説明

スライド式バルブ

【課題】量産に適しかつ圧力損失を極小化することができるスライド式バルブを提供すること。
【解決手段】2方弁は、固定流路構成部材1と組付部材5と可動流路構成部材7とスライドシール部材21とコイルばね18とアクチュエータとを備える。可動流路構成部材7は、収容孔6の形状に略合致する外形形状を有し、収容孔6内に第1端面3と垂直な方向へ摺動可能に収容される。スライドシール部材21は、第1端面3及び第2端面9に対し摺動可能である。コイルばね18は、可動流路構成部材7の第2端面9がスライドシール部材21の第2シール摺動面23に圧接されるよう可動流路構成部材7を押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路を開放及び遮断し、あるいは、流路を切替えるスライド式バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
化学検査装置、環境分析装置、生命工学研究機器などの各種分析装置において、精度の向上、検査速度の向上、検体、試薬の極小化、装置の小型化などが最重要課題とされており、各種分析装置に使用される流体制御のためのソレノイドバルブに対して性能の向上が求められている。とりわけ、バルブの弁体の開閉による内部容積の変化量(ポンピングボリューム)が、検体、試薬の極小化に伴う微量な流体の制御に影響を与えており、ポンピングボリュームを極小又はゼロにすることが各種分析装置の精度向上に必要不可欠とされる。
【0003】
そこで、本出願人は、ポンピングボリュームがゼロになり、また、装置の小型化、低コスト化、制御の容易化を図ることを目的とするスライド式ソレノイドバルブを提案した(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1に記載のスライド式ソレノイドバルブは、流路が形成された流路構成部材と、流路構成部材の流路途中に流路構成部材に対して摺動可能に配されるスライドシール板であって、流路と連通可能な流路開放孔部と流路を遮断可能な流路遮断壁部とを有するスライドシール板と、スライドシール板を前進位置から原点位置まで復帰させる原点復帰手段と、スライドシール板を原点位置から前進位置まで前進させるソレノイドとを備え、スライドシール板は、原点位置及び前進位置に応じて流路開放孔部及び流路遮断壁部により、流路を開放及び遮断し、あるいは、流路を切替えるよう構成される。
【0005】
一方、特許文献2に記載のスライド式ソレノイドバルブは、第1流路と第1流路のポートが形成された端面とを有する流路構成部材と、流路構成部材の端面上を摺動可能とされ、第1流路のポートに対して連通及び遮断可能とされる第2流路を有するスライドシール部材と、スライドシール部材の摺動方向と直交する方向からスライドシール部材に対して弾性押圧力を常時加え、スライドシール部材を端面に押付ける弾性付勢手段と、スライドシール部材の摺動方向に沿った方向からスライドシール部材に対して原点復帰力を加え、スライドシール部材を原点位置に復帰させる原点復帰手段と、原点復帰手段の原点復帰力とは反対の方向に向けてスライドシール部材に対して駆動力を加え、スライドシール部材を原点位置から移動させるソレノイドと、を備えて構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−51148公報
【特許文献2】特開2009−2383公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載のスライド式ソレノイドバルブにおいて、流路構成部材は、第1流路構成部材と第2流路構成部材との間に2枚の中板を横方向に並べて配し、ボルトとナットを用いて第1流路構成部材と第2流路構成部材と中板を一体に組み付けることによって構成されており、2枚の中板の間に形成された上下方向に貫通した空間に、円板状のスライドシール板と四角板状の保持板が配されている、換言すると、円板状のスライドシール板を第1流路構成部材と第2流路構成部材とによって挟む構成を採用しているため、ボルトとナットの締付力の大きさによって第1流路構成部材と第2流路構成部材との間の隙間寸法が変化し、スライドシール板のシール圧力を一定に保つことが難しく、量産に不向きであるという問題があった。
【0008】
一方、特許文献2に記載のスライド式ソレノイドバルブは、スライドシール部材に対し弾性付勢手段のバネのバネ力を作用しているため、スライドシール部材のシール圧力は一定に保たれ、量産に適するという利点を有するが、スライドシール部材の第2流路が折り返し流路で構成されているため、圧力損失が発生するという問題があった。
