説明

ダイレクトコンバージョン方式による送信機

【課題】ダイレクトコンバージョン方式による送信機のIQ信号振幅バランスの調整を簡単な構成で行う。
【解決手段】主可変利得増幅器66の制御電圧Ecを監視し、I信号のみ出力時の制御電圧Ecの値と、Q信号のみ出力時の制御電圧Ecの値が同値となるように、換言すれば、主可変利得増幅器66の利得がI信号のみの増幅時及びQ信号のみの増幅時に同値となるようにI信号とQ信号の振幅をそれぞれ第1可変利得増幅器26と第2可変利得増幅器28により調整することで、直交変調器2の出力端及び送信出力端子92でのIQ信号の振幅値が同値となり、結果としてIQ振幅バランス調整を正確かつ簡単に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、APC機能(送信出力レベルの自動制御機能)を有するダイレクトコンバージョン方式による送信機に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、IQ信号のベースバンド信号を直接RF信号に変換する、いわゆるダイレクトコンバージョン方式による送信機が提案されている。この種の送信機が、例えば基地局として固定配置されるとき、固定された位置で、規定の(一定の)送信出力電力を放射するように、送信出力レベルが自動制御される。同様に、移動局において、基地局から受信した送信電力の規制指令に従い規定の送信電力を放射するように、送信出力レベルが自動制御される(特許文献1)。
【0003】
図8は、特許文献1に開示された送信出力レベル自動制御方式が採用されたダイレクトコンバージョン方式による送信機18の構成を示している。
【0004】
この送信機18では、送信信号は、ベースバンド部1で生成したIQ信号で搬送波に直交変調部2で直交変調を行い、制御電圧により利得を可変することが可能である可変利得増幅部3を介し、マイコン14からの制御信号により一定ステップ毎に減衰量を設定できるステップ減衰器4を経た後、アンテナ9より送信する送信電力レベルまで増幅を行う電力増幅部5で増幅後、方向性結合器6、アイソレータ7、BPF8を介し、アンテナ9より電波として放射される。
【0005】
このとき送信電力制御は、まず図示しない基地局からの送信電力の規制信号によりマイコン14から制御信号を出力してステップ減衰器4のステップ減衰量の設定を行い、送信電力を一定ステップで制御を行う。
【0006】
そして方向性結合器6で送信電力の一部を取り出し、出力検出回路部であるダイオード検波回路10により包絡線検波を行い、送信電力に対応した検波電圧を出力し、その検波電圧を積分回路11において積分して、後段に設けたA/Dコンバータ12で検出できるように積分回路出力電圧を保持し、その保持期間にソフト制御によってA/Dコンバータ12を介してマイコン14に取り込み、マイコン14ではあらかじめ設定しておいた基準値と比較を行ない、比較結果よりROM13内に格納したテーブルデータから送信電力が規定値となるデータを呼出し、D/Aコンバータ15に入力する。
【0007】
D/Aコンバータ15では、入力データに相当するアナログ電圧を発生し、この電圧を可変利得増幅部3の制御電圧として可変利得増幅部3に与えて利得を可変することにより、送信電力の制御を行う。
【0008】
ソフト制御のタイミングは、最低でも毎バースト毎に行うものとし、次バースト送信時までに可変利得増幅部3の利得を最適化することにより送信電力を制御可能とすると特許文献1に記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開9−27723号公報([0007]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、ダイレクトコンバージョン方式による送信機18の場合、受信機側でのビットエラーレートを小さくするために、送信機18側の直交変調器2のIQ信号の振幅バランスを調整し、さらにIQ信号の直交度を調整する必要がある。
【0011】
このIQ信号の振幅バランス及び直交度の調整について特許文献1には記載がないが、例えば、図9に示すシステム19の構成が考えられる。
【0012】
すなわち、アンテナ9を取り外して、スペクトラムアナライザ20をBPF8の出力端(送信出力端子)に接続する。
