説明

セラミックヒータ、及びそれを内蔵したガスセンサ素子並びにガスセンサ

【課題】耐久性及び加熱効率に優れたセラミックヒータ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】セラミック基板11とセラミック基板11の内部に埋設された発熱体12とからなるセラミックヒータ1。発熱体12は、その全周にわたって、セラミック基板11との間に隙間を形成することなくセラミック基板11と接合されている。発熱体12は、貴金属粉末に金属酸化物粉末とガラス粉末との少なくとも一方を混合して得られる導電性材料からなり、金属酸化物粉末はセラミック基板11中の主成分となる金属酸化物とともにスピネル型分子構造を形成する金属酸化物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック基板と該セラミック基板の内部に埋設された発熱体とからなるセラミックヒータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車エンジンの排気系に配されて排ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサには、ガスセンサ素子を加熱するためのセラミックヒータが配設されている。
該セラミックヒータは、セラミック基板の内部に発熱体が埋設されてなる。そして、発熱体に通電することにより発熱体に生じた熱を、セラミック基板を通じてガスセンサ素子に伝達し、ガスセンサ素子を加熱する。
【0003】
かかるセラミックヒータとして、特許文献1に開示されたものがある。このセラミックヒータにおいては、発熱体とセラミック基板との間の熱膨張差に起因する熱衝撃による破壊等の問題を解決すべく、発熱体とセラミック基板との間に空隙を設けている。
しかしながら、かかる空隙を設けると、発熱体の熱がセラミック基板に十分に放出されないために、発熱体が局部的に過熱状態となって大きな熱応力が作用して、耐久性が低下するという問題がある。また、発熱体の熱がセラミック基板に十分に伝わらず、加熱効率が低下してしまうという問題もある。
一方、発熱体とセラミック基板との間に空隙を設けなくとも、発熱体とセラミック基板との材質を調整することにより、上記の熱膨張差に起因する破壊等の問題は解決できる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−170862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来の問題に鑑みてなされたもので、耐久性及び加熱効率に優れたセラミックヒータ、及びそれを内蔵したガスセンサ素子並びにガスセンサを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、セラミック基板と該セラミック基板の内部に埋設された発熱体とからなるセラミックヒータにおいて、
上記発熱体は、その全周にわたって、上記セラミック基板との間に実質的に隙間を形成することなく上記セラミック基板と接合されていることを特徴とするセラミックヒータにある(請求項1)。
【0007】
本発明の作用効果について説明する。
上記セラミックヒータにおいては、上記発熱体が、その全周にわたって、上記セラミック基板との間に実質的に隙間を形成することなく上記セラミック基板と接合されている。そのため、上記発熱体の熱を、効率的にセラミック基板に伝達することができる。その結果、発熱体が局部的に過熱状態となることを防ぐことができ、発熱体の耐久性を向上させることができる。
また、発熱体の熱をセラミック基板を介して効率的に外部へ伝えることができるため、加熱効率に優れたセラミックヒータとすることができる。
【0008】
以上のとおり、本発明によれば、耐久性及び加熱効率に優れたセラミックヒータを提供することができる。
【0009】
第2の発明は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するとともに、請求項1〜3に記載のセラミックヒータを内蔵することを特徴とするガスセンサ素子にある(請求項4)。
本発明によれば、第1の発明にて記載したとおり耐久性及び加熱効率に優れたセラミックヒータをガスセンサ素子に内蔵することができる。したがって、耐久性及び加熱効率に優れたガスセンサ素子を得ることができる。
【0010】
第3の発明は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するとともに、請求項4に記載のガスセンサ素子を内蔵することを特徴とするガスセンサにある(請求項5)。