【0009】
本発明は、ソレノイドバルブに限定されることなくエアー駆動式バルブにも適用可能であるが、上記のような従来技術の問題点を解決し、量産に適しかつ圧力損失の発生しないスライド式バルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスライド式バルブは、第1端面と少なくとも1つの流路からなる第1流路とを有し、前記第1端面に前記第1流路の一端が開口する固定流路構成部材と、前記第1端面に対向する部位に収容孔を有し、前記第1端面側から前記固定流路構成部材に組み付けられる組付部材と、前記収容孔の形状に略合致する外形形状を有し、該収容孔内に前記第1端面と垂直な方向へ摺動可能に収容される可動流路構成部材であって、前記第1端面に対して平行に対面する第2端面と少なくとも1つの流路からなる第2流路とを有する可動流路構成部材と、前記第1端面と前記第2端面との間に配され、前記第1端面及び前記第2端面に対し摺動可能なスライドシール部材であって、前記第1端面に摺接する第1シール摺動面と前記第2端面に摺接する第2シール摺動面と一端が前記第1シール摺動面に開口するとともに他端が前記第2シール摺動面に開口する少なくとも1つの流路からなる第3流路とを有するスライドシール部材と、前記可動流路構成部材の前記第2端面が前記スライドシール部材の前記第2シール摺動面に圧接されるよう前記可動流路構成部材を押圧するバネ部材と、前記スライドシール部材を原点位置と所定位置との間で直線移動させるアクチュエータと、を備え、前記スライドシール部材の位置により、前記第1流路と前記第3流路と前記第2流路との間の連通パターンを設定することを特徴とする。
【0011】
本発明のスライド式バルブによると、バネ部材により可動流路構成部材を押圧するようにしたため、スライドシール部材が可動流路構成部材から受ける荷重はバネ部材により決定される一定のバネ荷重となり、量産に適するようになる。また、可動流路構成部材は、組付部材の収容孔の形状に略合致する形状を有し、収容孔内に固定流路構成部材の第1端面と垂直な方向へ摺動可能に収容されるため、スライドシール部材の第1シール摺動面及び第2シール摺動面における荷重分布の均一化を図ることができる。また、第3流路は第1シール摺動面から第2シール摺動面に達するよう一つの方向へ向かって形成されているため、圧力損失を極小化することができる。
【0012】
ここで、前記固定流路構成部材は、前記可動流路構成部材に向かって突出する第1突出部を有し、該第1突出部に前記第1端面が形成されるとともに、前記可動流路構成部材は、前記第1突出部に向かって突出する第2突出部を有し、該第2突出部に前記第2端面が形成されており、前記第1端面及び前記第2端面は、それぞれ前記第1シール摺動面及び前記第2シール摺動面よりも面積が小さく、かつ、前記スライドシール部材が直線移動する間、それぞれ前記第1シール摺動面及び前記第2シール摺動面と摺接状態を保つよう構成すると、第1シール摺動面及び第2シール摺動面における荷重分布のより一層の均一化を図ることができるようになり、弾性付勢力の比較的小さなバネ部材を使用可能になるとともに寿命が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるスライド式バルブの第1実施形態に係る2方弁(ON−OFF弁)の断面図であり、スライドシール部材が原点位置にあるときの断面図である。
【図2】同スライド式バルブの断面図であり、スライドシール部材が原点位置から所定位置まで移動したときの断面図である。
【図3】図1の要部拡大図である。
【図4】図2の要部拡大図である。
【図5】本発明によるスライド式バルブの第2実施形態に係るインジェクタの平面図(A)、正面図(B)及び右側面図(C)である。
【図6】図5図示A-A断面図である。
【図7】図5図示B-B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0015】
<第1実施形態(図1〜図4)>
図1〜図4において、本実施形態に係るスライド式バルブとしてのスライド式ソレノイドバルブは、各種分析装置に使用される小型ソレノイドバルブであり、常閉タイプの2方弁(ON−OFF弁)である。
【0016】
2方弁は固定流路構成部材1を備える。固定流路構成部材1は第1流路2を有する。第1流路2は1つの流路のみからなり、第1流路2の一端は固定流路構成部材1の第1端面3に開口している。第1端面3は、後述する可動流路構成部材7に向かって突出する第1突出部4に形成されている。
