説明

ダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する処理方法及び専用鋳込装置

ダクタイル鋳鉄処理方法であり、該方法は以下の工程を有する:ダクタイル鋳鉄溶湯を鋳込電気炉(1)に注入し;ダクタイル鋳鉄溶湯(5)の上方にアルカリ土類金属イオン、又は稀土類金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンと稀土類金属イオンの混合物が富化された高温溶融アルカリ性スラグ(6)を装入し;ダクタイル鋳鉄溶湯(5)を電極(7)を介して直流電源の負極に接続し;アルカリ性スラグ(6)を今1つの電極(4)を介して直流電源の正極に接続し、前記アルカリ性スラグ(6)を電解質として前記ダクタイル鋳鉄溶湯(5)を処理する。本方法は、ダクタイル鋳鉄の球状化阻害速度を抑制できる。前記鋳込電気炉装置はダクタイル鋳鉄溶湯の処理に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダクタイル鋳鉄鋳造技術分野に関し、具体的には、ダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止可能な処理方法及び専用鋳込装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダクタイル鋳鉄は、20世紀40年代から発展してきた鋳造合金で、黒鉛は球状となり、機械性能がネズミ銑鋳鉄より遥かに超え、可鍛鋳鉄よりも優れて、鋼に近く、なおかつ、鋼には無い優良な性能、例えば、良好な鋳造性、切削加工性、耐磨耗性、耐腐食性及び広範な熱処理適応性等を有する。従って、50年代から現在まで、ダクタイル鋳鉄は全世界で発展の最も速い鋳造合金となる:1949年、全世界ダクタイル鋳鉄の生産量は僅か5万トンだが、1960年に53.5万トン、1970年に500万トン、1980年に760万トン、1990年に915万トン、2000年に1310万トン、2007年になると2300万トンに達した。ダクタイル鋳鉄は使用分野がとても幅広く、総重量で計算すると、当面鋳造管及び管部材が約40%、自動車鋳造部材が約35%、他の分野(船舶、機関車、ディーゼル、農業機械、中圧バルブ、冶金機械、工作機械、液圧部材、起重運搬機械、汎用機械、核燃料貯蔵・搬送装置)が約25%を占めている。ダクタイル鋳鉄は、優良な総合性能がゆえに世界範囲内で急速に発展され、世界各国が鍛造鋼、鋳造鋼、可鍛鋳鉄や普通のネズミ銑鉄に代えて、種々の構造部材製造にダクタイル鋳鉄を幅広く利用し、鋼材の節約、加工工数の節約、使用寿命の延長、使用・保守コストの低減を図り、それにより、巨大な経済的、社会的利益を取得する。目下、全世界のダクタイル鋳鉄の年間生産量は黒色鋳造金属総生産量の大部分を占め、その割合が依然として増加しつつあり、しかも国の鋳造工業発展レベルを示す重要な指標の1つになっている。
【0003】
しかしながら、ダクタイル鋳鉄材料は、他の金属材料と比べて、金属凝固成形過程中、性能変動が大きく、材料の信頼性が低減されるという重大な「欠陥」を有する。特に管路製品や自動車部品の量産企業にとって、全生産過程中にたとえ百万分の一の未検出不良品が発生しても、会社に巨額的な賠償損害を招致する恐れがあるので、ダクタイル鋳鉄材料の更なる発展と利用・普及が限定されている。
【0004】
なぜかというと、ダクタイル鋳鉄の生産プロセス過程中、ダクタイル鋳鉄部材の機械性能は、炭素やシリコン等の化学成分ではなく、主として溶湯凝固過程中に形成された黒鉛形状によって決定されるので、生産性能が不安定な「マジック」金属材料と称される。ダクタイル鋳鉄は、元湯の製錬完成後に取鍋毎に球状化処理が施されるので、異なる取鍋のダクタイル鋳鉄溶湯に性能のバラツキが存在するだけでなく、肝心なのは、球状化処理成功後の同一取鍋のダクタイル鋳鉄溶湯にも、絶えず「復硫」やマグネシウム蒸気の「逃出し」による「球状化阻害」が発生し、後期の鋳込による鋳物の機械性能が顕著に劣化し、鋳物不良の原因となる。そのことによって、工場生産過程における品質管理の難しさが増大され、ダクタイル鋳鉄もこの原因で不安定な「低信頼性材料」と見なされ、更なる発展が限定されるようになる。ダクタイル鋳鉄溶湯では「球状化阻害」が絶えず発生するので、有効鋳込み時間が大変短くて、工場は通常として1取鍋のダクタイル鋳鉄溶湯の球状化処理が終了して、十数分後、鋳込みを中止せざるを得なくなる。
【0005】
実験で証明されたように、ダクタイル鋳鉄溶湯は誘導電気炉中で加熱・保温が行われる時、電磁攪拌と溶湯昇温で「復硫」やマグネシウム蒸気の「逃出し」作用が強化され、よって炉内溶湯の「球状化阻害」速度が顕著に加速されるようになり、従って、当面国内のダクタイル鋳鉄部材生産ラインでは、殆ど鋳込電気炉装置が使用されず、それが原因でダクタイル鋳鉄の鋳込み過程中に溶湯温度低下現象が比較的厳重となり、鋳込温度に関わる不良品率が比較的高いほか、人為的に鋳造部材の設計壁厚を増大せざるを得ず、材料とエネルギの浪費を招致してしまう。目下、先進国では自動車用ダクタイル鋳鉄部材の造型や鋳込み用流れ生産ラインに配置される鋳込電気炉は不活性ガス(アルゴンガス、窒素ガス)保護による空気圧鋳込電気炉であり、このような鋳込電気炉装置は鋳込温度不安定の問題を解決し、鋳込温度に安定性、可制御性を持たせると共に、ダクタイル鋳鉄溶湯の球状化阻害発生時間を遅延させたが、球状化阻害問題を解決できず、炉内に投入する溶湯のマグネシウム含量を増加することによりダクタイル鋳鉄溶湯の球状化剤損耗を絶えず補充しなければならず、それによって球状化剤消耗を増大し、溶湯中の過量金属マグネシウムが絶えず炉内張りと反応して、炉内張りの厚さを絶えず増やさせ、電気炉内張りの保守・使用周期を短縮させてしまい、従って、目下ダクタイル鋳鉄とネズミ銑鋳造が交替で行われる鋳造生産ラインに使用され、単純なダクタイル鋳鉄部材製品の生産企業に不向きである。なお、このような空気圧鋳込電気炉は、炉内気体に対して密封と圧力自動調整を施す必要があり、装置構造が複雑になり、使用・保守難度が高くなり、しかも長年に亘ってアルゴンガス又は窒素ガスを消耗するので、材料コストが膨らんでしまうとの不具合がある。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、ダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止可能な処理方法及び専用鋳込電気炉装置を提供することを目的とする。本発明は、上述問題を解決でき、鋳込温度を安定させ、球状化阻害を完全に防止して、ダクタイル鋳鉄部材生産の不良品損失を減少させ;同時に、このような鋳込電気炉は溶湯中の残余マグネシウムの損耗を大いに減少できるので、球状化処理過程中の球状化剤用量を顕著に減少させ、炉内張り耐火材料の寿命を延長させると共に、不活性ガスを使用せず又は消耗せず、なお、傾動式又はストッパー式鋳込電気炉を使用する場合、炉体を密封しなくても良く、作業者の炉体保守、除滓作業を簡略化し、鋳込電気炉の操作と保守難度を軽減する。本発明の技術装置の利用は、ダクタイル鋳鉄の信頼性向上、ダクタイル鋳鉄の長期連続生産の安定化、ダクタイル鋳鉄生産コストの低減にとって、重要な意義を有し、特にダクタイル鋳鉄部材を大量で連続的に生産する企業、例えば自動車用ダクタイル鋳鉄部品鋳造生産ライン、遠心力ダクタイル鋳鉄管生産ライン等での利用・普及に適する。本技術を用いた大容量鋳込電気炉は、大型、重型又は超大型厚肉ダクタイル鋳鉄部材、例えば大型工事用構造部材、工作機械用鋳物、大型水ポンプ用鋳物や核燃料輸送・格納容器等の製造にも適する。
