説明

センサ付き転がり軸受ユニット

【課題】センサ装置の電源として電池が使用されているセンサ付き転がり軸受ユニットにおける電池の交換頻度を少なくすることができるセンサ付き転がり軸受ユニットを提供する。
【解決手段】センサ装置11は、ベアリングカップに設けられて傾斜状態が変化することでオンとオフとが切り替わる傾斜・振動スイッチと、傾斜・振動スイッチのオン/オフに応じてセンサ装置11の電力供給のオン/オフを制御する電源制御手段とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧延設備等の駆動軸の損傷を診断する目的などに使用されるセンサ付き転がり軸受ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼の圧延設備では、駆動軸に大きな負荷が掛かるため、駆動軸が損傷しやすく、損傷を早く検知して故障を防止することが重要となっている。そのため、定期的に分解検査が行われているが、この検査に手間および時間が掛かるため、分解検査に代わる稼働中での検査が望まれている。
【0003】
このような検査を可能とするものとして、特許文献1には、十字軸継手のクロスに結合されるベアリングカップと、ベアリングカップに設けられたケース挿入孔に挿入されるケースと、ケース底部近傍に設けられて十字軸継手のクロスの状態を検出するセンサと、ケース内に配されたワイヤレス通信機および電池とを備えている駆動軸損傷診断用センサ付き転がり軸受ユニットが提案されている。
【特許文献1】国際公開第07/052504号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されている駆動軸損傷診断用のセンサ付き転がり軸受ユニットでは、スイッチを取り付ける適当な場所がなく、また、仮にスイッチを取り付けたとしても、駆動軸自身が高い場所にあるため、スイッチのオン/オフが困難であるということから、電池からセンサ付き転がり軸受ユニットへの電力供給をオフとするスイッチが設けられておらず、電池が消耗しやすい要因の1つとなっている。圧延設備は、駆動軸の径が非常に大きいことに加えて、24時間連続稼働であるため、駆動軸損傷診断用センサ付き転がり軸受ユニットを一旦取り付けた後の電池の交換が困難であり、センサ、ワイヤレス通信機などに電力を供給する電池の交換頻度をいかに少なくするかが重要な課題となっている。
【0005】
この発明の目的は、センサ装置の電源として電池が使用されているセンサ付き転がり軸受ユニットにおける電池の交換頻度を少なくすることができるセンサ付き転がり軸受ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるセンサ付き転がり軸受ユニットは、固定側軌道部材、回転側軌道部材および両部材間に配置された転動体を有する転がり軸受と、転がり軸受に設けられたセンサ装置とを備えており、センサ装置の電源として電池が使用されているセンサ付き転がり軸受ユニットにおいて、センサ装置は、回転側軌道部材に設けられて傾斜状態が変化することでオンとオフとが切り替わる傾斜・振動スイッチと、傾斜・振動スイッチのオン/オフに応じて電池からセンサ装置への電力供給のオン/オフを制御する電源制御手段とを有していることを特徴とするものである。
【0007】
このセンサ付き転がり軸受ユニットは、例えば、圧延設備等の駆動軸損傷診断用として使用することができ、また、自動車等の回転速度検出用などとしても使用することができる。
【0008】
センサ装置のセンサとしては、変位センサ、回転センサ、振動センサ、AEセンサ、温度センサ、歪センサなど種々のものを使用することができる。
【0009】
駆動軸損傷診断は、24時間連続稼働という制約下で行う必要があり、センサ付き転がり軸受ユニットに対する電池の交換頻度を少なくするという要求が強く、この発明のセンサ付き転がり軸受ユニットは、このような用途に特に有用である。
【0010】
傾斜・振動スイッチは、例えば、非導電性のケースと、ケース内に互いに対向するように配置された1対の電極と、ケース内に転動可能に配置された導電性球体とを有し、ケースの傾斜に伴う導電性球体の転動によって、導電性球体が1対の電極間にまたがって存在するオン状態と、導電性球体が1対の電極から離れたオフ状態とに切り替わるものとされる。傾斜・振動スイッチは、これに限定されるものではなく、転がり軸受の回転側軌道部材の回転に伴って、オン/オフを繰り返すものであれば、種々の形式のものを使用することができる。
