セラミックスローラ
【課題】
低熱伝導率でかつ高強度のセラミックスローラおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】
軸芯と、軸芯の外周に形成される円筒体層を備えるローラにおいて、円筒体層はケイ酸カルシウムを主成分とし、あらかじめ水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶を成形して乾燥した成形体から構成する。
低熱伝導率でかつ高強度のセラミックスローラおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】
軸芯と、軸芯の外周に形成される円筒体層を備えるローラにおいて、円筒体層はケイ酸カルシウムを主成分とし、あらかじめ水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶を成形して乾燥した成形体から構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸芯と、軸芯の外周に形成される円筒体層を備えるセラミックスローラに関し、特に電子複写機、プリンタ、ファクシミリといった電子写真装置に搭載される熱定着装置に使用されるローラに関する。
【背景技術】
【0002】
情報技術の中の必須機器である静電複写機、レーザープリンタなどの電子写真装置は、暗中で一様に帯電した感光体表面に光学像を投影すると、感光体表面には光学像に対応した静電気潜像が形成され、その表面に現像剤である帯電した微粒子(トナー)を散布して静電気力で付着させて画像を現像し、この感光体表面に前記微粒子の帯電とは反対の極性に帯電させた印刷紙の表面を重ねて前記微粒子を紙面に転写し、この紙面上の上記の微粒子を熱定着ローラ(以下ヒートローラとも言う)により加圧下に加熱・溶融して紙面上に熱定着する事により画像を複製させる機器である。
【0003】
熱定着ローラにより紙面上のトナーを熱定着する熱定着装置部分としては、通常、熱定着ローラと加圧ローラの2つのローラで構成されたものが知られており、印刷紙は、その裏面側から加圧ローラで支持され、表面側から加熱された熱定着ローラにより加圧されつつ加熱されて紙面上の微粒子が融着して熱定着される。
【0004】
熱定着ローラは、上記のように紙面上にトナーを融着させるために、融着可能な高温に加熱されるが、熱定着操作が行われる際、常に熱定着温度より遙かに低温の印刷紙および加圧ローラと密接し、回転するため、その瞬間に、特に加圧ローラとの密接部から多量の熱エネルギーが奪い取られて冷却される。
【0005】
一方、加圧ローラは、特に熱定着装置を使用し始める印刷開始時には、低温(通常、室温)であるため、必要とする熱定着ローラの温度との差が大きく、従って、熱定着ローラは、上記のような密接による冷却を見込んで、より高い温度に加熱しておく必要があり、その結果、消費電力もそれだけ多くなってエネルギー効率が低いばかりでなく、冷却を見込んだ印刷可能な温度にまで昇温するウォーミングアップ時間(待機時間)が長くなり、時間効率が低いばかりでなく、利用者には不快の原因ともなる。
【0006】
また、加圧ローラは、高温の熱定着ローラと密接するため、耐熱性があることが求められ、一方、熱定着ローラから加圧ローラにより奪い取られるエネルギーの量は、長時間を考慮すれば加圧ローラの熱容量、短時間のみを考慮すれば熱伝導率に影響される。これらの両特性は、共通して円筒体層の嵩密度に関係する。これらの事情を考慮して、加圧ローラとして、断熱性の優れたシリコーンゴムスポンジ製のローラが用いられるようになった。また、円筒体層を多孔質セラミックス材料や多孔質樹脂成形体といった空隙率の高い成形体から成る断熱層によって構成させることが提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−86219号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、こうした空隙率の高い成形体は、使用に耐えうる強度を得るためにはどうしても密度が高くなってしまい、耐熱性と強度との両方の特性を満足させるローラを得るには限界があった。すなわち、セラミックス材料を使用した場合には、熱伝導率を下げる手段としては嵩密度を低くすることが考えられるが、嵩密度を低くすると強度は弱くなってしまうことが懸念される。また、シリコーンゴムスポンジを使用した場合には、長時間にわたって使用された際に、樹脂自体に熱劣化が生じてしまい、ローラの径が変わってしまうことが懸念される。
【0008】
また、近年においては、消費電力のさらなる低減が要求されている。定着ローラ、加圧ローラにおいては安価で強度の高いアルミニウムやステンレスといった金属製の軸芯や軸パイプが使用されており、こうした金属は熱伝導率が高く、熱容量が高いため、断熱性に乏しく消費電力のさらなる低減の妨げになっている。
さらに、定着ローラ、加圧ローラ以外の定着装置に使用されるローラ、例えば駆動ローラ、剥離ローラ、テンションローラ、ガイドローラといったローラにいたっては、ローラ自体が比較的細径である場合が多く、そのため高い強度が求められている。そのため更なる消費電力の低減のためには、金属に替わる材料が強く要望されている。
【0009】
本発明は上述した状況を鑑みてなされたものであって、低熱伝導率でかつ高強度のセラミックスローラおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、円筒体層の材料に改良の余地があり、ケイ酸カルシウムを主成分にすることにより、従来のシリコーンスポンジを主体とする円筒体層のものと比べて、高断熱性(低熱伝導率、低熱容量)、高耐熱性、高強度になること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本願の第1の発明は、軸芯と、軸芯の外周に形成される円筒体層を備えるローラにおいて、円筒体層はケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなることを特徴とするセラミックスローラ(以下第1の形態ともいう)を提供するものである。好適には、前記円筒体層は、あらかじめ水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶を成形して乾燥した成形体(以下第1の成形体ともいう)からなり、さらに好適には、前記ケイ酸カルシウムの主成分はゾノトライト結晶である。また、前記円筒体層は、成形後に水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶からなる成形体(以下第2の成形体ともいう)から構成されてもよい。この場合、好適には、前記ケイ酸カルシウム結晶の主成分はゾノトライト結晶またはトバモライト結晶、不定形C−S−H結晶である。また、本願の第1の発明においては、好適には、前記円筒体層の嵩密度は0.05〜1.5g/cm3であり、さらに好適には、前記円筒体層の熱伝導率は0.01〜0.5W/(m・K)である。また、前記円筒体層に被覆され、フッ素樹脂を含む表面層をさらに備えていてもよく、前記円筒体層と前記表面層との間に弾性体からなる中間層をさらに備えていてもよい。また、本願の第1の発明は、電子写真装置の熱定着装置に使用される前記セラミックスローラを提供するものである。
【0012】
また、本願の第2の発明は、電子写真装置の熱定着装置に使用されるローラにおいて、軸芯がケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなることを特徴とするセラミックスローラ(以下第2の形態ともいう)を提供するものである。前記軸芯の外周にケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる円筒体層がさらに形成されていてもよい。
【0013】
また、本願の第3の発明は、
A1)ケイ酸質原料と石灰質原料とを多量の水とともにオートクレーブ中で高温度に加熱することによりケイ酸カルシウム結晶を得る工程と、
B1)該ケイ酸カルシウム結晶を含むスラリーからケイ酸カルシウム結晶含有成形体を成形する工程と、
D1)軸芯の外周に該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を形成する工程とを備えることを特徴とするセラミックスローラの製造方法(以下第1の形態の第1の製法ともいう)を提供するものである。また、好適には、前記ケイ酸カルシウム結晶が、ゾノトライト結晶であり、該ゾノトライト結晶の一次粒子は針状結晶を形成し、該一次粒子は直径10〜150μmの球状の二次粒子を形成する。
また、本願の第4の発明は、
A2)ケイ酸質原料と石灰質原料とを多量の水とともにオートクレーブ中で高温度に加熱することによりケイ酸カルシウム結晶前駆体を得る工程と、
B2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体を含むスラリーからケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体を成形する工程と、
C2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体をオートクレーブ中で高温度に加熱してケイ酸カルシウム結晶を生成させてケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得る工程と、
D2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体または該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を軸芯の外周に形成する工程とを備えることを特徴とするセラミックスローラの製造方法(以下第1の形態の第2の製法ともいう)を提供するものである。
また、本願の第5の発明は、
A3)ケイ酸質原料と石灰質原料と成形助剤と水とを含む混錬物を得る工程と、
B3)該混錬物から未結晶含有成形体を押出成形する工程と、
C3)該未結晶含有成形体をオートクレーブ中で高温度に加熱してケイ酸カルシウム結晶を生成させてケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得る工程と、
D3)軸芯の外周に該未結晶含有成形体または該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を形成する工程とを備えることを特徴とするセラミックスローラの製造方法(以下第1の形態の第3の製法ともいう)を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセラミックスローラは、低熱伝導率でかつ強度が高く、電子写真装置の熱定着装置において使用されるローラとして好適である。また、熱容量も従来のローラに比べて、30〜80%低いため、断熱性が高く、消費電力を低減できる。
また、本発明のセラミックスローラの製造方法によれば、低熱伝導率でかつ高強のケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスを得ることができ、断熱性、耐熱性、耐久性に優れるセラミックスローラを好適に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明においては、セラミックスローラとは、特にその用途には制限はされないが、例えばプリンターや複写機といった電子写真装置の熱定着装置において好適に使用されるローラのことをいい、具体的には、熱定着装置において使用される例えば、加熱手段を備えた熱定着ローラ、熱定着ローラに相対して配置される加圧ローラ、熱定着装置内で駆動手段に連結される駆動ローラ、定着ローラまたは加圧ローラから記録紙といった記録媒体の剥離を補助する剥離ローラ、熱定着装置内で定着ベルトが用いられた場合に定着ローラまたは加圧ローラとベルトを掛け渡しするテンションローラ、そういった定着ベルトの動きを規制するガイドローラ等を挙げることができる。
【0016】
以下に本発明のセラミックスローラを説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0017】
まず、本発明の第1の実施形態のセラミックスローラを図1〜図3を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施形態であるセラミックスローラの径方向の断面図、図2は本発明の第1の実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図、図3は本発明の第1の他の実施形態であるセラミックスローラの径方向の断面図である。
【0018】
図1において、セラミックスローラ10は軸芯11と、軸芯11の外周に形成される円筒体層12を備える。
【0019】
軸芯11は、使用に耐えうる剛性を備えていれば特に制限はなく、公知の軸芯または軸パイプが使用できるが、通常、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮などの金属製のものが要求される強度を満たし比較的安価に入手可能であるので好適に使用できる。
【0020】
円筒体層12は、ケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる。本発明においては、ケイ酸カルシウムは、ケイ酸質原料(SiO2)とカルシウム原料(CaO)を水の存在下で水熱反応せしめて生成した化合物であれば特に制限されないが、その結晶として例えば、ゾノトライト結晶、トバモライト結晶、不定形C−S−H結晶等が挙げられる。特にゾノトライト結晶からなる成形体は軽量で比強度が非常に大きく、耐熱性と断熱性に優れているため好ましい。なお、こうした結晶の有無は、X線回析により各種結晶に特有の回析ピークが得られるため、円筒体層12の表面をX線回析すれば容易に判断することができる。
【0021】
本発明において、円筒体層12は、後述する製造方法にて製造される成形前にあらかじめ水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶を成形して乾燥した第1の成形体から構成されていてもよい。ここで、ケイ酸カルシウム結晶としては、ゾノトライト結晶、トバモライト結晶、不定形C−S−H結晶が挙げられ、前記結晶の2つあるいは3つが混在していても良いが、可能な限り1つの結晶から構成されることが好ましく、特にゾノトライト結晶単体で構成されることが好ましい。このゾノトライト結晶は、集合し且つ結合して二次粒子を形成している。図4a、4bに示されるように、この二次粒子15は明確な球形状で、粒子の表面には針状のゾノトライト結晶が栗のいが状に析出しており、内部が空洞またはそれに近い状態となっている。従って、この二次粒子15を用いて成形した場合、非常に嵩高く、熱伝導率および熱容量の低いものとなる。また、この二次粒子15の自己硬化性で、相互に結合しているため、熱伝導率および熱容量が低いにもかかわらず、優れた強度を有する。また、後述する成形時にさらに圧力をかけた場合は、ゾノトライト針状結晶が複雑にからみあい、断熱性と強度を両立させた、さらに優れた構造体となる。
【0022】
本発明において、円筒体層12は、後述する製造方法にて製造される成形後に水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶からなる第2の成形体から形成されていてもよい。ここで、ケイ酸カルシウム結晶としては、ゾノトライト結晶、トバモライト結晶、不定形C−S−H結晶が挙げられ、第2の成形体においても、可能な限り1つの結晶から構成されることが好ましいが、上記結晶の2つあるいは3つが混在していてもよい。こうした成形体によれば、前記結晶が生成されることにより成形体全体にわたって強固な結合を得ることができ、その結果、得られた成形体は、断熱性が高く、且つ優れた強度を有する材料となる。
【0023】
本発明において、円筒体層12は、後述する製造方法にて製造される成形前にあらかじめ水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶前駆体を成形したのち、さらなる水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶からなる第3の成形体から構成されていてもよい。ここで、ケイ酸カルシウム結晶前駆体としては、ゾノトライト結晶前駆体、トバモライト結晶前駆体、不定形C−S−H結晶前駆体が挙げられ、前記結晶前駆体の2つあるいは3つが混在していても良いが、可能な限り1つの結晶前駆体から構成されることが好ましく、特にゾノトライト結晶前駆体単体で構成されることが好ましい。
【0024】
円筒体層12は、ケイ酸カルシウム以外に、セメントや石膏といった補強材や、タルクや珪藻土、フライアッシュといった充填材、ガラス繊維やセラミック繊維、アルミナ繊維、ワラストナイト、パルプ、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、カーボン繊維といった補強繊維、マイクロシリカやパーライト、シラスバルーン、ガラスバルーンといった軽量骨材等が必要に応じて任意に添加配合されていてもよい。また、未反応のケイ酸質原料や石灰質原料を含んでいてもよい。
