説明

デバイス

動物の体内への骨置換及び取付けのためのインプラントであって、多孔質外面を備えた構造的部分と、構造的部分の多孔質外面に被着されたセラミック材料とを有するインプラントにおいて、パルス化圧力MOCVDを利用して被着されたセラミック材料の厚さは、多孔質外面の細孔のうち少なくとも何割かが完全には覆われていないような厚さである、インプラント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイスに関する。本発明は、特に、インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、整形外科インプラントが大いに役立つようになっている。有痛性の且つ(或いは)機能不全の関節の置換により、疼痛をなくすことができ又は少なくとも大幅に減少させることができ、しかも、全てではなくても幾分かの失われた機能、例えば歩行及び一般的な運動を回復させることができる。インプラントは、患者が通常の活動的なライフスタイルに戻ることができるようにし、さらに又、有害な副作用を生じる場合が多い薬剤への患者の依存性を減少させることができる。
【0003】
殆ど全ての人が、代用品としての人工関節の恩恵に浴している或る人のことを知っていることに鑑みて、生体インプラントの市場がどれほど大きくなっているか、そして成長しつつある市場であるかが分かる。1998年に約500,000個のTi/セラミック製の股関節が植え込まれ、毎年100,000個の成長率が見込まれている[Van Sloten et al, 1998]。スエーデン国では、股関節置換術の総数の7%が、修正手術であり、これは、オーストラリア国における修正手術(13.2%)[http:www. geocities.com/hip_replacements/statistics.htm.20/08/03]及びイギリス国での修正手術(18%)[Suchanek, Yoshimura, 1998]と比較して少数である。
【0004】
現在実施された関節置換術の90%は、十年を超える期間にわたり好結果を得ている[Van Sloten et al, 1998]が、修正手術の割合が高いことに鑑みて、改良の必要性が力説される。患者は、二次的手術の恐れなく、できるだけ長い期間にわたって自分のインプラントから恩恵を受けたいと思うであろう。さらに、手術は、患者並びに健康保険にとって莫大な費用を必要とする。
【0005】
生体系中の損傷した組織を置換しようとする試みに関する主要な問題は、異物を破壊し又はそれが可能でない場合には異物を線維組織で包み、そしてこれをその環境から分離しようとする生体(生まれつき備わった)反応である。これにより、インプラントの固定が非常に困難になる。インプラントが弛むと、その結果として、動的加重が増大し、それ故に疲労骨折が生じる場合がある。
【0006】
インプラントが弛むもう1つの理由は、応力遮蔽効果である。これは、剛性の大きな違いに起因してインプラントに隣接した領域から応力が逸らされた場合に生じる骨の損失である。
【0007】
これらの要因が原因となって、整形外科骨インプラント及び関節置換物の長期間にわたる固定に関して技術的及び材料的な問題が生じている。
【0008】
整形外科インプラントを幾つかの仕方で骨に取り付けることができる。
1960年から先に、最も一般的な手技は、プロテーゼ(補綴具)としてのステムをポリマー骨セメント、即ち、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に埋め込むことであり、このようなPMMAは、骨に含浸し、それによりインプラントを骨に保持する。ポリマー骨セメントは、通常、滑らかな表面を備えたインプラントに用いられ、このポリマー骨セメントは、関節の受ける荷重の繰り返しに対する耐性が低い脆弱な材料である。このポリマー骨セメントは又、接着特性を欠いており、したがって、骨がインプラントを支持するのを助けるようインプラントと骨との間の隙間を埋めるよう働くに過ぎない。関節内部での運動及びこすりの結果として、セメントが壊れ、インプラントが弛み状態になり、疼痛がなし、インプラントの機能が損なわれる場合がある。PMMAは、約10年間の使用に十分であるが、15年後には破損がしばしば生じる。したがって、この技術は、骨セメントの修正が困難なので、若い患者には不適当である。
【0009】
新規且つ成功した方法は、最初1991年に導入された活性表面被膜を用いる生物学的固定法である。このような方法では、多孔質材料で被覆されたインプラントが用いられ、骨が、インプラントの多孔質表面中に成長し、次にインプラントを定位置に保持する安定した結合部が得られる。この方法は、骨セメントの使用と関連した問題を解決するが、新たな問題を生じさせる。
【0010】
骨置換及び取り付けのための多孔質金属インプラントの使用は、当該技術分野において周知であり、次のように外科用インプラント設計に用いられている[Spector et al, 1998]。
1.軟組織及び硬組織を置換又は補強するためのデバイスを製作するため。
2.生物学的固定のための組織及び成長に対応した人工器官に施される被膜として。
3.骨の再生を容易にするための支承構造として。
【0011】
多孔質材料の目的は、材料の細孔中への組織の内方成長を可能にし、その結果として多孔質材料への組織の強固なインタロック機械的取り付けが得られるようにすることにより骨とインプラントとの間の強固且つ永続的なインタフェースを提供することにある。
【0012】
多孔質金属を金属ビーズの焼結、蒸気浸潤被着又は任意他の方法で作ることができる。このような金属は、チタン若しくはタンタル又はこれと同様な特性を有する任意他の金属であるのが良い。多孔質金属−骨インタフェースは、パブリックドメインである。
【0013】
患者の回復にとって最も重要な要因の1つは、損傷した骨表面の迅速な治癒である。生物学的固定によってもたらされる主要な問題は、初期固定である。多孔質インプラント中への骨の内方成長に要する時間は、約8〜12週間である。インプラント中への骨の内方成長は、運動が生じない状態でのインプラントと骨との安定した連結に依存している。したがって、関節の中には部分的又は完全な不動化が必要なものがある。また、骨の内方成長のための最適孔径は、医学的実験から知られている。
【0014】
生物学的固定を用いたインプラントの修正は、インプラントが骨に直接連結されているので非常に困難である。しかしながら、この同じ特徴により、必要な修正は僅かである。
【0015】
幾つかの要因が原因となって、インプラントの多孔質表面中への体による骨の被着の増大が生じる場合がある。1つは、多孔質インプラント構造体上へのセラミック被膜の使用である。セラミック被膜は、腐食を受けにくく、下に位置する金属を保護することができるという利点を有している。1つの広く利用されている被膜材料は、ヒドロキシアパタイト(HA)であり、これは、骨の主成分である。
【0016】
ヒドロキシアパタイトは、約550℃で結晶化し、硬組織及び石灰化軟骨に見られる生体適合性のリン酸カルシウム(CA10(PO46(OH)2)である。人の骨は、約43重量%のHAから成り、残部は、36重量%のコラーゲン及び14%の水を含む[Biomaterials, introduction]。
【0017】
HAの構造は、骨のミネラルとほぼ同じである(Ca/P比は、1.67である)。ヒドロキシアパタイトのCa/P比が、1.67未満であれば、α−リン酸三カルシウム又はβ−リン酸三カルシウム(TCP)が生じる[Suchanek, Yoshimura, 1998]。TCPが存在すると、HAセラミックスのゆっくりとした亀裂成長感受性及び生分解性が増大する。Ca/P比が高いと、CaOが生じ、このことは、強度を減少させるとことが報告されており、これにより、更に、Ca(OH)2及びCaCOの生成による応力によって解凝集が生じると共に患者の体積変化が生じる場合がある[Suchanek, Yoshimura, 1998]。
【0018】
HAの生体一体化特性は、周知である。この材料は、現在骨の再建及び植え込みに用いられており、その使用は、FDAによって認可された。
【0019】
ヒドロキシアパタイトは、良好な骨伝導特性を有し、このことは、ヒドロキシアパタイトがその表面に沿って骨の移動を支援することを意味する[LeGeros, 2002]。
【0020】
HAは又、生体活性を示す。骨伝導性に加えて、HAは、硬組織との直接的な化学結合を生じ[Park, Bronzino, Biomaterials, Principies and Applications, CRC Press, 2003]したがって、その表面上にアパタイト状の物質又はカーボネートヒドロキシアパタイトを生じさせることにより被膜と骨との間の接着度を向上させる。
【0021】
他の生体セラミックス(アルファ−リン酸三カルシウム(Ca3(PO42又はベータ−リン酸三カルシウム(Ca3(PO42)のような生体セラミックス)と比較した場合のHAの重要な利点は、これが生理学的条件下で溶解するのを阻止する生理学的PHにおけるその熱力学的安定性にある[http:www.azom.com/details.asp?Article ID=1743#_What_materials_are]。
【0022】
