説明

タイヤ形状の測定方法

【課題】回転するタイヤのトレッド部の形状を測定する上で有利なタイヤ形状の測定方法を提供する。
【解決手段】可撓性を有する薄板状のシート体54の表面に格子パターン52が形成されることでパターンシート56が設けられる。格子パターン52の形成は、パターンシート56の表面に塗料を印刷することでなされる。パターンシート56の表面と反対側に位置する裏面をタイヤ2のトレッド部2Aの外周面202に接着剤により接着して貼り付けることによって、トレッド部2Aの外周面202に格子パターン52(特定パターン50)が形成される。パターンシート56の表面の全域がほぼ均一な厚さを有する弾性を有する透明な材料で構成された保護層58によって覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ形状の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動的なタイヤ変形を測定する方法が提案されている(特許文献1参照)。
この方法は、レーザー変位計から照射されるレーザー光を回転するタイヤの幅方向にスキャンさせることでタイヤのトレッド部の幅方向の形状をタイヤの周方向にわたって平均化して測定するものである。
【特許文献1】特開2002−116012
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、回転中のタイヤ、特に高速で回転しているタイヤでは幅方向にも径方向にもタイヤは振動しているため、この方法では精度の高い測定を行うことは難しい。
特に、形状変化の激しいタイヤショルダー部付近では高い精度での測定を行うことはほぼ不可能である。
さらに、タイヤ変形は周方向において均一ではないため、平均化処理を行ったとしても測定位置の影響を受けてしまう。
そこで、スプレーにより塗料をタイヤ表面に吹き付けることでランダムパターンをタイヤ表面に形成しておき、2台の撮像装置によって前記ランダムパターンを撮像して得た画像をパターンマッチングすることによりタイヤ周方向の位置を特定すると共に、2台の撮像装置によって得た画像を校正画像と対比することでタイヤの変形や表面歪を計算により求める技術が提供されている。
ところで、タイヤの動的な形状を測定するためには、タイヤを回転させることが必要であり、そのため、タイヤのトレッド部に回転するドラムの外周を押し付けてタイヤを回転させている。
したがって、ランダムパターンをトレッド部の外周面に形成すると、トレッド部に形成されたランダムパターンの塗料がドラムの外周面に接触することで容易に剥離、脱落してしまうことから、ランダムパターンの形成箇所はタイヤのサイド部に限定されてしまう。
そのため、従来、回転するタイヤのトレッド部の形状を正確に測定することは困難であった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転するタイヤのトレッド部の形状を測定する上で有利なタイヤ形状の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明は、予めタイヤのトレッド部が接地する外周面に、該外周面に沿って特定パターンを形成しておき、前記タイヤを回転させた状態で前記特定パターンを2台の撮像装置によって撮像して得た画像データを演算処理することにより前記特定パターンの3次元形状を求めるタイヤ形状の測定方法であって、前記特定パターンは、該特定パターンの全域がほぼ均一な厚さで弾性を有する透明な材料で構成された保護層によって覆われていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、タイヤのトレッド部の外周面に形成された特定パターンの全域がほぼ均一な厚さを有する弾性を有する透明な材料で構成された保護層によって覆われているので、タイヤの回転に伴って特定パターンが脱落、剥離しないため、従来測定が困難であったタイヤの回転中におけるトレッド部の形状の測定を簡単かつ高精度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施の形態によるタイヤ形状の測定方法について図面を参照して説明する。
図1は本実施の形態のタイヤ形状の測定方法を行うための測定システムの構成図である。
測定システム10は、回転ドラム12、モータ14、モータ制御部16、ライト18、第1の撮像装置20A、第2の撮像装置20B、トリガーセンサ22、パーソナルコンピュータ24などを含んで構成されている。
【0007】
回転ドラム12は測定対象となるタイヤ2を回転させるためのものである。
