説明

スピンドル装置及び静電塗装装置

【課題】気体の運動エネルギーを高効率で回転駆動力に変換するスピンドル装置及び静電塗装装置を提供する。
【解決手段】スピンドル装置のタービン翼9は、回転方向の前方に向く前方面21と後方に向き気体を受ける後方面22とを備えている。後方面22は、曲率半径R1を有する凹状円柱面であり、前方面21は、R1よりも大きい曲率半径R2を有する凸状円柱面21aと平面21cとの間に、R1よりも小さい曲率半径R3を有する凸状円柱面21bを配して滑らかに連続させた面である。前方面21を構成する3面のうち凸状円柱面21aが凸状円柱面21bを挟んで流路の流入口側に配され、平面21cが流路の流出口側に配される。隣接するタービン翼9の対向する前方面21と後方面22とに挟まれた空間が、気体の流路を構成し、ノズル10から噴出された気体が流路の流入口31から流入し、凹状円柱面の円弧状湾曲に沿う方向に流れて流出口32から流出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスピンドル装置及び静電塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1,2には、スピンドル装置や塗料噴霧装置に使用される衝動式のタービン羽根車が開示されている。このタービン羽根車は、ノズルから噴出された気体を受ける複数のタービン翼を備えているが、このタービン翼の形状の工夫によって、噴出された気体の衝撃力をタービン羽根車の回転駆動力に変換する効率を高めている。
具体的には、タービン翼は、タービン羽根車の回転方向の後方に向き気体を受ける後方曲面と、タービン羽根車の回転方向の前方を向き隣のタービン翼の後方曲面に対向する前方曲面とを備えているが、両曲面の曲率を規定することにより、タービン羽根車からの気体の排気効率を向上させている。その結果、低流量の気体で高速回転、高トルクを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−300024号公報
【特許文献2】特許第4546103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2のタービン羽根車は、噴出された気体の衝撃力を効率的にタービン羽根車の回転駆動力に変換しているが、気体の運動エネルギーをさらに高効率で回転駆動力に変換することが望まれていた。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、気体の運動エネルギーを高効率で回転駆動力に変換するスピンドル装置及び静電塗装装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の態様は、次のような構成からなる。すなわち、本発明の一態様に係るスピンドル装置は、略筒状のハウジングと、前記ハウジングに挿通され軸受を介して回転自在に支持された回転軸と、前記回転軸に同心に取り付けられ前記回転軸と一体に回転するタービン羽根車と、前記タービン羽根車を回転させるための気体を噴出するノズルと、前記タービン羽根車に形成され前記ノズルから噴出された気体を受ける複数のタービン翼と、を備え、以下の5つの条件A〜Eを満足することを特徴とする。
【0006】
条件A:前記複数のタービン翼は、前記タービン羽根車の外周に沿って環状に並べられており、隣接するタービン翼同士の間隔は等間隔とされている。
条件B:前記各タービン翼は、前記タービン羽根車の回転方向の前方に向く前方面と、前記タービン羽根車の回転方向の後方に向き前記気体を受ける後方面と、を備えている。
条件C:前記後方面は、曲率半径R1を有する凹状円柱面であり、前記前方面は、R1よりも大きい曲率半径R2を有する凸状円柱面と平面との間に、R1よりも小さい曲率半径R3を有する凸状円柱面を配して、滑らかに連続させた面である。
【0007】
条件D:隣接する2つのタービン翼の対向する前方面と後方面とに挟まれた空間が、前記凹状円柱面の円弧状湾曲に沿う方向に前記気体が流れる流路を構成し、前記ノズルから噴出された気体が、前記流路の一端側の開口から流入し、前記凹状円柱面の円弧状湾曲に沿う方向に流れて他端側の開口から流出するようになっている。
条件E:前方面を構成する3つの面のうち曲率半径R2を有する凸状円柱面が、曲率半径R3を有する凸状円柱面を挟んで前記流路の流入口側に配され、平面が前記流路の流出口側に配されている。
【0008】
このようなスピンドル装置においては、以下の3つの条件F〜Hをさらに満足することが好ましい。
条件F:後方面の前記流出口側端部における接平面と、この後方面の前記流出口側端部の回転軌跡の前記流出口側端部における接平面とのなす角度が、20°以上50°以下である。