残念ながら、純粋HAの耐疲労性は、骨と比較して非常に貧弱である。破壊靱性(KIC)は、1.0MPa・m1/2以下であり、骨の破壊靱性は、2〜12MPa・m1/2にある[Suchanek, Yoshimura, 1998],[Bronzino, 1995]。さらに、湿った環境中におけるHAのワイブルモジュラスは低く(m=5〜12)であり、これは、HAインプラントの信頼性が低いことを表している[Suchanek, Yoshimura, 1998]。したがって、HAインプラントを人の関節で経験するような高い動的加重にさらすことはできない。
【0023】
しかしながら、多孔質金属インプラントをHAで被覆することにより、骨とインプラントとの間の結合性が大幅に改善できる。強力な結合により、インプラントへの効果的応力伝達が可能であり、したがって、金属の機械的性質が利用されることになる。
【0024】
ヒドロキシアパタイトは、骨付着の活動度を増大させるよう作用することができる。骨形成は、アパタイト結晶のための核形成剤としての役目を果たすトロポコラーゲン線維を介して生じ、ミネラル成分は、周りの過飽和体液から引き出される。結晶格子の形成は、コラーゲン線維内で始まる。結晶格子は、これらが線維を完全に満たして包囲するまで成長し、次に、より多くのヒドロキシアパタイトの付着のための表面を提供する[Kokubo et al, 2003],[White, Handlerm Smith, 1973]。
【0025】
ヒドロキシアパタイト被膜上への骨の形成は、HA上におけるアパタイト層の形成によって開始される。この層は、自然発生的に生じ、HA、FA(フルオロアパタイト、Ca5(PO43F)及びガラスセラミックスを含む生体活性物質の特徴である。次に、骨と被膜との間に化学結合が生じてこれら相互間の界面エネルギーが減少する。
【0026】
HAの生体活性は、焼結温度の増大につれて減少するという報告により、生体活性度をHAの表面上の負電荷の度合いに直接的に関連づけることができるということが確認される。高い温度で焼結されたHAは、表面に少数のヒドロキシルイオン(OH-)を有する[Kokubo et al, 2003]。
【0027】
フルオロアパタイトは、HAよりも高い温度において安定性があるという利点を有し[Cilibert et al, 1997](融点は、1630℃である[Agathopoulos et al, 2003])、骨状細胞の形成に高い活動度を示す[LeGeros, 2002],[Sakae et al, 2003]。被覆HA及びFAインプラントに関する骨形成の比較の示すところによれば、FAについて明確な一歩先のスタートが生じた。この場合、骨形成は、6週間後に既に始まっており、これに対し、HA被覆インプラントについてはこの時点では骨形成の徴候が見られなかった。F(フッ素)の比率を制御しなければならないというのは、含有量が高いと、病気(例えば、フッ素沈着症)が引き起こされる場合があるからである[Sakae et al, 2003]。
【0028】
多孔質金属整形外科インプラントに用いられるチタン合金上にヒドロキシアパタイトを被着させる幾つかの方法が従来用いられ又は提案された。これら方法として、プラズマ溶射、ゾル−ゲル法、ホットアイソスタティック成形、HVOF、パルス化レーザアブレーション、イオンビームスパッタリング及び有機金属化合物化学蒸着法(MOCVD)が挙げられる。現在、プラズマ溶射が、商業的に受け入れられる唯一の方法である。
【0029】
大きな問題は、HAの熱膨張率(15×10-6/℃)とチタン合金の熱膨張率(8.8×10-6/℃)の不一致である。一般的な被覆法では、高い温度を必要とし、冷却により、互いに異なる収縮挙動が生じ、これによりインタフェースのところに予備亀裂が生じる[Breme et al, 1995]。被覆法を低い温度で利用する試みは、今日までのところ商業的には受け入れられなかった。
【0030】
プラズマ溶射は、熱による溶射プロセスを含み、この場合、加熱溶融粒子を基板に向かって推進し、これら粒子は、基板上で平らになって非常に迅速に冷える。
【0031】
工業的用途におけるプラズマ溶射の成功は、主として、その単純さ、効率的な蒸着及び同程度の低いコストに起因している[Dong et al, 2003]。プラズマ溶射中、HAは、約10,000Kの温度に維持されなければならない。これにより、前駆物質成分の部分的分解が生じる。粒子は、基板の表面に当たると、約105K/sの迅速な冷却速度を呈し[Park et al, 1999]、これにより、次に記載する種々の不都合な効果が生じる。
【0032】
1.HA及びTiは、高い温度にさらされるが、HA粒子の迅速な冷却速度は、化学反応を妨げ、したがって、HAとチタンとの間の強固な化学結合を妨げ[Park et al, 1999]、[Tsui et al, 1998a]、[Tsui et al, 1998b]、この結果、Ti又は他の金属に対するHAの付着性が貧弱になる。
【0033】
2.準安定性且つ非晶質のCaP相の生成は、3つの理由で望ましくない。第1の理由として、このような生成により、破壊経路として働く連続相が生じがちである。[Park et al, 1999]。第2の理由として、骨成長は迅速な溶解が開始するので非晶質相の存在下において迅速な速度で生じる[Sun et al, 2001]が、体液による容易な再吸収により、被膜とインプラントとの間のインタフェースが極めて弱くなる[Park et al, 1999]、[Dong et al, 2003]、[Cheang et al, 1996]と共に長期間にわたって粒子デブリが生じる[Sun et al, 2001]。食品医薬品庁(FDA)は、最小62%の結晶性を推奨している[www.fda.gov, 29/10/2003]。
【0034】
3.さらに、骨に見られる生まれつきの骨HAは、結晶性であり、この結果、骨−インプラントインタフェースの一体性が損なわれる[Cheang et al, 1996]。インプラントは、非晶質相を再結晶させるために結晶温度(550℃)よりも高い温度で数時間の間熱処理される必要がある。
【0035】
4.細孔は、収縮及び空気取り込み並びに部分的に溶融しなかった粒子に起因して形成される[Dong et al, 2003]。したがって、プラズマ溶射被膜は、高い多孔性を有する傾向がある。300〜400μmの所望の孔径を達成することは困難である[LeGeros, 2002]。また、多孔性が高いと、HAは、腐食攻撃を受けやすくなる。というのは、被膜が、下に位置するチタンを保護するのに十分密度が高くないからである[Knets et al, 1998]。
【0036】
プラズマ溶射中の迅速な冷却を回避することはできないが、これら欠点を減少させる手立て、例えば、様々な量のTiを含む漸変被膜の使用が存在する。
【0037】
従来利用された被覆技術のうち、熱溶射又はプラズマ溶射が最も一般的に利用されたり分析されたりしている。この技術は、臨床状況において制御可能な再吸収応答を生じさせるという問題に直面している。これらの問題とは別に、熱溶射被膜は、種々の配合物の使用及び非晶質相を変換してリン酸カルシウムを結晶化させる後熱処理の使用により常に改良されている。
【0038】
他の技術も又、研究された。薄膜を作製することができる技術としては、パルス化レーザ蒸着及びスパッタリンクが挙げられ、これらは、熱溶射と同様、高熱処理を必要とする。他の技術、例えば電着及びゾル−ゲル法は、低い温度を利用しているので、高温でのヒドロキシアパタイトの構造的不安定性と関連した問題を回避している。しかしながら、これらには他の大きな欠点がある。
【0039】
プラズマ溶射法並びに他の方法、いわゆる「湿式」法の固有の物理学的特徴により、結果として得られる蒸着物は、厚く、非付着性であり、構造的に脆弱である。これらの要因により、被着又は蒸着物は、植え込みに先立って及び植え込み中、容易且つすぐに粉々に崩れ、剥離し又はインプラントから落下する場合がある。
【0040】
「湿式」処理法は又、厚い蒸着物を生じさせ、このような厚い蒸着物は、多孔質材料の細孔を塞ぎ、したがって生物学的固定の効率を損ねる場合がある。
【0041】
「湿式」処理法では、多孔質表面マトリックスへの侵入が行われず、したがって、金属へのHA又は骨の良好な付着が得られない。
【0042】
これらは全て、大きな欠点であり、骨の内方成長を可能にし、したがって生物学的固定を可能にする薄く、一貫性があり且つ信頼性のある被膜の形成を阻止する。
【0043】
種々の方法の利点及び欠点が表1に記載されている。
【0044】
金属構造への付着及び結果として得られる骨の強度の問題は、これらの方法では解決されなかった。
【0045】
HAを金属インプラント上に被着させるバイオミメティック法も又、従来研究された。
【0046】
この場合、インプラントは、先ず最初に、高い濃度のシミュレート体液溶液(SBF)中で浸漬状態になる。薄い非晶質リン酸カルシウム被膜を金属に被着させ、次に少量の結晶成長阻害薬を含む別のSBF溶液中に浸漬させた。結果として、結晶リン酸カルシウムの被膜が得られた。HAは、何年にもわたって溶解するので、アタッチメント骨/Tiを考慮する必要がある。チタン表面それ自体を生体活性にする試みは成功した。
【0047】
【表1】

【0048】
インプラントの寿命における決定的な要因は、骨−インプラントインタフェース及び用いられる接着剤又は接合技術の健全性である。
【0049】
骨−インプラントインタフェースの安定化に対する好評な新対策は、金属インプラントの骨接触面のところに開放支承構造を作製することである。表面の開放構造は、表面中への血液の流れ及び骨の成長を可能にする。チタン及びタンタルは、インプラント構造に用いられる生体適合性金属である。
