説明

スポンジローラ、定着ローラ、定着装置、および、画像形成装置

【課題】コストアップや設置スペースの増大なしに、定着ベルトの片寄りを効果的に低減させ、良好な品質の画像を得られる定着ローラを提供する。
【解決手段】押し出し成形法によって形成された高分子物資で構成される多孔質体からなる多孔質層が、心軸の周囲に設けられているスポンジローラにおいて、前記多孔質層が、前記定着ローラの一方の端側の第1の多孔質体と、他方の端側の第2の多孔質体と、の2つの円筒状部材により構成され、かつ、前記第1の多孔質体と第2の多孔質体とが、押し出し成形時に押し出し成形機から押し出された押し出し方向が互いに逆に、配置されているスポンジローラ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、レーザプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置において用いられる定着ベルト式定着装置に用いることができるスポンジローラ、定着ローラを備えた定着ベルト式定着装置、および、このような定着ベルト式定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真機器に使用される定着装置として、ベルトを用いたベルト定着方式が用いられている。
【0003】
図13は、ベルト式定着装置の一例の概念図、図14はこのベルト式定着装置の斜視図である。
【0004】
これら図において符号1は定着ベルト、2は定着ローラ(この場合は駆動ローラを兼用している)、3は従動ローラ、4はテンションローラ、5は加圧ローラ、6は熱源としてのハロゲンヒータをそれぞれ示す。
【0005】
定着ローラ2の回転により、定着ベルト1は回転し、定着ベルト1の熱源6により従動ローラ3を介して加熱された部分が加圧ローラ5と定着ローラ2とが定着ベルト1を介して圧接されているニップ部に到達し、ニップ部を画像定着に適した温度に保ち、トナーが一方の面に付着した記録紙(図示しない)のトナーを記録紙に定着させる。
【0006】
テンションローラ4は、定着ベルト1のテンションを適正な範囲に保つよう、図示しない付勢手段により定着ベルト1に対して付勢されている。また、加圧ローラ5は定着ベルト1を介して定着ローラ2に対して、上記ニップ部のニップ圧が画像定着に必要な範囲の圧力となるよう、図示しない付勢手段により、付勢されている。
【0007】
上記例では従動ローラ3の内部にハロゲンヒータなどの熱源6が組み込まれていて、従動ローラ3の表面を介して定着ベルト1を加熱するようになっているが、加圧ローラ5の内部に熱源を組み込んで、ニップ部を加熱するようにしてもよい。
【0008】
このように示すベルト式定着装置によるベルト定着方式では、ベルト駆動時の定着ベルトの片寄りによって定着ベルトの端部が破損すると、定着装置としての機能が著しく低下する。この定着ベルト破損防止対策として、定着ベルトの内周面への寄り規制部材の貼付や、ローラ軸端部へのベルト寄り止めリングの設置、あるいは、ベルトの支持部材制御機構の搭載(例えば、特許文献1参照。)等が知られている。
【0009】
しかし、強い寄り力が生じたときには、規制部材の貼付による対策では、規制部材の剥離やベルトの乗り上げが発生しやすくなり、また、ベルト寄り止めリングの設置による対策ではベルト端部の座屈による破損が生じやすくなる。また、ベルト寄り制御機構を定着装置に搭載した場合には設置スペースの増大やコスト上昇の課題が残る。
【0010】
上記問題点を解決する方法として、特許文献2では以下の方法が提案されている。
【0011】
すなわち、定着ローラの表層の研磨を行う際に、砥石をローラ軸方向に移動させる方向が従来一方向であったものを、例えばローラ中央を振り分け位置として、そこから左右の端部に向けて移動させる。これによって、定着ローラ表層に形成される研磨目が振り分け位置から2方向に分かれて形成され、研磨目によって発生するベルト片寄りの力が左右均等になって、片寄りが抑制される。
【0012】