条件G:前方面の平面は、隣接するタービン翼の後方面と対向しているが、この対向する後方面の前記流出口側端部における接平面と平行をなしている。
条件H:曲率半径R2を有する凸状円柱面のうち前記流路の流入口から最も遠い部分と、この凸状円柱面に対向する隣接するタービン翼の後方面のうち前記流入口側端部との間の距離をAとし、前方面の平面と、この平面に対向する隣接するタービン翼の後方面の前記流出口側端部における接平面との間の距離をBとして、距離Bは距離A未満である。
【0009】
また、上記のスピンドル装置においては、以下の条件Iをさらに満足することが好ましい。
条件I:前記ノズルから噴出される前記気体の噴出方向と、前記気体を受ける後方面を構成する凹状円柱面のうち前記流入口側端部と、のなす角度が75°以上105°以下である。
さらに、本発明の他の態様に係る静電塗装装置は、上記のスピンドル装置のいずれかを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスピンドル装置及び静電塗装装置は、タービン羽根車のタービン翼が、噴出された気体を受けてその衝撃力をタービン羽根車の回転駆動力に変換するとともに、タービン羽根車からの気体の排出による反動力も受けるので、気体の運動エネルギーを高効率で回転駆動力に変換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るスピンドル装置の一実施形態の構造を示す断面図である。
【図2】図1のスピンドル装置のタービン羽根車及びその周辺部分の構造を説明する図である。
【図3】タービン翼及びノズルを拡大して示した斜視図である。
【図4】タービン羽根車のタービン翼を拡大して示した正面図である。
【図5】タービンエアの流量とスピンドル装置の回転軸の回転速度との関係を示すグラフである。
【図6】タービンエアの流量とスピンドル装置の回転軸の回転トルクとの関係を示すグラフである。
【図7】比較例のスピンドル装置のタービン羽根車及びその周辺部分の構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るスピンドル装置及び静電塗装装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係るスピンドル装置の一実施形態の構造を示す断面図(回転軸の軸線を含む平面で切断した断面図)である。また、図2は、図1のスピンドル装置のタービン羽根車及びその周辺部分の構造を説明する図である。さらに、図3は、タービン翼及びノズルを拡大して示した斜視図である。さらに、図4は、タービン羽根車のタービン翼を拡大して示した正面図である。
【0013】
本実施形態のスピンドル装置は、静電塗装装置、歯科用ハンドピース等に好適に用いることができるエアタービン駆動方式のスピンドル装置であって、略筒状のハウジング1と、このハウジング1に同軸に連結された略筒状の給気用部品3と、ハウジング1及び給気用部品3に挿通された回転軸2と、を備えている。そして、この回転軸2は、ハウジング1に設けられたラジアル軸受とアキシアル軸受とによって、ハウジング1及び給気用部品3の内側に回転自在に支持されている。図1においては回転軸2は中空状であるが、中実軸を用いてもよい。
【0014】
なお、本実施形態のスピンドル装置を例えば静電塗装装置用途に用いた場合には、塗料を飛散霧化するための塗装用治具であるベルカップが一体回転可能に回転軸2に取り付けられるが、本実施形態においては、回転軸2の両端のうちベルカップが取り付けられる側(図1においては左側)の端部を先端、反対側(図1においては右側)の端部を後端と記す。
【0015】
ここで、ラジアル軸受について説明する。ハウジング1の内周面には円筒状の多孔質部材4が取り付けられており、この多孔質部材4の内周面が回転軸2の外周面に対向している。また、ハウジング1の後端部に取り付けられた給気用部品3の外面に開口する軸受用給気口11と多孔質部材4とを連通する軸受用給気路12が、ハウジング1及び給気用部品3の内部に形成されている。
そして、軸受用給気路12を介して導入した気体(例えば空気)を多孔質部材4の内周面から回転軸2の外周面に吹き付けることにより気体軸受が形成され、回転軸2のラジアル方向の動きはこの気体軸受により規制されるので、回転軸2は外周面が多孔質部材4の内周面に接触することなく回転自在に支持される。
【0016】