【0011】
傾斜・振動スイッチのオン/オフの切り替わり時間が所定時間(例えばタイマ規定時間)よりも短いときには、電池からセンサ装置への電力供給がオン、傾斜・振動スイッチのオン/オフの切り替わり時間が所定時間よりも長いときには、電池からセンサ装置への電力供給がオフとされる。このオン/オフの制御は、センサ付き転がり軸受ユニットのマイコンに設けられたプログラム(電源制御手段)によって行われる。
【0012】
駆動軸損傷診断用のセンサ付き転がり軸受ユニットでは、転がり軸受は、十字軸継手のクロスに結合される回転側軌道部材としてのベアリングカップと、ベアリングカップに保持された複数の転動体としてのころとを有し、センサ装置は、十字軸継手のクロスの状態を検出するセンサと、センサの出力を外部に送信するワイヤレス通信機と、センサ装置のオン状態の時間を規定してスリープモードと非スリープモードとに切り替える内部タイマとを有しており、電源制御手段は、傾斜・振動スイッチのオン/オフの切り替わり時間が内部タイマの規定時間よりも長い場合に、電池からセンサ装置への電力供給をオフにするものとされる。
【発明の効果】
【0013】
この発明のセンサ付き転がり軸受ユニットによると、傾斜・振動スイッチとそのオン/オフに応じて電池からセンサ装置への電力供給のオン/オフを制御する電源制御手段とによって、回転中には、電池からセンサ装置への電力供給をオンとし、回転停止時には、電池からセンサ装置への電力供給をオフとすることで、電池の消耗を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、この発明によるセンサ付き転がり軸受ユニットが駆動軸損傷診断用として適用される圧延設備の駆動軸(1)の一部を示している。駆動軸(1)は、図示省略した圧延ローラと駆動モータとを接続して、駆動モータの回転を圧延ローラに伝達するもので、圧延ローラに一端部が結合されたローラ回転軸(2)と、ローラ回転軸(2)の他端部に十字軸継手(4)を介して一端部が結合された中間回転軸(3)と、中間回転軸(3)の他端部に十字軸継手を介して一端部が結合され、他端部が駆動モータに結合されたモータ回転軸とからなる。十字軸継手(4)による結合部分の構成は、モータ回転軸側とローラ回転軸(2)側とで同じであり、1対の回転軸(2)(3)がこれらの結合端部に介在された十字軸継手(4)により相対的に揺動可能に結合されている。
【0016】
一方の回転軸(2)の結合端部には、角度にして90°の大きさのフランジヨーク(5)が180°離れて対向するように設けられており、他方の回転軸(3)の結合端部には、角度にして90°の大きさのフランジヨーク(6)が一方の回転軸(2)と90°ずれた位置に180°離れて対向するように設けられている。
【0017】
十字軸継手(4)は、4つの軸部(トラニオン)(7a)を有しているクロス(十字軸)(7)と、クロス(7)と各ヨーク(5)(6)との結合部位に設けられたベアリングカップ(9)と、これに支持された複数のころ(10)とを有しており、ベアリングカップ(9)にセンサ装置(11)が取り付けられることで、センサ付き転がり軸受ユニット(8)が構成されている。
【0018】
各フランジヨーク(5)(6)には、めねじ部(5a)(6a)が設けられ、各ベアリングカップ(9)には、ボルト挿通孔(9a)が設けられており、一方の回転軸(2)の突き合わせ端部において、1対のフランジヨーク(5)とこれらに対応する1対のベアリングカップ(9)とがボルトで結合されるとともに、他方の回転軸(3)の突き合わせ端部において、1対のフランジヨーク(6)とこれらに対応する1対のベアリングカップ(9)とがボルトで結合されることにより、回転軸(2)(3)同士が互いに回転を伝達するように結合されている。クロス(7)とベアリングカップ(9)とは、ころ(10)を介して接触することにより、相対的に揺動可能であり、一方の回転軸(2)から他方の回転軸(3)に回転運動を伝達する際の衝撃を緩和するバッファー機能を果たしている。こうして、圧延ローラの移動が許容されることにより、駆動軸(1)への衝撃が緩和されている。しかしながら、十字軸継手(4)には、衝撃等による大きな負荷が掛かるため、長期間の使用により損傷が進行していくことになる。センサ装置(11)は、この損傷の進行を監視する駆動軸損傷診断用のものである。