その配合量は、第1の成形体であれば、ケイ酸カルシウム100質量部に対して、補強材0〜20質量部、好ましくは10〜20質量部、充填材0〜20質量部、好ましくは5〜10質量部、補強繊維0〜20質量部、好ましくは5〜10質量部、軽量骨材0〜20質量部、好ましくは5〜10質量部である。
また、第2の成形体であれば、その配合量は、ケイ酸カルシウム100質量部に対して、補強材0〜20質量部、好ましくは10〜20質量部、充填材0〜100質量部、好ましくは10〜50質量部、補強繊維0〜100質量部、好ましくは5〜30質量部、軽量骨材0〜100質量部、好ましくは10〜50質量部である。
【0025】
本発明において、円筒体層12の嵩密度は、通常0.05〜1.5g/cm3である。嵩密度が0.05g/cm3未満であると期待する強度を得ることができず、1.5g/cm3を越えると、熱伝導率及び熱容量が大きくなり、期待する断熱効果が得られないので好ましくない。また、嵩密度の好ましい範囲は、第1の成形体であれば、0.05〜0.5g/cm3、さらに好ましくは0.2〜0.4g/cm3であり、第2の成形体であれば、0.5〜1.5g/cm3、さらに好ましくは0.6〜1.2g/cm3である。
【0026】
本発明において、円筒体層12の熱伝導率は、通常0.01〜0.5W/(m・K)である。また、熱伝導率の好ましい範囲は、第1の成形体であれば、0.01〜0.1W/(m・K)、さらに好ましくは0.06〜0.09W/(m・K)であり、第2の成形体であれば、0.1〜0.5W/(m・K)、さらに好ましくは0.15〜0.35W/(m・K)である。熱伝導率が0.01W/(m・K)未満であると嵩密度が低くなりすぎ、期待する強度を得ることができず、0.5W/(m・K)を越えると期待する断熱効果が得られないので好ましくない。
【0027】
本発明において、円筒体層12の1cm3あたりの熱容量は、通常0.04〜1.2J/Kである。熱容量が0.04J/K未満であると嵩密度が低くなりすぎ、期待する強度を得ることができず、1.2J/Kを越えると期待する断熱効果が得られないので好ましくない。また、熱容量の好ましい範囲は、第1の成形体であれば、0.04〜0.4J/K、さらに好ましくは0.16〜0.32J/Kであり、第2の成形体であれば、0.4〜1.2J/K、さらに好ましくは0.48〜0.96J/Kである。
【0028】
本発明において、円筒体層12の圧縮強度(以下強度ともいう)は、通常1〜35MPaである。また、第1の成形体であれば、好ましくは1〜10MPa、さらに好ましくは3〜5MPaである。圧縮強度が3MPa未満であると加圧ローラや定着ローラといった比較的強い負荷がかかるような用途では使用できない場合がある。
第2の成形体であれば、好ましくは10〜35MPa、さらに好ましくは10〜20MPaである。圧縮強度が10MPa未満であると、軸芯、テンションローラ、ガイドローラといった強い負荷がかかるような用途では使用できない場合がある。35MPaを越える強度を得るためには嵩密度が高くなりすぎてしまい、期待する断熱効果が得られないので好ましくない。
【0029】
本発明において、前述した熱伝導率と強度との両方の特性を兼ね備えていることが好ましい。一般的にセラミックス材料においては、熱伝導率と圧縮強度とは相反した特性であるが、本発明においては、円筒体層12をケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスから構成することにより、後述するように比較的低い嵩密度であっても低熱伝導率と高強度と双方の特性を満足することができる。
すなわち、第1の成形体においては、後述する製造方法により、嵩密度0.05〜0.5g/cm3において、熱伝導率0.01〜0.1W/(m・K)かつ圧縮強度1〜10MPa、さらには、熱伝導率0.06〜0.09W/(m・K)かつ圧縮強度3〜5MPaを実現することができ、第2の成形体においては、後述する製造方法により、嵩密度0.5〜1.5g/cm3において、熱伝導率0.1〜0.5W/(m・K)かつ圧縮強度10〜35MPa、さらには、熱伝導率0.15〜0.35W/(m・K)かつ圧縮強度10〜20MPaを実現することができる。
【0030】
本発明のセラミックスローラ10は、円筒体層12に被覆され、フッ素樹脂を含む表面層13を備えていてもよい。こうした表面層13によれば、セラミックスローラ10に離型性を持たせることができる。こうした表面層13の厚さは通常5〜500μm、好ましくは20〜100μmである。厚さが5μm未満であると、表面に円筒体層12の凹凸が浮き出てしまったり、表面層13が破れてしまったりすることが懸念され、500μmを超えると材料費がかさみ経済的に不利であるとともに断熱性も悪くなる。
【0031】
フッ素樹脂としては、記録媒体に対して離型性であれば特に制限されないが、PFA(パーフルオロアルキル・ビニルエーテル共重合樹脂)、PTFE(ポリテトラクルオロエチレン樹脂)、FEP(四フッ化エチレンテ、フッ化プロピレン共重合樹脂)等が挙げられる。特に耐熱性と加工性の観点からPFAが好適に使用される。
【0032】
また、こうした表面層13はガラス等の無機質材料から構成されていてもよい。無機質材料としては、耐熱性があれば特に制限されず、ガラス、アルミナ、シリカ等が挙げられるが、中でも耐熱性と加工性、表面平滑性の観点からガラスが好ましい。
【0033】
図3に示されるように、本発明のセラミックスローラ10は、円筒体層12と表面層13との間に弾性体からなる中間層14を備えていてもよい。こういった中間層14によれば、セラミックスローラ10が加圧ローラとして使用され、定着ローラに圧接した場合に、セラミックスローラ10の中間層14が弾性変形することによって、定着ローラに対して均一に圧接することができるとともに記録媒体搬送方向に所定のニップ幅を確実に形成することができる。
【0034】
中間層14として用いられる材料は、柔軟性を備えていれば特に制限されないが、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴムといったゴム、メラミン樹脂等のスポンジ樹脂、アラミド繊維からなる耐熱性フェルト、ロックウール紙、ガラス繊維紙等の不織布が挙げられる。特に耐熱性が必要な場合はフッ素ゴムが適している。こうした中間層14の厚さは通常50〜1000μm、好ましくは100〜500μmである。厚さが50μm未満であると、期待する柔軟性を得られず、500μmを超えると材料費がかさみ経済的に不利であるとともに断熱性も悪くなる。
【0035】
中間層14として比熱が高い材料が用いられてもよい。こうした材料を用いることで、中間層14にわずかではあるが蓄熱させることができ、セラミックスローラ10が加圧ローラとして用いた場合に記録媒体に熱を均一にそして確実に加えることができる。
比熱が高い材料としては、例えばシリコーンゴム、フッ素ゴム等の樹脂が挙げられる。
【0036】
次に、本発明の第2の形態のセラミックスローラを図5および図6を参照して以下に説明する。なお、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。図5は本発明の第2の実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図、図6は本発明の第2の他の実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図である。
【0037】
図5において、セラミックスローラ20は、電子写真装置の熱定着装置に使用されるローラであって、軸芯21がケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる。形状は表面に円柱面を備えていれば特に制限はなく、円柱状や円筒状といった形状が挙げられるが、強度や簡易に製造できるといった観点から円柱状が好ましい。
【0038】
こうした軸芯21は、前述した第1の成形体または第2の成形体から形成されれば良いが、軸芯21としての使用に耐え得るため、比較的高密度の第2の成形体のほうがより高い強度を得られるので好ましい。また、図6に示されるように、軸芯部22は、円柱状の成形体の端部23を研削して形成されてもよい。図示しないが、こういったセラミックスローラは例えば、定着ローラや加圧ローラの軸芯として使用されることはもちろん、単体(軸芯のみ)で駆動ローラ、剥離ローラ、テンションローラ、ガイドローラとして使用することができる。
【0039】
本発明の第2の実施形態によれば、軸芯の熱伝導率および熱容量が、従来用いられる金属製の軸芯に比べはるかに低いため、軸芯を介して奪われる熱エネルギーを低減することができ、その結果、定着装置の消費電力を大きく抑制することができる。
【0040】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態であるセラミックスローラを図7を参照して以下に説明する。なお、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。図7は発明の第3実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図である。
【0041】
図7において、セラミックスローラ30は、ケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる軸芯31の外周に、ケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる円筒体層32が形成される。こうした軸芯31は、前述した第1の成形体または第2の成形体から形成されれば良いが、軸芯31としての使用に耐え得るため、比較的高密度の第2の成形体のほうがより高い強度を得られるので好ましく、円筒体層32も前述した第1の成形体または第2の成形体から形成されれば良いが、比較的低熱伝導率の低い第1の成形体のほうがより高い断熱性を得られるので好ましい。また、図示しないが、こういったセラミックスローラは例えば、定着ローラや加圧ローラ、駆動ローラ、剥離ローラ、テンションローラ、ガイドローラとして使用することができる
【0042】
第3の実施形態のセラミックスローラは、第1の実施形態のセラミックスローラにおいて、軸芯として第2の実施形態のセラミックスローラを使用している形態である。第3の実施形態のセラミックスローラは、軸芯がケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなること以外は、第1の実施形態のセラミックスローラと同様であり、表面層33や中間層(図示しない)を備えていてもよい。
【0043】
本発明の第3の実施形態によれば、低熱伝導率でかつ高強度のケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスを得ることができ、断熱性、耐熱性に優れ、高強度のセラミックスローラを好適に得ることができる。また、軸芯の熱伝導率および熱容量が、従来用いられる金属製の軸芯に比べはるかに低いため、軸芯を介して奪われる熱エネルギーを低減することができ、その結果、定着装置の消費電力を大きく抑制することができる。
【0044】
第1の実施形態のセラミックスローラを製造する方法としては、
A1)ケイ酸質原料と石灰質原料とを多量の水とともにオートクレーブ中で攪拌しながら高温度に加熱することによりケイ酸カルシウム結晶を得る工程と、
B1)該ケイ酸カルシウム結晶を含むスラリーからケイ酸カルシウム結晶含有成形体を成形する工程と、
D1)軸芯の外周に該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を形成する工程とを備える方法(第1の形態の第1の製法)が挙げられる。ここで、工程A1)および工程B1)を備える方法が上述した第1の成形体の製法に該当する。
【0045】
工程A1)において、オートクレーブ中の温度条件、圧力条件、攪拌条件を適宜設定することにより生成されるケイ酸カルシウム結晶の種類(ゾノトライト結晶、トバモライト結晶、不定形C−S−H結晶)を特定することができるが、後述する条件によりゾノトライト結晶のみを生成させることが好ましい。ゾノトライト結晶の一次粒子は針状結晶を形成し、該一次粒子は、図4a、4bに示されるように直径10〜150μmの球状の二次粒子15を形成する。また、一次粒子は、集合してさらに結合して内部が空洞またはそれに近い状態の球状の二次粒子15を形成し、二次粒子15の表面には針状のゾノトライト結晶が栗のいが状に析出する。こうしたゾノトライト結晶からなる二次粒子15は、乾燥して水を除いただけで強固に結びついて強度が発現する。また、二次粒子15は上述のように内部が空洞またはそれに近い状態であるため、得られる成形体は軽量であり、熱伝導率が低くなる。したがって、成形体の熱容量が低く、熱伝導率が低く、優れた強度を有する成形体を得ることができる。なお、一次粒子および二次粒子の形態は走査型電子顕微鏡等により確認できる。
【0046】
ケイ酸カルシウム結晶として好適なゾノトライト結晶を得るためには、ケイ酸質原料と石灰質原料とを、ケイ酸質原料と石灰質原料の合計に対して通常20〜40倍量の多量の水と攪拌しながらオートクレーブ中で飽和蒸気圧7〜20Kg/cm2、好ましくは13〜17Kg/cm2で水熱合成させる必要がある。また、ケイ酸質原料と石灰質原料とをCaO/SiO2がモル比で通常0.8〜1.2、好ましくは0.9〜1.1に調整することが必要である。
【0047】
ケイ酸質原料としては、成分としてSiO2が含まれていれば特に制限はされず、例えば、珪石、溶融シリカ等が挙げられるが、ゾノトライト結晶を生成させるためには結晶質のもの特に珪石を用いることが好ましい。また、平均粒径5〜15μmの微粉末を用いることが好ましい。
石灰質原料としては、成分としてCaOが含まれていれば特に制限はされず、例えば、消石灰、生石灰等が挙げられるが、ゾノトライト結晶の成長性といった観点から生石灰を用いることが好ましい。
【0048】
工程B1)において、スラリーには、ケイ酸カルシウム結晶のほかに補強材がさらに含まれていても良い。こうした補強材を添加(以下配合ともいう)することにより、さらに強度の高いケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得ることができる。こういった補強材としては、アルミナセメントやポルトランドセメントといった水硬性結合材やコロイダルシリカやアルミナゾルといった無機結合材が挙げられる。その添加量(以下配合量ともいう)は、ケイ酸カルシウム結晶100質量部に対して、0〜20質量部、好ましくは10〜20質量部である。
【0049】
スラリーには、ケイ酸カルシウム結晶のほかに充填材がさらに含まれていても良い。こうした充填材を添加することにより、原料の低コスト化、成形性の向上が見込める。こういった充填材としては、タルクや珪藻土、フライアッシュといったものが挙げられる。その添加量は、ケイ酸カルシウム結晶100質量部に対して、0〜20質量部、好ましくは5〜10質量部である。
【0050】
スラリーには、ケイ酸カルシウム結晶のほかに補強繊維がさらに含まれていても良い。こうした補強繊維を添加することにより、さらに強度の高い成形体を得ることができる。こういった補強繊維としては、ガラス繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ワラストナイト、パルプ、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、カーボン繊維といったものが挙げられる。その添加量は、ケイ酸カルシウム結晶100質量部に対して、0〜20質量部、好ましくは5〜10質量部である。
【0051】
スラリーには、ケイ酸カルシウム結晶のほかに軽量骨材がさらに含まれていても良い。こうした軽量骨材を添加することにより、強度を維持したままさらに嵩密度を低くすることができる。こういった軽量骨材としては、マイクロシリカ、パーライト、シラスバルーン、ガラスバルーンといったものが挙げられる。その添加量は、ケイ酸カルシウム結晶100質量部に対して、0〜20質量部、好ましくは5〜10質量部である。
【0052】
スラリーには、ケイ酸カルシウム結晶のほかに必要に応じて凝集剤や増粘剤(押出し成形助剤ともいう)が含まれていても良い。
【0053】
工程B1)において、成形方法は、公知の技術であれば特に制限はなく、抄造法や脱水プレス成形法といった脱水成形法、押出成形法が挙げられるが、求める成形体の密度が0.5g/cm3以下の場合には、水量が多いスラリー状の状態より成形する脱水プレス成形法が適している。脱水プレス成形法によれば、ゾノトライト二次粒子の自己硬化性作用により、嵩密度0.05〜0.5g/cm3といった比較的低密度であっても、熱伝導率0.01〜0.1W/(m・K)かつ圧縮強度1〜10MPa、さらには、熱伝導率0.06〜0.09W/(m・K)かつ圧縮強度3〜5MPaの第1の成形体を得ることができる。
成形体の密度は、スラリー中のゾノトライト結晶二次粒子の嵩高さ、脱水成形時の成形圧力を変更することにより調整する。例えば、ゾノトライト結晶二次粒子を嵩高くすると比較的嵩密度が低い成形体を得ることができる。ゾノトライト結晶二次粒子の嵩密度は出発原料、スラリーの濃度や攪拌条件等を変更して調整する。成形圧力は通常1〜70kgf/cm2、好ましくは10〜50kgf/cm2、時間は通常1〜30分、好ましくは5〜10分かけて行うのが良い。
【0054】
前記スラリーを濃縮して成形助剤を添加し、固形分100質量部に対して50〜100質量部の水を含む混錬物にすれば、押出成形法によりケイ酸カルシウム結晶含有成形体を成形することもできる。押出成形法は、求める成形体の密度が0.5g/cm3以上の場合に好適に使用できる。
