テーラードブランクの製造方法およびテーラードブランク用鋼板
【課題】生産管理が容易で良好な溶接品質が得られる、テーラードブランクの製造方法およびテーラードブランク用鋼板を提供する。
【解決手段】クリアランスが15%以上25%以下の金型で切断した端面を有する2枚の鋼板の前記端面を突き合わせ溶接して一体化したテーラードブランクの製造方法。2枚の鋼板の前記端面のせん断面比率が、いずれも25%以上である。
【解決手段】クリアランスが15%以上25%以下の金型で切断した端面を有する2枚の鋼板の前記端面を突き合わせ溶接して一体化したテーラードブランクの製造方法。2枚の鋼板の前記端面のせん断面比率が、いずれも25%以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーラードブランクの製造方法およびテーラードブランク用鋼板に関し、詳しくは、切断クリアランスが大きい条件で切断された鋼板を用いる場合であっても、アンダーフィルの小さい良好な溶接品質が得られるテーラードブランクの製造方法およびテーラードブランク用鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
図12は、鋼板1、2の突合せ溶接部のアンダーフィルを示す説明図である。
突合せレーザ溶接の素材である鋼板1、2は、その端面を切断される際におけるクリアランスの変動に対する切断端面の変化、例えば、刃の摩耗や金型のたわみによって、シャープな切断端面が得られないことがある。このため、この鋼板1、2を突合せレーザ溶接により接合する際に、突き合わせた部分に大きな隙間3が生じ、溶接時に隙間3を埋めるための溶融金属の体積が不足するために溶接部に穴あきや凹み(アンダーフィル)が生じ易い。凹みはプレス品の疲労強度を低下させる。なお、アンダーフィルの程度は、図12に示すように{(T−Tw)/T}×100(%)として求められる。このように、2枚の鋼板を突合せレーザ溶接により接合する場合、安定した溶接品質を確保することは容易ではなかった。
【0003】
従来より、テーラードブランクの溶接部の品質を確保するためには、突き合わされる鋼板の端面を精度良く切断することが重要であることが知られている。例えば、切断方向への直線精度をできるだけ高めること、端面におけるバリやダレの発生が小さいこと、さらには鋼板の端面が表面に対して直角であることが望ましい。
【0004】
図13は、鋼板4の切断の状況を模式的に示す説明図であり、図14は、鋼板4の切断端面を示す説明図である。図13、14を参照しながら金型切断を説明する。
図13、14に示すように、プレスやシャーリングによって鋼板4に施されるせん断切断では、下降する上刃5によってせん断面Sが形成され、さらに上刃5および下刃6それぞれの先端からそれぞれクラックが発生および成長し、これらが会合することにより破断面Bが形成されて、切断に至る。
【0005】
通常、切断された2枚の鋼板のうち、図13に示す板抑え7がある側の鋼板のほうが、切断長手方向の直線性が高い切断端面を得られるため、溶接する端面として使用される。上刃5および下刃6の間隔Clが広くなると、破断面Bの角度θ(面ダレ角)が大きくなって突合せ時に相手材と接触しない隙間8(以降、「端面隙」という)が大きく形成されるため、突合せ溶接時に溶接金属の体積が不足し、溶接金属部の表裏面が凹形状となるアンダーフィルが発生する。
【0006】
したがって、テーラードブランクの生産では、金型のクリアランス{(上刃5および下刃6の間隔Cl/板厚t)×100(%)}を10%以下に設定して切断が行われることが多い。
【0007】
特許文献1には、C:0.10%以下(本明細書においては、特に断りがない限り化学組成に関する「%」は「質量%」を意味する)、Si:0.01%未満、Mn:1.5%以下、Al:0.20%以下、(Ti+Nb)/2:0.05〜0.50%、S:0.005%以下、N:0.005%以下、O:0.004%以下をS、NおよびOの合計が0.0100%以下で含む化学組成を有するとともに、95%以上の実質的フェライト単相の金属組織を有する、局部延性が高いフェライト単相鋼を被切断材として用いることによって、クリアランスが1%以下の精密切断においてせん断面率が100%の切断面を得られることが開示されている。
【0008】
特許文献2には、溶接鋼板の溶接部の近傍の熱影響軟化部の幅が板厚の25%以下で、かつ、少なくとも一方の母材の引張強度が780MPa以上である薄鋼板を突き合わせて、8m/min以上の溶接速度でレーザ溶接を行って製造されたレーザ突き合わせ溶接鋼板は、プレス成形中の熱影響軟化部での破断に起因した成形性の不良を解決できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−137607号公報
【特許文献2】特開2006−218500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、突き合わせ溶接用鋼板においてクリアランスが例えば15%以上となる切断については記載されていない。また、特許文献2には、突き合わせ溶接用鋼板の切断に関して何も記載されていない。
【0011】
このため、特許文献1、2により開示された発明に基づいても、クリアランスが例えば15%以上と大きい条件で切断された端面を有する鋼板を用いてもアンダーフィルの小さい良好な溶接品質が得られるテーラードブランクを製造することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、クリアランスが15〜25%に設定された金型により切断された端面を有する第1の鋼板のこの端面と、クリアランスが15〜25%に設定された金型により切断された端面を有する第2の鋼板のこの端面とを突き合わせ溶接して一体化したテーラードブランクの製造方法であって、第1の鋼板における前記端面のせん断面比率、および前記第2の鋼板における前記端面のせん断面比率が、いずれも、25%以上であることを特徴とするテーラードブランクの製造方法である。
【0013】
この本発明において、「クリアランス」とは、{(金型の上刃および下刃の、切断方向と直交する方向の間隔)/板厚}×100(%)を意味する。
この本発明では、第1の鋼板および前記第2の鋼板は、いずれも、(a)体積率で95%以上の実質的にフェライト単相、または、体積率で95%以上の実質的にベイナイト単相からなる金属組織を有すること、または(b)合計の体積率で95%以上の実質的にフェライトおよびベイナイトの2相からなる金属組織を有し、フェライトの体積率が65%以上またはベイナイトの体積率が60%以上であることが望ましい。
【0014】
別の観点からは、本発明は、突き合わせレーザ溶接するための切断加工を行われた端面を有するテーラードブランク用鋼板であって、(c)体積率で95%以上の実質的にフェライト単相または体積率で95%以上の実質的にベイナイトの単相からなる金属組織を有するとともに、前記端面のせん断面比率が25%以上であること、または(d)合計の体積率で95%以上の実質的にフェライトおよびベイナイトの2相からなる金属組織を有し、フェライトの体積率が65%以上またはベイナイトの体積率が60%以上であるとともに、前記端面のせん断面比率が25%以上であることを特徴とするテーラードブランク用鋼板である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生産管理が容易で良好な溶接品質が得られる、テーラードブランクの製造方法およびテーラードブランク用鋼板を提供すること、具体的には、切断クリアランスが15%以上と大きい条件で切断された鋼板を用いる場合であっても、アンダーフィルの小さい良好な溶接品質が得られるテーラードブランクの製造方法およびテーラードブランク用鋼板を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、体積率がフェライト100%のフェライト単相組織を有する、板厚2.9mmの780MPa級熱延鋼板と、板厚2.3mmの780MPa級熱延鋼板とを切断金型を用いて切断した後にこの切断による端面でレーザ突き合わせ溶接を行うことにより、切断金型のクリアランスがレーザ溶接部のアンダーフィルに及ぼす影響を調査した結果を示すグラフである。