【0050】
これら金属は、拒絶率が低く且つ瘢痕組織成長が低いが、自然な骨折が行うような仕方では骨成長を刺激しない。
【0051】
現行のゾル−ゲル法及びプラズマ溶射法は、多孔質構造中へのHAの蒸着を可能にせず、穴又は細孔を塞ぎ、したがって、所望の内方成長を阻止する恐れがある。
【0052】
熱溶射又はプラズマ溶射法と関連した問題の幾つかを解決する別の一方法は、有機金属化合物化学蒸着法(MOCVD)である。
【0053】
有機金属化合物化学蒸着法のプロセス中、前駆物質ガスが、ほぼ周囲温度で反応チャンバ内に送り込まれる。このようなガスが加熱状態の基板上を通過し又はこれに接触すると、ガスは、反応し又は分解して基板上に蒸着される固体相を形成する。
【0054】
MOCVDは、このようなMOCVDをこの種の被膜にとって将来性のあるプロセスにする幾つかの利点を提供する。プロセス中に到達する最も高い温度は、約550℃である。[ciliberto et al, 1997]。この結果、非晶質相の形成(プラズマ溶射の主要な欠点)を回避することができる。
【0055】
さらに、MOCVDでは、蒸着プロセスを化学的且つ運動学的に制御することが可能である。プラズマ溶射と比較して、MOCVDは核形成及び成長、被膜の蒸着速度及び化学量論的組成に対する向上した制御性を提供する[Cilibert et al, 1997]。
【0056】
MOCVDによる金属上への薄膜セラミックスは、非常に良好な付着性を有する場合が多い[Krumdieck, 2001]。MOCVDによるHAによる蒸着に関する潜在的な前駆物質を説明する刊行物の数は限られている[Allen et al, 1996],[Dar et al, 2004]。
【0057】
これら研究で用いられる前駆物質は、昇華により反応チャンバ内に導入され、昇華は、前駆物質の選択(前駆物質は、十分に揮発性でなければならないので)及び所与の組をなす条件下において導入されるべき前駆物質の量を正確に測定する能力に対して相当な制限を課す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0058】
さらに、各前駆物質は、種々の昇華条件を必要とし、装置の構成は、追加の各前駆物質の導入を可能にするよう改造されなければならないであろう。
【0059】
本発明の目的は、上述の問題を解決し又はなくとも公衆に有用な選択肢を提供することにある。
【0060】
本明細書において引用される特許又は特許出願明細書を含む全ての先行技術文献を参照により引用し、これらの記載内容を本明細書の一部とする。いずれかの先行技術文献が先行技術を構成するものと承認するものではない。先行技術文献の説明は、これらの著者が主張する内容に係るものであり、本出願人は、引用した先行技術文献の正確さ及び適切さを問題にする権利を保有する。多くの先行技術文献が本明細書において言及されているが、この言及は、これら先行技術文献のいずれかがニュージーランド国又は任意他の国において当該技術分野における通常の知識の一部をなすという証人となるものではない。
【0061】
「〜を有する」(または「〜を備える」)という用語は、様々な管轄権下において、排他的又は包括的な意味を持つ場合があることが承認される。本明細書の目的に関し、別段の言及がなければ、「〜を有する」(または「〜を備える」)という用語は包括的な意味を有するものであり、即ち、これが直接言及する明示のコンポーネントだけでなく、他の特定されていないコンポーネント又は要素を含むことを意味するものである。この理論的根拠は又、「〜を有する」(または「〜を備える」)という用語が、方法又はプロセスにおいて1つ又は2つ以上のステップに関して用いられる場合にも用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0062】
本発明の別の態様及び利点は、例示的に与えられているに過ぎない以下の説明から明らかになろう。
【0063】
本発明の一態様によれば、動物の体内への骨置換及び取付けのためのデバイスであって、
多孔質外面を備えた構造的部分と、
構造的部分の多孔質外面に被着されたセラミック材料とを有するインプラントにおいて、パルス化圧力MOCVDを利用して被着されたセラミック材料の厚さは、多孔質外面の細孔のうち少なくとも何割かが完全には覆われていないような厚さであることを特徴とするデバイスが提供される。
【0064】
本発明の別の態様によれば、デバイスを製造する方法であって、デバイスは、
多孔質外面を備えた構造的部分と、
構造的部分の多孔質外面に被着されたセラミック材料とを有し、この方法は、パルス化圧力MOCVDを利用してセラミック材料を多孔質外面の細孔の少なくとも何割かが完全には閉鎖されないよう被着させるステップを有することを特徴とする方法が提供される。
【0065】
好ましい態様では、デバイスは、インプラントであるのが良く、本明細書ではインプラントとして言及される。
【0066】
しかしながら、これは、本発明を限定するものと理解されてはならない。というのは、本発明は、一貫し且つ信頼性のある薄膜としてのセラミック被膜が多孔質表面上又は多孔質表面中に必要な任意他の用途にも利用できるからである。これらは、例えば、少し挙げてみただけでも、電子部品、光学部品及び石油化学フィルタを含む。
【0067】
好ましい態様では、インプラントは、動物(人間又は人間以外の動物)の体内における骨置換及び取付けのためのものであるのが良い。
【0068】
特に好ましい態様では、インプラントは、整形外科インプラントであるのが良く、これは、人工関節代用品又は非関節代用品を含む場合がある。
【0069】
好ましい態様では、インプラントの構造的部分は、金属で作られるのが良く、本明細書においてはそのようなものであるとして言及される。この金属は、チタン、タンタル又は骨置換及び取り付けに適した任意他の金属若しくはこれらの任意の合金であるのが良い。
【0070】
当業者であれば、他の用途のための構造的部分として他の金属を利用できることは容易に理解されよう。
【0071】
インプラントの構造的部分は、任意の既存のインプラントであっても良く、骨置換及び取り付けのために将来設計される任意のインプラントであって良い。
【0072】
好ましい態様では、構造的部分の多孔質外面は、骨とインプラントの間に強固且つ永続的なインタフェースをもたらすよう骨の内方成長を可能にする孔径を有するのが良い。
【0073】
幾つかの医学的研究により、多量の血液の流れ中への最適な骨の内方成長を可能にする細孔のサイズが突き止められた。この範囲は、300〜400ミクロンとして報告されている[LeGeros, 2002]。
【0074】
したがって、好ましい一態様では、構造的部分の多孔質外面は、実質的に300〜400ミクロンの範囲の孔径を有するのが良い。
【0075】
HA薄膜は、ほんの数ミクロンの厚さなので、多孔質外面上及び多孔質外面中にヒドロキシアパタイト膜が存在することは、インプラントの血液の流れパターンを変化させず、骨の内方成長に悪影響を与えることはないであろう。
【0076】
好ましい態様では、セラミック材料は、骨一体化特性を備えた材料であるのが良い。
【0077】
好ましい態様では、セラミック材料は、アパタイトであるのが良い。
【0078】
本明細書全体を通じ、「アパタイト」という用語は、一般式X5(YO43Zを有する化合物を意味し、この式において、Xは、通常Ca2+、Yは、P5+、又はAs5+、ZはF-、Cl-又は(OH)-である。好ましい態様では、アパタイトは、Ca5(PO43(F,Cl,OH)の一般式を有するのが良い。
【0079】
好ましい態様では、セラミック材料は、ヒドロキシアパタイト(HA)であるのが良く、本明細書においてはそのようなものとして言及される。しかしながら、これは、本発明を限定するものではない。というのは、セラミック材料は、任意他の適当なアパタイトを更に含んでも良く、例えば、幾つかの最近の医学的研究の示すところによれば、フルオロアパタイト(Ca10(PO462)(FA)は、HAよりも生体活性が高い場合がある[Komlev et al, 2004],[Oktar et al, 2004]。
【0080】
FAを用いた場合の1つの懸念は、フッ素が骨内方成長中に体によって吸収されていることにある[Savarino et al, 1998]。薄膜FAの場合、生体活性の増大が実現されるが、フッ素の量は、実際に存在するセラミックの量が僅かなので極めて少量の場合がある。
【0081】
変形態様では、セラミック材料は、生体活性ガラスであっても良い。
【0082】
生体活性ガラスは又、充填剤として又は被膜として使用でき、優れた生体適合性を同時に提供する[Suchanek, Yoshimura, 1998]ことにより、骨伝導性を促進性[Boccaccini et al, 2003],[Ferraz et al, 2001]。短い植え込み時間後であっても、ガラス被覆インプラントは、純粋HA被膜が示す骨再生速度よりも明らかに高い骨再生速度を示す[Ferraz et al, 2001]。
【0083】
別の好ましい態様では、セラミック材料は、HAとポリマーの組み合わせであっても良い。
【0084】
他の生体用材料(バイオマテリアル)としては、HA含有量を調節することにより骨の機械的性質(ヤング率、破壊靱性、耐久性及び生体活性)に合うよう作ることができるHA/ポリマー複合材が挙げられる。処理に関する問題があること及び毒性があることは、これらが依然として広く受け入れられていないことを意味している。
