説明

ディスクブレーキのブレーキキャリパ

本発明は、内部に軸方向に移動可能なピストン(3)が配置されるボアホール(4)を有するハウジング(2)と、このハウジング内で回転可能かつ軸方向に移動可能に支持される駆動用シャフト(5)と、ブレーキパッドの磨耗を補償するため、スピンドル(21)を有する調節装置(20)とを備え、スピンドルとシャフトとの間にアキシアル軸受(15)が配置される、ディスクブレーキのキャリパ(1)に関する。耐磨耗性を改善するため、本発明によると、アキシアル軸受は均質な材料の基材から一体的に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキシアル軸受を有するディスクブレーキのブレーキキャリパに関し、このブレーキキャリパは、軸方向に移動可能なピストンが配置されるボアホールを有するハウジングと、回転可能で軸方向に移動可能に支えられ、一方のシャフト端がハウジング開口を貫通する駆動用シャフトと、1つ傾斜路部材がハウジングに回転固定され、1つの傾斜路部材がシャフトに回転固定される2つの二重反転傾斜路部材と、スピンドルを有しかつシャフトとピストンとの間に配置される調節装置と、スピンドルとシャフトとの間で作用するアキシアル軸受とを備える。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、アキシアル軸受を有する自動車ディスクブレーキ用の一般的な形式の複合ブレーキキャリパを開示する。このブレーキキャリパは、ボアホールを有するハウジングを備え、このボアホール内にブレーキ作動ピストンが移動可能に配置される。駐車ブレーキを作動するため、ブレーキハウジング内にシャフトが回転可能に支持されており、このシャフトは、ブレーキハウジングを貫通し、傾斜路装置(ramp arrangement)の一方の傾斜路部材に接続されている。第2の関連する傾斜路部材は、ハウジングに固定されて配置されている。シャフトと傾斜路装置との間のくさび機構状の作動により、シャフトも回転駆動運動の下で軸方向に移動される。シャフトは、この軸方向移動を調節装置のスピンドルに伝達し、このシャフトとスピンドルとの間にはアキシアル軸受が配置されている。この軸方向移動は、調節装置を介してピストンに伝達される。ここに、調節装置のケーシングが、ハウジングと一体の傾斜路装置に回転固定されている。
【0003】
ねじれ防止装置(torsional safeguard)の構成部材を省略するため。アキシアル軸受を鋼板で形成し、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)の低摩擦コーティングを施し、これに、鉛−銅混合体を埋設することが提案されている。
【0004】
特に集中的な応力及び/又は長時間にわたる作動で、このように被覆された鋼板は、被覆が剥れるという難点があることが判明した。この剥離は、関連する摩擦対間に、例えば僅かなゆがみが発生したときに発生する。そして、被覆の局部的な過大応力による過度の表面圧力が、アキシアル軸受の基材と被覆との間の境界面の領域で剥れを生じさせる。アキシアル軸受の摩擦力低減特性が喪失することの結果、剥離した被覆片又は粒子がブレーキ流体内に入り、ブレーキ流体を汚染する虞がある。一般的な形式のブレーキキャリパでは、軸方向アライメントの誤差又はゆがみは完全には排除できず、このため、特許文献1では、この問題を避けるために凸状に湾曲したアキシアル軸受が特に推奨されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許公報EP0436906B1
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、特に、製造コスト低減のために改善された磨耗特性を有する、一般的な形式の改善されたブレーキキャリパを提供することである。
【0007】
この目的は、請求項1の特徴により達成される。この発明では、特定のプロセスの全工程、すなわち、基板の被覆工程が省略でき、複雑な球状面形状を形成する必要がない、という特に有益な利点が得られる。これは、製造コストを低減する。更に、本発明の詳細は、好ましい実施形態の図を参照する説明と共に、従属形式の請求項から得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、第1の実施形態による調節および駆動装置を有するブレーキキャリパの拡大断面図である。
【図2】図2は、アキシアル軸受ディスクを有する実施形態の分解図である。
【図3】図3は、a),b),c)でアキシアル軸受ディスクの拡大図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
