説明

スピンコート方法、および、スピンコート装置の制御装置

【課題】回転円板を用いることなく、基板の表面全体に被覆層を均一に形成することができること。
【解決手段】密度C、表面張力γを有するレジストREを記録媒体用基板30の記録面に供給するレジスト供給ノズル10の先端の記録媒体用基板30の記録面に対する初期位置における距離Xが、不等式:X≦2×(3rγ/2gC)1/3を満足する値に設定され、初期位置における距離Aが、不等式:A≧r+X/3を満足する値に設定されるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供給ノズルを通じて供給される塗布液を記録面に塗布し、被覆層を形成するスピンコート方法、および、スピンコート装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の高記録密度化に伴い、サイドフリンジと呼称される余計な記録の問題を回避すべく、隣接する記録トラックの間に溝を設けたディスクリートトラック方式の磁気記録媒体や、特許文献1にも記載されるような、さらなる高記録密度を企図してディスク上にそれぞれが1bitとなるようなドットを形成するようなパターンドメディアも提案されている。
【0003】
このような磁気記録媒体を製造するにあたり、例えば、特許文献1にも示されるように、ナノインプリント技術を利用することが提案されている。このようなナノインプリント技術による磁気記録媒体の製造方法に用いられるインプリント装置は、例えば、特許文献1にも示されるように、レジスト膜を有する基板が配される基板載置面を備えるプレス底板と、プレス底板に対し近接または離隔可能に配され記録データをあらわす凹凸パターンを中央部に有する円盤状のスタンパを有するプレス天板とを主な要素として含んで構成されている。斯かる構成において、スタンパが、例えば、磁気記録媒体の記録面として形成されるレジスト膜またはポリマー層に対し押し付けられ、その凹凸パターンが磁気記録媒体の記録面に転写される。
【0004】
そのようなレジスト膜を基板に形成するにあたっては、例えば、特許文献2にも示されるような、スピンコート方法により、フォトレジストが基板の磁性膜上に均一に塗布された後、紫外線がフォトレジストに対し照射されることによって硬化したレジスト膜が形成される。その際、基板の表面全体にわたりレジスト膜を均一な厚さで形成されることが要望される。
【0005】
レジスト膜のような保護膜を均一な厚さで基板の表面全体にわたり形成するために特許文献2にも示されるように、基板の回転中心位置の上方から保護膜用の樹脂を基板に供給することが提案されている。この場合、その基板の中央部の孔を塞ぐ回転円板が、基板が載置されるターンテーブルの中心穴に脱着可能とされる。これにより、回転円板および基板が回転されながら、回転円板に樹脂が供給されるとき、樹脂製の保護膜が基板の表面全体に形成されることとなる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−108351号公報
【特許文献2】特開平10−249264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のスピンコート方法において、フォトレジストが基板の中央部の穴の周縁近傍に供給された場合、フォトレジストの広がりのバラツキが大きく、また、フォトレジストが、その穴のエッジにかかり、放射状の膜厚バラツキが、レジスト膜に生じてしまうという問題がある。一方、ノズルから供給されるフォトレジストがその穴のエッジにかからないようにした場合、即ち、フォトレジストの基板上における飛散および濡れ広がりを考慮し、その穴のエッジに対し基板の外周縁側に所定距離、離隔した位置に、ノズルの先端の初期位置を設定した場合、そのノズルの先端の位置よりも基板の中央の穴側の膜厚が他の部分に比して極端に薄くなる虞がある。従って、レジスト膜の膜厚の不均一が生じる。