【0017】
固定流路構成部材1の第1端面3側に組付部材5が対向配置され、図示しない固定金具によって組付部材5が固定流路構成部材1に連結固定される。
【0018】
固定流路構成部材1及び可動流路構成部材7は、PEEK、PPS、又はセラミックスなど比較的硬くて耐食性の良い材料であることが好ましい。
【0019】
組付部材5は、第1端面3に対向する部位に略円筒状の貫通した収容孔6を有する。
【0020】
可動流路構成部材7は組付部材5の収容孔6の形状に略合致する外形形状を有し、収容孔6内に、第1端面3と垂直な方向に摺動可能に収容される。可動流路構成部材7は大径摺動部8aを有する。大径摺動部8aは、収容孔6の大径部6aの内径と略等しい外径を有し、収容孔6の大径部6aに対し摺動可能である。大径摺動部8aは、第1端面3に対向する部位に第2端面9を有する。第2端面9は、第1突出部4に向かって突出する第2突出部10に形成されている。
【0021】
また、可動流路構成部材7は、収容孔6の内径よりも小さな外径を有する小径部11を備える。大径摺動部8aと小径部11は、環状段差面12を介して連続している。
【0022】
また、可動流路構成部材7は小径摺動部8bを有する。小径摺動部8bは、収容孔6の小径部6bの内径と略等しい外径を有し、収容孔6の小径部6bに対し摺動可能である。
【0023】
また、可動流路構成部材7は第2流路13を有する。第2流路13は1つの流路のみからなり、第2流路13の一端は第2端面9に開口している。
【0024】
収容孔6と可動流路構成部材7とにより円筒状のバネ収容空間14が形成される。換言すると、円筒状のバネ収容空間14は、小径部11の外周面15と、小径部11の外周面15に対向する収容孔6の内周面16と、環状段差面12と、環状段差面12に対向する収容孔6の環状ばね受け座17とにより形成される。
【0025】
バネ収容空間14に円筒状のコイルばね18が収容される。コイルばね18は、第1端面3と垂直な方向へ可動流路構成部材7を変位させる押圧力を可動流路構成部材7に対し加える。
【0026】
固定流路構成部材1と組付部材5との間に形成される空間19に、四角板状の保持板20と、保持板20に保持された円板状のスライドシール部材21が配される。
【0027】
スライドシール部材21は、第1端面3と第2端面9との間に、図面上下方向へ直線移動可能に配される。
【0028】
スライドシール部材21は、第1端面3及び第2端面9に対し摺動可能であり、第1端面3に摺接する第1シール摺動面22と第2端面9に摺接する第2シール摺動面23とを有する。第1端面3及び第2端面9は、それぞれ第1シール摺動面22及び第2シール摺動面23よりも面積が小さく、かつ、スライドシール部材21が直線移動する間、それぞれ第1シール摺動面22及び第2シール摺動面23と摺接状態を保つよう構成される。
【0029】
また、スライドシール部材21は第3流路24を有する。第3流路24は1つの流路のみからなり、第3流路24の一端は第1シール摺動面22に開口し、他端は第2シール摺動面23に開口する。
【0030】
スライドシール部材21は、耐薬品性に優れ、かつ、第1端面3及び第2端面9に対して摺動抵抗が小さい材料からなるものであることが好ましい。スライドシール部材21は、四フッ化エチレン樹脂などフッ素樹脂、フッ素ゴム、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、ポリイミド、セラミック又はガラスなどからなる。なお、フッ素ゴム、EPDMは、フッ素樹脂加工すると更に良好である。
【0031】
保持板20は、スライドシール部材21を保持する円形状の保持孔25を有しており、保持孔25に、スライドシール部材21が接着、圧入などによって固定されている。保持板20の肉厚は、スライドシール部材21の肉厚よりも小さく設定されており、保持板20の両面と固定流路構成部材1及び組付部材5との間に隙間が形成されている。
【0032】
保持板20には、スライドシール部材21の摺動方向(上下方向)に長い複数の位置決め孔26が形成されている。各位置決め孔26には、位置決めピン27が挿通されている。各位置決めピン27の両端部は、固定流路構成部材1と組付部材5にそれぞれ設けられた横穴に保持されている。位置決めピン27及び位置決め孔26は、位置決め孔26の上端が位置決めピン27に当接することによってスライドシール部材21の下方への移動を禁止し(図1図示の状態に対応する。)、また、位置決め孔26の下端が位置決めピン27に当接することによってスライドシール部材21の上方への移動を禁止する(図2図示の状態に対応する。)。位置決め孔26及び位置決めピン27は、位置決め機構を構成する。
