説明

チャ花の含有成分とその用途

【課題】 本発明は、チャ花の新規用途の開発を課題とする。
【解決手段】 本発明によれば、安全に使用できるチャ花抽出物、または該抽出物に含まれる本発明による化合物の少なくとも一つを有効成分とする中性脂肪吸収抑制、糖吸収抑制または胃粘膜保護用組成物ならびにその組成物を含む健康食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャ花抽出物および該抽出物に含まれる新規サポニン化合物またはその塩に関する。
より詳細には、本発明は、ツバキ科植物であるチャの花部であるチャ花の水または含水低級アルコール抽出物および/またはこの抽出物に含まれる新規サポニン化合物またはそ
の塩の用途に関する。
【0002】
さらに詳細には、本発明は、上記の抽出物または該抽出物に含まれる新規サポニン化合物の少なくとも一つを含有する中性脂肪吸収抑制、糖吸収抑制または胃粘膜保護用医薬組成物および該組成物が添加されてなる健康食品に関する。
【背景技術】
【0003】
ツバキ科 (Theaceae)植物ツバキ属 (Camellia L.)に属するチャ (Camellia sinensis、別名Thea sinensis)は、本来、熱帯および亜熱帯性の植物であるが、インド、スリランカインドネシア、中国および日本などアジアにおいて広く自生または栽培されている常緑樹である。
【0004】
従来、チャの幼葉を摘んで不発酵、半発酵または発酵加工して、緑茶、ウーロン茶または紅茶などに製茶し、嗜好飲料として古くから広く日常的に愛飲されている。
また、チャの興奮作用および利尿作用は古くから知られ、中国においては、明時代の「本草綱目」に、そして我が国においては、江戸時代の「本朝食鑑」に記載されているほどである。
【0005】
さらに近年、チャに関しては、主として、その葉部の成分として含まれるカテキンなどのようなポリフェノール類が、活性酸素の消去など対して有効であることが報告され、一段と注目されている。また、チャ葉には抗炎症、抗アレルギー作用を有するサポニン化合物が含まれることも報告されている (例えば、非特許文献1および特許文献1など)。
しかしながら、チャ花の成分およびその作用についてはなんら報告されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平7-61998号公報
【非特許文献1】Kitagawa I.,Hori K.,Motozawa T.,Murakami T.,Yoshikawa M.,Chem.Pharm.Bull.,46,1901-1906 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来利用対象となっていなかったチャ花の新規用途の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、現在までに報告されていないチャ花の成分およびその薬理作用を明らかにすべく研究に着手し、チャ花の水または含水低級アルコール抽出物および各精製段階におけるチャ花抽出物の薬理作用を指標としてその含有成分を鋭意研究し、新規サポニン化合物を見出し、それらの化学構造を決定すると共に、当該化合物の薬理作用についても知見を得、チャ花の新規用途を確立し、上記の課題を解決する。
【0009】
すなわち、本発明によれば、次の一般式(I):
【化1】

