説明

セラミック組成物及びセラミック焼結体

【課題】低温焼結が可能で、強度が高く、高周波領域における誘電損失が低く、高精度な温度特性の制御が可能なセラミック組成物及びセラミック焼結体を提供する。
【解決手段】(a)固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末と、(b)チタン酸ストロンチウム粉末及び/又はチタン酸カルシウム粉末と、(c)アルカリ化合物、アルカリ土類化合物、ホウ素化合物、遷移金属化合物、リン化合物、亜鉛化合物から選ばれた、リチウム化合物及びホウ素化合物を含む2種以上の化合物の粉末を含有するセラミック組成物を成形し、焼結してセラミック焼結体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波やミリ波などの高周波領域における誘電損失が低く、高精度な温度特性の制御が可能なセラミック組成物及びセラミック焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における携帯電話をはじめとする移動体通信の発達及び普及に伴い、高周波信号を損失なく伝送することが求められており、高周波領域での誘電損失の低いセラミック電子部品が求められている。高周波信号を損失なく伝送する上で、銅や銀などの低抵抗金属を使用して導体層を形成することが要求されているが、これらの低抵抗金属を使用するには、基板材料は低温での焼結が可能であることが必要である。こうした基板材料の1つとして、ディオプサイド結晶を主結晶として含有するセラミックが注目されている。
【0003】
下記特許文献1には、ディオプサイド型結晶を析出する結晶化ガラス粉末30〜90質量%と、チタン酸カルシウム粉末及び/又はチタン酸ストロンチウム粉末を合計で1〜40質量%と、Al、TiO、ZrO、MgTiO、BaTi、LaTi、NdTi、CaNb、SrZrO、CaZrOの中から少なくとも1種の粉末を0〜60質量%とを含有する混合粉末100質量部に対して、Fe、Cr、ZnO、CuO、AgO、Co、MnO、CeO、R(Rは希土類元素)の中から少なくとも1種の粉末を0.1〜2.0質量部添加してなる誘電体磁器組成物が開示されている。
【特許文献1】特開2003−286074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ディオプサイド結晶は、高周波領域における誘電損失が低いものの、共振周波数の温度係数が大きいために、静電容量の温度係数が大きくなり、使用環境によっては、所望の誘電特性が得られず、特にアンテナやフィルタに用いる場合には設計の許容範囲を狭めてしまう問題があった。
【0005】
上記特許文献1では、ディオプサイド型結晶を析出する結晶化ガラス粉末に、チタン酸カルシウム粉末及び/又はチタン酸ストロンチウム粉末と、Al、TiO、ZrO、MgTiO、BaTi、LaTi、NdTi、CaNb、SrZrO、CaZrOの中から選ばれる少なくとも1種の粉末と、Fe、Cr、ZnO、CuO、AgO、Co、MnO、CeO、R(Rは希土類元素)の中から選ばれる少なくとも1種の粉末とを添加することで、共振周波数の温度特性を改善できると共に、所望の誘電率の調整と高強度化を達成できる旨が記載されている。
【0006】
しかしながら、結晶化ガラスは、ガラス原料を融点以上に加熱し、溶解させて調製するので、熱エネルギーを要する。また、結晶化ガラスはブロック状の塊状物として生成されるので粉末化するに際し手間を要する。このため、製造コスト上不利であった。
【0007】
また、結晶化ガラスは、低温焼結を可能にするためには、助剤成分を比較的多量に使用する必要がある。このため、ディオプサイド結晶の特性が損なわれ、特に高周波領域における誘電損失が増加する傾向にあった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、低温焼結が可能で、強度が高く、高周波領域における誘電損失が低く、高精度な温度特性の制御が可能なセラミック組成物及びセラミック焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するにあたって、本発明のセラミック組成物の第一は、
