、本実施形態における回転ドラム13は、平板状の基板保持板13aを複数配置しているため横断面が多角形をした多角柱状をしているが、このような多角柱状のものに限定されず、円筒状や円錐状のものであってもよい。
【0035】
基板Sは、本発明の基体に相当するものであり、ガラス等の材料で形成された部材である。本実施形態では、基板Sとして円板状のものを用いているが、本発明の基体の形状としてはこのような円板状のものに限定されず、表面に薄膜を形成できる他の形状、例えばレンズ形状、円筒状、円環状といった形状であってもよい。ここで、ガラス材料とは、酸化ケイ素(SiO)で形成された材料であり、具体的には、石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラスなどが挙げられる。
【0036】
なお、基体の材料はガラスに限定されず、プラスチック樹脂などであってもよい。プラスチック樹脂の例としては、例えばポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート−ポリエチレンテレフタレート共重合体、ポリカーボネート−ポリブチレンテレフタレート共重合体、アクリル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群より選択される樹脂材料、又はこれらの材料とガラス繊維及び/又はカーボン繊維との混合物などが挙げられる。
【0037】
真空容器11の内部に設置された回転ドラム13は、図1に示す薄膜形成室11Aとロードロック室11Bとの間を移動できるように構成されている。本実施形態では、真空容器11の底面にレール(不図示)が設置されており、回転ドラム13はこのレールに沿って移動する。回転ドラム13は、円筒の筒方向の回転軸線Za−Zb(図2参照)が真空容器11の上下方向になるように真空容器11の内部に配設される。基板保持板13aをフレーム13bに取り付ける際やフレーム13bから取り外す際には、回転ドラム13はロードロック室11Bに搬送されて、このロードロック室11B内で基板保持板13aがフレーム13bに着脱される。一方、成膜中にあっては、回転ドラム13は薄膜形成室11Aに搬送されて、薄膜形成室11A内で回転可能な状態になっている。
【0038】
図2に示すように、回転ドラム13の下面中心部はモータ回転軸17aの上面と係合する形状になっている。回転ドラム13とモータ回転軸17aとは、モータ回転軸17aの中心軸線と回転ドラム13の中心軸線とが一致するよう位置決めされ、両者が係合することにより連結されている。回転ドラム13下面のモータ回転軸17aと係合する面は絶縁部材で構成されている。これにより、基板Sの異常放電を防止することが可能となる。また、真空容器11とモータ回転軸17aとの間は、Oリングで気密が保たれている。
【0039】
真空容器11の内部の真空状態を維持した状態で、真空容器11の下部に設けられたドラム回転モータ17を駆動させることによってモータ回転軸17aが回転する。この回転に伴って、モータ回転軸17aに連結された回転ドラム13は回転軸線Za−Zbを中心に回転する。各基板Sは、回転ドラム13上に保持されているため、回転ドラム13が回転することで回転軸線Za−Zbを公転軸として公転する。
【0040】
回転ドラム13の上面にはドラム回転軸18が設けられており、回転ドラム13の回転に伴ってドラム回転軸18も回転するように構成されている。真空容器11の上壁面には孔部が形成されており、ドラム回転軸18はこの孔部を貫通して真空容器11の外部に通じている。孔部の内面には軸受が設けられており、回転ドラム13の回転をスムーズに行えるようにしている。また、真空容器11とドラム回転軸18との間は、Oリングで気密が保たれている。
【0041】
次に、基板Sの表面に薄膜を形成する成膜プロセス領域20A及び反応プロセス領域60Aについて説明する。図1に示すように、真空容器11の内壁には、回転ドラム13へ面した位置に仕切壁12と仕切壁14が立設されている。仕切壁12と仕切壁14は、真空容器11内で成膜プロセス領域20Aと反応プロセス領域60Aをそれぞれ区画するための部材である。本実施形態における仕切壁12と仕切壁14は、いずれも真空容器11と同じステンレススチール製の部材である。仕切壁12と仕切壁14は、いずれも上下左右に一つずつ配設された平板部材により構成されており、真空容器11の内壁面から回転ドラム13に向けて四方を囲んだ状態となっている。これにより、成膜プロセス領域20A及び反応プロセス領域60Aが真空容器11の内部でそれぞれ離間した位置に区画される。仕切壁12と仕切壁14は、その端部が回転ドラム13の外周面に近接しており、回転ドラム13との間に僅かな隙間を空けた状態になっている。これにより、成膜プロセス領域20Aや反応プロセス領域60Aからのガスの流出や流入を阻害している。
【0042】
成膜プロセス領域20Aに位置する真空容器11の側壁は、外方に突出した横断面凸状をしており、突出した壁面にはスパッタ手段20が設けられている。成膜プロセス領域20Aは、真空容器11の内壁面と、この内壁面から垂直に突出した仕切壁12と、回転ドラム13の外周面とにより囲繞された領域に形成されている。成膜プロセス領域20Aでは、基板Sの表面に膜原料物質を付着させるスパッタ処理が行われる。
【0043】
