説明

タンデムプレスライン、タンデムプレスラインの運転制御方法及びタンデムプレスラインのワーク搬送装置

【課題】
プレス成形の生産効率を向上させると共に、メンテナンスコストおよびメンテナンス頻度を低減させる。
【解決手段】
第1プレス2のプレス角度と、第2プレス3のプレス角度の角度差が一定となるように、第2プレス3のメインモータ61の回転速度が制御される。また、第1プレス2からのワークの搬出の際には、第1プレス2プレス角度に基づきワーク搬送装置10が制御される。第2プレス3へのワークの搬入の際には、第2プレス3のプレス角度に基づきワーク搬送装置10が制御される。更に、ワークの搬送の際には、ワーク搬送装置を制御する搬送装置制御部31からの信号に基づきワーク搬送装置10が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを成形するプレス装置と、二つのプレス装置間でワークを搬出し、搬送し、搬入するワーク搬送装置と、を備え、複数のプレス装置を配列すると共に、互いに隣接するプレス装置間にワーク搬送装置を配置したタンデムプレスラインの運転制御方法及びタンデムプレスラインに関する。またタンデムプレスラインのワーク搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一つのワークに対する絞り、曲げ、穴あけ、縁取りなどの複数の成形を効率的に行うプレスの形態として、例えば、タンデムプレスラインが知られている。タンデムプレスラインには一列に配置された複数のプレス装置(以下、「プレス」という)が設けられており、ワークは上流側プレスから下流側プレスに搬送され、各プレスで順次プレス成形される。ワークの搬送は人手を介する場合やワーク搬送装置を介する場合等がある。各プレスにはメインモータがそれぞれ設けられており、駆動機構を介してメインモータの回転動作がスライドの昇降動作(往復動作)に変換される。各メインモータの制御は其々独立して行われるため、各プレスのスライドの昇降動作は個々に独立して行われる。以下、プレスおよびワーク搬送装置に関して其々説明する。
【0003】
[プレスに関して]
図11は駆動機構の模式図であり、ここではその一例としてクランクプレスの駆動機構を示している。メインモータ51の回転軸にはモータプーリー52が設けられており、モータプーリー52とフライホイール54はベルト53を介して連結されている。フライホイール54とクラッチ55の第1係合部材は連結され、クラッチ55の第2係合部材にはドライブシャフト56が連結されている。更にドライブシャフト56にはブレーキ57が設けられている。ドライブシャフト56の一部とメインギヤ58は噛合されており、メインギヤ58はクランクシャフト59の一部に固着されている。クランクシャフト59のクランク部分にはコンロッド45を介してスライド16が吊設されている。
【0004】
この駆動機構によれば、メインモータ51によってフライホイール54が回転され、フライホイール54の回転エネルギーがクラッチ55およびメインギヤ58を介してクランクシャフト59に伝達される。そしてクランクシャフト59が回転され、その回転動作がスライド16の昇降動作に変換される。また、クラッチ55の係合と解放およびブレーキ57の解放と制動とをそれぞれ切り換えることによって、スライド16の動作と停止とが切り換えられる。なお、駆動機構には更に複数段のギヤが組み合わせた変速機構が設けられる場合もある。
【0005】
各プレスにおけるスライド昇降動作は次のように制御される。スライド16が上死点に到達すると、クラッチ55の解放とブレーキ57の制動によってスライド16が上死点で停止する。プレスの加工ステーションから成形後のワークが搬出され、更にプレスの加工ステーションへ成形前のワークが搬入されると、クラッチ55の係合とブレーキ57の解放によってスライド16が上死点から下降する。スライド16が下死点を通過し上死点に到達すると、クラッチ55の解放とブレーキ57の制動によってスライド16は再び上死点で停止する。このように各プレスはクラッチ55の係合と解放およびブレーキ57の解放と制動が繰り返され、断続運転される。
【0006】
タンデムプレスラインによれば、プレスの組合せや順序を用途に応じて設定できる。また、ライン上の一部プレスによるプレス成形を要しない場合は、そのプレスを停止させたり、そのプレスを他のワークのプレス成形のために使用したりすることができる。こうしたことから、タンデムプレスラインは様々なプレス成形の態様に適用させることができ、自由度が高いといえる。
【0007】
タンデムプレスラインに対し、一列に配置された複数の加工ステーションを有する形態としてトランスファプレスがある。トランスファプレスは、一つのスライドに複数の加工ステーションを有し、一つのメインモータで各スライドを昇降動作させている。このため、各プレスのスライド昇降動作は同期する。したがって、生産効率は高いが、プレス加工の態様が一定であるため自由度は低い。
【0008】
[ワーク搬送装置に関して]
互いに隣接するプレス間におけるワーク搬送方法としては、ロボット方式またはローダ・アンローダ方式が知られている。ここで、ロボット方式とは、隣接するプレス間に多関節型のハンドリングロボットを設置し、このハンドリングロボットにより前工程のプレスからワークを搬出するとともに、このワークを次工程のプレスに搬入するようにしたものである。これに対してローダ・アンローダ方式とは、プレス本体の上流側側面と下流側側面とにそれぞれリンク構造のローダおよびアンローダをそれぞれ設けるとともに、上流側のアンローダと下流側のローダとの間にシャトル台車を設け、プレス本体に対するワークの搬出および搬入をそれぞれアンローダおよびローダで行い、次工程へのワークの搬送をシャトル台車にて行うようにしたものである。
【0009】
しかし、これら従来方式においては、上流側および下流側の各プレスのそれぞれの断続的な動きに追従させてワークを搬送する必要があり、しかもワーク搬送時に金型等との干渉が生じないようにする必要があることから、ワークのハンドリング速度を高速化できず、生産速度の向上に限界があるという問題点がある。さらに、ロボット方式の場合には、搬送軌跡をティーチングするのにそのティーチングが困難で、かつ長時間を要するという問題点があり、ローダ・アンローダ方式の場合には、シャトル台車を隣接するプレス間に設置する必要があることから、装置が大掛かりになって大きな設置スペースが必要になるという問題点がある。
【0010】