【0033】
固定流路構成部材1及び組付部材5の上面には、固定金具(図示せず。)によってアクチュエータとしてのソレノイド28が固定されている。
【0034】
ソレノイド28は、ヨークを構成する中空円筒状のケース29を備える。ケース29の上側開口部には、固定鉄心30が固定されている。ケース29の内周面には、ボビン31に巻線されたコイル32が収容されている。ボビン31の中空部には、固定鉄心30の下面と対向して可動鉄心33が上下方向へ移動可能に配されている。可動鉄心33の上面と固定鉄心30の下面との間には、可動鉄心33に対し常時下方への力を加える弾性復帰部材としてのコイルバネなどバネ34が配されている。
【0035】
可動鉄心33の下端部には、連結部材35が結合されている。連結部材35は、固定流路構成部材1と組付部材5の各上面に形成された有底円筒状凹部に収容されており、保持板20を固定保持している。
【0036】
次に、上記のように構成される2方弁の動作を説明する。
【0037】
ソレノイド28のコイル32に対する通電を行わないときは、バネ34がバネ力によって可動鉄心33を下方へ押圧し、連結部材35を介して保持板20の位置決め孔26の上端が位置決めピン27を押圧しており、スライドシール部材21は、原点位置(後退位置、下端位置)にある。このため、図1及び図3に示すように、スライドシール部材21は、固定流路構成部材1の第1流路2と可動流路構成部材7の第2流路13との間を遮断している。
【0038】
ソレノイド28のコイル32に対し通電を開始すると、コイル32に磁界が発生し、可動鉄心33はバネ34のバネ力よりも大きな磁気吸引力を固定鉄心30から受け、可動鉄心33は上方へ移動する。この可動鉄心33の移動に伴い、連結部材35及び保持板20を介してスライドシール部材21が固定流路構成部材1の第1端面3及び可動流路構成部材7の第2端面9に対して摺動しながら上方へ移動し、位置決めピン27が保持板20の位置決め孔26に移動方向を規制されながら移動し、位置決め孔26の下端に当接したとき、スライドシール部材21は移動を停止し、スライドシール部材21は前進位置(上端位置)に保たれる。このため、図2及び図4に示すように、スライドシール部材21の第3流路24は、固定流路構成部材1の第1流路2と可動流路構成部材7の第2流路13との間を連通するようになる。
【0039】
その後、ソレノイド28のコイル32に対する通電を停止すると、コイル32に発生していた磁界が消失し、可動鉄心33に作用していた磁気吸引力が消失する。このため、バネ34のバネ力により可動鉄心33は下方へ移動する。この可動鉄心33の移動に伴い、連結部材35及び保持板20を介してスライドシール部材21が固定流路構成部材1の第1端面3及び可動流路構成部材7の第2端面9に対して摺動しながら下方へ移動し、保持板20の位置決め孔26の上端が位置決めピン27に当接したとき、スライドシール部材21は移動を停止し、スライドシール部材21は原点位置(後退位置、下端位置)に戻る。このため、再び、図1及び図3に示すように、スライドシール部材21は、固定流路構成部材1の第1流路2と可動流路構成部材7の第2流路13との間を遮断する。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の2方弁は、第1端面3と1つの流路からなる第1流路2とを有し、第1端面3に第1流路2の一端が開口する固定流路構成部材1と、第1端面3に対向する部位に収容孔6を有し、第1端面3側から固定流路構成部材1に組み付けられる組付部材5と、収容孔6の形状に略合致する外形形状を有し、収容孔6内に第1端面3と垂直な方向へ摺動可能に収容される可動流路構成部材7であって、第1端面3に対して平行に対面する第2端面9と1つの流路からなる第2流路13とを有する可動流路構成部材7と、第1端面3と第2端面9との間に配され、第1端面3及び第2端面9に対し摺動可能なスライドシール部材21であって、第1端面3に摺接する第1シール摺動面22と第2端面9に摺接する第2シール摺動面23と一端が第1シール摺動面22に開口するとともに他端が第2シール摺動面23に開口する1つの流路からなる第3流路24とを有するスライドシール部材21と、可動流路構成部材7の第2端面9がスライドシール部材21の第2シール摺動面23に圧接されるよう可動流路構成部材7を押圧するコイルばね(バネ部材)18と、弾性復帰部材34を有し、非通電時に、弾性復帰部材34の付勢力によりスライドシール部材21を原点位置に保ち、通電時に、弾性復帰部材34の付勢力に抗し、スライドシール部材21を所定位置まで直線移動させるソレノイド28と、を備え、ソレノイド28への通電及び非通電に基づくスライドシール部材21の位置により、第1流路2と第2流路13との間を連通及び遮断する、換言すると、第1流路2と第3流路24と第2流路13との間の連通パターンを設定する。