【0008】
また、特許文献2において提案されるように、その基板の中央部の孔を塞ぐ回転円板が設けられる場合、例えば、図7(A)に示されるように、回転円板2の外周縁と基板4の表面に跨って形成されるレジスト膜6において、フォトレジストが回転円板2の外周縁近傍に溜まることにより、図7(B)に示されるように、回転円板2が基板4の穴から取り外されるとき、形成されたレジスト膜6’における回転円板2の外周縁の端面に対応する部分が他の部分に比して厚くなる虞がある。従って、後工程でのレジスト除去が困難となる場合がある。
【0009】
このような場合、ターンテーブルの回転数をさらに増大させるとき、回転円板2の外周縁の端面に対応する部分以外の他の部分の基板上のレジスト膜の厚さが薄くなり、レジスト膜の厚さが却って不均一となる。あるいは、フォトレジストの濡れ性の悪い材質の回転円板を採用した場合においても、フォトレジストが回転円板2の外周縁近傍に溜まり、形成されたレジスト膜における回転円板2の外周縁の端面に対応する部分が他の部分に対し隆起することが本出願の発明者の実験により確認されている。
【0010】
以上の問題点を考慮し、本発明は、スピンコート方法、および、スピンコート装置の制御装置であって、回転円板を用いることなく、基板の表面全体に被覆層を均一に形成することができるスピンコート方法、および、スピンコート装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明に係るスピンコート方法は、中央部に孔を有する記録媒体用基板の記録面に対し塗布液を供給する供給ノズルの先端を、記録媒体用基板の記録面に対し所定距離Xだけ上方に離隔させ、記録媒体用基板の孔の周縁から所定距離Aだけ離隔した初期位置に移動させる工程と、所定の回転数で回転せしめられる記録媒体用基板の記録面に対し供給ノズルを通じて所定期間、塗布液を供給するとともに、供給ノズルの先端を記録面に対し所定距離X離隔させつつ、初期位置から記録媒体用基板の半径方向に沿って外周縁に向けて移動させる工程と、を含み、距離Xは、表面張力γ、および、密度Cを有する塗布液が、半径rを有する供給ノズルを通じて供給される場合、重力加速度をgとしたとき、不等式 X≦2×(3rγ/2gC)1/3を満足する値に設定され、距離Aは、不等式 A≧r+X/3を満足する値に設定されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るスピンコート装置の制御装置は、回転可能に支持され、中央部に孔を有する記録媒体用基板を着脱可能に支持する基板取付ヘッドと、記録媒体用基板の記録面に対し塗布液を供給する供給ノズルと、基板取付けヘッドを回転させるヘッド回転駆動部と、移動可能に支持され、供給ノズルを保持する供給ノズルホルダー部と、供給ノズルホルダー部に支持される前記供給ノズルの先端を、基板取付ヘッドに支持された記録媒体用基板の記録面に対し移動させるノズルホルダー駆動部と、ヘッド回転駆動部に、基板取付けヘッドを回転させる動作を行わせるとともに、ノズルホルダー駆動部に、供給ノズルの先端を移動させる動作を行わせる制御部と、を備え、制御部は、供給ノズルの先端を、記録媒体用基板の記録面に対し所定距離Xだけ上方にあり、記録媒体用基板の孔の周縁から所定距離Aだけ離隔した初期位置に移動させ、所定の回転数で回転せしめられる記録媒体用基板の記録面に対し供給ノズルを通じて所定期間、塗布液を供給させるとともに、供給ノズルの先端を記録面に対し所定距離X離隔させつつ、初期位置から記録媒体用基板の半径方向に沿って外周縁に向けて移動させ、距離Xを、表面張力γ、および、密度Cを有する塗布液が、半径rを有する供給ノズルを通じて供給される場合、重力加速度をgとしたとき、不等式 X≦2×(3rγ/2gC)1/3を満足する値に設定し、距離Aを、不等式 