説明

セルロース誘導体、樹脂組成物、成形材料、成形体、成形体の製造方法、及び電気電子機器用筐体

【課題】良好な熱可塑性、強度を有し、成形加工に適したセルロース誘導体を提供すること。
【解決手段】セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ
を有し、A)で置換された基に含まれる−C2n−O−基の総モル置換度が0.5以上3.0以下であり、
かつ数平均分子量が15万以上であるセルロース誘導体。
A)下記一般式(1)で表される構造を含む基
B)アシル基:−CO−RB(RBは炭素数1〜3の炭化水素基を表す。)


(一般式(1)中、nは2又は3を表し、Rは炭素数1〜3の炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なセルロース誘導体、樹脂組成物、成形材料、成形体、成形体の製造方法、及び電気電子機器用筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機、プリンター等の電気電子機器を構成する部材には、その部材に求められる特性、機能等を考慮して、各種の素材が使用されている。例えば、電気電子機器の駆動機等を収納し、当該駆動機を保護する役割を果たす部材(筐体)にはPC(Polycarbonate)、ABS(Acrylonitrile−butadiene−styrene)樹脂、PC/ABS等が一般的に多量に使用されている(特許文献1)。これらの樹脂は、石油を原料として得られる化合物を反応させて製造されている。
【0003】
ところで、石油、石炭、天然ガス等の化石資源は、長年月の間、地中に固定されてきた炭素を主成分とするものである。このような化石資源、又は化石資源を原料とする製品を燃焼させて、二酸化炭素が大気中に放出された場合には、本来、大気中に存在せずに地中深くに固定されていた炭素を二酸化炭素として急激に放出することになり、大気中の二酸化炭素が大きく増加し、これが地球温暖化の原因となっている。したがって、化石資源である石油を原料とするABS、PC等のポリマーは、電気電子機器用部材の素材としては、優れた特性を有するものであるものの、化石資源である石油を原料とするものであるため、地球温暖化の防止の観点からは、その使用量の低減が望ましい。
【0004】
一方、植物由来の樹脂は、元々、植物が大気中の二酸化炭素と水とを原料として光合成反応によって生成したものである。そのため、植物由来の樹脂を焼却して二酸化炭素が発生しても、その二酸化炭素は元々、大気中にあった二酸化炭素に相当するものであるから、大気中の二酸化炭素の収支はプラスマイナスゼロとなり、結局、大気中のCOの総量を増加させない、という考え方がある。このような考えから、植物由来の樹脂は、いわゆる「カーボンニュートラル」な材料と称されている。石油由来の樹脂に代わって、カーボンニュートラルな材料を用いることは、近年の地球温暖化を防止する上で急務となっている。
【0005】
このため、PCポリマーにおいて、石油由来の原料の一部としてデンプン等の植物由来資源を使用することにより石油由来資源を低減する方法が提案されている(特許文献2)。
しかし、より完全なカーボンニュートラルな材料を目指す観点から、さらなる改良が求められている。
【0006】
様々な分野において、セルロース誘導体として種々のものが提案されている。
例えば、特許文献3には、特定構造のセルロースエーテルエステルが記載され、該セルロースエーテルエステルを溶剤に溶解させ、塗布することにより光学フィルムを作成することが記載されている。
特許文献4には、ヒドロキシエチルセルロースと特定のポリオキシアルキレン化剤から、炭素数の多いアシル基を有するセルロース誘導体を得ることが記載されている。
特許文献5には、ヒドロキシプロピルセルロースからなるセルロースステアレートエステル、及びセルロースパルミテートエステルが記載されている。
特許文献6には、液晶ポリマーとして、ヒドロキシエチルセルロースと酪酸から得られたセルロース誘導体、及びヒドロキシプロピルセルロースとヨードブタンから得られたセルロース誘導体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−55425号公報
【特許文献2】特開2008−24919号公報
【特許文献3】特開2007−99876号公報
【特許文献4】特許第3973904号公報
【特許文献5】特開平5−255401号公報
【特許文献6】特開2002−275379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、カーボンニュートラルな樹脂として、セルロースを使用することに着目した。しかし、セルロースは一般的に熱可塑性を持たないため、加熱等により成形することが困難であるため、成形加工に適さない。また、たとえ熱可塑性を付与できたとしても、耐衝撃性等の強度が大きく衰える問題がある。
例えば、前記特許文献3に記載のセルロース誘導体は、重合度が低く、分子量が小さいため該セルロース誘導体を用いて作製された成形体は耐衝撃性に劣ると考えられる。
前記特許文献4及び5に記載のセルロース誘導体は、アシル基の炭素数が多いため、室温でゴム状態であり、成形加工に適さないと考えられる。
また、前記特許文献6に記載のセルロース誘導体は液晶性を示すものであるが、このような液晶性樹脂は、Grayらの論文(Macromolecules 1981,14,715−719.)に記載されているように、一般に、−C2n−O−基の総モル置換度MSが4よりも大きいと考えられる。本発明者らの検討により、−C2n−O−基の総モル置換度MSが4よりも大きいセルロース誘導体は、室温でゴム状態であり、成形加工に適さないことが明らかとなった。
【0009】
本発明の目的は、良好な熱可塑性、強度を有し、成形加工に適したセルロース誘導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、セルロースの分子構造に着目し、当該セルロースを特定構造のセルロース誘導体にすることにより、良好な熱可塑性を発現し、該セルロース誘導体から作製される成形体が優れた耐衝撃性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題は以下の手段により達成することができる。
【0011】
〔1〕
セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ
を有し、A)で置換された基に含まれる−C2n−O−基の総モル置換度が0.5以上3.0以下であり、
かつ数平均分子量が15万以上であるセルロース誘導体。
A)下記一般式(1)で表される構造を含む基
B)アシル基:−CO−RB(RBは炭素数1〜3の炭化水素基を表す。)
【0012】
【化1】

【0013】
(一般式(1)中、nは2又は3を表し、Rは炭素数1〜3の炭化水素基を表す。)
【0014】
〔2〕
前記R及びRが、それぞれ独立に、メチル基、又はエチル基である、上記〔1〕に記載のセルロース誘導体。
〔3〕
前記R及びRがメチル基である、上記〔1〕に記載のセルロース誘導体。
〔4〕
前記一般式(1)で表される構造を含む基に含まれる−C2n−O−基の総モル置換度が0.5以上2.5以下である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載のセルロース誘導体。
〔5〕
前記一般式(1)で表される構造を含む基に含まれる−C2n−O−基の総モル置換度が1.0以上2.0以下である、上記〔4〕に記載のセルロース誘導体。
〔6〕
前記数平均分子量が20万以上50万以下である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載のセルロース誘導体。
〔7〕
前記セルロース誘導体が、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロースをアシル化することにより得られる、上記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載のセルロース誘導体。
〔8〕