次に、アキシアル軸受について説明する。回転軸2は、その後端近傍部分に、軸方向に対して直角をなす方向に突出するフランジ部6を有しており、このフランジ部6はハウジング1の後端側端面と給気用部品3との間に配されている。フランジ部6は、軸方向に対して直角をなす平面を有していればよく、例えば、回転軸2の外周面から突出する円板部でもよいし、回転軸2よりも大径な円筒部でもよい(図1には、円板部の場合を示してある)。
ハウジング1の後端側端面には、フランジ部6の平面6aに対向するように磁石7(永久磁石でもよいし、電磁石でもよい)が取り付けられている。そして、この磁石7によりフランジ部6の平面6aに磁気力が作用して、フランジ部6がハウジング1の方(軸方向の先端側)に引きつけられている。
【0017】
また、ハウジング1の後端側端面には、フランジ部6の平面6aに対向するように多孔質部材5が取り付けられている。そして、軸受用給気路12を介して導入した気体(例えば空気)を多孔質部材5からフランジ部6の平面6aに吹き付けられるようになっている。よって、フランジ部6には反力が作用して、フランジ部6は軸方向の後端側に押圧される。
【0018】
そして、多孔質部材5からフランジ部6の平面6aに気体が吹き付けられることにより生じる反力と、磁石7により生じ前記反力に釣り合う磁気力(引力)とにより、複合軸受が形成され、回転軸2のアキシアル方向の動きはこの複合軸受により規制される。よって、フランジ部6の平面6aが多孔質部材5の後端側端面に接触することなく回転軸2が回転自在に支持される。
【0019】
このように、ラジアル軸受及びアキシアル軸受によって、ハウジング1及び給気用部品3に接触することなく回転軸2がハウジング1に回転自在に支持されている。なお、本実施形態においては、アキシアル軸受を気体及び磁石による複合軸受としたが、気体軸受としてもよい。すなわち、フランジ部6を挟んで両側に多孔質部材を配し、フランジ部6の両平面6a,6bに気体を吹き付けて気体軸受を形成すれば、回転軸2のアキシアル方向の動きはこの気体軸受により規制されるので、フランジ部6の両平面6a,6bが両多孔質部材に接触することなく回転自在に支持される。
【0020】
また、本実施形態においては、ラジアル軸受を気体軸受とし、この気体軸受によって回転軸2をハウジング1に回転自在に支持したが、気体軸受の代わりに転がり軸受(例えば、高速回転に適したアンギュラ玉軸受)を用いても差し支えない。すなわち、ハウジング1の内周面と回転軸2との間に転がり軸受を配すれば、この転がり軸受によって回転軸2をハウジング1に回転自在に支持することができる。
【0021】
さらに、フランジ部6の両平面6a,6bのうち多孔質部材5と対向する側の平面6aとは反対側の平面6b(すなわち、後端側の平面6b)には、複数のタービン翼9が設けられている。すなわち、フランジ部6は、タービンのタービン羽根車を構成している。
ここで、タービン翼9及びその周辺部分の構造について、図1〜3を参照しながらさらに詳細に説明する。円板状のフランジ部6の平面6bの径方向外方部分に、複数のタービン翼9が、フランジ部6の外周に沿って環状に並べられており、隣接するタービン翼9同士の間隔は等間隔とされている(本発明の構成要件である条件Aに相当する)。
【0022】
なお、本実施形態においては、タービン翼9は、平面6bから軸方向後端側に突出するように設けられているが、フランジ部6の外周に沿って環状に並べられ且つ気体が適切に吹き付けられるならば、フランジ部6の外周面から径方向外方に突出するように設けてもよい。あるいは、フランジ部6の径方向外方部分から軸方向後端側に突出するように円筒部を設け、この円筒部の内周面から径方向内方に突出するようにタービン翼を設けてもよい。
【0023】
一方、給気用部品3の内周面のタービン翼9と対向する部分には、タービン羽根車6を回転させるための気体を噴出するノズル10が設けられている。ノズル10は、タービン翼9の回転軌跡の接線方向に沿う方向に向けられ、気体を同方向に噴出する。ノズル10の数は特に限定されるものではなく、1個でもよいし複数でもよい。
また、給気用部品3内には、給気用部品3の外面に開口するタービン用給気口14とノズル10とを連通するタービン用給気路15が、周方向に連続して形成されている。よって、タービン用給気口14から供給された気体がタービン用給気路15を通ってノズル10に至り、ノズル10から噴出され、径方向外方側からタービン翼9に吹き付けられるようになっている。タービン用給気路15は、軸受用給気路12とは別系統の給気路となっているので、軸受への給気を一定に保ちつつ、タービン羽根車6へ供給する気体の給気圧及び流量を正確に制御することができる。その結果、回転軸2の回転速度を正確に制御することができる。
【0024】
次に、ノズル10から噴出された気体を受けるタービン翼9の形状について、主に図4を参照しながらさらに詳細に説明する。
