説明

センサ付き転がり軸受装置

【課題】 簡単な構成によって回転状態における転がり軸受の異常判断が可能なセンサ付き転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】 センサ装置2は、固定側軌道部材3の180°離れた位置に配置された1対の回転数センサ9,10と、各回転数センサ9,10の出力を処理する処理手段31とを備えている。処理手段31は、1対の回転数センサ9,10の出力の位相差の変化を求める位相差変化量演算手段32と、位相差変化量演算手段32で得られた位相差変化量と基準値とを比較して位相差変化量から振動量の正常または異常を判定する振動判定手段33とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受にセンサが一体化されたセンサ付き転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、その安定性を向上させる制御を行うために、車両速度を求めるための回転数センサが取り付けられたセンサ付きハブユニット(センサ付き転がり軸受装置)が使用されている(特許文献1)。
【0003】
一方、特許文献2には、加速度を抽出する振動センサまたは振動検出器を用いて軸受を診断する軸受診断装置が開示されている。
【特許文献1】特開2002−48809号公報
【特許文献2】特開2002−22617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハブユニットにおいては、走行時でもその異常を検知することが望まれているが、例えば、特許文献2に記載されている軸受診断装置をハブユニットに取り付けることは困難であり、回転状態における転がり軸受の異常判断を行う実用的で有効な手段は得られていない。
【0005】
この発明の目的は、簡単な構成によって回転状態における転がり軸受の異常判断が可能なセンサ付き転がり軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるセンサ付き転がり軸受装置は、固定側軌道部材、回転側軌道部材および転動体を有する転がり軸受と、センサ装置とからなるセンサ付き転がり軸受装置において、センサ装置は、固定側軌道部材の180°離れた位置に配置された1対の回転数センサと、各回転数センサの出力を処理する処理手段とを備えており、処理手段は、1対の回転数センサ出力の位相差の変化を求める位相差変化量演算手段と、位相差変化量演算手段で得られた位相差変化量と基準値とを比較して位相差変化量から振動量の正常または異常を判定する振動判定手段とを有していることを特徴とするものである。
【0007】
回転数センサは、例えば、自動車のハブユニットに取り付けられて、車輪速検出用として使用されているもので、ホール素子センサ、磁気抵抗素子センサ、電磁誘導型センサなどのうちのいずれかとされる。回転側軌道部材には、所定間隔でスリットが設けられたパルサリングまたはS極とN極とが交互に設けられたパルサリングがセンサに対向するように取り付けられる。これにより、回転数センサからは、パルサリングのピッチに対応するパルスが出力され、このパルスの数をカウントすることにより、回転側軌道部材の回転数したがって回転速度(車輪速)が求められる。回転数センサは、通常は、1つのハブユニットに付き1つ設けられているものであるが、この発明においては、これが180°離れた位置に2つ(少なくとも2つ)設けられる。1対の回転数センサは、転がり軸受またはハブユニットの頂部および底部に設けられてもよく、また、転がり軸受またはハブユニットの前部および後部に設けられてもよい。また、2対の回転数センサを使用し、頂部および底部に設けられた1対の回転数センサによって、左右(転がり軸受の軸方向)の振動を検出し、前部および後部に設けられた1対の回転数センサによって、上下振動を検出するようにしてもよい。
【0008】
180°離れた位置に設けられた1対の回転数センサは、パルサリングのピッチに対応するパルスをそれぞれ出力し、振動がない場合には、1対の回転数センサの位相差も変化しないが、振動が大きくなると、1対の回転数センサ出力の位相差の変化が大きくなる。そこで、位相差変化量演算手段において、位相差変化量を求めるとともに、振動判定手段において、この位相差変化量と基準値とを比較することにより、振動量の正常または異常を判定することができる。
【0009】
位相差変化量演算手段は、1対のセンサ出力の論理積または論理和を演算してその結果をパルス信号として出力する論理演算手段と、論理演算手段から出力されたパルス信号の幅を計測するパルス計数手段と、パルス幅をサンプリングして次のパルス幅計測完了まで保持するサンプルホールド手段とからなることが好ましい。
【0010】
いずれもパルス波形とされた第1センサの出力信号と第2センサの出力信号との論理積または論理和が論理演算回路で演算されることで、2つの信号の間の位相差に対応した波形を持つパルス列(位相差変化信号)が出力される。この位相差変化信号は、2つのセンサ出力の位相差に応じた一意のパルス幅を有しており、このパルス幅を基準値と比較することで振動の異常の判定が可能となる。論理演算回路から出力された位相差変化信号は、パルス計数手段に入力され、パルス計数手段では、パルス幅内に入るクロック信号の個数をカウンタでカウントすることにより、パルス幅をカウント数として出力する。サンプルホールド手段では、パルス幅に対応するカウント数をサンプリングして次のパルス幅計測が完了するまでの期間保持し、これにより、サンプルホールド手段からは、時間(回転)とともに変化していく位相差変化信号がパルス幅のカウント数として出力される。こうして得られた位相差変化信号は、通常ゼロではなくかつ速度に依存するものであり、振動判定手段においては、ある速度での位相差変化信号をNp(v)、この速度での基準値をNo(v)として、Np(v)>No(v)となった場合に、異常と判定される。基準値No(v)は、正常時の位相差変化信号をNn(v)として、例えば、No(v)=C×Nn(v)、C:定数として求められる。