また、成膜プロセス領域20Aから回転ドラム13の回転軸を中心として約90°離間した真空容器11の側壁もまた、外方に突出した横断面凸状をしており、突出した壁面にはプラズマ発生手段60が設けられている。反応プロセス領域60Aは、真空容器11の内壁面と、この内壁面から垂直に突出した仕切壁14と、回転ドラム13の外周面とにより囲繞された領域に形成されている。反応プロセス領域60Aでは、基板Sの表面に付着した膜原料物質と反応性ガスとの反応が行われる。
【0044】
ドラム回転モータ17によって回転ドラム13が回転すると、回転ドラム13の外周面に保持された基板Sが公転して、成膜プロセス領域20Aに面する位置と反応プロセス領域60Aに面する位置との間を繰り返し移動することになる。そして、このように基板Sが公転することで、成膜プロセス領域20Aでのスパッタ処理と、反応プロセス領域60Aでの反応処理とが順次繰り返し行われて、基板Sの表面に薄膜が形成される。
【0045】
(成膜プロセス領域20A)
以下、成膜プロセス領域20Aについて説明する。
図3に示すように、成膜プロセス領域20Aにはスパッタ手段20が設置されている。
スパッタ手段20は、成膜プロセス領域20A内に配設される一対の回転カソードユニット21,22と、真空容器11の外部に設けられ回転カソードユニット21,22に接続されるトランス23と、トランス23を介して回転カソードユニット21,22に電力を供給する交流電源24と、を主要な構成要素として備えている。
【0046】
回転カソードユニット21,22は、いずれも交流電源24から電力の供給を受けてターゲットをスパッタし、基板Sに膜原料物質を供給するための装置である。回転カソードユニット21と回転カソードユニット22は、同一の部材により構成された同じ装置であり、成膜プロセス領域20A内の内壁面に隣接した状態に配置されている。
【0047】
以下、回転カソードユニット21を構成する部材について説明する。なお、本実施形態では、回転カソードユニット22についても回転カソードユニット21と同じ構成を採用している。
図4に示すように、回転カソードユニット21は、円筒状ターゲット81と、外部平面上に円筒状ターゲット81を支持するボックス91と、円筒状ターゲット81がボックス91から脱落しないように保持するキャップ82,83と、を備えている。
【0048】
円筒状ターゲット81は、薄膜の原料となる膜原料物質を円筒状に成形したものであり、内部が中空の部材である。本実施形態では、円筒状ターゲット81の材料として金属ケイ素(Si)を使用しているが、目的とする薄膜の特性に応じて亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、銅(Cu)等の他の金属でもよい。また、円筒状ターゲット81の原料は金属に限定されず、酸化ケイ素(SiO)、酸化亜鉛(ZnO)等の酸化物や窒化ケイ素(SiN)等の窒化物のような金属の反応物でもよい。
【0049】
円筒状ターゲット81の両端側は、それぞれキャップ82とキャップ83とにより冠着されている。キャップ82,83は、いずれも一方の平面が開放された半円状部材で構成されている。キャップ82,83は、いずれも箱型のボックス91の外側の一平面上に、平面に対して垂直方向に立設した状態に固定されている。
【0050】
図5に示すように、円筒状ターゲット81の中空内部には、その長手方向に沿って棒状の支持棒84が設けられている。支持棒84は、その両端がキャップ82とキャップ83のそれぞれの内側壁面に固定されており、円筒状ターゲット81の長手方向に沿った中心軸線Xa−Xbと一致するよう位置している。
【0051】
円筒状ターゲット81の両側の開放端は、それぞれ固定板85と固定板86とで閉塞されている。固定板85,86は、いずれもその中心部に開口が形成された円板状部材であり、この開口を通じて支持棒84が貫通している。固定板85,86の開口の端面と支持棒84の外周面との間には、図示しないベアリングがそれぞれ設けられており、支持棒84が貫通した状態で固定板85,86がそれぞれ支持棒84の中心で回転可能となっている。固定板85のうちキャップ82側の面には、ターゲット側ギヤ89が固定されている。
【0052】
固定板86は、導電性材料で形成された部材であり、その表面には配線が接続している。ボックス91のうちキャップ83との固定部の近傍には開口が形成されているおり、固定板86から延びる配線はこの開口を通じてボックス91の内部に延びている。ボックス91のうち円筒状ターゲット81が配設された側とは反対側の壁面には、配線を導出するための開口が形成されており、固定板86に接続された配線は、この開口を通じてボックス91の外部へ延出している。配線は、真空容器11の外部に延出し、トランス23を介して交流電源24に接続している。これにより、交流電源24から円筒状ターゲット81に交番電圧が印加される。本実施形態では、周波数10kHz〜2MHzで電圧を印加している。
【0053】
支持棒84のうち円筒状ターゲット81内に位置する部分には、ヨーク87が取り付けられている。ヨーク87は平板状部材であり、ヨーク87のうち支持棒84の取り付け面と反対側の面には磁性体ユニット88が設けられている。
【0054】
図3に示すように、ヨーク87は、その中央部と両端部とが同じ方向に突出した平板状部材である。ヨーク87のうち中央の突出部の先端には、永久磁石である中央磁石88aが、ヨーク87の両側の突出部の先端には、それぞれ永久磁石である外側磁石88b,88cが取り付けられている。中央磁石88aはS極を基板S側に向けて、外側磁石88b,88cはいずれもN極を基板S側に向けて配置されている。このように配置されているため、中央磁石88aと外側磁石88bとの間、中央磁石88aと外側磁石88cとの間で磁場が形成される。この磁場の一部が円筒状ターゲット81の表面に漏洩して、円筒状ターゲット81の表面に漏洩磁界が形成される。
