説明

デジタル無線受信装置およびデジタル無線受信方法

【課題】マルチパスフェージング環境下での高速移動通信によるスループットを効率的に向上できるデジタル無線受信装置を提供する。
【解決手段】前方および後方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号からタップ毎のマルチパス干渉成分を示す前方タップ係数および後方タップ係数をそれぞれ算出する前方タップ係数算出部610および後方タップ係数算出部620と、前方タップ係数および後方タップ係数のそれぞれの複素空間上での位相角および絶対値に基づいて、インフォメーションシンボルのマルチパス干渉成分を、前方タップ係数および後方タップ係数に基づく内挿により減算処理する第1演算制御モードと、前方タップ係数または後方タップ係数に基づいて減算処理する第2演算制御モードとのいずれかを実行する演算制御部630と、を有する等化器600を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル無線受信装置およびデジタル無線受信方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にデジタル無線通信では、伝送信号を時間に区切って送信している。この一区切りの伝送信号期間を、仮にバーストと呼ぶこととする。バーストには、極短時間ではフェージングの状況が変わらないと仮定して、前方部分または後方部分あるいはその両方に、受信側が既知とするトレーニングシーケンスシンボル信号列を配置することが多い。
【0003】
図3は、デジタル無線通信における送信バーストの一例を示す図である。この送信バーストには、前方から後方に向かって、プリアンブルタイム、前方トレーニングシーケンスシンボル、インフォメーションシンボル、後方トレーニングシーケンスシンボル、ガードタイムが順次配置されている。プリアンブルタイムは、当該送信バーストより前に送受信されるバーストとの干渉回避およびランプアップのための時間である。前方トレーニングシーケンスシンボルおよび後方トレーニングシーケンスシンボルは、受信側が既知のシンボルである。特に、後方トレーニングシーケンスシンボルは、極少ない情報運搬のために数種類のパターンが用意されることもある。
【0004】
インフォメーションシンボルは、ユーザデータを運搬するもので、任意の変調方式で変調されたシンボル信号である。このインフォメーションシンボルの変調方式は、トレーニングシーケンスシンボルの変調方式と異なっていてもよく、一般にQAM方式等の伝送効率の良い変調方式が選択される。後方のガードタイムは、ランプダウンおよび当該送信バーストより後に送受信されるバーストとの干渉回避のための時間である。
【0005】
図3に示した構成の送信バーストを用いるデジタル無線通信において、受信信号からバーストを検出するには、先ず、受信したバースト分を含む信号列を前方から確認して、既知トレーニングシーケンスシンボル信号列と相関が最大となるタイミングを検出する。そして、検出されたタイミングをトレーニングシーケンスシンボル信号の先頭と仮定して、インフォメーションシンボル信号部分を取り出す。その後、インフォメーションシンボル信号に施されている変調方式に従って、インフォメーションシンボル信号を復調する。
【0006】
しかしながら、マルチパスフェージング環境下では、受信信号に送信信号の自己複製波が重畳されるため、シンボル間干渉(マルチパス干渉)が無視できなくなると、復調が難しいものとなる。このようなマルチパスフェージング環境下におけるシンボル間干渉を低減するため、受信装置に等化器(イコライザ)を挿入することが知られている。等化器の目的は、受信装置においてアンテナ端に到着した受信信号から、シンボル間干渉成分(マルチパス干渉成分)を低減させて、等化器出力のSINR(Signal Interference Noise Ratio)を最大にすることにある。
【0007】
つまり、移動を前提とするデジタル無線方式では、端末の移動によりフェージングの状況が刻一刻と変動する。そのため、バースト内の前方もしくは後方に配置された既知の信号(多くはトレーニングシーケンスシンボル信号)部分を用いてデジタル処理により等化器のタップ毎の重み、すなわちマルチパス干渉成分を示すタップ係数を計算し、その計算されたタップ毎の重みをインフォメーションシンボル部分に重畳して、すなわち減算処理してデータ信号列部分の等化処理を実現している(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
