説明

チタニアドープ石英ガラス、EUVリソグラフィ用部材、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板及びチタニアドープ石英ガラスの製造方法

【解決手段】3〜12質量%のチタニアを含有し、該チタニアの濃度勾配が0.01質量%/μm以下であり、かつ厚さ6.35mmでの波長440nmにおける見かけ透過率が30%以上であることを特徴とするチタニアドープ石英ガラス。
【効果】EUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材に要求される高い表面精度を与える均質性の高いチタニアドープ石英ガラスを提供することができ、チタニアドープ石英ガラスからなるEUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材は平坦度や熱膨張特性に優れたものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面精度の高いEUVリソグラフィ用部材を与える均質性の高いチタニアドープ石英ガラス、このチタニアドープ石英ガラスから形成されたEUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材、及びチタニアドープ石英ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、近年の半導体集積回路の高集積化はめざましい。この傾向に伴い、半導体素子製造時のリソグラフィプロセスでの露光光源の短波長化が進み、現在ではArFエキシマレーザ(193nm)を使用するリソグラフィが主流になりつつある。今後、更なる高集積化を実現するためにF2エキシマレーザ(157nm)又は極端紫外光(EUV:Extreme Ultraviolet)を使用したリソグラフィへの移行が有望視されている。特に近年、F2エキシマレーザリソグラフィにおいては種々の技術的な問題が残されているため、EUVリソグラフィへの移行が有力視されている。
【0003】
EUVリソグラフィは軟X線、特に13nm付近の波長を光源に使用すると予想されている。かかる波長においては、高い透過性を有する物質がないため、反射型光学系がEUVリソグラフィにおいては採用されることになる。このとき、反射は基板上に堆積させたシリコン、モリブデン等の反射多層膜によってなされるが、入射したEUV光のうち数十%は反射されずに基板にまで到達して熱へと転化する。これまでのリソグラフィ技術に比べて光源波長が極端に短いEUVリソグラフィにおいては、基板等のリソグラフィ光学系で用いられる各部材に到達した熱による僅かな熱膨張によってもリソグラフィ精度に悪影響を及ぼす。従って、反射ミラー、マスク、ステージ等の各部材には低膨張材料の使用が必須となる。また、光源波長の短いEUVリソグラフィにおいては部材表面の僅かな凹凸によってもリソグラフィ精度に悪影響を及ぼすため、表面形状には高い精度が求められている。
【0004】
低膨張材料としては、チタニアをドープした石英ガラスが公知である。チタニアを一定量添加することで石英ガラスを低熱膨張化することができる。しかしながら、従来のチタニアドープ石英ガラスでは、構造的、組成的に不均質な領域を含んでいる。構造的、組成的に不均一な領域のひとつとして脈理が挙げられ、脈理は、チタニアドープ石英ガラスの場合、ドープされたチタニアの量が変化することが一因と考えられるが、強い脈理を含むチタニアドープ石英ガラスを各種EUVリソグラフィ用部材へと研削、研磨した場合には、EUVリソグラフィ用部材表面に凹凸が生じてしまう。そのため、求められている高い精度の表面形状を満たすEUVリソグラフィ用部材として従来のチタニアドープ石英ガラスを適用するには至っていない。
【0005】
脈理に起因した凹凸を克服する方法としては、EUVリソグラフィ用部材の研磨後にイオンビーム等で部材表面の凸部を選択的に研削する方法があるが、部材の製造コストを格段に上昇させることとなっている。
【0006】
また、国際公開第03/76352号パンフレット(特許文献1)には、脈理を含むチタニアドープ石英ガラスを粉末化した後、ベルヌイ法によって再固化することで脈理を回避する方法が開示されているが、この方法によっても粒状構造等により研磨後の部材表面に凹凸が発生しやすい等の問題がある。
【0007】
特開2004−131373号公報(特許文献2)においては、ゾルゲル法によるチタニアドープ石英ガラスの製造方法が開示されているが、一般的にゾルゲル法では大型のインゴットを得ることが難しい、クラックを発生しやすい等の問題点がある。
【0008】
国際公開第02/32622号パンフレット(特許文献3)には、脈理が表面化した部材に脈理が表面化していないチタニアドープ石英ガラスの薄板を融着させることで脈理による部材表面の凹凸を回避する方法が開示されている。しかし、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを酸水素火炎によって加水分解し、チタニアドープ石英ガラスを得る、いわゆる直接法又は間接法による製造方法では、脈理は数百μm以下の間隔で発生する場合が多く、かつ脈理は平坦ではなく曲率を持っているため、脈理が表面化していないチタニアドープ石英ガラスを得ることは困難であり、生産性の面から問題がある。仮に脈理が表面化していないチタニアドープ石英ガラスを使用したとしても、薄板を融着させた後に研磨を行う必要があるため、脈理が表面化する可能性が更に高くなる。
【0009】
