説明

タイヤ加硫金型

【課題】ベントホールへ嵌入する際のベントピースの曲がりを抑制できるとともに、スピューの長さを低減できるタイヤ加硫金型を提供する。
【解決手段】タイヤの外表面を成形するタイヤ成形面1aに、加硫成形時にタイヤの外表面とタイヤ成形面1aとの間のエアを排出させるベントホール5が設けられたタイヤ加硫金型において、ベントホール5に鉄系材料からなる筒状のベントピース6が嵌入され、ベントホール5とベントピース6との界面56に、金型本体及びベントピース6よりも軟質の材料からなり、厚みが500μm以下の介在層7が介在されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの外表面を成形するタイヤ成形面にベントホールが設けられたタイヤ加硫金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ加硫金型においては、タイヤの外表面を成形するタイヤ成形面に複数のベントホールが設けられている。このベントホールは、金型の内部と外部に通じており、加硫成形時にタイヤの外表面とタイヤ成形面との間のエアを排出させることによって、ベアと呼ばれる凹み傷の発生を防止するものである。
【0003】
加硫成形時には、タイヤの外表面のゴムがベントホールに流入し、それによってスピューと呼ばれる多数のゴム突起が形成される。スピューはトリミング処理により切除するのが一般的であるが、トリミングが難しい部位ではスピューを残存させる場合もある。そのため、タイヤの外観を向上するべく、ベントホールに筒状のベントピースを嵌入し、細くて短いスピューを形成するようにしている(例えば下記特許文献1〜3)。
【0004】
ところが、ベントホールの内壁の表面粗さとベントピースの外表面の表面粗さとにより、ベントホールとベントピースの実接触面積が低減し、代わりにベントホールとベントピースとの界面に空気層が介在する。空気は断熱性が高いため、金型本体からベントピースへの熱伝導が阻害され、ベントホールに流入した未加硫ゴムの加硫の進行が抑制されて、スピューが長く形成される。スピューが長くなると、加硫成形後に金型からタイヤを離型させる際、スピューが切れ易くなり、切断されたスピューがベントホールに残ってしまう。その結果、ベントホールが詰まり、加硫成形時にエアが排出されずにベアが発生することがある。
【0005】
そのため、ベントホールの穴径をベントピースの外径より小さくし、圧入、打ち込みにより嵌合条件を締り嵌めとして実接触面積を増やすことで、金型本体からベントピースへの熱伝導の悪化を抑制することが通常採用されている。しかし、圧入、打ち込みによる挿入方法のため、ベントピースが曲がって挿入されるなどの施工不良が発生し易く、ベントピースの湾曲、狭窄により、異形のスピューが形成されるという問題もあった。また、ベントホールとベントピースの実接触面積を適切に拡大することができず、金型本体からベントピースへの熱伝導を向上させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−138656号公報
【特許文献2】特開2000−102926号公報
【特許文献3】特開2008−30402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ベントホールへ嵌入する際のベントピースの曲がりを抑制できるとともに、スピューの長さを低減できるタイヤ加硫金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明に係るタイヤ加硫金型は、タイヤの外表面を成形するタイヤ成形面に、加硫成形時にタイヤの外表面と前記タイヤ成形面との間のエアを排出させるベントホールが設けられたタイヤ加硫金型において、前記ベントホールに鉄系材料からなる筒状のベントピースが嵌入され、前記ベントホールと前記ベントピースとの界面に、金型本体及び前記ベントピースよりも軟質の材料からなり、厚みが500μm以下の介在層が介在されていることを特徴とする。
【0009】
本発明のタイヤ加硫金型では、ベントピースが、銅やアルミニウムなどに比べて硬質の鉄系材料で構成されるため、ベントホールへ嵌入する際のベントピースの曲がりを抑制できる。また、本発明では、ベントホールとベントピースとの界面に、金型本体及びベントピースよりも軟質の材料からなり、厚みが500μm以下の介在層が介在されている。ベントホールの内壁及びベントピースの外表面の微小な凹凸形状に対応して介在層が変形することで、ベントホールの内壁の表面粗さとベントピースの外表面の表面粗さとにより生じるベントホールとベントピースとの界面の空気層を除去することができる。その結果、金型本体からベントピースへの熱伝導を向上させ、ベントホール内に流入した未加硫ゴムの加硫を促進して流動性を減少させることができ、スピューの長さを低減できる。