A≧r+X/3を満足する値に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上の説明から明らかなように、本発明に係るスピンコート方法およびスピンコート装置の制御装置によれば、記録媒体用基板の記録面に対し供給ノズルを通じて所定期間、塗布液を供給する場合、初期位置における距離Xは、表面張力γ、および、密度Cを有する塗布液が、半径rを有する供給ノズルを通じて供給される場合、重力加速度をgとしたとき、不等式 X≦2×(3rγ/2gC)1/3を満足する値に設定され、初期位置における距離Aは、不等式 A≧r+X/3を満足する値に設定されるので塗布液が供給ノズルの先端からたれ落ちることがなく、従って、回転円板を用いることなく、基板の表面全体に被覆層を均一に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図2は、本発明に係るスピンコート方法の一例が適用されるスピンコート装置の構成を概略的に示す。
【0015】
図2において、スピンコート装置は、円筒状のカップ部28内の中央部に回動可能に配されチャック機構部CHを有する基板取付ヘッド26と、基板取付ヘッド26をカップリング32を介して回動させる駆動用モータ34と、後述するレジスト供給部からのレジストREを記録媒体用基板30の記録面に導くレジスト供給用ノズル10と、レジスト供給用ノズル10を支持するノズルホルダー部12と、ノズルホルダー部12に支持されるレジスト供給用ノズル10の最下端を記録媒体用基板30の記録面に対して所定位置に移動させるノズルホルダー駆動制御部と、レジスト供給用ノズル10に所定量のレジストを供給するレジスト供給部と、を主な要素として含んで構成されている。
【0016】
所定の厚さを有する環状の記録媒体用基板30は、その中央部に、孔30aを有している。その外径および内径は、それぞれ、65mm、20mmに設定されている。記録媒体用基板30は、例えば、ナノインプリント方法により作製されるハードディスク用磁気記録媒体とされる。記録媒体用基板30の記録面には、後述するレジストが塗布されるカーボン保護膜が形成されている。
【0017】
記録媒体用基板30を着脱可能に保持するチャック機構部CHを有する基板取付ヘッド26は、記録媒体用基板30の孔30aに嵌合される円柱部と、その円柱部の外周縁に連なって形成され、記録媒体用基板30の孔30aの周縁を受け止める段差部とを上部に有している。チャック機構部CHは、円柱部に基板30の半径方向に沿って移動可能に配される一対のクランプを含んで構成されている。一対のクランプは、基板取付ヘッド26の段差部に受け止められた基板30の孔30aの周縁に向けて選択的に半径方向に沿って進出、または、基板取付ヘッド26の円柱部内に引き込まれるものとされる。一対のクランプが半径方向に沿って進出することにより、基板30が基板取付ヘッド26の段差部に保持され、一方、一対のクランプが、基板取付ヘッド26の円柱部内に引き込まれることにより、基板30が基板取付ヘッド26の段差部に対し解放され、着脱可能とされる。
【0018】
なお、チャック機構部CHは、上述したようなクランプ式に限られることなく、例えば、特開2001−300401号公報、および、特開2005−296705号公報にも示されるような、真空ポンプに接続される複数の吸引孔が基板取付ヘッド26の段差部に形成されるもとで、真空ポンプが選択的に作動状態とされ、記録媒体用基板30が真空吸着力により保持されてもよい。
【0019】
基板取付ヘッド26の下端部は、カップリング32を介して駆動用モータ34の出力軸に連結されている。駆動用モータ34は、例えば、ロータリエンコーダを備えるステッピングモータとされる。駆動用モータ34の出力軸は、後述する制御ユニット50により、回転数制御される。これにより、記録媒体用基板30を伴う基板取付ヘッド26の回転数が、レジスト供給用ノズル10の最下端の記録媒体用基板30の表面に対する相対位置に応じて所定の回転数に制御されることとなる。
【0020】