これらの問題点を解消するために、本出願人は、ワーク搬送軌跡のティーチングが短時間で容易にでき、しかもワーク搬送速度を高速化できるタンデムプレスラインのワーク搬送方法およびワーク搬送装置を先願発明として既に提案している(下記特許文献1)。この先願発明のワーク搬送装置は、ワーク搬送方向と平行に上下動自在なリフトビームを設けるとともに、このリフトビームの長手方向に沿って移動自在なキャリアおよびサブキャリアを設け、左右一対のサブキャリア間にワーク保持手段を有するクロスバーを設けた構成を備えたものとされている。
【特許文献1】特開2003−200231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
タンデムプレスラインの生産効率を向上させる最も有効的な手段は、各プレスを連続運転させ、更にワーク搬送装置をプレスに追従させて運転することである。しかしこのような運転を行うには次のような障害がある。
【0012】
例えば、複数のプレスの各スライドを同時に同速度で上死点から下降させてプレス成形を行うものと仮定する。この場合、各スライドが1ストロークの動作をして上死点に戻るタイミングが同じであれば問題はないが、実際はそのタイミングはずれる。これは各プレスのスローダウンが異なるため、プレス動作の周期が異なることに起因する。
【0013】
スローダウンとはフライホイールの回転数が一時的に低下する現象のことをいい、プレス成形の荷重等により避けられない現象である。様々な要素、例えばプレス成形に要するエネルギーやメインモータ容量やフライホイールの大きさ等、に応じてスローダウンは決定されるが、これらの要素が各プレス間で異なるため、各プレスのスローダウンは異なる。
【0014】
図12はスライド位置を時間経過と共に示す図であり、隣接するプレスを連続運転した場合の各プレスのスライド位置を示している。図12の波形A、Bで示すように、隣接するプレス間のスライド動作に所定位相差T1が設定され運転が開始されたとしても、上述したスローダウンの影響によって、運転と共に位相差が徐々に変化し、例えば波形A、B′の様になる。最初のうちは位相差の変化量が小さいため、上流側プレスからのワークの搬出と下流側プレスへのワークの搬入とを連続的に行うことができる。しかし、時間の経過と共に位相差の変化量は大きくなってくる。この変化量がある程度大きくなると、上流側プレスからのワークの搬出と下流側プレスへのワークの搬入のタイミングがとれなくなり、結局はラインを途中で停止させなければならなくなる。
【0015】
このような障害があって、従来のタンデムプレスラインでは、ワークの搬入と搬出を安全且つ確実に行うために断続運転を行わざるをえなかった。このため、生産効率の向上は望めなかった。
【0016】
加えて、断続運転ではクラッチの係合、解放とブレーキによる制動が必要になる。クラッチの係合、解放とブレーキによる制動は大きな騒音が伴う上、クラッチやブレーキに設けられたフェーシングの摩耗を招来する。フェーシングの摩耗が激しいとフェーシングの寿命が短縮され、フェーシングの交換作業が必要になる。したがって、メンテナンスコストが上昇する。
【0017】
なおかつ、先願発明(上記特許文献1)は、タンデムプレスラインにおけるワーク搬送速度の高速化を図るためのワーク搬送装置のハード構成のみについて提案されたものであるために、独立して運転される2台のプレス間での中間搬送に際して、各プレスに追従させて効率的にワークを搬送するための制御技術については検討の余地があった。
【0018】
本発明はこうした実状に鑑みてなされたものであり、プレス成形の生産効率を向上させると共に、メンテナンスコストおよびメンテナンス頻度を低減させることを解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
そこで、第1発明は、
複数のプレス装置を配列し、隣接する上流側プレス装置と下流側プレス装置との間にワーク搬送装置を配置したタンデムプレスラインの運転制御方法において、
前記上流側プレス装置の動作に応じた信号に基づいて前記下流側プレス装置の動作を制御し、
ワーク搬出区間では、前記上流側プレス装置の動作に応じた信号に基づいて前記ワーク搬送装置の動作を制御し、前記ワーク搬出区間を抜けた後は、前記ワーク搬送装置独自の信号に基づいて前記ワーク搬送装置の動作を制御すること
を特徴とする。
【0020】
第2発明は、第1発明において、
互いに隣接するプレス装置のスライド位置を示す指標値を、互いに対応させて予め記憶しておき、
各プレス装置毎にスライド位置を示す指標値を検出し、検出した前記上流側プレス装置の指標値に基づいて対応する前記下流側プレス装置の指標値を求め、検出した前記下流側プレス装置の指標値と求めた前記下流側プレス装置の指標値とを一致させるように前記下流側プレス装置の動作を制御すること
を特徴とする。
【0021】
第3発明は、第1発明において、
各プレス装置を連続動作すること
を特徴とする。
【0022】
第4発明は、第1発明において、
前記下流側プレス装置の動作を制御する際に、前記下流側プレス装置に備えられたモータの速度を制御すること
を特徴とする。
【0023】
第5発明は、第1発明において、
前記ワーク搬送装置の動作を制御する際に、ワーク搬出区間の境界で、前記上流側プレス装置の動作に応じた信号と前記ワーク搬送装置独自の信号との差を小さくするように前記ワーク搬送装置の動作を制御すること
を特徴とする。
【0024】
第6発明は、
複数のプレス装置を配列し、隣接する上流側プレス装置と下流側プレス装置との間にワーク搬送装置を配置したタンデムプレスラインにおいて、
前記上流側プレス装置の動作に応じた信号に基づいて前記下流側プレス装置の動作を制御するプレス制御部と、
ワーク搬出区間では、前記上流側プレス装置の動作に応じた信号に基づいて前記ワーク搬送装置の動作を制御し、前記ワーク搬出区間を抜けた後は、前記ワーク搬送装置独自の信号に基づいて前記ワーク搬送装置の動作を制御するワーク搬送制御部と、を備えたこと
を特徴とする。
【0025】
第7発明は、第6発明において、
互いに隣接するプレス装置のスライド位置を示す指標値を、互いに対応させて予め記憶する記憶部を備え、
前記プレス制御部は、各プレス装置毎にスライド位置を示す指標値を検出し、検出した前記上流側プレス装置の指標値に基づいて対応する前記下流側プレス装置の指標値を求め、検出した前記下流側プレス装置の指標値と求めた前記下流側プレス装置の指標値とを一致させるように前記下流側プレス装置の動作を制御すること
を特徴とする。
【0026】
第8発明は、第6発明において、
各プレス装置を連続動作すること
を特徴とする。
【0027】
第9発明は、第6発明において、
前記プレス制御部は、前記下流側プレス装置に備えられたモータの速度を制御すること