なお、中央磁石88a、外側磁石88b,88cからなる磁性体ユニット88が、本発明の磁界形成手段に相当する。
【0055】
本実施形態では、磁性体ユニット88を構成する磁石として永久磁石を用いているが、本発明の磁界形成手段としては永久磁石に限定されず、磁界を形成する他の手段、例えば電磁石などでもよい。
また、磁性体ユニット88を円筒状ターゲット81の内部に配設しているが、円筒状ターゲット81の表面に漏洩磁界を形成可能であればどのような位置であってもよく、例えば磁性体ユニット88を円筒状ターゲット81の外部に設けてもよい。
【0056】
図5に示すように、ボックス91は、内部空間を有する箱型部材であり、内部にターゲット回転モータ93が設けられている。ターゲット回転モータ93は出力軸を備え、直流電源96から電力の供給を受けてこの出力軸を回転させる装置である。本実施形態では、ターゲット回転モータ93は、DCブラシレスモータで構成されている。ターゲット回転モータ93の出力軸には、モータ側ギヤ94が固定されている。モータ側ギヤ94には、中間ギヤ92が噛合している。ボックス91のうちキャップ82との固定部の近傍には開口が形成され、中間ギヤ92を軸支するシャフト95が横架されている。中間ギヤ92の一部は、この開口からボックス91の外部に突出し、ターゲット側ギヤ89と噛合している。ターゲット回転モータ93は、配線を介してボックス91の内部に設けられた直流電源96に接続されている。
【0057】
回転カソードユニット21は、上述の構成を備えているため、直流電源96から電力の供給を受けて出力軸が回転し、この回転がモータ側ギヤ94、中間ギヤ92、ターゲット側ギヤ89により順次伝達され、固定板85を介してターゲット側ギヤ89に固定された円筒状ターゲット81を回転する。円筒状ターゲット81は、固定板85,86を介して支持棒84に軸支されているため、ターゲット回転モータ93の出力軸の回転に伴ってこの支持棒84を中心軸として回転する。支持棒84は、円筒状ターゲット81の回転では回転しないため、これに固定されている磁性体ユニット88もまた、円筒状ターゲット81の回転により回転しない構成となっている。
なお、出力軸を回転するターゲット回転モータ93と、出力軸の回転を伝達する中間ギヤ92、モータ側ギヤ94及びターゲット側ギヤ89と、磁性体ユニット88を回転させずに円筒状ターゲット81のみを回転させる支持棒84及び固定板85,86は、本発明のターゲット回転手段に相当する。
【0058】
円筒状ターゲット81を回転させるターゲット回転手段としては、このようなギヤによる回転機構に限定されず、円筒状ターゲットを回転させる機構であればどのようなものであってもよい。例えば、モータの出力軸及び円筒状ターゲットにそれぞれプーリを固定し、これらプーリをベルトで巻回して、モータの出力軸の回転を円筒状ターゲットに伝達する機構を採用してもよい。
【0059】
図2に示すように、成膜プロセス領域20A内では、回転カソードユニット21,22は、いずれもその長手方向が回転ドラム13の長手方向(すなわち、回転軸線Za−Zb方向)と平行となるように配置されている。また、図3に示すように、回転カソードユニット21,22は、絶縁部材26を介して接地電位にある真空容器11の内壁面に固定されている。
【0060】
成膜プロセス領域20Aの周辺にはアルゴン等のスパッタガスを供給するスパッタガス供給手段30が設けられている。スパッタガス供給手段30は、スパッタガス貯蔵手段としてのスパッタガスボンベ32と、スパッタガスの流量を調整するスパッタガス流量調整手段としてのマスフローコントローラ31と、スパッタガス供給路としての配管35a及び配管35cと、反応性ガス貯蔵手段としての反応性ガスボンベ34と、反応性ガスの流量を調整する反応性ガス流量調整手段としてのマスフローコントローラ33と、反応性ガス供給路としての配管35a及び配管35dと、を主要な構成要素として具備している。
スパッタガスとしては、例えばアルゴンやヘリウム等の不活性ガスが挙げられる。本実施形態ではアルゴンガスを使用している。また、本実施形態では反応性ガスとして酸素ガスを用いている。
【0061】
マスフローコントローラ31、スパッタガスボンベ32、マスフローコントローラ33、反応性ガスボンベ34は、いずれも真空容器11の外部に設けられている。マスフローコントローラ31は、配管35cを介してスパッタガスボンベ32に接続されている。また、マスフローコントローラ33は、配管35dを介して反応性ガスボンベ34に接続されている。
【0062】
マスフローコントローラ31,33は、配管35aのうちY字に分岐した端部にそれぞれ接続されており、配管35aの他端は真空容器11の側壁を貫通して成膜プロセス領域20A内の回転カソードユニット21,22の近傍に延びている。図2に示すように、配管35aの先端部は回転カソードユニット21,22の下部中心付近に延びており、その先端部は回転カソードユニット21,22の前面中心方向に向けて屈曲し、先端が開口して導入口35bが形成されている。
【0063】