【0007】
本発明の技術案は、ダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止可能な処理方法であって、鋳込みしようとするダクタイル鋳鉄溶湯を専用の鋳込電気炉装置に注入し、該鋳込電気炉装置には一組の直流エレクトロスラグシステムが設置され、炉内ダクタイル鋳鉄溶湯上にはアルカリ土類金属イオン又は稀土類金属イオンが富化された高温溶融アルカリ性スラグが装入され、炉体の上部には溶融アルカリ性スラグ層に挿入された黒鉛電極が設置され、溶融アルカリ性スラグ層液面以下のダクタイル鋳鉄溶湯内には直流電源システムに接続された電極が設置され;ダクタイル鋳鉄溶湯は溶湯表面に浮遊する高温溶融アルカリ性スラグによって密封されて、炉内ダクタイル鋳鉄溶湯と大気中の酸素ガスとを完全に遮断させて、徹底的に溶湯の「復硫」を回避し;「直流電解槽」の原理を利用し、球状化溶湯を陰極に、溶融アルカリ性スラグ層に挿入された黒鉛電極作を陽極に、溶融したアルカリ性スラグを液体電解質にし;炉内にダクタイル鋳鉄溶湯を注入後、直流電流を通電する:該直流電流の電流強度は電気炉の容量によって1時間に溶湯1トン当たり20〜50ファラデーの電流当量に設定され、ここでは低電圧大電流は、工業では常用される電圧が20V〜70V前後の低電圧を指し、その電流が総パワー値によって一定範囲内で変化し、直流電流通電後、一部の電気エネルギは化学エネルギに変換され、溶湯中に残存する[O2−]、[S2−]による[Mg]の[Mg2+]{特別注:本文では、各イオン又は原子前後の丸カッコ“( )”は該イオン又は原子がアルカリ性スラグ中に含有されるイオン又は原子を表し;各イオン又は原子前後の角カッコ“[ ]”は該イオン又は原子がダクタイル鋳鉄溶湯中に含有されるイオン又は原子を表す}への酸化を抑制し;1500℃〜1700℃の高温アルカリ性スラグ液中では、また電解反応が起き、スラグ中の(Mg2+)、(Ca2+)等の陽イオンが陰極へ定方向移動する一方、スラグ中の(S2−)等の陰イオンが陽極へ移動し、溶湯中の残余[S2−]等の陰イオンも浮上したり、異種電極に吸引されたりして、溶融スラグに進入し;それらの高温溶融スラグ中の(S2−)陰イオン、及び球状化処理取鍋が鋳込炉内に溶湯を注入時に持ち込む高温アルカリ性溶融スラグの少量の高硫黄含有スラグ中の(S2−)陰イオンは、いずれも陽極近傍で電子を失って遊離状態の高温液体硫黄Sになり得、空気と接触後直接燃焼してSO気体になり、それで絶えず溶融アルカリ性スラグから除去され;通電した直流電流の電流量が充分大きくなる時、スラグ―メタル界面に存在する電極電位は溶湯中の遊離状態の[Mg]含量とスラグ中のイオン(Mg2+)含量を、球状化処理要求を満たす電気化学平衡に達成させ、それでダクタイル鋳鉄溶湯中の[Mg]原子が電子を失い[Mg2+]陽イオンになって溶融スラグに進入することを抑制して、溶湯中の残余マグネシウム量を低下させないように保持でき、ひいては、不注意で炉内に1取鍋の残余マグネシウム量が低くて球状化阻害が発生した溶湯を注入して、鋳込電気炉内溶湯の全体の残余マグネシウム量の低下を招致した時でも、該溶湯のマグネシウム含量を増加させたり、正常値に回復させたりすることができる。
【0008】
上述した処理方法に用いる鋳込電気炉装置であって、該装置は炉体と、炉体上に配設された鋳込出湯口及び注湯口と、対応設置されて鋳込溶湯を定量化する装置を備え、炉体構造は底注式、又は傾動式、又は空気圧式の構造となり、密封した炉内に窒素ガスやアルゴンガスではなく、酸素富化圧縮空気を使用する、鋳込電気炉装置において、炉体の上部には黒鉛電極が設置され、炉内ダクタイル鋳鉄溶湯上面には(Mg2+)、(Ca2+)等の活性アルカリ土類金属イオンが富化された高温溶融アルカリ性スラグが設置され、ダクタイル鋳鉄溶湯内には電極が設置され;黒鉛電極の下端は終始アルカリ性スラグ液内に挿入するように保持され、直流電源システムが対応設置され、電源の正極が黒鉛電極の上端に接続されてそれを陽極にし、電源の負極がダクタイル鋳鉄溶湯内に設置された水冷式底電極又は非水冷式側電極に接続される。
【0009】
本発明は、炉体内に、更に、溶湯又はスラグ液を加熱する機能を有する誘導加熱装置、又は気体燃料か液体燃料バーナ加熱装置、又は酸素混合ガス燃焼バーナ加熱装置、又はプラズマ加熱装置を設置するか、又は同時に上述数種の付加加熱装置を増設しても良い。本発明では、該直流エレクトロスラグ鋳込炉装置の内張り耐火材料はMgOが富化されたマグネシウム砂又は軽焼ドロマイト系アルカリ性耐火材料を打ち込んで敷設されたものであり、強調すべきなのは、ラミング材にSiO、Al富化耐火材料を採用しないことである。上述鋳込電気炉装置は、その直流エレクトロスラグ鋳込装置中で溶湯上面を覆うアルカリ性スラグ液材料の成分は、アルカリ土類金属イオン(Mg2+)、(Ca2+)又は稀土類金属イオンが富化された多元スラグであり、溶融スラグの融点は1250℃〜1500℃の適当な範囲内に調整され、制御される。
【0010】
本発明は、「直流電解槽」の電気冶金原理を生かし、球状化後の溶湯を陰極(底電極又は側電極によって給電)、溶融したアルカリ性スラグ層に挿入された黒鉛電極を陽極、溶融したアルカリ性スラグを液体電解質にする。スラグ―メタル界面に存在する電極電位は、ダクタイル鋳鉄溶湯中の[Mg]原子が電子を失い陽イオンになって溶融スラグに進入することを抑制し;それと同時に、溶湯中の微量の[O]、[S]原子は電子を得て、(O2−)、(S2−)等の陰イオンの形でスラグ中に進入する可能性があり、溶湯の球状化レベルを低下させずに維持して、球状化阻害の防止に有利である。
【0011】
溶湯とエレクトロスラグ中の残存(S2−)陰イオンは、陽極近傍で電子を失って遊離状態の高温液体硫黄Sになり得、それが高温スラグ表面に浮上し空気中の酸素に接触すると、直ぐに酸化・燃焼してSO気体になり、直接炉外に排出され、アルカリ性スラグの長時間循環使用に有利である:
2(S2−)−4e=(S
+2O=2SO
【0012】
異なる電極間の電位は一定の充分大きな数値になる時、スラグ中の金属陽イオンも陰極上に析出される。例えば、直流電流の電解作用下、溶湯頂部のアルカリ性スラグ及び一部の炉内張り中に脱落したMgO、MgCl、CaO等の化学成分における(Mg2+)と(Ca2+)陽イオンは、陰極としての溶湯に接触後、電子を得て還元されて、[Mg]、[Ca]等になり溶湯に進入する:
(Mg2+)+2e=[Mg]
このような直流エレクトロスラグ炉中で保温されたダクタイル鋳鉄溶湯は、500〜5000A直流電流の作用下、ω(Mg)の損失を大いに低減させると共に、溶湯ω(Mg)がスラグ―メタル界面の電気化学平衡値に接近する時、阻害速度がゼロに近付き、溶湯の残余マグネシウム量を長期に安定化させると共に、鋳込プロセスに要求されるω(Mg)>0.025%〜0.050%の範囲を満たさせ、よって球状化阻害の発生可能性を完全に取り除く。
【0013】
球状化処理取鍋によって混入された少量のルーズな顆粒状MgSスラグにつき、除滓せずに溶湯と共に直接鋳込電気炉に投入しても良く、この時にスラグ層表面に浮遊する顆粒状のMgSスラグは高温作用下で直接空気中の酸素ガスと以下の置換反応が起きる:
2MgS+O=2MgO+S
+2O=2SO
【0014】
生成したMgOはスラグに入り、除滓の作業量を減少すると共に、廃棄物の再利用を具現化して、球状化過程中で脱硫作用を働く金属マグネシウムは、本鋳込電気炉で繰返し使用されるようになる:
2MgS+3O=2MgO+2SO
【0015】
本発明の有益な効果として、本発明は球状化阻害防止等の生産技術で、ダクタイル鋳鉄を不安定、低信頼性の材料から高度な安定性、高度な信頼性の材料に変身させ、ダクタイル鋳鉄生産過程の品質管理を人間の経験や責任感に頼る炉前確認と事後検査からプロセス装置に対するプログラム化した鋳込前後のプロセス調整・制御に変更して、ダクタイル鋳鉄材質の性能安定化問題の根本的な解決を実現する。実は、これはダクタイル鋳鉄生産技術誕生50年以来の最も重大な技術的進歩と言えよう。
【0016】
直流エレクトロスラグ保護による鋳込電気炉装置は、以下の主要作用を有する:
【0017】
1.鋳込電気炉の構造と制御システムが大いに簡略され、炉を密封したり、定期的に除滓したりする必要が無く、炉内張りが次第に厚くなることも無く、装置の操作がより簡単となり;最も重要なのは、該装置は球状化阻害を抑制する機能がより強くなり、ひいては完全に防止(理論上、直流エレクトロスラグ炉内溶湯の球状化保持時間が無限大までに延長可能)できると共に、球状化剤消耗量を減少させ、添加量が安定化する傾向にあり、ダクタイル鋳鉄生産過程の品質管理レベルを大いに高め、材質性能の信頼性が今までにない高いレベルに向上する;
【0018】
2.高温アルカリ性エレクトロスラグはダクタイル鋳鉄溶湯に対して顕著な加熱作用を有し、鋳込温度が時間推移に伴う低下を防止し、鋳込温度が合格、安定になり、変動が小さいことが保証され、よって鋳物品質が向上され、溶湯鋳込温度に関わる不良品損失(ダクタイル鋳鉄の鋳造生産中、このような不良品は、種類が多いだけでなく、不良品総量中に占める比重が大変高く、明白なコールドシャット、鋳込み不足、ピンホール、液圧バルジ試験不合格等のほか、内引け巣、砂入り、ザク巣、砂かみ、収縮巣、硬さが高過ぎ等、何れも鋳込温度の低下に関わる)を顕著に低減する。
【0019】
3.大トン数ダクタイル鋳鉄鋳物(例えば核燃料輸送・格納容器、大型工作機械用鋳物、大型工事用構造鋳物等)を鋳込むため、溶湯の一回分鋳込量が数十トン乃至百トンとなり、通常の球状化処理プロセス装置でこんなに多くのダクタイル鋳鉄溶湯を一回で処理する場合、特大トン数の溶解炉、球状化処理溶湯取鍋や大型天井クレーン等の装置を増設する必要があり、普通の企業にとってとても困難である。このような鋳込電気炉を採用し取鍋ずつ充分量の合格ダクタイル鋳鉄溶湯を蓄積する場合、「蟻が骨を食う」が如く、非大型鋳物職場で大型ダクタイル鋳鉄鋳物の生産を可能にし、大トン数の球状化処理溶湯取鍋や大型天井クレーン等の装置を購入することや、職場建物の耐荷重をアップさせることを必要とせずに、職場の生産能力を向上できるので、わが国の多くの大中型鋳造企業にとって現実的、重要な技術・経済意義を有する。
【0020】
不活性ガス保護による空気圧鋳込電気炉と比べて、この直流エレクトロスラグ保護による鋳込炉は、以下の長所を有する:
【0021】
1.装置構造は大いに簡略化され、特に底注式と傾動式鋳込電気炉の場合、不活性ガスにて酸素ガスを遮断する必要がなく、溶湯表面に浮遊する分厚い液体エレクトロスラグ層にて大気中の酸素ガスと完全に遮断させて、確実な「密封」作用を持たせるので、炉体・炉蓋を密封する必要がなく;複雑な空気圧制御サーボ機構が不要となり、装置の簡略化が信頼性を高めると同時に投資を低減し、製造・保守や炉内張りの打ち込みに利便性を与え、操作制御も便利になる。空気圧式鋳込電気炉を採用する場合、特に高価な不活性ガスに代えて普通の圧縮空気を用い、脱硫効果の強化を便利にすると共に、生産コストを低減する。
【0022】
2.高温エレクトロスラグ中に進入する硫黄は気体産物SOに酸化されて逃出し、一方でスラグ中のマグネシウムイオンはスラグ―メタル界面の電気化学作用下で改めて溶湯中に還元されるので、球状化反応で生じた硫化マグネシウム、酸化マグネシウムスラグにつき、除滓処理せずに直接鋳込電気炉に投入し、スラグ中のマグネシウム元素をその中で循環利用させ、それにより、球状化処理取鍋で生じた高硫黄含有スラグにつき、「害を利に」、「廃棄物を宝に」変える。また、除滓工程の省略は、球状化工程作業員の労働条件改善、操作プロセスの簡略化、処理時間の短縮、生産率の向上に役立ち、なお、取鍋中溶湯の温度低下が減少されて保温用電気エネルギの節約になる。
【0023】
3.エレクトロスラグ保護による鋳込電気炉中のスラグ―メタル界面に電極電位が存在するので、マグネシウム含量が平衡値に達すると、溶湯の残余マグネシウムは減少されず、よって球状化処理工程が金属マグネシウムの添加量を顕著に減少でき、後期に鋳込電気炉内に補充する溶湯マグネシウム含量を従来のω(Mg)<0.08%〜0.16%からω(Mg)<0.04%〜0.05%の正常レベルに下げても良い。それによって、球状化剤のコストを低減すると共に、炉内張りの厚さ増加問題を解消する。
【0024】
本発明の技術装置は、ダクタイル鋳鉄の信頼性向上、ダクタイル鋳鉄の長期、連続、安定化生産、特に自動車部品、遠心式鋳造管等のダクタイル鋳鉄部材を大量で連続生産する企業にとって、重要な利用・普及意義を有する。本技術の利用・普及によるダクタイル鋳鉄信頼性問題の根本的な解決に伴い、世界各国におけるダクタイル鋳鉄の利用範囲が更に拡大され、ダクタイル鋳鉄の総生産量や世界の黒色金属鋳物に占める比例が更に拡大されることが予想される。
【0025】
本発明は、また、ダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する処理方法及び専用鋳込装置を提供し、鋳込温度を安定させ、球状化阻害を完全に回避して、ダクタイル鋳鉄部材生産の不良品損失を減少させ;同時に、このような鋳込電気炉は溶湯中の残余マグネシウムの損耗を大いに減少させることができるので、球状化処理過程中の球状化剤用量を顕著に減少させ、炉内張り耐火材料の寿命を延長させる。
【0026】
ダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する処理方法であって、以下の工程を有する:
鋳込みしようとするダクタイル鋳鉄溶湯を専用の鋳込電気炉装置に注入する;
ダクタイル鋳鉄溶湯の上方に、アルカリ土類金属イオン、又は稀土類金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンと稀土類金属イオンの混合物が富化された高温溶融アルカリ性スラグを装入し、アルカリ性スラグの温度を1500℃〜1700℃に制御する;
前記ダクタイル鋳鉄溶湯を陰極として直流電源の負極に接続し、前記アルカリ性スラグ内に電極を設置すると共に、該電極を陽極として直流電源の正極に接続し、前記アルカリ性スラグを液体電解質にする;
前記直流電源によって前記専用鋳込電気炉装置内に直流電流を通電し、直流電流の電流強度を所属鋳込電気炉装置の容量によって1時間に溶湯1トン当たり20〜50ファラデーの電流当量に制御する。
【0027】
好ましくは、該方法は、更に、前記アルカリ性スラグ内に設置した電極が黒鉛電極であり、黒鉛電極の下端は終始スラグ内に挿入してサブマージドアーク操作を行い;前記アルカリ性スラグを直流電源の正極に接続し、具体的には、該黒鉛電極を介して前記アルカリ性スラグを直流電源の正極に接続する。
【0028】
好ましくは、前記アルカリ性スラグの融点は1250℃〜1550℃、アルカリ度は2.5〜4.0の間にある。
【0029】
ダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する鋳込電気炉であって、炉体と、炉体上に配設された鋳込口と注湯口のほか、更に直流電源を備え、該直流電源の負極は炉体内の前記ダクタイル鋳鉄溶湯内に設置された電極を介して前記ダクタイル鋳鉄溶湯に接続され、前記ダクタイル鋳鉄溶湯の上方にはアルカリ土類金属イオン、又は稀土類金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンと稀土類金属イオンの混合物が富化された高温溶融アルカリ性スラグが装入され、前記直流電源の正極は前記アルカリ性スラグ内に設置された電極を介して前記アルカリ性スラグに接続される。
【0030】
好ましくは、前記炉体は底注式炉体、又は空気圧式炉体、又は傾倒式炉体である。
【0031】
好ましくは、前記アルカリ性スラグ内に設置された電極は黒鉛電極である。
【0032】
好ましくは、前記炉体の内張り耐火材料は、MgOを含有するマグネシウム砂アルカリ性耐火材料、又は軽焼ドロマイト系アルカリ性耐火材料、又はMgOを含有するマグネシウム砂とマグネシウム炭素レンガアルカリ性耐火材料、又は軽焼ドロマイトとマグネシウム炭素レンガアルカリ性耐火材料である。
【0033】
好ましくは、前記炉体内は、高温エレクトロスラグのみで溶湯に対して加熱保温を行っても良いが、又はそれ以外に、前記炉体内にスラグと溶湯を加熱する少なくとも1つの補助加熱装置を増設しても良く、該補助加熱装置はダクタイル鋳鉄溶湯を加熱する誘導加熱装置、又は炉体とアルカリ性スラグを補助加熱する気体燃料バーナ加熱装置、液体燃料バーナ加熱装置、酸素混合ガス燃焼バーナ加熱装置、プラズマ加熱装置のうちの何れか1種か又は任意の2種以上の組合せでも良い。
【0034】
上述したダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する処理方法及び専用鋳込装置を用いると、ダクタイル鋳鉄溶湯の上方にはアルカリ土類金属イオン、又は稀土類金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンと稀土類金属イオンの混合物を含有する高温溶融アルカリ性スラグが装入され、かつ、ダクタイル鋳鉄溶湯とスラグ内に電流が通電され、電流の作用下で、スラグ内のアルカリ土類金属イオン、又は稀土類金属イオンはダクタイル鋳鉄溶湯に移動し、それにより、鋳込みしようとするダクタイル鋳鉄溶湯中のアルカリ土類金属イオン又は稀土類金属イオンは気化が発生して、ダクタイル鋳鉄溶湯中のアルカリ土類金属イオン又は稀土類金属イオンが減少されても、スラグ内のアルカリ土類金属イオン又は稀土類金属イオンによって補充されるので、ダクタイル鋳鉄溶湯中のアルカリ土類金属イオン又は稀土類金属イオンの含量を保証し、球状化阻害を抑制し、鋳込みによる鋳物の機械的性能が向上する。
【0035】
同時に、アルカリ土類金属イオン又は稀土類金属イオンは電流の作用下でダクタイル鋳鉄溶湯中に移動できるので、ダクタイル鋳鉄溶湯が加熱保温されるようになり、スラグ内のアルカリ土類金属イオン又は稀土類金属イオンをダクタイル鋳鉄溶湯中に補充されることにより、ダクタイル鋳鉄溶湯中のアルカリ土類金属イオン又は稀土類金属イオンの含量が保証され、球状化阻害が緩和される。加熱保温措置が講じられたので、鋳込温度に関わる不良品率が低減される。
【0036】
同様に、スラグ内のアルカリ土類金属イオン又は稀土類金属イオンがダクタイル鋳鉄溶湯中に補充されるので、炉内に新たに添加するダクタイル鋳鉄溶湯のアルカリ土類金属イオン又は稀土類金属イオン含量を高める必要が無く、アルカリ土類金属イオン又は稀土類金属イオンの消耗を減少すると共に、ダクタイル鋳鉄溶湯中の過量のアルカリ土類金属イオン又は稀土類金属イオンを電気炉の炉内張りと反応させないようにし、電気炉内張りの保守回数が減少する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本発明の実施例又は従来技術中の技術案をより詳しく説明するため、以下、実施例又は従来技術の記載に必要な図面を簡単に紹介する。勿論、以下の記載中の図面が本発明の幾つかの実施例だけであり、当分野の一般技術者にとって、創造性を有す労働を行わない前提下、これらの図面によって他の図面を取得できる。
【図1】本発明の実施例2に係る底注式鋳込電気炉の構造略図である。
【図2】本発明の実施例3に係る空気圧式鋳込電気炉の構造略図である。
【図3】本発明の実施例4に係る傾倒式鋳込電気炉の構造略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施例に係る図面に合わせて、本発明の実施例における技術案を明確に、かつ完全に説明する。無論、ここで記載する実施例は、全ての実施例ではなく、本発明の実施例の一部だけである。本発明中の実施例をベースに、当分野の一般技術者が創造性を有す労働を行わずに取得する他の全ての実施例は、全て本発明の保護範囲に属するものとする。
【実施例1】
【0039】
本発明の実施例が提供するダクタイル鋳鉄の鋳込方法は、鋳込みしようとするダクタイル鋳鉄溶湯を鋳込電気炉に注入し、かつ、該鋳込電気炉内のダクタイル鋳鉄溶湯の上方にアルカリ土類金属イオン、又は稀土類金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンと稀土類金属イオンの混合物が富化された高温溶融アルカリ性スラグを装入し、同時に、鋳込電気炉の炉体の上部にスラグに挿入する黒鉛電極を設置し、ダクタイル鋳鉄溶湯内に電源に接続された電極を設置する。そして、黒鉛電極を電源の正極に接続し、ダクタイル鋳鉄溶湯を電源の負極に接続し、かつ、低電圧大電流の直流電流を通電し、該直流電流の電流強度につき、電気炉の容量に応じて、1時間にダクタイル鋳鉄溶湯1トン当たり20〜50ファラデーの電流当量に設定する。ここでは低電圧大電流は、工業で常用される電圧が20V〜70V前後の低電圧を指し、その電流が総パワー値によって一定範囲内で変化する。
【0040】
上述技術案では、ダクタイル鋳鉄溶湯とスラグの間に電流を通電すると、1つの直流電解槽が形成される。そのうち、ダクタイル鋳鉄溶湯が陰極に、スラグに挿入する黒鉛電極が陽極に、溶融したスラグが液体電解質になり;該直流電解槽は通電後、スラグ中の(Mg2+)、(Ca2+)等の陽イオンが陰極に定方向移動し、スラグ中の(S2−)等の陰イオンが陽極に移動し;ダクタイル鋳鉄溶湯中の残余[S2−]等の陰イオンも浮上したり異種電極に吸引されたりして溶融スラグに入る。
【0041】
上述分析で分るように、スラグとダクタイル鋳鉄溶湯中の[S2−]等の陰イオンは何れも陽極へ移動し、かつ、陽極は高温のスラグ内に位置されるので、[S2−]等の陰イオンは、通常として高温のスラグ内に移動し、これらの[S2−]等の陰イオンは、いずれも陽極近傍で電子を失い遊離状態の高温液体硫黄になり得、空気と接触後直接燃焼してSO気体になり、それによってダクタイル鋳鉄溶湯とスラグ中のS2−等の陰イオンが絶えず除去される。具体的な化学反応は、以下の通りである:
2(S2−)−4e=(S
+2O=2SO
【0042】
同時に、スラグ中の(Mg2+)、(Ca2+)等の陽イオンは陰極へ定方向移動するので、(Mg2+)、(Ca2+)等の陽イオンは、通常として高温のダクタイル鋳鉄溶湯内に移動し、これらの(Mg2+)、(Ca2+)等の陽イオンは陰極近傍で電子を得て、遊離状態のマグネシウム、カルシウムになり、ダクタイル鋳鉄溶湯中の活性金属を補充し、かつ、これらの活性金属はダクタイル鋳鉄溶湯の球状化剤として機能でき、それによってダクタイル鋳鉄溶湯中球状化剤の補充に相当し、球状化阻害を防止する。具体的な化学式は、以下の通りである:
(Mg2+)+2e=[Mg]
【0043】
ダクタイル鋳鉄溶湯中のマグネシウム金属は、気化して逃げると同時に、スラグ内のマグネシウムイオンの還元によって補充され、一方、ダクタイル鋳鉄溶湯中から気化したマグネシウム金属は、ダクタイル鋳鉄溶湯とスラグの界面に到達すると、燃焼してマグネシウムイオンになるが、アルカリ性スラグから脱離しない限り、電流の作用下でまたダクタイル鋳鉄溶湯中に戻され、それにより、ダクタイル鋳鉄溶湯中の球状化剤となるマグネシウム金属含量の平衡を達成する。
【0044】
言い換えれば、通電した直流電流の電流量が充分になる時、スラグとダクタイル鋳鉄溶湯の界面(スラグ―メタル界面)に存在する電極電位はダクタイル鋳鉄溶湯中の遊離状態のMg含量とスラグ中のイオン状態の(Mg2+)含量を、球状化処理要求を満たす電気化学平衡に達成させ、ダクタイル鋳鉄溶湯中のMg原子が電子を失いMg2+陽イオンになって溶融スラグに進入することを抑制でき、よってダクタイル鋳鉄溶湯中の残余マグネシウム量を低下させないように保持する。
【0045】
万が一、不注意で、炉内に残余するマグネシウム量が低く、球状化阻害が発生した1取鍋のダクタイル鋳鉄溶湯を注入して、鋳込電気炉内のダクタイル鋳鉄溶湯の全体の残余マグネシウム含量の低下を招致した時でも、スラグ内のマグネシウム元素をダクタイル鋳鉄溶湯中に補充することにより、該ダクタイル鋳鉄溶湯のマグネシウム含量を増加させたり、正常値に回復させたりすることができる。
【0046】
本発明の実施例中のスラグは、ダクタイル鋳鉄溶湯に必要なマグネシウムを補充するほか、更に密封作用を有する。具体的に言うと、本実施例中のダクタイル鋳鉄溶湯は、ダクタイル鋳鉄溶湯表面に浮遊する高温スラグにより密封を行い、炉内ダクタイル鋳鉄溶湯を大気中の酸素ガスと完全に遮断させることにより、ダクタイル鋳鉄溶湯が酸化されることで生じる「復硫」が招致する球状化阻害を防止する。
【0047】
高温エレクトロスラグ加熱保温措置が講じられたので、鋳込温度に関わる不良品率が低減される。
【0048】
本発明の方法によると、炉内に新たに添加するダクタイル鋳鉄溶湯の球状化剤含量を高める必要が無く、球状化剤の消耗を減少すると共に、ダクタイル鋳鉄溶湯中の過量の球状化剤を電気炉の炉内張りと反応させないようにし、電気炉内張りの保守回数を減少させる。
【0049】
本発明の実施例では、スラグの融点は1250℃〜1550℃であり、よって鋳込電気炉中のスラグを液体状態に保持させて、電解液として機能させる。
【0050】
本発明の実施例は、ダクタイル鋳鉄の鋳込電気炉を提供する。該鋳込電気炉は炉体と、炉体上に配設された鋳込出湯口及び注湯口と、対応設置されて鋳込みしようとするダクタイル鋳鉄溶湯を定量化する装置を備え、炉体の構造形式は底注式、又は空気圧式、又は傾倒式の構造である。
【0051】
本発明の実施例では、炉体上部には黒鉛電極が設置され、炉内ダクタイル鋳鉄溶湯の上にはMg2+、Ca2+等の活性金属イオンが富化された高温スラグが装入され、鋳込電気炉内のダクタイル鋳鉄溶湯が電気炉の水冷式底電極又は側電極に接続されて陰極を構成し、陽極としての黒鉛電極の下端は終始スラグ内に挿入され(サブマージドアーク操作);該ダクタイル鋳鉄の鋳込電気炉には、更に、電源が対応設置され、電源の陽極は黒鉛電極の上端に接続され、電源の陰極はダクタイル鋳鉄溶湯内に設置された電極に接続される。
【実施例2】
【0052】
本実施例は、底注式炉体を例として、図面に合わせて本発明の実施例に係るダクタイル鋳鉄の鋳込電気炉の構造を詳しく説明する。図1に示されるように、本発明の実施例では、ダクタイル鋳鉄の鋳込電気炉は鋳込炉体1と鋳込口2を備え、炉体上端の開口は注湯口であり、該鋳込口2上にはストッパーロッド3が配設されている。炉体1の上端の注湯口より炉内にダクタイル鋳鉄溶湯5を注入し、かつ、ダクタイル鋳鉄溶湯5の上方にMg2+、Ca2+等の活性金属イオンが富化された高温スラグ6を装入し、炉体1の側辺には側面挿入型電極7が設置され、該側面挿入型電極7はダクタイル鋳鉄溶湯5中に挿入でき;それと同時に、炉体1上に黒鉛電極4が設置され、かつ、該黒鉛電極4は自動昇降装置によって制御されて、黒鉛電極4の下端がスラグ6内に終始挿入されるように保持される。本発明の実施例におけるダクタイル鋳鉄の鋳込電気炉には、更に直流電源システム8が対応して設置され、該直流電源システム8は正極が黒鉛電極4の上端に接続されてこれを陽極にし、負極が側面挿入型電極7に接続されて溶湯を陰極にする。
【0053】
上述技術案では、ダクタイル鋳鉄溶湯とスラグの間に電流を通電すると、1つの直流電解槽が構成される;そのうち、ダクタイル鋳鉄溶湯が陰極に、スラグに挿入する黒鉛電極が陽極に、溶融したスラグが液体電解質になり;該直流電解槽は通電後、スラグ中の(Mg2+)、(Ca2+)等の陽イオンは陰極へ定方向移動し、一方でスラグ中の(S2−)等の陰イオンは陽極へ移動し;ダクタイル鋳鉄溶湯中の残余の[S2−]等の陰イオンも浮上したり、異種電極に吸引されたり、放電して溶融スラグに入る。
【0054】
上述分析で分るように、スラグとダクタイル鋳鉄溶湯中の[S2−]等の陰イオンは何れも陽極へ移動し、かつ、陽極は高温のスラグ内に位置されるので、[S2−]等の陰イオンは、通常として高温のスラグ内に移動し、これらの[S2−]等の陰イオンは、何れも陽極近傍で電子を失い、遊離状態の高温液体硫黄になり得、空気と接触後、燃焼してSO気体になり、よって、ダクタイル鋳鉄溶湯とスラグ中のS2−等の陰イオンが絶えず除去される。具体的な化学反応は、以下の通りである:
2(S2−)−4e=(S
+2O=2SO
【0055】
同時に、スラグ中の(Mg2+)、(Ca2+)等の陽イオンは陰極へ定方向移動するので、(Mg2+)、(Ca2+)等の陽イオンは、通常として高温のダクタイル鋳鉄溶湯内に移動し、これらの(Mg2+)、(Ca2+)等の陽イオンは陰極近傍で電子を得て、遊離状態のマグネシウム、カルシウムになり、ダクタイル鋳鉄溶湯中の活性金属を補充し、かつ、これらの活性金属はダクタイル鋳鉄溶湯の球状化剤として機能でき、それによってダクタイル鋳鉄溶湯中球状化剤の補充に相当し、球状化阻害を防止する。具体的な化学式は、以下の通りである:
(Mg2+)+2e=[Mg]
【0056】
ダクタイル鋳鉄溶湯中のマグネシウム金属は気化して逃げると同時に、スラグ内のマグネシウムイオンの還元によって補充され、一方、ダクタイル鋳鉄溶湯中から気化したマグネシウム金属は、ダクタイル鋳鉄溶湯とスラグの界面に到達すると、燃焼してマグネシウムイオンになるが、アルカリ性スラグから脱離しない限り、電流の作用下でまたダクタイル鋳鉄溶湯中に戻され、それにより、ダクタイル鋳鉄溶湯中の球状化剤となるマグネシウム金属含量の平衡を達成する。
【0057】
このような直流エレクトロスラグ炉中で保温されたダクタイル鋳鉄溶湯は、500A〜5000A直流電流の作用下で、ω(Mg)の損失を大いに低減させることができ、かつ、ダクタイル鋳鉄溶湯中のω(Mg)の値がダクタイル鋳鉄溶湯とスラグ界面の電気化学平衡値に接近する時、ダクタイル鋳鉄溶湯中のω(Mg)の値の阻害速度がゼロに近付き、ダクタイル鋳鉄溶湯の残余マグネシウム量を安定化させ、鋳込プロセスに要求されるω(Mg)>0.030〜0.050%の範囲を満たして、球状化阻害の発生可能性を完全に取り除く。
