説明

トロイダル型無段変速機

【課題】パワーローラの強度を維持しつつ簡単な構成でトラクション面に対して確実に潤滑油を供給することができるトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】支軸23の先端には、油路140通じて供給される潤滑油を入出力側ディスクのトラクション面へ向け噴出させる凸状部材450が油路140に対し、圧入することで取り付けられている。凸状部材450は、潤滑油を入出力側ディスクのトラクション面へ向けさせる潤滑溝453が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明のトロイダル型無段変速機は、自動車用変速装置として、或いはポンプ等の各種産業機械の運転速度を調節するための変速装置として利用する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として使用されるダブルキャビティのトロイダル型無段変速機は、図8および図9に示すように構成されている。図8に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが設けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4がアンギュラ玉軸受を介して、回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板(ローディングカム)7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材により成る中間壁13を介して、ケーシング50に支持されており、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止される。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に設けられたニードル軸受5,5により、入力軸1の軸心Oを中心に回転自在に支持されている。また、図2中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6により支持され、図2中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、入力側ディスク2,2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面3a,3aとの間には、パワーローラ11が回転自在に挟持されている。
【0005】
図8中右側に位置する入力側ディスクの内周面2cには段差部2bが設けられ、この段差部2bに入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられ、入力側ディスク2の背面には、入力軸1の外周面に形成されたネジ部に螺合されたローディングナット9が突き当てられており、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が阻止される。また、カム板7と入力軸1の端部(図8中左側)に形成された鍔部1dとの間には、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する皿ばね8が設けられている。
【0006】
パワーローラ11は、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15に回転自在に支持されており、各トラニオン15,15は、その本体部である支持板部16の長手方向の両端部に、パワーローラ11を支持する側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20が設けられ、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成されている。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることで、各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節する。また、各トラニオン15,15から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、パワーローラがラジアルニードル軸受を介して、回転自在に支持されている。また、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
各トラニオン15,15の枢軸14,14は、出力側ディスク3,3の側方位置に、両ディスク3,3を両側から挟む状態で設けられた一対のヨーク23A,23Bの四隅に設けた4つの円形の支持孔18,18に対して、ラジアルニードル軸受30を介して揺動自在および軸方向に変位自在に支持されており、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。また、ヨーク23A,23Bは、鋼等の金属プレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。
【0009】
ヨーク23A,23Bの幅方向(図9の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、係止孔19には、その内周面を球状凹面として、入力側ディスク2の内側面2aと出力側ディスク3の内側面3aとの間にある第1キャビティ221および第2キャビティ222にそれぞれ対向する状態で設けられた支持ポスト64,68を内嵌しており、ヨーク23A,23Bが僅かに変位できるように支持されている。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持される球面ポスト64によって、揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31によって揺動自在に支持されている。