レジスト供給用ノズル10は、例えば、外径0.51mm,内径0.25mmのステンレス鋼パイプで作られている。図1に拡大されて示されるように、レジスト供給用ノズル10における記録媒体用基板30の記録面に対し対向する先端面は、その中心軸線CLに対して垂直にせん断されている。
【0021】
ノズルホルダー駆動制御部は、例えば、ノズルホルダー部12を図2における座標軸Zに沿って昇降動させる昇降駆動部14と、昇降駆動部14全体を図2における座標軸X、即ち、記録媒体用基板30の記録面の半径方向に沿って移動させる並進駆動部18と、を含んで構成されている。
【0022】
昇降駆動部14は、例えば、レジスト供給用ノズル10をその中心軸線CLが記録媒体用基板30の記録面に対し直交するように保持するノズルホルダー部12における端部に設けられるボールねじのナット部に嵌めあわされるボールねじに連結される出力軸を有する駆動用モータ16と、一端が後述するブラケット部材に固定されノズルホルダー部12を貫通しノズルホルダー部12の自転を規制するガイドピンと、駆動用モータ16と、ガイドピンとを支持するブラケット部材とを主な要素として含んで構成されている。
【0023】
駆動用モータ16は、例えば、ロータリエンコーダを備えるステッピングモータとされる。駆動用モータ16は、後述する制御ユニット50により制御される。
【0024】
ブラケット部材の端部には、並進駆動部18のガイドシャフトの一端が係合されるとともに、並進駆動部18におけるボールねじの一端に係合されるナット部が設けられている。これにより、ブラケット部材は、並進駆動部18におけるボールねじおよびガイドシャフトにより記録媒体用基板30の記録面に対し略平行に移動可能に支持されることとなる。
【0025】
並進駆動部18は、図示が省略されるスピンコート装置の筐体の上部にカップ部28に隣接して設けられている。並進駆動部18は、駆動用モータ20の出力軸にカップリングを介して連結されるボールねじと、ボールねじに対し略平行に配されブラケット部材を案内するガイドシャフトとを主な要素として含んで構成されている。
【0026】
ボールねじおよびガイドシャフトの一端は、スピンコート装置の筐体に設けられる軸受部材22により支持されている。ボールねじおよびガイドシャフトの他端は、ブラケット部材のナット部材およびガイド穴に回転可能に嵌合されている。
【0027】
駆動用モータ20は、例えば、ロータリエンコーダを備えるステッピングモータとされる。駆動用モータ20は、後述する制御ユニット50により制御される。これにより、昇降駆動部14は、所定の速度、例えば、約5.1(mm/sec)の平均速度で移動せしめられる。
【0028】
レジスト供給部は、レジストが貯留される加圧タンクと、加圧タンク内のレジストを吐出させるポンブ部40と、加圧タンクから吐出されたレジストの供給量を設定する吐出スイッチ付き吐出量調整絞り部38と、レジスト供給用ノズル10の一端と吐出量調整絞り部38とを接続する接続チューブ36とを含んで構成されている。
【0029】
塗布液としてのレジストは、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)系レジストとされる。レジストの表面張力γは、例えば、20(mN/m)であり、その密度Cは、例えば、1.1(g/cm3)である。
【0030】
吐出量調整絞り部38は、好ましくは、レジスト供給量が、例えば、1枚の基板全面あたり約1ccだけ供給されるように調整されている。供給量が約1ccよりも減少した場合、レジスト層の膜厚分布が大きくなることが本願の発明者により確認されている。
ポンプ部40は、後述する吐出量制御部54により制御される。
【0031】
本発明に係るスピンコート装置の制御装置の一例においては、さらに、図2に示されるように、上述の昇降駆動部14、並進駆動部18、および、レジスト供給部の動作制御を行う制御ユニット50を備えている。
【0032】