本発明によれば、第2の発明にて記載したように耐久性及び加熱効率に優れたガスセンサ素子を内蔵するガスセンサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
第1の発明において、上記発熱体は、例えば、白金(Pt)、タングステン(W)、ニッケルクロム(Ni、Cr)等の金属又は合金を主成分とすることができる。
また、「実質的に」とは、例えば、上記発熱体の長さ方向に直交する方向の断面における全周の長さの85%以上において、上記発熱体が上記セラミック基板と密着していることをいう。
【0012】
上記セラミックヒータとしては、例えば、アルミナを主成分とするセラミック基板と、白金を主成分とするとともにアルミナとマグネシアとを含有させた発熱体とを有するものを用いることができる。
また、上記セラミックヒータとしては、例えば、アルミナを主成分とするセラミック基板と、白金を主成分とするとともにアルミナと酸化亜鉛とを含有させた発熱体とを有するものを用いることもできる。
このように、上記セラミックヒータとしては、種々の組成からなるセラミック基板及び発熱体を有するものを用いることができる。
【0013】
そして、その中でも特に、上記セラミック基板は主成分としてアルミナ(Al23)を含有してなり、上記発熱体は主成分として白金(Pt)を含有してなるとともに少なくともアルミナとマグネシア(MgO)とを含有してなることが好ましい(請求項2)。
この場合には、発熱体とセラミック基板との境界部分において両者の結合性を化学的に向上させることができる。すなわち、境界部分において、発熱体中のマグネシアがセラミック基板中の主成分であるアルミナと化学的に結合してスピネル型分子構造を形成することにより、発熱体とセラミック基板との結合性が向上する。これにより、セラミック基板と発熱体とをより強固に結合させることができる。
さらに、発熱体にはアルミナをも含有させてあるため、発熱体の耐熱性を向上させてセラミックヒータの耐久性を向上させることができる。
【0014】
なお、請求項2において、上記発熱体には、上記アルミナ及びマグネシアのほか、ガラス成分を含有させることもできる。
そしてこのように、上記発熱体がガラス粉末を含有してなる場合には、発熱体とセラミック基板との境界部分において両者の結合性を物理的に向上させることができる。すなわち、焼結時において、ガラス粉末が溶融することにより、発熱体の白金が溶融ガラス中に流動して周囲のセラミック基板のアルミナと接合しやすくなり、発熱体とセラミック基板との結合性が向上する。
また、上記発熱体が、白金にアルミナ及びマグネシアのほかガラス成分との双方を混合した導電性材料からなる場合には、上記作用の相乗効果によって、発熱体とセラミック基板との結合性を向上させることができる。
【0015】
さらに、上記発熱体は、上記白金の周りがアルミナ粉末及びマグネシア粉末と上記ガラス粉末との少なくとも一方によって覆われた構造を有するものとすることもできる。
この場合には、上記発熱体における貴金属粉末の凝集、粒成長を抑制することができる。その結果、発熱体とセラミック基板との間の隙間の形成を抑制することができる。
【0016】
また、上記発熱体は、該発熱体全体に占めるアルミナの含有量が5〜18質量%であり、かつ、上記発熱体全体に占めるマグネシアの含有量が0.4〜3.4質量%であることが好ましい(請求項3)。
この場合には、セラミックヒータの耐久性及び加熱効率を一層向上させることができる。特にアルミナ及びマグネシアの含有量が上記の範囲内であれば、セラミックヒータの耐久性を一層向上させることができるとともに、発熱体中の異常発熱を抑制することができる。
【0017】
一方、アルミナの含有量が5質量%未満である場合には、十分な量のアルミナが含有されているとは言いがたいため、セラミックヒータの耐久性を十分に向上させることが困難となるおそれがある。
また、アルミナの含有量が18質量%を超える場合には、金属抵抗率が上昇するため、セラミックヒータの加熱効率を向上させることが困難となるおそれがある。
なお、上記発熱体は、該発熱体全体に占めるアルミナの含有量が12.5質量%以下であることがより好ましい。この場合には、発熱体中のアルミナの含有量が低減されるため、セラミックヒータの抵抗値を低減することができる。
【0018】
一方、マグネシアの含有量が0.4質量%未満である場合には、十分な量のマグネシアが含有されているとは言いがたいため、セラミック基板と発熱体とを十分に結合することが困難となるおそれがある。
また、マグネシアの含有量が3.4質量%を超える場合には、マグネシウムは高温中ではマイグレーションを生じるため、発熱体中におけるマグネシア密度に粗密が発生してしまうおそれがある。そして、マグネシア密度が粗の部分においては、異常発熱が発生して発熱体の抵抗が上昇し、さらには発熱体が断線してしまうおそれがある。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