回転ドラム12は、円筒状の外周面12Aを有する筒状を呈し、その中心軸を中心に不図示の軸受け機構により回転可能に支持されており、モータ14の駆動力によって前記中心軸を中心にして回転される。
測定対象となるタイヤ2は、その中心軸を回転ドラム12の中心軸と平行させた状態で不図示の軸受け機構により回転可能に支持されており、タイヤ2のトレッド部2Aが接地する外周面202が回転ドラム12の外周面12Aに当接された状態で回転ドラム12が回転されることにより、タイヤ2が回転ドラム12の回転に追従して回転されるように構成されている。
モータ制御部16は、モータ14の回転速度を調整するものである。
【0008】
ライト18は、タイヤ2のトレッド部2Aに対して撮影用の光を照射するものである。
ライト18としては、ハロゲンランプなど従来公知のさまざまなランプが採用可能である。
第1の撮像装置20A、第2の撮像装置20Bは、パーソナルコンピュータ24の制御により、後述するタイヤ2のトレッド部2Aの外周面202に設けられた特定パターン50を撮影すると共に、撮影した画像データをパーソナルコンピュータ24に供給するものである。
第1、第2の撮像装置20A、20Bは互いに異なる位置に設けられている。
これら第1、第2の撮像装置20A、20Bとしては、CCDカメラなど従来公知のさまざまな撮像装置が採用可能である。
トリガーセンサ22は、特定パターン50の回転位置が第1、第2の撮像装置20A、20Bによって撮影可能な箇所に到達したことをパーソナルコンピュータ24に知らせるためのものである。
トリガーセンサ22は、予めタイヤ2のリム部2Bに形成されたマーク4を検出することで生成したトリガー信号を第1、第2の撮像装置20A、20Bに供給することでトレッド部2Aの回転位置を第1、第2の撮像装置20A、20Bを介してパーソナルコンピュータ24に知らせる。
トリガーセンサ22としては反射型光電センサなどの従来公知のさまざまな位置検出用センサが採用可能である。
【0009】
図2はパーソナルコンピュータ24の構成を示すブロック図である。
パーソナルコンピュータ24は、CPU26と、不図示のインターフェース回路およびバスラインを介して接続されたROM28、RAM30、ハードディスク装置32、ディスク装置34、キーボード36、マウス38、ディスプレイ40、プリンタ42、入出力インターフェース44などを有している。
ROM28は制御プログラムなどを格納し、RAM30はワーキングエリアを提供するものである。
ハードディスク装置32は本発明方法を実現するためのプログラムを格納している。
ディスク装置34はCDやDVDなどの記録媒体に対してデータの記録および/または再生を行うものである。
キーボード36およびマウス38は、操作者による操作入力を受け付けるものである。
ディスプレイ40はデータを表示出力するものであり、プリンタ42はデータを印刷出力するものであり、ディスプレイ40およびプリンタ42によってデータを出力する。
入出力インターフェース44は、外部機器である第1、第2の撮像装置20A、20Bとの間でデータの授受を行うものであり、具体的には、第1、第2の撮像装置20A、20Bからの画像データの受付などを行う。
【0010】
図3はパーソナルコンピュータ24の機能ブロック図である。
パーソナルコンピュータ24は、機能的には、入力手段24A、処理手段24B、出力手段24Cを含んで構成されている。
入力手段24Aは、タイヤ2の形状を測定するために必要なデータを入力するものであり、それらデータについては後述する。
処理手段24Bは、入力手段24Aによって入力されたデータに基づいてタイヤ2の形状を示す3次元座標データ(3次元空間座標データ)を生成するものであり、ハードディスク装置32に格納されているプログラムがRAM30にロードされ、CPU26が前記プログラムに基づいて動作することで実現される。
出力手段24Cは、処理手段24Bによる処理結果から構成されるタイヤ2の形状を示す測定データを出力するものである。
本実施の形態では、CPU26、キーボード36、マウス38、ディスク装置34、入出力インターフェース44によって入力手段24Aが構成され、CPU26によって処理手段24Bが構成され、CPU26、ディスプレイ40、プリンタ42、ディスク装置34、入出力インターフェース44などによって出力手段24Cが構成されている。
【0011】
次に、タイヤ2のトレッド部2Aに設けた特定パターン50を用いたタイヤ形状の測定原理について説明する。
図4はタイヤ2のトレッド部2Aの外周面202に設けられた特定パターン50の説明図である。
特定パターン50は、図4に示すように、予めタイヤ2のトレッド部2Aの外周面202に形成されるものである。
