説明

ドッグクラッチ歯近傍にストッパ機能を有する凸部を設けた変速機用歯車

【課題】ドッグクラッチ歯の歯底面から僅かに突出した凸部を設けることによって、シフト操作時に相手側のスリーブ歯をこの凸部に当接させるようにしたマニュアルトランスミッションの変速機用歯車を提供することを目的とする。
【解決手段】内側から外周側へコーン、フランジ、ドッグクラッチ歯列、これらの歯元面及びヘリカル歯列が、熱間鍛造及び冷間鍛造によって同心円状に一体成形され、前記ドッグクラッチ歯列の歯底面における前記フランジ寄りに、前記歯底面から突出して凸部を設けることを特徴とする変速機用歯車である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主としてマニュアルの自動車変速機用の歯車に関し、ドッグクラッチ歯近傍にシフト操作時にストッパ機能を有する凸部を形成した変速機用歯車に関する。詳しくは、マニュアルトランスミッションに使用される変速機用歯車において、ドッグクラッチ歯の歯列の中に歯底面から僅かに突出した凸部を全周に亘って形成することによって、シフト操作時にこれらの凸部に相手側のスリーブ歯を当接させてストッパ機能を持たせるようにした変速機用歯車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マニュアルトランスミッションに使用する変速機用歯車のドッグクラッチ歯において、シフト操作時には相手側のスリーブ歯をどこかでストップさせることが必要であり、そのストッパには以下の3方法が採用されている。第一は、変速機用歯車のヘリカル歯等のスピード歯における歯端面に相手側のスリーブ歯を当接させる方法である。第二は、変速機用歯車のドッグクラッチ歯における端面にスリーブ歯を当接させる方法である。第三は、スリーブ歯をシフトさせるレバーにストッパの機能を設ける方法である。先ず、第一のスピード歯における端面に相手側のスリーブ歯を当接させる方法について図7を参照しながら説明する。図の左側が変速機用歯車Wであり、図の右側が相手側のスリーブ歯Sとこれを矢印A方向にシフトさせるレバーRである。左側の変速機用歯車Wの外周には、スピード歯のヘリカル歯1の歯列が設けられ、その上端はドッグクラッチ歯2の歯元面4がドーナツ状に形成される。そして、内径側には相手側のスリーブ歯Sと噛合うドッグクラッチ歯2の歯列が歯元面4の面から立ち上がる。一方、右側のスリーブ歯Sの左端には端面S1を有し、レバーRによってスリーブ歯Sが矢印A方向にシフト移動する際に、相手側のスリーブ歯Sの端面S1が左側変速機用歯車Wの歯元面4に当接して止まる。
【0003】
これらの三方法中で、第二のドッグクラッチ歯の端面にスリーブ歯Sを当接させる方法が多く採用されており、図8を参照しながら説明する。同様に、図の左側が変速機用歯車Wで、図の右側が相手側のスリーブ歯Sである。同様に、左側の変速機用歯車Wの外周には、スピード歯のヘリカル歯1の歯列が設けられ、内径側には相手側のスリーブ歯Sと嵌め合うドッグクラッチ歯2の歯列が設けられる。そして、ドッグクラッチ歯2の歯列の上端面は内側にフランジ8がドーナツ状に形成される。一方、右側のスリーブ歯Sの左端には端面S2を有し、レバーRによってスリーブ歯Sが矢印A方向にシフト移動する際に、スリーブ歯Sの端面S2が左側変速機用歯車Wのフランジ8に当接して止まる。この時、スリーブ歯Sがセンターの無い拘束されない動きをしながら、スリーブ歯Sの端面S2の僅かな広さがフランジ8の面に当たるだけなので、スリーブ歯Sが振れてフランジ8の面との引っ掛かりが浅くなって外れる場合も起こる。そこで、このような外れが生じないように、ドッグクラッチ歯2の歯底面の直径寸法のばらつきを小さく抑えなければならず、ここで歯底面の直径寸法を以下ドッグ小径dと定義する。即ち、スリーブ歯Sとの引っ掛かりとの関係上、ドッグクラッチ歯2の歯底面9を構成するドッグ小径dの寸法公差を0.15から0.20mmにする必要がある。相手側のスリーブ歯はセンターの無い拘束されない動きをするので、ドッグ小径dの寸法公差がラフであると出っ張るのでスリーブ歯と干渉する。そのため、相手側のスリーブ歯がドッグクラッチ歯と嵌み合わない。