説明

スラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置

【課題】二酸化炭素と水素からメタノールなどを合成し二酸化炭素を固定化する反応を、液相法で効率良く実施できる装置を提供する。
【解決手段】触媒粒子を有機溶媒に分散させた触媒懸濁液中に、二酸化炭素と水素の混合ガスを導入し、マイクロ波を照射して反応させるための反応装置であって、触媒懸濁液(10)を収容する反応管(1)の内部に、触媒懸濁液(10)が流通する中空部(33)を有し一部又は全部が微細孔を有する素材で形成されている内筒(31)と、その周囲を取り囲む外筒(30)とから構成され、かつ、内筒(31)と外筒(30)との間に形成された閉空間(32)の壁面にガス導入口(3a)を有する二重筒構造の円筒型フィルター(2a)と、前記ガス導入口に接続された反応ガス導入管(3)と、前記触媒懸濁液(10)が流通する中空部(33)にガスを噴出する撹拌用ガス導入管(4)と、未反応ガスならびに生成ガスを排出する排出管(5)と、を備えるスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素(CO)と水素(H)の混合ガスを、触媒を分散した有機溶媒中に導入し、マイクロ波を照射して反応させるスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置に関する。より詳細には、閉空間を有する二重筒構造の円筒型フィルターの閉空間に二酸化炭素と水素の混合ガスを導入し、フィルターを介してマイクロバブルとし、触媒を分散させた有機溶媒中に噴出させて反応させるスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の社会的活動に伴って、発電所、工場、自動車等から大気中に排出される二酸化炭素は地球温暖化の主たる原因であることが知られており、近年、この二酸化炭素の排出量を削減することが地球環境保護における大きな課題となっている。そのため、発電所等の排煙や大気中の二酸化炭素を固定化し除去する方法が種々検討されている。
【0003】
二酸化炭素を水素と反応させてメタノールに変換し再利用する方法は、生物的あるいは物理的に二酸化炭素を固定化する方法と比較してエネルギーの低減が図れる可能性があり、二酸化炭素の固定化の手段として期待されている。
【0004】
二酸化炭素と水素からメタノ−ルを合成する方法の場合、触媒反応が起こる媒体の違いにより、気相法と液相法の2種類の合成法が知られている。
【0005】
気相法は、触媒を充填した触媒層中に、原料である二酸化炭素と水素の混合ガスを導入して触媒と接触させ、気相状態でメタノールを合成する方法である。例えば、特許文献1には、銅と酸化亜鉛をベースとする触媒を用いる方法が開示され、また、特許文献2には、銅、亜鉛、アルミニウムおよびガリウムの各酸化物と、アルカリ土類金属元素およびランタンの金属酸化物の一種以上とを含有するメタノール合成触媒を用いて、二酸化炭素と水素の混合ガスからメタノールを合成する方法が提案されている。
【0006】
そして、本発明者等は、気相法での二酸化炭素と水素からのメタノール合成において、酸化銅−酸化亜鉛−アルミナ等からなる触媒にマイクロ波を照射し、触媒を効果的に、かつ均一に加熱することで、より低温、低圧の温和な条件でメタノールを合成する方法を提案してきた(特許文献3、4参照)。しかしながら、二酸化炭素のメタノールへの転換率が十分に向上せず、その原因として、反応装置内における触媒槽の設置位置によってマイクロ波照射密度が変化する場合や、あるいは触媒槽の上流側では循環する反応ガス(二酸化炭素と水素の混合ガス)に熱が奪われ、触媒が理想温度域まで加熱されない場合があることが判明している。
【0007】
一方、液相法は、触媒を有機溶媒中に分散、懸濁させておき、この中へ二酸化炭素と水素の原料ガスを導入して触媒と接触させることで、液体の媒体中でメタノールを合成する方法であり、溶媒を用いることで、反応系内への触媒の分布や、熱の分布を均一化することが容易になるため、上記の気相系での熱分布の不均一性の問題を解消して、より低温、低圧下で効率的にメタノールを合成できることが期待できる。
【0008】