(a)固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、
(b1)チタン酸ストロンチウム粉末を6.0〜19.0質量部、
(c)アルカリ化合物、アルカリ土類化合物、ホウ素化合物、遷移金属化合物、リン化合物、亜鉛化合物から選ばれた、リチウム化合物及びホウ素化合物を含む2種以上の化合物の粉末を、酸化物換算で合計して6.0〜11.0質量部、
含有することを特徴とする。
【0010】
本発明のセラミック組成物の第二は、
(a)固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、
(b2)チタン酸カルシウム粉末を13.0〜43.0質量部、
(c)アルカリ化合物、アルカリ土類化合物、ホウ素化合物、遷移金属化合物、リン化合物、亜鉛化合物から選ばれた、リチウム化合物及びホウ素化合物を含む2種以上の化合物の粉末を、酸化物換算で合計して6.0〜11.0質量部、
含有することを特徴とする。
【0011】
本発明のセラミック組成物の第三は、
(a)固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、
(b3)チタン酸ストロンチウム粉末及びチタン酸カルシウム粉末を、合計して6.5〜42.0質量部、
(c)アルカリ化合物、アルカリ土類化合物、ホウ素化合物、遷移金属化合物、リン化合物、亜鉛化合物から選ばれた、リチウム化合物及びホウ素化合物を含む2種以上の化合物の粉末を、酸化物換算で合計して6.0〜11.0質量部、
含有することを特徴とする。
【0012】
本発明のセラミック組成物は、固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末を用いたことで、ディオプサイド結晶粉末以外の助剤成分の使用量が少量であっても、低温焼結することができ、ディオプサイド結晶の特性が損なわれにくい。このため、強度が高く、高周波領域における誘電損失が低いセラミック焼結体を得ることができる。また、固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末は、それぞれの原料を融点以下の温度で合成するので、結晶化ガラスに比べて低温での合成が可能であり、更には、粉末状で合成されるので、粉末化工程が簡略で済む。このため、製造コストを抑えることができ、経済的に優れる。
また、チタン酸ストロンチウム粉末及び/又はチタン酸カルシウム粉末を、上記範囲で含有させたことで、高周波領域での誘電損失を低くしつつ、共振周波数の温度係数を制御して、ほぼゼロに近づけることができる。
そして、アルカリ化合物、アルカリ土類化合物、ホウ素化合物、遷移金属化合物、リン化合物、亜鉛化合物、銀化合物から選ばれた、リチウム化合物及びホウ素化合物を含む2種以上の化合物の粉末を上記範囲で含有させたことで、低温焼結が可能となり、特に1000℃以下での低温で焼結することができる。
【0013】
一方、本発明のセラミック焼結体は、上記セラミック組成物を成形し、焼結して得られたものである。
【0014】
本発明のセラミック焼結体は、1000℃以下で焼結可能であり、Cu、Ag等の低抵抗金属と同時焼結することができるので、これらの低抵抗金属を導体層として用いることができる。また、強度が高く、高周波領域における誘電損失が低く、更には、共振周波数の温度係数をほぼゼロに近づけることができるので、高周波部品用途として好適に使用できる。
【0015】
本発明のセラミック焼結体は、ディオプサイト結晶相中に、チタン酸ストロンチウム結晶及び/又はチタン酸カルシウム結晶が単独で存在しており、その結晶中の平均粒径が0.5〜3μmであることが好ましい。
【0016】
本発明のセラミック焼結体は、共振周波数の温度係数が−30×10−6〜30×10−6/℃であり、Q×f値が10,000GHz以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のセラミック組成物によれば、強度が高く、マイクロ波やミリ波などの高周波領域における誘電損失が低く、高精度な温度特性の制御が可能なセラミック焼結体を得ることができる。