【0019】
図3に示すように、ベアリングカップ(9)には、クロス(7)の軸部(7a)を収納するクロス軸部収納空間(9b)が内周側から設けられており、複数のころ(10)は、クロス(7)の軸部(7a)の外周に接触して転がるように同空間(9b)内に配置されている。ベアリングカップ(9)には、さらに、クロス軸部収納空間(9b)に通じるケース挿入孔(12)がその外周側から設けられている。
【0020】
センサ装置(11)は、ベアリングカップ(9)に設けられたケース挿入孔(12)に挿入された円筒状ケース(33)と、ケース(33)に支持されて十字軸継手(4)のクロス(7)の状態を検出する変位センサユニット(34)と、変位センサユニット(34)からの出力を外部に取り出すためのワイヤレス通信機(35)と、ワイヤレス通信機(35)を支持する有底円筒状の通信機支持部材(36)と、変位センサユニット(34)およびワイヤレス通信機(35)に電力を供給する電池(37)と、通信機支持部材(36)の開口を閉鎖する樹脂製シール部材(38)とを有している。
【0021】
図2は、この発明によるセンサ付き転がり軸受ユニット(8)を使用した駆動軸監視システムのハードウェア構成を示している。同図に示すように、各センサ装置(11)は、この駆動軸監視システムの子機として使用されており、各子機(11)は、変位センサユニット(34)からの出力をワイヤレス通信機(35)を介して親機(19)に送信する。親機(19)には監視パソコン(20)が接続されている。監視パソコン(20)は、圧延設備から離れた監視室内などに設置され、各センサ装置(11)から送られてくるデータを処理して、クロス(7)の損傷の程度について判別し、その結果を監視パソコン(20)のディスプレイに表示する。
【0022】
駆動軸(1)が回転すると、クロス(7)とベアリングカップ(9)とは、ころ(10)を介して力を及ぼし合い、この力によって生じるクロス(7)とベアリングカップ(9)との相対変位が変位センサユニット(34)によって検知され、ワイヤレス通信機(35)によって親機(19)に送信される。ワイヤレス通信機(35)は、ベアリングカップ(9)に内蔵されているので、圧延設備用駆動軸のように2つの駆動軸(1)が密着していて、十字軸継手(4)の外部に隙間が無い場合でも、変位センサユニット(34)からの出力を容易に取り出すことができる。クロス(7)表面に損傷が生じていると、変位センサユニット(34)からの出力が正常時と相違することになり、この相違量が許容範囲かどうかを判定することにより、駆動軸(1)の損傷診断を行うことができる。クロス(7)の各軸部(7a)は、損傷の進行の程度が通常異なっているので、損傷診断は、各軸部(7a)毎に行われる。こうして、駆動軸(1)を稼働させた状態で損傷の診断を行うことが可能となり、稼働を停止しての分解検査をなくすことができる。
【0023】
次いで、図4および図5を参照して、センサ装置(11)の各構成要素の詳細について説明する。
【0024】
ケース挿入孔(12)には、図4に示すように、スラストワッシャ(39)よりも下方(径方向内方)にある第1ガイドリング(40)と、スラストワッシャ(39)よりも上方(径方向外方)にある第2ガイドリング(41)とが嵌め入れられている。第2ガイドリング(41)には、複数のめねじ部(41a)および1つのグリースニップル(41b)が設けられている。
【0025】
ケース(33)は、フランジ部(43)を有しかつ第2ガイドリング(41)の内径とほぼ同じ外径の円筒部(42)と、円筒部(42)とは別体とされてその下端部に嵌め合わされている底壁(44)とからなる。フランジ部(43)は、その下面が第2ガイドリング(41)の上面に当接させられている。ケース(33)の円筒部(42)および底壁(44)の外径は、等しくされており、ケース(33)は、上方から第1および第2ガイドリング(40)(41)内に挿入することができる。フランジ部(43)には、ケース(33)を第2ガイドリング(41)に結合するためのケース取付けボルト(45)が挿通される複数の貫通孔(43a)が設けられている。ケース(33)は、ケース取付けボルト(45)が上方からフランジ部(43)を貫通して第2ガイドリング(41)のめねじ部(41a)にねじ合わされることでベアリングカップ(9)に固定される。ケース(33)の外周には、第2ガイドリング(41)の内周に密接するOリング(46)が配置されている。