制御ユニット50は、供給されるレジストの特性に応じたレジスト供給用ノズル10の先端の記録媒体用基板30の記録面に対する初期位置および終了位置、待機位置をあらわすデータ、および、予め実験により検証された所望の膜厚に応じたレジストの供給量をあらわすデータ、レジスト供給用ノズル10の各位置に応じた記録媒体用基板30の回転数をあらわすデータ等が記憶される記憶部50Mを内部に備えている。
【0033】
制御ユニット50には、図示が省略されるデータ入力部からのスピンコート開始指令信号Si、スピンコート終了指令信号Sf、駆動用モータ34、16、および、20の各ロータリーエンコーダからの検出パルス信号Sa、Sb,および、Scがそれぞれ供給される。
【0034】
制御ユニット50は、所望の膜厚のレジスト層を記録媒体用基板30の記録面のカーボン保護膜上に形成するにあたっては、図4に示されるようなステップ1乃至10に従い、先ず、スピンコート開始指令信号Siに基づいて初期位置をあらわすデータを記憶部50Mから読み出し、読み出されたデータに基づきレジスト供給用ノズル10の先端を図1に拡大されて示されるように、記録媒体用基板30の外周縁から離隔した図2に二点鎖線で示される位置(待機位置)から所定の距離Aにある初期位置まで中央部に向けて移動させた後、記録媒体用基板30の記録面に対し距離Xの初期位置まで近接するように下降させるべく、制御信号を形成し、それらを駆動制御回路部52に供給する。
【0035】
駆動制御回路部52は、制御ユニット50からの制御信号に基づいて駆動パルス信号CbおよびCcを形成し、それらを駆動用モータ16、および、20に供給する。その際、検出パルス信号Sb,Scに基づいて所定の待機位置からの移動距離を演算し、上述の所定の初期位置に到達したとき、駆動パルス信号CbおよびCcの供給を停止する。
【0036】
上述の距離Aは、初期位置におけるレジスト供給用ノズル10の中心軸線CLから記録媒体用基板30の孔30aの内面までの距離をいう。また、上述の距離Xは、初期位置における記録媒体用基板30の記録面のカーボン保護膜の表面からレジスト供給用ノズル10の先端の端面まで距離をいう。
距離Aは、次の(1)式に従い設定される。
A≧r+X/3 ・・・(1)
但し、rは、レジスト供給用ノズル10の半径である。
【0037】
また、距離Xは、距離Aを予め決定した後、次の(2)式に従い調整され、設定される。
X≦2×(3rγ/2gC)1/3 ・・・(2)
但し、γは、表面張力、gは、重力加速度、Cは、密度である。
なお、スピンコートの間に、余分なレジストが振り切られるとともに有機溶剤成分の乾燥によりレジスト膜が薄くなることは考慮される。即ち、設定される距離Xの値は、(2)式を満足する値であって、所望される最終的に形成されるレジスト層の厚さとなるように設定される。従って、距離Xの値を比較的大に設定するために半径の大きなレジスト供給用ノズル10が用いられてもよい。
【0038】
距離Aおよび距離Xが、(1)および(2)式に従い設定されるのは、以下のような理由からである。
【0039】
本願の発明者により、レジスト供給用ノズル10の先端からレジストがたれ落ちない範囲で、レジスト供給用ノズル10の先端と基板30の記録面との距離X[mm]を設定した時、r+X/3の値より大となる内周エッジから外側の範囲で均一な膜厚の塗布膜が形成できていたことが確認されている。
【0040】
そこで、先ず、レジストがレジスト供給用ノズル10の先端からどれだけ飛び出すまで垂れ落ちないでいられるかを考慮し、例えば、ノズル10の先端の外径2r[mm]としたとき、ノズル10の先端の外周長Rは、R=2πr[mm]となる。この時、ノズル10の先端でレジストに働く表面張力は、T=2πrγ×10-3[mN]となる。但し、γは、レジストの表面張力[mN/m]である。
【0041】
さらに、重力加速度をg[m/s2]としたとき、図3(B)に示されるような、その表面張力Tに釣り合う液滴の重さWは、W=2πrγ×10-3/g[g]となる。
【0042】