しかし、画像形成処理能力の高い高速機の場合、従来の画像形成装置に比べ、ニップ圧力が大きく、かつ、線速が速くなっているために定着ベルトに片寄る力がより強く働くために、特許文献2で提案されている定着ローラ製造時の研磨方向を振り分ける方法では充分には片寄りを抑制できなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここで、本発明は、コストアップや設置スペースの増大なしに、定着ベルトの片寄りを効果的に低減させ、良好な品質の画像を得られる定着ローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ベルトの寄りを生じさせる力は定着ベルト内に有する定着ローラの寄与が大きいことが判っている。定着ローラは金属の芯金上にシリコーンスポンジ(シリコーン製多孔質体)を配置した構成であり、定着ベルトの寄りの方向性やその大きさはセルの形状や大きさ、表研磨目等の表層状態の影響を受ける。しかしながら、定着ローラ全体のセル形状全てを均一に制御して製作することは難しく、片寄りを起こす力の大きさをゼロにするのは困難である。
【0015】
ここで、本発明者等は、ベルトが片寄る速度は研磨の影響よりも定着ローラのスポンジの押し出し成形時の押し出し方向による寄与が大きいこと、スポンジの押し出し成形時に押し出し成型機から押し出される押し出し方向と定着ベルトの片寄りの方向とが逆であることを見出し、本発明に至った。
【0016】
図15はベルト端部位置の時間的な変化(片寄り)を説明する説明図である。図15(a)は片寄り方向の定義を示す図、図15(b)はベルトの変位を模式的に示すグラフである。図15(a)において、ベルトの右端部の設計上の基準位置を変位0の位置として、それより右方向を+側とする。 図15(b)のグラフにおいて縦軸はベルト端部の位置、横軸は累積使用時間をそれぞれ示す。
【0017】
駆動ローラを含む複数本のローラに架け渡された定着ベルトは、駆動ローラの回転に従動し、一方向に回転するが、ローラの平行度のずれや、ベルト左右の張力のバランス崩れなどのさまざまな要因で、片寄りが発生する。多くの場合、一旦、片寄りが発生すると、図15(b)に示すように、同方向に片寄りが進行し、ついにはベルトがローラから外れてしまったり、ベルト端部が他の部材に接触して破損をしてしまうという不具合が生ずる。
【0018】
ここで、このような定着装置で用いられる定着ローラは金属製の芯金周囲に円筒状の、比較的柔軟な多孔質体(スポンジ)を同心に配して形成される。定着ローラは耐熱性が要求されるので、前記多孔質体として一般的にはシリコーンゴムのスポンジが用いられ、このスポンジは芯金に接着剤で固定されている。
【0019】
図16は従来の定着ローラの製造工程を表すフローチャートである。混練(ゴム練り工程)したシリコーンゴムを押し出し成形機による押し出し成形法により、成形機より押し出して円筒状の形状(チューブ形状)に成形(押し出し工程)し、発泡、加硫し、全長を必要な長さに近い長さにカットする(全長粗カット工程)。このようにして作った多孔質体からなるチューブにあらかじめ洗浄(洗浄工程)し、必要に応じて乾燥させた後、接着剤を塗った(接着剤塗布工程)芯金を挿入して接着し(芯金挿入工程)、接着剤を硬化ないし乾燥させた(接着剤硬化工程)後、多孔質体の全長を所定の長さにカット(全長カット工程)し、さらに、ローラの側面を砥石などで研削して最終的に必要とされる形状に仕上げて(研磨工程)製造される。
【0020】
このようなベルト定着装置においては、構成や部材の左右偏差によって図15に示すようにローラの軸方向(図15中の矢印A方向のいずれかの方向)へのベルトの片寄りが生じる。
【0021】
図4はこのようにして製作した従来の定着ローラの模式図を示した。なお、矢印の向きは押し出し成形時に押し出し成形機から押し出された押し出し方向を示している。
【0022】
ベルトの寄りはこの押し出し方向の影響を受け、押し出し成形時の条件により、この押出し方向と逆方向に生じる。本発明者等はこのようなベルトの寄り方向への押し出し方向の影響を見出し、本発明に至った。
【0023】
すなわち、本発明の定着装置は、上記課題を解決するために、請求項1に記載の通り、押し出し成形法によって形成された高分子物資で構成される多孔質体からなる多孔質層が、心軸の周囲に設けられているスポンジローラにおいて、前記多孔質層が、前記定着ローラの一方の端側の第1の多孔質体と、他方の端側の第2の多孔質体と、の2つの円筒状部材により構成され、かつ、前記第1の多孔質体と第2の多孔質体とが、押し出し成形時に押し出し成形機から押し出された押し出し方向が互いに逆に、配置されていることを特徴とするスポンジローラである。
【0024】
また、本発明のスポンジローラは、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の定着ローラにおいて、前記第1の多孔質体が、該第1の多孔質体の前記押し出し方向が前記第2の多孔質側になるように、配置されていることを特徴とする。
【0025】