を特徴とする。
【0028】
第10発明は、第6発明において、
前記ワーク搬送制御部は、ワーク搬出区間の境界で、前記上流側プレス装置の動作に応じた信号と前記ワーク搬送装置独自の信号との差を小さくするように前記ワーク搬送装置の動作を制御すること
を特徴とする。
【0029】
第11発明は、
複数のプレス装置のうちの隣接する上流側プレス装置と下流側プレス装置との間に配置されるワーク搬送部と、前記ワーク搬送部の動作を制御する制御部と、を備えたタンデムプレスラインのワーク搬送装置において、
前記制御部は、ワーク搬出区間では、前記上流側プレス装置の動作に応じた信号に基づいて前記ワーク搬送部の動作を制御し、前記ワーク搬出区間を抜けた後は、前記ワーク搬送部独自の信号に基づいて前記ワーク搬送部の動作を制御すること
を特徴とする。
【0030】
第12発明は、第11発明において、
前記制御部は、ワーク搬出区間の境界で、前記上流側プレス装置の動作に応じた信号と前記ワーク搬送部独自の信号との差を小さくするように前記ワーク搬送部の動作を制御すること
を特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、上流側プレスのスライド動作に合わせて下流側プレスのスライド動作がリアルタイムで補正され、また隣接するプレスのスライド動作に合わせてワーク搬送装置によるワークの搬出・搬送・搬入動作が行われるため、各タンデムプレスラインを連続運転させることができ、生産効率を大幅に向上させることができる。連続運転が行えるようになると、断続運転で必要とされていたクラッチの係合と解放およびブレーキによる制動、を行う必要がなくなるため、クラッチおよびブレーキに設けられたフェーシングの摩耗を低減できる。したがってメンテナンスコストおよびメンテナンス頻度を低減させることができる。また断続運転を行う必要がなくなるため、クラッチの係合と解放およびブレーキによる制動に起因する騒音を無くすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0033】
図1は本実施形態に係るタンデムプレスラインの正面図である。図2は本実施形態に係るタンデムプレスラインの側面図である。図3はワーク搬送装置の正面図である。図4は図3のA−A断面図である。
【0034】
本実施形態のタンデムプレスライン1は、相互に所定間隔を有して上流側(図面の左側)から下流側(図面の右側)へ向けて直列に配置される第1〜第4プレス2、3、4、5と、最上流側の第1プレス2の上流側に配される材料搬入装置6と、最下流側の第4プレス5の下流側に配される製品搬出装置7と、材料搬入装置6上のワーク8を第1プレス2の加工ステーションに搬送・搬入するワーク搬送装置9と、互いに隣接するプレス2、3、4、5の各加工ステーション間でワーク8の搬出・搬送・搬入を行うワーク搬送装置10、11、12と、第4プレス5の加工ステーションから製品搬出装置7上へワーク8を搬出・搬送するワーク搬送装置13を備えて構成されている。
【0035】
各プレス2、3、4、5は、本体フレームとしてのアプライト14と、このアプライト14の上方に配されて駆動機構が内蔵される上部フレーム15と、アプライト14に昇降動自在に支承され、駆動機構を介して昇降動作されるスライド16と、このスライド16に対向配置されてベッド17上に設けられるボルスタ18とを備え、スライド16の下端に装着される上金型と、ボルスタ18の上端に装着される下金型とによってワーク8に加工がなされるように構成されている。
【0036】
ここで、ワーク搬送装置9〜13の詳細構造等について説明する。なお、これら各ワーク搬送装置9〜13の基本構成は略同様であるので、以下、代表例として、プレス2、3間に配されるワーク搬送装置10の構成等を中心に説明することとする。
【0037】
図2、図4に示されるように、ワーク搬送装置10は、ワーク搬送方向の両側(図面の左右)に互いに離間して平行に配される一対のリフトビーム19、19を備えている。このリフトビーム19の上部には、アプライト14に沿うように上方へ向けて延設されるロッド20が取着されている。一方、アプライト14の上部には支持部材21を介してリフト軸サーボモータ22が装着され、このサーポモータ22の出力軸に取り付けられるピニオンがロッド20に刻設されるラックに噛合することで、サーボモータ22の正逆回転によってリフトビーム19が昇降動されるようになっている。ここで、リフト軸サーボモータ22は、後述する搬送装置制御部31からの制御信号により予め設定されたフィーダモーションに基づき制御される。
【0038】
左右の各リフトビーム19には、そのリフトビーム19を下方から抱持するように断面略U字形状のキャリア(メインキャリア)23が配され、このキャリア23がリフトビーム19の長手方向に沿って移動できるようにされている。そして、図4に示されるように、リフトビーム19の両外側面とそれに対向するキャリア23の内側面との間には、キャリア23をリフトビーム19に沿って移動させる移動手段としての一対のリニアモータ24が配されている。また、リフトビーム19の上部両外側面とそれに対向するキャリア23の内側面との間および、リフトビーム19の下面とそれに対向するキャリア23の底面との間にはそれぞれリニアガイド25が配され、これら3点支持のリニアガイド25によってリフトビーム19に対するキャリア23の移動動作が案内されるように構成されている。ここで、リニアモータ24は、リフトビーム19の両側面に搬送方向(長手方向)に沿って配されるマグネット24aと、このマグネット24aに対向するキャリア23の内側面に搬送方向(長手方向)に沿って配されるコイル24bとより構成され、このコイル24bを有するアーマチャ(キャリア23)が、マグネット24aを有するステータ(リフトビーム19)上に作られる磁場の変化によって直線的に移動するようにされている。
【0039】
さらに、キャリア23の下部には、所要長さのベースプレート23aがワーク搬送方向に沿うように延設され、このベースプレート23aに沿ってサブキャリア26が移動できるようにされている。このサブキャリア26の移動手段は、ベースプレート23aの下面に搬送方向に沿って配されるマグネット27aと、このマグネット27aに対向するサブキャリア26の上面に配されるコイル27bとよりなるリニアモータ27により構成されている。また、べースプレート23aの両側下面とそれに対向するサブキャリア26の上面との間にはそれぞれリニアガイド28が配され、これらリニアガイド28によってキャリア23に対するサブキャリア26の移動動作が案内されるように構成されている。そして、互いに対向する一対のサブキャリア26、26間はクロスバー29により連結され、このクロスバー29の下面に複数個のバキュームカップ30が装着されて、これらバキュームカップ30によってワーク8が吸着されるようになっている。ここで、リニアモータ24、27は、後述する搬送装置制御部31からの制御信号により予め設定されたフィーダモーションに基づき制御され、これによって、リフトビーム19に対するキャリア23の搬送方向に沿う移動動作およびキャリア23に対するサブキャリア26の搬送方向に沿う移動動作が制御される。