【0058】
球状化処理取鍋によって混入された少量のルーズな顆粒状MgSスラグにつき、除滓せずにダクタイル鋳鉄溶湯と共に直接鋳込電気炉に投入しても良く、この時にスラグ層表面に浮遊する顆粒状のMgSスラグは高温作用下で直接空気中の酸素ガスと以下の置換反応が起きる:
2MgS+O=2MgO+S
+2O=2SO
【0059】
生成されたMgOはスラグに入り、除滓の作業量を減少すると共に、廃棄物の再利用を具現化して、球状化過程中で脱硫作用を働く金属マグネシウムは、本鋳込電気炉での繰返し利用が実現される:
2MgS+3O=2MgO+2SO
【0060】
本発明の実施例は、前記炉体内に少なくとも1つの補助加熱装置を増設しても良く、該補助加熱装置はスラグとダクタイル鋳鉄溶湯を加熱する誘導加熱装置、又は気体燃料バーナ加熱装置、又は液体燃料バーナ加熱装置、又は酸素混合ガス燃焼バーナ加熱装置、又はプラズマ加熱装置である。
【0061】
本発明の実施例では、炉体内部の内張り耐火材料は、好ましくはMgOが富化されたマグネシウム砂アルカリ性耐火材料、又は軽焼ドロマイト系アルカリ性耐火材料、又はMgOを含有するマグネシウム砂とマグネシウム炭素レンガアルカリ性耐火材料、又は軽焼ドロマイトとマグネシウム炭素レンガアルカリ性耐火材料を用いて敷設し;強調すべきなのは、ラミング材にSiO、Al富化耐火材料の使用を回避することである。
【0062】
スラグ内のマグネシウムをできるだけダクタイル鋳鉄溶湯の底部に吸引させ、かつ、スラグ内のマグネシウムをできるだけ多く吸引するため、本発明の実施例では、電源の負極は前記ダクタイル鋳鉄溶湯の底部に接続され、前記電源の正極は前記スラグの頂部に接続される。
【0063】
上述鋳込電気炉装置は、直流エレクトロスラグ鋳込装置中でダクタイル鋳鉄溶湯表面を覆うスラグ材料の成分は、(Mg2+)、(Ca2+)等の活性金属イオンが富化された多元スラグであり、スラグの融点は1250℃〜1500℃の適当範囲内に調整され、制御される。
【0064】
本発明の実施例では、黒鉛によってスラグが電源の正極に接続されるが、実際的運用時、黒鉛による方式に限定されず、他の方式にてスラグを電源の正極に接続しても良い。
【実施例3】
【0065】
本実施例は、空気圧式炉体を例として、図面に合わせて本発明の実施例に係るダクタイル鋳鉄の鋳込電気炉の構造を詳しく説明する。密封した炉内には窒素ガス又はアルゴンガスではなく、酸素ガスが富化された圧縮空気が使用される。図2に示されるように、本発明の実施例におけるダクタイル鋳鉄の鋳込電気炉は炉体a1と、炉体a1上に設置された鋳込口a2を備え、かつ、鋳込口a2にはストッパーロッドa3が配設されている。炉体a1の右側の注湯口から炉内にダクタイル鋳鉄溶湯a5を添加し、かつ、ダクタイル鋳鉄溶湯a5の上方にMg2+、Ca2+等の活性金属イオンが富化された高温スラグa6を装入し、ダクタイル鋳鉄溶湯a5内には底電極a/7が設置されると同時に、炉体a1上部の蓋a9上には黒鉛電極a4が設置され、かつ、該黒鉛電極a4は自動昇降装置によって制御されて、黒鉛電極a4の下端をスラグa6内に終始挿入するように保持される。本発明の実施例におけるダクタイル鋳鉄の鋳込電気炉には、更に、陽極が黒鉛電極a4の上端に接続され、陰極が底電極a/7に接続された直流電源システムa8が対応して設置されている。
【0066】
同時に、本実施例中の蓋a9上には、更に、圧縮空気排出手段a10が設けられている。該圧縮空気排出手段a10により、炉体内ダクタイル鋳鉄溶湯を鋳込口a2へ流動させるか、又は注湯口よりダクタイル鋳鉄溶湯を添加させるかを制御する。
【0067】
本発明の実施例では、底電極a/7を採用したが、実際の運用時、実施例2と同様な側面挿入型電極を採用しても良い。具体的には、図2中のa7を参照。
【0068】
本実施例が採用する技術案は、原理が実施例2の作業原理と完全同一であり、同様な効果を達成できるので、鋳込温度を安定化させ、球状化阻害を抑制すると共に、球状化剤の消耗を低減することができる。
【0069】
本発明の実施例では、前記炉体内は、高温溶融エレクトロスラグのみで溶湯に対して加熱保温を行っても良いが、又はこれ以外に、前記炉体内にスラグと溶湯を加熱する少なくとも1つの補助加熱装置を増設しても良く、該補助加熱装置はダクタイル鋳鉄溶湯を加熱する誘導加熱装置、又は炉体とアルカリ性スラグを補助加熱する気体燃料バーナ加熱装置、液体燃料バーナ加熱装置、酸素混合ガス燃焼バーナ加熱装置、プラズマ加熱装置のうちの何れか1種か又は任意の2種以上の組合せでも良い。
【0070】
本発明の実施例では、炉体内部の内張り耐火材料は、好ましくは、MgOが富化されたマグネシウム砂アルカリ性耐火材料、又は軽焼ドロマイト系アルカリ性耐火材料、又はMgOを含有するマグネシウム砂とマグネシウム炭素レンガアルカリ性耐火材料、又は軽焼ドロマイトとマグネシウム炭素レンガアルカリ性耐火材料を用いて敷設し;強調すべきなのは、ラミング材にSiO、Al富化耐火材料の使用を回避することである。
【0071】
上述鋳込電気炉装置では、直流エレクトロスラグ鋳込装置中でダクタイル鋳鉄溶湯表面を覆うスラグ材料の成分は、(Mg2+)、(Ca2+)等の活性金属イオンが富化された多元スラグであり、スラグの融点は1250℃〜1500℃の適当な範囲内に調整され、制御される。
【0072】
本発明の実施例では、黒鉛によってスラグが電源の正極に接続されるが、実際的運用時、黒鉛による方式に限定されず、他の方式にてスラグを電源の正極に接続しても良い。
【実施例4】
【0073】
本実施例は、傾倒式炉体を例として、図面に合わせて本発明の実施例に係るダクタイル鋳鉄の鋳込電気炉の構造を詳しく説明する。図3に示されるように、本発明の実施例におけるダクタイル鋳鉄の鋳込電気炉は炉体b1と、炉体b1上に設置された鋳込口b2を備え、かつ、鋳込口b2にはストッパーロッドb3が配設されている。炉体b1左側の注湯口から炉内にダクタイル鋳鉄溶湯b5を添加し、かつ、ダクタイル鋳鉄溶湯b5の上方にMg2+、Ca2+等の活性金属イオンが富化された高温スラグb6を装入し、ダクタイル鋳鉄溶湯b5内には底電極b7が設置されると同時に、炉体b1上部の蓋b9上には黒鉛電極b4が設置され、かつ、該黒鉛電極b4は自動昇降装置によって制御されて、黒鉛電極b4の下端がスラグb6内に終始挿入されるように保持される。本発明の実施例におけるダクタイル鋳鉄の鋳込電気炉には、更に、陽極が黒鉛電極b4の上端に接続され、陰極が底電極b7に接続された直流電源システムb8が対応して設置されている。
【0074】
本発明の実施例では、底電極b7を採用したが、実際の運用時、実施例2と同様な側面挿入型電極を採用しても良い。
【0075】
本実施例が採用する技術案は、原理が実施例2の作業原理と完全同一であり、同様な効果を達成できるので、鋳込温度を安定化させ、球状化阻害を抑制すると共に、球状化剤の消耗を低減することができる。
【0076】
本発明の実施例では、前記炉体内は、高温溶融エレクトロスラグのみで溶湯に対して加熱保温を行っても良いが、又はこれ以外に、前記炉体内にスラグと溶湯を加熱する少なくとも1つの補助加熱装置を増設しても良く、該補助加熱装置はダクタイル鋳鉄溶湯を加熱する誘導加熱装置、又は炉体とアルカリ性スラグを補助加熱する気体燃料バーナ加熱装置、液体燃料バーナ加熱装置、酸素混合ガス燃焼バーナ加熱装置、プラズマ加熱装置のうちの何れか1種か又は任意の2種以上の組合せでも良い。
【0077】