【0013】
また、ベースバンド部1の構成として、I信号をスイッチ22、可変利得増幅器26を介して直交誤差補正部30の一方の入力ポートに接続する。同様に、Q信号をスイッチ24、可変利得増幅器28を介して直交誤差補正部30の他方の入力ポートに接続する。
【0014】
可変利得増幅器26、28と直交誤差補正部30とによって振幅と直交度が調整されたIQ信号を、それぞれD/A変換器32、34、LPF36、38を介して直交変調部3に入力する。
【0015】
さらに、スペクトラムアナライザ20とスイッチ22、24、可変利得増幅器26、28、と直交誤差補正部30との間にマイクロコンピュータ(マイコン)40を設ける。
【0016】
このように構成したシステム19において、ダイレクトコンバージョン方式による送信機18のIQ信号の振幅バランス及び直交度の調整は、送信出力端子に接続したスペクトラムアナライザ20により、信号波とイメージ波を観測して行う。
【0017】
具体的に、調整方法は、IQ信号を複素正弦波[cos(wt)とsin(wt)]にして直交変調部3から信号波とイメージ波を発生させ、スイッチ22とスイッチ24を交互に切り替えて(一方が通過状態であるとき他方が遮断状態)I信号又はQ信号を直交変調部3に入力し、I信号出力時とQ信号出力時におけるスペクトラムアナライザ20で観測される信号波の振幅レベル、すなわち送信出力レベルが同じになるように可変利得増幅器26、28の利得をマイクロコンピュータ40により調整する。
【0018】
次に、スイッチ22、24を同時に通過状態とし、このときにスペクトラムアナライザ20で観測されるイメージ波の出力レベルが最小となるように直交誤差補正部30をマイクロコンピュータ40により調整することでIQ直交度が最善となるように調整される。
【0019】
しかしながら、上記従来技術に示したAPC機能(送信出力レベルの自動制御)機能を持ったダイレクトコンバージョン方式による送信機18の場合、図9に示したAPCループにより送信出力レベルが常に一定になるようにRF増幅部42の利得が自動調整されるため、I信号出力時(スイッチ22閉、スイッチ24開)とQ信号出力時(スイッチ22開、スイッチ24閉)にレベル差が存在していても送信レベルが同一の値となってしまうのでIQ信号各振幅の正確なバランス調整を行うことができないという問題がある。
【0020】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、IQ信号振幅の正確なバランス調整を行うことを可能とするダイレクトコンバージョン方式による送信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この発明に係るダイレクトコンバージョン方式による送信機は、I信号を通過させ又は遮断する第1スイッチと、前記第1スイッチの出力側に接続され振幅が調整されたI信号を出力する第1可変利得増幅器と、Q信号を通過させ又は遮断する第2スイッチと、前記第2スイッチの出力側に接続され振幅が調整されたQ信号を出力する第2可変利得増幅器と、振幅が調整されたI信号とQ信号を直交変調して、イメージ波と信号波からなる変調信号を出力する直交変調器と、前記変調信号が入力され一定送信出力レベルの信号出力波を出力する主可変利得増幅器と、前記信号出力波を検波し検波出力を出力する検波器と、前記検波出力と前記一定送信出力レベルに対応した基準入力とが供給され前記主可変利得増幅器の利得調整端子に制御出力を出力する比較器と、を有する自動利得制御増幅器と、を備えるダイレクトコンバージョン方式による送信機であって、前記比較器の前記制御出力が入力され、前記第1可変利得増幅器と前記第2可変利得増幅器の利得を調整する制御回路とを備え、前記制御回路は、前記第1スイッチ又は前記第2スイッチを通過状態にしたときの前記比較器の前記制御出力を記憶した後、前記第1スイッチ又は前記第2スイッチ中、通過状態にしたスイッチを遮断状態にし通過状態にしなかったスイッチを通過状態にしたときの前記比較器の前記制御出力が、前記記憶した制御出力となるように通過状態にした側の前記第1可変利得増幅器又は第2可変利得増幅器の利得を調整することを特徴とする。
【0022】
