説明

タングステン遮光膜の製造方法、タングステン遮光膜

【課題】亀裂がなく、かつ、抵抗が低いタングステン遮光膜を得ることが可能なタングステン遮光膜の製造方法およびタングステン遮光膜を提供する。
【解決手段】本発明のタングステン遮光膜の製造方法は、基板11の一面11aに窒化タングステン膜を成膜する成膜工程と、窒化タングステン膜が形成された基板11を熱処理する熱処理工程と、を少なくとも備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン遮光膜の製造方法、タングステン遮光膜に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置の表示部には、画素開口部のコントラストおよび表示品質を向上させるために、ガラス基板上に規則的な格子状などに形成された高い遮光性を有するブラックマトリクスと呼ばれる遮光膜が設けられている。
このような遮光膜の材料としては、融点が高く、かつ、抵抗が低いことから、例えば、タングステンが用いられている。タングステンからなる遮光膜の形成方法としては、例えば、石英基板上にタングステンシリサイドからなる遮光膜を形成する工程と、少なくとも遮光膜を覆うように無機絶縁膜を形成する工程と、遮光膜および無機絶縁膜が形成された基板を1000℃より高く1200℃以下の温度範囲で熱処理する工程と、を有する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−338903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、タングステンシリサイドからなる遮光膜と石英基板は、熱膨張係数が大きく異なるため、熱処理時の遮光膜の膨張量が、石英基板の膨張量よりも大きいので、熱処理後に遮光膜が収縮した際、遮光膜に亀裂が生じるという問題があった。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、亀裂がなく、かつ、抵抗が低いタングステン遮光膜を得ることが可能なタングステン遮光膜の製造方法およびタングステン遮光膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のタングステン遮光膜の製造方法は、基板の一面に窒化タングステン膜を成膜する成膜工程と、該窒化タングステン膜が形成された基板を熱処理する熱処理工程と、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0007】
前記成膜工程は、前記窒化タングステン膜をPVD法によって成膜する工程であることを特徴とする。
【0008】
前記熱処理工程は、前記熱処理が500℃以上で行われることを特徴とする。
【0009】
前記基板は、石英基板(0.6×10−6[K])などの、タングステン(4.5×10−6[K])との熱膨張係数の差が大きい基板であることを特徴とする。
【0010】
本発明のタングステン遮光膜は、基板の一面に形成され、窒素を含むタングステン膜から構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のタングステン遮光膜の製造方法によれば、基板の一面に窒化タングステン膜を成膜し、その窒化タングステン膜が形成された基板を熱処理することによって、基板の一面にタングステン膜を形成するので、窒化タングステン膜から窒素が脱離することによって、熱処理による窒化タングステン膜の熱膨張量が抑えられ、結果として、亀裂が生じることなく、緻密な構造のタングステン膜を形成することができる。したがって、得られるタングステン遮光膜は、遮光性に優れるとともに、シート抵抗が低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のタングステン遮光膜の一実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図2】本発明のタングステン遮光膜の製造方法の一実施形態を示した要部拡大断面図である。
【図3】本発明のタングステン遮光膜の製造方法の一実施形態を示した要部拡大断面図である。
【図4】実験例1〜4において、窒化タングステン膜のX線回折図形を示す図である。
【図5】実験例1〜4において、タングステン膜のX線回折図形を示す図である。
【図6】実験例1〜4において、窒化タングステン膜およびタングステン膜のシート抵抗を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るタングステン遮光膜の製造方法、タングステン遮光膜について、図面に基づき説明する。なお、本実施形態は発明の趣旨をより良く理解させるために、一例を挙げて説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0014】
(タングステン遮光膜)
図1は、本発明のタングステン遮光膜の一実施形態を示す要部拡大断面図である。
タングステン遮光膜10は、基板11の一面11aに形成され、窒素12を含むタングステン膜13から構成されてなるものである。
【0015】
タングステン膜13は、タングステン(W)を主成分としてなり、タングステンと結合して窒化タングステン(WN)を構成している窒素原子(N)12を微量に含んでなる薄膜である。
