説明

テトラチアフルバレン誘導体、テトラセレナフルバレン誘導体及びp型有機電界効果トランジスタ

【課題】高い移動度を有し、印刷法で製膜できるp型有機半導体材料を提供する。
【解決手段】化合物は、下記一般式(1)で表わされる。


(X及びXは硫黄原子又はセレン原子。a及びbは0〜2の整数。c及びdは0又は1。R〜Rは水素、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基又はアリール基。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型有機電界効果トランジスタの材料として用いることのできる化合物、特に、テトラチアフルバレン誘導体及びテトラセレナフルバレン誘導体に関する。
また、本発明は、上記化合物を用いて製造されたp型有機電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
電界効果トランジスタは、バイポーラトランジスタと共に、重要なスイッチ、増幅素子として広く利用されている。電界効果トランジスタは、半導体材料に、ソース電極及びドレイン電極と、絶縁体層を介してゲート電極を設けた構造を有している。電界効果トランジスタの特性は、用いられる半導体の特性によって決まるが、特に、半導体の移動度及びオン/オフ比等の特性が電界効果トランジスタの特性にとって重要である。
【0003】
従来は、半導体材料としてはアモルファスシリコンやポリシリコンが用いられてきており、このシリコンに代表される無機半導体は、製造時に高温で処理されるので、基板にプラスチック基板やプラスチックフィルムを用いることが困難であるという欠点がある。また、真空における素子作製プロセスを経るため、高価な製造設備を必要とし、高コストになるという欠点もある。
【0004】
近年においては、有機半導体を用いたトランジスタ(有機電界効果トランジスタ)が多くの興味を集めている。有機電界効果トランジスタは、上述したシリコンに代え、有機半導体を使用することにより、軽量化、フレキシブル化、大面積化が可能になるとともに、製造プロセスが簡易なものとなる。このため、コストを低減化することができ、また廃棄処理が容易である等の利点を有する。また、溶媒に可溶な有機化合物を用いることによって、溶液の塗布やインクジェット等の印刷法を用いてトランジスタを製造することが可能となる等の利点をも有している。また、有機エレクトロルミネセンスの駆動を有機FETで行うことによりフレキシブルディスプレイが実現可能となる。
【0005】
近年においては、有機半導体は、それらの基本的な光電子工学の観点から、その可能な用途(例えば、有機電界効果トランジスタ、有機発光ダイオード、光電池)等の視点から種々研究されている。半導体には、正の電荷を有する正孔が電流を伝える役割を担う半導体であるp型半導体、負の電荷を有する自由電子が電流を伝える役割を担う半導体であるn型半導体がある。
従来、有機半導体を用いたFETとしては、ペンタセン等のアセン類やチオフェンオリゴマー等のヘテロ環オリゴマー類を用いたFETが開発されているが、キャリア移動度が低いものがほとんどであり、未だ実用レベルに達していないのが実状である。また、ペンタセンは酸素に対して不安定であり、溶媒に対しての溶解性が乏しく、実用的なものとは言えない。また、p型半導体としては、例えば、テトラチアフルバレン誘導体(TTF誘導体)をFETの半導体として用いる試みがなされている(非特許文献1参照)。しかし、TTF誘導体の不安定性のため、薄膜において良好な性能を示すことができなかった。
【0006】
【非特許文献1】J.Am. Chem. Soc. 2004, 126, 984-985
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、高い正孔移動度及びオン/オフ比を有すると共に、溶液の塗布やインクジェット等の印刷法により製膜することのできるp型有機半導体材料として用いることのできる化合物を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記化合物を用いて製造される、p型有機電界効果トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意検討した結果、特定の構造を有する化合物が上記目的を達成し得るという知見を得た。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、下記一般式(1)で表わされる化合物を提供するものである。
【0009】
【化1】

【0010】
(上記一般式(1)において、X及びXは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ硫黄原子又はセレン原子であり、a及びbは0、1又は2の整数であり、c及びdは0又は1の整数であり、R、R、R、R、R、R、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基又はアリール基である。ただし、X及びXが共に硫黄原子である場合は、c又はdの少なくとも一方が1であるか、又はa又はbの少なくとも一方が2である。)
【0011】
また、本発明は、下記一般式(2)で表わされる、テトラチアフルバレン誘導体を提供する。
【0012】
【化2】

