説明

デジタル伝送方式の復号器及び受信装置

【課題】複数の振幅レベルを有する多様な変調方式に対して、伝送特性を改善する。
【解決手段】復号器(26)は、伝送路を通過した信号から既知情報である伝送信号点配置信号の信号点を抽出する伝送信号点配置信号抽出部(252)と、前記伝送信号点配置信号の信号点を平均化した伝送信号点配置信号の平均点を生成する伝送信号点配置信号平均化部(253)と、前記伝送路を通過した信号を、前記伝送信号点配置信号の平均点を目標集束点として、伝送路で生じる波形歪みを抑圧した適応等化信号を生成する適応等化部(256)と、前記適応等化信号の誤りを訂正する誤り訂正復号部(251)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星伝送路等で発生する歪を補償する、デジタル伝送方式の復号器及び受信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタル伝送方式では、各サービスで利用可能な周波数帯域幅において、より多くの情報が伝送可能となるように、一般に多値変調方式が用いられる。周波数利用効率を高めるには、変調信号1シンボル当たりに割り当てるビット数(変調多値数)を多くする必要があるが、周波数1Hzあたりに伝送可能な情報速度の上限値と信号対雑音比の関係はシャノン限界で制限される。
【0003】
衛星伝送路を用いた情報の伝送形態の一例として、衛星デジタル放送が挙げられる。例えば、図9に示すように、送信装置10からの変調波信号は、衛星中継器30を介して受信装置20に伝送される。このような衛星デジタル放送において、衛星中継器30は、主に、入力マルチプレクサフィルタ(以下、IMUXフィルタと称する)31、進行波管増幅器(以下、TWTAと称する)32、及び出力マルチプレクサフィルタ(以下、OMUXフィルタと称する)33からなり、IMUXフィルタ31によって1チャンネル分ごとに帯域抽出を行い、TWTA32により利得制御を行って、OMUXフィルタ33で不要周波数成分を抑圧する。
【0004】
このように、衛星中継器30には、ハードウェアの制限上、電力効率のよいTWTA32がよく用いられる。また、限られた衛星中継器30のハードウェア制限を最大限生かすため、衛星中継器30の出力が最大となるように飽和領域でTWTA32を動作させることが望ましい。しかし、TWTA32で発生する歪は伝送劣化につながるため、送信装置10及び受信装置20の伝送信号には、TWTA32で発生する歪で生じる伝送劣化に強い変調方式として、位相変調がよく利用される。
【0005】
現在、日本では衛星デジタル放送の伝送方式としてISDB−Sとよばれる伝送方式が用いられ、BPSK,QPSK,8PSKといった位相変調が利用可能である。また、欧州の伝送方式であるDVB−S2では振幅位相変調(APSK)という振幅位相変調を利用し、さらなる周波数利用効率の改善を図った変調方式の実用化が成されている。例えば、16APSKであれば周波数利用効率は最大4bps/Hzであり、32APSKであれば最大5bps/Hzで伝送することが可能である。
【0006】
現在利用されている衛星デジタル放送では、誤り訂正符号を用いた受信機における情報訂正が行われている。パリティビットと呼ばれる冗長信号を送るべき情報に付加することで信号の冗長度(符号化率)を制御し、雑音に対する耐性を上げる事が可能である。誤り訂正符号と変調方式は密接に関わっており、冗長度を加味した周波数利用効率と信号対雑音比の関係はシャノン限界で定義される。シャノン限界に迫る性能を有する強力な誤り訂正符号の一つとしてLDPC(Low Density Parity Check)符号が1962年にギャラガーによって提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