タングステン膜13は、後述する本発明のタングステン遮光膜の製造方法によって成膜されたものである。
【0016】
タングステン膜13における窒素12の含有量は、5at%以下であることが好ましく、1at%以下であることがより好ましい。
タングステン膜13における窒素12の含有量が5at%を超えると、タングステン膜13(タングステン遮光膜10)のシート抵抗が増加する。
【0017】
タングステン膜13の厚さは、特に限定されるものではなく、タングステン遮光膜10に必要とされる遮光性などに応じて適宜調整されるが、例えば、50nm以上、200nm以下である。
【0018】
基板11としては、ガラス基板、石英基板などが用いられるが、タングステン遮光膜10が、液晶表示装置のTFTアレイ基板に設けられる場合、基板11としては、石英基板が用いられる。
【0019】
このようなタングステン遮光膜10は、亀裂がなく、緻密な構造をなしているので、シート抵抗が低く、かつ、遮光性に優れている。
【0020】
(タングステン遮光膜の製造方法)
図2、図3は、本発明のタングステン遮光膜の製造方法の一実施形態を示した要部拡大断面図である。
例えば、上記のタングステン遮光膜10を製造する際には、まず、基板11を用意する(図2参照)。
【0021】
次に、基板11の一面11aに、所定の厚さの窒化タングステン膜21を成膜する(図2参照:成膜工程)。
窒化タングステン膜21は、例えば、タングステン(W)を含む材料と、窒素(N)ガスとを用いて形成する。
窒化タングステン膜21を形成するには、例えば、PVD法を用いることが好ましい。PVD法を用いた窒化タングステン膜21の成膜工程では、スパッタリングターゲットとしてタングステンを用い、不活性ガスと窒素ガスの混合ガスを導入してプラズマ放電させることで、基板11の一面11aに、窒化タングステン膜21を堆積する。
得られた窒化タングステン膜21は、タングステンが窒素原子(N)22と結合して、窒化タングステンを構成してなるものである。
【0022】
PVD法を用いた窒化タングステン膜21の成膜工程において、窒素ガスの分圧比は、5%以上、25%以下であることが好ましく、10%以上、20%以下であることがより好ましい。
窒素ガスの流量が5%未満では、得られる窒化タングステン膜21に含まれる窒素の量が少な過ぎて、後述する熱処理工程において、窒化タングステン膜21を熱処理して、タングステン膜を形成する際、熱処理による窒化タングステン膜21の熱膨張量を抑えることができず、結果として、タングステン膜に亀裂が生じる。一方、窒素ガスの流量が25%を超えると、後述する熱処理工程において、窒化タングステン膜21を熱処理しても、窒素22を十分に脱離させることができず、得られたタングステン膜のシート抵抗を低くすることができない。
【0023】
また、窒化タングステン膜21の厚さは、特に限定されるものではなく、最終的に得られるタングステン膜に必要とされる遮光性などに応じて適宜調整されるが、例えば、50nm以上、200nm以下とされる。
【0024】
次に、窒化タングステン膜21が形成された基板11を、熱処理炉内に搬入して熱処理する(図3参照:熱処理工程)。
この熱処理工程は、窒化タングステン膜21を構成する窒化タングステンを結晶化して、タングステンとし、基板11の一面11aにタングステン膜を形成する工程である。すなわち、熱処理工程は、窒化タングステン膜21から窒素22を脱離させて、タングステン膜を形成する工程である。
【0025】
熱処理工程において、熱処理が500℃以上で行われることが好ましく、800℃以上、1200℃以下で行われることがより好ましい。
熱処理温度が500℃未満では、窒化タングステン膜21に含まれる窒素22を十分に脱離させることができず、緻密な構造のタングステン膜を形成することができない。一方、熱処理温度が高過ぎると、基板11が劣化するおそれがある。
【0026】
また、熱処理の時間は、10分以上、60分以下とすることが好ましく、20分以上、40分以下とすることがより好ましい。
熱処理の時間が10分未満では、熱処理温度を上記の温度に設定したとしても、窒化タングステン膜21に含まれる窒素22を十分に脱離させることができず、緻密な構造のタングステン膜を形成することができない。一方、熱処理の時間が60分を超えると、基板11が劣化するおそれがある。
【0027】
この熱処理工程により、窒化タングステン膜21から窒素22が脱離することにより、窒化タングステン膜21が収縮して、図1に示すような、微量の窒素12を含むタングステン膜13から構成されるタングステン遮光膜10が得られる。
【0028】
本発明のタングステン遮光膜の製造方法によれば、窒化タングステン膜21が形成された基板11を熱処理することによって、基板11の一面11aにタングステン膜13を形成するので、窒化タングステン膜21から窒素22が脱離することによって、熱処理による窒化タングステン膜21の熱膨張量が抑えられ、結果として、亀裂が生じることなく、緻密な構造のタングステン膜13を形成することができる。したがって、タングステン膜13から構成されるタングステン遮光膜10は、遮光性に優れるとともに、シート抵抗が低くなる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