【0013】
(上記一般式(2)において、a及びbは0、1又は2の整数であり、c及びdは0又は1の整数であり、R、R、R、R、R、R、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基又はアリール基である。ただし、c又はdの少なくとも一方が1であるか、又はa又はbの少なくとも一方が2である。)
【0014】
また、本発明は、下記一般式(3)で表わされる、テトラセレナフルバレン誘導体を提供する。
【0015】
【化3】

【0016】
(上記一般式(3)において、a及びbは0、1又は2の整数であり、c及びdは0又は1の整数であり、R、R、R、R、R、R、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基又はアリール基である。)
【0017】
また、本発明は、上記化合物、テトラチアフルバレン誘導体又はテトラセレナフルバレン誘導体を含有してなる有機半導体材料を提供する。
また、本発明は、上記化合物、テトラチアフルバレン誘導体又はテトラセレナフルバレン誘導体を用いて製造されるp型有機電界効果トランジスタを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高い移動度及びオン/オフ比を有すると共に、溶液の塗布やインクジェット等の印刷法により製膜することのできる有機半導体材料として用いることのできる化合物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、先ず本発明の化合物について説明する。本発明は、下記一般式(1)で表わされる化合物を提供する。
【0020】
【化4】

【0021】
上記一般式(1)において、X及びXは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ硫黄原子又はセレン原子である。また、a及びbは0、1又は2の整数であり、c及びdは0又は1の整数であり、X及びXが共に硫黄原子である場合には、c又はdの少なくとも一方が1であるか、又はa又はbの少なくとも一方が2である。また、一般式(1)で表わされる化合物においては、a、b、c及びdの合計が好ましくは1以上であり、更に好ましくは2以上である。a、b、c及びdの合計が1以上となる場合は、化合物に、置換基の導入が容易な縮合芳香環が導入され、π電子系が拡張され、分子間の相互作用を増大することが可能となると共に、酸素に対する安定性を向上させることができる。また、X及びXのいずれかを窒素原子とすることによって、分極を高めることができ、エネルギーギャップを制御することが可能となる。さらに、a、b、c及びdの合計が0である場合には、高い移動度及びオン/オフ比を得られなくなる場合がある。
【0022】
また、一般式(1)において、R、R、R、R、R、R、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基又はアリール基である。アルキル基としては、例えば、炭素数が1〜10個の直鎖又は分岐状のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、炭素数が1〜10個の直鎖又は分岐状のアルコキシ基が挙げられる。また、アラルキル基としては、例えば、炭素数が1〜10個のアラルキル基が挙げられる。
【0023】
本発明は、下記一般式(2)で表わされる、テトラチアフルバレン誘導体を提供する。
【0024】
【化5】

【0025】
上記一般式(2)において、a及びbは0、1又は2の整数であり、c及びdは0又は1の整数であり、c又はdの少なくとも一方が1であるか、又はa又はbの少なくとも一方が2である。また、一般式(2)で表わされる化合物においては、a、b、c及びdの合計が好ましくは1以上であり、更に好ましくは2以上である。a、b、c及びdの合計が1以上となる場合は、化合物に、置換基の導入が容易な縮合芳香環が導入され、π電子系が拡張され、分子間の相互作用を増大することが可能となると共に、酸素に対する安定性を向上させることができる。一般式(2)で表わされる、テトラチアフルバレン誘導体は、窒素原子を有しており、分極を高めることができ、エネルギーギャップを制御することが可能となる。一般式(2)において、R、R、R、R、R、R、R及びRは、一般式(1)において説明したのと同様である。
【0026】
一般式(2)で表わされるテトラチアフルバレン誘導体としては、例えば、下記式(4)、(5)、(6)及び(7)で表わされるものが挙げられる。
【0027】
【化6】