この発明は、APC機能を持ったダイレクトコンバージョン方式による送信機の場合、APCループにより送信出力レベルが常に一定になるようにRF増幅部の利得が自動調整されるためI信号出力時とQ信号出力時にレベル差が存在しても送信レベルが同一の値となってしまうのでIQ信号振幅の正確なバランス調整を行うことができないという知見に基づき、I信号又はQ信号に対してRF増幅部の利得を一定に保持するようにしてIQ信号個々のレベルを調整すれば、IQ信号振幅のバランスを正確に取ることができるという考えに基づいて構成されている。
【0023】
具体的には、変調信号が入力され一定送信出力レベルの信号出力波を出力する主可変利得増幅器と、前記信号出力波を検波し検波出力を出力する検波器と、前記検波出力と前記一定送信出力レベルに対応した基準入力とが供給され前記主可変利得増幅器の利得調整端子に制御出力を出力する比較器と、を有する自動利得制御増幅器を構成する前記比較器の前記制御出力が、制御回路を通じて前記第1可変利得増幅器と前記第2可変利得増幅器の利得調整端子に供給されるように構成し、前記第1スイッチ又は第2スイッチを通過状態にしたときの前記比較器の制御出力を記憶した後、通過状態にしたスイッチを遮断状態にし通過状態にしなかったスイッチを通過状態にしたとき、前記比較器の制御出力が、前記記憶した制御出力となるように通過状態にした側の前記第1可変利得増幅器又は第2可変利得増幅器の利得を調整する構成とすることで、IQ信号の振幅を同一にすることができる。すなわち、利得可変を行っている主可変利得増幅器の制御電圧を監視し、I信号のみの出力時の制御電圧値とQ信号のみの出力時の制御電圧値とが同値となるように、I信号とQ信号の振幅を調整するための第1可変利得増幅器と第2可変利得増幅器の利得(ゲイン)を調整することでIQ信号の振幅値が同値となり、結果としてIQ振幅バランス調整を正確かつ簡単に行うことができる。
【0024】
なお、直交変調器に至るまでのI信号伝達経路又はQ信号伝達経路のいずれか一方の経路のスイッチを省略し、可変利得増幅器を固定利得増幅器に変更してもこの発明を実施することができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によるダイレクトコンバージョン方式による送信機は、直交変調器の出力側において、I信号及びQ信号を増幅する主可変利得増幅器の利得が一定になるようにして、直交変調器の前段のI信号及びQ信号の増幅器の利得を調整するようにしているので、直交変調器の入出力端でのI信号及びQ信号の振幅を一定の大きさに調整することができ、その結果IQ信号振幅の正確なバランス調整を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0027】
なお、以下に参照する図面において、上記図8、図9に示したものと対応するものには同一の符号を付けてその詳細な説明は省略する。
【0028】
図1、図6は、この発明の一実施形態に係るダイレクトコンバージョン方式による送信機60の構成を示す回路ブロック図である。なお、図1においては、工場出荷時等におけるIQ信号振幅バランスと直交度の調整のために、アンテナ9に代替して送信出力端子92にスペクトラムアナライザ20を接続し、かつスペクトラムアナライザ20と制御回路84との間にパーソナルコンピュータ(パソコン)80を接続している。もちろん、フィールドにおいて、図1の構成とすることもできる。
【0029】
図1において、送信機60は、基本的には、入力されるI信号を通過させ又は遮断する第1スイッチ22と、第1スイッチ22の出力側に接続され振幅が調整されたI信号を出力する第1可変利得増幅器26と、入力されるQ信号を通過させ又は遮断する第2スイッチ24と、第2スイッチ24の出力側に接続され振幅が調整されたQ信号を出力する第2可変利得増幅器28と、振幅と直交誤差が調整されたI信号とQ信号を直交変調してイメージ波と信号波からなる変調信号を出力する直交変調器2と、前記変調信号が入力され一定送信出力レベルの信号出力波を出力する主可変利得増幅器66と、主可変利得増幅器66を含む自動利得制御増幅器90とを備える。
【0030】