【0040】
このように構成されているワーク搬送装置10においては、リフト軸サーボモータ22の駆動によってリフトビーム19を昇降動させることで、キャリア23、サブキャリア26およびクロスバー29を介してバキュームカップ30を昇降動させることができる。また、リニアモータ24の駆動によってキャリア23をリフトビーム19の長手方向に沿って移動させ、リニアモータ27の駆動によってサブキャリア26をキャリア23の移動方向にオフセットさせることで、クロスバー29およびバキュームカップ30をワーク搬送方向に移動させることができる。こうして、上下方向および/または搬送方向の2つの直交する駆動軸位置を制御することにより、バキュームカップ30の移動軌跡、言い換えればワーク8の搬送軌跡を制御することができる。
【0041】
次に第1〜第4プレス2〜5の制御およびワーク搬送装置9〜13の制御に関して其々説明する。
【0042】
[1.プレスの制御]
本実施形態によれば、プレスの制御に関しては二つの方法による制御態様が考えられる。以下で第1のプレス制御、第2のプレス制御として其々説明する。
【0043】
[1−1.第1のプレス制御]
図5は第1のプレス制御に係る制御システム構成図である。
【0044】
第1プレス2の上部フレーム15には駆動機構が内蔵されており、その構造は図11に示す駆動機構と同一であるとする。なお、図5では図11に示す駆動機構を更に簡略化して示している。図11を用いて説明したように、駆動機構にはフライホイール54とクラッチ55とブレーキ57とメインギヤ58とクランクシャフト59とが設けられる。また、上部フレーム15にはエンコーダ91が設けられている。エンコーダ91はプレス角度(クランク角度)としてメインギヤ58の角度θ1を検出すると共に、スライド制御部40に検出角度θ1を出力する。ドライバ50はスライド制御部40から出力されるメインギヤ角速度指令Igに応じてメインモータ51の回転速度を制御する。メインモータ51はフライホイール54を回転させる。プレス3〜5の駆動機構、モータ、ドライバ、エンコーダ等の構成は第1プレス2と同一である。
【0045】
ライン統括制御部400はタンデムプレスライン1を統括して制御しており、ワーク搬送とプレス成形とが連動して行われるように、後述する搬送装置制御部31に速度指令を出力すると共に、プレス側のスライド制御部40にメインギヤ角速度指令Igを出力する。
【0046】
スライド制御部40には、第1プレス制御部41と第2プレス制御部42と第3プレス制御部43と第4プレス制御部44とが設けられている。スライド制御部40は立上時間が最も長いプレスに対応するドライバにメインギヤ角速度指令Igを出力する。また、スライド制御部40は第1プレス制御部41で生成された補正信号S1を用いてメインギヤ角速度指令Igを補正し、第1プレス2のドライバ50に補正後のメインギヤ角速度指令Ig1を出力する。また、スライド制御部40は第2プレス制御部42で生成された補正信号S2を用いてメインギヤ角速度指令Igを補正し、第2プレス3のドライバ60に補正後のメインギヤ角速度指令Ig2を出力する。また、スライド制御部40は第3プレス制御部43で生成された補正信号S3を用いてメインギヤ角速度指令Igを補正し、第3プレス4のドライバ70に補正後のメインギヤ角速度指令Ig3を出力する。また、スライド制御部40は、第4プレス制御部44で生成された補正信号S4を用いてメインギヤ角速度指令Igを補正し、第4プレス5のドライバ80に補正後のメインギヤ角速度指令Ig4を出力する。
【0047】
第1プレス制御部41は第1プレス2のエンコーダ91の検出角度θ1を入力し、メインギヤ58のメインギヤ角速度を補正すべくメインギヤ補正信号S1を生成する。
【0048】
第2プレス制御部42は第1プレス2のエンコーダ91の検出角度θ1と第2プレス3のエンコーダ92の検出角度θ2とを入力し、二つの検出角度の差θ1-2に応じた補正信号S2を生成する。
【0049】
第3プレス制御部43は第2プレス3のエンコーダ92の検出角度θ2と第3プレス4のエンコーダ93の検出角度θ3とを入力し、二つの検出角度の差θ2-3に応じた補正信号S3を生成する。
【0050】
第4プレス制御部44は第3プレス4のエンコーダ93の検出角度θ3と第4プレス5のエンコーダ94の検出角度θ4とを入力し、二つの検出角度の差θ3-4に応じた補正信号S4を生成する。
【0051】
次に、本実施形態における第2プレス3(第3プレス4、第4プレス5についても同様)の制御態様について説明する。
【0052】
図6はスライド位置を時間経過と共に示す図であり、隣接する第1プレス2と第2プレス3を連続運転した場合のスライド位置の変位を示している。波形Aは第1プレス2のスライド位置の周期的変化を示しており、波形Bは第2プレス3のスライド位置の周期的変化を示している。波形A、Bの上端はスライドの上死点であり、下端はスライドの下死点である。以下、図5、図6を用いて説明する。
【0053】
最初に、第1プレス2のスライド16aと第2プレス3のスライド16bは所定の位置関係に保たれているとする。つまり、図6に示すように、波形A、Bは所定位相差T1に保たれている。
【0054】
しかし、例えばスローダウンの相違によって第1プレス2のクランク角度と第2プレス3のクランク角度の角度差が変化したとすると、スライド位置の周期的変化にずれが生じる。例えば、角度差が大きくなった場合を図6を用いて説明すると、波形Aに対して波形Bが時間軸正方向にずれ、第1プレス2のスライド位置の周期的変化と第2プレス3のスライド位置の周期的変化は波形A、B′の関係になり、その位相差はT2となる。
【0055】
図5に示すように、第1プレス2のエンコーダ91ではクランク角度θ1(メインギヤ58の角度)が検出され、検出されたクランク角度θ1は第1プレス制御部41及び第2プレス制御部42に出力される。また、第2プレス3のエンコーダ92ではクランク角度θ2(メインギヤ68の角度)が検出され、検出されたクランク角度θ2は第2プレス制御部42及び第3プレス制御部43に出力される。第2プレス制御部42では角度差θ1-2(=θ1−θ2)が演算され、角度差θ1-2に応じた補正信号S2が生成される。