LDPC符号は、非常に疎な検査行列H(検査行列の要素が0と1からなり、かつ1の数が非常に少ない)により定義される線形符号である。また、LDPC符号は、符号長を大きくして適切な検査行列を用いることにより、シャノン限界に迫る伝送特性が得られる強力な誤り訂正符号であり、欧州の新しい衛星放送規格であるDVB−S2や広帯域無線アクセス規格IEEE802.16eにおいてもLDPC符号が採用されている。多値位相変調とLDPC符号をはじめとする強力な誤り訂正符号を組み合わせることで、より高い周波数利用効率の伝送が可能となってきている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】R.G gallager“Low density parity check codes,”in Research Monograph series Cambridge, MIT Press, 1963年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記LDPC符号等強力な誤り訂正符号は白色雑音に対する訂正能力は優れているものの、衛星伝送路固有の歪に対する信号劣化に対する訂正能力は十分ではない。特に16APSKや32APSKといった振幅位相変調を衛星伝送路に用いる場合、衛星中継器や地球局で用いるTWTA等の増幅器で生じる波形歪による信号劣化が位相変調に比べ、より大きく発生する。一般的に、増幅器で発生する波形歪を抑える方法としては、飽和領域から出力レベルを下げる事で増幅器をより線形領域で動作させる手法がとられる。しかし、歪による伝送劣化は収まる一方で、衛星中継器出力が低下し、地上における受信信号の低下につながってしまう。したがって、衛星放送等で振幅位相変調を適用するには、衛星出力を低下させることなく信号を伝送可能な、歪による伝送劣化に強い伝送方式が求められる。
【0010】
本発明の目的は、上記問題を解決するため、衛星放送等で振幅位相変調を適用する場合であっても、伝送特性を改善し、衛星出力を低下させることなく信号を伝送可能な、歪による伝送劣化に強いデジタル伝送方式の復号器及び受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る復号器は、デジタル伝送の波形等化後の誤りを訂正する復号器であって、伝送路を通過した信号から既知情報である伝送信号点配置信号の信号点を抽出する伝送信号点配置信号抽出部と、前記伝送信号点配置信号の信号点を平均化した伝送信号点配置信号の平均点を生成する伝送信号点配置信号平均化部と、前記伝送路を通過した信号を、前記伝送信号点配置信号の平均点を目標集束点として、伝送路で生じる波形歪みを抑圧した適応等化信号を生成する適応等化部と、前記適応等化信号の誤りを訂正する誤り訂正復号部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る復号器において、前記誤り訂正復号部は、前記伝送信号点配置信号の平均点から算出した復号器出力対数尤度比を用いてLDPC復号する手段を有することを特徴とする。
【0013】
更に、本発明に係る受信装置は、上述した復号器を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の振幅レベルを有する多様な変調方式に対して、伝送路歪みを低減させ、伝送特性を改善することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による一実施例の復号器の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明による一実施例の復号器の適応等化部の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明による一実施例の復号器の動作を示すフローチャートである。
【図4】適応等化部を有さない復号器の構成を示すブロック図である。
【図5】32APSKにおける目標収束点の設定を説明する図である。
【図6】32APSKにおける衛星伝送路通過後の信号点を示す図である。
【図7】32APSKにおける適応等化後のコンスタレーションを示す図である。
【図8】本発明による一実施例の受信装置を用いた、32APSK符号化率4/5におけるC/N対ビット誤り率特性を示す図である。
【図9】高度衛星放送方式における伝送形態の一例を示す図である。
【図10】高度衛星放送方式における送信装置の構成を示すブロック図である。
【図11】高度衛星放送方式における従来の受信装置の構成を示すブロック図である。
【図12】高度衛星放送方式における変調波信号形式の例を示す図である。
