説明

ターボチャージャの軸受構造

【課題】軸受部材の第1、第2の両軸受部の内径面と回転軸との間の隙間に形成される油膜に起因する回転軸のホワール振動を抑制することができると共に、潤滑油の過剰流出を抑制することができるターボチャージャの軸受構造を提供する。
【解決手段】軸受ハウジング10に、回転軸20を回転可能に支持するセミフローティング形式の軸受部材30を備える。軸受部材30の内径面には、軸方向に所定の間隔を隔てる第1、第2の両軸受部35、36が形成される。第1、第2の両軸受部35、36の間と回転軸20の外周面との間には、潤滑油の油路38が形成される。軸受部材30には、油路38に潤滑油を供給するための貫通孔45が形成される。第1、第2の両軸受部35、36の内径面には、ホワール振動を抑制する単数又は複数の油溝40、41が形成される。油溝40、41は、軸方向に平行又は傾斜して形成されると共に、一部が閉塞されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はターボチャージャの軸受構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ターボチャージャの軸受ハウジングに形成された軸受孔に回転軸を回転可能に支持するセミフローティング形式の軸受部材を備えたターボチャージャの軸受構造としては、例えば、特許文献1及び2に開示されている。
このようなターボチャージャの軸受構造において、軸受部材の内径面に、軸方向に所定の間隔を隔てる第1、第2の両軸受部が形成されている。
また、軸受部材の内径面の第1、第2の両軸受部の間と、回転軸の外周面との間には、第1、第2の両軸受部の内径面側に潤滑油を供給するための油路が形成されている。さらに、軸受部材には、油路に潤滑油を供給するための貫通孔が形成されている。
そして、軸受ハウジングの潤滑油の供給孔から供給される潤滑油は、軸受部材の貫通孔を通して油路に供給された後、第1、第2の両軸受部の内径面と回転軸との間の隙間に流れて油膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−170296号公報
【特許文献2】特開2010−138757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記した従来のターボチャージャの軸受構造において、回転軸回転時に、第1、第2の両軸受部の内径面と回転軸との間の隙間に形成される油膜の動的作用によってもたらされる回転軸のオイルホワール振動、オイルホイップ振動(以下、ホワール振動)が発生することが想定される。ホワール振動を抑えようと回転軸と軸受部の隙間を小さくすることも考えられるが、油膜切れによる回転軸の焼き付きが懸念される。
そこで、第1、第2の両軸受部の内径面の軸方向全長にわたって油溝を形成することで油膜の旋回速度を低減しホワール振動を抑制することが考えられる。
しかしながら、第1、第2の両軸受部の内径面の軸方向全長にわたって油溝を形成すると、ホワール振動を抑制することができる反面、軸受部材の油路に供給された潤滑油が油溝に沿って軸受外部へ過剰に流出しやすくなる。
そして、潤滑油の過剰の流出によって、給油量を多くしなければならないと共に、オイルシール性が悪化されることが想定される。
【0005】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、軸受部材の第1、第2の両軸受部の内径面と回転軸との間の隙間に形成される油膜に起因する回転軸のホワール振動を抑制することができると共に、潤滑油の過剰流出を抑制することができるターボチャージャの軸受構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明の請求項1に係るターボチャージャの軸受構造は、ターボチャージャの軸受ハウジングに形成された軸受孔に回転軸を回転可能に支持するセミフローティング形式の軸受部材を備えたターボチャージャの軸受構造であって、
前記軸受部材の内周面には、軸方向に所定の間隔を隔てる第1、第2の両軸受部が形成され、
前記軸受部材の内周面の前記第1、第2の両軸受部の間と前記回転軸の外周面との間には、前記第1、第2の両軸受部の内径面側に潤滑油を供給するための油路が形成され、
前記軸受部材には、前記油路に潤滑油を供給するための貫通孔が形成され、
前記第1、第2の両軸受部の内径面には、ホワール振動を抑制する単数又は複数の油溝がそれぞれ形成され、
前記油溝は、軸方向に平行又は傾斜して形成されると共に、一部が閉塞されていることを特徴とする。
【0007】
前記構成によると、軸受部材の第1、第2の両軸受部の内径面にそれぞれ形成された油溝によって油膜の旋回速度を低減しホワール振動を抑制することができる。
また、油溝の一部が閉塞されることによって、潤滑油の過剰流出を抑制することができる。
【0008】
請求項2に係るターボチャージャの軸受構造は、請求項1に記載のターボチャージャの軸受構造であって、
油溝は、油路側が開口され、軸受部材の端面側が閉塞されていることを特徴とする。
【0009】