【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
【化9】

【0031】
また、本発明は、下記一般式(3)で表わされる、テトラセレナフルバレン誘導体誘導体を提供する。
【0032】
【化10】

【0033】
上記一般式(3)において、a及びbは0、1又は2の整数であり、c及びdは0又は1の整数である。また、一般式(3)で表わされる化合物においては、a、b、c及びdの合計が好ましくは1以上であり、更に好ましくは2以上である。a、b、c及びdの合計が1以上となる場合は、化合物に、置換基の導入が容易な縮合芳香環が導入され、π電子系が拡張され、分子間の相互作用を増大することが可能となると共に、酸素に対する安定性を向上させることができる。また、一般式(3)において、R、R、R、R、R、R、R及びRは、一般式(1)において説明したのと同様である。
【0034】
一般式(3)で表わされるテトラチアフルバレン誘導体としては、例えば、下記式(8)、(9)、(10)、(11)及び(12)で表わされるものが挙げられる。
【0035】
【化11】

【0036】
【化12】

【0037】
【化13】

【0038】
【化14】

【0039】
【化15】

【0040】
上述した、一般式(1)で表わされる化合物、一般式(2)で表わされるテトラチアフルバレン誘導体及び一般式(3)で表わされるテトラセレナフルバレン誘導体(以下、本明細書において、単に「誘導体等」ともいう)は、p型特性が発現するものとなり、上記化合物又は誘導体を用いてp型有機電界効果トランジスタを製造することができる。
【0041】
上述した、本発明の化合物又は誘導体の合成方法に特に制限はないが、例えば、テトラチアフルバレン骨格又はテトラセレナフルバレン骨格に芳香環を縮合することによって製造することができる。このような製造方法に特に制限はなく、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば、Chemica Scripta, 1987, 27, 265、及びJ. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1978, 468等に記載された方法で製造することができる。例えば、一般式(6)で表わされる化合物は、ジクロロキノキサリンを原料とし、チオ尿素と反応させ、硫黄原子を導入し、ジチオールとした後、トリホスゲン等を用いてチオンとした後、重合して合成することができる。具体的には、本明細書の実施例に記載されている方法に従って合成することができる。
【0042】
本発明の有機半導体材料は、上述した本発明の誘導体等を含有してなる。本発明の有機半導体材料は、電界効果トランジスタを製造するために用いることができる。本発明の有機半導体材料又は誘導体等を用いた、p型有機電界効果トランジスタについては後述する。
【0043】
次に、本発明のp型有機電界効果トランジスタについて説明する。
本発明のp型電界効果トランジスタは、絶縁体層と、該絶縁体層によって隔離されたゲート電極及び有機半導体層と、該有機半導体層に接するように設けられたソース電極及びドレイン電極と、絶縁性支持基板とを有するp型有機電界効果トランジスタであって、上述の化合物又は誘導体が、上記有機半導体層に含まれることを特徴とする。
上記有機半導体層に含まれる誘導体としては、例えば、上記式(4)〜(12)であらされる誘導体が挙げられる。
【0044】
電界効果トランジスタは、ボトムゲート・ボトムコンタクト型、ボトムゲート・トップコンタクト型、トップゲート・ボトムコンタクト型がある。以下、本発明のp型有機電界効果トランジスタについて、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明のp型有機電界効果トランジスタの一例を示す断面図であり、図1に示す断面図は、ボトムゲート・ボトムコンタクト型のp型有機電界効果トランジスタの構造を示す断面図である。
【0045】
図1に示すp型有機電界効果トランジスタは、絶縁性支持基板12と、該絶縁性基板12上に設けられたゲート電極14と、該絶縁性支持基板12及びゲート電極14上に設けられた絶縁体層16から構成され、該絶縁体層16上に有機半導体層18が設けられている。そして、該絶縁体層16に接するように、ソース電極20及びドレイン電極22が絶縁体層16上に設けられている。
【0046】
図1に示されるp型有機電界効果トランジスタにおいては、ゲート電極14に電圧が印加されると、有機半導体層18のキャリア密度が変化し、ソース電極20及びドレイン電極22の間に流れる電流量が変化する。
絶縁性支持基板12はポリエチレンテレフタレート(PET)、ガラス、石英、シリコン、セラミック、プラスチック材料等から形成される。絶縁性支持基板12の厚みは、0.05〜2mm程度が好ましく、0.1〜1mm程度が更に好ましい。
【0047】