【0010】
本発明に係るタイヤ加硫金型において、前記介在層は、前記金型本体又は前記ベントピースよりも熱伝導性に優れる材料からなることが好ましい。介在層を熱伝導性に優れる材料で構成することで、金型本体からベントピースへの熱伝導をさらに向上させることができ、スピューの長さを効果的に低減できる。
【0011】
本発明に係るタイヤ加硫金型において、前記介在層は、前記ベントホールの内壁又は前記ベントピースの外表面に、コーティング又はメッキにより積層形成されていることが好ましい。この構成によれば、ベントホールとベントピースとの界面の全体に、均一な厚みの介在層を介在させることができ、金型本体からベントピースへの熱伝導をさらに向上させることができ、スピューの長さを効果的に低減できる。
【0012】
また、本発明に係るタイヤ加硫金型において、前記介在層は、25℃でB型粘度計により測定される粘度が10000mPa・s以上のペースト状であることが好ましい。この構成によれば、ベントホールの内壁及び/又はベントピースの外表面にペースト状の介在層を塗布した状態で、ベントホールへベントピースを挿入することにより、ベントホールとベントピースとの界面に介在層を容易に介在させることができる。
【0013】
本発明に係るタイヤ加硫金型において、前記介在層は、金属材料の粉末を練り込んだエポキシ樹脂系接着剤からなることが好ましい。この構成によれば、介在層の熱伝導性を向上させることができるとともに、ベントホールの内壁及び/又はベントピースの外表面に介在層を容易に塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るタイヤ加硫金型の一例を示す縦断面図
【図2】タイヤ成形面に設けられたベントホールを拡大して示す断面図
【図3】ベントピースを拡大して示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るタイヤ加硫金型の一例を示す縦断面図である。本実施形態のタイヤ加硫金型(以下、単に金型と称する場合がある。)は、タイヤのトレッド部に当接するトレッド型部1と、タイヤのサイドウォール部に当接するサイド型部2,3と、タイヤのビード部が嵌合されるビードリング4とを備える。
【0016】
加硫成形時には、不図示の開閉機構によって金型を型開きし、グリーンタイヤをタイヤ軸方向が上下になるようにセットして型締めした後、ブラダーと呼ばれるゴムバッグを膨張させてグリーンタイヤを拡張変形する。これにより、グリーンタイヤの外表面がタイヤ成形面1aに押し当てられて成形される。
【0017】
図示を省略しているが、タイヤ成形面1aには、溝部を成形するための骨部(凸部)と、陸部を成形するための凹部が設けられており、加硫成形時には、その凹凸形状に対応したトレッドパターンがタイヤのトレッド面に形成される。タイヤ成形面1aには、金型の内部と外部に通じる複数のベントホールが穿設されていて、タイヤの外表面とタイヤ成形面1aとの間のエアを排出可能に構成されている。通常、ベントホールは凹部の各々に設けられている。
【0018】
図2は、タイヤ成形面1aに設けられたベントホールを拡大して示す断面図である。ベントホール5には、筒状のベントピース6が嵌入されている。ベントピース6は、ステンレス鋼又は炭素鋼などの鉄系材料で形成されている。これにより、ベントホール5へ嵌入する際のベントピース6の曲がりを抑制できる。さらに、鉄系材料は、銅やアルミニウムに比べ熱容量が大きいため、グリーンタイヤを金型にセットする際の金型開放時、及び未加硫ゴムがベントピース6に流入する際において、ベントピース6の内表面の温度降下が発生しにくいため、加硫が適切に進行し、スピューの短尺化が可能である。また、鉄系材料は、銅材料のようにゴムとの密着性が高い(強い)金属に比べ、加硫後の離型の際のスピューの脱型抵抗(スピューが穴から抜ける際の抵抗)も増加しない。また、ベントピース6は、モース硬度が5.0以上の材料で形成されるのが好ましい。これにより、加硫ガス等の汚染除去のためにドリルビット等を用い、汚染堆積物を削り取るクリーニング時においても、ベントピース6の内表面の損傷を防ぐことができる。
【0019】
本実施形態では、ベントホール5の目詰まり時にベントピース6内にドリルを挿通させる作業(錐通し作業)を簡便化するべく、ベントホール5の開口部5a側に位置するベントピース6の頭部に座繰りが形成されている。但し、本発明では、ベントピース6に座繰りを形成していなくても構わない。ベントピース6は、その外径D1が内径D2の2倍以上であることが好ましく、4倍以上であることがより好ましい。これにより、ベントピース6の肉厚が確保でき、ベントホール5へ嵌入する際の曲がりを効果的に抑制することができる。