液相法による、二酸化炭素と水素からメタノールを合成する方法として、例えば、特許文献5には、銅および亜鉛からなる金属または酸化物を触媒とし、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素あるいは高級アルコールを溶媒とし、反応温度100〜400℃、反応圧力20〜350Kg/cmの条件でメタノールを合成する方法が例示されている。実施例には、酸化銅−酸化亜鉛を触媒として、ベンゼン中に分散させ、250℃、100Kg/cmでメタノールを合成する例が、また、特許文献6には、その実施例中に、銅と亜鉛の合金からなる平均粒径390オングストロームの微細粒子を触媒として、ベンゼン中に懸濁させ、250℃、100Kg/cmでメタノールを合成する例が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献5あるいは6に開示された方法は、いずれも二酸化炭素と水素の混合ガスを触媒と有機溶媒を入れたオートクレーブ中に封入して反応させる回分方式であり、オートクレーブ中に封入可能な量の混合ガスしか反応に供することができず、効率的に二酸化炭素と水素からメタノールを合成する方法とは言えない。
【0010】
二酸化炭素と水素の混合ガスを、触媒を分散させた有機溶媒中に連続的に導入して反応する方法として、特許文献7には、その第3の実施の形態として、スラリー床反応器に、ドデカン等を溶媒として銅−亜鉛系の微粉末触媒を分散した触媒懸濁液を入れ、スラリー床下部より、一酸化炭素と二酸化炭素および水素の混合ガスを触媒懸濁液中にバブリングして反応する方法が開示されている。しかしながら、混合ガスを単にバブリングさせるだけでは、発生する気泡が大きく、かつ不揃いであり、また触媒懸濁液の断面全体に渡って均等に発生させることが困難であるため、混合ガスを触媒に効果的に接触させることが難しく、反応効率を十分に向上させることができないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平4−122444号公報
【特許文献2】特開平10−277392号公報
【特許文献3】特開2006−169095号公報
【特許文献4】特開2008−247778号公報
【特許文献5】特開平3−258737号公報
【特許文献6】特許第2764114号公報
【特許文献7】特開2000−204053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、メタノール合成などにおける二酸化炭素と水素からの化学反応を、液相法で効率良く実施できる装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した。そして、反応用触媒を炭化水素等の有機溶媒に懸濁させた触媒懸濁液中に、二酸化炭素と水素の混合ガスを導入しマイクロ波を照射して反応させる方法において、二酸化炭素と水素の混合ガスを微細孔を有する素材を介してマイクロバブル化して触媒懸濁液中に導入するとともに、別途ガスを導入してマイクロバブルの上昇流を生じさせることで、二酸化炭素と水素の混合ガスを触媒と効果的に接触させることができることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1)触媒粒子を有機溶媒に分散させた触媒懸濁液中に、二酸化炭素と水素の混合ガスを導入し、マイクロ波を照射して反応させるための反応装置であって、
触媒懸濁液を収容する反応管(1)の内部に、
触媒懸濁液が流通する中空部(33、36)を有し、一部または全部が微細孔を有する素材で形成されている内筒(31、34)と、前記内筒の周囲を取り囲む外筒(30)とから構成され、かつ、内筒(31、34)と外筒(30)との間に形成された閉空間(32、35)を有しその壁面にガス導入口(3a、3b)を有する二重筒構造の円筒型フィルター(2a、2b)と、
前記ガス導入口(3a、3b)に接続された反応ガス導入管(3)と、
前記触媒懸濁液が流通する中空部(33、36)にガスを噴出する撹拌用ガス導入管(4)と、
未反応ガスならびに生成ガスを排出する排出管(5)と、
を備えることを特徴とするスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