【図2】図2は、体積率がフェライト100%のフェライト単相組織を有する、板厚2.9mmの780MPa級熱延鋼板と、板厚2.3mmの780MPa級熱延鋼板とを切断金型を用いて切断した後にこの切断による端面でレーザ突き合わせ溶接を行うことにより、切断金型のクリアランスが端面の形状(せん断破面率およびダレ角度)に及ぼす影響を調査した結果を示すグラフである。
【図3】図3(a)〜図3(c)は、フェライト単相組織を有するとともに、板厚がそれぞれ2.9mm、2.3mmである780MPa級の二枚の鋼板のぞれぞれの端面同士を突き合わせた際に形成される隙間に及ぼすクリアランスの影響を模式的に示す説明図であり、図3(a)、図3(b)、図3(c)は、それぞれ、クリアランスが10%である場合、15%である場合、20%である場合を示す。
【図4】図4は、板厚2.0mm、強度780MPaのフェライト単相組織を有するA鋼板と、板厚2.0mm、強度980MPaのフェライト50%およびマルテンサイト50%の2相組織を有するB鋼板とに関して、クリアランスとせん断面比率との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、A鋼板とB鋼板とに関して、クリアランスとアンダーフィルとの関係を示すグラフである。
【図6】図6は、素材である鋼板のフェライト面積率とせん断面率との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、素材である鋼板のフェライト面積率とアンダーフィルとの関係を示すグラフである。
【図8】図8は、フェライト70%および残部ベイナイトの2相組織を有する鋼板の一例の金属組織写真である。
【図9】図9は、フェライト70%および残部ベイナイトの2相組織を有する2枚の鋼板(板厚2.9mm、2.3mm)の、クリアランス20%で切断された端面の突き合わせ状況と、エネルギー4.5kW、焦点径0.6mmおよび溶接速度3.75m/minの溶接条件でレーザ溶接された溶接部の端面の一例の断面写真である。
【図10】図10は、疲労強度に及ぼすアンダーフィルの影響を評価するための疲労試験の結果を示すグラフである。
【図11】図11は、疲労試験に用いるレーザ突き合わせ鋼板を構成する鋼板のせん断性評価試験の概要を示す説明図である。
【図12】図12は、鋼板の突合せ溶接部のアンダーフィルを示す説明図である。
【図13】図13は、鋼板の切断の状況を模式的に示す説明図である。
【図14】図14は、鋼板の切断端面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態を、添付図面を参照しながら説明する。
(1)本発明の原理
図1は、体積率がフェライト100%のフェライト単相組織を有する、板厚2.9mmの780MPa級熱延鋼板と、板厚2.3mmの780MPa級熱延鋼板とを切断金型を用いて切断した後にこの切断による端面でレーザ突き合わせ溶接を行うことにより、切断金型のクリアランスがレーザ溶接部のアンダーフィルに及ぼす影響を調査した結果を示すグラフであり、図2は、この場合に切断金型のクリアランスが端面の形状(せん断破面率およびダレ角度)に及ぼす影響を調査した結果を示すグラフである。
【0018】
図1にグラフで示すように、従来、溶接に適した切断端面を得られないと考えられてきた大きなクリアランス(例えば10%以上)での切断でも、フェライト単相組織を有する鋼板の場合には、アンダーフィルが25%以下の比較的良好な溶接部が得られること、および、クリアランスの増加とともにアンダーフィルが増大するが、クリアランスが15%を超えるとアンダーフィルが逆に減少することがわかる。
【0019】
また、図2にグラフで示すように、フェライト単相組織を有する鋼板では、クリアランスの増加とともに破断面のダレ角およびせん断面率がいずれも増加することがわかる。
図1にグラフで示すように、クリアランスの増加に伴ってアンダーフィルが増減する理由を、図3を参照しながら説明する。
【0020】
図3(a)〜図3(c)は、フェライト単相組織を有するとともに、板厚がそれぞれ2.9mm、2.3mmである780MPa級の二枚の鋼板1、2のぞれぞれの端面同士を突き合わせた際に形成される隙間3に及ぼすクリアランスの影響を模式的に示す説明図であり、図3(a)、図3(b)、図3(c)は、それぞれ、クリアランスが10%である場合、15%である場合、20%である場合を示す。
【0021】
図3(a)に示すように、クリアランスが10%であると、鋼板1、2のダレ角が小さいために突き合わせ時の隙間3が小さくなり、接合に適した端面を得られる。
図3(b)に示すように、クリアランスが15%であると、せん断面およびダレ角がいずれも大きいため、突き合わせ時の隙間3が大きくなり、アンダーフィルが大きくなる。
【0022】
図3(c)に示すように、クリアランスが20%であると、ダレ角が大きいもののせん断面率も大きいため、突き合わせた際の突き合わせ端面の接触領域が広がるため、隙間3が小さくなり、アンダーフィルが逆に減少する。
【0023】
次に、切断端面形状ならびにアンダーフィルに及ぼす鋼板組織の影響を説明する。
図4は、板厚2.0mm、強度780MPaのフェライト単相組織の鋼板(以下、「A鋼板」という)と、板厚2.0mm、強度980MPaのフェライト50%とマルテンサイト50%との2相組織の鋼板(以下、「B鋼板」という)とに関して、クリアランスとせん断面比率との関係を示すグラフであり、図5は、A鋼板とB鋼板とに関して、クリアランスとアンダーフィルとの関係を示すグラフである。図4、5のグラフにおける丸印はA鋼板を示し、三角印はB鋼板を示す。なお、図5に示すグラフにおいて、アンダーフィルは、種々のクリアランスで切断した端面を突き合わせて形成される隙間の形状を測定することにより算出した。
【0024】
図4、5にグラフで示すように、A鋼板はB鋼板に比べて、クリアランス10〜23%の全領域においてせん断面比率が大きいため、アンダーフィルが小さくなることがわかる。特に、クリアランスが20%以上の領域では、A鋼板はB鋼板に比べてアンダーフィルが大きく減少することがわかる。
【0025】
図6は、素材である鋼板のフェライト面積率とせん断面率との関係を示すグラフであり、図7は、素材である鋼板のフェライト面積率とアンダーフィルとの関係を示すグラフである。図6、7のグラフに示されるフェライト面積率を有する鋼板は、フェライト単相組織、ベイナイト単相組織、またはフェライトおよびベイナイトの2相組織のいずれかの金属組織を有する鋼板である。なお、図6、7のグラフにおける丸印、四角印、菱形印は、それぞれ、クリアランスが10%、15%、20%であることを示す。
【0026】
図6,7にグラフで示すように、
(I)鋼板がフェライト単相またはベイナイト単相の金属組織を有すること、または
(II)鋼板がフェライトおよびベイナイトよりなる二相を主体とする金属組織を有し、かつ、フェライトの体積率が65%以上またはベイナイトの体積率が60%以上であること
によって、切断金型の上刃および下刃によるクラックの発生および成長を遅延させることができ、これにより、クリアランスが比較的狭い場合は元より、クリアランスが15%以上、例えば20%程度に大きい場合においても、突合せ溶接に有利な広いせん断面と小さい端面隙とを有する切断端面を得ることができる。
【0027】
図8は、フェライト70%および残部ベイナイトの2相組織を有する鋼板の一例の金属組織写真であり、図9は、フェライト70%および残部ベイナイトの2相組織を有する2枚の鋼板(板厚2.9mm、2.3mm)の、クリアランス20%で切断された端面の突き合わせ状況と、エネルギー4.5kW、焦点径0.6mmおよび溶接速度3.75m/minの溶接条件でレーザ溶接された溶接部の端面の一例の断面写真である。
【0028】
(2)第1、2の鋼板の化学組成
本発明で用いる第1の鋼板および第2の鋼板それぞれの好適な化学組成を説明する。
第1の鋼板または第2の鋼板の化学組成は、例えば、C:0.02〜0.2%、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.2〜2.0%、P:0.10%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.02〜2.0%、N:0.01%以下、任意添加元素として、Ti:0.3%以下、Nb:0.1%以下、V:0.3%以下およびMo:0.3%以下の1種もしくは2種以上、残部Feおよび不純物が例示される。この理由を説明する。