【図13】32APSKにおける伝送信号点配置信号の一送信形態例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
はじめに、本発明の理解を容易にするために、LDPC符号を用いた高度衛星放送方式の送信装置10及び受信装置20の概略構成を簡潔に説明する。なお、説明の簡略化のため、本発明に係る部分のみを説明するが、高度衛星放送方式の送信装置10及び受信装置20は、LDPC符号を他の訂正符号方式に置き換えたり、又は併用したり、更にはインタリーバを適宜組み合わせて用いることができる。
【0017】
(送信装置)
図10は、高度衛星放送方式における従来からの送信装置の構成を示すブロック図である。この送信装置10は、フレーム生成部11と、LDPC符号化部12と、エネルギー拡散部13と、マッピング部14と、時分割多重/直交変調部15とを備える。即ち、送信装置10は、データストリームを送信する場合に、後述する図12における複数スロットの多重フレームの信号を生成してから変調波信号を生成するまでの一連の処理を行う。
【0018】
フレーム生成部11は、LDPC符号化部12とともに機能して、LDPCパリティを生成する。従って、フレーム生成部11及びLDPC符号化部12は、後述する図12における複数スロットのフレームを生成し、エネルギー拡散部13に出力する。なお、フレーム生成部11により生成される多重フレームは、スロット数、ダミーの量、スロット長、同期信号ビット長、伝送信号点配置信号ビット長、TMCC信号ビット長、及びパリティビット長が予め定められた数になるように生成される。
【0019】
LDPC符号化部12は、データ及び伝送制御信号に対して、所定の周期のLDPC符号化を施す。LDPC符号化の具体的な方法は既知であり、かつ本願の主題ではないため更なる説明を割愛する。
【0020】
エネルギー拡散部13は、それぞれ多重フレームの所定数のスロットを入力し、これらのデータ等の全体に対して、エネルギー拡散(ビットランダム化)を行う。ビットランダム化した信号は、同期信号及び伝送信号点配置信号を適宜挿入しながら、各種変調方式(BPSK,APSK等)に応じて切り換えられ、マッピング部14(変調方式に応じた複数のマッピング)に入力される。
【0021】
マッピング部14は、TMCC同期で指定された変調方式に従ってマッピングを行う。
【0022】
時分割多重/直交変調部15は、フレーム単位の時分割多重を行い、直交変調を施して、変調波信号を生成する。
【0023】
(受信装置)
図11は、高度衛星放送方式における従来からの受信装置の構成を示すブロック図である。この受信装置20は、チャンネル選択部21と、直交検波部22と、伝送制御信号復号部23と、エネルギー逆拡散部24と、LDPC復号器25とを備えている。
【0024】
チャンネル選択部21は、送信装置10からの変調波信号を受信し、所定の周波数帯のチャンネルを選択し、そのチャンネルの信号を直交検波部22で扱う所定の周波数の信号に変換にする。例えば、変調波信号が衛星放送波であれば、12GHz帯の放送波(変調波信号)をBSアンテナで受信し、既知の周波数変換器(図示せず)を用いて1GHz帯のBS−IF信号に変換する。
【0025】
直交検波部22は、チャンネル選択部21により選択されたチャンネルの所定の周波数の信号(例えばBS−IF信号)を入力し、同期ベースバンド信号に変換する。
【0026】
伝送制御信号復号部23は、直交検波部22により変換された同期ベースバンド信号を入力し、まずTMCC信号の同期バイトを検出し、これを基準として、周期的に多重されているBPSK変調波である位相基準バースト信号の位置も検出する。また、TMCC信号により伝送される変調方式・誤り訂正の情報についてのTMCC情報の復号処理も行う。伝送制御信号復号部23により復号された伝送制御情報(変調方式・誤り訂正のTMCC情報)は、エネルギー逆拡散部24及びLDPC復号器25に入力される。
【0027】
エネルギー逆拡散部24は、送信装置10のエネルギー拡散部13において擬似ランダム符号がMOD2により加算された処理を元に戻すため、再度同じ擬似ランダム符号をMOD2により加算し、エネルギー逆拡散処理を行う。