そして、このセラミック焼結体は、低温焼結、特に1000℃以下で焼結できることから、銅、銀などの低抵抗金属と同時焼結が可能であり、高周波領域において低誘電損失で、強度が高いので、高周波部品用途として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[セラミック組成物]
本発明のセラミック組成物は、(a)固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末(以下、「a成分」とも記す)と、(b)チタン酸ストロンチウム粉末及び/又はチタン酸カルシウム粉末(以下、「b成分」とも記す)と、(c)アルカリ化合物、アルカリ土類化合物、ホウ素化合物、遷移金属化合物、リン化合物、亜鉛化合物から選ばれた、リチウム化合物及びホウ素化合物を含む2種以上の化合物の粉末(以下、「c成分」とも記す)と、を含有する組成物である。以下、各成分について説明する。
【0019】
(a成分)
本発明のセラミック組成物に用いられるディオプサイド結晶(CaMgSi)粉末は、焼結後にSiO、MgO、CaOとなるガラスでない酸化物、炭酸塩などの材料からなるセラミック粉末を、融点以下で焼結して得られた物である。
【0020】
上記セラミック粉末は、SiO、MgO、CaOの配合割合が、SiO 53.5〜62質量%、MgO 12〜22質量%、CaO 21〜32質量%となるように調整され、SiO 56.0〜59.5質量%、MgO 15.0〜19.0質量%、CaO 23.5〜29.5質量%となるように調整されることが好ましい。SiO、MgO、CaOを上記範囲に調整することで、ディオプサイド結晶を析出させやすくなる。
【0021】
SiOの含有量が62質量%を超えると、ウォラストナイト(Wollastonite)結晶が生成しやすくなり、誘電損失が大きくなって、強度も低下することがある。また、SiOの含有量が53.5質量%未満であると、オーケルマナイト(Akermanite)結晶が生成し易くなり、誘電損失が大きくなることがある。
【0022】
MgOの含有量が22質量%を超えると、フォルステライト(Forsterite)結晶が生成し易くなり、強度が低下し易くなる。また、MgOの含有量が12質量%未満であると、ウォラストナイト結晶が生成し易くなり、誘電損失が大きくなり易い。
【0023】
CaOの含有量が32質量%を超えると、ウォラストナイト結晶や、オーケルマナイト結晶が生成し易くなり、誘電損失が大きくなり、強度が低下し易くなる。また、CaOの含有量が21質量%未満であると、フォルステライト結晶が生成し易くなり、強度が低下し易い。
【0024】
本発明において、ディオプサイド結晶粉末の平均粒径は、0.8〜2μmが好ましい。平均粒径が0.8μm未満であると、被表面積(BET値)が大きくなり、粉の充填性が悪くなるためシート密度が小さくなり、収縮量が大きくなるため、電極との同時焼成において電極界面剥離を起こしやすくなる。また、平均粒径が2μmを超えると、粒子サイズがグリーンシートシートの厚みに対して大きくなり、グリーンシート厚みを薄くし難くなる。
【0025】
(b成分)
本発明のセラミック組成物は、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)粉末及び/又はチタン酸カルシウム(CaTiO)粉末を含有する。
【0026】
ディオプサイド結晶は、単独では共振周波数の温度係数が負の特性(およそ−65×10−6/℃)を示す。一方、チタン酸ストロンチウム結晶は、共振周波数の温度係数が1670×10−6/℃であり、チタン酸カルシウム結晶は、共振周波数の温度係数が840×10−6/℃であり、それぞれ単独では共振周波数の温度係数が正の特性を示す。このため、チタン酸ストロンチウム粉末やチタン酸カルシウム粉末を含有することで、共振周波数の温度係数を調整することができる。
【0027】