特に、自動車ディスクブレーキのブレーキキャリパ1は、ハウジング2とピストン3とを備え、このピストンはブレーキを作動させるために、ボアホール4内に移動可能に配置されている。ここでは、ピストン3は、通常のブレーキ作動中、液圧的に加圧されることで移動される。駐車ブレーキ作動に移行するため、シャフト5が設けられており、このシャフトにより、ピストン3は駆動装置10を介して長手方向軸9に沿ってボアホール4内で移動することができる。シャフト5は、作動レバー7を取付けられる一方のシャフト端6が、ハウジング2の開口を貫通する。駆動装置10は可変長の調節装置20を介してピストン3に作用する。
【0010】
駆動装置10は、傾斜路装置(ramp arrangement)11を備え、この傾斜路装置はハウジングと一体の傾斜路部材12と、この傾斜路部材12に対して回転可能な傾斜路部材13とを有する。ここでは、傾斜路部材13は、シャフト5のディスク状端部8に一体に形成してある。複数の回転部材14が傾斜路部材12,13間に配置されており、傾斜路部材12,13が反対方向に回転すると、傾斜路装置10は、矢印で表示するように、駆動方向に長手方向軸9に沿ってシャフト5を軸方向に移動させる。
【0011】
シャフト5の端部8とピストン3との間に、可変長の調節装置20が配置されており、この調節装置は、傾斜路装置11のストロークをピストン3に伝達し、更に、ブレーキライニング(図示しない)および関連するブレーキディスク(図示しない)の磨耗を補償する。特に、この調節装置20は、端部22を有するスピンドル21とナット24とを有し、このナットはスピンドル21の軸部23上に螺合され、ピストン3を支える。ディスク状スライド軸受の形態のアキシアル軸受15が、スピンドル21の端面と端部8との間に設けられている。
【0012】
ばね26は、スプリングキャップ27により、スピンドル21をアキシアル軸受15に向けて付勢する。このスプリングキャップ27は、突出するクリップ28により、ボアホール4内の凹部28に軸方向および半径方向に支えられている。
【0013】
歯部システム30の複数の通常の歯がスピンドル21の端部22の周部に取付けられており、したがって、端部22は実質的に星形の断面形状を形成する。スピンドル21を捩じりに対して保護するため、ハウジングと一体のケーシング31が端部22を囲んでいる。ケーシング31は、少なくとも一部が端部22に対応した実質的に星形の内部断面形状(internal profile)34を有するため、歯部システム30に係合し、端部22と共に接線方向における確実な連結接続部を形成する。これにより、スピンドル21は駆動方向に移動可能であるが、同時に、捩じりに対して保護された状態で、ケーシング31の内側、したがってブレーキキャリパ1内でも着座(seated)している。
【0014】
取り扱い容易な組立ユニットを形成するため、本発明によると、機械的駆動装置10および調節装置20の主要部材は、一体的に結合されて1つのユニットを形成しており、これを特に図2に示してある。ここでは、スプリングキャップ27と傾斜路部材12との間の固定は、ケーシング31の予め組立てられた結合体を形成する。この予め組立てられた結合体は、更に、傾斜路部材11とシャフト5とアキシアル軸受15とスピンドル21とスプリング26とケーシング31とを、スプリングキャップ27と共に備える。
【0015】
ケーシング31を組立てるため、傾斜路部材11とアキシアル軸受15とスピンドル21とが、最初にケーシング31内に挿入され、このケーシングは、屈曲したクリップ32により回転固定された(rotationally fixed)傾斜路部材12にロックされ、したがって、個々の部材をケーシング31の外形の内側に共に収容した状態に保持する(captively holding)。スプリングキャップ27は、突出したクリップ33上の内側スプリング26と共にケーシング31に機械的に保持する(latch)ことができる。これによる予め組立てられた組立てユニットは独立して取扱うことができ、ボアホール4内に導入した後は、スプリングキャップ27の他の突出クリップ28により、ブレーキキャリパ1の凹部29内にスナップ止め(snap)することができる。
【0016】
駐車ブレーキは以下のように機能する。駐車ブレーキを作動すると、作動レバー7により、シャフト5および端部8が回転され、傾斜路装置11が回転される。この結果、2つの傾斜路部材12,13がシャフト5および端部8を軸方向に移動させる。この軸方向移動は、アキシアル軸受25により端部22およびスピンドル21に伝達される。スピンドル21は、端部22の歯部システム30で、ケーシング31内に回転固定された状態で案内されるため、スピンドル21は回転することなく、軸方向にのみ移動する。ピストン3は軸部23に螺合されたナット24により軸方向に移動され、ブレーキライニング(図示しない)をブレーキディスク(図示しない)の方向に駆動する。
【0017】
