説明

ダイアフラム型真空ポンプ

【課題】運転時における軸受けの振動の発生やクリープの発生を防止して、運転騒音を低減することができるダイアフラム型真空ポンプを提供する。
【解決手段】モータ軸5の軸受け6a、6bの外輪と該軸受け6a、6bを嵌合するハウジング7a、7bとの間、及びコネクティングロッド13a、13bの軸受け11a、11bの外輪とコネクティングロッド13a、13bとの間、及びモータ軸5の軸受け6a、6の内輪とモータ軸5との間、及びコネクティングロッド13a、13bの軸受け11a、11bの内輪と偏芯軸9a、9bとの間に、それぞれ接着剤を塗布して接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアフラム型真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体製造プロセスなどの工程で使用される真空容器等の内部を減圧するための真空ポンプとして、例えばダイアフラム型真空ポンプが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、近年、酸素富化膜と真空ポンプを組み合わせて、酸素濃度を30%程度に高めた酸素富化空気を発生する装置を構成し、この装置をエアコン等に組み込んで、室内の酸素濃度を約21%以上に保つことができるようにした商品が実用化されている。このようなエアコンでは、酸素富化膜と真空ポンプは室外機に組み込まれており、酸素を選択的に拡散透過させる能力を持った酸素富化膜の2次側を真空ポンプにより減圧させて、酸素濃度が高められた空気を生成し、これを真空ポンプで大気圧まで加圧し、配管を通して室内機まで導いて室内に放出させる。
【0004】
上記したエアコンの室外機に組み込まれる真空ポンプとして、ダイアフラム型真空ポンプが使用されている。この場合、エアコンの室外機に組み込まれた真空ポンプには、40db(A特性1m)以下の静かな運転音が要求される。
【特許文献1】特開2001−329963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ダイアフラム型真空ポンプは、ダイアフラムを押し下げたり押し上げたりすることでポンプ室の容積を変化させ、吸引・圧縮を行うことから、ポンプの回転軸の一回転中におけるトルク変動が大きい。このため、モータ軸受け、コネクティングロッド軸受けには変動荷重がかかり、これらの軸受けの外輪とハウジング、又は、これらの軸受けの内輪と軸との嵌め合い部に僅かな隙間が存在すると、これらの軸受けが振動して騒音が発生して、運転音が大きくなり、更に、軸受けの外輪が回転する現象(クリープ現象)が発生し易くなって、軸精度が短時間で保てなくなる不具合も発生する。
【0006】
そこで本発明は、運転時における軸受けの振動の発生やクリープの発生を防止して、運転騒音を低減することができるダイアフラム型真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、電動モータの片側又は両側に第1の軸受けを介して回転支持したモータ軸を伸長させ、前記モータ軸上に偏芯軸と第2の軸受けを介してコネクティングロッドを配置して、前記コネクティングロッドの先端側にダイアフラムを取付け、前記モータ軸の回転による前記コネクティングロッドの往復運動により前記ダイアフラムを動作させて真空排気を行なうダイアフラム型真空ポンプにおいて、前記第1の軸受けの外輪と該第1の軸受けを嵌合するハウジングとの間、及び前記第2の軸受けの外輪と前記コネクティングロッドとの間、及び前記第1の軸受けの内輪と前記モータ軸との間、及び第2の軸受けの内輪と前記偏芯軸との間に、それぞれ接着剤を塗布して接着することを特徴としている。
【0008】
また、前記第1の軸受けの外輪と前記ハウジングとの間、及び前記第2の軸受けの外輪と前記コネクティングロッドとの間に、それぞれ軟鋼製のリングを挿入し、接着剤で接着することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、運転時におけるモータ軸及びコネクティングロッドの軸受けの振動の発生やクリープの発生を防止して、運転騒音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係るダイアフラム型真空ポンプを示す概略断面図、図2は、その上面図である。
【0011】
図1において、1は中央部に設けたモータ2のステータで、モータケース3内に挿入されて固定されている。また、4はモータ2のロータで、モータ軸(シャフト)5が圧入固定されている。ロータ4の両側のモータ軸5にはベアリングを有する軸受け6a、6bがそれぞれ取付けられており、各軸受け6a、6bはアルミ合金製のハウジング7a、7bにそれぞれ嵌め込まれている。各ハウジング7a、7bは、ポンプケース8a、8bにそれぞれ挿入され、ねじ(不図示)で固定されている。
【0012】