なお、第一方法のスピード歯Sにおける端面に相手側のスリーブ歯を当接させる場合は、ドッグ小径dの寸法公差は1.0から0.8mm程度までレンジを緩めることができる。変速機用歯車Wは熱間鍛造によって外周側のヘリカル歯1の歯列及び内径側のドッグクラッチ歯2の歯列が形成され、同時にドッグクラッチ歯2の歯底面9が形成される。この熱間鍛造の工程だけでは、ドッグクラッチ歯2の歯底面のドッグ小径dの寸法公差を0.15から0.20mmにすることは非常に困難である。そこで、後工程の冷間コイニング成形を施すことによってドッグ小径dの寸法公差を0.15から0.20mmに縮めることになる。その際、ドッグ小径dの公差を小さくしようとすればするほど、コイニング成形の荷重を上げる必要があり冷間金型ダイスが痛み潰れる等冷間金型ダイスの寿命が低下する。
【0004】
ところで、ドッグクラッチ歯は機械加工により歯切りするのが一般的であった。しかし、機械加工による歯切りでは、手間がかかり、製造コストが高くなることから、鍛造によりスピード歯と一体で成形し、ドッグクラッチ歯面の仕上げ加工を省くことによりコストダウンを図ることが提案されている。この提案では、変速機用歯車の一側面に設けるドッグクラッチ歯を冷間鍛造により一体的に成形した構造からなっている。即ち、ドッグクラッチ歯が冷間鍛造により一体成形されるので、歯面の仕上げ加工等が不要になり、コストダウンを図れるメリットがある。しかも、ドッグクラッチ歯の全体的な剛性のバランスを図ることができるので、耐久性も向上し、トランスミッションの変速機能を長期間にわたって安定することができる(特許文献1参照)。
【0005】
一方、変速機用歯車に関し、本件出願人等は沈み無しヘリカルモノブロックに関する次のような提案をしており、本提案は内側のドッグクラッチ歯が外周のヘリカル歯の上端面より沈まない歯車であり、ドッグクラッチ歯とヘリカル歯とを隣り合わせに一体的に鍛造成形して得られた歯車製品である(例えば、特許文献2参照)。一方、鍛造成形による沈みモノブロックに関する次のような提案をしている。即ち、内側のドッグクラッチ歯のチャンファが軸方向に対して外周のヘリカル歯の歯端面より沈んだ歯車ブロック(以下沈みヘリカルモノブロック)である(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08―312675号公報
【特許文献2】特開平05―187521号公報
【特許文献3】特開2002−2227969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の通りであって、特許文献に代表されるように、従来のドッグクラッチ歯には以下のような問題点がある。
【0008】
マニュアルトランスミッションにおいては、シフト操作時に相手側のスリーブ歯をストップさせる機能が必要である。そのため、変速機用歯車のドッグクラッチ歯における端面にスリーブ歯を当接させる方法が多く採用されている。この場合、相手側のスリーブ歯が振れてドッグクラッチ歯のフランジ面から引っ掛かりが浅くなって外れる場合も起こる。このことを防止するために、ドッグクラッチ歯の歯底面のドッグ小径の公差を狭めて精度を上げる必要がある。そのためには、コイニング成形の荷重を上げるので、冷間コイニングの金型ダイスが痛んで潰れる等冷間金型ダイスの寿命が低下する。また、ドッグ小径を十分に張らせる関係上、ドッグクラッチ歯に逆テーパ加工を施す際、スプラインパンチとのクリアランスが小さくなり、スプラインパンチの命数低下も避けられない。そのため、鍛造成形によってドッグクラッチ歯を量産的に形成することは困難であった。
【0009】
そこで、本出願発明は以上のような課題に着目してなされたもので、ドッグクラッチ歯の歯底面を構成するドッグ小径の公差をラフにしながらも、シフト操作時に相手側のスリーブ歯をストップさせる機能を有するようにしたものである。そのために、ドッグクラッチ歯の歯底面から僅かに突出した凸部を設けることによって、シフト操作時に相手側のスリーブ歯をこの凸部に当接させるようにしたマニュアルトランスミッションの変速機用歯車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