ここで、成形助剤は、押出し成形助剤として使用できる有機バインダーであれば特に制限はなく、その配合量は、固形分100質量部に対して3〜10質量部であれば良い。
また、混錬物には、その他の任意成分が含まれていてもよく、その配合量は、混ケイ酸カルシウム結晶100質量部に対して、補強材0〜20質量部、好ましくは10〜20質量部、充填材0〜50質量部、好ましくは10〜30質量部、補強繊維0〜20質量部、好ましくは5〜10質量部、軽量骨材0〜40質量部、好ましくは10〜20質量部である。
密度の調整は、混練水量、充填材、軽量骨材を組み合わせて調整すればよい。混錬工程に使用する混錬装置としては、例えば、加圧型ニーダ、双腕型ニーダ、高速ミキサー、バタフライミキサー等挙げられるが、公知のものであれば適宜使用することができる。
【0055】
上述した方法により得られたケイ酸カルシウム結晶含有成形体は公知の技術により乾燥され、第1の成形体が得られる。乾燥条件は、通常100〜200℃、1〜24時間程度でよいが、脱水成形法を用いるのであれば、通常50〜300℃で1〜24時間、好ましくは150〜250℃で3〜10時間かけるのが好ましい。
【0056】
ケイ酸カルシウム結晶含有成形体の形状は特に制限はないが、例えば、ボード状、角柱状、円筒状、半円筒状、円筒状または半円筒状のものを分割したもの等が挙げられる。こうした形状を得るためには、脱水成形であれば、所望の形状をした型を用いればよく、例えば、図8に示されるような円筒状の成形用型40や、図9に示されるような半円筒状の成形型45を用いてればよい。例えば、円筒状の成形用型40は、一対の半割型41から構成される。半割型41には半円状の溝42が形成されており、これらの溝42を対向させて、接合面43を密接させることにより、円柱状の中空部44が形成される。この中空部44の中心部に吸引脱水用の表面がメッシュ構造をした円筒45を配置し、中空部にスラリーを注入して円筒45を通して水分を除去することにより円筒状の成形体を得ることができる。
【0057】
工程D1)において、軸芯の外周にケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を形成する方法としては、特に制限はないが、例えば、円筒状の成形体に形成される中空部に、予め接着剤を塗布しておいた軸芯を挿入してもよいし、半円筒状の成形体の内側に形成される内面に接着剤を塗布して、一対の半円筒状の成形体を軸芯に被せて固着させてもよい。接着剤としては、特に制限がなく公知のものが使用できるが、耐熱性を備えているシリコーンゴム接着剤が好ましい。
【0058】
工程D1)は、ケイ酸カルシウム結晶含有成形体から所望の形状の成形体片を切り出す工程と、該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体片を軸芯に固定する工程とをさらに備えていてもよい。成形体片は円筒状であってもよいし、半円筒状または該半円筒状のものを分割したものであってもよい。例えば、図10に示されるように上述した方法により得られたボード状の成形体51から円筒状の成形体片52を打ち抜いて切り出してもよいし、図11に示されるような半円筒状の成形体片53を切り出してもよい。成形体から所望の形状の成形体片を切り出す方法としては、例えば、切削加工、レーザー加工、研磨加工及びこれらの組合せといった公知のものを利用することができる。こうして得られた成形体片は上述した方法により軸芯に固定されればよい。円筒状の成形体片の場合には複数の成形体片を連接させて軸芯に固定すればよい。
また、軸芯に固定された成形体片を研削して円筒体層を形成してもよい。例えば、図12に示されるように、ボード状の成形体55から角柱状の成形体片56を切り出し、切り出した角柱状の成形体片56の長さ方向に沿った中心部に軸芯と同径の貫通孔57を形成し、該貫通孔57に予め接着剤を塗布しておいた軸芯58を挿入し、成形体片56が軸芯に固着されたことを確認したのちに、成形体片56の外径を研削して円筒体層59を形成してもよい。
円筒体層59の表面は、凹凸をなくし真円とするために、切削または研磨するのが好ましい。
【0059】
工程B1)と工程D1)は同一工程で行われてもよい。脱水プレス成形法においては、あらかじめ成形型に軸芯を設置し、スラリーとともに軸芯一体成形をすればよく、押出成形法においては、軸芯の円柱面に沿ってケイ酸カルシウム結晶含有成形体を押出成形すればよい。こうした方法によれば、成形体の加工工程を省くことができるので好ましい。
【0060】
第1の実施形態のセラミックスローラを製造する他の方法としては、
A2)ケイ酸質原料と石灰質原料とを多量の水とともにオートクレーブ中で攪拌しながら高温度に加熱することによりケイ酸カルシウム結晶前駆体を得る工程と、
B2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体を含むスラリーからケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体を成形する工程と、
C2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体をオートクレーブ中で高温度に加熱してケイ酸カルシウム結晶を生成させてケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得る工程と、
D2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体または該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を軸芯の外周に形成する工程とを備える方法(第1の形態の第2の製法)が挙げられる。ここで、工程A2)および工程B2)、工程C2)を備える方法が前述した第3の成形体の製法に該当する。以下に第1の形態の第2の製法を説明するが、第1の形態の第1の製法と異なる箇所のみ説明する。
【0061】
工程A2)において、ケイ酸カルシウム結晶前駆体とは、ケイ酸質原料と石灰質原料とがわずかに反応しているが、完全には反応していない、すなわち、ケイ酸カルシウム結晶になる前の状態のものをいう。
【0062】
工程A2)において、工程A1)と異なる点は、生成されるものがケイ酸カルシウム結晶ではなく、ケイ酸カルシウム結晶前駆体であり、工程A1)同様、オートクレーブ中の温度条件、圧力条件、攪拌条件を適宜設定することにより生成されるケイ酸カルシウム結晶前駆体の種類(ゾノトライト結晶前駆体、トバモライト結晶前駆体、不定形C−S−H結晶前駆体)を特定することができるが、ゾノトライト結晶前駆体のみを生成させることが好ましい。
ゾノトライト結晶前駆体もゾノトライト結晶同様に、直径10〜150μmの中空球状の二次粒子を形成する。したがって、得られる成形体もゾノトライト結晶から得られた成形体と同様の効果を発揮する。なお、こうした結晶前駆体の有無は、SEMまたは光学顕微鏡等により確認できる
【0063】
工程A2)において、ケイ酸カルシウム前駆体として好適なゾノトライト結晶前駆体を得るために必要な原料、水熱合成の条件等については工程A1)と同様であるが、ケイ酸原料と石灰質原料とをCaO/SiO2がモル比でCaO成分が比較的多い1.1〜1.3に調整することが必要である。
【0064】
工程B2)において、工程B1)と異なる点は、スラリーに含まれるものがケイ酸カルシウム結晶ではなく、ケイ酸カルシウム結晶前駆体であり、得られる成形体がケイ酸カルシウム結晶含有成形体ではなく、ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体であり、その他、スラリーの任意添加物およびその配合、成形方法、乾燥条件、成形体の形状については同様であるが、後述の水熱合成でゾノトライト結晶を生成させるために、ケイ酸原料を添加し、CaO/SiO2がモル比で0.9〜1.1に調整することが必要である。
【0065】
工程C2)において、圧力は通常7〜20kg/cm2、好ましくは8〜12kg/cm2、時間は通常1〜24時間、好ましくは6〜10時間かけて行うのが良い。なお、工程C2)は軸芯に固定されてから行われてもよく、軸芯に固定される前に行われてもよい。
【0066】
工程D2)において、工程D1)と異なる点は、軸芯の外周に形成される成形体が、ケイ酸カルシウム結晶含有成形体ではなく、ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体またはケイ酸カルシウム結晶含有成形体であることであり、その他、円筒体層の形成方法については[0056]〜[0058]段落に記載したとおりである。
【0067】
第1の実施形態のセラミックスローラを製造する他の方法としては、
A3)ケイ酸質原料と石灰質原料と成形助剤と水とを含む混錬物を得る工程と、
B3)該混錬物から未結晶含有成形体を押出成形する工程と、
C3)該未結晶含有成形体をオートクレーブ中で高温度に加熱してケイ酸カルシウム結晶を生成させてケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得る工程と、
D3)軸芯の外周に該未結晶含有成形体または該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を形成する工程とを備える方法(第1の形態の第3の製法)が挙げられる。ここで、工程A3)および工程B3)、工程C3)を備える方法が前述した第2の成形体の製法に該当する。以下に第1の形態の第3の製法を説明するが、第1の形態の第1の製法および第2の製法と異なる箇所のみ説明する。
【0068】
工程A3)において、未反応結晶とは、オートクレーブ中で高温度に加熱して生成されるゾノトライト結晶またはトバモライト結晶、不定形C−S−H結晶の原料であるケイ酸質原料および石灰質原料の結晶のことをいう。なお、こうした未反応結晶の有無は、X線回析により特有の回析ピークが得れるため、組成物をX線回析すれば容易に判断することができる。
【0069】
ケイ酸質原料としては、成分としてSiO2が含まれていれば特に制限はされず、例えば、珪石、溶融シリカ等が挙げられるが、好適なケイ酸カルシウム結晶を生成させるためには結晶質のもの特に珪石を用いることが好ましい。また、平均粒径5〜15μmの微粉末を用いることが好ましい。
石灰質原料としては、成分としてCaOが含まれていれば特に制限はされず、例えば、消石灰、生石灰等が挙げられるが、製造性の観点から消石灰を用いることが好ましい。
ケイ酸質原料と石灰質原料とをCaO/SiO2がモル比で通常0.7〜1.2、好ましくは0.8〜1.0に調整することが必要である。ここで、成形助剤は、押出し成形助剤として使用できる有機バインダーであれば特に制限はなく、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、木節粘土などが挙げられ、これらの2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、その配合量は、固形分100質量部に対して3〜10質量部であれば良い。
【0070】
工程A3)において、混錬物には、ケイ酸質原料と石灰質原料と成形助剤と水のほかに補強材がさらに含まれていても良い。こうした補強材を添加(以下配合ともいう)することにより、さらに強度の高い成形体を得ることができる。こういった補強材としては、アルミナセメントやポルトランドセメントといった水硬性結合材やコロイダルシリカやアルミナゾルといった無機結合材が挙げられる。その添加量(以下配合量ともいう)は、ケイ酸質原料および石灰質原料の合計100質量部に対して、0〜20質量部、好ましくは10〜20質量部である。
【0071】
混錬物には、ケイ酸質原料と石灰質原料と成形助剤と水のほかに充填材がさらに含まれていても良い。こうした充填材を添加することにより、原料の低コスト化、成形性の向上が見込める。こういった充填材としては、タルクや珪藻土、フライアッシュといったものが挙げられる。その添加量は、ケイ酸質原料および石灰質原料の合計100質量部に対して、0〜100質量部、好ましくは10〜50質量部である。
【0072】
混錬物には、ケイ酸質原料と石灰質原料と成形助剤と水のほかに補強繊維がさらに含まれていても良い。こうした補強繊維を添加することにより、さらに強度の高い成形体を得ることができる。こういった補強繊維としては、ガラス繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ワラストナイト、パルプ、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、カーボン繊維といったものが挙げられる。その添加量は、ケイ酸質原料および石灰質原料の合計100質量部に対して、0〜100質量部、好ましくは5〜30質量部である。
【0073】
混錬物には、ケイ酸質原料と石灰質原料と成形助剤と水のほかに軽量骨材がさらに含まれていても良い。こうした軽量骨材を添加することにより、強度を維持したままさらに嵩密度を低くすることができる。こういった軽量骨材としては、マイクロシリカ、パーライト、シラスバルーン、ガラスバルーンといったものが挙げられる。その添加量は、ケイ酸質原料および石灰質原料の合計100質量部に対して、0〜100質量部、好ましくは10〜50質量部である。
【0074】
工程C3)において、圧力は通常7〜20kg/cm2、好ましくは10〜15kg/cm2、時間は通常1〜24時間、好ましくは6〜10時間かけて行うのが良い。
【0075】
上述した方法により得られたケイ酸カルシウム結晶含有成形体は公知の技術により乾燥され、第2の成形体が得られる。乾燥条件は、100〜200℃、5〜12時間かけるのが好ましい。
【0076】
第2の成形体の製法によれば、嵩密度0.5〜1.5g/cm3といった比較的高密度であっても、熱伝導率0.1〜0.5W/(m・K)かつ圧縮強度10〜35MPa、さらには、熱伝導率0.15〜0.35W/(m・K)かつ圧縮強度10〜20MPaの第2の成形体を得ることができる。
【0077】
工程D3)において、工程D1)と異なる点は、軸芯の外周に形成される成形体が、ケイ酸カルシウム結晶含有成形体ではなく、未結晶含有成形体またはケイ酸カルシウム結晶含有成形体であることであり、その他、円筒体層の形成方法については〔0056〕〜〔0058〕段落に記載したとおりである。
工程B3)と工程D3)を同一工程にすること、すなわち、混錬物から未反応結晶含有成形体を軸芯の円柱面に沿って押出成形する工程によれば、成形体の加工工程を省くことができるため好ましい。
ここで、工程D3)は工程C3)の後に行われてもよく、前に行われてもよい。
【0078】
円筒体層の表面に前述した表面層を形成する方法としては、熱収縮性のフッ素樹脂チューブの中にセラミックスローラを挿入した後に、加熱しチューブを収縮させて、ローラ表面を被覆し表面層とする方法や、フッ素樹脂を含むコーティング液をローラの表面に塗布した後に加熱乾燥して表面層を形成する方法が挙げられる。このような塗布に用いることができる方法として、刷毛塗り、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、バーコート法、スピンコート法等が挙げられる。ロールが異形であったり、寸法が小さい場合には手作業による刷毛塗りなどの方法が実用的である。
【0079】
また、表面層がガラス層である場合には、ガラスフリットを含むコーティング液をローラの表面に塗布した後に加熱焼成して表面層を形成する方法が挙げられる。このような塗布に用いることができる方法として、スプレー塗装、静電粉体塗装、ドクターコーティング等が挙げられる。
【0080】
円筒体層と表面層との間に前述した中間層を形成する方法としては、成形型の内側に軸芯と円筒体層、外側にフッ素チューブをセットし、その隙間に液状シリコンゴムを流し込んでシリコンゴムを硬化させる方法、シリコンゴムチューブを円筒体層に被覆して接着する方法、円筒体層に液状シリコンゴムをスプレーコートする方法、ロールコートで液状シリコンゴムを円筒体層表面に塗布する方法が挙げられる。
【0081】
第2の実施形態のセラミックスローラを製造する方法としては、上述した第1の成形体の製法、第2の成形体の製法または第3の成形体の製法により成形体を得る工程と、該成形体から円柱状または円筒状の軸芯を得る工程を備える方法(以下第2の形態の第1の製法ともいう)が挙げられる。
また、上述した第1の成形体の製法、第2の成形体の製法または第3の成形体の製法により円柱状または円筒状の軸芯を得る工程を備える方法(以下第2の形態の第2の製法ともいう)が挙げられる。
さらに、前記円柱状の成形体の端部を研削して軸芯部を形成する工程を備えていてもよい。
【0082】
第3の実施形態のセラミックスローラを製造する方法としては、上述した第2の形態の第1の製法または第2の製法によって得た軸芯の外周に、上述した第1の成形体の製法、第2の成形体の製法または第3の成形体の製法により得た成形体からなる円筒体層を形成する工程を備える方法が挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下に本願発明を実施例により具体的な例を挙げて説明するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。まず、第1の形態のセラミックスローラを加圧ローラを例に挙げて以下に説明する。