【0056】
スライド制御部40では、この補正信号S2に基づきメインギヤ角速度指令Igが補正される。そして、第1プレス2のクランク角度と第2プレス3のクランク角度を一定の角度差にすべく補正後のメインギヤ角速度指令Ig2が生成され、ドライバ60に出力される。ドライバ60はメインギヤ角速度指令Ig2に従いメインモータ61を回転させる。なお、第2プレスのスライド動作が速い場合はメインモータ61は減速され、第2プレスのスライド動作が遅い場合はメインモータ61は加速される。
【0057】
すると図6に示すように、波形Aに対して波形B′が時間軸負方向に戻り、第1プレス2のスライド位置の周期的変化と第2プレス3のスライド位置の周期的変化は波形A、Bの関係になり、その位相差はT1に戻る。
【0058】
エンコーダ91、92では常にクランク角度θ1、θ2が検出されており、第2プレス制御部42では常に角度差θ1-2が演算されている。よって、角度差θ1-2に変化が生じるに応じて補正信号S2が生成され、第2プレス3のスライド動作はリアルタイムで補正される。したがって、実際は第1プレス2のスライド位置の周期的変化と第2プレスのスライド位置の周期的変化は波形A、Bの状態が保たれ、所定位相差T1が保たれる。
【0059】
第2プレス3と第3プレス4との間においても同様の制御が行われ、また、第3プレス4と第4プレス5との間においても同様の制御が行われる。
【0060】
第1のプレス制御はメインギヤを用いたプレス、例えば機械式プレスに対して適用されるが、メインギヤを備えないプレス、例えば電動サーボ式プレスに対しても、仮想のプレス角度を用いることによって適用することができる。
【0061】
[1−2.第2のプレス制御]
図7は第2のプレス制御に係る制御システム構成図である。なお、図5に示す制御システム構成図と同一要素には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0062】
第1プレス2にはリニアスケール等の位置センサ95が設けられている。位置センサ95はスライド動作方向におけるスライド16aの位置を検出すると共に、スライド制御部40に検出位置P1を出力する。プレス3〜5にもスライド16b〜16dの位置を検出する位置センサ96、97、98が設けられている。
【0063】
スライド制御部40には、第1プレス制御部46と第2プレス制御部47と第3プレス制御部48と第4プレス制御部49とが設けられている。
【0064】
第2プレス制御部47には、図6に示すような第1プレス2のスライド16aの変位特性(波形A)と第2プレス3のスライド16bの変位特性(波形B)とが記憶されており、更に二つの変位特性の間には所定位相差T1が設けられ、スライド16aの位置にスライド16bの位置が対応するようにして記憶される。この位置関係が保たれれば、二つのスライド16a、16bは所定位相差T1を保って連続動作可能になる。第2プレス制御部47は、第1プレス2の位置センサ95の検出位置P1と第2プレス3の位置センサ96の検出位置P2とを入力し、スライド16aの検出位置P1に対応するスライド16bの対応位置P2′を求め、スライド16bの検出位置P2とスライド16bの求めた対応位置P2′の差P2-2に応じた補正信号S2を生成する。
【0065】
第3プレス制御部48には、第2プレス3のスライド16bの変位特性と第3プレス4のスライド16cの変位特性とが記憶されており、更に二つの変位特性の間には所定位相差が設けられ、スライド16bの位置にスライド16cの位置が対応するようにして記憶される。この位置関係が保たれれば、二つのスライド16b、16cは所定位相差を保って連続動作可能になる。第3プレス制御部48は、第2プレス3の位置センサ96の検出位置P2と第3プレス4の位置センサ97の検出位置P3とを入力し、スライド16bの検出位置P2に対応するスライド16cの対応位置P3′を求め、スライド16cの検出位置P3とスライド16cの求めた対応位置P3′の差P3-3に応じた補正信号S3を生成する。
【0066】
第4プレス制御部49には、第3プレス4のスライド16cの変位特性と第4プレス5のスライド16dの変位特性とが記憶されており、更に二つの変位特性の間には所定位相差が設けられ、スライド16cの位置にスライド16dの位置が対応するようにして記憶される。この位置関係が保たれれば、二つのスライド16c、16dは所定位相差を保って連続動作可能になる。第4プレス制御部49は、第3プレス4の位置センサ97の検出位置P3と第4プレス5の位置センサ98の検出位置P4とを入力し、スライド16cの検出位置P3に対応するスライド16dの対応位置P4′を求め、スライド16dの検出位置P4とスライド16dの求めた対応位置P4′の差P4-4に応じた補正信号S4を生成する。
【0067】
次に、本実施形態における第2プレス3(第3プレス4、第4プレス5についても同様)の制御態様について説明する。
【0068】
連続運転の安定動作の当初は、第1プレス2のスライド16aと第2プレス3のスライド16bは所定の位置関係に保たれている。つまり、図6に示すように、波形A、Bは所定位相差T1に保たれている。
【0069】
しかし、例えばスローダウンの相違によって第1プレス2のスライド位置と第2プレス3のスライド位置が変化したとすると、スライド位置の周期的変化にずれが生じる。例えば、位相差が大きくなった場合を図6を用いて説明すると、波形Aに対して波形Bが時間軸正方向にずれ、第1プレス2のスライド位置の周期的変化と第2プレス3のスライド位置の周期的変化は波形A、B′の関係になり、その位相差はT2となる。
【0070】
図7に示すように、第1プレス2の位置センサ95ではスライド16aの位置P1が検出され、検出された位置P1は第2プレス制御部47に出力される。また、第2プレス3の位置センサ96ではスライド16bの位置P2が検出され、検出された位置P2は第2プレス制御部47に出力される。第2プレス制御部47ではスライド16aの検出位置P1に対応するスライド16bの対応位置P2′が求められ、スライド16bの検出位置P2とスライド16bの対応位置P2′の差P2-2に応じた補正信号S2が生成される。
【0071】
スライド制御部40では、この補正信号S2に基づきメインギヤ角速度指令Igが補正される。そして、第2プレス3のスライド位置をP2にすべく補正後のメインギヤ角速度指令Ig2が生成され、ドライバ60に出力される。ドライバ60はメインギヤ角速度指令Ig2に従いメインモータ61を回転させる。第2プレスのスライド動作が速い場合はメインモータ61は減速され、第2プレスのスライド動作が遅い場合はメインモータ61は加速される。