レジストの密度をC[g/cm3]とすると、液滴の体積Vは、V=2πrγ/gC[mm3]となるので液滴が球状になると仮定した場合、図3(C)に示されるように、垂れ落ちた液滴REDの半径をyとすると、V=4/3×π×y3より、y=(3rγ/2gC)1/3 となる。つまり、レジストは、図3(A)および(B)に示されるように、ノズル10の先端からX=2y=2×(3rγ/2gC)1/3 の距離だけ飛び出すまでたれ落ちないでいられることになる。
【0043】
本願の発明者により、上述のレジストがノズル10の先端からどれだけ飛び出すまで垂れ落ちないでいられるかが測定された。その測定方法は、ノズルホルダーに設けられたノズル10の先端から、徐々にレジストを出し、そして、たれ落ちるまでの液滴の様子をCCDカメラで真横からの撮影し、液滴の形状が測定されることにより、行われる。その結果、レジストの液滴は、ノズル10の先端から約1.8mm飛び出すまでたれ落ちないことが確認された。
【0044】
このことから、距離A[mm]は、上述の(1)式から得られるA≧r+X/3の範囲で設定されることが必要であることが分かる。なお、距離Aは、基板30の実効面積に起因するのでなるべく小さくする必要があるので距離Aを固定した値として優先し、それに応じた距離Xを設定することが好ましい。
【0045】
制御ユニット50は、図4のステップ2において、レジスト供給用ノズル10の先端が上述の初期位置に向けて移動を開始したとき、例えば、100〜500rpmの範囲で、好ましくは、250rpmで記録媒体用基板30を回転させるべく、制御信号を形成し、それを駆動制御回路部52に供給する。駆動制御回路部52は、制御ユニット50からの制御信号に基づいて駆動パルス信号Caを形成し、それを駆動用モータ34に供給する。これにより、記録媒体用基板30が回転せしめられる。
【0046】
次に、制御ユニット50は、図4のステップ3において、レジスト供給用ノズル10の先端が、例えば、距離Aが、1mm、距離Xが0.5mmとされる上述の初期位置に到達したとき、レジストを所定量だけ1秒間供給すべく、制御信号を形成し、それを吐出量制御部54に供給する。吐出量制御部54は、制御ユニット50からの制御信号に基づいて
ポンプ部40をオン状態とすべく、駆動パルス信号Cpをポンプ部40に供給する。これにより、ポンプ部40は、1秒間、レジストを吐出する。
【0047】
その際、制御ユニット50は、図4のステップ4において、距離Xを維持した状態で、レジスト供給用ノズル10の先端を上述の初期位置から記録媒体用基板30の外周縁近傍に向けて所定の速度で移動開始させるべく、制御信号を形成し、それを駆動制御回路部52に供給する。駆動制御回路部52は、その制御信号に基づいて駆動パルス信号Ccを形成し、それを駆動用モータ20に供給する。
【0048】
これにより、レジスト供給用ノズル10の先端は、半径方向に沿って移動した後、その中心軸線CLが記録媒体用基板30の最外周端よりも基板の中心側に1mmずれた位置で5秒間、停止する。
【0049】
続いて、制御ユニット50は、図4のステップ6、ステップ7、ステップ8において、レジスト供給用ノズル10の先端を上述の待機位置に移動させるとともに、記録媒体用基板30の回転数を、例えば、1000〜6000rpmの範囲で、好ましくは、3000rpmまで加速させ、一定速度で維持するように制御信号を形成し、それらを駆動制御回路部52に供給する。駆動制御回路部52は、制御ユニット50からの制御信号に基づいて駆動パルス信号Caを形成し、それを駆動用モータ34に供給する。これにより、余分なレジストが振り切られ、レジスト層の膜厚が均一化される。ステップ7において、図4に示されるように、記録媒体用基板30は、約6秒間回転され、一旦停止後、さらに、ステップ8において、約26秒間、回転される。約26秒間経過後、図4のステップ9において、制御ユニット50は、記録媒体用基板30の回転を停止すべく、制御信号の供給を停止する。そして、制御ユニット50は、スピンコート終了指令信号Sfに基づいて約27秒間、記録媒体用基板30を放置する。これにより、レジスト層の形成が完了する。