本発明の実施例に係るセラミックヒータ及びその製造方法について、図1〜図7とともに説明する。
本例のセラミックヒータ1は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子2を内蔵するガスセンサ4の一部として組み込まれている。
【0020】
かかるガスセンサ4は、図7に示すように、上記ガスセンサ素子2を内側に挿通保持する絶縁碍子41と、該絶縁碍子41を挿通保持するハウジング42と、該ハウジング42の先端側に配置されガスセンサ素子2の先端側を保護する素子カバー45と、該ハウジング42の基端側に配置される大気側カバー43と、該大気側カバー43の基端部を塞ぐブッシュ44とを有する。
【0021】
上記セラミックヒータ1をその一部として有するガスセンサ素子2は、図1に示すように、イオン伝導性を有する固体電解質体21と該固体電解質体21の一方の面に配設した被測定ガス側電極221と他方の面に配設した基準ガス側電極222とを有する。そして、基準ガス側電極222を形成した側の固体電解質体21の面には、基準ガス側電極222が対面する基準ガス室23を形成するためのスペーサ層231が積層され、該スペーサ層231を介してセラミックヒータ1が積層されている。
一方、固体電解質体21における被測定ガス側電極221を設けた側の面には、被測定ガス側電極221を覆うように形成される多孔質セラミックからなる拡散抵抗層24が積層されている。
【0022】
セラミックヒータ1は、図1に示すように、セラミック基板11と該セラミック基板11の内部に埋設された発熱体12とからなる。図2に示すように、発熱体12は、その全周にわたって、セラミック基板11との間に実質的に隙間を形成することなくセラミック基板11と接合されている。
【0023】
また、図5に示すように、セラミック基板11と発熱体12との境界部分13には、発熱体12を構成する少なくとも1成分と、セラミック基板11を構成する少なくとも1成分とからなる結晶体が存在している。
セラミック基板11は、図4に示すように、アルミナ(Al23)33を主成分とし、マグネシア(MgO)32を含有してなる。
【0024】
また、発熱体12は、白金(Pt)31を主成分とするとともに、アルミナ33及びマグネシア32を含有してなる。そして、上記境界部分13付近においては、セラミック基板11の主成分であるアルミナ33と、発熱体12を構成する1成分であるマグネシア32とからなる結晶体35が存在する。この結晶体35はスピネルであり、MgAl24である。
【0025】
ここで、発熱体12の混合比は、発熱体12全体に占めるアルミナ33の含有量は5〜18質量%である。より好ましくは、アルミナの含有量は12.5質量%以下である。さらに、発熱体12中のマグネシア32の含有量は0.4〜3.4質量%である。
なお、アルミナ33及びマグネシア32の含有量を測定する方法としては、例えば、EPMA法(電子線マイクロアナリシス法)やEDX法(エネルギー分散型蛍光X線分析法)などを用いることができる。
【0026】
本例のセラミックヒータ1においては、発熱体12は、貴金属粉末(Pt粉末)に金属酸化物粉末(マグネシア粉末)を混合して得られる導電性材料からなる。
発熱体12は、貴金属粉末の周りが金属酸化物粉末によって覆われた構造を有する。すなわち、図6(a)に示すように、貴金属粉末(白金31)の周りに、複数の金属酸化物粉末(マグネシア32及び/又はアルミナ33)が囲む構造、あるいは図6(b)に示すように、貴金属粉末(白金31)の外表面を、金属酸化物粉末(マグネシア32及び/又はアルミナ33)によってコーティングした構造とすることができる。
【0027】
上記発熱体12を形成するための導電ペーストを調製するに当たっては、樹脂を溶剤に溶かしてなるバインダ溶液と、貴金属粉末(白金)と、セラミック基板11中の主成分の金属酸化物粉末(アルミナ)と焼結し得る焼結助剤とを、所定の割合で混合して攪拌する。そして、この焼結助剤は、上記セラミック基板11中の金属酸化物(アルミナ)とともにスピネル型分子構造を形成する金属酸化物からなる。すなわち、本例においては、上記焼結助剤は、アルミナとスピネル型分子構造のMgAl24を形成するマグネシアからなる。
【0028】
また、上記導電ペースト中の白金31のタップ密度は例えば6.3g/cm3以上とすることが好ましい。この場合には、発熱体12中における単位体積当たりの空隙率を小さくすることができ、発熱体12中のマグネシア32がセラミック基板11中のアルミナ33と焼結結合する体積を増大させることができる。これにより、セラミック基板11と発熱体12との接触率を十分に向上させることができる。