絶縁体層16は、酸化シリコン、窒化シリコン、アモルファスシリコン、酸化アルミニウム、酸化タンタル等から形成される。また、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シアノ基を有する炭化水素樹脂及びフェノール樹脂、ポリイミド樹脂及びポリパラキシリレン樹脂からなる群から選択される1種又は2種以上の樹脂を主成分とする樹脂組成物から形成してもよい。
絶縁体層16を絶縁性支持基板12の上に形成する方法としては、従来公知の方法が特に制限なく用いられるが、例えば、スピンコートやブレードコート等の塗布法、蒸着法、スパッタ法、スクリーン印刷やインクジェット、静電荷像現像方法等の印刷法等により実施することができる。
【0048】
また、絶縁体の前駆物質としてモノマーを塗布した後、光を照射して硬化させることにより絶縁体を形成する光硬化樹脂を用いてもよい。
絶縁体層16は、室温における電気伝導度が好ましくは1.0MV/cmの電界強度下でリーク電流が10−2A/cm以下の絶縁体層を用いることが好ましい。また、非誘電率は、通常は4.0程度であり、高い値を示すものが好ましく用いられる。
【0049】
ゲート電極14、ソース電極20及びドレイン電極22の構成材料は、導電性を示すものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、酸化スズ・アンチモン、酸化インジウム・スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化亜鉛、亜鉛、炭素、グラファイト、クラッシーカーボン、銀ペースト及びカーボンペースト、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アモルファスシリコン等が挙げられる。また、ドーピング等で導電率を向上させた、公知の導電性ポリマー、例えば、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、で導電性ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等も好適に用いられる。
【0050】
ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を形成する方法としては、従来公知の方法でよく、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、印刷法、ゾルゲル法等が挙げられる。更に、そのパターニング法としては、フォトリソグラフィー法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法及びこれらの手法を複数組み合わせた手法等が挙げられる。また、レーザーや電子線等のエネルギー線を照射して材料を除去する方法等によっても実施可能である。
【0051】
上記ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極の厚みは、好ましくは0.01〜2μmであり、更に好ましくは0.2〜1μmである。。
また、ソース電極−ドレイン電極間距離(チャンネル長さL)は、通常は100μm以下であり、好ましくは50μm以下であり、チャンネル幅Wは、通常は2000μm以下であり、好ましくは500μm以下であり、L/Wは通常は0.1以下であり、好ましくは0.05以下である。
【0052】
有機半導体層18を形成する有機半導体としては、上述した本発明の化合物、誘導体、又は有機半導体材料が用いられる。有機半導体層18の膜厚は、好ましくは1nm〜10μm程度であり、更に好ましくは10〜500nm程度である。
【0053】
有機半導体層を形成する方法としては、真空蒸着により絶縁体層16上に蒸着して形成する方法、本発明の化合物又は誘導体を溶媒に溶解してキャスト、ディップ、スピンコート法等により塗布してキャスト、ディップ、スピンコート等により塗布して形成する方法等が挙げられる。
なお、図1に示すp型有機電界効果トランジスタは、有機半導体層18が表出しているので、有機半導体層18に対する外気の影響を最小限にするために、更に有機半導体層18上に保護膜を形成してもよい。この場合、保護膜の材料としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール等のポリマーや酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化物や窒化物等が挙げられる。保護膜を形成する方法としては、例えば、塗布法や真空蒸着法等が挙げられる。
【0054】
次に、本発明の他の実施の形態に係るp型有機電界効果トランジスタについて説明する。
図2は、本発明の第2の実施の形態に係るp型有機電界効果トランジスタの一例を示す断面図である。図2に示すp型有機電界効果トランジスタは、絶縁体層16上の有機半導体層18上にソース電極20及びドレイン電極22が設けられている点において、図1に示すp型有機電界効果トランジスタとは異なっている。図2に示すp型有機電界効果トランジスタは、ボトムゲート・トップコンタクト型のp型有機電界効果トランジスタである。図2に示すp型有機電界効果トランジスタは、上記相違点以外は、図1に示すものと同様である。