[式中、RおよびRは、それぞれ互いに独立して水素原子、アセチル基、2-メチルブチリル基またはアンゲロイル基を表し、Rは水素原子またはヒドロキシ基を表す]
で表されるサポニン化合物またはその塩が提供される。
【0010】
また、チャ花抽出物および該抽出物に含まれる本発明による化合物は、いずれも中性脂肪吸収抑制作用、糖吸収抑制作用および胃粘膜保護作用を有するので、これら作用を意図する医薬用組成物ならびに該組成物が添加されてなる健康食品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チャ花抽出物、または該抽出物に含まれる本発明によるサポニン化合物またはその塩の少なくとも一つを有効成分とする中性脂肪吸収抑制、糖吸収抑制または胃粘膜保護用組成物として、安全に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、チャ花の水または含水低級アルコール抽出物および/または該抽出物を必要
に応じてさらに精製したチャ花抽出物に含まれる、上記の一般式(I)で表されるサポニン化合物またはその塩およびそれらの使用に関している。
【0013】
本発明において、用いられるチャ花とは、ツバキ科 (Theaceae)植物ツバキ属 (Camellia L.)に属するチャ (Camellia sinensis、別名Thea sinensis)の花部、すなわち、雌しべ、雄しべ、花弁、萼、苞葉、花軸、花柄等を含むいわゆる花、花芽および蕾などを意味する。
本発明において、チャ花は、採取したものをそのまま、または乾燥して、あるいは当業者に公知の前記のいずれかの方法で製茶して用いることができる。
【0014】
なお、通常、上記のチャは、主として2変種、すなわち、いわゆる緑茶製造に適する中国種var. sinensisおよび紅茶製造に適するアッサム種var. assamica (Mast.) Kitamに、またはこれらの雑種に分類されるが、本発明におけるチャ花の原料としては、上記のいずれかに限定されるものではない。
【0015】
本発明の抽出物の調製に用いられる溶媒に関して、水以外の低級アルコールとしては、炭素数1〜4のアルコール類が挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノールもしくはt-ブタノールまたはこれらの混液あるいはこれらの任意の割合における含水アルコール等が挙げられる。好ましくは、水またはエタノールが用いられる。さらに好ましくは、水または約80%エタノールが用いられるが、本発明においては、含水エタノールのエタノール量が特に80%に限定されるものではない。
これらの抽出用溶媒は、抽出材料に対して1〜50倍 (容量)程度、好ましくは2〜1
0倍 (容量)程度用いられる。
【0016】
なお、抽出は、熱時または室温で行うことができ、抽出温度は、室温と溶媒の沸点の間で任意に設定できる。熱時抽出の場合、例えば、50℃〜抽出溶媒の沸点の温度で、振盪 (または撹拌)下もしくは非振盪下または還流下に、チャ花の花部を上記の抽出溶媒に浸漬
することによって行うのが適当である。抽出材料を振盪下に浸漬する場合には、30分間〜5時間程度行うのが適当であり、非振盪下に浸漬する場合には、1時間〜20日間程度行うのが適当である。また、抽出溶媒の還流下に抽出するときは、30分〜数時間加熱還流するのが好ましい。
【0017】
また、50℃より低い温度で浸漬して抽出することも可能であるが、その場合には、上記の時間よりも長時間浸漬するのが好ましい。抽出操作は、同一材料について1回だけ行
ってもよいが、複数回、例えば、2〜5回程度繰り返すのが抽出効率の点から好ましい。
【0018】
固形物を、抽出後にろ別して得られる抽出液は、常法により濃縮して抽出エキスとしてもよい。濃縮は、減圧下に行うのが好ましい。濃縮は抽出液が乾固するまで行ってもよい。
抽出物は、そのまま本発明の組成物を調製するのに用いてもよいが、粉末状または凍結乾燥品等として用いてもよい。これらの固形物とする方法は、当該分野で公知の方法を採用することができる。
【0019】
したがって、本発明における抽出物とは、抽出液、抽出エキス、濃縮乾固物または凍結乾燥物のいずれも意味するが、本発明による抽出物は、精製せずにそのまま用いることもでき、本発明の一部を構成している。
【0020】
しかしながら、本発明では、抽出液を濃縮した抽出物を、溶媒による分配抽出、すなわち、水と非水和性有機溶媒とを用いる分配抽出に単回または複数回付し、有機溶媒可溶画分と水溶性画分として分離することができる。
【0021】
非水和性有機溶媒としては、酢酸エチル、n-ブタノール、ヘキサン、クロロホルムなどが挙げられるが、中でも酢酸エチルが好ましい。
すなわち、チャ花の水または含水低級アルコール抽出物を濃縮して得られた抽出物を、必要に応じて酢酸エチルと水を用いて分配し、酢酸エチル可溶画分と水溶性画分として得ることができる。
【0022】
また、上記で得られる水溶性画分を、さらに水と非水和性有機溶媒を用いる分配抽出に付し、有機溶媒可溶画分と水溶性画分として分離することができる。
この場合の非水和性有機溶媒としては、n-ブタノール、ヘキサン、クロロホルムなどが挙げられるが、中でもn-ブタノールが好ましい。
すなわち、上記の酢酸エチルと水との分配後の水溶性画分をそのままn-ブタノールと
の分配に付すか、または該水溶性画分を濃縮して得られる残渣をさらに水とn-ブタノー
ルとの分配に付し、n-ブタノール画分と水溶性画分を得ることができる。
【0023】
分配抽出は、当該分野で通常行われる撹拌もしくは振盪分配法または液滴向流分配法などの常法に従って行うことができる。例えば、室温下、振盪下または非振盪下に、抽出エキスなどに対して、非水和性有機溶媒と水とを1〜10倍 (容量)程度 (1:10〜10:
1)加えて行うのが適当である。
【0024】
なお、上記のアルコール抽出物および各分配抽出物は、上記のいずれの段階においても、濃縮する前後に精製処理に付すことができる。
精製処理には、上記の溶媒による分配抽出以外に、当業者に公知のクロマトグラフ法、イオン交換クロマトグラフ法等を単独で、または組み合わせて採用することができる。例えば、クロマトグラフ法としては、順相もしくは逆相担体またはイオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーまたは遠心液体クロマトグラフィー等のいずれか、またはそれらを組み合わせて行う方法が挙げられる。この際の担体、溶出溶媒等の精製条件は、各種クロマトグラフィーに対応して適宜選択することができる。
【0025】
本発明者は、チャ花抽出物を、薬理活性を指標としながら上記の精製方法を組み合わせて精製すると同時に精製物の作用について検討した。
【0026】
その結果、本発明者は、チャ花抽出物が、血糖上昇抑制作用、アルドース還元酵素および小腸α-グルコシダーゼ阻害作用、胃粘膜損傷抑制作用を示すことを見出した。
さらに本発明者は、チャ花抽出物を上記の溶媒による分配抽出に付して得られた、酢酸エチル可溶画分およびn-ブタノール可溶画分が強い中性脂肪吸収抑制作用を示すことも見出した。
【0027】
そこで、本発明者は、上記の中性脂肪吸収抑制に対して特に強い作用を示したn-ブタノール可溶画分について、逆相カラムを用いたクロマトグラフィーおよびHPLCによる精製を繰り返し、含有成分の単離を行った。
【0028】
その結果、本発明者は、既知物質として(-)-エピカテキン、ケルセチン3-O-β-D-ガラ
クトピラノシド、ケンペロール3-O-β-D-ガラクトピラノシド、ミリセチン3-O-β-D-ガラクトピラノシド、(-)-エピカテキンガレート、ケンペロール3-O-グルコシル-(1→3)-ラムノシル-(1→6)-ガラクトシドおよびケンペロール3-O-グルコシル-(1→3)-ラムノシル-(1
→6)-グルコシドを得ると共に、さらに以下の新規化合物を見出した。
【0029】
すなわち、本発明によれば、 次の一般式(I):
【化2】