2)前記閉空間(32、35)に加圧された二酸化炭素と水素の混合ガスが導入され、該混合ガスが内筒(31、34)の微細孔からマイクロバブルとして触媒懸濁液中に噴出される、前記1)に記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
3)前記二重筒構造の円筒型フィルター(2a)の内筒(31)が、微細孔を有する素材で形成された円筒部分(31a)の上部(31b)と下部(31c)が漏斗状に広がった形状であり、漏斗状の先端部で外筒(30)と接合されている、前記1)または2)に記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
4)前記二重筒構造の円筒型フィルター(2b)の内筒(34)が、円筒形の形状であり、円筒の上下端で外筒(30)と接合されている、前記1)または2)に記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
5)前記二重筒構造の円筒型フィルター(2a、2b)の内筒(31、34)における微細孔のポアサイズが、0.3〜10μmである、前記1)〜4)のいずれかに記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
6)前記反応管(1)の内径と前記外筒(30)の外径との比が、1:0.4〜0.6の範囲である、前記1)〜5)のいずれかに記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
7)前記ガス導入口(3a、3b)から導入された二酸化炭素と水素の混合ガスは、微細孔を通過した後、マイクロバブルとなって中空部(33、36)に噴出し、噴出したマイクロバブルは、撹拌用ガス導入管(4)から導入されたガスの上昇流に同伴して上昇する、前記1)〜6)のいずれかに記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
8)前記二重筒構造の円筒型フィルター(2a、2b)の内筒(31、34)および外筒(30)が、マイクロ波を透過する素材で形成されている、前記1)〜7)のいずれかに記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
9)マイクロ波照射装置内に配置して用いられる、前記1)〜8)のいずれかに記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明の装置によれば、二酸化炭素と水素の混合ガスは触媒懸濁液中に微細径のマイクロバブルとなって噴出するため触媒粒子の表面に効果的に接触し吸着することができる。また、触媒懸濁液中に別途ガスをバブリングしながら導入することにより、撹拌装置を用いることなくマイクロバブルを上昇させることができるとともに、触媒粒子の沈降も防止することができるので、効率良く連続的に二酸化炭素と水素の反応を行うことができる。 また、反応管の内径と外筒の外径の比を一定範囲に調整することにより、バブリングによる十分な撹拌効果が得られるため、マグネチックスターラー等の撹拌装置が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の二酸化炭素固定化反応装置を用いた反応装置の概略構成例を示す図である。
【図2】本発明の二酸化炭素固定化反応装置の反応管部分の構成例を示す図である。
【図3】図2の反応管に設置された二重筒構造の円筒型フィルターの断面図である。
【図4】本発明の二酸化炭素固定化反応装置の反応管部分の別の構成例を示す図である。
【図5】図4の反応管に設置された二重筒構造の円筒型フィルターの断面図である。
【図6】本発明の二酸化炭素固定化反応装置の反応管部分の別の構成例を示す図である。
【図7】本発明の二酸化炭素固定化反応装置の反応管部分の別の構成例を示す図である。
【図8】二重筒構造の円筒型フィルターを反応管に設置するためのホルダーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の二酸化炭素固定化反応装置を用いた反応装置の概略構成例を示す図である。図1に示す様に、本発明の二酸化炭素固定化反応装置は、触媒粒子を有機溶媒に分散させた触媒懸濁液中に、二酸化炭素と水素の混合ガスを導入し、マイクロ波を照射して反応させるための反応装置であり、ガラス製の反応管1と、二重筒構造の円筒型フィルター2と、外筒のガス導入口に接続された反応ガス導入管3と、前記触媒懸濁液10が流通する中空部にガスを噴出する撹拌用ガス導入管4と、未反応ガスならびに生成ガスを排出する排出管5と、マイクロ波照射装置6と、を備えている。