【0011】
なお、論理演算回路から出力された位相差変化信号は、LPF(ローパスフィルタ)を通過させることにより、位相差に対し線形な波形としてから、振動判定に使用するようにしてもよく、また、パルスの幅=位相差の変化は、平滑回路で平均値を求めるようにして、その平均値の変化を見るようにしてもよいが、パルス計数手段でパルス幅(各パルスの時間)を計り、終了後にサンプルホールド手段でデータを保持することで、振動検出精度をより向上させることができる。
【0012】
この転がり軸受装置は、固定輪が車体への取付け部を有する車体側軌道部材とされ、回転輪が車輪取付け部を有する車輪側軌道部材とされることにより、連続走行で異常の早期発見が必要な自動車用センサ付きハブユニットとして、好適に使用される。
【発明の効果】
【0013】
この発明のセンサ付きハブユニットによると、1対の回転数センサを使用して転がり軸受が回転状態にある場合の振動成分が検出されるので、この振動成分をモニターすることにより、簡単な構成によって回転状態における転がり軸受の異常判断が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、この発明のセンサ付き転がり軸受装置の1実施形態を示している。以下の説明において、左右は図1の左右をいうものとする。なお、左が車両の内側に、右が車両の外側となっている。
【0016】
このセンサ付き転がり軸受装置は、自動車用のセンサ付きハブユニットとして使用されるもので、転がり軸受としてのハブユニット(1)と、その回転を検出するセンサ装置(2)とを備えている。
【0017】
ハブユニット(1)は、車体側に固定される固定側軌道部材(3)、車輪が取り付けられる回転側軌道部材(4)、両部材(3)(4)の間に2列に配置された複数の転動体である玉(5)、および各列の玉(5)をそれぞれ保持する保持器(6)を備えている。
【0018】
固定側軌道部材(3)は、内周面に2列の外輪軌道が形成されている円筒部(12)と、円筒部(12)の左端部近くに設けられて懸架装置(車体)にボルトで取り付けられるフランジ部(13)とを有している。
【0019】
回転側軌道部材(4)は、第1の軌道溝(15a)を有する大径部(15)および第1の軌道溝(15a)の径よりも小さい外径を有する小径部(16)を有している内軸(14)と、内軸(14)の小径部(16)外径に嵌め止められて右面が内軸(14)の大径部(15)左面に密接させられている内輪(17)とからなる。内軸(14)の右端近くには、車輪を取り付けるための複数のボルト(19)が固定されたフランジ部(18)が設けられている。内輪(17)の右部には、内軸(14)の軌道溝(15a)と並列するように、軌道溝(17a)が形成されている。固定側軌道部材(3)の右端部と内軸(14)との間には、シール装置(20)が設けられている。
【0020】
内軸(14)の小径部(16)の左端面(軸方向内側端面)(16a)には、環状の内輪固定用かしめ部(21)が設けられており、この内輪固定用かしめ部(21)の左端部が径方向外方にかしめられて内輪(17)を右方(軸方向外方)に押圧することにより、内輪(17)が内軸(14)に固定されている。
【0021】
センサ装置(2)は、固定側軌道部材(3)の左端部(軸方向内側端部)内径に嵌め合わされた環状の芯金(7)と、芯金(7)に一体成形されたセンサ固定用樹脂(8)と、1対の回転数センサ(9)(10)と、回転数センサ(9)(10)に対向するように回転側軌道部材(4)の内輪(17)に固定されたパルサリング(11)と、各センサ(9)(10)の出力を処理する処理手段(図2参照)とを有している。
【0022】
センサ固定用樹脂(8)は、芯金(7)の外径にほぼ等しい外径を有する円板部(8a)、および円板部(8a)の外周縁部に右方突出状に設けられている環状突出部(8b)からなる。環状突出部(8b)は、その外周面がパルサリング(11)の径方向内方に若干の間隙をおいて位置するように形成され、この環状突出部(8b)の頂部および底部に回転数センサ(9)(10)がそれぞれ固定されている。円板部(8a)の底部には、車体側に設けられた処理手段とセンサ装置(2)とを結ぶハーネスを取り付けるためのコネクタ部(22)が左方突出状に一体に成形されている。コネクタ部(22)には信号用のコネクタピン(23)が設けられており、回転数センサ(9)(10)とコネクタピン(23)とが、リード線(図示略)を介して接続されている。
【0023】
回転数センサ(9)(10)は、公知のものであり、パルサリング(11)の回転に伴う磁束密度の変化を検出することで、内輪(17)の回転速度したがって車輪速などの回転情報を検出することができる。
【0024】
処理手段(31)は、車輪速を求める処理を行う部分のほかに、図2に示すように、第1センサ(9)および第2センサ(10)からなる1対の回転数センサ(9)(10)の出力の位相差の変化を求める位相差変化量演算手段(32)と、位相差変化量演算手段(32)で得られた位相差変化量と基準値とを比較して位相差変化量から振動量の正常または異常を判定する振動判定手段(33)とを有している。
【0025】