本実施の形態では、特定パターン50は、互いに平行する複数の直線からなる縦線52Aと、互いに平行する複数の直線からなる横線52Bとが直交することで規則的な形状を呈する格子パターン52で構成されている。
隣り合う縦線52A同士の間隔L1と、隣り合う横線52B同士の間隔L2とは同一(L1=L2)であり、したがって、格子パターン52は正方格子を呈している。
特定パターン50は、第1、第2の撮像装置20A、20Bが特定パターン50を撮像して得た画像データを演算処理することにより特定パターン50の3次元形状を求め、これによりタイヤ2のトレッド部2Aの形状を測定するために用いられる。
なお、互いに異なる位置に配置された2台の撮像装置で撮影した画像データに基づいて測定対象物の3次元座標を得る手法は種々提案されており、それらの手法を適宜採用すればよい。
例えば、格子パターン52の画像データから3次元座標データを生成する演算処理(デジタル画像解析法)の手法としては、次に挙げる手法が採用可能である。
1)位相シフトモアレ法
文献(第4回知能メカトロニクスワークショップ講演論文集p.102-105(1999))に記載されている手法である。
位相シフトモアレ法は、2台のCCDカメラで得られた測定物体の位相分布と、実校正用格子の位相分布とを位相シフトモアレ法によって求め、それらを組み合わせることで測定物体の空間座標(3次元座標)を求めるものである。
2)フーリエ変換格子法
文献(「フーリエ変換を用いた応力・歪み分布測定」:非破壊検査第44巻第7号(1995年)」に記載されている手法である。
測定対象物の格子パターンを2台の撮像装置によって撮影して画像をそれぞれ求める。そして、3次元空間内のある点S(格子パターン上の点S)に対応する各撮像装置で撮影した画像内の座標値と各撮像装置の空間座標から直線L、Lを求める。2つの直線L、Lの交点を計算することで点Sの空間座標を得るものである。
【0012】
図6は撮像装置の校正データを得る方法の説明図、図7(A)、(B)は各撮像装置で撮影された画像データの説明図、図8は校正を行うための構成を示す説明図である。
図6に示すように、第1、第2の撮像装置20A、20Bによって撮影可能な箇所に、その表示面が位置するように校正板を配置する。
図8に示すように、校正板100の表示面には、規則性をもって繰り返される形状で構成された校正用規則性パターン52´が形成されている。
校正板100は、その表示面が第1、第2の撮像装置20A、20Bと離間接近する方向(Z方向)に沿って移動するように、リニアステージ62を介してベース64上に設けられている。
図6、図7(A)、(B)に示すように、第1、第2の撮像装置20A、20Bによって校正用規則性パターン52´を撮影すると、校正用規則性パターン52´上に位置する3次元座標の点Sは、第1の撮像装置20Aによって撮影された画像上の2次元座標の点S(i、j)に対応し、また、第2の撮像装置20Bによって撮影された画像上の2次元座標の点S(i、j)に対応することになる。
言い換えると、2次元座標の点S(i、j)、点S(i、j)は、第1、第2の撮像装置20A、20Bの撮像素子(CCD)の画素位置に相当する。
ここで、図8に示すように、校正板100をZ方向における距離を変えつつ、第1、第2の撮像装置20A、20Bにおける画素位置を得る。言い換えると、校正板100(校正用規則性パターン52´)のZ方向における位置RをR0、R1と異ならせると共に、各位置R0、R1において校正用規則性パターン52´上の点Sをそれぞれ撮影して2次元座標の点S=M0、M1、点S=N0、N1を得る。
このようにZ方向の位置をZ0、Z1に変えて、校正用規則性パターン52´上の全ての点Sの撮影を行い、それら点Sに対応する2次元座標の点S、点Sを得ることにより、2次元座標の点S、点Sと3次元座標の点Sとの関連付けを行うことができる。
このような校正用規則性パターン52´上の点Sと第1、第2の撮像装置20A、20Bで撮影された画像における2次元座標の点S、点Sとを関連付けたデータを本明細書では校正データという。
フーリエ変換格子法、位相シフトモアレ法は、共に校正データと測定物体画像の解析結果とを対比することで3次元座標を求める。
【0013】
次に格子パターン52について説明する。
図5は図4のAA線断面図である。
図5に示すように、本実施の形態では、可撓性を有する薄板状のシート体54の表面に格子パターン52(図4)が形成されることでパターンシート56が構成されている。
シート体54を構成する材料としては、可撓性と弾性に優れた材料であればよく、ゴムなどの弾性材料が採用可能であり、シート体54の厚さは、例えば、0.1mm〜0.5mm程度である。