ここで、自動利得制御増幅器90は、方向性結合器6を介して前記信号出力波を検波し検波出力を出力する検波器68と、前記検波出力と前記一定送信出力レベルに対応した基準入力Erとが供給され主可変利得増幅器66の利得調整端子に制御出力Ecを出力する比較器74と、を有する。なお、基準入力Erは、基準電圧発生器75で発生される。
【0031】
送信機60は、さらに、比較器74の制御出力EcがD/A変換器82を介して入力され、第1可変利得増幅器26及び第2可変利得増幅器28の利得を調整する制御回路84を備える。
【0032】
ここで、制御回路84は、マイクロコンピュータにより構成され、CPUがメモリに格納されたプログラムを実行することで各種機能を実現する機能実現手段として動作する。この実施形態において、制御回路84は、プログラムに応じて、第1スイッチ22及び第2スイッチ24を切り替える機能を有し、さらに第1スイッチ22又は第2スイッチ24を通過状態にしたときの制御出力Ecを記憶するメモリ(記憶機能)として機能し、さらにまた通過状態にしたスイッチ22又は24を遮断状態にし、通過状態にしなかったスイッチ22又は24を通過状態にしたときの制御出力Ecが、記憶した制御出力Ecとなるように通過状態にした側の第1可変利得増幅器26又は第2可変利得増幅器28の利得を調整する利得調整機能を有する。
【0033】
送信機60は、さらに詳しくは、第1可変利得増幅器26及び第2可変利得増幅器28の出力側と直交変調器2の入力側との間に、それぞれ直列に接続される、直交誤差補正部30、D/A変換器32、34、LPF36、38を有する。
【0034】
また、直交変調器2は、搬送波とI信号が入力され信号波とイメージ波を出力するミキサ62と、90゜移相器67で移相された搬送波とQ信号が入力され信号波とイメージ波を出力するミキサ64とを備える。
【0035】
自動利得制御増幅器90は、直交変調器2の出力を減衰し又増幅する可変減衰器76と電力増幅器78とから構成される主可変利得増幅器66と、主可変利得増幅器66の出力、すなわち信号出力波(送信出力レベル)を通過させて出力端子92に伝送するとともに一部を分岐させて減衰波を取り込む方向性結合器6と、方向性結合器6の出力より信号出力波を検波する検波ダイオード70と検波ダイオード70の出力を線形化(リニアライズ)するダイオードを有する線形化回路72とを有する検波器68と、検波器68の出力(検波出力)と基準入力Erとを比較し、信号出力波の出力レベルが基準入力Erに対応したレベルとなるように主可変利得増幅器66を構成する可変減衰器76の減衰度を調整するために可変減衰器76の利得調整端子(減衰調整端子)に制御出力Ecを出力する比較器74とを備える。
【0036】
スペクトラムアナライザ20の出力、ここでは、信号波のレベルと周波数、イメージ波のレベルと周波数、搬送波のレベルと周波数がパソコン80に取り込まれる。
【0037】
パソコン80は、さらに、基準電圧発生器75の基準入力Erの電圧値を調整し検出することが可能であり、さらに、検出した基準入力Erの電圧値及びスペクトラムアナライザ20の出力に基づいた制御コマンドを制御回路84に送る。
【0038】
制御回路84は、前記の制御コマンドに応じて自己のプログラムを実行し、スイッチ切替信号S1、S2、利得調整信号E1、E2、及び直交誤差補正信号Eφを、それぞれ、第1及び第2スイッチ22、24、第1及び第2可変利得増幅器26、28の利得調整端子、並びに直交誤差補正部30に供給する。
【0039】
この発明の一実施形態に係るダイレクトコンバージョン方式による送信機60は、基本的には以上のように構成されかつ動作するものであり、次に、要部動作の詳細について、図2、図3A、図3B、図3C、図4、図5をも参照して説明する。
【0040】
まず、図2に示すように、パソコン80は、基準電圧発生器Erの出力である基準入力Erを所定値とし、また、制御回路84を通じて、I信号を通過させるためのスイッチ22を通過状態にし(閉じ)、Q信号を遮断するためのスイッチ24を遮断状態にする(開ける)。
【0041】
このとき、スペクトラムアナライザ20の出力としてパソコン80から得られるI信号の信号波Ssi(図3A参照)が所定振幅レベルとなるように制御回路84は利得調整信号E1の値を調節し、信号波Ssiが所定振幅レベルとなったときの比較器74の制御出力Ec(Ec=Ec1とする。)をメモリに記憶する。
【0042】