マスフローコントローラ31はスパッタガスの流量を調整するための装置であり、スパッタガスボンベ32からのスパッタガスが流入する流入口と、スパッタガスを配管35aへ流出させる流出口と、ガスの質量流量を検出するセンサと、ガスの流量を調整するコントロールバルブと、流入口より流入したガスの質量流量を検出するセンサと、センサにより検出された流量に基づいてコントロールバルブの制御を行う電子回路と、を主要な構成要素として備えている(いずれも不図示)。電子回路には外部から所望の流量を設定することが可能となっている。マスフローコントローラ33もマスフローコントローラ31と同様の構成を備えている。マスフローコントローラ33は、反応性ガスボンベ34から配管35aに導入される反応性ガスの流量を調整するための装置である。
【0064】
スパッタガスボンベ32からのスパッタガスは、マスフローコントローラ31により流量を調整されて配管35a内に導入される。また、反応性ガスボンベ34からの反応性ガスは、マスフローコントローラ33により流量を調整されて配管35a内に導入される。配管35aに流入したスパッタガスと反応性ガスは混合され、導入口35bより成膜プロセス領域20Aに配置された回転カソードユニット21,22の前面に混合ガスとして導入される。
【0065】
次に、反応プロセス領域20A内でスパッタリングを行う原理について説明する。
成膜プロセス領域20Aにスパッタガス供給手段30からスパッタガスが供給されて、回転カソードユニット21の周辺が不活性ガス雰囲気になった状態で、交流電源24から円筒状ターゲット81に交番電圧が印加されると、接地電位にある基板Sと円筒状ターゲット81との間でスパッタガスの一部は電子を放出してイオン化する。中央磁石88aと外側磁石88b,88cとによって円筒状ターゲット81の表面に漏洩磁界が形成されているため、電子は円筒状ターゲット81の表面近傍に発生した磁界中を、トロイダル曲線を描きながら周回する。この電子の軌道に沿って高密度のプラズマが発生し、このプラズマに向けてスパッタガスのイオンが加速され、円筒状ターゲット81に衝突することで円筒状ターゲット81の表面の原子や粒子が叩き出される。本実施形態では、円筒状ターゲット81がケイ素で形成されているため、ケイ素原子やケイ素粒子が叩き出される。
【0066】
円筒状ターゲット81から叩き出された原子や粒子は、反応性ガスとプラズマ中で反応して反応物に変換される。本実施形態では、反応性ガスとして酸素ガスを導入しているため、ケイ素の不完全酸化物(SiO:ここで0<x<2)、又はケイ素の完全酸化物(SiO)が生成する。ケイ素の不完全酸化物や完全酸化物が基板Sの表面に付着して薄膜を形成する。また、基板Sの表面に付着した未反応のケイ素原子やケイ素粒子の一部が反応性ガスと反応して、ケイ素の不完全酸化物や完全酸化物に変換される。
【0067】
このようにして、基板Sの表面に、ケイ素、ケイ素の不完全酸化物及び完全酸化物からなる薄膜が形成される。成膜プロセス領域20Aにおいて基板Sの表面に付着するケイ素、ケイ素の不完全酸化物及び完全酸化物が、本発明の膜原料物質に相当する。
なお、回転カソードユニット22に関しても、上述した回転カソードユニット21と同様の原理によって基板Sの表面に膜原料物質を付着させる。
【0068】
本発明は、回転カソードユニット21の円筒状ターゲット81がスパッタリングの間に回転している点を特徴としている。すなわち、円筒状ターゲット81が回転しているため、磁性体ユニット88により発生する漏洩磁界に対して円筒状ターゲット81が常に移動するため、円筒状ターゲット81の表面にエロージョンされにくい領域が発生せず、表面のどの領域であってもほぼ均一にエロージョンされる。すなわち、従来の平板状ターゲットを用いた場合のようにターゲットの表面に非エロージョン領域が生じにくい点を特徴としている。このため、非エロージョン領域が生じることによるターゲットの利用率を向上させ、成膜に要するコストを低減させることが可能となる。
【0069】
また、本発明では、円筒状ターゲット81の表面に非エロージョン領域が発生しにくいため、絶縁物(本実施形態では、ケイ素の完全酸化物や不完全酸化物)の蓄積がほとんどない。このため、絶縁性の反応物が蓄積することによる異常放電(アーク放電)が発生しにくく、これにより欠陥が少なく膜質の優れた薄膜を形成することが可能となる。
【0070】
特に、反応性スパッタリング装置では成膜プロセス領域20Aや反応プロセス領域60Aに反応性ガスを導入する必要があるため、ターゲットの異常放電による薄膜の損傷が大きな問題となっていた。従来の反応性スパッタリング装置では、成膜プロセス領域20Aや反応プロセス領域60Aに導入する反応性ガスの濃度を小さすることで非エロージョン領域に蓄積する絶縁物の量を少なくして異常放電を防止していたが、反応性ガスの濃度が小さいため膜原料物質と反応性ガスの反応速度が小さく、成膜に時間がかかるという不都合があった。
【0071】
一方、本発明では、ターゲットを回転させることで異常放電の発生を防止し、膜質を大幅に向上させることが可能となる。また、絶縁物の蓄積による異常放電が発生しにくいため、成膜プロセス領域20Aや反応プロセス領域60Aに導入する反応性ガスの量を多くすることもできる。これにより、膜原料物質と反応性ガスとの反応速度を増加させることができる。このため、成膜レートが向上し、成膜時間の短縮を図ることが可能となる。
【0072】
(反応プロセス領域60A)
続いて、反応プロセス領域60Aについて説明する。上述したように反応プロセス領域60Aでは、成膜プロセス領域20Aで基板Sの表面に付着した膜原料物質を反応処理して、膜原料物質の化合物又は不完全化合物からなる薄膜の形成を行う。
同時に、反応プロセス領域60Aでは、薄膜形成前の基板Sの表面にプラズマ処理を行う前処理工程や、薄膜形成後の基板Sの表面にプラズマ処理を行う後処理工程が行われる。
【0073】