【0018】
反応管1の内部には、二重筒構造の円筒型フィルター2(詳細は後述)が配置され、触媒懸濁液10が充填される。二酸化炭素と水素の混合ガスは、ガス調整装置により所定の容量比に調整された後、レギュレーターで所定の圧力に制御しながら、反応ガス導入管3より二重筒構造の円筒型フィルター2に導入される。二重筒構造の円筒型フィルター2に導入された混合ガスは、二重筒構造の円筒型フィルター2の内筒の微細孔より押出されることでマイクロバブル化する。
【0019】
また、二酸化炭素と水素の混合ガスは、別途ラインのレギュレーターにより所定の流量に調整された後、撹拌用ガス導入管4より二重筒構造の円筒型フィルター2の底部から導入されることでバブリングする。導入された混合ガスは、触媒懸濁液10中に形成されたマイクロバブルならびに触媒粒子を撹拌し対流させる効果がある。
【0020】
反応管1にはマイクロ波照射装置6よりマイクロ波が照射され、二酸化炭素と水素が反応しメタノールなどを生成する。反応生成ガス(反応後は加熱によりガス状となっている)と未反応ガスの混合物は、排出管5から排出され、トラップ12、13により反応生成物が分離され、未反応ガスはガス調整装置に戻され反応管1に循環される。反応生成物の組成及び反応率(転化率)は、サンプリング口7、8から採取したサンプリングガスを分析することにより求めることができる。図1中、9は安全弁、11は背圧弁である。
【0021】
(実施の形態1)
次に、第1の実施形態である二重筒構造の円筒型フィルター2aを備えた二酸化炭素固定化反応装置Aについて、図2および図3を用いて詳細に説明する。図2は、円筒部分31aの上部31bおよび下部31cが漏斗状に拡がった構造の内筒31を有する二重筒構造の円筒型フィルター2aの外観斜視図であり、図3は当該二重筒構造の円筒型フィルター2aの断面図である。
【0022】
図2に示す様に、二重筒構造の円筒型フィルター2aは、内筒31と外筒30から構成されている。内筒31は触媒懸濁液10が流通する中空部33を有し、内筒31の円筒部分31aが微細孔を有する素材で形成され、上部31bおよび下部31cの漏斗状に拡がった部分は、テフロン(登録商標)などのマイクロ波透過性樹脂またはガラスで形成されている。外筒30は、内筒31の周囲を取り囲み、内筒31の上部31bおよび下部31cの先端部が外筒30と接合されて閉空間32を形成するとともに、閉空間32の壁面(図2および図3では外筒30側の壁面)にガス導入口3aを有している。外筒30側の壁面に設けられたガス導入口3aには、反応ガス導入管3が接続されている。反応ガス導入管3は、接合部材22によって外筒30に固定されている。反応ガス導入管3には、二酸化炭素と水素の混合ガスを導入する反応ガス導入チューブ20が接続される。
【0023】
二重筒構造の円筒型フィルター2aは、図8に詳細図を示すホルダー24に載置されることで、反応管1内に配置される。
【0024】
また、二重筒構造の円筒型フィルター2aの側面には、接合部材23によって撹拌用ガス導入管4が取り付けられており、撹拌用ガス導入管4には、二酸化炭素と水素の混合ガスを導入する撹拌用ガス導入チューブ21が接続される。そして、撹拌用ガス導入管4の先端開口部4aは、二重筒構造の円筒型フィルター2aの底面中央部に位置するように配置される。
【0025】
図3に示す様に、二重筒構造の円筒型フィルター2aでは、内筒31の円筒部分31aの上部31bおよび下部31cの漏斗状の先端部が、外筒30と接合されることにより、外筒30と内筒31の間には閉空間32が形成される。また、内筒31の内側には、中空部33が形成されている。反応ガス導入管3より導入された二酸化炭素と水素の混合ガスは、外筒30側の壁面に設けられたガス導入口3aを介して、閉空間32に加圧された状態で充填されるが、内筒31の円筒部分31aが微細孔を有する素材で形成されているので、この微細孔を通過して中空部33に押出される。その際、内筒31の円筒部分31aを形成する微細孔のポアサイズが小さいため、混合ガスは微細径の気泡として押出されることとなり、中空部33中には触媒懸濁液10が満たされているため、混合ガスは該触媒懸濁液10中でマイクロバブルを形成して噴出する。