【0072】
すると図6に示すように、波形Aに対して波形B′が時間軸負方向に戻り、第1プレス2のスライド位置の周期的変化と第2プレス3のスライド位置の周期的変化は波形A、Bの関係になり、その位相差はT1に戻る。
【0073】
位置センサ95、96では常にスライド位置P1、P2が検出されており、第2プレス制御部47では常に検出位置P1に応じた対応位置P2′が求められ、検出位置P2と対応位置P2′との差P2-2が演算されている。よって、検出位置P2と対応位置P2′とがずれるに応じて補正信号S2が生成され、第2プレス3のスライド動作はリアルタイムで補正される。したがって、実際は第1プレス2のスライド位置の周期的変化と第2プレスのスライド位置の周期的変化は波形A、Bの状態が保たれ、所定位相差T1が保たれる。
【0074】
第2プレス3と第3プレス4との間においても同様の制御が行われ、また、第3プレス4と第4プレス5との間においても同様の制御が行われる。
【0075】
なお、上述した第2のプレス制御ではスライドの位置Pをスライド位置の指標値としている。このため、上流側プレスのスライド位置の変位特性と下流側プレスのスライド位置の変位特性の対応関係を記憶するようにしている。しかし、プレス角度θをスライド位置の指標値とし、上流側プレスのプレス角度の変化特性と下流側プレスのプレス角度の変化特性の対応関係を記憶するようにしてもよい。
【0076】
また、各プレスのスライド位置の指標値、例えばスライド位置Pやプレス角度θの対応関係をテーブルとして記憶するようにしてもよい。
【0077】
第2のプレス制御はあらゆるプレス、例えば電動サーボ式プレスや油圧サーボ式プレスに対して適用できる。但し、メインギヤを備えないプレスはメインギヤ各速度指令Igでない別の指令Iが出力されるため、その指令Iを補正することになる。
【0078】
以上のように、本実施形態の第1又は第2のプレス制御によれば、上流側プレス(第1プレス2)のスライドと下流側プレス(第2プレス3)のスライドとが所定位相差を保って動作するように、上流側プレスのプレス角度又はスライド位置に基づき下流側プレスのプレス角度又はスライド位置が補正されるように構成されているので、上流側プレス又は下流側プレスの周期的動作に変化が生じても、下流側プレスのスライド位置が上流側プレスのスライド位置に合わせて適宜補正される。したがって、タンデムプレスラインの連続運転が可能となる。
【0079】
[2.ワーク搬送装置の制御]
図8はワーク搬送装置の制御に係る制御システム構成図である。図9はフィーダモーションを示す図である。
【0080】
各ワーク搬送装置の昇降(リフト−ダウン)動作および搬送(アドバンス−リターン)動作は、そのワーク搬送装置により搬送されるワーク8と金型等との干渉を避けるために、図8、図9に示されるように、予め搬送装置制御部31において設定されるストロークとタイミング、すなわちフィーダモーションに基づきリフト軸サーボモータ22およびリニアモータ24、27が制御されることによりなされる。本実施形態において、フィーダモーションは、フィード軸方向(搬送方向)およびリフト軸方向(上下方向)の二次元モーションとされており、図9に示されるような各軸(フィード軸およびリフト軸)毎に設定されたプレス角度に対する軸位置指令値に基づき決定される。本実施形態のフィーダモーションによれば、ワーク8は吸着点Pにて上流側の第1プレス2の加工ステーションの下型内より吸着されてリフト(L)軸方向に持ち上げられた後、下流側の第2プレス3の加工ステーションの下型上までフィード(F)軸方向に搬送され、この下型内に入れるためにリフト軸方向に下げられて解放点Qにてワークの吸着が解放きれる。次に、ワーク搬送装置10は、上流側の第1プレス2の加工ステーションに戻るために一旦上方へ持ち上げられてリターン方向に移動された後、やや下降位置にある待機点Rを通って再度上昇および下降されて吸着点Pに戻され、1サイクルが終了する。
【0081】
上流側の第1プレス2および下流側の第2プレス3にはそれぞれエンコーダ91、92が設けられ、これらエンコーダ91、92により各プレス2、3のプレス角度(クランク角)が検出され、この検出値が搬送装置制御部31に入力されるようになっている。具体的には、エンコーダ91、92は、クランク角の角速度に対応した数のパルス信号を検出し、この検出されたパルス信号の数が搬送装置制御部31内のアップダウンカウンタに加えられることにより、このアップダウンカウンタによりクランク角に対応するパルス信号数が計数される。なお、アップダウンカウンタは、クランク軸が1回転する毎にその計数値が元の値になるように設定されている。
【0082】
また、搬送装置制御部31には、発振器34から所定周期の基準パルス信号が入力され、この入力パルス信号が搬送装置制御部31内のアップダウンカウンタに加えられることにより、そのパルス信号数が計数されるようになっている。この発振器34は、上流側および下流側の各プレス2、3に配されるエンコーダ91、92と同様、ワーク搬送装置10の昇降動作および搬送動作を制御するための搬送装置制御部31への入力信号を発信する機能を有するものであることから、仮想プレス角度検出器(もしくは仮想カム)と称することができる。なお、この発振器34の基準パルス信号の周期は適宜変更することが可能である。
【0083】
搬送装置制御部31は、エンコーダ91、92および発振器34からの入力情報に基づき所要の演算を実行し、その演算結果に基づき各サーボアンプ(サーボドライバ)35、36、37、38に指令値を出力し、これによってワーク搬送装置10の各リフト軸サーボモータ22およびリニアモータ24、27を制御する。また、リフト軸サーボモータ22およびリニアモータ24、27にはそれらモータの速度を検出する速度センサ(図示せず)が付設され、これら速度センサにより検出される速度信号が搬送装置制御部31に入力されることにより各サーボアンプ35〜38に速度フィードバックがかけられるようになっている。
【0084】
次に、本実施形態におけるワーク搬送装置10(ワーク搬送装置9、11、12、13についても同様)の制御態様について説明する。
【0085】
まず、上流側の第1プレス2からのワーク8の搬出に際して、この第1プレス2のスライド16aが下死点を過ぎて上昇工程に入る所定のプレス角度範囲a〜b(図9参照)においては、この第1プレス2に付設されたエンコーダ91からの信号に基づき、搬送装置制御部31より各サーボアンプ35〜38に制御信号が出力される。ワーク搬送装置10は第1プレス2の動きに同期(追従)するように、リフトビーム19の昇降動作と、キャリア23およびサブキャリア26のフィード方向への移動動作とによって、バキュームカップ30をその加工ステーションの下型内へ移動させてワーク8を保持した後、その下型内からワーク8を搬出する動作を実行する(上流側プレスとの同期区間)。