【0085】
例えば、一態様では、セラミック材料は、HA/コラーゲン複合材であるのが良い。
【0086】
HA/コラーゲン複合材は、このようなHA/コラーゲン複合材の優れた骨伝導性及び制御された生分解性(骨による複合材のゆっくりとした置換)に起因して大型の骨置換物に適した充填剤であると考えられる。
【0087】
幾つかの好ましい態様では、セラミック材料は、高い生体活性を備えた材料を作るために微量金属を更に含むのが良い。
【0088】
好ましい態様では、セラミック材料は、厚さ数ミクロンの薄膜の状態で構造的部分の多孔質外面に被着されるのが良く、このような薄膜は、適当なアスペクト比で多孔質構造体中に侵入する。
【0089】
好ましい態様では、薄膜は、厚さが数ミクロンから数十ミクロンの範囲にあるのが良い。
【0090】
アスペクト比は、金属インプラントの構造及び開いた細孔がマトリックス中にどれほど遠くまで延びるかで決まる。最近の蒸着タンタル構造は、深さの大部分にわたって開いている。パルス化圧力MOCVD法を用いると、処理パラメータを変化させることにより種々の孔径及び細孔深さについて侵入深さを達成することができ、金属構造体中への強固且つ自然な骨の成長が可能になる。
【0091】
好ましい態様では、膜のアスペクト比は、連結状態の細孔深さ、即ち、表面まで細孔経路を介して連続的に開いている深さに等しい。アスペクト比は、細孔開き直径と細孔深さの比として定められる。
【0092】
好ましい態様では、骨再成長深さは、インプラントの構造的部分の多孔質外面中へのセラミック被膜の深さに等しいのが良い。好ましくは、骨再成長深さは、開放細孔深さに等しい。インプラントの構造的部分の多孔質外面内におけるこの深さまでの骨再成長により、活動的なライフスタイルにより及ぼされる荷重の大きさに耐えることができる骨とインプラントとの間の強固なインタフェースをもたらすのに十分な生まれつきの骨構造の一体化が可能になる。
【0093】
好ましい態様では、セラミック材料の膜は、被覆細孔の大部分が医学的試験から決定された内方成長のための最小サイズに合わせて開くような仕方で細孔の表面を被覆するのが良い。
【0094】
金属構造体の製造プロセス中、表面のところにほんの数ミクロンの細孔が存在する割合は僅かであるのが良いことが解る。これら細孔は、膜により閉鎖されるのが良い。しかしながら、細孔は、いずれの場合においても骨の内方成長を可能にはしない。数ミクロンから数十ミクロンの薄膜は、300〜400ミクロンの所望範囲の細孔を跨いで閉鎖することはできないであろう。
【0095】
既存のインプラント製品は、良好な骨内方成長を有することが知られており、好結果をもたらすインプラントである。
【0096】
しかしながら、患者は、内方成長が起こるまでじっとしていなければならない。この時間は、HA被膜が被着された場合大幅に短くなる。これらインプラントの製造業者は、このことを認識しており、製造業者は、HAの層をインプラントの外部に被着させる手段を模索している。
【0097】
「湿式法」スラリの表面張力は、材料が多孔質構造体に侵入するのを阻止し、その結果、脆い厚手の蒸着物が、細孔を閉鎖することになる。多孔質表面へのプラズマ溶射は又、表面を封止し、不安定な蒸着物を生じさせる。さらに、プラズマ溶射は、インプラントの構造を改変する場合のある高温プロセスである。この結果、HAを金属インプラントに蒸着させる最適モードは、比較的低温で表面にくっつく薄膜を作製することである。
【0098】
ヒドロキシアパタイトは、体を化学的に刺激して新たな骨材料をその構造体中に被着させる。骨の生まれつき備わった構造は、ヒドロキシアパタイト構造よりも非常に強固である。これは、骨は、高密度のセラミック線維が応力の最も高い方向に成長する構造化複合材料であるということに起因している。ヒドロキシアパタイトは、ランダムに構造化された人工材料である。ヒドロキシアパタイトは骨の成長を化学的に刺激するが、骨の成長は、ヒドロキシアパタイトの既存の構造体中に向いていく。
【0099】
多孔質表面の細孔の大部分を開いたままにする本発明によって作られたヒドロキシアパタイトの薄膜の主要の利点は、このようなヒドロキシアパタイトの薄膜が多孔質金属構造体の表面上への骨成長の化学的刺激を可能にするが、材料が非常に僅かであり、この結果、構造体が非常に僅かであるということにある。この結果、生まれつきの骨は、多孔質材料としてのインプラント構造体中に成長し、それ自体の自然な最大強度構造体を実現する。
【0100】
多孔質材料中に成長した薄膜は、多孔質金属中への生まれつきの骨の成長を刺激し、この結果、接触表面積が広い金属と骨との間の強硬なインタロックインタフェースを生じさせる。
【0101】
このような構成の主要な利点は、骨に加わる荷重を広い領域に分散させ、この結果、骨の最大応力を減少させることにある。
【0102】
本発明により作られる薄膜の別の利点は、結果として得られるインタロック構造が又、骨の疲労及び変性を引き起こす場合のある金属と骨との間の剛性の不一致を軽減することができるということにある。
【0103】
超音波噴霧器を介する連続排気型反応器中への液体有機金属前駆物質溶液の時限パルス化注入を有する技術は、パブリックドメインであり、米国特許第5,451,260号明細書及びCRF D-1394-Raj et al,“Method and Apparatus for CVD using Liquid Delivery System with Ultrasonic Nozzle”Sono-Tek Corp.(ライセンシー)に記載されている。
【0104】
この技術は、商業的に入手でき、有機金属液体前駆物質溶液からセラミック材料の固体薄膜を製作するものとして実証されている。
【0105】
好ましい態様では、セラミック材料は、「パルス化圧力有機金属化合物化学蒸着法」、即ち、「パルス化圧力MOCVD」により構造的部分の多孔質表面に被着されるのが良い。
【0106】
「パルス化圧力MOCVD」という技術用語は、本願では、本明細書に記載されていて、キャリヤガスの無いパルス化反応器圧力を用いるユニークな処理方法を意味する。
【0107】
「パルス化MOCVD」という技術用語は、技術文献に見受けられ、これは、次の2つの事項の一方を意味する場合がある。
【0108】
1.常時流れている定常圧力反応器内への液体前記物質の非常に迅速なパルス化注入。このプロセスの蒸着メカニズムは、従来型MOCVDのものと全く同じである。このプロセスは、フランス国のセネトール(Senetaur)社によって開発され、資本設備会社JIPELECによって所有されている特許の内容である。スペイン国のフィゲラス(Figueras)社のグループは、最近、この前駆物質供給方法を「パルス化MOCVD」として用いた幾つかの結果を公表した。
【0109】
2.バブラ(bubbler)からの一定圧力での連続誘導キャリヤガスの流れ中への前駆物質蒸気のオンオフ流れ。これは、前記物質液体源中へのキャリヤガスのバブリングフィットを交互に上げたり下げたりすることによって達成できる。連続流れ中への断続的な前駆物質供給は又、ソレノイド弁を介して実現できる。この方法は、蒸着中、組織化された結晶構造を生じさせる「待機時間」を生じさせる。待機時間は又、パルス化圧力MOCVDにおいても生じる。この方式を用いた結果を報告している著名なグループの1つは、日本国東京工業大学のフナクボ教授のグループである。
【0110】
他の全てのMOCVD及びパルス化MOCVDと呼ばれる他の全ての方法は、定圧プロセスである。一定圧力では、細孔内部の表面への物質移動モードは、バルク流れから蒸着が前駆物質を消費している固体表面への拡散によって行われる。定圧MOCVDでは、被膜厚さは、任意の表面特徴部の深さにつれて減少することは周知である。
【0111】
好ましい態様では、パルス化圧力MOCVDは、キャリヤガスの無いパルス化反応器圧力を用いるのが良い。
【0112】
これは、細孔の少なくとも何割かが閉鎖されないようにするインプラントの多孔質表面上の細孔中への薄く、固体であり、付着性のある膜について特許請求の範囲に記載された構成の実現を可能にする。これは又、他の多くの方法の欠点、例えば多孔質材料の突出頂部内への多量の粉末付着物の堆積を解決する。
【0113】
好ましい態様では、パルス化MOCVDプロセスのパルス化圧力動作は、金属構造体の最大アスペクト比侵入が得られるよう調節され、他方、薄膜のみを蒸着させ、多孔質表面の細孔の少なくとも何割かを完全に閉鎖されたままにはしない。
【0114】
反応器の動作圧力が、図5に示されている。最高圧力、最低圧力及びサイクル時間は全て、三次元特徴部の被覆に役割を果たす。サイクルは、反応器が最低圧力まで排気されたときに開始する。特定の量の前駆物質が真空チャンバ内に注入され、フラッシュ蒸発して圧力スパイクを生じさせる。インプラントの多孔質構造体は、パルスサイクルのポンプダウン部分中、排気され、この結果、希薄ガスに関するダイナミックスの原理[Roth, 1976]に従って、ガスの平均自由経路が細孔の開きよりも大きくない限り、ガスは高圧で、細孔の内部の空間を満たすことになる。パルスの最高圧力を蒸気分子の平均自由経路が、特定のインプラント上の細孔のサイズがどれほどのものであるにせよ、細孔の迅速な充填を可能にするほど狭いように注入された量の液体の大きさを調節することによって調整できる。