【0050】
本願の発明者の実験によれば、レジストの供給を止めてから、1秒後に、記録媒体用基板30の回転数を3000rpmにし、さらに、20秒間回転させ、スピンコートを完了した場合、図5(A),(B)、(C)、および、(D)に示されるように、レジストが、記録媒体用基板30の孔30aのエッジにかかることなく、孔30aのエッジから0.65mmより外側の範囲30Cで、均一な膜厚のレジスト層を得ることができることが確認された。従って、孔30aの周縁には、レジストが塗布されない環状の領域30NCが形成されることとなる。
【0051】
なお、図5(A),(B)、(C)、および、(D)は、それぞれ、記録媒体用基板30の孔30aの周縁における各位置P1、P2、P3、および、P4を部分的に拡大して示す。
【0052】
図6は、本願の発明者により行われた比較実験例(No.1〜No.9)の結果を示す。比較実験例(No.1〜No.9)においては、上述のレジスト供給用ノズル10の寸法とは異なる寸法を有するレジスト供給ノズルが使用された。
【0053】
使用されたレジスト供給ノズルは、外径0.30mm,内径0.15mmを有している。比較実験例(No.1〜No.9)においては、上述の初期位置における距離Aおよび距離Xは、それぞれ、0.3mm〜1.0mmの範囲、0.6mm〜1.6mmの範囲で設定される。また、比較実験例(No.1〜No.9)の結果は、上述の記録媒体用基板30と同様な形状の記録媒体用基板に対し、レジストの供給を止めてから、1秒後に、記録媒体用基板の回転数を3000rpmにし、さらに、20秒間回転させ、スピンコートを完了した場合の結果である。
【0054】
図6に示される結果から明らかなように、ノズルの外径が、0.30mmの場合、ノズルの先端から1.5mm以下でレジストがたれ落ちないと考えられる。
【0055】
図6において、比較実験例(No.10〜No.21)において、使用されたレジスト供給ノズルは、外径0.51mm,内径0.25mmを有している。比較実験例(No.10〜No.21)においては、上述の初期位置における距離Aおよび距離Xは、それぞれ、0.3mm〜1.0mmの範囲、0.6mm〜1.9mmの範囲で設定される。また、比較実験例(No.10〜No.21)の結果は、上述の記録媒体用基板30と同様な形状の記録媒体用基板に対し、レジストの供給を止めてから、1秒後に、記録媒体用基板の回転数を3000rpmにし、さらに、20秒間回転させ、スピンコートを完了した場合の結果である。
【0056】
図6に示される結果から明らかなように、ノズルの外径が、0.51mmの場合、ノズルの先端から1.8mm以下でレジストがたれ落ちないと考えられる。
【0057】
さらに、図6に示される結果と併せて考えると、ノズルの先端からレジストがたれ落ちない範囲であるx≦2×(3rγ/2gC)1/3 まで基板を近接させた時に、レジストが、基板の内径のエッジにかかることなく、基板の内径のエッジから1mm以内の未塗布部より外周の範囲で、均一な膜厚の塗布膜を得ることができたと考えられる。
【0058】
なお、上述の例においては、基板30を装置のカップ部28の底部に対し水平に設置したが、斯かる例に限られることなく、この方法であれば、基板30をその底部に対し垂直に設置して、スピンコートしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係るスピンコート方法の一例が適用された装置の要部を拡大して示す部分断面図である。
【図2】本発明に係るスピンコート装置の制御装置の一例の概略的な構成を示す構成図である。
【図3】(A),(B)、および、(C)は、それぞれ、本発明に係るスピンコート方法の一例の説明に供されるレジスト供給ノズルの先端および液滴の部分拡大図である。