【0041】
本実施形態の2方弁によると、コイルばね(バネ部材)18により可動流路構成部材7を押圧するようにしたため、スライドシール部材21が可動流路構成部材7から受ける荷重はコイルばね(バネ部材)18により決定される一定のバネ荷重となり、量産に適するようになる。また、可動流路構成部材7は、組付部材5の収容孔6の形状に略合致する形状を有し、収容孔6内に固定流路構成部材1の第1端面3と垂直な方向へ摺動可能に収容されるため、スライドシール部材21の第1シール摺動面22及び第2シール摺動面23における荷重分布の均一化を図ることができる。また、第3流路24は第1シール摺動面22から第2シール摺動面23に達するよう一つの方向へ向かって形成されているため、圧力損失を極小化することができる。
【0042】
また、固定流路構成部材1は、可動流路構成部材7に向かって突出する第1突出部4を有し、第1突出部4に第1端面3が形成されるとともに、可動流路構成部材7は、第1突出部4に向かって突出する第2突出部10を有し、第2突出部10に第2端面9が形成されており、第1端面3及び第2端面9は、それぞれ第1シール摺動面22及び第2シール摺動面23よりも面積が小さく、かつ、スライドシール部材21が直線移動する間、それぞれ第1シール摺動面22及び第2シール摺動面23と摺接状態を保つよう構成すると、第1シール摺動面22及び第2シール摺動面23における荷重分布のより一層の均一化を図ることができるようになり、弾性付勢力の比較的小さなコイルばね(バネ部材)18を使用可能になるとともに寿命が向上する。
【0043】
なお、上記実施形態ではバネ部材18としてコイルばねを使用したが、コイルばねの代わりに、基部が組付部材5に固定された板ばねを使用し、コイルばねと同様、可動流路構成部材7をスライドシール部材21に押圧するようにしてもよい。
【0044】
また、上記実施形態に係るスライド式ソレノイドバルブは常閉タイプの2方弁(ON−OFF弁)であるが、本発明は、常開タイプの2方弁、3方弁にも容易に適用可能である。
【0045】
<第2実施形態(図5〜図7)>
図5〜図7において、本実施形態に係るスライド式ソレノイドバルブは、各種分析装置に使用される小型ソレノイドバルブであり、インジェクタである。
【0046】
インジェクタは固定流路構成部材1を備える。固定流路構成部材1は第1流路2を有する。第1流路2は、基本液が流れる第1ベース流路2Aとサンプル液が流れる第1サンプル流路2Bとからなる。第1ベース流路2A及び第1サンプル流路2Bの一端は、それぞれ固定流路構成部材1の第1端面3に開口している。第1端面3は、後述する可動流路構成部材7に向かって突出する第1突出部4に形成されている。第1ベース流路2A及び第1サンプル流路2Bの他端は、それぞれ第1ベースポート41A及び第1サンプルポート41Bに連通している。
【0047】
固定流路構成部材1の第1端面3側に組付部材5が対向配置され、図示しない固定金具によって組付部材5が固定流路構成部材1に連結固定される。
【0048】
固定流路構成部材1及び可動流路構成部材7は、PEEK、PPS、又はセラミックスなど比較的硬くて耐食性の良い材料であることが好ましい。
【0049】
組付部材5及び固定流路構成部材1は、第1端面3に対向する部位に収容孔6を有する。
【0050】
可動流路構成部材7は組付部材5の収容孔6の形状に略合致する外形形状を有し、収容孔6内に、第1端面3と垂直な方向に摺動可能に収容される。可動流路構成部材7は、第1端面3に対向する部位に第2端面9を有する。第2端面9は、第1突出部4に向かって突出する第2突出部10に形成されている。
【0051】
また、可動流路構成部材7は第2流路13を有する。第2流路13は、ベース液が流れる第2ベース流路13Aとサンプル液が流れる第2サンプル流路13Bとからなる。第2ベース流路13A及び第2サンプル流路13Bの一端は、それぞれ第2端面9に開口している。第2ベース流路13A及び第2サンプル流路13Bの他端は、それぞれ第2ベースポート42A及び第2サンプルポート42Bに連通している。
【0052】