前記セルロース誘導体が、アルコキシ基を実質的に含まない、上記〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載のセルロース誘導体。
〔9〕
前記セルロース誘導体が非液晶性である、上記〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載のセルロース誘導体。
〔10〕
上記〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載のセルロース誘導体を含有する樹脂組成物。
〔11〕
上記〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載のセルロース誘導体、又は上記〔10〕に記載の樹脂組成物を含有する成形材料。
〔12〕
上記〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載のセルロース誘導体、上記〔10〕に記載の樹脂組成物、又は上記〔11〕に記載の成形材料を成形して得られる成形体。
〔13〕
上記〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載のセルロース誘導体、上記〔10〕に記載の樹脂組成物、又は上記〔11〕に記載の成形材料を加熱し、成形する工程を備えた、成形体の製造方法。
〔14〕
上記〔12〕に記載の成形体から構成される電気電子機器用筐体。
【発明の効果】
【0015】
本発明のセルロース誘導体は、優れた熱可塑性を有するため、成形体とすることができる。特に本発明のセルロース誘導体は、高分子量体であっても低温で成形することができる。
また、本発明のセルロース誘導体から作製される成形体は、良好な耐衝撃性を有しており、自動車、家電、電気電子機器等の構成部品、機械部品、住宅・建築用材料等として好適に使用することができる。また、植物由来の樹脂であるため、温暖化防止に貢献できる素材として、従来の石油由来の樹脂に代替できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.セルロース誘導体
本発明のセルロース誘導体は、
セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ
を有し、A)で置換された基に含まれる−C2n−O−基の総モル置換度が0.5以上3.0以下であり、
かつ数平均分子量が15万以上であるセルロース誘導体である。
A)下記一般式(1)で表される構造を含む基
B)アシル基:−CO−RB(RBは炭素数1〜3の炭化水素基を表す。)
【0017】
【化2】

【0018】
(一般式(1)中、nは2又は3を表し、Rは炭素数1〜3の炭化水素基を表す。)
【0019】
すなわち、本発明におけるセルロース誘導体は、セルロース{(C10}に含まれる水酸基の水素原子の少なくとも一部が、前記A)一般式(1)で表される構造を含む基により置換され、別の水酸基の水素原子の少なくとも一部が、前記B)アシル基(−CO−R)により置換されている。
より詳細には、本発明におけるセルロース誘導体は、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有する。
【0020】
【化3】

【0021】
(一般式(2)において、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、A)一般式(1)で表される構造を含む基、又はB)アシル基(−CO−R)を表す。但し、R、R、及びRの少なくとも一部がA)一般式(1)で表される構造を含む基を表し、R、R、及びRの少なくとも一部がB)アシル基(−CO−R)を表す。)
【0022】
本発明のセルロース誘導体は、上記のようにβ−グルコース環の水酸基の少なくとも一部がA)一般式(1)で表される構造を含む基、及びB)アシル基(−CO−R)によって置換されていることにより、セルロースに成形性を付与することができる。
更には、セルロースは完全な植物由来成分であるため、カーボンニュートラルであり、環境に対する負荷を大幅に低減することができる。
【0023】
なお、本発明にいう「セルロース」とは、多数のグルコースがβ−1,4−グリコシド結合によって結合した高分子化合物であって、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基が無置換であるものを意味する。また、「セルロースに含まれる水酸基」とは、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基を指す。
【0024】
前記セルロース誘導体は、その全体のいずれかの部分に前記A)一般式(1)で表される構造を含む基、及びB)アシル基(−CO−R)を含んでいればよく、同一の繰り返し単位からなるものであってもよいし、複数の種類の繰り返し単位からなるものであってもよい。また、前記セルロース誘導体は、ひとつの繰り返し単位において前記A)一般式(1)で表される構造を含む基、及びB)アシル基(−CO−R)の置換基を含有する必要はない。
より具体的な態様としては、例えば以下の態様が挙げられる。
(1)R、R及びRの一部が、A)一般式(1)で表される構造を含む基で置換されている繰り返し単位と、R、R及びRの一部が、B)アシル基(−CO−R)で置換されている繰り返し単位、から構成されるセルロース誘導体。
(2)ひとつの繰り返し単位において、R、R及びRのいずれかがA)一般式(1)で表される構造を含む基で置換され、R、R及びRのいずれかがB)アシル基(−CO−R)で置換されている(すなわち、ひとつの繰り返し単位中に前記A)及びB)の置換基を有する)同種の繰り返し単位から構成されるセルロース誘導体。
(3)置換位置や置換基の種類が異なる繰り返し単位が、ランダムに結合しているセルロース誘導体。
また、セルロース誘導体の一部には、無置換の繰り返し単位(すなわち、前記一般式(2)において、R、R及びRすべてが水素原子である繰り返し単位)を含んでいてもよい。
【0025】
A)一般式(1)で表される構造を含む基について説明する。A)一般式(1)は、アシル基とアルキレンオキシ基を含む基である。
【0026】
【化4】

【0027】
(一般式(1)中、nは2又は3を表し、Rは炭素数1〜3の炭化水素基を表す。)
【0028】
一般式(1)において、Rは炭素数1〜3の炭化水素基を表す。Rは、直鎖、又は分岐脂肪族基のいずれでもよく、不飽和結合を持っていてもよい。
としては、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、が挙げられる。Rはより好ましくはメチル基又はエチル基であり、更に好ましくはメチル基である。
【0029】
前記A)一般式(1)で表される構造を含む基は、アルキレンオキシ基を複数含んでいてもよいし、1つだけ含むものであってもよい。より具体的には前記A)の基は、下記一般式(1’)で表すことができる。
【0030】
【化5】

【0031】
(一般式(1’)中、nは2又は3を表し、Rは炭素数1〜3の炭化水素基を表す。n’は1以上の整数を表す。)
【0032】
一般式(1’)において、Rの具体例及び好ましい範囲は前記一般式(1)におけるRと同様である。
n’の上限は特に限定されず、アルキレンオキシ基の導入量等により変わるが、例えば10程度であり、9が好ましく、7がより好ましい。
本発明のセルロース誘導体が有するA)一般式(1)で表される構造を含む基は1種でも2種以上でもよい。例えば、アルキレンオキシ基を1つだけ含む前記A)の基(上記式一般式(1’)においてn’が1である基)と、アルキレンオキシ基を2以上含む前記A)の基(上記式一般式(1’)においてn’が2以上である基)とが混合して含まれていてもよい。
nは2であることが好ましい。
【0033】
B)アシル基(−CO−R)について説明する。
B)アシル基(−CO−R)において、Rは炭素数1〜3の炭化水素基を表す。Rとしては、前記一般式(1)におけるRで挙げたものと同様のものを適用することができる。Rの好ましい範囲も前記Rと同様である。
本発明のセルロース誘導体が有するB)アシル基は1種でも2種以上でもよい。
【0034】
セルロース誘導体中のA)一般式(1)で表される構造を含む基、及びB)アシル基(−CO−R)の置換位置、並びにβ−グルコース環単位当たりの各置換基の数(置換度)は特に限定されない。