[式中、RおよびRは、それぞれ互いに独立して水素原子、アセチル基、2-メチルブチリル基またはアンゲロイル基を表し、Rは水素原子またはヒドロキシ基を表す]
で表されるサポニン化合物またはその塩が提供される。
【0030】
ことに、上記の式(I)の化合物において、Rがアセチル基でありRがアンゲロイル基であり、Rが水素原子であるサポニン化合物フローラティポニンA (TFB-1)、RおよびRが共にアンゲロイル基であり、Rがヒドロキシ基であるサポニン化合物フローラティポニンB (TFB-2)、ならびにRが2-メチルブチリル基でありRがアンゲロイル基であり、Rがヒドロキシ基であるサポニン化合物フローラティポニンC (TFB-3)またはそれらの塩が提供される。
より詳細には、本発明によれば、式(II):
【0031】
【化3】

【0032】
式(III):
【化4】

【0033】
または式(IV):
【化5】

で表される新規化合物TFB-1、TFB-2およびTFB-3またはこれらの塩が提供さ
れる。
【0034】
上記のTFB-1、TFB-2およびTFB-3の塩としては、常法によって形成される
当該化合物が有しているカルボキシ基とナトリウムまたはカリウムのようなアルカリ金属との塩が挙げられる。
さらに、上記の化合物が有するエステル結合のいずれかが常法によって部分加水分解された化合物(R1とR2の両者または何れか一方が水素原子である)も本発明の一部を構成する。
【0035】
すなわち、本発明者は、チャ花抽出物および該抽出物に含まれるTFB-1、TFB-2およびTFB-3が、いずれも血糖上昇抑制、胃粘膜損傷抑制および中性脂肪吸収抑制に
対して強い活性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0036】
また、本発明によれば、上記のn-ブタノール可溶画分に含まれる式(V):
【化6】