図6に示すように、反応プロセス領域60Aに対応する真空容器11の壁面には、プラズマ発生手段60を設置するための開口11aが形成されている。また、反応プロセス領域60Aには配管75aが接続されている。配管75aの一端にはマスフローコントローラ72が接続されており、このマスフローコントローラ72は更に反応性ガスボンベ71に接続されている。このため、反応プロセス領域60A内に反応性ガスボンベ71から酸素ガスを供給することが可能となっている。
【0074】
反応プロセス領域60Aに面する側の仕切壁14の壁面には、熱分解窒化硼素(Pyrolytic Boron Nitride)からなる保護層が被覆されている。さらに、真空容器11の内壁面の反応プロセス領域60Aに面する部分にも熱分解窒化硼素からなる保護層が被覆されている。熱分解窒化硼素は、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition)を利用した熱分解法によって仕切壁14や真空容器11の内壁面へ被覆される。このような保護層は、必要に応じて設けるようにすることが好ましい。
【0075】
プラズマ発生手段60は、反応プロセス領域60Aに面して設けられている。本実施形態のプラズマ発生手段60は、ケース体61と、誘電体板62と、アンテナ63と、マッチングボックス64と、高周波電源65と、を有して構成されている。
【0076】
ケース体61は、真空容器11の壁面に形成された開口11aを塞ぐ形状を備え、ボルト(不図示)で真空容器11の開口11aを塞ぐように固定されている。ケース体61が真空容器11の壁面に固定されることで、プラズマ発生手段60は真空容器11の壁面に取り付けられている。本実施形態において、ケース体61はステンレスで形成されている。
【0077】
誘電体板62は、板状の誘電体で形成されている。本実施形態において、誘電体板62は石英で形成されているが、誘電体板62の材質としてはこのような石英だけではなく、Al等のセラミックス材料で形成されたものでもよい。誘電体板62は、図示しない固定枠でケース体61に固定されている。誘電体板62がケース体61に固定されることで、ケース体61と誘電体板62によって囲繞された領域にアンテナ収容室61Aが形成される。
【0078】
ケース体61に固定された誘電体板62は、開口11aを介して真空容器11の内部(反応プロセス領域60A)に臨んで設けられている。このとき、アンテナ収容室61Aは、真空容器11の内部と分離している。すなわち、アンテナ収容室61Aと真空容器11の内部とは、誘電体板62で仕切られた状態で独立した空間を形成している。また、アンテナ収容室61Aと真空容器11の外部は、ケース体61で仕切られた状態で独立の空間を形成している。本実施形態では、このように独立の空間として形成されたアンテナ収容室61Aの中に、アンテナ63が設置されている。なお、アンテナ収容室61Aと真空容器11の内部、アンテナ収容室61Aと真空容器11の外部との間は、それぞれOリングで気密が保たれている。
【0079】
本実施形態では、配管16a−1から配管16a−2が分岐している。この配管16a−2はアンテナ収容室61Aに接続されており、アンテナ収容室61Aの内部を排気して真空状態にする際の排気管としての役割を備えている。
【0080】
配管16a−1には、真空ポンプ15aから真空容器11の内部に連通する位置にバルブV1、V2が設けられている。また、配管16a−2には、真空ポンプ15aからアンテナ収容室61Aの内部に連通する位置にバルブV3が設けられている。バルブV2,V3のいずれかを閉じることで、アンテナ収容室61Aの内部と真空容器11の内部との間での気体の移動は阻止される。真空容器11の内部の圧力や、アンテナ収容室61Aの内部の圧力は、真空計(不図示)で測定される。
【0081】
本実施形態では、スパッタリング装置1に制御装置(不図示)を備えている。この制御装置には、真空計の出力が入力される。制御装置は、入力された真空計の測定値に基づいて、真空ポンプ15aによる排気を制御して、真空容器11の内部やアンテナ収容室61Aの内部の真空度を調整する機能を備える。本実施形態では、制御装置がバルブV1,V2,V3の開閉を制御することで、真空容器11の内部とアンテナ収容室61Aの内部を同時に、又は独立して排気できる。
【0082】
アンテナ63は、高周波電源65から電力の供給を受けて真空容器11の内部(反応プロセス領域60A)に誘導電界を発生させ、反応プロセス領域60Aにプラズマを発生させる手段である。本実施形態のアンテナ63は、銅で形成された円管状の本体部と、本体部の表面を被覆する銀で形成された被覆層を備えている。すなわち、アンテナ63の本体部を安価で加工が容易な、しかも電気抵抗も低い銅で円管状に形成し、アンテナ63の表面を銅よりも電気抵抗の低い銀で被覆している。これにより、高周波に対するアンテナ63のインピーダンスを低減して、アンテナ63に電流を効率よく流すことによりプラズマを発生させる効率を高めている。
本実施形態のスパッタリング装置1では、高周波電源65からアンテナ63に周波数1〜27MHzの交流電圧を印加して、反応プロセス領域60Aに反応性ガスのプラズマを発生させるように構成されている。
【0083】
アンテナ63は、マッチング回路を収容するマッチングボックス64を介して高周波電源65に接続されている。マッチングボックス64内には、図示しない可変コンデンサが設けられている。
