説明

ダイヤモンド膜の選択的形成方法及びCMPパッドコンディショナー

【課題】ダイヤモンド膜の表面にマスキング及びエッチングを施すことなく簡便に凹部を形成できるダイヤモンド膜の選択的形成方法及びこのダイヤモンド膜を切刃に用いたCMPパッドコンディショナーを提供する。
【解決手段】母体1の表面1Aに、薬液により除去可能とされ、かつ、ダイヤモンド膜Dの生成を助長する性質の第1膜12と、第1膜12上に配されダイヤモンド膜Dの生成を阻止する性質の第2膜13とを選択的に形成して、表面1Aを、非マスキング領域を有しつつ第1、第2膜12、13によりマスキングする工程と、CVD法により、非マスキング領域における表面1Aの部分と、この部分の周縁部に立設する第1膜12の壁面12Cとにダイヤモンド膜Dを生成させて、このダイヤモンド膜Dの母体1側とは反対側を向く表面2Aに凹部2Bを形成する工程と、薬液により第1膜12とともに第2膜13を表面1Aから取り除く工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド膜の選択的形成方法及びこのダイヤモンド膜を切刃に用いたCMPパッドコンディショナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、常圧の化学気相蒸着(CVD)法によりダイヤモンド膜を形成する技術が開発され、ダイヤモンド膜を電子デバイスや工具等に利用する研究が活発に行われている。このようなダイヤモンド膜は、用途に応じて、母体である基板や切刃等の表面に選択的に形成される場合がある(特許文献1〜3参照)。
【0003】
ダイヤモンド膜を選択的に形成する手法として、例えば、特許文献1には、基体(母体)の表面にダイヤモンド膜の生成を阻止する性質の膜(以下「阻止膜」とする)を選択的に形成して前記表面をマスキング(マスキング領域)し、この阻止膜に被覆されていない非マスキング領域にのみダイヤモンド膜を成膜する技術が記載されている。
【0004】
一方、半導体産業の進展とともに、金属、半導体、セラミックスなどの表面を高精度に仕上げる加工方法の必要性が高まっており、特に、半導体ウェーハでは、その集積度の向上とともにナノメーターオーダーの表面仕上げが要求されている。このような高精度の表面仕上げに対応するために、半導体ウェーハに対して、多孔性のCMPパッドを用いたCMP(ケミカルメカニカルポリッシュ)研磨が一般に行われている。
【0005】
半導体ウェーハ等の研磨に用いられるCMPパッドは、研磨時間が経過していくにつれ目詰まりや圧縮変形を生じ、その表面状態が次第に変化していく。すると、研磨速度の低下や不均一研磨等の好ましくない現象が生じるので、CMPパッドの表面を定期的に研削加工することにより、CMPパッドの表面状態を一定に保って、良好な研磨状態を維持する工夫が行われている。
【0006】
CMPパッドを研削加工するために用いられるCMPパッドコンディショナーは、例えば、円板状の基板(母体)と、この基板のCMPパッド側を向く表面に形成された複数の切刃とを有している。これらの切刃として、前述のダイヤモンド膜が用いられることがある。
【0007】
このように、ダイヤモンド膜をCMPパッドコンディショナーの切刃に用いる場合は、ダイヤモンド膜の表面(すなわちダイヤモンド膜において母体側とは反対側を向く表面)に凹部を形成すると、該凹部により研磨用のスラリーの供給が効率よく行われ、切粉等の研削屑の排出性が高められて、CMPパッドに対する研削性能が向上するので好ましい。また、前記表面に凹部を形成することで相対的に該表面から突出する凸部が形成される場合には、切れ味がより高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−209270号公報
【特許文献2】特開平6−247794号公報
【特許文献3】特開平7−69793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のように、母体の表面に前記阻止膜を選択的に形成し前記マスキング領域とし、前記非マスキング領域にダイヤモンド膜を成膜する場合、このダイヤモンド膜の表面は、凹部のない平面となる。つまり、前記阻止膜における前記非マスキング領域側を向く壁面、すなわち母体の表面に立設する該阻止膜の壁面にはダイヤモンド膜が生成されないので、ダイヤモンド膜は、母体の表面に平行に積層するように生成されていき、該ダイヤモンド膜の表面が平面に形成される。