以下、デジタル無線通信において用いられる等化器の一例について説明する。なお、本明細書において、[]は複素共役を、[]は転置を表し、E[]は標本平均化操作を表す。また、半角小文字で標記するxはスカラーxを、全角小文字で標記するxはベクトルxを、大文字で標記するXは行列Xをそれぞれ表す。
【0009】
ここでは、以下のような送信信号ベクトルskに対する受信信号zkであるチャネルモデルを考える。
【0010】
【数1】

【0011】
ここで、sk,nk,pv,gkvは、次のように定義されるベクトルである。
k=[s(1),s(2), …,s(K)]
k=[n(1),n(2), …,n(K)]
v=[p(1),p(2), …,p(V)]
k1=[g(1),g(2),…,g(K)]
k2=[g(1),g(2),…,g(K)]

kv=[g(1),g(2),…,g(K)]
なお、V,K,sk,nk,pv,gkvは、以下のように定義される。
V:パスのインデックス
K:信号列のサンプルデータインデックス
k:サンプルデータインデックスkにおける送信信号ベクトル
k:サンプルデータインデックスkおける加法性白色ガウス雑音ベクトル
v:パスインデックスv毎の群遅延時間ベクトル
kv:サンプルデータインデックスkにおけるパスインデックスv毎のチャネル応答ベクトルのベクトル
【0012】
上式(1)で表されるチャネルモデルでは、パス毎に独立した群遅延時間を持つ。これにより、受信装置のアンテナ端には、遅延した信号源skが波形として重畳されて到着する。ここで、gkvはパスインデックスv毎に異なるドップラ周波数を持つため、パス毎に独立したフェージング変動となり、合成されたマルチパスフェージングの変化は一定ではなくなる。
【0013】
このようなマルチパスフェージングにより、送信装置側から送信された信号は、受信装置側ではシンボル間干渉を含む信号列として受信される。このマルチパスフェージングによるシンボル間干渉は、通信上での伝送誤りを増加させる原因であり、無線による高速移動時の通信において大きな障害となっている。
【0014】
ここで、パス毎のインパルス応答がサンプルデータインデックスに対応する時刻kにおいて不変であると仮定すると、自己の複製である遅延波を干渉波として含むチャネルは、(Q+1)/2≦k≦K-(Q+1)/2において以下のように有限インパルス応答フィルタ(FIRフィルタ)としてモデル化することができる。
【0015】
【数2】

【0016】
ここで、sk,hq,nkは、以下で定義されるベクトルである。
k=[s(1),s(2),…,s(K)]
q=[h(1),h(2),…,h(Q)]
k=[n(1),n(2),…,n(K)]
なお、zk,sk,Q,K,hq,nkは、以下のように定義される。
k:サンプルデータインデックスkにおける受信信号ベクトル
k:サンプルデータインデックスkにおける希望波信号ベクトル
Q:フィルタのタップ長で正の整数かつ奇数
K:信号列のサンプルデータインデックスでQより十分大きな値
q:インパルス応答ベクトルのパス毎のベクトル
k:加法性白色ガウス雑音ベクトル
【0017】
このようなチャネルモデルにおける入力zkに対して出力ykとする等化器を、(Q+1)/2≦k≦K-(Q+1)/2の範囲において、次のような有限インパルス応答フィルタとしてモデル化する。
【0018】
【数3】

【0019】
この時、出力ykのSINRを最大にするタップ係数wqOptがWiener(ウィナー)解であり、以下のように表される。
【0020】
【数4】

【0021】
ここで、 Rzzは以下に定義するタップ毎に1サンプルずつシフトした受信信号ベクトルxqの相関行列であり、Rzz-1はその逆行列である。xqは次のように定義する。
k1=[g(1),g(2),…,g(K)]
k2=[g(1),g(2),…,g(K)]

kv=[g(1),g(2),…,g(K)]
【0022】
また、 hrs^は、タップ長の半分だけシフトさせた希望波信号と一致するメモリ中の既知信号ベクトルrShiftと、同じくタップ長の半分だけシフトさせた受信信号列xShiftとの相互相関ベクトルである。なお、hrs^は、hrsの上に記号「^」が付いていることを示す。
ここで、rShiftおよびxShiftは、次のように定義される。
Shift=[r((Q+1)/2),r((Q+1)/2+1),…,r(K-(Q+1/2))]
Shift=[z((Q+1)/2),z((Q+1)/2+1),…,z(K-(Q+1/2))]
また、Rzzおよびhrs^は、次のように定義される。
zz=E[xShift*・rShift
rs^=E[xq*・rqT
【0023】