【0029】
[C:0.02〜0.2%]
Cは、強度を決定する重要な元素である。590MPa以上の強度を達成するために、C含有量を0.02%以上とする。過度に含有すると、粗大炭化物の形成により母材の成形性を損なうことと、硬質第2相を形成して切断端面のせん断面比率を低下させ、高クリアランス域で溶接不良を生じやすくなるため上限を0.2%とする。したがって、C含有量は0.02%以上0.2%以下とするのが望ましい。
【0030】
[Si:0.01〜1.5%]
Siは、母材の強度−成形性バランスを向上するとともに、鋼中セメンタイトの粗大化を抑制して切断性を向上させるために、0.01%以上含有する。Si含有量は0.2%以上とすることが望ましい。しかし、過剰の含有により製品表面に施されるリン酸〜リン酸亜鉛による化成処理性を損なうため、上限を1.5%とする。したがって、Si含有量は0.01%以上1.5%以下とするのが望ましい。
【0031】
[Mn:0.2〜2.0%]
Mnは、強度確保に有効な元素であり、含有量を0.2%以上とする。過剰の含有は硬質な第2相の形成を促して切断性を低下させるため、上限を2.0%とする。したがって、Mn含有量は0.2%以上2.0%以下とするのが望ましい。
【0032】
[P:0.10%以下]
Pは強度の確保に寄与する元素であるが、粒界に偏析し脆化を生じるため、含有量は0.10%を上限とするのが望ましい。
【0033】
[S:0.01%以下]
Sは、Mn等と結合し、粗大な硫化物系の介在物を形成して加工性を著しく損なうため、その含有量は0.01%以下とするのが望ましい。
【0034】
[sol.Al:0.02〜2.0%]
Alは、延性を向上させる元素であるが、過度に含有させると、熱間圧延における仕上温度を過度に上昇させる必要が生じることがあるため、sol.Al含有量を2.0%以下とする。下限は不純物レベルでよい。通常脱酸過程により0.02%程度混入する。したがって、sol.Al含有量は0.02%以上2.0%以下とするのが望ましい。
【0035】
[N:0.01%以下]
Nは、加工性を損なう不純物元素であり、その含有量は0.01%以下とするのが望ましい。より好ましくは0.006%以下である。
【0036】
次に、任意添加元素を説明する。
[Ti:0.2%以下、Nb:0.1%以下、V:0.3%以下およびMo:0.3%以下の1種または2種以上]
これらの元素は、1種を単独で、または2種以上を複合して含有することにより、Cと結合し微細な金属炭化物を形成し強度の向上に著しく寄与するとともに、成形性を劣化させる粗大な鉄炭化物の生成を抑制する効果があり、さらに、切断時のクラック伝播を抑制してせん断面を拡大し、突合せ溶接性を向上する効果があるが、過剰に含有すると粗大な炭窒化物を形成し、切断時のクラック源となってせん断面を縮減しつき合わせ溶接性を低下させるので、Ti:0.2%以下、Nb:0.1%以下、V:0.3%以下およびMo:0.3%以下とすることが望ましい。上述した効果を確実に奏するために、Ti:0.01%以上、Nb:0.01%以上、V:0.01%以上、Mo:0.01%以上であることが望ましい。
【0037】
上記以外はFeおよび不純物である。
(3)第1、2の鋼板の金属組織
第1の鋼板または第2の鋼板は、
(A)体積率で95%以上の実質的にフェライト単相の金属組織を有すること、
(B)体積率で95%以上の実質的にベイナイト単相の金属組織を有すること、または
(C)合計の体積率で95%以上の実質的にフェライトおよびベイナイトの2相の金属組織を有し、フェライトの体積率が65%以上またはベイナイトの体積率が60%以上であることが有効である。
【0038】
これらの場合の残部組織として、マルテンサイト、パーライト、残留オーステナイトの1種または2種以上を有していてもよい。以下、残部組織を説明する。
第1の鋼板または第2の鋼板がフェライト単相の金属組織を有する場合には、ベイナイト、マルテンサイト、パーライト、残留オーステナイトの1種または2種以上を、合計の体積率で0%以上5%未満、残部組織として有していてもよい。
【0039】
第1の鋼板または第2の鋼板がベイナイト単相の金属組織を有する場合には、フェライト、マルテンサイト、パーライト、残留オーステナイトの1種または2種以上を、合計の体積率で0%以上5%未満、残部組織として有していてもよい。
【0040】
第1の鋼板または第2の鋼板がフェライトおよびベイナイトの2相の金属組織を有する場合には、残部組織として、マルテンサイト、パーライト、残留オーステナイトの1種または2種以上を合計で0%以上5%未満、残部組織として有していてもよい。
【0041】
第1の鋼板または第2の鋼板が上述したいずれかの金属組織を有すると、第1の鋼板または第2の鋼板の局部変形能が優れるため、クラックの発生および進展が抑制され、クリアランスが15%以上25%以下の条件で25%以上のせん断面率を確保することが可能となる。
【0042】
第1の鋼板または第2の鋼板がフェライト単相の金属組織を有する場合にフェライト体積率が95%未満になったり、あるいは、第1の鋼板または第2の鋼板がベイナイト単相の金属組織を有する場合にベイナイト体積率が95%未満になると、破断面が早期に形成されるためにせん断面の確保が不十分となり、溶接部のアンダーフィルが増大し易くなる。
【0043】
また、第1の鋼板または第2の鋼板がフェライトおよびベイナイトの2相の金属組織を有する場合に、フェライトとベイナイトの合計の体積率が95%未満になったり、フェライトの体積率が65%未満になったり、またはベイナイトの体積率が60%未満になると、破断面が早期に形成されるためにせん断面の確保が不十分となり、溶接部のアンダーフィルが増大し易くなる。
【0044】
第1の鋼板または第2の鋼板は、体積率で95%以上の実質的にフェライト単相の金属組織を有することが望ましい。
第1の鋼板または第2の鋼板の金属組織に、硬質相であるマルテンサイトが混在すると、切断による変形の際に、他の組織との界面にボイドが発生し易く、上刃または下刃から早期にクラックを生じて突合せ性ならびに突合せ溶接性が低下するとともに、シャシー部品素材として重要なバーリング加工性が低下する。したがって、第1の鋼板または第2の鋼板におけるマルテンサイトの体積率は5%未満であることが望ましく、3%未満であることがさらに望ましい。
【0045】
(4)第1、2の鋼板の板厚
板厚は、特に限定しないが、例えば2mm以上であることが望ましい。板厚が大きくなると、切断時の刃に加える荷重が大きくなる。このため、刃の損耗を抑えるために、クリアランスを大きく設定した切断が指向されるために大きなアンダーフィルが発生し易くなるからである。板厚の上限は、特に制限する必要はないが、テーラードブランクとして適用が想定される自動車部品の場合には、5mm程度が上限である。
【0046】
(5)第1、2の鋼板の引張強さ
引張強さは、特に規定しないが、引張強度が低いと、クリアランスが大きい条件で大きなせん断面を得ようとすると端面にバリが生じ易くなり、溶接用鋼板の端面として適さない。このため、第1、2の鋼板の引張強さは590MPa以上であることが望ましい。
【0047】
なお、第1、2の鋼板として引張強度が590MPa以上の鋼板を用いるにあたっては、フェライトあるいはベイニティックフェライトを固溶強化あるいは析出強化の一方または双方として用いて、強化された鋼板とするのが望ましい。
【0048】
(6)クリアランス
本発明は、クリアランスが15%以上25%以下である金型により切断された、第1の鋼板または第2の鋼板の端面を突き合わせ溶接してテーラードブランクを製造することを前提とする。なお、この15%以上25%以下というクリアランスは、周知慣用のクリアランスに比べて極めて大きいものである。クリアランスが25%を超えると、バリが生じ易い。
【0049】
(7)第1、2の鋼板の切断端面のせん断面比率
切断端面のせん断面比率が25%以上である2枚の鋼板を突き合わせて溶接することによってアンダーフィルが25%以下の疲労強度に優れた溶接部を得ることができる。
【0050】