【0010】
このようなダイヤモンド膜の表面に凹部を形成するための手法としては、例えば、このダイヤモンド膜の表面に対して選択的にマスキングを施し、該表面における非マスキング領域をエッチングにより削って、凹部を形成することが考えられる。しかしながら、この場合、ダイヤモンド膜の表面におけるコンタミネーションが考えられ、また、洗浄等の工程が増え製造が煩雑になるという課題が生じる。
【0011】
一方、母体の表面に、ダイヤモンド膜の生成を助長する性質の膜(以下「助長膜」とする)を選択的に形成してマスキングする手法が考えられる。この場合、ダイヤモンド膜は、非マスキング領域における母体の表面の部分と、この部分の周縁部に立設する前記助長膜の壁面とに夫々生成されていくこととなり、ダイヤモンド膜の表面には自然に凹部が形成される。しかしながら、マスキング領域における前記助長膜の母体側とは反対側を向く表面にもダイヤモンド膜が形成されてしまい、好ましくない。つまり、前記助長膜の表面にダイヤモンド膜が形成されると、非マスキング領域のダイヤモンド膜と、マスキング領域のダイヤモンド膜とが互いに連結してしまうことが考えられる。
【0012】
このようにダイヤモンド膜同士が連結すると、所望の形状のダイヤモンド膜が得られなくなる。また、薬液により前記助長膜を取り除く際に、該助長膜がダイヤモンド膜に被覆されて除去できなくなったり、この助長膜を除去した後に、ダイヤモンド膜の内部が中空に形成されてしまったりするという問題が生じる。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ダイヤモンド膜の表面にマスキング及びエッチングを施すことなく簡便に凹部を形成できるダイヤモンド膜の選択的形成方法及びこのダイヤモンド膜を切刃に用いたCMPパッドコンディショナーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち本発明に係るダイヤモンド膜の選択的形成方法は、母体の表面に、薬液により除去可能とされ、かつ、ダイヤモンド膜の生成を助長する性質の第1膜と、前記第1膜上に配されるとともにダイヤモンド膜の生成を阻止する性質の第2膜と、を選択的に形成して、該表面を、非マスキング領域を有しつつ前記第1、第2膜によりマスキングする工程と、CVD法により、非マスキング領域における前記表面の部分と、この部分の周縁部に立設する前記第1膜の壁面とにダイヤモンド膜を生成させて、このダイヤモンド膜の前記母体側とは反対側を向く表面に凹部を形成する工程と、前記薬液により前記第1膜とともに前記第2膜を前記母体の表面から取り除く工程と、を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明に係るダイヤモンド膜の選択的形成方法によれば、まず、母体の表面に、ダイヤモンド膜の生成を助長する性質の第1膜と、この第1膜上に配され、ダイヤモンド膜の生成を阻止する性質の第2膜と、が選択的に形成される。つまり、母体の表面には、第1、第2膜により被覆されたマスキング領域と、第1、第2膜に被覆されずに露出した非マスキング領域とが形成される。
【0016】
次いで、CVD法によりダイヤモンド膜を成膜すると、ダイヤモンド膜は、非マスキング領域における母体の表面の部分と、この部分の周縁部に立設する第1膜の壁面とに夫々生成されていく。このように生成された非マスキング領域のダイヤモンド膜には、その母体側とは反対側を向く表面に自然に凹部が形成される。
【0017】
よって、ダイヤモンド膜の表面に容易に凹部を形成することができる。すなわち、前記凹部を形成するために、ダイヤモンド膜の表面を選択的にマスキングしエッチングを施すような必要がないことから、製造工程が簡便となり、また、ダイヤモンド膜の表面におけるコンタミネーションが防止される。
尚、前述のダイヤモンド膜の成膜の際、第1膜の前記壁面に連なる第2膜の壁面には、ダイヤモンド膜は生成されない。
【0018】
一方、マスキング領域においては、第2膜の表面(すなわち第2膜における母体側とは反対側を向く表面)に僅かにダイヤモンド膜が載る場合がある。このように第2膜の表面にダイヤモンド膜が載った場合であっても、この第2膜上のダイヤモンド膜と、非マスキング領域に生成されたダイヤモンド膜とは、第2膜の前記壁面において互いに離間されていることから、前記ダイヤモンド膜同士が連結してしまうことがない。
【0019】
