説明

センサ付き転がり軸受装置

【課題】異物の侵入が生じにくいセンサ付き転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】センサ20を備える深溝玉軸受10の内輪1の内周面に、略円筒状のスリンガ40の小径円筒部40bが圧入されて取り付けられている。スリンガ40の大径円筒部40aの外周面41とセンサハウジング26の内周面26aとが微小な径方向隙間を空けて対向し、この径方向隙間によってラビリンスシールが形成される。エンコーダホルダ32が内輪1の外周面から径方向に突出するように設けられていて、センサハウジング26の軸方向端面と対向している。そして、センサハウジング26の軸方向端面とエンコーダホルダ32との間には軸方向隙間が形成されており、この軸方向隙間は、ラビリンスシールを構成する径方向隙間と連通している。連通する両隙間からなる空間は、全体として断面略L字状をなしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道輪の回転の状態を測定するセンサを備える転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転輪の回転状態(例えば回転速度、回転方向)を測定するセンサを備えた転がり軸受が知られている。このようなセンサ付き転がり軸受においては、センサが転がり軸受の軸方向一端側に取り付けられているので、軸方向他端側はシールを取り付けることにより密封可能であるものの、センサが取り付けられた軸方向一端側の密封には工夫が必要であった。
【0003】
例えば特許文献1には、センサが取り付けられた軸方向一端側にラビリンスシールを設けて、センサや軸受内部への異物の侵入を抑制するセンサ付き転がり軸受が開示されている。このセンサ付き転がり軸受は、回転側軌道輪である内輪と、固定側軌道輪(非回転輪)である外輪と、これら両輪の間に転動自在に配された転動体と、回転センサと、を備えている。この回転センサは、転がり軸受の軸方向一端側に取り付けられており、軸方向他端側にはシールが取り付けられている。
【0004】
また、回転センサは、回転側軌道輪である内輪に取付けられ内輪と同一の回転状態で回転するリング状のエンコーダ(被検出体)と、固定側軌道輪である外輪に取付けられエンコーダに径方向隙間を介して対向するリング状のセンサユニット(検出体)と、で構成される。そして、センサユニットは、該センサユニットを保持するセンサハウジングを介して、回転側軌道輪である内輪に取付けられている。
【0005】
センサハウジングは、エンコーダの径方向外方に位置する円筒部と、この円筒部の軸方向先端から径方向内方側へ延びてエンコーダの軸方向外側に位置する内鍔部とからなり、断面L字状に形成されている。そして、センサハウジングとエンコーダとの間に形成される微小隙間によりラビリンスシールが構成されており、転がり軸受の軸方向一端側が密封されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−233857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示のセンサ付き転がり軸受では、ラビリンスシールのラビリンス経路の形状が単純であるため、ラビリンスシールを構成する微小隙間の大きさよりも小さい異物については通過してしまうおそれがあった。ラビリンスシールを通過した異物は、エンコーダ及びセンサユニットに容易に到達するため、回転輪の回転状態の測定に支障が生じるおそれがあった。また、転がり軸受内部に異物が到達して、転がり軸受に損傷が生じるおそれもあった。
【0008】
より具体的には、異物として磁性体(例えば鉄粉)が侵入するとエンコーダの磁路に悪影響が出るため、パルス周期の変動やパルス抜けなどが生じて、回転状態の正確な測定が困難となるおそれがある。また、埃、塵等のゴミ類が異物として侵入すると、センサの電気回路に悪影響が出たり、軸受性能が低下したりするおそれがある。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、異物の侵入が生じにくいセンサ付き転がり軸受装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明の態様は次のような構成からなる。すなわち、本発明の一態様に係るセンサ付き転がり軸受装置は、回転可能な回転輪と、前記回転輪を回転可能に支持する固定輪と、前記回転輪が有する軌道面と前記固定輪が有する軌道面との間に転動自在に配された複数の転動体と、前記回転輪の回転の状態を測定するセンサと、を備え、以下の4つの条件を満足する。