なお、突き合わせる第1の鋼板および第2の鋼板の少なくともいずれか一方の端面のせん断面比率が25%未満であると、25%以下のアンダーフィルを確保することが困難になる。第1、第2の鋼板の切断端面のせん断面比率はいずれも40%以上であることが望ましい。せん断面比率の上限は特に規定しないが、クリアランスが15%以上25%以下の切断では、せん断面比率は90%程度が上限となる。
【0051】
なお、せん断面は、切断端面の表面を目視観察し、板厚方向に上下のスジを伴う光沢のある部分として判別される。
(8)第1、2の鋼板の突き合わせ形態
第1の鋼板および第2の鋼板の突き合わせ形態は、特に限定しないが、第1の鋼板および第2の鋼板それぞれのせん断面同士が対向するように、突き合わせることが望ましい。
【0052】
(9)第1、2の鋼板の溶接部のアンダーフィル
第1、2の鋼板の溶接部のアンダーフィルが過大となると、成形品の疲労強度が大きく低下する。アンダーフィル部が応力集中部となり、アンダーフィルが大きいほど応力集中が大きくなるからである。したがって、溶接金属のアンダーフィルは25%以下とすることが望ましい。以下、詳細に説明する。
【0053】
図10は、疲労強度に及ぼすアンダーフィルの影響を評価するための疲労試験の結果を示すグラフである。また、図11は、この疲労試験に用いるレーザ突き合わせ鋼板を構成する鋼板のせん断性評価試験の概要を示す説明図である。
【0054】
図11に示すように、板厚が2.6mmの780MPa級の熱延鋼板10と、板厚が2.3mmの780MPa級の熱延鋼板11とを、金型の上刃12および下刃13によりクリアランス10%で切断した。
【0055】
そして、板押さえ14側の熱延鋼板10、11を突き合わせ、突き合わせの際の隙間量0〜0.15mmに変化させて、出力4.5kWおよび溶接速度4m/minの溶接条件でレーザにて突き合わせ溶接してアンダーフィル量の異なる疲労試験片を製作した。
【0056】
この疲労試験片を用いて周波数約30Hzの両振り平面曲げ試験を実施した。同じアンダーフィルを有する試験片を種々の応力で疲労試験を行い、破断する繰り返し数(破断寿命)を求め、応力と破断寿命とから疲労強度特性線図(SN線図)を作成した。SN線図から、各アンダーフィルでの100万回破断応力を求めた。
【0057】
図10にグラフで示すように、アンダーフィルの増大とともに疲労強度は低下することがわかる。特にアンダーフィルが20%から30%までにおいて、疲労強度が大きく低下しており、アンダーフィルは25%以下であることが望ましいことがわかる。アンダーフィルが過大となると、溶接部の穴明き欠陥が発生しやすい。さらに望ましくは、アンダーフィル量は23%以下である。
【0058】
(10)溶接方法
溶接方法は、レーザ溶接や電子ビーム溶接のような溶融部の小さい高エネルギービーム溶接法であることが望ましい。
【0059】
(11)適用対象
本発明に係るテーラードブランク用鋼板の適用対象は、特に限定する必要はないが、例えば、ホイール、サスペンションアームさらにはサスペンションメンバといった、自動車の足廻り部品の製造に好適である。自動車の足廻り部品は、板厚が比較的厚く、端面を精度良く切断することが困難であるために、本発明がより有効となるためである。
【実施例1】
【0060】
C:0.05%、Si:0.98%、Mn:1.3%、P:0.008%、S:0.0009%、sol.Al:0.18%、N:0.0029%、Ti:0.17%、Nb:0.032%、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、フェライト体積率が70%であって残部ベイナイトの2相の金属組織を有するとともに、公称強度グレードが780MPaである、板厚2.9mmの第1の鋼板および板厚2.3mmの第2の鋼板を種々の切断条件で切断し、第1の鋼板および第2の鋼板を突き合わせてレーザ溶接を行った。
【0061】
レーザ溶接は、YAGレーザを用い焦点径0.6mmの光学条件で、出力4.5kWおよび溶接速度4m/minで行った。
第1の鋼板および第2の鋼板の突き合わせる端面のせん断面比率は、せん断端面を拡大鏡にて目視で測定して求め、溶接部のアンダーフィルは先端の尖ったマイクロメータで溶接部の肉厚を測定することにより求めた。表1に結果をまとめて示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1において、番号1、2はクリアランスが5%、10%の参考例であり、アンダーフィルの小さい溶接部を得られた。
番号4〜6は、クリアランスが16%、19%、24%であって、せん断面比率が27%〜45%の本発明例であり、アンダーフィルが25%以下の良好な接合部が得られた。
【0064】
番号3は、第1の鋼板のせん断面比率が23%であるために25%以下のアンダーフィルを確保することができなかった。
さらに、番号7は、第1の鋼板のクリアランスが28%であるために切断時に大きなバリが発生したため溶接が困難であった。
【実施例2】
【0065】
表2に示す鋼種A〜Lの化学成分と金属組織とを有する2.0mm厚の鋼板から、25mm幅、50mm長さの試験片を切り出し、図11に示すように先端10mmを種々のクリアランスでせん断切断して、切断端面のせん断面比率を測定した後、同一のクリアランスで切断した同一の金属組織を有する鋼板同士を突き合わせレーザ溶接した。
【0066】
【表2】
【0067】
レーザ溶接は、YAGレーザを用い焦点径0.6mmの光学条件で、出力4.5kW、溶接速度5m/minで行った。金属組織の構成分率は、製造した鋼板の圧延方向断面を鏡面研磨し、ナイタル腐食液により現出した顕微鏡写真を画像解析することにより求めた。
【0068】
結果を表3にまとめて示す。
【0069】
【表3】
【0070】
表3の試番2〜5、7〜10、12〜15、17〜20と試番32−45に示すように、鋼種A〜DならびにH〜Lでは、クリアランス15〜25%において、せん断面比率が25%以上の切断端面が得られ、この切断端面を有する鋼板同士を突き合わせ溶接することにより、アンダーフィル量が25%以下の良好な接合部が得られた。
【0071】
また、試番22〜30に示すように、鋼種E、F、Gでは、クリアランス15〜25%において、せん断面比率が25%未満となり、アンダーフィル量が25%超となった。
なお、試番1、6、11、16、21および31は、クリアランスが10.0%の参考例である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーラードブランクの製造方法およびテーラードブランク用鋼板に関し、詳しくは、切断クリアランスが大きい条件で切断された鋼板を用いる場合であっても、アンダーフィルの小さい良好な溶接品質が得られるテーラードブランクの製造方法およびテーラードブランク用鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
図12は、鋼板1、2の突合せ溶接部のアンダーフィルを示す説明図である。
突合せレーザ溶接の素材である鋼板1、2は、その端面を切断される際におけるクリアランスの変動に対する切断端面の変化、例えば、刃の摩耗や金型のたわみによって、シャープな切断端面が得られないことがある。このため、この鋼板1、2を突合せレーザ溶接により接合する際に、突き合わせた部分に大きな隙間3が生じ、溶接時に隙間3を埋めるための溶融金属の体積が不足するために溶接部に穴あきや凹み(アンダーフィル)が生じ易い。凹みはプレス品の疲労強度を低下させる。なお、アンダーフィルの程度は、図12に示すように{(T−Tw)/T}×100(%)として求められる。このように、2枚の鋼板を突合せレーザ溶接により接合する場合、安定した溶接品質を確保することは容易ではなかった。
【0003】
従来より、テーラードブランクの溶接部の品質を確保するためには、突き合わされる鋼板の端面を精度良く切断することが重要であることが知られている。例えば、切断方向への直線精度をできるだけ高めること、端面におけるバリやダレの発生が小さいこと、さらには鋼板の端面が表面に対して直角であることが望ましい。
【0004】
図13は、鋼板4の切断の状況を模式的に示す説明図であり、図14は、鋼板4の切断端面を示す説明図である。図13、14を参照しながら金型切断を説明する。