一方、特開2004−315351号公報(特許文献4)には、チタニアドープ石英ガラスのTiO2濃度ばらつき(ΔTiO2)を0.06質量%以下にすることで、表面精度の高いEUVリソグラフィ用部材が得られることが示されている。しかし、ΔTiO2のみを制御しても、求められている高い精度の表面形状を有するEUVリソグラフィ用部材を得ることができない。
【0010】
【特許文献1】国際公開第03/76352号パンフレット
【特許文献2】特開2004−131373号公報
【特許文献3】国際公開第02/32622号パンフレット
【特許文献4】特開2004−315351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材に要求される高い表面精度を与える均質性の高いチタニアドープ石英ガラス、このようなチタニアドープ石英ガラスからなるEUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材、及びチタニアドープ石英ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、3〜12質量%のチタニアを含有し、チタニアの濃度勾配が0.01質量%/μm以下であり、かつ厚さ6.35mmでの波長440nmにおける見かけ透過率が30%以上であるチタニアドープ石英ガラスが、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材に要求される高い表面精度を与える均質性の高いものであり、このようなチタニアドープ石英ガラスは、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを可燃性ガス及び支燃性ガスにより火炎加水分解させて得た合成シリカ微粒子を回転するターゲット上に堆積すると同時に溶融ガラス化してチタニアドープ石英ガラスを製造する方法において、ターゲットの回転数が5rpm以上であって、ケイ素源原料ガス、チタン源原料ガス、可燃性ガス及び支燃性ガスの流量変動を±1%/hr以内に制御すると共に、当該チタニアドープ石英ガラス製造炉に流入又は排気されるガス、同製造炉周囲の外気の各々の温度変動を±2.5℃以内に制御することにより製造することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
即ち、本発明は、以下のチタニアドープ石英ガラス、EUVリソグラフィ用部材、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板及びチタニアドープ石英ガラスの製造方法を提供する。
(1) 3〜12質量%のチタニアを含有し、該チタニアの濃度勾配が0.01質量%/μm以下であり、かつ厚さ6.35mmでの波長440nmにおける見かけ透過率が30%以上であることを特徴とするチタニアドープ石英ガラス。
(2) 複屈折量が20nm/cm以下であることを特徴とする(1)記載のチタニアドープ石英ガラス。
(3) 平均線熱膨張係数が、10〜30℃の範囲において−30〜+30ppb/℃であることを特徴とする(1)又は(2)記載のチタニアドープ石英ガラス。
(4) OH基濃度分布が400ppm以下であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載のチタニアドープ石英ガラス。
(5) 水素分子濃度が、5×1018molecules/cm3以下であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載のチタニアドープ石英ガラス。
(6) Si−H結合含有量が、5×1017個/cm3以下であることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載のチタニアドープ石英ガラス。
(7) 塩素濃度が、1〜500ppmであることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載のチタニアドープ石英ガラス。
(8) 700℃におけるアニール処理により、結晶質を生成しないことを特徴とする(1)乃至(7)のいずれかに記載のチタニアドープ石英ガラス。
(9) (1)乃至(8)のいずれかに記載のチタニアドープ石英ガラスから形成されたことを特徴とするEUVリソグラフィ用部材。
(10) EUVリソグラフィ用フォトマスク基板であることを特徴とする(9)記載のEUVリソグラフィ用部材。
(11) 上記EUVリソグラフィ用フォトマスク基板が152.4mm×152.4mm角形基板であり、該基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内の表面粗さ(Rms)が0.2nm以下であることを特徴とする(10)記載のEUVリソグラフィ用フォトマスク基板。
(12) 上記EUVリソグラフィ用フォトマスク基板が152.4mm×152.4mm角形基板であり、該基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内の最も高い位置と最も低い位置との差が100nm以下であることを特徴とする(10)又は(11)記載のEUVリソグラフィ用フォトマスク基板。
(13) 上記EUVリソグラフィ用フォトマスク基板が152.4mm×152.4mm角形基板であり、該基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内の1mm2領域毎の最も高い位置と最も低い位置との差がいずれも20nm以下であることを特徴とする(10)乃至(12)のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用フォトマスク基板。