【0028】
LDPC復号器25は、直交検波部22から同期ベースバンド信号が入力されるともに、伝送制御信号復号部23により検出された変調方式・誤り訂正の情報が入力され、当該同期ベースバンド信号をLDPC符号の検査行列を用いて復号処理を行う。
【0029】
このように、LDPC符号を用いた高度衛星放送方式の送信装置10及び受信装置20であれば、多値位相変調とLDPC符号をはじめとする強力な誤り訂正符号を組み合わせて、より高い周波数利用効率の伝送が可能となる。
【0030】
しかしながら、このようなLDPC符号等の強力な誤り訂正符号は白色雑音に対する訂正能力は優れているものの、衛星伝送路固有の歪に対する信号劣化に対する訂正能力は十分ではない。特に16APSKや32APSKといった振幅位相変調を衛星伝送路に用いる場合には、衛星中継器30や地球局で用いるTWTA等の増幅器で生じる波形歪による信号劣化が、位相変調と比べてより大きく発生する。
【0031】
一般的に、増幅器で発生する波形歪を抑える方法として、飽和領域から出力レベルを下げることで増幅器をより線形領域で動作させる手法がとられる。しかしながら、この場合、歪による伝送劣化は収まる一方で、衛星中継器30の出力が低下し、地上における受信信号の低下につながってしまう。よって、衛星放送等でAPSKを適用するには、衛星出力をなるべく低下させることなく信号を伝送可能な、歪による伝送劣化に強い伝送方式が求められる。
【0032】
DVB−S2をはじめ最新の衛星デジタル放送方式では、誤り訂正符号の復号方法として、ベイズ理論に基づく事後確率を最大化する手法(最尤復号)が用いられる。事後確率は、次式(1)に示す尤度関数により求まる。
【0033】
【数1】

【0034】
尤度関数の定義より、尤度関数と、受信信号と理想信号点の距離を示すユークリッド距離は密接に関わっている。白色雑音のみの伝送路においては、受信信号点はS/Nに応じたガウス分布のランダム偏差を生じるが、白色雑音以外の特定の歪を含んだ伝送路においては、ランダム偏差に加え、特定の振幅・位相偏差を伴った信号点変移が起きる。特に、非線形増幅器にAPSKを入力した場合においては、APSKは複数種類の同心円を組み合わせて伝送する都合上、最も振幅の大きい同心円に属する信号点がより大きな信号偏差を生ずる。
【0035】
なお、電波産業会標準規格ARIB−STD B44の1.0版に記載の「高度広帯域衛星デジタル放送の伝送方式」(以下、高度衛星放送方式と称する)では、APSKに対する伝送特性改善についても考慮している。
【0036】
図12に、高度衛星放送方式の変調波信号形式の例を示す。変調波信号は、フレーム単位で変調方式や誤り訂正符号の符号化率を含む伝送パラメータの変更が可能である。また、1フレームは120個の変調スロットで構成され、5変調スロットごとに変調方式と符号化率を指定して伝送可能である。各変調スロットは、24シンボルの同期信号、32シンボルの伝送信号点配置信号、並びに136シンボルのデータ及び4シンボルのTMCC信号の66組の対が、時分割多重される。
【0037】
図13に、32APSKにおける伝送信号点配置信号の一送信形態例を示す。伝送信号点配置信号は既知情報であり、図13に示すように、32APSKの場合、シンボル“00000”から“11111”に対応する信号点が順に伝送される。図13(a)、図13(b)、及び図13(c)は、それぞれ第1シンボル、第2シンボル、第32シンボルに対応する信号点を「黒丸」で表している。
【0038】
図4に、この伝送信号点配置信号を用いる受信装置20のLDPC復号器25を示す。伝送信号点配置信号を含まないシステムの場合、直交検波されたI信号及びQ信号に対し、尤度テーブルを参照しながら、LDPC復号を行うが、このLDPC復号器25では、伝送信号点配置信号についてシンボルごとに平均化を行い、伝送路における非線形歪の影響を受けた後の信号点配置を取得し、得られた信号点配置をもとに尤度テーブルを生成又は更新することで伝送路特性を向上させることが可能である(ARIB−STD B44 1.0版の解説A.2「伝送信号点配置信号」参照)。
【0039】
LDPC復号器25は、LDPC復号部251と、伝送信号点配置信号抽出部252と、伝送信号点配置信号平均化部253と、尤度テーブル生成部254と、所定のメモリ(図示せず)内に格納される尤度テーブル255とを備える。