これらを用いて、wqOptについて解くことにより、等化器のタップ係数を導くことができる。このように、受信された希望信号を受信側で既知とするために、送信バーストの前方または末尾、もしくはその両方に既知のトレーニングシーケンスシンボルを挿入することにより、送信側と受信側とで希望波信号の一部の共有を行う。
【0024】
上述した等化器は、マルチパスフェージング環境下ではあるものの、時間あたりのフェージング変動が少ない場合において有効に機能する。しかしながら、マルチパスフェージング環境下での高速移動時においては、パス毎のインパルス応答がサンプルデータインデックスに対応する時刻kにおいて大きく変動する。そのため、例えばバースト前方に挿入されたトレーニングシーケンスシンボルにより推定したタップ係数wqTopが、バースト末尾において最適であり続ける可能性は低くなってゆく。
【0025】
また、トレーニングシーケンス以外のインフォメーションシンボルでは、変調方式がトレーニングシーケンスシンボルと同一でない場合がある。このような場合、直接インフォメーションシンボルでのタップ係数ベクトルを求めることができない。その対応策として、末尾に挿入されるトレーニングシーケンスシンボルにより推定したタップ係数wqTailを求め、次式に基づいて、wqTopとwqTailの各要素を任意のサンプル時間毎に案分して、前方のトレーニングシーケンスシンボルと末尾のトレーニングシーケンスシンボルとの間に挿入される、インフォメーションシンボルに適用するタップ係数とする方法が考えられる。
【0026】
【数5】

【0027】
ここで、∂wqおよびwkpEstは、次のように定義される。
wq:サンプルデータインデックス単位辺りのタップ係数の変化量
kpEst:(Q+1)/2≦k≦K-(Q+1)/2における、サンプルデータインデックスk毎のタップ係数
【0028】
以上により、等化器出力信号ベクトルykは、(Q+1)/2≦k≦K-(Q+1)/2において、次のようになる。
【0029】
【数6】

【0030】
上述した等化器ウェイトの直線内挿近似は、少ない計算量でインフォメーションシンボル毎に等化器ウェイトを導くことが可能である利点がある。しかしながら、上式(5)で導かれるwkpEstは、前方に挿入されたトレーニングシーケンスシンボルにより推定したタップ係数wqTopと、後方に挿入されたトレーニングシーケンスシンボルにより推定したタップ係数wqTailとが、複素空間上で大きく移動している場合は、誤差の大きなものになってしまう。
【0031】
つまり、このような単純な内挿では、推定に用いる二つのベクトルの各要素が複素空間上で大きく回転している場合、内挿途中の値が非常に小さくなってしまう。例えば、端末が高速に移動してドップラ周波数が大きくなると、通常、バースト前方のタップ係数の複素ベクトルおよびバースト末尾でのタップ係数の複素ベクトルは、それぞれ大きく回転する。その結果、直線近似により内挿すると、位相回転に対して絶対値の変化が発生してしまい、推定により得られるタップ係数の信頼性が低下することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】特開2007−124412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
以上のように従来のデジタル無線受信装置では、マルチパスフェージング環境下での高速移動通信において、バーストの前方部分にあるトレーニングシーケンスシンボルのみ、あるいは後方部分にあるトレーニングシーケンスシンボルのみによっては、フェージング変動によるシンボル間干渉の影響を除去することが困難であった。また、単純な内挿によるタップ係数計算では、信頼性の高いタップ係数が得られなかった。その結果、マルチパスフェージング環境下での高速移動通信における復号成功確率が低下して、スループットが低下することが懸念されていた。
【0034】
したがって、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、マルチパスフェージング環境下での高速移動通信によるスループットを効率的に向上できるデジタル無線受信装置およびデジタル無線受信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0035】
上記目的を達成する第1の観点に係るデジタル無線受信装置の発明は、インフォメーションシンボルの前方および後方にそれぞれ既知の前方トレーニングシーケンスシンボルおよび後方トレーニングシーケンスシンボルが付加されて無線送信されるバーストを受信するデジタル無線受信装置であって、