アンテナ63は、導線部を介してマッチングボックス64に接続されている。導線部はアンテナ63と同様の素材からなる。ケース体61には、導線部を挿通するための挿通孔が形成されており、アンテナ収容室61A内側のアンテナ63と、アンテナ収容室61A外側のマッチングボックス64とは、挿通孔に挿通される導線部を介して接続される。導線部と挿通孔との間にはシール部材が設けられ、アンテナ収容室61Aの内外で気密が保たれる。
【0084】
アンテナ63と回転ドラム13との間には、イオン消滅手段としてのグリッド66が設けられている。グリッド66は、アンテナ63で発生したイオンの一部や電子の一部を消滅させるためのものである。グリッド66は、導電体からなる中空部材であり、アースされている。中空部材からなるグリッド66の内部に冷却媒(例えば冷却水)を流すために、グリッド66の端部には冷却媒を供給するホース(不図示)が接続されている。
【0085】
また、反応プロセス領域60Aの内部及びその周辺には反応性ガスを供給するための反応性ガス供給手段70が設けられている。反応性ガス供給手段70は、反応性ガスを貯蔵する反応性ガスボンベ71と、反応性ガスボンベ71より供給される反応性ガスの流量を調整するマスフローコントローラ72と、反応性ガスを反応プロセス領域60Aに導入する配管75aを主要な構成要素として具備している。本実施形態では、上述した成膜プロセス領域20Aに導入される反応性ガスと同様に、反応性ガスとして酸素ガスを用いている。
【0086】
なお、反応性ガスボンベ71及びマスフローコントローラ72は、成膜プロセス領域20Aのスパッタガスボンベ32及びマスフローコントローラ31と同様の装置を採用することが可能である。また、反応性ガスとしては、酸素ガスに限定されず、目的とする薄膜の材質に応じて窒素ガス、フッ素ガス、オゾンガス等から適宜選択する。さらに、反応性ガスに加えて、アルゴン等の不活性ガスを混合して導入してもよい。このようにすることで、後述するプラズマの発生により反応性ガスのラジカルの密度が増加するため、膜原料物質と反応性ガスとの反応性が増し、プラズマ処理の効率を向上させることが可能となる。
【0087】
反応性ガスボンベ71から配管75aを通じて酸素ガスが反応プロセス領域60Aに導入された状態で、アンテナ63に高周波電源65から電力が供給されると、反応プロセス領域60A内のアンテナ63に面した領域にプラズマが発生し、基板Sの表面に形成された膜原料物質のうち成膜プロセス領域20Aで完全酸化されなかった成分が反応処理されて、膜原料物質の酸化物又は不完全酸化物となる。
【0088】
具体的には、反応性ガス供給手段70から酸素ガスが導入され、膜原料物質のうちケイ素(Si)、ケイ素の完全酸化物である酸化ケイ素(SiO)又は不完全酸化物(SiOx1(ここで、0<x1<2))が生成する。また、膜原料物質のうち不完全酸化ケイ素(SiOx2:ここで、0<x2<2)が酸化されて、ケイ素の完全酸化物である酸化ケイ素(SiO)又は不完全酸化物(SiO(ここで、0<y<2、かつy>x2))が生成する。
【0089】
次に、スパッタリング装置1を用いて基板Sの表面に酸化ケイ素(SiO)からなる薄膜を形成する方法について説明する。
まず、真空容器11の外で回転ドラム13に基板Sをセットし、真空容器11のロードロック室11B内に収容する。そして、図示しないレールに沿って回転ドラム13を薄膜形成室11Aに移動させる。扉11C及び扉11Dを閉じた状態で真空容器11内を密閉し、真空ポンプ15aを用いて真空容器11内を10−1〜10−5Pa程度の高真空状態にする。
【0090】
次に、成膜プロセス領域20A内にスパッタガス供給手段30からアルゴンガスと酸素ガスの混合ガスを導入する(スパッタガス導入工程)。この状態で、交流電源24から円筒状ターゲット81に電力を供給して、円筒状ターゲット81をスパッタリングする。アルゴンガスの流量は、250〜1000sccm程度の範囲内で適切な流量を設定する。この状態で、回転ドラム13が回転して成膜プロセス領域20Aに基板Sが搬送されると、その表面に膜原料物質であるケイ素(Si)、ケイ素の不完全酸化物(SiO:ここで0<x<2)、完全酸化物(SiO)が付着する(スパッタ工程)。この間、円筒状ターゲット81は直流電源96から電力の供給を受けて回転した状態となっている。
【0091】
なお、回転ドラム13と回転カソードユニット21,22との間に移動式又は回転式の遮蔽板を設けて、スパッタ工程の開始及び停止を行ってもよい。この場合、スパッタ工程の開始前は、遮蔽板の位置を、回転カソードユニット21,22から移動する膜原料物質が基板Sに到着しない遮断位置に配置し、スパッタ工程の開始時に、回転カソードユニット21,22から移動する膜原料物質が基板Sに到着する非遮断位置に移動させる。
【0092】
次に、回転ドラム13を回転して基板Sを反応プロセス領域60Aに搬送する(基体搬送工程)。
続いて、反応プロセス領域60Aの内部に反応性ガス供給手段70から酸素ガスを導入する(反応性ガス導入工程)。この状態で、高周波電源65からアンテナ63に交流電圧を印加して、反応プロセス領域60Aの内部に酸素ガスのプラズマを発生させる(プラズマ発生工程)。反応プロセス領域60Aの内部では、酸素ガスのプラズマが発生しているため、基板Sの表面に付着した膜原料物質のケイ素(Si)やケイ素の不完全酸化物(SiO:ここで0<x<2)は、酸素ガスと反応して酸化ケイ素(SiO)やケイ素の不完全酸化物(SiO:ここで0<x<2)に変換される。これにより、基板Sの表面に中間薄膜が形成される。
【0093】
回転ドラム13を連続して回転して、成膜プロセス領域20Aでのスパッタ工程と反応プロセス領域60Aでの反応工程を順次繰り返すことで中間薄膜を複数積層し、所望の膜厚を有する最終薄膜を形成する。