【0035】
例えば、A)一般式(1)で表される構造を含む基の置換度DSa(繰り返し単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対するA)一般式(1)で表される構造を含む基の数)は、0<DSaであり、0.1<DSaであることがより好ましい。0.1<DSaであることにより溶融開始温度を低くできるので、熱成形をより容易に行うことができる。
【0036】
B)アシル基(−CO−R)の置換度DSb(繰り返し単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対するB)アシル基の数)は、0.1<DSbであることが好ましく、0.1<DSb<2.0であることがより好ましい。
また、A)一般式(1)で表される構造を含む基の置換度DSaとB)アシル基の置換度DSbの和DSa+DSbは、1.5<DSa+DSb≦3.0であり、2.0<DSa+DSb≦3.0であることが好ましく、2.5<DSa+DSb≦3.0であることがより好ましい。2.5<DSa+DSb≦3.0であることにより溶融開始温度を低くでき、成形片の吸湿性を低下させることができる。
【0037】
また、セルロース誘導体中に無置換の水酸基を有してもよい。水素原子の置換度DSh(重合単位中、2位、3位及び6位の水酸基が無置換である割合)は好ましくは0〜1.5の範囲とすることができ、より好ましくは0〜0.6とすることができる。DShを0.6以下とすることにより、熱成形材料の流動性を向上させたり、熱分解の加速・成形時の熱成形材料の吸水による発泡等を抑制することができる。
【0038】
また、セルロース誘導体は、アルコキシ基を実質的に含まないことが好ましい。セルロース誘導体がアルコキシ基を実質的に含まないことにより、本発明のセルロース誘導体の疎水性を更に向上させることができる。これは、例えばアルコキシ基を含んだ場合には、アルコキシ基を有するセルロースエーテルが一般的に高い吸湿性を示すためである。またアルコキシ基が疎水基であるアシル基を容易に導入できる水酸基を有していない。これらのことから、本発明の成形材料用途として用いるには、疎水性に乏しいために不適である。
なお、「アルコキシ基を実質的に含まない」とは、本発明におけるセルロース誘導体が全くアルコキシ基を含まない場合のみならず、本発明におけるセルロース誘導体が微量のアルコキシ基を有する場合を包含するものとする。例えば、原料であるセルロースにアルコキシ基が含まれる場合があり、これを用いて前記A)及びB)の置換基を導入したセルロース誘導体はアルコキシ基が含まれる場合があるが、これは「アルコキシ基を実質的に含まない」に含まれるものとする。
この場合、アルコキシ基の好ましい含有量としては、アルコキシ基の置換度で0.1以下、より好ましくは0.05以下である。なお、アルコキシ基の置換度は、H−NMRにより定量することができる。
【0039】
また、前記A)一般式(1)で表される構造を含む基における−C2n−O−基(アルキレンオキシ基ともいう)の導入量はモル置換度(MS:グルコース残基あたりの置換基の導入モル数)で表される(セルロース学会編集、セルロース辞典P142)。アルキレンオキシ基の総モル置換度MSは、0.5≦MS≦3.0であり、0.5≦MS≦2.5であることが好ましく、1.0≦MS≦2.0であることがより好ましい。MSが0.5以上3.0以下であることにより、耐熱性及び成形性等を向上させることができ、熱成形材料に好適なセルロース誘導体が得られる。
また、本発明のセルロース誘導体が非液晶性であることが好ましい。
【0040】
セルロース誘導体が有する置換基の種類、置換度、及びMS(アルキレンオキシ基のモル置換度)は、Cellulose Communication 6,73−79(1999)に記載の方法を利用して、H−NMRにより決定することができる。
【0041】
本発明におけるセルロース誘導体の分子量は、数平均分子量(Mn)が15万以上であり、15万〜100万の範囲が好ましく、20万〜50万の範囲がより好ましく、30万〜50万が更に好ましい。また、質量平均分子量(Mw)は、50万〜1000万の範囲が好ましく、150万〜600万の範囲が更に好ましい。この範囲の平均分子量とすることにより、成形体の成形性、力学強度等を向上させることができる。
【0042】
分子量分布(MWD)は1.1〜15.0の範囲が好ましく、2.0〜12.5の範囲が更に好ましい。この範囲の分子量分布とすることにより、成形性等を向上させることができる。
本発明における、数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)及び分子量分布(MWD)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行うことができる。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めることができる。
【0043】
本発明におけるセルロース誘導体の重合度は、500〜2000の範囲が好ましく、750〜1500の範囲がより好ましく、1000〜1400であることが更に好ましい。なお、数平均分子量6万では重合度240、数平均分子量12万では重合度310、数平均分子量45万では重合度1300程度である。この範囲の重合度とすることにより、成形体の成形性、力学強度等を向上させることができる。
【0044】
2.セルロース誘導体の製造方法
本発明におけるセルロース誘導体の製造方法は特に限定されず、セルロースを原料とし、セルロースに対しエーテル化及びエステル化することにより本発明のセルロース誘導体を製造することができる。セルロースの原料としては限定的でなく、例えば、綿、リンター、パルプ等が挙げられる。
好ましい製造方法の態様は、例えば、ヒドロキシエチル基:−C−OHを有するヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピル基:−C−OHを有するヒドロキシプロピルセルロースに、酸クロライド又は酸無水物等を反応させることにより、エステル化(アシル化)する工程を含む方法によって行うものである。
酸クロライドを反応させる方法としては、例えばCellulose 10;283−296,2003に記載の方法を用いることができる。
このエステル化はヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基の水酸基、及びセルロースの水酸基に対して起こることから、複数のエステル化剤(酸無水物、酸クロライド)を用いて反応を行った際は、複数種のエステル化されたヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、及びアシル基が得られる。
【0045】
ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシルプロピルセルロースとしてはセルロースから常用の方法で合成することもできるし、市販されているものを用いても良い。
例えば、特開2008−534735号公報に記載を参照して、セルロースからヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースを合成することができる。
また、市販品には複数の置換度タイプがあり、各置換度タイプに対して、20℃における2%水溶液の粘度値で表示される粘度グレードがあり、約1〜200,000の粘度値である。一般的に高粘度グレードは低粘度のグレードに対して、分子量(Mn、Mw)が大きい。使用する粘度グレードを変えることにより、生成するセルロース誘導体の分子量を調整しても良い。高分子量体を得るために好ましい原料の粘度は、5000〜200,000の粘度値である。市販のヒドロキシエチルセルロースとしては、例えば、商品名AX−15(住友精化製)、商品名EP850(ダイセル化学工業製)などがある。市販のヒドロキシプロピルセルロースとしては、例えば、商品名LDC―H(信越化学工業製)、Aldrich製のものなどがある。
【0046】