【0084】
(実施例1)
ゾノトライト結晶の生成:
石灰質原料としての生石灰(足立生石灰(150メッシュ))を24倍量の熱水(温度90℃)に投入し、160rpmで回転する攪拌翼を有する攪拌機で攪拌しながら30分間消化して石灰乳を得た。次いで、得られた石灰乳にケイ酸質原料としての珪石粉末(伊豆珪石特粉D)をCaO/SiO2モル比が1.0となるように添加し、同時に、生石灰と珪石粉末との合計量の30倍量の水を加えて均一なスラリーとし、オートクレーブ中、120rpmで攪拌しながら、圧力16Kg/cm2で4時間水熱反応させた。
【0085】
得られたスラリー中の固形物は実質的にゾノトライト結晶からなり、針状結晶が多数集合して直径30〜130μmの球状の二次粒子を形成していた。
【0086】
スラリーの調整:
このスラリーにゾノトライト結晶100質量部に対して7質量部のポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製 普通ポルトランドセメント)、5質量部のガラス繊維(日本電気硝子株式会社製 ECS131−33G)、固形分換算で100ppmの凝集剤(三洋化成工業株式会社製 サンフロックN―0P)を添加して混合して脱水プレス成形用のスラリーを得た。該スラリーを型枠に流し込み成形圧力5kgf/cm2で脱水プレス成形したのち、100℃で12時間乾燥して長さ350mm、幅350mm、厚さ50mmのボード状の成形体を得た。この成形体の嵩密度は0.11g/cm3であった。
【0087】
ローラの製造:
得られたボード状の成形体から、縦50mm、横50mm、長さ330mmの角柱状の成形体片を切り出した。該成形体片の長さ方向に沿った中心に直径30mmの貫通孔を形成した。該貫通孔に予めシリコーンゴム接着剤(信越化学工業株式会社製 KE45)を塗布しておいたステンレス製の軸芯を挿入した。成形体片が軸芯に固着したことを確認したのちに、成形体片の外径を研削して肉厚5mmの円筒体層を得た。
【0088】
表面層の形成:
該円筒体層の外周表面に、加熱硬化型シリコーンゴム接着剤(信越化学工業株式会社製 KE1833)をロールコータで塗布し、PFA熱収縮チューブ(株式会社潤工社製 ジュンフロン内面処理付きPFA熱収縮チューブ)を被覆し、熱風ドライヤーにより180℃で3h加熱処理を施してPFA熱収縮チューブを加熱収縮させて厚さ30μmの表面層を形成した。
【0089】
(実施例2)
脱水プレス成形時の成形圧力を15kgf/cm2に変更し、成形体の嵩密度を0.25g/cm3としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて加圧ローラを得た。
【0090】
(実施例3)
脱水プレス成形時の成形圧力を30kgf/cm2に変更し、成形体の嵩密度を0.39g/cm3としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて加圧ローラを得た。
【0091】
(比較例1)
実施例1において、ケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる円筒体層の代わりに、嵩密度が0.6g/cm3のシリコーンゴムスポンジを用いて同じ形状、構造の加圧ローラを得た。
【0092】
(比較例2)
実施例1において、ケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる円筒体層の代わりに、嵩密度が1.0g/cm3のシリコーンゴムを用いて同じ形状、構造の加圧ローラを得た。
【0093】
次いで、第2の形態のセラミックスローラを駆動ローラを例に挙げて以下に説明する。なお、該駆動ローラは軸芯のみから構成される。
【0094】
(実施例4)
乾式混合:
石灰質原料としての消石灰(奥多摩工業株式会社 特号)と、ケイ酸質原料としての珪石粉末(秩父鉱業株式会社 3500ブレーン)との合計100質量部に対して、軽量骨材としてパーライト(昭和化学株式会社 トプコ1BS)30質量部、成形助剤としてメチルセルロース(ユケン工業株式会社 セランダーYB152A)10質量部とを双腕型ニーダにて10分間乾式混合して混合物を得た。消石灰と珪石粉末の配合量はCaO/SiO2がモル比で0.9となるように調整する。
【0095】
湿式混錬:
該混合物の入った双腕型ニーダに、消石灰と珪石粉末との合計100質量部に対して、水を加え、湿式にて20分間混錬して混錬物を得た。水は混錬物の固形分100質量部に対して80質量部含まれるように調整した。
【0096】
押出成形:
該混錬物から真空混練押出成形機を用いて直径22mm、長さ350mmの円筒状の未結晶含有成形体を押出成形した。
【0097】
水熱合成反応:
該未結晶含有成形体をオートクレーブにて圧力7Kg/cm2で4時間かけて水熱合成反応させて成形体を得た。得られた成形体の主成分はトバモライト結晶からなり、成形体全体にわたってその存在することを確認した。
【0098】
乾燥:
該成形体を常温にて乾燥させたのち、表面を研磨して、直径20mm、嵩密度0.8g/cm3の軸芯すなわち駆動ローラを得た。
【0099】
(実施例5)
乾式混合、湿式混錬を以下のように変更し、成形体の嵩密度を1.2g/cm3としたこと以外は、実施例4と同様の方法にて駆動ローラを得た。
【0100】
乾式混合:
石灰質原料としての消石灰(奥多摩工業株式会社 特号)と、ケイ酸質原料としての珪石粉末(秩父鉱業株式会社 3500ブレーン)との合計100質量部に対して、成形助剤としてメチルセルロース(ユケン工業株式会社 セランダーYB152A)8質量部とを双腕型ニーダにて10分間乾式混合して混合物を得た。消石灰と珪石粉末の配合量はCaO/SiO2がモル比で0.9となるように調整する。
【0101】
湿式混錬:
該混合物の入った双腕型ニーダに、消石灰と珪石粉末との合計100質量部に対して、水を加え、湿式にて20分間混錬して混錬物を得た。水は混錬物の固形分100質量部に対して40質量部含まれるように調整した。
【0102】
(比較例3)
実施例4において、ケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる軸芯の代わりに、嵩密度2.7g/cm3のアルミニウムを用いて同じ形状の駆動ローラを得た。
【0103】
(比較例4)
実施例4において、ケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる軸芯の代わりに、嵩密度7.4g/cm3のステンレスを用いて同じ形状の駆動ローラを得た。
【0104】
(試験方法)
実施例1〜3および比較例1、2において、表1に、実施例4、5および比較例3、4において、表2に記載の各評価項目は以下の試験法により測定した。
(1) 嵩密度(g/cm3):試験片の質量と形状寸法から算出される体積とから算出した。
(2) 熱伝導率(W/(m・K)):試験片として円筒体層と同一の原料組成で、幅100mm、厚さ20mm、長さ50mmの平面板状の試験片を別に作製し、JIS R2616「非定常熱線法」に準じて、京都電子工業株式会社製迅速熱伝導率計QTM−500により試験体表面の室温での熱伝導率を測定した。
(3) 熱容量(J/K):試験体を粉砕し、そのうちの50gを、高温試料投下型比熱測定装置を用いて比熱を測定し、上記の嵩密度の値から1cm3あたりの熱容量を算出した。
(4) 圧縮強度(MPa):試験片として円筒体層と同一の原料組成で、一辺が60mmの立方体の試験片を別に作製し、JIS R1608「ファインセラミックスの圧縮強さ試験方法」に準じて、測定をおこなった。
(5) 耐熱寸法変化:あらかじめ寸法を測定した直方体の試験片を250℃恒温機に投入し、1週間後の寸法変化を確認した。全く寸法変化のないものには○、多少変形が起こっている場合は△、著しく寸法が変化している場合は×とした。
(6) 昇温速度(秒):外径40mm、長さ330mm、肉厚1mmのアルミパイプにハロゲンランプが内填された熱定着ローラと、外径40mm、長さが330mmの加圧ローラを主要構成とする熱定着装置において、加圧ローラを評価対象の加圧ローラに取り替え、熱定着ローラに加圧ローラを合計荷重10kgfで圧接した状態で加圧ローラを回転させつつ、共に25℃の室温に調節した後、印刷紙を通さないで1000Wの電力を通電して熱定着ローラが180℃に昇温する迄の時間を測定した。
(7) 消費電力(W):昇温速度の測定と同条件で熱定着ローラの昇温開始より30〜60秒の間の平均消費電力を求めた。
(8) 耐久性:上記(6)、(7)の評価の後、熱定着ローラを180℃で温調させた状態で通紙しないで荷重をかけながら100時間連続して回転を行った後、加圧ローラの外径、長さを測定し、変形の様子を確認した。変形が認められないものを○、若干変形がみうけられるものを△、著しく変形が見受けられるものを×とした。なお、荷重は10kgfと30kgfの2種類行った。
(9) 3点曲げ強度(MPa):円筒体層と同一の原料組成で、直径22mm、長さ350mmの円筒状の試験体を用い、JIS R1608「ファインセラミックスの圧縮強さ試験方法」に準じて、測定をおこなった。
【0105】
【表1】
【0106】
表1の結果から、実施例1〜3の加圧ローラは、比較例1および2に比べて、熱伝導率が低く、適度な圧縮強度を有し、耐熱性、昇温速度、耐久性に優れたものであった。また、消費電力は同等またはそれ以下の良好な結果を得た。
【0107】
【表2】
【0108】
表2の結果から、実施例4および5の駆動ローラは、比較例3および4に比べて、熱伝導率が非常に低く、断熱性が非常に高いため、消費電力の低減や昇温速度の短縮が期待される。また、一般的に駆動ローラとしての使用に耐えうる強度は3点曲げ強度で10MPa以上であることから、実施例4および5の駆動ローラは使用に耐えうることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の第1の実施形態であるセラミックスローラの径方向の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図である。
【図3】本発明の第1の他の実施形態であるセラミックスローラの径方向の断面図である。
【図4a】本発明に係るゾノトライト結晶に2次粒子のSEM写真(a:200倍)である。
【図4b】本発明に係るゾノトライト結晶に2次粒子のSEM写真(b:1000倍)である。
【図5】本発明の第2の実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図である。
【図6】本発明の第2の他の実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図である。
【図8】本発明のセラミックスローラを製造する際に用いられる成形体の成形方法を示す説明図である。
【図9】本発明のセラミックスローラを製造する際に用いられる成形体の他の成形方法を示す説明図である。
【図10】本発明のセラミックスローラを製造する際に用いられる成形体片をボード状の成形体から切り出す方法を示す説明図である。
【図11】本発明のセラミックスローラを製造する際に用いられる成形体片をボード状の成形体から切り出す他の方法を示す説明図である。
【図12】本発明のセラミックスローラの製造方法の1例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0110】
10、20、30 セラミックスローラ
11、21、31、58 軸芯
12、32、59 円筒体層
13、33 表面層
14 中間層
15 ゾノトライト結晶の二次粒子
22 軸芯部
23 端部
40、46 成形用型
41 半円型
42 溝
43 接合面
44 中空部
45 円筒
51、55 成形体
52、53、56 成形体片
57 貫通孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸芯と、軸芯の外周に形成される円筒体層を備えるセラミックスローラに関し、特に電子複写機、プリンタ、ファクシミリといった電子写真装置に搭載される熱定着装置に使用されるローラに関する。
【背景技術】
【0002】
情報技術の中の必須機器である静電複写機、レーザープリンタなどの電子写真装置は、暗中で一様に帯電した感光体表面に光学像を投影すると、感光体表面には光学像に対応した静電気潜像が形成され、その表面に現像剤である帯電した微粒子(トナー)を散布して静電気力で付着させて画像を現像し、この感光体表面に前記微粒子の帯電とは反対の極性に帯電させた印刷紙の表面を重ねて前記微粒子を紙面に転写し、この紙面上の上記の微粒子を熱定着ローラ(以下ヒートローラとも言う)により加圧下に加熱・溶融して紙面上に熱定着する事により画像を複製させる機器である。
【0003】
熱定着ローラにより紙面上のトナーを熱定着する熱定着装置部分としては、通常、熱定着ローラと加圧ローラの2つのローラで構成されたものが知られており、印刷紙は、その裏面側から加圧ローラで支持され、表面側から加熱された熱定着ローラにより加圧されつつ加熱されて紙面上の微粒子が融着して熱定着される。
【0004】
熱定着ローラは、上記のように紙面上にトナーを融着させるために、融着可能な高温に加熱されるが、熱定着操作が行われる際、常に熱定着温度より遙かに低温の印刷紙および加圧ローラと密接し、回転するため、その瞬間に、特に加圧ローラとの密接部から多量の熱エネルギーが奪い取られて冷却される。
【0005】
一方、加圧ローラは、特に熱定着装置を使用し始める印刷開始時には、低温(通常、室温)であるため、必要とする熱定着ローラの温度との差が大きく、従って、熱定着ローラは、上記のような密接による冷却を見込んで、より高い温度に加熱しておく必要があり、その結果、消費電力もそれだけ多くなってエネルギー効率が低いばかりでなく、冷却を見込んだ印刷可能な温度にまで昇温するウォーミングアップ時間(待機時間)が長くなり、時間効率が低いばかりでなく、利用者には不快の原因ともなる。
【0006】
また、加圧ローラは、高温の熱定着ローラと密接するため、耐熱性があることが求められ、一方、熱定着ローラから加圧ローラにより奪い取られるエネルギーの量は、長時間を考慮すれば加圧ローラの熱容量、短時間のみを考慮すれば熱伝導率に影響される。これらの両特性は、共通して円筒体層の嵩密度に関係する。これらの事情を考慮して、加圧ローラとして、断熱性の優れたシリコーンゴムスポンジ製のローラが用いられるようになった。また、円筒体層を多孔質セラミックス材料や多孔質樹脂成形体といった空隙率の高い成形体から成る断熱層によって構成させることが提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−86219号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、こうした空隙率の高い成形体は、使用に耐えうる強度を得るためにはどうしても密度が高くなってしまい、耐熱性と強度との両方の特性を満足させるローラを得るには限界があった。すなわち、セラミックス材料を使用した場合には、熱伝導率を下げる手段としては嵩密度を低くすることが考えられるが、嵩密度を低くすると強度は弱くなってしまうことが懸念される。また、シリコーンゴムスポンジを使用した場合には、長時間にわたって使用された際に、樹脂自体に熱劣化が生じてしまい、ローラの径が変わってしまうことが懸念される。
【0008】
また、近年においては、消費電力のさらなる低減が要求されている。定着ローラ、加圧ローラにおいては安価で強度の高いアルミニウムやステンレスといった金属製の軸芯や軸パイプが使用されており、こうした金属は熱伝導率が高く、熱容量が高いため、断熱性に乏しく消費電力のさらなる低減の妨げになっている。
さらに、定着ローラ、加圧ローラ以外の定着装置に使用されるローラ、例えば駆動ローラ、剥離ローラ、テンションローラ、ガイドローラといったローラにいたっては、ローラ自体が比較的細径である場合が多く、そのため高い強度が求められている。そのため更なる消費電力の低減のためには、金属に替わる材料が強く要望されている。
【0009】
本発明は上述した状況を鑑みてなされたものであって、低熱伝導率でかつ高強度のセラミックスローラおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、円筒体層の材料に改良の余地があり、ケイ酸カルシウムを主成分にすることにより、従来のシリコーンスポンジを主体とする円筒体層のものと比べて、高断熱性(低熱伝導率、低熱容量)、高耐熱性、高強度になること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本願の第1の発明は、軸芯と、軸芯の外周に形成される円筒体層を備えるローラにおいて、円筒体層はケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなることを特徴とするセラミックスローラ(以下第1の形態ともいう)を提供するものである。好適には、前記円筒体層は、あらかじめ水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶を成形して乾燥した成形体(以下第1の成形体ともいう)からなり、さらに好適には、前記ケイ酸カルシウムの主成分はゾノトライト結晶である。また、前記円筒体層は、成形後に水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶からなる成形体(以下第2の成形体ともいう)から構成されてもよい。この場合、好適には、前記ケイ酸カルシウム結晶の主成分はゾノトライト結晶またはトバモライト結晶、不定形C−S−H結晶である。また、本願の第1の発明においては、好適には、前記円筒体層の嵩密度は0.05〜1.5g/cm3であり、さらに好適には、前記円筒体層の熱伝導率は0.01〜0.5W/(m・K)である。また、前記円筒体層に被覆され、フッ素樹脂を含む表面層をさらに備えていてもよく、前記円筒体層と前記表面層との間に弾性体からなる中間層をさらに備えていてもよい。また、本願の第1の発明は、電子写真装置の熱定着装置に使用される前記セラミックスローラを提供するものである。