で表される新規配糖体化合物TFB-4も提供される。
【0037】
したがって、本発明によれば、チャ花抽出物または該抽出物に含まれる式(II)〜(I
V)で表されるTFB-1、TFB-2およびTFB-3の少なくとも一つを有効成分として含む医薬組成物が提供される。
【0038】
すなわち、本発明によれば、チャ花抽出物または該抽出物に含まれるTFB-1、TF
B-2およびTFB-3の少なくとも一つを有効成分として含む糖吸収抑制用組成物が提供される。
【0039】
また、本発明によれば、チャ花抽出物または該抽出物に含まれるTFB-1、TFB-2およびTFB-3の少なくとも一つを有効成分として含む胃粘膜損傷抑制用組成物が提供
される。
さらに、本発明によれば、チャ花抽出物または該抽出物に含まれるTFB-1、TFB-2およびTFB-3の少なくとも一つを有効成分として含む中性脂肪吸収抑制用組成物が
提供される。
【0040】
上記の糖吸収は例えば糖尿病や糖尿病合併症、胃粘膜損傷は暴飲暴食もしくはストレス性胃炎または胃潰瘍などのような胃障害、ならびに中性脂肪吸収は肥満や高脂血症などのような生活習慣病と密接に関連していると考えられている。
したがって、本発明によれば、現代病として代表的なこれら糖尿病、胃障害、および肥満などの生活習慣病の予防または治療を意図した医薬組成物が提供される。
その上、本発明によれば、該組成物を含む健康食品が提供される。
【0041】
本発明のチャ花抽出物、すなわち水もしくは含水アルコール抽出物、該抽出物の酢酸エチル可溶画分および/もしくはn-ブタノール可溶画分またはこれらの濃縮乾固物あるいは該抽出物に含まれるTFB-1、TFB-2およびTFB-3は、そのままの状態、または
適当な媒体で希釈して、あるいは医薬品の製造分野において公知の方法により、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤または液剤等、種々の医薬品の形態に製剤化して使用することができる。
【0042】
これらの医薬品形態においては、適当な媒体を添加してもよい。そのような媒体としては、医薬的に許容される賦形剤、例えば結合剤 (例えばシロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガントまたはポリビニルピロリドン)、充填剤 (例えば乳糖、砂
糖、トウモロコシ澱粉、リン酸カルシウム、ソルビトールまたはグリシン)、滑沢剤 (例
えばステアリン酸マグネシウム、タルクまたはポリエチレングリコール)、崩壊剤 (例え
ば馬鈴薯澱粉)または湿潤剤 (例えばラウリル硫酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0043】
錠剤は、通常の方法でコーティングしてもよい。液体製剤は、例えば水性または油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップまたはエリキシルの形態であってもよく、使用前に水または他の適切な賦形剤で再生する乾燥製品として提供してもよい。
【0044】
こうした液体製剤は、通常の添加剤、例えば懸濁化剤 (例えばソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水添加食用脂)、乳化剤 (例えばレ
シチン、ソルビタンモノオレエートまたはアラビアゴム)、(食用脂を含んでいてもよい)
非水性賦形剤 (例えばアーモンド油、分画ココヤシ油またはグリセリン、プロピレングリコールまたはエチルアルコールのような油性エステル)、保存剤 (例えばp-ヒドロキシ安息香酸メチルまたはプロピル、またはソルビン酸)、および所望により着色剤または香料
等を含んでいてもよい。
【0045】
また、本発明による組成物を有効成分として食品に添加したものを健康食品として利用することができる。
【0046】
健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で保健、健康維持・増進等を目的とした食品を意味し、例えば、固形、半固形または液体の製品、具体的には、散剤、顆粒剤、錠
剤、カプセル剤または液剤等のほか、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、お茶類、栄養飲料、スープ等の形態が挙げられる。
これらの食品の製造工程において、あるいは最終製品に、上記の抽出物を添加して、健康食品とすることができる。
【0047】
チャ花抽出物および該抽出物が含む本発明による化合物の使用量は、年齢、症状等によって異なるが、例えば該抽出物の濃縮乾固物を予防・治療に用いる場合には、成人1回につき50mg〜10g程度、好ましくは100mg〜3g程度使用できる。また、健康食品として使用する場合には、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1kgに対し上記乾固物を、100mg〜10g程度の範囲で用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明のチャ花抽出物、式(II)〜(IV)で表されるTFB-1、TFB-2およびTFB-3の精製法ならびにそれらの作用に関する実施例を具体的に説明するが、以下
の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を何等制限するものではない。
【0049】
なお、実施例では、特に記載がない限り、以下の各種溶媒、クロマトグラフィー用担体およびHPLC用カラムを用いた:
Wistar系雄性ラット:紀和実験動物研究所(和歌山)
ddYマウス:紀和実験動物研究所(和歌山)
メタノール(MeOH):ナカライテスク社製、特級
エタノール(EtOH):ナカライテスク社製、特級
クロロホルム:ナカライテスク社製、特級
酢酸エチル(AcOEt):ナカライテスク社製、特級
【0050】
n-ブタノール(BuOH):ナカライテスク社製、特級
カラムクロマトグラフィー用シリカゲル (SiO2):富士シリシア社製、BW-200、150〜350メッシュ
カラムクロマトグラフィー用ODSシリカゲル:富士シリシア社製、Chromatorex ODS DM1020T、100〜200メッシュ。
HPLC用ODSカラム:YMC社製、YMC-Pack ODS-A (250×20mm)
また、核磁気共鳴 (NMR)スペクトルにおいて、化学シフトδは百万分の一 (ppm)で表示し、略語はそれぞれ次の意味を有する:s:シングレット; d:ダブレット;dd:ダブル
ダブレット;t:トリプレット; q:クァルテット;dq:ダブルクァルテット;Ac;アセ
チル基;Ang:アンゲロイル基;MB;2-メチルブチル基。
【0051】
実施例1
チャ花抽出物の調製および該抽出物の精製
例えば、約80%の含水エタノールを用いて、チャ花抽出物を調製し、該チャ花抽出物を精製した例を表1および以下に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
(1)チャ花のエタノール抽出物の調製
チャ花1.1 kgを80%エタノール3 Lで加熱還流下に3時間抽出し、冷却後にろ過し、ろ取物をエタノールでの抽出に付した。この操作を3回繰り返し、合わせたろ液を減圧下に濃
縮してエタノール抽出エキス375.1 g (34.1%)を得た。
【0054】
(2)エタノール抽出エキスの酢酸エチルおよび水による分配抽出
次いで、上記で得られたエタノール抽出エキス300gを、酢酸エチル2 Lと水2 Lとによる分配抽出に付し、各抽出液を減圧下に濃縮して、酢酸エチル可溶画分 (43.7g、5.0%)と
水可溶画分 (256.3 g、95%)を得た。
【0055】
(3)水可溶画分のn-ブタノールおよび水による分配抽出
さらに、上記で得られた水可溶画分250 gを、n-ブタノール2 Lと水1 Lとによる分配抽出に付し、各抽出液を減圧下に濃縮し、n-ブタノール可溶画分 (139.2g、15.8%)と水可溶画分 (117.1g、13.3%)を得た。
【0056】
(4)チャ花抽出物の単離と同定
上記で得られたn-ブタノール可溶画分95.2 gをクロロホルム:メタノール:水 (10:3:1〜7:3:1〜6:4:1)の濃度勾配の混液で溶出し、最後にメタノールで溶出するシリカゲルクロマトグラフィー (シリカゲル3.0 kg)に付し、フラクション1〜10を得た。
【0057】
先ず、最も量が多かったフラクション6についてさらに精製した。すなわち、上記で得
られたフラクション6 (35.2 g、5.84%)をメタノール:水 (50:50〜70:30)の濃度勾配
の混液で溶出し、最後にメタノールで溶出するODSカラムクロマトグラフィー (ODS 700 g)に付し、フラクション6-1〜6-6の各画分を得た。
【0058】
上記で得られたフラクション6-1 (2.56 g、0.42%)のうち500 mgをメタノール:水 (35:65)の混液を移動相とするHPLCに付し、既知物質 (-)-エピカテキンガレート (54 mg、0.0454%)を得た。
次いで、フラクション6-2 (0.23 g、0.04%)をメタノール:水 (40:60)の混液を移動
相とするHPLCに付し、既知物質ミリセチン3-O-β-D-ガラクトピラノシド (17 mg、0.0030%)を得た。
【0059】
同様に、6-5 (12.0 g、1.99%)のうち500 mgをメタノール:水 (40:60)の混液を移動
相とするHPLCに付し、既知物質ケンペロール3-O-グルコシル-(1→3)-ラムノシル-(1→6)-ガラクトシド (160 mg、0.115%)およびケンペロール3-O-グルコシル-(1→3)-ラムノシル-(1→6)-グルコシド (173 mg、0.125%)を得た。
【0060】
さらに、フラクション6-3 (2.16 g、0.36%)をメタノール:水:酢酸 (25:75:1)の混液を移動相とするHPLCに付し、新規サポニン化合物FTB-1 (60 mg、0.239%)、FTB-2 (100
mg、0.398%)およびFTB-3 (74 mg、0.295%)をそれぞれ無色微細結晶として得た。
次いで、上記で得られたフラクション5 (9.82 g、1.63%)をメタノール:水 (20:80〜30:70〜50:50〜70:30)の濃度勾配の混液で溶出し、最後にメタノールで溶出するODSカラムクロマトグラフィー (ODS 240 g)に付し、フラクション5-1〜5-8の各画分を得た。
【0061】
フラクション5-2 (1.29 g、0.21%)をメタノール:水 (25:75)の混液を移動相とするHPLCに付し、既知物質 (-)-エピカテキン (15 mg、0.0062%)を得た。同様に、フラクション5-4 (0.83 g、0.14%)をメタノール:水 (40:60)の混液を移動相とするHPLCに付し、
既知物質ケルセチン3-O-β-D-ガラクトピラノシド (66 mg、0.0184%)およびケンペロー
ル3-O-β-D-ガラクトピラノシド (63 mg、0.0176%)を得た。
さらに、フラクション5-3 (1.05 g、0.17%)をメタノール:水 (35:65)の混液を移動
相とするHPLCに付し、新規配糖体化合物FTB-4 (55 mg、0.0187%)を白色粉末として得た