従って、前記ダイヤモンド膜同士が連結してしまい、所望のダイヤモンド膜の形状が得られなくなるようなことがない。また、第1、第2膜を取り除く際、第1、第2膜がダイヤモンド膜に被覆されて除去できなくなったり、第1、第2膜を除去した後に、ダイヤモンド膜の内部が中空に形成されてしまったりすることがない。よって、所望のダイヤモンド膜が精度よく確実に形成される。
【0020】
また、ダイヤモンド膜が形成された後は、薬液により第1膜を取り除くことで、第1膜上に形成された第2膜も該第1膜と共に容易に除去できるので、ダイヤモンド膜の製造がより簡便に行える。
【0021】
また、本発明に係るダイヤモンド膜の選択的形成方法において、前記マスキングする工程は、前記母体の表面に、前記第1膜及び前記第2膜の膜厚の和よりも厚膜に設定された感光性樹脂膜を選択的に形成し、前記感光性樹脂膜及び露出した前記表面の部分に前記第1、第2膜を順次成膜し、前記感光性樹脂膜を前記母体の表面から取り除くことにより、該母体の表面に前記第1、第2膜を選択的に形成することとしてもよい。
また、本発明に係るダイヤモンド膜の選択的形成方法において、前記マスキングする工程は、前記母体の表面に、前記第1、第2膜を順次成膜し、前記第2膜上に、感光性樹脂膜を選択的に形成し、露出した前記第2膜の部分及びこの部分に対応する前記第1膜の部分をエッチングすることにより、前記母体の表面に前記第1、第2膜を選択的に形成することとしてもよい。
【0022】
本発明に係るダイヤモンド膜の選択的形成方法によれば、比較的容易に、かつ、確実に、母体の表面に第1、第2膜を選択的に形成して、該表面を、非マスキング領域を有しつつ第1、第2膜によりマスキングすることができる。従って、前述のダイヤモンド膜が簡便に精度よく形成できる。
【0023】
また、本発明は、基板に形成された複数の切刃を用いて、前記基板に対向配置されたCMPパッドに研削加工を施すCMPパッドコンディショナーであって、前記切刃として、前述のダイヤモンド膜の選択的形成方法により形成された前記ダイヤモンド膜を用いることを特徴とする。
【0024】
本発明に係るCMPパッドコンディショナーによれば、前述のダイヤモンド膜の選択的形成方法により形成された前記ダイヤモンド膜からなる切刃を用いているので、CMPパッドに対する研削性能が高められる。すなわち、ダイヤモンド膜の表面に凹部が形成されていることから、該凹部により研磨用のスラリーの供給が効率よく行われ、切粉等の研削屑の排出性が高められて、CMPパッドに対する研削性能が向上する。また、前記表面に凹部を形成することで相対的に該表面から突出する凸部が形成されるような場合には、切れ味がより高められる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るダイヤモンド膜の選択的形成方法によれば、ダイヤモンド膜の表面にマスキング及びエッチングを施すことなく簡便に凹部を形成できる。
また、本発明に係るCMPパッドコンディショナーによれば、前記ダイヤモンド膜を切刃に用いているので、研削性能が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るダイヤモンド膜の選択的形成方法により形成された切刃を有するCMPパッドコンディショナーを示す部分側断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るダイヤモンド膜の選択的形成手順を説明する図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るダイヤモンド膜の選択的形成手順を説明する図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るダイヤモンド膜の選択的形成方法により形成されたダイヤモンド膜を示す斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るダイヤモンド膜の選択的形成手順を説明する図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るダイヤモンド膜の選択的形成手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
第1の実施形態に係るCMPパッドコンディショナー10は、基板に形成された複数の切刃を用いて、基板に対向配置されたCMPパッドに研削加工を施すものである。