【0012】
また、本願の第2の発明は、電子写真装置の熱定着装置に使用されるローラにおいて、軸芯がケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなることを特徴とするセラミックスローラ(以下第2の形態ともいう)を提供するものである。前記軸芯の外周にケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる円筒体層がさらに形成されていてもよい。
【0013】
また、本願の第3の発明は、
A1)ケイ酸質原料と石灰質原料とを多量の水とともにオートクレーブ中で高温度に加熱することによりケイ酸カルシウム結晶を得る工程と、
B1)該ケイ酸カルシウム結晶を含むスラリーからケイ酸カルシウム結晶含有成形体を成形する工程と、
D1)軸芯の外周に該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を形成する工程とを備えることを特徴とするセラミックスローラの製造方法(以下第1の形態の第1の製法ともいう)を提供するものである。また、好適には、前記ケイ酸カルシウム結晶が、ゾノトライト結晶であり、該ゾノトライト結晶の一次粒子は針状結晶を形成し、該一次粒子は直径10〜150μmの球状の二次粒子を形成する。
また、本願の第4の発明は、
A2)ケイ酸質原料と石灰質原料とを多量の水とともにオートクレーブ中で高温度に加熱することによりケイ酸カルシウム結晶前駆体を得る工程と、
B2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体を含むスラリーからケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体を成形する工程と、
C2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体をオートクレーブ中で高温度に加熱してケイ酸カルシウム結晶を生成させてケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得る工程と、
D2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体または該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を軸芯の外周に形成する工程とを備えることを特徴とするセラミックスローラの製造方法(以下第1の形態の第2の製法ともいう)を提供するものである。
また、本願の第5の発明は、
A3)ケイ酸質原料と石灰質原料と成形助剤と水とを含む混錬物を得る工程と、
B3)該混錬物から未結晶含有成形体を押出成形する工程と、
C3)該未結晶含有成形体をオートクレーブ中で高温度に加熱してケイ酸カルシウム結晶を生成させてケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得る工程と、
D3)軸芯の外周に該未結晶含有成形体または該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を形成する工程とを備えることを特徴とするセラミックスローラの製造方法(以下第1の形態の第3の製法ともいう)を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセラミックスローラは、低熱伝導率でかつ強度が高く、電子写真装置の熱定着装置において使用されるローラとして好適である。また、熱容量も従来のローラに比べて、30〜80%低いため、断熱性が高く、消費電力を低減できる。
また、本発明のセラミックスローラの製造方法によれば、低熱伝導率でかつ高強のケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスを得ることができ、断熱性、耐熱性、耐久性に優れるセラミックスローラを好適に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明においては、セラミックスローラとは、特にその用途には制限はされないが、例えばプリンターや複写機といった電子写真装置の熱定着装置において好適に使用されるローラのことをいい、具体的には、熱定着装置において使用される例えば、加熱手段を備えた熱定着ローラ、熱定着ローラに相対して配置される加圧ローラ、熱定着装置内で駆動手段に連結される駆動ローラ、定着ローラまたは加圧ローラから記録紙といった記録媒体の剥離を補助する剥離ローラ、熱定着装置内で定着ベルトが用いられた場合に定着ローラまたは加圧ローラとベルトを掛け渡しするテンションローラ、そういった定着ベルトの動きを規制するガイドローラ等を挙げることができる。
【0016】
以下に本発明のセラミックスローラを説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0017】
まず、本発明の第1の実施形態のセラミックスローラを図1〜図3を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施形態であるセラミックスローラの径方向の断面図、図2は本発明の第1の実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図、図3は本発明の第1の他の実施形態であるセラミックスローラの径方向の断面図である。
【0018】
図1において、セラミックスローラ10は軸芯11と、軸芯11の外周に形成される円筒体層12を備える。
【0019】
軸芯11は、使用に耐えうる剛性を備えていれば特に制限はなく、公知の軸芯または軸パイプが使用できるが、通常、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮などの金属製のものが要求される強度を満たし比較的安価に入手可能であるので好適に使用できる。
【0020】
円筒体層12は、ケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる。本発明においては、ケイ酸カルシウムは、ケイ酸質原料(SiO2)とカルシウム原料(CaO)を水の存在下で水熱反応せしめて生成した化合物であれば特に制限されないが、その結晶として例えば、ゾノトライト結晶、トバモライト結晶、不定形C−S−H結晶等が挙げられる。特にゾノトライト結晶からなる成形体は軽量で比強度が非常に大きく、耐熱性と断熱性に優れているため好ましい。なお、こうした結晶の有無は、X線回析により各種結晶に特有の回析ピークが得られるため、円筒体層12の表面をX線回析すれば容易に判断することができる。
【0021】
本発明において、円筒体層12は、後述する製造方法にて製造される成形前にあらかじめ水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶を成形して乾燥した第1の成形体から構成されていてもよい。ここで、ケイ酸カルシウム結晶としては、ゾノトライト結晶、トバモライト結晶、不定形C−S−H結晶が挙げられ、前記結晶の2つあるいは3つが混在していても良いが、可能な限り1つの結晶から構成されることが好ましく、特にゾノトライト結晶単体で構成されることが好ましい。このゾノトライト結晶は、集合し且つ結合して二次粒子を形成している。図4a、4bに示されるように、この二次粒子15は明確な球形状で、粒子の表面には針状のゾノトライト結晶が栗のいが状に析出しており、内部が空洞またはそれに近い状態となっている。従って、この二次粒子15を用いて成形した場合、非常に嵩高く、熱伝導率および熱容量の低いものとなる。また、この二次粒子15の自己硬化性で、相互に結合しているため、熱伝導率および熱容量が低いにもかかわらず、優れた強度を有する。また、後述する成形時にさらに圧力をかけた場合は、ゾノトライト針状結晶が複雑にからみあい、断熱性と強度を両立させた、さらに優れた構造体となる。
【0022】
本発明において、円筒体層12は、後述する製造方法にて製造される成形後に水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶からなる第2の成形体から形成されていてもよい。ここで、ケイ酸カルシウム結晶としては、ゾノトライト結晶、トバモライト結晶、不定形C−S−H結晶が挙げられ、第2の成形体においても、可能な限り1つの結晶から構成されることが好ましいが、上記結晶の2つあるいは3つが混在していてもよい。こうした成形体によれば、前記結晶が生成されることにより成形体全体にわたって強固な結合を得ることができ、その結果、得られた成形体は、断熱性が高く、且つ優れた強度を有する材料となる。
【0023】
本発明において、円筒体層12は、後述する製造方法にて製造される成形前にあらかじめ水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶前駆体を成形したのち、さらなる水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶からなる第3の成形体から構成されていてもよい。ここで、ケイ酸カルシウム結晶前駆体としては、ゾノトライト結晶前駆体、トバモライト結晶前駆体、不定形C−S−H結晶前駆体が挙げられ、前記結晶前駆体の2つあるいは3つが混在していても良いが、可能な限り1つの結晶前駆体から構成されることが好ましく、特にゾノトライト結晶前駆体単体で構成されることが好ましい。
【0024】
円筒体層12は、ケイ酸カルシウム以外に、セメントや石膏といった補強材や、タルクや珪藻土、フライアッシュといった充填材、ガラス繊維やセラミック繊維、アルミナ繊維、ワラストナイト、パルプ、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、カーボン繊維といった補強繊維、マイクロシリカやパーライト、シラスバルーン、ガラスバルーンといった軽量骨材等が必要に応じて任意に添加配合されていてもよい。また、未反応のケイ酸質原料や石灰質原料を含んでいてもよい。
その配合量は、第1の成形体であれば、ケイ酸カルシウム100質量部に対して、補強材0〜20質量部、好ましくは10〜20質量部、充填材0〜20質量部、好ましくは5〜10質量部、補強繊維0〜20質量部、好ましくは5〜10質量部、軽量骨材0〜20質量部、好ましくは5〜10質量部である。
また、第2の成形体であれば、その配合量は、ケイ酸カルシウム100質量部に対して、補強材0〜20質量部、好ましくは10〜20質量部、充填材0〜100質量部、好ましくは10〜50質量部、補強繊維0〜100質量部、好ましくは5〜30質量部、軽量骨材0〜100質量部、好ましくは10〜50質量部である。
【0025】
本発明において、円筒体層12の嵩密度は、通常0.05〜1.5g/cm3である。嵩密度が0.05g/cm3未満であると期待する強度を得ることができず、1.5g/cm3を越えると、熱伝導率及び熱容量が大きくなり、期待する断熱効果が得られないので好ましくない。また、嵩密度の好ましい範囲は、第1の成形体であれば、0.05〜0.5g/cm3、さらに好ましくは0.2〜0.4g/cm3であり、第2の成形体であれば、0.5〜1.5g/cm3、さらに好ましくは0.6〜1.2g/cm3である。
【0026】
本発明において、円筒体層12の熱伝導率は、通常0.01〜0.5W/(m・K)である。また、熱伝導率の好ましい範囲は、第1の成形体であれば、0.01〜0.1W/(m・K)、さらに好ましくは0.06〜0.09W/(m・K)であり、第2の成形体であれば、0.1〜0.5W/(m・K)、さらに好ましくは0.15〜0.35W/(m・K)である。熱伝導率が0.01W/(m・K)未満であると嵩密度が低くなりすぎ、期待する強度を得ることができず、0.5W/(m・K)を越えると期待する断熱効果が得られないので好ましくない。
【0027】
本発明において、円筒体層12の1cm3あたりの熱容量は、通常0.04〜1.2J/Kである。熱容量が0.04J/K未満であると嵩密度が低くなりすぎ、期待する強度を得ることができず、1.2J/Kを越えると期待する断熱効果が得られないので好ましくない。また、熱容量の好ましい範囲は、第1の成形体であれば、0.04〜0.4J/K、さらに好ましくは0.16〜0.32J/Kであり、第2の成形体であれば、0.4〜1.2J/K、さらに好ましくは0.48〜0.96J/Kである。
【0028】
本発明において、円筒体層12の圧縮強度(以下強度ともいう)は、通常1〜35MPaである。また、第1の成形体であれば、好ましくは1〜10MPa、さらに好ましくは3〜5MPaである。圧縮強度が3MPa未満であると加圧ローラや定着ローラといった比較的強い負荷がかかるような用途では使用できない場合がある。
第2の成形体であれば、好ましくは10〜35MPa、さらに好ましくは10〜20MPaである。圧縮強度が10MPa未満であると、軸芯、テンションローラ、ガイドローラといった強い負荷がかかるような用途では使用できない場合がある。35MPaを越える強度を得るためには嵩密度が高くなりすぎてしまい、期待する断熱効果が得られないので好ましくない。
【0029】
本発明において、前述した熱伝導率と強度との両方の特性を兼ね備えていることが好ましい。一般的にセラミックス材料においては、熱伝導率と圧縮強度とは相反した特性であるが、本発明においては、円筒体層12をケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスから構成することにより、後述するように比較的低い嵩密度であっても低熱伝導率と高強度と双方の特性を満足することができる。
すなわち、第1の成形体においては、後述する製造方法により、嵩密度0.05〜0.5g/cm3において、熱伝導率0.01〜0.1W/(m・K)かつ圧縮強度1〜10MPa、さらには、熱伝導率0.06〜0.09W/(m・K)かつ圧縮強度3〜5MPaを実現することができ、第2の成形体においては、後述する製造方法により、嵩密度0.5〜1.5g/cm3において、熱伝導率0.1〜0.5W/(m・K)かつ圧縮強度10〜35MPa、さらには、熱伝導率0.15〜0.35W/(m・K)かつ圧縮強度10〜20MPaを実現することができる。
【0030】
本発明のセラミックスローラ10は、円筒体層12に被覆され、フッ素樹脂を含む表面層13を備えていてもよい。こうした表面層13によれば、セラミックスローラ10に離型性を持たせることができる。こうした表面層13の厚さは通常5〜500μm、好ましくは20〜100μmである。厚さが5μm未満であると、表面に円筒体層12の凹凸が浮き出てしまったり、表面層13が破れてしまったりすることが懸念され、500μmを超えると材料費がかさみ経済的に不利であるとともに断熱性も悪くなる。
【0031】
フッ素樹脂としては、記録媒体に対して離型性であれば特に制限されないが、PFA(パーフルオロアルキル・ビニルエーテル共重合樹脂)、PTFE(ポリテトラクルオロエチレン樹脂)、FEP(四フッ化エチレンテ、フッ化プロピレン共重合樹脂)等が挙げられる。特に耐熱性と加工性の観点からPFAが好適に使用される。
【0032】
また、こうした表面層13はガラス等の無機質材料から構成されていてもよい。無機質材料としては、耐熱性があれば特に制限されず、ガラス、アルミナ、シリカ等が挙げられるが、中でも耐熱性と加工性、表面平滑性の観点からガラスが好ましい。
【0033】
図3に示されるように、本発明のセラミックスローラ10は、円筒体層12と表面層13との間に弾性体からなる中間層14を備えていてもよい。こういった中間層14によれば、セラミックスローラ10が加圧ローラとして使用され、定着ローラに圧接した場合に、セラミックスローラ10の中間層14が弾性変形することによって、定着ローラに対して均一に圧接することができるとともに記録媒体搬送方向に所定のニップ幅を確実に形成することができる。
【0034】
中間層14として用いられる材料は、柔軟性を備えていれば特に制限されないが、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴムといったゴム、メラミン樹脂等のスポンジ樹脂、アラミド繊維からなる耐熱性フェルト、ロックウール紙、ガラス繊維紙等の不織布が挙げられる。特に耐熱性が必要な場合はフッ素ゴムが適している。こうした中間層14の厚さは通常50〜1000μm、好ましくは100〜500μmである。厚さが50μm未満であると、期待する柔軟性を得られず、500μmを超えると材料費がかさみ経済的に不利であるとともに断熱性も悪くなる。
【0035】
中間層14として比熱が高い材料が用いられてもよい。こうした材料を用いることで、中間層14にわずかではあるが蓄熱させることができ、セラミックスローラ10が加圧ローラとして用いた場合に記録媒体に熱を均一にそして確実に加えることができる。