そして、チタン酸ストロンチウムは、ディオプサイド結晶との焼結により、焼結後の結晶相として、チタン酸ストロンチウム単独、もしくはチタン酸ストロンチウムにカルシウムが固溶した、(xCa、1−xSr)TiO型ペロブスカイト化合物が生成される。このペロブスカイト化合物は、共振周波数の温度係数が正の値を示すので、チタン酸ストロンチウムは、少量の添加量で共振周波数の温度係数を上昇させることができる。
【0028】
これに対し、チタン酸カルシウムは、ディオプサイド結晶との焼結により、チタン酸カルシウムが、ディオプサイド結晶中のSiOと反応して、チタナイト(もしくはスフェーン、CaTiSiO)が生成され易い。チタナイトは、共振周波数の温度係数が、−756×10−6/℃と負に大きな特性を持つことから、チタナイトが生成されると共振周波数の温度係数を補償する際の阻害要因となり、チタナイトの共振周波数の温度係数を相殺する分量をさらに添加する必要が生じる。
【0029】
ここで、異種材料が複合したような組成物の共振周波数は、経験的に次の式(1)が成り立つことが知られている。
{複合体の共振周波数の温度係数(τf)=Σ(各成分の体積分率(vol%)×各成分の共振周波数の温度係数(τf))} ・・・(1)
【0030】
また、異種材料が複合した組成物の誘電率についても、経験的に次の式(2)が成り立つことが知られている。
{log(複合体の誘電率(εr))=Σ(各成分の体積分率(vol%)×log(各成分の誘電率(εr))} ・・・(2)
【0031】
そして、チタン酸ストロンチウムの共振周波数の温度係数(τf)及び誘電率(εr)は、τf=1670×10−6、εr=255であり、チタン酸カルシウムの共振周波数の温度係数(τf)及び誘電率(εr)は、τf=840×10−6/℃、εr=177である。
【0032】
つまり、誘電率を極力上げずに共振周波数の温度係数を上げたい場合は、チタン酸ストロンチウムを用いることが好ましい。また、誘電率も共振周波数の温度係数も両方を上げたい場合は、チタン酸カルシウムを用いることが好ましい。また、誘電率と共振周波数の温度係数とを用途に応じて任意で調整する場合は、チタン酸ストロンチウムとチタン酸カルシウムとを併用することが好ましい。
【0033】
したがって、本発明のセラミック組成物の第一の態様は、上記a成分100質量部に対し、チタン酸ストロンチウム粉末を0.1〜28.0質量部含有し、好ましくは6.0〜19.0質量部含有する。チタン酸ストロンチウム粉末の含有量が上記範囲内であれば、高周波領域における誘電損失が低く、かつ、共振周波数の温度係数を制御して、−65×10−6/℃〜65×10−6/℃の範囲にすることができる。そして、この態様においては、チタン酸ストロンチウム粉末の含有量が6.0〜19.0質量部であれば、高周波領域での誘電損失を低くしつつ、共振周波数の温度係数を−30×10−6/℃〜30×10−6/℃の範囲にすることができる。
【0034】
また、本発明のセラミック組成物の第二の態様は、上記a成分100質量部に対し、チタン酸カルシウム粉末を0.1〜70.0質量部含有し、好ましくは13.0〜43.0質量部含有する。チタン酸カルシウム粉末の含有量が上記範囲内であれば、高周波領域における誘電損失が低く、かつ、共振周波数の温度係数を制御して、−65×10−6/℃〜65×10−6/℃の範囲にすることができる。そして、この態様においては、チタン酸カルシウムの含有量が13.0〜43.0質量部であれば、高周波領域での誘電損失を低くしつつ、共振周波数の温度係数を−30×10−6/℃〜30×10−6/℃の範囲にすることができる。
【0035】
また、本発明のセラミック組成物の第三の態様は、上記a成分100質量部に対し、チタン酸ストロンチウム粉末とチタン酸カルシウム粉末とを合計で0.1〜70.0質量部含有し、好ましくは6.5〜42.0質量部含有し、より好ましくは6.0〜27.0質量部含有する。チタン酸ストロンチウム粉末とチタン酸カルシウム粉末との合計含有量が上記範囲内であれば、高周波領域における誘電損失が低く、かつ、共振周波数の温度係数を制御して、−65×10−6/℃〜65×10−6/℃の範囲にすることができる。そして、この態様においては、チタン酸ストロンチウム粉末とチタン酸カルシウム粉末との合計含有量が6.5〜42.0質量部、より好ましくは6.0〜27.0質量部であれば、高周波領域での誘電損失を低くしつつ、共振周波数の温度係数を−30×10−6/℃〜30×10−6/℃の範囲にすることができる。