また、発熱体12中の主成分となる貴金属としては、上記白金31のほか、例えば、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)を用いることができる。
【0029】
なお、導電ペーストをセラミック基板11に形成するに当たっては、例えば、スクリーン印刷法、スパッタ法、インクジェット法、AD(エアロゾル・デフュージョン)法を用いることができる。
【0030】
以下に、本例の作用効果について説明する。
上記セラミックヒータ1においては、発熱体12が、その全周にわたって、セラミック基板11との間に隙間を形成することなくセラミック基板11と接合されている。そのため、発熱体12の熱を、効率的にセラミック基板11に伝達することができる。その結果、発熱体12が局部的に過熱状態となることを防ぐことができ、発熱体12の耐久性を向上させることができる。
また、発熱体12の熱をセラミック基板11を介して効率的に外部へ伝えることができるため、加熱効率に優れたセラミックヒータ1とすることができる。
【0031】
すなわち、仮に、図3(a)、(b)に示すように、発熱体12とセラミック基板11との間に隙間19が形成されると、発熱体12の熱が周囲のセラミック基板11に十分に伝達されず、発熱体12に熱がこもってしまう。その結果、発熱体12の熱応力が大きくなり、耐久性が低下してしまう。また、セラミックヒータ1の熱を外部に十分に伝えることができず、加熱効率が低下する。なお、図3(a)は、発熱体12の全周において隙間19が形成された例であり、図3(b)は、発熱体12の周囲の一部において隙間19が形成された例である。
これに対し、図2に示すように、発熱体12とセラミック基板11とを、その間に実質的に隙間を形成することなく接合することにより、発熱体12の耐久性を向上させることができるとともに、加熱効率をも向上させることができる。
【0032】
また、上記セラミックヒータ1においては、発熱体12が、貴金属粉末(白金)に金属酸化物粉末(マグネシア)を混合して得られる導電性材料からなる。そのため、発熱体12を構成する貴金属(白金)が、発熱時において凝集し粒成長することを抑制することができる。その結果、貴金属(白金)の凝集、粒成長に伴うセラミック基板11との間の隙間の形成を防ぐことができる。
【0033】
また、発熱体12が、貴金属粉末(白金)に金属酸化物粉末(マグネシア)を混合した導電性材料からなるため、発熱体12とセラミック基板11との境界部分13において両者の結合性を化学的に向上させることができる。すなわち、境界部分13において、発熱体12中のマグネシアがセラミック基板11中のアルミナと化学的に結合して、発熱体12とセラミック基板13との結合性が向上する。
【0034】
セラミック基板11と発熱体12との境界部分13には、図5に示すように、発熱体12を構成するマグネシア32と、セラミック基板11を構成するアルミナ33とからなる結晶体35(MgAl24)が存在している。そのため、上記結晶体35によって、セラミック基板11と発熱体12とを結合させることができる。これにより、発熱体12とセラミック基板11との間に隙間が形成されることを効果的に抑制して、両者を結合させることができる。
また、上記結晶体35はスピネルであるため、より強固に、発熱体12とセラミック基板11とを結合させることができる。
【0035】
また、発熱体12は、図6に示すように、貴金属粉末(白金31)の周りが金属酸化物粉末(マグネシア32及び/又はアルミナ33)によって覆われた構造を有する。そのため、発熱体12における貴金属粉末(白金)の凝集、粒成長を抑制することができる。その結果、発熱体12とセラミック基板11との間の隙間の形成を抑制することができる。
【0036】
また、発熱体12を形成するための導電ペーストを調製するに当たっては、バインダ溶液と貴金属粉末と焼結助剤とを所定の割合で混合して攪拌する。このときの焼結助剤は、セラミック基板11中の金属酸化物であるアルミナとともにスピネル型分子構造を形成する金属酸化物であるマグネシアからなる。このため、上記導電ペーストをセラミック基板11に配置して焼結させたとき、セラミック基板11と発熱体12との境界部分13にスピネルが形成される。これにより、セラミック基板11と発熱体12とが強固に結合して、両者の間に隙間が形成されることを抑制することができる。
【0037】
また、発熱体12は、発熱体12全体に占めるアルミナ33の含有量が5〜18質量%であり、かつ、発熱体12全体に占めるマグネシア32の含有量が0.4〜3.4質量%であるため、セラミックヒータ1の耐久性及び加熱効率を一層向上させることができる。特にアルミナ33及びマグネシア32の含有量が上記の範囲内であれば、セラミックヒータ1の耐久性を一層向上させることができるとともに、発熱体12中の異常発熱を抑制することができる。