【0026】
ケース(33)のフランジ部(43)は、円筒部(42)の上端よりもやや下方に設けられており、円筒部(42)の上端部には、ベアリングカップ(9)から外すときに取り外しやすいように、取手(42a)が一体に形成されている。
【0027】
変位センサユニット(34)は、電圧レギュレータ(65)およびプリアンプ(66)(図8参照)を有するセンサ基板(34a)と、クロス(7)の軸部(7a)の外周を臨むようにケース(33)の底壁(44)の外周に設けられたおねじタイプの変位センサ(34b)と、センサ基板(34a)と変位センサ(34b)とをつなぐ接続線(34c)とからなる。底壁(44)は、変位センサ(34b)の取付け部材の機能を有している。
【0028】
ワイヤレス通信機(35)は、ワイヤレス基板(47)と、ワイヤレス基板(47)に立設されたアンテナ(48)とからなる。
【0029】
ワイヤレス基板(47)上には、電池(37)からセンサ装置(11)への電力供給をオン/オフするための傾斜・振動スイッチ(61)が搭載されており、また、ワイヤレス基板(47)には、マイコン(62)、内部タイマ(63)および送受信モジュール(64)(図8参照)が内蔵されている。
【0030】
アンテナ(48)は、ワイヤレス基板(47)から上方にのびる立上り部(48a)と、立上り部(48a)に連なりかつワイヤレス基板(47)と平行なループ状に形成された頂部(48b)とを有している。アンテナ(48)は、銅線で形成されており、立上り部(48a)および頂部(48b)を合わせた全長が波長λの1/4とされている。頂部(48b)は、ケース(33)の上面よりも上方に突出させられている。
【0031】
通信機支持部材(36)は、電池(37)に上方から当接させられる孔あき円板部(49a)、孔あき円板部(49a)の外周縁から下方にのび電池(37)を両側から覆うとともに電池(37)の両端部が切欠き部(49c)から突出させられている円筒部(49b)、および円筒部(49b)の下端部に設けられたフランジ部(49d)からなる電池押さえ部(49)と、電池押さえ部(49)の孔あき円板部(49a)とワイヤレス基板(47)との間に介在させられた複数のスペーサ(50)とからなる。通信機支持部材(36)は、ワイヤレス基板(47)を上方から貫通するおねじ(51)にスペーサ(50)が嵌め被せられ、このおねじ(51)が電池押さえ部(49)の孔あき円板部(49a)に設けられためねじにねじ込まれることによって組み立てられている。ここで、スペーサ(50)の高さを所定の値とすることで、ワイヤレス基板(47)の位置およびアンテナ(48)の頂部(48a)の位置を所定位置に設定することができる。
【0032】
樹脂製シール部材(38)は、円筒部(38a)および頂壁(38b)からなる。ケース(33)の円筒部(42)の上端部内周には、環状の内方突出部(42b)が形成されており、樹脂製シール部材(38)の円筒部(38a)の外周は、この内方突出部(42b)によって上方への抜けが防止されるように段付き状に形成されている。これにより、衝撃によって樹脂製シール部材(38)が外部に飛び出すことが防止されている。
【0033】
樹脂製シール部材(38)は、アンテナ(48)をケース(33)の上面よりも上方に突出させるため、その上面がアンテナ(48)の頂部(48b)よりもさらに上方に位置するように形成されている。樹脂製シール部材(38)の頂壁(38b)の下面には、アンテナ(48)の頂部(48b)が収められる環状溝(38c)が形成されている。樹脂製シール部材(38)のケース(33)の上面からの突出量は、上下の駆動軸(1)と干渉しないような大きさ(数mm程度)とされている。
【0034】