タービン翼9は、フランジ部6の平面6bから軸方向後端側に突出するように設けられている。この突出量は、ノズル10の開口径とほぼ同じ大きさとしてある。これにより、ノズル10から噴出された気体をタービン翼9で効率良く受けることができる。
【0025】
また、各タービン翼9は、全て同形状であり、タービン羽根車6の回転方向の前方に向く前方面21と、タービン羽根車6の回転方向の後方に向き気体を受ける後方面22と、を備えている(本発明の構成要件である条件Bに相当する)。この後方面22は、曲率半径R1を有する凹状円柱面であり、凹状円柱面の軸がタービン翼9の突出方向と同方向となるように、凹状円柱面が形成されている。
【0026】
一方、前方面21は、R1よりも大きい曲率半径R2を有する凸状円柱面21aと平面21cとの間に、R1よりも小さい曲率半径R3を有する凸状円柱面21bを配して、滑らかに連続させた面であり、全体として湾曲した略凸状面となっている(本発明の構成要件である条件Cに相当する)。このとき、前方面21を構成する3つの面21a,21b,21cの配置については、曲率半径R3を有する凸状円柱面21bを挟んで径方向外方側に、曲率半径R2を有する凸状円柱面21aが配され、径方向内方側に平面21cが配されている(本発明の構成要件である条件Eに相当する)。そして、後方面22と同様に、2つの凸状円柱面21a,21bの軸がいずれもタービン翼9の突出方向と同方向となるように、2つの凸状円柱面21a,21bが形成されているとともに、タービン翼9の突出方向と平行に平面21cが形成されている。
【0027】
隣接する2つのタービン翼9,9の対向する前方面21と後方面22とに挟まれた空間に、ノズル10から気体が吹き込まれるが、該空間が気体の流路を構成する。すなわち、ノズル10から噴出された気体は、図2において矢印で示すように空間の径方向外方側端部の開口31から流入し(以下、この開口31を「流入口31」と記すこともある)、後方面22に衝突する。よって、凸状円柱面21aの曲率半径R2は、ノズル10から噴出された気体が流入口31に流入することを妨げないような大きさであることが好ましい。すなわち、湾曲度が小さく平面状に近い円柱面であることが好ましい。
【0028】
そして、気体は、後方面22を構成する凹状円柱面の円弧状湾曲に沿う方向に流れて、図2において矢印で示すように空間の径方向内方側端部の開口32(以下、この開口32を「流出口32」と記すこともある)から流出し(本発明の構成要件である条件Dに相当する)、給気用部品3の外面に開口するタービン用排気口17からスピンドル装置の外部に排気される。
【0029】
また、後方面22は、以下の条件を満たしていることが好ましい。すなわち、ノズル10から噴出される気体の噴出方向と、噴出された気体を受けるタービン翼9の後方面22を構成する凹状円柱面のうち流入口側端部と、のなす角度は、75°以上105°以下であることが好ましい(本発明の構成要件である条件Iに相当する)。このような構成であれば、ノズル10から噴出される気体の衝撃力を効率良く回転駆動力に変換することができる。ノズル10から噴出される気体の衝撃力を最も高効率で回転駆動力に変換するためには、ノズル10から噴出される気体の噴出方向と、噴出された気体を受けるタービン翼9の後方面22を構成する凹状円柱面のうち流入口側端部と、のなす角度を、90°とすることが最も好ましい。
【0030】
さらに、タービン翼9に備えられた後方面22は、以下の条件を満たしていることが好ましい。すなわち、後方面22の流出口側端部における接平面41と、この後方面22の流出口側端部の回転軌跡の流出口側端部における接平面43とのなす角度θは、20°以上50°以下であることが好ましく(本発明の構成要件である条件Fに相当する)、40°であることが特に好ましい。
【0031】
さらに、前方面21の平面21cは、以下の条件を満たしていることが好ましい。すなわち、前方面21の平面21cは、隣のタービン翼9の後方面22と対向しているが、この対向する後方面22の流出口側端部における接平面42と平面21cとは、平行をなしていることが好ましい(本発明の構成要件である条件Gに相当する)。
さらに、曲率半径R2を有する凸状円柱面21aのうち流路の流入口31から最も遠い部分と、この凸状円柱面21aに対向する隣のタービン翼9の後方面22のうち流入口側端部との間の距離をAとし、前方面21の平面21cと、この平面21cに対向する隣のタービン翼9の後方面22の流出口側端部における接平面42との間の距離をB(すなわち、互いに平行なこれら平面21cと接平面42とに直交する直線の両平面21c,42間の長さがBである)とした場合に、距離Bは距離A未満とすることが好ましい(本発明の構成要件である条件Hに相当する)。すなわち、流路の流出口32の幅は、流入口31の幅未満とすることが好ましい。