変速機用歯車は、機械加工によって歯面の加工を施すことが主流であった。そのために、機械加工を容易にするために、ドッグクラッチ歯の周辺の形状をシンプルにすることが通常行われる。しかしながら近年では、鍛造技術の進歩によって様々な形状を鍛造によって形成することが可能となってきた。そこで、本出願発明者は、ドッグクラッチ歯列の中に、歯底面から僅かに突出する凸部を意図的に配置することに着目し、試作したところマニアルトランスミッションにおいてスムーズなシフト操作をできるという知見を得た。本出願発明の変速機用歯車はかかる知見を基に具現化したもので、請求項1の発明は、内側から外周側へコーン、フランジ、ドッグクラッチ歯列、これらの歯元面及びヘリカル歯列が、熱間鍛造及び冷間鍛造によって同心円状に一体成形され、前記ドッグクラッチ歯列の歯底面における前記フランジ寄りに、前記歯底面から突出して凸部を設けることを特徴とする変速機用歯車である。請求項2は、請求項1に記載の特徴に加えて、前記ドッグクラッチ歯列における各ドッグクラッチ歯の間の全てに前記凸部を設けることを特徴とする変速機用歯車である。また、請求項3は、請求項1に記載の特徴に加えて、前記ドッグクラッチ歯列のチャンファ面が前記ヘリカル歯列の歯端面より低いことを特徴とする変速機用歯車である。
【発明の効果】
【0011】
変速機用歯車におけるドッグクラッチ歯の歯底面を構成するドッグ小径の公差をラフにしても、シフト操作時に相手側のスリーブ歯をストップさせる機能を持たせることができる。そして、ドッグ小径の公差をラフにすることができるので、コイニング成形時の荷重を上げる必要が無く、金型ダイスが痛み潰れないので金型の寿命が延びる。延いては、鍛造によってドッグクラッチ歯を一体成型した変速機用歯車を量産的に製造可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施例の変速機用歯車の斜視図である。
【図2】同上、製造工程図である。
【図3】同上、熱間鍛造工程において、フランジ部に形成した凸部の断面図である。
【図4】同上、冷間鍛造工程において、歯底面にコイニング成形した凸部の断面図である。
【図5】同上、ドッグクラッチ歯列に形成された凸部の配置図である。
【図6】同上、凸部のストッパ機能を説明する断面図である。
【図7】従来例におけるストッパ機能を説明する断面図である。
【図8】同上、他のストッパ機能を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本出願発明の実施の形態を、添付図面に例示した本出願発明の実施例に基づいて以下に具体的に説明する。
【実施例1】
【0014】
本実施例について、図1〜図5を参照しながら説明する。図1は、本実施例の変速機用歯車の斜視図である。図2は、製造工程図である。図3は、熱間鍛造工程において、フランジ部に形成した凸部の断面図である。図4は、冷間鍛造工程において、歯底面にコイニング成形した凸部の断面図である。図5は、ドッグクラッチ歯列に形成された凸部の配置図である。図6は、凸部のストッパ機能を説明する断面図である。
【0015】
本出願人は、内側のドッグクラッチ歯が軸方向に対して外周のヘリカル歯の歯端面より沈んだ沈みヘリカルモノブロックを既に開発している。本実施例の変速機用歯車を、この沈みヘリカルモノブロックを例にして図1に基づき説明する。本図ではシングルコーン型の変速機用歯車Wの斜視図を示し、外周にスピード歯となる、歯筋が軸方向に対して捩じれたヘリカル歯1の歯列が形成され、この内周に軸方向に向けて逆テーパのドッグクラッチ歯2の歯列が形成される。これらの歯の歯列の間には外周のヘリカル歯1より沈んだ歯元面4が同心円状に形成され、ドッグクラッチ歯2の歯根元24がこの面上に形成される。ドッグクラッチ歯2の内周側には円錐台状のコーン5が同軸状に突設され、この内周は軸方向に軸孔3が貫通する。なお、このコーン5の円錐台状の周面は冷間鍛造後旋削、熱処理、次いで研削仕上げが施され摩擦面として仕上げられる。