また、本発明のスポンジローラは、請求項3に記載の通り、請求項1または請求項2に記載の定着ローラにおいて、前記第1の多孔質体と前記第2の多孔質体との間隔が0.5mm以下であることを特徴とする。
【0026】
また、本発明のスポンジローラは、請求項4に記載の通り、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のスポンジローラにおいて、前記第1の多孔質体における前記第2の多孔質体側の面と、前記第2の多孔質体における前記第1の多孔質体側の面と、が前記スポンジローラ内部で互いに接着されている。
【0027】
また、本発明のスポンジローラは、請求項5に記載の通り、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の定着ローラにおいて、前記第1の多孔質体における前記第2の多孔質体側の面に、前記心軸に同軸で前記多孔質層の外径より小さい径の円筒部を有する凸部が備えられ、かつ、前記凸部が、前記第2の多孔質体における前記第1の多孔質体側に設けられかつ該凸部に対応する形状の凹部と嵌合され、かつ、前記凸部の円筒部の外側面が前記凹部に接着されている。
【0028】
また、本発明のスポンジローラは、請求項6に記載の通り、請求項5に記載の定着ローラにおいて、前記円筒部の外側面と前記多孔質層の側面との距離が5mm以下であることを特徴とする。
【0029】
また、本発明のスポンジローラは、請求項7に記載の通り、請求項5または請求項6に記載の定着ローラにおいて、前記第1の多孔質体における前記第2の多孔質体側の面の前記円筒部よりも前記多孔質層の表面側の面と、前記スポンジローラの軸と、がなす角度が、85°以下または95°以上である。
【0030】
本発明の定着ローラは請求項8に記載の通り、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のスポンジローラから構成されていることを特徴とするが定着ローラである。
【0031】
本発明の定着装置は、請求項9に記載の通り、請求項8に記載の定着ローラが備えられていることを特徴とする定着装置である。
【0032】
本発明の画像形成装置は、請求項10に記載の通り、請求項9に記載の定着装置が備えられていることを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0033】
本発明のスポンジローラによれば、前記多孔質層が、前記定着ローラの一方の端側の第1の多孔質体と、他方の端側の第2の多孔質体と、の2つの円筒状部材により構成され、かつ、前記第1の多孔質体と第2の多孔質体とが、押し出し成形時に押し出し成形機から押し出された押し出し方向が互いに逆に、配置されているために、ベルトを偏らせる力が相殺されるので、定着装置の定着ローラへ応用したときに高速機での、高ニップ圧、高速回転による片寄りの増加に対して、これまでの機械的な制御技術を用いることなく、コストアップや設置スペースの増大なしに、ベルトの片寄りを効果的に解消させることが可能となり、その結果、画像形成装置に応用したときに常に良好な画像が得られる。
【0034】
また、請求項2に記載のスポンジローラによれば、一方の端側の多孔質体における押し出し成形時に押し出し成形機から押し出された押し出し方向が、他方の端に向かう方向であるために、定着装置の定着ローラに応用したときに定着ベルトを片寄らせる力が両端部に向かって働くために、定着ベルトのしわ発生を防止することができる。
【0035】
また、請求項3にスポンジローラによれば、前記第1の多孔質体と前記第2の多孔質体との間隔が0.5mm以下であるので、定着装置の定着ローラに応用したときに両多孔質体の間の部分での定着性低下を効果的に防止することができる。
【0036】
また、請求項4に記載のスポンジローラによれば、前記第1の多孔質体と前記第2の多孔質体との間隔が0.5mm以下である構成により、多孔質体に比して柔軟性に劣る硬化後の接着剤がローラ表面付近に存在しないために、継ぎ目部分も他の部分との硬度の差が小さくなり、定着装置の定着ローラへ応用したときに異常画像(画像すじ)発生を防止することができる。
【0037】
また、請求項5に記載のスポンジローラによれば、前記第1の多孔質体における前記第2の多孔質体側の面に、前記心軸に同軸で前記多孔質層の外径より小さい径の円筒部を有する凸部が備えられ、かつ、前記凸部が、前記第2の多孔質体における前記第1の多孔質体側に設けられかつ該凸部に対応する形状の凹部と嵌合され、かつ、 前記凸部の円筒部の外側面が前記凹部に接着されている構成により、接着面がローラ表面と同心となるので、ニップ部や定着ベルトによりローラ表面にその芯に向かう力が加わった場合に、接着面に対して横方向の力(せん断力)がかからない。このため接着面での剥がれが生じにくくなり、結果として耐久性が向上する。