【0010】
条件A:前記センサは、前記回転輪と一体に回転可能に前記回転輪に取り付けられた被検出部と、前記被検出部とセンサギャップを空けて対向するように前記固定輪に取り付けられた検出部と、を有し、前記回転輪の回転に伴う前記被検出部の回転の状態を前記検出部によって測定するようになっている。
条件B:前記検出部を保持する略環状のセンサハウジングが、前記固定輪の軸方向端部に取り付けられている。
【0011】
条件C:略円筒状のラビリンスシール形成部を前記回転輪から軸方向に突出するように設け、前記センサハウジングの周面と前記ラビリンスシール形成部の周面とを、径方向隙間を空けて対向させ、これら両周面間にラビリンスシールを形成する。
条件D:前記センサハウジングの軸方向端面に対向するラビリンス経路形成部を、前記回転輪から径方向に突出するように設け、前記センサハウジングの軸方向端面と前記ラビリンス経路形成部との間に形成される軸方向隙間と、前記ラビリンスシールを構成する前記径方向隙間とを連通させ、これら両隙間により断面略L字状のラビリンス経路を形成する。
【0012】
また、本発明の他の態様に係るセンサ付き転がり軸受装置は、回転可能な回転輪と、前記回転輪を回転可能に支持する固定輪と、前記回転輪が有する軌道面と前記固定輪が有する軌道面との間に転動自在に配された複数の転動体と、前記回転輪の回転の状態を測定するセンサと、を備え、以下の4つの条件を満足する。
条件E:前記センサは、前記回転輪と一体に回転可能に前記回転輪に取り付けられた被検出部と、前記被検出部とセンサギャップを空けて対向するように前記固定輪に取り付けられた検出部と、を有し、前記回転輪の回転に伴う前記被検出部の回転の状態を前記検出部によって測定するようになっている。
【0013】
条件F:前記検出部を保持する略環状のセンサハウジングと、前記センサハウジングを収容しつつ前記固定輪の軸方向端部に取り付けられた略環状のセンサカバーと、を備えている。
条件G:前記センサカバーは、前記センサハウジングの周面を覆う円筒部を有しており、略円筒状のラビリンスシール形成部を前記回転輪から軸方向に突出するように設け、前記センサカバーの円筒部の周面と前記ラビリンスシール形成部の周面とを、径方向隙間を空けて対向させ、これら両周面間にラビリンスシールを形成する。
【0014】
条件H:前記センサハウジングの軸方向端面に対向するラビリンス経路形成部を、前記回転輪から径方向に突出するように設け、前記センサハウジングの軸方向端面と前記ラビリンス経路形成部との間に形成される軸方向隙間と、前記ラビリンスシールを構成する前記径方向隙間とを連通させ、これら両隙間により断面略L字状のラビリンス経路を形成する。
【0015】
これらの態様のセンサ付き転がり軸受装置においては、円筒状部材を前記回転輪の軸方向端部に取り付けることにより、前記ラビリンスシール形成部を設けることができる。この円筒状部材は、軟磁性材料で構成し帯磁させてもよい。また、この円筒状部材を、同軸の大径円筒部と小径円筒部とが環状平板部で連結されてなる断面略凸字状の部材とし、前記大径円筒部又は前記小径円筒部を前記回転輪の周面に圧入して取り付けてもよい。
【0016】
さらに、これらの態様のセンサ付き転がり軸受装置は、大径部及び小径部を有する段付シャフトと軸受ハウジングとの間に介装され、前記段付シャフトと前記軸受ハウジングとを相対回転可能とし、前記円筒状部材の小径円筒部が、前記回転輪となる内輪の内周面に圧入されるとともに、前記円筒状部材の環状平板部が、前記段付シャフトの大径部の軸方向端面と前記内輪の軸方向端面との間に挟まれるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のセンサ付き転がり軸受装置は、センサに構成されたラビリンス経路の形状が複雑であるため、異物の侵入が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るセンサ付き転がり軸受装置の第一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1のセンサ付き転がり軸受装置の製造方法を説明する図である。
【図3】回転シャフトに装着されたセンサ付き転がり軸受装置の断面図である。
【図4】スリンガの帯磁状態を示す断面図である。
【図5】本発明に係るセンサ付き転がり軸受装置の第二実施形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るセンサ付き転がり軸受装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