(14) ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを可燃性ガス及び支燃性ガスにより火炎加水分解させて得た合成シリカ微粒子を回転するターゲット上に堆積すると同時に溶融ガラス化してチタニアドープ石英ガラスを製造する方法において、ターゲットの回転数が5rpm以上であって、ケイ素源原料ガス、チタン源原料ガス、可燃性ガス及び支燃性ガスの流量変動を±1%/hr以内に制御すると共に、当該チタニアドープ石英ガラス製造炉に流入又は排気されるガス、同製造炉周囲の外気の各々の温度変動を±2.5℃以内に制御することを特徴とするチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
(15) 上記チタニアドープ石英ガラスを更に700〜1300℃において大気中で1〜200時間保持してアニールした後、1〜20℃/hrの速度で500℃まで徐冷することを特徴とする(14)記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材に要求される高い表面精度を与える均質性の高いチタニアドープ石英ガラスを提供することができ、チタニアドープ石英ガラスからなるEUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材は平坦度や熱膨張特性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明のチタニアドープ石英ガラスは、そのチタニア濃度について、3〜12質量%のチタニアを含有し、そのチタニアの濃度勾配が0.01質量%/μm以下であり、かつその透過率について、厚さ6.35mmでの波長440nmにおける見かけ透過率が30%以上であるという特性を備えており、このようなチタニアドープ石英ガラスは紫外光、特に、波長70nm以下の極端紫外光(EUV)を光源とする光学系に用いる部材に好適である。
【0016】
チタニアドープ石英ガラス中のチタニアの濃度差は、チタニアドープ石英ガラスの構造的、組成的な変化をもたらすため物理的及び化学的特性に変化を引き起こす。物理的、化学的特性としては、例えばチタニアドープ石英ガラスの硬度や研磨液との反応性が挙げられる。どちらも研磨速度に影響を与え、結果として研磨後のチタニアドープ石英ガラス部材表面に凹凸を発生させる。しかし、研磨後のチタニアドープ石英ガラス部材表面の凹凸はチタニア濃度差のみで決まるのではなく、チタニアの濃度勾配に大きく依存している。
【0017】
つまり、石英ガラス中の2点間のチタニア濃度の差が同じであっても、2点間の距離が異なる場合、これら距離が異なる2点を含む2つの領域各々を研磨した後の基板表面の凹凸は異なる。研磨後の基板表面の凹凸にチタニアの濃度勾配が影響を与える原因は明確には解明されていないが、例えば、チタニアの濃度勾配が高い領域ほど石英ガラス中の歪みが多く、研磨時に歪みを解放するため、濃度勾配が低い領域と研磨速度に差が生じることが一因と考えられる。
【0018】
そのため、本発明のチタニアドープ石英ガラスは3〜12質量%、好ましくは5〜9質量%のチタニアを含有し、チタニアの濃度勾配が0.01質量%/μm以下、好ましくは0.005質量%/μm以下、更に好ましくは0.001質量%/μm以下が好適である。この場合、上記チタニアの濃度勾配は、チタニアドープ石英ガラス内の任意の2点間の濃度差をその2点間の距離で割った値がチタニアドープ石英ガラス全体において上記範囲内にあることを意味する。このようなチタニアドープ石英ガラスから形成されたEUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材は、同様のチタニア濃度及び濃度勾配特性を有する。
【0019】
なお、チタニアドープ石英ガラスのチタニア濃度と屈折率には比例関係があるため、チタニアドープ石英ガラス中のチタニア濃度の微小な変動は、屈折率分布を測定することで評価することができ、これによってチタニアの濃度勾配を評価することができる。632.8nmにおけるチタニアドープ石英ガラスの屈折率(n)とチタニア濃度(質量%)(x)との関係は下記式(1)によって示される。
n=3.28×10-3×x+1.4586 (1)
従って、屈折率差(Δn)とチタニア濃度差(Δx)(質量%)との関係は下記式(2)によって示される。
Δn=3.28×10-3×Δx (2)
【0020】
また、チタニアドープ石英ガラスは、褐色を呈する場合があるが、これは石英ガラス中のチタン元素の価数が一部+3価で存在することに起因する。チタンの総量が同一であっても+3価のチタンが多い領域と+3価のチタンが少ない領域とでは、チタニアドープ石英ガラスの線熱膨張係数に差異を生じる。そのため、本発明のチタニアドープ石英ガラスは、厚さ6.35mmでの波長440nmにおける見かけ透過率は、線熱膨張係数の均一性が高いEUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材を与えることができる30%以上、好ましくは60%以上、更に好ましくは80%以上となっている。
【0021】
これはチタニアドープ石英ガラス中の+3価のチタンが440nm付近に吸収を有するため、見かけ透過率を測定することで簡易的に+3価のチタンの量を測定することができるからである。なお、見かけ透過率とは、材料を研磨して透過率計で測定したときの透過率実測値をいい、440nmにおける見かけ透過率は、Varian社製分光光度計cary400を用いて測定することができる。
【0022】