前記前方トレーニングシーケンスシンボルおよび前記後方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号に基づいて、前記インフォメーションシンボルの受信信号からマルチパス干渉成分を減算する等化器を備え、
前記等化器は、
前記前方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号からタップ毎のマルチパス干渉成分を示す前方タップ係数を算出する前方タップ係数算出部と、
前記後方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号からタップ毎のマルチパス干渉成分を示す後方タップ係数を算出する後方タップ係数算出部と、
前記前方タップ係数および前記後方タップ係数のそれぞれの複素空間上での位相角および絶対値に基づいて、前記インフォメーションシンボルのマルチパス干渉成分を、前記前方タップ係数および前記後方タップ係数に基づく内挿により減算処理する第1演算制御モードと、前記前方タップ係数または前記後方タップ係数に基づいて減算処理する第2演算制御モードとのいずれかを実行する演算制御部と、
を有することを特徴とするものである。
【0036】
第2の観点に係る発明は、第1の観点に係るデジタル無線受信装置において、
前記演算制御部は、
前記前方タップ係数および前記後方タップ係数のそれぞれの複素空間上での位相角および絶対値の少なくとも一つが、対応する下限閾値を超えた場合、前記第1演算制御モードを実行する、ことを特徴とするものである。
【0037】
第3の観点に係る発明は、第1または2の観点に係るデジタル無線受信装置において、
前記演算制御部は、
前記前方タップ係数および前記後方タップ係数のそれぞれの複素空間上での位相角および絶対値の少なくとも一つが、対応する上限閾値未満の場合、前記第1演算制御モードを実行する、ことを特徴とするものである。
【0038】
さらに、上記目的を達成する第4の観点に係るデジタル無線受信方法の発明は、インフォメーションシンボルの前方および後方にそれぞれ既知の前方トレーニングシーケンスシンボルおよび後方トレーニングシーケンスシンボルが付加されて無線送信されるバーストを受信するデジタル無線受信方法であって、
前記前方トレーニングシーケンスシンボルおよび前記後方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号に基づいて、前記インフォメーションシンボルの受信信号からマルチパス干渉成分を減算するにあたり、
前方タップ係数算出部により、前記前方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号からタップ毎のマルチパス干渉成分を示す前方タップ係数を算出するステップと、
後方タップ係数算出部により、前記後方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号からタップ毎のマルチパス干渉成分を示す後方タップ係数を算出するステップと、
演算制御部により、前記前方タップ係数および前記後方タップ係数のそれぞれの複素空間上での位相角および絶対値に基づいて、前記インフォメーションシンボルのマルチパス干渉成分を、前記前方タップ係数および前記後方タップ係数に基づく内挿により減算処理する第1演算制御モードと、前記前方タップ係数または前記後方タップ係数に基づいて減算処理する第2演算制御モードとのいずれかを実行するステップと、
を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、マルチパスフェージング環境下での高速移動通信によるスループットを効率的に向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施の形態に係るデジタル無線受信装置の要部の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図2】図1のデジタル無線受信装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図3】デジタル無線通信における送信バーストの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
先ず、本発明によるデジタル無線受信装置の原理について説明する。
【0042】
本発明に係るデジタル無線受信装置では、従来、タップ係数の複素ベクトルの位相の回転変化が、不正な絶対値の変化になってしまうのを回避するために、複素空間上において複素ベクトルの位相と絶対値とを分解し、双方の内挿を行ったものからタップ係数wkpEstを合成する。つまり、以下に示す手順に従ってウェイトベクトルwqを、タップ毎の複素ベクトルの絶対値成分ベクトルρmと位相成分ベクトルφmとに分解する。