比熱が高い材料としては、例えばシリコーンゴム、フッ素ゴム等の樹脂が挙げられる。
【0036】
次に、本発明の第2の形態のセラミックスローラを図5および図6を参照して以下に説明する。なお、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。図5は本発明の第2の実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図、図6は本発明の第2の他の実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図である。
【0037】
図5において、セラミックスローラ20は、電子写真装置の熱定着装置に使用されるローラであって、軸芯21がケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる。形状は表面に円柱面を備えていれば特に制限はなく、円柱状や円筒状といった形状が挙げられるが、強度や簡易に製造できるといった観点から円柱状が好ましい。
【0038】
こうした軸芯21は、前述した第1の成形体または第2の成形体から形成されれば良いが、軸芯21としての使用に耐え得るため、比較的高密度の第2の成形体のほうがより高い強度を得られるので好ましい。また、図6に示されるように、軸芯部22は、円柱状の成形体の端部23を研削して形成されてもよい。図示しないが、こういったセラミックスローラは例えば、定着ローラや加圧ローラの軸芯として使用されることはもちろん、単体(軸芯のみ)で駆動ローラ、剥離ローラ、テンションローラ、ガイドローラとして使用することができる。
【0039】
本発明の第2の実施形態によれば、軸芯の熱伝導率および熱容量が、従来用いられる金属製の軸芯に比べはるかに低いため、軸芯を介して奪われる熱エネルギーを低減することができ、その結果、定着装置の消費電力を大きく抑制することができる。
【0040】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態であるセラミックスローラを図7を参照して以下に説明する。なお、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。図7は発明の第3実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図である。
【0041】
図7において、セラミックスローラ30は、ケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる軸芯31の外周に、ケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる円筒体層32が形成される。こうした軸芯31は、前述した第1の成形体または第2の成形体から形成されれば良いが、軸芯31としての使用に耐え得るため、比較的高密度の第2の成形体のほうがより高い強度を得られるので好ましく、円筒体層32も前述した第1の成形体または第2の成形体から形成されれば良いが、比較的低熱伝導率の低い第1の成形体のほうがより高い断熱性を得られるので好ましい。また、図示しないが、こういったセラミックスローラは例えば、定着ローラや加圧ローラ、駆動ローラ、剥離ローラ、テンションローラ、ガイドローラとして使用することができる
【0042】
第3の実施形態のセラミックスローラは、第1の実施形態のセラミックスローラにおいて、軸芯として第2の実施形態のセラミックスローラを使用している形態である。第3の実施形態のセラミックスローラは、軸芯がケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなること以外は、第1の実施形態のセラミックスローラと同様であり、表面層33や中間層(図示しない)を備えていてもよい。
【0043】
本発明の第3の実施形態によれば、低熱伝導率でかつ高強度のケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスを得ることができ、断熱性、耐熱性に優れ、高強度のセラミックスローラを好適に得ることができる。また、軸芯の熱伝導率および熱容量が、従来用いられる金属製の軸芯に比べはるかに低いため、軸芯を介して奪われる熱エネルギーを低減することができ、その結果、定着装置の消費電力を大きく抑制することができる。
【0044】
第1の実施形態のセラミックスローラを製造する方法としては、
A1)ケイ酸質原料と石灰質原料とを多量の水とともにオートクレーブ中で攪拌しながら高温度に加熱することによりケイ酸カルシウム結晶を得る工程と、
B1)該ケイ酸カルシウム結晶を含むスラリーからケイ酸カルシウム結晶含有成形体を成形する工程と、
D1)軸芯の外周に該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を形成する工程とを備える方法(第1の形態の第1の製法)が挙げられる。ここで、工程A1)および工程B1)を備える方法が上述した第1の成形体の製法に該当する。
【0045】
工程A1)において、オートクレーブ中の温度条件、圧力条件、攪拌条件を適宜設定することにより生成されるケイ酸カルシウム結晶の種類(ゾノトライト結晶、トバモライト結晶、不定形C−S−H結晶)を特定することができるが、後述する条件によりゾノトライト結晶のみを生成させることが好ましい。ゾノトライト結晶の一次粒子は針状結晶を形成し、該一次粒子は、図4a、4bに示されるように直径10〜150μmの球状の二次粒子15を形成する。また、一次粒子は、集合してさらに結合して内部が空洞またはそれに近い状態の球状の二次粒子15を形成し、二次粒子15の表面には針状のゾノトライト結晶が栗のいが状に析出する。こうしたゾノトライト結晶からなる二次粒子15は、乾燥して水を除いただけで強固に結びついて強度が発現する。また、二次粒子15は上述のように内部が空洞またはそれに近い状態であるため、得られる成形体は軽量であり、熱伝導率が低くなる。したがって、成形体の熱容量が低く、熱伝導率が低く、優れた強度を有する成形体を得ることができる。なお、一次粒子および二次粒子の形態は走査型電子顕微鏡等により確認できる。
【0046】
ケイ酸カルシウム結晶として好適なゾノトライト結晶を得るためには、ケイ酸質原料と石灰質原料とを、ケイ酸質原料と石灰質原料の合計に対して通常20〜40倍量の多量の水と攪拌しながらオートクレーブ中で飽和蒸気圧7〜20Kg/cm2、好ましくは13〜17Kg/cm2で水熱合成させる必要がある。また、ケイ酸質原料と石灰質原料とをCaO/SiO2がモル比で通常0.8〜1.2、好ましくは0.9〜1.1に調整することが必要である。
【0047】
ケイ酸質原料としては、成分としてSiO2が含まれていれば特に制限はされず、例えば、珪石、溶融シリカ等が挙げられるが、ゾノトライト結晶を生成させるためには結晶質のもの特に珪石を用いることが好ましい。また、平均粒径5〜15μmの微粉末を用いることが好ましい。
石灰質原料としては、成分としてCaOが含まれていれば特に制限はされず、例えば、消石灰、生石灰等が挙げられるが、ゾノトライト結晶の成長性といった観点から生石灰を用いることが好ましい。
【0048】
工程B1)において、スラリーには、ケイ酸カルシウム結晶のほかに補強材がさらに含まれていても良い。こうした補強材を添加(以下配合ともいう)することにより、さらに強度の高いケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得ることができる。こういった補強材としては、アルミナセメントやポルトランドセメントといった水硬性結合材やコロイダルシリカやアルミナゾルといった無機結合材が挙げられる。その添加量(以下配合量ともいう)は、ケイ酸カルシウム結晶100質量部に対して、0〜20質量部、好ましくは10〜20質量部である。
【0049】
スラリーには、ケイ酸カルシウム結晶のほかに充填材がさらに含まれていても良い。こうした充填材を添加することにより、原料の低コスト化、成形性の向上が見込める。こういった充填材としては、タルクや珪藻土、フライアッシュといったものが挙げられる。その添加量は、ケイ酸カルシウム結晶100質量部に対して、0〜20質量部、好ましくは5〜10質量部である。
【0050】
スラリーには、ケイ酸カルシウム結晶のほかに補強繊維がさらに含まれていても良い。こうした補強繊維を添加することにより、さらに強度の高い成形体を得ることができる。こういった補強繊維としては、ガラス繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ワラストナイト、パルプ、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、カーボン繊維といったものが挙げられる。その添加量は、ケイ酸カルシウム結晶100質量部に対して、0〜20質量部、好ましくは5〜10質量部である。
【0051】
スラリーには、ケイ酸カルシウム結晶のほかに軽量骨材がさらに含まれていても良い。こうした軽量骨材を添加することにより、強度を維持したままさらに嵩密度を低くすることができる。こういった軽量骨材としては、マイクロシリカ、パーライト、シラスバルーン、ガラスバルーンといったものが挙げられる。その添加量は、ケイ酸カルシウム結晶100質量部に対して、0〜20質量部、好ましくは5〜10質量部である。
【0052】
スラリーには、ケイ酸カルシウム結晶のほかに必要に応じて凝集剤や増粘剤(押出し成形助剤ともいう)が含まれていても良い。
【0053】
工程B1)において、成形方法は、公知の技術であれば特に制限はなく、抄造法や脱水プレス成形法といった脱水成形法、押出成形法が挙げられるが、求める成形体の密度が0.5g/cm3以下の場合には、水量が多いスラリー状の状態より成形する脱水プレス成形法が適している。脱水プレス成形法によれば、ゾノトライト二次粒子の自己硬化性作用により、嵩密度0.05〜0.5g/cm3といった比較的低密度であっても、熱伝導率0.01〜0.1W/(m・K)かつ圧縮強度1〜10MPa、さらには、熱伝導率0.06〜0.09W/(m・K)かつ圧縮強度3〜5MPaの第1の成形体を得ることができる。
成形体の密度は、スラリー中のゾノトライト結晶二次粒子の嵩高さ、脱水成形時の成形圧力を変更することにより調整する。例えば、ゾノトライト結晶二次粒子を嵩高くすると比較的嵩密度が低い成形体を得ることができる。ゾノトライト結晶二次粒子の嵩密度は出発原料、スラリーの濃度や攪拌条件等を変更して調整する。成形圧力は通常1〜70kgf/cm2、好ましくは10〜50kgf/cm2、時間は通常1〜30分、好ましくは5〜10分かけて行うのが良い。
【0054】
前記スラリーを濃縮して成形助剤を添加し、固形分100質量部に対して50〜100質量部の水を含む混錬物にすれば、押出成形法によりケイ酸カルシウム結晶含有成形体を成形することもできる。押出成形法は、求める成形体の密度が0.5g/cm3以上の場合に好適に使用できる。
ここで、成形助剤は、押出し成形助剤として使用できる有機バインダーであれば特に制限はなく、その配合量は、固形分100質量部に対して3〜10質量部であれば良い。
また、混錬物には、その他の任意成分が含まれていてもよく、その配合量は、混ケイ酸カルシウム結晶100質量部に対して、補強材0〜20質量部、好ましくは10〜20質量部、充填材0〜50質量部、好ましくは10〜30質量部、補強繊維0〜20質量部、好ましくは5〜10質量部、軽量骨材0〜40質量部、好ましくは10〜20質量部である。
密度の調整は、混練水量、充填材、軽量骨材を組み合わせて調整すればよい。混錬工程に使用する混錬装置としては、例えば、加圧型ニーダ、双腕型ニーダ、高速ミキサー、バタフライミキサー等挙げられるが、公知のものであれば適宜使用することができる。
【0055】
上述した方法により得られたケイ酸カルシウム結晶含有成形体は公知の技術により乾燥され、第1の成形体が得られる。乾燥条件は、通常100〜200℃、1〜24時間程度でよいが、脱水成形法を用いるのであれば、通常50〜300℃で1〜24時間、好ましくは150〜250℃で3〜10時間かけるのが好ましい。
【0056】
ケイ酸カルシウム結晶含有成形体の形状は特に制限はないが、例えば、ボード状、角柱状、円筒状、半円筒状、円筒状または半円筒状のものを分割したもの等が挙げられる。こうした形状を得るためには、脱水成形であれば、所望の形状をした型を用いればよく、例えば、図8に示されるような円筒状の成形用型40や、図9に示されるような半円筒状の成形型45を用いてればよい。例えば、円筒状の成形用型40は、一対の半割型41から構成される。半割型41には半円状の溝42が形成されており、これらの溝42を対向させて、接合面43を密接させることにより、円柱状の中空部44が形成される。この中空部44の中心部に吸引脱水用の表面がメッシュ構造をした円筒45を配置し、中空部にスラリーを注入して円筒45を通して水分を除去することにより円筒状の成形体を得ることができる。
【0057】
工程D1)において、軸芯の外周にケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を形成する方法としては、特に制限はないが、例えば、円筒状の成形体に形成される中空部に、予め接着剤を塗布しておいた軸芯を挿入してもよいし、半円筒状の成形体の内側に形成される内面に接着剤を塗布して、一対の半円筒状の成形体を軸芯に被せて固着させてもよい。接着剤としては、特に制限がなく公知のものが使用できるが、耐熱性を備えているシリコーンゴム接着剤が好ましい。
【0058】
工程D1)は、ケイ酸カルシウム結晶含有成形体から所望の形状の成形体片を切り出す工程と、該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体片を軸芯に固定する工程とをさらに備えていてもよい。成形体片は円筒状であってもよいし、半円筒状または該半円筒状のものを分割したものであってもよい。例えば、図10に示されるように上述した方法により得られたボード状の成形体51から円筒状の成形体片52を打ち抜いて切り出してもよいし、図11に示されるような半円筒状の成形体片53を切り出してもよい。成形体から所望の形状の成形体片を切り出す方法としては、例えば、切削加工、レーザー加工、研磨加工及びこれらの組合せといった公知のものを利用することができる。こうして得られた成形体片は上述した方法により軸芯に固定されればよい。円筒状の成形体片の場合には複数の成形体片を連接させて軸芯に固定すればよい。
また、軸芯に固定された成形体片を研削して円筒体層を形成してもよい。例えば、図12に示されるように、ボード状の成形体55から角柱状の成形体片56を切り出し、切り出した角柱状の成形体片56の長さ方向に沿った中心部に軸芯と同径の貫通孔57を形成し、該貫通孔57に予め接着剤を塗布しておいた軸芯58を挿入し、成形体片56が軸芯に固着されたことを確認したのちに、成形体片56の外径を研削して円筒体層59を形成してもよい。
円筒体層59の表面は、凹凸をなくし真円とするために、切削または研磨するのが好ましい。
【0059】
工程B1)と工程D1)は同一工程で行われてもよい。脱水プレス成形法においては、あらかじめ成形型に軸芯を設置し、スラリーとともに軸芯一体成形をすればよく、押出成形法においては、軸芯の円柱面に沿ってケイ酸カルシウム結晶含有成形体を押出成形すればよい。こうした方法によれば、成形体の加工工程を省くことができるので好ましい。
【0060】
第1の実施形態のセラミックスローラを製造する他の方法としては、
A2)ケイ酸質原料と石灰質原料とを多量の水とともにオートクレーブ中で攪拌しながら高温度に加熱することによりケイ酸カルシウム結晶前駆体を得る工程と、
B2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体を含むスラリーからケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体を成形する工程と、
C2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体をオートクレーブ中で高温度に加熱してケイ酸カルシウム結晶を生成させてケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得る工程と、
D2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体または該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を軸芯の外周に形成する工程とを備える方法(第1の形態の第2の製法)が挙げられる。ここで、工程A2)および工程B2)、工程C2)を備える方法が前述した第3の成形体の製法に該当する。以下に第1の形態の第2の製法を説明するが、第1の形態の第1の製法と異なる箇所のみ説明する。
【0061】
工程A2)において、ケイ酸カルシウム結晶前駆体とは、ケイ酸質原料と石灰質原料とがわずかに反応しているが、完全には反応していない、すなわち、ケイ酸カルシウム結晶になる前の状態のものをいう。
【0062】
工程A2)において、工程A1)と異なる点は、生成されるものがケイ酸カルシウム結晶ではなく、ケイ酸カルシウム結晶前駆体であり、工程A1)同様、オートクレーブ中の温度条件、圧力条件、攪拌条件を適宜設定することにより生成されるケイ酸カルシウム結晶前駆体の種類(ゾノトライト結晶前駆体、トバモライト結晶前駆体、不定形C−S−H結晶前駆体)を特定することができるが、ゾノトライト結晶前駆体のみを生成させることが好ましい。