【0038】
また、請求項6に記載のスポンジローラによれば、上記において、前記円筒部の外側面と前記多孔質層の側面との距離が5mm以上であるので、硬化した接着剤によるローラの硬さへの影響が小さく、その結果、定着装置の定着ローラへ応用したときに異常画像(画像すじ)の発生を防止することができる。
【0039】
また、請求項7に記載のスポンジローラによれば、上記において、前記第1の多孔質体における前記第2の多孔質体側の面の前記円筒部よりも前記多孔質層の表面側の面と、前記スポンジローラの軸と、がなす角度が、85°以下または95°以上であるので、定着装置の定着ローラへ応用したときに、定着ベルトを介して定着ローラに圧力が加わった場合にも、継ぎ目部分が大きく開かないために、この部分での定着性の低下、延いては異常画像の発生を効果的に防止することができる。
【0040】
本発明に係る定着装置によれば、上記スポンジローラを定着ローラとして備えているために、コストアップや設置スペースの増大なしに、定着ベルトの片寄りを効果的に低減させるので、常に良好な品質の画像が得られる。
【0041】
本発明に係る画像形成装置によれば、上記定着装置を備えているために、コストアップや設置スペースの増大なしに、定着ベルトの片寄りを効果的に低減させるので、常に良好な品質の画像が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るスポンジローラの製造工程の一例を表すフローチャートである。
【図2】実施例に係るスポンジローラを示す図である。図2(a)実施例1に係る定着ローラのモデル図である。図2(b)実施例に係る他のスポンジローラのモデル図である。
【図3】本発明の効果を示す図である。
【図4】比較例に係るスポンジローラを示すモデル図である。
【図5】実施例に係る他のスポンジローラを示すモデル図である。
【図6】実施例に係る他のスポンジローラを示すモデル図である。
【図7】隙間Lを示すモデル拡大図である。
【図8】実施例に係る他のスポンジローラを示すモデル拡大図である。
【図9】距離d1のローラ硬度への影響を示す図である。
【図10】実施例に係る他のスポンジローラを示すモデル拡大図である。
【図11】実施例に係る他のスポンジローラを示すモデル拡大図である。
【図12】角度θのローラ硬度への影響を示す図である
【図13】ベルト式定着装置の一例の概念図である。
【図14】図13のベルト式定着装置の斜視図である。
【図15】ベルト端部位置の時間的な変化(片寄り)を説明する説明図である。図15(a)片寄り方向の定義を示す図である。図15(b)ベルトの変位を模式的に示すグラフである。
【図16】従来の定着ローラの製造工程を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明を、図面を参照して説明する。
【0044】
図1は本発明に係る定着ローラの製造工程の一例を表すフローチャートの一例である。
【0045】
混練(ゴム練り工程)したシリコーンゴムを押し出し成形機による押し出し成形法により、成形機より押し出して円筒状の形状(チューブ形状)に成形(押し出し工程)し、発泡、加硫し、全長を必要な長さに近い長さに2本分カットする(全長粗カット工程)。このとき、2本の長さを加えると、製品である定着ローラの多孔質層の長さより長くなる(後述するように互いに接合する接合部分に加工を行う場合にはさらに長くする)ようにカットを行う。
【0046】
このようにして作った多孔質体からなるチューブ(円筒状体)2本の互いに接合する端部に、必要に応じて互いに勘合する凹凸を設けてもよく(端部凹凸部加工)、凹凸を設けないときには、端部凹凸部加工を行わないで次工程に進む。
【0047】
そして、これら2つのチューブの互いに接合する端部に必要に応じて接着剤を塗布(端部接着剤塗布)し、これら2つのチューブにあらかじめ洗浄(洗浄工程)し、必要に応じて乾燥させた後、接着剤を塗った(接着剤塗布工程)芯金を挿入して接着し(芯金挿入工程)、接着剤を硬化ないし乾燥させた(接着剤硬化工程)後、多孔質体の全長を所定の長さにカット(全長カット工程)し、さらに、ローラの側面を砥石などで研削して最終的に必要とされる形状に仕上げて(研磨工程)製造される。
【0048】
ここで、実際に本発明に係る定着ローラを作製した。
【0049】