本発明の実施例では、炉体内部の内張り耐火材料は、好ましくは、MgOが富化されたマグネシウム砂又は軽焼ドロマイト系アルカリ性耐火材料を用いて敷設し;強調すべきなのは、ラミング材にSiO、Al富化耐火材料の使用を回避することである。
【0078】
上述鋳込電気炉装置では、直流エレクトロスラグ鋳込装置中でダクタイル鋳鉄溶湯表面を覆うスラグ材料の成分は、(Mg2+)、(Ca2+)等の活性金属イオンが富化された多元スラグであり、スラグの融点は1250℃〜1500℃の適当な範囲内に調整され、制御される。
【0079】
本発明の実施例では、黒鉛によってスラグが電源の正極に接続されるが、実際的運用時、黒鉛による方式に限定されず、他の方式にてスラグを電源の正極に接続しても良い。
【0080】
上述4つの実施例が提供するダクタイル鋳鉄の鋳込電気炉の主要効果は、以下の通りである:
【0081】
1.鋳込電気炉の構造と制御システムが大いに簡略化され、炉を密封したり、定期的に除滓したりする必要が無く、炉内張りが次第に厚くなることも無く、装置の操作がより簡単となり;最も重要なのは、該装置は球状化阻害を抑制する機能がより強くなり、ひいては完全に防止(理論上、直流エレクトロスラグ炉内のダクタイル鋳鉄溶湯の球状化保持時間が無限大までに延長可能)できると共に、球状化剤消耗量を減少させ、添加量を安定化させ、ダクタイル鋳鉄生産過程の品質管理レベルを大いに高め、材質性能の信頼性を今までにない高いレベルに向上する;
【0082】
2.高温溶融アルカリ性エレクトロスラグは、ダクタイル鋳鉄溶湯に対して加熱作用を有し、鋳込温度が時間推移に伴う低下を防止し、鋳込温度が適格で、安定になり、変動が最も小さいことが保証され、よって鋳物品質が向上され、ダクタイル鋳鉄溶湯鋳込温度に関わる不良品損失(ダクタイル鋳鉄部材の鋳造生産中、このような不良品は、種類が多いだけでなく、不良品総量中に占める比重が大変高く、明白なコールドシャット、鋳込み不足、ピンホール、液圧バルジ試験不合格等のほか、内引け巣、砂入り、ザク巣、砂かみ、収縮巣、硬さが高過ぎ等が何れも鋳込温度の低下に関わる)を顕著に低減する。
【0083】
3.大トン数ダクタイル鋳鉄鋳物(例えば大型構造鋳物、核燃料輸送・格納容器等)を鋳込むため、ダクタイル鋳鉄溶湯の一回分鋳込量が数十トン乃至百トンとなり、通常の球状化処理プロセス装置でこのような多くのダクタイル鋳鉄溶湯を一回で処理する場合、特大トン数の球状化処理装置や大型天井クレーン等の装置を増設する必要があり、普通の企業にとってとても困難である。このような鋳込電気炉を採用し取鍋ずつ充分量の合格ダクタイル鋳鉄溶湯を蓄積する場合、「蟻が骨を食う」が如く、非大型鋳物職場で大型ダクタイル鋳鉄鋳物の生産を可能にし、大トン数の球状化処理ダクタイル鋳鉄溶湯取鍋や大型天井クレーン等の装置を購入することや、職場建物の耐荷重をアップさせることを必要とせずに、職場の生産能力を向上できるので、多くの大中型鋳造企業にとって現実的、重要な技術・経済意義を有する。
【0084】
不活性ガス保護による空気圧鋳込電気炉と比べて、上述の実施例に係るダクタイル鋳鉄の鋳込電気炉は、以下の長所を有する:
【0085】
1.装置構造は大いに簡略化され、炉体・炉蓋を密封しないので、複雑な空気圧制御サーボ機構が不要となり、ダクタイル鋳鉄溶湯表面に浮遊する分厚い液体エレクトロスラグ層にて大気中の酸素ガスと完全に遮断させて、確実な「密封」作用を持たせ;装置の簡略化が信頼性を高めると同時に投資を低減可能にし、製造・保守や炉内張りの打ち込みに利便性を与え、操作制御も便利になる。
【0086】
2.高温エレクトロスラグ中に進入する硫黄は気体産物SOに酸化されて逃げられ、一方でスラグ中のマグネシウムイオンはスラグ―メタル界面の電気化学作用下で改めてダクタイル鋳鉄溶湯中に還元されるので、球状化反応で生じた硫化マグネシウム、酸化マグネシウムスラグを除滓処理せず直接鋳込電気炉に投入し、スラグ中のマグネシウム元素をその中で循環使用させ、「害を利に」、「廃棄物を宝に」変えることになる。また、除滓工程の省略は、球状化工程作業員労働条件の改善、操作プロセスの簡略化、処理時間の短縮、生産率の向上に役立ち、なお、取鍋中ダクタイル鋳鉄溶湯の温度低下を減少させて保温用電気エネルギを節約する。
【0087】
3.エレクトロスラグ保護による鋳込電気炉中のスラグ―メタル界面に電極電位が存在するので、マグネシウム含量が平衡値に達すると、ダクタイル鋳鉄溶湯の残余マグネシウムは損失されず、よって球状化処理工程が金属マグネシウムの添加量を顕著に減少でき、鋳込電気炉内に注入されたダクタイル鋳鉄溶湯の残余マグネシウム量をω(Mg)<0,04%〜0.05%の正常レベルに達成すれば良い。それにより、球状化剤のコストを低減すると共に、炉内張りの厚さ増加問題が解消される。
【0088】
本発明の技術装置は、ダクタイル鋳鉄の信頼性向上、ダクタイル鋳鉄の長期、連続、安定化生産、特に自動車部品、遠心式鋳造管等のダクタイル鋳鉄部材を大量で連続生産する企業にとって、重要な利用・普及意義を有する。
【0089】
以上は、本発明の具体的実施方式だけであり、本発明の保護範囲はこれに限定されず、本技術分野を熟知する如何なる技術者が本発明が開示する技術範囲内で容易に想到する変更や置換えも本発明の保護範囲内に含まれるものである。従って、本発明が請求する保護範囲は、前記特許請求の範囲を基準とする。
【0090】
本出願は、2008年3月10日に中国知識産権局に提出され、出願番号が200810054604.9、発明名称が「ダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する処理方法及び専用鋳込装置」の中国特許出願の優先権書類の提出が要求され、ここでその全ての内容を参考として記入する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳込みしようとするダクタイル鋳鉄溶湯を専用の鋳込電気炉装置に注入する工程と、
ダクタイル鋳鉄溶湯の上方にアルカリ土類金属イオン、又は稀土類金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンと稀土類金属イオンの混合物が富化された高温溶融アルカリ性スラグを装入し、アルカリ性スラグの温度を1500℃〜1700℃に制御する工程と、
前記ダクタイル鋳鉄溶湯を陰極として直流電源の負極に接続し、前記アルカリ性スラグ内に電極を設置すると共に該電極を陽極として直流電源の正極に接続し、かつ、前記アルカリ性スラグを液体電解質にする工程と、
前記直流電源によって前記専用鋳込電気炉装置内に直流電流を通電し、直流電流の電流強度を所属鋳込電気炉装置の容量によって1時間にダクタイル鋳鉄溶湯1トン当たり20〜50ファラデーの電流当量に設定する工程とを備えることを特徴とするダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する処理方法。
【請求項2】
前記アルカリ性スラグ内に設置された電極を黒鉛電極とし、黒鉛電極の下端をスラグ内に挿入させるように保持してサブマージドアーク操作を行う工程と、
前記アルカリ性スラグを直流電源の正極に接続し、具体的には、該黒鉛電極を介して前記アルカリ性スラグを直流電源の正極に接続する工程とを更に備えることを特徴とする請求項1に記載のダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する処理方法。
【請求項3】