【0062】
上記のようにして単離した新規サポニン化合物TFB-1、TFB-2およびTFB-3
ならびに新規配糖体化合物TFB-4を、以下に示す旋光度、各種質量分析、1H-および13C-NMR (溶媒:ピリジン-d5)などの種々の測定結果に基づき同定した。
さらに、絶対構造を2次元NMR、例えばH-H COSYやHMBCなどの種々の手法により決定した
(2次元スペクトルデータは非表示)。
【0063】
以下に、TFB-1、TFB-2、TFB-3およびTFB-4の諸物性値ならびに各種分析データを示す。
なお、以下の1H-および13C-NMRによる構造解析に用いたナンバリングは、例えば前記式(II)に示したように、各化合物のナンバリングに基づいている。
【0064】
TFB-1:無色微細結晶 (エタノールから再結晶)、mp:201〜203℃
[α]D26 -3.3° (c=0.50、EtOH)
高分解ポジティブFAB-MS
計算値 (C59H92O26Na):1239.5774
実測値:1239.5764
UV[MeOH、nm (logε)]:201 (4.25),262 (3.41)
IR (KBr,cm-1) (図1にスペクトルを示した):3505,2928,2951,1719,1655,1379,1078,1047
【0065】
1H-NMR (500 MHz,δ) (図2にスペクトルを示した):0.84,0.87,1.09,1.13 (3H,全てs,25,26,29,24-H3),1.30 (6H,s,23,30-H3),1.82,1.92,2.02 (3H,全てs,27,22-0-Ac2,21-0-Ang5-H3),2.10 (3H,dd,J=1.2,7.0 Hz,21-0-Ang4-H3),3.37,3.60 (1H,全てd,J=10.7 Hz,28-H),4.00 (1H,dd,J=8.6,8.8 Hz,3''''-H),4.11 (1H,dd,J=7.3,8.8 Hz,2''''-H),4.94 (1H,d,J=7.4 Hz,1’-H),5.01 (1H,d,J=7.3 Hz,1''''-H),5.72 (1H,d,J=7.0 Hz,1'''-H),5.98 (1H,21-0-Ang5,21-0-Ang3-H),6.15 (1H,d,J=10.4 Hz,22-H),6.54 (1H,d,J=10.4 Hz,21-H),13C-NMR
(125MHz,δ):データを下記表1に示し、また図3にスペクトルを示した。
ネガティブFAB-MS:m/z: 1215 (M-H)-, 1083 (M-C5H904)-, 921 (M-C11H1909)-
【0066】
TFB−2:無色微細結晶 (エタノールから再結晶)、mp: 214〜216℃
[α]D23 −1.4° (c=0.50,EtOH)
高分解能陽イオンFAB-MS:
計算値 (C62H96027Na):1295.6037
実測値:1295.6029
UV[MeOH,nm (logε)]:277 (3.52)
IR (KBr,cm-1) (図4にスペクトルを示した。):3431,2953,2930,1716,1084,1043
【0067】
1H-NMR (500 MHz,δ) (図5にスペクトルを示した。):0.86,1.03,1.11,1.13,1.27
,1.33,1.76,1.83 (3H,全てs,25,26,29,24,23,30,22-0-Ang5,27-H3),1.97 (3H,d,J=7.4 Hz,22-0-Ang4-H3),2.01 (3H,s,21-0-Ang5-H3),2.09 (3H,d,J=7.1
Hz,21-0-Ang4-H3),3.48,3.74 (1H,全てd,J=11.3 Hz,28-H),3.99 (1H,dd,J=8.3,8.6 Hz,3''''-H),4.11 (1H,dd,J=7.6,8.3Hz,2''''-H),4.92 (1H,d,J=7.3Hz,1'-H),5.00 (1H,d,J=7.6 Hz,1''''-H),5.81 (1H, dq様,3''''''-H),5.98 (1H,dq様,21-0-Ang3-H),6.27 (1H,d,J=10.4 Hz,22-H),6.67 (1H,d,J=10.4 Hz
,21-H)
13C-NMR (125MHz,δ):データを表1に示し、また図6にスペクトルを示した。
ネガティブFAB-MS:m/z 1271 (M-H)-,1109 (M-C6H11O5)-
【0068】
TFB−3:無色微細結晶 (エタノールから再結晶)、mp: 220〜222℃
[α]D25 +4.6° (c=0.50,EtOH)
高分解能FAB-MS:
計算値(C62H98O27Na):1297.6194
実測値:1297.6187
UV[MeOH,nm (logε)]:277 (3.23)
IR (KBr、cm-1) (図7にスペクトルを示した):3453,2963,2932,1717,1653,1078,1047
【0069】
1H-NMR (500 MHz,δ) (図8にスペクトルを示した。):0.70 (3H,t,J=7.4 Hz,22-0-MB4-H3),0.86 (3H,s,25-H3),1.02 (3H,d,J=7.1 Hz,22-0-MB5-H3),1.03,1.10,1.13,1.28,1.31,1.83,2.04 (各3H,全てs,26,29,24,23,30,27,21-0-Ang5-H3),2.16 (3H,d,J=6.7 Hz,21-0-Ang4-H3),3.30 (1H,dd,J=4.3,11.0 Hz,3-H),4.00 (1H,dd,J=8.3,8.8Hz,3''''-H),4.12 (1H,dd,J=7.9,8.3Hz,2''''-H),4.93
(1H,d,J=7.3Hz,1'-H),5.01 (1H,d,J=7.3Hz,1''''-H),6.07 (1H,dq様,21-0-Ang3-H),6.20 (1H,d,J=10.0 Hz,22-H),6.62 (1H,dd,J=10.0 Hz,21)
13C-NMR (125MHz,δ):データを表1に示し、また図9にスペクトルを示した。
ポジティブFAB-MS:m/z 1297 (M+Na)+
ネガティブFAB-MS:m/z 1273 (M-H)-,1141 (M-C5H904)-,1111 (M-C6H11O5)-
【0070】
TFB-4:白色粉末
[α]D23 -81.5° (c=0.50,EtOH)
高分解能FAB-MS:
計算値 (C19H28O10Na):439.1580
実測値:439.1573
UV[MeOH、nm (logε)]:280 (3.21)
IR (KBr、cm-1):3354,2930,1456,1374,1078,1040
1H-NMR (270 MHz,δ):1.53 (3H,d,J=6.6 Hz,2-H3),3.69 (1H,dd,J=9.3,10.2 Hz,5''-H),4.74 (1H,d,J=7.4 Hz,1'-H),5.08 (1H,dd,J=2.4,7.2 Hz,1''-H)
,7.32 (2H,dd様,5,8-H4),7.73 (2H,d,J=7.9 Hz,4,6-H4)
13C-NMR (270MHz,δ):データを表2に示した。
ポジティブFAB-MS:m/z 439 (M+Na)+
【表2】