【0036】
また、本発明のセラミック組成物の第三において、チタン酸ストロンチウム粉末とチタン酸カルシウム粉末の両方を含有させることで、共振周波数の温度係数を0に近づけつつ、誘電率をある程度任意で変える事が可能となる。
【0037】
本発明のセラミック組成物において、チタン酸ストロンチウム粉末とチタン酸カルシウム粉末は、得られるセラミック焼結体の焼結性、高強度化、共振周波数の温度係数を制御するという観点から、平均粒径が0.5〜2μmの粉状物として用いることが好ましく、特に、ディオプサイド結晶粉末に対して分散性を向上させるという理由から、0.8〜1.5μmの粉状物として用いることがより好ましい。
【0038】
(c成分)
本発明のセラミックス組成物は、アルカリ化合物、アルカリ土類化合物、ホウ素化合物、遷移金属化合物、リン化合物、亜鉛化合物から選ばれた、リチウム化合物及びホウ素化合物を含む2種以上の化合物の粉末を、上記a成分100質量部に対し、酸化物換算で6.0〜11.0質量部含有し、6.5〜10.0質量部含有することがより好ましい。
【0039】
上記化合物を含有することで、焼結中に液相を形成し、セラミック組成物の焼結温度を低下させることができる。そして、これら化合物を上記範囲含有させることで、機械的強度や外部電極を形成する際のメッキ液に対する耐久性を損なうことなく、焼結温度を低下させて、1000℃以下で焼結させることができる。
【0040】
上記アルカリ化合物としては、リチウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物、などが挙げられる。
【0041】
アルカリ化合物のなかでリチウム化合物は、必須成分である。そして、上記a成分100質量部に対し、酸化物換算で0.3〜0.9質量部含有することが好ましい。リチウム化合物の含有量が上記範囲内であれば、焼結時に液相を形成し、焼結温度を低下させやすくなる。リチウム化合物の含有量が0.3質量部未満であると、添加効果が乏しく1000℃以下で焼結できない場合がある。また、0.9質量部を超えると、焼結時に融着が起こり、焼結体の形状が安定しにくくなると共に、絶縁性が損なわれやすくなる。
【0042】
ナトリウム化合物、カリウム化合物は、任意成分である。リチウム化合物と併用することで、焼結性を大きく損なわずに、耐水・耐酸性を向上する事が可能となる。これらは、上記a成分100質量部に対し、酸化物換算の合計で2.0質量部まで含有する事ができる。
【0043】
上記アルカリ土類化合物は任意成分である。アルカリ土類金属を含有させることで、焼結時に液相を形成し、焼結温度を低下させることができる。アルカリ土類化合物としては、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、バリウム化合物などが挙げられる。これらは、上記a成分100質量部に対し、酸化物換算で5.0質量部まで含有する事ができる。
【0044】
上記ホウ素化合物は、必須成分であり、上記a成分100質量部に対し、酸化物換算1.6〜3.2質量部含有することが好ましく、1.7〜2.8質量部含有することがより好ましい。ホウ素化合物の含有量が上記範囲内であれば、焼結時に液相を形成し、焼結温度を低下させることができ、更には耐薬品性が向上する。ホウ素化合物の含有量が1.7質量部未満であると、添加効果が乏しく1000℃以下で焼結できない場合がある。また、2.8質量部を超えると、セラミックスの焼結性が悪くなることがある。
【0045】
上記遷移金属化合物は任意成分である。そして、遷移金属化合物としては、銀化合物、銅化合物などが挙げられる。これらは、上記a成分100質量部に対し、酸化物換算で0.5〜0.9質量部含有することが好ましく、0.6〜0.8質量部含有することがより好ましい。遷移金属化合物を使用する場合は、導体層として使用する金属と同一のものを使用することが好ましい。この態様によれば、焼結時に同時焼結した導体金属が、セラミック組成物の液相に溶出するのを防止できる。