これにより、例えば、本発明のチタニアドープ石英ガラスから切削、スライスし、更に平面を鏡面研磨、洗浄等して得られる、通常厚さが6.35mmである152.4mm×152.4mm(6インチ×6インチ)角形のEUVリソグラフィ用フォトマスク基板における波長440nmの光のみかけ透過率を30%以上、好ましくは60%以上、更に好ましくは80%以上とすることができる。
【0023】
また、チタニアドープ石英ガラス中の歪みは、チタニアの濃度勾配によるものだけでなく、例えばチタニアドープ石英ガラス作製中の成長面温度の変動、ケイ素源原料ガス、チタン源原料ガスの変動等といった要因、チタニアドープ石英ガラスをEUVリソグラフィ用部材に適合した形状に熱間成型や切断する場合にも発生する。
【0024】
一般的に歪みは複屈折によって生じる光路差(レタデーション)として測定が可能であり、本発明のチタニアドープ石英ガラス中の複屈折量は20nm/cm以下、好ましくは10nm/cm以下、更に好ましくは5nm/cm以下であることが好ましい。濃度勾配と同様に歪みは、研磨速度に差異を生じさせ、研磨後のチタニアドープ石英ガラス表面の凹凸の原因となるおそれがあるため、複屈折量が20nm/cmを超えるチタニアドープ石英ガラスは、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材として適さない場合がある。なお、複屈折量は、例えば、ユニオプト社製光へテロダイン複屈折計測器を使用して測定することができる。このようなチタニアドープ石英ガラスから形成されたEUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材は同様の複屈折量を有する。
【0025】
本発明のチタニアドープ石英ガラスの室温レベル(10〜30℃)での平均線熱膨張係数は−30〜+30ppb/℃の範囲であることが好ましい。この場合、室温レベルとはEUVリソグラフィでの動作温度となる温度域である。平均線熱膨張係数が上記範囲以内にないと、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材としての使用に適さないものとなる場合がある。なお、平均線熱膨張係数の測定はNETZSCH社製精密熱膨張計を使用することができ、直径3.5mm×25mmの円柱状サンプルで測定することができる。このようなチタニアドープ石英ガラスから形成されたEUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材は同様の平均線熱膨張係数を有する。
【0026】
チタニアドープ石英ガラス中のOH基濃度は熱膨張特性に影響を与える場合がある。これはOH基によって酸素と珪素又はチタンの結合ネットワークが切断されることに起因すると考えられる。本発明者らの知見では、チタニアドープ石英ガラス中のOH基が100ppm増加するに伴い、10〜30℃における平均線熱膨張係数は9〜13ppb/℃程度増加する。
【0027】
そのため、本発明のチタニアドープ石英ガラス中のOH基濃度分布が400ppm以下、好ましくは200ppm以下、更に好ましくは50ppm以下であることが好ましい。この場合、上記OH基濃度分布は、OH基濃度をチタニアドープ石英ガラス全体において評価したときの濃度の最大値と最小値との差を意味する。OH基濃度の分布が400ppmを超える場合、10〜30℃における平均線熱膨張係数が−30〜+30ppb/℃の範囲にならないおそれがある。なお、OH基濃度は赤外分光光度計で測定することができる。具体的にはフーリエ変換赤外分光光度計にて波数4522cm-1の吸光係数より求めることができ、換算式として
OH基濃度(ppm)=(4522cm-1における吸光係数)/T×4400
を用いることができる。但し、Tは測定サンプルの厚さ(cm)である。
【0028】
EUVリソグラフィにおいて、基板上に堆積させたシリコン、モリブデン等の反射多層膜によって反射されずに基板に到達したEUV光は、熱に転化されるばかりでなく、基板材料に半恒久的な変化を生じさせる場合がある。特にチタニアドープ石英ガラスの場合、ガラス中に多量の水素分子、Si−H結合を含有すると、EUV光によってチタニアドープ石英ガラスのチタン元素の価数を変化させ、またチタニアドープ石英ガラスの構造を変化させて熱膨張係数に影響を与える場合がある。
【0029】
本発明のチタニアドープ石英ガラスの水素分子濃度は、5×1018molecules/cm3以下、好ましくは1×1018molecules/cm3以下、更に好ましくは5×1017molecules/cm3以下であることが好ましい。水素分子濃度は、ラマン分光法によりZurnal Priladnoi Spectroskopii,Vol.46,No.6,pp987〜991,June 1987に記載の方法によって測定することができる。
【0030】
また、本発明のチタニアドープ石英ガラスのSi−H結合含有量は、5×1017個/cm3以下、好ましくは1×1017個/cm3以下、更に好ましくは5×1016個/cm3以下であることが好ましい。Si−H結合含有量は、ラマン分光法により特開平09−59034号公報に示される方法によって測定することができる。
【0031】
本発明のチタニアドープ石英ガラスの塩素濃度は、1〜500ppm、好ましくは1〜200ppm、更に好ましくは10〜100ppmであることが好ましい。EUVリソグラフィ用部材では高い表面精度が求められるが、従前の研磨方法だけでは求められる表面精度を達成することが困難な場合がある。この場合に表面精度を修正する手法として、研磨後のEUVリソグラフィ用部材表面の凸部にプラズマを照射し、選択的に研削する方法がある。しかし、当該プラズマを使用した研削方法は長時間を要する処理であり、かつ使用するガスが高価である問題がある。そのため、処理時間の短縮化が切望されるが、本発明のチタニアドープ石英ガラスが塩素を含む場合、プラズマによる研削速度を上昇させることができ、プラズマ処理によるコストを低減することができる。