【0043】
まず、w(q)の複素表現式を次式とする。
w(q)=a(q)+j・b(q)
=(cos(φ(q))+j・sin(φ(q))・ρ(q)
ここで、a(q)はw(q)の実部、b(q)はw(q)の虚部、φ(q)はw(q)の位相成分、ρ(q)はw(q)の絶対値成分とする。このとき、ρmおよびφmは、次式(7)に示すように、a(q)、b(q)の関数に置き換えることができる。
【0044】
【数7】

【0045】
式(7)を用いて、wqTopからφqTopおよびρqTopをそれぞれ算出し、wqTailからφqTailおよびρqTailをそれぞれ算出する。そして、これらの算出した値を用いて、次式(8)から∂φqおよび∂ρqを求める。
【0046】
【数8】

【0047】
ここで、∂φqは、サンプルデータインデックス単位辺りのタップ係数の複素ベクトルの位相変化量である。また、∂ρqは、サンプルデータインデックス単位辺りのタップ係数の複素ベクトルの絶対値の変化量である。サンプルデータインデックスに対応する時刻k毎のタップ係数wkpEstは、(Q+1)/2≦k≦K-(Q+1)/2において、次式(9)で定義される。
【0048】
【数9】

【0049】
以上により、等化器出力信号ベクトルykは、(Q+1)/2≦k≦K-(Q+1)/2において、次式(10)のようになる。
【0050】
【数10】

【0051】
ここで、式(9)で導かれるタップ係数wkpEstは、wqTopとwqTailとが複素空間上でπ以上回転している場合は、回転方向の推定を誤る結果となる。よって、等化器の持つタップ毎の等化器ウェイトの一つもしくは複数がπ付近まで回転している場合は、内挿近似すると逆効果となる場合がある。その結果、前方もしくは後方のトレーニングシーケンスシンボルより推定した等化器ウェイトを用いた場合と比較して、インフォメーションシンボルの復号成功確率の大きな改善効果が得られない場合がある。
【0052】
そこで、本発明の好適一実施の形態に係るデジタル無線受信装置では、wqTopとwqTailとが複素空間上で正方向もしくは負方向にπ近傍以上回転している場合、前方もしくは後方のトレーニングシーケンスシンボルにより推定した等化器ウェイトを固定的に用いるように制御する。
【0053】
また、式(9)で導かれるタップ係数wkpEstは、wqTopとwqTailとが複素空間上で絶対値が大きく変化している場合、誤差が大きくなる。例えば、端末が基地局に向かって等速で移動している場合、または逆に基地局から遠ざかるように等速で移動している場合、見通しパスの受信電力は、距離の二乗に反比例するよう変化する。この場合、絶対値を内挿近似すると、その変化は線形変化として近似されるため、電力変化が大きい場合は、実際の変化と近似値とが乖離することになる。その結果、前方もしくは後方のトレーニングシーケンスシンボルより推定した等化器ウェイトを用いた場合と比較して、インフォメーションシンボルの復号成功確率の大きな改善効果が得られない場合がある。
【0054】
そこで、本発明の好適一実施の形態に係るデジタル無線受信装置では、等化器の持つタップ毎の等化器ウェイトの一つもしくは複数が、複素空間上で絶対値が大きく変化している場合、前方もしくは後方のトレーニングシーケンスシンボルより推定した等化器ウェイトを固定的に用いるように制御する。
【0055】
以下、本発明に係るデジタル無線受信装置の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0056】
図1は、本発明の一実施の形態に係るデジタル無線受信装置の要部の概略構成を示す機能ブロック図である。図1に示すデジタル無線受信装置は、図3に示した送信バーストを受信するもので、アンテナ100、無線部200、アナログ/デジタル変換部(ADC)300、メモリ400、最大相関タイミング検出部500、等化器600、および受信データ処理部700を有する。
【0057】
等化器600は、前方タップ係数算出部610、後方タップ係数算出部620、および演算制御部630を備える。また、演算制御部630は、等化器重み比較部640、閾値記憶部650、第1演算制御モード重み算出部660、第2演算制御モード重み算出部670、および信号処理部680を有する。なお、最大相関タイミング検出部500や等化器600は、CPU(中央処理装置)等の任意の好適なプロセッサ上で実行されるソフトウェアとして構成したり、各処理に特化した専用のプロセッサ、例えばDSP(デジタルシグナルプロセッサ) によって構成したりすることができる。
【0058】