【0055】
図3は、本発明の第3の実施の形態に係るp型有機電界効果トランジスタの一例を示す断面図である。図3に示すp型有機電界効果トランジスタは、絶縁性支持基板12上にソース電極20及びドレイン電極22が設けられ、絶縁性支持基板12上に有機半導体層18及び絶縁体層16が積層され、該絶縁体層16上にゲート電極14が設けられている点において、図1に示すp型有機電界効果トランジスタとは異なっている。図3に示すp型有機電界効果トランジスタは、トップゲート・ボトムコンタクト型のp型有機電界効果トランジスタである。図3に示すp型有機電界効果トランジスタは、上記相違点以外は、図1に示すものと同様である。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、かかる実施例に限定されないことはいうまでもない。
実施例1
2、3−ジクロロキノキサリン(200mg、1.0ミリモル)及びチオ尿素(600mg)を室温下エタノール中で反応させることで、キノキサリン−2,3−ジチオール189mgを得た(収率97%)。得られたキノキサリン−2,3−ジチオールを、15mLの無水テトラヒドロフラン(THF)に溶解し、トリホスゲン(500 mg)を加え、3時間室温で撹拌した。析出したチオン体をろ別した後、亜リン酸トリエチル(2 ml) 中、90℃で1時間加熱した。反応液を冷却した後、ろ過し、ジクロロメタンで洗浄し、式(6)で表わされるジキノキサリノテトラチアフルバレンを、赤色の結晶として得た(70mg, 収率22 %)。
mp 400〜430℃(DSC)、MS(EI)m/z408(M)元素分析(C18H8N4S4)計算値: C, 52.92; H, 1.97. N;13.71, S; 31.39. 測定値: C, 52.66; H, 1.97; N,13.58; S, 31.21.
【0057】
次いで、以下のようにしてp型有機電界効果トランジスタを作製した。
低抵抗シリコン基板上に熱酸化膜(300nm)を形成し、その上にフォトリソグラフィー法を用いて櫛形パターンの電極を形成した。電極の層構造は、シリコン基板上にクロム(Cr)を膜厚10nmまで蒸着し、その上に金を膜厚20nmまで蒸着した。また、櫛形パターンは、電極のチャンネル長が25μm、チャンネル幅が6mmとなるようにした。
上記電極を形成したシリコン基板を圧力10-5Paの超真空下で基板温度を80℃で式(6)で表わされる化合物を蒸着し、有機半導体層を形成した。
【0058】
得られたp型有機電界効果トランジスタについて、エレクトロメーターを用いて、ソース電極及びドレイン電極間に−10〜−60Vの電圧を印加し、ゲート電圧を−30〜−80Vの範囲で変化させて、電圧−電流曲線を25℃の温度において求め、そのトランジスタ特性を評価した。結果を図4に示す。トランジスタ特性は、負バイアスについてのみ観察された。このことは、得られた電界効果トランジスタがp型有機電界効果トランジスタであることを意味する。
電界効果移動度(μ)は、ドレイン電流Idを表わす下記式(A)を用いて算出した。
Id=(W/2L)μCi(Vg−Vt) (A)
上記式(A)において、Lはゲート長であり、Wはゲート幅である。また、Ciは絶縁層の単位面積当たりの容量であり、Vgはゲート電圧であり、Vtはしきい値電圧である。
また、オン/オフ比は、最大及び最小ドレイン電流値(Id)の比より算出した。
正孔移動度は0.08cm/Vsであり、オン/オフ比は10であり、しきい値電圧は25Vであった。
【0059】
実施例2
ゲート電極に、アルミニウムを用い、絶縁膜に、酸化アルミニウム(Al)を用い、ソース電極及びドレイン電極にAl/Tiを用いて、図2で示される、トップコンタクト型のp型有機電界効果トランジスタを作製した。なお、チャンネル長(L)を100μm、チャンネル幅(W)を400μmとなるようにした。
得られたp型有機電界効果トランジスタについて、実施例1と同様に真空中で評価を行ったところ、トランジスタ特性は負バイアスについてのみ観察された(図示せず)。
また、正孔移動度は0.2cm/Vsであり、オン/オフ比は10であり、しきい値電圧は36Vであった。
【0060】
実施例3
亜硝酸イソアミル(2.0g)、二硫化炭素 (24mL)、 イソアミルアルコール(2.5g)を含むジクロルエタン溶液(300mL)をゆるやかに環流しながら、3−アミノ−2−ナフトイック酸(純度:80%)(3.18g、16ミリモル)のDMSO溶液(15 mL)を1.5時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、反応液を冷却し、ジクロロメタンで抽出して1,3−ジチオール誘導体のイソアミルエーテル2.37g(4.9g)を得た。得られた生成物を、40mLの無水酢酸中で冷却しながら42%テトラフルオロホウ酸 (4.5g)を加えて、ジチリチウム塩とした後、ジクロロメタン中でジアザビシクロウンデセン(DBU)(2.5mL) と反応させて、式(5)で表わされる、ジナフトテトラチアフルバレンを得た(1.0g、収率:36%)。