【0038】
また、本例のガスセンサ素子2は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するとともに、上記のセラミックヒータ1を内蔵するため、耐久性及び加熱効率に優れたセラミックヒータ1をガスセンサ素子2に内蔵することができる。したがって、耐久性及び加熱効率に優れたガスセンサ素子2を得ることができる。
【0039】
また、本例のガスセンサ4は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するとともに、上記のガスセンサ素子2を内蔵するため、耐久性及び加熱効率に優れたガスセンサ素子2を内蔵するガスセンサ4を得ることができる。
【0040】
以上のとおり、本例によれば、耐久性及び加熱効率に優れたセラミックヒータ及びその製造方法を提供することができる。
【0041】
なお、発熱体12としては、上記構成に限られず、白金31を主成分として、例えば6.7質量%のアルミナ33と、例えば1.7質量%の酸化亜鉛とを含有させてなるものを用いることもできる。この場合でも、耐熱性及び加熱効率に優れたセラミックヒータ1を得ることができる。
【0042】
(実施例2)
本例は、貴金属粉末にガラス粉末を混合して得られる導電性材料によって発熱体12を形成したセラミックヒータ1の例である。
具体的には、上記導電性材料は、白金31からなる貴金属粉末と、シリカ(SiO2)からなるガラス粉末と、アルミナ粉末とを混合してなる。ここで、混合比は、例えば、白金を100重量%としたとき、シリカが0.05〜3.0重量%、アルミナ33が6.0〜13.0重量%である。
【0043】
そして、発熱体12は、図8に示すように、貴金属粉末(白金31)の周りがガラス粉末(シリカ)によって覆われた構造を有する。すなわち、図8(a)に示すように、貴金属粉末(白金31)の周りに、複数のガラス粉末(シリカ34)が囲む構造、あるいは図8(b)に示すように、貴金属粉末(白金31)の外表面を、ガラス粉末(シリカ34)によってコーティングした構造とすることができる。
【0044】
上記発熱体12を形成するための導電ペーストを調製するに当たっては、バインダ溶液と、貴金属粉末(Pt)と、ガラス粉末(シリカ)と、アルミナとを、所定の割合で混合して攪拌する。
その他は、実施例1と同様である。
【0045】
次に、本例の作用効果について説明する。
上記セラミックヒータ1においては、発熱体12が、貴金属粉末にガラス粉末を混合して得られる導電性材料からなる。そのため、発熱体12を構成する貴金属が、発熱時において凝集し粒成長することを抑制することができる。その結果、貴金属の凝集、粒成長に伴うセラミック基板11との間の隙間の形成を防ぐことができる。
【0046】
特に、発熱体12は、貴金属粉末(白金31)の周りがガラス粉末(シリカ34)によって覆われた構造を有する(図8参照)。そのため、発熱体12における貴金属粉末の凝集、粒成長を抑制することができる。その結果、発熱体12とセラミック基板11との間の隙間の形成を抑制することができる。
【0047】
また、本例の場合には、発熱体12とセラミック基板11との境界部分13において両者の結合性を物理的に向上させることができる。すなわち、焼結時において、ガラス粉末が溶融することにより、貴金属粉末(Pt)が溶融ガラス中に流動して周囲のセラミック基板11のセラミック粒子(アルミナ)と接合しやすくなり、発熱体12とセラミック基板11との結合性が向上する。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0048】
なお、発熱体12が、貴金属粉末(Pt)に金属酸化物(マグネシア)とガラス成分(シリカ)との双方を混合した導電性材料からなる場合には、実施例1と実施例2とにそれぞれ示した作用の相乗効果によって、発熱体12とセラミック基板11との結合性をより向上させることができる。
【0049】
(実施例3)
本例は、図9に示すように、本発明のセラミックヒータの耐久性を確認した例である。
まず、本発明品として、実施例1に示したセラミックヒータを2個作製した。すなわち、白金にアルミナとマグネシアとを添加した導電性材料によって発熱体を構成したセラミックヒータを、試料1、試料2として作製した。これらの試料1、2における発熱体の組成は、いずれも、白金を100重量%とした場合、アルミナ8.0重量%、マグネシア1.0重量%である。
【0050】