【図4】本発明に係るスピンコート方法の一例の各ステップの制御態様を示す表である。
【図5】(A),(B)、(C)、および、(D)は、それぞれ、得られた記録媒体用基板における各位置でのレジスト層を部分的に拡大して示す図である。
【図6】比較実験例の結果を示す表である。
【図7】(A)および(B)は、それぞれ、従来の装置における回転円板と基板に形成されるレジスト層との関係の説明に供される部分断面図である。
【符号の説明】
【0060】
10 レジスト供給ノズル
30 記録媒体用基板
RE レジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部に孔を有する記録媒体用基板の記録面に対し塗布液を供給する供給ノズルの先端を、該記録媒体用基板の記録面に対し所定距離Xだけ上方に離隔させ、該記録媒体用基板の孔の周縁から所定距離Aだけ離隔した初期位置に移動させる工程と、
所定の回転数で回転せしめられる前記記録媒体用基板の記録面に対し前記供給ノズルを通じて所定期間、塗布液を供給するとともに、供給ノズルの先端を該記録面に対し所定距離X離隔させつつ、前記初期位置から該記録媒体用基板の半径方向に沿って外周縁に向けて移動させる工程と、を含み、
前記距離Xは、表面張力γ、および、密度Cを有する塗布液が、半径rを有する前記供給ノズルを通じて供給される場合、重力加速度をgとしたとき、不等式 X≦2×(3rγ/2gC)1/3を満足する値に設定され、前記距離Aは、不等式 A≧r+X/3を満足する値に設定されることを特徴とするスピンコート方法。
【請求項2】
回転可能に支持され、中央部に孔を有する記録媒体用基板を着脱可能に支持する基板取付ヘッドと、
前記記録媒体用基板の記録面に対し塗布液を供給する供給ノズルと、
前記基板取付けヘッドを回転させるヘッド回転駆動部と、
移動可能に支持され、前記供給ノズルを保持する供給ノズルホルダー部と、
前記供給ノズルホルダー部に支持される前記供給ノズルの先端を、前記基板取付ヘッドに支持された前記記録媒体用基板の記録面に対し移動させるノズルホルダー駆動部と、
前記ヘッド回転駆動部に、前記基板取付けヘッドを回転させる動作を行わせるとともに、前記ノズルホルダー駆動部に、前記供給ノズルの先端を移動させる動作を行わせる制御部と、を備え、
前記制御部は、前記供給ノズルの先端を、前記記録媒体用基板の記録面に対し所定距離Xだけ上方にあり、該記録媒体用基板の孔の周縁から所定距離Aだけ離隔した初期位置に移動させ、
所定の回転数で回転せしめられる前記記録媒体用基板の記録面に対し前記供給ノズルを通じて所定期間、塗布液を供給させるとともに、供給ノズルの先端を該記録面に対し所定距離X離隔させつつ、前記初期位置から該記録媒体用基板の半径方向に沿って外周縁に向けて移動させ、
前記距離Xを、表面張力γ、および、密度Cを有する塗布液が、半径rを有する前記供給ノズルを通じて供給される場合、重力加速度をgとしたとき、不等式 X≦2×(3rγ/2gC)1/3を満足する値に設定し、前記距離Aを、不等式 A≧r+X/3を満足する値に設定することを特徴とするスピンコート装置の制御装置。
【請求項3】
前記塗布液は、前記記録媒体用基板の記録面に形成されるカーボン保護膜に塗布されるポリメチルメタクリレート系のレジストであることを特徴とする請求項1記載のスピンコート方法。
【請求項4】
前記塗布液は、前記記録媒体用基板の記録面に形成されるカーボン保護膜に塗布されるポリメチルメタクリレート系のレジストであることを特徴とする請求項2記載のスピンコート装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−113761(P2010−113761A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285608(P2008−285608)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】