【0040】
伝送信号点配置信号抽出部252は、直交検波部22により変換された同期ベースバンド信号を入力し、事前に検出したTMCC信号内の伝送信号点配置信号のタイミング信号を用いて伝送信号点配置信号の信号点の位置を抽出し、順次、伝送信号点配置信号平均化部253に出力する。
【0041】
伝送信号点配置信号平均化部253は、シンボルごとに、伝送信号点配置信号抽出部252から入力される伝送信号点配置信号の信号点の平均化処理を行い、伝送信号点配置信号の平均点p(n)を生成し、尤度テーブル生成部254及び適応等化部256に出力する。
【0042】
尤度テーブル生成部254は、伝送信号点配置信号平均化部253から入力される伝送信号点配置信号の平均点p(n)の復号器出力対数尤度比(LLR:Log likelihood ratio)を表す、LDPC復号における尤度計算に用いる尤度テーブル255を生成し、所定のメモリ内に格納するか、又は更新する。なお、尤度テーブル255は、予め定められたスロット長で変調方式や符号化率に応じて個別に生成するのが好適であり、尤度テーブル255の生成に用いる変調方式及び符号化率の情報は、事前に検出したTMCC信号内のTMCC情報に従う信号(以下、変調方式・符号化率選択信号と称する)から得られる。
【0043】
LDPC復号部251は、直交検波部22により変換された同期ベースバンド信号に対して、尤度テーブル255のLLR、及び変調方式・符号化率選択信号に基づいてLDPC復号し、復号信号を外部に送出する。
【0044】
なお、このような固定のパターン(即ち、伝送信号点配置信号点の繰り返しのパターン)を周期的に多重すると、変調信号の周波数成分に線スペクトルが発生することになるため、伝送信号点配置信号も送信側でエネルギー拡散を行う。
【0045】
以下、本発明によるデジタル伝送方式の復号器及び受信装置の一実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
【0046】
図1は、本実施例の復号器(LDPC復号器26)の構成を示すブロック図である。なお、本実施例のLDPC復号器26は、図11に示す受信装置20における従来からのLDPC復号器25と置き換えることで、本発明による一実施例の受信装置を構成することになる。LDPC復号器26を除く受信装置の動作は、図11に示すものと同様であり、上述したとおりである。
【0047】
LDPC復号器26は、LDPC復号部251と、伝送信号点配置信号抽出部252と、伝送信号点配置信号平均化部253と、尤度テーブル生成部254と、所定のメモリ(図示せず)内に格納される尤度テーブル255と、適応等化部256とを備える。LDPC復号器26は、図4に記載のLDPC復号器25に対して、更に適応等化部256を備える点が相違する。
【0048】
ここで、受信装置において伝送路歪を補償する方法として、受信信号のみから伝送路歪の影響を軽減することが可能なブラインド等化器がよく用いられる(例えば、参考文献:Kil Nam OH, ”A Single/Multilevel Modulus Algorithm for Blind Equalization of QAM Signals” IEICE TRANS. FUNDAMENTALS. VOL.E80-A, N.6. 1997年6月、参照)。ブラインド等化器は適応フィルタの一種であり、フィルタのタップ長やステップサイズ、及び誤差ベクトルの計算方法を適切に選ぶことで、伝送路で生じた歪を軽減し、送信信号に近いシンボル点に受信信号点を変化させる事が可能な波形等化器である。
【0049】
ブラインド等化器は、受信側において事前に目標収束点a(n)を設定し、GMCMA(Generalized Multilevel Constant Modulus Algorithm)などのブラインドアルゴリズムを用いることでトレーニング系列を用いることなく波形等化を行う等化器である。よって、ブラインド等化後の信号は、受信側で用いる目標収束点a(n)に近づくよう動作するため、波形等化性能は目標収束点の設定に大きく依存する。通常、ブラインド等化における一般的な目標収束点としては送信信号点が用いられる。図5は、32APSKにおいて、目標収束点a(n)として送信信号点を用いた場合を示す図である。