【0032】
これらの条件F,G,Hを満たしているため、流入口31から流路内に流入した気体は、後方面22への衝突により一旦流速が低下するが、その後に前方面21の平面21cと後方面22との間の部分を通過する際に流速が高められる。この流速が高められた気体が流出口32から流路外に流出する直前に反動力が生じ、この反動力を後方面22が受けるため、ノズル10から噴出される気体の衝撃力とともに該反動力も回転駆動力に変換される。よって、衝撃力のみを利用した一般的なエアタービン駆動方式のスピンドル装置と比べて、気体の運動エネルギーを極めて高効率で回転駆動力に変換することができる。その結果、比較的低流量の気体を用いても、スピンドル装置の高速回転、高トルクを達成可能である。
【0033】
また、特許文献1,2に開示の技術では、気体の流路の断面積(流路内を流れる気体の流れ方向に直交する平面による断面積)が大きいので、タービン翼を切削加工で作製する場合には加工量が多くなり加工コストが高くなるが、本実施形態の技術であれば気体の流路の断面積が小さいので、タービン翼9を切削加工で作製する場合の加工量が少なく、加工コストが低い。
【0034】
次に、このスピンドル装置の動作について説明する。ハウジング1の後端部に取り付けられた給気用部品3の外面に開口する軸受用給気口11に圧縮空気等による気体を供給すると、この気体は軸受用給気路12を通って多孔質部材4の外周面側に達する。そして、気体は多孔質部材4中を通って、多孔質部材4の内周面から噴出し、回転軸2の外周面に吹き付けられるとともに、多孔質部材5の後端側端面から噴出し、フランジ部6の平面6aに吹き付けられる。
【0035】
これにより、回転軸2の外周面と多孔質部材4の内周面とが非接触状態となり、回転軸2が浮上支持される。さらに、フランジ部6の平面6aに作用した反力により、回転軸2が軸方向後端側に移動し、フランジ部6の平面6aと多孔質部材5の後端側端面は非接触状態となる。そして、磁石7により生じた磁気力(引力)と前記反力とが釣り合う位置で、回転軸2が浮上支持される。
【0036】
このような気体軸受への気体の供給と同時に又は遅れて、給気用部品3内に形成されたタービン用給気路15に圧縮空気等による気体を供給すると、タービン用給気路15を流れた気体はノズル10へと至り、回転軸2の後端側端部に同心に設けられたタービン羽根車6のタービン翼9に気体が吹き付けられるため、回転軸2がタービン羽根車6と一体に高速で回転駆動される。このとき、タービン翼9に吹き付けられた気体の衝撃力とともに、気体がタービン羽根車6の外に流出する直前に生じる反動力も回転駆動力に変換されるので、気体の運動エネルギーが極めて高効率で回転駆動力に変換される。
【0037】
このような本実施形態のスピンドル装置は、静電塗装装置に適用することができる。静電塗装装置は、スピンドル装置と、塗料を飛散霧化するための塗装用治具であるベルカップ(図示せず)と、例えば塗料,シンナーをベルカップに供給する各供給管(図示せず)と、塗料に電荷を印加する高電圧発生器(図示せず)と、を備えている。塗料供給管及びシンナー供給管は、中空の回転軸2の内部に挿通されており、ベルカップは回転軸2の先端に一体回転可能に取り付けられている。
【0038】
高電圧発生器によって回転軸2の内部を高電圧の静電場に置くとともに、気体をタービン羽根車6のタービン翼9に吹き付けて回転軸2を高速回転させた状態で、回転軸2の内部を通る塗料供給管及びシンナー供給管を介して塗料及びシンナーをベルカップに供給する。すると、回転軸2の先端で高速回転しているベルカップから、帯電霧化した塗料が被塗装物に噴霧される。これにより、被塗装物の塗装を行うことができる。ベルカップのサイズ、形状等を変更すれば、様々な被塗装物への塗装が可能である。
【0039】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、遠心力による破損や繰り返し応力による破損が生じなければ、タービン翼9の材質は特に限定されるものではない。よって、密度の小さい材質でタービン翼9を構成すれば、回転開始から所定の回転速度に到達するまでの時間が短くなるので、例えば、スピンドル装置を静電塗装装置に適用した場合には、塗装作業時間の短縮を図ることができる。
また、タービン羽根車6のタービン翼9に吹き付ける気体の種類は、特に限定されるものではなく、圧縮空気等の空気の他、窒素、水蒸気等の他種の気体を用いることも可能である。
【0040】
〔実施例〕