〔第一実施形態〕
図1は、本発明に係るセンサ付き転がり軸受装置の第一実施形態を示す縦断面図である。また、図2は、図1のセンサ付き転がり軸受装置の製造方法を説明する図である。さらに、図3は、図1のセンサ付き転がり軸受装置を回転シャフトに装着した状態を説明する縦断面図である。
【0020】
第一実施形態の深溝玉軸受10は、外周面に軌道面1aを有する内輪1と、軌道面1aに対向する軌道面2aを内周面に有する外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の転動体(玉)3と、内輪1及び外輪2の間に転動体3を保持する保持器4と、を備えている。なお、保持器4は備えていなくてもよい。また、内輪1の外周面及び外輪2の内周面の間に形成された軸受内部空間に、潤滑剤(例えば潤滑油,グリース)を封入してもよい。
【0021】
この深溝玉軸受10においては、内輪1の内周面が例えば回転シャフト50に嵌合されて回転可能な回転輪とされ、外輪2の外周面が例えば軸受ハウジング(図示せず)に固定されて、回転輪である内輪1を回転可能に支持する固定輪(すなわち非回転輪)とされている。すなわち、深溝玉軸受10は、回転シャフト50と図示しない軸受ハウジングとの間に介装され、軸受ハウジングに対して回転シャフト50を回転可能に支持している。ただし、これとは逆に、内輪1を固定輪とし、外輪2を回転輪としてもよいことは勿論である。
【0022】
そして、内輪1及び外輪2の間の隙間の開口を覆う密封装置5(接触式、非接触式いずれでもよく、例えば鋼製のシールドやゴムシールがあげられる)が、深溝玉軸受10の軸方向(軸受中心軸方向)の一方の端部のみに備えられており、他方の端部には、回転輪である内輪1の回転の状態(例えば回転速度、回転方向)を測定するセンサ20が取り付けられている。なお、深溝玉軸受10の軸方向両端部のうち、センサ20が取り付けられている側を「センサ側」、センサ20が取り付けられていない側を「反センサ側」と記すこともある。さらに、深溝玉軸受10の軸方向の他方の端部には、略円筒状のラビリンスシール形成部材40が取り付けられており、これによりセンサ側を密封するラビリンスシールが形成されている。
【0023】
次に、センサ20の構成について説明する。センサ20は、回転輪である内輪1と一体に回転可能に内輪1に取り付けられた被検出部22と、被検出部22とセンサギャップを空けて対向するように固定輪である外輪2に取り付けられた検出部24と、を有している。そして、内輪1の回転に伴って内輪1と同一の回転状態で回転する被検出部22の回転の状態を、検出部24によって測定できるようになっている。
【0024】
センサ20としては、例えば、磁気状態の変化(磁界の強弱や向き(具体的には、磁束密度の変動)など)を検知する磁気センサ、あるいは照射光に対する反射光の状態変化を検出する光学センサなどを任意に選択して用いることができる。本実施形態においては、一例として、センサ20が磁気センサである場合を説明する。そして、この磁気センサの被検出部22として、多極に着磁された環状の磁石(以下、「エンコーダ22」と記すこともある)を適用するとともに、検出部24として、磁気状態の変化(例えば磁束密度の変動)を検出する磁気検出素子(以下、「磁気検出素子24」と記すこともある)を適用している。この磁気検出素子としては、例えばホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子が使用可能である。
【0025】
なお、エンコーダ22に着磁させる磁極数は、内輪1の回転速度や磁気検出素子24の検出精度などに応じて任意に設定すればよい。例えば、エンコーダ22は、その内周面(磁極面)に、N極とS極とを交互に50個ずつ一定のピッチで周方向に着磁させた合計100極の磁極を有する環状磁石とすることができる。
ただし、被検出部22として、上記したエンコーダに代えて、例えば、ギア(歯車状の磁性体など) 、窓開けされたプレス品(周方向に所定間隔で貫通孔が形成された環状磁性体など) を適用してもよい。
【0026】
また、センサ20には、所定の回路が配線された基板30(以下、「回路基板30」と記す) が設けられており、回路基板30によって磁気検出素子24に所定の電源装置(図示せず) から電力が供給されるとともに、磁気検出素子24から出力された信号(エンコーダ22の回転状態を示す電気信号) が所定の信号処理部(図示せず) に送信されるセンサ構造となっている。この場合、磁気検出素子24や信号処理部は、回路基板30に直接接続させてもよいし、信号ケーブル(図示せず) などを介して接続させてもよい。