図13、14に示すように、プレスやシャーリングによって鋼板4に施されるせん断切断では、下降する上刃5によってせん断面Sが形成され、さらに上刃5および下刃6それぞれの先端からそれぞれクラックが発生および成長し、これらが会合することにより破断面Bが形成されて、切断に至る。
【0005】
通常、切断された2枚の鋼板のうち、図13に示す板抑え7がある側の鋼板のほうが、切断長手方向の直線性が高い切断端面を得られるため、溶接する端面として使用される。上刃5および下刃6の間隔Clが広くなると、破断面Bの角度θ(面ダレ角)が大きくなって突合せ時に相手材と接触しない隙間8(以降、「端面隙」という)が大きく形成されるため、突合せ溶接時に溶接金属の体積が不足し、溶接金属部の表裏面が凹形状となるアンダーフィルが発生する。
【0006】
したがって、テーラードブランクの生産では、金型のクリアランス{(上刃5および下刃6の間隔Cl/板厚t)×100(%)}を10%以下に設定して切断が行われることが多い。
【0007】
特許文献1には、C:0.10%以下(本明細書においては、特に断りがない限り化学組成に関する「%」は「質量%」を意味する)、Si:0.01%未満、Mn:1.5%以下、Al:0.20%以下、(Ti+Nb)/2:0.05〜0.50%、S:0.005%以下、N:0.005%以下、O:0.004%以下をS、NおよびOの合計が0.0100%以下で含む化学組成を有するとともに、95%以上の実質的フェライト単相の金属組織を有する、局部延性が高いフェライト単相鋼を被切断材として用いることによって、クリアランスが1%以下の精密切断においてせん断面率が100%の切断面を得られることが開示されている。
【0008】
特許文献2には、溶接鋼板の溶接部の近傍の熱影響軟化部の幅が板厚の25%以下で、かつ、少なくとも一方の母材の引張強度が780MPa以上である薄鋼板を突き合わせて、8m/min以上の溶接速度でレーザ溶接を行って製造されたレーザ突き合わせ溶接鋼板は、プレス成形中の熱影響軟化部での破断に起因した成形性の不良を解決できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−137607号公報
【特許文献2】特開2006−218500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、突き合わせ溶接用鋼板においてクリアランスが例えば15%以上となる切断については記載されていない。また、特許文献2には、突き合わせ溶接用鋼板の切断に関して何も記載されていない。
【0011】
このため、特許文献1、2により開示された発明に基づいても、クリアランスが例えば15%以上と大きい条件で切断された端面を有する鋼板を用いてもアンダーフィルの小さい良好な溶接品質が得られるテーラードブランクを製造することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、クリアランスが15〜25%に設定された金型により切断された端面を有する第1の鋼板のこの端面と、クリアランスが15〜25%に設定された金型により切断された端面を有する第2の鋼板のこの端面とを突き合わせ溶接して一体化したテーラードブランクの製造方法であって、第1の鋼板における前記端面のせん断面比率、および前記第2の鋼板における前記端面のせん断面比率が、いずれも、25%以上であることを特徴とするテーラードブランクの製造方法である。
【0013】
この本発明において、「クリアランス」とは、{(金型の上刃および下刃の、切断方向と直交する方向の間隔)/板厚}×100(%)を意味する。
この本発明では、第1の鋼板および前記第2の鋼板は、いずれも、(a)体積率で95%以上の実質的にフェライト単相、または、体積率で95%以上の実質的にベイナイト単相からなる金属組織を有すること、または(b)合計の体積率で95%以上の実質的にフェライトおよびベイナイトの2相からなる金属組織を有し、フェライトの体積率が65%以上またはベイナイトの体積率が60%以上であることが望ましい。
【0014】
別の観点からは、本発明は、突き合わせレーザ溶接するための切断加工を行われた端面を有するテーラードブランク用鋼板であって、(c)体積率で95%以上の実質的にフェライト単相または体積率で95%以上の実質的にベイナイトの単相からなる金属組織を有するとともに、前記端面のせん断面比率が25%以上であること、または(d)合計の体積率で95%以上の実質的にフェライトおよびベイナイトの2相からなる金属組織を有し、フェライトの体積率が65%以上またはベイナイトの体積率が60%以上であるとともに、前記端面のせん断面比率が25%以上であることを特徴とするテーラードブランク用鋼板である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生産管理が容易で良好な溶接品質が得られる、テーラードブランクの製造方法およびテーラードブランク用鋼板を提供すること、具体的には、切断クリアランスが15%以上と大きい条件で切断された鋼板を用いる場合であっても、アンダーフィルの小さい良好な溶接品質が得られるテーラードブランクの製造方法およびテーラードブランク用鋼板を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、体積率がフェライト100%のフェライト単相組織を有する、板厚2.9mmの780MPa級熱延鋼板と、板厚2.3mmの780MPa級熱延鋼板とを切断金型を用いて切断した後にこの切断による端面でレーザ突き合わせ溶接を行うことにより、切断金型のクリアランスがレーザ溶接部のアンダーフィルに及ぼす影響を調査した結果を示すグラフである。
【図2】図2は、体積率がフェライト100%のフェライト単相組織を有する、板厚2.9mmの780MPa級熱延鋼板と、板厚2.3mmの780MPa級熱延鋼板とを切断金型を用いて切断した後にこの切断による端面でレーザ突き合わせ溶接を行うことにより、切断金型のクリアランスが端面の形状(せん断破面率およびダレ角度)に及ぼす影響を調査した結果を示すグラフである。
【図3】図3(a)〜図3(c)は、フェライト単相組織を有するとともに、板厚がそれぞれ2.9mm、2.3mmである780MPa級の二枚の鋼板のぞれぞれの端面同士を突き合わせた際に形成される隙間に及ぼすクリアランスの影響を模式的に示す説明図であり、図3(a)、図3(b)、図3(c)は、それぞれ、クリアランスが10%である場合、15%である場合、20%である場合を示す。
【図4】図4は、板厚2.0mm、強度780MPaのフェライト単相組織を有するA鋼板と、板厚2.0mm、強度980MPaのフェライト50%およびマルテンサイト50%の2相組織を有するB鋼板とに関して、クリアランスとせん断面比率との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、A鋼板とB鋼板とに関して、クリアランスとアンダーフィルとの関係を示すグラフである。
【図6】図6は、素材である鋼板のフェライト面積率とせん断面率との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、素材である鋼板のフェライト面積率とアンダーフィルとの関係を示すグラフである。
【図8】図8は、フェライト70%および残部ベイナイトの2相組織を有する鋼板の一例の金属組織写真である。
【図9】図9は、フェライト70%および残部ベイナイトの2相組織を有する2枚の鋼板(板厚2.9mm、2.3mm)の、クリアランス20%で切断された端面の突き合わせ状況と、エネルギー4.5kW、焦点径0.6mmおよび溶接速度3.75m/minの溶接条件でレーザ溶接された溶接部の端面の一例の断面写真である。
【図10】図10は、疲労強度に及ぼすアンダーフィルの影響を評価するための疲労試験の結果を示すグラフである。
【図11】図11は、疲労試験に用いるレーザ突き合わせ鋼板を構成する鋼板のせん断性評価試験の概要を示す説明図である。
【図12】図12は、鋼板の突合せ溶接部のアンダーフィルを示す説明図である。
【図13】図13は、鋼板の切断の状況を模式的に示す説明図である。