格子パターン52の形成は、パターンシート56の表面に塗料を印刷することでなされる。
具体的には、図4に示す縦線52Aおよび横線52Bの部分と、縦線52Aおよび横線52Bを除く矩形状の部分との双方を、塗料を印刷することで形成し、その際、縦線52Aおよび横線52Bの部分を構成する塗料の厚さと、縦線52Aおよび横線52Bを除く矩形状の部分を構成する塗料の厚さとがほぼ同一となるようにする。
このように、格子パターン52の全域をほぼ均一の厚さで構成すると、第1、第2の撮像装置20A、20Bで格子パターン52を撮影した際に、縦線52Aおよび横線52Bの部分と、縦線52Aおよび横線52Bを除く矩形状の部分との厚さの違いによって生じる格子パターン52の厚さ方向における位置の違いをなくし、撮像装置20A、20Bによって撮像された画像上における位置の誤差を抑制する上で有利となる。
なお、校正板100に設ける校正用格子パターン50´も上記格子パターン50と同様に校正用格子パターン50´の全域をほぼ均一の厚さで構成することが撮像装置18A、18Bによって撮像された画像上における位置の誤差を抑制する上で有利となる。
【0014】
そして、パターンシート56の表面と反対側に位置する裏面をタイヤ2のトレッド部2Aの外周面202に接着剤により接着して貼り付けることによって、トレッド部2Aの外周面202に格子パターン52(特定パターン50)が形成される。
さらに、パターンシート56の表面の全域がほぼ均一な厚さを有する弾性を有する透明な材料で構成された保護層58によって覆われている。
保護層58を構成する材料としては、弾性と透明性に優れた材料であればよく、例えば、市販の透明な接着剤をパターンシート56の表面全域に塗布したのち乾燥、硬化することで保護層58を形成することができる。
このような接着剤としては、市販の弾性接着剤が採用可能であり、例えば、セメダイン株式会社の商品名スーパーXが採用可能である。
また、保護層58は、タイヤ2の回転時にトレッド部2Aを構成するトレッドゴムが変形する際、トレッドゴムの変形に影響を与えないことがタイヤ2の形状を正確に測定する上で好ましい。
そのため、保護層58の弾性率は、トレッドゴムの弾性率になるべく近いことが好ましいが、保護層58の弾性率は、トレッドゴムの弾性率の1/10倍以上10倍以下であればよい。
保護層58の弾性率がトレッド部2Aを構成するトレッドゴムの弾性率の1/10倍より小さい場合、接地回転による変形に追従することが難しくなり耐久性が低下する不利がある。
また、保護層58の弾性率がトレッド部2Aを構成するトレッドゴムの弾性率の10倍より大きい場合、トレッド部2Aの変形を抑制して測定結果の精度を低下させる不利がある。
また、保護層58の厚さは少なくとも1mm以下であることが好ましい。
保護層58の厚さが1.0mmより大きい場合には、測定結果の精度を低下させる可能性がある。
なお、第1、第2の撮像装置20A、20Bによって透明な保護層58を介して格子パターン52を撮影するが、この際、第1、第2の撮像装置20A、20Bによって撮影される格子パターン52は、保護層58の屈折率などの光学的な影響を受けることになる。
したがって、前述した校正板100の表面に形成した校正用規則性パターン52´の全域にも格子パターン52を覆う保護層58と同一の材料で同一の厚さの保護層を校正用パターンの保護層として形成することが、校正データに及ぼす保護層58の屈折率などの光学的な影響を取り除く上で好ましい。
この際、校正用パターンの保護層の厚さは、格子パターン52を覆う保護層58の少なくとも0.5倍以上1.5倍以下であることが校正データに及ぼす保護層58の屈折率などの光学的な影響を効果的に取り除く上で好ましい。
【0015】
次に、図1、図3、および図9に示す本実施の形態のタイヤ形状の測定方法の手順を示すフローチャートを参照して測定動作について説明する。
まず、測定対象となるタイヤ2のトレッド部2Aの外周面202にパターンシート56を接着することで格子パターン52を形成する(ステップS10)。
次に、格子パターン52の全域を覆うように保護層58を形成する(ステップS12)。
【0016】
次にコンピュータ24を用いて校正データD0を生成する。
すなわち、第1、第2の撮像装置20A、20Bにより校正用規則性パターン52´を撮影することにより入力手段24Aを介して第1、第2の画像データD1、D2が処理手段24Bに供給されると、処理手段24Bは、それら第1、第2の画像データD1、D2に基づいて校正データD0を生成する(ステップS14)。
校正データD0は、ハードディスク装置32などの記憶手段にいったん格納される。
【0017】
次に、タイヤ2を前記軸受け部にセットし、タイヤ2のトレッド部2Aが回転ドラム12の外周面12Aに追従してタイヤ2が回転できる状態とする(ステップS16)。