【0026】
一方、撹拌用ガス導入管4より導入された二酸化炭素と水素の混合ガスは、内筒31の内側に形成された前記中空部33の底部から、当該中空部33に満たされた触媒懸濁液10中にバブルとして噴出する。撹拌用ガス導入管4より発生するバブルは、マイクロバブルよりも大きな径の気泡であり、中空部33を上昇して噴出する。この上昇流により、それ自体では殆ど上昇流を生じないマイクロバブルが効果的に撹拌され、上昇流に同伴して中空部33を上昇する。また触媒粒子も撹拌されるので沈降が防止され分散状態が維持される。
【0027】
そして、内筒31は、上部31bおよび下部31cが漏斗状の形状をしているため、撹拌用ガス導入管4より導入されたガスは、下部31cの漏斗状形状により効果的に中空部33に取り込まれて上昇し、上部31bの漏斗状の部分で拡がって、二重筒構造の円筒型フィルター2aの外側へ滑らかに溢れ出る。
【0028】
内筒31を形成する素材は漏斗状の部分を含めて微細孔を有する素材で形成されていてもよいが、漏斗状の部分には均一に圧がかからないので、内筒31の円筒部分31aのみを多孔微細孔を有する素材(多孔質素材)で形成するのが、均一にマイクロバブルを発生させる点からは好ましい。
【0029】
なお、実施の形態1では、反応ガス導入管3のガス導入口3aが閉空間32の外筒30側の壁面に形成されている例を説明したが、反応ガス導入管3は閉空間32に通じていればよいため、ガス導入口3aの位置は特に限定されない。例えば、図4、5に示すように、閉空間32の漏斗状部分上部31bに形成されていてもよい。
【0030】
(実施の形態2)
図6は、第2の実施形態である二重筒構造の円筒型フィルター2bを備えた二酸化炭素固定化反応装置Bを示す図である。異なる形態の二重筒構造の円筒型フィルター2bを備えた反応管1を示す図である。図6に示す二重筒構造の円筒型フィルター2bは、外筒30のみならず内筒34も円筒形であり、内筒34の上下端と外筒30の上下端が接合されることで、内筒34と外筒30に挟まれた閉空間35を形成している他は、第1の実施形態と同様である。内筒34の内側は中空部36である。内筒34はその全部が微細孔を有する素材で形成されていてもよく、一部が微細孔を有する素材で形成されていてもよい。
【0031】
また、反応ガス導入管3より導入された二酸化炭素と水素の混合ガスは、外筒30側の壁面に設けられたガス導入口3bを介して、閉空間35に充填される。一部または全部を多孔質素材で形成した内筒34から混合ガスを押出してマイクロバブルを発生させる機構および、撹拌用ガス導入管4から二酸化炭素と水素の混合ガスをバブリングする機構は、図2で説明した二重筒構造の円筒型フィルター2aの場合と同様である。
【0032】
図6に示す反応装置では、二重筒構造の円筒型フィルター2bは、その内筒34の上面および下面は開放され、内筒34と外筒30に挟まれた上面および下面は閉じている。反応ガス導入管3から導入された混合ガスは、内筒34の微細孔より押出されることでマイクロバブル化する。また、二酸化炭素と水素の混合ガスは、撹拌用ガス導入管4より二重筒構造の円筒型フィルター2bの底部から導入されることでバブリングするため、導入された混合ガスは、触媒懸濁液10中に形成されたマイクロバブルならびに触媒粒子を撹拌し対流させる。
【0033】
なお、図6では反応ガス導入管3のガス導入口3bが閉空間35の外筒30側の壁面に形成されている例を説明したが、反応ガス導入管3は閉空間35に通じていればよいため、ガス導入口3bの位置は特に限定されず、図7に示すように、閉空間35の上部に形成されていてもよい。
【0034】
実施の形態1および実施の形態2で説明した本発明の反応装置A、Bにおいて、二重筒構造の円筒型フィルターの内筒31、34を形成する素材としては、微細孔を有する多孔質の素材で、かつマイクロ波を透過する素材が用いられ、このような素材としては、シラス多孔質ガラス等が挙げられる。
【0035】