【0020】
ベントホール5とベントピース6との界面56には、金型本体及びベントピース6よりも軟質の材料からなる介在層7が介在されている。本発明の金型本体とは、ベントホール5が設けられた金型を指し、本実施形態ではタイヤ成形面1aを指す。金型本体は、モース硬度が4.0以上の鉄系材料やアルミニウム合金で形成されている。具体的な材料としては、アルミニウム合金鋳物(AC7A)、又は一般構造用圧延鋼材(SS400)などが例示される。
【0021】
ベントホール5とベントピース6との界面56では、ベントホール5の内壁の表面粗さとベントピース6の外表面の表面粗さとにより、ベントホール5とベントピース6の実接触面積が低減し、代わりにベントホール5とベントピース6との界面56に空気層が介在する。本発明では、介在層7がベントホール5の内壁及びベントピース6の外表面の微小な凹凸形状に対応して変形することで、ベントホール5とベントピース6との界面56の空気層を除去することができる。
【0022】
介在層7は、金型本体及びベントピース6の材料と異なる金属、具体的には銅、銀、アルミニウム、亜鉛などの金属で構成される。介在層7は、モース硬度が3.0以下の材料で形成されるのが好ましい。更には、介在層7は、金型本体及びベントピース6の材料との硬度差が1.5以上となる材料で形成されるのがより好ましい。なお、本発明では、ベントホール5の中にベントピース6を嵌入するという構成により、嵌入時に介在層7は削られながら又は圧縮されながら凹凸形状に沿うという変形であるため、一般的に指標とされているロックウェル硬さ、ビッカース硬さ、ブリネル硬さなどの押し付け、へこみ量を観測するものではなく、削られ易さを示す指標で硬さを表現すべきであり、通常一般的な指標とは異なるモース硬度により硬さを評価している。
【0023】
また、介在層7は、厚みが500μm以下となっている。厚みを500μm以下とすることにより、ベントホール5及びベントピース6の表面性状に介在層7の変形が追随し易くなる。介在層7の厚みが500μmよりも大きいと、介在層7の内部応力が増大する傾向が強く、弾性変形が支配的となるため、微小な凹凸形状に対応した塑性変形が得難く、その結果、界面56における実接触面積の確保が困難である。また、介在層7の厚みは100μm以上であることが好ましい。厚みが100μmよりも小さいと、介在層7の変形代が少なく、凹凸形状に適切に対応することが困難となる。
【0024】
図3は、ベントピース6を拡大して示す断面図である。介在層7は、ベントピース6の外表面に、溶射、蒸着等のコーティング又はメッキにより積層形成されているのが好ましい。介在層7は、ベントピース6の外表面のうち、ベントホール5と接する部分に少なくとも形成されればよい。外表面に介在層7を形成した状態でベントピース6をベントホール5へ嵌入することで、ベントホール5とベントピース6との界面56に容易に介在層7を介在させることができる。介在層7は、ベントピース6の外表面に隙間無く均一に積層形成されるのが好ましい。これにより、ベントホール5とベントピース6との界面56の全体に、均一な厚みの介在層7を介在させることができる。なお、積層形成される介在層7の厚みは、500μm以下が好ましい。
【0025】
本発明のタイヤ加硫金型は、タイヤ成形面に設けたベントホールに上記の如きベントピースを嵌入し、両者の界面に介在層を介在させたこと以外は、通常のタイヤ加硫金型と同等であり、従来公知の形状や材質、開閉機構などが何れも本発明に採用することができる。前述の実施形態では、トレッド型部と一対のサイド型部とを備えた金型構造を示したが、本発明では、トレッド型部の中央部に分割面を有して上下に二分される金型構造であっても構わない。
【0026】
<別実施形態>
(1)前述の実施形態では、介在層7をベントピース6の外表面に形成しているが、介在層7は、ベントホール5の内壁に、溶射、蒸着等のコーティング又はメッキにより積層形成されてもよい。
【0027】
(2)また、介在層7はペースト状であってもよい。ペースト状の介在層7をベントホール5の内壁及び/又はベントピース6の外表面に塗布した状態で、ベントホール5にベントピース6を挿入することで、ベントホール5とベントピース6との界面56に介在層7を容易に介在させることができる。ペースト状の介在層7は、塗布やベントピース6の挿入時の施工性を勘案すると、25℃でB型粘度計により測定される粘度が10000mPa・s以上であることが好ましい。
【0028】