そして、モータ制御部16を介してモータ14を起動させ、タイヤ2が所望の回転速度で回転するように制御する。
トリガーセンサ22のトリガー信号により第1、第2の撮像装置20A、20Bが撮影動作を実行して格子パターン52を撮影することで、処理手段24Bは第1の画像データD1、第2の画像データD2を入力手段24Aを介して取得する(ステップS18)。
【0018】
次いで、処理手段24Bは、第1の画像データD1、第2の画像データD2、校正データD0に基づいて演算処理を行い(ステップS20)、格子パターン52の3次元座標データD10を生成し、3次元座標データD10を出力手段24Cを介して出力する(ステップS22)。
なお、タイヤ2のトレッド部2Aの形状の検証に際しては、いったん、ステップS16の後で、すなわち、タイヤ2を回転させる前に3次元座標データD10を取得しておく。そして、タイヤ2の回転前の3次元座標データD10と、ステップS22で得られたタイヤ2の回転時の3次元座標データD10とを比較することにより、タイヤ2のトレッド部2Aの形状変化、表面歪などを検証する。
【0019】
本実施の形態によれば、タイヤ2のトレッド部2Aの外周面202に形成された格子パターン52の全域がほぼ均一な厚さを有する弾性を有する透明な材料で構成された保護層58によって覆われているので、格子パターン52が回転ドラム12の外周面12Aに当接しても脱落、剥離しないため、第1、第2の撮像装置20A、20Bによる格子パターン52の撮影を正確かつ安定して行えるため、従来測定が困難であったタイヤ2の回転中におけるトレッド部2Aの形状の測定を簡単かつ高精度に行うことができ有利となる。
【0020】
特に、従来のレーザー光をタイヤの幅方向にスキャンして測定する技術では、タイヤの振動の影響を受けやすかったのに対し、本実施の形態では、高速回転時(走行速度に換算して60km/H以上)のタイヤの振動の影響を受けることがなく、したがって、タイヤショルダー部付近での高い精度での測定を行うことが可能である。
また、従来のレーザー光をタイヤの幅方向にスキャンして測定する技術では、タイヤ形状を周方向にわたって平均化して測定するに留まるものであったのに対して、本実施の形態では、トレッド部2Aのうち、格子パターン52を形成した箇所の形状を特定して測定することができる。すなわち、トレッド部2Aのうちタイヤ2の周方向および幅方向の箇所を特定して形状の測定を行うことができ、言い換えると、回転中のタイヤ2のトレッド部2Aの変形を特定の位置で測定することが可能となる。
したがって、タイヤ2を構成する各部材のスプライス部分(タイヤ2の径方向において部材が重なり合う部分)における形状を特定して高精度に測定することができるため、高速回転時における各部材のスプライス部分がタイヤ2のトレッド部2Aの変形にどのような影響を与えているかを検証する上で有利となる。
また、騒音対策として一般的に採用されているトレッド部2Aのピッチバリエーションが、高速回転時のタイヤ変形にどのような影響を与えるのかを検証する上で有利となる。
したがって、ピッチバリエーションやタイヤ各部材のスプライス部分が、トレッド部2Aの磨耗や高速回転時(高速走行時)のタイヤ2のUF(ユニフォーミティ)に及ぼす影響を正確に検証する上で有利となる。
すなわち、タイヤ開発においてはパターンノイズ対策としてパターンの大きさを周上で変化させるピッチバリエーションが通常行われている。さらにタイヤのほとんどの部材はタイヤ製造上の理由からスプライス部が存在する。
これらのピッチバリエーションやスプライス部の影響により、高速走行時のタイヤ変形は不均一となりタイヤ周上の偏磨耗を生ずる原因となる場合がある。これらの解析を行うためにはタイヤ周上での平均の変形ではなく、タイヤ周上での特定位置でのタイヤトレッド部の変形を測定する必要がある。
本実施の形態によれば、このようなタイヤ周上での特定位置でのタイヤトレッド部の変形を測定することができることから、タイヤ開発の効率化を図る上で有利となるものである。
【0021】
なお、本実施の形態では、格子パターン52をシート体54の表面に形成することによってパターンシート56を設け、このパターンシート56をトレッド部2Aの外周面202に貼り付けることで格子パターン52を形成し、格子パターン52を保護層58で覆う場合について説明したが、格子パターン52をトレッド部2Aの外周面202に直接形成し、格子パターン52を保護層58で覆うようにしても本実施の形態と同様の効果が奏されることは無論である。