「実験例1」
基板として厚み1mmの石英基板を用意した。
次に、この基板の一面に、PVD法により、厚みの100nmの窒化タングステン膜を形成した。このとき、窒素ガスの分圧比を5%とした。
得られた窒化タングステン膜について、X線回折法により、結晶構造を分析した。結果を、図4に示す。また、この窒化タングステン膜のシート抵抗(Ω/□)を測定した。結果を、図6に示す。
次に、窒化タングステン膜が形成された基板を、500℃で、30分間、熱処理して、基板の一面にタングステン膜を形成した。
得られたタングステン膜について、X線回折法により、結晶構造を分析した。結果を、図5に示す。また、このタングステン膜のシート抵抗(Ω/□)を測定した。結果を、図6に示す。
【0031】
「実験例2」
窒素ガスの分圧比を10%とした以外は実験例1と同様にして、窒化タングステン膜を形成した。
得られた窒化タングステン膜について、X線回折法により、結晶構造を分析した。結果を、図4に示す。また、この窒化タングステン膜のシート抵抗(Ω/□)を測定した。結果を、図6に示す。
次に、実験例1と同様にして、タングステン膜を形成した。
得られたタングステン膜について、X線回折法により、結晶構造を分析した。結果を、図5に示す。また、このタングステン膜のシート抵抗(Ω/□)を測定した。結果を、図6に示す。
【0032】
「実験例3」
窒素ガスの分圧比を20%とした以外は実験例1と同様にして、窒化タングステン膜を形成した。
得られた窒化タングステン膜について、X線回折法により、結晶構造を分析した。結果を、図4に示す。また、この窒化タングステン膜のシート抵抗(Ω/□)を測定した。結果を、図6に示す。
次に、実験例1と同様にして、タングステン膜を形成した。
得られたタングステン膜について、X線回折法により、結晶構造を分析した。結果は窒素ガスの分圧比10%と同じX線回折スペクトルであるため図示しない。また、このタングステン膜のシート抵抗(Ω/□)を測定した。結果を、図6に示す。
【0033】
「実験例4」
窒素ガスの流量を40sccmとした以外は実験例1と同様にして、窒化タングステン膜を形成した。
得られた窒化タングステン膜について、X線回折法により、結晶構造を分析した。結果を、図4に示す。また、この窒化タングステン膜のシート抵抗(Ω/□)を測定した。結果を、図6に示す。
次に、実験例1と同様にして、タングステン膜を形成した。
得られたタングステン膜について、X線回折法により、結晶構造を分析した。結果を、図5に示す。また、このタングステン膜のシート抵抗(Ω/□)を測定した。結果を、図6に示す。
【0034】
図4および図5の結果から、窒素ガスの流量を5sccm、10sccmおよび20sccmとして、窒化タングステン膜を形成した場合、窒化タングステン膜を熱処理後のタングステン分布のピークが高くなっていることが確認された。これは、熱処理によって、窒化タングステンから窒素が脱離し、タングステンが形成されたことを示している。
また、図6の結果から、窒素ガスの流量を5sccm、10sccmおよび20sccmとして、窒化タングステン膜を形成した場合、窒化タングステン膜を熱処理して得られたタングステン膜のシート抵抗が低下していることが確認された。これは、熱処理によって、窒化タングステンから窒素が脱離し、タングステンが形成されたことを示している。
【符号の説明】
【0035】
10 タングステン遮光膜
11 基板
12 窒素
13 タングステン膜
21 窒化タングステン膜
22 窒素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一面に窒化タングステン膜を成膜する成膜工程と、
該窒化タングステン膜が形成された基板を熱処理する熱処理工程と、を少なくとも備えたことを特徴とするタングステン遮光膜の製造方法。
【請求項2】
前記成膜工程は、前記窒化タングステン膜をPVD法によって成膜する工程であることを特徴とする請求項1に記載のタングステン遮光膜の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程は、前記熱処理が500℃以上で行われることを特徴とする請求項1または2に記載のタングステン遮光膜の製造方法。
【請求項4】
前記基板は、石英基板(0.6×10−6[K])などの、タングステン(4.5×10−6[K])との熱膨張係数の差が大きい基板であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のタングステン遮光膜の製造方法
【請求項5】
基板の一面に形成され、窒素を含むタングステン膜から構成されることを特徴とするタングステン遮光膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−79432(P2013−79432A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220852(P2011−220852)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】