以上のように、外周のヘリカル歯1の歯列と歯元面4と内側のドッグクラッチ歯2の歯列及びこの内周側のコーン5が夫々同軸上に熱間鍛造及び冷間鍛造によって一体成形されるとともに、コーン5はドッグクラッチ歯2のチャンファ23より上方に突設され、かつ、歯元面4はヘリカル歯1とドッグクラッチ歯2との間においてヘリカル歯1の歯端面14より沈むように同心円状に設けられる。ここで、コーン5の外周面は円錐面の他に円筒面の場合もある。ドーナツ状のフランジ8が直角に下りた外周面にドッグクラッチ歯列のこれらの歯底面9が形成され、この歯底面9にドッグクラッチ歯2の歯列が形成される。ドッグクラッチ歯2において、歯車の各部位の名称を次の通り定義する。ドッグクラッチ歯2は、歯筋方向に歯先面21、その左右に歯面22、22、先端が尖ったチャンファ23、歯元面4から立ち上がるドッグクラッチ歯2の歯根元24、歯底面9に形成される歯底元25から構成される。一方、外周のヘリカル歯1は、歯筋方向に歯先面11、その左右に歯面12、12、これらを立ち上げる歯底面13及び歯筋方向上下の歯端面14、14及び歯元16から構成される。以上、変速機用歯車Wの構成を以下にまとめる。内周側から軸方向に円筒状にコーン5が突出し、この外周根元にフランジ8が同心状に形成され、このフランジ8の外周が軸方向直角に下りて歯底面9として同心、円筒面に形成される。この歯底面9のフランジ8寄りにおいて、各ドッグクラッチ歯2の歯列の間に凸部91が歯底面9から外周へ向けて僅かに突出して形成される。円筒面の歯底面9の根元においてこの歯底面9と直角に同心円状の歯元面4が沈み形成され、この歯元面4の面上にドッグクラッチ歯2の歯根元24が形成される。そして、ドッグクラッチ歯2の先端が尖ったチャンファ23の面は、軸方向で外周側のヘリカル歯1の歯端面14より低い。本実施例の特徴は、円筒面である歯底面9のフランジ8寄りにおいて、各ドッグクラッチ歯2の歯列の間に外周へ僅かに突出して凸部91が形成されることにある。
【0016】
本実施例の変速機用歯車の製造プロセスを、沈みヘリカルモノブロックを例にして図2の工程図に基づき説明する。先ず、工程(1)に示すように、変速機用歯車に適した円柱素材を所定の軸長に例えばビレットシャーによって切断した素材W1を得る。この場合、素材の材質として変速機用歯車に適した鋼材、例えば、SC鋼、SCR鋼、SCM鋼、SNC鋼、SNCM鋼等を使用することができる。次に、工程(2)に示すように、素材W1を例えば1150℃に加熱して熱間鍛造を施すことによって下側に出っ張った凸部W21を有する円盤状の素材W2を得る。次に、工程(3)に示すように、素材W2上段の大径部D1の部位に熱間鍛造を施して軸方向に対して捩じれた荒ヘリカル歯10が荒形成され、同時に下段の小径部D2の部位にコーン50を形成するとともに外周の荒ヘリカル歯10と内周のコーン50との間に同心円上に荒歯元面40が形成される。その他、コーン50の内周に断面円形に凹んだ内径部W31が形成され、外歯の荒ヘリカル歯10の形成によって上面外周に円板状にはみ出し鍔状のバリW32を有する素材W3が得られる。この時、コーン50の裾には平坦なフランジ80がドーナツ状に形成される。ここで、外歯はヘリカル歯の他にスパー歯でもよく、以降の説明でも同様である。次に、工程(4)に示すように、同じく熱間鍛造によってコーン50の外周に凹んだ歯元面4を仕上げ形成し、同時にこの底面に歯根元が立設する荒ドッグクラッチ歯20がストレート状に形成された素材W4を得る。この時、フランジ80の面において、荒ドッグクラッチ歯20の歯列の各荒ドッグクラッチ歯の間に凸部81が突起するように形成され、この詳細は後述する図3において説明する。この凸部81が荒ドッグクラッチ歯20の歯列の全周に亘って形成されることが本実施例の特徴である。同時に、ドッグクラッチ荒歯20の歯列の歯底面90が形成される。次に、工程(5)に示すように、素材W4の上面のバリW32を旋削し除去するとともに、内径部W31の中バリを打ち抜いて荒軸孔30が貫通した素材W5を得る。次に工程(6)において、素材W5に焼きならしの熱処理、ショットブラスト処理及び潤滑剤を塗布するボンデライト処理を施して素材W6を得る。