モータ軸5上の各軸受け6a、6bの外側には、偏芯軸9a、9bと冷却ファン10a、10bがそれぞれ固定されており、各偏芯軸9a、9bにはベアリングを有する軸受け11a、11bがそれぞれ取付けられている。各偏芯軸9a、9bは、モータ軸5が挿入される穴と各軸受け11a、11bの内輪が挿入される穴が偏芯するように形成されており、各偏芯軸9a、9bの偏芯量が各ダイアフラム12a、12bの往復運動量(ストローク量)となる。各軸受け11a、11bには、アルミ合金製のコネクティングロッド13a、13bを介してダイアフラム12a、12bがそれぞれ接続されている。
【0013】
各ダイアフラム12a、12bの中心側は固定金具14a、14bによりそれぞれ固定されており、各ダイアフラム12a、12bの外周部はポンプヘッド15a、15bによりそれぞれ固定されている。各ポンプヘッド15a、15bには、吸気弁16a、16bと排気弁17a、17bがそれぞれ取付けられており、ダイアフラム12a、12bとポンプヘッド15a、15bによりそれぞれ形成されるポンプ室内の圧力が大気圧より下回ると吸気弁16a、16bが開き、前記ポンプ室内の圧力が大気圧より高まると排気弁17a、17bが開くように構成されている。ポンプヘッド15a、15bの上部には、各吸気弁16a、16bと各排気弁17a、17bの上方に位置するようにしてポンプヘッドカバー18a、18bがそれぞれ取付けられている。
【0014】
上記したダイアフラム型真空ポンプは、各ポンプケース8a、8b内にダイアフラム12a、12bをそれぞれ有する2ヘッドポンプで、各ダイアフラム12a、12bの往復運動の位相が180度ずれており、各接続配管19a、19bによって並列に接続されている。また、一方のポンプヘッド15aの側面には、吸気口20と排気口21がそれぞれ接続されている。
【0015】
かくして、モータ2を駆動させるとそのモータ軸5が回転することで、各偏芯軸9a、9bが回転することにより各コネクティングロッド13a、13bが往復運動する。各コネクティングロッド13a、13bの往復運動により、接続されている各コネクティングロッド13a、13bが、それぞれ180度位相がずれて上下動することによって吸気・排気が繰り返され、真空排気が行なわれる。
【0016】
ところで、上記したダイアフラム型真空ポンプを運転して真空排気を行なっているときには、可動部分等から振動音や動作音が発生し、これらの音が運転騒音となる。このうち、特に騒音レベルの高いのは、以下に挙げる(a)〜(d)である。
【0017】
(a)軸受け6a、6bの外輪とハウジング7a、7b間の嵌合箇所におけるわずかな隙間部分で、軸受け6a、6bの外輪が振動することによる騒音。
【0018】
(b)軸受け11a、11bの外輪とコネクティングロッド13a、13b間の嵌合箇所におけるわずかな隙間部分で、軸受け11a、11bの外輪が振動することによる騒音。
【0019】
(c)軸受け6a、6bの内輪とモータ軸5間の嵌合箇所に隙間が生じた場合に軸受け6a、6bの内輪が振動することによる騒音。
【0020】
(d)軸受け11a、11bの内輪と偏芯軸9a、9b間の嵌合箇所に隙間が生じた場合に軸受け11a、11bの内輪が振動することによる騒音。
【0021】
上記した本発明に係るダイアフラム型真空ポンプでは、アルミ合金製の各ハウジング7a、7bの鋼製の各軸受け6a、6bの外輪が挿入される部分に、軟鋼製のリング22a、22bをそれぞれ鋳込んでいる。このリング22a、22bを鋳込む理由は、このダイアフラム型真空ポンプが、−10℃〜70℃程度の雰囲気で使用されることによる。
【0022】
即ち、70℃程度の雰囲気では、運転中の軸受け6a、6b付近の温度は100℃程度となる。アルミ合金(ハウジング7a、7b)の熱膨張率は、鋼(軸受け6a、6b)の熱膨張率よりも約2.2倍大きい。そのため、鋼材からなる軸受け6a、6bとアルミ合金製のハウジング7a、7bの嵌合部分の隙間が0.013mm程度大きくなることによって、軸受け6a、6bの外輪が回転するクリープ現象が生じて回転精度が保てなくなり、かつ、軸受け6a、6bの外輪に振動が発生して騒音レベルが高くなる。
【0023】
そこで本発明では、上記(a)に起因する騒音を抑えるために、上記したようにアルミ合金製の各ハウジング7a、7bの鋼製の各軸受け6a、6bの外輪が挿入される部分に、軟鋼製のリング22a、22bをそれぞれ鋳込んで、このリング22a、22b内に接着剤を薄く塗布して軸受け6a、6bの外輪を挿入して接着する。このように、軸受け6a、6bのベアリング鋼と熱膨張係数の近い軟鋼製のリング22a、22bを設けることにより、熱膨張による軸受け6a、6bとハウジング7a、7bの嵌合部分の隙間が大きくなることが抑制され、高温時でも接着剤による軸受け6a、6bの外輪とハウジング7a、7bの接合強度を保つことができる。
【0024】
これにより、軸受け6a、6bの外輪の振動が抑えられて騒音が小さくなり、かつ、軸受け6a、6bの外輪が回転するクリープ現象を抑えることができる。
【0025】
また、上記(b)に起因する騒音を抑えるために、同様の理由で各コネクティングロッド13a、13bの各軸受け11a、11bの外輪が挿入される部分にも、軟鋼製のリング23a、23bをそれぞれ鋳込んで、このリング23a、23b内に接着剤を薄く塗布して軸受け11a、11bの外輪を挿入して接着する。このように、軸受け11a、11bのベアリング鋼と熱膨張係数の近い軟鋼製のリング23a、23bを設けることにより、熱膨張による軸受け11a、11bとコネクティングロッド13a、13bの嵌合部分の隙間が大きくなることが抑制され、高温時でも接着剤による軸受け11a、11bの外輪とコネクティングロッド13a、13bの接合強度を保つことができる。