また、実施例2に示したセラミックヒータについても2個作製した。すなわち、白金にアルミナとガラス粉末(シリカ)とを添加した導電性材料によって発熱体を構成したセラミックヒータを、試料3、試料4として作製した。これらの試料3、4における発熱体の組成は、いずれも、白金を100重量%とした場合、アルミナ8.0重量%、シリカ0.15重量%である。
さらに、比較として、白金にアルミナを添加してなる導電性材料によって発熱体を構成したセラミックヒータを、試料5として作製した。試料5における発熱体の組成は、白金を100重量%とした場合、アルミナ8.0重量%である。
【0051】
これらのセラミックヒータは、ガスセンサ素子(図1参照)の一部として作製した。
そして、これらの試料1〜5を用いて、以下の耐久試験を行った。
耐久試験は、通電1分、非通電2分というサイクルを繰り返し、発熱体の抵抗変化をモニタリングして行った。発熱体の温度は、通電時には1100℃、非通電時には室温となるようにした。
【0052】
試験結果を図9に示す。同図において、符号L1〜L5を付したものが、それぞれ、試料1〜試料5についてのデータである。
同図からわかるように、試料5については、少なくとも4415サイクルの耐久後には発熱体が断線した。これに対し、試料1〜4については、7000サイクルの耐久後においても、抵抗値がほとんど変化しなかった。
以上の結果から、本発明(試料1〜4)のセラミックヒータは耐久性に優れていることがわかる。
【0053】
また、試料1と、試料5について、発熱体及びその周辺部における断面を金属顕微鏡にて観察した。図10が本発明品である試料1の断面であり、図11が従来品である試料5の断面である。これらの図において、比較的薄い灰色部分が発熱体を示し、その上下の比較的濃い灰色部分がセラミック基板を示す。
【0054】
図10に示すように、本発明品においては、発熱体とセラミック基板との間には、実質的に空隙が形成されていない。これに対して、図11に示すように、従来品においては、発熱体とセラミック基板との間に、大きな空隙が形成されている。
また、発熱体の全周長さに対する空隙が存在している長さを空隙率として計算すると、本発明品においては空隙率が5.9%であり、従来品については空隙率が88.3%であった。
この結果から、発熱体にマグネシアを添加することにより、発熱体とセラミック基板との間に実質的に隙間が形成されることを防ぐことができることがわかる。
【0055】
(実施例4)
本例は、表1、表2に示すように、発熱体中の組成を種々変更した場合における、セラミック基板と発熱体との接触率、及びセラミックヒータの耐久性を調べた例である。
【0056】
すなわち、本発明品(表1における試料1〜30)として、発熱体全体に占めるアルミナの含有量やマグネシアの含有量を種々変更してセラミックヒータの試料を作製した。具体的には、アルミナの含有量を3.3〜18質量%と種々変更するとともに、マグネシアの含有量を0.2〜4.0質量%と種々変更して試料を作製した。
【0057】
また、比較品(表1における試料31〜36)として、従来のように白金のみによって形成した発熱体や、白金と含有量を種々変更させたアルミナとによって形成した発熱体を有するセラミックヒータの試料を作製した。
上記各試料1〜36の具体的な組成は表1及び表2に示してある。
なお、上記試料のすべてにおいて、セラミック基板の主成分としてはアルミナを含有させてある。
【0058】
そして前述したとおり、上記試料について、セラミック基板と発熱体との接触率と、セラミックヒータの耐久性とを調べた。
また、上記接触率及び上記耐久性は上記実施例3と同様の方法にて調べた。耐久性については、サイクル数が7500以上でも抵抗値がほとんど変化しなかった場合を◎、サイクル数が6000〜7500でも抵抗値がほとんど変化しなかった場合を○、サイクル数が6000未満で抵抗値が±10%以上変化した場合や発熱体が断線した場合を×として表1、表2に示した。
評価結果を表1、表2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
まず、セラミック基板と発熱体との接触率について検討する。
表1、表2からわかるように、発熱体中において白金を主成分としてアルミナ及びマグネシアを含有させた場合には、セラミック基板と発熱体との接触率は85%以上と十分に両者を接合することができる。
【0062】
一方、発熱体中にアルミナ及びマグネシアの双方を含有させず、白金のみで発熱体を形成した場合(試料36)には、セラミック基板と発熱体との接触率は8.5%と両者を十分に接触させることが困難であることがわかる。また、白金とアルミナとからなる場合(試料31〜35)については、接触率は9.8〜14.5%と十分に発熱体とセラミック基板とを接触させているとは言いがたい。
【0063】