内筒31、34を形成する微細孔のポアサイズは、0.3〜10μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜5μmである。ポアサイズ0.3μm未満の場合は、フィルターへの混合ガス圧が高くなりすぎて破損の恐れがあるほか、二酸化炭素と水素の混合ガスのマイクロバブルが微細化しすぎるため循環液量を増やす必要があり、かつガス圧とマイクロバブルの溶け込み量の相関が得られなくなるとの文献報告もあり、好ましくない。一方、ポアサイズ10μmを超える場合は、混合ガスのマイクロバブル径が大きくなり、十分なマイクロバブルの滞留時間が得られず、触媒との接触効率が悪くなり、反応速度が低下する恐れがある。
【0036】
二重筒構造の円筒型フィルターの外筒30を形成する素材としては、マイクロ波を透過する素材であれば特に限定されず、セラミックやガラス、テフロン(登録商標)等を用いることができる。
【0037】
また、本発明の反応装置A、Bにおいては、反応管1の内径と外筒30の外径との比が、1:0.4〜0.6の範囲であることが好ましく、この範囲であればバブリングによる十分な撹拌効果が得られるため、マグネチックスターラー等の撹拌装置が不要になる。
【0038】
マイクロバブルの発生量は、図1に示すように、反応ガス導入管3より導入する二酸化炭素と水素の混合ガスの圧力をレギュレーターにより調節することによって制御するのがよい。内筒31、34を形成する多孔質体のポアサイズにより圧力は異なるが、通常、0.01〜1MPa程度の範囲内で制御することが好ましい。
【0039】
また内筒31、34に取り囲まれた中空部33、36にバブリングさせる気泡の量は、図1に示すように、撹拌用ガス導入管4より導入するガスの流量をレギュレーターで調節することにより制御するのがよい。触媒懸濁液10に使用した溶媒の種類や触媒の粒径や濃度によって異なるが、通常、1〜200ml/min程度の範囲内で制御することが好ましい。
【0040】
本発明の反応装置A、Bにおいて、触媒懸濁液10中に発生させるマイクロバブルは気泡の径が極めて小さいため、触媒粒子と接触した場合に、触媒表面に容易に吸着すると考えられ、マイクロ波で触媒が加熱されることにより、二酸化炭素が水素と容易に反応するものと推定される。しかしながら、マイクロバブルは極めて小さな気泡であるため、前記したように、溶媒中を上昇して移動する速度は極めて遅い。そこで本発明の反応装置A、Bでは、マイクロバブルに、別途気泡をバブリングして、マイクロバブルを撹拌し、気泡とともに上昇して移動させ、新たなマイクロバブルを供給して反応を行うという循環を生み出し、効率的に反応を進行させるものである。
【0041】
また、マイクロバブルを移動させるためにバブリングした気泡は、同時に触媒懸濁液10を撹拌する効果も有しており、触媒粒子を効果的に流動させることで沈降を防止するので、本発明の反応装置A、Bにおいては、撹拌機の設置を省略することができる。
【0042】
撹拌用ガス導入管4より導入するガスは、マイクロバブルや触媒粒子を撹拌するのが主たる目的であるため、使用するガスの種類は特に限定されないが、反応ガスと同じ組成の二酸化炭素と水素の混合ガスを用いるのが、循環させて反応に再利用できることから好ましい。
【0043】
本発明の反応装置A、Bを用いて二酸化炭素と水素を反応させる場合、触媒としては、公知の二酸化炭素と水素の反応に用いられる公知の触媒を用いればよい。二酸化炭素と水素からのメタノール合成においては、当該合成に用いられる公知の触媒を任意に用いることができるが、メタノール転化率(二酸化炭素のモル数に対する合成されたメタノールのモル数)の観点より、銅酸化物および亜鉛酸化物を主成分とする金属酸化物触媒が好ましく、例えば、酸化銅−酸化亜鉛、酸化銅−酸化亜鉛−アルミナ、酸化銅−酸化亜鉛−酸化クロム、酸化銅−酸化亜鉛−酸化ランタン等を挙げることができる。
【0044】
触媒粒子の大きさは、内筒31、34に取り囲まれた中空部33、36にバブリングさせる気泡によって効果的に撹拌され沈降を起こさなければ特に限定されず、通常、直径が1〜100μm程度のものが用いられる。
【0045】