次に、図4に示すように、制御回路84は、I信号を遮断するためにスイッチ22を遮断状態にし(開け)、Q信号を通過させるためにスイッチ24を通過状態にする(閉じる)。
【0043】
このとき、図3Bに示すスペクトラムアナライザ20の出力としてパソコン80から得られるQ信号の信号波Ssqが、前記I信号の信号波Ssiの所定振幅レベルと同じレベルとなるように第2可変利得増幅器28の利得を利得調整信号E2により調整する。このように調整することで、比較器74のQ信号に係る制御出力Ecが、記憶しているI信号に係る制御出力Ec1と同じ値となる。
【0044】
I信号単独又はQ信号単独のいずれの場合にも、信号波Ssiと信号波Ssqの振幅レベルを同値とすることで、制御出力EcをEc=Ec1が同値となることから、自動利得制御増幅器90の利得、すなわち主可変利得増幅器66の利得は同一の利得となり、直交変調器2の出力端A(図2、図4参照)でI信号とQ信号の振幅が完全に一致することになる。
【0045】
次に、イメージ波妨害が最小となるように位相を調整するために、図5に示すように、I信号とQ信号とを通過させるために両スイッチ22、24を通過状態にする(閉じる)。
【0046】
この状態において、制御回路84は、スペクトラムアナライザ20の出力としてのパソコン80から得られるイメージ波Si(図3C参照)の振幅レベルが最小となるように直交誤差補正部30での位相を調整する位相調整信号Eφを変化させる。このようにして、I信号とQ信号の直交度、いわゆるIQ直交度が最適(最良)の状態にされる。
【0047】
以下、図5の状態において、スペクトラムアナライザ20とパソコン80とを取り外し、出力端子92にアンテナ9を取り付けることで、図6に示すように、ダイレクトコンバージョン方式による送信機60として使用に供される。
【0048】
このように、この実施形態に係る送信機60では、従来技術に比較して、APCである自動利得制御増幅器90を機能させたまま、IQ振幅バランスの調整を行うことができる。
【0049】
なお、IQ振幅のバランス調整に限れば、図6の回路接続状態、換言すれば基地局等として設置された状態において、制御回路84が、I信号のみ増幅時とQ信号のみ増幅時において制御電圧Ecが同値になるように第1及び第2可変利得増幅器26、28を調整すればよいので、スペクトラムアナライザ20や直交変調器2の出力点でのパワーを測定するための電力計が不要である。
【0050】
さらには、図6において、制御回路84に初期調整モードスイッチを設け、このスイッチを遠隔操作等により押す毎に、スイッチ22及びスイッチ24を交互に切り替えて比較器74の出力である主可変利得増幅器66の制御出力Ecを制御回路84のCPUに取り込んで比較させることで自動的にIQ振幅バランスの調整を行うことができる。
【0051】
なお、パソコン80の機能を制御回路84に組み込むことも可能である。
【0052】
以上説明したように上述した実施形態によるダイレクトコンバージョン方式による送信機60は、I信号を通過させ又は遮断する第1スイッチ22と、第1スイッチ22の出力側に接続され振幅が調整されたI信号を出力する第1可変利得増幅器26と、Q信号を通過させ又は遮断する第2スイッチ24と、第2スイッチ24の出力側に接続され振幅が調整されたQ信号を出力する第2可変利得増幅器28と、振幅と位相が調整されたI信号とQ信号を直交変調して、イメージ波と信号波からなる変調信号を出力する直交変調器2と、変調信号が入力され一定送信出力レベルの信号出力波を出力する主可変利得増幅器66と、信号出力波を検波し検波出力を出力する検波器68と、前記検波出力と前記一定送信出力レベルに対応した基準入力Erとが供給され主可変利得増幅器66の利得調整端子に制御出力Ecを出力する比較器74とを有する自動利得制御増幅器90と、を備える。そして、さらに送信機60は、比較器74の制御出力Ecが入力され、第1可変利得増幅器26と第2可変利得増幅器28の利得を調整する制御回路84を備え、制御回路84は、第1スイッチ22又は第2スイッチ24を通過状態にしたときの比較器74の制御出力Ec=Ec1を記憶した後、第1スイッチ22又は第2スイッチ24中、通過状態にしたスイッチを遮断状態にし通過状態にしなかったスイッチを通過状態にしたときの比較器74の制御出力Ecが、記憶した制御出力Ec=Ec1となるように通過状態にした側の第1可変利得増幅器26又は第2可変利得増幅器28の利得を調整するようにしている。
