説明

チョッパアンプ回路および半導体装置

【課題】 センサブリッジのオフセット電圧及びオフセット電圧の温度特性を低減可能なチョッパアンプ回路の提供。
【解決手段】 センサブリッジのオフセット電圧と等しい電圧を発生するオフセット調整電圧発生回路と、オフセット電圧の温度特性と等しい電圧を発生するオフセット温度特性調整電圧発生回路とを設け、これらの出力電圧をチョッパ変調して、チョッパ変調されたセンサブリッジの出力信号から減算する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョッパアンプ回路およびチョッパアンプ回路を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図2に従来のチョッパアンプ回路のブロック図を示す。従来のチョッパアンプ回路20は、増幅回路1の前段と後段にそれぞれ乗算器11、12が設けられ、これらの乗算器11、12は周波数fcの方形波である変調信号CLKで制御される。チョッパアンプ回路20の出力はローパスフィルタ22に接続されている(非特許文献1参照)。
【0003】
図3に従来のチョッパアンプ回路の各部での入力信号の周波数特性を示す。チョッパアンプ回路20の入力端子5において入力信号が図3(a)に示すような周波数特性を持っているとする。また、増幅回路1は図3(c)に示すような周波数特性の入力換算ノイズおよびオフセット電圧Vnを持っているとする。入力信号が乗算器11を経た後、この入力信号は変調信号CLKの周波数fcの奇数倍の周波数へ変調される。このときの入力信号の周波数特性を図3(b)に示す。この変調された入力信号は、増幅回路1の入力換算ノイズおよびオフセット電圧VNが加わった後に増幅され出力される。増幅回路1の出力における入力信号の周波数特性を図3(d)に示す。増幅回路1から出力された入力信号は、乗算器12を経て元の周波数帯域(直流を含む低周波数領域)へと変調される。一方増幅回路1の入力におけるノイズ成分とオフセット電圧VNは、変調信号CLKの周波数fcの奇数倍の周波数へ変調される。乗算器12の出力における入力信号の周波数特性を図3(e)に示す。さらに、乗算器12から出力された入力信号は、ローパスフィルタ22に通すことで変調信号CLKの高周波成分が取り除かれる。従って、図3(f)に示すように増幅回路1の持つノイズやオフセット電圧を増幅することなく、入力信号成分のみを増幅することができる。
【0004】
また、別の従来のチョッパアンプ回路では、2つの異なる周波数の変調信号を用いて、入力信号に2重のチョッパ変調をかけることで、チョッパアンプ回路で使用する増幅回路の持つノイズやオフセット電圧をさらに低減する回路が開示されている(特許文献2参照)。
【非特許文献1】P.AlleN aNd D.R.Holberg, CMOS ANalog Circuit DesigN, P490-494, SauNders College PublishiNg, 1987.
【特許文献2】US Patent 6,262,626, Bakker, et al, July 17, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来のチョッパアンプ回路では、たとえばピエゾ抵抗素子を用いたセンサブリッジの出力電圧を増幅することに用いたときに、ピエゾ抵抗素子の不完全なマッチングに起因してセンサブリッジが持っているオフセット電圧をキャンセルすることはできないので、センサブリッジが持つオフセット電圧を増幅して出力するという欠点を有していた。
【0006】
また、ピエゾ抵抗素子を用いたセンサブリッジのオフセット電圧は温度特性を持っており、このオフセット電圧の温度特性はチョッパアンプ回路の出力電圧に現れてしまうという欠点を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、センサブリッジのオフセット電圧と等しい電圧を発生する回路、すなわちオフセット調整電圧発生回路を設け、このオフセット調整電圧発生回路の出力電圧を乗算器によりチョッパ変調して、センサブリッジの出力信号をチョッパ変調した信号から減算する構成とした。
【0008】
また、センサブリッジの持つオフセット電圧の温度特性と等しい温度特性を持つ電圧を発生する回路、すなわちオフセット温度特性調整電圧発生回路を設け、この回路の出力電圧をチョッパ変調して、チョッパ変調されたセンサブリッジの出力信号から減算する構成とした。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成されたチョッパアンプ回路では、センサブリッジの持つオフセット電圧と、オフセット調整電圧発生回路の出力電圧が打ち消しあって、センサブリッジの持つオフセット電圧をキャンセルすることができる。
【0010】