押出成形で作製された多孔質体である発泡シリコーンゴムからなるチューブの外径は42mm、内径は20mmで、その多孔質体の硬度は35°(アスカーC硬度)であった。
【0050】
長さ115mmに切断したこのようなチューブ状の多孔質体2本に、側面にシリコーン系接着剤を塗布した長さ296mm、外径20mmのSUM24L製の芯金を挿入したのちに接着剤を硬化させ、その後、多孔質体が必要な寸法となるように研削盤を用いて機械加工し、最終外径を20mmとした。このとき、第1の多孔質体における押し出し成形時に押し出し成形機から押し出された押し出し方向と、第2の多孔質体における押し出し成形時に押し出し成形機から押し出された押し出し方向と、が互いに反対に、かつ、第1の多孔質体における押し出し成形時に押し出し成形機から押し出された押し出し方向が、前記第2の多孔体に向かう方向であるようにして、図2(a)にモデル的に示した実施例1の定着ローラを得た(図中矢印は押し出し成形時の押し出し方向を示す。図中符号11は心軸、12a及び12bは多孔質体からなる円筒体をそれぞれ示す)。
【0051】
またこの実施例1の定着ローラと同様に、ただし、多孔質体2本ではなく2倍の長さの1本の多孔質体を用いて、図4にモデル的に示した比較例に係る定着ローラを作製した。
【0052】
このように作製した本発明に係る定着ローラを、寄り規制部材のないベルトを用い、ローラ軸端部へのベルト寄り止めリング、および、ベルトの支持部材制御機構の搭載のない定着装置に取り付け、さらに画像形成装置に取り付けて画像形成を行ったところ、同条件で上記比較例に係る定着ローラを用いた場合に比して、図3に、寄りの発生量の経時的変化を示したように非悪例に係る定着ローラによる寄りβに対して、小さい寄りαとすることができることが確認された。(ここで、図2(a)に示したように一方の端側の多孔質体における押し出し成形時に押し出し成形機から押し出された押し出し方向が、他方の端に向かう方向であると定着ベルトのしわ発生が防止されるので好ましい)。
【0053】
すなわち、本発明に係る定着ローラではスポンジ層を構成する第1の多孔質体と第2の多孔質体との押し出し成形時の押し出し方向が互いに異なるために、定着ベルトへの定着ローラから受ける軸方向の寄り力が相殺された結果、ベルトの寄り発生は抑制された。なお、図3に示す例で、寄りが完全に0とならないのは定着ローラの多孔質体からなるチューブの押し出し成形時の押し出し方向以外にも要因があるためであると推定される。
【0054】
本発明に係る定着ローラにおいて、2つのチューブの継ぎ目(接合端部)は通常はローラの中央付近とするが、例えば上記のように定着ローラの多孔質体からなるチューブの押し出し成形時の押し出し方向以外のベルト寄り要因(他の要因)を勘案して、図2(b)にモデル的に示すように、2つのチューブの長さの比を1:1近辺とせず、大きく変えて定着ローラを作製し、他の要因によるベルト寄りを相殺させることができ、このときも本発明に含まれる。
【0055】
なお、上記図2(a)及び図2(b)にモデル的に示した定着ローラでは2つのチューブの継ぎ目は接合していない。
【0056】
次いで2つの多孔質体からなるチューブの接合方法について、図を用いて説明する。図5に2つの多孔質体からなるチューブと芯金とからなる本発明に係る定着ローラの一例をモデル的に示す。図中太線で示したのは接着剤塗布部である。
【0057】
ここで、定着ローラに使用する接着剤は、耐熱性が要求されるため通常はシリコーン系の接着剤が用いられるが、このようなシリコーン系の接着剤は多孔質体からなるチューブに比して、接着剤の硬化後には接着剤塗布部分がその他の多孔質体部分に比べ堅くなる。ここで、図5に示した定着ローラの場合、2つの多孔質体からなるチューブの接合面全部に接着剤が塗布されており、このようにローラ表面及びその付近に硬度が高い部分が存在する定着ローラを加熱定着装置に搭載して通紙し、画像定着を行った場合に、光沢むらがある画像が発生する場合がある。
【0058】
このような光沢むらの発生は図6にモデル的に示すように(図中太線部が接着剤塗布部)、定着ローラのように一方の端側の多孔質体における他方の端側の側面と、他方の端側の多孔質体における一方の端側の側面と、が前記定着ローラ内部で互いに接着されている、すなわち、ローラ表面付近(好ましくは、ローラ表面から5mm以内の範囲)に接着剤を塗布しない状態で2つの多孔質体からなるチューブを互いに接合させることで解決することができる。
【0059】