【0053】
この実施形態では、主可変利得増幅器66の制御電圧Ecを監視し、I信号のみ出力時の制御電圧Ecの値とQ信号のみ出力時の制御電圧Ecの値が同値となるように、換言すれば、主可変利得増幅器66の利得がI信号のみの増幅時及びQ信号のみの増幅時に同値となるようにI信号とQ信号の振幅をそれぞれ第1可変利得増幅器26と第2可変利得増幅器28により調整することで、直交変調器2の出力端及び送信出力端子92でのIQ信号の振幅値が同値となり、結果としてIQ振幅バランス調整を正確かつ簡単に行うことができる。
【0054】
このように、主可変利得増幅器66の制御電圧(比較器74の出力電圧)Ecを制御回路84のメモリに記憶し、制御回路84のCPUが所定のプログラムを実行することで、IQ振幅のバランスの調整を行うようにしているので、調整の自動化が図れる。
【0055】
なお、他の実施形態として、図7に示すように、直交変調器2に至るまでのI信号伝達経路又はQ信号伝達経路のいずれか一方の経路のスイッチを省略し(図6例ではスイッチ24を省略し)、可変利得増幅器28を固定利得増幅器28Aに変更してもこの発明を実施することができる。
【0056】
より具体的に説明すると、この他の実施形態に係るダイレクトコンバージョン方式による送信機100は、第1信号、ここではI信号を通過させ又は遮断するスイッチ22と、スイッチ22の出力側に接続され振幅が調整された第1信号、ここではI信号を出力する第1可変利得増幅器26と、第2信号、ここではQ信号を増幅する固定利得増幅器28Aと、第1可変利得増幅器26及び固定利得増幅器28Aから出力されるI信号とQ信号を直交変調して、イメージ波と信号波からなる変調信号を出力する直交変調器2と、変調信号が入力され一定送信出力レベルの信号出力波を出力する主可変利得増幅器66と、信号出力波を検波し検波出力を出力する検波器68と、前記検波出力と前記一定送信出力レベルに対応した基準入力Erとが供給され主可変利得増幅器66の利得調整端子に制御出力Ecを出力する比較器74と、を有する自動利得制御増幅器90と、を備え、さらに、比較器74の制御出力Ecが入力され、第1可変利得増幅器26の利得を調整する制御回路84を備え、制御回路84は、スイッチ22を遮断状態にしたときのQ信号による比較器74の制御出力Ecを記憶した後、Q信号をゼロ値とし、スイッチ22を通過状態にしたときのI信号による比較器74の制御出力Ecが、前記記憶した制御出力Ecとなるように第1可変利得増幅器26の利得を調整する。
【0057】
この他の実施形態では、主可変利得増幅器66の制御電圧Ecを監視し、Q信号のみ出力時の制御電圧Ecの値とI信号のみ出力時の制御電圧Ecの値が同値となるように、換言すれば、主可変利得増幅器66の利得がQ信号のみの増幅時及びI信号のみの増幅時に同値となるようにI信号の振幅を第1可変利得増幅器26により調整することで、直交変調器2の出力端及び送信出力端子92でのIQ信号の振幅値が同値となり、結果としてIQ振幅バランス調整を正確かつ簡単に行うことができる。
【0058】
なお、IQ振幅バランス調整の終了後には、スイッチ22を閉じ、I信号とQ信号の直交誤差が最小となるように、すなわち図3Cに示したイメージ波Siが最小となるように直交誤差補正部30で位相を調整することで、送信機100の振幅と位相が調整される。
【0059】
なお、この発明は、上述の実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明の一実施形態に係るダイレクトコンバージョン方式による送信機の構成を示す回路ブロック図である。
【図2】I信号伝達路を通過状態、Q信号伝達路を遮断状態としたときの送信機の構成を示す回路ブロック図である。
【図3】図3AはI信号の信号波の振幅調整の説明図、図3BはQ信号の信号波の振幅調整の説明図、図3CはIQ信号の直交度の最適化のために行われるイメージ波の振幅調整の説明図である。
【図4】Q信号伝達路を通過状態、I信号伝達路を遮断状態としたときの送信機の構成を示す回路ブロック図である。