【0027】
さらに、本実施形態の深溝玉軸受10において、エンコーダ22は、内輪1に固定されて、内輪1とともに回転している。図1に示す構成においては、一例として、エンコーダ22が磁石保持具32(以下、「エンコーダホルダ32」と記す) の外径部に、例えば接着、溶接等の慣用の固着手段で固定され、エンコーダホルダ32を内輪1に取り付けることで、内輪1に対して固定されている。
【0028】
なお、エンコーダホルダ32は環状をなし、外輪2、転動体3、保持器4、及び後述するセンサハウジング26と接触しないように、その内径部が内輪1の外周面に設けられた溝に圧入され加締め固定されている。これにより、センサ20は、エンコーダ22が磁気検出素子24と対向した状態で、外輪2、転動体3、及び保持器4といずれも接触することなく、内輪1と同一の回転状態で内輪1とともに回転することができる。
【0029】
一方、磁気検出素子24は、径方向のセンサギャップを空けてエンコーダ22と対向するように、回路基板30と接続された状態で略環状のセンサハウジング26に保持されており、センサハウジング26を収容する略環状のセンサカバー28を外輪2の軸方向端部(センサ側)に取り付けることで、外輪2に対して固定されている。センサカバー28は、その外径部が外輪2に固定され、深溝玉軸受10が回転シャフト50に取り付けられた際にはセンサカバー28の内径部の先端と回転シャフト50の外周面との間に所定の隙間が生じるように構成されている。ただし、センサハウジング26を直接外輪2に取り付けることが可能ならば、深溝玉軸受10はセンサカバー28を備えていなくてもよい。
【0030】
なお、図1に示す例では、磁気検出素子24の径方向外方の面とエンコーダ22の内周面(磁極面) とが径方向のセンサギャップを空けて対向するように、磁気検出素子24がエンコーダ22に対して位置付けられているが、磁気検出素子24とエンコーダ22の相対的な位置関係は、磁気検出素子24の素子配設面とエンコーダ22の磁極面とが対向していれば、図1に示す相対位置に限定されるものではない。
【0031】
例えば、磁気検出素子24の径方向内方の面とエンコーダ22の外周面とを対向させてもよいし、磁気検出素子24の軸方向端面とエンコーダ22の軸方向端面とを対向させてもよい。これらの場合には、相互の対向面である磁気検出素子24の径方向内方の面又は軸方向端面を素子配設面として構成するとともに、エンコーダ22の外周面又は軸方向端面を磁極面として構成すればよい。
【0032】
センサハウジング26は、その外径寸法が外輪2の外径寸法よりも小寸、且つ外輪2の内径寸法よりも大寸で、その内径寸法が内輪1の外径寸法よりも小寸、且つ内輪1の内径寸法よりも大寸の環状に形成されている。また、センサハウジング26には、エンコーダホルダ32を介して内輪1に固定されたエンコーダ22と非接触状態となるように、軸方向端面に全周にわたって凹状の溝26m(以下、「エンコーダ軌道溝26m」と記す) が形成されている。
【0033】
なお、センサハウジング26にエンコーダ軌道溝26mを形成することなく、前記軸方向端面がエンコーダ22の端面と非接触状態となるように、センサハウジング26の径方向長さを設定してもよいし、あるいは、センサハウジング26が固定されたセンサカバー28を外輪2に対して位置決めしてもよい。
また、センサカバー28は、その外径寸法が外輪2の外径寸法と略同寸で、その内径寸法が内輪1の外径寸法よりも小寸、且つ内輪1の内径寸法よりも大寸の環状に形成され、外径部が外輪2に固定された状態で、内径部の先端と深溝玉軸受10の回転シャフト50の外周面との間に所定の隙間が生じるように位置決めされている。
【0034】
一例として、図1,3に示す構成においては、センサカバー28を、その内径部の先端がセンサハウジング26の内周面26aと略面一となるように構成しているが、センサハウジング26の内周面26aよりもセンサカバー28の内径部の先端が径方向内方に突出する、すなわち、センサカバー28の内径寸法よりもセンサハウジング26の内径寸法の方が大きくともよい。あるいは、センサハウジング26の内周面26aよりもセンサカバー28の内径部の先端が引っ込む、すなわちセンサカバー28の内径寸法よりもセンサハウジング26の内径寸法の方が小さくともよい。
【0035】