前記アルカリ性スラグの融点は1250℃〜1550℃、アルカリ度は2.5〜4.0の間にあることを特徴とする請求項1に記載のダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する処理方法。
【請求項4】
炉体と、炉体上に配設された鋳込出湯口及び注湯口を備え、ダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する鋳込電気炉であって、
負極が炉体内に設置された前記ダクタイル鋳鉄溶湯内の水冷式底電極又は側電極を介して前記ダクタイル鋳鉄溶湯に接続され、前記ダクタイル鋳鉄溶湯を陰極にする直流電源を更に備え、
前記ダクタイル鋳鉄溶湯の上方にはアルカリ土類金属イオン、又は稀土類金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンと稀土類金属イオンの混合物が富化された高温溶融アルカリ性スラグが装入され、
前記直流電源の正極は前記アルカリ性スラグ内に設置された電極を介して前記アルカリ性スラグに接続されることを特徴とするダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する鋳込電気炉。
【請求項5】
前記炉体は底注式炉体、又は空気圧式炉体、又は傾倒式炉体であることを特徴とする請求項4に記載のダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する鋳込電気炉。
【請求項6】
前記アルカリ性スラグ内に設置された電極は、黒鉛電極であることを特徴とする請求項4に記載のダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する鋳込電気炉。
【請求項7】
前記炉体の内張り耐火材料は、MgOを含有するマグネシウム砂アルカリ性耐火材料、又は軽焼ドロマイト系アルカリ性耐火材料、又はMgOを含有するマグネシウム砂とマグネシウム炭素レンガアルカリ性耐火材料、又は軽焼ドロマイトとマグネシウム炭素レンガアルカリ性耐火材料であり、
ラミング材にSiO、Al富化耐火材料の使用を回避することを特徴とする請求項4に記載のダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する鋳込電気炉。
【請求項8】
前記炉体内は、高温エレクトロスラグのみで溶湯に対して加熱保温を行い、又は、
前記炉体内にスラグと溶湯を加熱する少なくとも1つの補助加熱装置を増設し、該補助加熱装置はダクタイル鋳鉄溶湯を加熱する誘導加熱装置、又は炉体とアルカリ性スラグを補助加熱する気体燃料バーナ加熱装置、液体燃料バーナ加熱装置、酸素混合ガス燃焼バーナ加熱装置、プラズマ加熱装置のうちの何れか1種又は任意の2種以上の組合せであることを特徴とする請求項4乃至請求項7の何れか1項に記載のダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する鋳込電気炉。
【請求項9】
鋳込みしようとするダクタイル鋳鉄溶湯を専用の鋳込電気炉装置に注入し、該鋳込電気炉装置にはワンセットの直流エレクトロスラグシステムがセットされ:炉内ダクタイル鋳鉄溶湯上には(MG2+)、(Ca2+)等の活性金属イオンが富化された高温溶融アルカリ性スラグが装入され、炉体の上部には溶融アルカリ性スラグ層に挿入される黒鉛電極が設置され、ダクタイル鋳鉄溶湯内には直流電源システムに接続する電極が設置され、ダクタイル鋳鉄溶湯は溶湯表面に浮遊する高温溶融アルカリ性スラグにより密封されて、炉内ダクタイル鋳鉄溶湯を大気中の酸素ガスと完全に遮断させ、
「直流電解槽」の原理を利用し、球状化溶湯を陰極に、溶融アルカリ性スラグ層に挿入された黒鉛電極を陽極に、溶融したアルカリ性スラグを液体電解質にし、
炉内にダクタイル鋳鉄溶湯を注入後、低電圧大電流の直流電流を通電し、該直流電流の電流強度を電気炉の容量によって1時間にダクタイル鋳鉄溶湯1トン当たり20〜50ファラデーの電流当量に設定し、直流電流通電後、一部の電気エネルギが化学エネルギに変換され、帯電イオンを異種電極の吸引下で定方向移動するよう促し、温度が1500℃〜1700℃に制御された高温アルカリ性スラグ液中で電解反応が起き、前記通電した直流電流の電流量が充分大きくなる時、スラグ―メタル界面に存在する電極電位は溶湯中の遊離状態の[Mg]含量とスラグ中のイオン(Mg2+)含量を球状化処理要求を満たす電気化学平衡に達成させると共に、ダクタイル鋳鉄溶湯中の[Mg]原子が電子を失い[Mg2+]陽イオンになって溶融スラグに進入することを抑制して、溶湯中の残余マグネシウム量を低下させないように保持することを特徴とするダクタイル鋳鉄溶湯の鋳込み過程における球状化阻害及び鋳込温度低下を防止する処理方法。
【請求項10】
炉体と、炉体上に配設された鋳込出湯口及び注湯口と、対応設置されて鋳込溶湯を定量化する装置を備え、炉体構造が底注式、又は空気圧式、又は傾動式の構造となる鋳込電気炉装置であり、
炉体の上部には黒鉛電極が設置され、炉内ダクタイル鋳鉄溶湯上には(Mg2+)、(Ca2+)等の活性金属イオンが富化された高温溶融アルカリ性スラグが設置され、ダクタイル鋳鉄溶湯内には底電極が設置され、炉体上部に設置された黒鉛電極の下端はアルカリ性スラグ液内に挿入され、
直流電源システムが対応設置され、電源の正極が黒鉛電極の上端に接続されてこれを陽極にし、電源の負極がダクタイル鋳鉄溶湯内の水冷式底電極又は側電極に接続されてこれを陰極にすることを特徴とする請求項9に記載の処理方法に用いる鋳込電気炉装置。
【請求項11】
炉体内に溶湯を加熱する誘導加熱装置、又は気体か液体燃料バーナ加熱装置、又は酸素混合ガス燃焼バーナ加熱装置、又はプラズマ加熱装置を設置するか、又は前記数種加熱装置を同時に設置することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の鋳込電気炉装置。
【請求項12】
該直流エレクトロスラグ鋳込装置の内張り耐火材料は、好ましくは、マグネシウム砂アルカリ性耐火材料、又は軽焼ドロマイト系アルカリ性耐火材料、又はマグネシウム砂とマグネシウム炭素レンガアルカリ性耐火材料、又は軽焼ドロマイトとマグネシウム炭素レンガアルカリ性耐火材料を用いて敷設され、
ラミング材にSiO、Al富化耐火材料の使用を回避することを特徴とする請求項9又は10に記載の鋳込電気炉装置。
【請求項13】
該直流エレクトロスラグ鋳込装置の溶湯表面を覆うアルカリ性スラグ液材料の成分は(Mg2+)、(Ca2+)等の活性金属イオンが富化された多元スラグであり、
溶融スラグの融点は1250℃〜1550℃の適当な範囲内に調整され、制御されることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の鋳込電気炉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−516265(P2011−516265A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550020(P2010−550020)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【国際出願番号】PCT/CN2009/070702
【国際公開番号】WO2009/111973
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(510243665)
【出願人】(510243676)
【Fターム(参考)】