【0086】
次いで、この同期区間が終了した後、言い換えれば所定のプレス角度範囲a〜bを脱した後であって、次の下流側の第2プレス3との同期区間の開始点cに至るまでの区間b〜c(自走区間)においては、発振器34からの信号に基づき、搬送装置制御部31より各サーボアンプ35〜38に制御信号が出力される。より詳細には、自走区間は、下流側の第2プレス3との同期駆動に入る前の準備区間とされ、この下流側の第2プレス3に付設されたエンコーダ92からの信号と、発振器34からの信号との偏差に基づき、その偏差を徐々に小さくするように各サーボアンプ35〜38が制御される。こうして、上流側および下流側の各プレス2、3がそれぞれ独立した速度で運転されていたとしても、ワーク搬送装置10の運転速度を準備区間において次の第2プレス3の運転速度に徐々に合わせることができるので、ワーク搬送装置の動きをよりスムーズに制御することができ、かつラインスピードを向上させることができる。また、上流および下流の各プレス2、3がそれぞれ位相差を有して運転されたとしても準備区間においてワーク搬送装置の動きを調整することで対応可能である。
【0087】
この後、自走区間の終了後のプレス角度範囲c〜dにおいては、今度は下流側の第2プレス3に付設されたエンコーダ92からの信号に基づき、搬送装置制御部31より各サーボアンプ35〜38に制御信号が出力され、ワーク搬送装置10は第2プレス3の動きに同期(追従)するように、リフトビーム19の昇降動作と、キャリア23およびサブキャリア26のフィード方向への移動動作とによって、バキュームカップ30はその加工ステーションの下型内へワーク8を搬入する(下流側プレスとの同期区間)。
【0088】
なお、ワーク8を下流側の第2プレス3の下型内へ搬入した後のリターン工程についても、前述のフィード方向へのワーク8の搬送と略同様にして、下流側第2プレス3との同期区間の後、自走区間(待機点Rを含む)を経て、上流側第1プレス2との同期区間に入るという制御が実行される。
【0089】
以上のように、本実施形態のワーク搬送制御によれば、プレス2、3に対するワークの搬入・搬出時(同期区間)においてはその搬入・搬出対象となるプレス2、3に付設されたエンコーダ91、92からのプレス角度信号に基づきその対象となるプレス2、3におけるスライド16の動きに同期させるようにワーク搬送装置10が制御され、一方、ワークの搬入・搬出動作が終了した後の自走区間においては、発振器(仮想プレス角度検出器)34からの信号に基づきそのワーク搬送装置10が制御されるように構成されているので、上流側第1プレス2および下流側第2プレス3がそれぞれ独立して運転している場合であっても、ワーク搬送装置10を支障なく運転することができる。したがって、タンデムプレスライン1のラインスピードを格段に向上させることができるという優れた効果を奉する。また、ワーク8のプレス成形時における振動等の外乱による悪影響を受けることがないという利点もある。
【0090】
次に、隣接するプレスとワーク搬送装置の時間の経過と共に変化する位置関係について説明する。
【0091】
図10は隣接するプレスのスライド位置とワーク搬送装置の位置を時間経過と共に示す図である。波形Aは第1プレス2のスライド位置の周期的変化を示しており、波形Bは第2プレス3のスライド位置の周期的変化を示しており、波形Cはワーク搬送装置10の位置の周期的変化を示している。波形A、Bの上端はスライドの上死点であり、下端はスライドの下死点である。波形Cの上端は第1プレス2の加工ステーションであり、下端は第2プレス3の加工ステーションである。以下で、第1プレス2のスライド16aにおける1ストロークの動作を基準にして、第2プレス3のスライド16bの動作およびワーク搬送装置10の動作を説明する。
【0092】
時間t1で第1プレス2のスライド16aは上死点に到達する。この時、第2プレス3のスライド16bは上昇行程にあり、ワーク搬送装置10は第1プレス2の加工ステーションからワークを搬出し終え、第2プレス3側へのワーク搬送行程にある。
時間t2で第2プレス3のスライド16bは上死点に到達する。この時、第1プレス2のスライド16aは下降行程にあり、ワーク搬送装置10は第2プレス3側へのワーク搬送行程にある。
時間t3でワーク搬送装置10は第2プレス3の加工ステーションにワークを搬入する。この時、第1プレス2のスライド16aおよび第2プレス3のスライド16bは下降行程にあり、第2プレス3のスライド16bは上死点近傍に位置している。
時間t4でワーク搬送装置10は待機地点で待機を始める。この時、第1プレス2のスライド16aおよび第2プレス3のスライド16bは下降行程にある。
【0093】
時間t5で第1プレス2のスライド16aは下死点に到達する。この時、第2プレス3のスライド16bは下降行程にあり、ワーク搬送装置10は待機状態である。
時間t6で第2プレス3のスライド16bは下死点に到達する。この時、第1プレス2のスライド16aは上昇行程にあり、ワーク搬送装置10は再び第1プレス2側への移動を始める。
時間t7でワーク搬送装置10は第1プレス2の加工ステーションからワークを搬出する。この時、第1プレス2のスライド16aおよび第2プレス3のスライド16bは上昇行程にあり、第1プレス2のスライド16aは上死点近傍に位置している。
時間t8で第1プレス2のスライド16aは再び上死点に到達する。
【0094】
本実施形態によれば、上流側プレスのスライド動作に合わせて下流側プレスのスライド動作がリアルタイムで補正され、また隣接するプレスのスライド動作に合わせてワーク搬送装置によるワークの搬出・搬送・搬入動作が行われるため、各タンデムプレスラインを連続運転させることができ、生産効率を大幅に向上させることができる。連続運転が行えるようになると、断続運転で必要とされていたクラッチの係合と解放およびブレーキによる制動、を行う必要がなくなるため、クラッチおよびブレーキに設けられたフェーシングの摩耗を低減できる。したがってメンテナンスコストおよびメンテナンス頻度を低減させることができる。また断続運転を行う必要がなくなるため、クラッチの係合と解放およびブレーキによる制動に起因する騒音を無くすことができる。
【0095】