以上の工程が終了すると、回転ドラム13の回転を停止し、真空容器11の内部の真空状態を解除して、回転ドラム13を真空容器11から取り出す。基板保持板13aをフレーム13bから取り外して、基板Sを回収する。
【0094】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るスパッタリング装置について、図7を参照して説明する。図7は第2の実施形態に係るスパッタリング装置の横断面をとって上面から見た状態を示す説明図である。
【0095】
この図に示すように、第2の実施形態のスパッタリング装置2は、成膜プロセス領域20Aの他にもう一箇所成膜プロセス領域40Aを設けている点で、第1の実施形態のスパッタリング装置1と異なる。すなわち、第2の実施形態に係るスパッタリング装置2には、成膜プロセス領域20Aと、反応プロセス領域60Aのほかに、これらの領域とは離間した位置に成膜プロセス領域40Aが形成されている。
【0096】
第1の実施形態の成膜プロセス領域20Aと同様に、成膜プロセス領域20Aには、回転カソードユニット21,22を備えたスパッタ手段20と、スパッタガスを導入するためのスパッタガス供給手段30とが設けられている。成膜プロセス領域40Aにも同様に、回転カソードユニット41,42を備えたスパッタ手段40と、スパッタガスを導入するためのスパッタガス供給手段50とが設けられている。回転カソードユニット41,42は、いずれも回転カソードユニット21,22と同様の構成を備えている。回転カソードユニット21,22の構成については第1の実施形態で説明しているため、ここでは説明を省略する。
【0097】
本実施形態では、回転カソードユニット21,22と、回転カソードユニット41,42とで、異なる材料のターゲットを用いている。例えば、回転カソードユニット21,22ではケイ素、回転カソードユニット41,42ではチタンをターゲットとして用いる。このように、異なる材料のターゲットを用いることで、異なる材料からなる薄膜を積層して複合薄膜を形成することが可能となる。これにより、形成される薄膜の物理的、光学的特性にバリエーションをもたせることが可能となる。具体的には、例えば、酸化ケイ素からなる中間薄膜と酸化チタンからなる中間薄膜を順次積層して、酸化ケイ素と酸化チタンの中間の屈折率を有する複合薄膜を形成することも可能となる。
【0098】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係るスパッタリング装置について説明する。
本実施形態のスパッタリング装置3は、第1の実施形態のスパッタリング装置1と同様の構成を備えているが、第1の実施形態のスパッタリング装置1とは異なり、成膜プロセス領域20Aや反応プロセス領域60Aを区画する仕切壁12,14を設けていない点を特徴とする。
【0099】
これは、円筒状ターゲット81が回転することで非エロージョン領域が生じにくくなり、絶縁物(膜原料物質と反応性ガスとの反応物)の蓄積も防止されることから、成膜プロセス領域20Aへの反応性ガスの流入を阻止する仕切壁12や成膜プロセス領域20Aへの反応性ガスの流出を阻止する仕切壁14を設ける必要がないことによる。逆に、反応プロセス領域60A内に導入される反応性ガスを成膜プロセス領域20A内に積極的に導入して、スパッタリングにより生じた膜原料物質と反応性ガスとを反応させて成膜レートを上昇させる観点からは、仕切壁12や仕切壁14を設けないほうが都合がよい。
このように、本実施形態のスパッタリング装置3によれば、仕切壁12,14を設ける必要がないことから、その構成を簡単にすることが可能となる。
【0100】
以上の例では、本発明をRFマグネトロンスパッタリングに適用した例について説明したが、反応性スパッタリング装置においてターゲットを回転させる構成を適用しうる装置であれば、これに限定されない。例えば、DCマグネトロンスパッタリング等の他のマグネトロンスパッタリング装置にも適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】スパッタリング装置の横断面をとって上面から見た状態を示す説明図である。
【図2】図1のスパッタリング装置の縦断面をとって側面から見た状態を示す説明図である。
【図3】図1のスパッタリング装置の成膜プロセス領域周辺を拡大して示した説明図である。
【図4】回転カソードユニットの斜視図である。
【図5】図4の回転カソードユニットのXa−Xb縦断面図である。
【図6】図1のスパッタリング装置の反応プロセス領域周辺を拡大して示した説明図である。
【図7】第2の実施形態に係るスパッタリング装置の横断面をとって上面から見た状態を示す説明図である。
【図8】第3の実施形態に係るスパッタリング装置の横断面をとって上面から見た状態を示す説明図である。
【図9】従来の反応性スパッタリング装置の横断面をとって上面から見た状態を示す説明図である。
【図10】従来の反応性スパッタリング装置に用いられる平板状ターゲットの課題について説明する説明図である。
【符号の説明】
【0102】
1 スパッタリング装置
2 スパッタリング装置
3 スパッタリング装置
11 真空容器
11a 開口
11A 薄膜形成室
11B ロードロック室
11C 扉
11D 扉
12 仕切壁
13 回転ドラム(基板搬送手段)
13a 基板保持板
13b フレーム
13c 締結具
14 仕切壁
15a 真空ポンプ
15b 真空ポンプ
16a−1 配管
16a−2 配管
16b 配管