次に、図1に示したデジタル無線受信装置の動作を、図2に示すフローチャートを参照して説明する。
【0059】
アンテナ100から入射した受信信号は、無線部200で処理された後、ADC300により適時サンプリングされてデジタル信号に変換され、メモリ400に格納される。最大相関タイミング検出部500は、メモリ400に格納された最新の受信信号列と、既知の前方トレーニングシーケンスシンボル長部分との相関を比較する。そして、最大相関タイミング検出部500は、相関値が任意の閾値以上になった場合、これ以降の信号を受信バーストであるものとして、アンテナ100からの受信信号のサンプリング列を受信バーストサンプリング信号列としてメモリ400に格納する。
【0060】
さらに、最大相関タイミング検出部500は、メモリ400に格納された受信バーストサンプリング信号列の前方トレーニングシーケンスシンボル長部分と既知信号列とをタイミング毎にずらしながら比較して最大相関タイミングを検出する(ステップS201)。そして、最大相関タイミング検出部500は、最大相関タイミングから-(Q+1)/2早いサンプリング信号列から、最大相関タイミングから(Q+1)/2遅いサンプリング信号列までのQ個の受信サンプリング信号列を、等化器600へ入力する。
【0061】
実際には、インデックスをずらしてそれぞれの入力信号の開始位置とすることで、同じメモリ400の受信バーストサンプリング信号列を用いることになる。これにより、等化器600のタップ毎の受信バーストサンプリング信号列を分離する(ステップS202)。なお、図1には、最大相関タイミングの受信サンプリング信号列を受信信号(遅延±0)、最大相関タイミングから-(Q+1)/2早いサンプリング信号列を受信信号(遅延−n)、最大相関タイミングから(Q+1)/2遅いサンプリング信号列を受信信号(遅延+n)、とそれぞれ示している。
【0062】
等化器600に入力された各受信バーストサンプリング信号列は、必要に応じてオーバーサンプリング処理された後、演算制御部630の信号処理部680に供給される。また、信号処理部680に供給される各受信バーストサンプリング信号列のうち、前方トレーニングシーケンスシンボルおよび後方トレーニングシーケンスシンボルは、それぞれ対応する前方タップ係数算出部610および後方タップ係数算出部620にも供給される。
【0063】
そして、前方タップ係数算出部610により、前方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号から、タップ毎のマルチパス干渉成分を示す前方タップ係数、つまり前方トレーニングシーケンスシンボル用等化器ウェイトが算出される(ステップS203)。同様に、後方タップ係数算出部620により、後方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号から、タップ毎のマルチパス干渉成分を示す後方タップ係数、つまり後方トレーニングシーケンスシンボル用等化器ウェイトが算出される(ステップS204)。なお、ステップS203、S204では、例えば、共分散を算出してコレスキー分解することにより、等化器ウェイトに必要な計算量の低減が図れる。
【0064】
前方タップ係数算出部610で算出された前方トレーニングシーケンスシンボル用等化器ウェイト、および、後方タップ係数算出部620で算出された後方トレーニングシーケンスシンボル用等化器ウェイトは、演算制御部630の等化器重み比較部640に供給される。さらに、等化器重み比較部640には、閾値記憶部650から、タップ係数の複素空間上での位相角の上限閾値および下限閾値、並びに、絶対値の上限閾値および下限閾値がそれぞれ供給される。ここで、閾値は、位相角については、任意に定める−πからπ未満の範囲内で、例えば、下限閾値±π/5、上限閾値±4π/5と設定することができる。また、絶対値については、受信装置の仕様に応じて適宜設定することが可能である。
【0065】
そして、等化器重み比較部640において、前方および後方トレーニングシーケンスシンボル用等化器ウェイトのそれぞれの位相角と、位相角の上限閾値および下限閾値とが比較されるとともに、前方および後方トレーニングシーケンスシンボル用等化器ウェイトのそれぞれの絶対値と、絶対値の上限閾値および下限閾値とが比較される(ステップS205)。
【0066】
そして、ステップS206からステップS209での判定の結果、前方および後方トレーニングシーケンスシンボル用等化器ウェイトの位相角および絶対値の全てが、対応する上限閾値および下限閾値の範囲内にある場合は、第1演算制御モードが実行される(ステップS210)。なお、ステップS206からステップS209での判定は、タップ毎あるいはそれらの平均により判定してもよいし、最大の変動を行っている要素についてのみ判定をおこなってもよい。