【0046】
上記リン化合物は任意成分である。リン化合物を含有させることで、焼結時に液相を形成し、焼結温度を低下させることができる。リン化合物は、上記a成分100質量部に対し、酸化物換算で2.0質量部まで含有する事ができる。
【0047】
上記亜鉛化合物は任意成分である。亜鉛化合物を含有することで、焼結時に液相を形成し、焼結温度を低下させることができ、更には耐水性を向上させることができる。亜鉛化合物は、上記a成分100質量部に対して、酸化物換算で3.2〜5.1質量部含有することが好ましく、3.4〜4.8質量部含有することがより好ましい。
【0048】
[セラミック焼結体]
本発明のセラミック焼結体は、上記のような組成となるように配合されたセラミック組成物を、ZrOボールなどを用いて、水などの湿式下で混合し、必要に応じて結合剤、可塑剤、溶剤等を添加し、所定形状に成形して、焼結することによって得られる。
【0049】
上記結合剤としては、例えばポリビニルブチラール樹脂、メタアクリル酸樹脂等が用いられ、可塑剤としては、例えばフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等が用いられ、溶剤としては、例えばトルエン、メチルエチルケトン等を使用することができる。
【0050】
成形は、各種の公知の成形方法、例えばプレス法、ドクターブレード法、射出成形法、テープ成形等により任意の形状に成形する。これらの方法の中で、ドクターブレード法、及びテープ成形が積層体形成のために特に好ましい。
【0051】
焼結は、大気中または酸素雰囲気中または窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気において、850〜1000℃で0.5〜3時間焼成することが好ましい。
【0052】
このようにして得られた本発明のセラミック焼結体は、ディオプサイト結晶相中に、チタン酸ストロンチウム結晶及び/又はチタン酸カルシウム結晶が単独で存在しており、その結晶中の平均粒径が0.5〜3μmである。なお、これらの結晶の確認は、顕微鏡観察で確認できる。
【0053】
また、本発明のセラミック焼結体は、共振周波数の温度係数が、−65×10−6〜65×10−6/℃の範囲にあり、より好ましくは−30×10−6〜30×10−6/℃の範囲にある。また、Q×f値は、10,000GHz以上であり、誘電率が8〜20である。そして、機械強度に優れ、更には耐水性、耐薬品性に優れるので、メッキプロセスによる基材侵食がきわめて少ない。
【0054】
本発明のセラミック焼結体は、共振周波数の温度係数を−30×10−6/℃〜30×10−6/℃、Q×f値を10,000以上にできるので、例えばフィルタ、アンテナの高周波部品に好適に使用することができる。
【0055】
以下、本発明のセラミック焼結体を、積層フィルタ1の誘電体層2として使用する場合の製造例について説明する。
【0056】
まず、内部導体用ペーストおよび外部導体用ペーストをそれぞれ作製する。これらのペーストは、導電粒子と、導電粒子に対し、1〜5重量%程度のガラスフリットと、ビヒクルとを含有するものを用いることが好ましい。
【0057】
次いで、誘電体層材料となるグリーンシートを作製する。この場合、本発明のセラミック組成物のスラリーを用い、例えばドクターブレード法により所定枚数作製する。前記スラリーは、焼成前にビヒクルを加えて用いることが好ましい。ビヒクルとしては、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂、ブチルメタアクリレート等のバインダ、テルピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、アセテート、トルエン、アルコール、キシレン等の溶剤、その他各種分散剤、活性剤、可塑剤等が挙げられ、これらのうち任意のものが目的に応じて適宜選択される。
【0058】