【0115】
本発明の薄膜としてのヒドロキシアパタイト膜は、現行の湿式法又はプラズマ溶射法よりも非常に高密度で且つ凝集性の結晶微細構造を有することになる。
【0116】
この微小な微細構造により、薄膜は、金属表面に対しての付着性が高くなり、それにより、他の方法により得られた多孔質表面へのセラミック材料の低い付着性を解決する。
【0117】
パルス化圧力MOCVDによるセラミック蒸着は、低い処理温度を用いているので、これは、セラミック材料の健全性に悪影響を及ぼすことはなく、高い温度を利用する方法と関連した次の問題、例えば、
・付着が主として機械的インタロックに基づくこと、
・非晶質リン酸カルシウム相での準安定性の生成、
・収縮、空気取り込み及び部分的に未溶融粒子に起因する多孔性の高い被膜
を解決する。
【0118】
パルス化圧力MOCVDは、蒸着パルスサイクル中、前駆物質濃度と圧力プロフィールの両方の正確な制御が行われるようにする独特の性能を備えている。この性能により、薄膜を所与の平均孔径の細孔中に且つ所与の深さまで作ることができるプロセスの開発が可能になる。正確な濃度、正確な最高圧力及び正確な最低圧力(これら3つの処理パラメータは、パルス化圧力MOCVDにとって1つしかない)は、実験により特に多孔質のインプラント構造体の各々について定められる。
【0119】
したがって、本発明は、多孔質構造体上への従来の膜と比較して顕著な利点を有している。顕著な利点としては以下のことが挙げられる。
【0120】
・本発明は、多孔質構造体の深さ全体にわたってばらつきのない薄膜を提供することができる。
・薄膜は、細孔が多孔質表面全体にわたって開いたままであるようにすることができるほど薄い。
・薄膜は、付着性が強く、亀裂を生じにくい。
・薄膜は、骨に用いられた場合、多孔質構造体中への骨の内方成長に必要な時間を減少させることにより骨成長を刺激する。
・本発明の方法は、低温で実施され、この結果、上述した高い温度に起因する欠点を解決する。
【0121】
本発明の別の態様は、例示として与えられているに過ぎず、添付の図面を参照して行われる以下の説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】多孔質表面を備えたインプラントの構造的部分を示す図である。
【図2】インプラントの構造的部分の多孔質表面に被着された生体刺激性セラミックの薄膜の略図である。
【図3】MOCVDプロセスが達成されるようにする「組み立てライン」プロセスを示す図である。
【図4】パルス化圧力MOCVDのプロセスのシーケンスを示す図である。
【図5】パルス化MOCVD反応容器圧力を示す図である。
【図6】従来型MOCVDとパルス化MOCVDの差を示す図である。
【図7】低圧CVD(7a)、通常圧力CVD(7b)及びパルス化圧力CVD(7c)相互間の蒸着運動学と蒸着膜厚さの比較を示す図である。
【図8】パルス化圧力MOCVDプロセスの制御を示す図である。
【図9】パルス化圧力MOCVDにより薄膜を作製するために使用できる有機金属前駆化学物質の代表的な形態を示す図である。
【図10】リン酸カルシウム薄膜と共に1cm2クーポンのチタンを示す図である。
【図11】ツィンマー(Zimmer)により作られた市販の多孔質タンタルインプラントのSEM顕微鏡写真図であり、リン酸カルシウム薄膜が被着された状態を示す図である。
【図12】タンタル支承構造体の拡大SEM像を示す図であり、表面がパルス化圧力MOCVDにより作製されたリン酸カルシウムを薄膜でぴったりと又は順応的に被覆されている状態を示す図である。
【図13】図11に示すタンタル支承構造体上に存在する薄膜のEDSスペクトルを示す図である。
【図14】電界放出解析的走査型電子顕微鏡を用いたタンタル支承構造体上の蒸着HA膜の組織図(a〜c)である。
【図15】図14の蒸着物の断面(15a)及び表面から0.5〜4mmの距離を置いたところでのEDS分析結果(15b及び15c)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0123】
本発明は、骨の付着性の増大及び成長の強化を可能にするためにインプラントの構造的部分上の改良表面を提供する。
【0124】
図1は、既存のインプラント、この例では、股関節置換用骨インプラントの構造的部分を示しており、多孔質骨一体化表面を備えた状態(1)と備えていない状態(2)の両方を示している。
【0125】
図2は、インプラントの構造的部分の多孔質表面の略図を示している。図2は、多孔質金属インプラント構造体(4)に骨再成長深さ(5)まで被着されたヒドロキシアパタイトの薄膜(3)を示している。ヒドロキシアパタイト被膜は、細孔の表面を覆っているが、細孔の少なくとも何割かは、閉鎖されていない状態のままになっている。これは、元の骨(6)が金属構造体中に成長する(7)ためのヒドロキシアパタイトで被覆された多孔質マトリックスを提供している。ヒドロキシアパタイトの薄膜により、この成長は、生まれつきの強固な骨構造体中で生じることができ、それにより、骨とインプラントとの間のインタフェースの強度が増大する。
【0126】
図2は又、平均孔径(8)及び薄膜のアスペクト比(9)を示している。
【0127】
図3は、任意の所与のMOCVDを達成する「組み立てライン」プロセスを示している。
【0128】
蒸着物又は被着物の全成長速度は、組み立てライン中のプロセスの全ての最も遅いものによって制御される。従来型MOCVDでは、加熱状態の基板の近くに位置するゾーン中に化学前駆物質蒸気を運ぶためにキャリヤガスが用いられる。この状況では、最も遅い(又は成長速度制御)ステップは、バルクキャリヤガス流れから粘性且つ高濃度境界層を通って前駆物質蒸気が消費される基板表面への前駆物質蒸気の拡散である。この結果、従来型MOCVDは、「拡散」制御型である。
【0129】
パルス化MOCVDは、連続排気型反応器中への正確な量の反応ガスの直接計量及び時限注入によるプロセス制御を達成する。反応器をこの不安定状態で可動する際のやり方は、比較的高い分子流出比、一様な膜圧差及び最小限の不純物を達成することである。パルス化MOCVDプロセスの化学的性質は、従来型MOCVDプロセスと同一であるが、成長速度制限プロセスは、通常は従来型MOCVDの場合である拡散ステップではない。
特に図3を参照すると、MOCVDは、プロセスの「組み立てライン」シーケンス、即ち、化学前記物質の蒸発(10)、基板(12)表面の近くまでの前駆物質蒸気の物質移動(11)、基板表面への前駆物質の拡散(13)、基板表面での前駆物質の吸収(14)及び再蒸発又は反応温度(16)まで加熱される(15)のに十分長く存在することによって達成される。熱分解反応は、基板温度k=Aexp(−Ea/RT)に依存する速度で生じ、固体分子及びガス又は上記生成物(17)を生じさせ、このような生成物は、表面から離脱し、拡散して反応器内に戻り、そしてシステム(21)から排出される。表面上の固体分子は、十分な数の分子が存在する場合、核形成して(18)新たな結晶になるか結晶成長の周知のプロセスに従って既存の結晶中の格子部位に組み込まれる(19)かのいずれかである。また、前駆物質蒸気分子が表面に当たる前に十分輻射的に加熱される場合、分解(20)がガス相で生じる場合があり、それにより粉末粒子が生じ、このような粉末粒子は、次に、表面上に落下し又はガス流中で押し流される場合もあることが考えられる。
【0130】
反応器容積VRを有する特に実験用パルス化圧力MOCVDシステムの略図が、図4に示されている。コンピュータが、微小ソレノイド弁のタイミングを制御して、弁Aが開き、弁Bが閉じられている状態でパルス供給容積部にガスを充填し、次にガスパルスを弁Aが閉じられると共に弁Bが開いている間に反応器中に注入する。ガスショットが各パルスの開始時に反応器中に注入されると、圧力スパイクPmaxが結果として生じる。パルスサイクルのバランスにより、反応器は、ポンプダウン圧力Pminに達するまで排気される。
【0131】
図5は、幾つかのパルスにわたる小形反応器内の圧力P(t)を示している。パルスサイクル時間tP=38秒、反応器容積VR=4.45リットル、ポンプ速度QP=毎秒2.5リットル、コンダクタンスC=毎秒1.64リットル、注入容積VS=1400mm3、供給圧力PS=150Pa(g)である。
【0132】
各パルスについて、反応器圧力は次式により与えられる[Morosanu, 1990]。
【0133】
【数1】

上式において、τは、反応器の時定数であり、Pmaxは、ピークパルス圧力である[Hitchman & Jensen, 1993]。
【0134】
【数2】

上式において、反応器排気速度は、ポンプ速度PP及び排気列コンダクタンスCの関数であり、即ち、S=QP/Cである。
【0135】
蒸着の3−D一様性
パルス化MOCVDプロセスにおける三次元物体に関する一様性は、主として、これが運動学的であり又は物質移動制御であり、拡散率制御ではないので従来型プロセスとは異なっている。
【0136】
図6は、蒸着速度が同一の状態での従来型MOCVDとパルス化MOCVDの差を示しており、従来型MOCVDプロセス(a)は、バルク流れから表面への前駆物質の拡散速度が局所境界層厚さ及びバルク流れ濃度に依存している状態で粘性流れ範囲で行われている。これとは対照的にパルス化MOCVDプロセス(b)は、反応器全体にわたり前駆物質の一様な分布状態を生じさせることが実証されており、この結果、表面への物質移動速度は、表面全体にわたって一様であり、成長速度制御ステップである。