この場合は、外輪2の外周面には、そのセンサ側の端部に全周にわたって凹状の溝2g(以下、「カバー取付部2g」と記す) が形成されており、カバー取付部2gにセンサカバー28の外周部の先端を嵌合させることで、センサカバー28を外輪2に対して固定させている。なお、センサカバー28は、例えば、カバー取付部2gに対して接着剤により接着固定してもよいし、締結部材により締結固定してもよい。あるいは、これらの方法を任意に組み合わせて固定してもよい。また、外輪2にカバー取付部2gを形成することなく、外周面に対してセンサカバー28を直接嵌合させてもよいし、接着又は締結させてもよい。
【0036】
また、一例として、センサカバー28は、内径部と外径部の間に所定の段差部28sが設けられており、段差部28sに内側からその外周面及び軸方向端面を当接させた状態でセンサハウジング26が固定されることにより、センサカバー28とセンサハウジング26とが一体化されている。この場合、段差部28sは、その内径寸法がセンサハウジング26の外径寸法と略同寸となるように形成すればよい。なお、センサハウジング26とセンサカバー28との固定方法としては、例えば、嵌合、溶着、接着や溶接、あるいは締結など、任意の方法を用いればよい。
【0037】
ここで、センサ20に設ける磁気検出素子24の数は、深溝玉軸受10の回転状態の測定に対して要求されるアプリケーションなどに応じて任意に設定すればよい。すなわち、センサ20は、1つの磁気検出素子24でのみ深溝玉軸受10の回転状態を測定する構成であってもよいし、2つ以上の磁気検出素子24で深溝玉軸受10の回転状態を測定する構成であってもよい。
【0038】
2つ以上の磁気検出素子24を取り付ける場合には、その周方向位置を考慮することが望ましい。例えば、2つの磁気検出素子24をセンサ20に対して設けた場合は、当該2つの磁気検出素子24は、磁気状態の変化を検出するタイミングにおいて、その電気角(信号正弦波の1周期を360°とした場合の位相) を90°ずらして(90°の位相差を設けて) 位置付けられるように、回路基板30に対して接続すればよい。これにより、かかる位相差を考慮して各磁気検出素子24における磁気変化の検出結果を比較することで回転方向を検出できるなど、より正確に深溝玉軸受10(具体的には、内輪1及びエンコーダ22) の回転状態を測定することができる。
【0039】
なお、上記した本実施形態においては、センサハウジング26、センサカバー28、及びエンコーダホルダ32の材質については特に説明しなかったが、センサ付き転がり軸受装置の用途に応じて任意の材料を選択することができる。
エンコーダ22と磁気検出素子24を、前述したように内輪1及び外輪2に対して位置付けることで、エンコーダ22が磁気検出素子24と対向した状態、具体的には、エンコーダ22の内周面(磁極面) が磁気検出素子24の径方向外方面(素子配設面) と対向した状態で、内輪1とともに回転する構造とすることができる。
【0040】
すなわち、深溝玉軸受10において、内輪1が回転すると、これとともにエンコーダ22も回転し、磁気検出素子24に対する磁極(N極及びS極) の位置が交互に連続して変化する。このとき、磁気検出素子24を通過する磁束(より具体的には、磁束の磁束密度) が連続的に変化し、かかる変化を磁気検出素子24により検出することで、エンコーダ22の位置や角度などの情報を得ることができる。
【0041】
そして、磁気検出素子24によって検出された磁束密度の変化を回路基板30で電気信号に変換するとともに、当該電気信号(データ) を信号処理部(図示せず) に送信し、当該信号処理部において、単位時間当たりのエンコーダ22の位置や角度などの変動量を演算処理することで、深溝玉軸受10(具体的には、エンコーダ22が固定された内輪1) の回転状態を測定することが可能となる。
【0042】
なお、この場合は、センサ20の回路基板30(磁気検出素子24) と信号処理部とは、図示しない信号ケーブルで接続され、当該信号ケーブルを介して前述した電気信号が信号処理部へ送信(出力) されている。
このような本実施形態の深溝玉軸受10には、図1に示すように、被検出部であるエンコーダ22と検出部である磁気検出素子24との対向部分、具体的には、エンコーダ22の内周面(磁極面) と磁気検出素子24の径方向外方面(素子配設面) との対向部分への鉄粉、塵埃等の異物の侵入を防止するための異物侵入防止部が設けられている。この異物侵入防止部について、以下に説明する。
【0043】
内輪1のセンサ側軸方向端部には、略円筒状のラビリンスシール形成部材40(本発明の構成要件である円筒状部材に相当し、以下「スリンガ40」と記す)が取り付けられている。