次いで、グリーンシート上に、パンチングマシーンや金型プレスを用いてスルーホール5を形成し、その後、内部導体用ペーストを各グリーンシート上に、例えばスクリーン印刷法により印刷し、所定のパターンの内部導体7、ストリップ線路3、グランドプレーン4を形成するとともにスルーホール5内に充填する。そして、各グリーンシートを重ね合せ、熱プレスを加えてグリーンシートの積層体とし、必要に応じて脱バインダ処理、切断用溝の形成等を行なう。そして、グリーンシートの積層体を通常空気中で、1000℃程度以下、特に800〜1000℃程度の温度で2時間程度焼成、一体化することで、誘電体層22、23間にストリップ線路3が形成されたフィルタが得られる。そして、このフィルタに、外部導体用ペーストをスクリーン印刷法等により印刷し、焼成して外部導体6を形成する。好ましくは、これら外部導体6を誘電体層21、22、23と一体同時焼成して形成する。
【0059】
このようにして、本発明のセラミック焼結体を誘電体層として使用するフィルタを製造することができる。
【実施例】
【0060】
SiO、CaO及びMgO粉末を表1に割合で秤量し、15時間湿式混合後、120℃で乾燥し、乾燥した粉体を大気中1200℃で2時間仮焼した。この仮焼物(a成分)を粉砕して平均粒径1.1μmに調整した。そして、この仮焼物に、表1に示す酸化物の割合となるように副成分(b成分、c成分)を秤量し添加し、水を媒体としてZrOボールを用いたボールミルにて15時間湿式混合し、混合粉末の平均粒径を1.5μm以下に調整した。さらに、これを100℃以上にて乾燥し、60meshにて分級した。そして、この混合粉末に、PVA系バインダを適量添加し、60meshにて分級した後、円形金型を用いて、一軸加圧プレス機にて20Mpaの圧力でφ12.5mm、高さ8mmの円柱成型体を作製し、大気中500℃で脱灰処理を施した。さらに、これを、表1中の最高温度にて2時間焼結し、φ10mm、高さ6mmの円柱焼結体試料を得た。
【0061】
【表1】

この円柱焼結体試料を用いて、誘電特性、結晶相を評価した。結果を表2にまとめて記す。また、図2に、試料5のセラミック焼結体のX線回折結果を、図3に、試料5のセラミック焼結体のFE−SEMによる断面写真を示す。
・結晶相:焼結体の断面研磨面を作製し、FE−SEMにより結晶形態の観察を行った。また、焼結体をアルミナ乳鉢で粉砕し、その後さらにメノウ乳鉢で整えた粉末状試料をサンプルホルダーに充填し、Cu−Kα線を用いたX線回折ディフラクトメーター法にて結晶相の同定を行った。
・誘電特性:各試料の上下面平行を研削した後、#2000番以上の番手の研摩紙を用いて研摩したものを用いて、誘電体円柱共振器法にて周波数9〜15GHzにおける誘電率εrを測定した。また共振周波数の温度係数τfを、−25〜85℃の範囲で測定した。
【0062】
【表2】

【0063】
表2中の無印の試料は本発明における比較例となる組成の試料であり、*印の試料は効果が認められた組成の試料であり、**印は、特に高い効果が認められた組成の試料である。
また、表2中Diはディオプサイド結晶を意味し、Foはフォルステライト結晶を意味し、Akはオーケルマナイト結晶を意味し、Woはウォラストナイト結晶を意味し、STはチタン酸ストロンチウム結晶を意味し、CTはチタン酸カルシウム結晶を意味し、CSTは(xCa、1−xSr)TiO型ペロブスカイト化合物の結晶を意味し、Tiはチタナイト(もしくはスフェーン)結晶を意味する。
【0064】
上記結果より、a成分、b成分、c成分を本発明で規定する範囲で含有する、試料3〜7、11〜16、19〜38のセラミック焼結体は、Q×f値が高く、共振周波数の温度係数が−30×10−6/℃〜30×10−6/℃の範囲にあった。このうち、試料28、31のセラミック焼結体は、チタン酸ストロンチウム又は/及びチタン酸カルシウムの配合量が多く、Q×f値が10000未満であった。また、試料32、33、35、38のセラミック焼結体は、主成分であるディオプサイド結晶の組成比がディオプサイドの化学量論比(Ca:Mg:Si=1:1:2)から大きくずれたために、ディオプサイドより誘電損失の大きな2次相が析出しており、Q×f値が10000未満であった。
【0065】