しかしながら、本実施の形態のようにパターンシート56を用いた場合には、パターンシート56をトレッド部2Aに貼り付けるという極めて簡単な作業で格子パターン52を形成することができ、タイヤ形状の測定時の作業性の向上を図る上で有利である。
【0022】
また、本実施の形態では、特定パターン50として格子パターン52を用いた場合について説明したが、特定パターン50は不規則な形状からなるランダムパターンであってもかまわない。
ランダムパターンは、塗料をスプレーなどによってトレッド部2Aの外周面202に吹き付けることで形成し、ランダムパターンを保護層58で覆うようにしてもよい。
あるいは、塗料をスプレーなどによってシート体54の表面に吹きつけることでランダムパターンを形成することでパターンシート56を構成し、このパターンシート56をトレッド部2Aの外周面202に貼り付けることでランダムパターンを形成し、ランダムパターンを保護層58で覆うようにしてもよい。
また、特定パターン50としてランダムパターンを用いた場合には、撮影したランダムパターンの画像をパターンマッチングすることによりタイヤ2の周方向での位置の特定を行うと共に、第1、第2の撮像装置で撮影した画像と校正画像を対比することで物体の変形や表面歪を計算する手法が採用可能である。
このようなランダムパターンの画像データから3次元座標データを生成する手法は公知であり、例えば、丸紅情報システムズ株式会社の商品名ARAMIS(非接触3次元解析システム)によって採用されているものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態のタイヤ形状の測定方法を行うための測定システムの構成図である。
【図2】パーソナルコンピュータ24の構成を示すブロック図である。
【図3】パーソナルコンピュータ24の機能ブロック図である。
【図4】タイヤ2のトレッド部2Aの外周面202に設けられた特定パターン50の説明図である。
【図5】図4のAA線断面図である。
【図6】撮像装置の校正データを得る方法の説明図である。
【図7】(A)、(B)は各撮像装置で撮影された画像データの説明図である。
【図8】校正を行うための構成を示す説明図である。
【図9】本実施の形態のタイヤ形状の測定方法の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0024】
2……タイヤ、2A……トレッド部、20A……第1の撮像装置、20B……第2の撮像装置、50……特定パターン、52……格子パターン、58……保護層、D1……第1の画像データ、D2……第2の画像データ、D10……3次元座標データ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予めタイヤのトレッド部が接地する外周面に、該外周面に沿って特定パターンを形成しておき、前記タイヤを回転させた状態で前記特定パターンを2台の撮像装置によって撮像して得た画像データを演算処理することにより前記特定パターンの3次元形状を求めるタイヤ形状の測定方法であって、
前記特定パターンは、該特定パターンの全域がほぼ均一な厚さで弾性を有する透明な材料で構成された保護層によって覆われている、
ことを特徴とするタイヤ形状の測定方法。
【請求項2】
可撓性を有する薄板状のシート体の表面に前記特定パターンが形成されたパターンシートを設け、
前記トレッド部の外周面への前記特定パターンの形成は、前記パターンシートの表面と反対側に位置する裏面を前記トレッド部の外周面に貼り付けることでなされ、
前記保護層は前記パターンシートの表面全域を覆うように形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載のタイヤ形状の測定方法。
【請求項3】
前記特定パターンはほぼ均一の厚さで形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載のタイヤ形状の測定方法。
【請求項4】
前記トレッド部の外周面への前記特定パターンの形成は、前記トレッド部の外周面に塗料を付着させることでなされ、
前記保護層は前記トレッド部の外周面に付着された塗料の全域を覆うように形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載のタイヤ形状の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−174933(P2009−174933A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12218(P2008−12218)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】