【0032】
なお、本発明のチタニアドープ石英ガラスには、ケイ素、チタン、酸素、水素及び塩素以外の各元素がそれぞれ1000ppm以下であれば含まれていても問題はない。ケイ素、チタン、酸素、水素、塩素以外の元素を含有することによって、チタニアドープ石英ガラスの10〜30℃における平均線熱膨張係数が若干変化するが、含有するチタニアの量を増減させることで平均線熱膨張係数を−30〜+30ppb/℃にすることが可能である。
【0033】
本発明のチタニアドープ石英ガラスは、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材の素材として好適であるが、特に、EUVリソグラフィ用フォトマスク用基板は、ウェハ上に高画質かつ微細なパターンの転写を可能にするため、表面粗さに高い精度が求められる。本発明のチタニアドープ石英ガラスからは、このような高い精度を満足するEUVリソグラフィ用フォトマスク基板を形成することができる。
【0034】
特に、本発明のチタニアドープ石英ガラスからは、研磨後の表面粗さ(Rms)が0.2nm以下、好ましくは0.15nm以下、更に好ましくは0.1nm以下であるフォトマスク基板を形成することができる。なお、表面粗さ(Rms)は、原子間力顕微鏡で測定することができ、例えば、フォトマスク基板が152.4mm×152.4mm角形基板である場合、基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内の表面粗さ(Rms)が上記範囲であることが好ましい。表面粗さ(Rms)が上記範囲にないと、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板に要求される表面形状が満足できない。
【0035】
また、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板には、例えば、152.4mm×152.4mm角形のEUVリソグラフィ用フォトマスクの露光時に実際に利用されるフォトマスク基板の領域(フォトマスク基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域)の平坦度及び上記142.4mm×142.4mm角の領域内の1mm2の領域毎の平坦度にも高い精度が求められる。本発明のチタニアドープ石英ガラスからは、要求される高い精度を満足するEUVリソグラフィ用フォトマスク基板を形成することができる。
【0036】
本発明のチタニアドープ石英ガラスからは、研磨後の基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内の最も高い位置と最も低い位置との差(PV平坦度)が100nm以下、好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下であるEUVリソグラフィ用フォトマスク基板を形成することができる。また、上記研磨後の基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内の1mm2の領域毎の最も高い位置と最も低い位置との差(PV平坦度)がいずれも20nm以下、好ましくは10nm以下、更に好ましくは5nm以下であるEUVリソグラフィ用フォトマスク基板を形成することができる。なお、これらのPV平坦度は、フォトマスク基板中央部142.4×142.4mm角の領域内、又は142.4×142.4mm角の領域内の1mm2の領域毎に、最も高い位置と最も低い位置との差をレーザ干渉計で測定することにより評価することができる。これらPV平坦度が上記範囲にないと、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板に要求される表面形状が満足できない場合がある。
【0037】
上記表面粗さ、平坦度及び最も高い位置と最も低い位置との差を有する基板は、本発明のチタニアドープ石英ガラスの後述する製造方法に従って得られる3〜12質量%のチタニアを含有し、その濃度勾配が0.01質量%/μm以下で、厚さ6.35mmでの波長440nmにおける見かけ透過率が30%以上のチタニアドープ石英ガラス、特に複屈折量が20nm/cm以下のチタニアドープ石英ガラスを常法に従って鏡面研磨することによって得ることができる。
【0038】
このようなチタニアドープ石英ガラスは、石英ガラス製造炉内に設けたバーナに、水素ガスを含む可燃性ガス及び酸素ガスを含む支燃性ガスを供給して燃焼させることによりバーナ先端に形成される酸水素炎中に、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを供給して、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを加水分解することにより生成した酸化ケイ素、酸化チタン及びそれらの複合体微粒子を、バーナ先端前方に配設したターゲット上に付着させて成長させることによりインゴットを作製し、得られたインゴットを熱間成型して所定の形状に成型後、成型後のインゴットをアニール処理し、更に徐冷処理することによって製造することができるが、本発明のチタニアドープ石英ガラスは、上記可燃性ガス、支燃性ガス、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスの各々の供給流量の変動を±1%/hr以内に制御すると共に、上記石英ガラス製造炉内を流通させるガスとして導入する空気、石英ガラス製造炉からの排気及び石英ガラス製造炉周囲の外気の各々の温度の変動を±2.5℃以内に制御して、上記ターゲットを5rpm以上の回転数で回転させ、上記微粒子をターゲット上に付着させて製造することにより得ることができる。