このとき、介在層7は、金属材料の粉末を練り込んだエポキシ樹脂系接着剤からなることが好ましい。金属材料の粉末としては、10μm以下の粒径である窒化アルミニウムや酸化マグネシウムの粉末が例示される。なお、窒化アルミニウム自体のモース硬度は7程度あり非常に硬いが、主たる介在層7はエポキシ樹脂系接着剤であるから、粒径が小さいこともあり硬くともよい。
【0029】
介在層7をペースト状とする場合は、ベントホール5の穴径をベントピース6の外径D1に比べ200〜400μm大きくすることが好ましい。これによれば、ペースト状の介在層7の粘度とも合わせ、介在層7がベントピース6の挿入時に掻き取られることなく、ベントホール5とベントピース6との界面に介在層7を効果的に介在させることが可能となる。さらにベントホール5とベントピース6の間に隙間があるため、挿入時にはベントピース6の変形を抑制可能である。また、非熱伝導体である接着剤に金属微粒子を含有させることにより、熱伝導を阻害することなく、ベントピース6を棄損することなく挿入可能であり、スピューの長さを効果的に低減可能となる。
【実施例】
【0030】
本発明の構成と効果を具体的に示すため、金型本体の材質、ベントピースの材質及び外径、介在層の厚みを変えてタイヤの加硫成形を実施し、発生したスピューの長さを評価した。また、ベントホールへ嵌入する際のベントピースの曲がりを評価した。なお、評価対象となるタイヤのサイズやゴム配合、加硫条件は各例で統一している。評価結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
金型本体の材質は、アルミニウム合金鋳物(AC7A)、又は一般構造用圧延鋼材(SS400)とした。ベントピースの材質は、ステンレス鋼(SUS301)、純アルミ(A1050)、高力アルミ(A5052)、又は機械構造用炭素鉄鋼材(S45C)とした。介在層の材質は亜鉛とした。各例において、ベントピースの内径を0.6mm、外径を1.0〜4.0mm、全長を10mmとした。
【0033】
表1より、実施例1,2では、比較例2に比べて、スピューの長さが低減されていることが分かる。比較例1も、比較例2に比べるとスピューの長さが低減されているが、介在層の厚みが大き過ぎるため空気層の除去が不十分となり、実施例1,2に比べるとスピューの長さが長い。実施例3〜5も、スピューの長さが実施例1,2と同等に抑えられている。また、実施例1〜5ではベントピースの曲がりが生じなかったが、比較例3〜6のようにベントピースをA1050、A5052で形成した場合、ベントピースに曲がりが生じた。また、比較例7のようにベントピースの外径を内径の2倍より小さくした場合、ベントピースに曲がりが生じた。
【符号の説明】
【0034】
1a タイヤ成形面
5 ベントホール
6 ベントピース
7 介在層
56 界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの外表面を成形するタイヤ成形面に、加硫成形時にタイヤの外表面と前記タイヤ成形面との間のエアを排出させるベントホールが設けられたタイヤ加硫金型において、
前記ベントホールに鉄系材料からなる筒状のベントピースが嵌入され、
前記ベントホールと前記ベントピースとの界面に、金型本体及び前記ベントピースよりも軟質の材料からなり、厚みが500μm以下の介在層が介在されていることを特徴とするタイヤ加硫金型。
【請求項2】
前記介在層は、前記金型本体又は前記ベントピースよりも熱伝導性に優れる材料からなることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項3】
前記介在層は、前記ベントホールの内壁又は前記ベントピースの外表面に、コーティング又はメッキにより積層形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項4】
前記介在層は、25℃でB型粘度計により測定される粘度が10000mPa・s以上のペースト状であることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項5】
前記介在層は、金属材料の粉末を練り込んだエポキシ樹脂系接着剤からなることを特徴とする請求項4に記載のタイヤ加硫金型。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−59908(P2013−59908A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199603(P2011−199603)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】