【図14】図14は、鋼板の切断端面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態を、添付図面を参照しながら説明する。
(1)本発明の原理
図1は、体積率がフェライト100%のフェライト単相組織を有する、板厚2.9mmの780MPa級熱延鋼板と、板厚2.3mmの780MPa級熱延鋼板とを切断金型を用いて切断した後にこの切断による端面でレーザ突き合わせ溶接を行うことにより、切断金型のクリアランスがレーザ溶接部のアンダーフィルに及ぼす影響を調査した結果を示すグラフであり、図2は、この場合に切断金型のクリアランスが端面の形状(せん断破面率およびダレ角度)に及ぼす影響を調査した結果を示すグラフである。
【0018】
図1にグラフで示すように、従来、溶接に適した切断端面を得られないと考えられてきた大きなクリアランス(例えば10%以上)での切断でも、フェライト単相組織を有する鋼板の場合には、アンダーフィルが25%以下の比較的良好な溶接部が得られること、および、クリアランスの増加とともにアンダーフィルが増大するが、クリアランスが15%を超えるとアンダーフィルが逆に減少することがわかる。
【0019】
また、図2にグラフで示すように、フェライト単相組織を有する鋼板では、クリアランスの増加とともに破断面のダレ角およびせん断面率がいずれも増加することがわかる。
図1にグラフで示すように、クリアランスの増加に伴ってアンダーフィルが増減する理由を、図3を参照しながら説明する。
【0020】
図3(a)〜図3(c)は、フェライト単相組織を有するとともに、板厚がそれぞれ2.9mm、2.3mmである780MPa級の二枚の鋼板1、2のぞれぞれの端面同士を突き合わせた際に形成される隙間3に及ぼすクリアランスの影響を模式的に示す説明図であり、図3(a)、図3(b)、図3(c)は、それぞれ、クリアランスが10%である場合、15%である場合、20%である場合を示す。
【0021】
図3(a)に示すように、クリアランスが10%であると、鋼板1、2のダレ角が小さいために突き合わせ時の隙間3が小さくなり、接合に適した端面を得られる。
図3(b)に示すように、クリアランスが15%であると、せん断面およびダレ角がいずれも大きいため、突き合わせ時の隙間3が大きくなり、アンダーフィルが大きくなる。
【0022】
図3(c)に示すように、クリアランスが20%であると、ダレ角が大きいもののせん断面率も大きいため、突き合わせた際の突き合わせ端面の接触領域が広がるため、隙間3が小さくなり、アンダーフィルが逆に減少する。
【0023】
次に、切断端面形状ならびにアンダーフィルに及ぼす鋼板組織の影響を説明する。
図4は、板厚2.0mm、強度780MPaのフェライト単相組織の鋼板(以下、「A鋼板」という)と、板厚2.0mm、強度980MPaのフェライト50%とマルテンサイト50%との2相組織の鋼板(以下、「B鋼板」という)とに関して、クリアランスとせん断面比率との関係を示すグラフであり、図5は、A鋼板とB鋼板とに関して、クリアランスとアンダーフィルとの関係を示すグラフである。図4、5のグラフにおける丸印はA鋼板を示し、三角印はB鋼板を示す。なお、図5に示すグラフにおいて、アンダーフィルは、種々のクリアランスで切断した端面を突き合わせて形成される隙間の形状を測定することにより算出した。
【0024】
図4、5にグラフで示すように、A鋼板はB鋼板に比べて、クリアランス10〜23%の全領域においてせん断面比率が大きいため、アンダーフィルが小さくなることがわかる。特に、クリアランスが20%以上の領域では、A鋼板はB鋼板に比べてアンダーフィルが大きく減少することがわかる。
【0025】
図6は、素材である鋼板のフェライト面積率とせん断面率との関係を示すグラフであり、図7は、素材である鋼板のフェライト面積率とアンダーフィルとの関係を示すグラフである。図6、7のグラフに示されるフェライト面積率を有する鋼板は、フェライト単相組織、ベイナイト単相組織、またはフェライトおよびベイナイトの2相組織のいずれかの金属組織を有する鋼板である。なお、図6、7のグラフにおける丸印、四角印、菱形印は、それぞれ、クリアランスが10%、15%、20%であることを示す。
【0026】
図6,7にグラフで示すように、
(I)鋼板がフェライト単相またはベイナイト単相の金属組織を有すること、または
(II)鋼板がフェライトおよびベイナイトよりなる二相を主体とする金属組織を有し、かつ、フェライトの体積率が65%以上またはベイナイトの体積率が60%以上であること
によって、切断金型の上刃および下刃によるクラックの発生および成長を遅延させることができ、これにより、クリアランスが比較的狭い場合は元より、クリアランスが15%以上、例えば20%程度に大きい場合においても、突合せ溶接に有利な広いせん断面と小さい端面隙とを有する切断端面を得ることができる。
【0027】
図8は、フェライト70%および残部ベイナイトの2相組織を有する鋼板の一例の金属組織写真であり、図9は、フェライト70%および残部ベイナイトの2相組織を有する2枚の鋼板(板厚2.9mm、2.3mm)の、クリアランス20%で切断された端面の突き合わせ状況と、エネルギー4.5kW、焦点径0.6mmおよび溶接速度3.75m/minの溶接条件でレーザ溶接された溶接部の端面の一例の断面写真である。
【0028】
(2)第1、2の鋼板の化学組成
本発明で用いる第1の鋼板および第2の鋼板それぞれの好適な化学組成を説明する。
第1の鋼板または第2の鋼板の化学組成は、例えば、C:0.02〜0.2%、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.2〜2.0%、P:0.10%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.02〜2.0%、N:0.01%以下、任意添加元素として、Ti:0.3%以下、Nb:0.1%以下、V:0.3%以下およびMo:0.3%以下の1種もしくは2種以上、残部Feおよび不純物が例示される。この理由を説明する。
【0029】
[C:0.02〜0.2%]
Cは、強度を決定する重要な元素である。590MPa以上の強度を達成するために、C含有量を0.02%以上とする。過度に含有すると、粗大炭化物の形成により母材の成形性を損なうことと、硬質第2相を形成して切断端面のせん断面比率を低下させ、高クリアランス域で溶接不良を生じやすくなるため上限を0.2%とする。したがって、C含有量は0.02%以上0.2%以下とするのが望ましい。
【0030】
[Si:0.01〜1.5%]
Siは、母材の強度−成形性バランスを向上するとともに、鋼中セメンタイトの粗大化を抑制して切断性を向上させるために、0.01%以上含有する。Si含有量は0.2%以上とすることが望ましい。しかし、過剰の含有により製品表面に施されるリン酸〜リン酸亜鉛による化成処理性を損なうため、上限を1.5%とする。したがって、Si含有量は0.01%以上1.5%以下とするのが望ましい。
【0031】
[Mn:0.2〜2.0%]
Mnは、強度確保に有効な元素であり、含有量を0.2%以上とする。過剰の含有は硬質な第2相の形成を促して切断性を低下させるため、上限を2.0%とする。したがって、Mn含有量は0.2%以上2.0%以下とするのが望ましい。
【0032】
[P:0.10%以下]
Pは強度の確保に寄与する元素であるが、粒界に偏析し脆化を生じるため、含有量は0.10%を上限とするのが望ましい。
【0033】
[S:0.01%以下]
Sは、Mn等と結合し、粗大な硫化物系の介在物を形成して加工性を著しく損なうため、その含有量は0.01%以下とするのが望ましい。
【0034】
[sol.Al:0.02〜2.0%]
Alは、延性を向上させる元素であるが、過度に含有させると、熱間圧延における仕上温度を過度に上昇させる必要が生じることがあるため、sol.Al含有量を2.0%以下とする。下限は不純物レベルでよい。通常脱酸過程により0.02%程度混入する。したがって、sol.Al含有量は0.02%以上2.0%以下とするのが望ましい。
【0035】
[N:0.01%以下]
Nは、加工性を損なう不純物元素であり、その含有量は0.01%以下とするのが望ましい。より好ましくは0.006%以下である。
【0036】
次に、任意添加元素を説明する。
[Ti:0.2%以下、Nb:0.1%以下、V:0.3%以下およびMo:0.3%以下の1種または2種以上]