本発明のアキシアル軸受15の主たる特徴について、以下に説明する。これによると、アキシアル軸受15は均質材料の基材(homogeneous material matrix)から一体的に形成される。言い換えると、このアキシアル軸受15は、種々の割合(fractions)の複数の成分(constituents)からなる極めて均質な混合体からなる材料成分から形成されており、この結果、ベース又は基材(担体)と被覆材料(被膜)との区分はない。このような実質的に均質材料の基材は、均一の一体ボディを形成し、ある程度の範囲にわたって磨耗が生じても、この部材の全寿命にわたって完全に同じ摩擦特性を有する。したがって、経年劣化による摩擦特性の変化、被覆又は被覆粒子の分離脱落の虞がない。この構成は、アキシアル軸受の基板を別個に製造し、その被覆のために準備し、更に、そのような被覆工程を行うことを省略でき、したがって、特に費用効率が高い製造工程が可能となる点で極めて有益である。製造は、例えば、費用効率を高めるために、高分子複合材料のポリマー材料を射出成形(thermal injection molding)等の鋳造により行うことができ、鋳型はアキシアル軸受15の端面35,36に平行に分離されることが特に有益である。本発明によれば、剥離、すなわち層の剥れは生じない。
【0018】
好ましい実施形態では、アキシアル軸受15は非金属のポリマー材料から形成されており、これが材料の基材を形成する。これにより、例えば銅、錫および鉛成分であるスライド軸受の重量金属は、ほとんど使用されない。更に、アキシアル軸受15の領域に防食手段が必要でなくなるという利点が得られる。ステンレス製のキャリア部材(ディスク)は必要なく、これは、基本的に吸湿性のブレーキ流体は、全体的に非金属材料で形成されたアキシアル軸受15に対して何ら腐食させることの原因とはならないからである。
【0019】
材料基材を補強するため、例えば繊維強化材のような補強用充填材(inlays)を少なくとも一部に有してもよく、原則として複数の統計的(statistically)すなわち理論的に無方向性の合成繊維(繊維、糸又は撚糸)、特に、炭素、ガラス又はアラミド繊維の割当分(portions)を実質的に均質に複合材料の基材に埋設することが可能である。他の成分(fractions)又は上述の繊維部分の混合体(mixtures)であってもよい。原則として、代替又は追加のいずれの場合でも、繊維強化材は織物の形態を取ることができる。これは、アキシアル軸受15に内部結合力を付与し、更に、ミスアライメントおよび傾斜磨耗(skewed wearing)に対する終局的強度抵抗を付与し、高温強度を増大する。炭素繊維を使用することが特に有益であり、これは、原子格子構造が、一般的にステンレス合金鋼材料を含む摩擦対の特に好ましい摩擦特性とすることができるからである。
【0020】
繊維は、少なくともその成形の際に、少なくとも大部分(in the main)が粘性の塊状樹脂であるポリマー材料内に完全に埋設される。ここで、この材料は、例えば、特に、ポリエーテル ケトン(略称 PEK)のグループの1つ、特に、ポリテーテル エーテル ケトン(略称 PEEK; PEEEK, PEEKEK)のような熱可塑性の強固な(tough)ポリマー材料(プラスチック)がより好ましく、これは、これらの材料が高いガラス転移温度と、溶融温度とを有し、これにより、特に好ましい高温強度特性を有するからである。
【0021】
各アキシアル軸受15は、原則として、径Dの平坦な面状円形ディスク(flat, plane circular disk)で形成されており、このディスクは、摩擦対に面する端面35,36と、円形ディスクの中心37に設けられた貫通孔38とを有する。
【0022】
アキシアル軸受15の端面35,36の少なくとも一方、好ましくは両端面35,36は、均一のデザインで中心37から半径方向外方に放射状に延び、同じ角度αで規則的に分布させた複数の溝39,40,41を有する。両面に配置する場合は、ノッチ効果(notch effect)を生じさせないため、端面35の溝39,40,41を端面36の溝に対して、好ましくはα/2の角度だけオフセットさせる。この実施形態では、3つの溝39,40,41が設けられている。これらの溝39,40,41は、半径方向外方に向けて幅が広がる(通路)断面形状を有する。ここで、溝39,40,41の断面形状は、大部分(largely)矩形形状である。溝39,40,41の深さtはほぼ一定である。平面視では、各溝39,40,41は台形形状である。溝39,40,41は、半径方向外方で、半径rの丸みを付けられ、すなわち次第に、アキシアル軸受の周部Uに移行する。スプルーAの残留物は、射出成形による製造であることを表示する。アキシアル軸受の周部Uにおける環状の周方向に延びる、鋳型仕切部のバリ(mold parting burr)も残留し、同様に、射出成形により製造されたことを表示する。
【0023】
参照符号のリスト
1 ブレーキキャリパ
2 ハウジング
3 ピストン
4 ボアホール
5 シャフト
6 シャフト端
7 作動レバー
8 端部