【0026】
これにより、軸受け11a、11bの外輪の振動が抑えられて騒音が小さくなり、かつ、軸受け11a、11bの外輪が回転するクリープ現象を抑えることができる。
【0027】
なお、本発明者の実験によれば、高温時に軟鋼製のリング22a、22b(及びリング23a、23b)とアルミ合金製のハウジング7a、7b(及びコネクティングロッド13a、13b)は、高温時においても熱膨張率の違いによって分離することなく、強固に結合が保たれていた。
【0028】
また、本発明では、上記(c)に起因する騒音を抑えるために、モータ2のモータ軸5表面に接着剤溜まりの溝(不図示)を設けて、軸受け6a、6bの内輪内面とこの内輪が挿入されるモータ軸5に嫌気性接着剤を薄く塗布し、各軸受け6a、6bをモータ軸5に圧入固定している。更に、軸受け6a、6bの外輪が挿入されるハウジング7a、7bの内面とこの軸受け6a、6bの外輪外面に接着剤を塗布して、各ハウジング7a、7bの軸穴に各軸受け6a、6bをそれぞれ挿入し、各ハウジング7a、7bをモータケース3にボルト(不図示)で固定している。なお、この際、波ばね24で軸受け6aの外輪に予圧を与え、軸受け6aの軸方向の遊びをなくしておいて接着固定する。
【0029】
これにより、軸受け6a、6bの内輪とモータ軸5間に隙間が生じることが防止され、軸受け6a、6bの内輪の振動が抑えられて騒音が小さくなる。
【0030】
また、本発明では、上記(d)に起因する騒音を抑えるために、軸受け11a、11bの外輪とリング23a、23b間、及び軸受け11a、11bの内輪と偏芯軸9a、9b間に嫌気性接着剤を薄く塗布して接着固定している。この場合においても、モータ2のモータ軸5表面に接着剤溜まりの溝(不図示)を設けて、軸受け11a、11bの内輪内面とこの内輪が挿入されるモータ軸5に嫌気性接着剤を薄く塗布し、各軸受け11a、11bをモータ軸5に圧入固定している。また、リング23a、23bにも接着剤溜まりの溝(不図示)を設けている。
【0031】
これにより、軸受け11a、11bの内輪と偏芯軸9a、9b間に隙間が生じることが防止され、軸受け11a、11bの内輪の振動が抑えられて騒音が小さくなる。
【0032】
上記のように騒音低減措置を施した本発明に係るダイアフラム型真空ポンプの騒音レベルを測定した結果、このダイアフラム型真空ポンプから1m離れた距離での騒音レベルは39db(A特性)であった。一方、上記のように騒音低減措置を施していない従来のダイアフラム型真空ポンプで、同様に騒音レベルを測定した結果、このダイアフラム型真空ポンプから1m離れた距離での騒音レベルは47db(A特性)であった。この結果から、上記のように騒音低減措置を施した本発明に係るダイアフラム型真空ポンプは、騒音レベルが大幅に低減されていることが裏付けられた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係るダイアフラム型真空ポンプを示す概略断面図。
【図2】本発明の実施形態に係るダイアフラム型真空ポンプを示す上面図。
【符号の説明】
【0034】
2 モータ
4 ロータ
5 モータ軸
6a、6b、11a、11b 軸受け
7a、7b ハウジング
9a、9b 偏芯軸
12a、12b ダイアフラム
13a、13b コネクティングロッド
22a、22b、23a、23b リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータの片側又は両側に第1の軸受けを介して回転支持したモータ軸を伸長させ、前記モータ軸上に偏芯軸と第2の軸受けを介してコネクティングロッドを配置して、前記コネクティングロッドの先端側にダイアフラムを取付け、前記モータ軸の回転による前記コネクティングロッドの往復運動により前記ダイアフラムを動作させて真空排気を行なうダイアフラム型真空ポンプにおいて、
前記第1の軸受けの外輪と該第1の軸受けを嵌合するハウジングとの間、及び前記第2の軸受けの外輪と前記コネクティングロッドとの間、及び前記第1の軸受けの内輪と前記モータ軸との間、及び第2の軸受けの内輪と前記偏芯軸との間に、それぞれ接着剤を塗布して接着する、
ことを特徴とするダイアフラム型真空ポンプ。
【請求項2】
前記第1の軸受けの外輪と前記ハウジングとの間、及び前記第2の軸受けの外輪と前記コネクティングロッドとの間に、それぞれ軟鋼製のリングを挿入し、接着剤で接着する、
ことを特徴とする請求項1に記載のダイアフラム型真空ポンプ。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−63874(P2006−63874A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246902(P2004−246902)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(591268623)アルバック機工株式会社 (14)
【Fターム(参考)】