【0050】
しかしながら、送信信号点配置は理想的な信号点配置であるため、特に増幅器を飽和領域近辺で動作させることを想定した衛星伝送路においては、非線形による信号歪の影響が大きく、伝送路歪を受けた信号は理想信号点から大きく乖離している。このような場合、ブラインド等化において送信信号点を目標収束点に設定すると、信号点の乖離の影響が等化処理に影響を与え、十分な等化性能を発揮することができない。
【0051】
図6に、32APSKにおける衛星伝送路を通過後の伝送信号点配置信号の平均点p(n)を示す。衛星伝送路としては、一般的な衛星中継器を構成するIMUXフィルタ、TWTA、OMUXフィルタを想定し、計算機シミュレーションにより系統を再現した。TWTAの動作点(OBO:Output Back Off)は3.0dBについて計算を行った。図6には併せて受信信号点r(n)及び送信信号点t(n)も表示している。図6から、伝送信号点配置信号の平均点p(n)は、送信信号点t(n)に比べ、受信信号点r(n)と近い点に収束していることが分かる。よって、伝送信号点配置信号の平均収束点p(n)を適応等化器の目標収束点a(n)と設定して適応等化を行うことによって、波形歪の影響を受けた受信信号と目標信号点間の乖離の少ない状況で波形等化を行うことができ、更なる伝送性能向上が可能となる。
【0052】
そこで、後述するように、本実施形態の適応等化部256は、直交検波部22により変換された同期ベースバンド信号を、伝送信号点配置信号平均化部253から入力される伝送信号点配置信号の平均点p(n)を目標収束点として、伝送路で生じる波形歪みを抑圧した等化器出力z(n)を生成し、LDPC復号部251に出力する。
【0053】
LDPC復号部251は、適応等化部256から入力される等化器出力z(n)に対して、伝送信号点配置信号の平均点p(n)から算出されるLLRを用いてLDPC復号を行い、復号信号を生成する。
【0054】
図2は、適応等化部256の構成を示すブロック図である。適応等化部256は、フィードフォワードフィルタ2561と、加算部2562と、判定部2563と、フィードバックフィルタ2564と、フィルタ係数更新部2565とを備える。
【0055】
フィードフォワードフィルタ2561は、タップ長Mに対応するフィルタ係数WFF:[W,W,・・・,W]を有し、入力信号ベクトルx(n)に対して、入力ベクトル列xFF:[x(n),x(n−1),・・・,x(n−M)]を保持し、フィードフォワードフィルタ係数WFFと入力ベクトル列XFFとの積和演算を行う。ここで、上付きのTは行列の転置を表す。
【0056】
加算部2562は、フィードフォワードフィルタ2561の出力からフィードバックフィルタ2564の出力を減算した値を等化器出力z(n)として判定部2563に出力する。同時に、フィルタ係数の更新のため、等化器出力z(n)をフィルタ係数更新部2565に出力する。なお、等化器出力z(n)は次式(2)で表される。
【0057】
【数2】

【0058】
判定部2563は、加算部2562から入力される等化器出力z(n)に対して、既知の変調方式によって定める理想シンボル点との最小ユークリッド距離判定を行い、最小ユークリッド距離となる理想シンボル点を判定器出力d(n)としてフィードバックフィルタ2564に出力する。同時に、フィルタ係数の更新のため、判定器出力d(n)をフィルタ係数更新部2565に出力する。
【0059】
フィードバックフィルタ2564は、タップ長Lに対応するフィルタ係数WFB:[WM+1,WM+2,・・・,WM+L]を有し、判定部2563の判定器出力d(n)に対して、判定器出力列dFB:[d(n−1),d(n−2),・・・,d(n−L)]を保持し、フィードバックフィルタ係数WFBと判定出力列dFBとの積和演算を行う。
【0060】
フィルタ係数更新部2565は、アルゴリズムを適用して、フィードフォワードフィルタ係数WFF及びフィードバックフィルタ係数WFBを逐次更新する。アルゴリズムには、例えば、上述の文献に記載のGMCMAを用いる。次式(3)に、GMCMAの更新式を示す。添え字のI,Qは複素信号のI成分、Q成分を表す。