ケース(33)の底壁(44)には、下方から段付きのボルト挿通孔(44a)が設けられており、ケース(33)の底壁(44)の上面に通信機支持部材(36)の電池押さえ部(49)のフランジ部(49d)が重ねられている。通信機支持部材(36)の電池押さえ部(49)のフランジ部(49d)の上面には、ケース(33)の円筒部(42)の下端部に設けられた内向きフランジ部(42c)がさらに重ね合わせられている。そして、ケース(33)の底壁(44)のボルト挿通孔(44a)に対応するように、ケース(33)の内向きフランジ部(42b)にめねじ部が、通信機支持部材(36)の電池押さえ部(49)のフランジ部(49d)に貫通孔がそれぞれ形成され、ケース(33)の底壁(44)の下方からねじ込まれたケース組立てボルト(52)によって、ケース(33)の円筒部(42)、通信機支持部材(36)およびケース(33)の底壁(44)が一体化されている。
【0035】
こうして、センサ装置(11)は、樹脂製シール部材(38)が設けられたケース(33)と、アンテナ(48)付きのワイヤレス基板(47)および電池(37)が支持された通信機支持部材(36)と、変位センサ(34b)が取り付けられたケース底壁(44)との3つの部分から構成されており、これらを分解するには、ケース底壁(44)の下方から挿通されたケース組立てボルト(52)を外すだけでよいので、ワイヤレス基板(47)や電池(37)の交換が必要になった際、容易にその交換を行うことができ、保全性が非常に優れたものとなっている。そして、アンテナ(48)を介しての親機(19)との送受信は、アンテナ(48)の障害物となるもの(例えば電池など)がアンテナ(48)の頂部に位置していないことから、安定した通信が可能であり、しかも、ケース(33)の上面からに突出しているアンテナ(48)の面積が大幅に増加しており、これにより、通信感度が上がり、十分な通信品質が確保されている。
【0036】
傾斜・振動スイッチ(61)は、図6および図7に示すように、非導電性のケース(71)と、ケース(71)の底壁に設けられた絶縁性のスロープ(72)と、絶縁性のスロープ(72)を挟むようにしてケース(71)内に互いに対向するように配置された上下それぞれ1対の電極(73)(74)と、スロープ(72)上を転動するように配置された導電性球体(75)とを有している。
【0037】
スロープ(72)は、傾斜面(72a)と、傾斜面(72a)の上端に連なる平らな上面(72b)とからなる。スロープ(72)の幅(=電極(73)(74)同士の間隔)は、導電性球体(75)の直径よりも小さくなされている。
【0038】
各電極(73)(74)の基端部(73a)(74a)は、外部との接続用にケース(71)外に突出しており、下側の電極(74)の先端部(74b)は、平面から見て、スロープ(72)の上面(72b)の中程に位置し、上側の電極(73)の先端部(73b)は、平面から見て、スロープ(72)の傾斜面(72a)の下端近傍に位置している。また、下側の電極(74)は、ケース(71)内での高さがスロープ(72)の上面(72b)よりも下方にあり、上側の電極(73)は、ケース(71)内での高さがスロープ(72)の上面(72b)の高さよりも上方にある。
【0039】
図6に示す状態、すなわち、導電性球体(75)がスロープ(72)の上面(72b)上に位置する状態では、導電性球体(75)は、下側の電極(74)から離れた状態にあり、下側の電極(74)同士が導通されていないことから、オフ状態となっている。
【0040】
図7に示す状態では、ケース(71)の傾斜に伴って、導電性球体(75)がスロープ(72)の傾斜面(72a)上部に沿って下方へと転動し、この結果、導電性球体(75)が下側の電極(74)によってこれらの間にまたがるように支持されている。すなわち、下側の電極(74)同士が導電性球体(75)を介して導通されたオン状態となっている。
【0041】
図7に示す状態からさらにケース(71)が傾斜した場合、導電性球体(75)は、上側の電極(73)の先端で受け止められ、導電性球体(75)が下側の電極(74)から離れたとしても、導電性球体(75)が上側の電極(73)によってこれらの間にまたがるように支持されることになり、オン状態が継続する。
【0042】
図8に示すように、センサ装置(11)の電源は、電池(37)であり、電池(37)は、電圧レギュレータ(65)、傾斜・振動スイッチ(61)およびマイコン(62)にそれぞれ電力を供給している。