酸クロリドとしては、前記A)に含まれるアシル基及びB)アシル基に対応したカルボン酸クロライドを使用することができる。カルボン酸クロリドとしては、例えば、アセチルクロライド、プロピオニルクロライド、ブチリルクロリド、イソブチリルクロリド等が挙げられる。
【0047】
酸無水物としては、例えば前記A)に含まれるアシル基及びB)アシル基に対応したカルボン酸無水物を使用することができる。このようなカルボン酸無水物としては、例えば、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、酪酸無水物等が挙げられる。
【0048】
触媒として、酸を用いても良い。好ましい酸としては、例えば硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、過塩素酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸等がある。更に好ましくは硫酸とメタンスルホン酸である。また、重硫酸塩も用いても良く、例えば、重硫酸リチウム、重硫酸ナトリウム、重硫酸カリウムが挙げられる。また、固体酸触媒も用いても良く、例えばイオン交換樹脂等の高分子固体酸触媒、ゼオライトに代表される無機酸化物固体酸触媒、特開2009−67730号公報で用いられるようなカーボン形の固体酸触媒が挙げられる。また、ルイス酸触媒も用いても良く、米国特許2,976,277号明細書で用いられるようなチタン酸エステル触媒、塩化亜鉛などが挙げられる。
【0049】
触媒としては、塩基を用いても良い。例えば、ピリジン類、酢酸ナトリウムなどの酢酸のアルカリ金属塩、ジメチルアミノピリジン、アニリン類が挙げられる。
【0050】
触媒を用いなくてもエステル化反応が進行する反応系もある。例えば、溶媒としてN,N―ジメチルアセトアミド、アセチル化剤としてアセチルクロライド或いはプロピオニルクロライドを使用する反応系が挙げられる。
【0051】
溶剤としては、一般的な有機溶剤を使用することができる。中でも、カルボン酸やカルボキサミド系の溶剤が好ましい。カルボン酸としては、例えば前記A)に含まれるアシル基及びB)に含まれるアシル基に対応したカルボン酸を用いることができる。カルボン酸を用いる場合には、酢酸エチルやアセトニトリルを併用しても良い。カルボキサミド系の溶剤としては、特表10−5117129号や米国特許第2705710号明細書で用いられるようなものがあり、例えばN,N−ジメチルアセトアミドが挙げられる。また、特開2003−41052号公報で用いられるような塩化リチウムを含むジメチルスルホキサイドを用いても良い。また、ハロゲン化溶剤を使用しても良く、好ましくはジクロロメタンである。また塩基として用いることが可能なピリジンを溶剤として用いても良い。また特開平9−157301号公報で用いられるように、エステル化剤として用いる酸クロリドを溶剤として用いても良い。
【0052】
原料として用いるセルロース等は、綿花リンタ及び木材パルプ等のバイオマス資源から作られる。セルロース等以外の原料についてもバイオマス資源から作られたものを用いても良い。例えば、セルロース系バイオマス又はデンプン系バイオマスから生成されたエタノールから発酵法により生成された酢酸や無水酢酸を挙げることができる。
【0053】
前処理として、特許2754066号公報にあるように、カルボン酸又は少量の酸触媒を含んだ酢酸を、原料のセルロース誘導体に添加して、混合しても良い。
【0054】
原料のセルロース等を使用前に乾燥して、含有水分を低減しても良い。含有水分は、無水酢酸と反応する副反応の原因となるため、含有水分を減らすことで、使用する無水酢酸量の低減が可能である。
【0055】
特許第2754066号公報にあるように、触媒を分割して添加する、或いは添加速度をかえること、又はそれらを組み合わせることで、エステル化反応の速度を制御しても良い。エステル化反応は激しい発熱反応であり、かつ反応液が高粘となるため、除熱が困難となる場合には、有効である。
【0056】
特開昭60−139701号公報にあるように、エステル化反応の全期間或いは初期を含む一部の期間、反応系内を減圧にし、発生する蒸気を凝縮させ、反応系害に流出させることにより反応生成物の濃縮を行っても良い。この方法では、エステル化反応によって発生する反応熱を揮発性溶媒の蒸発潜熱で奪うことにより除熱をすることができる。
【0057】
特表2000−511588号公報にあるように多段階でエステル化反応を行っても良い。例えば、第1段階として、塩基触媒の存在下でセルロースを第1アセチル化剤と反応させた後で、第2段階として、酸触媒の存在下で第2アセチル化剤と反応するなどである。
【0058】
エステル化反応の温度は、高ければエステル化反応速度が早まり、反応時間短縮が可能となるが、解重合反応による分子量低下が起き易くなる。温度が低ければエステル化反応が遅くなる。目的のセルロース誘導体の構造、目標の分子量(Mn、Mw)により、反応温度及び時間の調整することが好ましい。
【0059】
エステル化反応を行う際に、国際公開第01/070820号にあるように、超音波を照射して反応しても良い。
【0060】
エステル化反応では、反応の進行に伴って、反応器内の混合物は固液状態から次第にドープ状を呈するようになり、反応系内のドープ粘度が非常に高くなる。特公平2−5761号公報に記載されているように、反応系の気相成分を反応系外に留去しつつ、減圧条件でエステル化反応する方法では、更にドープ粘度が高くなる。これらのようにドープ粘度が非常に高くなる場合には、エステル化反応器として二軸のニーダーを用いるのが望ましい。ただし、溶媒のカルボン酸を増量する、或いは他の有機溶媒を併用することにより、反応液の濃度を下げることにより、ドープ粘度を下げることで、汎用のグラスラインニング製反応釜 等を使用することもできる
【0061】
エステル化工程が終了した後、塩基(通常は水溶液の形態)、又は水(アルコールでも良い)を加えて、未反応の無水酢酸を分解して反応を停止する。塩基を加える場合には、酸触媒が中和され、水を加える場合には酸触媒は中和されない。一般的には中和した方が良いが、中和しなくても良い。中和した方が良い場合は、例えばセルロース誘導体に結合した結合硫酸の影響により、合成したポリマーの熱安定性が低下する場合である。また、結合硫酸量を低減させるための方法として、特開2006−89574号公報にあるように、塩基を連続的に添加するなどの方法により、一度に中和せずに、結合硫酸が分解しやすい液性を保ちつつ、段階的に中和する方法をとることができる。中和剤として用いられるものとしては、塩基であれば特に限定されないが、好ましくはアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられ、具体的には酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどである。
【0062】
目的のセルロース誘導体の分離方法としては、特に限定されず、例えば沈殿、濾過、洗浄、乾燥、抽出、濃縮、カラムクロマトグラフィーなどの方法を単独で、又は2以上を適宜組み合わせて使用できるが、操作性、精製効率等の観点で、沈殿(再沈殿)操作により該セルロース誘導体を分離する方法が好ましい。沈殿操作は、該セルロース誘導体を含む反応液を該セルロース誘導体の貧溶媒中に投入する、又は該セルロース誘導体を含む溶液に貧溶媒を投入するなど、該セルロース誘導体を含む溶液を該貧溶媒と混合することにより行われる。
【0063】
目的のセルロース誘導体の貧溶媒としては、該セルロース誘導体の溶解度の低い溶媒であれば良く、例えば、希酢酸、水、アルコール類などが挙げられる。好ましくは、希酢酸或いは水である。
【0064】
得られた沈殿の固液分離方法としては、特に限定されず、濾過、沈降などの方法が使用できる。好ましくは濾過であり、減圧、加圧、重力、圧搾、遠心などを用いる各種脱水機を使用することができる。例えば、真空脱水機、加圧脱水機、ベルトプレス、遠心濾過脱水機、振動スクリーン、ローラープレス、ベルトスクリーンなどが挙げられる。
【0065】
分離された沈殿物は、水洗などの洗浄により酢酸、酸触媒として使用した酸、溶媒、遊離の金属成分を除去する場合が多い。特に酢酸、酸触媒として使用した酸は、成形時における樹脂の分子量低下とそれによる物理性能の低下の原因となるため、除くことが好ましい。
【0066】