【0010】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、駆動軸22の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2および入力軸1に伝えられる。そして、入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して出力側ディスク3,3に伝えられ、出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0011】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストンを互いに逆方向に変位させる。駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位し、パワーローラ11,11の周面11a,11aと入力側ディスク2,2および出力側ディスク3,3の内周面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。この力の向きの変化に伴って、トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動し、パワーローラ11,11の周面11a,11aと入力側ディスク2,2および出力側ディスク3,3の内周面2a,2a,3a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転変速比が変化する。
【0012】
ところで、このようなトロイダル型無段変速機において、パワーローラ11と入出力側ディスク2,3との動力伝達は、これらの部材表面の損傷を防止するべく、油膜を介したトラクション力により非接触で行なわれる。そのため、パワーローラ11と入出力側ディスク2,3との間に形成されるトラクション面には、トルクを非接触で伝達するための油膜を形成できる十分な量の潤滑油(トラクション油)を供給する必要があるとともに、ディスク2,3やパワーローラ11を回転可能に軸支する軸受(以下、パワーローラ軸受とも言う)等に対しても十分な潤滑を行なう必要がある。そのため、従来から、トラクション面やパワーローラ軸受へ潤滑油を供給するための様々な手段が提案されている(例えば、特許文献1ないし特許文献5参照)。このうち、特に、特許文献4および特許文献5では、変位軸23やパワーローラ11の外周部付近を含む複数の部位に油路を形成し、これらの油路からトラクション面へ潤滑油を供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−207011号公報
【特許文献2】特許3726670号公報
【特許文献3】特表2006−503230号公報
【特許文献4】実公平6−011426号公報
【特許文献5】特開2001−289297号公報
【0014】
しかしながら、前述した従来の技術では、潤滑油を供給するために、複雑な構造の部材を必要とし、あるいは、複雑な油路の加工を必要とする。そのため、組み立てコストや加工コストが割高となり、コストダウンが困難になるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、パワーローラの強度を維持しつつ簡単な構成でトラクション面に対して確実に潤滑油を供給することができるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の無段変速機は、互いの内側面同士を対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、これらの両ディスク間に挟持されるパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にあり且つ互いに同心的に設けられた一対の枢軸を中心に傾転するとともに、前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記トラニオンに対して前記パワーローラを支持するための支軸とを備えるトロイダル型無段変速機であって、
前記トラニオン側から供給される潤滑油を前記パワーローラの先端側へ流す油路が前記支軸に形成されており、前記支軸の先端に、前記油路を通じて供給される潤滑油を前記入出力側ディスクのトラクション面へ向け噴出させる凸状部材を前記油路に圧入により設けたことを特徴とする。
【0017】
また、請求項2に記載の無段変速機は、前記凸状部材には、前記油路と連通し、前記油路を通じて供給される潤滑油を前記入出力側ディスクのトラクション面へ向ける溝部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高い応力が作用するトラクション面に近いパワーローラの外周側部位ではなく、高い応力が作用しない支軸に潤滑油のための油路が形成されているので、パワーローラの強度(
耐久性) を維持しつつ潤滑油をトラクション面側へ供給することができる。また、油路を通じて供給される潤滑油をディスクのトラクション面に向けて噴出させる凸状部材を油路に対して圧入することにより設けることで、複雑な構造を必要としないため、安価に達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態を説明する図である。
【図2】本発明の第1の実施形態を説明する図である。
【図3】本発明の第1の実施形態を説明する図である。
【図4】図2のA‐A断面を説明する図である。
【図5】本発明の第2の実施形態を説明する図である。
【図6】本発明の第2の実施形態を説明する図である。
【図7】本発明の実施形態の変形例を説明する図である。
【図8】従来例を説明する図である。
【図9】従来例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、変速機構としての構造及び作用は、前述の図8と図9に示した構造を含め、従来から知られている構造と同様である。このため、従来と同様に構成する部分については、図示並びに説明を省力若しくは簡略にし、本発明の実施形態の特徴部分を中心に説明する。
【0021】
本発明の実施形態に係るトロイダル型無段変速機では、図8、図9と同様に、図示しない駆動源からの回転が駆動軸22を介して入力される入力軸1と、ボールスプライン6,6により、入力軸1と一体で回転し、軸方向の変位自在に入力軸に支持された一対の入力ディスク2,2と、各入力ディスク2,2に対向した状態でニードル軸受5,5により入力軸1に回転自在に支持された一対の出力ディスク3,3と、各入力ディスク2,2と各出力ディスク3,3との間に挟持され、トラニオン15,15により支持されたパワーローラ11,11とを備えている。一対の出力ディスク3,3の間には、図示しない出力軸に対して出力ディスク3,3の回転を伝達する出力歯車4が設けられており、一対の入力ディスク2,2の一方のディスクの背面には、駆動軸1からの回転を一方の入力ディスクに伝達するローディングカム式の押圧装置12、或いは、油圧式の押圧装置が設けられている。
【0022】