また本実施形態によれば、下流側プレス装置の動作にワーク搬送装置の動作を同期させる際に、ワーク搬送装置の動作をより円滑に制御することができ効率的なプレス加工を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は複数のプレス装置と隣接するプレス装置間に配置されるワーク搬送装置とを備えたタンデムプレスラインに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は本実施形態に係るタンデムプレスラインの正面図である。
【図2】図2は本実施形態に係るタンデムプレスラインの側面図である。
【図3】図3はワーク搬送装置の正面図である。
【図4】図4は図3のA−A断面図である。
【図5】図5は第1のプレス制御に係る制御システム構成図である。
【図6】図6はスライド位置を時間経過と共に示す図である。
【図7】図7は第2のプレス制御に係る制御システム構成図である。
【図8】図8はワーク搬送装置の制御に係る制御システム構成図である。
【図9】図9はフィーダモーションを示す図である。
【図10】図10は隣接するプレスのスライド位置とワーク搬送装置の位置を時間経過と共に示す図である。
【図11】図11は駆動機構の模式図である。
【図12】図12はスライド位置を時間経過と共に示す図である。
【符号の説明】
【0098】
2…第1プレス、3…第2プレス、4…第3プレス、5…第4プレス、
16a〜16d…スライド、31…搬送装置制御部、40…スライド制御部、
41,46…第1プレス制御部、42,47…第2プレス制御部、
43,48…第3プレス制御部、44,49…第4プレス制御部、
91,92,93,94…エンコーダ、95,96,97,98…位置センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレス装置を配列し、隣接する上流側プレス装置と下流側プレス装置との間にワーク搬送装置を配置したタンデムプレスラインの運転制御方法において、
前記上流側プレス装置の動作に応じた信号に基づいて前記下流側プレス装置の動作を制御し、
ワーク搬出区間では、前記上流側プレス装置の動作に応じた信号に基づいて前記ワーク搬送装置の動作を制御し、前記ワーク搬出区間を抜けた後は、前記ワーク搬送装置独自の信号に基づいて前記ワーク搬送装置の動作を制御すること
を特徴とするタンデムプレスラインの運転制御方法。
【請求項2】
互いに隣接するプレス装置のスライド位置を示す指標値を、互いに対応させて予め記憶しておき、
各プレス装置毎にスライド位置を示す指標値を検出し、検出した前記上流側プレス装置の指標値に基づいて対応する前記下流側プレス装置の指標値を求め、検出した前記下流側プレス装置の指標値と求めた前記下流側プレス装置の指標値とを一致させるように前記下流側プレス装置の動作を制御すること
を特徴とする請求項1記載のタンデムプレスラインの運転制御方法。
【請求項3】
各プレス装置を連続動作すること
を特徴とする請求項1記載のタンデムプレスラインの運転制御方法。
【請求項4】
前記下流側プレス装置の動作を制御する際に、前記下流側プレス装置に備えられたモータの速度を制御すること
を特徴とする請求項1記載のタンデムプレスラインの運転制御方法。
【請求項5】
前記ワーク搬送装置の動作を制御する際に、ワーク搬出区間の境界で、前記上流側プレス装置の動作に応じた信号と前記ワーク搬送装置独自の信号との差を小さくするように前記ワーク搬送装置の動作を制御すること
を特徴とする請求項1記載のタンデムプレスラインの運転制御方法。
【請求項6】
複数のプレス装置を配列し、隣接する上流側プレス装置と下流側プレス装置との間にワーク搬送装置を配置したタンデムプレスラインにおいて、
前記上流側プレス装置の動作に応じた信号に基づいて前記下流側プレス装置の動作を制御するプレス制御部と、
ワーク搬出区間では、前記上流側プレス装置の動作に応じた信号に基づいて前記ワーク搬送装置の動作を制御し、前記ワーク搬出区間を抜けた後は、前記ワーク搬送装置独自の信号に基づいて前記ワーク搬送装置の動作を制御するワーク搬送制御部と、を備えたこと
を特徴とするタンデムプレスライン。
【請求項7】
互いに隣接するプレス装置のスライド位置を示す指標値を、互いに対応させて予め記憶する記憶部を備え、
前記プレス制御部は、各プレス装置毎にスライド位置を示す指標値を検出し、検出した前記上流側プレス装置の指標値に基づいて対応する前記下流側プレス装置の指標値を求め、検出した前記下流側プレス装置の指標値と求めた前記下流側プレス装置の指標値とを一致させるように前記下流側プレス装置の動作を制御すること
を特徴とする請求項6記載のタンデムプレスライン。
【請求項8】
各プレス装置を連続動作すること
を特徴とする請求項6記載のタンデムプレスライン。
【請求項9】
前記プレス制御部は、前記下流側プレス装置に備えられたモータの速度を制御すること
を特徴とする請求項6記載のタンデムプレスライン。
【請求項10】
前記ワーク搬送制御部は、ワーク搬出区間の境界で、前記上流側プレス装置の動作に応じた信号と前記ワーク搬送装置独自の信号との差を小さくするように前記ワーク搬送装置の動作を制御すること
を特徴とする請求項6記載のタンデムプレスライン。
【請求項11】
複数のプレス装置のうちの隣接する上流側プレス装置と下流側プレス装置との間に配置されるワーク搬送部と、前記ワーク搬送部の動作を制御する制御部と、を備えたタンデムプレスラインのワーク搬送装置において、
前記制御部は、ワーク搬出区間では、前記上流側プレス装置の動作に応じた信号に基づいて前記ワーク搬送部の動作を制御し、前記ワーク搬出区間を抜けた後は、前記ワーク搬送部独自の信号に基づいて前記ワーク搬送部の動作を制御すること
を特徴とするタンデムプレスラインのワーク搬送装置。
【請求項12】
前記制御部は、ワーク搬出区間の境界で、前記上流側プレス装置の動作に応じた信号と前記ワーク搬送部独自の信号との差を小さくするように前記ワーク搬送部の動作を制御すること
を特徴とする請求項11記載のタンデムプレスラインのワーク搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−272462(P2006−272462A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159728(P2006−159728)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【分割の表示】特願2005−505941(P2005−505941)の分割
【原出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】