CMPパッドコンディショナー10は、例えば、炭化珪素(SiC)からなり略円板状をなす基板1を有している。また、図1に示すように、基板1のCMPパッド側を向く表面1Aには、切刃2が該表面1Aから突出して複数形成されている。
【0028】
これらの切刃2は、有底円筒状又は丸皿状に夫々形成されており、切刃2のCMPパッド側を向く表面2Aにおける中央部分には、凹部2Bが夫々形成されている。これらの切刃2は、後述するダイヤモンド膜の選択的形成方法により成膜されたダイヤモンド膜Dを用いて形成されている。
【0029】
次に、ダイヤモンド膜の選択的形成方法、及び、これを用いて切刃2を基板1の表面1Aに形成する手順について説明する。
まず、図2(a)、(b)に示すように、母体である基板1の表面1Aに、感光性樹脂膜11を均一に塗布する。感光性樹脂膜11としては、有機溶剤により表面1Aから取り除くことが可能な材料を用いる。また、感光性樹脂膜11の膜厚Taは、例えば、20μm程度に設定される。
【0030】
次いで、図2(c)に示すように、この感光性樹脂膜11をパターニングする。詳しくは、表面1A上において、感光性樹脂膜11を、ダイヤモンド膜を成膜する部位に対応して残すように、選択的に除去する。
【0031】
次に、真空蒸着装置を用いて、図3(d)に示すように、選択的に形成された感光性樹脂膜11及び該感光性樹脂膜11に被覆されずに露出した表面1Aの部分に、第1膜12、第2膜13を順次蒸着し成膜する。第1膜12は、フッ酸等の薬液により除去可能とされ、かつ、ダイヤモンド膜の生成を助長する性質の材料からなり、例えば、SiOを用いることができる。また、第2膜13は、ダイヤモンド膜の生成を阻止する性質の材料からなり、例えば、Alを用いることができる。
【0032】
また、例えば、第1膜12の膜厚は10μm程度とされ、第2膜13の膜厚は第1膜12よりも薄膜の0.5μm程度に設定される。詳しくは、第2膜13の膜厚は、ダイヤモンド膜の成膜時に蒸散せず、かつ、ダイヤモンド膜の生成を阻止できる程度に設定されていればよい。また、第1膜12及び第2膜13の膜厚の和Tbは、感光性樹脂膜11の前記膜厚Taよりも小さい値に設定される。
【0033】
次に、有機溶剤による洗浄を行い、残存した感光性樹脂膜11を表面1Aから取り除く。詳しくは、感光性樹脂膜11の上部及び側部には第1膜12及び第2膜13が夫々配されているが、前述のように、前記膜厚Taは前記膜厚Tbよりも大きい値に設定されている。従って、感光性樹脂膜11は、基板1の表面1Aに直接成膜された第1膜12上における第2膜13の基板1側とは反対側を向く表面13Aよりも、前記反対側へ突出して形成されている。つまり、感光性樹脂膜11において基板1の表面1Aに立設された壁面11Cの上端部が露出しているので、この上端部から感光性樹脂膜11が溶解して、確実に除去されるようになっている。また、この際、感光性樹脂膜11の上部に形成された第1膜12及び第2膜13の部分も、図3(e)に示すように、この感光性樹脂膜11が除去されるのに伴って取り除かれる。
【0034】
このような工程を経て、第1膜12及び第2膜13が、基板1の表面1Aに選択的に形成される(マスキング工程)。つまり、基板1の表面1Aには、第1膜12及び第2膜13に被覆されたマスキング領域と、第1膜12及び第2膜13に被覆されずに露出した非マスキング領域とが夫々形成される。
【0035】
次いで、図3(f)に示すように、ダイヤモンド成膜装置を用い、CVD法により、前記非マスキング領域における表面1Aの部分と、この部分の周縁部に立設する第1膜12の壁面12Cとにダイヤモンド膜Dを生成させる。ダイヤモンド膜Dの膜厚は、成膜時間により制御することができ、例えば、5μm程度に設定される。前記非マスキング領域において、このように、表面1Aの前記部分と壁面12Cとにダイヤモンド膜Dを夫々生成させていくと、このダイヤモンド膜Dの基板1側とは反対側を向く表面2Aに凹部2Bが形成される。
【0036】
また、前記マスキング領域においては、第2膜13の表面13Aに、僅かにダイヤモンド膜Dが載る。また、第2膜13において、第1膜12の壁面12Cに連なるように形成される壁面13Cには、ダイヤモンド膜Dは生成されない。
【0037】
次いで、フッ酸を用いて、基板1の表面1Aから第1膜12を取り除く。尚、前述のように、第1膜12上には第2膜13及びダイヤモンド膜Dが形成されているが、第1膜12が除去されることにより、図3(g)に示すように、第1膜12と共にこれらの第2膜13及びダイヤモンド膜Dも表面1Aから取り除かれる。