そして、本発明の第1の実施形態においては、図1〜4に示すように、トラニオン15側から供給される潤滑油をパワーローラ11の先端側へ流す油路140がパワーローラ11の中心部に形成されている。具体的には、本実施形態では、支軸23がパワーローラ11の中心部を貫いており、油路140が支軸23の中心部に軸方向に沿って形成されている。
【0023】
また、本実施形態において、支軸23の先端には、油路140通じて供給される潤滑油を入出力側ディスクのトラクション面へ向け噴出させる凸状部材450が油路140に対し、圧入することで取り付けられている。特に凸状部材450は、主体となる円板部451と油路140に圧入される凸部452から成り、円板部451の平面部には径方向に伸び、凸部452の円筒面部には軸方向に伸びる潤滑油を入出力側ディスクのトラクション面へ向けさせる連通した潤滑溝453が形成されている。潤滑溝453は、入出力側ディスクとパワーローラ11の接触位置からずれるように設けられており、図2において、パワーローラ11が時計回りに回転している場合には、接触位置から半時計回りに少しずらして設けられる。
【0024】
また、凸状部材450の円板部451の外径は、支軸23の外径より大きく、また、パワーローラの内径より大きくなっており、パワーローラ11とパワーローラ11を支軸23に対して回転自在に支持するラジアルニードル軸受202の支軸23からの脱落を阻止する。
【0025】
したがって、トラニオン15側から供給される潤滑油は、支軸23に形成された油路140と、支軸23の先端に設けられた凸状部材450の潤滑溝453を通じ、入出力側ディスクへと噴出される。
【0026】
また、潤滑溝453が入出力側ディスクとパワーローラ11の接触位置からずれるように設けられているので、入出力側ディスクに付着した潤滑油が積極的に接触位置に取り込まれることになり、効率良く潤滑と冷却を行なうことができる。
【0027】
また、凸状部材450の円板部451の外径が、支軸23の外径より大きく、また、パワーローラの内径より大きくなっているため、パワーローラ11とパワーローラ11を支軸23に対して回転自在に支持するラジアルニードル軸受202の支軸23からの脱落を凸状部材450により阻止することができ、従来必要であった、ワッシャーや止め輪を不要とでき、コストを削減できる。
【0028】
図5および図6は、本発明の第2の実施形態を示している。本実施形態は第1の実施形態の変形例であり、図示のように、凸状部材460の円板部461に設けられた潤滑溝462は、貫通孔463により連通しており、また、凸部464の中心部に貫通孔463まで貫通した開口油路465が設けられている。したがって、このような構成によっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0029】
図7は、凸状部材の変形例であり、凸状部材470の円板部471の凸部472側の外周端に円環状の段部473を設けている。段部473を設けることで、作動時の凸状部材とパワーローラの接触を防止することができ、接触による凸状部材、或いは、パワーローラの破損やパワーローラの回転抵抗の増大を防止できる。すなわち、このような円環状の段部を第1の実施形態や第2の実施形態に設けることで、さらに効率を上げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機として利用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 入力軸
1a 入力軸の外周面
1b 入力軸の外周面に設けられた段差部
2 入力側ディスク
2a 入力側ディスクの内側面
2b 入力側ディスクの内周面の段差部
2c 入力側ディスクの内周面
3 出力側ディスク
3a 出力側ディスクの内側面
4 出力歯車
4a フランジ部
5 ニードル軸受
6 ボールスプライン
7 カム板
8 皿ばね
9 ローディングナット
11 パワーローラ
12 押圧装置
13 中間壁
14 枢軸
15 トラニオン
16 支持板部
17 連結板
18 支持孔
19 係止孔
20 折れ曲がり壁
21 円孔
22 駆動軸
23 変位軸
23a 基端部
23A,23B ヨーク
30 ラジアルニードル軸受
31 駆動シリンダ
33 駆動ピストン
40 入力ディスクのトラクション面
41 出力ディスクのトラクション面
42 パワーローラのトラクション面
50 ケーシング
64 支持ポスト
68 支持ポスト
140 油路
202 ラジアルニードル軸受
221 第1キャビティ
222 第2キャビティ
450 凸状部材
451 円板部
452 凸部
453 潤滑溝
460 凸状部材
461 円板部
462 潤滑溝
463 貫通孔
464 凸部
465 開口油路
470 凸状部材
471 円板部
472 凸部
473 段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの内側面同士を対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、これらの両ディスク間に挟持されるパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にあり且つ互いに同心的に設けられた一対の枢軸を中心に傾転するとともに、前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記トラニオンに対して前記パワーローラを支持するための支軸とを備えるトロイダル型無段変速機において、
前記トラニオン側から供給される潤滑油を前記パワーローラの先端側へ流す油路が前記支軸に形成されており、前記支軸の先端に、前記油路を通じて供給される潤滑油を前記入出力側ディスクのトラクション面へ向け噴出させる凸状部材を前記油路に圧入により設けたことを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記凸状部材には、前記油路と連通し、前記油路を通じて供給される潤滑油を前記入出力側ディスクのトラクション面へ向ける溝部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−225451(P2012−225451A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94870(P2011−94870)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】