まず、スリンガ40の形状について説明する。スリンガ40は、図1,2に示すように、同軸の大径円筒部40aと小径円筒部40bとが環状平板部40cで連結されてなる断面略凸字状の部材である。このスリンガ40は、小径円筒部40bが内輪1の内周面に圧入されて取り付けられており、環状平板部40cが内輪1の軸方向端面に突き当てられている。詳述すると、図2に示すように、内輪1の内周面のうちセンサ側の部分に円周溝1bが形成され、そこにスリンガ40の小径円筒部40bが圧入されている。
【0044】
そして、回転シャフト50を挿通できるように、小径円筒部40bの内径と内輪1の内径とが同一とされ、小径円筒部40bの内周面と内輪1の内周面とで1つの円柱面が形成されるようになっている。よって、スリンガ40が内輪1の内周面に嵌合されるものの、回転シャフトの直径を変更する必要はなく、この深溝玉軸受10に本来用いられる回転シャフトをそのまま使用することができる。ただし、小径円筒部40bの内径を内輪1の内径よりも大径としてもよい。スリンガ40を内輪1に固定する方法は特に限定されるものではないが、上記のような圧入法を採用すれば、固定のための他部材を必要としないため好ましい。
【0045】
図3は、回転シャフト50に装着された深溝玉軸受10の図である。この回転シャフト50は、段差が形成された段付シャフトであり、図3に示すように大径部及び小径部を有する。そして、スリンガ40の環状平板部40cには、内輪1の軸方向端面が突き当てられているとともに、その反対側の面には回転シャフト50の大径部の軸方向端面50aが突き当てられている。すなわち、スリンガ40の環状平板部40cは、回転シャフト50の大径部の軸方向端面50aと内輪1のセンサ側軸方向端面との間に挟まれている。よって、深溝玉軸受10からのスリンガ40の脱落が防止される。
【0046】
上記のようにしてスリンガ40を内輪1に取り付けると、大径円筒部40aが内輪1のセンサ側軸方向端面から軸方向に突出するように配されることとなる。大径円筒部40aの外径寸法はセンサハウジング26の内径寸法よりも小寸であるので、大径円筒部40aの外周面41とセンサハウジング26の内周面26aとが微小な径方向隙間を空けて対向することとなり、この径方向隙間によってラビリンスシールが形成される。すなわち、スリンガ40の大径円筒部40aの外周面41が、本発明の構成要件であるラビリンスシール形成部に相当する。
【0047】
さらに、図1,3から分かるように、エンコーダホルダ32が内輪1の外周面から径方向外方に突出するように設けられていて、センサハウジング26の軸方向端面と全周にわたって対向している。そして、センサハウジング26の軸方向端面とエンコーダホルダ32との間には軸方向隙間が形成されており、この軸方向隙間は、ラビリンスシールを構成する径方向隙間と連通している。
【0048】
連通する両隙間からなる空間は、全体として断面略L字状(詳述すると、軸方向に直交する平面で切断した場合の断面が略L字状である)をなしている。この空間はラビリンス経路を形成するが、断面略L字状という複雑な形状をなしているため、異物がラビリンス経路を通過しにくい。なお、エンコーダホルダ32が、本発明の構成要件であるラビリンス経路形成部に相当する。
【0049】
本実施形態の深溝玉軸受10は、密封装置5によって反センサ側が密封されているとともに、センサ20に形成されたラビリンスシールによってセンサ側が密封されている。そして、ラビリンス経路が断面略L字状の複雑な形状をなしているので、異物がセンサ20まで到達しにくい。そのため、センサ20及び軸受内部に異物が侵入することが防止される。
【0050】
鉄粉等の磁性体がエンコーダ22や磁気検出素子24に到達することがほとんどないため、長期間にわたって内輪1の回転の状態をセンサ20で高精度に測定することができる。また、埃、塵等のゴミ類が深溝玉軸受10の内部に到達することがほとんどないため、長期間にわたって深溝玉軸受10の軸受性能が維持される。よって、本実施形態の深溝玉軸受10は、例えば、電動フォークリフトの走行モータや昇降装置の巻上げモータ等のモータ軸を支持する転がり軸受に好適である。
【0051】
〔第二実施形態〕
本発明に係る回転センサ付き転がり軸受の第二実施形態を、図5を参照しながら詳細に説明する。ただし、第二実施形態の回転センサ付き転がり軸受の構成及び作用効果は、第一実施形態とほぼ同様であるので、異なる部分のみ説明し、同様の部分の説明は省略する。また、図5においては、図1〜3と同一又は相当する部分には、図1〜3と同一の符号を付してある。
【0052】