前記構成によると、油路側が開口され、軸受部材の端面側が閉塞された油溝を形成することによって、軸受部材の第1、第2の両軸受部の内径面と回転軸の外周面との間の隙間に潤滑油を円滑に供給して油膜を形成し、焼き付きを防止することができると共に、ホワール振動を抑制することができる。
【0010】
請求項3に係るターボチャージャの軸受構造は、請求項2に記載のターボチャージャの軸受構造であって、
油溝の軸方向の長さ寸法は、軸受部の軸方向の長さ寸法の1/2以上に設定されていることを特徴とする。
【0011】
前記構成によると、軸受部の軸方向の長さ寸法の1/2以上の長さ寸法に設定された油溝によって、ホワール振動を良好に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施例1に係る軸受構造が採用されたターボチャージャを示す縦断面図である。
【図2】同じくターボチャージャの軸受構造を拡大して示す縦断面図である。
【図3】同じく軸受部材単体を示す縦断面図である。
【図4】同じく図3のIV−IV線に沿う横断面図である。
【図5】軸受部材の油溝が軸方向に傾斜して形成された実施態様を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0014】
この発明の実施例1を図面にしたがって説明する。
図1に示すように、ターボチャージャは、タービンハウジング1と、コンプレッサハウジング2と、軸受ハウジング10と、タービンホイール18と、コンプレッサインペラ19と、回転軸20とを備えている。
【0015】
軸受ハウジング10は、中心部に軸受孔15が貫設されたハウジング本体11と、このハウジング本体11の一端側外周面に形成されたタービン側フランジ12と、ハウジング本体11の他端側外周面に形成されたコンプレッサ側フランジ13とを備えている。
ハウジング本体11の軸受孔15には、後に詳述するセミフローティング形式の軸受部材30を介して回転軸20が回転可能に組み付けられる。
回転軸20の一端部には大径軸部21が形成され、この大径軸部21の端部にタービンホイール18が装着され、同回転軸20の他端部に形成された小径軸部25にはシールリングカラー26を間に挟んでコンプレッサインペラ19が装着されている。
そして、軸受ハウジング10のタービン側フランジ12には、タービンホイール18に対応するタービンハウジング1がボルト等によって締結され、コンプレッサ側フランジ13にはコンプレッサインペラ19に対応するコンプレッサハウジング2がボルト等によって締結される。
なお、回転軸20の大径軸部21の外周面に形成された環状溝22内には、ハウジング本体11の軸受孔15の一端部外方に形成された孔部の内周面に密接するシールリング28が嵌込まれている。
また、シールリングカラー26の外周面に形成された環状溝27内には、ハウジング本体11の軸受孔15の他端部外方に形成された孔部の内周面に密接するシールリング29が嵌込まれている。
【0016】
図2と図3に示すように、セミフローティング形式の軸受部材30は、滑り軸受に用いられる金属材料(例えば、銅系合金材料)、セラミック材料等から円筒状に形成されている。
軸受部材30の外径面には、軸受ハウジング10の軸受孔15の内周面に僅かな隙間S1(例えば、20〜100μm)をもって嵌挿される外径側の第1軸受部31と第2軸受部32とが軸方向に所定の間隔を隔てて形成されている。
また、軸受部材30の外径側の第1軸受部31と第2軸受部32との間には小径部33が形成され、この小径部33と軸受ハウジング10の軸受孔15との間の環状の空間部を外径側の油路34としている。この外径側の油路34には、軸受ハウジング10に形成された潤滑油の供給孔16から潤滑油が供給される。
【0017】
軸受部材30の内径面には、回転軸20の外周面に前記隙間S1と同様に僅かな隙間S2をもって嵌挿される内径側の第1軸受部35と第2軸受部36とが軸方向に所定の間隔を隔てて形成されている。
また、軸受部材30の内径面の第1軸受部35と第2軸受部36との間には 大径孔部37が形成され、この大径孔部37と回転軸20の外周面との間の環状の空間部を内径側の油路38としている。
また、軸受部材30の小径部33から大径孔部37にわたって貫通孔45が形成され、この貫通孔45によって外径側の油路34と内径側の油路38とが連通されている。
また、軸受部材30の小径部33から大径孔部37にわたってピン孔46が貫設され、軸受ハウジング10のピン孔17から軸受部材30のピン孔46に回止めピン50が嵌挿されることによって、軸受ハウジング10に対し軸受部材30が回り止めされると共に、軸方向への移動が阻止されるようになっている。
【0018】
図3と図4に示すように、軸受部材30の内径側の第1、第2の両軸受部35、36の内径面には、複数の油溝40、41が軸方向に平行してそれぞれ形成され、一部が閉塞されている。
この実施例1において、油溝40、41は、内径側の油路38に開口され、軸受部材30の両端面側がそれぞれ閉塞されている。
また、油溝40、41の軸方向の長さ寸法L1は、第1、第2の両軸受部35、36の軸方向の長さ寸法L2の1/2以上に設定されている。
【0019】