洗浄の際に中和剤を加えても良い。中和剤として用いられるものとしては、塩基であれば特に限定されないが、好ましくはアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられ、具体的には酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどである。また、特公平6−67961号公報にあるように、緩衝液を洗浄に用いても良い。
【0067】
乾燥方法は特に限定されず、送風や減圧などの条件下乾燥を行う、各種乾燥機を使用することができる。
【0068】
そのほかの具体的な製造条件等は、常法に従うことができる。例えば、「セルロースの事典」131頁〜164頁(朝倉書店、2000年)等に記載の方法を参考にすることができる。
【0069】
3.樹脂組成物、成形材料、及び成形体
本発明の樹脂組成物は、上記で説明したセルロース誘導体を含有する。また、必要に応じてその他の添加剤を含有することができる。
本発明の樹脂組成物に含まれる成分の含有割合は、特に限定されない。好ましくは前記セルロース誘導体を75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは80〜100質量%含有する。
本発明の樹脂組成物は、本発明のセルロース誘導体のほか、必要に応じて、フィラー、難燃剤等の種々の添加剤を含有していてもよい。
【0070】
本発明の樹脂組成物は、フィラー(強化材)を含有してもよい。フィラーを含有することにより、形成される成形体の機械的特性を強化することができる。
【0071】
フィラーとしては、常用のものを使用できる。フィラーの形状は、繊維状、板状、粒状、粉末状等いずれでもよい。また、無機物でも有機物でもよい。
具体的には、無機フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維及び硼素繊維等の繊維状の無機フィラーや;ガラスフレーク、非膨潤性雲母、カーボンブラック、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト、白土等の板状や粒状の無機フィラーが挙げられる。
【0072】
有機フィラーとしては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、再生セルロース繊維、アセテート繊維等の合成繊維、ケナフ、ラミー、木綿、ジュート、麻、サイザル、マニラ麻、亜麻、リネン、絹、ウール等の天然繊維、微結晶セルロース、さとうきび、木材パルプ、紙屑、古紙等から得られる繊維状の有機フィラーや、有機顔料等の粒状の有機フィラーが挙げられる。
【0073】
樹脂組成物がフィラーを含有する場合、その含有量は限定的でないが、セルロース誘導体100質量部に対して、通常30質量部以下、好ましくは5〜10質量部とすればよい。
【0074】
本発明の樹脂組成物は、難燃剤を含有してもよい。これによって、その燃焼速度の低下又は抑制といった難燃効果を向上させることができる。
難燃剤は、特に限定されず、常用のものを用いることができる。例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。これらの中でも、樹脂との複合時や成形加工時に熱分解してハロゲン化水素が発生して加工機械や金型を腐食させたり、作業環境を悪化させたりすることがなく、また、焼却廃棄時にハロゲンが気散したり、分解してダイオキシン類等の有害物質の発生等によって環境に悪影響を与える可能性が少ないことから、リン含有難燃剤及びケイ素含有難燃剤が好ましい。
【0075】
リン含有難燃剤としては、特に限定されることはなく、常用のものを用いることができる。例えば、リン酸エステル、リン酸縮合エステル、ポリリン酸塩などの有機リン系化合物が挙げられる。
【0076】
リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどを挙げることができる。
【0077】
リン酸縮合エステルとしては、例えば、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェート並びにこれらの縮合物などの芳香族リン酸縮合エステル等を挙げることができる。
【0078】
また、リン酸、ポリリン酸と周期律表1族〜14族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンとの塩からなるポリリン酸塩を挙げることもできる。ポリリン酸塩の代表的な塩として、金属塩としてリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、アルミニウム塩など、脂肪族アミン塩としてメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ピペラジン塩などがあり、芳香族アミン塩としてはピリジン塩、トリアジン等が挙げられる。
【0079】
また、前記以外にも、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート)などの含ハロゲンリン酸エステル、また、リン原子と窒素原子が二重結合で結ばれた構造を有するホスファゼン化合物、リン酸エステルアミドを挙げることができる。
これらのリン含有難燃剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
ケイ素含有難燃剤としては、二次元又は三次元構造の有機ケイ素化合物、ポリジメチルシロキサン、又はポリジメチルシロキサンの側鎖又は末端のメチル基が、水素原子、置換又は非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基で置換又は修飾されたもの、いわゆるシリコーンオイル、又は変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0081】
置換又は非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、メルカプト基、クロロアルキル基、アルキル高級アルコールエステル基、アルコール基、アラルキル基、ビニル基、又はトリフロロメチル基等が挙げられる。
これらのケイ素含有難燃剤は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
また、前記リン含有難燃剤又はケイ素含有難燃剤以外の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、酸化スズ塩、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化第一錫、酸化第二スズ、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸の金属塩、タングステンとメタロイドとの複合酸化物、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、ジルコニウム系化合物、グアニジン系化合物、フッ素系化合物、黒鉛、膨潤性黒鉛等の無機系難燃剤を用いることができる。これらの他の難燃剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0083】
本発明の樹脂組成物が難燃剤を含有する場合、その含有量は限定的でないが、セルロース誘導体100質量部に対して、通常30質量部以下、好ましくは2〜10質量部とすればよい。この範囲とすることにより、耐衝撃性・脆性等を改良させたり、ペレットブロッキングの発生を抑制できる。
【0084】
本発明の樹脂組成物は、前記のセルロース誘導体、フィラー及び難燃剤以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲で、成形性、難燃性等の各種特性をより一層改善する目的で他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、前記セルロース誘導体以外のポリマー、可塑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、離型剤(脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、変成シリコーン)、帯電防止剤、難燃助剤、加工助剤、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。更に、染料や顔料を含む着色剤などを添加することもできる。