触媒粒子を分散させる溶媒は、マイクロ波により加熱されることで反応系の温度を上昇させる恐れがなく、低温での反応を可能にするため、マイクロ波を吸収しないものが好ましく用いられる。原料ガスである水素や二酸化炭素、あるいは生成物であるメタノールに対して不活性であるという観点から、炭化水素系溶媒が好ましく用いられる。炭化水素系溶媒としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素あるいは芳香族炭化水素が挙げられ、特に脂肪族炭化水素が好ましい。これらの溶媒は単独または混合物として用いればよい。
【0046】
脂肪族炭化水素としては、炭素数8〜20、好ましくは炭素数12〜18の脂肪族の飽和あるいは不飽和炭化水素が用いられ、具体的には、オクタン、ノナン、2,2,5−トリメチルヘキサン、デカン、ドデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、灯油、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン等が挙げられる。
【0047】
脂環式炭化水素としては、炭素数6〜12の脂環式炭化水素が用いられ、具体的には、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン等が挙げられる。
【0048】
芳香族炭化水素としては、炭素数6〜12の芳香族炭化水素が用いられ、具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン、テトラリン等が挙げられる。
【0049】
溶媒に分散させる触媒の量は特に限定はされないが、溶媒100質量部に対して、1〜50質量部、好ましくは2〜10質量部である。触媒が少な過ぎると反応速度が低下する恐れがあり、逆に多すぎても、懸濁液の粘度が高くなりすぎて反応速度が低下する恐れがあるとともに、バブリングによる触媒の分散にむらが生じやすくなり、触媒が固まっている部分へのマイクロ波による過加熱の恐れがある。
【0050】
本発明の反応装置A、Bにおいては、二酸化炭素と水素の混合ガスを用いることができるが、二酸化炭素としては、石炭、石油、LNG、プラスチックの燃焼により生じた燃焼排ガスや、熱風炉排ガス、高炉排ガス、転炉排ガス、燃焼排ガス等の製鉄所副生ガスのような、二酸化炭素を1〜40容量%含有する排ガス等も使用することができる。混合ガスには、反応を阻害しない範囲で窒素ガスなどの不活性ガスが含まれていてもよい。二酸化炭素と水素の比率は特に限定されるものではなく、二酸化炭素の利用効率およびメタノール転化率、選択率を考慮して決定すれば良く、二酸化炭素/水素=50/50〜5/95(モル比)の範囲が好ましい。
【0051】
本発明の反応装置A、Bは、図1に示す様にマイクロ波照射装置6内に配置して用いられる。マイクロ波照射装置6は、公知のマイクロ波照射装置であって良く、照射するマイクロ波の出力や周波数ならびに照射方法は、特に限定されるものではなく、好ましい照射方法は、反応温度を所定範囲に保持できる様に電気的に制御しながら連続的または断続的に照射する方法である。周波数は、通常1GHz〜300GHzである。なお、照射時間は反応条件に応じて適宜に決定すればよい。
【0052】
以上、本発明に係るスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置の実施形態について説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の反応装置によれば、低温・低圧下の温和な条件で、二酸化炭素と水素からメタノールを合成することができるので、二酸化炭素の固定化方法として二酸化炭素の削減に利用できるとともに、生成したメタノールを燃料や各種化合物の製造原料として用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
A 二酸化炭素固定化反応装置
B 二酸化炭素固定化反応装置
1 反応管
2 二重筒構造の円筒型フィルター
2a 二重筒構造の円筒型フィルター
2b 二重筒構造の円筒型フィルター
3 反応ガス導入管
3a ガス導入口
3b ガス導入口
4 撹拌用ガス導入管
4a 先端開口部
5 排出管
6 マイクロ波照射装置
7 サンプリング口
8 サンプリング口
9 安全弁
10 触媒懸濁液
11 背圧弁
12 トラップ
13 トラップ
20 反応ガス導入チューブ
21 撹拌用ガス導入チューブ