これらの元素は、1種を単独で、または2種以上を複合して含有することにより、Cと結合し微細な金属炭化物を形成し強度の向上に著しく寄与するとともに、成形性を劣化させる粗大な鉄炭化物の生成を抑制する効果があり、さらに、切断時のクラック伝播を抑制してせん断面を拡大し、突合せ溶接性を向上する効果があるが、過剰に含有すると粗大な炭窒化物を形成し、切断時のクラック源となってせん断面を縮減しつき合わせ溶接性を低下させるので、Ti:0.2%以下、Nb:0.1%以下、V:0.3%以下およびMo:0.3%以下とすることが望ましい。上述した効果を確実に奏するために、Ti:0.01%以上、Nb:0.01%以上、V:0.01%以上、Mo:0.01%以上であることが望ましい。
【0037】
上記以外はFeおよび不純物である。
(3)第1、2の鋼板の金属組織
第1の鋼板または第2の鋼板は、
(A)体積率で95%以上の実質的にフェライト単相の金属組織を有すること、
(B)体積率で95%以上の実質的にベイナイト単相の金属組織を有すること、または
(C)合計の体積率で95%以上の実質的にフェライトおよびベイナイトの2相の金属組織を有し、フェライトの体積率が65%以上またはベイナイトの体積率が60%以上であることが有効である。
【0038】
これらの場合の残部組織として、マルテンサイト、パーライト、残留オーステナイトの1種または2種以上を有していてもよい。以下、残部組織を説明する。
第1の鋼板または第2の鋼板がフェライト単相の金属組織を有する場合には、ベイナイト、マルテンサイト、パーライト、残留オーステナイトの1種または2種以上を、合計の体積率で0%以上5%未満、残部組織として有していてもよい。
【0039】
第1の鋼板または第2の鋼板がベイナイト単相の金属組織を有する場合には、フェライト、マルテンサイト、パーライト、残留オーステナイトの1種または2種以上を、合計の体積率で0%以上5%未満、残部組織として有していてもよい。
【0040】
第1の鋼板または第2の鋼板がフェライトおよびベイナイトの2相の金属組織を有する場合には、残部組織として、マルテンサイト、パーライト、残留オーステナイトの1種または2種以上を合計で0%以上5%未満、残部組織として有していてもよい。
【0041】
第1の鋼板または第2の鋼板が上述したいずれかの金属組織を有すると、第1の鋼板または第2の鋼板の局部変形能が優れるため、クラックの発生および進展が抑制され、クリアランスが15%以上25%以下の条件で25%以上のせん断面率を確保することが可能となる。
【0042】
第1の鋼板または第2の鋼板がフェライト単相の金属組織を有する場合にフェライト体積率が95%未満になったり、あるいは、第1の鋼板または第2の鋼板がベイナイト単相の金属組織を有する場合にベイナイト体積率が95%未満になると、破断面が早期に形成されるためにせん断面の確保が不十分となり、溶接部のアンダーフィルが増大し易くなる。
【0043】
また、第1の鋼板または第2の鋼板がフェライトおよびベイナイトの2相の金属組織を有する場合に、フェライトとベイナイトの合計の体積率が95%未満になったり、フェライトの体積率が65%未満になったり、またはベイナイトの体積率が60%未満になると、破断面が早期に形成されるためにせん断面の確保が不十分となり、溶接部のアンダーフィルが増大し易くなる。
【0044】
第1の鋼板または第2の鋼板は、体積率で95%以上の実質的にフェライト単相の金属組織を有することが望ましい。
第1の鋼板または第2の鋼板の金属組織に、硬質相であるマルテンサイトが混在すると、切断による変形の際に、他の組織との界面にボイドが発生し易く、上刃または下刃から早期にクラックを生じて突合せ性ならびに突合せ溶接性が低下するとともに、シャシー部品素材として重要なバーリング加工性が低下する。したがって、第1の鋼板または第2の鋼板におけるマルテンサイトの体積率は5%未満であることが望ましく、3%未満であることがさらに望ましい。
【0045】
(4)第1、2の鋼板の板厚
板厚は、特に限定しないが、例えば2mm以上であることが望ましい。板厚が大きくなると、切断時の刃に加える荷重が大きくなる。このため、刃の損耗を抑えるために、クリアランスを大きく設定した切断が指向されるために大きなアンダーフィルが発生し易くなるからである。板厚の上限は、特に制限する必要はないが、テーラードブランクとして適用が想定される自動車部品の場合には、5mm程度が上限である。
【0046】
(5)第1、2の鋼板の引張強さ
引張強さは、特に規定しないが、引張強度が低いと、クリアランスが大きい条件で大きなせん断面を得ようとすると端面にバリが生じ易くなり、溶接用鋼板の端面として適さない。このため、第1、2の鋼板の引張強さは590MPa以上であることが望ましい。
【0047】
なお、第1、2の鋼板として引張強度が590MPa以上の鋼板を用いるにあたっては、フェライトあるいはベイニティックフェライトを固溶強化あるいは析出強化の一方または双方として用いて、強化された鋼板とするのが望ましい。
【0048】
(6)クリアランス
本発明は、クリアランスが15%以上25%以下である金型により切断された、第1の鋼板または第2の鋼板の端面を突き合わせ溶接してテーラードブランクを製造することを前提とする。なお、この15%以上25%以下というクリアランスは、周知慣用のクリアランスに比べて極めて大きいものである。クリアランスが25%を超えると、バリが生じ易い。
【0049】
(7)第1、2の鋼板の切断端面のせん断面比率
切断端面のせん断面比率が25%以上である2枚の鋼板を突き合わせて溶接することによってアンダーフィルが25%以下の疲労強度に優れた溶接部を得ることができる。
【0050】
なお、突き合わせる第1の鋼板および第2の鋼板の少なくともいずれか一方の端面のせん断面比率が25%未満であると、25%以下のアンダーフィルを確保することが困難になる。第1、第2の鋼板の切断端面のせん断面比率はいずれも40%以上であることが望ましい。せん断面比率の上限は特に規定しないが、クリアランスが15%以上25%以下の切断では、せん断面比率は90%程度が上限となる。
【0051】
なお、せん断面は、切断端面の表面を目視観察し、板厚方向に上下のスジを伴う光沢のある部分として判別される。
(8)第1、2の鋼板の突き合わせ形態
第1の鋼板および第2の鋼板の突き合わせ形態は、特に限定しないが、第1の鋼板および第2の鋼板それぞれのせん断面同士が対向するように、突き合わせることが望ましい。
【0052】
(9)第1、2の鋼板の溶接部のアンダーフィル
第1、2の鋼板の溶接部のアンダーフィルが過大となると、成形品の疲労強度が大きく低下する。アンダーフィル部が応力集中部となり、アンダーフィルが大きいほど応力集中が大きくなるからである。したがって、溶接金属のアンダーフィルは25%以下とすることが望ましい。以下、詳細に説明する。
【0053】
図10は、疲労強度に及ぼすアンダーフィルの影響を評価するための疲労試験の結果を示すグラフである。また、図11は、この疲労試験に用いるレーザ突き合わせ鋼板を構成する鋼板のせん断性評価試験の概要を示す説明図である。
【0054】
図11に示すように、板厚が2.6mmの780MPa級の熱延鋼板10と、板厚が2.3mmの780MPa級の熱延鋼板11とを、金型の上刃12および下刃13によりクリアランス10%で切断した。
【0055】
そして、板押さえ14側の熱延鋼板10、11を突き合わせ、突き合わせの際の隙間量0〜0.15mmに変化させて、出力4.5kWおよび溶接速度4m/minの溶接条件でレーザにて突き合わせ溶接してアンダーフィル量の異なる疲労試験片を製作した。
【0056】
この疲労試験片を用いて周波数約30Hzの両振り平面曲げ試験を実施した。同じアンダーフィルを有する試験片を種々の応力で疲労試験を行い、破断する繰り返し数(破断寿命)を求め、応力と破断寿命とから疲労強度特性線図(SN線図)を作成した。SN線図から、各アンダーフィルでの100万回破断応力を求めた。
【0057】
図10にグラフで示すように、アンダーフィルの増大とともに疲労強度は低下することがわかる。特にアンダーフィルが20%から30%までにおいて、疲労強度が大きく低下しており、アンダーフィルは25%以下であることが望ましいことがわかる。アンダーフィルが過大となると、溶接部の穴明き欠陥が発生しやすい。さらに望ましくは、アンダーフィル量は23%以下である。