【0137】
パルス化MOCVDの物質移動は、キャリヤガス無しで達成され、拡散プロセスが行われない。パルス化MOCVDが三次元で複雑な形状物上に一様に被覆を行う能力は、製品、例えば整形外科インプラントに必要な高い成長速度では、基本的にユニークな観点である。高真空MOCVDプロセスが、良好な一様性を有するものとして知られているが、成長速度が非常に遅く且つ深い特徴部への蒸着を行うことができない。
【0138】
パルス化MOCVDの蒸気に適用される希薄ガス理論[Roth, 1970]からのガス動的モデルを用いると、任意特定の時点(t)における反応器内の任意への表面への分子流量J(t)は、[Ohring, 2002]により次式によって与えられる。
【0139】
【数3】

【0140】
コンフォーマリティ
多孔質インプラント中への薄膜蒸着の技術革新の重要な観点は、HA被膜が、金属構造体中に幾分かの深さ延びるが、開口部を閉鎖することはないということにある。MOCVDは、或る特定の条件下において階段状形状物上及び穴内への「コンフォーマル(順応性)」被膜を生じさせる能力を備えていることが実証された。モンテカルロ(Monte-Carlo)方式を用いてモデル化が、行われ、蒸着パラメータと階段状の穴のコンフォーマル被覆との関係を示す実験と比較された[Akiyama et al, 2002]。化学的蒸気浸透(パルス化CVI)に関する新たな研究の際、パルス化圧力方式が、繊維マットの容積部を完全に満たすために用いられた。パルス化CVIは十分に高密度の炭素−炭素複合材[Ohzawa et al, 1999]、[Naslain et al, 2001]及びポリマー繊維生体インプラント[Terpstra et al, 2001]をもたらした。
【0141】
図7は、三次元表面特徴部を備えた基板上の薄膜蒸着物の一様な被覆又はコンフォーマリティ(順応性)の問題の略図である。コンフォーマリティは、従来型CVDプロセスについて広く研究された。
【0142】
定圧CVD(a)が、平均自由経路に比例したアスペクト比(開口部幅と比較した深さ)を有する表面特徴部のためのコンフォーマル薄膜を作製できることは周知である。換言すると、定圧蒸気の平均自由経路が開口部幅よりも大きい場合、分子が開口部に侵入する確率は低く、細孔中の蒸着が減少する。また、高圧CVDプロセスは、膜をバルクガス流中に突き出た表面及び凹状表面に優先的に蒸着させることは周知である。
【0143】
原子層蒸着(ALD)は、2つの互いに異なる反応体の断続的供給を利用するCVD技術の特定の部類である。各反応体は、単一層が基板表面上に生じることができるようにする部分圧力状態で導入される。ALDは、非常に大きなアスペクト比を備えた穴の中に膜を作製することが判明している[Kukli et al],[Gordon et al, 2003]。ALDは、連続キャリヤガス流れ及び断続的前駆物質がバルク流中に導入される状態で行われる。ALDは、通常、ほんの数ナノメートルの非常に薄い膜を作製するために用いられる。
【0144】
パルス化CVDは、ALDよりも一般的な技術であるが、ALDに類似した仕方で実施でき、しかしながら、交互の前駆物質共通シーケンス相互間に減少圧力インタバルが生じる。
【0145】
パルス化CVD及びALDの物理学的特徴は、単一層を形成する時間及び圧力を制御できるという点において互いに類似している。この結果、パルス化CVDは、細孔及び穴の中に薄膜を作製する上で同一の能力を有することが必要である。
【0146】
図7bは、常圧CVDを示している。この場合、分子流量は、境界層の表面の相対位置で決まり、成長速度は、高く、キャリヤガス境界層中の拡散速度によって制御される。
【0147】
図7cは、パルス化圧力CVDを示している。この場合、分子流量は、ピークパルス圧力で決まり、表面全体にわたり一様である。前駆物質は、前駆物質流れなしに反応器中に膨張状態で入れられ、したがって、排気された状態の容積部を一様に満たす。反応体が各パルス後に排出されると、ガスは、級数的に拡散増大する。この結果、パルスサイクルにわたり、成長速度を高くすることができ、この成長速度は、前駆物質の一体化部分圧力によって制限される。
【0148】
図8は、パルス化圧力MOCVDプロセスの制御を示している。
【0149】
制御ユニットにより制御される4つの弁(21,22,23,24)が存在する。弁1(21)は、液体供給(開放/閉鎖)を受け持ち、弁2(22)は、3方弁であり、ガス瓶(25)からの窒素を充填長さLまで供給し又はここからシステムに供給する。NO(常開)位置は、連結部が反応チャンバに向かって閉鎖されている間、充填長さLにN2を供給する。
【0150】
6ポート外部サンプルインゼクタ(26)は、開放状態の弁3(23)(位置A)からの圧力空気ショットを用いることによりその位置を切り換え、或いは、弁4(24)は、開いて位置Bに戻る。
【0151】
弁1(21)は、バルコ(Valco)弁が位置A(充填、弁3(23)が開いている)にあるとき、開いている。この位置では、サンプルループは、液体前駆物質(27)で満たされた状態になる。弁3をオフにしても、位置は変化しない。
【0152】
他方、弁2(22)及び弁4(24)は、閉じられる。空気が出されず、サンプルループがいったん前駆物質のみを収容すると、弁1(21)は、閉鎖状態になる。
【0153】
バルコ弁が位置B(放出、弁4(24)は開いている)に切り替わり、弁2(22)が充填長さLからサンプルループまで途中で開き、圧力を提供して液体をインゼクタ中に注入し、超音波ノズルに注入する時期は、このときである。
【0154】
MOCVDのための化学的前駆物質は、広範な熱分解化合物であって良い。
【0155】
図9には、パルス化圧力MOCVDにより薄膜を作製するために使用できる有機金属前駆化学物質の代表的な形態が示されている。
【0156】
ヒドロキシアパタイト(HA)(Ca5(PO43OH)、リン酸三カルシウム(TCP)(Ca3(PO4)又はフッ素を含有したこれら化合物の1つのためのカルシウム前駆物質分子とカリウム前駆物質分子の両方は、酸素化炭化水素化合物に結合された金属原子から成る。広範な手段が存在し、市販の化合物の幾つかを以下に一覧表示する。
【0157】
Ca(C11192 PO(C215O)3
Ca(C5HF722 PO(C3723
Ca(C3722 PO(CICH2CH2O)3
【0158】
前駆物質化合物は、反応器内への液体注入に適当な溶剤中に溶かされる。有機溶剤は、良好な蒸発並びに良好な安定性及び取り扱いのために前駆物質中の有機リガンド(配位子)に適合するよう選択される。今日まで、繊維骨インプラント形態の化学気相浸透(CVI)のためのMOCVD法に関する1つの特許が発行されている[Senateur et al, 2000]。この特許は、繊維形態を浸透して完全に充填し、そして高密度化するCVIプロセスを記載している。
【0159】
実験
パルス化圧力MOCVD技術は、リン酸カルシウムの薄膜をチタン金属クーポン及びツィンマー(Zimmer)により供給されたタンタル多孔質骨インプラントに蒸着させるために用いられている。プロセスの最適化は、依然として研究及び開発下にあるが、特許請求の範囲に記載された本発明の実行可能性を示すために初期結果をここに記載する。
【0160】
0.5モル%トリメチルホスフェート及び0.66モル%のCa[hfpd]2[triglyme](ここで、hfpd=1,1,1,5,5,5,−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタジオン)のトルエン溶液を調製した。この溶液をパルス化圧力MOCVDプロセスの液体前駆物質として用いてリン酸カルシウムを上述の基板に蒸着させた。
【0161】
蒸着した膜の表面は、図10に示されているように、平坦で光沢のある外観を有しており、図10は、1cm2クーポンのチタンを示しており、リン酸カルシウムの薄膜は、青色で目立って示され、着色帯が、左上の隅及び右下の隅のところのホルダ場所の近くに位置している。薄膜は、付着性が高く、亀裂の無い滑らかで一様な表面を有し、このような表面は、金属表面の輪郭を辿っている。Ti基板上に蒸着された薄膜の表面のSEM顕微鏡写真図の示すところによれば、調製基板表面からのばらつきが殆どなく、薄膜は、掻き傷及び他のトポロジー上にぴったりと被着しているように見える。多孔質タンタルサンプル上の被膜も又、図11に示されているように複雑な表面上に一様な被覆状態を提供するように見え、図11は、ツィンマーにより作られた市販の多孔質タンタルインプラントのSEM顕微鏡写真図であり、リン酸カルシウム薄膜が被着された状態を示す図である。明らかなこととして、薄膜は、細孔を塞いでおらず、インプラント支承体の開放構造を邪魔していない。白色の矢印は、図13に示されたEDS分析の場所を記している。図12は、タンタル支承構造体の拡大SEM像を示す図であり、表面がパルス化圧力MOCVDにより作製されたリン酸カルシウムを薄膜でぴったりと又は順応的に被覆されている状態を示す図である。高い倍率(図12)では、表面は、結節状であるように見え、少数の丸形突起が、表面から上方に成長しているように見える。
【0162】