また、センサブリッジの持つオフセット電圧の温度特性と、オフセット温度特性調整電圧発生回路の出力電圧の持つ温度特性が打ち消しあって、センサブリッジの持つオフセット電圧の温度特性をキャンセルすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
【実施例1】
【0012】
図1に、本発明の第一の実施例のチョッパアンプ回路のブロック図を示す。
【0013】
チョッパアンプ20は、入力端子35及び36にセンサブリッジ21の出力するセンサ信号を入力し、出力端子40及び41から増幅した信号を出力する。入力端子35及び36に入力されたセンサ信号は、乗算器11で変調信号CLKによりチョッパ変調された後に、増幅回路1で増幅される。オフセット調整電圧発生回路31は、センサブリッジ21の持っているオフセット電圧と大きさが等しく逆極性のオフセット調整電圧を発生する。オフセット調整電圧は、乗算器13で変調信号CLKによりチョッパ変調され増幅回路3で増幅される。加算器25及び26は、前述したセンサ信号とオフセット調整電圧を加算して、センサ信号からセンサブリッジ21の持っていたオフセット電圧をキャンセルする。さらに、センサ信号は増幅回路2で増幅された後に、乗算器12で変調信号CLKによりチョッパ変調されて、元の周波数帯域(直流を含む低周波数領域)へと変調される。
【0014】
ここで加算器25及び26を2つ用いているのは、増幅回路1及び3の差動出力に対応するためである。
【0015】
上述したセンサブリッジのオフセット電圧をキャンセルする方法では、オフセット調整電圧発生回路31が発生する、センサブリッジ21の持っているオフセット電圧と大きさが等しく逆極性のオフセット調整電圧を用いた。しかし、センサブリッジ21の持つオフセット電圧と大きさも極性も等しいオフセット調整電圧をオフセット調整電圧発生回路31に発生させ、このオフセット調整電圧を乗算器13で変調信号CLKの位相を180度シフトしたものでチョッパ変調してもよい。
【0016】
なお、センサブリッジ21の出力の持つオフセット電圧と大きさの等しい電圧をオフセット調整電圧発生回路31にて発生させるには、出力端子40にローパスフィルタを接続して高周波成分を除去し、ローパスフィルタの出力の電位が0になるようにオフセット電圧調整回路31の出力を調整すればよい。
【0017】
図4に、本発明のチョッパアンプ回路の回路図を示す。乗算器11、12、13はそれぞれ4つのスイッチから構成されている。このスイッチはNチャネルMOSトランジスタ、又はCMOSトランジスタ(NチャネルMOSトランジスタとPチャネルMOSトランジスタを並列接続)によって実現できる。増幅回路1、3はインスツルメンテーションアンプ構成をとることにより、入力インピーダンスを非常に高くとることができるので、ピエゾ抵抗素子を用いたセンサブリッジに影響を及ぼすことがない。
【0018】
図1の加算器25及び26は、増幅回路2と一体化して加算増幅回路10の一部として実現される。加算増幅回路10は、複数の抵抗とオペアンプを用いて構成する。
【0019】
オフセット調整電圧発生回路31の構成は、一例として固定抵抗と可変抵抗を用いている。抵抗61は固定抵抗を、抵抗62は可変抵抗をそれぞれ示す。抵抗62を変化させることで、センサブリッジのオフセット電圧をキャンセルできるように、オフセット調整電圧発生回路31の出力電圧を変えることができる。
【0020】
なお図4の回路は図1の回路構成を実現した一例であり、図4に示した回路に構成を限定するものではない。
【実施例2】
【0021】
図5に、本発明の第二の実施例のチョッパアンプ回路のブロック図を示す。
【0022】
通常、センサブリッジのオフセット電圧は温度特性を持っている。ここでは一例としてセンサブリッジのオフセット電圧は図7に示すような温度特性を持っているものとする。
【0023】
第二の実施例では、第一の実施例のチョッパアンプ回路に加えて、オフセット温度特性調整電圧発生回路32を備えている。オフセット温度特性調整電圧発生回路32は、センサブリッジのオフセット電圧の温度特性と等しい特性をもったオフセット温度特性調整電圧を出力する。このオフセット温度特性調整電圧を乗算器14でチョッパ変調し増幅回路4で増幅した後に、加算器25及び26によって、チョッパ変調されたセンサ出力信号と加算する。このとき、センサブリッジのオフセット温度特性調整電圧発生回路32の出力も乗算器13および増幅回路3を経て、加算器25、26にてチョッパ変調されたセンサ出力信号に加算される。こうして、センサブリッジの持つオフセット電圧およびオフセット電圧の温度特性をキャンセルすることができる。
【0024】
図6に、本発明の第二の実施例のチョッパアンプ回路の回路図を示す。
【0025】