以上からわかるように、セラミック基板と発熱体との接触の観点からは、発熱体にアルミナ及びマグネシアの双方を含有させることが好ましいことがわかる。
【0064】
次に、各試料の耐久性について検討する。
表1、表2からわかるように、白金とアルミナとマグネシアとからなる発熱体の場合(試料1〜30)には、6001サイクル(試料25)以上と、十分な耐久性を有するセラミックヒータが得られている。
試料1〜30のうち、アルミナの含有量が5〜18質量%、かつマグネシアの含有量が0.4〜3.4質量%である場合には(試料2〜4、7〜9、12〜14、17〜19、22〜24)、7500サイクル以上と、より一層耐久性に優れたセラミックヒータが得られていることがわかる。
【0065】
一方、白金のみからなる発熱体の場合(試料36)には、2103サイクルと、ほとんど耐久性を向上できていないことがわかる。
また、白金とアルミナとからなる発熱体の場合(試料31〜35)についても、最大でも5004サイクルと、十分な耐久性を得られているとは言いがたい。
【0066】
以上からわかるように、発熱体は白金を主成分としてアルミナ及びマグネシアを含有させることが好ましい。
さらに、発熱体全体に占めるアルミナの含有量は、セラミックヒータの耐久性の観点から5〜18質量%であることが好ましく、発熱体全体に占めるマグネシアの含有量は、発熱体とセラミック基板との接合性の観点から0.4〜3.4質量%であることが好ましいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1における、セラミックヒータを有するガスセンサ素子の断面図。
【図2】実施例1における、発熱体とその周辺のセラミック基板との断面説明図。
【図3】(A)発熱体の全周に隙間が形成された状態の説明図、(B)発熱体の周囲の一部に隙間が形成された状態の説明図。
【図4】実施例1における、発熱体とセラミック基板における、白金とアルミナとマグネシアの分布状態を示す模式図。
【図5】実施例1における、発熱体とセラミック基板との境界部分のアルミナとマグネシアとの結合状態を示す模式図。
【図6】実施例1における、白金粉末の周りがマグネシアによって覆われた状態を示す模式図。
【図7】実施例1における、ガスセンサ素子を内蔵するガスセンサの断面図。
【図8】実施例2における、白金粉末の周りがガラス粉末(シリカ)によって覆われた状態を示す模式図。
【図9】実施例3における、耐久試験結果を示す模式図。
【図10】実施例3における、本発明品(試料1)の断面の走査電子微鏡(SEM)写真。
【図11】実施例3における、従来品(試料5)の断面の走査電子微鏡(SEM)写真。
【符号の説明】
【0068】
1 セラミックヒータ
11 セラミック基板
12 発熱体
13 境界部分
2 ガスセンサ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基板と該セラミック基板の内部に埋設された発熱体とからなるセラミックヒータにおいて、
上記発熱体は、その全周にわたって、上記セラミック基板との間に実質的に隙間を形成することなく上記セラミック基板と接合されていることを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項2】
請求項1において、上記セラミック基板は主成分としてアルミナを含有してなり、上記発熱体は主成分として白金を含有してなるとともに少なくともアルミナとマグネシアとを含有してなることを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記発熱体は、該発熱体全体に占めるアルミナの含有量が5〜18質量%であり、かつ、上記発熱体全体に占めるマグネシアの含有量が0.4〜3.4質量%であることを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項4】
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するとともに、請求項1〜3に記載のセラミックヒータを内蔵することを特徴とするガスセンサ素子。
【請求項5】
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するとともに、請求項4に記載のガスセンサ素子を内蔵することを特徴とするガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−70819(P2009−70819A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215470(P2008−215470)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】