薄膜から集められたEDSスペクトルは、カルシウム、亜リン酸及びチタン/タンタルの存在を示していた(図13)。図13は、図11に示すタンタル支承構造体上に存在する薄膜のEDSスペクトルを示す図である。タンタルピークの存在は、リン酸カルシウム薄膜が表面を覆っていないということを示すものではない。むしろ、x線ビームの侵入は、基板スペクトルが薄膜EDS分析中に明確且つ強く存在するようなものである。酸素ピークは、左側の目盛りからは外れている。CaとPの比は、HAについての比を表している。Ca:Pの比の「ボールパーク」推定をこれらEDS結果から得ることができる。Ca:Pの比は、生じるヒドロキシアパタイト系中の化合物の重要な指標である[Suchanek and Yoshimura, 1998]。1.67の化学量論的比が、ヒドロキシアパタイトの生成に好ましい。これよりも大きな比の場合、CaOの生成が有利であり、これよりも低い比では、α−リン酸三カルシウム又はβ−リン酸三カルシウムは有利である。多孔質タンタルサンプルに蒸着された薄膜のCa:P比は、測定値が隆起した表面で得られたものであるか低い表面で得られたものであるかに応じてばらつきがあるように見えた。平均比は、基板の隆起表面上で4.0であり、低い表面上では2.4であることが判明した。
【0163】
これら初期研究からの実験結果は、ジャーナル・オブ・バイオマテリアルズ(Journal of Biomaterials)に公開された最近の結果と申し分なく匹敵している[Li et al, 2005],[Rohanizadeh et al, 2005]。しかしながら、パルス化圧力MOCVD薄膜は、多結晶蒸着物よりも高い凝集性の一様な被膜であるように見える。
【0164】
カルシウム及び亜リン酸セラミック前駆物質を単一の混合溶液の液体注入により導入する新規な前駆物質系の開発も又行われた。
【0165】
上述したように、HA又はFAを生じさせるようCVDについて従来用いられた前駆物質に類似した前駆物質が選択された。相違点は、本発明の実験では、昇華又は蒸発を利用するのではなく、溶液注入が用いられているということであった。
【0166】
したがって、溶液濃度を操作することにより前駆物質比に関して完全な制御が可能であり、追加の前駆物質がヒドロキシアパタイト系に添加される場合追加のバブラ又は昇華チャンバは不要である(それ故、高い生体活性を備えたミネラルを生じさせるよう微量金属を取り込む本発明の性能)。
【0167】
前駆物質は、適当な溶剤中においてほどほどの溶解度を備えなければならないという点において或る程度の制約があり、今日まで、アルコールが利用されているが、他のものも使用できる。
【0168】
最適の比は、実験的に決定されることになろう。
【0169】
このような溶液を用いることは、ヒドロキシアパタイト系中の前駆物質化合物の量及び比を正確に測定することができ、単に溶液組成を変更し、チャンバ内に導入される量を測定することによって制御できるということ意味している。追加の前駆物質分子も又、容易に導入できる。この進行中の研究プロジェクトの目的は、細孔を閉じないで、HAの粘着性薄膜を多孔質タンタル構造体中に深く蒸着させるプロセスを開発することにある。
【0170】
前駆物質系に着目して行われた実験の詳細が、以下に提供されている。
【0171】
1.前駆物質開発
1.1.物質及び方法
試薬等級の溶剤及び試薬を商業的供給業者から購入し、浄化を行うことなく合成、溶解及び蒸着実験に用いた。HPLC等級のメタノールを前駆物質溶液調製に用いた。真空ポンプ及び水浴(約50℃)を備えたブッチ(Buchi)回転蒸発器を用いて溶液から溶剤を状居した。
【0172】
1.2.測定
1H及び13NMRスペクトルをブロードバンドプローブを備えたバリアン・ユニティ・300スペクトルメータ(Varian Unity 300 Spectrometer)に記録した。DMSO−d6を溶剤として用いた。反射赤外スペクトルをシマズ社のFTIR−8201PCフーリエ変換赤外線分光計上でKBr粉末中に走らせた。質量分光計による実験をウォーターズ(Waters)2790LCに結合されたマイクロマス(Micromass)LCTで行った。走査型電子顕微鏡による分析をJEOL JSM−7000F電界放出解析的走査電子顕微鏡の使用により行った。SEMを用いて、エネルギー分散X線分光(EDS)データを得て、要素マッピングを実施した。
【0173】
1.3.合成
Ca(dbm)2.4H2Oジベンゾルメタン(5.01g、22ミリモル)をエタノール(100mL)中に溶解させた。結果として得られた溶液を滴下すると共に攪拌しながら250mlビーカ内のCa(OH)2(0.76g、10ミリモル)に添加した。これを一晩中攪拌状態のままにした。化合物を濾過し、一晩中ヴァクオオーバー(vacuo over)溶解CaCl2中で乾燥させた。4.20g(75%が生じた)。結果的に得られた化合物の何割かをエタノールによる抽出によって一段と浄化させた。過剰エタノールを円錐形フラスコ内の化合物の一部に添加し、次に施栓し、2日間攪拌状態のままにした。攪拌後、溶液を濾過して直接丸形底付きフラスコ中に入れ、溶剤を除去し、その結果、Ca(OH)2の無い化合物が得られた。融点:240〜244℃。13C NMR:δ 183.2,141.9,130.1,128.2,127.1,92.6。1H NMR:δ 8.1(4H),7.5(6H),6.8。IR(KBr)1596.9,1519.8,124 1458.1cm-1。CaC3OH2204について計算した。4H2O:C 64.50,H5.41,N0。C64.61,H5.11,N 0.21を発見した。TOFMS ES+m/z(%);225.0879 M+ C15H1302
【0174】
1.4.メタノール中の前駆物質化合物の溶解度
Ca(dbm)2.4H2O(1g)を秤量して250mL円錐形フラスコ内に入れた。メタノール(50mL)を添加し、フラスコに施栓し、溶液を2分間かき混ぜた。□2分間溶液を4時間又は17時間かけて様々な温度(20℃、30℃又は40℃)で水浴中で培養した。培養期間の終わりに、溶液の2つの20mLアリコットを濾過して別々のあらかじめ秤量された丸形底付きフラスコに入れた。両方のサンプルから全ての溶剤を除去し、丸形底付きフラスコを再び秤量して各アリコット中に存在している化合物の量及びそれ故に飽和溶液の濃度を測定した。全ての条件に関して実験を2回実施した。溶解実験の結果が、表2にまとめられている。
【0175】
[表2]
表2: メタノールt1:2中のCa(dbm)2.4H2Oの溶解度(g/100mL)
培 養 条 件 Ca(dbm)2.4H2
20℃ 4時間 1.78±0.1
17時間 1.91±0.5
30℃ 4時間 1.86±0.1
17時間 1.88±0.5
40℃ 4時間 1.98±0.2
17時間 1.92±0.4
【0176】
1.5.前駆物質溶液調製
HPLC等級のメタノール(200mL)を250mL目盛り付き実験室用瓶の中の浄化されたジベンゾルメタン錯体に添加した。次に、トリメチルホスヘート(0.28mL、2.4ミリモル)を添加し、容器を密封し、前駆物質溶液を室温で一晩中攪拌した。
【0177】
1.6前駆物質選択及び合成の説明
従来のMOCVD研究は、HA被膜を作製するためにP25[Allen et al, 1996]又はトリブチルホスヘート[Barr et al, 2004]のいずれかと一緒にカルシウム−β−ジケトネート錯体[Allen et al, 1996]、[Barr et al, 2004]を用いていた。本発明者は、類似のカルシウム錯体が、PP−MOCVD技術では本発明者の初期実験に適していると判断した。ペンタン2−4−ジオン(ACAC)、ベンゾルアセトン及びジベンゾルメタン(dbm)のカルシウム錯体を調製し、dbm錯体をメタノール中でのその高い溶解度に鑑みて次の実験のために選択した。トリブチルホスヘートに代えてトリメチルホスヘートを選択した。というのは、トリメチルホスヘートは、実験室で利用でき、又、メタノール溶剤と適合性があり、カルシウム全体と反応しないからである。
【0178】
Ca(dbm)2・4H2Oの合成は、CaCl2から調製された材料ではなく市販のCa(OH)2を用いたことを除き、〔Chaudhari et al.,2004〕により公表されたCa(acac)2の合成に基づいていた。結果的に得られた錯体は、融点、NMR技術、IR、質量分光計及び要素分析によって特徴づけられた。
【0179】
錯体に関するNMR及び質量分光計データは、自由ジベンゾルメタンに関するデータに非常に良く類似していたが、高い融点、IRデータ及び要素分析は、錯体の生成に関して強固な証拠を提供している。4つの水分子の存在を要素分析データから推定し、これらの幾つか又は全ては、カルシウムイオンに恐らくは配位結合される。本発明者は、本発明の方法により密に関連したCa(acac)2錯体を調製し、本発明者が結果的に得られた物質について収集したデータは、文献に報告されたデータと同一であった。前駆物質溶液をCVD実験について調製できるパラメータを定めるために溶解度に関する実験を行った。
【0180】
2.パルス化圧力MOCVDによる蒸着
PP−MOCVDの装置及び作用の詳細は、別のところで説明されている〔Chaudhari et al.,2004〕。PP−MOCVDの蒸着プロセスは、繰り返し可能なサイクルから成っている。各サイクルでは、正確な量の液体前駆物質(5μl)溶液を超音波ノズルを介してコールドウォール反応チャンバ中に注入する。ノズルの先端の超音波振動により、小さな液滴が生じ、これら液滴は、チャンバ内の低圧(100〜600Pa)中で迅速に蒸発する。前駆物質分子は、高温の基板に到達し、ここで熱分解される。蒸着温度を基板内部で測定し、550℃に固定した。パルス相互間の時間は、10秒であった。圧力のこのような繰り返し可能な変化により、前駆物質分子は、開放構造の基板内部に深く侵入し、次に、反応生成物及び汚染物質の除去が行われる。この研究における全蒸着時間は、30分であった。