9 長手方向軸
10 駆動装置
11 傾斜路装置
12 傾斜路部材
13 傾斜路部材
14 回転部材
15 アキシアル軸受
20 調節装置
21 スピンドル
22 端部
23 軸部
24 ナット
26 ばね
27 スプリングキャップ
28 クリップ
29 凹部
30 歯部システム
31 ケーシング
32 クリップ
33 クリップ
34 内部断面形状
35 端面
36 端面
37 中心
38 貫通孔
39 溝
40 溝
41 溝
α 角度
t 深さ
r 半径
U 周部
A スプルー
D 径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に軸方向に移動可能なピストン(3)が配置されるボアホール(4)を有するハウジング(2)と、このハウジング内で回転可能かつ軸方向に移動可能に支持され、一方のシャフト端(6)がハウジング開口を貫通する駆動用シャフト(5)と、シャフト(5)の回転をピストン(3)の軸方向移動に変換する2つの反転傾斜路部材(12,13)を備え、1つの傾斜路部材(12)はハウジング(2)に回転固定され、1つの傾斜路部材(13)はシャフト(5)に回転固定され、更に、スピンドル(21)と、このスピンドル(21)とシャフト(5)との間に配置されたアキシアル軸受(15)とを備える、ディスクブレーキのブレーキキャリパ(1)であって、
前記アキシアル軸受(15)は、均質材料の基材から一体的に形成されていることを特徴とするブレーキキャリパ。
【請求項2】
前記アキシアル軸受(15)は非金属材料から形成されることを特徴とする請求項1に記載のブレーキキャリパ。
【請求項3】
前記均質材料の基材は、少なくとも一部に、繊維強化材を備えることを特徴とする請求項1に記載のブレーキキャリパ。
【請求項4】
構成要素として、前記繊維強化材は、フィラメント、糸又は撚糸の形態、特に、合成繊維部、合成繊維織布又は1又は複数のこれらの成分の組合せの形態の1又は複数の統計的に無方向性の埋設された合成繊維を備えることを特徴とする請求項3に記載のブレーキキャリパ。
【請求項5】
前記繊維強化材は、少なくとも1の炭素繊維部を有することを特徴とする請求項3又は4に記載のブレーキキャリパ。
【請求項6】
前記繊維強化材は、少なくとも1のガラス繊維部を有することを特徴とする請求項3から5のいずれか1つに記載のブレーキキャリパ。
【請求項7】
前記均質な材料の基材は、少なくとも1のプラスチック材料部を有することを特徴とする請求項1に記載のブレーキキャリパ。
【請求項8】
前記プラスチック材料は、特に熱可塑性ポリマー材料であるポリマー材料を備えることを特徴とする請求項7に記載のブレーキキャリパ。
【請求項9】
前記ポリマー材料は、ポリエーテル ケトン(PEK)のグループに属することを特徴とする請求項8に記載のブレーキキャリパ。
【請求項10】
アキシアル軸受の少なくとも1の端面(35,36)は、中心(37)から半径方向外方に放射状に延びる複数の溝(39,40,41)を有することを特徴とする請求項1に記載のブレーキキャリパ。
【請求項11】
前記溝(39,40,41)は、半径方向外方に向けて幅が広がる断面形状を有することを特徴とする請求項10に記載のブレーキキャリパ。
【請求項12】
前記溝(39,40,41)は、平面視で台形形状を有することを特徴とする請求項10又は11に記載のブレーキキャリパ。
【請求項13】
前記溝(39,40,41)の断面形状は、ほぼ矩形形状であることを特徴とする請求項10から12のいずれか1に記載のブレーキキャリパ。
【請求項14】
前記溝(39,40,41)は、一定の深さ(t)に形成されることを特徴とする請求項10から13のいずれか1に記載のブレーキキャリパ。
【請求項15】
前記溝(39,40,41)は、半径方向外方に開口し、半径(r)の丸みを付けられ、アキシアル軸受(15)の周部(U)に連続することを特徴とする請求項10から14のいずれか1に記載のブレーキキャリパ。
【請求項16】
前記溝(39,40,41)は、アキシアル軸受(15)の双方の端面に配置されていることを特徴とする請求項10から15のいずれか1つに記載のブレーキキャリパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−533709(P2012−533709A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516786(P2012−516786)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059280
【国際公開番号】WO2011/000867
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(500030596)コンチネンタル・テベス・アーゲー・ウント・コンパニー・オーハーゲー (126)
【Fターム(参考)】