可動流路構成部材7の中心軸線上には、バネ収容空間14が形成されており、このバネ収容空間にバネ部材としてコイルばね18が収容されている。コイルばね18は、第1端面3と垂直な方向へ可動流路構成部材7を変位させる押圧力を可動流路構成部材7に対し加える。
【0053】
固定流路構成部材1と組付部材5との間に形成される空間19に、四角板状の保持板20と、保持板20に保持された円板状のスライドシール部材21が配される。
【0054】
スライドシール部材21は、第1端面3と第2端面9との間に、図6における上下方向へ直線移動可能に配される。
【0055】
スライドシール部材21は、第1端面3及び第2端面9に対し摺動可能であり、第1端面3に摺接する第1シール摺動面22と第2端面9に摺接する第2シール摺動面23とを有する。第1端面3及び第2端面9は、それぞれ第1シール摺動面22及び第2シール摺動面23よりも面積が小さく、かつ、スライドシール部材21が直線移動する間、それぞれ第1シール摺動面22及び第2シール摺動面23と摺接状態を保つよう構成される。
【0056】
また、スライドシール部材21は、2つの流路24A、24Bからなる第3流路を有する。第3流路24A、24Bの一端は第1シール摺動面22に開口し、他端は第2シール摺動面23に開口する。
【0057】
スライドシール部材21は、耐薬品性に優れ、かつ、第1端面3及び第2端面9に対して摺動抵抗が小さい材料からなるものであることが好ましい。スライドシール部材21は、四フッ化エチレン樹脂などフッ素樹脂、フッ素ゴム、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、ポリイミド、セラミック又はガラスなどからなる。なお、フッ素ゴム、EPDMは、フッ素樹脂加工すると更に良好である。
【0058】
保持板20は、スライドシール部材21を保持する円形状の保持孔25を有しており、保持孔25に、スライドシール部材21が接着、圧入などによって固定されている。保持板20の肉厚は、スライドシール部材21の肉厚よりも小さく設定されており、保持板20の両面と固定流路構成部材1及び組付部材5との間に隙間が形成されている。
【0059】
保持板20には、スライドシール部材21の摺動方向に長い複数の位置決め孔26が形成されている。各位置決め孔26には、位置決めピン27が挿通されている。各位置決めピン27の両端部は、固定流路構成部材1と組付部材5にそれぞれ設けられた横穴に保持されている。位置決めピン27及び位置決め孔26は、位置決め孔26の上端が位置決めピン27に当接することによってスライドシール部材21の下方への移動を禁止し(図6図示の状態に対応する。)、また、位置決め孔26の下端が位置決めピン27に当接することによってスライドシール部材21の上方への移動を禁止する。位置決め孔26及び位置決めピン27は、位置決め機構を構成する。
【0060】
固定流路構成部材1及び組付部材5の上面には、固定金具(図示せず。)によってアクチュエータとしてのソレノイド28が固定されている。
【0061】
ソレノイド28は、ヨークを構成する中空円筒状のケース29を備える。ケース29の上側開口部には、固定鉄心30が固定されている。ケース29の内周面には、ボビン31に巻線されたコイル32が収容されている。ボビン31の中空部には、固定鉄心30の下面と対向して可動鉄心33が上下方向へ移動可能に配されている。可動鉄心33の上面と固定鉄心30の下面との間には、可動鉄心33に対し常時下方への力を加える弾性復帰部材としてのコイルバネなどバネ34が配されている。
【0062】
可動鉄心33の下端部には、連結部材35が結合されている。連結部材35は、固定流路構成部材1と組付部材5の各上面に形成された有底円筒状凹部に収容されており、保持板20を固定保持している。
【0063】
次に、上記のように構成されるインジェクタの動作を説明する。
【0064】
ソレノイド28のコイル32に対する通電を行わないときは、バネ34がバネ力によって可動鉄心33を下方へ押圧し、連結部材35を介して保持板20の位置決め孔26の上端が位置決めピン27を押圧しており、スライドシール部材21は、原点位置(後退位置、下端位置)にある。このため、図6に示すように、スライドシール部材21の第3流路24Aは、固定流路構成部材1の第1ベース流路2A及び可動流路構成部材7の第2ベース流路13Aと連通状態にある。また、他の第3流路24Bは、固定流路構成部材1の第1サンプル流路2B及び可動流路構成部材7の第2サンプル流路13Bと連通状態にあり、第3流路24Bにサンプル液が充填されている。