次いで工程(7)において、外周の荒ヘリカル歯10は冷間しごき成形によって歯面の傾斜がストレートに仕上げ形成される。一方、内周の荒ドッグクラッチ歯20はコイニング或いはサイジング処理を施すことによって歯面がストレートに形成され、かつ、歯先にチャンファが形成された素材W7を得る。この時、コーン50の裾には平坦なフランジ80がドーナツ状に形成される。次の工程(8)において、外側の荒ヘリカル歯に冷間しごき成形によって歯面にクラウニングが施され、かつ、歯端面の稜線部にR面取りが施されてヘリカル歯1が完成する。最後に工程(9)において、工程(7)でストレートに成形された荒ドッグクラッチ歯に、チャンファから歯根元に向かって細くなるように冷間コイニング成形が施されて逆テーパ状のドッグクラッチ歯2が完成する。この時、ドッグクラッチ歯2の歯列の歯底面9が仕上げ形成される。同時に、ドッグクラッチ歯2の歯列の歯底面9において、各ドッグクラッチ歯の間に凸部91が突起するように形成され、この詳細は後述する図4において説明する。この凸部91がドッグクラッチ歯2の歯列の全周に亘って形成されることが本実施例の特徴である。以上の工程をまとめると、工程(2)、(3)、(4)及び(5)は熱間鍛造であり、工程(7)、(8)及び(9)は冷間しごき或いは冷間コイニング成形による冷間鍛造である。
【0017】
ここで、工程(4)の詳細について図3を参照しながら補足する。この工程では、熱間鍛造によって荒ドッグクラッチ歯20が軸方向にストレート状に形成される。同時に、フランジ80の荒ドッグクラッチ歯20寄りにおいて、荒ドッグクラッチ歯20の歯列の間に位置決めされるように、フランジ80の面から軸方向に向けて僅かに突出した凸部81が全周に形成される。この凸部81は、後の冷間鍛造工程におけるコイニング代となる。
【0018】
次に、工程(9)の詳細について図4を参照しながら補足する。この工程では、冷間しごき成形が施されて軸方向に逆テーパ状のドッグクラッチ歯2が完成する。工程(4)において形成されフランジ80の面から軸方向に向けて僅かに突出した凸部81に、本工程(9)において冷間コイニング鍛造を施す。この時、小さい荷重を掛けるだけで凸部81を歯底面9へと押し出し移動することができる。その結果、ドッグクラッチ歯2の歯列の各歯の間に、歯底面9の面から外周に向けて僅かに突出した状態で、凸部91が歯底面9のフランジ寄りに形成される。ここで、凸部91は、相手側のスリーブ歯Sとの関係で決まる最小噛合いインボリュート径(TIF径)より下に配設されるので、ドッグクラッチ歯2はスリーブ歯Sと干渉することなく嵌め合うことになる。
【0019】
以上の工程を経て凸部91は、歯底面9の面から外周に向けて僅かに突出して形成される。 この状態を図5に示す平面図を参照しながら説明する。同図(a)では、ドッグクラッチ歯2の歯底面9において、凸部91が歯列の間の全周に亘って形成され、外周のヘリカル歯の詳細は省略した。この記号B部位を拡大して同図(b)に示す。歯底面9の面にドッグクラッチ歯2の歯列が形成され、これらの隣り合うドッグクラッチ歯2の間に凸部91が全周に亘って形成される。なお、嵌合する相手側のスリーブ歯Sの突き出る端面S2は、全周に亘って形成される場合もあり、或いは120度の間隔で形成される場合がある。そこで、どちらでも使えるように、ドッグクラッチ歯2側では、凸部91を歯列の全周に亘って形成する。
【0020】
本実施例の変速機用歯車におけるドッグクラッチ歯は以上のように構成され、以下にドッグクラッチ歯の歯列に形成される凸部の作用について説明する。
【0021】
マニュアルトランスミッションに使用される変速機用歯車のドッグクラッチ歯には、シフト操作時に相手側のスリーブ歯をストップさせる機能が必要であり、図6を参照しながら本実施例の凸部91の作用について説明する。同図(a)の左側が変速機用歯車Wで、右側が相手側のスリーブ歯Sである。左側の変速機用歯車Wの外周には、スピード歯のヘリカル歯1の歯列が設けられ、内径側には相手側のスリーブ歯と噛合うドッグクラッチ歯2の歯列が設けられる。そして、ドッグクラッチ歯2の歯列の上端面は内径側にフランジ8の面がドーナツ状に形成される。同図(b)では、ドッグクラッチ歯2の間に形成した凸部91の部位を断面図で示す。