【0043】
電圧レギュレータ(65)は、電池(37)の電源電圧3Vを2.5Vに調整して、プリアンプ(66)に印加している。また、内部タイマ(63)および送受信モジュール(64)は、電圧レギュレータ(65)から電力供給を受けており、電圧レギュレータ(65)は、後述するように、マイコン(62)からの制御信号によってその電源をオフにすることができる。変位センサ(34b)は、電圧レギュレータ(65)のオン・オフ状態に連動するプリアンプ(66)がオン状態の時に、このプリアンプ(66)から電力の供給を受けるようになっている。
【0044】
傾斜・振動スイッチ(61)は、駆動軸(1)の回転に伴って、ベアリングカップ(9)が回転すると、オン/オフを繰り返す。マイコン(62)は、通信制御手段(62a)および電源制御手段(62b)を有しており、ランダムにオン・オフする傾斜・振動スイッチ(61)は、マイコン(62)の電源制御手段(62b)によって、そのオン・オフが判断される。
【0045】
内部タイマ(63)以外のセンサ基板(34a)、マイコン(62)および送受信モジュール(64)は、常時、待機(スリープ )状態に設定されている。内部タイマ(63)は、センサ装置(11)のオン状態の時間を規定してスリープモードと非スリープモードとに切り替えるためのもので、マイコン(62)に接続されており、マイコン(62)は、その電源制御手段(62b)によって、オン状態期間においてセンサ装置(11)における電力供給のオン/オフ制御を行うようになっている。内部タイマ(63)は、所定の周期(例えば、5秒)毎に、マイコン(62)を起動させる起動信号を出力し、マイコン(62)は、起動信号が入力されると、待機状態からオン状態に切り替えられ、さらにオン状態に切り替えられた時点から所定時間(例えば、10ミリ秒)の間オン状態を継続する。この間に、マイコン(62)は、その通信制御手段(62a)によって、送受信モジュール(64)に対して、スリープモードから非スリープモードに切り替えるオン信号を出力し、送受信モジュール(64)を受信モードに移行させる。親機(19)から測定指示信号が出されている場合には、この間に、親機(19)からの測定指示信号が受信され、この信号に基づいて、マイコン(62)の通信制御手段(62a)は、センサ基板(34a)の電圧レギュレータ(65)をスリープ状態からオン状態に切り替えて、プリアンプ(66)から変位センサ(34b)への電力供給を許容するとともに、送受信モジュール(64)を送信モードに移行させて、変位センサ(34b)の出力信号を親機(19)に送信する。
【0046】
駆動軸(1)の回転中は、傾斜・振動スイッチ(61)が短い周期でオンとオフを繰り返すが、センサ装置(11)全体のオン/オフがこの短い周期で繰り返されないように、マイコン(62)の電源制御手段(62b)には、傾斜・振動スイッチ(61)がオンになってから数秒以内に再度オンとなれば回転中と判断するためのプログラムが設けられている。
【0047】
この結果、図9に示すように、駆動軸(1)の回転中(稼働中)における傾斜・振動スイッチ(61)のオンとオフとの切り替わり時間が内部タイマ(63)の規定時間(例えば5秒)よりも短い場合(例えば、3秒とか4秒とかの場合)、傾斜・振動スイッチ(61)がオンとなることによって、センサ装置(11)における電力供給のオン状態が継続する。駆動軸(1)の回転が中止すると、傾斜・振動スイッチ(61)のオンとオフとが切り替わらなくなり、この切り替わり時間がタイマの規定時間5秒よりも長くなった場合、センサ装置(11)における電力供給がオフとなる。この後、駆動軸(1)が再び回転して、傾斜・振動スイッチ(61)がオンとなると、これに伴って、センサ装置(11)における電力供給がオンとなる。こうして、傾斜・振動スイッチ(61)とマイコン(62)内蔵のプログラムとによって、駆動軸(1)の回転中は、常時オンとなり、回転停止時には、オフとなるスイッチが実現されている。したがって、駆動軸(1)の回転中は、親機(19)からの指示があれば、親機(19)に変位センサユニット(34)からの出力を送信することができる状態が常時確保されるとともに、駆動軸(1)の回転停止時には、待機電力も使用されない状態となり、電池(37)の消耗が防止される。
【0048】