【0065】
ソレノイド28のコイル32に対し通電を開始すると、コイル32に磁界が発生し、可動鉄心33はバネ34のバネ力よりも大きな磁気吸引力を固定鉄心30から受け、可動鉄心33は上方へ移動する。この可動鉄心33の移動に伴い、連結部材35及び保持板20を介してスライドシール部材21が固定流路構成部材1の第1端面3及び可動流路構成部材7の第2端面9に対して摺動しながら上方へ移動し、位置決めピン27が保持板20の位置決め孔26に移動方向を規制されながら移動し、位置決め孔26の下端に当接したとき、スライドシール部材21は移動を停止し、スライドシール部材21は前進位置(上端位置)に保たれる。このため、スライドシール部材21の第3流路24Bは、固定流路構成部材1の第1ベース流路2A及び可動流路構成部材7の第2ベース流路13Aと連通状態になり、第3流路24B内のサンプル液はベース液中に混入するようになる。
【0066】
その後、ソレノイド28のコイル32に対する通電を停止すると、コイル32に発生していた磁界が消失し、可動鉄心33に作用していた磁気吸引力が消失する。このため、バネ34のバネ力により可動鉄心33は下方へ移動する。この可動鉄心33の移動に伴い、連結部材35及び保持板20を介してスライドシール部材21が固定流路構成部材1の第1端面3及び可動流路構成部材7の第2端面9に対して摺動しながら下方へ移動し、保持板20の位置決め孔26の上端が位置決めピン27に当接したとき、スライドシール部材21は移動を停止し、スライドシール部材21は原点位置(後退位置、下端位置)に戻る。
【0067】
以上説明したように、本実施形態のインジェクタは、第1端面3と第1ベース流路2A及び第1サンプル流路2Bからなる第1流路2とを有し、第1端面3に第1流路2の一端が開口する固定流路構成部材1と、第1端面3に対向する部位に収容孔6を有し、第1端面3側から固定流路構成部材1に組み付けられる組付部材5と、収容孔6の形状に略合致する外形形状を有し、収容孔6内に第1端面3と垂直な方向へ摺動可能に収容される可動流路構成部材7であって、第1端面3に対して平行に対面する第2端面9と第2ベース流路13A及び第2サンプル流路13Bからなる第2流路13とを有する可動流路構成部材7と、第1端面3と第2端面9との間に配され、第1端面3及び第2端面9に対し摺動可能なスライドシール部材21であって、第1端面3に摺接する第1シール摺動面22と第2端面9に摺接する第2シール摺動面23と一端が第1シール摺動面22に開口するとともに他端が第2シール摺動面23に開口する2つの流路24A、24Bからなる第3流路とを有するスライドシール部材21と、可動流路構成部材7の第2端面9がスライドシール部材21の第2シール摺動面23に圧接されるよう可動流路構成部材7を押圧するコイルばね(バネ部材)18と、弾性復帰部材34を有し、非通電時に、弾性復帰部材34の付勢力によりスライドシール部材21を原点位置に保ち、通電時に、弾性復帰部材34の付勢力に抗し、スライドシール部材21を所定位置まで直線移動させるソレノイド28と、を備え、ソレノイド28への非通電時にあっては、第3流路24Aを介して第1ベース流路2Aと第2ベース流路13Aとの間を連通状態にするとともに第3流路24Bを介して第1サンプル流路2Bと第2サンプル流路13Bとの間を連通状態にし、また、通電時にあっては、第3流路24Bを介して第1ベース流路2Aと第2ベース流路13Aとの間を連通状態にするとともに第1サンプル流路2Bと第2サンプル流路13Bとの間を遮断状態にする、換言すると、ソレノイド28への通電及び非通電に基づくスライドシール部材21の位置により、第1流路2と第3流路24と第2流路13との間の連通パターンを設定する。
【0068】
本実施形態のインジェクタによると、コイルばね(バネ部材)18により可動流路構成部材7を押圧するようにしたため、スライドシール部材21が可動流路構成部材7から受ける荷重はコイルばね(バネ部材)18により決定される一定のバネ荷重となり、量産に適するようになる。また、可動流路構成部材7は、組付部材5の収容孔6の形状に略合致する形状を有し、収容孔6内に固定流路構成部材1の第1端面3と垂直な方向へ摺動可能に収容されるため、スライドシール部材21の第1シール摺動面22及び第2シール摺動面23における荷重分布の均一化を図ることができる。また、第3流路24は第1シール摺動面22から第2シール摺動面23に達するよう一つの方向へ向かって形成されているため、圧力損失を極小化することができる。
【0069】