右側のスリーブ歯Sの左端には端面S2を有し、スリーブ歯Sが矢印A方向にシフト移動する際に、スリーブ歯Sの端面S2が左側ドッグクラッチ歯2の凸部91に当接して止まる。この時、スリーブ歯Sがセンターの無い拘束されない動きをしながらも、凸部91がドッグクラッチ歯2の歯底面9より突出しているので、必ずスリーブ歯Sの端面S2が凸部91に当接する。このようにして、ドッグクラッチ歯2の間に形成した凸部91は、シフト操作時には相手側のスリーブ歯をストップさせる機能を有する。仮に、凸部91を設けない場合、ストップさせる機能としては、スリーブ歯Sの端面S2の僅かな広さがフランジ8の面に当たるだけなので、センターの無い動きをするスリーブ歯Sが振れてフランジ8の面から引っ掛かりが浅くなって外れる。そこで、このことを防ぐために、スリーブ歯Sとの引っ掛かりの関係上ドッグクラッチ歯2の歯底面を構成するドッグ小径dの寸法公差を0.15から0.20mmに精度を上げる必要があり、そのため冷間コイニングダイスに負荷を掛けるので寿命が短縮する。本実施例では、ドッグクラッチ歯2の歯底面9より僅かに突出する凸部91を設けるので、ドッグ小径dの寸法公差の精度を上げる必要がない。熱間鍛造で形成された凸部81を、冷間のコイニング成形を施すことによって押し出し移動させ、凸部91を形成する。その際、しかもコイニング成形の荷重を小さくできるので冷間ダイスに負荷がかからない。また、相手側のスリーブ歯Sに対するストッパ機能を持たせながらドッグクラッチ歯2の逆テーパ成形に関係する部位には十分なクリアランスを確保できるため、スプラインパンチの命数の影響が小さい。このようにして、鍛造成形によってドッグクラッチ歯を量産的に形成することを実現した。
【0022】
また、本実施例では、沈みヘリカルモノブロック歯車として、鍛造によってドッグクラッチ歯のチャンファが外周のヘリカル歯の歯端面より低く沈むように形成するので、変速機用歯車の軸方向の全長を短小化でき、延いてはトランスミッションのギヤボックスをコンパクトにできる。即ち、ドッグクラッチ歯の歯根元を沈んだ歯元面に形成すれば変速機用歯車の有効長を稼ぐことができ、変速機用歯車全長を15mmから20mm程度縮小することができる。
【符号の説明】
【0023】
A 矢印
B 記号
d ドッグ小径
R レバー
S スリーブ歯、S1 端部、S2 端部
W 変速機用歯車
W1、W2、W3、W4、W5、W6、W7、W8 素材
W21 凸部、W31 内径部、W32 端面バリ、W33 中バリ
1 ヘリカル歯、10 荒ヘリカル歯
11 歯先面、12 歯面、13 歯底面、14 歯端面、16 歯元
2 ドッグクラッチ歯、20 荒ドッグクラッチ歯
21 歯先面
22 歯面
23 チャンファ、24 歯根元、25 歯底元
3 軸孔、30 荒軸孔
4 歯元面、40 荒歯元面
5 コーン、50 荒コーン
8 フランジ、81 凸部
9 歯底面、91 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側から外周側へコーン、フランジ、ドッグクラッチ歯列、これらの歯元面及びヘリカル歯列が、
熱間鍛造及び冷間鍛造によって同心円状に一体成形され、
前記ドッグクラッチ歯列の歯底面における前記フランジ寄りに、
前記歯底面から突出して凸部を設けることを特徴とする変速機用歯車。
【請求項2】
前記ドッグクラッチ歯列の全てに前記凸部を設けることを特徴とする請求項1記載の変速機用歯車。
【請求項3】
前記ドッグクラッチ歯列のチャンファ面が前記ヘリカル歯列の歯端面より低いことを特徴とする請求項1記載の変速機用歯車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−92177(P2013−92177A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233651(P2011−233651)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(390035770)大岡技研株式会社 (17)
【Fターム(参考)】