【図5】直交誤差の最小化のためにイメージ波を調整するときの送信機の構成を示す回路ブロック図である。
【図6】調整後にスペクトラムアナライザをアンテナに代替した送信機の構成を示す回路ブロック図である。
【図7】この発明の他の実施形態に係るダイレクトコンバージョン方式による送信機の構成を示す回路ブロック図である。
【図8】従来技術に係る送信出力レベル自動制御方式が採用されたダイレクトコンバージョン方式による送信機の構成を示すブロック図である。
【図9】図8例の送信機において、IQ信号の振幅バランス及び直交度の調整について考慮した場合のシステム構成図である。
【符号の説明】
【0061】
2…直交変調器 22…第1スイッチ
24…第2スイッチ 26…第1可変利得増幅器
28…第2可変利得増幅器 60…送信機
66…主可変利得増幅器 68…検波器
74…比較器 84…制御回路
90…自動利得制御増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
I信号を通過させ又は遮断する第1スイッチと、
前記第1スイッチの出力側に接続され振幅が調整されたI信号を出力する第1可変利得増幅器と、
Q信号を通過させ又は遮断する第2スイッチと、
前記第2スイッチの出力側に接続され振幅が調整されたQ信号を出力する第2可変利得増幅器と、
振幅が調整されたI信号とQ信号を直交変調して、イメージ波と信号波からなる変調信号を出力する直交変調器と、
前記変調信号が入力され一定送信出力レベルの信号出力波を出力する主可変利得増幅器と、前記信号出力波を検波し検波出力を出力する検波器と、前記検波出力と前記一定送信出力レベルに対応した基準入力とが供給され前記主可変利得増幅器の利得調整端子に制御出力を出力する比較器と、を有する自動利得制御増幅器と、
を備えるダイレクトコンバージョン方式による送信機であって、
前記比較器の前記制御出力が入力され、前記第1可変利得増幅器と前記第2可変利得増幅器の利得を調整する制御回路を備え、
前記制御回路は、
前記第1スイッチ又は前記第2スイッチを通過状態にしたときの前記比較器の前記制御出力を記憶した後、前記第1スイッチ又は前記第2スイッチ中、通過状態にしたスイッチを遮断状態にし通過状態にしなかったスイッチを通過状態にしたときの前記比較器の前記制御出力が、前記記憶した制御出力となるように通過状態にした側の前記第1可変利得増幅器又は第2可変利得増幅器の利得を調整する
ことを特徴とするダイレクトコンバージョン方式による送信機。
【請求項2】
第1信号を通過させ又は遮断するスイッチと、
前記スイッチの出力側に接続され振幅が調整された第1信号を出力する第1可変利得増幅器と、
第2信号を増幅する増幅器と、
前記第1信号がI信号であるとき前記第2信号がQ信号とされ、前記第2信号がI信号であるとき前記第1信号がQ信号とされ、
前記第1可変利得増幅器及び前記増幅器から出力されるI信号とQ信号を直交変調して、イメージ波と信号波からなる変調信号を出力する直交変調器と、
前記変調信号が入力され一定送信出力レベルの信号出力波を出力する主可変利得増幅器と、前記信号出力波を検波し検波出力を出力する検波器と、前記検波出力と前記一定送信出力レベルに対応した基準入力とが供給され前記主可変利得増幅器の利得調整端子に制御出力を出力する比較器と、を有する自動利得制御増幅器と、
を備えるダイレクトコンバージョン方式による送信機であって、
前記比較器の制御出力が入力され、前記第1可変利得増幅器の利得を調整する制御回路とを備え、
前記制御回路は、
前記スイッチを遮断状態にしたときの前記第2信号による前記比較器の制御出力を記憶した後、前記第2信号をゼロ値とし、前記スイッチを通過状態にしたときの前記比較器の前記制御出力が、前記記憶した制御出力となるように前記第1可変利得増幅器の利得を調整する
ことを特徴とするダイレクトコンバージョン方式による送信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−227708(P2008−227708A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60113(P2007−60113)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】