また、固定流路構成部材1は、可動流路構成部材7に向かって突出する第1突出部4を有し、第1突出部4に第1端面3が形成されるとともに、可動流路構成部材7は、第1突出部4に向かって突出する第2突出部10を有し、第2突出部10に第2端面9が形成されており、第1端面3及び第2端面9は、それぞれ第1シール摺動面22及び第2シール摺動面23よりも面積が小さく、かつ、スライドシール部材21が直線移動する間、それぞれ第1シール摺動面22及び第2シール摺動面23と摺接状態を保つよう構成すると、第1シール摺動面22及び第2シール摺動面23における荷重分布のより一層の均一化を図ることができるようになり、弾性付勢力の比較的小さなコイルばね(バネ部材)18を使用可能になるとともに寿命が向上する。
【0070】
なお、上記実施形態ではバネ部材18としてコイルばねを使用したが、コイルばねの代わりに、基部が組付部材5に固定された板ばねを使用し、コイルばねと同様、可動流路構成部材7をスライドシール部材21に押圧するようにしてもよい。
【0071】
また、上記各実施形態はスライド式ソレノイドバルブであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、アクチュエータとしてソレノイドに代えてエアー駆動装置を用いたエアー駆動式のスライド式バルブにも容易に適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0072】
1 固定流路構成部材
2 第1流路
3 第1端面
4 第1突出部
5 組付部材
6 収容孔
7 可動流路構成部材
9 第2端面
10 第2突出部
13 第2流路
18 コイルばね(バネ部材)
21 スライドシール部材
22 第1シール摺動面
23 第2シール摺動面
24、24A、24B 第3流路
28 ソレノイド(アクチュエータ)
34 弾性復帰部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端面と少なくとも1つの流路からなる第1流路とを有し、前記第1端面に前記第1流路の一端が開口する固定流路構成部材と、
前記第1端面に対向する部位に形成された収容孔を有し、前記第1端面側から前記固定流路構成部材に組み付けられる組付部材と、
前記収容孔の形状に略合致する外形形状を有し、該収容孔内に前記第1端面と垂直な方向へ摺動可能に収容される可動流路構成部材であって、前記第1端面に対して平行に対面する第2端面と少なくとも1つの流路からなる第2流路とを有する可動流路構成部材と、
前記第1端面と前記第2端面との間に配され、前記第1端面及び前記第2端面に対し摺動可能なスライドシール部材であって、前記第1端面に摺接する第1シール摺動面と前記第2端面に摺接する第2シール摺動面と一端が前記第1シール摺動面に開口するとともに他端が前記第2シール摺動面に開口する少なくとも1つの流路からなる第3流路とを有するスライドシール部材と、
前記可動流路構成部材の前記第2端面が前記スライドシール部材の前記第2シール摺動面に圧接されるよう前記可動流路構成部材を押圧するバネ部材と、
前記スライドシール部材を原点位置と所定位置との間で直線移動させるアクチュエータと、
を備え、前記スライドシール部材の位置により、前記第1流路と前記第3流路と前記第2流路との間の連通パターンを設定する
ことを特徴とするスライド式バルブ。
【請求項2】
前記固定流路構成部材は、前記可動流路構成部材に向かって突出する第1突出部を有し、該第1突出部に前記第1端面が形成されるとともに、前記可動流路構成部材は、前記第1突出部に向かって突出する第2突出部を有し、該第2突出部に前記第2端面が形成されており、
前記第1端面及び前記第2端面は、それぞれ前記第1シール摺動面及び前記第2シール摺動面よりも面積が小さく、かつ、前記スライドシール部材が直線移動する間、それぞれ前記第1シール摺動面及び前記第2シール摺動面と摺接状態を保つよう構成されることを特徴とする請求項1に記載のスライド式バルブ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−242934(P2010−242934A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95016(P2009−95016)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(390006415)高砂電気工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】