このように、基板1の表面1Aに、凹部2Bを有するダイヤモンド膜Dが選択的に複数形成され、これらのダイヤモンド膜Dが、CMPパッドコンディショナー10の切刃2に用いられる。
【0038】
また、このようなダイヤモンド膜Dからなる切刃2は、種々の形状に設定可能である。すなわち、第1膜12及び第2膜13を基板1の表面1Aにおいて種々に選択的に形成し、ダイヤモンド膜D(2)を、例えば、図4(a)に示すように、有底円筒状又は丸皿形状に形成したり、図4(b)に示すように、有底角筒状又は升形状に形成したりできる。また、図4(c)に示すように、ダイヤモンド膜Dを略円筒状に形成するとともに、その表面2Aに、周方向に沿って延びる環状の凹部2Bを形成することとしてもよい。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係るダイヤモンド膜Dの選択的形成方法によれば、母体である基板1の表面1Aに、ダイヤモンド膜Dの生成を助長する性質の第1膜12と、この第1膜12上に配され、ダイヤモンド膜Dの生成を阻止する性質の第2膜13と、が選択的に形成され、表面1Aには、第1膜12及び第2膜13により被覆されたマスキング領域と、被覆されずに露出した非マスキング領域とが形成される。
次いで、CVD法によりダイヤモンド膜Dを成膜すると、ダイヤモンド膜Dは、非マスキング領域における基板1の表面1Aの部分と、この部分の周縁部に立設する第1膜12の壁面12Cとに夫々生成されていく。このように生成された非マスキング領域のダイヤモンド膜Dには、その表面2Aに自然に凹部2Bが形成される。
【0040】
よって、従来のように、表面2Aに凹部を形成するため、例えば、成膜したダイヤモンド膜の表面に選択的にマスキングを施し、この表面における非マスキング領域をエッチングにより削って凹部を形成するような煩雑な工程を得ることなく、ダイヤモンド膜に容易に凹部を形成することができる。また、ダイヤモンド膜にマスキング及びエッチングを施す必要がないことから、ダイヤモンド膜の表面におけるコンタミネーションが防止される。
【0041】
また、ダイヤモンド膜Dの成膜時に、マスキング領域において、第2膜13の表面13Aに僅かにダイヤモンド膜Dが載るが、この第2膜13上のダイヤモンド膜Dと、非マスキング領域に生成されたダイヤモンド膜Dとは、第2膜13の壁面13Cにおいて互いに離間されていることから、前記ダイヤモンド膜D同士が連結してしまうことがない。従って、これらのダイヤモンド膜D同士が連結してしまい、所望のダイヤモンド膜Dの形状が得られなくなるようなことがない。また、第1膜12及び第2膜13を表面1Aから取り除く際、第1膜12及び第2膜13がダイヤモンド膜Dに被覆されて除去できなくなったり、第1膜12及び第2膜13を除去した後に、ダイヤモンド膜Dの内部が中空に形成されてしまったりすることがない。よって、所望のダイヤモンド膜Dが精度よく確実に形成される。
【0042】
また、ダイヤモンド膜Dが成膜された後は、フッ酸により第1膜12を取り除くことで、第1膜12上に形成された第2膜13及び不要なダイヤモンド膜Dも該第1膜12と共に容易に除去できるので、ダイヤモンド膜Dの製造がより簡便に行える。
【0043】
また、基板1の表面1Aに感光性樹脂膜11を選択的に形成し、第1膜12及び第2膜13を成膜した後、感光性樹脂膜11を除去することで第1膜12及び第2膜13を表面1Aに選択的に形成することとしているので、該表面1Aに対するマスキングが精度よく確実に行える。また、製造工程が簡便となる。
【0044】
また、本実施形態に係るCMPパッドコンディショナー10によれば、前述のダイヤモンド膜Dからなる切刃2を用いているので、CMPパッドに対する研削性能が高められる。すなわち、ダイヤモンド膜Dの表面2Aに凹部2Bが形成されているので、該凹部2Bにより研磨用のスラリーの供給が効率よく行われ、切粉等の研削屑の排出性が高められて、CMPパッドに対する研削性能が向上する。
【0045】
また、前記表面2Aに凹部2Bを形成した際に、相対的に該表面2Aから突出する凸部が形成されるような場合には、切れ味がより高められる。詳しくは、図4(a)、(b)、(c)におけるダイヤモンド膜Dの上端外縁部、及び、図4(c)における上端内縁部には、前記凸部が夫々形成されており、該凸部により研削性能がさらに向上する。