【0039】
チタニアドープ石英ガラスの製造炉は、竪型及び横型のいずれも使用することができるが、種材等のターゲットの回転数は5rpm以上、好ましくは15rpm以上、更に好ましくは30rpm以上である。これはチタニアドープ石英ガラス中の脈理、歪み等の構造的、組成的に不均一な領域は回転するターゲットのチタニアドープ石英ガラスが成長する部分の温度の不均一性に大きく依存して発生するからである。そこで、ターゲットであるターゲットの回転数を上げ、チタニアドープ石英ガラスが成長する部分の温度を均一化することで、チタニアドープ石英ガラスの構造的、組成的に不均一な領域の発生を抑えることができる。
【0040】
チタニアドープ石英ガラスの構造的、組成的に不均一な領域の発生は、チタニアドープ石英ガラスを製造時に使用するケイ素源原料ガス、チタン源原料ガス、可燃性ガス及び支燃性ガスの各々を安定供給することによって抑えることができる。そのために、本発明の製造方法においては、ケイ素源原料ガス、チタン源原料ガス、可燃性ガス及び支燃性ガスの各々の供給流量の変動を±1%/hr以内、好ましくは±0.5%/hr以内、更に好ましくは±0.25%/hr以内に制御する。
【0041】
また、チタニアドープ石英ガラスの構造的、組成的に不均一な領域の発生は、チタニアドープ石英ガラス製造炉を流通させるガスとして供給される空気、石英ガラス製造炉から排出される排気及び石英ガラス製造炉周囲の外気の温度を安定化させることによっても抑えることができる。そのため、本発明の製造方法においては、石英ガラス製造炉内を流通させるガスとして導入する空気、石英ガラス製造炉からの排気及び石英ガラス製造炉周囲の外気の各々の温度の変動を±2.5℃以内、好ましくは±1℃以内、更に好ましくは±0.5℃以内に制御する。
【0042】
可燃性ガス、支燃性ガス、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスの各々の供給流量の変動が±1%/hrより大きく、また、石英ガラス製造炉内に導入する空気、石英ガラス製造炉からの排気及び石英ガラス製造炉周囲の外気の各々の温度の変動が±2.5℃より大きい環境で作製されたチタニアドープ石英ガラスには構造的、組成的に不均一な領域が発生し、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材に要求される高い表面精度を達成できるチタニアドープ石英ガラスを得ることが困難である。
【0043】
ケイ素源原料ガスは公知の有機ケイ素化合物を使用することができ、具体的には、四塩化ケイ素、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン等の塩素系シラン化合物、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン等が使用できる。
【0044】
また、チタン源原料ガスも公知の化合物を使用することができ、具体的には、四塩化チタン、四臭化チタン等のチタンハロゲン化物、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−t−ブトキシチタン等のチタンアルコキシド等を使用できる。
【0045】
一方、可燃性ガスとしては水素ガス等の水素を含有するものが用いられ、更に必要に応じて一酸化炭素、メタン、プロパン等のガスを併用したものが用いられる。一方、支燃性ガスとしては酸素ガスを含むものが用いられる。
【0046】
EUVリソグラフィ用部材に好適な上記特性を備えた本発明のチタニアドープ石英ガラスはミラー、ステージ、フォトマスク基板等のそれぞれのEUVリソグラフィ用部材に合った所定の形状にすべく、1500〜1800℃、1〜10時間熱間成型した後、インゴットをアニール処理し、更に徐冷処理する。これらアニール処理及び徐冷処理は、熱間成型により生じたチタニアドープ石英ガラス中の歪みを低下させる効果がある。アニール処理条件は公知の条件を用いることができ、温度700〜1300℃、大気中で1〜200時間保持すればよい。
【0047】
本発明におけるチタニアドープ石英ガラスは、700℃におけるアニールによって結晶質を生成しないことが好ましい。結晶質の生成は熱膨張係数の変動、EUVリソグラフィ用部材の外形の変化、結晶質の飛散による発塵等の悪影響を及ぼす可能性がある。ここで、結晶質とはクリストバライトをいい、232cm-1及び420cm-1付近にラマンピークを有する。従って、結晶質の生成の有無はEUVリソグラフィ用部材のラマン分光法によって確認することができる。
【0048】
また、徐冷処理条件も公知の条件を用いることができ、例えば、上記アニール処理温度から500℃の温度までの冷却を1〜20℃/hrの速度で実施すればよい。
【0049】
本発明において、アニール、徐冷処理は、アルミナ又は石英ガラス製の炉壁を有する熱処理炉を用いて実施することができるが、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の不純物の混入による結晶質の生成を抑制するために、炉壁がアルミナである場合には、EUVリソグラフィ用部材を石英製容器で覆ってアニール及び徐冷処理を施すことが好ましい。
【0050】