17 ドラム回転モータ
17a モータ回転軸
18 ドラム回転軸
20 スパッタ手段
20A 成膜プロセス領域
21 回転カソードユニット
22 回転カソードユニット
23 トランス
24 交流電源
26 絶縁部材
30 スパッタガス供給手段
31 マスフローコントローラ
32 スパッタガスボンベ
33 マスフローコントローラ
34 反応性ガスボンベ
35a 配管
35b 導入口
35c 配管
35d 配管
40 スパッタ手段
40A 成膜プロセス領域
41 回転カソードユニット
42 回転カソードユニット
50 スパッタガス供給手段
60 プラズマ発生手段
60A 反応プロセス領域
61 ケース体
61A アンテナ収容室
62 誘電体板
63 アンテナ
64 マッチングボックス
65 高周波電源
66 グリッド
70 反応性ガス供給手段
71 反応性ガスボンベ
72 マスフローコントローラ
75a 配管
81 円筒状ターゲット
82 キャップ
83 キャップ
84 支持棒(ターゲット回転手段)
85 固定板(ターゲット回転手段)
86 固定板(ターゲット回転手段)
87 ヨーク
88 磁性体ユニット(磁界形成手段)
88a 中央磁石(磁界形成手段)
88b 外側磁石(磁界形成手段)
88c 外側磁石(磁界形成手段)
89 ターゲット側ギヤ(ターゲット回転手段)
91 ボックス
92 中間ギヤ(ターゲット回転手段)
93 ターゲット回転モータ(ターゲット回転手段)
94 モータ側ギヤ(ターゲット回転手段)
95 シャフト
96 直流電源
101 スパッタリング装置
111 真空容器
113 基板ホルダ
120A 成膜プロセス領域
121 スパッタ電極
122 ヨーク
123a 中央磁石
123b 外側磁石
123c 外側磁石
125 仕切壁
129 ターゲット
140A 成膜プロセス領域
141 スパッタ電極
145 仕切壁
149 ターゲット
160A 反応プロセス領域
165 仕切壁
S 基板(基体)
V1 バルブ
V2 バルブ
V3 バルブ
Xa−Xb 中心軸線
Za−Zb 回転軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、
互いに空間的に離間した位置に形成された成膜プロセス領域及び反応プロセス領域が内部に有する真空容器と、
前記成膜プロセス領域と前記反応プロセス領域との間で前記基体を搬送可能な基体搬送手段と、
前記成膜プロセス領域内にスパッタガスを導入するスパッタガス導入手段と、
前記成膜プロセス領域内で前記スパッタガスによるスパッタリングを行い前記基体の表面に膜原料物質を付着させるスパッタ手段と、
前記反応プロセス領域内に反応性ガスを導入する反応性ガス導入手段と、
前記反応プロセス領域内でプラズマを発生させて前記基体の表面に付着した前記膜原料物質と前記反応性ガスとを反応させるプラズマ発生手段と、
を備え、
前記スパッタ手段は、
長手方向に沿った中心軸線を中心に回転可能な円筒状ターゲットと、
該円筒状ターゲットの表面に磁界を形成する磁界形成手段と、
該磁界形成手段に対して前記円筒状ターゲットを回転させるターゲット回転手段と、を備えたことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記スパッタ手段は、前記成膜プロセス領域内に隣接して配設され、
前記隣接して配設された一対のスパッタ手段に対して交互に電圧を印加する交流電源と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記真空容器は、複数の成膜プロセス領域を有し、
該複数の成膜プロセス領域のそれぞれには、前記円筒状ターゲットを備えた前記スパッタ手段が配設され、
前記複数の成膜プロセス領域のうち1つに配設された前記円筒状ターゲットは、他のいずれか1つに配設された前記円筒状ターゲットとは異なる材料で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記成膜プロセス領域は、内部へのガスの流入を阻止するための仕切壁を有しないことを特徴とする請求項1〜3に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
基体に薄膜を形成するスパッタリング方法であって、
真空容器内に区画された成膜プロセス領域内にスパッタガスを導入するスパッタガス導入工程と、
前記成膜プロセス領域内で前記スパッタガスにより円筒状ターゲットをスパッタリングして前記基体の表面に膜原料物質を付着させるスパッタ工程と、
前記成膜プロセス領域と空間的に離間した位置に形成された反応プロセス領域に前記基体を搬送する基体搬送工程と、
前記反応プロセス領域内に反応性ガスを導入する反応性ガス導入工程と、
前記反応プロセス領域内でプラズマを発生させて前記基体の表面に付着した前記膜原料物質と前記反応性ガスとを反応させるプラズマ発生工程と、を行い、
前記スパッタ工程では、
前記円筒状ターゲットの表面に磁界を形成した状態で、前記円筒状ターゲットをその長手方向に沿った中心軸線を中心に回転させることを特徴とするスパッタリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−69402(P2008−69402A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248534(P2006−248534)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)
【Fターム(参考)】