【0046】
次に、本発明の第2の実施形態に係るダイヤモンド膜の選択的形成方法について説明する。
尚、前述の第1の実施形態と同一部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0047】
まず、真空蒸着装置を用いて、図5(a)、(b)に示すように、母体である基板1の表面1Aに、第1膜12及び第2膜13を順次蒸着し成膜する。
次いで、図5(c)に示すように、第2膜13の表面13Aに感光性樹脂膜11を均一に塗布する。
【0048】
次いで、図6(d)に示すように、この感光性樹脂膜11をパターニングする。詳しくは、感光性樹脂膜11を、ダイヤモンド膜を成膜する部位以外の部分に対応して残すように、選択的に除去する。
【0049】
次いで、ドライエッチングを施し、第2膜13において感光性樹脂膜11に被覆されずに露出した部分、及び、前記部分に対応する第1膜12の部分を取り除くとともに、図6(e)に示すように、基板1の表面1Aにおいてダイヤモンド膜を成膜させる部分を露出させる。尚、このドライエッチングとしては、リアクティブイオンエッチングを用いることが好ましい。
【0050】
このような工程を経て、第1膜12、第2膜13及び感光性樹脂膜11が、基板1の表面1Aに選択的に形成される(マスキング工程)。つまり、基板1の表面1Aには、第1膜12、第2膜13及び感光性樹脂膜11に被覆されたマスキング領域と、第1膜12、第2膜13及び感光性樹脂膜11に被覆されずに露出した非マスキング領域とが夫々形成される。
次に、有機溶剤による洗浄を行い、残存した感光性樹脂膜11を表面13Aから取り除く。すなわち、アセトン、メタノール等の薬品を用い、有機洗浄により、マスキング領域に残された感光性樹脂膜11を第2膜13上から除去する。
【0051】
次いで、図6(f)に示すように、ダイヤモンド成膜装置を用い、CVD法により、前記非マスキング領域における表面1Aの部分と、この部分の周縁部に立設する第1膜12の壁面12Cとにダイヤモンド膜Dを生成させる。前記非マスキング領域において、このように、表面1Aの前記部分と壁面12Cとにダイヤモンド膜Dを夫々生成させていくと、このダイヤモンド膜Dの基板1側とは反対側を向く表面2Aに凹部2Bが形成される。
尚、前述の、残存した感光性樹脂膜11を有機洗浄により表面13Aから除去する手法の代わりに、このダイヤモンド膜Dの成膜時に、前記感光性樹脂膜11を蒸散により表面13Aから除去することとしても構わない。すなわち、ダイヤモンド膜Dの成膜時には、基板1が加熱され、例えば、800℃程度にまで温度上昇するので、この加熱に伴って前記感光性樹脂膜11を蒸散させるとともに、第2膜13上から取り除くようにしても構わない。
【0052】
次いで、図6(g)に示すように、フッ酸を用いて、基板1の表面1Aから第1膜12を取り除くとともに、該第1膜12上に配された第2膜13及び不要なダイヤモンド膜Dを除去する。
このように、基板1の表面1Aに、凹部2Bを有するダイヤモンド膜Dが選択的に複数形成され、これらのダイヤモンド膜Dが、CMPパッドコンディショナー10の切刃2に用いられる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態に係るダイヤモンド膜Dの選択的形成方法によれば、比較的容易に、かつ、確実に、基板1の表面1Aに第1膜12及び第2膜13を選択的に形成して、該表面1Aを、非マスキング領域を有しつつ第1膜12及び第2膜13によりマスキングすることができる。従って、この表面1Aに、凹部2Bを有するダイヤモンド膜Dを簡便に精度よく形成できる。
【0054】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前述の実施形態では、凹部2Bを有するダイヤモンド膜DをCMPパッドコンディショナー10の切刃2に用いることとして説明したが、ダイヤモンド膜Dを、それ以外の電子デバイスや工具等に形成し用いることとしてもよい。
【0055】
また、前述の実施形態では、SiCからなる基板1を母体として、基板1上にダイヤモンド膜Dを成膜することとしたが、この母体として、SiC以外の炭化タングステン(WC)や窒化珪素(Si)又はそれ以外の化合物や金属等を用いても構わない。
【0056】