また、図2に示すように、試料5のセラミック焼結体は、チタン酸ストロンチウムおよびカルシウム固溶チタン酸ストロンチウムを示す明瞭なX線回折ピークが存在しており、また、図3の顕微鏡写真からも明らかなように、ディオプサイド結晶中にチタン酸ストロンチウム結晶(もしくはそのカルシウム固溶体)が単独で存在していた。なお、チタン酸カルシウムを用いた試料も同様の結果が確認できた。
【0066】
そして、b成分として、チタン酸ストロンチウムをa成分100質量部に対し6.0〜19.0質量部含むセラミック組成物を焼結して得られた試料3〜7のセラミック焼結体、チタン酸カルシウムをa成分100質量部に対し13.0〜43.0質量部含むセラミック組成物を焼結して得られた試料11〜16のセラミック焼結体、チタン酸ストロンチウム及びチタン酸カルシウムをa成分100質量部に対し合計で6.0〜27.0質量部含むセラミック組成物を焼結して得られた試料19〜27、29、30、34、36、37のセラミック焼結体は、共振周波数の温度係数が−30×10−6/℃〜30×10−6/℃の範囲にあり、かつ、Q×f値が10,000以上であった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明のセラミック焼結体を用いたセラミック電子部品の一実施形態を示す断面図である。
【図2】試料5のセラミック焼結体のX線回折結果である。
【図3】試料5のセラミック焼結体の拡大断面写真である。
【符号の説明】
【0068】
1:フィルタ
2,21,22,23:誘電体層
3:ストリップ線路
4:グランドプレーン
5:スルーホール
6:外部電極
7:内部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、
(b1)チタン酸ストロンチウム粉末を6.0〜19.0質量部、
(c)アルカリ化合物、アルカリ土類化合物、ホウ素化合物、遷移金属化合物、リン化合物、亜鉛化合物から選ばれた、リチウム化合物及びホウ素化合物を含む2種以上の化合物の粉末を、酸化物換算で合計して6.0〜11.0質量部、
含有することを特徴とするセラミック組成物。
【請求項2】
(a)固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、
(b2)チタン酸カルシウム粉末を13.0〜43.0質量部、
(c)アルカリ化合物、アルカリ土類化合物、ホウ素化合物、遷移金属化合物、リン化合物、亜鉛化合物から選ばれた、リチウム化合物及びホウ素化合物を含む2種以上の化合物の粉末を、酸化物換算で合計して6.0〜11.0質量部、
含有することを特徴とするセラミック組成物。
【請求項3】
(a)固相反応法により合成されたディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、
(b3)チタン酸ストロンチウム粉末及びチタン酸カルシウム粉末を、合計して6.5〜42.0質量部、
(c)アルカリ化合物、アルカリ土類化合物、ホウ素化合物、遷移金属化合物、リン化合物、亜鉛化合物から選ばれた、リチウム化合物及びホウ素化合物を含む2種以上の化合物の粉末を、酸化物換算で合計して6.0〜11.0質量部、
含有することを特徴とするセラミック組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のセラミック組成物を成形し、焼結して得られたセラミック焼結体。
【請求項5】
ディオプサイト結晶相中に、チタン酸ストロンチウム結晶及び/又はチタン酸カルシウム結晶が単独で存在しており、その結晶中の平均粒径が0.5〜3μmである、請求項4に記載のセラミック焼結体。
【請求項6】
共振周波数の温度係数が−30×10−6〜30×10−6/℃であり、Q×f値が10,000GHz以上である、請求項4又は5に記載のセラミック焼結体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−37126(P2010−37126A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200739(P2008−200739)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】