アニール処理及び徐冷処理を施したチタニアドープ石英ガラスを、適宜研削加工やスライス加工により所定のサイズに加工した後、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、炭化珪素、ダイアモンド、酸化セリウム、コロイダルシリカ等の研磨剤を使用して公知の条件で研磨することによりEUVリソグラフィ用部材に形成することが可能である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
バーナと、ガス供給ラインを備える製造炉において、水素ガス10m3/hr、酸素ガス6m3/hr、原料としての四塩化ケイ素1000g/hr、四塩化チタン100g/hrを石英製バーナに供給し、酸水素炎による四塩化ケイ素、四塩化チタンの加水分解反応により生成したSiO2及びTiO2を石英製バーナの先方に設置した50rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着させることでチタニアドープ石英ガラスのインゴットを製造した。このとき、各種ガスの流量変動は±0.2%/hrであった。また、チタニアドープ石英ガラス製造炉へ供給される空気、排気されるガス、製造炉の外気温の温度変動は±1℃であった。
【0053】
得られたインゴットを電気炉にて155mm×155mm角柱状に1700℃で6時間加熱することにより熱間成型した。その後、大気中で975℃,150時間保持してアニール後、500℃まで5℃/hrの速度で徐冷した。アニール後のインゴットを152.4mm×152.4mm角柱状に研削し、チタニアドープ石英ガラスインゴット(I)を得た。当該インゴット(I)を研削し、両面を研磨して厚さ1mmにスライスした後、当該厚さ1mmのチタニアドープ石英ガラスの屈折率分布を測定し、屈折率変動が最も大きい領域を特定した。
【0054】
次に、レーザ干渉計の倍率を上げて、レーザ干渉計に接続されたCCDの精度を1ピクセル当たり8μm程度にし、屈折率変動が最も大きい領域の屈折率分布を測定した。得られた屈折率分布から求めた屈折率均一性(Δn)と式(2)からチタニア濃度差(Δx)(質量%)を求めた。
また、屈折率の最も高い位置と最も低い位置の間の距離とチタニア濃度差(Δx)(質量%)からチタニア濃度勾配(質量%/μm)を求めた。
得られたチタニア濃度差(Δx)(質量%)及びチタニア濃度勾配を表1に示す。
【0055】
インゴット(I)と同様の方法で作製したチタニアドープ石英ガラスインゴットのチタニア濃度(質量%)、波長440nmの光における見かけ透過率の最小値、複屈折量、10〜30℃における平均線熱膨張係数の最大値及び最小値、OH基濃度分布(OH基濃度の最大値と最小値との差)、水素分子濃度及びSi−H結合含有量を表1に示す。
【0056】
また、インゴット(I)と同様の方法で作製したチタニアドープ石英ガラスインゴットをスライスして、研磨剤として酸化セリウムを使用して、厚さ6.35mmの鏡面研磨された基板を作製した。作製した基板面中央部における設定した25ヶ所の測定領域a(図1参照)の各々で表面粗さ(Rms)を測定し、測定値の中で最も大きな表面粗さ(Rms)を表1に示す。
【0057】
次に、作製した基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内での最も高い位置と最も低い位置との差(露光利用領域のPV平坦度)をレーザ干渉計を用いて測定した。その結果を表1に示す。
また、レーザ干渉計の倍率を上げて、レーザ干渉計に接続されたCCDの精度を1ピクセル当たり8μm程度にし、作製した基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内での1mm2毎のPV平坦度を測定し、測定値内で最も大きなPV平坦度を表1に示す。
【0058】
得られたチタニアドープ石英ガラスは、チタニア濃度勾配、440nmにおける見かけ透過率、複屈折量、10〜30℃における平均線熱膨張係数、OH基濃度分布(OH基濃度の最大値と最小値との差)、水素分子濃度及びSi−H結合含有量とも良好であった。研磨後のフォトマスク基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内でのPV平坦度及び基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内の1mm2領域毎のPV平坦度の値も小さかった。また、表面粗さとも良好であり、EUV用フォトマスク基板として好適なものが得られた。
【0059】
[比較例1]
バーナと、ガス供給ラインを備える製造炉において、水素ガス10m3/hr、酸素ガス6m3/hr、原料としての四塩化ケイ素1000g/hr、四塩化チタン100g/hrを石英製バーナに供給し、酸水素炎による四塩化ケイ素、四塩化チタンの加水分解反応により生成したSiO2及びTiO2を石英製バーナの先方に設置した3rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着させることでチタニアドープ石英ガラスのインゴットを製造した。このとき、各種ガスの流量変動は±2%/hrであった。また、チタニアドープ石英ガラス製造炉へ供給される空気、排気されるガス、製造炉の外気温の温度変動は±3℃であった。
【0060】
得られたインゴットを電気炉にて155mm×155mm角柱状に1700℃で6時間加熱することにより熱間成型した。熱間成型後のインゴットを152.4mm×152.4mm角柱状に研削し、チタニアドープ石英ガラスインゴット(II)を得た。
【0061】