【表3】

【0071】
血糖値上昇抑制効果の測定方法:
以下の表に示した数からなる群の約24時間絶食させたWistar系雄性ラット(体重約150 g)をそれぞれの投与試験に用いた。以下の表に示した各被験物質の規定量をアラビアゴム
末の5%水溶液に懸濁させて被験サンプルとし、この被験サンプルを5 ml/kgの割合で各群のラットに経口投与した。被験サンプルの投与30分後に、10%ブドウ糖または20%ショ糖水溶液を5 ml/kgの割合で各群のラットにそれぞれ経口投与した。糖溶液の投与30、60お
よび120分後に、エーテル麻酔下でラットの眼窩静脈より採血し、血液を遠心分離 (5000 rpm、10分)により血清を分離後、グルコースオキシダーゼ法(グルコースCIIテストワコー、和光純薬)により血清中グルコース濃度を測定した。
なお、コントロール(正常)群には、アラビアゴム末の5%水溶液および水のみを投与し
た。
また、コントロール(糖負荷)群には、アラビアゴム末の5%水溶液および上記の糖溶液
をそれぞれ投与した。
【0072】
試験例1
チャ花のエタノール抽出エキス、TFB-1、TFB-2およびTFB-3のブドウ糖負荷
ラットにおける血糖値上昇抑制作用
上記の測定方法にしたがって、実施例1で得られたチャ花のエタノール抽出エキス、TFB-1、TFB-2およびTFB-3を被験物質とし、以下の表に示した量を用いて各被
験サンプルを調製し、ラットに経口投与して、各被験サンプルのブドウ糖負荷ラットにおける血糖上昇抑制効果を比較した。その結果を以下の表4に示す。
【表4】

上記の結果から、ブドウ糖負荷ラットにおいてチャ花のエタノール抽出エキスも血糖値上昇抑制効果を有することが判ったが、さらに精製単離したTFB-1、TFB-2およびTFB-3は、それぞれ持続性の強い血糖値上昇抑制効果を有することが判明した。
【0073】
試験例2
チャ花のエタノール抽出エキスのショ糖負荷ラットにおける血糖値上昇抑制作用
上記の測定方法にしたがって、実施例1で得られたチャ花のエタノール抽出エキスを被験物質とし、以下の表に示した量を用いて各被験サンプルを調製し、ラットに経口投与して、各被験サンプルのショ糖負荷ラットにおける血糖上昇抑制効果を比較した。その結果を以下の表5に示す。
【0074】
【表5】