【0085】
前記セルロース誘導体以外のポリマーとしては、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーのいずれも用い得るが、成形性の点から熱可塑性ポリマーが好ましい。セルロース誘導体以外のポリマーの具体例としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー(エチレン−プロピレンブロックコポリマーなど)、ポリブテン−1及びポリ−4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート及びその他の芳香族ポリエステル等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン12等のポリアミド、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ポリアセタール(ホモポリマー及び共重合体を含む)、ポリウレタン、芳香族及び脂肪族ポリケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性澱粉樹脂、ポリメタクリル酸メチルやメタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS樹脂、AES樹脂(エチレン系ゴム強化AS樹脂)、ACS樹脂(塩素化ポリエチレン強化AS樹脂)、ASA樹脂(アクリル系ゴム強化AS樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、無水マレイン酸−スチレン共重合体、MS樹脂(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素系ポリマー、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリイミドなどを挙げることができる。
また、各種アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体及びそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、ジエン系ゴム(例えば、1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(例えば、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合させたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエン又はイソプレンとの共重合体、ブチルゴム、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、その他ポリウレタン系やポリエステル系、ポリアミド系などの熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0086】
更に、各種の架橋度を有するものや、各種のミクロ構造、例えばシス構造、トランス構造等を有するもの、ビニル基などを有するもの、あるいは各種の平均粒径を有するものや、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成されるいわゆるコアシェルゴムと呼ばれる多層構造重合体なども使用することができ、更にシリコーン化合物を含有したコアシェルゴムも使用することができる。
これらのポリマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0087】
本発明の樹脂組成物がセルロース誘導体以外のポリマーを含有する場合、その含有量は、セルロース誘導体100質量部に対して30質量部以下が好ましく、2〜10質量部がより好ましい。
【0088】
本発明の樹脂組成物は、可塑剤を含有してもよい。これにより、難燃性及び成形性をより一層向上させることができる。可塑剤としては、ポリマーの成形に常用されるものを用いることができる。例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤及びエポキシ系可塑剤等が挙げられる。
【0089】
ポリエステル系可塑剤の具体例としては、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ロジンなどの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル等が挙げられる。これらのポリエステルは単官能カルボン酸若しくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
【0090】
グリセリン系可塑剤の具体例としては、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレート及びグリセリンモノアセトモノモンタネート等が挙げられる。
【0091】
多価カルボン酸系可塑剤の具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシルなどのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチル−n−デシル、アジピン酸メチルジグリコールブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコールなどのアジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、及びセバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0092】
ポリアルキレングリコール系可塑剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロック及び/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのポリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、及び末端エーテル変性化合物等が挙げられる。
【0093】
エポキシ系可塑剤とは、一般にはエポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリドなどを指すが、その他にも、主にビスフェノールAとエピクロロヒドリンを原料とするような、いわゆるエポキシ樹脂も使用することができる。
【0094】
その他の可塑剤の具体例としては、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレートなどの脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、オレイン酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチルなどのオキシ酸エステル、ペンタエリスリトール、各種ソルビトール等が挙げられる。
【0095】
本発明の樹脂組成物が可塑剤を含有する場合、その含有量は、セルロース誘導体100質量部に対して通常5質量部以下であり、0.005〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.01〜1質量部である。
【0096】
本発明の成形材料は、前記セルロース誘導体又は前記樹脂組成物を含有する。
【0097】
本発明の成形体は、前記セルロース誘導体、前記樹脂組成物、又は前記成形材料を成形することにより得られる。
より具体的には、前記セルロース誘導体、又は、前記セルロース誘導体及び必要に応じて各種添加剤等を含む樹脂組成物を加熱し、各種の成形方法により成形する工程を含む製造方法によって得られる。
成形方法としては、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形等が挙げられる。