【0181】
厚さ5mm、直径10mmのインプラント支承体サンプルを市販のタンタル製膝関節置換物から切断した。サンプルは、図14(a)に示されている開いた細孔を有している。蒸着に先立って、Ta微細構造が、図14(b)に示されている。蒸着後、サンプルを再び切断し、断面を観察した。その目的は、電界放出分析走査型電子顕微鏡(JEOLJSM−7000F)を用いて蒸着膜の形態学的特徴(モルフォロジ)を突き止めることにある。エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて原子要素組成を測定した。
【0182】
3.結果
図14(c)は、タンタル支承体基板上に蒸着されたHA膜の形態学的特徴を示している。図14(b)の非被覆サンプルと比較し、セラミック蒸着物が明確に見える。セラミック膜は、Ta粒子のコーナ部を含む金属表面全てを覆っていた。これは、金で被覆されていないサンプルの表面荷電によりSEM下で観察できた。基板の形状が複雑であると仮定すると、XRDによる分析は可能ではない。
【0183】
EDS分析結果が、図15に示されている。
【0184】
カルシウムと亜リン酸の両方が、蒸着膜中に存在している。この時点では、元素としてのカルシウム及び亜リン酸の割合がヒドロキシアパタイトCa10(PO46(OH)2を表わしているかどうかは明確ではなく、両方の前駆物質化合物の活性化エネルギーを測定してHAを生じる溶液混合比を求めるために別途実験が行われる。
【0185】
断面試料をSEM及びEDSによって検査して支承構造体中への蒸着深さを求めた。膜をTaフォーム内部の深いところで、図15(b)及び図15(c)に示されているように0.2mm(図15(a)の箇所A)及び4mmの深さで観察した。薄膜蒸着物は、亀裂又は剥離が無く、薄膜蒸着物は、支承体開口部を閉鎖していないことは明らかである。
【0186】
これら初期結果は、HA薄膜のMOCVD調製のためのCa(dbm)2・4H2O−トリメチルホスフェート前駆物質系の適合性を示唆している。
【0187】
多大な研究のための労力が、今や、前駆物質比及び処理パラメータ、即ち、蒸着温度、前駆物質濃度及び圧力の関数としてHA膜の組成、成長速度、形態学的特徴及び生体活性特性を特徴づけるために進行中である。将来の作業は、結果的に得られるセラミックのより詳細な材料分析、プロセス開発及び細胞培養試験を可能にするために平べったいチタン及びタンタル製基材上の蒸着を含むであろう。他のカルシウム錯体も又調製され、MOCVD実験で用いられるであろう。
【0188】
4.結論
新規なカルシウム及び亜リン酸MOCVD前駆物質系をパルス化圧力MOCVDによるタンタル製支承体サンプル上へのヒドロキシアパタイト薄膜蒸着に関して開発した。カルシウムジベンゾルメタン及びトリメチルホスフェートをメタノールに溶解した状態の前駆物質溶液を合成して分析した。1.95gの4ミリモルCa(dbm)錯体及び0.28mlの2.4ミリモルトリメチルホスフェートを200mlのメタノールに溶解させた前駆物質溶液を用いてヒータ温度550℃で基板上にTa支承体を蒸着させた。カルシウム及び亜リン酸をEDS分析によりタンタル支承体サンプル上に同定又は識別し、蒸着深さが4mm以上であることを確認した。SEM分析により、セラミック蒸着物の存在が確認された。作業は、最適の前駆物質化学的性質及び蒸着条件を割り出すために続行している。
【0189】
本発明の観点を例示としてのみ説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく本発明の改造例及び追加例を想到できる。
【0190】
参考文献

【0191】

【0192】

【0193】

【0194】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の体内への骨置換及び取付けのためのデバイスであって、
多孔質外面を備えた構造的部分と、
前記構造的部分の前記多孔質外面に被着されたセラミック材料とを有するインプラントにおいて、パルス化圧力MOCVDを利用して被着された前記セラミック材料の厚さは、前記多孔質外面の細孔のうち少なくとも何割かが完全には覆われていないような厚さである、デバイス。
【請求項2】
前記デバイスは、整形外科インプラントである、請求項1記載のデバイス。
【請求項3】
前記構造的部分は、金属である、請求項1又は2記載のデバイス。
【請求項4】
前記構造的部分は、チタン又はタンタルである、請求項3記載のデバイス。
【請求項5】
前記構造的部分の前記多孔質外面は、骨の内方成長を可能にする孔径を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記多孔質外面の孔径は、実質的に300ミクロンから400ミクロンの範囲内にある、請求項5記載のデバイス。
【請求項7】
前記セラミック材料の厚さは、実質的に数ミクロンから数十ミクロンの範囲内にある、請求項1〜6のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記セラミック材料は、骨一体化特性を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記セラミック材料は、アパタイトである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記セラミック材料は、ヒドロキシアパタイトである、請求項1〜9のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記セラミック材料は、生体活性ガラスである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記セラミック材料は、アパタイトとポリマーの複合材である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記セラミック材料は、ヒドロキシアパタイト/コラーゲン複合材である、請求項12記載のデバイス。
【請求項14】
前記セラミック材料は、微量金属を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記セラミック材料は、連結細孔深さまで前記多孔質外面の表面に被着されている、請求項1〜14のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載のデバイスを製造する方法であって、前記デバイスは、
多孔質外面を備えた構造的部分と、
前記構造的部分の前記多孔質外面に被着されたセラミック材料とを有し、前記方法は、パルス化圧力MOCVDを利用して前記セラミック材料を前記多孔質外面の細孔の少なくとも何割かが完全には閉鎖されないよう被着させるステップを有する、方法。
【請求項17】
前記パルス化圧力MOCVDは、キャリヤガスを用いないパルス化反応器圧力を利用する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記圧力は、実質的に5〜75Paの最小値と最大値との間でパルス化される、請求項16又は17記載の方法。
【請求項19】
実質的に添付の図面及び実験を参照して明細書において説明したデバイス。
【請求項20】
実質的に添付の図面及び実験を参照して明細書において説明した方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図7a)】
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【図7b)】
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【図7c)】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14a)】
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【図14b)】
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【図14c)】
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【図15】
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【公表番号】特表2010−505587(P2010−505587A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532321(P2009−532321)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際出願番号】PCT/NZ2007/000303
【国際公開番号】WO2008/044951
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(509105341)カンタープライズ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】