前述した本実施形態のスピンドル装置(実施例)と、図7に示すような従来のスピンドル装置(比較例)とを、それぞれ回転駆動させ、タービン羽根車に吹き付けた気体の流量と、回転軸の回転速度及びトルクを測定した。なお、従来のスピンドル装置は、ノズルから噴出された気体を受けるタービン翼がタービン羽根車の外周面に形成されており、噴出された気体の衝撃力のみを回転駆動力に変換する衝動式のタービン羽根車を備えるスピンドル装置である。
結果を図5,6のグラフに示す。グラフから分かるように、実施例のスピンドル装置は、比較例のスピンドル装置よりも40〜50%少ない流量で同一の回転速度を得ることができた。また、比較例のスピンドル装置よりも30〜40%少ない流量で同一のトルクを得ることができた。
【符号の説明】
【0041】
1 ハウジング
2 回転軸
3 給気用部品
4 多孔質部材
5 多孔質部材
6 タービン羽根車
6a 平面
6b 平面
7 磁石
9 タービン翼
10 ノズル
21 前方面
21a 曲率半径R2を有する凸状円柱面
21b 曲率半径R3を有する凸状円柱面
21c 平面
22 後方面
31 流入口
32 流出口
41 接平面
42 接平面
43 接平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略筒状のハウジングと、前記ハウジングに挿通され軸受を介して回転自在に支持された回転軸と、前記回転軸に同心に取り付けられ前記回転軸と一体に回転するタービン羽根車と、前記タービン羽根車を回転させるための気体を噴出するノズルと、前記タービン羽根車に形成され前記ノズルから噴出された気体を受ける複数のタービン翼と、を備え、以下の5つの条件A〜Eを満足することを特徴とするスピンドル装置。
条件A:前記複数のタービン翼は、前記タービン羽根車の外周に沿って環状に並べられており、隣接するタービン翼同士の間隔は等間隔とされている。
条件B:前記各タービン翼は、前記タービン羽根車の回転方向の前方に向く前方面と、前記タービン羽根車の回転方向の後方に向き前記気体を受ける後方面と、を備えている。
条件C:前記後方面は、曲率半径R1を有する凹状円柱面であり、前記前方面は、R1よりも大きい曲率半径R2を有する凸状円柱面と平面との間に、R1よりも小さい曲率半径R3を有する凸状円柱面を配して、滑らかに連続させた面である。
条件D:隣接する2つのタービン翼の対向する前方面と後方面とに挟まれた空間が、前記凹状円柱面の円弧状湾曲に沿う方向に前記気体が流れる流路を構成し、前記ノズルから噴出された気体が、前記流路の一端側の開口から流入し、前記凹状円柱面の円弧状湾曲に沿う方向に流れて他端側の開口から流出するようになっている。
条件E:前方面を構成する3つの面のうち曲率半径R2を有する凸状円柱面が、曲率半径R3を有する凸状円柱面を挟んで前記流路の流入口側に配され、平面が前記流路の流出口側に配されている。
【請求項2】
以下の3つの条件F〜Hをさらに満足することを特徴とする請求項1に記載のスピンドル装置。
条件F:後方面の前記流出口側端部における接平面と、この後方面の前記流出口側端部の回転軌跡の前記流出口側端部における接平面とのなす角度が、20°以上50°以下である。
条件G:前方面の平面は、隣接するタービン翼の後方面と対向しているが、この対向する後方面の前記流出口側端部における接平面と平行をなしている。
条件H:曲率半径R2を有する凸状円柱面のうち前記流路の流入口から最も遠い部分と、この凸状円柱面に対向する隣接するタービン翼の後方面のうち前記流入口側端部との間の距離をAとし、前方面の平面と、この平面に対向する隣接するタービン翼の後方面の前記流出口側端部における接平面との間の距離をBとして、距離Bは距離A未満である。
【請求項3】
以下の条件Iをさらに満足することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスピンドル装置。
条件I:前記ノズルから噴出される前記気体の噴出方向と、前記気体を受ける後方面を構成する凹状円柱面のうち前記流入口側端部と、のなす角度が75°以上105°以下である。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のスピンドル装置を備えることを特徴とする静電塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−96380(P2013−96380A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242738(P2011−242738)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】