加熱温度は、通常160〜300℃であり、好ましくは180〜260℃である。
【0098】
本発明の成形体の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、電気電子機器(家電、OA・メディア関連機器、光学用機器及び通信機器等)の内装又は外装部品、自動車、機械部品、住宅・建築用材料等が挙げられる。これらの中でも、優れた耐熱性及び耐衝撃性を有しており、環境への負荷が小さい観点から、例えば、コピー機、プリンター、パソコン、テレビ等といった電気電子機器用の外装部品(特に筐体)として好適に使用することができる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0100】
<合成例1:アセトキシエチルアセチルセルロース(C−1)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた3Lの三ツ口フラスコにヒドロキシエチルセルロース(商品名AX−15;住友精化製)65g、N,N−ジメチルアセトアミド2000mLを量り取り、110℃で1時間攪拌した。その後、アセチルクロライド250mLを室温下でゆっくりと滴下し、系の温度を80℃に昇温した。このまま2時間攪拌した後、反応系の温度を室温まで冷却した。反応溶液を水6Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で2回洗浄を行った。得られた白色固体を80℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(C−1)(アセトキシエチルアセチルセルロース、置換度は表1に記載)を白色粉体として得た(72.1g)。
【0101】
<合成例2:アセトキシプロピルアセチルセルロース(C−2)の合成>
特開2008−534735号公報を参考に、下記の手法でまずセルロースエーテルを得た。すなわち、3Lビーカーにt−ブチルアルコール(757g)、イソプロパノール(35.7g)、アセトン(26.8g)、水(73.2g)、解砕したリンター(99.2g)を量り取り、室温で1時間攪拌した。その後、この懸濁液と50%水酸化ナトリウム水溶液(55.6g)を2Lオートクレーブに加え、室温で45分間攪拌した。その後55℃に昇温し、プロピレンオキシド(124.6g)を加えて2時間攪拌したのち、95℃で2時間攪拌した。これに続いて、この反応混合物を40℃に冷却し、60%硝酸水溶液(56.0g)を加えて中性にしたのち、ブフナーロートでろ過した。残留物をアセトンで洗浄したのち、脱水することでヒドロキシプロピルセルロースを固体として得た(143g)。
合成例1のヒドロキシエチルセルロースを上記ヒドロキシプロピルセルロースに変えた以外は、同様にして、セルロース誘導体(C−2)(アセトキシプロピルアセチルセルロース)を固体として得た(72.1g)。
【0102】
<合成例3:アセトキシエチルアセトキシプロピルアセチルセルロース(C−3)の合成>
合成例2のプロピレンオキシドをプロピレンオキシド(62.3g)、エチレンオキシド(47.4g)に変えた以外は、同様にして、ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロースを固体として得た(124g)。
合成例1のヒドロキシエチルセルロースを上記ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロースに変えた以外は、同様にして、セルロース誘導体(C−3)(アセトキシエチルアセトキシプロピルアセチルセルロース)を固体として得た(69.9g)。
【0103】
<合成例4:プロピオニルオキシエチルプロピオニルセルロース(C−4)の合成>
合成例1のアセチルクロライドをプロピオニルクロライドに変えた以外は、同様にして、目的のセルロース誘導体(C−4)(プロピオニルオキシエチルプロピオニルセルロース)を白色粉体として得た(77.3g)。
【0104】
<合成例5:ブタノイルオキシエチルブタノイルセルロース(C−5)の合成>
合成例1のアセチルクロライドをブタノイルクロライドに変えた以外は、同様にして、目的のセルロース誘導体(C−5)(ブタノイルオキシエチルブタノイルセルロース)を白色粉体として得た(80.1g)。
【0105】
<合成例6:アセトキシエチルアセチルセルロース(C−6)の合成>
合成例2のプロピレンオキシドをエチレンオキシド(42.2g)に変えた以外は、同様にして、ヒドロキシエチルセルロースを固体として得た(114g)。
合成例1のヒドロキシエチルセルロースを上記ヒドロキシエチルセルロースに変えた以外は、同様にして、目的のセルロース誘導体(C−6)(アセトキシエチルアセチルセルロース)を固体として得た(70.4g)。
【0106】
<合成例7:アセトキシエチルアセチルセルロース(C−7)の合成>
合成例1のヒドロキシエチルセルロースを商品名SP900(ダイセル製)に変えた以外は、同様にして、目的のセルロース誘導体(C−7)(アセトキシエチルアセチルセルロース)を白色粉体として得た(79.6g)。
【0107】
<合成例8:アセトキシエチルアセチルセルロース(C−8)の合成>
合成例1のヒドロキシエチルセルロースを商品名EP850(ダイセル製)に変えた以外は、同様にして、目的のセルロース誘導体(C−8)(アセトキシエチルアセチルセルロース)を白色粉体として得た(81.6g)。
【0108】
<合成例9:アセトキシエチルアセチルセルロース(C−9)の合成>
合成例2のプロピレンオキシドをエチレンオキシド(96.5g)に変えた以外は、同様にして、ヒドロキシエチルセルロースを固体として得た(129g)。
合成例1のヒドロキシエチルセルロースを上記ヒドロキシエチルセルロースに変えた以外は、同様にして、目的のセルロース誘導体(C−9)(アセトキシエチルアセチルセルロース)を固体として得た(68.4g)。
【0109】
<合成例10:アセトキシプロピルアセチルセルロース(R−1)の合成>
合成例1のヒドロキシエチルセルロースをヒドロキシプロピルセルロース(商品名LDC―H(信越化学工業製))に変えた以外は、同様にして、セルロース誘導体(R−1)(アセトキシプロピルアセチルセルロース)を白色粉体として得た(73.3g)。
【0110】
<合成例11:アセトキシエチルアセチルセルロース(R−2)の合成>
合成例2のプロピレンオキシドをエチレンオキシド(113.4g)に変えた以外は、同様にして、ヒドロキシエチルセルロースを固体として得た(143g)。
合成例1のヒドロキシエチルセルロースを上記ヒドロキシエチルセルロースに変えた以外は、同様にして、セルロース誘導体(R−2)(アセトキシエチルアセチルセルロース)を固体として得た(69.0g)。
【0111】
<合成例12:アセトキシプロピルアセチルセルロース(R−3)の合成>
合成例1のヒドロキシエチルセルロースをヒドロキシプロピルセルロース(商品番191906、Aldrich製)に変えた以外は、同様にして、セルロース誘導体(R−3)(アセトキシプロピルアセチルセルロース)を白色固体として得た(76.7g)。
【0112】
<合成例13:アセトキシエチルアセチルセルロース(R−4)の合成>
合成例1のヒドロキシエチルセルロースを商品名AL15(住友精化製)に変えた以外は、同様にして、セルロース誘導体(R−4)(アセトキシエチルアセチルセルロース)を白色固体として得た(74.2g)。
【0113】
<合成例14:ペンタノイルオキシエチルペンタノイルセルロース(R−5)の合成>
合成例1のアセチルクロライドをペンタノイルクロライドに変えた以外は、同様にして、セルロース誘導体(R−5)(ペンタノイルオキシエチルペンタノイルセルロース)を白色固体として得た(84.1g)。
【0114】
なお、以上で得られたセルロース誘導体に対して、セルロースに置換された官能基の種類、及び置換度、並びにMS(アルキレンオキシ基の総モル置換度)は、Cellulose Communication 6,73−79(1999)に記載の方法を利用して、H−NMRにより観測及び決定した。
【0115】
<セルロース誘導体の分子量測定>
得られたセルロース誘導体について、数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、を測定した。これらの測定方法は以下の通りである。