また、この実施例1において、図4に示すように、内径側の第1軸受部35の油溝40は、周方向に120度の角度を隔てて3つ設けられている。また、内径側の第2軸受部36の油溝41は、第1軸受部35の各油溝40と60度の角度を変位した状態で、周方向に120度の角度を隔てて3つ設けられている。これによって、内径側の油路38に供給される潤滑油が内径側の第1軸受部35と第2軸受部36とに安定よく供給されるようになっている。
【0020】
この実施例1に係るターボチャージャの軸受構造は上述したように構成される。
したがって、軸受ハウジング10の潤滑油の供給孔16から供給される潤滑油は、外径側の油路34に流れた後、軸受部材30の外径側の第1、第2の両軸受部31、32と軸受ハウジング10の軸受孔15の内周面との間の隙間S1にそれぞれ流れて油膜を形成する。
また、外径側の油路34に流れた潤滑油の一部は、軸受部材30の貫通孔45を通して内径側の油路38に供給された後、軸受部材30の内径側の第1、第2の両軸受部35、36の内径面と回転軸20との間の隙間S2に流れて油膜を形成する。
【0021】
軸受部材30の内径側の第1、第2の両軸受部35、36の内径面には、油溝40、41が形成され、これら油溝40、41によって油膜の旋回速度を低減しホワール振動を抑制しつつ、回転軸20の焼き付きを防止することができる。
また、油溝40、41の一部が閉塞されることによって、潤滑油の過剰流出を抑制することができる。このため、給油量を多くする必要がない。さらに、過剰流出の潤滑油がシールリング28に向けて飛散することも抑制することができるため、オイルシール性が悪化されることもない。
すなわち、ホワール振動を抑制するために、第1、第2の両軸受部35、36の軸方向全長にわたって油溝を形成すると、この油溝に沿って潤滑油が過剰に流出する。このため、潤滑油の給油量を多くする必要がある。これに対し、油溝40、41の一部が閉塞されることによって、給油量を多くする必要がない。
【0022】
また、この実施例1において、油溝40、41は、内径側の油路38に開口し、軸受部材30の両端面側が閉塞されているため、軸受部材30の内径側の第1、第2の両軸受部35、36の内径面と回転軸20との間の隙間S2に潤滑油を円滑に供給して油膜を形成することができると共に、ホワール振動を抑制することができる。
また、油溝40、41の軸方向の長さ寸法L1は、第1、第2の両軸受部35、36の軸方向の長さ寸法L2の1/2以上に設定されているため、ホワール振動を良好に抑制することができる。
【0023】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施することができる。
例えば、前記実施例1においては、軸受部材30の内径側の第1、第2の両軸受部35、36の内径面に、複数の油溝40、41がそれぞれ形成される場合を例示したが、油溝40、41はそれぞれ単数であってもこの発明を実施することができる。
また、前記実施例1においては、油溝40、41が軸方向に平行してそれぞれ形成される場合を例示したが、図5に示すように、軸方向に傾斜して形成されてもこの発明を実施することができる。この場合、回転軸20の回転により潤滑油が連れ回り旋回したとしても、油溝40、41に進入した潤滑油が大径孔部37へ戻る方向に形成されていれば、さらに潤滑油流出を防ぐことができる。なお、図5の場合、回転軸20の回転方向はコンプレッサハウジング2側から見て時計回り方向である。
【符号の説明】
【0024】
10 軸受ハウジング
15 軸受孔
20 回転軸
30 軸受部材
35 内径側の第1軸受部
36 内径側の第2軸受部
38 油路
40、41 油溝
45 貫通孔
50 回止めピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボチャージャの軸受ハウジングに形成された軸受孔に回転軸を回転可能に支持するセミフローティング形式の軸受部材を備えたターボチャージャの軸受構造であって、
前記軸受部材の内周面には、軸方向に所定の間隔を隔てる第1、第2の両軸受部が形成され、
前記軸受部材の内周面の前記第1、第2の両軸受部の間と前記回転軸の外周面との間には、前記第1、第2の両軸受部の内径面側に潤滑油を供給するための油路が形成され、
前記軸受部材には、前記油路に潤滑油を供給するための貫通孔が形成され、
前記第1、第2の両軸受部の内径面には、ホワール振動を抑制する単数又は複数の油溝がそれぞれ形成され、
前記油溝は、軸方向に平行又は傾斜して形成されると共に、一部が閉塞されていることを特徴とするターボチャージャの軸受構造。
【請求項2】
請求項1に記載のターボチャージャの軸受構造であって、
油溝は、油路側が開口され、軸受部材の端面側が閉塞されていることを特徴とするターボチャージャの軸受構造。
【請求項3】
請求項2に記載のターボチャージャの軸受構造であって、
油溝の軸方向の長さ寸法は、軸受部の軸方向の長さ寸法の1/2以上に設定されていることを特徴とするターボチャージャの軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−193709(P2012−193709A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59585(P2011−59585)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】