実施例1と同様の方法で、チタニア濃度差(Δx)、チタニア濃度勾配、波長440nmの光における見かけ透過率の最小値、複屈折量、10〜30℃における平均線熱膨張係数の最大値及び最小値、OH基濃度分布(OH基濃度の最大値と最小値との差)、水素分子濃度及びSi−H結合含有量、表面粗さ、基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内及び該領域内の1mm2毎のPV平坦度を測定した。その結果を表1に示す。
【0062】
比較例1の結果から、チタニア濃度勾配の大きいチタニアドープ石英ガラスから作製したフォトマスク基板の研磨後のPV平坦度は、大きくなることがわかる。また、440nmでの見かけ透過率が低く、10〜30℃における平均線熱膨張係数の値が−30〜+30ppb/℃から外れた。
【0063】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例及び比較例において測定した基板表面粗さの測定領域を各々示す平面図である。
【符号の説明】
【0065】
a 測定領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3〜12質量%のチタニアを含有し、該チタニアの濃度勾配が0.01質量%/μm以下であり、かつ厚さ6.35mmでの波長440nmにおける見かけ透過率が30%以上であることを特徴とするチタニアドープ石英ガラス。
【請求項2】
複屈折量が20nm/cm以下であることを特徴とする請求項1記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項3】
平均線熱膨張係数が、10〜30℃の範囲において−30〜+30ppb/℃であることを特徴とする請求項1又は2記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項4】
OH基濃度分布が400ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項5】
水素分子濃度が、5×1018molecules/cm3以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項6】
Si−H結合含有量が、5×1017個/cm3以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項7】
塩素濃度が、1〜500ppmであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項8】
700℃におけるアニール処理により、結晶質を生成しないことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラス。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項記載のチタニアドープ石英ガラスから形成されたことを特徴とするEUVリソグラフィ用部材。
【請求項10】
EUVリソグラフィ用フォトマスク基板であることを特徴とする請求項9記載のEUVリソグラフィ用部材。
【請求項11】
上記EUVリソグラフィ用フォトマスク基板が152.4mm×152.4mm角形基板であり、該基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内の表面粗さ(Rms)が0.2nm以下であることを特徴とする請求項10記載のEUVリソグラフィ用フォトマスク基板。
【請求項12】
上記EUVリソグラフィ用フォトマスク基板が152.4mm×152.4mm角形基板であり、該基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内の最も高い位置と最も低い位置との差が100nm以下であることを特徴とする請求項10又は11記載のEUVリソグラフィ用フォトマスク基板。
【請求項13】
上記EUVリソグラフィ用フォトマスク基板が152.4mm×152.4mm角形基板であり、該基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内の1mm2領域毎の最も高い位置と最も低い位置との差がいずれも20nm以下であることを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項記載のEUVリソグラフィ用フォトマスク基板。
【請求項14】
ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを可燃性ガス及び支燃性ガスにより火炎加水分解させて得た合成シリカ微粒子を回転するターゲット上に堆積すると同時に溶融ガラス化してチタニアドープ石英ガラスを製造する方法において、ターゲットの回転数が5rpm以上であって、ケイ素源原料ガス、チタン源原料ガス、可燃性ガス及び支燃性ガスの流量変動を±1%/hr以内に制御すると共に、当該チタニアドープ石英ガラス製造炉に流入又は排気されるガス、同製造炉周囲の外気の各々の温度変動を±2.5℃以内に制御することを特徴とするチタニアドープ石英ガラスの製造方法。
【請求項15】
上記チタニアドープ石英ガラスを更に700〜1300℃において大気中で1〜200時間保持してアニールした後、1〜20℃/hrの速度で500℃まで徐冷することを特徴とする請求項14記載のチタニアドープ石英ガラスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−182367(P2007−182367A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318172(P2006−318172)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】