ゾノトライト結晶前駆体もゾノトライト結晶同様に、直径10〜150μmの中空球状の二次粒子を形成する。したがって、得られる成形体もゾノトライト結晶から得られた成形体と同様の効果を発揮する。なお、こうした結晶前駆体の有無は、SEMまたは光学顕微鏡等により確認できる
【0063】
工程A2)において、ケイ酸カルシウム前駆体として好適なゾノトライト結晶前駆体を得るために必要な原料、水熱合成の条件等については工程A1)と同様であるが、ケイ酸原料と石灰質原料とをCaO/SiO2がモル比でCaO成分が比較的多い1.1〜1.3に調整することが必要である。
【0064】
工程B2)において、工程B1)と異なる点は、スラリーに含まれるものがケイ酸カルシウム結晶ではなく、ケイ酸カルシウム結晶前駆体であり、得られる成形体がケイ酸カルシウム結晶含有成形体ではなく、ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体であり、その他、スラリーの任意添加物およびその配合、成形方法、乾燥条件、成形体の形状については同様であるが、後述の水熱合成でゾノトライト結晶を生成させるために、ケイ酸原料を添加し、CaO/SiO2がモル比で0.9〜1.1に調整することが必要である。
【0065】
工程C2)において、圧力は通常7〜20kg/cm2、好ましくは8〜12kg/cm2、時間は通常1〜24時間、好ましくは6〜10時間かけて行うのが良い。なお、工程C2)は軸芯に固定されてから行われてもよく、軸芯に固定される前に行われてもよい。
【0066】
工程D2)において、工程D1)と異なる点は、軸芯の外周に形成される成形体が、ケイ酸カルシウム結晶含有成形体ではなく、ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体またはケイ酸カルシウム結晶含有成形体であることであり、その他、円筒体層の形成方法については[0056]〜[0058]段落に記載したとおりである。
【0067】
第1の実施形態のセラミックスローラを製造する他の方法としては、
A3)ケイ酸質原料と石灰質原料と成形助剤と水とを含む混錬物を得る工程と、
B3)該混錬物から未結晶含有成形体を押出成形する工程と、
C3)該未結晶含有成形体をオートクレーブ中で高温度に加熱してケイ酸カルシウム結晶を生成させてケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得る工程と、
D3)軸芯の外周に該未結晶含有成形体または該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を形成する工程とを備える方法(第1の形態の第3の製法)が挙げられる。ここで、工程A3)および工程B3)、工程C3)を備える方法が前述した第2の成形体の製法に該当する。以下に第1の形態の第3の製法を説明するが、第1の形態の第1の製法および第2の製法と異なる箇所のみ説明する。
【0068】
工程A3)において、未反応結晶とは、オートクレーブ中で高温度に加熱して生成されるゾノトライト結晶またはトバモライト結晶、不定形C−S−H結晶の原料であるケイ酸質原料および石灰質原料の結晶のことをいう。なお、こうした未反応結晶の有無は、X線回析により特有の回析ピークが得れるため、組成物をX線回析すれば容易に判断することができる。
【0069】
ケイ酸質原料としては、成分としてSiO2が含まれていれば特に制限はされず、例えば、珪石、溶融シリカ等が挙げられるが、好適なケイ酸カルシウム結晶を生成させるためには結晶質のもの特に珪石を用いることが好ましい。また、平均粒径5〜15μmの微粉末を用いることが好ましい。
石灰質原料としては、成分としてCaOが含まれていれば特に制限はされず、例えば、消石灰、生石灰等が挙げられるが、製造性の観点から消石灰を用いることが好ましい。
ケイ酸質原料と石灰質原料とをCaO/SiO2がモル比で通常0.7〜1.2、好ましくは0.8〜1.0に調整することが必要である。ここで、成形助剤は、押出し成形助剤として使用できる有機バインダーであれば特に制限はなく、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、木節粘土などが挙げられ、これらの2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、その配合量は、固形分100質量部に対して3〜10質量部であれば良い。
【0070】
工程A3)において、混錬物には、ケイ酸質原料と石灰質原料と成形助剤と水のほかに補強材がさらに含まれていても良い。こうした補強材を添加(以下配合ともいう)することにより、さらに強度の高い成形体を得ることができる。こういった補強材としては、アルミナセメントやポルトランドセメントといった水硬性結合材やコロイダルシリカやアルミナゾルといった無機結合材が挙げられる。その添加量(以下配合量ともいう)は、ケイ酸質原料および石灰質原料の合計100質量部に対して、0〜20質量部、好ましくは10〜20質量部である。
【0071】
混錬物には、ケイ酸質原料と石灰質原料と成形助剤と水のほかに充填材がさらに含まれていても良い。こうした充填材を添加することにより、原料の低コスト化、成形性の向上が見込める。こういった充填材としては、タルクや珪藻土、フライアッシュといったものが挙げられる。その添加量は、ケイ酸質原料および石灰質原料の合計100質量部に対して、0〜100質量部、好ましくは10〜50質量部である。
【0072】
混錬物には、ケイ酸質原料と石灰質原料と成形助剤と水のほかに補強繊維がさらに含まれていても良い。こうした補強繊維を添加することにより、さらに強度の高い成形体を得ることができる。こういった補強繊維としては、ガラス繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ワラストナイト、パルプ、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、カーボン繊維といったものが挙げられる。その添加量は、ケイ酸質原料および石灰質原料の合計100質量部に対して、0〜100質量部、好ましくは5〜30質量部である。
【0073】
混錬物には、ケイ酸質原料と石灰質原料と成形助剤と水のほかに軽量骨材がさらに含まれていても良い。こうした軽量骨材を添加することにより、強度を維持したままさらに嵩密度を低くすることができる。こういった軽量骨材としては、マイクロシリカ、パーライト、シラスバルーン、ガラスバルーンといったものが挙げられる。その添加量は、ケイ酸質原料および石灰質原料の合計100質量部に対して、0〜100質量部、好ましくは10〜50質量部である。
【0074】
工程C3)において、圧力は通常7〜20kg/cm2、好ましくは10〜15kg/cm2、時間は通常1〜24時間、好ましくは6〜10時間かけて行うのが良い。
【0075】
上述した方法により得られたケイ酸カルシウム結晶含有成形体は公知の技術により乾燥され、第2の成形体が得られる。乾燥条件は、100〜200℃、5〜12時間かけるのが好ましい。
【0076】
第2の成形体の製法によれば、嵩密度0.5〜1.5g/cm3といった比較的高密度であっても、熱伝導率0.1〜0.5W/(m・K)かつ圧縮強度10〜35MPa、さらには、熱伝導率0.15〜0.35W/(m・K)かつ圧縮強度10〜20MPaの第2の成形体を得ることができる。
【0077】
工程D3)において、工程D1)と異なる点は、軸芯の外周に形成される成形体が、ケイ酸カルシウム結晶含有成形体ではなく、未結晶含有成形体またはケイ酸カルシウム結晶含有成形体であることであり、その他、円筒体層の形成方法については〔0056〕〜〔0058〕段落に記載したとおりである。
工程B3)と工程D3)を同一工程にすること、すなわち、混錬物から未反応結晶含有成形体を軸芯の円柱面に沿って押出成形する工程によれば、成形体の加工工程を省くことができるため好ましい。
ここで、工程D3)は工程C3)の後に行われてもよく、前に行われてもよい。
【0078】
円筒体層の表面に前述した表面層を形成する方法としては、熱収縮性のフッ素樹脂チューブの中にセラミックスローラを挿入した後に、加熱しチューブを収縮させて、ローラ表面を被覆し表面層とする方法や、フッ素樹脂を含むコーティング液をローラの表面に塗布した後に加熱乾燥して表面層を形成する方法が挙げられる。このような塗布に用いることができる方法として、刷毛塗り、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、バーコート法、スピンコート法等が挙げられる。ロールが異形であったり、寸法が小さい場合には手作業による刷毛塗りなどの方法が実用的である。
【0079】
また、表面層がガラス層である場合には、ガラスフリットを含むコーティング液をローラの表面に塗布した後に加熱焼成して表面層を形成する方法が挙げられる。このような塗布に用いることができる方法として、スプレー塗装、静電粉体塗装、ドクターコーティング等が挙げられる。
【0080】
円筒体層と表面層との間に前述した中間層を形成する方法としては、成形型の内側に軸芯と円筒体層、外側にフッ素チューブをセットし、その隙間に液状シリコンゴムを流し込んでシリコンゴムを硬化させる方法、シリコンゴムチューブを円筒体層に被覆して接着する方法、円筒体層に液状シリコンゴムをスプレーコートする方法、ロールコートで液状シリコンゴムを円筒体層表面に塗布する方法が挙げられる。
【0081】
第2の実施形態のセラミックスローラを製造する方法としては、上述した第1の成形体の製法、第2の成形体の製法または第3の成形体の製法により成形体を得る工程と、該成形体から円柱状または円筒状の軸芯を得る工程を備える方法(以下第2の形態の第1の製法ともいう)が挙げられる。
また、上述した第1の成形体の製法、第2の成形体の製法または第3の成形体の製法により円柱状または円筒状の軸芯を得る工程を備える方法(以下第2の形態の第2の製法ともいう)が挙げられる。
さらに、前記円柱状の成形体の端部を研削して軸芯部を形成する工程を備えていてもよい。
【0082】
第3の実施形態のセラミックスローラを製造する方法としては、上述した第2の形態の第1の製法または第2の製法によって得た軸芯の外周に、上述した第1の成形体の製法、第2の成形体の製法または第3の成形体の製法により得た成形体からなる円筒体層を形成する工程を備える方法が挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下に本願発明を実施例により具体的な例を挙げて説明するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。まず、第1の形態のセラミックスローラを加圧ローラを例に挙げて以下に説明する。
【0084】
(実施例1)
ゾノトライト結晶の生成:
石灰質原料としての生石灰(足立生石灰(150メッシュ))を24倍量の熱水(温度90℃)に投入し、160rpmで回転する攪拌翼を有する攪拌機で攪拌しながら30分間消化して石灰乳を得た。次いで、得られた石灰乳にケイ酸質原料としての珪石粉末(伊豆珪石特粉D)をCaO/SiO2モル比が1.0となるように添加し、同時に、生石灰と珪石粉末との合計量の30倍量の水を加えて均一なスラリーとし、オートクレーブ中、120rpmで攪拌しながら、圧力16Kg/cm2で4時間水熱反応させた。
【0085】
得られたスラリー中の固形物は実質的にゾノトライト結晶からなり、針状結晶が多数集合して直径30〜130μmの球状の二次粒子を形成していた。
【0086】
スラリーの調整:
このスラリーにゾノトライト結晶100質量部に対して7質量部のポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製 普通ポルトランドセメント)、5質量部のガラス繊維(日本電気硝子株式会社製 ECS131−33G)、固形分換算で100ppmの凝集剤(三洋化成工業株式会社製 サンフロックN―0P)を添加して混合して脱水プレス成形用のスラリーを得た。該スラリーを型枠に流し込み成形圧力5kgf/cm2で脱水プレス成形したのち、100℃で12時間乾燥して長さ350mm、幅350mm、厚さ50mmのボード状の成形体を得た。この成形体の嵩密度は0.11g/cm3であった。
【0087】
ローラの製造:
得られたボード状の成形体から、縦50mm、横50mm、長さ330mmの角柱状の成形体片を切り出した。該成形体片の長さ方向に沿った中心に直径30mmの貫通孔を形成した。該貫通孔に予めシリコーンゴム接着剤(信越化学工業株式会社製 KE45)を塗布しておいたステンレス製の軸芯を挿入した。成形体片が軸芯に固着したことを確認したのちに、成形体片の外径を研削して肉厚5mmの円筒体層を得た。
【0088】
表面層の形成:
該円筒体層の外周表面に、加熱硬化型シリコーンゴム接着剤(信越化学工業株式会社製 KE1833)をロールコータで塗布し、PFA熱収縮チューブ(株式会社潤工社製 ジュンフロン内面処理付きPFA熱収縮チューブ)を被覆し、熱風ドライヤーにより180℃で3h加熱処理を施してPFA熱収縮チューブを加熱収縮させて厚さ30μmの表面層を形成した。
【0089】
(実施例2)
脱水プレス成形時の成形圧力を15kgf/cm2に変更し、成形体の嵩密度を0.25g/cm3としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて加圧ローラを得た。
【0090】
(実施例3)
脱水プレス成形時の成形圧力を30kgf/cm2に変更し、成形体の嵩密度を0.39g/cm3としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて加圧ローラを得た。
【0091】
(比較例1)
実施例1において、ケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる円筒体層の代わりに、嵩密度が0.6g/cm3のシリコーンゴムスポンジを用いて同じ形状、構造の加圧ローラを得た。
【0092】
(比較例2)
実施例1において、ケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる円筒体層の代わりに、嵩密度が1.0g/cm3のシリコーンゴムを用いて同じ形状、構造の加圧ローラを得た。
【0093】
次いで、第2の形態のセラミックスローラを駆動ローラを例に挙げて以下に説明する。なお、該駆動ローラは軸芯のみから構成される。
【0094】
(実施例4)
乾式混合:
石灰質原料としての消石灰(奥多摩工業株式会社 特号)と、ケイ酸質原料としての珪石粉末(秩父鉱業株式会社 3500ブレーン)との合計100質量部に対して、軽量骨材としてパーライト(昭和化学株式会社 トプコ1BS)30質量部、成形助剤としてメチルセルロース(ユケン工業株式会社 セランダーYB152A)10質量部とを双腕型ニーダにて10分間乾式混合して混合物を得た。消石灰と珪石粉末の配合量はCaO/SiO2がモル比で0.9となるように調整する。
【0095】
湿式混錬:
該混合物の入った双腕型ニーダに、消石灰と珪石粉末との合計100質量部に対して、水を加え、湿式にて20分間混錬して混錬物を得た。水は混錬物の固形分100質量部に対して80質量部含まれるように調整した。
【0096】
押出成形:
該混錬物から真空混練押出成形機を用いて直径22mm、長さ350mmの円筒状の未結晶含有成形体を押出成形した。
【0097】
水熱合成反応:
該未結晶含有成形体をオートクレーブにて圧力7Kg/cm2で4時間かけて水熱合成反応させて成形体を得た。得られた成形体の主成分はトバモライト結晶からなり、成形体全体にわたってその存在することを確認した。
【0098】
乾燥:
該成形体を常温にて乾燥させたのち、表面を研磨して、直径20mm、嵩密度0.8g/cm3の軸芯すなわち駆動ローラを得た。
【0099】
(実施例5)
乾式混合、湿式混錬を以下のように変更し、成形体の嵩密度を1.2g/cm3としたこと以外は、実施例4と同様の方法にて駆動ローラを得た。
【0100】
乾式混合:
石灰質原料としての消石灰(奥多摩工業株式会社 特号)と、ケイ酸質原料としての珪石粉末(秩父鉱業株式会社 3500ブレーン)との合計100質量部に対して、成形助剤としてメチルセルロース(ユケン工業株式会社 セランダーYB152A)8質量部とを双腕型ニーダにて10分間乾式混合して混合物を得た。消石灰と珪石粉末の配合量はCaO/SiO2がモル比で0.9となるように調整する。
【0101】
湿式混錬:
該混合物の入った双腕型ニーダに、消石灰と珪石粉末との合計100質量部に対して、水を加え、湿式にて20分間混錬して混錬物を得た。水は混錬物の固形分100質量部に対して40質量部含まれるように調整した。
【0102】
(比較例3)
実施例4において、ケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる軸芯の代わりに、嵩密度2.7g/cm3のアルミニウムを用いて同じ形状の駆動ローラを得た。
【0103】
(比較例4)
実施例4において、ケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる軸芯の代わりに、嵩密度7.4g/cm3のステンレスを用いて同じ形状の駆動ローラを得た。
【0104】
(試験方法)