【0067】
第1演算制御モードでは、前方タップ係数算出部610で算出された前方トレーニングシーケンスシンボル用等化器ウェイト、および、後方タップ係数算出部620で算出された後方トレーニングシーケンスシンボル用等化器ウェイトが、第1演算制御モード重み算出部660に供給される。そして、第1演算制御モード重み算出部660において、前方および後方トレーニングシーケンスシンボル用等化器ウェイトに基づいて、インフォメーションシンボルの等化器ウェイトの位相空間上での位相角および原点からの絶対値が、それぞれの内挿案分により直線近似されて算出され、その結果が信号処理部680に供給される。これにより、信号処理部680において、公知の信号処理によりインフォメーションシンボルのマルチパス干渉成分が減算処理される。
【0068】
これに対し、ステップS206からステップS209での判定の結果、前方および後方トレーニングシーケンスシンボル用等化器ウェイトの位相角および絶対値の少なくとも一つが、対応する上限閾値および下限閾値の範囲から外れる場合は、第2演算制御モードが実行される(ステップS211)。
【0069】
第2演算制御モードでは、前方タップ係数算出部610で算出された前方トレーニングシーケンスシンボル用等化器ウェイトが、第2演算制御モード重み算出部670に供給される。そして、第2演算制御モード重み算出部670において、前方トレーニングシーケンスシンボル用等化器ウェイトに基づいて、インフォメーションシンボルの等化器ウェイトの位相空間上での位相角および原点からの絶対値が算出され、その結果が信号処理部680に供給される。これにより、信号処理部680において、公知の信号処理によりインフォメーションシンボルのマルチパス干渉成分が減算処理される。
【0070】
その後、信号処理部680において、マルチパス干渉成分が減算処理されたインフォメーションシンボルは、等化器600から出力されて、受信データ処理部700に入力される。そして、受信データ処理部700において、インフォメーションシンボルが復調されて、受信データが解析される(ステップS212)。
【0071】
このように、本実施の形態に係るデジタル無線受信装置では、前方トレーニングシーケンスシンボルによる等化器ウェイトおよび後方トレーニングシーケンスシンボルによる等化器ウェイトの位相角(回転量)が所定範囲にあり、かつ、絶対値(変化)が所定範囲にある場合のみ、第1演算制御モードによって、インフォメーションシンボルの等化器ウェイトの位相空間上での位相角および原点からの絶対値が、それぞれの内挿案分により直線近似処理される。それ以外は、第2演算制御モードによって、インフォメーションシンボルの等化器ウェイトの位相空間上での位相角および原点からの絶対値が、前方トレーニングシーケンスシンボルによる等化器ウェイトによって処理される。
【0072】
これにより、マルチパスフェージング環境下で、フェージング変動が比較的少ない場合は、第2演算制御モードによってマルチパスフェージングの影響を高速に取り除くことが可能となり、フェージング変動がある程度ある場合は、第1演算制御モードによってフェージング変動を含むマルチパスフェージングの影響を良好に取り除くことが可能であり、フェージング変動が激しい場合は、第2演算制御モードによって従来と変わらない性能でマルチパスフェージングの影響を取り除くことが可能となる。したがって、全体として、マルチパスフェージング環境下での高速移動通信によるスループットを効率的に向上することができる。
【0073】
また、本実施の形態に係るデジタル無線受信装置では、移動端末の速度を検出することなく、マルチパスフェージングの変動にのみ着目して等化処理を実行するので、構成および処理の簡略化が図れる。つまり、一般に移動端末の速度を基地局にレポートする場合、規格上もしくはデバイス実装上制約がある場合が多い。しかし、本実施の形態に係るデジタル無線受信装置によれば、移動端末の速度を基地局にレポートすることなく、フェージングの変動によって端末速度に応じた適切な等化処理が可能となる。
【0074】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、上記実施の形態において、第2演算制御モードは、前方タップ係数に限らず、後方タップ係数に基づいて実行することもできる。また、第2演算制御モードは、図2のステップS206からステップS209での判定の結果に基づいて、前方タップ係数が上限および下限の閾値範囲から外れた場合は、後方タップ係数に基づいて実行し、後方タップ係数が上限および下限の閾値範囲から外れた場合は、前方タップ係数に基づいて実行することもできる。