【0058】
(10)溶接方法
溶接方法は、レーザ溶接や電子ビーム溶接のような溶融部の小さい高エネルギービーム溶接法であることが望ましい。
【0059】
(11)適用対象
本発明に係るテーラードブランク用鋼板の適用対象は、特に限定する必要はないが、例えば、ホイール、サスペンションアームさらにはサスペンションメンバといった、自動車の足廻り部品の製造に好適である。自動車の足廻り部品は、板厚が比較的厚く、端面を精度良く切断することが困難であるために、本発明がより有効となるためである。
【実施例1】
【0060】
C:0.05%、Si:0.98%、Mn:1.3%、P:0.008%、S:0.0009%、sol.Al:0.18%、N:0.0029%、Ti:0.17%、Nb:0.032%、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、フェライト体積率が70%であって残部ベイナイトの2相の金属組織を有するとともに、公称強度グレードが780MPaである、板厚2.9mmの第1の鋼板および板厚2.3mmの第2の鋼板を種々の切断条件で切断し、第1の鋼板および第2の鋼板を突き合わせてレーザ溶接を行った。
【0061】
レーザ溶接は、YAGレーザを用い焦点径0.6mmの光学条件で、出力4.5kWおよび溶接速度4m/minで行った。
第1の鋼板および第2の鋼板の突き合わせる端面のせん断面比率は、せん断端面を拡大鏡にて目視で測定して求め、溶接部のアンダーフィルは先端の尖ったマイクロメータで溶接部の肉厚を測定することにより求めた。表1に結果をまとめて示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1において、番号1、2はクリアランスが5%、10%の参考例であり、アンダーフィルの小さい溶接部を得られた。
番号4〜6は、クリアランスが16%、19%、24%であって、せん断面比率が27%〜45%の本発明例であり、アンダーフィルが25%以下の良好な接合部が得られた。
【0064】
番号3は、第1の鋼板のせん断面比率が23%であるために25%以下のアンダーフィルを確保することができなかった。
さらに、番号7は、第1の鋼板のクリアランスが28%であるために切断時に大きなバリが発生したため溶接が困難であった。
【実施例2】
【0065】
表2に示す鋼種A〜Lの化学成分と金属組織とを有する2.0mm厚の鋼板から、25mm幅、50mm長さの試験片を切り出し、図11に示すように先端10mmを種々のクリアランスでせん断切断して、切断端面のせん断面比率を測定した後、同一のクリアランスで切断した同一の金属組織を有する鋼板同士を突き合わせレーザ溶接した。
【0066】
【表2】
【0067】
レーザ溶接は、YAGレーザを用い焦点径0.6mmの光学条件で、出力4.5kW、溶接速度5m/minで行った。金属組織の構成分率は、製造した鋼板の圧延方向断面を鏡面研磨し、ナイタル腐食液により現出した顕微鏡写真を画像解析することにより求めた。
【0068】
結果を表3にまとめて示す。
【0069】
【表3】
【0070】
表3の試番2〜5、7〜10、12〜15、17〜20と試番32−45に示すように、鋼種A〜DならびにH〜Lでは、クリアランス15〜25%において、せん断面比率が25%以上の切断端面が得られ、この切断端面を有する鋼板同士を突き合わせ溶接することにより、アンダーフィル量が25%以下の良好な接合部が得られた。
【0071】
また、試番22〜30に示すように、鋼種E、F、Gでは、クリアランス15〜25%において、せん断面比率が25%未満となり、アンダーフィル量が25%超となった。
なお、試番1、6、11、16、21および31は、クリアランスが10.0%の参考例である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリアランスが15〜25%に設定された金型により切断された端面を有する第1の鋼板の当該端面と、クリアランスが15〜25%に設定された金型により切断された端面を有する第2の鋼板の当該端面とを突き合わせ溶接して一体化したテーラードブランクの製造方法であって、前記第1の鋼板における前記端面のせん断面比率、および前記第2の鋼板における前記端面のせん断面比率は、いずれも、25%以上であることを特徴とするテーラードブランクの製造方法。
【請求項2】
前記第1の鋼板および前記第2の鋼板は、いずれも、体積率で95%以上の実質的にフェライト単相、または、体積率で95%以上の実質的にベイナイト単相からなる金属組織を有する請求項1に記載されたテーラードブランクの製造方法。
【請求項3】
前記第1の鋼板および前記第2の鋼板は、いずれも、合計の体積率で95%以上の実質的にフェライトおよびベイナイトの2相からなる金属組織を有し、前記フェライトの体積率が65%以上または前記ベイナイトの体積率が60%以上である請求項1に記載されたテーラードブランクの製造方法。
【請求項4】
突き合わせレーザ溶接するための切断加工を行われた端面を有するテーラードブランク用鋼板であって、体積率で95%以上の実質的にフェライト単相または体積率で95%以上の実質的にベイナイトの単相からなる金属組織を有するとともに、前記端面のせん断面比率は25%以上であることを特徴とするテーラードブランク用鋼板。
【請求項5】
突き合わせレーザ溶接するための切断加工を行われた端面を有するテーラードブランク用鋼板であって、合計の体積率で95%以上の実質的にフェライトおよびベイナイトの2相からなる金属組織を有し、前記フェライトの体積率が65%以上または前記ベイナイトの体積率が60%以上であるとともに、前記端面のせん断面比率は25%以上であることを特徴とするテーラードブランク用鋼板。
【請求項1】
クリアランスが15〜25%に設定された金型により切断された端面を有する第1の鋼板の当該端面と、クリアランスが15〜25%に設定された金型により切断された端面を有する第2の鋼板の当該端面とを突き合わせ溶接して一体化したテーラードブランクの製造方法であって、前記第1の鋼板における前記端面のせん断面比率、および前記第2の鋼板における前記端面のせん断面比率は、いずれも、25%以上であることを特徴とするテーラードブランクの製造方法。
【請求項2】
前記第1の鋼板および前記第2の鋼板は、いずれも、体積率で95%以上の実質的にフェライト単相、または、体積率で95%以上の実質的にベイナイト単相からなる金属組織を有する請求項1に記載されたテーラードブランクの製造方法。
【請求項3】
前記第1の鋼板および前記第2の鋼板は、いずれも、合計の体積率で95%以上の実質的にフェライトおよびベイナイトの2相からなる金属組織を有し、前記フェライトの体積率が65%以上または前記ベイナイトの体積率が60%以上である請求項1に記載されたテーラードブランクの製造方法。
【請求項4】
突き合わせレーザ溶接するための切断加工を行われた端面を有するテーラードブランク用鋼板であって、体積率で95%以上の実質的にフェライト単相または体積率で95%以上の実質的にベイナイトの単相からなる金属組織を有するとともに、前記端面のせん断面比率は25%以上であることを特徴とするテーラードブランク用鋼板。
【請求項5】
突き合わせレーザ溶接するための切断加工を行われた端面を有するテーラードブランク用鋼板であって、合計の体積率で95%以上の実質的にフェライトおよびベイナイトの2相からなる金属組織を有し、前記フェライトの体積率が65%以上または前記ベイナイトの体積率が60%以上であるとともに、前記端面のせん断面比率は25%以上であることを特徴とするテーラードブランク用鋼板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−143430(P2011−143430A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5112(P2010−5112)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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