mp 460〜465℃(DSC). MS (EI)m/z 404 (M+).元素分析(C22H12S4)計算値: C, 65.31; H, 2.99. S; 31.70. 測定値: C, 65.33; H, 3.06; S, 31.91.
【0061】
得られた式(5)で表わされる、ジナフトテトラチアフルバレンを用いて、実施例1と同様に操作を行い、図1で示されるp型有機電界効果トランジスタを得た。
得られたp型有機電界効果トランジスタについて、エレクトロメーターを用いて、ソース電極及びドレイン電極間に−20〜−100Vの電圧を印加し、ゲート電圧を−40〜−100Vの範囲で変化させて、電圧−電流曲線を25℃の温度において求め、そのトランジスタ特性を評価した。結果を図5に示す。トランジスタ特性は、負バイアスについてのみ観察された。このことは、得られた電界効果トランジスタがp型有機電界効果トランジスタであることを意味する。
また、正孔移動度は0.38cm/Vsであり、オン/オフ比は1.6×10であった。
【0062】
実施例4
実施例3で得られた式(5)で表わされる、ジナフトテトラチアフルバレンを用いて、絶縁膜を、オクタデシルトリメトキシシラン(OTS)で処理した酸化シリコン金電極を用いて、図2に示されるp型有機電界効果トランジスタを得た。なお、チャンネル長(L)を100μm、チャンネル幅(W)を1mmとした。
得られたp型有機電界効果トランジスタについて、実施例1と同様に評価を行ったところ、トランジスタ特性は負バイアスについてのみ観察された(図示せず)。
また、正孔移動度は0.42cm/Vsであり、オン/オフ比は6.0×10であり、しきい値電圧は13Vであった。
【0063】
実施例5
2,3-ジクロロピラジン(2.0g、10ミリモル)及びチオ尿素(6.0g)を室温下エタノール中で反応させることでピラジン−2,3−ジチオール1.32gを得た(収率67%)。得られたピラジン−2,3−ジチオールのうち0.5gを無水THF(8 ml)に溶解し、トリホスゲン(500 mg)を加え、3時間室温で撹拌した。撹拌によって析出したチオン体をろ別後、亜リン酸トリエチル(1.2 ml) 中、90℃で1時間加熱した。冷却後、ろ過し、カラムクロマト(SiO2, CH2Cl2)により、式(4)で表わされるジピラジノテトラチアフルバレンを黄色の結晶として得た(160 mg, 収率:80 %)。
mp 301-306 °C (DSC). MS (EI) m/z 308 (M+).
得られた、式(4)で表わされるジピラジノテトラチアフルバレンを用いて、実施例1と同様に操作を行い、図1で示されるp型有機電界効果トランジスタを得た。
得られたp型有機電界効果トランジスタについて、実施例1と同様に評価を行ったところ、トランジスタ特性は負バイアスについてのみ観察された(図示せず)。
また、正孔移動度は3.3×10-5cm/Vsであり、オン/オフ比は10であり、しきい値電圧は35Vであった。
【0064】
実施例6
ジメトキシキノキサリノテトラチアフルバレン誘導体110mgを20mLのベンゼンに溶解した溶液にAlCl3 (1.0g) を加え、14時間加熱環流した。還流後、反応液を冷却し、氷水を加えてAlCl3を分解させた。生成物をカラムクロマト(SiO2, CH2Cl2)で分離し、式(7)で表わされるジヒドロキシキノキサリノテトラチアフルバレンを暗赤色の結晶として得た(90 mg, 収率90 %)。
得られた得られた、式(7)で表わされるジヒドロキシキノキサリノテトラチアフルバレンを用いて、実施例1と同様に操作を行い、図1で示されるp型有機電界効果トランジスタを得た。
得られたp型有機電界効果トランジスタについて、実施例1と同様に評価を行ったところ、トランジスタ特性は負バイアスについてのみ観察された(図示せず)。
また、正孔移動度は3×10-6cm/Vsであり、オン/オフ比は5.5×10であった。
【0065】
上記結果より、本発明の化合物及び誘導体は高い移動度及びオン/オフ比を有するものであり、p型有機半導体材料として用いることのできる化合物であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のp型有機電界効果トランジスタの一例を示す断面図である。
【図2】本発明のp型有機電界効果トランジスタの一例を示す断面図である。
【図3】本発明のp型有機電界効果トランジスタの一例を示す断面図である。
【図4】実施例1で製造されたp型有機電界効果トランジスタのトランジスタ特性(電圧−電流曲線)を示すグラフである。
【図5】実施例3で製造されたp型有機電界効果トランジスタのトランジスタ特性(電圧−電流曲線)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
12 絶縁性支持基板 14 ゲート電極
16 絶縁体層 18 有機半導体層
20 ソース電極 22 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる化合物。
【化1】