【符号の説明】
【0075】
100 アンテナ
200 無線部
300 アナログ/デジタル変換部(ADC)
400 メモリ
500 最大相関タイミング検出部
600 等化器
610 前方タップ係数算出部
620 後方タップ係数算出部
630 演算制御部
640 等化器重み比較部
650 閾値記憶部
660 第1演算制御モード重み算出部
670 第2演算制御モード重み算出部
680 信号処理部
700 受信データ処理部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフォメーションシンボルの前方および後方にそれぞれ既知の前方トレーニングシーケンスシンボルおよび後方トレーニングシーケンスシンボルが付加されて無線送信されるバーストを受信するデジタル無線受信装置であって、
前記前方トレーニングシーケンスシンボルおよび前記後方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号に基づいて、前記インフォメーションシンボルの受信信号からマルチパス干渉成分を減算する等化器を備え、
前記等化器は、
前記前方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号からタップ毎のマルチパス干渉成分を示す前方タップ係数を算出する前方タップ係数算出部と、
前記後方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号からタップ毎のマルチパス干渉成分を示す後方タップ係数を算出する後方タップ係数算出部と、
前記前方タップ係数および前記後方タップ係数のそれぞれの複素空間上での位相角および絶対値に基づいて、前記インフォメーションシンボルのマルチパス干渉成分を、前記前方タップ係数および前記後方タップ係数に基づく内挿により減算処理する第1演算制御モードと、前記前方タップ係数または前記後方タップ係数に基づいて減算処理する第2演算制御モードとのいずれかを実行する演算制御部と、
を有することを特徴とするデジタル無線受信装置。
【請求項2】
前記演算制御部は、
前記前方タップ係数および前記後方タップ係数のそれぞれの複素空間上での位相角および絶対値の少なくとも一つが、対応する下限閾値を超えた場合、前記第1演算制御モードを実行する、ことを特徴とする請求項1に記載のデジタル無線受信装置。
【請求項3】
前記演算制御部は、
前記前方タップ係数および前記後方タップ係数のそれぞれの複素空間上での位相角および絶対値の少なくとも一つが、対応する上限閾値未満の場合、前記第1演算制御モードを実行する、ことを特徴とする請求項1または2に記載のデジタル無線受信装置。
【請求項4】
インフォメーションシンボルの前方および後方にそれぞれ既知の前方トレーニングシーケンスシンボルおよび後方トレーニングシーケンスシンボルが付加されて無線送信されるバーストを受信するデジタル無線受信方法であって、
前記前方トレーニングシーケンスシンボルおよび前記後方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号に基づいて、前記インフォメーションシンボルの受信信号からマルチパス干渉成分を減算するにあたり、
前方タップ係数算出部により、前記前方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号からタップ毎のマルチパス干渉成分を示す前方タップ係数を算出するステップと、
後方タップ係数算出部により、前記後方トレーニングシーケンスシンボルの受信信号からタップ毎のマルチパス干渉成分を示す後方タップ係数を算出するステップと、
演算制御部により、前記前方タップ係数および前記後方タップ係数のそれぞれの複素空間上での位相角および絶対値に基づいて、前記インフォメーションシンボルのマルチパス干渉成分を、前記前方タップ係数および前記後方タップ係数に基づく内挿により減算処理する第1演算制御モードと、前記前方タップ係数または前記後方タップ係数に基づいて減算処理する第2演算制御モードとのいずれかを実行するステップと、
を含むことを特徴とするデジタル無線受信方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−106085(P2013−106085A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246729(P2011−246729)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】