上記の結果から、チャ花のエタノール抽出エキスが、ショ糖負荷ラットにおいても血糖値上昇抑制効果を有することが判明した。
【0075】
試験例3
チャ花エタノール抽出エキスのアルドース還元酵素の活性阻害試験:
Wister系雄性ラットの水晶体を10 mM、2-メルカプトエタノール含有135 mMリン酸緩衝
液(pH 7.0)中でホモジナイズし、遠心分離(100,000 rpm,30分、4℃)した。その上清を粗
酵素含有溶液として用いた。粗酵素含有溶液をリン酸緩衝液(pH 7.0)に溶解し、以下の反応条件で、10 nmolのNADPが生成する濃度に希釈し、酵素フラクションとして用いた。
【0076】
反応混合液は、500μl中に180 mMリン酸緩衝液(pH 7.0)、100 mM Li2SO4、0.03 mM NADPH、基質として1mM DL-グリセルアルデヒド、酵素フラクション100μl及び被験サンプル
のDMSO溶解25μlを含むように調製した。反応は30℃でNADPHの添加により開始した。30分間インキュベートした後、0.5MHCl 150μlを加え反応を停止した。反応停止後、溶解に10
mMイミダゾール含有6M NaOH 0.5 mlを加え、60℃で20分間加熱して、NADPを蛍光性物質
に変換させた。生成した蛍光性物質を、室温で蛍光分光光度計(LS50B、パーキンエルマ
ー製)を用いて測定(励起波長360nm、測定波長460nm)し、得られた値より50%阻害濃度(1C50)を算出した。
【0077】
チャ花エタノール抽出エキスのスクラーゼおよびマルターゼ阻害活性試験:
酵素液の調製:
Wister系雄性ラット(体重約150〜350g)の空腸から調整した刷子縁膜を粗酵素として用
いた。刷子縁膜を0.1Mマイレン酸緩衝液(pH 6.0)に懸濁し、上記の反応条件で、スクラーゼ阻害試験においては約0.05 mg、マルターゼ阻害試験においては約0.1 mgのD-グルコー
スが生成する濃度に希釈して用いた。
【0078】
酵素活性の測定
基質としてショ糖および麦芽糖を用い、それぞれ74 mMの濃度となるように0.1Mマイレ
ン酸緩衝液(pH6.0)に溶解した。また、被験サンプル溶液は、チャ花のエタノール抽出エ
キス40 mgのDMSO (1 ml)溶液を0.1 Mマレイン酸緩衝液(pH 6.0)に、DMSOの最終濃度が2.5%となるように調製した。
ショ糖または麦芽糖の基質溶液100μlに被験サンプル溶液50μlを加え、37℃で2〜3
分間インキュベーションした。上記の酵素液50μlを加えて30分間反応させ、水800μlを
加え、沸騰水浴中で2分間加熱し、酵素を失活させた。別に、各サンプルにつき酵素液を加えた後、直ちに水を加えて沸騰水浴中で2分間加熱し、酵素を失活させたものをブランクとした。生成したD-グルコースの量をグルコースオキシターゼ法(グルコースCIIテス
トワコー、和光純薬)により測定した。得られた値より50%阻害濃度(IC50)を算出した結果、以下の表6に示すように、チャ花のエタノール抽出エキスはアルドース還元酵素および小腸のα-グルコシダーゼ(スクラーゼおよびマルターゼ)に対して阻害活性を有する
ことが判明した。
【0079】
【表6】

【0080】
試験例4
チャ花エタノール抽出エキス、TFB-1、TFB-2およびTFB-3のエタノール誘発
性胃粘膜損傷に対する抑制効果
チャ花エタノール抽出エキス、TFB-1、TFB-2およびTFB-3を被験物質とし
て、以下の表7に記載の各投与量におけるエタノール誘発性胃粘膜損傷に対する抑制効果
を調べた。
【0081】
各規定の量の被験物質をアラビアゴム末の5%水溶液に懸濁して被験サンプルを調製し
た。この被験サンプルを5 ml/kgの割合で、以下の表に示した数からなる群の24時間絶食
したSD系雄性ラット(体重約250g)にそれぞれ経口投与し、さらに、1時間後に99.5%エタノールを1.5ml/匹ずつ投与した。エタノール投与1時間後に胃を摘出し、1.5%ホルマリンで固定した後、胃を切り開き、胃粘膜に発生した損傷の長さ(mm、損傷長)を測定した結果を次の表7に示す。
【0082】
【表7】

以上の結果から、チャ花エタノール抽出エキス、TFB-1、TFB-2およびTFB-
3のいずれもエタノール誘発性胃粘膜損傷を有意に抑制することが判明した。
【0083】
試験例5
チャ花エタノール抽出エキスのインドメタシン誘発性胃粘膜損傷に対する抑制効果
チャ花エタノール抽出エキスを被験物質として、以下の表8に記載の各投与量におけるインドメタシン誘発性胃粘膜損傷に対する抑制効果を調べた。
【0084】
各規定の量の被験物質をアラビアゴム末の5%水溶液に懸濁して被験サンプルを調製し
た。この被験サンプルを5 ml/kgの割合で、以下の表に示した数からなる群の24時間絶食
したSD系雄性ラット(体重約250g)にそれぞれ経口投与し、さらに、1時間後にインドメタシンを20 mg/kgの割合で経口投与した。インドメタシン投与4時間後に胃を摘出し、1.5%ホルマリンで固定した後、胃を切り開き、胃粘膜に発生した損傷の長さ(mm、損傷長)を測
定した結果を次の表8に示す。
【0085】
【表8】