第一実施形態と第二実施形態の差異は、センサカバー28である。第二実施形態の深溝玉軸受10のセンサカバー28の形状は、第一実施形態とほぼ同様であるが、センサカバー28の内径部の先端は径方向内方を向いておらず(回転シャフト50の外周面に対向しない)、軸方向に屈曲して延出し内輪1のセンサ側軸方向端部に対向している。この軸方向に延出した内径部によって円筒部28cが形成され、これにより、軸方向に直交する平面で切断した場合のセンサカバー28の断面形状は略コ字状をなし、円筒部28cと段差部28sとの間にセンサハウジング26が収容されている。
【0053】
その結果、センサハウジング26の内周面26aはセンサカバー28の円筒部28cに覆われているので、大径円筒部40aの外周面41とセンサカバー28の円筒部28cの内周面とが微小な径方向隙間を空けて対向することとなり、この径方向隙間によってラビリンスシールが形成される。
なお、以上説明した第一及び第二実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は第一及び第二実施形態に限定されるものではない。例えば、第一及び第二実施形態においては、内輪1にスリンガ40を取り付けて、スリンガ40の大径円筒部40aの外周面41によりラビリンスシール形成部を構成したが、センサハウジング26の内周面26a又はセンサカバー28の円筒部28cの内周面と径方向隙間を空けて対向しラビリンスシールを形成することができるならば、スリンガ40以外のものでラビリンスシール形成部を構成してもよい。例えば、内輪1のセンサ側軸方向端面から軸方向に突出する壁体部を、内輪1に一体的に形成してもよい。
【0054】
また、第一及び第二実施形態においては、エンコーダホルダ32によりラビリンス経路形成部を構成したが、センサハウジング26の軸方向端面との間に軸方向隙間を形成することができるならば、エンコーダホルダ32以外のもので軸方向隙間を形成してもよい。例えば、内輪1の外周面から径方向外方に突出する壁体部を、内輪1に一体的に形成してもよい。
【0055】
さらに、スリンガ40の材質は特に限定されるものではないが、金属が好ましく、加工性とコストを考慮すると軟磁性材料がより好ましい。軟磁性材料としては、冷間圧延鋼板(SPCC)、パーマロイ、電磁鋼板等があげられる。
そして、スリンガ40を軟磁性材料で構成し、帯磁させることがさらに好ましい。回転輪と固定輪の接触を避けるためには、ラビリンスシールを構成する径方向隙間の大きさを、深溝玉軸受10のラジアル隙間及びアキシアル隙間以下に設定することはできない。したがって、鉄粉等の微細な磁性体がラビリンスシールを通過してしまう可能性は否定できない。
【0056】
そこで、図4に示すように、軟磁性材料で構成されたスリンガ40を帯磁させた上で深溝玉軸受10に取り付ければ、鉄粉等の微細な磁性体がスリンガ40に吸着されるので、鉄粉等の微細な磁性体がラビリンスシールを通過することはほとんどない。なお、図4においては、スリンガ40の内周面側をS極、外周面側をN極に帯磁させているが、逆でも差し支えない。
【0057】
さらに、深溝玉軸受10へのスリンガ40の取り付けは、深溝玉軸受10の製造工程におけるいずれのタイミングで行ってもよい。例えば、内輪1にスリンガ40を取り付けた後に、スリンガ40が装着された内輪1を用いて軸受の組立を行ってもよいし、組み立てられた軸受の内輪1に対してスリンガ40を取り付けてもよい。また、組み立てられた軸受の内輪1に対してスリンガ40を取り付ける場合には、スリンガ40の取り付けは、軸受にセンサ20、センサハウジング26、センサカバー28を取り付ける前に行ってもよいし、取り付けた後に行ってもよい。
【0058】
よって、十分な異物侵入防止策がなされていない状態で使用されていたセンサ付き転がり軸受装置に対して、スリンガ40を取り付けることにより、ラビリンスシールと複雑なラビリンス経路を形成して、異物侵入防止策を施すこともできる。
さらに、第一及び第二実施形態においては、転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,自動調心ころ軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【符号の説明】
【0059】
1 内輪
1a 軌道面
1b 円周溝
2 外輪
2a 軌道面
3 転動体
10 深溝玉軸受
20 センサ
22 エンコーダ
24 磁気検出素子
26 センサハウジング
26a センサハウジングの内周面
28 センサカバー
28c 円筒部
32 エンコーダホルダ
40 スリンガ
40a 大径円筒部
40b 小径円筒部
40c 環状平板部
41 大径円筒部の外周面
50 回転シャフト