2つの多孔質体からなるチューブは必ずしも密着していなくても良い。図7に2つのチューブ12aと12bとの継ぎ目付近のモデル拡大図を示す(図中太線は接着剤層を示す)。2つのチューブ12aと12bとの隙間(L)を0.3〜0.7mmに変化させた定着ローラ(芯金太さ:20mm、多孔質層厚さd1:10mm、多孔質層硬度:35°(アスカーC硬度))を作製し、画像形成装置(リコー社製プリンター)に組み込んで画像の定着処理を行ったとき、上記隙間付近で形成された画像を目視で評価した。そのときの結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
上記結果から2つのチューブの間隔が0.5mm以下であれば良好な画像が得られることが判る。なお、定着性低下とは具体的には、画像と摩擦子に固定した白綿布とを互いに往復摩擦し、白綿布の着色の程度をグレースケールにより判定する方法で、白綿布の着色が濃くなる状態を云う。
【0062】
本発明の定着ローラにおいて、2つのチューブの接合部分に互いに嵌合する凹凸を設け、これら凹凸面で接着による接合を行っても良い。
【0063】
図8にはそのような凹凸を設け、接合した本発明に係る定着ローラの1例の接合部分のモデル拡大図を示す。
【0064】
この例では、一方のチューブ12aに一方の端側における前記他方の端側の側面に、心軸11に同軸な円筒部12a1が有する凸部が備えられている。この例では円筒部12a1から心軸11に向かう面、及び、ローラ表面に向かう面はともに、心軸11の芯に対して垂直な面となっており、他方のチューブ12bの一方のチューブ12a側面には一方のチューブ12aの他方のチューブ12b側に設けられた凸部に対応する形状となっている。図中太線は接着面を示し、一方のチューブ12aと他方のチューブ12bとは円筒部12a1の側面、すなわち、ローラ表面から等しい距離d2を持つ面でのみ接着されている。
【0065】
ここで接着面とローラ表面との距離d2を変化させたときのローラの表面硬さへの影響を調べた。
【0066】
押出成形で作製された多孔質体である発泡シリコーンゴムからなるチューブの外径は42mm、内径は20mmで、その多孔質体の硬度は35°(アスカーC硬度)であった。
【0067】
このようなチューブ状の多孔質体2本の互いに接合する部分を機械加工(端部凹凸加工)し、図8に示した接着面にシリコーン系接着剤を塗布するとともにこれらに、側面にシリコーン系接着剤を塗布した長さ296mm、外径20mmのSUM24L製の芯金を挿入したのちに接着剤を硬化させ、その後、多孔質体が必要な寸法となるように研削盤を用いて機械加工し、最終外径を20mmとし、接着面とローラ表面との距離d2を変化させたローラを複数作製し、接合部の硬度と非接合部の硬度を測定した。結果を図9に示す。図中破線は非接合部の硬度である。
【0068】
図9より、これら条件ではd2が5mm以上であれば非接合部の硬度と同等となることが判る。ここでd2を5mmとした本発明に係る定着ローラを作製し、画像形成装置(リコー社製プリンター)に組み込んで画像形成・定着を行ったが、接合部付近で定着された部分の画像と接合部以外の部分で定着された画像との差はなかったが、d2を4mmとした場合には接合部付近で定着された部分の画像とそれ以外の部分で光沢むらがあった。また、連続的に画像定着テストを行い、耐久性について検討を行ったが、d2を5〜7mmとした本発明に係る定着ローラの接合部分は、他の部分と同等の耐久性が得られることが確認された。
【0069】
上記では、円筒部12a1からローラ表面に向かう面は心軸に垂直な面とした例を示したが、このような定着ローラでは、d2が大きくなると垂直方向から力が加わると(定着装置において加圧ローラから受ける力に相当)ローラ表面で2つのチューブの端部が互いに開いてしまう場合があり、このとき、この部分での定着性が低下してしまう。
【0070】
ここで、円筒部12a1からローラ表面に向かう面(円筒部よりも前記定着ローラの表面側の面)を心軸に垂直な面とせず、心軸に対して傾いた円錐台側面とすることで、このような定着性の低下を効果的に防止することができる。
【0071】
このような定着ローラの一例を図10及び図11に示した。図10に示した例は円筒部よりも前記定着ローラの表面側の面(一方のチューブ12aの面)と新軸とがなす角度θが鈍角な例、図11に示した例は円筒部よりも前記定着ローラの表面側の面(一方のチューブ12aの面)と新軸とがなす角度θが鋭角な例である。
【0072】
ここで図8に示した例同様に、ただし接着面とローラ表面との距離d2を2〜14mmで、かつ、上記角度θを85°、86°、90°、94°及び95°としたときの、2つのチューブの間に形成される距離(開口幅)を調べた。結果を図12に示した。
【0073】