【0061】
【数3】

【0062】
GMCMAは、式(3)に示すとおり、等化出力Z(n)と、等化出力Z(n)に最も近い目標収束点a(n)との間のユークリッド距離を評価し、その複素ベクトル誤差量e(n)が0に近づくように、次式(4)及び(5)に示すLMS(Least Mean Square:最小二乗誤差)アルゴリズムを適用し、入力シンボルごとにフィードフォワードフィルタ係数WFF、フィードバックフィルタ係数WFB、及び等化出力Z(n)を更新する。目標収束点a(n)としては、伝送信号点配置信号平均化部253から入力される、伝送信号点配置信号の平均点p(n)を採用する。
【0063】
【数4】


ここで、W(n)はフィルタ係数、μはステップサイズ、上付きの*は複素共役、上付きのTは行列の転置を表す。
【0064】
次に、本実例のLDPC復号器26の動作について、図3を参照して説明する。図3は、LDPC復号器26の動作を示すフローチャートである。
【0065】
まず、ステップS101にて、LDPC復号器26は、適応等化部256における目標収束点a(n)の初期値を送信信号点t(n)に設定する。
【0066】
ステップS102にて、伝送信号点配置信号抽出部252により、伝送路を通過した受信信号から伝送信号点配置信号を抽出する。
【0067】
ステップS103にて、伝送信号点配置信号平均化部253により、伝送信号点配置信号の平均点p(n)を生成する。
【0068】
ステップS104にて、適応等化部256における目標収束点a(n)を、送信信号点t(n)から伝送信号点配置信号の平均点p(n)に差し替える。
【0069】
ステップS105にて、適応等化部256により、伝送信号点配置信号の平均点p(n)を用いてシンボル単位で適応等化を行い、等化出力z(n)を生成する。
【0070】
ステップS106にて、尤度テーブル生成部254により、伝送信号点配置信号の平均点p(n)を用いて、LLRを算出する。
【0071】
ステップS107にて、LDPC復号部251により、等化出力z(n)に対して、伝送信号点配置信号の平均点p(n)から算出したLLRを用いてLDPC復号信号を生成する。
【0072】
次に、本実施例の受信装置による32APSK符号化率4/5伝送特性の計算機シミュレーション結果を図7及び図8に示す。ここでは、衛星伝送路に信号を伝送し、伝送路歪みは送信装置から伝送路を介して受信装置へ経る過程においてのみ発生することを想定する。衛星伝送路としては、一般的な衛星中継器を構成するIMUXフィルタ、TWTA、OMUXフィルタを想定し、計算機シミュレーションにより系統を再現し、TWTAの動作点は3.0dBに設定して計算を行った。ステップサイズは2E−4、フィードフォワードフィルタタップ長は10、フィードバックフィルタタップ長は14である。ブラインドアルゴリズムはGMCMAを用いた。LDPC復号に必要な尤度計算においては、上述したように伝送信号点配置信号の平均点p(n)を尤度テーブルとして利用して計算を行った。
【0073】
図7に、適応等化後のコンスタレーションのシミュレーション結果を示す。図7(a)は、受信C/N=30dBとしたときの受信信号r(n)のコンスタレーションである。図7(b)は、受信信号r(n)を、適応等化部256において目標収束点a(n)として送信信号点t(n)を設定して適応等化した場合の等化器出力z(n)のコンスタレーションである。図7(c)は、受信信号r(n)を、適応等化部256において目標収束点a(n)として送信号点配置信号の平均点p(n)を設定して適応等化した場合の等化器出力z(n)のコンスタレーションである。図7から、本実施例の受信装置により適応等化を行った場合、等化後の等化器出力z(n)は、送信信号点t(n)よりも伝送信号点配置信号の平均点p(n)に、より近く収束していることが分かる。
【0074】