22 接合部材
23 接合部材
24 ホルダー
30 外筒
31 内筒
31a円筒部分
31b上部
31c下部
32 閉空間
33 中空部
34 内筒
35 閉空間
36 中空部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒粒子を有機溶媒に分散させた触媒懸濁液中に、二酸化炭素と水素の混合ガスを導入し、マイクロ波を照射して反応させるための反応装置であって、
触媒懸濁液を収容する反応管(1)の内部に、
触媒懸濁液が流通する中空部(33、36)を有し、一部または全部が微細孔を有する素材で形成されている内筒(31、34)と、前記内筒の周囲を取り囲む外筒(30)とから構成され、かつ、内筒(31、34)と外筒(30)との間に形成された閉空間(32、35)を有しその壁面にガス導入口(3a、3b)を有する二重筒構造の円筒型フィルター(2a、2b)と、
前記ガス導入口(3a、3b)に接続された反応ガス導入管(3)と、
前記触媒懸濁液が流通する中空部(33、36)にガスを噴出する撹拌用ガス導入管(4)と、
未反応ガスならびに生成ガスを排出する排出管(5)と、
を備えることを特徴とするスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
【請求項2】
前記閉空間(32、35)に加圧された二酸化炭素と水素の混合ガスが導入され、該混合ガスが内筒(31、34)の微細孔からマイクロバブルとして触媒懸濁液中に噴出される、請求項1に記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
【請求項3】
前記二重筒構造の円筒型フィルター(2a)の内筒(31)が、微細孔を有する素材で形成された円筒部分(31a)の上部(31b)と下部(31c)が漏斗状に広がった形状であり、漏斗状の先端部で外筒(30)と接合されている、請求項1または2に記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
【請求項4】
前記二重筒構造の円筒型フィルター(2b)の内筒(34)が、円筒形の形状であり、円筒の上下端で外筒(30)と接合されている、請求項1または2に記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
【請求項5】
前記二重筒構造の円筒型フィルター(2a、2b)の内筒(31、34)における微細孔のポアサイズが、0.3〜10μmである、請求項1〜4のいずれかに記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
【請求項6】
前記反応管(1)の内径と前記外筒(30)の外径との比が、1:0.4〜0.6の範囲である、請求項1〜5のいずれかに記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
【請求項7】
前記ガス導入口(3a、3b)から導入された二酸化炭素と水素の混合ガスは、微細孔を通過した後、マイクロバブルとなって中空部(33、36)に噴出し、噴出したマイクロバブルは、撹拌用ガス導入管(4)から導入されたガスの上昇流に同伴して上昇する、請求項1〜6のいずれかに記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
【請求項8】
前記二重筒構造の円筒型フィルター(2a、2b)の内筒(31、34)および外筒(30)が、マイクロ波を透過する素材で形成されている、請求項1〜7のいずれかに記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。
【請求項9】
マイクロ波照射装置内に配置して用いられる、請求項1〜8のいずれかに記載のスラリー床型の二酸化炭素固定化反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−72080(P2012−72080A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217715(P2010−217715)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】