なお、上記テストにおける定着ローラの研削加工を行う際には、上記角度θが鋭角の場合は凸側から凹側に向かって(図11において右側に向かって)トラバース研削し、角度θが鈍角の場合は凹側から凸側に向かって(図10において左側に向かって)トラバース研削した。ここでこれらと逆向きに研削した場合、角度θが鋭角の場合は多孔質体の凸側端部がめくれ上がり、角度θが鈍角の場合は多孔質体の凹側端部がめくれ上がって研削される恐れがあるためである。
【0074】
図12より、円筒部よりも定着ローラの表面側の面と定着ローラの軸となす角度が、85°以下または95°以上であると、上記開口が極めて小さくなることが理解される。
【0075】
これまで定着ローラについて記載してきたが、本発明は定着ローラ以外にも2軸以上のローラでベルトを張架し、回転させるスポンジローラ(ベルト懸架ローラ)にも応用することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0076】
1 定着ベルト
2 定着ローラ
3 従動ローラ(加熱ローラ)
4 テンションローラ
5 加圧ローラ
6 ヒータ
11 心軸
12、12a、12b 多孔質体(チューブ)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0077】
【特許文献1】特開2000−199550号公報
【特許文献2】特開2008−139638号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押し出し成形法によって形成された高分子物資で構成される多孔質体からなる多孔質層が、心軸の周囲に設けられているスポンジローラにおいて、
前記多孔質層が、前記定着ローラの一方の端側の第1の多孔質体と、他方の端側の第2の多孔質体と、の2つの円筒状部材により構成され、かつ、
前記第1の多孔質体と第2の多孔質体とが、押し出し成形時に押し出し成形機から押し出された押し出し方向が互いに逆に、配置されている
ことを特徴とするスポンジローラ。
【請求項2】
前記第1の多孔質体が、該第1の多孔質体の前記押し出し方向が前記第2の多孔質側になるように、配置されていることを特徴とする請求項1に記載のスポンジローラ。
【請求項3】
前記第1の多孔質体と前記第2の多孔質体との間隔が0.5mm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスポンジローラ。
【請求項4】
前記第1の多孔質体における前記第2の多孔質体側の面と、前記第2の多孔質体における前記第1の多孔質体側の面と、が前記スポンジローラ内部で互いに接着されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のスポンジローラ。
【請求項5】
前記第1の多孔質体における前記第2の多孔質体側の面に、前記心軸に同軸で前記多孔質層の外径より小さい径の円筒部を有する凸部が備えられ、かつ、
前記凸部が、前記第2の多孔質体における前記第1の多孔質体側に設けられかつ該凸部に対応する形状の凹部と嵌合され、かつ、
前記凸部の円筒部の外側面が前記凹部に接着されている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のスポンジローラ。
【請求項6】
前記円筒部の外側面と前記多孔質層の側面との距離が5mm以上であることを特徴とする請求項5に記載のスポンジローラ。
【請求項7】
前記第1の多孔質体における前記第2の多孔質体側の面の前記円筒部よりも前記多孔質層の表面側の面と、前記スポンジローラの軸と、がなす角度が、85°以下または95°以上であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のスポンジローラ。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のスポンジローラから構成されていることを特徴とする定着ローラ。
【請求項9】
請求項8項に記載の定着ローラが備えられていることを特徴とする定着装置。
【請求項10】
請求項9に記載の定着装置が備えられていることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−150151(P2011−150151A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11664(P2010−11664)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】