図8は、C/N対ビット誤り率特性のシミュレーション結果を示すであり、横軸にC/Nを示し、縦軸にビット誤り率(BER)を示す。図8における各グラフは以下のとおりである。Iで示すグラフは、適応等化なしの場合のC/N対ビット誤り率特性である。IIで示すグラフは、適応等化なし、かつ、LDPC復号時に伝送信号点配置信号の平均点p(n)を利用した場合のC/N対ビット誤り率特性である。IIIで示すグラフは、適応等化ありで適応等化時の目標収束点a(n)を送信信号点t(n)に設定し、かつ、LDPC復号時に伝送信号点配置信号の平均点p(n)を利用した場合のC/N対ビット誤り率特性である。IVで示すグラフは、適応等化ありで適応等化時の目標収束点a(n)を伝送信号点配置信号の平均点p(n)に設定し、かつ、LDPC復号時に伝送信号点配置信号の平均点p(n)を利用した場合のC/N対ビット誤り率特性である。本発明の受信装置によるC/N対ビット誤り率特性はIVで示すグラフである。
【0075】
図8より、本発明の受信装置によるC/N対ビット誤り率特性IV)は、従来の受信装置によるC/N対ビット誤り率特性(I〜III)に対して、特性が改善していることが確認できる。また、適応等化時の性能差を示すIIIで示すグラフIVで示すグラフの比較においては、ビット誤り率1.0E−5で約0.9dBの改善があることが分かる。したがって、波形等化後の信号に対し、本発明による受信装置を用いることにより、伝送性能を改善することができる。また、本発明による受信装置は、32APSKに限らず、複数の振幅レベルを有する多様な変調方式(例えば、16APSKや64APSKなど)に対する波形等化後の伝送特性を改善することできる。
【0076】
上述の実施例は、特定の衛星中継器、変調方式、及びLDPC符号を適用した場合について説明したが、本発明は、地上中継器や他の変調方式、並びに尤度計算を要する任意の誤り訂正符号にも適用できることは実施例の説明から明らかである。従って、本発明は、上述の実施例によって制限されるものと解するべきではなく、特許請求の範囲によってのみ制限される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
このように、本発明は、受信側で伝送路歪みを好適に低減させることができるので、任意のデジタル伝送方式の復号器及び受信装置に有用である。
【符号の説明】
【0078】
10 送信装置
11 フレーム生成部
12 LDPC符号化部
13 エネルギー拡散部
14 マッピング部
15 時分割多重/直交変調部
20 受信装置
21 チャンネル選択部
22 直交検波部
23 伝送制御信号復号部
24 エネルギー逆拡散部
25,26 LDPC復号器
30 衛星中継器
31 入力マルチプレクサ(IMUX)フィルタ
32 進行波管増幅器(TWTA)
33 出力マルチプレクサ(OMUX)フィルタ
251 LDPC復号部
252 伝送信号点配置信号抽出部
253 伝送信号点配置信号平均化部
254 尤度テーブル生成部
255 尤度テーブル
256 適応等化部
2561 フィードフォワードフィルタ
2562 加算部
2563 判定部
2564 フィードバックフィルタ
2565 フィルタ係数更新部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル伝送の波形等化後の誤りを訂正する復号器であって、
伝送路を通過した信号から既知情報である伝送信号点配置信号の信号点を抽出する伝送信号点配置信号抽出部と、
前記伝送信号点配置信号の信号点を平均化した伝送信号点配置信号の平均点を生成する伝送信号点配置信号平均化部と、
前記伝送路を通過した信号を、前記伝送信号点配置信号の平均点を目標集束点として、伝送路で生じる波形歪みを抑圧した適応等化信号を生成する適応等化部と、
前記適応等化信号の誤りを訂正する誤り訂正復号部と、
を備えることを特徴とする復号器。
【請求項2】
前記誤り訂正復号部は、前記伝送信号点配置信号の平均点から算出した復号器出力対数尤度比を用いてLDPC復号する手段を有することを特徴とする復号器。
【請求項3】
請求項1に記載の復号器を備えることを特徴とする受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−39259(P2012−39259A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175649(P2010−175649)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】