実施例1〜3および比較例1、2において、表1に、実施例4、5および比較例3、4において、表2に記載の各評価項目は以下の試験法により測定した。
(1) 嵩密度(g/cm3):試験片の質量と形状寸法から算出される体積とから算出した。
(2) 熱伝導率(W/(m・K)):試験片として円筒体層と同一の原料組成で、幅100mm、厚さ20mm、長さ50mmの平面板状の試験片を別に作製し、JIS R2616「非定常熱線法」に準じて、京都電子工業株式会社製迅速熱伝導率計QTM−500により試験体表面の室温での熱伝導率を測定した。
(3) 熱容量(J/K):試験体を粉砕し、そのうちの50gを、高温試料投下型比熱測定装置を用いて比熱を測定し、上記の嵩密度の値から1cm3あたりの熱容量を算出した。
(4) 圧縮強度(MPa):試験片として円筒体層と同一の原料組成で、一辺が60mmの立方体の試験片を別に作製し、JIS R1608「ファインセラミックスの圧縮強さ試験方法」に準じて、測定をおこなった。
(5) 耐熱寸法変化:あらかじめ寸法を測定した直方体の試験片を250℃恒温機に投入し、1週間後の寸法変化を確認した。全く寸法変化のないものには○、多少変形が起こっている場合は△、著しく寸法が変化している場合は×とした。
(6) 昇温速度(秒):外径40mm、長さ330mm、肉厚1mmのアルミパイプにハロゲンランプが内填された熱定着ローラと、外径40mm、長さが330mmの加圧ローラを主要構成とする熱定着装置において、加圧ローラを評価対象の加圧ローラに取り替え、熱定着ローラに加圧ローラを合計荷重10kgfで圧接した状態で加圧ローラを回転させつつ、共に25℃の室温に調節した後、印刷紙を通さないで1000Wの電力を通電して熱定着ローラが180℃に昇温する迄の時間を測定した。
(7) 消費電力(W):昇温速度の測定と同条件で熱定着ローラの昇温開始より30〜60秒の間の平均消費電力を求めた。
(8) 耐久性:上記(6)、(7)の評価の後、熱定着ローラを180℃で温調させた状態で通紙しないで荷重をかけながら100時間連続して回転を行った後、加圧ローラの外径、長さを測定し、変形の様子を確認した。変形が認められないものを○、若干変形がみうけられるものを△、著しく変形が見受けられるものを×とした。なお、荷重は10kgfと30kgfの2種類行った。
(9) 3点曲げ強度(MPa):円筒体層と同一の原料組成で、直径22mm、長さ350mmの円筒状の試験体を用い、JIS R1608「ファインセラミックスの圧縮強さ試験方法」に準じて、測定をおこなった。
【0105】
【表1】
【0106】
表1の結果から、実施例1〜3の加圧ローラは、比較例1および2に比べて、熱伝導率が低く、適度な圧縮強度を有し、耐熱性、昇温速度、耐久性に優れたものであった。また、消費電力は同等またはそれ以下の良好な結果を得た。
【0107】
【表2】
【0108】
表2の結果から、実施例4および5の駆動ローラは、比較例3および4に比べて、熱伝導率が非常に低く、断熱性が非常に高いため、消費電力の低減や昇温速度の短縮が期待される。また、一般的に駆動ローラとしての使用に耐えうる強度は3点曲げ強度で10MPa以上であることから、実施例4および5の駆動ローラは使用に耐えうることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の第1の実施形態であるセラミックスローラの径方向の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図である。
【図3】本発明の第1の他の実施形態であるセラミックスローラの径方向の断面図である。
【図4a】本発明に係るゾノトライト結晶に2次粒子のSEM写真(a:200倍)である。
【図4b】本発明に係るゾノトライト結晶に2次粒子のSEM写真(b:1000倍)である。
【図5】本発明の第2の実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図である。
【図6】本発明の第2の他の実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態であるセラミックスローラの軸方向の断面図である。
【図8】本発明のセラミックスローラを製造する際に用いられる成形体の成形方法を示す説明図である。
【図9】本発明のセラミックスローラを製造する際に用いられる成形体の他の成形方法を示す説明図である。
【図10】本発明のセラミックスローラを製造する際に用いられる成形体片をボード状の成形体から切り出す方法を示す説明図である。
【図11】本発明のセラミックスローラを製造する際に用いられる成形体片をボード状の成形体から切り出す他の方法を示す説明図である。
【図12】本発明のセラミックスローラの製造方法の1例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0110】
10、20、30 セラミックスローラ
11、21、31、58 軸芯
12、32、59 円筒体層
13、33 表面層
14 中間層
15 ゾノトライト結晶の二次粒子
22 軸芯部
23 端部
40、46 成形用型
41 半円型
42 溝
43 接合面
44 中空部
45 円筒
51、55 成形体
52、53、56 成形体片
57 貫通孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯と、軸芯の外周に形成される円筒体層を備えるローラにおいて、円筒体層はケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミックスローラにおいて、前記円筒体層は、あらかじめ水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶を成形して乾燥した成形体からなることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセラミックスローラにおいて、前記ケイ酸カルシウムの主成分はゾノトライト結晶であることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項4】
請求項1に記載のセラミックスローラにおいて、前記円筒体層は、成形後に水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶からなる成形体から構成されることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項5】
請求項4に記載のセラミックスローラにおいて、前記ケイ酸カルシウム結晶の主成分はゾノトライト結晶またはトバモライト結晶、不定形C−S−H結晶であることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1つに記載のセラミックスローラにおいて、前記円筒体層の嵩密度は0.05〜1.5g/cm3であることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1つに記載のセラミックスローラにおいて、前記円筒体層の熱伝導率は0.01〜0.5W/(m・K)であることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1つに記載のセラミックスローラにおいて、前記円筒体層に被覆され、フッ素樹脂を含む表面層をさらに備えることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項9】
請求項8に記載のセラミックスローラにおいて、前記円筒体層と前記表面層との間に弾性体からなる中間層をさらに備えることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項10】
電子写真装置の熱定着装置に使用されることを特徴とする請求項1から9までのいずれかに1つに記載のセラミックスローラ。
【請求項11】
電子写真装置の熱定着装置に使用されるローラにおいて、軸芯がケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項12】
請求項11に記載のセラミックスローラにおいて、前記軸芯の外周にケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる円筒体層がさらに形成されることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項13】
A1)ケイ酸質原料と石灰質原料とを多量の水とともにオートクレーブ中で高温度に加熱することによりケイ酸カルシウム結晶を得る工程と、
B1)該ケイ酸カルシウム結晶を含むスラリーからケイ酸カルシウム結晶含有成形体を成形する工程と、
D1)軸芯の外周に該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を形成する工程とを備えることを特徴とするセラミックスローラの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載のセラミックスローラの製造方法において、前記ケイ酸カルシウム結晶は、ゾノトライト結晶であり、該ゾノトライト結晶の一次粒子は針状結晶を形成し、該一次粒子は直径10〜150μmの球状の二次粒子を形成することを特徴とするセラミックスローラの製造方法。
【請求項15】
A2)ケイ酸質原料と石灰質原料とを多量の水とともにオートクレーブ中で高温度に加熱することによりケイ酸カルシウム結晶前駆体を得る工程と、
B2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体を含むスラリーからケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体を成形する工程と、
C2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体をオートクレーブ中で高温度に加熱してケイ酸カルシウム結晶を生成させてケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得る工程と、
D2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体または該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を軸芯の外周に形成する工程とを備えることを特徴とするセラミックスローラの製造方法。
【請求項16】
A3)ケイ酸質原料と石灰質原料と成形助剤と水とを含む混錬物を得る工程と、
B3)該混錬物から未結晶含有成形体を押出成形する工程と、
C3)該未結晶含有成形体をオートクレーブ中で高温度に加熱してケイ酸カルシウム結晶を生成させてケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得る工程と、
D3)軸芯の外周に該未結晶含有成形体または該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を形成する工程とを備えることを特徴とするセラミックスローラの製造方法。
【請求項1】
軸芯と、軸芯の外周に形成される円筒体層を備えるローラにおいて、円筒体層はケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミックスローラにおいて、前記円筒体層は、あらかじめ水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶を成形して乾燥した成形体からなることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセラミックスローラにおいて、前記ケイ酸カルシウムの主成分はゾノトライト結晶であることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項4】
請求項1に記載のセラミックスローラにおいて、前記円筒体層は、成形後に水熱合成によって得られたケイ酸カルシウム結晶からなる成形体から構成されることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項5】
請求項4に記載のセラミックスローラにおいて、前記ケイ酸カルシウム結晶の主成分はゾノトライト結晶またはトバモライト結晶、不定形C−S−H結晶であることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1つに記載のセラミックスローラにおいて、前記円筒体層の嵩密度は0.05〜1.5g/cm3であることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1つに記載のセラミックスローラにおいて、前記円筒体層の熱伝導率は0.01〜0.5W/(m・K)であることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1つに記載のセラミックスローラにおいて、前記円筒体層に被覆され、フッ素樹脂を含む表面層をさらに備えることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項9】
請求項8に記載のセラミックスローラにおいて、前記円筒体層と前記表面層との間に弾性体からなる中間層をさらに備えることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項10】
電子写真装置の熱定着装置に使用されることを特徴とする請求項1から9までのいずれかに1つに記載のセラミックスローラ。
【請求項11】
電子写真装置の熱定着装置に使用されるローラにおいて、軸芯がケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項12】
請求項11に記載のセラミックスローラにおいて、前記軸芯の外周にケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスからなる円筒体層がさらに形成されることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項13】
A1)ケイ酸質原料と石灰質原料とを多量の水とともにオートクレーブ中で高温度に加熱することによりケイ酸カルシウム結晶を得る工程と、
B1)該ケイ酸カルシウム結晶を含むスラリーからケイ酸カルシウム結晶含有成形体を成形する工程と、
D1)軸芯の外周に該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を形成する工程とを備えることを特徴とするセラミックスローラの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載のセラミックスローラの製造方法において、前記ケイ酸カルシウム結晶は、ゾノトライト結晶であり、該ゾノトライト結晶の一次粒子は針状結晶を形成し、該一次粒子は直径10〜150μmの球状の二次粒子を形成することを特徴とするセラミックスローラの製造方法。
【請求項15】
A2)ケイ酸質原料と石灰質原料とを多量の水とともにオートクレーブ中で高温度に加熱することによりケイ酸カルシウム結晶前駆体を得る工程と、
B2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体を含むスラリーからケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体を成形する工程と、
C2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体をオートクレーブ中で高温度に加熱してケイ酸カルシウム結晶を生成させてケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得る工程と、
D2)該ケイ酸カルシウム結晶前駆体含有成形体または該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を軸芯の外周に形成する工程とを備えることを特徴とするセラミックスローラの製造方法。
【請求項16】
A3)ケイ酸質原料と石灰質原料と成形助剤と水とを含む混錬物を得る工程と、
B3)該混錬物から未結晶含有成形体を押出成形する工程と、
C3)該未結晶含有成形体をオートクレーブ中で高温度に加熱してケイ酸カルシウム結晶を生成させてケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得る工程と、
D3)軸芯の外周に該未結晶含有成形体または該ケイ酸カルシウム結晶含有成形体からなる円筒体層を形成する工程とを備えることを特徴とするセラミックスローラの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4a】
【図4b】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4a】
【図4b】
【公開番号】特開2006−171170(P2006−171170A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361065(P2004−361065)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】
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