また、第1膜12にSiOを用い、第2膜13にAlを用いることとして説明したが、これらに限定されるものではない。すなわち、第1膜12は、薬液により除去可能とされ、かつ、ダイヤモンド膜Dの生成を助長する性質の材料であればよく、SiO以外の白金(Pt)等であってもよい。また、第2膜13は、ダイヤモンド膜Dの生成を阻止する性質の材料であればよく、Al以外の酸化アルミ(AlO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン(Ti)等であってもよい。尚、第2の実施形態の第2膜13にAlOを用いる場合、図6(d)において非マスキング領域に配された第2膜13の部分を、熱リン酸により選択的に取り除くこととしてもよい。
【0057】
また、第1膜12を除去可能な薬液として、フッ酸を用いることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、薬液として、フッ酸以外のフッ素系薬品、例えば、バッファードフッ酸等を用いても構わない。
また、感光性樹脂膜11、第1膜12、第2膜13及びダイヤモンド膜Dの各膜厚は、前述の実施形態において説明した数値に限定されるものではない。
【0058】
また、第2の実施形態では、第2膜13において感光性樹脂膜11に被覆されずに露出した部分、及び、前記部分に対応する第1膜12の部分をドライエッチングにより取り除くこととしたが、これに限らず、ウェットエッチングにより取り除くこととしても構わない。
【符号の説明】
【0059】
1 基板(母体)
1A 基板の表面
2 切刃(ダイヤモンド膜)
2A 切刃の表面
2B 凹部
10 CMPパッドコンディショナー
11 感光性樹脂膜
12 第1膜
12C 第1膜の壁面
13 第2膜
D ダイヤモンド膜
Ta 感光性樹脂膜の膜厚
Tb 第1膜及び第2膜の膜厚の和

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母体の表面に、薬液により除去可能とされ、かつ、ダイヤモンド膜の生成を助長する性質の第1膜と、前記第1膜上に配されるとともにダイヤモンド膜の生成を阻止する性質の第2膜と、を選択的に形成して、該表面を、非マスキング領域を有しつつ前記第1、第2膜によりマスキングする工程と、
CVD法により、非マスキング領域における前記表面の部分と、この部分の周縁部に立設する前記第1膜の壁面とにダイヤモンド膜を生成させて、このダイヤモンド膜の前記母体側とは反対側を向く表面に凹部を形成する工程と、
前記薬液により前記第1膜とともに前記第2膜を前記母体の表面から取り除く工程と、を備えることを特徴とするダイヤモンド膜の選択的形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のダイヤモンド膜の選択的形成方法であって、
前記マスキングする工程は、前記母体の表面に、前記第1膜及び前記第2膜の膜厚の和よりも厚膜に設定された感光性樹脂膜を選択的に形成し、
前記感光性樹脂膜及び露出した前記表面の部分に前記第1、第2膜を順次成膜し、
前記感光性樹脂膜を前記母体の表面から取り除くことにより、該母体の表面に前記第1、第2膜を選択的に形成することを特徴とするダイヤモンド膜の選択的形成方法。
【請求項3】
請求項1に記載のダイヤモンド膜の選択的形成方法であって、
前記マスキングする工程は、前記母体の表面に、前記第1、第2膜を順次成膜し、
前記第2膜上に、感光性樹脂膜を選択的に形成し、
露出した前記第2膜の部分及びこの部分に対応する前記第1膜の部分をエッチングすることにより、前記母体の表面に前記第1、第2膜を選択的に形成することを特徴とするダイヤモンド膜の選択的形成方法。
【請求項4】
基板に形成された複数の切刃を用いて、前記基板に対向配置されたCMPパッドに研削加工を施すCMPパッドコンディショナーであって、
前記切刃として、請求項1〜3のいずれか一項に記載のダイヤモンド膜の選択的形成方法により形成された前記ダイヤモンド膜を用いることを特徴とするCMPパッドコンディショナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−173882(P2010−173882A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16669(P2009−16669)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】