(上記一般式(1)において、X及びXは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ硫黄原子又はセレン原子であり、a及びbは0、1又は2の整数であり、c及びdは0又は1の整数であり、R、R、R、R、R、R、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基又はアリール基である。ただし、X及びXが共に硫黄原子である場合は、c又はdの少なくとも一方が1であるか、又はa又はbの少なくとも一方が2である。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表わされる、テトラチアフルバレン誘導体。
【化2】

(上記一般式(2)において、a及びbは0、1又は2の整数であり、c及びdは0又は1の整数であり、R、R、R、R、R、R、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基又はアリール基である。ただし、c又はdの少なくとも一方が1であるか、又はa又はbの少なくとも一方が2である。)
【請求項3】
下記式(4)、(5)、(6)及び(7)からなる群から選択される、請求項2に記載のテトラチアフルバレン誘導体。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【請求項4】
下記一般式(3)で表わされる、テトラセレナフルバレン誘導体。
【化7】

(上記一般式(3)において、a及びbは0、1又は2の整数であり、c及びdは0又は1の整数であり、R、R、R、R、R、R、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基又はアリール基である。)
【請求項5】
下記式(8)、(9)、(10)、(11)及び(12)からなる群から選択される、請求項4に記載のテトラセレナフルバレン誘導体。
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【請求項6】
請求項1に記載の化合物を含有してなる有機半導体材料。
【請求項7】
請求項2又は3に記載のテトラチアフルバレン誘導体を含有してなる有機半導体材料。
【請求項8】
請求項4又は5に記載のテトラセレナフルバレン誘導体を含有してなる有機半導体材料。
【請求項9】
絶縁体層と、該絶縁体層によって隔離されたゲート電極及び有機半導体層と、該有機半導体層に接するように設けられたソース電極及びドレイン電極と、絶縁性支持基板とを有するp型有機電界効果トランジスタであって、
請求項1に記載の化合物が、上記有機半導体層に含まれることを特徴とするp型有機電界効果トランジスタ。
【請求項10】
絶縁体層と、該絶縁体層によって隔離されたゲート電極及び有機半導体層と、該有機半導体層に接するように設けられたソース電極及びドレイン電極と、絶縁性支持基板とを有するp型有機電界効果トランジスタであって、
請求項2又は3に記載のテトラチアフルバレン誘導体が、上記有機半導体層に含まれることを特徴とするp型有機電界効果トランジスタ。
【請求項11】
絶縁体層と、該絶縁体層によって隔離されたゲート電極及び有機半導体層と、該有機半導体層に接するように設けられたソース電極及びドレイン電極と、絶縁性支持基板とを有するp型有機電界効果トランジスタであって、
請求項4又は5に記載のテトラセレナフルバレン誘導体が、上記有機半導体層に含まれることを特徴とするp型有機電界効果トランジスタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−42717(P2007−42717A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222569(P2005−222569)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第85春季年会 講演予稿集 2」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】