50a 大径部の軸方向端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な回転輪と、前記回転輪を回転可能に支持する固定輪と、前記回転輪が有する軌道面と前記固定輪が有する軌道面との間に転動自在に配された複数の転動体と、前記回転輪の回転の状態を測定するセンサと、を備え、以下の4つの条件を満足することを特徴とするセンサ付き転がり軸受装置。
条件A:前記センサは、前記回転輪と一体に回転可能に前記回転輪に取り付けられた被検出部と、前記被検出部とセンサギャップを空けて対向するように前記固定輪に取り付けられた検出部と、を有し、前記回転輪の回転に伴う前記被検出部の回転の状態を前記検出部によって測定するようになっている。
条件B:前記検出部を保持する略環状のセンサハウジングが、前記固定輪の軸方向端部に取り付けられている。
条件C:略円筒状のラビリンスシール形成部を前記回転輪から軸方向に突出するように設け、前記センサハウジングの周面と前記ラビリンスシール形成部の周面とを、径方向隙間を空けて対向させ、これら両周面間にラビリンスシールを形成する。
条件D:前記センサハウジングの軸方向端面に対向するラビリンス経路形成部を、前記回転輪から径方向に突出するように設け、前記センサハウジングの軸方向端面と前記ラビリンス経路形成部との間に形成される軸方向隙間と、前記ラビリンスシールを構成する前記径方向隙間とを連通させ、これら両隙間により断面略L字状のラビリンス経路を形成する。
【請求項2】
回転可能な回転輪と、前記回転輪を回転可能に支持する固定輪と、前記回転輪が有する軌道面と前記固定輪が有する軌道面との間に転動自在に配された複数の転動体と、前記回転輪の回転の状態を測定するセンサと、を備え、以下の4つの条件を満足することを特徴とするセンサ付き転がり軸受装置。
条件E:前記センサは、前記回転輪と一体に回転可能に前記回転輪に取り付けられた被検出部と、前記被検出部とセンサギャップを空けて対向するように前記固定輪に取り付けられた検出部と、を有し、前記回転輪の回転に伴う前記被検出部の回転の状態を前記検出部によって測定するようになっている。
条件F:前記検出部を保持する略環状のセンサハウジングと、前記センサハウジングを収容しつつ前記固定輪の軸方向端部に取り付けられた略環状のセンサカバーと、を備えている。
条件G:前記センサカバーは、前記センサハウジングの周面を覆う円筒部を有しており、略円筒状のラビリンスシール形成部を前記回転輪から軸方向に突出するように設け、前記センサカバーの円筒部の周面と前記ラビリンスシール形成部の周面とを、径方向隙間を空けて対向させ、これら両周面間にラビリンスシールを形成する。
条件H:前記センサハウジングの軸方向端面に対向するラビリンス経路形成部を、前記回転輪から径方向に突出するように設け、前記センサハウジングの軸方向端面と前記ラビリンス経路形成部との間に形成される軸方向隙間と、前記ラビリンスシールを構成する前記径方向隙間とを連通させ、これら両隙間により断面略L字状のラビリンス経路を形成する。
【請求項3】
円筒状部材を前記回転輪の軸方向端部に取り付けることにより、前記ラビリンスシール形成部を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項4】
前記円筒状部材を軟磁性材料で構成し帯磁させたことを特徴とする請求項3に記載のセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項5】
前記円筒状部材は、同軸の大径円筒部と小径円筒部とが環状平板部で連結されてなる断面略凸字状の部材であり、前記大径円筒部又は前記小径円筒部を前記回転輪の周面に圧入して取り付けたことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項6】
大径部及び小径部を有する段付シャフトと軸受ハウジングとの間に介装され、前記段付シャフトと前記軸受ハウジングとを相対回転可能とし、
前記円筒状部材の小径円筒部が、前記回転輪となる内輪の内周面に圧入されるとともに、前記円筒状部材の環状平板部が、前記段付シャフトの大径部の軸方向端面と前記内輪の軸方向端面との間に挟まれることを特徴とする請求項5に記載のセンサ付き転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−2526(P2013−2526A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133117(P2011−133117)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】