上記センサ装置(11)は、このようなセンサ装置を有していない駆動軸に対して、ケース(33)をケース挿入孔(12)に挿入することにより、着脱自在に取り付けることができ、これにより、既存の駆動軸の損傷診断を容易に行うことができる。
【0049】
なお、上記の傾斜・振動スイッチ(61)を使用して、電池の消耗を防止する構成は、駆動軸損傷診断を行うセンサ付き転がり軸受ユニット(8)に限定されるものではなく、種々のセンサ付き転がり軸受ユニットに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、この発明によるセンサ付き転がり軸受ユニットが好適に使用される圧延設備の駆動軸を示す斜視図である。
【図2】図2は、この発明によるセンサ付き転がり軸受ユニットを使用した駆動軸監視システムを示すブロック図である。
【図3】図3は、この発明によるセンサ付き転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図4】図4は、センサ装置の拡大縦断面図である。
【図5】図5は、同斜視図である。
【図6】図6は、傾斜・振動スイッチのオフ状態を示す図で、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図7】図7は、同オン状態を示す図で、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図8】図8は、センサ装置の構成を示すブロック図である。
【図9】図9は、傾斜・振動スイッチのオフ・オフに伴うセンサ装置のオン/オフ状態を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0051】
(1) 駆動軸
(4) 十字軸継手
(7) クロス
(8) センサ付き転がり軸受ユニット
(9) ベアリングカップ(回転側軌道部材)
(11) センサ装置
(35) ワイヤレス通信機
(36) 通信機支持部材
(37) 電池
(38) 樹脂製シール部材
(62) マイコン
(62b) 電源制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側軌道部材、回転側軌道部材および両部材間に配置された転動体を有する転がり軸受と、転がり軸受に設けられたセンサ装置とを備えており、センサ装置の電源として電池が使用されているセンサ付き転がり軸受ユニットにおいて、
センサ装置は、回転側軌道部材に設けられて傾斜状態が変化することでオンとオフとが切り替わる傾斜・振動スイッチと、傾斜・振動スイッチのオン/オフに応じて電池からセンサ装置への電力供給のオン/オフを制御する電源制御手段とを有していることを特徴とするセンサ付き転がり軸受ユニット。
【請求項2】
転がり軸受は、十字軸継手のクロスに結合される回転側軌道部材としてのベアリングカップと、ベアリングカップに保持された複数の転動体としてのころとを有し、センサ装置は、十字軸継手のクロスの状態を検出するセンサと、センサの出力を外部に送信するワイヤレス通信機と、センサ装置のオン状態の時間を規定してスリープモードと非スリープモードとに切り替える内部タイマとを有しており、電源制御手段は、傾斜・振動スイッチのオン/オフの切り替わり時間が内部タイマの規定時間よりも長い場合に、電池からセンサ装置への電力供給をオフにするものであることを特徴とするセンサ付き転がり軸受ユニット。
【請求項3】
傾斜・振動スイッチは、非導電性のケースと、ケース内に互いに対向するように配置された1対の電極と、ケース内に転動可能に配置された導電性球体とを有し、ケースの傾斜に伴う導電性球体の転動によって、導電性球体が1対の電極間にまたがって存在するオン状態と、導電性球体が1対の電極から離れたオフ状態とに切り替わるものである請求項1または2のセンサ付き転がり軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−112387(P2010−112387A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282682(P2008−282682)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】