乗算器11、12、13、14はそれぞれ4つのスイッチから構成されている。このスイッチはNチャネルMOSトランジスタ、又はCMOSトランジスタ(NチャネルMOSトランジスタとPチャネルMOSトランジスタを並列接続)によって実現できる。増幅回路1、3、4はインスツルメンテーションアンプ構成をとることにより、入力インピーダンスを非常に高くとることができるので、ピエゾ抵抗素子を用いたセンサブリッジに影響を及ぼすことがない。加算増幅回路10は、抵抗とオペアンプを用いて構成することができる。オフセット温度特性調整電圧発生回路32の構成の一例として、異なる抵抗温度係数を持つ2種類の抵抗63と抵抗64を用いた回路を示す。抵抗をポリシリコンで形成する場合、ポリシリコンに含まれる不純物の濃度により抵抗率が変わるだけでなく、抵抗温度係数も変わるため、ポリシリコン抵抗63と抵抗64に異なる不純物の濃度をもたせることで、異なる抵抗温度係数を持たせることができる。
【0026】
図6において乗算器14の変調クロックの位相を括弧内に示すように180度シフトすれば、オフセット温度特性調整電圧発生回路32で発生させたオフセット電圧温度特性の傾きを反転させたのと同じ効果を持たせることができる。したがって、センサブリッジのオフセット電圧温度特性の傾きが正であっても負であっても、乗算器14の変調クロックの位相を適切に選択することで対応することが可能である。
【0027】
なお図6の回路は、図5の回路構成を実現した一例であり、図6に示した回路に構成を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第一の実施例のチョッパアンプ回路のブロック図である。
【図2】従来のチョッパアンプ回路のブロック図である。
【図3】従来のチョッパアンプ回路の波形図である。
【図4】本発明の第一の実施例のチョッパアンプ回路の回路図である。
【図5】本発明の第二の実施例のチョッパアンプ回路のブロック図である。
【図6】本発明の第二の実施例のチョッパアンプ回路の回路図である。
【図7】センサブリッジのオフセット電圧の温度特性の一例である。
【符号の説明】
【0029】
1、2、3、4 増幅回路
10 加算増幅回路
11、12、13 乗算器
20、40、50 チョッパアンプ
21 センサブリッジ
22 ローパスフィルタ
25、26 加算器
31 オフセット調整電圧発生回路
32 オフセット温度特性調整電圧発生回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサブリッジの出力する信号を増幅するチョッパアンプ回路において、前記センサブリッジのオフセット電圧を、オフセット調整電圧によってキャンセルすることを特徴とするチョッパアンプ回路。
【請求項2】
前記オフセット調整電圧は、前記センサブリッジのオフセット電圧と電圧が等しく極性が逆の電圧である請求項1記載のチョッパアンプ回路。
【請求項3】
前記オフセット調整電圧は、前記センサブリッジのオフセット電圧と電圧が等しく極性が同じ電圧である請求項1記載のチョッパアンプ回路。
【請求項4】
前記センサブリッジのオフセット電圧の温度特性を、オフセット温度特性調整電圧によってキャンセルすることを特徴とする請求項1記載のチョッパアンプ回路。
【請求項5】
前記オフセット温度特性調整電圧は、オフセット電圧の温度特性と電圧が等しく傾きが同じ電圧である請求項4記載のチョッパアンプ回路。
【請求項6】
前記オフセット温度特性調整電圧は、オフセット電圧の温度特性と電圧が等しく傾きが反転した電圧である請求項4記載のチョッパアンプ回路。
【請求項7】
センサブリッジの出力するセンサ信号を入力する入力端子と、
前記入力端子に接続した第1の乗算器と、
前記第1の乗算器に接続した第1の増幅回路と、
オフセット調整電圧発生回路と、
前記オフセット調整電圧発生回路に接続した第3の乗算器と、
前記第3の乗算器に接続した第3の増幅回路と、
前記第1の増幅回路と前記第3の増幅回路の出力を加算する加算回路と、
前記加算回路に接続した第2の増幅回路と、
前記第2の増幅回路に接続した第2の乗算器で構成したことを特徴とするチョッパアンプ回路。
【請求項8】
さらに、オフセット温度特性調整電圧発生回路と、
前記オフセット温度特性調整電圧発生回路に接続した第4の乗算器と、
前記第4の乗算器に接続した第4の増幅回路を設け、前記第4の増幅回路の出力を前記加算回路で加算するようにした請求項7記載のチョッパアンプ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−49285(P2007−49285A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229501(P2005−229501)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【出願人】(502152126)学校法人智香寺学園 (10)
【Fターム(参考)】