[分子量]
数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いた。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めた。GPC装置は、HLC−8220GPC(東ソー社製)を使用した。
【0116】
数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、A)アシル基とアルキレンオキシ基とを含む基の置換度とB)アシル基の置換度の和DSa+DSb、水素原子の置換度DSh、及びMSをまとめて表1に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
上記表中、セルロース誘導体(C−1)、(C−6)〜(C−9)、(R−2)、(R−4)における“A)アシル基とアルキレンオキシ基とを含む基”はいずれも下記式(1−1)で表される基を含み、セルロース誘導体(C−2)、(R−1)、(R−3)においてはいずれも下記式(1−2)で表される基を含み、セルロース誘導体(C−3)においては下記一般式(1−3)で表される基を含み、セルロース誘導体(C−4)においては下記式(1−4)で表される基を含み、セルロース誘導体(C−5)においては下記式(1−5)で表される基を含み、セルロース誘導体(R−5)においては下記式(1−6)で表される基を含む。
【0119】
【化6】

【0120】
(一般式(1−3)中、RはH又はCH基を表す。)
【0121】
<セルロース誘導体の液晶性の観察>
上記で得られたセルロース誘導体(C−1)〜(C−9)、(R−1)〜(R−5)をスライドガラスに取り、偏光顕微鏡(ニコン製ECLIPSE LV100POL)によるTexture観察により、セルロース誘導体の液晶性の確認を行った。加熱にはメトラー(メトラー・トレド製FP82HT)を用いた。結果を表2に示す。
【0122】
【表2】

【0123】
表2から、MSが5.0と大きいセルロース誘導体(R−3)は液晶性を示し、室温から100℃においてコレステリック液晶に特有の呈色効果が見られたのに対し、MSの小さいセルロース誘導体(C−1)〜(C−9)、(R−1)〜(R−2)、(R−4)、(R−5)は温度を変えても液晶性を示さないことが分かった。
【0124】
<セルロース誘導体からなる成形体の作製>
[試験片作製]
上記で得られたセルロース誘導体(C−1)〜(C−9)、(R−1)〜(R−5)、(R−6)(ダイセル製EP850:ヒドロキシエチルセルロース、MS:1.7)、(R−7)(住友精化製:ヒドロキシエチルセルロース、MS:2.2)を微量成形機((株)井元製作所製、半自動射出成形機)に供給してシリンダー温度140〜230℃、射出圧力1.5kgf/cmにて4×10×80mmの多目的試験片(衝撃試験片)の成形を試みた。
【0125】
<試験片の物性測定>
成形片が得られたものについては、下記の方法にしたがってシャルピー衝撃強度を測定した。結果を表3に示す。
[シャルピー衝撃強度]
ISO179に準拠して、射出成形にて成形した試験片に入射角45±0.5°、先端0.25±0.05mmのノッチを形成し、23℃±2℃、50%±5%RHで48時間以上静置した後、シャルピー衝撃試験機((株)東洋精機製作所製)によってエッジワイズにて衝撃強度を測定した。
【0126】
【表3】

【0127】
液晶性を有するMSが5.0であるセルロース誘導体(R−3)、ペンタノイル基を有するセルロース誘導体(R−5)は室温でほぼゴム状態であり、成形用途として適さないことが分かった。また、MSが3.2であるセルロース誘導体(R−2)は、成形できたものの、成形体のシャルピー衝撃強度が低かった。また、数平均分子量が9万2千であるセルロース誘導体(R−4)は、成形できたものの、実施例の成形体に比べてシャルピー衝撃強度が低かった。一方でMSが0.3であるセルロース誘導体(R−1)は熱可塑性が不十分であり、温度を上げても溶融せずに分解し、成形用途として適さないことが分かった。またMSがそれぞれ1.7、2.2であるヒドロキシエチルセルロース(R−6)、(R−7)は温度を上げても溶融せずに分解したのに対し、同じMSであってもヒドロキシエチルセルロースをアセチル化したセルロース誘導体(C−1)、(C−7)は、それぞれ175℃、160℃と比較的低温で成形が可能であった。また(C−1)のシャルピー衝撃強度は、MSが同じで分子量が低いセルロース誘導体(R−4)と比べて高い値を有することが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースに含まれる水酸基の水素原子が、
下記A)で置換された基を少なくとも1つ、及び
下記B)で置換された基を少なくとも1つ
を有し、A)で置換された基に含まれる−C2n−O−基の総モル置換度が0.5以上3.0以下であり、
かつ数平均分子量が15万以上であるセルロース誘導体。
A)下記一般式(1)で表される構造を含む基
B)アシル基:−CO−RB(RBは炭素数1〜3の炭化水素基を表す。)
【化1】

(一般式(1)中、nは2又は3を表し、Rは炭素数1〜3の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記R及びRが、それぞれ独立に、メチル基、又はエチル基である、請求項1に記載のセルロース誘導体。
【請求項3】
前記R及びRがメチル基である、請求項1に記載のセルロース誘導体。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される構造を含む基に含まれる−C2n−O−基の総モル置換度が0.5以上2.5以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロース誘導体。
【請求項5】
前記一般式(1)で表される構造を含む基に含まれる−C2n−O−基の総モル置換度が1.0以上2.0以下である、請求項4に記載のセルロース誘導体。
【請求項6】
前記数平均分子量が20万以上50万以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロース誘導体。
【請求項7】
前記セルロース誘導体が、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロースをアシル化することにより得られる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロース誘導体。
【請求項8】
前記セルロース誘導体が、アルコキシ基を実質的に含まない、請求項1〜7のいずれか1項に記載のセルロース誘導体。
【請求項9】
前記セルロース誘導体が非液晶性である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のセルロース誘導体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のセルロース誘導体を含有する樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のセルロース誘導体、又は請求項10に記載の樹脂組成物を含有する成形材料。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のセルロース誘導体、請求項10に記載の樹脂組成物、又は請求項11に記載の成形材料を成形して得られる成形体。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のセルロース誘導体、請求項10に記載の樹脂組成物、又は請求項11に記載の成形材料を加熱し、成形する工程を備えた、成形体の製造方法。
【請求項14】
請求項12に記載の成形体から構成される電気電子機器用筐体。

【公開番号】特開2011−225786(P2011−225786A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99299(P2010−99299)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】