位相差変化量演算手段(32)は、第1センサ(9)および第2センサ(10)のセンサ出力(37)(38)の論理積または論理和(図示は論理和)を演算してその結果をパルス信号(39)として出力する論理演算手段(34)と、論理演算手段(34)から出力されたパルス信号(39)の幅を計測するパルス計数手段(35)と、パルス幅に対応するカウント数をサンプリングして次のパルス幅計測完了まで保持するサンプルホールド手段(36)とからなる。
【0026】
180°離れた位置に設けられた1対の回転数センサ(9)(10)は、パルサリング(11)のピッチに対応するパルス(37)(38)をそれぞれ出力し、このパルス(37)(38)の位相差の変化は、ハブユニット(1)の振動が大きくなるのに伴って大きくなる。論理演算手段(34)では、第1センサ(9)から出力されたパルス(37)と第2センサ(10)から出力されたパルス(38)との論理積(または論理和)が求められる。この演算結果は、各センサ(9)(10)からのパルス(37)(38)間の位相差に対応したパルス(39)となっており、このパルス(39)すなわち位相差変化信号は、2つのセンサ(9)(10)の出力の位相差に応じた一意のパルス幅を有している。
【0027】
パルス計数手段(35)では、これらのパルス(37)(38)をゲート信号として、各パルス(39)内に含まれるクロック信号の個数をカウンタでカウントすることにより、パルス幅をカウント数として出力する。パルス幅のカウント数は、これにクロック信号の周期を乗じることにより、時間に換算することができる。
【0028】
サンプルホールド手段(36)では、パルス幅に対応するカウント数をサンプリングして次のパルス幅計測が完了するまでの期間保持し、これにより、サンプルホールド手段(36)からは、時間(回転)とともに変化していく位相差変化信号としてのパルス幅カウント数(40)が出力される。こうして得られた位相差変化信号(40)は、通常ゼロではなくかつ速度に依存するものであり、振動判定手段(33)においては、ある速度での位相差変化信号をNp(v)、この速度での基準値をNo(v)として、Np(v)>No(v)となった場合に、異常と判定される。基準値No(v)は、正常時の位相差変化信号をNn(v)として、例えば、No(v)=C×Nn(v)、C:定数として求められる。センサ付きハブユニットでは、自動車に取り付けたときの初期状態を基準とし、例えば、3倍の振動値(C=3)で異常というような判定がなされる。
【0029】
このセンサ付き転がり軸受装置によると、転がり軸受(ハブユニット)(1)の振動が大きくなると(加速度変化が大きくなると)、固定側軌道部材(3)に対する回転側軌道部材(4)位置の変化も大きくなり、これが180°離れた回転数センサ(9)(10)の出力信号の位相差として現れる。各センサ(9)(10)の出力(37)(38)は、パルス波形であり、その位相差信号(39)もパルス波形となる。そこで、位相差信号としての各パルス(39)の時間を計り、終了後にこのデータを保持することで、振動判定用データが得られる。これにより、振動として現れた転がり軸受(ハブユニット)(1)の損傷が、その近傍で測定された信号から求められ、その振動レベルをモニターすることで、運転席で分かる程度に損傷がひどくなる前の異常判定が可能となる。
【0030】
なお、上記においては、センサ付きハブユニットについて説明したが、上記センサ装置は、ハブユニット以外の各種転がり軸受に一体化して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明によるセンサ付き転がり軸受装置の1実施形態を示す縦断面図である。
【図2】この発明によるセンサ付きハ転がり軸受装置の処理手段を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0032】
(1) ハブユニット(転がり軸受)
(2) センサ装置
(3) 固定側軌道部材
(4) 回転側軌道部材
(5) 玉(転動体)
(8a) 円板部
(8b) 環状突出部
(9)(10) 回転数センサ
(31) 処理手段
(32) 位相差変化量演算手段
(33) 振動判定手段
(34) 論理演算手段
(35) パルス計数手段
(36) サンプルホールド手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側軌道部材、回転側軌道部材および転動体を有する転がり軸受と、センサ装置とからなるセンサ付き転がり軸受装置において、センサ装置は、固定側軌道部材の180°離れた位置に配置された1対の回転数センサと、各回転数センサの出力を処理する処理手段とを備えており、処理手段は、1対の回転数センサ出力の位相差の変化を求める位相差変化量演算手段と、位相差変化量演算手段で得られた位相差変化量と基準値とを比較して位相差変化量から振動量の正常または異常を判定する振動判定手段とを有していることを特徴とするセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項2】
位相差変化量演算手段は、1対のセンサ出力の論理積または論理和を演算してその結果をパルス信号として出力する論理演算手段と、論理演算手段から出力されたパルス信号の幅を計測するパルス計数手段と、パルス幅をサンプリングして次のパルス幅計測完了まで保持するサンプルホールド手段とからなる請求項1のセンサ付き転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−337218(P2006−337218A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163412(P2005−163412)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】