以上の結果から、チャ花エタノール抽出エキスは上記のいずれの投与量でもインドメタシン誘発性胃粘膜損傷を有意に抑制することが判明した。
【0086】
試験例6
チャ花エタノール抽出エキス、チャ花エタノール抽出エキスの酢酸エチル可溶画分およびブタノール可溶画分ならびに水溶性画分の中性脂肪吸収抑制効果
チャ花エタノール抽出エキス、チャ花エタノール抽出エキスの酢酸エチル可溶画分およびブタノール可溶画分ならびに水溶性画分を被験物質として、以下の表9に記載の各投与量における中性脂肪吸収抑制効果を調べた。
【0087】
各規定の量の被験物質を、以下の表に示した数からなる群の24時間絶食したddY系雄性
マウス(6週齢)にそれぞれ経口投与し、その30分後にオリーブ油(和光純薬)を5 ml/kgの割合で経口投与した。オリーブ油負荷の2、4および6時間後に眼窩静脈からガラス製キャピ
ラリーで採血し、血液を遠心分離 (5000 rpm、10分)により血清を分離後、血清中のトリ
グリセライド(TG)をトリグリセライドE-テストワコー(和光純薬)を用いて測定した。なお、被験物質は、アラビアゴム末を用いて懸濁したものを10 mg/kgの割合で経口投与した。
各被験物質の投与後の血清中のTGを測定した結果を以下の表9に示す。
【0088】
【表9】

以上の結果から、実施例1で得られた酢酸エチル可溶画分およびブタノール可溶画分が
オリーブ油負荷マウスにおいて、中性脂肪吸収を有意に抑制することが判明した。
【0089】
試験例7
TFB-1、TFB-2およびTFB-3の中性脂肪吸収抑制効果
上記の試験例6と全く同様にして、TFB-1、TFB-2およびTFB-3を被験物質
としてオリーブ油負荷マウスにおける中性脂肪吸収抑制効果を調べた結果を以下の表10に示す。
【0090】
【表10】


上記の結果から、TFB-1、TFB-2およびTFB-3はいずれもオリーブ油負荷マ
ウスにおいて、中性脂肪吸収抑制効果を有することが判明した。
【0091】
実施例2
当該分野で公知の方法にしたがって、チャ花エタノール抽出物10重量部を乳糖25重量部と混合し、ゼラチンカプセルに充填し、1カプセル中に抽出物が500 mg含有されるゼラチンカプセル剤を得た。
【0092】
実施例3
実施例1で得られた酢酸エチル可溶画分を実施例2のエタノール抽出物に替えて、実施
例2と同様にして、ゼラチンカプセル剤を得た。
【0093】
実施例4
実施例1で得られたブタノール可溶画分を実施例2のエタノール抽出物に替えて、実施
例2と同様にして、ゼラチンカプセル剤を得た。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】TFB-1のIRスペクトルを表す図である。
【図2】TFB-1の1H−NMRスペクトルを表す図である。
【図3】TFB-1の13C−NMRスペクトルを表す図である。
【図4】TFB-2のIRスペクトルを表す図である。
【図5】TFB-2の1H−NMRスペクトルを表す図である。
【図6】TFB-2の13C−NMRスペクトルを表す図である。
【図7】TFB-3のIRスペクトルを表す図である。
【図8】TFB-3の1H−NMRスペクトルを表す図である。
【図9】TFB-3の13C−NMRスペクトルを表す図である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I):
【化1】

[式中、R1およびR2は、それぞれ互いに独立して水素原子、アセチル基、2-メチルブチリル基またはアンゲロイル基を表し、R3は水素原子またはヒドロキシ基を表す]
で表されるサポニン化合物またはその塩。
【請求項2】
式(I)の化合物において、R1がアセチル基でありR2がアンゲロイル基であり、R3が水素原子である請求項1に記載のサポニン化合物またはその塩。
【請求項3】
式(I)の化合物において、R1およびR2が共にアンゲロイル基であり、R3がヒドロキシ基である請求項1に記載のサポニン化合物またはその塩。
【請求項4】
式(I)の化合物において、R1が2-メチルブチリル基でありR2がアンゲロイル基であり、R3がヒドロキシ基である請求項1に記載のサポニン化合物またはその塩。
【請求項5】
チャ花を水または含水低級アルコールで抽出して抽出液を得、この抽出液をさらに必要に応じて酢酸エチル/水およびn-ブタノール/水で分配処理して得られる有機溶媒可溶画分を含み、請求項1〜4に記載の少なくとも一つの化合物を含むチャ花抽出物。
【請求項6】
チャ花がツバキ科植物であるチャの花部である請求項5に記載の抽出物。
【請求項7】
請求項1〜4に記載の化合物の少なくとも一つまたは請求項5に記載の抽出物を有効成分として含む医薬用組成物。
【請求項8】
組成物が、中性脂肪吸収抑制用組成物である請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
組成物が、糖吸収抑制用組成物である請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
組成物が、胃粘膜保護用組成物である請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか一つに記載の組成物が添加されてなる健康食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−70018(P2006−70018A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39674(P2005−39674)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(501361600)株式会社 日本薬用食品研究所 (8)
【出願人】(504300066)株式会社 ハリマ漢方製薬 (6)
【Fターム(参考)】